説明

セラミック材料から作られる本体

【課題】セラミック材料から作られる本体を提供する。
【解決手段】本発明は、安定剤によって安定化されたセラミック材料から作られる本体に関する。この本体は、本体の表面から所定深さに伸びている表面領域を含み、安定剤は、この表面領域内を強化している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文に従う安定剤によって安定化されたセラミック材料から作られる本体に関し、また、請求項10の前文に従う、前記本体を用意するための方法、及びインプラント、特に、歯科用インプラントとしての本体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在使用中の歯科用インプラントは、一般的に金属、例えばチタンまたはセラミック、あるいは、ジルコニアベースのセラミックから作られる。
【0003】
ダーク色のため、自然の歯の色にマッチしない金属インプラントと対比して、セラミック材料は、自然の歯の色にマッチするという利点を有している。そのため、歯科用インプラントを提供するために、多くの努力がなされてきたが、少なくとも挿入後に見えるインプラントの部品は、セラミックで作られている。
【0004】
色に関してこれらの好ましい特定にも係わらず、歯科用インプラントに対するセラミック材料の使用は、多くの場合、その疲労安定性が一般的に低いために、制限されている。
【0005】
高い機械的強度を有するセラミック材料は、特許文献1に開示されており、ここでは、焼結された半完成部品を製造するために、主に正方形状(イットリア−安定化した正方晶のジルコニア:Y−TZP)の酸化イットリウムで安定化された酸化ジルコニウムに関連している。
【0006】
好ましい機械的特性、特に、高い強度、剛性、及び耐磨耗にかかわらず、イットリア−安定化した正方晶ジルコニア(Y−TZP)は、湿気が存在する中で低温度劣化への傾向を有する。例えば、非特許文献1によって記述されている。
【0007】
低温度劣化は、温度範囲が重要ではなく、一般的に室温から約400℃までのより狭い範囲で、多結晶の正方晶ジルコニアが、単斜晶(monoclinic)のジルコニアに変換する動的現象である。
この劣化は、材料の表面から内部に進行し、そして、ミクロ及びマクロ的なクラッキングを伴い、その結果、材料の割れ強さが低下する結果となる。
【0008】
この問題は、「低熱水安定性」と呼ばれており、特に、歯科用インプラントのためにジルコニアの使用に関連している。それゆえ、材料が湿気及び暖かい環境下にさらされる場合、長期間にわたり、比較的厳しい安全要件を満たすことが必要となる。
【0009】
さらに、歯科用インプラントは、骨統合特性を改善するために、しばしばサブトラクティブ(subtractive)処理に晒される。この点において、特許文献2は、例えば、セラミック材料から作られる歯科用インプラントの表面にトポロジ的形状を与えるための方法に関連している。ここで、表面の少なくとも一部分は、フッ化水素酸を含むエッチング溶液を用いてエッチングされる。セラミック材料のエッチングは、熱水安定性の更なる劣化を伴うことが見出された。
【0010】
熱水安定性を改善するために、セリアの適切な量を有するイットリア−安定化したジルコニアをドープするように提案されてきた。この点については、イットリア−セリア−安定化ジルコニアに言及している、非特許文献2及び非特許文献3が参照される。
【0011】
しかし、イットリア−セリア−安定化ジルコニアは、イットリア−安定化ジルコニアより色の点で暗いという欠点を有する。これは、特に、材料が歯科用インプラントに用いられる場合には欠点となる。歯科用インプラントは、自然の歯の色にマッチする明るい色を有することが望ましい。さらに、イットリア−セリア−安定化ジルコニアは、焼結後に熱間等静圧圧縮成形(HIP)に晒されるのに適していないという欠点を有する。このため、イットリア−セリア−安定化ジルコニアが得られる強度が、イットリア−安定化したジルコニアに比較して低い。
【0012】
代わりに、正方晶のイットリア−安定化ジルコニアのマトリックス内にAl23のグレン粒子を均一に分散させることにより、正方晶の相の熱水安定性が増加することが報告されている。例えば、ヒュアング(Huang)他の上記した文献に述べられている。しかし、また、アルミナをドープすることにより、イットリア−安定化ジルコニアの透過性に負の影響を与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第6165925号明細書
