説明

セラミック基板のための焼成用シート

【課題】焼成後のセラミック基板20の溝21内に不純物が残留することがなく、非常に薄いセラミック基板20を反りやうねりを生じさせることなく焼成することができ、セラミック基板20の品質を高く維持することのできる焼成用シート10を提供すること。
【解決手段】乾燥重量に換算して、3重量%〜50重量%の有機繊維と、残部が無機繊維11とからなり、坪量が10g/m2 〜100g/m2であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子回路基板の材料として採用されるアルミナ基板等のセラミック基板を多数同時に焼成する際に、各セラミック基板間に配置されて各基板間の融着を防止するために用いられるセラミック基板焼成用シートに関するものであり、特に、セラミック基板が溝を有するものである場合、あるいは非常に薄いセラミック基板に適した焼成用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のセラミック焼成用シートは、特許文献1にも述べられているように、高融点粉体とカーボン粉末とをバインダで混練したものが広く用いられており、従来行われていた敷粉の散布作業に比べて大幅な作業効率の改善と焼成技術の向上とを達成してきた。
【0003】
ところが、最近のアルミナ基板のような電子材料部品の分野においては更に高品質な部品の供給が要求される傾向にあり、前記焼成用シートの場合に生ずるシートの数%の収縮や分布されている敷粉のわずかな不均一性、およびそれらに伴う被焼成品への敷粉の付着などが被焼成品に悪影響を及ぼし品質低下の要因になるという問題点が生じてきた。
【0004】
また、前記焼成用シートの成形時においても成形された焼成用シートと成形基台等との剥離性が悪いために焼成用シートに歪み等を残存させることとなり、これが原因で焼成時に不均一な熱分解や収縮を発生させ被焼成品の品質低下を招くとともに焼成用シートの成形効率を低下させるという問題点も生じてきた。以上のことは、特許文献2〜特許文献4にも詳しく述べられている。
【特許文献1】特開平5−319940号公報、要約
【特許文献2】特開平5−330928号公報、要約
【特許文献3】特開2005−162528号公報、要約
【特許文献4】特開平7−309672号公報、要約
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、「セラミックス製品や焼結金属製品などの焼成時において被焼成品相互間や被焼成品と受台との間の焼付きや製品ずれ等を防止して高品質の焼成品を得ることができる焼成用シートを提供すること」を目的としてなされた「焼成用シート」に関する発明が記載されている。
【0006】
この特許文献1に記載された「焼成用シート」は、「重量比で45〜70%のセラミックス粉体と、8〜35%のカーボン粉末と、0.5〜5%のパラフィンとを5〜25%のバインダで均一に混練してシート状とし、焼成時においてシートが収縮を発生することなく、また敷粉の分布も均一となって高品質に焼成できるようにした」ことを構成とするものである。
【0007】
また、特許文献2には、「セラミック成形体の焼成時において、セラミック成形体がさや鉢(セッターあるいはこう鉢)に接触して反応し、不良品となることを防止し、作業時間のロスを解決し、さや鉢とセラミック成形体間に短時間で均一な反応防止層を形成することが可能なセラミック成形体焼成用シートを提供すること」を目的としてなされた「セラミック成形体焼成用シート」に関する発明が記載されている。
【0008】
さらに、特許文献3には、「焼結後の(結晶化)ガラスセラミックス基板をセッターから破損させることなく容易に剥離させることができ、しかもガラスセラミックス基板を平滑にすることが可能なガラスセラミックス基板の製造方法を提供する」ことを目的としてなされた「ガラスセラミックス基板の製造方法及びセッター」に関する発明が記載されている。
【0009】
以上のような特許文献1〜特許文献3に記載された「焼成用シート」では、
シートの表面に形成したコーティング層がセラミックスやカーボン等の粉体からなるものであるから、これらの粉体が当該セラミック基板焼成用シートの取扱い時等に容易に離脱してしまうものであり、周囲を汚すものであるだけでなく、取扱い方によっては所期の効果を発揮できなくなる程度にまで各粉体が脱落することもあり得るものである。
