説明

セラミック素子及びセラミック素子の製造方法

【課題】電極の少なくとも一部が表面に露出しているセラミック素子であって、性能が高く、かつ電極間の短絡が生じ難いセラミック素子を提供する。
【解決手段】セラミック素子1は、セラミック素子本体10と、電極12,13とを備えている。セラミック素子本体10は、セラミックからなる。電極12,13の少なくとも一部は、セラミック素子本体10から露出している。電極12,13は、AgまたはAgを主成分とする合金からなる。セラミック素子1では、電極12,13のセラミック素子本体10から露出している部分の少なくとも一部には、塩化銀からなる塩化銀被膜15が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック素子に関し、詳細には、電極の少なくとも一部が表面に露出しているセラミック素子及びそのセラミック素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層圧電スピーカーや圧電ポンプなどの屈曲振動を利用した用途において、各セラミック層の厚みが非常に薄く、積層セラミック体全体の厚みも非常に薄い圧電セラミック素子が求められている。例えば、積層圧電スピーカーや圧電ポンプなどの用途に使用される一般的な圧電セラミック素子では、積層圧電セラミック体全体の厚みが数100μm以下、各セラミック層の厚みが20μm以下と非常に薄く設定されている。
【0003】
また、圧電セラミック素子には、安価であることも強く求められている。従って、電極材料としては、Ag電極や、例えばAg比率が高いAg/Pd合金などの安価な材料を使用する必要がある。
【0004】
ところで、上述のような非常に薄い圧電セラミック素子では、加工時や取り扱い時にマイクロクラックが発生しやすい。例えば、AgまたはAg比率が高いAg合金を電極材料として用いている圧電セラミック素子では、この発生したマイクロクラック内に水分が進入した状態で駆動されると、マイクロクラックを通じてAgがマイグレーションし、電極間が短絡してしまうおそれがあった。
【0005】
例えば、下記の特許文献1には、電極材料のマイグレーションによる電極間の短絡が抑制され得る積層セラミック電子部品として、電極層の少なくとも一部に、電極層を構成する電極材料の反応生成物からなる絶縁部が形成されている積層セラミック電子部品が記載されている。
【特許文献1】特開2005−72370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、特許文献1に記載の積層セラミック電子部品では、電極層の少なくとも一部に絶縁部が形成されている。このため、電極層を構成する導電材料のマイグレーションが生じても、電極層間が短絡しにくい。
【0007】
しかしながら、電極層のうち絶縁部が形成されている部分の表面は導電性を有さない。このため、電極層のうち絶縁部が形成されている部分は電極として機能せず、積層セラミック電子部品の性能を十分に高めることが困難であるという問題があった。
【0008】
電極層のうちの電極として機能する部分の面積を大きくするためには、絶縁部が形成されている部分の面積を小さくする必要があるが、その場合は、電極間の短絡を十分に規制できないおそれがあった。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、電極の少なくとも一部が表面に露出しているセラミック素子であって、性能が高く、かつ電極間の短絡が生じ難いセラミック素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るセラミック素子は、セラミック素子本体と、電極とを備えている。セラミック素子本体は、セラミックからなる。電極の少なくとも一部は、セラミック素子本体の表面に露出している。電極は、AgまたはAgを主成分とする合金からなる。本発明に係るセラミック素子では、電極のセラミック素子本体の表面に露出している部分の少なくとも一部には、塩化銀からなる塩化銀被膜が形成されている。
【0011】
本発明に係るセラミック素子のある特定の局面では、Agを主成分とする合金は、Agを70重量%以上含有している。この構成によれば、セラミック素子をさらに安価にすることができる。
【0012】
本発明に係るセラミック素子の他の特定の局面では、セラミック素子本体は、圧電セラミックからなる。セラミック素子本体が圧電セラミックからなる場合は、Agのマイグレーションがより生じやすい。従って、Agのマイグレーションを抑制できる本発明が特に有効である。
【0013】
