セルロース又はセルロース誘導体を含む高流束流体分離膜
本発明は、イオン液体中に溶解したセルロース又はセルロース誘導体を含む溶液を多孔性支持体層上にコーティングするプロセスによって作製された、セルロース又はセルロース誘導体を含むコーティング層と、ナノファイバーを含む多孔性支持体と、を有する膜を提供する。本発明は、水の流束を向上させ、油/水エマルジョンに対する除去率を高めるのに有用である。本発明は、本発明の膜を組み込んだ、UF、NF、RO、及びFOにおける流体分離システムも提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の権利
本発明は、米国海軍研究局、助成金番号N000140310932の下、米国政府の援助により成されたものである。米国政府は、本発明に関して一定の権利を有する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2007年5月26日出願の米国特許仮出願第60/931,765号、及び2007年6月29日出願の米国特許仮出願第60/947,045号の利益を主張するものであり、これらいずれの出願についても、その開示事項すべてがあらゆる点において参照することで本明細書に組み入れられる。
【0003】
発明の分野
本発明は、透過流束特性が向上した、セルロース及びセルロース誘導体複合膜を作製するための簡便な方法に関する。本発明の膜は、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜、及び正浸透膜(forward osmosis membranes)等の流体分離膜として有用である。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
セルロースは豊富に存在し、再生可能であり、低コストであるバイオ材料である。しかし、セルロースは一般的な有機溶媒に対する溶解性が悪く加工が難しいため、多くの用途においてその利用が著しく制限される。しかし、最近のいくつかの研究により、セルロースを化学的に修飾することで(例:アシル化、カルバニル化、等)イオン性溶媒の溶液に溶解させたとする報告が成されている。
【0005】
酢酸セルロース、二酢酸セルロース、及び三酢酸セルロース等のセルロース誘導体は、市販の逆浸透膜の転相法による作製に用いられている。しかし、このような膜は、その膜構造に起因すると考えられる種々の問題点を有する。例えば、商業的に有用であるろ過速度を得るためには高い操作圧力(最大1MPa)を用いる必要があり、このことはエネルギーコストを増加させ、並びにろ過プロセスの間における膜の圧縮及び緻密化により、膜の分離性能の喪失及び機械的な破壊を引き起こす。流動速度を高めるために緻密層をより薄くした膜も作製されているが、そのような膜は低い圧力においても破壊しやすい。
【0006】
セルロース膜は、酢酸セルロース等のセルロース誘導体と比較して、化学安定性、生体適合性、及び環境への優しさという点で非常に優れていることから、より向上された特性を提供する。セルロース限外ろ過(UF)膜の作製は、例えば、従来の転相法による酢酸セルロース膜を、水酸化ナトリウム水溶液等の強塩基溶液中で加水分解することによって行われる。このプロセスは、比較的複雑かつ高価であり、転相法による膜の作製に用いられる有機溶媒(例:NMP)及び腐食性の塩基溶液は、環境への負荷が高く、その使用は有毒及び/又は有害である。
【0007】
現在脱塩に用いられている市販の逆浸透(RO)膜のほとんどは、界面重合プロセスによって作製される複合膜である。通常は、微孔性膜(例:ポリスルホンUF膜)をまずアミン溶液へ浸漬させる。この芳香族アミンで湿潤させたUF膜支持体を、次に不混和有機溶媒に溶解した1若しくは2種類以上の架橋剤(例:ヘキサン中の塩化トリメソイル(trimesoyl chloride))と接触させる。2種類の不混和液体の界面において、架橋され帯電した緻密なポリマーネットワークが形成される。このような界面重合された最上部コーティング層の厚さは、通常、約0.002乃至約0.3μmである。現在市販されているRO膜は、供給圧力800psiにおいて塩化ナトリウム除去率は99+%であり、水の流束は35L/m2h超である。
【0008】
市販されているナノろ過(NF)膜の大部分も界面重合によって作製されており、例えば、微孔性基材上にピペラジンアミドを有するものである。例えば、Cadotte et al.(米国特許第4,259,183号、その全体があらゆる点において参照することで本明細書に組み入れられる)は、塩化トリメソイルを用いたピペラジンの界面重合によってNF膜の作製が成功することを実証した。この複合ナノろ過膜は、非常に高いMgSO4の除去率を示したが(99%)、NaClの保持率は低かった(60%未満)。多成分(ピペラジン及びポリビニルアルコール、特開昭61‐93806号、その全体があらゆる点において参照することで本明細書に組み入れられる)及び多層コーティング(スルホン化ポリスルホン及びピペラジンアミド)による複合膜も作製されている。典型的なナノろ過膜では、カットオフ分子量の範囲は100乃至5000ダルトンであり、高い二価イオンの除去率(99%超)及び低い一価イオンの除去率(約50%若しくはそれ未満)を有する。
【0009】
複合UF膜も界面重合によって作製されている。Wrasidlo et al.(米国特許第4,902,424号、その全体があらゆる点において参照することで本明細書に組み入れられる)は、ポリエチレンイミンに浸漬させた微孔性膜を、ヘキサン中にて塩化イソフタロイル及びトルエンジイソシアネートを用いて界面重合することによって複合UF膜を作製した。重合された最上部コーティング層は、厚さが0.0012乃至0.15μmの範囲であり、カットオフ分子量の値は500乃至1,000,000ダルトンの範囲であった。Stengaard et al.(J. Membr. Sci., 53 (1990) 189‐202、その全体があらゆる点において参照することで本明細書に組み入れられる)は、ポリエーテルスルホンUF膜上にて、非開示の水性モノマー組成物をジイソシアネートと反応させることを報告した(MWCO:20k〜50kダルトン)。乳漿/スキムミルク混合物の分離が行われ、30〜60psiにおいて透過流束の範囲は40〜75L/m2hであった。
【0010】
しかし、界面重合プロセスで作製された従来の複合膜の主たる欠点は、微孔性膜支持体をアミン水溶液中へ浸漬した際の細孔の閉塞である。細孔が閉塞されると界面重合によるコーティング層の有効コーティング厚さが増大する傾向にあり、その結果として透過流束が低下する傾向を示す。さらに、ポリアミドコーティングの化学的性質(例:加水分解されたアシルハライド;カルボキシレート基及び末端アミノ基)によって、界面重合ポリアミド複合膜には帯電した溶質化学種による付着汚染(fouling)がより発生しやすく、このことによっても透過流束が著しく低下する傾向にある。通常、界面重合によるポリアミドでコーティングした膜をろ過の最終段階(NF及びRO)で用いる前に、著しい付着汚染を伴わずに安定した流動速度を維持する目的で、精密ろ過及び限外ろ過による供給溶液の予備ろ過を行う必要がある。従来の複合膜の作製における別の欠点は、セルロースエステルの有機溶媒中での加水分解において、揮発性有機溶媒及び腐食性塩基溶液を使用することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、現在市販されているろ過膜と比較して透過率及び除去率が高く、付着汚染率が低減され、環境に優しいプロセスを用いて作製される、高流束UF、NF、正浸透(FO)、及びRO膜が求められている。本発明のプロセスによって作製されるセルロース複合膜は、向上された特性を提供し、環境に優しい溶媒を用いて容易に作製される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概要
一つの実施形態では、本発明は、セルロース又はセルロース誘導体を含むコーティング層、及び多孔性支持体層を有する膜であって、イオン液体に溶解したセルロース又はセルロース誘導体を含む溶液を多孔性支持体層上にコーティングすること、及びイオン液体を除去すること、を含むプロセスによって作製される、膜に関する。
【0013】
別の実施形態では、本発明は、本明細書で述べる本発明のセルロース又はセルロース誘導体膜の少なくとも1つと、流体混合物をこの少なくとも1つの膜のセルロースコーティングの表面と接触させるための手段と、セルロースコーティング層と接する多孔性支持体の表面とは逆側のセルロースコーティングの表面から保持物(retentate)を除去するための手段と、を有する膜モジュールに関する。
【0014】
さらに別の実施形態では、本発明は、本明細書で述べる膜モジュールを少なくとも1つ有する流体分離システムに関する。
【0015】
さらに別の実施形態では、本発明は、(a)ナノファイバーを含む多孔性支持体を作製する工程と;(b)セルロース又はセルロース誘導体、及びイオン液体を含む溶液を調製する工程と;(c)(b)のセルロース又はセルロース誘導体溶液を多孔性支持体の一方の側に添加する工程と;(d)セルロースを含む過剰の溶液を膜から除去する工程と、を含む、本発明の膜の作製方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】セルロース/エレクトロスピニング(e‐spun)PAN複合膜に対する種々の圧力における純水の流束を示す図である。
【図2】油/水エマルジョンにより15psiにおいて評価した、セルロース/エレクトロスピニングPAN複合膜に対する透過流束及び除去率を示す図である。
【図3】種々のセルロース源から作製したセルロース/エレクトロスピニングPAN複合膜に対する透過流束及び除去率を、MWCOの関数として示す図である。
【図4】種々の圧力におけるセルロース/エレクトロスピニングPAN複合膜に対する純水の流束を示す図である。
【図5】油/水エマルジョンにより15psiにおいて評価したセルロース/エレクトロスピニングPAN複合膜に対する透過流束及び除去率を、3種類の異なるセルロース層厚さについて示す図である。
【図6】異なるセルロース溶液濃度から作製した膜について、種々の圧力におけるセルロース/エレクトロスピニングPAN複合膜に対する純水の流束を示す図である。
【図7】油/水エマルジョンにより評価したセルロース/エレクトロスピニングPAN複合膜に対する透過流束及び除去率を示す図である。
【図8】セルロース/エレクトロスピニングPAN複合膜に対する透過流束及び除去率を、MWCOの関数として示す図である。セルロース層の厚さは0.5μmである。
【図9】セルロース/エレクトロスピニングPAN複合膜に対する透過流束及び除去率を、MWCOの関数として示す図である。セルロース層の厚さは1.0μmである。
【図10】BCl及びEAc、並びにこれらの溶媒による種々のセルロース溶液に対する粘度を示す図である。
【図11】EAcによるセルロース溶液から作製したセルロース/エレクトロスピニングPAN複合膜に対する純水の流束を、圧力の関数として示す図である。
【図12】油/水エマルジョンにより評価したセルロース/エレクトロスピニングPAN複合膜に対する透過流束及び除去率を、圧力の関数として示す図である。
【図13】セルロースのEAc溶液を用いて作製したセルロース/エレクトロスピニングPAN複合膜に対する透過流束及び除去率を、MWCOの関数として示す図である。
【図14】0.5μmのセルロース層を有するセルロース/PAエレクトロスピニング複合膜(PA‐1、PA‐2、PA‐3、及びPA‐4)に対する純水の流束を示す図である(挿入図‐PAN10との比較)。
【図15】0.8μmのセルロースコーティングを有するセルロース/PAエレクトロスピニング複合膜(PA‐1、PA‐2、PA‐3、及びPA‐4)に対する純水の流束を示す図である。
【図16】油/水エマルジョンにより評価した、0.5μmのセルロースコーティングを有するセルロース/PAエレクトロスピニング複合膜(PA‐1、PA‐2、PA‐3、及びPA‐4)に対する透過流束及び除去率を示す図である。
【図17】油/水エマルジョンにより評価した、0.8μmのセルロースコーティングを有するセルロース/PAエレクトロスピニング複合膜(PA‐1、PA‐2、PA‐3、及びPA‐4)に対する透過流束及び除去率を示す図である。
【図18】0.5μmセルロース/PAエレクトロスピニング複合膜(PA‐1、PA‐2、PA‐3、及びPA‐4)に対する透過流束及び除去率を、MWCOの関数として示す図である。
【図19】0.8μmセルロース/PAエレクトロスピニング複合膜(PA‐1、PA‐2、PA‐3、及びPA‐4)に対する透過流束及び除去率を、MWCOの関数として示す図である。
