説明

セルロースナノファイバーの製造方法

【課題】透明性に優れ、かつ低粘度の分散液を与えるセルロースナノファイバーを効率良く製造する方法を提供する。
【解決手段】(A)セルロース系原料を水酸化物イオン濃度が0.75〜3.75mol/Lの水中で処理する工程、(B)前記工程Aで得たセルロース系原料を、(a1)N−オキシル化合物、および(a2)臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、(a3)酸化剤を用いて酸化する工程、ならびに(C)前記工程Bで得たセルロース系原料を含む分散液を調製し、当該酸化セルロース系原料を解繊して分散媒中に分散し、ナノファイバー化する工程、を含む方法にてセルロースナノファイバーを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、効率のよいセルロースナノファイバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース系原料を2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシラジカル(以下、TEMPOと称する)と安価な酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムとの共存下で処理すると、セルロースのミクロフィブリルの表面にカルボキシル基を効率よく導入することができる。このカルボキシル基を導入したセルロース系原料を水中にてミキサー等で処理するとセルロースナノファイバー水分散液が得られることが知られている(非特許文献1、特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−001728号公報
【特許文献2】特開2010−235679号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Saito,T.,et al.,Cellulose Commun.,14(2),62(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、セルロースナノファイバーは分散液の状態で種々の用途に適用される。特に分散液を塗布して用いる場合等には、塗布膜中のセルロースナノファイバー量を多くする観点から、セルロースナノファイバーの分散液中のセルロースナノファイバー濃度は高いことが要求される。例えば、セルロースナノファイバーの分散液を基材に塗布して基材上にフィルムを形成させる場合、セルロースナノファイバー濃度が低いと塗布回数を増やさなければならず、作業効率が低下する。このため、高濃度の分散液を与えるセルロースナノファイバーが要求されている。しかしながら、従来の方法で得られたセルロースナノファイバーは低濃度であっても粘度が高い分散液を与えるので、この要求を満足できなかった。さらに、セルロースナノファイバーの分散液の透明度が高い場合は、光学用途への展開が期待できるが、従来の方法で得られたセルロースナノファイバーの分散液は透明性が十分でないという問題もあった。
【0006】
一方で、コスト低減のために効率のよいセルロースナノファイバーの製造方法も求められている。
上記を鑑み、本発明は、高透明度かつ低粘度の分散液を与えるセルロースナノファイバーを効率良く製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決する手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、N−オキシル化合物等を用いて酸化する前に、セルロース系原料を、水酸化物濃度が0.75〜3.75mol/Lの条件で処理することで前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、前記課題は以下の本発明によって解決される。
(A)セルロース系原料を水酸化物イオン濃度が0.75〜3.75mol/Lの水中で処理する工程、
(B)前記工程Aで得たセルロース系原料を、(a1)N−オキシル化合物、および(a2)臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、(a3)酸化剤を用いて酸化する工程、ならびに
(C)前記工程Bで得た酸化されたセルロース系原料を含む分散液を調製し、当該酸化セルロース系原料を解繊して分散媒中に分散し、ナノファイバー化する工程、を含む、セルロースナノファイバーの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高透明度かつ低粘度の分散液を与えるセルロースナノファイバーを効率良く製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書において「〜」は両端の値を含む。
1.セルロースナノファイバーの製造方法
本発明の製造方法は、(A)セルロース系原料を水酸化物濃度が0.75〜3.75mol/Lの水中で処理する工程、(B)前記工程Aで得たセルロース系原料を、(a1)N−オキシル化合物、および(a2)臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、(a3)酸化剤を用いて酸化する工程、ならびに(C)前記工程Bで得たセルロース系原料を含む分散液を調製し、当該酸化セルロース系原料を解繊して分散媒中に分散し、ナノファイバー化する工程、を含む。