【特許文献2】欧州特許公開第1982670号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】チェバリエ(Chevalier)他による「J.Am.Ceram.Soc.,」92(9)、1901−1920(2009)
【非特許文献2】ヒュアング(Huang)他による「ジャーナル オブ ザ ヨーロピアン セラミック ソサエティ」25(2005)3109−3115
【非特許文献3】セッツ(Settu)他による「ジャーナル オブ ザ ヨーロピアン セラミック ソサエティ」16(1996)1309−1318
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
公知の安定化セラミック材料、特に、イットリア−安定化ジルコニアの欠点を考慮すると、本発明の問題は、セラミック材料から作られる本体を提供することである。本体が基本とするセラミック材料の機械的及び視覚的特性を維持することによって、この本体は、改良された熱水安定性,すなわち、改良された暖かい温度で湿気のある条件下で、長期間安定性を保つ。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、請求項1に従う本体によって達成される。好ましい実施形態は、従属する請求項に与えられる。
【0017】
本発明は、安定剤により安定化されたセラミック材料から作られる本体に関する。本発明によれば、この本体は、本体の表面から所定の深さに伸びている表面領域を含む。安定剤は、この表面領域内に混入される。
この結果、表面領域は、表面から所定深さに到達する。この深さは、本体の特定目的により変えることができる。
【0018】
本発明における文脈で用いられる「強化された(enriched)」の用語は、一方で、セラミック材料の安定剤の割合が、表面領域において、本体の残りの部分よりもかなり高い場合に関係する。安定剤は、本体の残りの部分よりも安定剤の割合がより低い表面領域から強化されるので、この「強化された」の用語は、表面領域において、安定剤の割合が本体の残りの部分と同一高さである場合にも関係している。
【0019】
本発明の文脈に用いられる「割合(proportion)」の用語は、原子又は分子のそれぞれの全数に対して、原子または酸化物のそれぞれの形式における安定剤のアトミックパーセント、または、モルパーセントに関係する。
【0020】
表面領域のみが安定剤で強化されると、セラミック材料の他の機械的特性は、熱水安定性から離れて、本質的に変化されなくなる。特に、例えば、イットリア−安定化された平方晶のジルコニアの強度、剛性、及び耐磨耗性は、維持される。また、本体の視覚的外観は、本質的に変わらないで維持される。
【0021】
本発明の好ましい実施形態によれば、表面領域は、本体の表面から少なくとも20nm、より好ましくは、少なくとも50nm、最適には少なくとも100nmの深さまで伸びている。この結果、特に高い熱水安定性を提供する。
【0022】
本体の機械的特性、視覚的特性、及び骨統合特性を妨げないために、表面領域は、本体の表面から10μm、より好ましくは、5μm、最適には、1μmよりも少ない深さに伸びている。この結果、表面領域は、20nm〜10μm、より好ましくは、50nm〜5μm、最適には、100nm〜1μm、の範囲の深さで伸びていることが望ましい。
【0023】
以下に詳細に説明するように、本体の表面領域内の安定剤の強化は、非常に直接的な方法で達成することができる。基本本体の表面に安定剤を付加し、そして、付加した安定剤を有する基本本体を、安定剤の少なくとも一部分が一体化されるセラミック材料の中に拡散する温度に加熱する、各工程を含む。得られた本体には、セラミック材料の安定剤の割合が、所定の深さから表面に向けて連続して増加する。
【0024】
安定剤における強化は、同一の安定剤、又は、基本本体のものと異なる安定剤によって達成される。好ましくは、付加された安定剤は、基本本体のものと同一である。これにより、さらなるコンポーネントを導入することがない。
【0025】
基本本体は、一般的に、焼結方法によって用意される。セラミック本体、特にセラミックの歯科用インプラントを達成するための焼結方法は、当業者に良く知られている。
【0026】