【図20】セルロース/架橋PVAエレクトロスピニング複合膜に対する純水の流束を示す図である。
【図21】油/水エマルジョンにより評価した、セルロース/架橋PVAエレクトロスピニング複合膜に対する透過流束及び除去率を示す図である。
【図22】セルロース/PESエレクトロスピニング複合膜に対する純水の流束を示す図である。
【図23】油/水エマルジョンにより評価した、セルロース/PESエレクトロスピニング複合膜に対する透過流束及び除去率を示す図である。
【図24】セルロース/PSFエレクトロスピニング複合膜に対する、純水の流束、並びに油/水エマルジョンにより評価した透過流束及び除去率を示す図である。最上層の厚さは0.5μmであった。
【図25】クロスフローろ過システムを用いたセルロース/PANエレクトロスピニング複合膜における純水の流束対圧力を示す図である。最上層の厚さは0.5μmである。
【図26】クロスフローろ過システムを用いて油/水エマルジョンにより評価した、セルロース/PANエレクトロスピニング複合膜に対する透過流束及び除去率を示す図である。膜の最上層の厚さは0.5μmである。
【図27】クロスフローろ過システムを用いて油/水エマルジョンにより評価した、セルロース/PANエレクトロスピニング複合膜に対する透過流束及び除去率を示す図である(セルロースのDP=7350)。膜の最上層の厚さは0.5μmである。
【図28】圧力を30乃至110psiのサイクルとした油/水ろ過におけるセルロース/PANエレクトロスピニング膜に対する透過流束及び除去率を示す図である。膜の最上層の厚さは0.5μmである。
【図29】48時間の油/水エマルジョンろ過の間のセルロース膜に対する透過流束及び除去率を示す図である。膜の最上層の厚さは0.5μmである。
【図30】48時間のアルギン酸ナトリウムろ過の間のセルロース/PANエレクトロスピニング膜に対する透過流束及び除去率を示す図である。膜の最上層の厚さは0.5μmである。
【図31】使用前(A)及びリサイクル後(B)のイオン液体の1H NMRを示す図である。
【図32】PANエレクトロスピニング膜上のセルロースコーティングの断面図及び上面図である。
【図33】15psiにおいて市販のNF270、PTLK、及びPAN400膜と比較した、セルロース/PANエレクトロスピニング複合膜(0.5μm及び1.0μmコーティング)に対する種々の圧力における純水の流束を示す図である。
【図34】油/水エマルジョンで評価し、市販のNF270、PTLK、及びPAN400膜と比較した、セルロース/PANエレクトロスピニング複合膜(0.5μm及び1.0μmコーティング)に対する透過流束及び除去率を示す図である。
【図35】連続ナイフコーティングシステムを用いたセルロース膜の作製の概略を示す図である。
【図36】ナイフコーティングシステムを用いて作製されたセルロース/PANエレクトロスピニング複合膜(0.5μmコーティング)に対する種々の圧力における純水の流束を示す図である。
【図37】ナイフコーティングシステムを用いて作製されたセルロース/PANエレクトロスピニング複合膜(0.5μmコーティング)に対する、油/水ろ過における種々の圧力での透過流束及び除去率を示す図である。
【図38】種々の濃度のセルロース溶液を用いて作製されたセルロース膜の熱安定性を示す図である。
【図39】コットンリンター、セルロース膜(10(w/w)%セルロース溶液より作製)、BCl、並びにBCl中の0.1%及び10%セルロース、に対するWAXDを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
本明細書で引用する文献はすべて、その全体があらゆる点において参照することで本明細書に組み入れられる。
【0018】
本明細書で用いる「流体」とは、液体、気体、又はこれらの組み合わせを意味する。
【0019】
本明細書で用いる「ナノファイバー」とは、直径が2nm乃至約2.0ミクロンの範囲である繊維を意味する。
【0020】
本明細書で用いる「不織物」とは、個々の繊維が互いの間に挿入された構造を有するが編み物又は織物のように高い秩序性を有する形ではない、ウェブ又は布地又はその他の媒体を意味する。不織ウェブは一般に、本技術分野で公知の方法によって作製することができる。そのようなプロセスの例としては、これらに限定されず、単なる例としてであるが、メルトブロー、スパンボンド、カーディング、及びエアーレイが挙げられる。
【0021】
一つの実施形態では、本発明は、多孔性支持体層の表面に配置されたセルロース又はセルロース誘導体含有コーティング層を有する膜に関し、ここで、この膜は、イオン液体に溶解したセルロース又はセルロース誘導体を含む溶液を多孔性支持体層(例:水を飽和させた多孔性支持体層)上にコーティングし、イオン液体を除去し、それによってコーティング層を形成することによって作製される。本発明の膜は、従来から製造されている膜と比較して流動速度及び除去率が向上しており、特に、精密ろ過、限外ろ過、逆浸透、及び正浸透のための膜として適している。
【0022】
コーティング層の厚さ及び多孔率は、少なくとも部分的に、コーティング溶液のセルロース又はセルロース誘導体濃度によって制御することができる。セルロース又はセルロース誘導体溶液の濃度が高いほど、より厚いセルロース(又はセルロース誘導体)層がコーティング後に提供される傾向にあり、一方、濃度の低い溶液ほど薄いコーティング層が提供される傾向にある。溶液中に含まれるセルロース(又はセルロース誘導体)の濃度は、セルロース(又はセルロース誘導体)層の所望の厚さ及び/又は多孔率を得るために適するいずれの濃度であってもよい。コーティング溶液の最大濃度は、例えば、マイクロ波加熱等の加熱により、イオン液体中25%(w/w)の高さとしてよい。ある実施形態では、セルロース(又はセルロース誘導体)の濃度は、約0.001%、0.002%、0.005%、0.008%、0.01%、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、2%、2.5%、5%、10%、15%、20%、又は25%(w/w)であり、これらの値の間のすべての範囲及び部分範囲を含む。一つの実施形態では、本発明は、約0.1%(w/w)のセルロース(又はセルロース誘導体)濃度に関する。
【0023】
イオン液体中の比較的濃縮されたセルロース(又はセルロース誘導体)溶液は、セルロース(又はセルロース誘導体)とイオン液体との混合物を約75℃乃至約100℃の範囲の温度まで加熱することによって調製することができる。従って、一つの実施形態では、セルロースをイオン液体中で約90℃に加熱することによって溶解させる(例:約0.1%(w/w)の濃度)。加熱には好都合であるいずれの手段を用いてもよく、例えば、セルロースとイオン液体との混合物を加熱した容器中で加熱してもよく、又はマイクロ波加熱等の別の加熱方法を用いてもよい。従って、本発明の一つの実施形態では、セルロース又はセルロース誘導体溶液は、例えばイオン液体中のセルロースを(例:マイクロ波ヒーターを用いて)約100℃乃至約150℃の範囲の温度へ加熱することによって調製することができる。
【0024】
本発明の膜の作製には、いかなる形態のセルロースも用いることができる。例えば、セルロースは、ワタ等からの種子毛繊維、アマ等からの靱皮繊維、麦わら、バガス繊維、ケナフ繊維等の草繊維(grass fibers)、木部繊維、又は再生セルロース由来のものであってよい。本発明のある実施形態では、セルロースは、例えば、Hubei Chemical Fiber Co. Ltd.,中国、より市販されているCELLULOSE 620である。本発明の他の実施形態では、セルロースは、Buckeye Technologies Inc.,米国、より市販されているCELLULOSE 1320、3920、及び7350である。本発明のさらに他の実施形態では、セルロースは、Tembec Tartas factory,フランス、によって製造されているCELLULOSE B‐92、B‐96、B‐HDP、BIOFLOC 92MV、BIOFLOC 96、及びBIOFLUFF HDPである。
【0025】
コーティングがセルロース誘導体を含む場合、セルロース誘導体としては、例えば、酢酸セルロース、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、フタル酸セルロース、コハク酸セルロース等のセルロースエステル、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロースエーテル、酢酸メチルセルロース等のセルロースの混合エーテル/エステルを挙げることができる。
【0026】
一つの実施形態では、本発明は、約0.1乃至約1ミクロンの厚さを有するセルロース(又はセルロース誘導体)コーティング層に関する。他の実施形態では、セルロース(又はセルロース誘導体)コーティング層の厚さは、約0.1乃至約0.9ミクロンの範囲であり、ある実施形態では、約0.3乃至約0.8ミクロン、及びある実施形態では、約0.5乃至約0.7ミクロンの範囲である。さらに他の実施形態では、セルロース(又はセルロース誘導体)コーティングの厚さは、約0.1ミクロン、約0.2ミクロン、約0.3ミクロン、約0.4ミクロン、約0.5ミクロン、約0.6ミクロン、約0.7ミクロン、約0.8ミクロン、約0.9ミクロン、及び約1.0ミクロンである。さらに他の実施形態では、本発明は、0.3ミクロンの厚さを有するコーティング層に関する(例:約0.01%(w/w)乃至約1%(w/w)の濃度を有するセルロース溶液を用いたコーティングによって作製される)。さらに他の実施形態では、本発明は、0.5ミクロンの厚さを有するコーティング層に関する(例:約1%(w/w)乃至約2.5%(w/w)の濃度を有するセルロース溶液を用いたコーティングによって作製される)。
【0027】
本発明のセルロース膜の作製には、多孔性基材上にセルロース(又はセルロース誘導体)コーティングを提供するのに十分な濃度のセルロース(又はセルロース誘導体)を溶解することができるいずれのイオン液体も用いることができる。一つの実施形態では、イオン液体は、一般式1‐CnH2n+1‐3‐メチルイミダゾロニウムX−を有するN‐アルキルイミダゾロニウムカチオンであり、ここでnは1乃至12の整数である。X−は、適切ないずれのアニオンであってもよく、例えば、ハロゲン、パークロレート、擬ハロゲン、及びカルボキシレートから成る群より選択される。ある実施形態では、イオン液体カチオンに対するアニオンは、ハロゲンイオンが好ましい。イオン液体は、親水性でなければならない。親水性イオン液体は、炭素原子に共有結合した1若しくは2つ以上のフッ素原子を含む疎水性イオン液体(例:トリフルオロメタンスルホネート及びトリフルオロアセテートアニオン)とは異なる。
【0028】
特定の実施形態では、イオン液体は、極めて低い蒸気圧を有し、通常は沸騰する前に分解する。本発明の膜の作製での使用に適するイオン液体は、約200℃又はそれより低い温度で液体であるものであり、ある実施形態では、約150℃又はそれより低い温度で液体であるものである。特定の実施形態では、イオン液体は、Sigma‐Aldrichから市販されている塩化1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウム(BCl)又は酢酸1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウム(EAc)である。EAcには他のイオン液体と比べて2つの優位性があり、それは:(a)EAcは毒性がなく水処理の用途により適していること;及び(b)EAcのセルロース溶液は、BClセルロース溶液等の他のイオン液体のセルロース溶液に比べて粘度が低く、このためにコーティングプロセスがより制御しやすく、より薄い最上層を有するセルロース膜の作製がさらに容易となること、の2つである。
【0029】
その他の適切なイオン液体を表1に挙げる。
【0030】
【表1】
【0031】
セルロース(又はセルロース誘導体)コーティングの厚さ及び多孔率は、少なくとも部分的に、セルロース(又はセルロース誘導体)溶液の粘度を変化させることによって制御することもできる(例:セルロース(又はセルロース誘導体)濃度、溶媒、温度、セルロース(又はセルロース誘導体)分子量/分子量分布等を変化させることにより)。ほとんどの実施形態では、イオン液体中のセルロース(又はセルロース誘導体)溶液の粘度は、約0.1Pa・s乃至1Pa・sの範囲内である。一つの実施形態では、セルロース(又はセルロース誘導体)溶液(例:酢酸1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウム等のイオン性溶媒中)の粘度は、約0.1Pa・s乃至約0.5Pa・sの範囲内である。別の実施形態では、セルロース(又はセルロース誘導体)溶液(例:塩化3‐メチルイミダゾリウム等のイオン性溶媒中)の粘度は、約0.5Pa・s乃至約0.9Pa・sの範囲内である。さらに別の実施形態では、セルロース(又はセルロース誘導体)溶液の粘度は、セルロースの濃度及びセルロース源に応じて異なる。例えば、一つの実施形態では、塩化1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウム中0.1%の木材パルプの粘度は約0.5Pa・s乃至約0.7Pa・sである。