【0010】
そこで、本発明者は、以上のような多数のセラミック基板を同時に焼成する際に使用されるセラミック基板焼成用シートについて、その取扱いをも容易に行うことができるようにするにはどうしたらよいかについて種々検討を重ねてきた結果、特許文献4において提案を行った発明を既に完成しているのである。
【0011】
特許文献4は、本発明の出願人が既に出願しているものであるが、「焼結後のセラミックス基板をセッターから破損させることなく容易に剥離させることができ、しかもセラミックス基板を平滑にすることが可能なセラミックス基板の製造方法を提供する」ことを目的としてなされた「セラミック基板焼成用シート」に関するものである。
【0012】
この特許文献4の発明では、「抄造によって形成されるセラミック基板焼成用シートであって、乾燥重量に換算して、直径が2μm〜50μmで繊維長が0.7mm〜6mmのカーボン繊維を10〜30重量%と、パルプ繊維を10〜20重量%と、残部が0.1μm〜100μmのセラミック粉末とからなり、坪量が30g/m2〜200g/m2であること」を構成とするものであった。
【0013】
ところで、重ねて焼成すべきセラミック生シートが完全な平板状のものあった場合には、上記特許文献1〜特許文献4に記載された技術で十分であったのであるが、セラミック生シート20aが、図1に示すような薄くて表面に「溝21」を有するものになってくると、以下のような問題が発生するようになってきたのである。
【0014】
このような多数の溝21を有するセラミック生シート20aが形成されるようになってきた理由は、焼成後のセラミック基板20の表面に多数の溝21を存在させることにより、この溝21内に導体回路をメッキによって形成すること、この溝21内の導体回路を表面への回路形成のためのエッチングの電極とすること、導体回路の形成の区画とすること、場合に応じてこのセラミック生シート20aにおいて折り取ったりすること等、種々な作業に利用でき、セラミック基板20の薄型化と高密度化に都合がよいからである。
【0015】
このような存在理由のある溝21であるが、もし、上記各特許文献に示されたように、セラミック基板焼成用のシートがアルミナや窒化物の「敷粉30」を含むものであると、図2の(ロ)に示すように、この敷粉30が焼成後のセラミック基板20の各溝21内に残留することになる。
【0016】
セラミック基板20が溝21のない完全な平板状のものであったときには、焼成後のセラミック基板20の表面に残留している敷粉30を除去することはそれ程問題ではなかったのであるが、溝21内に残留した敷粉30は微細な物であることから、レコードの溝内に入ったホコリの除去が困難であったように、溝21内の、特に奥深く入り込んだ敷粉30を除去することは非常に困難であるのである。
【0017】
また、近年のセラミック基板は、0.2mm〜0.7mmという非常に薄い厚みのものになってきており、このような薄型シートのセラミック基板には上述した溝21が基板の1/3程度の深さで断面が「V字」状となるように形成してある。この溝21の中に上述した敷粉30等が残留すると、焼成後に冷却されるセラミック基板自体の収縮時に、この敷粉30がV字状の溝21の奥深く入り込んだ収縮を阻害し、結果的に、この薄型シート状のセラミック基板が溝21部にて割れてしまう、という問題も発生させていたのである。
【0018】
また、この種の焼成用シート10中の「敷粉30」としてのセラミックスは、ある程度の純度が必要である。例えば、セラミック基板20としてアルミナを材料とする場合、敷粉30もアルミナを主材とするのがよいが、一般的なアルミナ粉体中にはある程度の不純物が含まれている。このシ不純物は、焼成中にアルミナ基板20と反応したり融着したりし、セラミック基板20の絶縁抵抗にバラツキを発生させたり、セラミック基板20に「反り」を発生させる原因となる。
【0019】
そこで、本発明者は、焼成後のセラミック基板20について、品質が高く溝21内に敷粉30が残留しないように焼成する焼成用シート10とするにはどうしたらよいか、について種々検討を重ねてきた結果、粉末状敷粉を繊維状敷粉に替えること、及び「抄造技術」を適用することが良い結果を生むことに気付き、本発明を完成したのである。
【0020】
