説明

セラミック膜の堆積方法

本発明は、セラミック膜のセラミックまたは金属表面上への堆積、とくには、CGO(セリウムガドリニウム酸化物)のような安定化ジルコニアおよびドープセリアの膜などのサブミクロンの厚さのセラミック膜の堆積方法に関する。本発明は、固体電解質型燃料電池(SOFC)を含む高温および中温作動燃料電池、ならびに450〜650℃の範囲で作動する金属支持型中温SOFCの製造にとくに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック膜のセラミックまたは金属表面上への堆積、とくには、CGO(セリウムガドリニウム酸化物)のような安定化ジルコニアおよびドープセリアの膜などのサブミクロン厚のセラミック膜の堆積方法に関する。本発明は、固体電解質型燃料電池(SOFC)を含む高温および中温作動燃料電池、ならびに450〜650℃の範囲で作動する金属支持型中温SOFCの製造にとくに有用である。
【背景技術】
【0002】
燃料電池、燃料電池スタックアセンブリ、燃料電池スタックシステムアセンブリ等は従来技術において周知であり、関連する教示としては、国際公開公報第02/35628号、同第03/075382号、同第2004/089848号、同第2005/078843号、同第2006/079800号、同第2006/106334号、同第2007/085863号、同第2007/110587号、同第2008/001119号、同第2008/003976号、同第2008/015461号、同第2008/053213号、同第2008/104760号、および同第2008/132493号のようなものが挙げられ、それらすべての全開示は本明細書に参照により組み入れる。
【0003】
長年にわたりSOFC(固体電解質型燃料電池)の作動温度を従来の800〜1000℃から600℃以下まで下げるための努力がなされてきた。これを達成するにはSOFCに従来用いられるものとは異なる材料の組を用いることが必要であると認識されている。とくに、これは450〜650℃の間で作動する場合、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)より向上した触媒活性を有するカソード材料および高い酸素イオン伝導性を有する電解質材料を用いることを必要とする。現在のところ、700℃未満で作動するYSZ系燃料電池電解質を効果的に製造することは不可能であることが知られている。
【0004】
高性能カソード材料は、一般的に、LSCF(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)、LSC(ランタンストロンチウムコバルタイト)およびSSC(サマリウムストロンチウムコバルタイト)のような酸化コバルトをベースとするペロブスカイト酸化物である。より伝導性の高い電解質材料は、一般的に、(i)SDC(サマリウムドープセリア)およびGDC(ガドリニウムドープセリア)のような希土類ドープセリア、または(ii)LSGM(ランタンストロンチウムマグネシウムガレート)のようなランタンガレートをベースとする材料のいずれかである。
【0005】
ジルコニアの伝導性は、より高価な材料ではあるが、イットリアではなくスカンジアをドープすることにより著しく向上させることもできる。
【0006】
残念ながら、低温でより高性能な材料は従来の高温材料より不安定であることが多い。よくある具体的な問題は以下のとおりである。
・高性能カソード材料は、ジルコニアと反応してイオン伝導体の質が非常に悪いジルコン酸ストロンチウムまたはランタンを形成し、性能を劣化させる。
・LSGMは、通常アノードに含まれる酸化ニッケルと反応する。
・ドープセリアは、燃料雰囲気にさらすと部分還元し、混合イオン/電子伝導性を発現させ得る。これはひいては電池の内部短絡を発生させ、作動効率を低下させる。
・ドープセリアおよびジルコニアは、1200℃を超える温度で処理すると反応し、伝導性の悪い混合相を生成し得る。
【0007】
これらの望ましくない材料相互作用を緩和するため、電解質を主層および1つ以上の中間層で構成する複合電解質を有することがしばしば望ましい。主層は、酸素イオンをカソードからアノードへ伝導し、物理的に離れた反応物質に気密バリアを提供するという主要機能を果たす。中間層は、別の電解質材料の薄膜であり、主電解質層を片方または両方の電極から分離し、有害な相互作用を防止する。中間層の一般的な用途としては以下が挙げられる。
・ジルコン酸塩の生成を回避し、カソードの触媒活性を向上させるため、ジルコニア主電解質層とコバルタイトカソードとの間に堆積させるドープセリアの中間層。
・アノードに含まれる酸化ニッケルとの反応を回避するため、LSGM主電解質とアノードとの間に堆積させるドープセリアの中間層。
【0008】
薄く(<1000nm)さらに連続する不透過膜の製造は費用効率的な燃料電池製造のための直接的な処理ではないことが知られている。材料品質、再現性および処理費用のため、大量生産には伝統的な粉末法、焼結法およびプラズマまたは真空噴霧堆積法は魅力的でない。
【0009】
米国特許第7261833号は、結晶性でナノスケールのセラミック電解質材料の水性懸濁液の製造方法と、セラミック電解質材料の粗粒子ならびに結合剤および界面活性剤から選択する少なくとも1つの水溶性添加剤を加えることによる懸濁液の変性方法とを開示している。それから、この懸濁液を固体電解質型燃料電池の多孔質アノード上に堆積させて10〜80ミクロン厚の層を生成すること、およびその後加熱して5〜40ミクロン厚の高密度層を生成することについて開示している。この特許は、詳細な記載はないものの、(第10欄第32〜44行)同様の処理を用いてアノードと電解質との間、カソードと電解質との間、ならびにアノードおよびカソード両方と電解質との間に中間層を生成させることができることも開示している。LSM基板、PSMおよびGDCの中間層、ならびにYSZ電解質の3層構造の堆積および高温焼結について実施例が与えられている(第16欄実施例6)。好適な堆積処理は、エアロゾル技術を用いてYSZの厚層(10〜80ミクロン厚)を堆積させるステップ、およびその後1250〜1400℃の温度で焼成するステップを含む。この焼成型は、追加の焼成工程および高温により燃料電池製造処理にかなりの時間および費用が追加される大量生産には適さない。さらに、こうした温度での焼成は、こうした高温が急速な金属種の移動、および空気を含む雰囲気を用いる場合は酸化物層の生成を引き起こす金属支持型燃料電池には適さない。この公報は、どのように中間層材料の薄層(<1000nm厚)を不透過層上に堆積させるかについては開示しておらず、また、どのようにこうした層を<1100℃で処理して不透過状態とするかについても開示していない。
【0010】
欧州特許第1202369号は、YSZまたはScSZ系サーメットアノードとScSZ電解質との間にScSZ中間層を堆積させて低い作動温度での燃料電池の抵抗を低下させるアノード支持型固体電解質型燃料電池について記載している。中間層は、触媒および電解質材料を含むサーメット構造である。中間層は、予備焼結およびテープキャストした電極上に堆積させ、焼結させる。与えられた実施例は、中間層のスクリーン印刷、その後の1300℃での焼結について開示している。この焼成型は、追加の焼成工程および高温により燃料電池製造処理にかなりの時間および費用が追加される大量生産には適さない。さらに、こうした温度での焼成は、こうした高温が急速な金属種の移動、および空気を含む雰囲気を用いる場合は酸化物層の生成を引き起こす金属支持型燃料電池には適さない。該特許は、どのように薄い中間層(<1000nm)を多孔質電極の上に堆積させ、1100℃未満で処理して不透過層とすることができるかについて開示していない。該特許は、薄く気密な(不透過)層を得ることがこうした層の厚さの増加につながる大きな課題であることを認識していない。
【0011】
国際公開公報第02/17420号は、固体電解質型燃料電池のアノードと電解質との間にバリア層を用いて電解質とアノードとの間の化学反応を制御すること、および/または電解質とカソードとの間に強化層を用いて電解質の破壊抵抗を向上させることについて記載している。この特許は、バリア層は1〜30ミクロン厚とすべきであり、1ミクロン未満の厚さではバリア層は不均一となり電解質の領域を露出するため効果がないことを示している。強化層は、5〜15ミクロン厚の厚さを有する多層構造である。燃料電池用の層は、周知のテープカレンダー技術を用いてテープキャストし、圧延する。図5bはYSZ電解質とアノードとの間のセリア層を示すが、一般的なアノードはNi-YSZである。該公報は、こうした構造の焼結温度について開示していないが、こうした処理温度は1100℃を超え、1250℃を超える温度も広く用いられると考えられるだろう。この焼成型は、追加の焼成工程および高温により燃料電池製造処理にかなりの時間および費用が追加される大量生産には適さない。さらに、こうした温度での焼成は、こうした高温が急速な金属種の移動および、空気を含む雰囲気を用いる場合は酸化物層の構築を引き起こす金属支持型燃料電池には適さない。該特許は、どのように薄い中間層(<1000nm)を多孔質電極上に堆積させ、1100℃未満で処理して不透過層とすることができるかについて開示していない。
【0012】
米国特許第6139985号は、固体電解質型燃料電池の電解質と空気カソードとの間に高密度の連続中間層を用いることについて記載しているが、中間層は空気カソード層で成長した高密度の酸化セリウム層であり、CVD処理を用いて空気電極の粒子のまわりに連続層を形成している。この処理は許容可能な結果を得るため複合材料の生成、堆積および処理を必要とし、それは従って費用がかかり、大量生産には適用できない。
