説明

セルロースアシレートフィルム、位相差フィルム、光学補償フィルム、偏光板及び画像表示装置

【課題】Reの絶対値が大きく、Rthの絶対値が小さい、新規なセルロースアシレートフィルムを提供する。
【解決手段】芳香族基を含むアシル基(置換基A)を有し、且つ該置換基Aの置換度が下記式(I)及び式(II)を満足するセルロースアシレートの少なくとも一種を含有する組成物からなることを特徴とするセルロースアシレートフィルムである。
式(I) −0.25≦DSA2+DSA3−DSA6≦0.20
式(II) 0.35≦DSA2+DSA3+DSA6
式中、DSA2、DSA3及びDSA6はそれぞれセルロースアシレートの2位、3位及び6位における置換基Aの置換度を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示装置の種々の部材として有用なセルロースアシレートフィルム、位相差フィルム、光学補償フィルム、及び偏光板、ならびにそれを用いた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置の普及に伴い、表示性能や耐久性に対する要求がより高くなり、応答速度の向上や、表示画像に対して斜め方向から観察した場合のコントラストやカラーバランスといった視野角をより広範囲で補償することが課題となっている。これらの課題を解決すべく、各種液晶モードが開発されており、それに伴って各モードに対応して視野角を補償する目的で位相差フィルムを光学補償フィルムとして開発することが急務となっている。
例えば、横電界を液晶に対して印加する、いわゆるインプレーンスイッチング(IPS)モードでは、色調や黒表示の視野角を改善する手段の一つとして、面内レターデーション(Re)が190nm〜390nmで、Nz(=Rth/Re+0.5)値が0.3〜0.65となる光学補償フィルムが提案されている(特許文献1参照)。このようなフィルム、即ち、Reが大きく、Rthが小さく0程度のフィルムは、例えば、ポリマーフィルムに熱収縮性フィルムを接着して加熱延伸処理を行い、その後、熱収縮性フィルムを剥離して製造することができる(特許文献2及び3参照)。しかしながらこの方法は大量の熱収縮性フィルムを消費すること、製造方法が複雑であることなどといった問題がある。
セルロースアシレートフィルムはその透明性、強靭性から、液晶表示装置向けの偏光板保護フィルムとして広く利用されている。例えばセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどの脂肪酸セルロースエステルを製膜した光学フィルムが提案されている(特許文献4)。また最近では、セルロースアセテートベンゾエートなどの芳香族アシル基を置換したセルロースを製膜した光学フィルムも提案されている(特許文献5)。しかしこれらのフィルムでは、IPS液晶表示装置等の光学補償に寄与し得る光学特性、Reの絶対値が大きく、且つRthの絶対値が小さく0程度の光学性能は得られない。
【特許文献1】特開平11−305217公報参照
【特許文献2】特開2000−231016号公報
【特許文献3】特開平5−157911号公報
【特許文献4】特開2000−352620号公報
【特許文献5】特開2006−328298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、面内レターデーション(Re)の絶対値が大きく、且つRthの絶対値が小さい新規なセルロースアシレートフィルム、ならびにそれを用いた位相差フィルム、光学補償フィルム、反射防止フィルム、偏光板、及び画像表示装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題は、下記手段により達成された。
[1] 芳香族基を含むアシル基(置換基A)を有し、且つ該置換基Aの置換度が下記式(I)及び式(II)を満足するセルロースアシレートの少なくとも一種を含有する組成物からなることを特徴とするセルロースアシレートフィルム:
式(I) −0.25≦DSA2+DSA3−DSA6≦0.20
式(II) 0.35≦DSA2+DSA3+DSA6
式中、DSA2、DSA3及びDSA6はそれぞれセルロースアシレートの2位、3位及び6位における置換基Aの置換度を表す。
[2]前記セルロースアシレートが、下記式(III)を満たすことを特徴とする[1]の組成物:
式(III) 2.5≦DS≦3.0
式(III)中、DSは総置換度を表す。
[3] 前記セルロースアシレートが、脂肪族アシル基(置換基B)をさらに有することを特徴とする[1]又は[2]のセルロースアシレートフィルム。
[4] 前記置換基Bの置換度DSBが、下記式(IV)を満たすことを特徴とする[3]のセルロースアシレートフィルム:
式(IV) 1.70≦DSB≦2.89 。
[5] 前記置換基Bが、炭素数2〜4の脂肪族アシル基であることを特徴とする[3]又は[4]のセルロースアシレートフィルム。
[6] 前記置換基Bが、アセチル基であることを特徴とする[5]のセルロースアシレートフィルム。
[7] 前記置換基Aが、ベンゾイル基、フェニルベンゾイル基、4−ヘプチルベンゾイル基、2,4,5−トリメトキシベンゾイル基、及び3,4,5−トリメトキシベンゾイル基から選択されることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかのセルロースアシレートフィルム。
[8] 前記置換基Aがベンゾイル基であり、且つ下記式を満たすことを特徴とする[7]のセルロースアシレートフィルム:
−0.2≦DSA2+DSA3−DSA6≦0.2 。
[9] 延伸フィルムであることを特徴とする[1]〜[8]のいずれかのセルロースアシレートフィルム。
[10] [1]〜[9]のいずれかのセルロースアシレートフィルムからなる位相差フィルム。
[11] [1]〜[9]のいずれかのセルロースアシレートフィルムからなる又は含む光学補償フィルム。
[12] [1]〜[9]のいずれかのセルロースアシレートフィルムと、反射防止層とを有する反射防止フィルム。
[13] 偏光膜と、[1]〜[9]のいずれかのセルロースアシレートフィルムとを有する偏光板。
[14] [1]〜[9]のいずれかのセルロースアシレートフィルムを少なくとも有する画像表示装置。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、面内レターデーション(Re)の絶対値が大きく、且つRthの絶対値が小さい新規なセルロースアシレートフィルム、ならびにそれを用いた位相差フィルム、光学補償フィルム、反射防止フィルム、偏光板、及び画像表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
[セルロースアシレートフィルム]
本発明のセルロースアシレートフィルムは、芳香族基を含むアシル基(置換基A)を少なくとも有するセルロースアシレートの少なくとも一種を含有する組成物からなる。セルロースは、β−1,4結合しているグルコース単位当り、2位、3位及び6位に遊離の水酸基を有する。セルロースアシレートにおける置換基Aの2位、3位及び6位における置換度をそれぞれ、DSA2、DSA3及びDSA6とした場合、本発明では、下記式(I)及び(II)を満足するセルロースアシレートを用いる。
式(I) −0.25≦DSA2+DSA3−DSA6≦0.20
式(II) 0.35≦DSA2+DSA3+DSA6
本発明者が鋭意検討した結果、芳香族基を含むアシル基(置換基A)が存在すること、及び置換基Aの2位、3位及び6位における置換度が、それによって製造されるフィルムのRe及びRthの値に大きく影響することを見出した。より具体的には、Rthについては、2位及び3位に存在する置換基Aは、Rthを負に大きくする作用があり、6位に存在する置換基Aは、Rthを正に大きくする作用があり、一方、Reに関しては、2位、3位及び6位に存在する置換基Aは、その位置のいかんにかかわわらず、延伸した際に、その絶対値を大きくする作用があることを見出した。この知見に基づいてさらに検討した結果、前記式(I)及び(II)を満足するセルロースアシレートを用いることにより、Rthが0に近づき、且つReが増加し、例えば、光学フィルムの特性を特定するのにしばしば用いられるいわゆるNz(=Rth/Re+0.5)値が、0.5程度のセルロースアシレートフィルムが得られるとの知見を得、本発明を完成するに至った。
Nz値をより0.5に近づけるためには、置換基Aがベンゾイル基の場合には、DSA2+DSA3−DSA6は、−0.2〜0.2であるのが好ましく、−0.15〜0.2であるのがより好ましい。同観点から、DSA2+DSA3+DSA6は、0.37以上であるのが好ましく、0.50以上であるのがより好ましい。DSA2+DSA3+DSA6の上限値については特に制限はなく、2位、3位及び6位の全てが置換基Aで置換された場合、即ち3、になる。置換基A以外の後述する置換基Bによっても置換されているのがフィルムの面状や強度の点で好ましく、その観点から、DSA2+DSA3+DSA6は1.2以下であるのが好ましく、1.1以下であるのがより好ましい。
【0007】
また、前記式(I)及び(II)を満足する限り、DSA2、DSA3及びDSA6それぞれの範囲については特に制限はないが、置換基Aの2位及び3位の置換度の和DSA2+DSA3は、0.1〜1.0であるのが好ましく、0.1〜0.6であるのがより好ましい。一方、置換基Aの6位の置換度DSA6は、Rthを0に近づけるという観点からは、0.1〜1.1であるのが好ましく、0.2〜1.0であるのがより好ましい。