本発明に係るセラミック素子の別の特定の局面では、セラミック素子本体は、積層された複数のセラミック層を備え、電極は、セラミック素子本体の内部に配置されており、セラミック層を介して相互に対向している第1及び第2の内部電極と、セラミック素子本体の表面に形成されており、第1の内部電極に電気的に接続されている第1の外部電極と、セラミック素子本体の表面に形成されており、第2の内部電極に電気的に接続されている第2の外部電極とを含む。この構成では、第1及び第2の内部電極が比較的近接して配置されているため、Agのマイグレーションが生じると、第1及び第2の内部電極間の短絡がより生じやすい。従って、Agのマイグレーションを抑制できる本発明が特に有効である。
【0014】
本発明に係るセラミック素子のさらに他の特定の局面では、第1及び第2の内部電極のそれぞれの一部がセラミック素子本体の表面に露出しており、塩化銀皮膜は、第1及び第2の内部電極のセラミック素子本体の表面に露出している部分の少なくとも一部と、第1及び第2の外部電極の表面の少なくとも一部とのうちの少なくとも一方の部分に形成されている。
【0015】
本発明に係るセラミック素子のさらに別の特定の局面では、塩化銀皮膜は、電極のセラミック素子本体の表面に露出している部分の全体に形成されている。この構成によれば、Agのマイグレーションをさらに効果的に抑制することができる。
【0016】
本発明に係るセラミック素子のまた他の特定の局面では、塩化銀被膜は、電極を塩化物イオンを含む溶液に浸漬することにより形成されたものである。この構成によれば、塩化銀被膜をより容易に形成することができる。
【0017】
本発明に係るセラミック素子のまた別の特定の局面では、塩化物イオンを含む溶液は、塩化鉄(III)水溶液である。
【0018】
本発明に係るセラミック素子の製造方法は、上記本発明に係るセラミック素子を製造するための方法に関する。本発明に係るセラミック素子の製造方法では、電極が形成されているセラミック素子本体を塩化物イオンを含む溶液に浸漬することにより塩化銀被膜を形成する。
【0019】
本発明に係るセラミック素子の製造方法のある特定の局面では、塩化物イオンを含む溶液は、塩化鉄(III)水溶液である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るセラミック素子では、電極のセラミック素子本体の表面に露出している部分の少なくとも一部には、塩化銀からなる塩化銀被膜が形成されているため、電極内のAgのマイグレーションを抑制することができ、電極間の短絡を効果的に抑制することができる。また、塩化銀被膜は導電性を有するため、電極の塩化銀被膜が形成されている部分も電極として機能する。従って、高性能なセラミック素子を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0022】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る圧電セラミック素子の略図的斜視図である。図1に示すように、圧電セラミック素子1は、セラミックからなるセラミック素子本体10を備えている。本実施形態では、セラミック素子本体10は、第1及び第2の主面10a、10bと、第1及び第2の側面10c、10dと、第1及び第2の端面10e、10fとを有する直方体状に形成されている。
【0023】
セラミック素子本体10は、積層された矩形状の複数のセラミック層11を備えている。各セラミック層11は、セラミックからなる。本実施形態では、具体的には、各セラミック層11は、圧電セラミックからなる。圧電セラミックの具体例としては、例えば、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)系セラミックなどが挙げられる。
【0024】
圧電セラミック素子1は、少なくとも一部がセラミック素子本体10の表面に露出しており、AgまたはAgを主成分とする合金により形成されている電極を備えている。
【0025】
具体的には、図1に示すように、圧電セラミック素子1は、第1及び第2の内部電極12a、12bと、第1及び第2の外部電極13a、13bとを有する。第1及び第2の内部電極12a、12bは、セラミック素子本体10の内部に形成されている。第1及び第2の内部電極12a、12bのそれぞれは、セラミック層11を介して相互に対向するように、高さ方向に沿って交互に配置されている。
【0026】