【0013】
国際公開公報第96/29712号は、とくに酸化亜鉛を用いる、バリスタ(非オーム可変抵抗器)およびその製造方法を対象とする。この公報は、ゾルゲルの基板上への堆積、その後の乾燥工程および結晶化が起こるアニール工程について記載している。明らかに、この公報は、アニール/結晶化工程の前に追加の溶液層を堆積させることを提案していない。
【0014】
他の従来技術としては、欧州特許第1887843号、日本国特許第63293168号および同第61261235号が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、とくに従来の焼結処理では、電解質中での中間層の堆積が困難となり得ることが広く報告されている。これは、とくには、中間層を高密度とする必要がある場合、または許容可能な最高焼結温度に制限がある場合に当てはまる。こうした制限は、電池を金属基板上で支持する場合(好適には<1100℃焼結)、または非伝導相を形成することなくドープセリアおよびジルコニアを一緒に焼結しようとする場合(好適には<1200℃焼結)に当てはまる。
【0016】
よって、電解質中での中間層の堆積は、中間層を高密度とすることを望む場合、中間層が金属支持型固体電解質型燃料電池の一部を形成する場合、ならびにドープセリアおよびジルコニアを一緒に焼結する場合、根本的な問題を提起する。これらの問題は、中間層を金属支持型中温固体電解質型燃料電池の電解質中で形成し、最高製造処理温度が<1100℃である場合、さらにより大きくなる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、これらの従来技術の不利点を克服しようとするものである。よって、本発明により、少なくとも1層の金属酸化物結晶性セラミック層を基板の表面上に堆積させる方法であって、該方法が、
(i)金属酸化物結晶性セラミックの可溶性塩前駆体の溶液を該基板の該表面上に堆積させ、該可溶性塩前駆体の該溶液の層を該表面上に画定する工程であって、該表面が金属表面およびセラミック表面からなる群から選択させる工程と、
(ii)該可溶性塩前駆体の該溶液を乾燥させ、該可溶性塩前駆体の層を該表面上に画定する工程と、
(iii)該可溶性塩前駆体を該表面上で150〜600℃の温度まで加熱し、分解して金属酸化物膜の層を該表面上に形成する工程と、
(iv)工程(i)〜(iii)を少なくとももう1回繰り返す工程であって、該可溶性塩前駆体の該溶液を該金属酸化物膜上に堆積させ、該表面上の該金属酸化物膜が複数の金属酸化物層を含むようにする工程と、
(v)該表面上に該金属酸化物膜を有する該基板を500〜1100℃の温度で焼成して該金属酸化物膜を結晶化し、該基板の該表面に結合した金属酸化物結晶性セラミック層を生成させる工程と
を含み、
各工程(ii)、(iii)および(v)を空気雰囲気中で行う方法を提供する。
【0018】
好適には、各工程(i)〜(v)は空気雰囲気中で行う。これは、処理工程を費用のかかる雰囲気を用いる密閉または高度に制御されたガス環境で行う必要性を回避するので、商業的に非常に有用かつ便利である。
【0019】
「溶液」とは、少なくとも1つの物質(溶剤)中の少なくとも1つの他の物質(溶質)からなる真溶液を意味し、すなわち、固体粒子の存在を除き、よってコロイド分散液、コロイド溶液、および機械的懸濁液を除く。
【0020】
本発明者らが行う実験は、工程(i)の層における固体の存在が亀裂およびひいては層の質を低下させる応力点をもたらすことを示した。よって、本発明者らは、均一に乾燥およびアニールする薄層堆積処理を有することが望ましいことを見出した。均一な層の堆積は、亀裂のリスクの低い均一な乾燥およびアニールを可能にする。ゾルゲル混合物または固体粒子を含む懸濁液からなる層は、不均一に乾燥し、また、不均一に焼結する傾向があり、懸濁液領域は、粒子またはゲルのまわりより早く乾燥し、亀裂を引き起こし得る機械的乾燥およびアニール応力を発生させる。従って、十分な厚さの層を生成させるには、いくつもの薄層を堆積させることが必要である。
【0021】
さらに、国際公開公報第96/29712号の方法は、アニール温度で直接結晶化形態へゾルゲル転移し、本発明の工程(iii)の中間形態を有しないので、本発明の方法を明らかに含まない。よって、亀裂のない層を生成させるには、何度も堆積させてアニールすることが必要となるだろう。これは処理時間および費用を増加させ、金属基板を用いて空気中でアニールを行う場合、金属基板を酸化物層成長条件ならびに金属または酸化物層から燃料電池電極および電解質層への金属イオンの移動にさらす回数も増加させるが、どちらの結果も、とくに燃料電池の製造、作動および耐久性にとって望ましくない。
【0022】
国際公開公報第96/29712号は、ゾルのスピンコートを用いることも教示するが、それは必然的に粒子の不均一な分散をもたらし、結果として金属酸化物の結晶性セラミックが基板の表面にわたり不均一となり、最終製品の機械的欠陥および不均一/次善の使用性能のさらなるリスクをもたらす。燃料電池および空気分離装置の電解質層の場合、(i)電極を互いに電気絶縁して短絡を防ぎ、(ii)確実にガス不透過性とするためには高密度が好ましいので、ゾルを用いることは得ることができる金属酸化物の結晶性セラミックの密度を制限し、ひいては使用性能を制限することになり得る。
【0023】
後述するように、本発明の方法は、金属酸化物の結晶性セラミックの層の堆積およびひいては高真空または1100℃を超える温度のような非経済的、不便、または非実用的な処理条件の要件なしに固体電解質型燃料電池の製造を可能にする。これはフェライトステンレス鋼のようなステンレス鋼基板などの基板を用いることを可能にする。
【0024】
好適には焼成工程(v)の最高温度は、1000℃以下である。1000℃を超える処理温度では、より急速な鋼の酸化、ならびに不安定な金属種、とくに例えばフェライトステンレス鋼のようなステンレス鋼によく見られるクロムの、一般的なカソードおよび/または電解質および/またはアノード材料への移動が起こり、これは燃料電池の性能の低下をもたらすことが知られている。
【0025】
また、複合ジルコニア/セリア電解質構造の従来技術の実施形態(例えば国際公開公報第02/17420号のもの)は、セリアとアノードとの間に、すなわちアノードと接触してジルコニア層を置いていることが認識されるだろう。これは、ジルコニア層がガス不透過性であるならば、上記のCGO層の還元を回避し、よって混合伝導性の問題を完全に回避するという特定の理論的利点を有する。しかしながら、こうした従来技術の実施形態は、とりわけ以下のような重大な欠陥を有し、本発明はこれを克服しようとするものである。
・低SOFC作動温度(<600℃)では、電解質にドープセリアよりずっと低いイオン伝導性を有するジルコニアを用いることにより、アノード−電解質界面でアノードの触媒活性が低下する可能性が高い。
・こうした実施形態を、有害な材料の相互作用が起こる、金属支持型SOFCの最高処理温度より高い温度で、ジルコニアとCGOとを共焼結することなく製造することは困難である。
【0026】
よって、好適には、本発明の方法は、燃料電池または空気分離装置の電解質中間層を堆積させる方法であって、表面は電解質表面であり、その方法は少なくとも1層の追加層を少なくとも1層の金属酸化物の結晶性セラミックの層の上に堆積させるステップ、および電極層を少なくとも1層の追加層の上に堆積させ、少なくとも1層の金属酸化物の結晶性セラミックの層が電極層に接触しないようにするステップをさらに含む方法である。より好適には、電極層はカソード層である。
【0027】
従来技術とは対照的に、電極孔の透過性により、工程(i)の溶液(金属酸化物の結晶性セラミックの可溶性塩前駆体の溶液)がその表面上に不透過層となり得る連続層を形成せずに多孔質構造にしみ込んでしまうので、本発明の方法を用いて直接多孔質電極基板上に層を製造することはできないことをさらに記載する。
【0028】
このように、本発明は、金属酸化物の結晶性セラミック層を予備形成した不透過セラミック層の表面上および金属または鋼、例えばフェライトステンレス鋼箔基板のような不透過性の金属表面などの表面の上に堆積させるのにとくに適している。
【0029】
本発明は、とくには、英国特許第2368450号および同第2434691号に開示されるもののような金属支持型中温燃料電池の設計に適用可能である。
【0030】
とりわけ、本発明は、燃料電池電極を互いに電気絶縁して内部短絡を防止するため燃料電池のドープセリア主電解質中に堆積させる安定化ジルコニアの中間層の製造に有用である。
【0031】
好適には、少なくとも1層の金属酸化物の結晶性セラミックの層の堆積前の基板の表面は、通常、平面または連続して平滑である。好適には、基板の表面は、通常、不透過性、すなわち非多孔質で液体に対して不浸透性である。好適には、基板は急速な温度サイクルに耐えることができる。
【0032】
このように、本発明の方法は、とくに、SOFC、より好適には低温または中温SOFCの一部としての金属酸化物の結晶性セラミックの層の堆積によく適している。とくに、本発明の方法は、金属支持型SOFC、より好適には低温または中温金属支持型SOFCの一部としての金属酸化物の結晶性セラミックの層の堆積によく適しており、金属支持体(好適にはフェライトステンレス鋼のようなステンレス鋼から製造する箔、およびより好適には無孔領域に囲まれた有孔領域を有する箔)固有のロバスト性は、本発明のパラメータ内の最高処理温度に制限をかけながら、急速な温度サイクルを可能にする。