【0032】
本発明のセルロース(又はセルロース誘導体)膜はさらに、例えば、以下で述べるようにナノファイバー支持体層によって、又は別の選択肢としてナノフィラーをセルロース(又はセルロース誘導体)層に組み込むことによって(例:ナノフィラーをセルロース/セルロース誘導体溶液へ添加することにより)形成されるナノチャネル等、流束を高める流体透過性ナノチャネルをセルロース(又はセルロース誘導体)層中に組み込むことができる。ナノフィラーは、少なくとも1種類の親水性又は疎水性ナノ微粒子フィラーを含むことができる。適切な親水性ナノ微粒子フィラーの限定されない例としては、酸化炭素系ナノ粒子、表面グラフト化炭素系ナノ粒子、水分散性ナノクレイ、及びこれらの組み合わせが挙げられる。炭素系ナノ粒子としては、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、バッキーボール(フラーレンC60及び/又はバックミンスターフラーレンとしても知られる)、グラフェンシート、グラファイトナノ粒子等を挙げることができ、これらは、オゾン等の適切な酸化剤を用いた処理による酸化、ハロゲン又はハロゲン化剤を用いた処理によるハロゲン化、水素化、チオール化、エステル化、親水性ラジカルとの反応、親水性カルベン、ニトレン等との反応を含む種々の公知の方法によって表面グラフト化又は表面酸化される。ある実施形態では、親水性若しくは水溶性ポリマー又はオリゴマーを、炭素系ナノ粒子表面へグラフト化させる。水分散性ナノクレイとしては、例えば、モンモリロナイト及びルセンタイト(lucentite)等のスメクタイトクレイが挙げられる。
【0033】
別の実施形態では、ナノ微粒子フィラーは、金、コバルト、カドミウム、銅、鉄、鉛、亜鉛、及びパラジウムを含むがこれらに限定されない金属成分を有していてもよい金属ナノ粒子又は無機ナノチューブ、並びにシリカ、多面体オリゴマーシルセスキオキサン、層状シリケート、及びこれらの誘導体等のシリケートを主体とするナノ粒子を含むことができる。
【0034】
一つの実施形態では、ナノ微粒子フィラーは、カルボン酸基、カルボニル基、ヒドロキシ基、エチレンオキシド、アルコール類、糖類、及びアミノ基を含むがこれらに限定されない少なくとも1つの親水性官能基、又はDNA分子、DNA断片、及びタンパク質断片を含む超分子複合体を用いて官能化してもよい。適切なDNA分子としては、植物、動物、及びヒトから得られたものを挙げることができ、DNA源は、ある実施形態では約1乃至約1000ヌクレオチドの長さであり、実施形態では約10乃至約100ヌクレオチドの長さである。
【0035】
適切な疎水性ナノ微粒子フィラーの限定されない例としては、炭素系ナノ粒子、表面官能化炭素系ナノ粒子、ナノ有機クレイ、多面体オリゴマーシルセスキオキサンかご型分子(例:POSS)等が挙げられる。疎水性炭素系ナノ粒子としては、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、バッキーボール、グラフェンシート、グラファイトナノ粒子等を挙げることができる。これらの炭素系ナノ粒子は未修飾であってよく(表面特性が元々疎水性である場合)、又は疎水性を得るために表面をさらに修飾してもよい。例えば、炭素系ナノ粒子を疎水性ラジカル又はその他の反応性化学種と反応させることができる。ナノ有機クレイは、通常はスメクタイトクレイ(例:疎水性アミン又は四級アミンで修飾されたモンモリロナイト又はルセンタイトクレイ(例:NanocorからのNanomer(登録商標)クレイ))である。
【0036】
他の実施形態では、ナノ微粒子フィラーは、オクタデシルアミン(ODA)、ポリプロピレングラフト無水マレイン酸オリゴマー(Mnが約3900g/mol、Mwが約9100g/mol、及び酸価が約47mgKOHであるものを含む)を例とする約1乃至約20個の炭素原子を有する炭化水素を含む直鎖分子を含む脂肪族化合物、3‐(パーフルオロオクチル)プロピルアミン等を含むフッ素化化合物、及びヘキサメチレンジアミン等のアルキリデンジアミンを例とする芳香族炭化水素を含む芳香族化合物、を含むがこれらに限定されない少なくとも1種類の疎水性官能基で官能化されてもよい。
【0037】
修飾多層カーボンナノチューブ等の疎水性又は親水性ナノファイバーナノ微粒子フィラーは、相互に連結した(例:ナノファイバーが相互に連結しているために)分子チャネルを追加で提供する。このような追加の相互に連結した分子チャネルは、界面重合されたポリマー層の透過性を増加させる。特定の実施形態では、ナノファイバーナノ微粒子フィラーは、親水性である。
【0038】
ナノ微粒子フィラーは、実質的に棒状又は円柱状(例:ナノファイバー)のものから実質的に球状(例:五角形と六角形が組み合わされたサッカーボール型の形状を有するバッキーボール)のものまで様々な形態を有していてよい。従って、ある実施形態では、ナノ微粒子フィラーの直径は、約0.3nm乃至約300nmであってよく、ある実施形態では、約0.5nm乃至約50nmであってよく、他の実施形態では、約1nm乃至約30nmであってよい。ナノ微粒子フィラーの形状が棒状又は円柱状である場合、その長さは約1nm乃至約500μmであってよく、ある実施形態では、約100nm乃至約50μmであってよく、通常は約500nm乃至約5μmであってよい。ナノ微粒子フィラーが、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、及び/又はカーボンナノファイバー等のカーボンナノチューブである場合、そのようなナノチューブの直径は約1nm乃至約300nmであってよく、ある実施形態では約5nm乃至約200nmであってよく、他の実施形態では、約10nm乃至約100nmであってよい。
【0039】
ナノ微粒子フィラーは、セルロース(又はセルロース誘導体)コーティング層中に、コーティングの約0.1重量%乃至約95重量%の量で存在してよく、ある実施形態では、コーティングの約0.2重量%乃至約30重量%の量で存在してよく、他の実施形態では、コーティングの約0.5重量%乃至約20重量%の量で存在してよい。官能化ナノ微粒子フィラーをセルロース(又はセルロース誘導体)層中へ組み込むことにより、セルロース(又はセルロース誘導体)層の機械強度を向上させることができ、さらに、セルロース(又はセルロース誘導体)層の流体透過性を高めることができる(例:親水性ナノ微粒子フィラーは、層を通り抜ける親水性チャネルを提供することによって、界面重合されたポリマー層の水透過性を高めることができる)。例えば、官能化ナノ微粒子フィラーとして修飾カーボンナノチューブを約1重量%乃至約10重量%の量で有するセルロース(又はセルロース誘導体)コーティング層は、特定の実施形態では、ナノ微粒子フィラーを持たないセルロースコーティング層と比較して靭性(靭性は圧力‐ひずみ曲線下面積より算出した)を約50%乃至約300%強くすることができ、流動速度(同一の除去率にて)をナノ微粒子フィラーを持たない界面重合されたポリマー層よりも約50%乃至約1000%上昇させることができる。
【0040】
本明細書で述べるように、セルロース(又はセルロース誘導体)コーティングは、多孔性支持体上に配置される。多孔性支持体は、適切ないずれの多孔性材料を含んでもよく、例えば、織物若しくは不織物材料、又は転相法によって作製された多孔性膜(例えば、ポリスルホン精密ろ過膜等)である。
【0041】
ほとんどの実施形態では、多孔性支持体は、ナノファイバーを含む。一つの実施形態では、多孔性支持体層の厚さは、約50nm乃至約50μmである。他の実施形態では、多孔性支持体の厚さは、約50nm乃至約500nmの範囲であり、ある実施形態では、約500nm乃至約5μmの範囲であり、他の実施形態では、約5μm乃至約50μmの範囲である。
【0042】
多孔性支持体は、対称又は非対称に配列されたナノファイバーを含んでよい。 ナノファイバーの「対称である」配列とは、多孔性支持体のいずれの単位体積中のナノファイバーも、その平均直径が実質的に同一であることを意味する。
【0043】
ナノファイバーの「非対称である」配列とは、多孔性支持体のある部分におけるナノファイバーの平均直径が、繊維性支持体の他の部分におけるナノファイバーの平均直径と測定可能なほどに異なることを意味する。例えば、多孔性支持体は、1つの層(すなわち「最上層」)がシートの最上面に配置され、別の層(すなわち「底層」)がシートの底面に配置され、及び任意に、1若しくは2つ以上の追加の層(すなわち「中間層」)が多孔性支持体の最上層と底層との間に配置されるような、少なくとも2つの層を有するシートの形状であってよく、ここで、これらの層の少なくとも1つに含まれるナノファイバーの平均繊維径は、別の層のナノファイバーの平均繊維径と異なっている。
【0044】
「非対称である」多孔性支持体は、ナノファイバーの平均直径が多孔性支持体の一方の表面から逆側の表面へ向かっておおよそ連続的に増加する構造も含む。例えば、本発明の多孔性支持体の形成は、2若しくは3種類以上の平均繊維径の異なるナノファイバーを同時に不織構造へと形成することによって行うことができる。異なるナノファイバーが形成される相対速度を変えることによって、繊維径が一方の表面から逆側の表面へ向けて連続的に変化する非対称構造を作製することができる。多孔性支持体の厚さ方向を通しての平均繊維径の変化率は、「緩やか」であっても、又は比較的急であってもよい。「層」という用語は、平均繊維径が比較的一定である支持体の領域を意味するが、明確に定義する必要がないことは理解されるであろう。
【0045】
別の実施形態では、コーティング層と接する層内のナノファイバーの平均直径は、約2nm乃至約100nmの範囲であり、コーティング層と接する層の下部に配置されるナノファイバーの平均直径は、約100nm乃至約2000nmの範囲である。
【0046】
ナノファイバー自体は、中実、中空、又はナノファイバーの外表面の組成とナノファイバーの内部の組成とが異なるコアシェル構造であってよい。
【0047】
例えば、一つの実施形態では、多孔性支持体の1若しくは2つ以上のナノファイバーが、その中空形態の中央の空隙部が表面修飾ナノファイバーの全有効体積の約1%乃至約90%を占める中空構造であってもよい。
【0048】
別の選択肢としての実施形態では、1若しくは2つ以上のナノファイバーがコアシェル構造を有していてもよく、ここで、コアシェル構造のコアの体積が、表面修飾ナノファイバーの全有効体積の約1%乃至約90%を占める。別の選択肢として、コアは、ナノファイバーのシェルに含まれるポリマーとは異なるポリマーを含んでいてもよい。2若しくは3種類以上の異なるポリマーから成るコアシェルナノファイバーは、本明細書で述べるように、2種類の異なるポリマー溶液から作製することができる。
【0049】
別の選択肢としての別の実施形態では、コアシェルナノファイバーのコアとシェルに同一のポリマーを使用してもよく、ただし、コア又はシェル層がさらに追加の成分を含む。例えば、このようなコアシェルナノファイバーをPVP等のポリマーから作製することができ、ここで、シェル層がさらにアモルファスTiO2を含む。さらに別の実施形態では、コアシェルナノファイバーは、添加剤を含むポリマー性シェル及び抽出可能なコアを有することができ、このコアを抽出することにより、添加剤含有シェル層を有する中空ナノファイバーを得ることができる。例えば、このようなナノファイバーは、アモルファスTiO2も含むPVPシェル及びオイルコアから作製することができる。オイルコアの抽出後、得られた中空ナノファイバーは、膜分離プロセス、ナノフルイディクス、及び水素貯蔵を含むがこれらに限定されない広範囲の用途に対して有用であり得る。当業者であれば、所望する用途に応じてPVP以外のポリマー及びモルファスTiO2以外の添加剤を用いることが可能であることは理解されるであろう。このようなポリマー及び添加剤の限定されない例としては、本明細書で開示するものが挙げられる。本明細書で述べるように、このような多孔性支持体から作製された膜において所望の分離特性を得るために、使用するポリマー及び添加剤を適切に選択することによってナノファイバーの化学的特性を改変することが可能である。
【0050】