なお、芳香族基を含むアシル基が複数種あってもよく、複数種ある場合には、上記置換度は合計である。合成上、芳香族基を含むアシル基は1種類であることが好ましい。
【0008】
また、前記セルロースアシレート中のアシル基による全置換度DS(置換基Aによる置換度のみならず、後述する置換基Bによる置換度も含めた全置換度である)は、Rthの湿度依存性に影響する。Rthの湿度依存性を小さくするという観点からは、遊離酸水酸基に対するアシル基による全置換度DSは大きいほど好ましい(なお、全置換度の最大値は3である)。具体的には、全置換度DSは、下記式(III)を満足しているのが好ましい。
式(III) 2.5≦DS≦3.0
全置換度DSは、2.5〜2.95であるのがより好ましく、2.5〜2.9であることがより好ましい。
【0009】
本発明において置換基の置換度及び置換度分布は、Cellulose Communication 6,73-79(1999)及びChirality 12(9),670-674に書かれている方法を用いて、1H−NMRあるいは13C−NMRにより、決定することができる。
【0010】
(芳香族基を含むアシル基(置換基A))
本発明における芳香族基を含むアシル基(置換基A)はエステル結合部と直接結合しても、連結基を介して結合してもよい。直接結合しているのが好ましい。ここでいう連結基とはアルキレン基、アルケニレン基、あるいはアルキニレン基を表し、連結基は置換基を有していてもよい。連結基として好ましくは1〜10のアルキレン基、アルケニレン基、及びアルキニレン基、より好ましくは原子数が1〜6のアルキレン基及びアルケニレン基、最も好ましくは原子数が1〜4のアルキレン及びアルケニレン基である。
【0011】
また芳香族は置換基を有してもよく、芳香族に置換されている置換基及び前述の連結基に置換されている置換基は、例えばアルキル基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜12、特に好ましくは1〜8のものであり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−ブチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ヘキサデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル、シクロヘキシル基などが挙げられる)、アルケニル基(好ましくは炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜12、特に好ましくは2〜8であり、例えばビニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ペンテニル基などが挙げられる)、アルキニル基(好ましくは炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜12、特に好ましくは2〜8であり、例えばプロパルギル基、3−ペンチニル基などが挙げられる)、アリール基(好ましくは炭素原子数6〜30、より好ましくは6〜20、特に好ましくは6〜12であり、例えばフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基などが挙げられる)、アミノ基(好ましくは炭素原子数0〜20、より好ましくは0〜10、特に好ましくは0〜6であり、例えばアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基などが挙げられる)、アルコキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜12、特に好ましくは1〜8であり、例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などが挙げられる)、アリールオキシ基(好ましくは炭素原子数6〜20、より好ましくは6〜16、特に好ましくは6〜12であり、例えばフェニルオキシ基、2−ナフチルオキシ基などが挙げられる)、アシル基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばアセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基などが挙げられる)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜16、特に好ましくは2〜12であり、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などが挙げられる)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素原子数7〜20、より好ましくは7〜16、特に好ましくは7〜10であり、例えばフェニルオキシカルボニル基などが挙げられる)、アシルオキシ基(好ましくは炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜16、特に好ましくは2〜10であり、例えばアセトキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられる)、アシルアミノ基(好ましくは炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜16、特に好ましくは2〜10であり、例えばアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基などが挙げられる)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素原子数2〜20、より好ましくは2〜16、特に好ましくは2〜12であり、例えばメトキシカルボニルアミノ基などが挙げられる)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素原子数7〜20、より好ましくは7〜16、特に好ましくは7〜12であり、例えばフェニルオキシカルボニルアミノ基などが挙げられる)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばメタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基などが挙げられる)、スルファモイル基(好ましくは炭素原子数0〜20、より好ましくは0〜16、特に好ましくは0〜12であり、例えばスルファモイル基、メチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基、フェニルスルファモイル基などが挙げられる)、カルバモイル基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばカルバモイル基、メチルカルバモイル基、ジエチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基などが挙げられる)、アルキルチオ基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばメチルチオ基、エチルチオ基などが挙げられる)、アリールチオ基(好ましくは炭素原子数6〜20、より好ましくは6〜16、特に好ましくは6〜12であり、例えばフェニルチオ基などが挙げられる)、スルホニル基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばメシル基、トシル基などが挙げられる)、スルフィニル基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばメタンスルフィニル基、ベンゼンスルフィニル基などが挙げられる)、ウレイド基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばウレイド基、メチルウレイド基、フェニルウレイド基などが挙げられる)、リン酸アミド基(好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜16、特に好ましくは1〜12であり、例えばジエチルリン酸アミド、フェニルリン酸アミドなどが挙げられる)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素原子数1〜30、より好ましくは1〜12であり、ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子、具体的には例えばイミダゾリル基、ピリジル基、キノリル基、フリル基、ピペリジル基、モルホリノ基、ベンゾオキサゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズチアゾリル基などが挙げられる)、シリル基(好ましくは、炭素原子数3〜40、より好ましくは3〜30、特に好ましくは3〜24であり、例えば、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などが挙げられる)などが挙げられる。これらの置換基は更に置換されてもよい。また、置換基が二つ以上ある場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに連結して環を形成してもよい。
【0012】