【0010】
1−1.工程A
工程Aでは、セルロース系原料を水酸化物濃度が0.75〜3.75mol/Lの水中で処理する。
【0011】
(1)セルロース系原料
セルロース系原料とは、木材由来のクラフトパルプまたはサルファイトパルプ、それらを高圧ホモジナイザーやミル等で粉砕した粉末セルロース、あるいはそれらを酸加水分解などの化学処理により精製した微結晶セルロース粉末等である。またこの他に、ケナフ、麻、イネ、バカス、竹等の植物由来のセルロース系原料もできる。しかしながら、セルロース系原料中に広葉樹由来のリグニンが多く残留してしまうと当該原料の酸化反応を阻害する恐れがあるので、本発明においては、化学パルプの製造方法により得られたセルロース系原料が好ましい。リグニンをさらに除去するために、このようにして得られたセルロース系原料に公知の漂白処理を施すことがより好ましい。
【0012】
漂白処理方法としては、塩素処理(C)、二酸化塩素漂白(D)、アルカリ抽出(E)、次亜塩素酸塩漂白(H)、過酸化水素漂白(P)、アルカリ性過酸化水素処理段(Ep)、アルカリ性過酸化水素・酸素処理段(Eop)、オゾン処理(Z)、キレート処理(Q)などを組合せて、たとえば、C/D−E−H−D、Z−E−D−P、Z/D−Ep−D、Z/D−Ep−D−P、D−Ep−D、D−Ep−D−P、D−Ep−P−D、Z−Eop−D−D、Z/D−Eop−D、Z/D−Eop−D−E−Dなどのシーケンスで行なうことができる。シーケンス中の「/」は、「/」の前後の処理を洗浄なしで連続して行なうことを意味する。セルロース原料中のリグニン量は少ないことが好ましく、パルプ化処理および漂白処理を用いて得られたセルロース原料(漂白済みクラフトパルプ、漂白済みサルファイトパルプ)は、白色度(ISO 2470)が80%以上であることがより好ましい。
【0013】
また、粉末セルロース、または微結晶セルロース粉末をセルロース系原料として用いると、高濃度であってより低粘度の分散液を与えるセルロースナノファイバーを製造できるので好ましい。粉末セルロースとは、木材パルプの非結晶部分を酸加水分解処理で除去した後、粉砕・篩い分けすることで得られる微結晶性セルロースからなる棒軸状粒子である。粉末セルロースにおけるセルロースの重合度は100〜500程度であり、X線回折法による粉末セルロースの結晶化度は70〜90%であり、レーザー回折式粒度分布測定装置による体積平均粒子径は好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下である。体積平均粒子径が100μm以下であると、流動性に優れるセルロースナノファイバー分散液を得ることができる。粉末セルロースとしては、例えば、精選パルプを酸加水分解した後に得られる未分解残渣を精製・乾燥し、粉砕・篩い分けして製造される、棒軸状であって一定の粒径分布を有する結晶性セルロース粉末を使用できる。あるいは、KCフロック(登録商標)(日本製紙ケミカル社製)、セオラス(商標)(旭化成ケミカルズ社製)、アビセル(登録商標)(FMC社製)などの市販品を用いてもよい。
【0014】
(2)アルカリ処理
工程Aでは、水酸化物イオン濃度が0.75〜3.75mol/Lの水中で前記セルロース原料を処理する。以下、当該処理を単に「アルカリ処理」ともいう。アルカリ処理は、前記セルロース原料を水に分散させ、当該水分散液にアルカリを添加して水中の水酸化物イオン濃度を前記範囲に調整し、反応系を撹拌して行なうことができる。あるいはアルカリ処理は、予め調製された水酸化物イオン濃度の水に前記セルロース原料を分散させて行なうことができる。
【0015】
本発明ではアルカリ処理により、透明性に優れ、かつ低粘度の分散液を与えるセルロースナノファイバーを効率良く製造できるが、その機構は次のように考えられる。
一般にセルロース系原料は、セルロース分子間およびセルロース繊維間が水素結合を介して比較的強固に結合している。セルロース系原料をアルカリで処理すると、セルロース系原料が膨潤して水素結合が弱まり、セルロース分子間およびセルロース繊維間にやや大きな空隙が形成される。この空隙を介して次の工程Bで使用する酸化剤が浸透しやすくなり、セルロース系原料の酸化が促進される。また、特にセルロース系原料として漂白済みクラフトパルプまたは漂白済みサルファイトパルプを用いた場合は、アルカリによってセルロースミクロフィブリル表面を被覆しているヘミセルロースが溶出される。このためミクロフィブリル表面が露出して次の工程Bにおける酸化が促進される。これらの結果、セルロース原料の酸化反応性が高まり、酸化反応が短時間で進行し、かつ多くのカルボキシル基が導入される。このようにカルボキシル基量が多くなると、酸化されたセルロース系原料の解繊および分散媒体中への分散が容易となりナノ分散性が向上する。この結果、セルロースナノファイバー分散液の透明性が高くなる。さらに、工程Bにおいて酸化反応性が高くなるため、カルボキシル基が生成して局所的にpHが低下する部分が生じる。するとその場所では反応液中の次亜塩素酸ナトリウムから次亜塩素酸が生成する。次亜塩素酸はセルロースを酸化分解するので重合度低下が促進される。この結果、セルロースナノファイバーの分散液の粘度が著しく低下する。
【0016】
