説明

セラミック薄膜の製造方法

【課題】耐蝕性部材等に応用可能であり、表面にクラックやピンホール等がほとんどない緻密なセラミック薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】金属塩とクエン酸水溶液とを混合し、無水クエン酸錯体ゲルを作製するゲル作製工程(ステップS1)と、作製された無水クエン酸錯体ゲルとアルコール溶媒とを混合することで、無水クエン酸錯体ゲルをエステル化し、無水クエン酸錯体溶液を作製する溶液作製工程と(ステップS2)を行うことで、無水クエン酸錯体溶液を得る。そして、被膜対象となる基材の表面に、作製された無水クエン酸錯体溶液を用いて成膜処理する成膜工程(ステップS3〜S6)を行う。これにより、金属イオンの分散性を高め、クラックやピンホールのない緻密なセラミック薄膜を作製することができ、たとえば加工性や費用の面で優れ、かつ耐蝕性の高い部材を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緻密なセラミック薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐蝕性などの機能性を有するセラミック薄膜や、電磁気的性質、光学的性質などを与えるセラミック薄膜が開発されている。たとえば、有機錯体反応によりクエン酸錯体を作製し、共沈法、水熱法、燃焼法などによって得られたナノパーティクルを仮焼し、複合酸化物仮焼粉を得て、これを分散させたゾルを用い基材上に成膜する方法が知られている。そして、仮焼や粉末のゾル化を行うことなく、クエン酸錯体水溶液を用いて成膜する方法も知られている。また、このような方法以外にも重合体先駆物質や高分子の前駆体を用いて成膜する方法が知られている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
たとえば、特許文献1記載のセラミック膜を作製する方法は、セラミック粉末のコロイド懸濁液および重合体先駆物質を用意し、それらを混合し、混合物を膜支持体に被覆して複合構造体を形成し、そして複合構造体を加熱して、支持体上に高密度膜を形成する。このように、多孔質の支持体上に薄いセラミック膜を作製する方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2記載の金属酸化膜の製造方法によれば、高分子の前駆体を用いて、多結晶の金属酸化膜でコーティングされた基板を得ることができる。特許文献2記載の方法で作製された金属酸化膜は、比較的クラックやピンホールが少なく、たとえば中間的温度固体の酸化物の燃料電池(SOFCs)の電解質、電極または、ガス分離膜の用途に使用される。一方、近年過酷な環境において耐蝕性に優れた部材が求められている。特に、緻密なセラミック部材は腐食性ガスに対する耐蝕性に優れているため、様々な場面で使用されてきた。
【特許文献1】特開2000−128545号公報
【特許文献2】米国特許第5494700号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、耐蝕性に対する要求がさらに高まり、単一材料の緻密なセラミック部材でも耐触性が不十分となりつつある。そのため、さらに耐蝕性に優れた部材が研究されているが、部材の加工性が悪かったり、高価であったりする場合も多く、単に従来使用されてきた部材を耐蝕性に優れた材料の部材に置き換えればよいというものではない。
【0006】
このような課題に対しては、従来の部材の表面に、耐蝕性の高い新たなセラミック薄膜を設けることで、加工性やコストの面で優れ、かつ耐蝕性も高い部材を作製することができる。上記の特許文献に記載されているようなセラミック薄膜を耐蝕部材のコーティングとして用いる場合には、その表面上のわずかなクラックやピンホールからも耐蝕性が低減しパーティクル等が発生する。上記のようなセラミック薄膜の製造方法では、薄膜の緻密度が十分でないために、十分な耐蝕性を得られない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、耐蝕性部材等に応用可能であり、表面にクラックやピンホール等がほとんどない緻密なセラミック薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明に係るセラミック薄膜の製造方法は、被膜対象となる基材の表面に、無水クエン酸錯体溶液を用いて成膜処理する成膜工程を備えることを特徴としている。
【0009】
このように、本発明のセラミック薄膜の製造方法は、金属イオンの分散性を高めた無水クエン酸錯体溶液を用いて成膜処理をすることにより、クラックやピンホールのない緻密なセラミック薄膜を作製することができる。その結果、たとえば加工性や費用の面で優れ、かつ耐蝕性の高い部材を製造することができる。
【0010】