芳香族とは理化学辞典(岩波書店)第4版1208頁に芳香族化合物として定義されており、本発明における芳香族基としては芳香族炭化水素基でも芳香族ヘテロ環基でもよく、より好ましくは芳香族炭化水素基である。
芳香族炭化水素基としては、炭素原子数が6〜24のものが好ましく、6〜12のものがより好ましく、6〜10のものがもっとも好ましい。芳香族炭化水素基の具体例としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニル基、ターフェニル基などが挙げられ、より好ましくはフェニル基である。芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基が特に好ましい。芳香族ヘテロ環基としては、酸素原子、窒素原子あるいは硫黄原子のうち少なくとも1つを含むものが好ましい。そのヘテロ環の具体例としては、例えば、フラン、ピロール、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、トリアゾール、トリアジン、インドール、インダゾール、プリン、チアゾリン、チアジアゾール、オキサゾリン、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、アクリジン、フェナントロリン、フェナジン、テトラゾール、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンズチアゾール、ベンゾトリアゾール、テトラザインデンなどが挙げられる。芳香族ヘテロ環基としては、ピリジル基、トリアジニル基、キノリル基が特に好ましい。
【0013】
芳香族基を含むアシル基(置換基A)として好ましいものはフェニルアセチル基、ヒドロシンナモイル基、ジフェニルアセチル基、フェノキシアセチル基、ベンジロキシアセチル基、O−アセチルマンデリル基、3−メトキシフェニルアセチル基、4−メトキシフェニルアセチル基、2,5−ジメトキシフェニルアセチル基、3,4−ジメトキシフェニルアセチル基、9−フルオレニルメチルアセチル基、シンナモイル基、4−メトキシ−シンナモイル基、ベンゾイル基、オルト−トルオイル基、メタ−トルオイル基、パラ−トルオイル基、m−アニソイル基、p−アニソイル基、フェニルベンゾイル基、4−エチルベンゾイル基、4−プロピルベンゾイル基、4−t−ブチルベンゾイル基、4−ブチルベンゾイル基、4−ペンチルベンゾイル基、4−ヘキシルベンゾイル基、4−ヘプチルベンゾイル基、4−オクチルベンゾイル基、4−ビニルベンゾイル基、4−エトキシベンゾイル基、4−ブトキシベンゾイル基、4−ヘキシロキシベンゾイル基、4−ヘプチロキシベンゾイル基、4−ペンチロキシベンゾイル基、4−オクチロキシベンゾイル基、4−ノニロキシベンゾイル基、4−デシロキシベンゾイル基、4−ウンデシロキシベンゾイル基、4−ドデシロキシベンゾイル基、4−イソプロピオキシベンゾイル基、2,3−ジメトキシベンゾイル基、2,5−ジメトキシベンゾイル基、3,4−ジメトキシベンゾイル基、2,6−ジメトキシベンゾイル基、2,4−ジメトキシベンゾイル基、3,5−ジメトキシベンゾイル基、3,4,5−トリメトキシベンゾイル基、2,4,5−トリメトキシベンゾイル基、1−ナフトイル基、2−ナフトイル基、2−ビフェニルカルボニル基、4−ビフェニルカルボニル基、4’−エチル−4−ビフェニルカルボニル基、4’−オクチロキシ−4−ビフェニルカルボニル基、ピペロニロイル基、ジフェニルアセチル基、トリフェニルアセチル基、フェニルプロピオニル基、ヒドロシンナモイル基、α−メチルヒドロシンナモイル基、2,2−ジフェニルプロピオニル基、3,3−ジフェニルプロピオニル基、3,3,3−トリフェニルプロピオニル基、2−フェニルブチリル基、3−フェニルブチリル基、4−フェニルブチリル基、5−フェニルバレリル基、3−メチル−2−フェニルバレリル基、6−フェニルヘキサノイル基、α−メトキシフェニルアセチル基、フェノキシアセチル基、3−フェノキシプロピオニル基、2−フェノキシプロピオニル基、11−フェノキシデカノイル基、2−フェノキシブチリル基、2−メトキシアセチル基、3−(2−メトキシフェニル)プロピオニル基、3−(p−トルイル)プロピオニル基、(4−メチルフェノキシ)アセチル基、4−イソブチル−α−メチルフェニルアセチル基、4−(4−メトキシフェニル)ブチリル基、(2,4−ジ−t−ペンチルフェノキシ)−アセチル基、4−(2,4−ジ−t−ペンチルフェノキシ)−ブチリル基、(3,4−ジメトキシフェニル)アセチル基、3,4−(メチレンジオキシ)フェニルアセチル基、3−(3,4−ジメトキシフェニル)プロピオニル基、4−(3,4−ジメトキシフェニル)ブチリル基、(2,5−ジメトキシフェニル)アセチル基、(3,5−ジメトキシフェニル)アセチル基、3,4,5−トリメトキシフェニルアセチル基、3−(3,4,5−トリメトキシフェニル)−プロピオニル基、アセチル基、1−ナフチルアセチル基、2−ナフチルアセチル基、α−トリチル−2−ナフタレン−プロピオニル基、(1−ナフトキシ)アセチル基、(2−ナフトキシ)アセチル基、6−メトキシ−α−メチル−2−ナフタレンアセチル基、9−フルオレンアセチル基、1−ピレンアセチル基、1−ピレンブチリル基、γ−オキソ−ピレンブチリル基、スチレンアセチル基、α−メチルシンナモイル基、α−フェニルシンナモイル基、2−メチルシンナモイル基、2−メトキシシンナモイル基、3−メトキシシンナモイル基、2,3−ジメトキシシンナモイル基、2,4−ジメトキシシンナモイル基、2,5−ジメトキシシンナモイル基、3,4−ジメトキシシンナモイル基、3,5−ジメトキシシンナモイル基、3,4−(メチレンジオキシ)シンナモイル基、3,4,5−トリメトキシシンナモイル基、2,4,5−トリメトキシシンナモイル基、3−メチリデン−2−カルボニル基、4−(2−シクロヘキシロキシ)ベンゾイル基、2,3−ジメチルベンゾイル基、2,6−ジメチルベンゾイル基、2,4−ジメチルベンゾイル基、2,5−ジメチルベンゾイル基、3−メトキシ−4−メチルベンゾイル基、3,4−ジエトキシベンゾイル基、α−フェニル−O−トルイル基、2−フェノキシベンゾイル基、2−ベンゾイルベンゾイル基、3−ベンゾイルベンゾイル基、4−ベンゾイルベンゾイル基、2−エトキシ−1−ナフトイル基、9−フルオレンカルボニル基、1−フルオレンカルボニル基、4−フルオレンカルボニル基、9−アントラセンカルボニル基、1−ピレンカルボニル基などが挙げられる。
【0014】
さらに好ましくは、置換基Aは、フェニルアセチル基、ヒドロシンナモイル基、ジフェニルアセチル基、フェノキシアセチル基、ベンジロキシアセチル基、O−アセチルマンデリル基、3−メトキシフェニルアセチル基、4−メトキシフェニルアセチル基、2,5−ジメトキシフェニルアセチル基、3,4−ジメトキシフェニルアセチル基、9−フルオレニルメチルアセチル基、シンナモイル基、4−メトキシ−シンナモイル基、ベンゾイル基、オルト−トルオイル基、メタ−トルオイル基、パラ−トルオイル基、m−アニソイル基、p−アニソイル基、フェニルベンゾイル基、4−エチルベンゾイル基、4−プロピルベンゾイル基、4−t−ブチルベンゾイル基、4−ブチルベンゾイル基、4−ペンチルベンゾイル基、4−ヘキシルベンゾイル基、4−ヘプチルベンゾイル基、4−オクチルベンゾイル基、4−ビニルベンゾイル基、4−エトキシベンゾイル基、4−ブトキシベンゾイル基、4−ヘキシロキシベンゾイル基、4−ヘプチロキシベンゾイル基、4−ペンチロキシベンゾイル基、4−オクチロキシベンゾイル基、4−ノニロキシベンゾイル基、4−デシロキシベンゾイル基、4−ウンデシロキシベンゾイル基、4−ドデシロキシベンゾイル基、4−イソプロピオキシベンゾイル基、2,3−ジメトキシベンゾイル基、2,5−ジメトキシベンゾイル基、3,4−ジメトキシベンゾイル基、2,6−ジメトキシベンゾイル基、2,4−ジメトキシベンゾイル基、3,5−ジメトキシベンゾイル基、2,4,5−トリメトキシベンゾイル基、3,4,5−トリメトキシベンゾイル基、1−ナフトイル基、2−ナフトイル基、2−ビフェニルカルボニル基、4−ビフェニルカルボニル基、又は4’−エチル−4−ビフェニルカルボニル基、4’−オクチロキシ−4−ビフェニルカルボニル基である。
【0015】
より好ましくは、置換基Aは、フェニルアセチル基、ジフェニルアセチル基、フェノキシアセチル基、シンナモイル基、4−メトキシ−シンナモイル基、ベンゾイル基、フェニルベンゾイル基、4−エチルベンゾイル基、4−プロピルベンゾイル基、4−t−ブチルベンゾイル基、4−ブチルベンゾイル基、4−ペンチルベンゾイル基、4−ヘキシルベンゾイル基、4−ヘプチルベンゾイル基、3,4−ジメトキシベンゾイル基、2,6−ジメトキシベンゾイル基、2,4−ジメトキシベンゾイル基、3,5−ジメトキシベンゾイル基、3,4,5−トリメトキシベンゾイル基、2,4,5−トリメトキシベンゾイル基、1−ナフトイル基、2−ナフトイル基、2−ビフェニルカルボニル基、又は4−ビフェニルカルボニル基である。
【0016】
さらに好ましくは、置換基Aは、ベンゾイル基、フェニルベンゾイル基、4−ヘプチルベンゾイル基、2,4,5−トリメトキシベンゾイル基、又は3,4,5−トリメトキシベンゾイル基である。
前記セルロースアシレートが有する置換基Aは、一種であっても二種以上であってもよい。
【0017】
前記セルロースアシレートは、芳香族基を含むアシル基(置換基A)以外のアシル基、具体的には脂肪族アシル基(置換基B)をさらに有していてもよい。
(脂肪族アシル基(置換基B)