本体に骨統合特性を与えるために、本体は、歯科用インプラントとして用いる場合、特に関連付けられ、少なくとも本体の表面の一部分が表面あらさを有する。上述したように、表面あらさを与えるための方法は、一般的に、表面をエッチングすることを含む。このエッチングは、本体の熱水安定性の劣化を導くことになる。この文脈に関しては、「ジャーナル オブ ザ アメリカン セラミック ソサエティ」69 [7] 583-84 (1986) に言及されている。ここでは、酸化溶液において、イットリウムイオンがジルコニウムイオンよりもより基本的であるので、イットリウムの選択的な分解が加速される。本発明によれば、熱水安定性の劣化は、表面領域内の安定剤を強化することによって阻止することができる。この結果、本体は、再び安定化される。
【0027】
安定剤がセラミック材料に拡散することにより、材料内に一体化し、離散した被膜がなくなり、その結果、付加された安定剤と基本本体との間の離散的境界がなくなる。
この結果、付加的材料の個別の被膜がセラミック本体上に付加される時に一般的に、見られるように、付加された安定剤の割れがなくなる。
【0028】
原理的に、本発明は、安定剤によって安定化されるどのようなセラミック材料も関連する。特に、安定剤は、イットリウム、セリウム、及びそれらの酸化物の群から選択されることが好ましい。
【0029】
さらに特定すると、本発明の本体は、イットリア−安定化されたジルコニアを含むセラミック材料から作られることが好ましい。一般的に、使用されるイットリア−安定化されたジルコニアは、正方晶の相である。上述したように、イットリア−安定化された正方晶のジルコニアは、高強度、高剛性、および良好な耐摩耗性を有する。さらに、この材料は、明るい色で、自然の歯の色に非常に適合する。
【0030】
アルミナベースのセラミック材料等の他の安定化したセラミック材料は、本発明に関連し、当業者に良く知られている。この点において、当業者は、また、上述したもの以外の安定剤を知っている。例えば、カルシウム、インジウム、ランタン、および/またはスカンジウムとともにそれらの酸化物が、用いられるセラミック材料及び達成される目的により、安定剤として用いることができる。
【0031】
この点において、また、上述したチェバリエ(Chevalier)の文献が参照される。例えば、さらに安定剤としてマグネシウムを示している。マグネシウム又は酸化マグネシウムとは別に、例えば、カルシウムまたは酸化カルシウムを安定剤として用いることができる。さらなる安定剤として、例えば、Ga+3を含む。この安定剤は、また、チェバリエ(Chevalier)の文献に含まれている。これら全ての安定剤は、本発明の文脈の中に使用される安定剤の用語の中に包含される。
【0032】
以下に詳細に説明するように、本発明に従う本体の表面領域におけるセラミック材料の結晶構造は、一般的に、単斜晶の割合が、本体の残りの部分と最大限同一の高さである。より特定すると、単斜晶の割合は、20%より少ないことが望ましい。これは、安定剤が強化された表面領域がない公知のセラミック本体と対比される。正方晶から単斜晶への変換は、例えば、チェバリエ他の上述した文献によって説明されるように、一般的に、本体の表面から始まる。単斜晶の割合を決定するための適当な方法は、以下に与えられる例示の文脈において特定される。
【0033】
上述した本体から離れて、本発明は、さらに、本体を用意する方法に関する。この方法は、セラミック材料で作られた基本本体の表面に安定剤を付加して、安定剤の少なくとも一部分がセラミック材料内に拡散するような温度で、本体上に付加した安定剤を加熱する工程を含んでいる。
【0034】
上述したように、基本本体は、好ましくは、イットリア−安定化されたジルコニアを含むセラミック材料から作られるが、これに限定されるものではない。この基本本体は、一般的に、当業者に良く知られた焼結方法によって用意される。
【0035】
セラミック材料の中に安定剤を十分に拡散させるために、焼結温度以下の十分な温度を選択することが好ましい。実際の温度は、特定のセラミック材料及び用いられる安定剤による。本発明に気付いた当業者は、この温度を設定する方法を知っている。
【0036】
上述したように、本体が歯科用インプラントとして用いられる場合、特定の関係を有する骨統合特性は、本体に表面あらさを与えることにより達成することができる。本発明によれば、この方法は、好ましくは、安定剤を付加する前に、サブトラクティブ処理によって基本本体の表面の少なくとも一部を粗くする工程を含んでいる。