よって、工程Aにおける各条件は、前記効果を最大限に発揮するように選択される。工程Aで使用できるアルカリは水溶性であれば特に限定されず、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウムなどの無機アルカリ、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウムなどの有機アルカリ等が挙げられる。中でも、入手が容易で比較的安価である水酸化ナトリウムが好ましい。また、パルプ工場で生成する白液、緑液のような複数のアルカリやその他成分を含む水溶液を用いることもできる。
【0017】
前記水中の水酸化物イオン濃度は0.75〜3.75mol/Lであり、好ましくは1.25〜2.5mol/Lである。水酸化物イオン濃度が3.75mol/Lを超えるとアルカリが過剰となり、次の工程Bにおける酸化反応後にセルロース系原料が顕著に短繊維化してしまい洗浄が困難となる。また、水酸化物イオン濃度が3.75mol/Lを超える条件は、セルロース系原料をマーセル化してカルボキシメチルセルロースを製造する一般的な条件(水酸化ナトリウム濃度が15質量%以上)に相当するので、セルロース系原料の大部分がマーセル化してカルボキシメチルセルロースが生成する。マーセル化した原料は、次の工程Bにおける酸化反応によってポリセロウロン酸となり水に溶解してしまいセルロースナノファイバーを生成しない。一方、水酸化物イオン濃度が0.75mol/Lを下回るとアルカリ濃度が低く、ヘミセルロースの除去が不十分となる。
【0018】
アルカリ処理は大気圧下、加圧下、減圧下のいずれで実施してもよい。処理温度は0℃〜100℃が好ましく、10℃〜60℃がより好ましく、20℃〜40℃がさらに好ましい。処理時間は5分〜24時間が好ましく、15分〜12時間がより好ましく、30分〜6時間がさらに好ましい。セルロース系原料の濃度は、反応混合物中0.1〜50質量%が好ましく、1〜30質量%がより好ましく、2〜20質量%がさらに好ましい。
【0019】
次の工程Bでの副反応等を避ける観点から、工程Aで処理されたセルロース系原料は、中和および洗浄されることが好ましい。
【0020】
1−2.工程B
工程Bでは、前記工程Aで得たセルロース系原料を、(a1)N−オキシル化合物、および(a2)臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、(a3)酸化剤を用いて酸化する。
【0021】
(1)N−オキシル化合物(a1)
N−オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物である。本発明で用いるN−オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、本発明で使用されるN−オキシル化合物としては、下記一般式(式1)で示される化合物が挙げられる。
【0022】
【化1】

【0023】
式1中、R〜Rは、同一または異なって、炭素数1〜4程度のアルキル基を示す。
式1で表される物質のうち、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−オキシラジカル(以下TEMPOと称する)が好ましい。また、下記式2〜4のいずれかで表されるN−オキシル化合物、すなわち、4−ヒドロキシTEMPOの水酸基をアルコールでエーテル化、またはカルボン酸若しくはスルホン酸でエステル化し、適度な疎水性を付与した4−ヒドロキシTEMPO誘導体は、安価であり、かつ均一な酸化セルロースを得ることができるため、とりわけ好ましい。
【0024】
【化2】

【0025】
式2〜4中、Rは炭素数4以下の直鎖又は分岐状炭素鎖である。
さらに、下記式5で表されるN−オキシル化合物、すなわち、アザアダマンタン型ニトロキシラジカルは、短時間で、重合度の高いセルロースナノファイバーを製造できるので好ましい。
【0026】
【化3】

【0027】
式5中、R及びRは、同一または異なって、水素またはC〜Cの直鎖もしくは分岐鎖アルキル基を示す。
N−オキシル化合物の使用量は、セルロース系原料をナノファイバー化できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.01〜10mmolが好ましく、0.01〜1mmolがより好ましく、0.05〜0.5mmolがさらに好ましい。
【0028】
(2)臭化物またはヨウ化物(a2)
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.1〜100mmolが好ましく、0.1〜10mmolがより好ましく、0.5〜5mmolがさらに好ましい。
【0029】
(3)酸化剤(a3)
セルロース系原料の酸化の際に用いる酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などを使用できる。中でも、コストの観点から、現在工業プロセスにおいて最も汎用されている安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが特に好ましい。酸化剤の適切な使用量は、例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.5〜500mmolが好ましく、0.5〜50mmolがより好ましく、2.5〜25mmolがさらに好ましく、5〜20mmolが最も好ましい。
【0030】
(4)酸化反応条件