本発明における脂肪族アシル基(置換基B)は、直鎖状、分岐状あるいは環状構造の脂肪族アシル基のいずれであってもよく、また不飽和結合を含む脂肪族アシル基であってもよい。好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜10、より好ましくは炭素数2〜4の脂肪族アシル基である。置換基Bの好ましい例としては、アセチル基、プロピオニル基、及びブチリル基であり、中でもアセチル基が好ましい。置換基Bをアセチル基とすることで、適度なガラス転移点(Tg)、弾性率などを有するフィルムが得られる。アセチル基等の炭素数が小さい脂肪族アシル基を有することにより、Tgおよび弾性率などを低下させずに、フィルムとして適切な強度を得ることができる。
前記置換基Bの置換度DSBは下記式(IV)を満たすことが好ましい
式(IV) 1.70≦DSB≦2.89
置換基Bの置換度(DSB)は、より好ましくは、1.70〜2.80、更に好ましくは1.75〜2.80である。当該範囲とすることにより、原料となるジアセチルセルロースの溶解性を高く保つことができ、合成が容易となり好ましい。
【0018】
以下に、本発明に使用可能なセルロースアシレートの具体例を示すが、以下の例に限定されるものではない。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
前記セルロースアシレートは、セルロースを原料として生物的あるいは化学的に、少なくとも芳香族基を含むアシル基(置換基A)を導入して得られるセルロース骨格を有する化合物である。
セルロースアシレートの原料綿は、綿花リンタ、木材パルプ(広葉樹パルプ、針葉樹パルプ)などの天然セルロースはもとより、微結晶セルロースなど木材パルプを酸加水分解して得られる重合度の低い(重合度100〜300)セルロースでも使用することができ、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」(丸澤、宇田著、日刊工業新聞社、1970年発行)や発明協会公開技報2001−1745(7頁〜8頁)及び「セルロースの事典(523頁)」(セルロース学会編、朝倉書店、2000年発行)に記載のセルロースを用いることができ、特に限定されるものではない。
【0022】
本発明に用いられるセルロースアシレートは、例えばアルドリッチ社製セルロースアセテート(アセチル置換度2.45)、もしくはダイセル社製セルロースアセテート(アセチル置換度2.41(商品名:L−70)、2.19(商品名:FL−70))、1.76(商品名:LL−10)を出発原料として、対応する酸クロリドとの反応により得ることができる。通常、一部の水酸基がアセチル基で置換されたセルロースアセテートを出発原料として、塩化ベンゾイル等の酸クロリドを反応させて、置換基Aを導入すると、6位に優先的に導入される。2位及び3位に優先的に置換基Aが置換したセルロースアシレートを得るためには、一旦、セルロースアセテートを塩基条件下で脱アセチル化処理し、2位及び3位のアセチル基を優先的に脱離させ、その後、酸クロリドでアシル化すると、置換基Aが2位及び3位に優先的に導入され、且つ置換基Bとしてアセチル基を主に6位に有するセルロースアシレートが得られる。脱アセチル化は、例えば、アミンと水の存在下で進行させることができる。出発原料であるセルロースアセテートのアセチル置換度や、脱アセチル化処理の条件、及び置換基Aの導入条件を調整することで、前記式(I)及び(II)を満足するセルロースアシレートを製造することができる。
【0023】
前記セルロースアシレートの粘度平均重合度については特に制限はないが、80〜700が好ましく、90〜500が更に好ましく、100〜500がより更に好ましい。平均重合度を500以下とすることにより、セルロースアシレートのドープ溶液の粘度が高くなり過ぎず、流延によるフィルム製造が容易になる傾向にある。また、重合度を140以上とすることにより、作製したフィルムの強度がより向上する傾向にあり好ましい。平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫著、「繊維学会誌」、第18巻、第1号、105〜120頁、1962年)により測定できる。具体的には、特開平9−95538号公報に記載の方法に従って測定することができる。
【0024】
[セルロースアシレート組成物]
次に、本発明に利用可能なセルロースアシレート組成物について説明する。
本発明のセルロースアシレートフィルムの作製に利用するセルロースアシレート組成物は、前記セルロースアシレートの少なくとも一種を含有する。
前記セルロースアシレート組成物は、前記セルロースアシレートを組成物全体の70質量%〜100質量%含むことが好ましく、より好ましくは80質量%〜100質量%含み、さらに好ましくは90質量%〜100質量%含む。
【0025】
前記セルロースアシレート組成物は、粒子状、粉末状、繊維状、塊状、溶液、溶融物など種々の形状を取ることができる。
フィルム製造の原料としては粒子状又は粉末状であることが好ましいことから、乾燥後のセルロースアシレート組成物は、粒子サイズの均一化や取り扱い性の改善のために、粉砕や篩がけを行ってもよい。
【0026】
本発明において、セルロースアシレートは1種類のみを用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。また、セルロースアシレート以外の高分子成分や、各種添加剤を適宜混合することもできる。混合される成分はセルロースアシレートとの相溶性に優れるものが好ましく、フィルムにしたときの透過率が好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは92%以上となるようにすることが好ましい。
【0027】
本発明においてセルロースアシレートには、一般的にセルロースアシレートに添加可能な種々の添加剤(例えば、紫外線防止剤、可塑剤、劣化防止剤、微粒子、光学特性調整剤等)を加えて組成物とすることができる。また、前記セルロースアシレートへの添加剤の添加時期は、ドープ作製工程の何れにおいて添加してもよく、また、ドープ調製工程の最後に調製工程としてこれらの添加剤を添加してもよい。
【0028】
[セルロースアシレートフィルム]
本発明は、前記セルロースアアシレートの少なくとも一種を含有する組成物より形成されたセルロースアシレートフィルムに関する。
本発明のセルロースアシレートフィルム中には、前記セルロースアシレートを好ましくは50質量%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは95%以上含む。
【0029】
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法は、特に限定されるものではないが、以下に記載する溶融製膜法又は溶液製膜法により製造することが好ましい。溶液製膜法による製造がより好ましい。溶融製膜法および溶液製膜法ともに、一般的に行われている方法と同様に、本発明のセルロースアシレートフィルムを製造することができる。例えば、溶融製膜に関しては、特開2006−348123号公報を、溶液製膜に関しては、特開2006−241433号公報を参照し、製造することができる。
【0030】
<溶液製膜>
本発明のセルロースアシレートフィルムを溶液製膜法により製造する場合の好ましい形態について説明する。
溶液製膜法では、セルロースアシレートの溶液を調製し、該溶液を支持体表面に流延し、製膜する。前記セルロースアシレート溶液の調製に用いる溶媒については、特に限定されない。好ましい溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、テトラクロロエチレンなどの塩素系有機溶剤、ならびに非塩素系有機溶媒を挙げることができる。前記非塩素系有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエステル、ケトン、エーテルから選ばれる溶媒が好ましい。エステル、ケトン及び、エーテルは、環状構造を有していてもよい。エステル、ケトン及びエーテルの官能基(すなわち、−O−、−CO−及び−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、主溶媒として用いることができ、たとえばアルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する主溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。炭素原子数が3〜12のエステル類の例としては、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル及び酢酸ペンチルが挙げられる。炭素原子数が3〜12のケトン類の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン及びメチルシクロヘキサノンが挙げられる。炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソール及びフェネトールが挙げられる。2種類以上の官能基を有する有機溶媒の例としては、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノール及び2−ブトキシエタノールが挙げられる。
【0031】