多孔性支持体内の空隙は、その空隙を作り出すナノファイバーの数及び直径に応じて様々な大きさであってよい。特定の空隙を作り出すナノファイバーの直径が増加すると、その空隙の大きさは減少する。しかし、本発明のナノファイバーの対称又は非対称である配列によって作り出される空隙は、相互に連結している。相互に連結した細孔の大きさは、繊維性支持体から作製される膜に対して適切な流束、分離特性、及び機械特性を提供するために、様々であってよい。
【0051】
本発明の多孔性支持体のナノファイバーは、ポリエチレン及びポリプロピレン、並びにこれらのコポリマーを含むポリオレフィン;芳香族ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のポリスルホン;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン等のハロポリマー;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン612、ナイロン12等、芳香族ポリアミド等のポリアミド;ポリカーボネート;ポリスチレン;ポリアクリロニトリル;ポリメチルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチルメタクリレート等のコポリマー等のポリアクリレート;ポリ酢酸ビニル及び部分加水分解ポリ酢酸ビニル等のポリアセテート;ポリビニルアルコール、カチオン性修飾ポリビニルアルコール、アニオン性修飾ポリビニルアルコール等のポリアルコール;キトサン、ヒアルロナン、セルロース、再生セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロースエーテル、酢酸セルロース(モノ、二、及び三酢酸エステルを含む)等のセルロースエステル等の多糖類;コラーゲン、ゼラチン等のタンパク質;イオノマー;ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレングリコール、架橋性ポリエチレングリコール等のポリアルキレンオキシド;ポリウレタン;ポリウレア;ポリ(ウレタン‐ウレア);ポリエチレンイミン等のポリイミン;ポリビニルピロリドン;ポリアクリル酸;ポリメタクリル酸;ポリジメチルシロキサン等のポリシロキサン;ポリ(エステル‐コ‐グリコール)コポリマー;ポリ(エーテル‐コ‐アミド)コポリマー;並びに上記のいずれかの混合物、誘導体、コポリマー、及び架橋物、を含むがこれらに限定されない適切なポリマーから作製することができる。誘導体としては、ナノファイバーを構成するポリマー中に存在する官能基(例:ヒドロキシル基又はアミノ基)のアルキル化、アシル化等によって、又は加水分解性官能基(例:エステル、アミド、無水物等)の加水分解によって形成されるエーテル、エステル、アミド等が挙げられる。特定の実施形態では、多孔性支持体のナノファイバーは、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、修飾セルロース、修飾キトサン等の架橋水溶性ポリマーを含む。
【0052】
ある実施形態では、多孔性支持体のナノファイバーは、ポリアクリロニトリル(PAN)(例:Aldrichより市販)、又はポリビニルアルコール(PVA)(例:Polysciences, Inc.より市販)から作製される。他の実施形態では、多孔性支持体に含まれるナノファイバーは、ポリエーテルスルホン(PES)、及びポリスルホン(PSF)(例:Solvayより市販)から作製される。さらに他の実施形態では、多孔性支持体のナノファイバーは、ポリアミド(PA)、又はナイロン6(N‐6)から作製される。
【0053】
ある実施形態では、本発明の多孔性支持体のナノファイバーは非架橋ポリマーを含み、例えば、多孔性支持体と接触する流体媒体中に存在し得る溶媒のいずれに対してもポリマーが不溶性である場合である。しかし、その他の用途では、使用中に繊維性支持体と接触し得る溶媒に対して部分的又は完全に溶解性であるポリマーから多孔性支持体を作製することが望ましい場合がある。一つの実施形態では、ポリビニルアルコール、多糖類(例:キトサン及びヒアルロナン)、ポリアルキレンオキシド(例:ポリエチレンオキシド)、ゼラチン、及び誘導体等の水溶性ポリマーを含むナノファイバーを、本技術分野で公知の方法を用いて架橋することができる。例えば、ヒドロキシル基又はアミノ基を含むポリマー(例:ポリビニルアルコール、多糖類、タンパク質等)は、アルデヒド(例:ホルムアルデヒド)、ジアルデヒド(例:グルタルアルデヒド、グリオキサール等のC2‐C8ジアルデヒド)、酸官能性を有するモノアルデヒド(例:グリオキシル酸)、ポリカルボン酸(例:オキシジコハク酸、クエン酸)等を用いて架橋することができる。このような化合物は、水溶性ポリマーの少なくとも2つのヒドロキシル(又はアミノ)基と反応することができる。他の架橋方法としては、任意に適切な架橋剤/触媒及び放射線増感剤/触媒で修飾されるか又はこれらと混合されるポリマーの熱及び放射線架橋法(光架橋、電子線架橋、ガンマ線架橋等)が挙げられる。架橋剤又は架橋法の選択に対しての2つの重要な基準は、架橋剤又は架橋法が、(1)ナノファイバーを溶解するものであってはならず、(2)繊維性支持体の寸法に大きな変化を起こすものであってはならない(例:親水性エレクトロスピニングナノファイバー支持体は、その親水性である性質のために炭化水素等の疎水性溶媒に対して非常に大きな収縮を示す場合がある)、ということである。一つの実施形態では、ナノファイバーは、グルタルアルデヒドで架橋したポリビニルアルコールを含む。他の実施形態では、ナノファイバーは、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、酢酸セルロース、又はポリビニルアルコールを含む。
【0054】
別の実施形態では、本発明は、ナノファイバーを各々が含む複数の層をさらに有する多孔性支持体層に関し、ここで、コーティング層と接する層中のナノファイバーの平均直径は、コーティング層と接する層の下部に配置されたナノファイバーの平均直径よりも小さい。
【0055】
他の実施形態では、多孔性支持体は、3若しくは4つ以上の層:最上層、1若しくは2つ以上の中間層、及び底層、を含んでもよく、ここで、中間層は、最上層と底層との間に配置される。本明細書で用いられる最上層とは、コーティング層と接する多孔性支持体の層のことである。本明細書で用いられる底層とは、コーティング層と接する層の下部に配置された多孔性支持体の層のことである。最上層及び底層は、1若しくは2つ以上の中間層によって連続的に連結されており(中間層が存在する場合‐そうでない場合は、最上層と底層は互いに連結される)、すべての層は単一のユニットとして機能する。
【0056】
他の実施形態では、多孔性支持体の最上層は、平均厚さが約40nm乃至約500nmであり、ナノファイバーの平均直径が約75nm乃至約500nmであり、底層は、平均厚さが約5μm乃至約50μmであり、底層のナノファイバーの平均直径が約5μm超である。存在する場合、中間層は、厚さが約500nm乃至約5μm未満の平均厚さの範囲である。中間部分のナノファイバーは、平均直径が約100nmであり、ある実施形態では、約100nm乃至約5μmである。
【0057】
繊維性支持体の最上層、中間層(存在する場合)、及び底層のナノファイバーの直径は、連続的に又は非連続的に変化していてもよい。例えば、非連続的配列においては、各層は同一のナノファイバーの平均直径を有するが、各層内のファイバーの平均直径は異なっている。結果として、平均繊維径は、一つの層から次の層へ向けて比較的急に変化している。連続的配列においては、各種層の平均繊維径はおおよそ連続的に変化し、平均繊維径が繊維性支持体の厚さ方向を通して滑らかに増加するようになっている。通常、セルロースコーティング層と接している多孔性支持体の最上層のナノファイバーは、中間層及び底層のファイバーと比較して平均繊維径が小さい。
【0058】
本発明によると、一つの実施形態では、多孔性支持体は、多孔性支持体の逆側の表面に配置された基材層をさらに含み、それによって、多孔性支持体はセルロースを含むコーティング層と基材層との間に配置される。基材層は通常は多孔性層であり、例えば、織布又は不織布である。一つの実施形態では、基材層は、無機又は有機ポリマー性繊維を含む不織布であり、例えば、ポリ(エチレンテレフタレート)を含むものを例とするポリエステル繊維;ポリプロピレンを含むものを例とするポリオレフィン繊維;セルロース又は酢酸セルロースを含むものを例とするセルロース繊維;ポリアミド繊維;ポリ(ウレタン)繊維;ガラス又は鉱物繊維;無機繊維(例:セラミック繊維、金属繊維)、及びこれらの混合物である。不織基材層の平均厚さは約20μm乃至20mmとすることができる。不織マトリックスの一つの機能は、本明細書で開示する繊維性支持体の対称又は非対称配列に対してさらなる支持を提供することである。
【0059】
本明細書で考察するように、ある実施形態では、本発明の膜は、ナノファイバーを含む多孔性支持体、多孔性支持体の表面に配置されたセルロース(又はセルロース誘導体)を含むコーティング(多孔性支持体を、イオン液体に溶解したセルロース(又はセルロース誘導体)の溶液でコーティングすることによって作製)、及び多孔性支持体がセルロース(又はセルロース誘導体)コーティングと基材層との間に配置されるように多孔性支持体の逆側の表面に配置された基材層、を含む。一つの実施形態では、本発明の膜は、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜、又は正浸透膜として有用である。本発明の別の実施形態では、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜、又は正浸透膜は、高い透過流束及び除去率を示し、優れた耐薬品性によって付着汚染の度合いを低減する。
【0060】
一つの実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における水のろ過に対して約100L/m2h乃至約700L/m2hの透過流束を有する。別の実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における水のろ過に対して約200L/m2h乃至約300L/m2hの透過流束を有する。別の実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における水のろ過に対して約100L/m2h乃至約200L/m2hの透過流束を有する。別の実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における水のろ過に対して約400L/m2h乃至約200L/m2hの透過流束を有する。別の実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における油/水分離に対して約40L/m2h乃至約160L/m2hの透過流束を有する。別の実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における油/水分離に対して約120L/m2h乃至約160L/m2hの透過流束を有する。別の実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における油/水分離に対して約80L/m2h乃至約120L/m2hの透過流束を有する。別の実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における油/水分離に対して約40L/m2h乃至約80L/m2hの透過流束を有する。上記の透過流束値を有する膜に対するセルロースコーティングの厚さは、約0.3ミクロン乃至約0.5ミクロンの範囲である。
【0061】
別の実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における油/水分離に対して少なくとも約99.0%の除去率を有する。さらに別の実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における油/水分離に対して少なくとも約99.2%の除去率を有する。さらに別の実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における油/水分離に対して少なくとも約99.5%の除去率を有する。さらに別の実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における油/水分離に対して少なくとも約99.7%の除去率を有する。さらに別の実施形態では、本発明の膜は、約60psiの圧力における油/水分離に対して少なくとも約99.7%の除去率を有する。さらに別の実施形態では、本発明の膜は、約60psiの圧力における油/水分離に対して少なくとも約99.5%の除去率を有する。さらに別の実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における油/水分離に対して少なくとも約99.2%の除去率を有する。上記の除去率値を有する膜に対するセルロースコーティングの厚さは、約0.3ミクロン乃至約0.5ミクロンの範囲である。