すなわち、本発明の目的とするところは、焼成後のセラミック基板20の溝21内に不純物が残留することがなく、セラミック基板20を反りやうねりを生じさせることなく焼成することができ、しかもセラミック基板20の品質を高く維持することのできる焼成用シート10を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
以上の課題を解決するために、まず、請求項1に係る発明の採った手段は、後述する最良の形態の説明中において使用する符号を付して説明すると、
「抄造により形成されるセラミック基板焼成用シート10であって、
乾燥重量に換算して、3重量%〜50重量%の有機繊維と、残部が無機繊維11とからなり、坪量が10g/m2 〜100g/m2であることを特徴とするセラミック基板焼成用シート10」
である。
【0022】
すなわち、このセラミック基板焼成用シート10は、有機繊維及び無機繊維11からなるものであること、つまり材料が全て繊維であることがまず必要である。その理由は、第1に、従来シートの敷粉となるべき(アルミナ)粉末が溝21内に残留し易い反面、繊維は後述するように溝21内の奥深い部分に残留しにくいからであり、第2に、繊維を抄造してシート状物とすることは、紙の抄造技術をもってすれば非常に簡単であり、これらの繊維を互いに混在させて均一になるように抄造できるからである。
【0023】
有機繊維については、乾燥重量に換算して、セラミック基板焼成用シート10中の3重量%〜50重量%を占めるものとする必要がある。その理由は、まず、この有機繊維が3重量%より少ないと、抄造後のシート10の強度が不足してその取り扱いを困難にするからである。一方、有機繊維が50重量%よりも多いと、焼成時に有機繊維が炭化する際に収縮が発生し、この有機繊維分の収縮によってセラミック基板20に反り等の不具合を発生させるからである。中でも、この有機繊維の量としては、セラミック基板焼成用シート10中の15〜25重量%とするのが最適なものである。
【0024】
また、この有機繊維は、焼成時における収縮力が、セラミック生シート20aに与えるようであってはならないものである。最も良いのは、セラミック基板20の焼成時において、この有機繊維が、その焼成収縮による力が非常に弱いまま完全に炭化され、無機繊維11と完全に一体化されることである。そのために、本発明においては、無機繊維11と有機繊維とを抄造するようにするとともに、この有機繊維の量を、乾燥重量に換算して、3重量%〜50重量%のものとすることにより、焼成時に無機繊維11と一体化し易くするとともに、セラミック基板20の収縮率と同程度のものとなるようにしているのである。
【0025】
この有機繊維としては、例えば、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維等の熱可塑性樹脂繊維、あるいは、フェノール繊維等の熱硬化性樹脂繊維、もしくは天然パルプ等、そしてこれらの繊維の組合せが採用できるものである。これらの有機繊維あるいはその組合せ繊維は、いずれも、後述する無機繊維11との絡みが良好なものである。
【0026】
無機繊維11は、各セラミック基板20間の融着を防止するためのものであるが、セラミック基板20を構成している主成分と同じ材料を採用することが好ましく、具体的にはアルミナ繊維やジルコニア繊維がある。また、この無機繊維11は、結晶質のものでも非晶質のものでも採用できるが、中でも結晶質のものを採用するのが、セラミック基板20に対して融着しにくいことからより最適である。
【0027】
無機繊維11としての無機繊維を形成するには、オキシ塩化アルミニウム等のアルミニウム塩と、少量の二酸化珪素にポリエチレンオキシド等の水溶性高分子を加えて紡糸液とし、所定の条件下で紡糸した後、溶融温度付近まで加熱し、塩酸等を除去することにより得られる。
【0028】
そして、以上のような材料によって形成したセラミック基板焼成用シート10は、その坪量が10g/m2〜100g/m2であることが必要であるが、その理由は、坪量が10g/m2よりも小さいと、強度の非常に低いものとなって破れ易くなるだけでなく、取り扱いがしにくいセラミック基板焼成用シートとなってしまうからである。逆に、100g/m2よりも大きい坪量のセラミック基板焼成用シートでは、焼成後の無機繊維11が多くなるだけで、剥離効果は殆ど変わらないからである。中でも、このセラミック基板焼成用シート10の坪量は、50g/m2前後のものとするのが、最もバランスがとれて最適なものとなるのである。