【0033】
よって、表面は、好適には電解質層であり、より好適には混合イオン電子伝導性電解質材料から製造する電解質層であり、より好適にはCGO電解質層である。上に堆積を行う他の好適なセラミック表面としては、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)およびスカンジアイットリア共安定化ジルコニア(ScYSZ)が挙げられる。
【0034】
好適には、金属酸化物の結晶性セラミックの層は、高密度の層である。好適には、金属酸化物の結晶性セラミックの層は、少なくとも90%の密度(すなわち、その理論的密度は少なくとも90%)である。より好適には、少なくとも91、92、または93%の密度である。より好適には少なくとも93%の密度である。金属酸化物の結晶性セラミック層は、好適にはガス不透過性である。これは、金属酸化物結晶性セラミックの堆積層がジルコニアを含むことができ、内部短絡を防止するため中間層がイオン透過性、電気絶縁性、およびガス不透過性であることが望ましい燃料電池電解質の製造に、本発明を用いる場合にとくに重要である。
【0035】
可溶性塩前駆体は、表面上に堆積させる場合、連続する均一な膜として広げて乾燥することが望ましい。好適には、金属酸化物結晶性セラミックの可溶性塩前駆体の溶液は、噴霧、浸漬、インクジェット印刷およびスピンコートからなる群から選択する方法により表面上に堆積させる。噴霧技術の例は、空気補助およびガス補助噴霧である。
【0036】
好適には、可溶性塩前駆体は、表面張力の低い溶剤中に溶解させる。好適な溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、メトキシプロパノール(別名1-メトキシ-2-プロパノール、PGME、1-メトキシプロパン-2-オール、プロピレングリコールメチルエタール)、アセトンおよびブチルカルビトールが挙げられる。可溶性塩前駆体の溶剤を選択するときに考慮する要素としては、溶剤における前駆体の可溶性、乾燥速度および表面張力効果によって表面上の可溶性塩前駆体層をならす容易さが挙げられる。適切な溶剤は当、業者には容易に明らかであろう。
【0037】
上記で詳述するように、可溶性塩前駆体は、加熱して金属酸化物膜を形成する場合、分解させる必要がある。適切な塩としては、硝酸塩および有機金属塩が挙げられるが、これらに限定されない。有機金属塩は、一般的に良好な膜を形成するので、とくに好ましい。好ましい塩は、アセチルアセトナートである。
【0038】
出願人は、可溶性塩前駆体中にポリエチレングリコール(PEG)のような高分子量の有機化合物を含むことにより、均一な膜を表面上に堆積させることができることを見出した。
【0039】
例えば、(i)スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)膜または(ii)スカンジアイットリア安定化ジルコニア(ScYSZ)膜の堆積に適した可溶性塩前駆体としては(それぞれ)(i)ジルコニウムアセチルアセトナートおよび硝酸スカンジウム、ならびに(ii)ジルコニウムアセチルアセトナート、硝酸スカンジウムおよび硝酸イットリウムが挙げられる。セリアガドリニア(CGO)膜の堆積に適した可溶性塩前駆体としては、セリウムアセチルアセトナートおよび硝酸ガドリニウムが挙げられる。こうした可溶性塩前駆体に適した溶剤は、エタノールおよびメチルプロパノールの混合物である。
【0040】
後述するように、金属酸化物膜および得られる金属酸化物の結晶性セラミックの層は、単一の金属酸化物から形成する必要はなく、従って可溶性塩前駆体は、複数種の金属の複数種の可溶性塩を含むことができる。
【0041】
好適には、用いる堆積技術は、噴霧であり、より好適には空気噴霧である。好適には、噴霧は、音波噴霧器または超音波噴霧器を用いて行う。好適には、堆積工程(i)は、単一噴霧パスで行う。好適には、堆積工程(i)は、10〜100℃の温度、より好適には15〜50℃、より好適には室温で行う。好適には、温度は、基板の表面温度であり、すなわち堆積工程(i)は、10〜100℃の温度、より好適には15〜50℃、より好適には室温の基板の表面(または必要応じて金属酸化物膜)を用いて行う。
【0042】
よって、可溶性塩前駆体の溶液を噴霧する場合、噴霧条件は、好適には表面(または金属酸化物膜)上に噴霧した溶液がたまって水滴となる傾向を最小化するように最適化する。これは、単一パスでの噴霧を用いて好適に堆積させ、均一でコヒーレントな膜を形成するのに十分な液体を確実に堆積させることにより行うことができる。空気噴霧を用いる場合、用いる空気を低減することは、堆積層の形成を補助する。音波噴霧器または超音波噴霧器を追加で用いることもまた、空気堆積処理を補助し、良好で均一かつコヒーレントな堆積膜をもたらす。基板を加熱することは通常必要ではなく、15〜50℃の基板温度がコヒーレントで均一な膜を得るには十分である。
【0043】
好適には、表面(または金属酸化物膜)上に堆積させた可溶性塩前駆体の層は、乾燥工程(ii)の前に均一な厚さにならすことができる。よって、本方法は、表面上に堆積させた溶液を少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55または60秒の間置いておく工程を、工程(ii)の前にさらに含むことができる。この堆積後のドウェル時間は、好適には、空気中で、標準雰囲気条件で、室温で、より好適には、15〜50℃の温度で行う。このドウェル時間中に、膜は通常乾燥し始める。
【0044】
不適当な乾燥または加熱条件は、可溶性塩前駆体の層の不均一な厚さ(乾燥工程後)および表面(または金属酸化物膜)上の金属酸化物膜の不均一な層をもたらし得るので、乾燥工程は重要である。乾燥後に可溶性塩前駆体の層が、または、加熱後に金属酸化膜が不均一になるほど、とくに最も厚い場所に亀裂が入る可能性がますます高くなる。
【0045】
本発明者らは、堆積工程、とくに堆積工程の反復中に温度を制御することが技術的にとくに重要であり、加熱工程(iii)の完了直後の100℃を超える基板/金属酸化物膜の表面温度での可溶性塩前駆体の溶液の層の堆積は、溶液の急速な乾燥および不均一な厚さを有する可溶性塩前駆体層の形成をもたらし、ひいては得られる金属酸化物の結晶性セラミックの層における亀裂および機械的欠陥の増加ならびに製品寿命の減少をもたらすことを見出した。
【0046】
好適には、可溶性塩前駆体の堆積溶液中の溶剤の少なくとも90%を乾燥工程(ii)終了までに除去する。
【0047】
乾燥工程(ii)の一般的な条件は、15〜50℃の温度、より一般的には室温である。
【0048】
特定の条件では(例えば、特定のタイプの溶剤を用いる場合、または特定の雰囲気条件では)、>90%の溶剤蒸発を達成するため、乾燥工程(ii)中に追加の加熱を要することがあり得る。例えば、乾燥工程中、可溶性塩前駆体の溶液は、>90%の溶剤蒸発を達成するのに十分な時間、約100℃まで加熱することができる。
【0049】
乾燥工程は、十分な溶剤(一般的に>90%)を除去し、さらなる処理のため安定した、コヒーレントで均一な膜を作製する。
【0050】
可溶性塩前駆体を表面上で加熱して分解し、金属酸化物膜を形成する工程は、好適には、可溶性塩前駆体を150〜600℃の温度まで、より好適には約550℃まで加熱するステップを含む。
【0051】
可溶性塩前駆体を表面上で150〜600℃まで加熱する工程は、結晶化を開始させることができる。そのため、金属酸化物膜は、半結晶性の金属酸化物膜とみなすことができる。しかしながら、結晶化は、加熱工程(iii)の終了時では不完全であり、焼成工程(v)をさらに要する。
【0052】
好適には、加熱は、赤外線熱源のような急速加熱熱源を用いて行う。これは加熱を5分未満、好適には4、3、2または1分未満で、均一かつ便利に行うことを可能にする。より好適には、加熱工程(iii)は、60秒未満で行う。この急速加熱は、製造処理中の電池の急速スループットを可能にする。
【0053】
堆積、乾燥および加熱のサイクルごとに得ることができる最大層厚は、乾燥または分解(加熱)中の亀裂の回避次第である。
【0054】
好適には、金属酸化物膜の各層は、10〜999nm、より好適には25〜250nm、より好適には50〜200nm、より好適には75〜150nm、より好適には100〜150nmの厚さを有する。
【0055】
工程(i)〜(iii)を繰り返し、複数の金属酸化物膜の層を表面上に画定する。好適には、加熱工程(iii)の後、堆積工程(i)の反復の前、基板および金属酸化物膜を加熱工程(iii)で用いた分解温度を下回る温度まで、より好適には<100℃まで、より好適には<50℃まで冷却する。大量生産工場では、急速冷却は、被膜基板(例えば金属箔)を水冷金属板のような冷表面上に置くことにより行うことができ、そこでは、比較的熱容量の低い基板から比較的熱容量が大きく、より冷たい金属冷却板への急速な熱移動を行うことができる。他の冷却機構は、当業者には明らかであろう。簡単な処理では、次の処理段階の前に電池を空気中で冷却することができる。
【0056】