本工程は、比較的温和な条件であっても反応を効率よく進行させられる。よって、反応温度は15〜30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを9〜12、好ましくは10〜11程度に維持することが好ましい。反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。
【0031】
酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5〜6時間、好ましくは2〜6時間、さらに好ましくは4〜6時間程度である。しかしながら本発明においては、前述のとおり酸化時間を低減できるので、反応時間は30分以上120分が好ましく、30〜100分がより好ましく、30〜70分がさらに好ましい。
【0032】
また、酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、セルロース系原料に効率よくカルボキシル基を導入でき、セルロース系原料の酸化を促進することができる。
【0033】
本工程では、酸化されたセルロース系原料のカルボキシル基量が、セルロース系原料の絶乾質量に対して、1.0mmol/g以上となるように条件を設定することが好ましい。この場合のカルボキシル基量は、より好ましくは1.0mmol/g〜3.0mmol/g、さらに好ましくは1.4mmol/g〜3.0mmol/g、特に好ましくは1.5mmol/g〜2.5mmol/gである。カルボキシル基量は、酸化反応時間の調整、酸化反応温度の調整、酸化反応時のpHの調整、N−オキシル化合物や臭化物、ヨウ化物、酸化剤の添加量の調整などを行なうことにより調製できる。
【0034】
次の工程Cでの解繊を効率よく行なうために、工程Bで得た酸化されたセルロース系原料は洗浄されることが好ましい。
【0035】
1−3.工程C
工程Cでは、前記工程Bで得た酸化セルロース系原料を含む分散液を調製し、当該酸化セルロース系原料を解繊して前記分散媒中に分散し、ナノファイバー化する。「ナノファイバー化する」とは、セルロース系原料を、幅2〜5nm、長さ1〜5μm程度のセルロースのシングルミクロフィブリルであるセルロースナノファイバーへと加工することを意味する。分散液とは前記酸化セルロース系原料が分散媒に分散している液である。取扱い容易性から、分散媒は水であることが好ましい。
【0036】
当該酸化セルロース系原料を解繊して前記分散媒中に分散させるには、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの装置を用いて前記分散液に強力なせん断力を印加することが好ましい。特に、セルロースナノファイバーを効率よく得るには、前記分散液に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。この処理により、酸化セルロース系原料が解繊してセルロースナノファイバーが形成され、かつセルロースナノファイバーが分散媒中に分散する。
【0037】
前記処理に供する分散液中の酸化セルロース系原料濃度は、0.3%(w/v)以上であるが、好ましくは1〜2%(w/v)、より好ましくは3〜5%(w/v)である。
1−4.低粘度化処理
本発明では、セルロースナノファイバー分散液としたときの粘度を低下させて取扱い性を高めるために、工程Cの前に、工程Bで得た酸化されたセルロース系原料(以下単に「セルロース原料」ともいう)を低粘度化処理することが好ましい。低粘度化処理とは、酸化されたセルロース系原料のセルロース鎖を適度に切断(セルロース鎖を短繊維化)することである。このように処理された原料は分散液としたときの粘度が低くなるので、低粘度化処理とは、低粘度の分散液を与えるセルロース系原料を得る処理ともいえる。低粘度化処理は、セルロース系原料の粘度が低下するような処理であればよく、例えば、酸化されたセルロース系原料に紫外線を照射する処理、酸化されたセルロース系原料を過酸化水素およびオゾンで酸化分解する処理、酸化されたセルロース系原料を酸で加水分解する処理、ならびにこれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0038】
(1)紫外線照射
酸化されたセルロース系原料に紫外線を照射して低粘度化処理を行なう場合、紫外線の波長は、好ましくは100〜400nmであり、より好ましくは100〜300nmである。このうち、波長135〜260nmの紫外線は、直接セルロースやヘミセルロースに作用して低分子化を引き起こし、セルロース系原料を短繊維化することができるので特に好ましい。
【0039】
紫外線を照射する光源としては、100〜400nmの波長領域の光を照射できるものを使用できる。その具体例には、キセノンショートアークランプ、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ等が含まれ、これらの1種あるいは2種以上を任意に組合せて使用できる。特に波長特性の異なる複数の光源を組合せて使用すると、異なる波長の紫外線を同時に照射してセルロース鎖やヘミセルロース鎖の切断箇所を増加させられるので短繊維化を促進できる。
【0040】
紫外線照射を行なう際の酸化されたセルロース系原料を収容する容器としては、例えば、300nmより長波長の紫外線を用いる場合は、硬質ガラス製容器を用いることができるが、それより短波長の紫外線を用いる場合は、紫外線をより透過させる石英ガラス製容器を用いることが好ましい。容器における紫外線による反応に関与しない部分の材質は、紫外線の波長に対して劣化の少ない材質を適宜選択してよい。