前記セルロースアシレート溶液の調製時には、セルロースアシレートは、有機溶媒に10〜35質量%溶解させることが好ましい。より好ましくは13〜30質量%であり、特に好ましくは15〜28質量%である。このような濃度のセルロースアシレート溶液は、セルロースアシレートを溶媒に溶解する際に所定の濃度になるようにして調製してもよいし、また予め低濃度溶液(例えば9〜14質量%)を調製した後に、濃縮工程により上記濃度の溶液として調製してもよい。さらに、予め高濃度のセルロースアシレート溶液を調製した後に、種々の添加物を添加することで上記濃度のセルロースアシレート溶液として調製してもよい。
【0032】
前記セルロースアシレート溶液(ドープ)の調製については、その溶解方法は特に限定されず、室温でもよく、さらには冷却溶解法あるいは高温溶解方法、さらにはこれらの組み合わせで実施してもよい。これらに関しては、例えば特開平5−163301号、特開昭61−106628号、特開昭58−127737号、特開平9−95544号、特開平10−95854号、特開平10−45950号、特開2000−53784号、特開平11−322946号、特開平11−322947号、特開平2−276830号、特開2000−273239号、特開平11−71463号、特開平04−259511号、特開2000−273184号、特開平11−323017号、特開平11−302388号等の各公報にセルロースアシレート溶液の調製法、が記載されていて、本発明においてもこれらの技術を利用することができる。これらの詳細は、特に非塩素系溶媒系の溶媒を用いた調製方法については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)22頁〜25頁に詳細に記載されている。さらに、セルロースアシレート溶液の調製の過程で、溶液濃縮,ろ過等の処理が行われてもよく、それらについては、同様に発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)25頁に詳細に記載されている。なお、高温度で溶解する場合は、使用する有機溶媒の沸点以上の場合がほとんどであり、その場合は加圧状態で用いられる。
【0033】
(溶液製膜の具体的方法)
本発明のセルロースアシレートフィルムを製造する方法及び設備として、従来セルロースアシレートフィルム製造に供する溶液流延製膜方法及び溶液流延製膜装置を用いることができる。溶解機(釜)から調製されたドープ(セルロースアシレート溶液)を貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製をする。ドープをドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延され、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離する。得られるウェブの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して乾燥し、続いて乾燥装置のロール群で搬送し乾燥を終了して巻き取り機で所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせはその目的により変わる。ハロゲン化銀写真感光材料や電子ディスプレイ用機能性保護膜に用いる溶液流延製膜方法においては、溶液流延製膜装置の他に、下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層等のフィルムへの表面加工のために、塗布装置が付加されることが多い。これらの各製造工程については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)25頁〜30頁に詳細に記載され、流延(共流延を含む),金属支持体,乾燥,剥離,延伸などに分類される。
【0034】
<セルロースアシレートフィルムの処理>
(延伸)
以上のようにして、溶融製膜法あるいは溶液製膜法等によって製造した本発明のセルロースアシレートフィルムに、さらに延伸処理を施すのが好ましい。
延伸は製膜工程中、オン−ラインで実施してもよく、製膜完了後、一度巻き取った後オフ−ラインで実施してもよい。すなわち、溶融製膜の場合、延伸は製膜中の冷却が完了しない実施してもよく、冷却終了後に実施してもよい。
延伸はTg〜(Tg+50℃)で実施するのが好ましく、より好ましくは(Tg)〜(Tg+40℃)、特に好ましくは(Tg)〜(Tg+30℃)である。好ましい延伸倍率は0.1%〜300%、さらに好ましくは10%〜200%、特に好ましくは30%〜100%である。これらの延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。ここでいう延伸倍率は、以下の式を用いて求めたものである。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
【0035】
このような延伸は縦延伸、横延伸、及びこれらの組み合わせによって実施される。縦延伸は、(1)ロール延伸(出口側の周速を速くした2対以上のニップロールを用いて、長手方向に延伸、自由端延伸ともいう)、(2)固定端延伸(フィルムの両端を把持し、これを長手方向に次第に早く搬送し長手方向に延伸)、等を用いることができる。さらに横延伸は、テンター延伸(フィルムの両端をチャックで把持しこれを横方向(長手方向と直角方向)に広げて延伸)、等を使用することができる。これらの縦延伸、横延伸は、それだけで行なってもよく(1軸延伸)、組み合わせて行ってもよい(2軸延伸)。2軸延伸の場合、縦、横逐次で実施してもよく(逐次延伸)、同時に実施してもよい(同時延伸)。
縦延伸、横延伸の延伸速度は10%/分〜10000%/分が好ましく、より好ましくは20%/分〜1000%/分、特に好ましくは30%/分〜800%/分である。多段延伸の場合、各段の延伸速度の平均値を指す。
【0036】
このような延伸に引き続き、縦又は横方向に0%〜10%緩和することも好ましい。さらに、延伸に引き続き、150℃〜250℃で1秒〜3分熱固定することも好ましい。
このようにして延伸した後の膜厚は10〜300μmが好ましく、20μm〜200μmがより好ましく、30μm〜100μmが特に好ましい。
【0037】
また製膜方向(長手方向)と、フィルムのReの遅相軸とのなす角度θが0°、+90°もしくは−90°に近いほど好ましい。即ち、縦延伸の場合は0°に近いほどよく、0±3°が好ましく、より好ましくは0±2°、特に好ましくは0±1°である。横延伸の場合は、90±3°又は−90±3°が好ましく、より好ましくは90±2°又は−90±2°、特に好ましくは90±1°又は−90±1°である。
【0038】
流延から剥取までの間にフィルムの長手方向にかかったテンションによりReが生じた場合、テンターで幅方向に延伸を行なうことでReを0に近づけることもできる。この場合、好ましい延伸倍率は0.1%〜20%、さらに好ましくは0.5%〜10%、特に好ましくは1%〜5%である。
また延伸処理は、製膜工程の途中で行ってもよいし、製膜して巻き取った原反を延伸処理してもよい。前者の場合には残留溶媒を含んだ状態で延伸を行ってもよく、残留溶媒量が2〜30質量%で好ましく延伸することができる。
【0039】
乾燥後得られる、セルロースアシレートフィルムの厚さは、使用目的によって異なり、5〜500μmの範囲であることが好ましく、20〜300μmの範囲であることがより好ましく、30〜150μmの範囲であることがさらに好ましい。また、光学用、特にVA液晶表示装置用としては、40〜110μmであることが好ましい。フィルム厚さの調整は、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、金属支持体速度等を調節すればよい。
【0040】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、長尺状に製膜してもよい。例えば、幅0.5〜3m(好ましくは0.6〜2.5m、さらに好ましくは0.8〜2.2m)、長さ1ロール当たり100〜10000m(好ましくは500〜7000m、さらに好ましくは1000〜6000m)で巻き取られた長尺状のフィルムとして製造することができる。巻き取る際、少なくとも片端にナーリングを付与するのが好ましく、ナーリングの幅は3mm〜50mmが好ましく、より好ましくは5mm〜30mm、高さは0.5〜500μmが好ましく、より好ましくは1〜200μmである。これは片押しであっても両押しであってもよい。
【0041】
上述の未延伸又は延伸セルロースアシレートフィルムは単独で使用してもよく、これらと偏光板を組み合わせて使用してもよく、これらの上に液晶層や屈折率を制御した層(低反射層)やハードコート層を設けて使用してもよい。
【0042】
[セルロースアシレートフィルムの光学特性]
本明細書において、Re(λ)及びRth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーション(nm)及び厚さ方向のレターデーション(nm)を表す。Re(λ)はKOBRA 21ADH又はWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。
【0043】
測定されるフィルムが1軸又は2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADH又はWRが算出する。
尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(11)及び式(12)よりRthを算出することもできる。