各反復工程(iv)で異なる可溶性塩前駆体を用いることができ、よって、金属酸化物結晶性セラミック内で、層構造が生成する。このように、例えば、ジルコニウムアセチルアセトナート、硝酸スカンジウム、および硝酸イットリウムからなる群から選択する可溶性塩前駆体を工程(i)〜(iii)に用いることができ、工程(i)〜(iii)の反復では、可溶性塩前駆体は、セリウムアセチルアセトナートおよび硝酸ガドリニウムからなる群から選択することができる。こうして、工程(v)で生成する金属酸化物の結晶性セラミック層は、第1の結晶性セラミックScYSZ膜および第2の結晶性セラミックCGO膜からなる薄層状となる。
【0057】
乾燥および分解(加熱工程(iii))は、ともに可溶性塩前駆体層の大幅な収縮を引き起こす。層が十分に薄い場合、乾燥および/または分解の結果として蓄積する収縮応力は、亀裂または機械的欠陥を引き起こさず、高密度で欠陥のない金属酸化物膜が形成される。しかしながら、層が厚すぎる場合、収縮応力は、亀裂または層間剥離さえも、およびひいては得られる金属酸化物結晶性セラミック層の欠陥を引き起こし得る。
【0058】
結晶化の際にさらなる収縮が起こるので、結晶化前に堆積させ、分解することができる金属酸化物膜の最大厚さは、結晶化の際の亀裂の回避に要するものである。金属酸化物の膜厚は、結晶化前に行う連続堆積および分解数により決定し、これらの膜の各厚さは、上述のように制限される。
【0059】
結晶化前の実際の金属酸化物膜の許容可能な最大厚さは、堆積させる材料および結晶化の際のその収縮度合、分解処理から残される炭素のような残存材料の濃度、ならびに堆積層の均一性などの要素によって決まるだろう。
【0060】
好適には、工程(i)〜(iv)の完了後、金属酸化物膜は、100〜999nm、より好適には400〜600nmの範囲内の厚さを有する。
【0061】
好適には、金属酸化物の結晶性セラミック層は、100〜999nm、より好適には200〜800nm、より好適には250〜700nm、より好適には400〜600nmの厚さを有する。
【0062】
好適には、焼成工程(v)で金属酸化物膜は、ほぼ完全に結晶化し、より好適には完全に結晶化し、金属酸化物の結晶性セラミック層となる。
【0063】
好適には、金属酸化物の結晶性セラミック層は、不透過性である。好適には、金属酸化物の結晶性セラミック層は、連続する、すなわち亀裂の入っていない、多孔質、有孔性、透過性の層であり、そうでなければ機械的に損傷した層である。
【0064】
より厚い金属酸化物結晶性セラミック層を提供することを所望する場合、工程(i)〜(v)を繰り返すことができ、このとき表面は、前に生成した金属酸化物結晶性セラミック層である。しかしながら、基板から燃料電池電解質および/または電極への不要な金属イオン種の移動を回避し、また、基板上での不要な酸化物層成長を回避するため、追加の焼結工程は、回避することが一般的に望ましい。
【0065】
よって、本方法は
(vi)工程(i)〜(v)を少なくとも1回繰り返す工程であって、表面が工程(v)で前に生成させた金属酸化物結晶性セラミック層である工程
をさらに含むことができる。
【0066】
こうして中間結晶を有し、その後さらなる層を結晶化層の上に堆積させて、全層厚をさらに増加させることができる。
【0067】
工程(vi)を用いる場合、工程(i)〜(v)の各反復を前反復と同じ条件を用いて行う必要はない。よって、同じまたは異なる金属酸化物結晶性セラミックの可溶性塩前駆体の異なる溶液を用いることができる。工程(iv)は、反復工程(v)に組み込んでも組み込まなくてもよく、組み込む場合、工程(i)〜(iii)を異なる回数繰り返すことができる。
【0068】
こうして、同じ金属酸化物の結晶性セラミックの一連の層を生成させるのと同様に、工程(i)〜(v)を所望の回数繰り返すことにより(その製品は単一材料の層として扱うことができる)、複数の別々の金属酸化物の結晶性セラミックの層を、表面上に順に重ねて生成させることもでき、金属酸化物結晶性セラミックの各層は、前に生成した金属酸化物結晶性セラミック層とは異なる。
【0069】
これは、本発明の方法を電解質中間層の製造、さらに低温または中温金属支持型SOFCの製造に用いる場合、とくに有用となり得る。ひいては、例えば、本発明は、混合イオン電子伝導性電解質層の製造に用いることができる。
【0070】
このように、本発明の方法は好適には、燃料電池電解質の少なくとも1つの層を形成する方法である。より好適には、SOFC、IT‐SOFCおよび金属支持型IT‐SOFCからなる群から選択する燃料電池の電解質の少なくとも1つの層を形成する方法である。
【0071】
例えば(上で詳述するように)、SOFCのアノード−電解質−カソードの層構造内では、混合イオン電子伝導性電解質層中に電気絶縁性のイオン伝導層を備えることが大いに望ましくあり得る。よって、ガス不透過性、イオン透過性、電気絶縁性の金属酸化物結晶性セラミック層という形をとる中間層をCGO主層(金属酸化物結晶性セラミック層)の上に堆積させ、追加のCGO層を中間層の上に堆積させることができる。
【0072】
このように、本発明の方法は、上で詳述するように工程(vi)を含むことができ、
工程(i)〜(v)の第1セットでは、可溶性塩前駆体は、ジルコニウムアセチルアセトナート、硝酸スカンジウム、および硝酸イットリウムからなる群の少なくとも1種から選択し、
工程(i)〜(v)の第2セットでは、可溶性塩前駆体は、セリウムアセチルアセトナートおよび硝酸ガドリニウムからなる群の少なくとも1種から選択する。
【0073】
本発明の方法が一連の電解質ドーパント材料に同様に適応可能であり、よってScYSZのような特定の電解質材料への参照がScSZ、YSZ、ScCeSZ(スカンジアセリア共安定化ジルコニア)のような電解質材料群全体および当業界で知られるその他のドープ安定化ジルコニアに同様に当てはまることは、当業者には明らかであろう。同じく、CGO/GDC(セリアガドリニア酸化物/ガドリニアドープセリア;2つの語は置き換え可)についてのすべての記載は、SDC(サマリアドープセリア)、PDC(プラセオジムドープセリア)およびSGDC(サマリアカドリニアドープセリア)のような共ドープ系などのすべての希土類酸化物ドープセリア系に同様に当てはまる。また、本発明の方法は、CGO10、CGO20、8ScSZおよび10Sc1YSZのような当業界で知られるドーパント濃度に同様に適用可能である。
【0074】
よって、金属酸化物結晶性セラミックは、好適には、ドープ安定化ジルコニアまたは希土類酸化物ドープセリアである。好適には、金属酸化物結晶性セラミックは、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジアセリア共安定化ジルコニア(ScCeSZ)、スカンジアイットリア共安定化ジルコニア(ScYSZ)、サマリウムドープセリア(SDC)、ガドリニウムドープセリア(GDC)、プラセオジムドープセリア(PDC)、およびサマリアガドリニアドープセリア(SGDC)からなる群から選択する。
【0075】
例えば、本発明の方法を用いて、第1に、ScYSZまたはScSZの金属酸化物結晶性セラミック層をCGO電解質材料上に堆積させ、第2に、CGOの金属酸化物結晶性セラミック層を前に堆積させたScYSZまたはScSZ層の上に堆積させることができる。こうして、CGO−ScYSZ−CGOまたはCGO−ScSZ−CGO構造を有する電解質を形成することができる。
【0076】
このように、本発明の方法は、アノード−第1電解質層−堆積電解質中間層−第2堆積電解質層−カソード、例えば、アノード−CGO−ScYSZ−CGO−カソードまたはアノード−CGO−ScSZ−CGO−カソードの層構造を有する燃料電池の製造に用いることができる。
【0077】
上記で詳述するように、本発明は、(好適には薄い)ジルコニア層をドープセリアの基層(表面)上に堆積させるのにとくに有用であり、(好適には薄い)ドープセリアがジルコニア層上を被覆する。他の実施形態では、ドープセリア層(好適には薄いドープセリア層)をジルコニア基層(表面)上に堆積させることができる。こうした実施形態では、ドープセリア層の上に次に堆積させる(薄いジルコニア層のような)金属酸化物結晶性セラミック層について絶対的な要件はない。
【0078】
こうして、ScYSZ−CGO、ScSZ−CGO構造を有する電解質を形成することができる。よって、本発明の方法は、アノード−電解質−第1堆積電解質中間層−カソード、例えば、アノード−ScYSZ−CGO−カソードまたはアノード−ScSZ−CGO−カソードの層構造を有する燃料電池の製造に用いることができる。このタイプの構造は、隣接するドープセリア層およびジルコニア層の処理温度が1200℃以下、またはより好適には1100℃以下である場合に可能である。
【0079】
別の実施形態では、CGO−ScYSZまたはCGO−ScSZ構造を有する電解質を形成することができる。このように、本発明の方法は、アノード−電解質−第1堆積電解質中間層−カソード、例えば、アノード−CGO−ScYSZまたはアノード−CGO−ScSZの層構造を有する燃料電池の製造に用いることができる。一般的なカソードとしては、LSCF、LSCおよびLSMが挙げられる。このタイプの構造は、隣接するドープセリア層およびジルコニア層の処理温度が1200℃以下、または、より好適には1100℃以下であり、隣接するカソードおよびジルコニア層の処理温度が1100℃以下、または、より好適には1000℃以下である場合に可能である。
【0080】