【0041】
反応を効率よく行なうために、酸化されたセルロース系原料は分散媒に分散させて分散液とし、当該分散液に紫外線を照射することが好ましい。分散媒は、副反応を抑制する観点等から水が好ましい。エネルギー効率を高める観点から、分散液中のセルロースナノファイバー濃度は0.1質量%以上が好ましい。また紫外線照射装置内でのセルロース系原料の流動性を良好とし反応効率を高めるために、当該濃度は12質量%以下が好ましい。従って、当該濃度は0.1〜12質量%が好ましく、0.5〜5質量%がより好ましく、1〜3質量%がさらに好ましい。
【0042】
また反応効率の点から、反応温度は20℃以上が好ましい。一方、温度が高すぎるとセルロース系原料の劣化や、応装置内の圧力が大気圧を超えるおそれが生じるので、反応温度は95℃以下が好ましい。従って、反応温度は20〜95℃が好ましく、20〜80℃がより好ましく、20〜50℃がさらに好ましい。さらに反応温度がこの範囲であると、耐圧性を考慮した装置設計を行なう必要性がないという利点もある。当該反応における系のpHは限定されないが、プロセスの簡素化を考えると中性領域、例えばpH6.0〜8.0程度が好ましい。
【0043】
紫外線照射の程度は、照射反応装置内でのセルロース系原料の滞留時間や照射光源のエネルギー量を調節すること等により、任意に設定できる。また例えば、照射装置内のセルロース系原料分散液の濃度を水等によって希釈する、あるいは空気や窒素等の不活性気体を吹き込んで希釈することにより、セルロース系原料が受ける紫外線の照射量を調整できる。これらの条件は、処理後のセルロース系原料の品質(繊維長やセルロース重合度等)を所期の値とするために適宜選択される。
【0044】
紫外線照射処理は、酸素、オゾン、または、過酸化物(過酸化水素、過酢酸、過炭酸Na、過ホウ酸Na等)などの助剤の存在下で行なうと、光酸化反応の効率をより高めることができるので好ましい。特に135〜242nmの波長領域の紫外線を照射する場合、光源周辺の気相部には通常存在する空気によってオゾンが生成するが、このオゾンを助剤として用いることが好ましい。本発明においては、この光源周辺部に連続的に空気を供給して生成するオゾンを連続的に抜き出し、この抜き出したオゾンを酸化されたセルロース系原料へと注入することにより、系外からオゾンを供給すること無しに、光酸化反応の助剤としてオゾンを利用することができる。さらに、光源周辺の気相部に酸素を供給することにより、より大量のオゾンを系内に発生させることもできる。このように、本発明においては、紫外線照射反応装置で副次的に発生するオゾンを利用することができる。
【0045】
紫外線照射処理は、複数回繰り返すことができる。繰り返しの回数は、処理後のセルロース系原料の品質や、漂白などの後処理などとの関係に応じて適宜設定できる。例えば、100〜400nm、好ましくは135〜260nmの紫外線を、1〜10回、好ましくは2〜5回程度照射することができる。この際、1回あたりの照射時間は0.5〜10時間が好ましく、0.5〜3時間が好ましい。
【0046】
(2)過酸化水素およびオゾンによる酸化分解
当該処理で使用するオゾンは、空気あるいは酸素を原料としてオゾン発生装置にて公知の方法で発生させることができる。前述のとおり、酸化反応を効率よく行なうためにセルロース系原料を水等の分散媒に分散させて分散液として用いることが好ましい。本発明におけるオゾンの使用量(質量)は、セルロース系原料の絶乾質量の0.1〜3倍が好ましい。オゾンの使用量がセルロース系原料の絶乾質量の0.1倍以上であればセルロースの非晶部を十分に分解することができ、次の工程Cでの解繊・分散処理に要するエネルギーを大幅に削減できる。一方、オゾンの使用量が過度に多くなるとセルロースの過度の分解が起こりうるが、当該使用量がセルロース系原料の絶乾質量の3倍以下であると、過度の分解を抑制できる。よって、オゾン使用量は、セルロース系原料の絶乾質量の0.3〜2.5倍がより好ましく、0.5〜1.5倍がさらに好ましい。
【0047】
過酸化水素の使用量(質量)は、セルロース系原料の絶乾質量の0.001〜1.5倍が好ましい。セルロース系原料の0.001倍以上の量で過酸化水素を使用すると、オゾンと過酸化水素との相乗作用が生じ、効率のよい反応が可能となる。一方、セルロース系原料の分解には、セルロース系原料の1.5倍以下程度の量の過酸化水素を使用すれば十分であり、それより多い使用量はコストアップにつながる。よって、過酸化水素の使用量は、セルロース系原料の絶乾質量の0.1〜1.0倍がより好ましい。
【0048】
反応効率の観点から、オゾンおよび過酸化水素による酸化分解処理における系のpHは2〜12が好ましく、pH4〜10がより好ましく、pH6〜8がさらに好ましい。温度は10〜90℃が好ましく、20〜70℃がより好ましく、30〜50℃がさらに好ましい。処理時間は、1〜20時間が好ましく、2〜10時間がより好ましく、3〜6時間がさらに好ましい。
【0049】
オゾンおよび過酸化水素による処理を行なうための装置は、通常使用される装置を用いることができる。その例には、反応室、撹拌機、薬品注入装置、加熱器、およびpH電極を備えた通常の反応器が含まれる。
【0050】