【0062】
本発明の1若しくは2つ以上の膜を、流体混合物を少なくとも1つの膜のセルロースコーティングの表面と接触させるための手段と、保持物を除去するための手段と、透過物(permeate)を除去するための手段と、を装備した膜モジュールへ組み込むことができる。本発明の流体分離膜は、適切ないずれの形態で用いてもよく、例えば、管状膜、中空糸膜、又は平面シート状膜であり、膜分離の分野で公知の従来の膜モジュールの形態に組み込まれる。例えば、一つの実施形態では、本発明の膜は、スパイラル型膜モジュール又は平面シート膜モジュールの形態とされる平面シート状液分離膜であってよい。そのような形態では、必要に応じて、圧力容器内部にて膜を適切なスペーサー間に挟み込んでよい。1若しくは2つ以上の膜を各モジュールへ組み込むことができ、1若しくは2つ以上のモジュールを本技術分野で公知の適切な配管、ポンプ等で相互に連結し、流体混合物の分離を実施することができる流体分離システムを提供することができる。
【0063】
別の実施形態では、本発明は、(a)多孔性支持体(例:ナノファイバーを含む)を作製する工程と;(b)イオン液体中のセルロース(又はセルロース誘導体)の溶液を調製する工程と;(c)工程(b)のセルロース(又はセルロース誘導体)溶液を多孔性支持体の一方の側にコーティングする工程と;(d)セルロース(又はセルロース誘導体)の過剰の溶液を多孔性支持体から除去する工程と、を含む膜の作製方法に関する。コーティング溶液は、本明細書で述べるいずれかのイオン性溶媒に溶解した、本明細書で述べるいずれの形態のセルロース(又はセルロース誘導体)を含んでいてもよい。
【0064】
特定の実施形態では、イオン液体中に溶解したセルロース(又はモノ‐、二‐、三酢酸セルロース等のセルロース誘導体)の溶液を、不織ナノファイバー支持体を例とする多孔性支持体の一方の表面上へ広げる(例えば、ドクターブレードの使用、スプレー、ディップコーティング等)。多孔性支持体は、多孔性支持体へのセルロースコーティング溶液の浸透を制御するために、任意に水で飽和させていてもよい。セルロース(又はセルロース誘導体)溶液を多孔性支持体上へコーティングした後、エタノール等の適切な溶媒で洗浄することによって膜表面から過剰のセルロース(又はセルロース誘導体)溶液を除去するために、コーティングされた支持体をエタノール浴中へ浸漬させてもよい。得られた膜は、次に、例えば減圧下のオーブン中にて乾燥させてよい。コーティング層の厚さ並びに膜表面の形態は、SEM等の従来の技術を用いて測定することができる。
【0065】
さらに別の実施形態では、ナノファイバーを含む多孔性支持体は、適切ないずれのナノファイバー製造方法によって作製してもよい。多孔性支持体は、エレクトロスピニング、エレクトロブロー(electro‐blowing)、ブローアシストエレクトロスピニング(blowing‐assisted electro‐spinning)、及び/又は溶液ブロー(solution blowing)若しくは溶液キャスティング法を用いて作製することができる。ブローアシストエレクトロスピニング及びエレクトロブローはいずれも、電気力及びガスの吹き込みによるせん断力を利用するものである。ブローアシストエレクトロスピニングプロセスでは、電気力が主たる因子であり、一方、ガス吹き込みの特性は、流体ジェット流のせん断、及び溶媒の蒸発の制御を補助することができる(より低いスループット、より小さい直径)。対照的に、エレクトロブロープロセスでは、ガスの吹き込み力が所望のスピンドロー比(spin‐draw ratio)を得るための主たる因子であり、一方、電気力はファイバーのさらなる延伸を可能とすることができる(より高いスループット、より大きな直径)。エレクトロスピニングプロセスは、電気力のみを利用してガス流による補助はなく、一方、溶液ブロープロセスは、ガス流のみを利用して電気力は用いない。一つの特に有用な実施形態では、PAN又はPVA等の中間層を、不織PETマイクロフィルター(Freudenburg NonwovensからのFO2413)等の基材上へ、当業者に公知の方法を用いてエレクトロスピニングによって形成することができる。
【0066】
エレクトロスピニングで用いる印加される電場電位は、約10乃至約40kVの範囲で様々であってよく、通常は、約15乃至約30kVであり、スピナレットとコレクターとの間の距離は、約5乃至約20cmであり、通常は、約8乃至約12cmであり、及び溶液の流速は約10乃至約40μL/分であり、通常は、約20乃至約30μL/分である。一つの実施形態では、エレクトロスピニングプロセスは、約2kV/cmの印加される電場強度、及び約25μL/分の溶液流速を用いることができる。
【0067】
エレクトロブローによってファイバーを形成する方法は、当業者の理解の範囲内であり、例えば、開示されている方法が挙げられる(例:その全体があらゆる点において参照することで本明細書に組み入れられる、米国特許出願公開第2005/0073075号に記載の方法)。簡潔に述べると、エレクトロブロープロセスでは、静電場をガス流場と組み合わせる。液滴がガス流によって引き出されるメルトブロー(電荷を必要としない)のように、エレクトロブローでは、この組み合わされた力が、帯電した液滴の表面張力に打ち勝つのに十分な強さを持つ。これにより、いずれかの方法単独の場合と比較して、静電場及びガス流速の使用を大きく低減することができる。ガス流の流れ及び静電場はいずれも、流体ジェット流を非常に素早く接地部へ引き出すように設計される。スピンドロー比は、流体の電荷密度、流体粘度、ガス流速、及び静電電位等の多くの変数に応じて異なる。ある実施形態では、これらの変数は処理の途中で変化させることができる。例えば、静電電荷の注入を用いて流体の電荷密度を上昇させることができ、又は中性の流体を帯電した流体に変換することさえ可能である。ガス流の温度によっても、流体の粘度を変化させることができる。引き出し力は、ガス流速及び印加される静電電位の上昇と共に増加する。ガスと帯電流体ジェット流との密接な接触により、ジェット流が単にジェット流を取り巻く空気を通過するだけであるエレクトロスピニングプロセスよりも効果的な熱伝達が行われる。従って、流体が溶液である場合、ガス温度、ガス流速、及びガス流動プロファイル(gaseous streaming profile)が、溶媒の蒸発速度に影響を与え、これを制御することができる。ガス温度は、液体窒素温度から何百度という温度の過熱ガスまで様々であってよく;好ましい範囲は、溶媒の所望の蒸発速度に応じて、従って溶媒の沸点に応じて異なる。流動プロファイルは、ジェット流を安定させることを目的とし、メルトブローに用いられるものと類似とするべきである。
【0068】
エレクトロブローの実施形態では、繊維性支持体を形成するためのスピナレットあたりのポリマー溶液の供給速度は、約5乃至約2500μL/分であってよく、通常は約20乃至約300μL/分であり、実施形態では、約35乃至約150μL/分である。エアーブロー温度は、約0℃乃至約200℃であってよく、通常は約20℃乃至約120℃であり、実施形態では、約25℃乃至約90℃である。スピナレットあたりのエアーブロー速度は、約0立方フィート毎時(SCFH)乃至約300SCFHの範囲で様々であってよく、通常は約5SCFH乃至約250SCFHであり、実施形態では、約20SCFH乃至約150SCFHである。電位は、典型的なスピナレットとコレクター間の距離約10cmにて、約1kV乃至約55kVであってよく、通常は約15kV乃至約50kVであり、実施形態では、約30kV乃至約40kVである。
【0069】
ナノファイバー支持体がブローアシストエレクトロスピニングで形成される場合、ナノファイバーの骨格を形成するためのスピナレットあたりのポリマー溶液の供給速度は、約5乃至約150μL/分であってよく、通常は約10乃至約80μL/分であり、実施形態では、約20乃至約50μL/分である。エアーブロー温度は、約0℃乃至約200℃であってよく、通常は約20℃乃至約120℃であり、実施形態では、約25℃乃至約90℃である。スピナレットあたりのエアーブロー速度は、約0立方フィート毎時(SCFH)乃至約300SCFHの範囲で様々であってよく、通常は約5SCFH乃至約250SCFHであり、実施形態では約20SCFH乃至約150SCFHである。電位は、典型的なスピナレットとコレクター間の距離約10cmにて、約1kV乃至約55kVであってよく、通常は約15kV乃至約50kVであり、典型的な範囲全体の中で、実施形態では、約20kV乃至約40kVである。
【0070】
他の実施形態では、多孔性支持体を溶液ブローによって形成することができ、これは、骨格の作製にポリマー溶融物ではなくポリマー溶液を用いること以外はメルトブローと類似している。このような技術は、当業者の理解の範囲内であり、ポリマー材料と膨張剤(blowing agent)を通常は液体である単一の相として形成し、続いてこれを、液体のスプレーに電場を用いないこと以外はエレクトロブローに用いられるものと類似の従来の設備を用いてスプレーすることを含む。液体ブローに有用なパラメータとしては、例えば、空気中の音速の約100分の1乃至音速に近い速度、すなわち時速約600マイル、のガス流を用いることで得られる非常に高いせん断力を用いることが挙げられる。
【0071】
本発明の一つの実施形態では、イオン液体に溶解したセルロース(又はセルロース誘導体)の溶液を、多孔性支持体(例:本明細書で述べるナノファイバー多孔性支持体)の一方の側にコーティングする。セルロース(又はセルロース誘導体)層の厚さの制御は、セルロース(又はセルロース誘導体)の濃度、溶液の粘度等のセルロース(又はセルロース誘導体)溶液の特性を適切に選択することによって、又は多孔性支持体の表面上に塗布されるセルロース(又はセルロース誘導体)溶液の量を制御することによって行うことができる。
【0072】
さらに、多孔性支持体は、セルロース(又はセルロース誘導体)溶液が溶解しない液体で飽和させ、多孔性支持体へのセルロース(又はセルロース誘導体)溶液の浸透を制御することができる。特定の実施形態では、多孔性支持体を水で飽和させる。水は、セルロース(又はセルロース誘導体)溶液によって多孔性支持体が過剰に飽和することを防ぎ、それによって、比較的薄いセルロース(又はセルロース誘導体)層が提供される。多孔性支持体中の水の量は、セルロース(又はセルロース誘導体)層による多孔性支持体への所望の「浸透」度合いを得るために、様々に変えることができる。セルロース(又はセルロース誘導体)層と多孔性支持体との間の十分な接着性を促進するために、セルロース(又はセルロース誘導体)層による多孔性支持体へのある程度の相互浸透が望ましい。セルロース(又はセルロース誘導体)層は、多孔性支持体へわずかに浸透するだけであってよい(例:多孔性支持体のセルロース(又はセルロース誘導体)層への侵入は、セルロース(又はセルロース誘導体)層の平均厚さの約1%である)。別の選択肢として、セルロース(又はセルロース誘導体)層は、セルロース(又はセルロース誘導体)層の全厚さにわたって完全に浸透していてもよい。例えば、支持体層がナノファイバーを含む場合、支持体層の少なくとも一部のナノファイバーが、セルロース(又はセルロース誘導体)層の全厚さにわたって侵入していてよい。ナノファイバーは高多孔性の相互連結構造を有し、そのために透過する流れに対する抵抗を非常に低くすることができ、従って、薄フィルム複合膜を例とする従来の微孔性支持体を主体とする膜と比較して高い流束を得ることができる。さらに、セルロース(又はセルロース誘導体)層に侵入するナノファイバーは、本発明の膜の透過流束を高める「導管」として機能することができる。
【0073】
以下のセクションにて、本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0074】
図1乃至21を参照する以下の実施例を用いて本発明を説明する。
【0075】
物質と作製
セルロース:
セルロース620(コットンリンターパルプ、重合度=620)は、中国のHubei Chemical Fiber Co. Ltd.より入手した。セルロース1320、3920、及び7350(コットンリンターパルプ)は、米国のBuckeye Technologies Inc.より入手した。セルロースB‐92、B‐96、及びB‐HDP(漂白木材パルプ:Biofloc 92 MV、Biofloc 96、及びBiofluff HDP)は、フランスのTembec Tartas factoryより入手した。