【0044】
【数1】

【0045】
注記:
式中、Re(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値をあらわす。
nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。dは膜厚を表す。
【0046】
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。
【0047】
ここで平均屈折率の仮定値は、ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示すると、セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)などが挙げられる。
これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHによりnx、ny、nzを算出することができる。
【0048】
本発明のセルロースアシレートフィルムのRe及びRthは、総置換度、置換基の2位、3位、及び6位の置換度分布や延伸倍率によって調整することができる。本発明のセルロースアシレートフィルムは、置換基Aの置換度が前記式(I)及び(II)を満足するセルロースアシレートを含んでいるので、延伸処理を施すことにより、Reの絶対値を大きく、Rthの絶対値が小さくなる。具体的には、本発明のセルロースアシレートフィルムは、Reが120〜400nm程度、Rthが−40〜30nm程度、及びNz値が0.5程度(具体的には0.25〜0.65)の特性を示すフィルムとなり得る。但し、本発明のセルロースアシレートフィルムの光学特性は、この範囲に限定されるものではない。
また、本発明のセルロースアシレートフィルムは、前記式(I)及び(II)を満足するとともに、全置換度が前記式(III)を満足するセルロースアシレートを用いるので、上記光学特性を満足するとともに、Rthの湿度依存性が小さいフィルムとなる。具体的には、25℃80%RHにおける波長590nmの光に対するRthと25℃10%RHにおける波長590nmの光に対するRthの差であるΔRthは、10〜25nm程度であり、Rthの湿度依存性が小さい。
【0049】
また、フィルムの幅方向のRe(590)値のばらつきは、±5nmであることが好ましく、±3nmであることがより好ましい。また幅方向のRth(590)値のバラツキは±10nmが好ましく、±5nmであることがより好ましい。また、長さ方向のRe値、及びRth値のバラツキも、幅方向のバラツキの範囲内であることが好ましい。
【0050】
本発明のセルロースアシレートフィルムを延伸してなるフィルムの一例は、面内の遅相軸が延伸方向と垂直な方向にあるフィルムである。延伸後の面内遅相軸の方向は、そのセルロースアシレートフィルムの作製に利用したセルロースアシレートのDS、及びDSA2+DSA3−DSA6の値に影響され、具体的には、セルロースアシレートのDSが高く、且つDSA2+DSA3−DSA6が大きい(即ち、DSA6が小さい)と、作製されたセルロースアシレートフィルムを延伸すると、その延伸フィルムの面内遅相軸は、延伸方向と垂直な方向になる傾向がある。従って、本発明のセルロースアシレートフィルムを延伸すると、延伸後のフィルムの面内遅相軸は、延伸方向と直交する方向になるであろう。但し、この態様に限定されるものではない。なおフィルムの面内の遅相軸の方向は、KOBRA 21ADHによって検出することができる。
【0051】
[平衡含水率]
含水率の測定法は、本発明のセルロースアシレートフィルム試料7mm×35mmを水分測定器、試料乾燥装置(アクアカウンターAQ−200、LE−20S、共に平沼産業(株))にてカールフィッシャー法で測定する。水分量(g)を試料質量(g)で除して算出する。
【0052】
本発明のセルロースアシレートフィルムの平衡含水率は、25℃80%RHにおける平衡含水率が0〜10%であることが好ましい。0.1〜7%であることがより好ましく、0.3〜5%であることが特に好ましい。10%以上の平衡含水率であると、光学補償フィルムの支持体として用いる際にレターデーションの湿度変化による依存性が大きく、光学補償性能が低下するため好ましくない。
【0053】
[ヘイズ]
本発明のセルロースアシレートフィルムは、例えば、ヘイズ計(1001DP型、日本電色工業(株)社製)を用いて測定した値が0.1以上0.8以下であることが好ましく、0.1以上0.7以下であることがより好ましく、0.1以上0.60以下であることが特に好ましい。前記範囲にヘイズを制御することにより、光学補償フィルムとして液晶表示装置に組み込んだ際に高コントラスの画像が得られる。
【0054】
(光弾性係数)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、偏光板保護フィルム、又は位相差板として使用されることが好ましい。偏光板保護フィルム、又は位相差板として使用した場合には、吸湿による伸張、収縮による応力により複屈折(Re,Rth)が変化する場合がある。このような応力に伴う複屈折の変化は光弾性係数として測定できるが、その範囲は、5×10-7(cm2/kgf)〜30×10-7(cm2/kgf)が好ましく、6×10-7(cm2/kgf)〜25×10-7(cm2/kgf)がより好ましく、7×10-7(cm2/kgf)〜20×10-7(cm2/kgf)であることが特に好ましい。
【0055】
(セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度)
セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度の測定はJIS規格K7121記載の方法により行うことができる。なお、本明細書において、ガラス転移温度(Tg)は、JIS規格K7121記載の方法により測定された値のことを表す。
本発明のセルロースアシレートフィルムのガラス転移温度は80℃以上300℃以下が好ましく、100℃以上250℃以下がさらに好ましい。ガラス転移温度は可塑剤、溶剤等の低分子化合物を含有させることにより低下させることが可能である。
【0056】
(表面処理)
未延伸、又は、延伸後のセルロースアシレートフィルムは、場合により表面処理を行うことによって、セルロースアシレートフィルムと各機能層(例えば、下塗層及びバック層)との接着の向上を達成することができる。例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸又はアルカリ処理を用いることができる。
【0057】
[位相差フィルム]
本発明のセルロースアシレートフィルムは位相差フィルムとして用いることができる。
また、本発明のセルロースアシレートフィルムに、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁〜45頁に詳細に記載されている機能性層を組み合わせることが好ましい。中でも好ましいのが、偏光膜の付与(偏光板の形成)、液晶組成物からなる光学補償層の付与(光学補償フィルム)、反射防止層の付与(反射防止フィルム)である。
[光学補償フィルム]
本発明のセルロースアシレートフィルムは、液晶表示装置の光学補償に利用することができる。本発明のセルロースアシレートフィルムが、光学補償に必要な光学特性を満足する場合は、そのまま光学補償フィルムとして利用することができる。また、光学補償に必要な光学特性を満足するために、他の一以上の層、例えば液晶組成物を硬化して形成した光学異方性層、又は他の複屈折性ポリマーフィルムからなる層と積層してから、光学補償フィルムとして利用することもできる。
【0058】
[反射防止フィルム]
また、本発明は、本発明のセルロースアシレートフィルムと、反射防止層とを有する反射防止フィルムにも関する。反射防止フィルムは通常の製造方法に基づき製造することができ、例えば、特開2006−241433号公報を参照し、製造することができる。
【0059】
[偏光板]
本発明は、偏光膜と該偏光膜を挟持する2枚の保護フィルムとからなる偏光板であって、2枚の保護フィルムの少なくとも一方が、本発明のセルロースアシレートフィルムである偏光板にも関する。該セルロースアシレートフィルムは、光学異方性層を有する光学補償フィルムの一部として、また反射防止層を有する反射防止フィルムの一部として、偏光膜に貼り合せられていてもよい。他の層を有する場合も、本発明のセルロースアシレートフィルムの表面が、偏光膜の表面に貼り合せられているのが好ましい。例えば、特開2006−241433号公報を参照し、製造することができる。
【0060】
[画像表示装置]
本発明は、本発明のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1枚含む画像表示装置にも関する。本発明のセルロースアシレートフィルムは、位相差フィルム又は光学補償フィルムとして、又は偏光板、光学補償フィルム及び反射防止フィルム等の一部として、表示装置に用いられる。
【0061】
<液晶表示装置>
本発明のセルロースアシレートフィルムは位相差フィルムとして、又はセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板、光学補償フィルムもしくは反射防止フィルムとして、液晶表示装置に組み込むことができる。液晶表示装置としては、TN型、IPS型、FLC型、AFLC型、OCB型、STN型、ECB型、VA型及びHAN型の表示装置が挙げられ、好ましくはIPS型である。また、本発明のセルロースアシレートフィルムは、透過型、反射型、半透過型のいずれの液晶表示装置にも用いることができる。