オゾンおよび過酸化水素による処理後、水溶液中に残留するオゾンや過酸化水素は次の工程Cの解繊・分散処理でも有効に作用するので、より低粘度の分散液を与えるセルロースナノファイバーを製造できる。
【0051】
過酸化水素およびオゾンにより、酸化されたセルロース系原料の低粘度処理を効率よく実施できる理由は以下のように推察される。N−オキシル化合物を用いて酸化されたセルロース系原料の表面にはカルボキシル基が局在しており、水和層が形成されている。そのため、当該原料同士は近接して存在しネットワークを形成しているので当該原料を含む分散液の粘度は高い。しかし、原料同士の間にはカルボキシル基同士の電荷反発力の作用で通常のパルプでは見られない微視的隙間が存在しており、当該原料をオゾンおよび過酸化水素で処理すると、オゾンおよび過酸化水素から酸化力に優れるヒドロキシラジカルが発生し、微視的隙間に浸透して当該原料中のセルロース鎖を効率よく酸化分解してセルロース系原料を短繊維化する。
【0052】
(3)酸による加水分解
本処理では、酸化されたセルロース系原料に酸を添加してセルロース鎖の加水分解(酸加水分解処理)を行なう。酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、またはリン酸のような鉱酸を使用することが好ましい。前述のとおり、反応を効率よく行なうために、酸化されたセルロース系原料を水等の分散媒に分散させた分散液を用いることが好ましい。酸加水分解処理の条件としては、酸がセルロースの非晶部に作用するような条件であればよい。例えば、酸の添加量としては、セルロース系原料の絶乾質量に対して0.01〜0.5質量%が好ましく、0.1〜0.5質量%がさらに好ましい。酸の添加量が0.01質量%以上であると、セルロースの加水分解が進行し、次の工程Cでの処理効率が向上するので好ましい。また、当該添加量が0.5質量%以下であるとセルロースの過度の加水分解を防ぐことができ、セルロースナノファイバーの収率の低下を防止することができる。酸加水分解時の系のpHは、2.0〜4.0が好ましく、2.0以上3.0未満がより好ましい。酸加水分解効率の観点から、温度70〜120℃で、1〜10時間反応を行なうことが好ましい。
【0053】
酸加水分解処理により、酸化されたセルロース系原料の低粘度処理を効率よく実施できる理由は以下のように推察される。前述のとおり、N−オキシル化合物を用いて酸化されたセルロース系原料の表面にはカルボキシル基が局在しており、水和層が形成され、当該原料同士は近接して存在しネットワークを形成している。当該原料に、酸を添加して加水分解を行なうと、ネットワーク中の電荷のバランスが崩れてセルロース分子の強固なネットワークが崩れ、当該原料の比表面積が増大し、セルロース系原料の短繊維化が促進され、セルロース系原料が低粘度化する。
【0054】
2.セルロースナノファイバー
本発明により製造されるセルロースナノファイバーは、幅2〜5nm、長さ1〜5μm程度のセルロースのシングルミクロフィブリルである。本発明により得られたセルロースナノファイバーの分散液は優れた透明度を有する。分散液における分散媒は、好ましくは水である。本発明において、透明度は660nmの光線透過率で評価され、具体的には、紫外・可視分光光度計を用いて、石英セル(光路10mm)に0.1%分散液を入れた試験体を透過する光の量を測定することで求められる。
【0055】
本発明により得られたセルロースナノファイバーのカルボキシル基量は1.2mmol/g以上が好ましい。カルボキシル基量は、セルロースナノファイバーの0.5質量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる。
【0056】
カルボキシル基量〔mmol/gパルプ〕=a〔ml〕×0.05/酸化パルプ質量〔g〕
本発明により得られたセルロースナノファイバーの水分散液は、濃度0.1%(w/v)において、660nmの光線透過率が、好ましくは94%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上である。前記透明度が95%以上であると、一般的なフィルム用途に問題なく使用することができ、透明度が99%以上である場合はディスプレイやタッチパネルのような高い光学特性(透明性)が要求されるフィルム用途等に問題なく使用できる。本発明により得られたセルロースナノファイバーは、繊維表面のカルボキシル基の量が多いため、繊維同士が凝集しにくく分散媒への分散が良好であるので、前記のとおり透明度の高い水分散液を与える。
【0057】
また、本発明により得られたセルロースナノファイバーの水分散液は、濃度1%(w/v)におけるB型粘度(60rpm、20℃)が1000mPa・s以下であることが好ましく、700mMPa・s以下であることがより好ましく、500mMPa・s以下であることがさらに好ましい。B型粘度の下限値は1mPa・s以上が好ましく、5mPa・s以上がより好ましい。前記粘度がこの範囲である水分散液は、種々の顔料、バインダー、および樹脂等と優れた混和性を有する。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
[実施例1]
工程A:針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)20g(絶乾)を水酸化物イオン濃度が2.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に装入し、パルプ濃度が10質量%となるように調整した。当該混合物を室温(20℃)にて1時間撹拌した後、酸で中和し、水洗した。