図1及び図3に示すように、第1の内部電極12aは、第1及び第2の側面10c、10dに至っている。このため、第1の内部電極12aは、第1及び第2の側面10c、10dに露出している。また、図1及び図2に示すように、第1の内部電極12aは、第1の端面10eに至っている一方、第2の端面10fには至っていない。
【0027】
図1及び図3に示すように、第2の内部電極12bは、第1及び第2の側面10c、10dに至っている。このため、第2の内部電極12bは、第1及び第2の側面10c、10dに露出している。また、図1及び図2に示すように、第2の内部電極12bは、第2の端面10fに至っている一方、第1の端面10eには至っていない。
【0028】
第1の外部電極13aは、第1の端面10e上に形成されている。第1の外部電極13aは、第1の内部電極12aと電気的に接続されている。一方、第2の外部電極13bは、第2の端面10f上に形成されている。第2の外部電極13bは、第2の内部電極12bと電気的に接続されている。
【0029】
第1及び第2の内部電極12a、12b並びに第1及び第2の外部電極13a、13bは、AgまたはAgを主成分とする合金により形成されている。Agを主成分とする合金の具体例としては、例えば、Ag/Pd合金などが挙げられる。ここで、Agを主成分とする合金とは、Agを10重量%以上含む合金を意味する。第1及び第2の内部電極12a、12b並びに第1及び第2の外部電極13a、13bの形成材料は、Agを70重量%以上含有するAg合金であることが好ましく、Agであることが特に好ましい。電極材料におけるAgの重量比率を高くすることにより、圧電セラミック素子1を安価にすることができるからである。
【0030】
本実施形態では、図4及び図5に示すように、第1及び第2の内部電極12a、12b並びに第1及び第2の外部電極13a、13bのセラミック素子本体10の表面に露出している部分の少なくとも一部の表面に、塩化銀(III)からなる塩化銀被膜15が形成されている。この塩化銀被膜15の存在によって、Agのマイグレーションの進行を抑制することができる。従って、本実施形態のように、塩化銀被膜15を電極の露出部に形成することによって、電極材料のマイグレーションを効果的に抑制することができる。従って、電極間の短絡を抑制することができる。特に、本実施形態では、塩化銀被膜15は、第1及び第2の内部電極12a、12b並びに第1及び第2の外部電極13a、13bのセラミック素子本体10の表面に露出している部分の表面全体に形成されている。従って、電極材料のマイグレーションをより効果的に抑制することができる。
【0031】
また、塩化銀(III)は、導電性を有している。従って、第1及び第2の内部電極12a、12b並びに第1及び第2の外部電極13a、13bの塩化銀被膜15が表面に形成されている部分も電極としての機能を発揮する。よって、第1及び第2の内部電極12a、12b並びに第1及び第2の外部電極13a、13bのうちの電極として機能する部分の面積を大きくすることができる。
【0032】
以上より、本実施形態によれば、電極の導電性を確保し、圧電性能を高く保ちつつ、電極間が短絡することを効果的に抑制することができる。また、Agを多く含む電極を使用した場合にもAgのマイグレーションが抑制されるため、Agを多く含む電極を用いることができる。従って、圧電セラミック素子1をより安価にすることができる。
【0033】
塩化銀被膜15の形成方法は、特に限定されない。塩化銀被膜15は、例えば、第1及び第2の内部電極12a、12b並びに第1及び第2の外部電極13a、13bの塩化銀被膜15が形成されているセラミック素子本体10を塩化物イオンを含む溶液に浸漬して電極の表層を酸化させることによって形成することができる。この方法によれば、塩化銀被膜15を容易に形成することができる。なお、セラミックは、通常、塩化物イオンを含む溶液に対して化学的に安定であるため、塩化物イオンを含む溶液に浸漬することによってセラミック層11は実質的に変質しない。そのため、電極の露出部分に選択的に塩化銀膜15を形成することができる。
【0034】
なお、塩化銀被膜15の形成工程において、セラミック素子本体10全体を塩化物イオンを含む溶液に浸漬してもよいし、電極が露出している部分のみを塩化物イオンを含む溶液に浸漬してもよい。
【0035】
塩化物イオンを含む溶液としては、例えば、塩化鉄(III)溶液(FeCl溶液)などが挙げられる。塩化物イオンを含む溶液の塩化物イオン濃度は特に限定されないが、例えば、37〜44%程度とすることができる。また、塩化物イオンを含む溶液に浸漬する時間は、適宜設定できるものであるが、例えば、30〜180秒程度とすることができる。
【0036】