他の実施形態では、金属酸化物結晶性セラミック層厚に表面にわたり勾配をつける。これは、金属酸化物結晶性セラミック層の配置を変えてさらに使用効率を向上することができ、具体的には、金属酸化物結晶性セラミック層の配置/厚さを変えることにより過度に電子を漏出させることなく、低温電池性能を向上させることができるので、本発明の方法を燃料電池の製造に用いる場合とくに有用である。これは、燃料電池の使用中のガス流路および温度プロファイルによって金属酸化物結晶性セラミック層厚/配置を変えることによって行う。
【0081】
より詳細には、作動燃料電池スタックは、一般的に50〜150℃の電池のガス流路に沿った温度差によって生じる電解質の作動温度勾配を有する。これは、燃料電池スタックの作動中に発生した熱を空気冷却および場合により供給する炭化水素燃料の一部の内部水蒸気改質の混合で消散させるため必要である。
【0082】
燃料電池から熱を取り除くため、スタックのカソード側に燃料電池反応用の酸素を供給するのに要する速度をほぼ上回る速度で空気を供給する。過剰空気を用いて熱を取り除く。しかしながら、スタックを冷却するためのかなりの量の空気の供給には、スタックの電気出力の潜在的に大きな割合をシステムに空気を供給するのに要する送風機の駆動に消費し得るため、システム効率という点で大きな不利益がある。従って、要する空気量を最小化することが望ましい。
【0083】
しかしながら、消散させる熱を固定すると仮定すると、供給する冷却空気の質量流を低下させるほど、要する空気の温度上昇は大きくなる。燃料電池スタックの最高作動温度は、通常、温度上昇により悪化する傾向がある潜在的な劣化問題を最小化する必要性により制約される。許容可能な絶対最高作動温度が約650℃である燃料電池スタックでは、これは、従って電池作動温度の特定の範囲を示唆し、温度は、冷却空気の流路に沿って上昇する。
【0084】
SOFCの内部抵抗が温度の低下により急激に増加することは周知である。これは、主に電解質のイオン伝導性が温度低下により急激に低下し、電極、とくにカソードの過電圧が急激に増加するためである。さらに、ジルコニアのイオン伝導性は、600℃と500℃との間では、大幅に低下する。よって、600℃では、ScYSZまたはScSZバリア層(金属酸化物結晶性セラミック層)からの追加の電解質抵抗は、ごくわずかだが、500℃では、全電池抵抗のかなりの割合である。このように、低い作動温度では、燃料電池抵抗を最小化することが大いに望ましい。
【0085】
燃料電池条件下でのドープセリアの電子伝導性が温度上昇により急激に増加し、よって内部短絡の問題が500℃よりも600℃ではずっと悪化することも周知である。従って、高温では、電解質における電子漏出を減少させることが望ましい。
【0086】
ジルコニア層、スカンジアイットリア共安定化ジルコニア層などの金属酸化物結晶性セラミック層のような電気絶縁層は、従って、使用時の作動温度が例えば約500℃と低い可能性が高い電池の端部で薄くして使用時の追加の電池抵抗を最小化し、使用時の電力密度を向上させることができる(特定の実施形態では、使用時の作動温度が低いであろう電池の端部には、電気絶縁層がなくてもよい)。金属酸化物結晶性セラミック層は、その後表面にわたり使用時の作動温度が例えば600℃と高いであろう電池の端部に向かって段階的に厚くする。例えば、金属支持型IT SOFC用にスカンジアイットリア共安定化ジルコニアの金属酸化物結晶性セラミック層をCGOの表面に堆積させる実施形態では、その厚さに、使用時冷たい端部で0nmから使用時熱い端部で1000nm未満まで、またはより好適には最大800nmまで勾配をつけることができる。
【0087】
この金属酸化物の結晶性セラミック層厚の勾配は、例えば、堆積層の数が電池の異なる領域で異なるように、連続堆積工程(工程(i)〜(iii)の反復)で異なる大きさの噴霧マスクを用いてつけることができる。もう1つの方法として、基板を噴霧方向に対して傾けることにより、または噴霧パターンの微調整により勾配をつけることができる。微調整は、インクジェット印刷技術または多重噴霧ヘッドを用いることにより容易に行うことができる。
【0088】
このように、本発明により、少なくとも1層の金属酸化物結晶性セラミック層を基板の表面上に堆積させる方法であって、該少なくとも1層の金属酸化物結晶性セラミック層の厚さは該基板の該表面にわたり変化し、該方法は、
(i)金属酸化物結晶性セラミックの可溶性塩前駆体の溶液を該基板の該表面上に堆積させ、該可溶性塩前駆体の該溶液の層を該表面上に画定する工程であって、該表面が金属表面およびセラミック表面からなる群から選択される工程と、
(ii)該可溶性塩前駆体の該溶液を乾燥させ、該可溶性塩前駆体の層を該表面上に画定する工程と、
(iii)該可溶性塩前駆体を該表面上で150〜600℃の温度まで加熱し、分解して金属酸化物膜の層を該表面上で形成する工程と、
(iv)工程(i)〜(iii)を少なくとももう1回繰り返す工程であって、該表面上の該金属酸化物膜が複数の金属酸化物の層を含むように、該可溶性塩前駆体の該溶液を該金属酸化物膜上に堆積させる工程と、
(v)該表面上に該金属酸化物膜を有する該基板を500〜1100℃の温度で焼成して該金属酸化物膜を結晶化し、該基板の該表面に結合した金属酸化物結晶性セラミック層を生成させる工程と
を含み、
各工程(i)、(iii)および(v)を空気雰囲気中で行う方法も提供する。
【0089】
上述のように、少なくとも1つの金属酸化物結晶性セラミック層の厚さは、とくに工程(i)〜(iii)を繰り返し、金属酸化物膜の異なる厚さの領域を画定することにより、可溶性塩前駆体の溶液を堆積させる際にマスクを用いることにより、インクジェット印刷を用いることにより、および他の勾配技術を用いることにより、基板の表面にわたり変化させることができる。
【0090】
少なくとも1つの燃料電池を含む燃料電池スタックの特定の実施形態では、いくつかのスタックの空気冷却に加えて、燃料電池へ供給する炭化水素燃料の一画分の内部改質による冷却も供給する。こうした場合では、少なくとも1つの燃料電池の温度プロファイルが異なり、少なくとも1つの燃料電池の最も熱い領域は、通常、燃料電池の排気装置に最も近い端部ではなく、燃料電池の中心に位置するだろう。よって、金属酸化物結晶性セラミック層の厚さは、使用時の局所的な作動温度により、この場合もやはり変化する。しかしながら、これは、最も薄い燃料電池の燃料入口端部から始まる最も厚い燃料排出端部までの配置ではなく、燃料電池の作動温度に関連して配置された厚さの勾配をもたらすだろう。この方法では、厚さに燃料電池の幅にわたり勾配をつけるように配置することもできる。このように、燃料電池の電子機械的活性領域全体にわたる作動温度のいかなる水平分散にも対応するように、中間層厚にすべての方向で勾配をつけることができる。
【0091】
金属酸化物結晶性セラミック層の平面燃料電池の表面のような平面上への堆積に関するのと同様に、本発明は、非平面上への堆積にも適用可能である。例えば、本発明の方法は、可溶性塩前駆体溶液を、例えば、回転チューブ上に噴霧することにより堆積させる、ロールまたはチューブ形状のSOFC用の金属酸化物結晶性セラミック層の堆積に用いることができる。他の実施形態では、チューブを可溶性塩前駆体中に浸漬し、チューブの片面またはチューブの両面を被覆することができる。厚さの制御は、溶液の粘度特性の制御によってのみならず、浸漬中およびその後のチューブの回転により行うことができる。チューブ状燃料電池の勾配制御は、前の層をチューブ上で乾燥させた後の次の浸漬の浸漬深さを変えることにより行うことができる。浸漬は、被覆は要さないか望ましくない燃料の領域を保護するためにマスクを用いる平面燃料電池に用いることもできる。
【0092】
円形燃料電池の表面のような円形表面には、円板を被覆するのに適した噴霧パターンを用いることができる。適当な金属酸化物結晶性セラミック層厚を得るためには、上記堆積、分解および結晶化方法を用いることができる。実際に、平面と同様にチューブ状、円筒状または円形表面のような表面にわたり勾配をつけることができる。
【0093】
このように、本発明の方法は、高処理温度、従来の焼結工程またはPVD(物理蒸着法)のような費用のかかる高真空技術の要件なしに、金属酸化物の結晶性セラミックの層、とくには、サブミクロンの層の簡単で便利な堆積を提供する。
【0094】
よって、これは、とくには、基板により制約される空気中または空気含有環境での焼結温度により従来焼結がさらに困難となり、処理温度が1100℃を超えることができない、低温または中温金属支持型SOFC上への電解質中間層の堆積によく適している。
【0095】
実験は、前駆体液が表面の地表形状にぴったり付くので、本発明の方法が金属酸化物膜/金属酸化物結晶性セラミック層と下の表面(または必要に応じて金属酸化物結晶性セラミック層)との間の優れた界面の形成に有利であることを示した。これは、とくに基板を上の層を堆積させる前にすでに焼結し、よって上層の焼結が制約される場合、異なる材料の従来焼結により行うことは困難である。とくに、問題の界面がSOFC電解質中にある場合、質の低い界面は高イオン抵抗をもたらし、機械的欠点となり、ひいては製品欠陥の増加および平均耐用年数の減少をもたらすだろう。
【0096】
また、本発明により、本発明の方法による少なくとも1つの金属酸化物結晶性セラミック層をその上に堆積させた基板の表面を提供する。
【0097】
本発明は、少なくとも1つの金属酸化物結晶性セラミック層を基板の表面上に堆積させる方法を例としてのみ示す添付の図面を参照して行う以下の説明からさらに明らかとなるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の方法により製造したSOFC電解質の一部の走査型電子化学顕微鏡(SEM)による25000倍拡大断面図である。