(2)また、本発明に係るセラミック薄膜の製造方法は、無水クエン酸錯体ゲルとアルコール溶媒とを混合することで、前記無水クエン酸錯体ゲルをエステル化し、前記無水クエン酸錯体溶液を作製する溶液作製工程を備えることを特徴としている。このように無水クエン酸錯体ゲルをエステル化することにより、金属イオンの分散性を高めた無水クエン酸錯体溶液を作製することができる。
【0011】
(3)また、本発明に係るセラミック薄膜の製造方法は、金属塩とクエン酸水溶液とを混合し、前記無水クエン酸錯体ゲルを作製するゲル作製工程を備えることを特徴としている。これにより、容易に無水クエン酸錯体溶液の作製に用いる無水クエン酸錯体ゲルを作製することができる。
【0012】
(4)また、本発明に係るセラミック薄膜の製造方法は、前記ゲル作製工程において、少なくとも金属硝酸塩または金属塩化物のいずれか一方を前記金属塩として混合することを特徴としている。これにより、金属が化合されたネットワークを有する高分子を作製することができ、金属イオンの分散性を高めることができる。そして、分散性の向上により、緻密なセラミック薄膜を作製することができる。
【0013】
(5)また、本発明に係るセラミック薄膜の製造方法は、前記ゲル作製工程において、周期律表の2〜6族元素、12〜14族元素、およびランタノイドの群から選択された一種の金属または二種以上の金属の組み合わせの塩を前記金属塩として混合することを特徴としている。このような成分を含む金属酸化膜を作製することで、耐蝕性に優れた薄膜を製造することができる。
【0014】
(6)また、本発明に係るセラミック薄膜の製造方法は、前記成膜工程は、前記無水クエン酸錯体溶液を前記基材の表面に塗布する塗布処理と、前記塗布された無水クエン酸錯体溶液を250℃以上1100℃以下で加熱する加熱処理と、を含むことを特徴としている。このように比較的低温で熱処理して固体電解質膜を生成することで、20nm以下の結晶子を有するナノ構造を得ることができる。その結果、セラミック薄膜の緻密性を高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るセラミック薄膜の製造方法によれば、金属イオンの分散性を高め、クラックやピンホールのない緻密なセラミック薄膜を作製することができる。その結果、加工性や費用の面で優れ、かつ耐蝕性の高い部材等を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。また、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
(セラミック薄膜の構成)
本発明に係るセラミック薄膜は、無水クエン酸錯体ゲルにアルコール溶媒を加えエステル化して得られた無水クエン酸錯体溶液を用いて作製される。作製されたセラミック薄膜は、セラミックスまたは金属の基材上に形成され、ピンホールやクラック等をほとんど有さず、極めて緻密である。
【0018】
本発明に係るセラミック薄膜は、金属塩をもとに無水クエン酸錯体ゲルのエステル化を経て作製されるため、主に金属酸化物により形成される。セラミック薄膜は、たとえば、イットリア(Y)、アルミナ(Al)、サマリウムをドープしたセリア(SDC)、酸化ニッケル(NiO)等の金属酸化物により形成される。
【0019】
本発明に係るセラミック薄膜の膜厚は、サブμmから数百μmの範囲で調整可能である。塗布、乾燥、熱処理の各処理が行われる成膜工程を繰り返すことにより、上記の範囲で望みの厚さを形成することが可能である。セラミック薄膜の純度は、望ましくは99%以上、より好ましくは99.9%以上であり、その程度の高純度のセラミック薄膜を得ることができる。このようにセラミック薄膜の純度を高くすることで、その耐蝕性を向上させることができる。平均粒径は、10〜50nmであり、セリア薄膜については熱処理の温度を500℃〜1100℃とすることで、20nm以下の粒径を有するナノ構造を得ることができる。
【0020】
なお、上記の純度は、主成分の他に意図的にドープした微量添加物を全て主成分に含んだ総含有量の比率をいう。また、仮に意図しない他の元素の含有量が意図的にドープした微量添加物よりも多量となった場合でも、全て不純物として純度を算出する。この場合、意図しない他の元素の特性への影響の有無とは関係なく純度が決められる。また、ここでいう純度は無水クエン酸錯体の純度では無く、熱処理後のセラミック薄膜の純度である。
【0021】
本発明に係るセラミック薄膜を作製する基材は、セラミックスまたは金属等で形成される。たとえばニッケルを複合化したセリア(NiO−CeO)、Si、Al、Al、AlN、SiC、SiO、SUS304、NiO−SDC、Al系化合物、Y、Y系化合物等の基材上にセラミック薄膜を形成することが可能である。基材には、平板等の成膜が容易な形状のものを用いることができる。成膜には溶液系の原料を用いるため、本発明の成膜方法は、他の成膜方法と比較してより複雑な形状の基材に対しても良好な成膜性を有する。セラミックスの基材は焼結体である必要はなく、CVDや溶射により成膜した膜を基材としてもよい。