【0037】
また、上述したように、サブトラクティブ処理がエッチング工程を含む場合、特に、高い骨統合特性を有する本体が得られる。それゆえ、エッチング工程は、少なくとも70℃の温度でフッ化水素酸を含むエッチング溶液を用いて実行されることが特に好ましい。この処理によって、離散的粒子又は塊になった粒子は、セラミック材料の塊から取り除かれ、これにより、凹部及びキャビティを有する表面が形成される。この結果、「顕微鏡的」表面あらさを導く。このエッチング工程の詳細は、特許文献1、特に、パラグラフ[0024]〜[0030]、[0060]〜[0064]、[0079]〜[0081] に示されている。これらの開示内容は、参考としてここに包含されている。
【0038】
さらに好ましくは、サブトラクティブ処理は、エッチング工程の前にサンドブラスト工程を含む。これにより、「顕微鏡的」表面あらさが得られ、上述した「顕微鏡的」表面あらさは、さらに、本体の高い骨統合特性に貢献する。
【0039】
本発明の方法の他の好ましい実施形態によれば、安定剤は、ゾルゲル法、特に、ディップ被膜法、化学蒸着法、物理蒸着法、および/またはイオン注入法によって、基本本体の表面に付加される。
【0040】
ゾルゲル法による安定剤の付加に関して、ここでは、マキシマ(Makisima)他による「J.Am.Ceram.Soc.,」69(6)、1989、C-127−C-129によって参照される。マキシマは、ゾルゲルディップ被膜法によるCeO2−TiO2被膜の生成を説明している。この方法は、イットリア等の他の安定剤に適用可能である。
【0041】
同様に、室温で金属塩の混合溶液にシュウ酸を付加することによって、Y2O3−ZrO2及びY2O3−CeO2−ZrO2粉末に対するゾルゲル法を記載しているセッツ(Settu)他による文献、また、ボウレル(Bourell)他による「J.Am.Ceram.Soc.,」76(3)、1993、P705-711に言及されている。ここでは、ボウレルは、ジルコニウムの四塩化物及びハイドレートイットリウムの塩化物前駆体を用いる、ナノ相のイットリア−安定化した正方晶ジルコニアのゾルゲル合成を説明している。
【0042】
さらに、ミヤザワ(Miyazawa)他による「J.Am.Ceram.Soc.,」78(2)、1995、P347-55は、基板上のジルコニアゾルのディップ被膜を説明している。
【0043】
酸化物形式、特に、化学蒸着法(CVD)によるイットリアの安定剤の付加に関して、ここでは、ツアング(Zhang)他による「Chem. Mater.」1999、11、148−153が参照される。ツアングは、キャリアガスとして酸素を用いる触媒強化式の化学蒸着法によって、イットリウム酸化物の薄膜を用意することを説明している。
【0044】
ミヤザキ他、ボウレル他、セッツ他、マキシマ他、及びツアング他によって述べられた文献の開示は、参考としてここに包含される。
上記説明された方法を考慮して、本発明は、また、上記方法によって得られる本体に関係する。
【0045】
更なる構成によれば、本発明は、また、安定剤によって安定化されたセラミック材料から作られる本体に関係する。この本体は、表面から所定の深さに伸びている表面領域を含み、セラミック材料の結晶構造の単斜晶の量は、前記表面領域内で減少される。
【0046】
特に、本発明は、本体に対するこの面に関連し、表面領域において、結晶構造の単斜晶の割合が、本体の残りの部分において、最大限同一である。
【0047】
上述したように、本発明によって達成される目的は、インプラント学の分野、特に、口腔において、特に有益である。本発明は、さらに、インプラント、特に、歯科用インプラントとして、本体に用いるコンポーネントに関係する。
本発明は、さらに、次の例示によって説明される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】サンプル23TA〜29TAの表面中のセリウムの割合が、単斜晶の割合に応じている、グラフィカルな代表値を示す図である。
【図2】サンプル34TA〜40TAの表面中のイットリウムの割合が、単斜晶の割合に応じている、グラフィカルな代表値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
(実施例)
複数のディスクの準備