なお、セラミック素子本体10の作製方法は特に限定されない。セラミック素子本体10は、例えば以下の要領で作製することができる。
【0037】
まず、圧電セラミック粉末を含むスラリーを用いてセラミックグリーンシートを作製する。なお、スラリーは、圧電セラミック粉末の他に、有機バインダーなどを含むものであってもよい。作製されたセラミックグリーンシートの表面に導電性ペーストを塗布し、乾燥させることにより導電性ペースト層を形成する。そして、導電性ペースト層が形成されたセラミックグリーンシートを積層することにより、グリーンシート積層体を形成する。そして、そのグリーンシート積層体を脱脂し、焼成することにより、内部に第1及び第2の内部電極12a、12bが形成されたセラミック素子本体10を作製する。
【0038】
その後、セラミック素子本体10の第1及び第2の端面10e、10fに導電性ペーストを塗布し、乾燥させた後、脱脂し、焼成することにより第1及び第2の外部電極13a、13bを形成する。以上の工程により、圧電セラミック素子1を完成させることができる。
【0039】
なお、外部電極13a、13bは、焼き付けスパッタなどの他の方法によっても形成することができる。
【0040】
また、グリーンシート積層体に、第1及び第2の外部電極13a、13bを形成するための導電性ペーストを塗布した後に、第1及び第2の外部電極13a、13bを、第1及び第2の内部電極12a、12bとセラミックグリーンシートと共に焼成してもよい。
【0041】
(第2の実施形態)
上記の第1の実施形態では、電極のセラミック素子本体10の表面に露出している部分の表面全体に塩化銀被膜15を形成する例について説明した。但し、本発明において、塩化銀被膜は、電極のセラミック素子本体の表面に露出している部分の表面の一部にのみ形成されていてもよい。例えば、図6に示すように、第1及び第2の外部電極13a、13bの図示しない外部端子との接続部16には、塩化銀被膜15を形成しないようにしてもよい。具体的には、本実施形態では、第1及び第2の外部電極13a、13bのセラミック素子本体10の表面に露出している部分のうち、接続部16を除く非接続部分17にのみ塩化銀被膜15が形成されている。接続部16には、塩化銀被膜15は形成されていない。このようにすることによって、外部端子と第1及び第2の外部電極13a、13bとの接続部における電気抵抗を小さくすることができる。
【0042】
なお、非接続部分17にのみ塩化銀膜15を形成する方法としては、例えば、接続部16に相当する部分に耐水性のビニールテープなどの保護層を形成した上で塩化物イオンを含む溶液に浸漬する方法が挙げられる。
【0043】
(第3の実施形態)
上記第1の実施形態では、第1及び第2の内部電極12a、12bの端部が第1及び第2の側面10c、10dに露出している例について説明した。但し、本発明はこの構成に限定されない。例えば、図7及び図8に示すように、第1及び第2の内部電極12a、12bは、第1及び第2の側面10c、10dに露出していなくてもよい。
【0044】
本実施形態においても、露出している外部電極13a、13bの表面に塩化銀膜15が形成されているため、外部電極13a、13bに含まれるAgのマイグレーションを効果的に抑制することができる。また、塩化銀膜15は導電性を有するため、塩化銀膜15を形成している場合であっても、外部電極13a、13bと電極端子との間の導通を図ることができる。
【0045】
上記第1〜第3の実施形態では、本発明を実施したセラミック素子について、圧電セラミック素子を例に挙げて説明した。但し、本発明に係るセラミック素子は、圧電セラミック素子以外のセラミック素子であってもよい。本発明に係るセラミック素子は、例えば、セラミックコンデンサ、セラミックインダクタ、セラミックキャパシタなどであってもよい。但し、変位を伴う圧電セラミック素子では、特にマイグレーションが生じやすいため、本発明は、圧電セラミック素子に特に有用である。
【0046】
また、本発明に係るセラミック素子は、少なくとも一部が露出している電極を有するコンデンサ素子である限りにおいて特に限定されない。本発明に係るセラミック素子は、内部電極及び外部電極のうちの少なくとも一方を有するものであればよい。
【0047】
以下、実施例を参照して本発明のセラミック素子についてより具体的に説明する。なお、以下の説明において、上記実施形態と実質的に共通の機能を有する部材を共通の符号で参照し、説明を省略する。
【0048】
(実施例1)
実施例1では、以下の要領で図9に示す実験用サンプルを作製した。
【0049】