【0022】
このように構成される基材およびその基材上に設けられるセラミック薄膜は、両者の結合した被膜部材を形成する。この被膜部材は、様々な用途に用いられる。たとえば、セラミック薄膜の材料として耐蝕性の高い金属酸化物を採用すれば、被膜部材を腐食性ガス雰囲気中で用いられる耐蝕部材に用いることができる。その場合には、耐蝕性の高い材料のみで耐蝕部材を作製するのに比較して、コストや加工上の制約を受けずにすむという有利な点がある。このような用途以外にも、セラミック薄膜は絶縁被膜された金属や、導電性被膜を形成された絶縁体や燃料電池に利用することも可能である。以下に本発明に係るセラミック薄膜の製造方法を説明する。
【0023】
(セラミック薄膜の製造方法)
図1は、本発明に係るセラミック薄膜の製造方法を示すフローチャートである。図1に示すように、まず、あらかじめ準備しておいた金属塩とクエン酸水溶液とを混合して加熱する(ステップS1)。加熱温度は、たとえば100℃〜300℃程度とする。金属塩を用いることで、三次元のネットワークを有する高分子を作製したとき、金属イオンを均一に分散させることができる。金属塩としては、たとえば硝酸セリウム、硝酸イットリウム、硝酸アルミニウム等の金属硝酸塩、塩化セリウム、塩化イットリウム、塩化アルミニウム等の金属塩化物を用いることができる。ゲル作製工程においては、周期律表の2〜6族元素、12〜14族元素、およびランタノイドの群から選択された一種の金属または二種以上の金属の組み合わせの塩を金属塩として混合するのが好ましい。このような成分を含む金属酸化膜を作製することで、耐蝕性に優れた薄膜を製造することができる。このとき、加熱により含有される水分を十分に取り除く。このような混合および加熱を行うゲル作製工程により、無水クエン酸錯体ゲルが生成される。
【0024】
次に、生成された無水クエン酸錯体ゲルにアルコール溶媒を混合し加熱する(ステップS2)。この混合および加熱による溶液作製工程で、エステル化の反応がなされ、透明な無水クエン酸錯体溶液が生成される。加熱温度は、たとえば50℃〜120℃の範囲とする。アルコール溶媒としては、たとえばエタノールまたはIPAを用いることができる。エステル化が進行することで、錯体は高分子化し、金属イオンは溶媒中に分散する。これにより、クラックやピンホールのない緻密なセラミック薄膜を作製することができる。その結果、たとえば加工性や費用の面で優れ、かつ耐蝕性の高い部材を製造することができる。また、エステル化して高分子化することで後の成膜工程において、乾燥したグリーンフィルムの強度が向上する。なお、グリーンフィルムの強度を向上させるために、アルコール溶媒とともにポリエチレングリコールを無水クエン酸錯体ゲルに混合することができる。また、ポリエチレングリコール(PEG)に代えて、エチレングリコール、ポリビニルピロリドン等を添加しても同等の効果を得ることができる。
【0025】
そして、このようにして得られた無水クエン酸錯体溶液を基材表面に塗布する(ステップS3)。塗布の方法としては、スプレー法(spraying)、ディップ法(dip),スピンコーティング法(Spin coating)、スクリーン印刷法(screen printing)等の湿式法が挙げられる。次いで、このようにして形成されたグリーンフィルムを乾燥させる(ステップS4)。乾燥は、無水クエン酸錯体溶液の性質や塗布方法を考慮して自然乾燥を選択してもよいし、温度等を管理した室内で乾燥させてもよい。
【0026】
このようにしてグリーンフィルムが乾燥したら、乾燥して生成された膜を基材とともに炉に入れて、所定の温度で熱処理を行う(ステップS5)。この熱処理により、乾燥した膜の有機成分が燃焼し、セラミック薄膜が焼成される。熱処理の焼成温度は、250℃以上1100℃以下が好ましい。このように比較的低温で熱処理を行うことにより、セラミック薄膜内で50nm以下の結晶子が形成される。その結果、ナノ構造を有するセラミック薄膜が形成され、セラミック薄膜の緻密性が高められる。このようにして、ステップS3〜S5に示す成膜工程を進める。
【0027】
熱処理を終え、セラミック薄膜が形成されたら、成膜工程を終えるか否かを判断する(ステップS6)。成膜工程を繰り返し行う場合には、ステップS3に戻り、再度、無水クエン酸溶液を形成されたセラミック薄膜上に塗布し、乾燥、熱処理を行う。成膜工程を終了する場合には、セラミック薄膜を製造するための一連の製造工程を終了する。
【0028】
(金属塩化物の準備)
上記の製造工程のために、あらかじめ金属塩化物を準備する場合には、以下のような処理を行う。まず、金属または金属の酸化物を塩酸溶液で溶解させ、余分な塩酸を取り除いて濃縮させる。そして、濃縮された溶液中に析出した塩化物結晶を取り出し、水に溶かすことで塩化物水溶液を生成することができる。