【図2】本発明の方法により製造したSOFC電解質のアノードの縁部近くの鋼基板上への重なりを示す一部のSEMによる850倍拡大断面図である。
【図3】高い燃料利用率をもって570℃で作動するScSZバリア層を持つ金属支持型SOFC電池と持たない電池との性能比較を示す図である。X軸は電流密度/mA/cmを示し、左のY軸は電池電圧/Vを示し、右のY軸は電力密度/mW/cmを示す。引用符号:100−バリア有の電力密度、110−バリア無の電力密度、120−バリア有の電池電圧、130‐バリア無の電池電圧。
【図4】本発明の方法によって得ることができる様々な燃料電池層構造を示す図である。
【図5】本発明の方法によって得ることができる様々な燃料電池層構造を示す図である。
【図6】本発明の方法によって得ることができる様々な燃料電池層構造を示す図である。
【図7】本発明の方法によって得ることができる様々な燃料電池層構造を示す図である。
【図8】勾配厚ScYSZ層の上面図である。
【図9】図8のI−I断面図である。
【図10】勾配厚ScYSZ層を有する燃料電池層構造を示す図である。
【図11】図10の燃料電池層構造のA点およびB点間の使用時の電解質温度のプロット図である。X軸は温度を示し、左側はA点に対応し、右側はB点に対応し、Y軸は電解質温度を示す。
【図12】勾配厚ScYSZ層の上面図である。
【図13】図12のII−II断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0099】
第1実施形態では、英国特許第2434691号(箔基板4、アノード層1および電解質層1e)および国際公開公報第02/35628号で教示されるように、無孔領域に囲まれた有孔領域を画定するフェライトステンレス鋼箔基板(例えば、図4〜7に示す)を備え、その上にアノード層およびアノード層の上に10〜15ミクロン厚のガス不透過性で高密度のCGO電解質層10を堆積させた。他の実施形態(図示せず)では、その上にアノード層およびガス不透過性で高密度の電解質層を堆積させた有孔箔基板を用いる(英国特許第2440038号、同第2386126号、同第2368450号、米国特許第7261969号、欧州特許第1353394号、および米国特許第7045243号)。さらなる実施形態(図示せず)では、米国特許公報第20070269701号の勾配金属基板を用いる。
【0100】
次に、後述する工程(a)〜(f)を行うことにより、スカンジアイットリア共安定化ジルコニア(10Sc1YSZ;(Sc)0.1(Y)0.01(ZrO)0.89)の結晶性セラミック中間層20をCGO層の上に形成する。これは、ジルコニウム塩は可溶性が高くなく沈殿する傾向があるので、とくに有用な中間層材料である。こうして、可溶性塩前駆体の堆積層中のドーパント濃度の分散をわずかなものとすることができ、1%のイットリアの添加は>9%のScSZに起こり得る相の不安定さを回避するのを助ける。
【0101】
本工程は以下のとおりである。
(a)RTPで容積90%のエタノールおよび容積10%のメトキシプロパノール中のSc(NO)、Y(NO)およびZr(C)の0.1Mのカチオン濃度の溶液(スカンジアイットリア共安定化ジルコニアを形成する可溶性塩前駆体)の層をCGO層上に空気噴霧する工程。
(b)RTPで可溶性塩前駆体層を空気中で60秒間乾燥させ、この間に可溶性塩前駆体を表面にわたってならし、その後100℃で30秒間さらに乾燥させる工程。
(c)赤外線(IR)加熱ランプを用いて可溶性塩前駆体を550℃まで合計60秒にわたり加熱し、分解および半結晶化して約125nmの厚さの半結晶スカンジアイットリア共安定化ジルコニア膜層を形成する工程。
(d)工程(a)〜(c)を4回繰り返す工程であって、基板および金属酸化物膜を工程(a)の各反復の前に35〜80℃の温度まで冷却し、約500nmの全厚を有する金属酸化物および半結晶の膜をもたらす工程。この膜には亀裂が全くなく、さらなる処理に適している。
(e)800℃で60分間、空気中で焼成する工程であって、スカンジアイットリア共安定化ジルコニアの金属酸化物膜が、約400nmの厚さを有するスカンジアイットリア共安定化ジルコニアの完全に結晶性のセラミック層20を生成する工程。
(f)工程(a)〜(e)をもう1回繰り返し、約800nmの厚さを有する最終層20を得る工程。
【0102】
次の工程は以下のとおりである。
(g)工程(a)〜(e)をもう1回繰り返す工程であるが、今回は、CGOの層30を前に堆積させたスカンジアイットリア共安定化ジルコニアの結晶性セラミック層の上に堆積させる工程。具体的な条件は:容積70%のエタノールおよび容積30%のメトキシプロパノール中の0.1Mのカチオン濃度のCe(C)および硝酸ガドリニウムならびに前と同様の噴霧、堆積および処理であるが、980℃の最終結晶化焼成温度を用いて250nmの最終厚さを有するCGO層を得る。この層は、スカンジアイットリア共安定化ジルコニア層とその次に堆積させるカソード層との間のバリア層の機能を果たす。
(h)最後に、カソード層40を前に堆積させたCGO層の上に堆積させる工程。これは、LSCFカソードをスクリーン印刷し、国際公開公報第2006/079800号に従って処理することにより行う。この層は、約50μmの厚さを有する。
【0103】
このように、フェライトステンレス鋼支持体の上に堆積させた以下の層を含む全体構造を構築する。
(A)NiO−CGOアノード
(B)CGO(10)
(C)スカンジアイットリア共安定化ジルコニア(20)
(D)CGO(30)
(E)カソード(40)
【0104】
上で詳述した方法の結果を図1に示す。主CGO層10はアノード層(図1に示さず)の上に堆積させた。
【0105】
なお、ジルコニア層およびCGO層の製造に用いた最高処理温度は980℃であり、これは1200℃であるジルコニアとCGOが反応を開始する温度をかなり下回る。
【0106】
上記方法の結果を図面に示す。主CGO層10の上に800nmの厚さを有するScYSZ中間層20がある。試験により、それは高イオン伝導性および良好な相安定性を有することを示す。ScYSZ中間層20は、主CGO層10と同程度の密度および主CGO層10との非常に良好な界面を有する。この層は、イオン電流の通過を可能にしながらカソード40を主電解質層10から電気絶縁するために存在し、よって、CGOまたは他のドープセリア電解質を単独で作動する際に固有の内部短絡を削減する。
【0107】
中間層20の上に約0.25μmの厚さを有するCGO中間層30がある。この層は、カソード材料を中間層20のジルコニアから分離するために存在し、効果的な高イオン伝導性の電解質−カソード界面により、カソード40の触媒活性を向上させる。これは、また、製造中または場合により作動中のカソード40と中間層20のジルコニアとの間の潜在的に有害な化学的相互作用を回避する。
【0108】
この実施形態の重要な態様は、中間層20の高密度である。CGOは、とくにその還元状態で酸素の還元へのかなりの触媒活性を有することがわかったので、この高密度は、内部短絡を効果的に遮断するために必要である。よって、中間層20がガス不透過性でない(例えば、≦93%の密度である)場合、酸素は、中間層20を通って拡散し、主CGO層10の上で還元し、内部短絡経路を与え、カソード40を完全に迂回する。
【0109】
図2には、燃料電池のアノードの縁部(60)の断面を示す。図の右側にはフェライトステンレス鋼基板50上に堆積させた透明なアノード層があるが、図の左側では主CGO層10を直接フェライトステンレス鋼基板50上に堆積させる。
【0110】
図2は、主CGO層のScYSZ中間層20およびCGO中間層30と比べた相対的な大きさも示す。カソード40がカソード活性層70およびカソード電流コレクタ80を含むことも明らかである。
【0111】
図3は、CGO主電解質を有する第1および第2金属支持型SOFCのVIの比較および電力曲線を示し、本発明の方法を用いて堆積させた薄いScYSZバリア層の利点を示す。
【0112】
第1SOFCは第1実施形態(上述)に従って構成する。第2SOFCは、スカンジアイットリア共安定化ジルコニア層20および追加のCGO層30をその上に含まないこと以外は第1SOFCと同一に構成する。
【0113】
図3に示すように、電池電圧および電力密度が大幅に増加する。とくに、CGO電解質を通る電子漏出の閉塞の結果として開路電圧が非常に高い。
【0114】
第2実施形態(図示せず)では、第1CGO層は2%のCoドープCGO層である。ドープは、非ドープCGO電解質と比べて低い焼結温度でのCGO電解質の高密度化を補助する焼結補助として用いる。ScYSZ中間層20および追加のCGO層30は、第1実施形態と同じ方法で生成、堆積、および処理する。
【0115】
第3実施形態では、CGO層の前に堆積させたスカンジアイットリア共安定化ジルコニア層の上への堆積より、追加のスカンジアイットリア共安定化ジルコニア層を(すなわち前に堆積させたスカンジアイットリア共安定化ジルコニア層の上に)堆積させる工程(a)〜(e)の反復を先に行う。
【0116】
第4実施形態では、IT−SOFC製造のその後の工程で用いるため、金属酸化物結晶性セラミックの勾配厚層をCGO表面上に備える。使用中、金属酸化物の結晶性セラミックの層は、電解質中間層であり、過度に電子を漏出することなく、低温電池性能を向上するため、中間層厚に燃料電池の使用中のガス流路にわたり勾配をつける。
【0117】