約1mmの厚さで約5mmの直径を有する、イットリア−安定化ジルコニア(CeramTec AG 社のZIOLOX[登録商標] MZ111 HIP; AZP 2009-0315)の複数のディスクが、上記材料から作られたロッドを切断することによって用意された。このディスクは、95℃で10分間、フッ化水素酸(40%)を含むエッチング溶液内でエッチングされた。
【0050】
前記ディスクの被膜
前記ディスクは、それぞれ、ガス流によるスパッタリングを用いて、セリウム、酸化セリウム、イットリウム、及び酸化イットリウムでコーティングされている。ガス流によるスパッタリングは、80リッターの容積を有し、かつガス流のスパッタリング源を備えた真空室内で実行された。スパッタリング源は、それぞれ、金属製のセリウム又はイットリウムのターゲット(純度>99.9%)を含んでいる。
【0051】
基板ホルダーは、水平方向に移動可能で、スパッタリング源を調整し、さらに、スパッタリング中、振動運動を可能にしながら、基板、すなわち、複数のディスクを露出させない状態を保持している。この結果、ディスクの比較的大きい領域を均一な状態で被膜することができる。この基板ホルダーは、さらに、セラミック放射加熱器を備え、このため、ディスクを所定の温度に設定することを可能にする。これらのディスクは、分散電子顕微鏡の分野において共通に使用される導電パッドを用いて、基板ホルダー上に配置された。
【0052】
以下の商業的に利用可能な装置が使用された。
ソースジェネレータ: ENI DCジェネレータ DCG100 最大10kW
ヒートジェネレータ: エレクトロニック メジャーメンツの電源ユニット
ムーブコントローラ: ISEL CNC−コントローラ C10C-E/A
ガス流コントローラ: MKS マルチ−ガスコントローラ 647B
温度コントローラ : KS 90−1温度コントローラ
処理パラメータは、一般的に次のように設定された。
スパッターターゲット セリウム: 純度>99.9%
スパッターターゲット イットリウム: 純度>99.9%
ターゲット寸法: 中空シリンダ(長さ:60mm;内径:40mm)
【0053】
一般的に、スパッタリングステップは、4段階に分けられる。すなわち、前加熱、ソース源の調整、コーティング及び冷却の付加である。
【0054】
この点において、それぞれ、セリウム及びイットリウムの「金属コーティング」、また、それぞれ、セリア(酸化セリウム)及びイットリア(酸化イットリウム)の「酸化コーティング」を有する複数のディスクのスパッタリングに対して用いられる特定の処理パラメータが、表1に与えられている。
【0055】
【表1】

コーティングは、5nm、25nm、及び125nmの厚さを有し、50nm/sより少ない比較的低い被膜率を用いて準備された。それぞれのサンプルは、表2に与えられる。
【0056】
【表2】

全ての酸化被膜は、十分に透明であった。薄い層の境界面がこれらのサンプルに対して検出された。
【0057】
非酸化性のスパッタリングは、空気中のポスト酸化の強さ次第で調整し、さらに、付加される金属、及び被膜の厚さによって異なる。セリウムで被膜された全てのサンプルは、空気中で十分透明になる。一方、イットリウムで被膜されたサンプルの吸収度は、被膜の厚さ次第である。
【0058】
ジルコニウム、イットリウム、及びセリウムの原子の割合は、それぞれ、サンプルの表面において、XPS(X線による光電子分光法)を用いることが決定された。非被膜のディスクが、基準例(Ref.)として用いられた。この結果は、表3に与えられる。
【0059】
【表3】

【0060】
単斜晶の割合の決定
単斜晶の結晶構造の割合を決定するために、被膜は、さらに、X線回折(XRD)により分析された。ブラッカー D8GADDS 型の回折計は、10°の固定入射角度を有し、かつ共通のアノード(co-anode)(30kV/30mA)を備え、グラファイトの主要なモノクロメータが用いられた。300μmの開口を有する500μmの単一毛細管光学を用いて、サンプル上にX線ビームの焦点を合わせた。
【0061】
回折パターンの分析が、トラヤ(toraya)他の方法、「X線回折による単斜晶の正方晶ZrO2システムの定量的分析のための較正曲線」J.AM. Ceram. Soc., 1984,67: 119-121に従って、DIN V ENV 14273 に対応して実行された。
単斜晶の割合は、次式によって決定することができる。
【0062】
【数1】