チタン酸ジルコン酸系セラミック粉末と溶剤と有機バインダーとを混合し、スラリーを作製した。そのスラリーを用いて厚み30μmのセラミックグリーンシートを作製した。次に、セラミックグリーンシートを、23mm×47mmの寸法に打ち抜いた。打ち抜いたセラミックグリーンシート上にAgを電極材料として含む導電性ペーストを印刷した。次に、このセラミックグリーンシートを10層積層し、プレスした後に、脱脂し、850℃で焼成することにより、内部に内部電極12a、12bが形成された焼成体を得た。その後、ダイサーを用いて焼成体を約8.0mm×20.0mm×0.25mmの個片にカットした。次に、焼成体に、Agを電極材料として含む導電性ペーストを印刷し、脱脂し、焼成することにより内部電極12aに接続されている外部電極13aと、内部電極12bに接続されている外部電極13bとを形成した。次に、内部電極12a、12bが焼成体の両端面から露出するように、焼成体の両端部を切断し、研磨した。その後、焼成体の端部を40%の塩化銀(III)水溶液中に2分間浸漬することにより、内部電極12a、12bの露出部の表面に塩化銀被膜を形成した。最後に、焼成体の端部を純水で洗浄し、乾燥させることにより実験用サンプル100を得た。なお、乾燥後の実験用サンプル100の外部電極13a、13b間の導通をテスターにより確認したところ、外部電極13aと外部電極13bとが導通していることが確認された。この結果から、塩化銀被膜が導電性を有していることがわかる。
【0050】
次に、電極のマイグレーションのしやすさを評価した。具体的には、図10に示す態様で、事件用サンプル1の端部を純水に浸漬した状態で、外部電極13aと外部電極13bとの間に1V(電界強度=50V/mm)の電圧を印加した。電極材料のマイグレーションが生じると、外部電極13aと外部電極13bとの間を流れる電流が急激に増大し、ショートに至る。本評価では、外部電極13aと外部電極13bとの間に流れる電流が、電流を流し始めた時点の10倍となる時間をショート開始時間として定義し、測定した。
【0051】
なお、図10において、ファンクションジェネレータ21は、種々の波形の信号を出力することができる装置である。バイポーラアンプ22は、ファンクションジェネレータ21から出力された信号を増幅させる増幅器である。マルチメーター23は、電圧、電流、抵抗を測定する測定器である。
【0052】
(実施例2)
実施例1と同様の実験用サンプル100の外部電極13aと外部電極13bとの間に20V(電界強度=1kV/mm)の電圧を印加したこと以外は上記実施例1と同様の評価を行った。
【0053】
(実施例3)
導電性ペーストとしてAgを90重量%含むAg/Pd合金を用いたこと以外は上記実施例1と同様にして実験用サンプルを作製し、上記実施例1と同様の評価を行った。
【0054】
(実施例4)
導電性ペーストとしてAgを80重量%含むAg/Pd合金を用いたこと以外は上記実施例1と同様にして実験用サンプルを作製し、上記実施例1と同様の評価を行った。
【0055】
(実施例5)
導電性ペーストとしてAgを70重量%含むAg/Pd合金を用いたこと以外は上記実施例1と同様にして実験用サンプルを作製し、上記実施例1と同様の評価を行った。
【0056】
(比較例1)
塩化銀被膜を形成しなかったこと以外は上記実施例1と同様にして実験用サンプルを作製し、上記実施例1と同様の評価を行った。
【0057】
(比較例2)
導電性ペーストとしてAgを90重量%含むAg/Pd合金を用いたこと以外は上記比較例1と同様にして実験用サンプルを作製し、上記比較例1と同様の評価を行った。
【0058】
(比較例3)
導電性ペーストとしてAgを80重量%含むAg/Pd合金を用いたこと以外は上記比較例1と同様にして実験用サンプルを作製し、上記比較例1と同様の評価を行った。
【0059】
(比較例4)
導電性ペーストとしてAgを70重量%含むAg/Pd合金を用いたこと以外は上記比較例1と同様にして実験用サンプルを作製し、上記実施例2と同様の評価を行った。
【0060】
実施例1〜4及び比較例1〜4の結果を下記の表1にまとめる。
【0061】
【表1】

【0062】
上記の表1に示すように、塩化銀被膜が形成されていない比較例1〜4では、いずれも約4分以内とショート開始時間が非常に短かった。一方、塩化銀被膜が形成されている実施例1〜5では、いずれも60分以上とショート開始時間が長かった。また、実施例2の結果からわかるように、入力電圧を20Vと高くした場合であっても、60分以上とショート開始時間が長かった。以上の結果から、塩化銀被膜を電極の露出部の表面に形成することにより、電極間のショートを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】第1の実施形態に係る圧電セラミック素子の略図的斜視図である。