図4〜7は、本発明の方法によって得ることができる様々な燃料電池層構造を示す。
【0118】
図4に示すように、第4実施形態では燃料電池が構成され、その上にアノード層210を有するフェライトステンレス鋼金属基板200および電解質層220を備える。電解質層220は、ガスが燃料側230と酸化剤側240との間のアノード201を通過するのを防止するため、アノード層201を囲む。次に、スカンジアイットリア共安定化ジルコニア結晶性セラミック層250をセラミックCGO層220の上に堆積させ、次にCGO結晶性セラミック層260を層250の上に堆積させる。層250および260の堆積に用いる噴霧工程は、「レイヤーケーキ」型構造をもたらす。
【0119】
層250および260の堆積の後、カソードアセンブリ270の追加によって、燃料電池を完成させる。
【0120】
図5は第5実施形態を示し、そこではCGO層260が他の層220、250に重なり、それらを含有する。とくに、この実施形態では、金属酸化物の結晶性セラミックの層(CGO層260)を下のセラミック層(スカンジアイットリア共安定化ジルコニア層250)およびまたフェライトステンレス鋼基板200の両方の上に堆積させる。この実施形態で用いる噴霧工程は、「含有層」型構造をもたらす。
【0121】
図6は、第6実施形態を示し、そこでは、スカンジアイットリア共安定化ジルコニア層250がCGO層220に重なる。この場合もやはり、この実施形態では、金属酸化物の結晶性セラミックの層(この場合ではスカンジアイットリア共安定化ジルコニア層250)を下のセラミック層(CGO層220)およびまたフェライトステンレス鋼基板200の両方の上に堆積させる。この実施形態で用いる噴霧工程は、「重複」型構造をもたらす。
【0122】
図7は第7実施形態を示し、そこでは、スカンジアイットリア共安定化ジルコニア層250はCGO層220に重なり、次にその上にCGO層260が重なる。この実施形態では、金属酸化物結晶性セラミック層(CGO層260およびスカンジアイットリア共安定化ジルコニア層250)の両方を下のセラミック層(ならびにそれぞれスカンジアイットリア共安定化ジルコニア層250およびCGO層220)およびまたフェライトステンレス鋼基板200の両方の上に堆積させる。この実施形態で用いる噴霧工程は、「含有重複」型構造をもたらす。
【0123】
図8および9は第8実施形態を示し、そこでは、スカンジアイットリア共安定化ジルコニア(ScYSZ)層300は、CGO層220の表面にわたり勾配厚を有する。第1実施形態について上で詳述するように、無孔領域202によって囲まれた有孔領域201を画定するフェライトステンレス鋼箔基板200を備え、その上にはアノード層210およびアノード層210の上に10〜15ミクロン厚を有するガス不透過性で高密度のCGO電解質層220を堆積させた。
【0124】
次に、第1実施形態について上述した基本的方法を用いる二段階噴霧工程である第1工程によりScYSZ層300を上に堆積させる。層300は、スカンジアイットリア共安定化ジルコニア(10Sc1YSZ;(Sc)0.1(Y)0.01(ZrO)0.89)の結晶性セラミックであり、以下のように形成する。まず、工程(a)〜(d)(上述)を行い、金属酸化物膜の第1領域320をもたらす。次に、金属酸化物膜の上にマスクを置いて一部のみを露出させ、その後工程(a)〜(d)を繰り返して第2領域330を画定するが、そこでは金属酸化物膜の層は金属酸化物の2つの膜からなる。
【0125】
その後工程(e)を行い、結晶性セラミックScYSZ層300を形成する。領域320は約400nmの厚さを有し、領域330は約800nmの厚さを有する。
【0126】
なお、CGO電解質層220はアノード層210に重なるが結晶性セラミックScYSZ層300はその上に重ならない領域310が示すように、結晶性セラミックScYSZ層300はCGO電解質層220に完全には重ならない。
【0127】
図10は燃料電池の電解質構造340を示す。第1実施形態について上で詳述するように、無孔領域202によって囲まれた有孔領域201を画定するフェライトステンレス鋼箔基板200を備え、その上にアノード層210およびアノード層210の上に10〜15ミクロン厚を有するガス不透過性で高密度のCGO電解質層220を堆積させた。
【0128】
次に、第1実施形態について上述した基本的方法を用いる多段式噴霧工程で、ScYSZ層350を上に堆積させる。層350は、スカンジアイットリア共安定化ジルコニア(10Sc1YSZ;(Sc)0.1(Y)0.01(ZrO)0.89)の結晶性セラミックであり、上記工程(a)〜(d)行うことにより形成するが、工程(a)は、インクジェット印刷を用いて行う。これは、加熱して金属酸化物膜とする可溶性塩前駆体の第1領域360をもたらす。
【0129】
次に、一連の工程(a)〜(d)の反復を行うが、各反復工程は、前のインクジェット印刷工程からの領域の一部のみについて行い、こうして、第2、第3、第4および第5領域370、380、390および400を画定する。
【0130】
次に、工程(e)を行い、それぞれ約150、300、450、600および750nmの厚さを有する金属酸化物結晶性セラミック層、領域360、370、380、390および400を画定する。
【0131】
次に、工程(g)を行い、CGO中間層410を約0.25μmの厚さを有するScYSZ層350の上に堆積させる。
【0132】
次に、工程(h)を行い、カソード層420を堆積させる。
【0133】
CGO層(電解質)220の使用時の作動温度を図11に示す。図に示すように、作動温度の勾配はScYSZ層350の厚さの勾配と一致する。
【0134】
図12および13は、図8および9と類似の実施形態を示すが、そこでは、結晶性スカンジアイットリア共安定化ジルコニア(ScYSZ)層500は、CGO層220の表面にわたり勾配厚を有し、CGO電解質層220はアノード層210に重なるが結晶性セラミックScYSZ層500はその上に重ならない領域510、およびCGO電解質層220はアノード層210に重なるが結晶性セラミックScYSZ層500はCGO電解質層220にもアノード層201にも重ならない領域540が示すように、結晶性セラミックScYSZ層500は、CGO電解質層220またはアノード層210に完全には重ならない。
【0135】
第1実施形態について上で詳述するように、無孔領域202によって囲まれた有孔領域201を画定するフェライトステンレス鋼箔基板200を備え、その上にアノード層210およびアノード層210の上に10〜15ミクロン厚を有するガス不透過性で高密度のCGO電解質層220を堆積させた。
【0136】
次に、第1実施形態について上述した基本的方法を用いる二段階噴霧工程である第1工程によりScYSZ層500を上に堆積させる。層500は、スカンジアイットリア共安定化ジルコニア(10Sc1YSZ;(Sc)0.1(Y)0.01(ZrO)0.89)の結晶性セラミックであり、以下のように形成する。まず、工程(a)〜(d)(上述)を行い、金属酸化物膜の第1領域520をもたらす。次に、金属酸化物膜の上にマスクを置いて一部のみを露出させ、その後工程(a)〜(d)を反復して第2領域530を画定するが、そこでは、金属酸化物膜の層は金属酸化物の2つの膜からなる。
【0137】
その後、工程(e)を行い、結晶性セラミックScYSZ層500を形成する。領域520は約400nmの厚さを有し、領域530は約800nmの厚さを有する。
【0138】
なお、CGO電解質層220はアノード層210に重なるが結晶性セラミックScYSZ層500はCGO電解質層220にもアノード層210にも重ならない領域540が示すように、結晶性セラミックScYSZ層500は、CGO電解質層220またはアノード層210と完全には重ならない。
【0139】
本発明は、上記実施例にのみ限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲に含まれる他の実施形態は当業者に容易に明らかとなることが理解されるだろう。
【符号の説明】
【0140】
10 主CGO層
20 ScSZ中間層
30 CGO中間層
40 カソード
50 フェライトステンレス鋼基板
60 アノード縁部
70 カソード活性層
80 カソード電流コレクタ
100 バリア有の出力密度
110 バリア無の出力密度
120 バリア有のセル電圧
130 バリア無のセル電圧
200 フェライトステンレス鋼基板
201 有孔領域
202 無孔領域
210 アノード層
220 CGO層
230 燃料側
240 酸化剤側
250 スカンジアイットリア共安定化ジルコニア層
260 CGO層
270 カソードアセンブリ
300 スカンジアイットリア共安定化ジルコニア(ScYSZ)層
310 ScYSZ層300が重ならないCGO電解質層220の領域
320 スカンジアイットリア共安定化ジルコニア(ScYSZ)層300の第1領域
330 スカンジアイットリア共安定化ジルコニア(ScYSZ)層300の第2領域
340 燃料電池の電解質構造
350 ScYSZ層
360 第1領域
370 第2領域
380 第3領域
390 第4領域
400 第5領域
410 CGO中間層
420 カソード層
500 結晶性スカンジアイットリア共安定化ジルコニア(ScYSZ)層
510 ScYSZ層500が重ならないCGO電解質層220の領域
520 スカンジアイットリア共安定化ジルコニア(ScYSZ)層500の第1領域
530 スカンジアイットリア共安定化ジルコニア(ScYSZ)層500の第2領域