【0076】
イオン性溶媒:
塩化1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウム(BASFクオリティ(BASF quality)、>95%)、及び酢酸1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウム(BASFクオリティ、>90%)は、Sigma‐Aldrichより購入し、さらなる処理をせずに使用した。塩化1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウムは、以下で述べるようにして合成も行った。
【0077】
ポリマー(ナノファイバー作製のため):
ポリアクリロニトリル(PAN、重量平均分子量1.5×105g/mol)はAldrichより購入し、ポリビニルアルコール(PVA、重量平均分子量8.5×104〜1.24×105g/mol、加水分解度96%)はPolysciences Inc.より購入した。ポリエーテルスルホン(PES、Radel‐A100)及びポリスルホン(PSF、Udel3500)はSolvayより入手した。ポリアミド(PA)及びナイロン6(N‐6)は、市販されている。
【0078】
膜支持体:
ポリ(エチレンテレフタレート)不織基材(平均繊維径約10μmのPETマイクロフィルターFO2413)を、Freudenberg Nonwovens(ホプキンズビル,ケンタッキー州)より入手した。
【0079】
シード溶液:
油/水乳化混合物(脱イオン(DI)水中の1350ppm大豆油/150ppm DC193(乳化剤)、12000rpmにて10分間攪拌して調製)を用いてセルロース膜のろ過性能を試験した。分子量の異なる一連のデキストラン(Aldrichより):4k‐6k、9k‐11k、15k‐17k、35k‐45k、64k‐76k、100k‐200k、200k‐300k、をMilli‐Q水へ溶解してナトリウムアジド(500ppm)を含有する5000ppmのシード溶液を調製し、これを用いてセルロース膜のカットオフ分子量(MWCO)の試験を行った。DI水中500ppmのアルギン酸ナトリウム(80‐120kDa)を用いてセルロース膜の付着汚染の試験を行った。
【0080】
試験機器:
有効ろ過面積が0.00134m2であるMillipore攪拌限外ろ過セル(モデル8050)、並びに有効ろ過面積が0.00652m2である注文製造のクロスフローろ過装置を用いて全量ろ過を行った。MWCO測定の結果の判定には、全有機炭素分析器(TOC‐5000、島津製作所)を用いた。サンプルのTGAスキャンを、空気流下、Perkin‐Elmer Inc.のTGA7を用い、10℃/分にて60℃から800℃まで収集した。1H NMRスペクトルは、Varian GEMINI2300NMR分光器上、CDCl3を溶媒として25℃で得た。広角X線回折(WAXD)及び小角X線散乱(SAXS)の実験を、ブルックヘブン国立研究所(BNL)の国立シンクロトロン光源(NSLS)におけるビームラインX27Cにて実施した。用いた波長は0.1371nmであった。サンプル‐検出器間の距離は、WAXDについては118.5mmであり、SAXSについては1813.5mmであった。データ収集には、Fujiイメージリーダーを用いた。
【0081】
実施例1.塩化1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウム(BCl)の作製
塩化1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウム(BCl)の作製:塩化1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウムは、1‐メチルイミダゾールと1‐クロロブタンの混合物(モル比1:1)を90℃で24時間加熱し、続いてエーテルで3回洗浄することによって作製した。このイオン液体の化学構造は1H NMRで確認し、スキーム1に示す(I)。Aldrichより購入した別のイオン液体、酢酸1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウムの構造を、スキーム1に示す(II)。
【0082】
【化1】
【0083】
1H NMR(溶媒D2O、d、ppm)スペクトルは以下のピーク:8.606(N‐CH‐N、s、1Η)、7.374(N‐CH‐CΗ、s、1Η)、7,327(N‐CH‐CΗ、s、1Η)、4.095(N‐CH2、t、2Η)、3.789(N‐CH3、t、2Η)、1.747(N‐CH2‐CH2、m、2Η)、1.229(N‐CH2‐CH2‐(CH2)2、m、2H)、0.819(CH3、t、3Η)、から構成され、イオン液体(塩化1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウム)の構造が確認される。
【0084】
実施例2.セルロース溶液の調製
セルロース溶液は、種々の等級のセルロース0.02gをそれぞれのイオン液体19.98gに添加し、次にこの混合物を油浴中、90℃にて1時間攪拌しながら加熱することで調製した。室温へ冷却後、濃度0.1%の透明溶液が使用可能な状態となった。
【0085】
実施例3.エレクトロスピニング支持体の作製
PAN、架橋PVA、PA、ナイロン6、PES、及びPSFを含むすべてのエレクトロスピニング支持体は、その全体があらゆる点で参照することで本明細書に組み入れられる米国特許出願第11/664650号及び第11/951248号に記載のものと類似の条件を用いて研究室にて作製した(PA及びナイロン6支持体は除く。これらはそれぞれ、Donaldson及びDu Pontより入手した)。
PANエレクトロスピニング支持体:繊維径約500nm、支持体厚さ40〜50μm;
PVAエレクトロスピニング支持体:繊維径約230nm、支持体厚さ40〜50μm;
PAエレクトロスピニング支持体:繊維径約200nm、支持体厚さ5〜20μm;
ナイロン6エレクトロスピニング支持体:繊維径約500〜1000nm、支持体厚さ約20μm;
PESエレクトロスピニング支持体:繊維径約500nm、支持体厚さ40〜50μm;
PSFエレクトロスピニング支持体:繊維径約700nm、支持体厚さ40〜50μm。
【0086】
実施例4.セルロース膜の作製
PANエレクトロスピニング支持体の端部に沿ってテープ(通常は、3×4インチ、0.5mm厚のテープ)でシールした。このテープでシールした支持体を水(室温、2分間、DI水)に浸漬し;そして次に、この浸漬した支持体から過剰の水を流出させた(ゴム製の棒により)。次に、イオン液体(BCl又はEAc)に溶解したセルロース溶液を膜の一方の側に塗布した(0.1重量%の溶液4.0g)。セルロース溶液をコーティング機(Automatic Drawdown Machine, Model DP‐8301, Paul N, Gardner Company, Inc.;速度:2インチ/分、室温)で広げた後、膜をエタノール浴へゆっくり浸漬させ(30分間、室温、移動速度:0.5インチ/分)、続いて膜を減圧下、オーブン中にて乾燥させた(室温、5分間、湿度:60%)。次に膜を蒸留水で洗浄し(室温、1分間)、乾燥(室温、湿度:60%、60分間)させてから使用した。以下のフローチャートは、PANエレクトロスピニング支持体上のセルロース層のコーティングを示す。
【0087】
【表2】
【0088】
セルロースコーティングの厚さ及び表面形態をSEMで評価した。セルロースコーティング層の厚さは約0.3乃至1.0μmであり、表面形態は平滑かつ平坦であった。
【0089】
実施例5.重合度の異なるコットンリンターパルプの溶液から作製したセルロース膜
セルロースの重合度の違いによる透過流束及び除去率等の膜特性への影響を、塩化1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウム(BCl)中の異なるコットンリンターパルプの溶液でコーティングされた4種類のセルロース膜を用いて試験した。セルロース溶液の濃度は0.1%とした。これらの膜の最上層の厚さは、SEM画像で確認したところ、ほぼ同じ(0.5μm)であった。
【0090】
全量ナノろ過セルを用いて純水の流束を評価した(図1)。すべての膜の流束が非常に類似していることが分かった。15psiにて攪拌せずに油/水シード溶液を用い、これらの膜の透過流束及び除去率をさらに試験した(図2)。類似の透過流束及び除去率の値が観察され、このことから、流束及び除去率は、コットンリンターパルプの重合度が異なることによって大きく影響を受けることはないという結論が導かれる。
【0091】
実施例6.種々の漂白木材パルプを用いて作製されたセルロース膜
セルロース源による透過流束及び除去率への影響をさらに調べるため、一連の漂白木材パルプを、同一の条件下にて溶解し、コーティングした(BCl中木材パルプ0.1%、セルロース層厚さ0.5μm)。MWCO(カットオフ分子量)を以下のようにして評価した:膜を全量ろ過セルへ設置し、10psiまで加圧した。次に、純水の透過液50mlを回収して膜が平衡状態であることを確認した。平衡化の後、5000ppmのデキストラン50mLをセルに添加し、次のようにして試験を実施した:透過液の最初の5mLは廃棄し、次の透過液5mLを回収して分析した。この手順を各デキストランサンプルについて繰り返した。TOC分析器を用いて各サンプルを評価した。
【0092】
図3は、これらの膜すべての透過流束が互いに類似していたこと、及びコットンリンターパルプコーティング溶液から作製した膜の結果とも類似していたことを示している。膜特性のこの類似性の理由は、イオン液体中でセルロースが分子レベルで完全に溶解しており、それによって、異なるセルロース源からの異なる分子量のセルロースの種々のコーティング溶液の溶液特性が類似し、類似のろ過特性を持つセルロースコーティングが提供されたということが考えられる。
【0093】
実施例7.最上層の厚さが異なるセルロース膜
コーティングプロセスで用いるセルロース溶液の量を制御することによって最上層の厚さが異なる一連のセルロース膜を作製し、圧力を上昇させる条件下でのその挙動を評価した。純水の流束、油/水シード溶液に対する透過流束及び除去率について、攪拌条件下、種々の圧力にて試験を行った。図4は、圧力の上昇と共にセルロース膜の純水の流束が増加したことを示す。より薄いセルロース層ではより高い流束の値が得られており、流束が最上層の厚さに大きく依存することにも留意されたい。この結果は、15psiでの油含有水のろ過によってさらに確認された(図5)。透過流束はセルロース層厚さの増加と共に減少したが、除去率はおおよそ一定に維持されていた。
【0094】
実施例8.種々の濃度のコーティング溶液でコーティングされたセルロース膜
セルロース膜の作製におけるコーティング溶液濃度の違いによる影響を評価した。全量ろ過セルを用いて種々の圧力における純水の流束及び油/水のろ過の測定を実施した。図6に示すように、純水の流束はコーティング溶液の濃度の影響を受けた。濃度の低いセルロース溶液から作製した膜は、最上層の見かけの厚さがより濃度の高いセルロース溶液を用いて作製した膜と同じであっても、水の流束が高かった。より高い濃度のセルロース溶液から作製した膜は、圧力及び見かけのセルロース層厚さの変化に対する流束の感度は低かった。これらの膜は、油/水乳化溶液で評価した場合も、除去率が高く、圧力の変化に対して比較的影響を受けなかった(図7)。
【0095】
実施例9.セルロース膜のMWCOの評価
PANエレクトロスピニング多孔性支持体上のセルロース膜について、カットオフ分子量(MWCO)の除去率に対する影響を、実施例6で述べた手順を用いて評価した。TOCの結果によって測定したところによると、コーティング層厚さが0.5μmである膜のMWCOが60K超である場合、除去率は40%超である。デキストランの分子量が200K超である場合、除去率は70%に近くなる(図8)。
【0096】
濃度0.2%のセルロースコーティング溶液から作製し、セルロース層厚さが1.0μmであるセルロース膜は、除去率はより薄い膜(0.5μm)のものよりも少し高かったが、流束は、やはり多少低かった(図9)。
【0097】
実施例10.酢酸1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウム(EAc)によって作製したセルロース膜