【0029】
たとえば、イットリアの薄膜を作製する場合には、イットリアを塩酸溶液で溶解させ、溶解させたものを濃縮させ、析出した結晶を水に溶かすことでイットリウム塩化物水溶液を生成することができる。また、セリアの薄膜を作製する場合には、セリウムを塩酸溶液で溶解させ、溶解させたものを濃縮させ、析出した結晶を水に溶かすことでセリウム塩化物水溶液を生成することができる。また、アルミナの薄膜を作製する場合には、金属アルミ板を塩酸溶液で溶解させて、同様の処理を行い、アルミ塩化物水溶液を生成することができる。
【0030】
(エステル化)
上記の製造工程のうち、特に無水クエン酸錯体ゲルをエステル化する工程は本発明において重要である。この工程では、以下の式に示すように、クエン酸のカルボキシル基(COOH)とアルコール溶媒(分散用アルコールまたは結合剤PEG)のヒドロキシル基(OH)との間で脱水エステル反応が進む。その結果、透明な無水クエン酸溶液が得られる。
【化1】

【0031】
このようにして、無水クエン酸錯体の高分子化が進行する。図2は、無水クエン酸錯体ゲルを構成する高分子を模式的に示す図である。図に示すように、金属イオンMが均一に分散した三次元ネットワークが形成される。その結果、金属イオンの分散性が向上し、セラミック膜が緻密化する。また、高分子化によりグリーンフィルムが乾燥したときの膜の強度が高まる。
【実施例】
【0032】
上記の製造工程により緻密なセラミック薄膜が得られることを実証するために実験を行った。なお、実験では、走査型電子顕微鏡(HITACHI製FE−SEM(S−4300E))、X線回折装置(Rigaku製(RotaflexRU−200B))を用いた。X線回折装置を使用する際には、CuKα線を用い、入射角θ=1.5°の条件において薄膜法で回折ピークを得た。
【0033】
(実験1)
まず、イットリアの薄膜をシリコンウエハ基材上に作製した。イットリウムを塩酸溶液で溶解させ、溶解させたものを濃縮させ、析出した結晶を水に溶かすことでイットリウム塩化物水溶液を生成した。0.2モル%のイットリウム塩化物水溶液に0.2モル%のクエン酸水溶液を混合した。そして、混合した水溶液を200℃に加熱し水分を取り除いた。そして、得られた無水クエン酸錯体ゲルの一部を用いて成膜を行った。一方、残った無水クエン酸錯体ゲルには、エタノールおよびポリエチレングリコールを混合し、50℃でエステル反応を進行させた。このようにして得られた無水クエン錯体溶液を用いて成膜を行った。
【0034】
成膜工程では、スプレー法で無水クエン酸錯体溶液をシリコンウエハ基材の表面に塗布した。形成されたグリーンフィルムを自然乾燥させ、乾燥して生成された膜をシリコンウエハ基材とともに炉に入れて、500℃で熱処理を行った。そして、数回成膜工程を繰り返した。1回の成膜工程で、約200nmの厚さを有する膜を作製することができた。
【0035】
図3(a)は、無水クエン錯体溶液を用いて成膜したイットリア膜を示すSEM写真である。表面に孔が形成されておらず、イットリア膜が緻密化していることが実証された。一方、図3(b)は、エステル化を行わずに無水クエン酸錯体ゲルから形成したイットリア膜を示すSEM写真である。図3(b)に示される膜の表面には孔が形成されており、イットリア膜が十分に緻密化していないことが分かる。
【0036】
(実験2)
次に、サマリウムをドープしたセリアの薄膜をシリコンウエハ基材上に作製した。硝酸セリウム溶液および硝酸サマリウム溶液を濃度4:1の比で混合して0.2モル%硝酸塩溶液とし、さらに0.2モル%のクエン酸水溶液を混合した。そして、混合した水溶液を200℃に加熱し水分を取り除いた。そして、得られた無水クエン酸錯体ゲルの一部を用いて成膜を行った。一方、残った無水クエン酸錯体ゲルには、エタノールおよびポリエチレングリコールを混合し、溶液を50℃に維持してエステル反応を進行させた。そして得られた無水クエン錯体溶液を用いて、上記の実験1と同様に成膜を行った。
【0037】
図4(a)は、無水クエン錯体溶液を用いて成膜したセリア膜を示すSEM写真である。表面に孔が形成されておらず、セリア膜が緻密化していることが実証された。一方、図4(b)は、エステル化を行わずに無水クエン酸錯体ゲルから形成したセリア膜を示すSEM写真である。図4(b)に示される膜の表面には孔が形成されており、セリア膜が十分に緻密化していないことが分かる。
【0038】
(実験3)
また、無水クエン酸錯体ゲルの作製工程において、金属イオンとクエン酸とのモル比を変えてサマリウムをドープしたセリア膜をシリコンウエハ上に成膜した。金属イオンとクエン酸とのモル比R=1:2、1:1、1、0.5のそれぞれで、金属塩とクエン酸水溶液とを混合し成膜を行った。図5は、金属イオン対クエン酸のモル比率とX線回折ピーク(結晶化度)との関係を示す図である。図5に示すように、R<1では、高い結晶度が得られることが実証された。