【0029】
以上のような焼成用シート10を各セラミック生シート20a間に敷きながら、図3に示すように、複数のセラミック生シート20aを焼成用セラミック台板22上に載置して、所定の温度及び雰囲気中で各セラミック生シート20aの焼成を行った。勿論、このセラミック生シート20aは、図1に示すように、複数の溝21をその表面に有しているものである。
【0030】
焼成が完了した各セラミック基板20を取り出したところ、何らの融着もなく円滑に取り出せた。また、各セラミック基板20の溝21を検査して見たところ、図2の(イ)に示すように、有機繊維は、完全に炭化焼失して無機繊維11だけがお互いに絡み合いながら不織布のような状態で存在していた。つまり、無機繊維11は溝21内の奥深い部分には存在せず、この溝21内の上側部分で、まるで「橋掛け状」となって存在していたのである。
【0031】
以上の結果、焼成完了した各セラミック基板20表面の無機繊維11の除去は、各溝21内に何らの残留物をも存在させることなく、しかも短時間内で行えたのである。
【0032】
また、溝21はないが比較的薄いセラミック基板20の焼成をこの焼成用シート10を使用して焼成してみた。その結果、焼成完了後の各セラミック基板20間には無機繊維11が布状に残留していたが、各無機繊維11が布状になっているために、これらの無機繊維11はセラミック基板20に「均等な点接触」した状態であった。
【0033】
このため、薄くて溝21を有さないセラミック基板20の場合、これらの各セラミック基板20は、そのどの部分においても無機繊維11によって均等に支えられているため、「反り」は全く発生しないのである。このことは、従来の敷粉30であるとその残留状態にどうしても「バラツキ」が生じて、このバラツキによって焼成後の薄いセラミック基板20に反りを発生させていたのであるが、この焼成用シート10を使用した場合には、この反りの発生がなかったのである。
【0034】
従って、この請求項1に係る焼成用シート10によれば、溝21を有するセラミック基板20を対象とした場合、焼成後のセラミック基板20の溝21内に不純物を残留させることがなくて、焼成後の洗浄または清掃を容易に行え、しかもこの焼成用シート10とセラミック基板20との反応による融着や遷移物による基板特性の劣化を非常に少なくすることができて、セラミック基板20の品質を高く維持できるものとなっているのである。
【0035】
また、この請求項1に係る焼成用シート10によれば、溝21は有していないが非常に薄いセラミック基板20では、反りやうねりを生じさせることなく、高品質のセラミック基板20の焼成を行うことがでるのである。
【0036】
上記課題を解決するために、請求項2に係る発明の採った手段は、上記請求項1に記載のセラミック基板焼成用シート10について、
「直径が6μm〜15μmで繊維長が0.7mm〜6mmのカーボン繊維を5重量%〜40重量%さらに含むこと」
である。
【0037】
すなわち、この請求項2に係るセラミック基板焼成用シート10は、カーボン繊維、有機繊維及び無機繊維11からなるものであることが必要である。その理由は、カーボン繊維だけで焼成用シート10を構成すれば、当該シート10の強度が十分なものにはならず、不足する強度は有機繊維によって補う必要があるからである。
【0038】
また、有機繊維は、焼成時の炭化する際に必ず収縮するものである。この有機繊維の焼成収縮は、無機繊維11によってある程度は抑えられるが、高精度のセラミック基板20を製造するためには、少しでもない方がよい。そこで、この請求項2の焼成用シート10では、カーボン繊維を入れることによってこの焼成収縮を完全に抑えるようにしたのである。
【0039】
勿論、カーボン繊維は、これ単独で抄造することは非常に困難であるために、このカーボン繊維を有機繊維及び無機繊維11内に混在させるようにして抄造するのである。無機繊維11は、カーボン繊維とともに、各セラミック基板20間の融着を防止するためのものであるが、非常に高価なカーボン繊維の量を相対的に少なくして、セラミック基板焼成用シート10全体のコストを安価にするために必要なものである。
【0040】