【0059】
工程B:アルカリ処理したパルプ5g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)94mg(0.5nmol)と臭化ナトリウム755mg(5mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素5%)18mlを添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHは低下するが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗することで酸化されたパルプを得た。酸化反応に要した時間は85分であった。
【0060】
低粘度化処理:前記酸化パルプの濃度が1質量%である水分散液2Lを調製した。当該水分散液を流動させながら20W低圧紫外線ランプで6時間紫外線を照射した。
工程C:前記低粘度化処理した水分散液を、超高圧ホモジナイザー(20℃、140Mpa)で10回処理して、透明なゲル状分散液を得た。
【0061】
得られた1%(w/v)のセルロースナノファイバー水分散液のB型粘度(60rpm、20℃)を、TV−10型粘度計(東機産業株式会社製)を用いて測定したところ、896mmPa・sであった。また、0.1%(w/v)のセルロースナノファイバー水分散液の660nm光の透過率(透明度)を、UV−VIS分光光度計 UV−265FS(島津製作所社)を用いて測定したところ、96.6%であった。
【0062】
[実施例2]
原料を広葉樹クラフトパルプ(白色度85%)とした以外、実施例1と同様にして工程AおよびBを実施した。酸化反応に要した時間は65分であった。得られた酸化パルプを1%(w/v)含む水分散液を調製し、当該水分散液を超高圧ホモジナイザー(20℃、140Mpa)で10回処理して工程Cを実施しセルロースナノファイバー水分散液を得た。実施例1と同様にして当該分散液を評価した。濃度0.1%(w/w)水分散液の透明度は97.1%、濃度1%(w/v)の水分散液のB型粘度(60rpm、20℃)は209mPa・sであった。
【0063】
[実施例3]
原料を針葉樹サルファイトパルプ(白色度85%)とした以外、実施例1と同様にして工程AおよびBを実施した。酸化反応に要した時間は65分であった。得られた酸化パルプを1%(w/v)含む水分散液を調製し、当該水分散液を超高圧ホモジナイザー(20℃、140Mpa)で10回処理して工程Cを実施し、セルロースナノファイバー水分散液を得た。実施例1と同様にして当該分散液を評価した。濃度0.1%(w/w)水分散液の透明度は96.4%、濃度1%(w/v)の水分散液のB型粘度(60rpm、20℃)は926mPa・sであった。
【0064】
[実施例4]
原料を広葉樹サルファイトパルプ(白色度85%)とした以外、実施例1と同様にして工程AおよびBを実施した。酸化反応に要した時間は40分であった。得られた酸化パルプを1%(w/v)含む水分散液を調製し、当該水分散液を超高圧ホモジナイザー(20℃、140Mpa)で10回処理して工程Cを実施し、セルロースナノファイバー水分散液を得た。実施例1と同様にして当該分散液を評価した。濃度0.1%(w/w)水分散液の透明度は96.0%、濃度1%(w/v)の水分散液のB型粘度(60rpm、20℃)は665mPa・sであった。
【0065】
[実施例5]
水酸化ナトリウム水溶液の水酸化物イオン濃度を1.25mol/Lとした以外、実施例1と同様に工程AおよびBを実施した。酸化反応に要した時間は100分であった。得られた酸化パルプを1%(w/v)含む水分散液を調製し、当該水分散液を超高圧ホモジナイザー(20℃、140Mpa)で10回処理して工程Cを行い、セルロースナノファイバーナ水分散液を得た。実施例1と同様にして当該分散液を評価した。濃度0.1%(w/w)水分散液の透明度は96.0%、濃度1%(w/v)の水分散液のB型粘度(60rpm、20℃)は412mPa・sであった。
【0066】
[実施例6]
水酸化ナトリウム水溶液の水酸化物イオン濃度を3.25mol/Lとした以外、実施例1と同様にして工程AおよびBを実施した。酸化反応に要した時間は30分であった。得られた酸化パルプを1%(w/v)含む水分散液を調製し、当該水分散液を超高圧ホモジナイザー(20℃、140Mpa)で10回処理して工程Cを行い、セルロースナノファイバーナ水分散液を得た。実施例1と同様にして当該分散液を評価した。濃度0.1%(w/w)水分散液の透明度は96.2%、濃度1%(w/v)の水分散液のB型粘度(60rpm、20℃)は172mPa・sであった。
【0067】
[実施例7]
水酸化ナトリウム水溶液の水酸化物イオンを0.8mol/Lとした以外、実施例1と同様にして工程AおよびBを実施した。酸化反応に要した時間は115分であった。得られた酸化パルプを1%(w/v)含む水分散液を調製し、当該水分散液を超高圧ホモジナイザー(20℃、140Mpa)で10回処理して工程Cを行い、セルロースナノファイバーナ水分散液を得た。実施例1と同様にして当該分散液を評価した。濃度0.1%(w/w)水分散液の透明度は96.0%、濃度1%(w/v)の水分散液のB型粘度(60rpm、20℃)は992mPa・sであった。