【0039】
(実験4)
次に、サマリウムをドープしたセリア膜について成膜工程における熱処理温度と結晶粒径との関係を調べた。セリウムの無水クエン錯体溶液をシリコンウエハ基材に塗布したものを7つ準備し、そのうちの一つを25℃に維持し、その他の6つのものをそれぞれ、110℃、300℃、500℃、700℃、900℃、1100℃で熱処理した。そして、X線回折を用いて得られた膜を分析した。図6は、熱処理温度と結晶による回折ピークとの関係を調べた実験結果を示す図である。図7は、熱処理温度と結晶の平均粒径との関係を調べた実験結果を示す図である。
【0040】
図6に示すように、500℃以上で熱処理したものについて、結晶化が測定されている。したがって、低結晶化温度は500℃付近であることが実証された。また、図7に示すように、少なくとも500℃以上1100℃以下の温度範囲で、20nm以下の粒径をもつ結晶子が生成され、膜にナノ構造が形成されていることが分かった。
【0041】
なお、250℃以上500℃以下で熱処理した場合には、アモルファスを含む緻密薄膜が得られた。したがって、得られた膜の構造は異なるものの、250℃以上で熱処理した膜は緻密薄膜としては十分な耐蝕性を示すことが分かった。用途によってはアモルファスを含む膜の方が明確な結晶粒界を持つ膜よりも耐蝕性が高くなる場合も有る。なお、本発明においては250℃以上500℃以下で熱処理した場合の膜を含めて、セラミック薄膜と呼ぶ。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係るセラミック薄膜の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】無水クエン酸錯体ゲルを構成する高分子を模式的に示す図である。
【図3】(a)実施例のイットリア膜を示すSEM写真である。(b)比較例のイットリア膜を示すSEM写真である。
【図4】(a)実施例のセリア膜を示すSEM写真である。(b)比較例のセリア膜を示すSEM写真である。
【図5】金属イオン対クエン酸のモル比率と結晶化特性との関係を示す図である。
【図6】熱処理温度と回折ピークとの関係を調べた実験結果を示す図である。
【図7】熱処理温度と結晶粒径との関係を調べた実験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
M 金属イオン
R モル比

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被膜対象となる基材の表面に、無水クエン酸錯体溶液を用いて成膜処理する成膜工程を備えることを特徴とするセラミック薄膜の製造方法。
【請求項2】
無水クエン酸錯体ゲルとアルコール溶媒とを混合することで、前記無水クエン酸錯体ゲルをエステル化し、無水クエン酸錯体溶液を作製する溶液作製工程を備えることを特徴とする請求項1記載のセラミック薄膜の製造方法。
【請求項3】
金属塩とクエン酸水溶液とを混合し、無水クエン酸錯体ゲルを作製するゲル作製工程を備えることを特徴とする請求項2記載のセラミック薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記ゲル作製工程において、少なくとも金属硝酸塩または金属塩化物のいずれか一方を前記金属塩として混合することを特徴とする請求項3記載のセラミック薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記ゲル作製工程において、周期律表の2〜6族元素、12〜14族元素、およびランタノイドの群から選択された一種の金属または二種以上の金属の組み合わせの塩を前記金属塩として混合することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のセラミック薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記成膜工程は、前記無水クエン酸錯体溶液を前記基材の表面に塗布する塗布処理と、
前記塗布された無水クエン酸錯体溶液を250℃以上1100℃以下で加熱する加熱処理と、を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のセラミック薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−285391(P2008−285391A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134695(P2007−134695)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】