ここで、Im(111)及びIm(-111)は、単斜晶の主反射に言及し、また、It(101)は、正方晶の主反射に言及する。前記サンプルの表面領域における単斜晶の割合は、表4に与えられる。
【0063】
【表4】

サンプルNo.23,28,29,38のための単斜晶の比較的高い割合は、人工物であると思われ、更なる相の出現によって説明することができる(たぶん、各々CeO2及びY23)。
【0064】
温度処理
これらのサンプルは、約1250℃の温度で3時間、加熱することにより、熱処理された。加熱は、炉内(Mihm-Vogt GmbH & Co.KG)で実行された。温度は、基本材料の焼結温度(約1280℃である)を僅かに下回る温度に設定された。その結果、基本本体の材料内に被膜材料の拡散をできるだけ高めることができる。
【0065】
これらのサンプルは、上述の方法、特に、XPSおよびXRDを用いて分析された。
熱処理されたサンプルのXPS分析に関して、その結果は、表5に与えられている。
【0066】
【表5】

この結果、は、セリウム、イットリウム、及びそれらの酸化物、それぞれの拡散を基本本体のセラミック材料内に熱的に導くことによって説明することができる。
【0067】
セリウム及び酸化セリウムが被膜されたサンプルに対して、セラミック材料内のCeの割合による被膜厚さが、わずかに依存する。この影響は、サンプルがイットリウム及び酸化イットリウムのそれぞれの場合、特に目立つ。
【0068】
これらのサンプルは、単斜晶の割合を決定するために、さらに、X線回折(XRD)を用いて分析された。分析の結果は、表6に与えられている。
【0069】
【表6】

サンプルの熱水エージングは、オートクレーブ装置(システック DE−56)内で135℃で5時間のISO13356に従ってシュミレーションされた。この加速されたエージング手順に従って処理された複数のサンプルは、上述したように、X線回折法(XRD)によって、また、電界放射走査型電子顕微鏡法(FE−SEM)によって分析された。
【0070】
XRD分析の結果は、表7に与えられている。
【表7】

【0071】
表7に与えられるように、20%を下回る単斜晶の割合は、全てのサンプルに対して達成されている。加熱の前に少なくとも25nmの被膜厚さを有する。
【0072】
表7に与えられる結果に基づいて、セリウム又はイットリウム内にそれぞれ豊富にある表面領域を有するサンプルの相変態行動は、さらに図面に例示されている。
【0073】
図面から明らかなように、イットリウムが豊富なサンプルとセリウムが豊富なサンプルとの間で、相変態挙動が完全に異なっている。一方、イットリウムが豊富なサンプルの場合、イットリウムの割合における閾値は、約15%〜20%の範囲にあり、この閾値は、単斜晶の割合では、5%以下から始まっているのに対し、セリウムが豊富なサンプルでは、セリウムの比較的低い割合で強い影響を示し、セリウムの割合を増加させるに従って、その影響を連続的に減少させる。
【0074】
セリウム又はセリアが豊富なサンプルに対して、20%より少ない単斜晶の割合は、安定剤の割合が、約5アトミックパーセントよりも高い場合に達成される。一方、イットリウム又はイットリアが豊富なサンプルに対して、安定剤の割合が、約20アトミックパーセントよりも高い場合に、20%よりも少ない単斜晶の割合が達成される。
【0075】
上述したように、基本本体がイットリア−安定化ジルコニアから作られる場合、イットリウムまたはイットリアは、好ましくは、基本本体上に付与される。上記例で示すように、表面におけるイットリウムの割合は、好ましくは20〜25アトミックパーセントの範囲にある。そのため、十分に安定化したジルコニアセラミック本体を得ることが可能になる。イットリウムの20〜25アトミックパーセントは、加熱する前にイットリウム又はイットリア被膜を付加することによって達成することができる。この被膜は、20〜30nmの範囲の厚さを有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定剤によって安定化されるセラミック材料から作られる本体であって、
該本体は、本体の表面から所定の深さまで伸びている表面領域を含み、前記安定剤は、前記表面領域内を強化していることを特徴とする本体。
【請求項2】
前記表面領域において、セラミック材料の安定剤の割合が、本体の残りの部分よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の本体。
【請求項3】