540 ScYSZ層500が重ならないアノード層210およびCGO電解質層220の領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層の金属酸化物結晶性セラミック層を基板の表面上に堆積させる方法であって、該方法が、
(i)金属酸化物結晶性セラミックの可溶性塩前駆体の溶液を該基板の該表面上に堆積させ、該可溶性塩前駆体の該溶液の層を該表面上に画定する工程であって、該表面が金属表面およびセラミック表面からなる群から選択される工程と、
(ii)該可溶性塩前駆体の該溶液を乾燥させ、該可溶性塩前駆体の層を該表面上に画定する工程と、
(iii)該可溶性塩前駆体を該表面上で150〜600℃の温度まで加熱し、分解して金属酸化物膜の層を該表面上に形成する工程と、
(iv)工程(i)〜(iii)を少なくとももう1回繰り返す工程であって、該表面上の該金属酸化物膜が複数の金属酸化物の層を含むように、該可溶性塩前駆体の該溶液を該金属酸化物膜上に堆積させる工程と、
(v)該表面上に該金属酸化物膜を有する該基板を500〜1100℃の温度で焼成して該金属酸化物膜を結晶化し、該基板の該表面に結合した金属酸化物結晶性セラミック層を生成させる工程と
を含み、
各工程(ii)、(iii)および(v)を空気雰囲気中で行う、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、各堆積工程(i)を温度が10〜100℃の基板または金属酸化物膜の表面を用いて行う、方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、前記基板の前記表面が一般的に前記可溶性塩前駆体に対して不透過性である、方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の方法において、前記基板の前記表面が一般的に不透過性である、方法。
【請求項5】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、前記表面が電解質層である、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、前記表面が混合イオン電子伝導性電解質材料である、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、前記表面がCGO電解質層である、方法。
【請求項8】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、前記金属酸化物結晶性セラミックがドープ安定化ジルコニアおよび希土類酸化物ドープセリアからなる群から選択される、方法。
【請求項9】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、前記金属酸化物結晶性セラミックが、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジアセリア共安定化ジルコニア(ScCeSZ)、スカンジアイットリア共安定化ジルコニア(ScYSZ)、サマリウムドープセリア(SDC)、ガドリニウムドープセリア(GDC)、プラセオジムドープセリア(PDC)、およびサマリアガドリニアドープセリア(SGDC)からなる群から選択される、方法。
【請求項10】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、前記可溶性塩前駆体が、ジルコニウムアセチルアセトナート、硝酸スカンジウム、硝酸イットリウム、セリウムアセチルアセトナートおよび硝酸ガドリニウムからなる群の少なくとも1種から選択される、方法。
【請求項11】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、前記可溶性塩前駆体用の溶剤が、メタノール、エタノール、プロパノール、メトキシプロパノール、アセトンおよびブチルカルビトールからなる群の少なくとも1種から選択される、方法。
【請求項12】
前記請求項のいずれかに記載の方法であって、工程(ii)の前に、前記表面上に堆積させた前記溶液を少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55または60秒間置いておく工程をさらに含む、方法。
【請求項13】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、前記表面上の前記可溶性塩前駆体の層が、10〜999nm、100〜200nm、および約150nmからなる群から選択される厚さを有する、方法。
【請求項14】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、工程(i)〜(iv)完了後、前記表面上に画定した前記金属酸化物膜が、100nm未満、400nm未満、800nm未満、および1ミクロン未満からなる群から選択される厚さを有する、方法。
【請求項15】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、前記金属酸化物結晶性セラミック堆積層が、100〜999nm、200〜800nm、250〜700nm、および400〜600nmからなる群から選択される厚さを有する、方法。
【請求項16】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、前記金属酸化物結晶性セラミック層が、少なくとも90%の密度である、方法。
【請求項17】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、前記金属酸化物結晶性セラミック層が、イオン不透過性、電気絶縁性およびガス不透過性である、方法。
【請求項18】
前記請求項のいずれかに記載の方法であって、
(vi)工程(i)〜(v)を少なくとも1回繰り返す工程であって、表面が工程(v)で前に生成させた金属酸化物結晶性セラミック層である工程をさらに含む、方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、
工程(i)〜(v)の第1セットでは、前記可溶性塩前駆体を、ジルコニウムアセチルトセトナート、硝酸スカンジウム、および硝酸イットリウムからなる群の少なくとも1種から選択し、
工程(i)〜(v)の第2セットでは、前記可溶性塩前駆体を、セリウムアセチルアセトナートおよび硝酸ガドリニウムからなる群の少なくとも1種から選択する、
方法。
【請求項20】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、前記可溶性塩前駆体の前記堆積溶液中の溶剤の少なくとも90%を、乾燥工程(ii)の終了までに除去する、方法。
【請求項21】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、前記金属酸化物結晶性セラミックの可溶性塩前駆体の溶液を、噴霧、浸漬、インクジェット印刷およびスピンコートからなる群から選択する方法により前記表面上に堆積させる、方法。
【請求項22】
燃料電池の電解質の少なくとも1層を形成する方法である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
SOFC、IT‐SOFCおよび金属支持型IT‐SOFCからなる群から選択される燃料電池の電解質の少なくとも1層を形成する方法である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
空気分離装置の電解質の少なくとも1層を形成する方法である、請求項1〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
請求項1〜21のいずれかに記載の金属酸化物結晶性セラミックの少なくとも1層を堆積させた基板の表面。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8−9】
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【図10】
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【図11】
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【図12−13】
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【公表番号】特表2011−524844(P2011−524844A)
【公表日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−513041(P2011−513041)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際出願番号】PCT/GB2009/001103
【国際公開番号】WO2009/090419
【国際公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(510328674)セレス インテレクチュアル プロパティー カンパニー リミテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】CERES INTELLECTUAL PROPERTY COMPANY LIMITED
【Fターム(参考)】