また、カーボン繊維は、乾燥重量に換算して、セラミック基板焼成用シート10中の5重量%〜40重量%を占めるものとする必要がある。その理由は、このカーボン繊維が5重量%よりも少ないと、セラミック基板焼成用シート10の焼成時における有機繊維の炭化収縮を抑えることができないからである。一方、カーボン繊維が40重量%よりも多いと、非常に高価なカーボン繊維を大量に使用することになって、セラミック基板焼成用シート10のコストを引き上げてしまうからである。なかでも、カーボン繊維の割合を20重量%前後とするのが、最適である。
【0041】
従って、この請求項2の焼成用シート10は、上記請求項1のそれと同様な機能を発揮する他、カーボン繊維の存在によって焼成時における当該シートの焼成収縮を確実に防止し得るものとなっているのである。
【0042】
上記課題を解決するために、請求項3に係る発明の採った手段は、上記請求項1または請求項2に記載のセラミック基板焼成用シート10について、
「無機繊維11は、純度が97%以上のアルミナであること」
である。
【0043】
すなわち、この請求項3の焼成用シート10では、アルミナの純度が97%以上、好ましくは99%以上の無機繊維11を使用したものであるが、これによって、シリカ等の不純物が相対的に少なくなるから、焼成時における不純物の遷移が少なくなって、セラミック基板20の高品質及び均質化を確実に維持することができるのである。
【0044】
従って、この請求項3の焼成用シート10によれば、上記請求項1または請求項2に記載のそれと同様な機能を発揮する他、セラミック基板20の高品質及び均質化を確実に維持することができるものとなっているのである。
【0045】
上記課題を解決するために、請求項4に係る発明の採った手段は、上記請求項1〜請求項3のいずれかに記載のセラミック基板焼成用シート10について、
「シート厚みが0.01mm〜1.0mmであること」
としたものであるである。
【0046】
すなわち、この請求項4の焼成用シート10は、そのシート厚みが0.01mm〜1.0mmであることが必要であるが、その理由は、シート厚みが0.01mmより薄いと、シート強度がなくて取り扱いが困難となるからである。また、シート厚みが1.0mmより厚いと、シート強度は問題ないものの、当該シート10が厚くなって、大量のセラミック基板20を焼成するときに嵩張ることになって、効率的な焼成が困難になるからである。さらに、余り厚いとコストが掛かるものとなるため、当該シート10の厚みは、0.1mm〜0.4mmが最適である。
【0047】
従って、この請求項4に係る焼成用シート10は、上記請求項1〜請求項3のいずれかに記載のセラミック基板焼成用シート10と同様な機能を発揮する他、大量のセラミック基板20を効率的に焼成できるものとなっているのである。
【発明の効果】
【0048】
以上、詳述した通り、本発明は、
「抄造により形成されるセラミック基板焼成用シート10であって、
乾燥重量に換算して、3重量%〜50重量%の有機繊維と、残部が無機繊維11とからなり、坪量が10g/m2 〜100g/m2であることを特徴とするセラミック基板焼成用シート10」
にその構成上の主たる特徴があり、これにより、焼成後のセラミック基板20の溝21内に不純物を残留させることがなく、セラミック基板20の洗浄または清掃も容易に行え、しかもこの焼成用シート10からセラミック基板20への遷移物を非常に少なくすることができて、セラミック基板20の品質を高く維持することができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以上のように構成した各請求項に係るセラミック基板焼成用シート10の最良形態を説明すると、以下の通りである。
【実施例1】
【0050】
まず、50gの有機繊維を大量の水中に分散させた後に、平均繊維径が3〜4μmのアルミナ繊維11を50g投入して数分撹拌して分散液を調整した。
【0051】
以上の分散液を、紙を抄造する一般的な抄造機にかけてシート化を行った。この抄造機は、湿シートを形成する抄き網部と、この湿シートの脱水を行なう脱水部、及びシートの乾燥を行なう乾燥部を有しているものであり、前述した分散液からセラミック基板焼成用シート10を連続的に抄造するものである。
【0052】