前記表面領域において、安定剤の割合が、前記所定の深さから前記表面に向かって連続的に増加していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の本体。
【請求項4】
前記安定剤は、イットリウム、セリウム、及びそれらの各酸化物を含む群から選択されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の本体。
【請求項5】
前記表面領域は、前記本体の表面から少なくとも20nm、より好ましくは、少なくとも50nm、最適には、少なくとも100nmの深さに伸びていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の本体。
【請求項6】
前記本体の表面の少なくとも一部は、表面あらさを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の本体。
【請求項7】
前記本体は、ジルコニアを含むセラミック材料から作られることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の本体。
【請求項8】
前記ジルコニアは、イットリア−安定化されていることを特徴とする請求項7に記載の本体。
【請求項9】
前記表面領域におけるセラミック材料の結晶構造は、単斜晶の割合が前記本体の残りの部分より最大限同じ高さにあることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の本体。
【請求項10】
前記表面領域におけるセラミック材料の結晶構造は、単斜晶の割合が20%より少ないことを特徴とする請求項9に記載の本体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の本体を用意するための方法であって、
該方法は、
セラミック材料から作られた基本本体の表面に安定剤を付加し、
前記安定剤の少なくとも一部分がセラミック材料の中に拡散する温度で、前記安定剤が付加された前記基本本体を加熱する、各工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
前記安定剤を付加する前にサブトラクティブ処理によって、前記基本本体の表面の少なくとも一部を粗面処理する工程をさらに含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記サブトラクティブ処理は、エッチング工程を含むことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記サブトラクティブ処理は、さらに、エッチング工程の前にサンドブラスト工程を含むことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記安定剤は、ゾルゲル法、特に、ディップコーティング法、化学蒸着法、物理的蒸着法、および/または、イオン注入法によって、前記基本本体の表面に付加されることを特徴とする請求項11〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
請求項11〜15のいずれかに記載の方法によって得られる本体。
【請求項17】
請求項1〜10及び請求項16のいずれかに記載の本体を、インプラント、特に、歯科用インプラントとしての使用。
【請求項18】
安定剤によって安定化されるセラミック材料から作られる本体であって、
該本体は、
前記本体の表面から所定の深さに伸びている表面領域を含み、前記セラミック材料の結晶構造の単斜晶の量が、前記表面領域内で減少されることを特徴とする本体。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−517860(P2013−517860A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550378(P2012−550378)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【国際出願番号】PCT/EP2011/001205
【国際公開番号】WO2011/120628
【国際公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(506415207)ストラウマン ホールディング アーゲー (25)
【Fターム(参考)】