【0062】
IPSモードの液晶表示装置に本発明のセルロースアシレートフィルムを用いる場合は、液晶セルと表示面側偏光板もしくはバックライト側偏光板との間に一枚配置するのが好ましい。また、表示面側偏光板もしくはバックライト側偏光板の保護フィルムとしても機能させ、偏光板の一部材として液晶表示装置内に組み込み、液晶セルと偏光膜との間に配置してもよい。本発明のセルロースアシレートフィルムを一枚上記位置に配置することで、IPSモードの液晶表示装置の表示特性を改善、特に、黒表示時の斜め方向をカラーシフト軽減、することができる。IPSモード液晶表示装置の光学補償に利用する態様では、本発明のセルロースアシレートフィルムのRthは、−40nm〜30nmであることが好ましく、Reは120nm〜400nmであることが好ましい。また、Nz値は0.5程度であるのが好ましく、具体的には、Nz値は0.25〜0.65であるのが好ましい。本態様では、本発明のセルロースアシレートフィルムを、その面内遅相軸を表示面側偏光膜(又はバックライト側偏光膜)の吸収軸と平行もしくは直交にして配置するのが好ましい。
【0063】
本態様では、表示面側偏光膜及びバックライト側偏光膜と液晶セルとの間には、前記セルロースアシレートフィルム以外の位相差層が存在していないのが好ましい。従って、例えば、表示面側偏光板又はバックライト側偏光板が、前記セルロースアシレートフィルム以外の偏光膜用保護フィルムを有し、該保護フィルムが、液晶セルと表示面側偏光膜又はバックライト側偏光膜との間に配置される場合は、該保護フィルムには、Re及びRthの双方がほとんど0である等方性のポリマーフィルムを用いるのが好ましく、その様なポリマーフィルムとしては、特開2006−030937号公報等に記載のセルロースアシレートフィルムが好ましく用いられる。
【実施例】
【0064】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
【0065】
(合成例1:例示化合物A−1の合成)
メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた5Lの三ツ口フラスコに置換度2.15のアセチルセルロースを200g、アセトン2L、ピリジン132mLを量り取り、室温で攪拌した。ここに塩化ベンゾイル190mLをゆっくりと滴下し、滴下後さらに60℃にて5時間攪拌した。反応後、室温に戻るまで放冷し、反応溶液をメタノール10Lへ激しく攪拌しながら投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量のメタノールで3回洗浄を行った。得られた白色固体を60℃で終夜乾燥した後、90℃で6時間真空乾燥することにより目的の例示化合物A−1を白色粉体として230g得た。平均重合度は270であった。
【0066】
(合成例2:例示化合物A−2の合成)
先の例示化合物A−1の製造において、ピリジン132mLを146mLに、塩化ベンゾイル190mLを210mLに変更する以外は同様にして、目的のA−2を白色粉体として250g得た。平均重合度は275であった。
【0067】
(合成例3:例示化合物A−3の合成)
先の例示化合物A−1の製造においてピリジン132mLを160mLに、塩化ベンゾイル190mLを230mLに変更する以外は同様にして、目的のA−3を白色粉体として270g得た。平均重合度は272であった。
【0068】
(合成例4:例示化合物A−5の合成)
先の例示化合物A−1の製造において、ピリジン132mLを128mLに、塩化ベンゾイル190mLを4−フェニルベンゾイルクロリド(和光純薬)392mLに変更する以外は同様にして、目的のA−5を白色粉体として290g得た。平均重合度は273であった。
【0069】
(合成例5:例示化合物A−35の合成)
先の例示化合物A−1の製造において、ピリジン132mLを146mLに、塩化ベンゾイル190mLをフェニルベンゾイルクロリド(和光純薬)228gに変更する以外は同様にして、目的のA−35を白色粉体として270g得た。平均重合度は275であった。
【0070】
(合成例6:例示化合物A−37の合成)
メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた5Lの三ツ口フラスコに置換度1.76のアセチルセルロースを100g、ピリジン1000mLを量り取り、室温で攪拌した。ここに塩化ベンゾイル42mLをゆっくりと滴下し、滴下後さらに60℃にて5時間攪拌した。反応後、室温に戻るまで放冷し、反応溶液をメタノール10Lへ激しく攪拌しながら投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量のメタノールで3回洗浄を行った。得られた白色固体を60℃で終夜乾燥した後、90℃で6時間真空乾燥することにより、目的の例示化合物A−37を白色粉体として105g得た。平均重合度は110であった。
【0071】
(合成例7:例示化合物A−38の合成)
先の例示化合物A−37の製造において、塩化ベンゾイル42mLを43mLに変更する以外は同様にして、目的のA−38を白色粉体として108g得た。平均重合度は112であった。
【0072】
(合成例8:例示化合物A−39の合成)
先の例示化合物A−37の製造において、塩化ベンゾイル42mLを44mLに変更する以外は同様にして、目的のA−39を白色粉体として109g得た。平均重合度は110であった。
【0073】
(合成例9:例示化合物A−40の合成)
先の例示化合物A−37の製造において、塩化ベンゾイル42mLを45mLに変更する以外は同様にして、目的のA−40を白色粉体として110g得た。平均重合度は110であった。
【0074】
(合成例10:例示化合物A−41の合成)
先の例示化合物A−37の製造において、塩化ベンゾイル42mLを46mLに変更する以外は同様にして、目的のA−41を白色粉体として110g得た。平均重合度は118であった。
【0075】
(合成例11:例示化合物A−43の合成)
先の例示化合物A−37の製造において、塩化ベンゾイル42mLを47mLに変更する以外は同様にして、目的のA−43を白色粉体として112g得た。平均重合度は119であった。
【0076】
(合成例12:比較化合物B−1の合成)
特開2006−328298号公報に記載の方法で合成した。メカニカルスターラーをつけた5Lの三ツ口フラスコに、セルロースを100g、水100mLを量り取り、一晩攪拌し、水を減圧濾過した。得られたスラリーに400mLのメタノール(和光純薬)を加え、室温で1時間攪拌後、減圧濾過する操作を2回行った。さらに得られたスラリーに400mLのジメチルアセトアミド(和光純薬)を加え、室温で1時間攪拌後、減圧濾過する操作を3回行い、活性化されたセルロースを得た。メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた5Lの三ツ口フラスコに、ジメチルアセトアミド1000mL、塩化リチウム(和光純薬)を量り取り、80℃で溶解後した。40℃に冷却後、活性化されたセルロースを加え、1時間攪拌した。室温まで冷却し、酢酸(和光純薬)93g、安息香酸(和光純薬)38g、ジシクロへキシルカルボジイミド(和光純薬)380g、4−ジメチルアミノピリジン(和光純薬)130g、ジメチルアミノピリジウム p−トルエンスルホン酸塩(東京化成)130gを加え、24時間攪拌した。反応後、室温に戻るまで放冷し、反応溶液を水5Lへ激しく攪拌しながら投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量のメタノールで3回洗浄を行った。得られた白色固体を60℃で終夜乾燥した後、90℃で6時間真空乾燥することにより目的の比較化合物B−1を白色粉体として90g得た。平均重合度は250であった。
【0077】
(合成例13:比較化合物B−2の合成)
先の中間体化合物B−1の製造において、酢酸93gを89gに、安息香酸38gを226gに、ジシクロへキシルカルボジイミド(和光純薬)380gを420gに変更する以外は同様にして、比較化合物B−2を130g得た。平均重合度は250であった。
【0078】
(合成例14:中間体化合物C−1の合成)
メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた5Lの三ツ口フラスコに2.93のアセチルセルロース200g、ジメチルスルホキシド4000mL、水80mLを量り取り、60℃にて20時間攪拌した。反応後、室温に戻るまで放冷し、反応溶液をメタノール10Lへ激しく攪拌しながら投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量のメタノールで3回洗浄を行った。得られた白色固体を60℃で終夜乾燥した後、90℃で6時間真空乾燥することにより目的の中間体化合物C−1を白色粉体として182g得た
【0079】
(合成例15:比較化合物B−3の合成)
メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた3Lの三ツ口フラスコに先の反応で得られた中間体化合物C−1を40g、ピリジン400mLを量り取り、室温で攪拌した。ここに塩化ベンゾイル85mLをゆっくりと滴下し、滴下後さらに70℃にて5時間攪拌した。反応後、室温に戻るまで放冷し、反応溶液をメタノール10Lへ激しく攪拌しながら投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量のメタノールで3回洗浄を行った。得られた白色固体を60℃で終夜乾燥した後、90℃で6時間真空乾燥することにより目的の比較化合物B−3を白色粉体として45g得た。平均重合度は316であった。
【0080】
[実施例1:セルロースアシレートフィルムの作製]
下記表に示すセルロースアシレートのそれぞれを用いて、以下の方法により下記表に示すセルロースアシレートフィルムをそれぞれ作製した。
<セルロースアシレート溶液の調製1>
下記の原料をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、溶解し、セルロースアシレート溶液を有する溶液を調製した。
下記表に示すセルロースアシレート 100質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 500質量部
【0081】
<セルロースアシレート溶液の調製2>
下記の原料をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、溶解し、セルロースアシレート溶液を有する溶液を調製した。
下記表に示すセルロースアシレート 100質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 402質量部
メタノール(第2溶媒) 60質量部
【0082】
<セルロースアシレートフィルム試料の作製>
セルロースアシレート溶液組成の溶液562質量部を、バンド流延機を用いて流延した。残留溶剤量が15質量%のフィルムを、ガラス転移温度+25℃の温度で、下記表に示す延伸倍率で、固定端一軸延伸あるいは自由端一軸延伸して、下記表に示すセルロースアシレートフィルムのそれぞれを作製した。以下、特に断りがなければ、作製したフィルムの厚さはすべて80μmである。
【0083】
<セルロースアシレートフィルム試料の評価>
フィルム試料の評価については、上記で得られた各フィルム試料の一部(120mm×120mm)を準備し、レターデーション値については"KOBRA 21ADH"(王子計測機器(株)社製)により、波長550nmの光に対するRe、及びRthを測定した。結果を下記表に示す。
【0084】
【表3】

*1:セルロースアシレートの置換基AのDSA2+DSA3+DSA6の値
*2:セルロースアシレートの置換基AのDSA2+DSA3−DSA6の値
*3:実施例の延伸フィルム及び比較例SB-3の面内遅相軸は、延伸方向と垂直な方向。比較例SB-1およびSB-2の面内遅相軸は延伸方向。
【0085】
表2の結果から、本発明の実施例のセルロースアシレートフィルム(SA−1〜22)は、Reの絶対値が大きく、Rthの絶対値が小さく、Nz値が0.5程度であったことが理解できる。同様に置換基Aを有しているが、DSA2+DSA3−DSA6又はDSA2+DSA3+DSA6の値が本発明の範囲外である、即ち、前記式(I)又は(II)を満足しない、セルロースアシレートを用いて作製した比較例のフィルム(SB−1〜SB−3)は、Rthの絶対値が大きく、Nz値も0.5と大きく異なる値となった。
【0086】
[実施例2:IPSモード液晶表示装置の作製]
(偏光板の作製)
1)フィルムの鹸化
実施例および比較例で作製したSA−7、SA−12〜18、SA−20、SB−1〜3、フジタックTF80UL(富士フイルム(株)製:以下「タックA」という)、及びフジタックT40UZ(富士フイルム(株)製:以下「タックB」という)を55℃に調温した1.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(けん化液)に2分間浸漬した後、フィルムを水洗し、その後、0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、さらに水洗浴を通した。そして、エアナイフによる水切りを3回繰り返し、水を落とした後に70℃の乾燥ゾーンに15秒間滞留させて乾燥し、鹸化処理したフィルムを作製した。
【0087】
2)偏光膜の作製
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸し、厚み20μmの偏光膜を調製した。
【0088】
3)貼り合わせ
このようにして得た偏光膜と、前記鹸化処理したフィルムのうちから2枚選び(それぞれフィルムA、フィルムBとし、下記表5に組み合せを記載した。)、フィルムの鹸化面を偏光膜側に配置し、これらで前記偏光膜を挟んだ後、PVA((株)クラレ製、PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、偏光膜の吸収軸方向とフィルムの遅相軸方向とを直交にして貼り合わせて偏光板PSA−7、PSA−12〜18、PSA−20、及びPSB−1〜3を、ならびに偏光膜の吸収軸方向とフィルムの長手方向とを平行にして貼り合せて偏光板PSA−4〜6、8〜10、及びPSB−4〜6を、それぞれ作製した。
また、偏光板PSA−4〜6、8〜10、及びPSB−3〜6については、タックBの側に実施例および比較例で作製したSA−4〜6、8〜10、及びSB−1〜3を、フィルムCとして、下記表5に記載の組み合わせで、その遅相軸と偏光膜の吸収軸とを直交にして、粘着剤で貼り合せた。
【0089】
【表4】

【0090】
<IPSモード液晶表示装置への実装評価>
実施例の偏光板PSA−4〜10、PSA−12〜18、及びPSA−20を、IPS型液晶表示装置(37型ハイビジョン液晶テレビモニター(37Z2000)、(株)東芝製)に組み込まれていた視認側偏光板の代わりに、フィルムBおよびフィルムCが液晶セル側になるように組み込み、視認性を確認したところ、十分な視野角補償ができており、良好な視認性を確保できたことが確認できた。これに対し、比較例の偏光板PSB−1〜6を組み込んだ場合には、視野角補償が不十分であり、特に斜めから視認した際の光漏れが強く観測された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族基を含むアシル基(置換基A)を有し、且つ該置換基Aの置換度が下記式(I)及び式(II)を満足するセルロースアシレートの少なくとも一種を含有する組成物からなることを特徴とするセルロースアシレートフィルム:
式(I) −0.25≦DSA2+DSA3−DSA6≦0.20
式(II) 0.35≦DSA2+DSA3+DSA6
式中、DSA2、DSA3及びDSA6はそれぞれセルロースアシレートの2位、3位及び6位における置換基Aの置換度を表す。
【請求項2】
前記セルロースアシレートが、下記式(III)を満たすことを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム:
式(III) 2.5≦DS≦3.0
式(III)中、DSは総置換度を表す。
【請求項3】
前記セルロースアシレートが、脂肪族アシル基(置換基B)をさらに有することを特徴とする請求項1又は2に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項4】
前記置換基Bの置換度DSBが、下記式(IV)を満たすことを特徴とする請求項3に記載のセルロースアシレートフィルム:
式(IV) 1.70≦DSB≦2.89 。
【請求項5】
前記置換基Bが、炭素数2〜4の脂肪族アシル基であることを特徴とする請求項3又は4に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項6】
前記置換基Bが、アセチル基であることを特徴とする請求項5に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項7】
前記置換基Aが、ベンゾイル基、フェニルベンゾイル基、4−ヘプチルベンゾイル基、2,4,5−トリメトキシベンゾイル基、及び3,4,5−トリメトキシベンゾイル基から選択されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項8】
前記置換基Aがベンゾイル基であり、且つ下記式を満たすことを特徴とする請求項7に記載のセルロースアシレートフィルム:
−0.2≦DSA2+DSA3−DSA6≦0.2 。
【請求項9】
延伸フィルムであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムからなる位相差フィルム。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムからなる又は含む光学補償フィルム。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムと、反射防止層とを有する反射防止フィルム。
【請求項13】
偏光膜と、請求項1〜9のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムとを有する偏光板。

【公開番号】特開2009−235374(P2009−235374A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240150(P2008−240150)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】