セルロース620を酢酸1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウム(EAc)中へ溶解し、実施例4にて前述のものと類似のセルロース膜を作製した。図10は、2種類のイオン液体、及びこれらのイオン液体を用いて調製した種々のセルロースコーティング溶液の粘度を示す。EAcの粘度はBClよりも約100倍低い。セルロース濃度0.1%のEAc及びBCl溶液では、粘度の差は同じに維持されている。セルロース濃度0.5%のEAcのセルロース溶液では、粘度は純粋なBClよりも非常に低かった。
【0098】
EAcを用いたより薄い膜をコーティングして流束を増加させることが可能かどうかを評価するために、一連のセルロース膜を作製して純水の流束(図11)、油/水の透過流束及び除去率(図12)について試験した。図11は、最上層の厚さの減少と共に純水の流束が増加したことを示す。より薄いセルロース層を有するセルロース膜の透過流束は、厚いものよりも非常に高く、一方、良好な除去率が維持された(図12)。透過流束及び除去率をMWCOの関数として図13に示す。EAcによって作製されたセルロース膜のMWCOは100K超であった。除去率は、分子量200Kのデキストランに対して70%超であることが分かった。
【0099】
実施例11.PAエレクトロスピニング膜を主体とするセルロース膜
PAエレクトロスピニング支持体上のセルロース層厚さが異なる一連のセルロース膜を、実施例4で述べたものと同じ手順に従って作製した。図14及び15は、圧力を上昇させた場合の純水の流束への影響を示す。PAセルロースコーティング膜では、比較的低い圧力(例:15psi)で非常に高い水の流束が達成され得る。特に、PA‐4及びPA‐2を支持体とするこれらの膜は、PA‐1及びPA‐3と比較して高い流束を示した。
【0100】
これらの膜を、油/水乳化溶液を用いてさらに評価した(図16及び17)。このような条件下にて、良好な除去率は維持したまま、圧力の上昇と共に透過流束は増加した。最上部コーティング層の厚さは、流束、並びに除去率に影響を与えた。一般に、より薄い最上層は、流束の上昇と相関していた。さらに、PA‐4又はPA‐2の多孔性支持体を有する膜では、PA‐1又はPA‐3の支持体を有する以外は同一である膜と比較して、高い流束及び類似の除去率が観察された。さらに、より薄いセルロース最上層(0.5μm)を有するセルロース膜では、圧力に対応しての除去率は僅かしか低下しないことも分かった。しかし、より厚いセルロース最上層(0.8μm)を有する膜に対する除去率は、適用した圧力範囲にわたって変化しなかった。
【0101】
すべての膜のMWCOが60K超である場合、透過流束は、シード溶液中のデキストランの分子量の増加と共に少しずつ減少した。これらの膜の中で、より高い透過流束を維持したまま他の膜よりも高い除去率を有することから、PA‐4がより優れている(図19及び19)。
【0102】
実施例12.ナイロン6エレクトロスピニング膜を主体とするセルロース膜
ナイロン6エレクトロスピニン多孔性支持体を用い、コーティング厚さが異なり、さらにはコーティング溶液の濃度も異なる一連のセルロース膜を作製した。ナイロン6の多孔性支持体をコーティングする際のセルロース濃度の影響を、水の流束、透過、及び除去率のパラメータについて評価した。ナイロンエレクトロスピニング膜は形態が悪く、サイズの大きい細孔が多いことから、用いたセルロース溶液の最適濃度は0.5%であり、膜の評価は非常に低い圧力(3psi)で行った。結果を表3に示す。
【0103】
【表3】
【0104】
実施例13.架橋PVAエレクトロスピニング膜を主体とするセルロース膜
PVAエレクトロスピニング多孔性支持体を用い、コーティング厚さが異なり、さらにはコーティング溶液の濃度も異なる一連のセルロース膜を作製した。セルロースコーティング溶液中のセルロース濃度の膜特性(すなわち、水の流束、透過、及び除去率)に対する影響を評価した(図20及び21)。図14及び15で前述のように、市販の膜PAN‐10よりも非常に高い純水の流束が観察された。しかし、コーティング層が0.5μmであるセルロース膜による油/水のろ過では、除去率は少し低かったが、それでも99.5%よりも高かった。
【0105】
実施例14.PESエレクトロスピニング支持体を主体とするセルロース膜
PESエレクトロスピニング多孔性支持体を用い、コーティング厚さが異なり、さらにはコーティング溶液の濃度も異なる一連のセルロース膜を作製した。PES多孔性支持体上のコーティング中のセルロース濃度の影響を、純水の流束(図22)、透過、及び除去率(図23)のパラメータについて評価した。
【0106】
図22に示すように、純水の流束は、他の支持体を用いた膜でこれまでに観察されたものよりも非常に高かった。油/水エマルジョンを用いてクロスフローセルで評価した場合、99.5%よりも高い除去率が見られた(図23)。
【0107】
実施例15.PSFエレクトロスピニング支持体を主体とするセルロース膜
PSFエレクトロスピニング多孔性支持体を用い、コーティング厚さが異なり、さらにはコーティング溶液の濃度も異なる一連のセルロース膜を作製した。多孔性PSF支持体上にコーティングする際のセルロース濃度の影響を評価した(例:水の流束、透過、及び除去率)。PSFは疎水性の高い物質であるが、それでもナノファイバー複合膜の純水の流束は非常に高いことが分かった。図24に示すように、油/水分離における除去率は99.5%よりも高かった。
【0108】
実施例16.PANエレクトロスピニング支持体を主体とするセルロース膜のクロスフローろ過機構によるろ過性能
セルロースをコーティングしたナノファイバー膜(実施例4にて前述のようにして作製)において、流動速度に対する圧力の影響のさらなる評価を、注文製造のクロスフローろ過機構を用いて純水の流束を測定することで実施した。図25に示すように、純水の流束は圧力と共に急速に上昇した。油/水乳化混合物を用いて評価した場合、これらの膜の透過流束は、上昇する圧力と共に連続的に上昇し、一方除去率は99.5%超に維持されていた(図26)。
【0109】
種類の異なるセルロースを用いることの影響を評価するために、重合度(DP)7350のセルロースから作製する膜を作製した。透過流束及び除去率の測定は、油/水エマルジョン及びクロスフローセルを用いて実施した。図27に示すように、DPが620のセルロースでコーティングした膜(DPが7350のセルロースコーティングと同じPAN支持体、及び同じセルロースコーティング厚さを用いた)(図26)と類似の傾向を示している。
【0110】
まとめると、セルロースのDP値が異なるセルロースコーティングによる膜の流束及び除去率は、互いに類似することが分かった。従って、油/水エマルジョンで評価した場合、セルロースの分子量は膜の性能にほとんど影響を与えないと考えられる。
【0111】
実施例17.セルロース膜の安定性及び再利用性
セルロース膜(エレクトロスピニングPAN支持体、約0.5μmのセルロースコーティング、DPが620のセルロース)の長期的な安定性及び再利用性を試験するために、油含有水に対するセルロース膜の流束及び除去率を含む分離効率のパラメータを、30psiから110psiまで上昇し、続いて元の圧力へ戻るという変化する圧力条件下にて評価した。図28より、除去率は実質的に同一に維持され、一方透過流束は、圧力サイクルを通してわずかに低下しただけであることが示される。さらに、複数の圧力サイクルを通して透過流束は実質的に変化せずに維持されており、このことは、本発明のセルロース膜が模擬使用条件を通して頑強であることを示唆している。
【0112】
実施例18.油/水エマルジョンのろ過におけるセルロース膜の付着汚染
セルロース膜(エレクトロスピニングPAN支持体、約0.5μmのセルロースコーティング、DPが620のセルロース)の経時的な付着汚染をモニタリングするために、90psiの一定圧力にて油/水エマルジョンを用いて、透過流束及び除去率を評価した。図29は、膜表面への油の付着により、ろ過プロセスの間に流束がゆっくり低下したことを示している。一方、除去率は同じ実験条件を通して僅かに上昇した。
【0113】
実施例19.アルギン酸ナトリウムのろ過におけるセルロース膜の付着汚染
セルロース膜(エレクトロスピニングPAN支持体、約0.5μmのセルロースコーティング、DPが620のセルロース)の経時的な付着汚染を評価するために、アルギン酸ナトリウムの水溶液(500ppm、80乃至120K)を用いて48時間にわたって透過流束及び除去率を評価した。図30は、透過流束は時間と共に低下したが、除去率は変化せずに維持され、99.6%よりも高かったことを示している。
【0114】
実施例20.イオン液体のリサイクル及び再利用
透過流束及び除去率という実験パラメータに対するイオン液体のリサイクルの影響を評価した。イオン液体BClは、エタノール溶液からの蒸留、及びこれに続いく90℃での24時間の減圧乾燥によってリサイクルした。リサイクルしたBClの純度は1H NMRを用いて測定した。図31Bに示すように、リサイクルしたBClの1H NMRは、リサイクルしたBClが使用前の1H NMR(図31A)と実質的に同じであることを示しており、リサイクルしたBClが容易にリサイクル可能であることを示唆している。
【0115】
実施例21.PANエレクトロスピニング膜上のセルロースコーティングの断面
コーティング層の厚さ並びにPAN多孔性支持体上のセルロース膜の表面の形態をSEMを用いて調べた(図32)。膜のコーティング層の厚さは約0.3乃至1.0μmであり、表面は平滑かつ平坦であることが分かった。
【0116】
実施例22.PAN膜上のセルロースコーティングと市販膜との比較
図33は、PANエレクトロスピニング支持体上(厚さ約40乃至50μm)にコーティングされた厚さ0.5μmのセルロース層を有するセルロースナノファイバー膜の純水の流束を、市販のDow NF270、Sepro PAN400、及びMillipore PLTK膜と比較したものである。0.3μmのセルロース層を有するセルロースナノファイバー膜の純水の流束は、NF270膜よりも約30倍高く、PAN400及びPLTK膜よりも2倍高かった。
【0117】
これらの膜の油水エマルジョンによる流束及び除去性能も、15psiにて全量ナノろ過セルを用いて評価した。図34に示すように、0.3μmのセルロース層を有するセルロースナノファイバー膜の透過流束はNF270膜よりもおよそ5倍高く、一方、除去率は同等であった。
【0118】
実施例23.連続ナイフコーティングシステムによるセルロース膜の作製
セルロース膜は、ナイフコーティングシステムの使用を例とする連続プロセスを用いて作製することもできる。このプロセスの概略を図35に示す。
【0119】
5メートルのPAエレクトロスピニング支持体を、EAc中の1.0(w/w)%のセルロース溶液でコーティングした。最上層の厚さは約0.5μmであった。これらのセルロース膜を、純水の流束、並びに油水エマルジョンを用いた全量ろ過セルによる透過流束及び除去率について評価した。結果を図36及び37に示す。
【0120】
ここでも、高い純水の流束が観察され、圧力の上昇と共に透過流束が増加した。除去率は、15psiでは高く、60psiでは少し低下したが、除去率は99.5%超で維持されていた。
【0121】
実施例24.セルロース膜の熱安定性
熱安定性
コットンリンター、BCl、及び種々のセルロース溶液濃度で作製したセルロース膜の熱安定性を、図38に示すようにTGAによって調べた。
【0122】
すべての膜の分解開始温度はコットンリンターよりも低く、それぞれ約275〜285℃対326.9℃であり、第一段階での約5%の分解を示している。熱安定特性の違いは、セルロースの異なる2種類の結晶型の存在によって決定され得る。
【0123】
分解の第二段階では、369.2℃で残留するコットンリンターは僅かに18%であり、これは、コットンリンターの約77%が34℃の間に分解したことを意味する。膜については、第二段階では、30℃の間に約40〜50%が分解しただけであった。
【0124】
コットンリンターは506.0℃で完全に分解したが、膜の完全な分解は580℃超であった。BClの分解は245.0℃で開始し、307.3℃で完了した。BClの分解はいずれのセルロースの分解とも非常に異なることから、膜中に残留イオン液体(BCl)はまったく存在しないと考えられた。
【0125】
実施例25.セルロース膜のWAXD
膜構造の変化をさらに理解するために、セルロース膜(10(w/w)%のセルロース溶液により作製)、並びにコットンリンターのWAXDを実施した。図39は、1D WAXD曲線を示したものである。膜の回折結晶ピークはコットンリンターのそれと非常に異なっており、このことは、コットンリンターと比較してセルロース膜の構造に大きな違いが存在することを示した。コットンリンターの結晶型はセルロースIであり、イオン液体による処理の後に他のセルロース結晶型に変化した可能性がある。さらに、この2種類の物質(コットンリンター及びセルロースコーティング)の結晶度も異なっている。WAXDのデータから算出すると、コットンリンターの結晶度は70.93%であるが、膜上のセルロースコーティングのそれは38.25%である。