【0068】
[比較例1]
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)をアルカリ処理せずに用いて、実施例1と同様に工程Bを実施した。酸化反応に要した時間は120分であった。得られた酸化パルプを1%(w/v)含む水分散液を調製し、当該水分散液を超高圧ホモジナイザー(20℃、140Mpa)で10回処理して工程Cを行い、セルロースナノファイバーナ水分散液を得た。実施例1と同様にして当該分散液を評価した。濃度0.1%(w/w)水分散液の透明度は95.9%、濃度1%(w/v)の水分散液のB型粘度(60rpm、20℃)は3486mPa・sであった。
【0069】
[比較例2]
広葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度86%)をアルカリ処理せずに用いて実施例1と同様に工程Bを実施した。酸化反応に要した時間は95分であった。得られた酸化パルプを1%(w/v)含む水分散液を調製し、当該水分散液を超高圧ホモジナイザー(20℃、140Mpa)で10回処理して工程Cを行い、セルロースナノファイバーナ水分散液を得た。実施例1と同様にして当該分散液を評価した。濃度0.1%(w/w)水分散液の透明度は89.6%、濃度1%(w/v)の水分散液のB型粘度(60rpm、20℃)は3218mPa・sであった。
【0070】
[比較例3]
針葉樹由来の漂白済み未叩解サルファイトパルプ(白色度86%)をアルカリ処理せずに用いて実施例1と同様に工程Bを実施した。酸化反応に要した時間は120分であった。得られた酸化パルプを1%(w/v)含む水分散液を調製し、当該水分散液を超高圧ホモジナイザー(20℃、140Mpa)で10回処理して工程Cを行い、セルロースナノファイバーナ水分散液を得た。実施例1と同様にして当該分散液を評価した。濃度0.1%(w/w)水分散液の透明度は95.2%、濃度1%(w/v)の水分散液のB型粘度(60rpm、20℃)は3508mPa・sであった。
【0071】
[比較例4]
広葉樹由来の漂白済み未叩解サルファイトパルプ(白色度87%)をアルカリ処理せずに用いて実施例1と同様に工程Bを実施した。酸化反応に要した時間は95分であった。得られた酸化パルプを1%(w/v)含む水分散液を調製し、当該水分散液を超高圧ホモジナイザー(20℃、140Mpa)で10回処理して工程Cを行い、セルロースナノファイバーナ水分散液を得た。実施例1と同様にして当該分散液を評価した。濃度0.1%(w/w)水分散液の透明度は92.8%、濃度1%(w/v)の水分散液のB型粘度(60rpm、20℃)は3528mPa・sであった。
【0072】
[比較例5]
水酸化ナトリウム水溶液の水酸化物イオン濃度を0.5mol/Lとした以外、実施例1と同様に工程AおよびBを実施した。酸化反応に要した時間は120分であった。得られた酸化パルプを1%(w/v)含む水分散液を調製し、当該水分散液を超高圧ホモジナイザー(20℃、140Mpa)で10回処理して工程Cを行い、セルロースナノファイバーナ水分散液を得た。実施例1と同様にして当該分散液を評価した。濃度0.1%(w/w)水分散液の透明度は95.7%、濃度1%(w/v)の水分散液のB型粘度(60rpm、20℃)は3320mPa・sであった。
【0073】
[比較例6]
水酸化ナトリウム水溶液の水酸化物イオン濃度を5.0mol/Lとした以外、実施例1と同様に工程AおよびBを実施した。酸化反応に要した時間は30分であったが、酸化が進むにつれて徐々にパルプが溶解し、洗浄・回収が不可能となり、酸化パルプおよびセルロースナノファイバーを得られなかった。
【0074】
【表1】

【0075】
実施例と比較例の比較から、本発明により透明性に優れ、かつ低粘度の分散液を与えるセルロースナノファイバーを効率良く製造できることが明らかである。特に、実施例と比較例5および6との比較から、工程Aにおける水酸化物イオン濃度が0.75〜3.75mol/Lであることにより、所期の効果が奏されることも明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)セルロース系原料を水酸化物イオン濃度が0.75〜3.75mol/Lの水中で処理する工程、
(B)前記工程Aで得たセルロース系原料を、(a1)N−オキシル化合物、および(a2)臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、(a3)酸化剤を用いて酸化する工程、ならびに
(C)前記工程Bで得た酸化されたセルロース系原料を含む分散液を調製し、当該酸化セルロース系原料を解繊して分散媒中に分散し、ナノファイバー化する工程、
を含む、セルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
前記セルロース系原料が、ISO 2470に規定する白色度が80%以上の漂白済みクラフトパルプまたは漂白済みサルファイトパルプである、請求項1に記載のセルロースナノファイバーの製造方法。

【公開番号】特開2012−207135(P2012−207135A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74023(P2011−74023)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】