【図2】図1における切り出し線II-II部分の略図的断面図である。
【図3】図1における切り出し線III-III部分の略図的断面図である。
【図4】図2におけるIV部分を拡大した略図的断面図である。
【図5】図3におけるV部分を拡大した略図的断面図である。
【図6】第2の実施形態に係る圧電セラミック素子の略図的斜視図である。
【図7】第3の実施形態に係る圧電セラミック素子の略図的斜視図である。
【図8】図7における切り出し線VIII-VIII部分の略図的断面図である。
【図9】実験用サンプルの略図的斜視図である。
【図10】実験用サンプルの評価工程を説明するための略図的模式図である。
【符号の説明】
【0064】
1…圧電セラミック素子
10…セラミック素子本体
10a…第1の主面
10b…第2の主面
10c…第1の側面
10d…第2の側面
10e…第1の端面
10f…第2の端面
11…セラミック層
12…内部電極
12a…第1の内部電極
12b…第2の内部電極
13…外部電極
13a…第1の外部電極
13b…第2の外部電極
15…塩化銀被膜
16…接続部
17…非接続部分
21…ファンクションジェネレータ
22…バイポーラアンプ
23…マルチメーター
100…実験用サンプル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックからなるセラミック素子本体と、
少なくとも一部が前記セラミック素子本体の表面に露出しており、AgまたはAgを主成分とする合金からなる電極とを備え、
前記電極の前記セラミック素子本体の表面に露出している部分の少なくとも一部には、塩化銀からなる塩化銀被膜が形成されている、セラミック素子。
【請求項2】
前記Agを主成分とする合金は、Agを70重量%以上含有している、請求項1に記載のセラミック素子。
【請求項3】
前記セラミック素子本体は、圧電セラミックからなる、請求項1または2に記載のセラミック素子。
【請求項4】
前記セラミック素子本体は、積層された複数のセラミック層を備え、前記電極は、前記セラミック素子本体の内部に配置されており、前記セラミック層を介して相互に対向している第1及び第2の内部電極と、前記セラミック素子本体の表面に形成されており、前記第1の内部電極に電気的に接続されている第1の外部電極と、前記セラミック素子本体の表面に形成されており、前記第2の内部電極に電気的に接続されている第2の外部電極とを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のセラミック素子。
【請求項5】
前記第1及び第2の内部電極のそれぞれの一部が前記セラミック素子本体の表面に露出しており、前記塩化銀皮膜は、前記第1及び第2の内部電極の前記セラミック素子本体の表面に露出している部分の少なくとも一部と、前記第1及び第2の外部電極の表面の少なくとも一部とのうちの少なくとも一方の部分に形成されている、請求項4に記載のセラミック素子。
【請求項6】
前記塩化銀皮膜は、前記電極の前記セラミック素子本体の表面に露出している部分の全体に形成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセラミック素子。
【請求項7】
前記塩化銀被膜は、前記電極を塩化物イオンを含む溶液に浸漬することにより形成されたものである、請求項1〜6のいずれか一項に記載のセラミック素子。
【請求項8】
前記塩化物イオンを含む溶液は、塩化鉄(III)水溶液である、請求項7に記載のセラミック素子。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のセラミック素子の製造方法であって、
前記電極が形成されている前記セラミック素子本体を塩化物イオンを含む溶液に浸漬することにより前記塩化銀被膜を形成する、セラミック素子の製造方法。
【請求項10】
前記塩化物イオンを含む溶液は、塩化鉄(III)水溶液である、請求項9に記載のセラミック素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−153441(P2010−153441A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327434(P2008−327434)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】