以上のように連続抄造されたセラミック基板焼成用シート10は、未焼成のセラミック基板20、つまりセラミック生シート20aと同一の形状に打ち抜くことにより製品化されるのであるが、打ち抜かれたセラミック基板焼成用シート10は、図3に示したように、未焼成のセラミック生シート20a間に配置されるものである。以上のようにして形成したセラミック生シート20aは、厚さが0.25mmで50g/m2のものであった。なお、各セラミック生シート20aを支持する焼成用セラミック台板22は市販のもので、厚さ約15mmのアルミナ製のものを使用している。
【0053】
図3に示したように配置されるものは、酸化性雰囲気の焼成炉中にこのままの状態で搬入されることになるのであるが、これにより、各セラミック基板20の焼成がなされることになるのである。このとき、セラミック基板焼成用シート10中の有機繊維は炭化焼失し、アルミナ繊維11だけが均一にシート化された状態、つまり不織布状に残った。
【0054】
このようにして得られたセラミック基板20についてみてみると、その両面に配置してあったセラミック基板焼成用シート10の付着は全くみられないものであり、従ってセラミック基板20同士の付着あるいは反応もないものであった。また、以上のセラミック基板20の焼成では、セラミック基板焼成用シート10中の有機繊維の焼成により収縮による力が発生するが、この力の発生がアルミナ繊維11によって抑えられたことによって、当該セラミック基板20に悪影響を与えることはなかった。しかも、従来一般に使用されている敷粉30に代えてセラミック基板焼成用シート10を使用しているのであるから、「敷粉30の偏り」が全く生じてはおらず、結果として、当該セラミック基板20には反りやうねりが全く生じてはいなかった。
【0055】
以上のようにして形成したセラミック基板焼成用シート10は、抄造のための材料として、前述したような形態の有機繊維及びアルミナ繊維11を採用しているため、水中に分散させたとき、お互いに均一分散させることができ、紙を抄造するための一般的な抄造機で十分製造し得るものとなっているのである。
【0056】
また、抄造後に乾燥されたセラミック基板焼成用シート10は、前述した割合で比較的柔軟性に富んだ有機繊維が存在しているので、あたかもテイッシュペーパーを取り扱うような感覚で取り扱うことが可能となっているのである。また、このセラミック基板焼成用シート10の取り扱い時に、各アルミナ繊維11は有機繊維間に分散して保持されているため、こぼれ落ちてしまうことはないのである。
【0057】
以上のようにセラミック基板焼成用シート10は、図3に示すようにして未焼成のセラミック基板20間に配置されるのであり、この配置作業は当該セラミック基板焼成用シート10が前述したような取り扱い易さを有しているため、容易に行えるものである。
【0058】
そして、図3に示したようにした全体を炉において焼成するのであるが、その初期においてまず有機繊維が炭化を始める。この有機繊維は、前述した割合で無機繊維11と混在したものとなっているため、その焼成収縮力は無機繊維11によって顕在化しないものとなり、焼成によってセラミック基板焼成用シート10自体にうねり等の変化は生じないのである。従って、各セラミック基板20は、当初の平面状態を維持したまま焼成させることになり、焼成後の各セラミック基板20にうねり等の変化は全く生じないのである。
【0059】
勿論、これらのセラミック基板20の間には、セラミック基板20と融着しないアルミナ繊維11が存在していることになるから、各セラミック基板20にアルミナ繊維11が融着しないことは当然として、各セラミック基板20同士も融着しないのである。
【実施例2】
【0060】
まず、30gの有機繊維を大量の水中に分散させた後に、平均繊維長が0.7mmのカーボン繊維を30g投入して数分撹拌した。その後に、アルミナ繊維11をさらに投入して数分撹拌し、スラリーを調整して、抄造することにより焼成用シート10とした。
【0061】
このようにして得られた焼成用シート10を使用して焼成したセラミック基板20についてみてみると、その両面に配置してあったセラミック基板焼成用シート10の付着が全くみられないものであり、従ってセラミック基板20同士の付着あるいは反応もないものであった。
【0062】
また、セラミック基板20の焼成では、セラミック基板焼成用シート10中の有機繊維が加熱されることにより収縮し始める。この有機繊維の収縮は、アルミナ繊維11だけで抑えることはできるが、カーボン繊維を入れることにより、この有機繊維の収縮を完全に抑えることができた。しかも、従来一般に使用されている敷粉30に代えてセラミック基板焼成用シート10を使用しているのであるから、「敷粉30の偏」が全く生じてはおらず、結果として、当該セラミック基板20には反りやうねりが全く生じてはいなかった。
【実施例3】
【0063】
なお、他の実施例として、上記の各実施例で示した分散液中に、熱可塑性樹脂を5%添加し、これを前述した抄造機にかけてセラミック基板焼成用シート10を形成してみた。
【0064】
このセラミック基板焼成用シート10をみてみると、各カーボン繊維、有機繊維及びアルミナ繊維11間に、抄造機の乾燥部における加熱によって溶融したとみられる熱可塑性樹脂が均等に分散しており、この熱可塑性樹脂はそれぞれの繊維間の接着の役割を果たしていることが認められた。
【0065】
このセラミック基板焼成用シート10を使用してセラミック基板20の焼成を行ったところ、熱可塑性樹脂は有機繊維と同様に炭化焼失し、セラミック基板20に反りやうねりはみられなかった。
【0066】
この焼成用シート10は、上述した請求項1等に係る焼成用シート10と同様の作用を発揮するものであることは当然として、この焼成用シート10が熱可塑性樹脂を含有していることにより、次の作用をも発揮するのである。
【0067】
熱可塑性樹脂を数%添加することによって、焼成用シート10は、取り扱い中にケバ立ったり破損したりすることがないだけでなく、打ち抜き特性が向上することにより、加工精度がさらに良好になったのである。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る焼成用シート10は、薄くて高品質のセラミック基板の製造を可能にするため、セラミック基板を多用している技術分野において、高性能の商品を低コストで提供することが可能となり、セラミック基板は勿論、これを多用している商品の増産に役立つものと思われる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係る焼成用シートが対象としているセラミック基板の斜視図である。
【図2】図1に示したセラミック基板の溝21を中心にしてみた図であり、(イ)は本発明に係る焼成用シートを使用して焼成したものの部分拡大断面図、(ロ)は従来の焼成用シートを使用して焼成したものの部分拡大断面図である。
【図3】本発明に係るセラミック基板焼成用シートのセラミック基板間に配置して多数のセラミック基板を積み重ねた状態の断面図である。
【符号の説明】
【0070】
10 焼成用シート
11 無機繊維
20 セラミック基板
20a セラミック生シート
21 溝
22 焼成用セラミック台板(セッター)
30 敷粉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄造により形成されるセラミック基板焼成用シートであって、
乾燥重量に換算して、3重量%〜50重量%の有機繊維と、残部が無機繊維とからなり、坪量が10g/m2 〜100g/m2であることを特徴とするセラミック基板焼成用シート。
【請求項2】
直径が6μm〜15μmで繊維長が0.7mm〜6mmのカーボン繊維を5重量%〜40重量%さらに含むことを特徴とする請求項1に記載のセラミック基板焼成用シート。
【請求項3】
前記無機繊維は、純度が97%以上のアルミナであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック基板焼成用シート。
【請求項4】
シート厚みが0.01mm〜1.0mmであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のセラミック基板焼成用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−63072(P2007−63072A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−251218(P2005−251218)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000217295)田中製紙工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】