【技術分野】
【0001】
政府の権利
本発明は、米国海軍研究局、助成金番号N000140310932の下、米国政府の援助により成されたものである。米国政府は、本発明に関して一定の権利を有する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2007年5月26日出願の米国特許仮出願第60/931,765号、及び2007年6月29日出願の米国特許仮出願第60/947,045号の利益を主張するものであり、これらいずれの出願についても、その開示事項すべてがあらゆる点において参照することで本明細書に組み入れられる。
【0003】
発明の分野
本発明は、透過流束特性が向上した、セルロース及びセルロース誘導体複合膜を作製するための簡便な方法に関する。本発明の膜は、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜、及び正浸透膜(forward osmosis membranes)等の流体分離膜として有用である。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
セルロースは豊富に存在し、再生可能であり、低コストであるバイオ材料である。しかし、セルロースは一般的な有機溶媒に対する溶解性が悪く加工が難しいため、多くの用途においてその利用が著しく制限される。しかし、最近のいくつかの研究により、セルロースを化学的に修飾することで(例:アシル化、カルバニル化、等)イオン性溶媒の溶液に溶解させたとする報告が成されている。
【0005】
酢酸セルロース、二酢酸セルロース、及び三酢酸セルロース等のセルロース誘導体は、市販の逆浸透膜の転相法による作製に用いられている。しかし、このような膜は、その膜構造に起因すると考えられる種々の問題点を有する。例えば、商業的に有用であるろ過速度を得るためには高い操作圧力(最大1MPa)を用いる必要があり、このことはエネルギーコストを増加させ、並びにろ過プロセスの間における膜の圧縮及び緻密化により、膜の分離性能の喪失及び機械的な破壊を引き起こす。流動速度を高めるために緻密層をより薄くした膜も作製されているが、そのような膜は低い圧力においても破壊しやすい。
【0006】
セルロース膜は、酢酸セルロース等のセルロース誘導体と比較して、化学安定性、生体適合性、及び環境への優しさという点で非常に優れていることから、より向上された特性を提供する。セルロース限外ろ過(UF)膜の作製は、例えば、従来の転相法による酢酸セルロース膜を、水酸化ナトリウム水溶液等の強塩基溶液中で加水分解することによって行われる。このプロセスは、比較的複雑かつ高価であり、転相法による膜の作製に用いられる有機溶媒(例:NMP)及び腐食性の塩基溶液は、環境への負荷が高く、その使用は有毒及び/又は有害である。
【0007】
現在脱塩に用いられている市販の逆浸透(RO)膜のほとんどは、界面重合プロセスによって作製される複合膜である。通常は、微孔性膜(例:ポリスルホンUF膜)をまずアミン溶液へ浸漬させる。この芳香族アミンで湿潤させたUF膜支持体を、次に不混和有機溶媒に溶解した1若しくは2種類以上の架橋剤(例:ヘキサン中の塩化トリメソイル(trimesoyl chloride))と接触させる。2種類の不混和液体の界面において、架橋され帯電した緻密なポリマーネットワークが形成される。このような界面重合された最上部コーティング層の厚さは、通常、約0.002乃至約0.3μmである。現在市販されているRO膜は、供給圧力800psiにおいて塩化ナトリウム除去率は99+%であり、水の流束は35L/m2h超である。
【0008】
市販されているナノろ過(NF)膜の大部分も界面重合によって作製されており、例えば、微孔性基材上にピペラジンアミドを有するものである。例えば、Cadotte et al.(米国特許第4,259,183号、その全体があらゆる点において参照することで本明細書に組み入れられる)は、塩化トリメソイルを用いたピペラジンの界面重合によってNF膜の作製が成功することを実証した。この複合ナノろ過膜は、非常に高いMgSO4の除去率を示したが(99%)、NaClの保持率は低かった(60%未満)。多成分(ピペラジン及びポリビニルアルコール、特開昭61‐93806号、その全体があらゆる点において参照することで本明細書に組み入れられる)及び多層コーティング(スルホン化ポリスルホン及びピペラジンアミド)による複合膜も作製されている。典型的なナノろ過膜では、カットオフ分子量の範囲は100乃至5000ダルトンであり、高い二価イオンの除去率(99%超)及び低い一価イオンの除去率(約50%若しくはそれ未満)を有する。
【0009】
複合UF膜も界面重合によって作製されている。Wrasidlo et al.(米国特許第4,902,424号、その全体があらゆる点において参照することで本明細書に組み入れられる)は、ポリエチレンイミンに浸漬させた微孔性膜を、ヘキサン中にて塩化イソフタロイル及びトルエンジイソシアネートを用いて界面重合することによって複合UF膜を作製した。重合された最上部コーティング層は、厚さが0.0012乃至0.15μmの範囲であり、カットオフ分子量の値は500乃至1,000,000ダルトンの範囲であった。Stengaard et al.(J. Membr. Sci., 53 (1990) 189‐202、その全体があらゆる点において参照することで本明細書に組み入れられる)は、ポリエーテルスルホンUF膜上にて、非開示の水性モノマー組成物をジイソシアネートと反応させることを報告した(MWCO:20k〜50kダルトン)。乳漿/スキムミルク混合物の分離が行われ、30〜60psiにおいて透過流束の範囲は40〜75L/m2hであった。
【0010】
しかし、界面重合プロセスで作製された従来の複合膜の主たる欠点は、微孔性膜支持体をアミン水溶液中へ浸漬した際の細孔の閉塞である。細孔が閉塞されると界面重合によるコーティング層の有効コーティング厚さが増大する傾向にあり、その結果として透過流束が低下する傾向を示す。さらに、ポリアミドコーティングの化学的性質(例:加水分解されたアシルハライド;カルボキシレート基及び末端アミノ基)によって、界面重合ポリアミド複合膜には帯電した溶質化学種による付着汚染(fouling)がより発生しやすく、このことによっても透過流束が著しく低下する傾向にある。通常、界面重合によるポリアミドでコーティングした膜をろ過の最終段階(NF及びRO)で用いる前に、著しい付着汚染を伴わずに安定した流動速度を維持する目的で、精密ろ過及び限外ろ過による供給溶液の予備ろ過を行う必要がある。従来の複合膜の作製における別の欠点は、セルロースエステルの有機溶媒中での加水分解において、揮発性有機溶媒及び腐食性塩基溶液を使用することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、現在市販されているろ過膜と比較して透過率及び除去率が高く、付着汚染率が低減され、環境に優しいプロセスを用いて作製される、高流束UF、NF、正浸透(FO)、及びRO膜が求められている。本発明のプロセスによって作製されるセルロース複合膜は、向上された特性を提供し、環境に優しい溶媒を用いて容易に作製される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概要
一つの実施形態では、本発明は、セルロース又はセルロース誘導体を含むコーティング層、及び多孔性支持体層を有する膜であって、イオン液体に溶解したセルロース又はセルロース誘導体を含む溶液を多孔性支持体層上にコーティングすること、及びイオン液体を除去すること、を含むプロセスによって作製される、膜に関する。
【0013】
別の実施形態では、本発明は、本明細書で述べる本発明のセルロース又はセルロース誘導体膜の少なくとも1つと、流体混合物をこの少なくとも1つの膜のセルロースコーティングの表面と接触させるための手段と、セルロースコーティング層と接する多孔性支持体の表面とは逆側のセルロースコーティングの表面から保持物(retentate)を除去するための手段と、を有する膜モジュールに関する。
【0014】
さらに別の実施形態では、本発明は、本明細書で述べる膜モジュールを少なくとも1つ有する流体分離システムに関する。
【0015】
さらに別の実施形態では、本発明は、(a)ナノファイバーを含む多孔性支持体を作製する工程と;(b)セルロース又はセルロース誘導体、及びイオン液体を含む溶液を調製する工程と;(c)(b)のセルロース又はセルロース誘導体溶液を多孔性支持体の一方の側に添加する工程と;(d)セルロースを含む過剰の溶液を膜から除去する工程と、を含む、本発明の膜の作製方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】セルロース/エレクトロスピニング(e‐spun)PAN複合膜に対する種々の圧力における純水の流束を示す図である。
【図2】油/水エマルジョンにより15psiにおいて評価した、セルロース/エレクトロスピニングPAN複合膜に対する透過流束及び除去率を示す図である。
【図3】種々のセルロース源から作製したセルロース/エレクトロスピニングPAN複合膜に対する透過流束及び除去率を、MWCOの関数として示す図である。
【図4】種々の圧力におけるセルロース/エレクトロスピニングPAN複合膜に対する純水の流束を示す図である。
【図5】油/水エマルジョンにより15psiにおいて評価したセルロース/エレクトロスピニングPAN複合膜に対する透過流束及び除去率を、3種類の異なるセルロース層厚さについて示す図である。
【図6】異なるセルロース溶液濃度から作製した膜について、種々の圧力におけるセルロース/エレクトロスピニングPAN複合膜に対する純水の流束を示す図である。
【図7】油/水エマルジョンにより評価したセルロース/エレクトロスピニングPAN複合膜に対する透過流束及び除去率を示す図である。
【図8】セルロース/エレクトロスピニングPAN複合膜に対する透過流束及び除去率を、MWCOの関数として示す図である。セルロース層の厚さは0.5μmである。
【図9】セルロース/エレクトロスピニングPAN複合膜に対する透過流束及び除去率を、MWCOの関数として示す図である。セルロース層の厚さは1.0μmである。
【図10】BCl及びEAc、並びにこれらの溶媒による種々のセルロース溶液に対する粘度を示す図である。
【図11】EAcによるセルロース溶液から作製したセルロース/エレクトロスピニングPAN複合膜に対する純水の流束を、圧力の関数として示す図である。
【図12】油/水エマルジョンにより評価したセルロース/エレクトロスピニングPAN複合膜に対する透過流束及び除去率を、圧力の関数として示す図である。
【図13】セルロースのEAc溶液を用いて作製したセルロース/エレクトロスピニングPAN複合膜に対する透過流束及び除去率を、MWCOの関数として示す図である。
【図14】0.5μmのセルロース層を有するセルロース/PAエレクトロスピニング複合膜(PA‐1、PA‐2、PA‐3、及びPA‐4)に対する純水の流束を示す図である(挿入図‐PAN10との比較)。
【図15】0.8μmのセルロースコーティングを有するセルロース/PAエレクトロスピニング複合膜(PA‐1、PA‐2、PA‐3、及びPA‐4)に対する純水の流束を示す図である。
【図16】油/水エマルジョンにより評価した、0.5μmのセルロースコーティングを有するセルロース/PAエレクトロスピニング複合膜(PA‐1、PA‐2、PA‐3、及びPA‐4)に対する透過流束及び除去率を示す図である。
【図17】油/水エマルジョンにより評価した、0.8μmのセルロースコーティングを有するセルロース/PAエレクトロスピニング複合膜(PA‐1、PA‐2、PA‐3、及びPA‐4)に対する透過流束及び除去率を示す図である。
【図18】0.5μmセルロース/PAエレクトロスピニング複合膜(PA‐1、PA‐2、PA‐3、及びPA‐4)に対する透過流束及び除去率を、MWCOの関数として示す図である。
【図19】0.8μmセルロース/PAエレクトロスピニング複合膜(PA‐1、PA‐2、PA‐3、及びPA‐4)に対する透過流束及び除去率を、MWCOの関数として示す図である。
【図20】セルロース/架橋PVAエレクトロスピニング複合膜に対する純水の流束を示す図である。
【図21】油/水エマルジョンにより評価した、セルロース/架橋PVAエレクトロスピニング複合膜に対する透過流束及び除去率を示す図である。
【図22】セルロース/PESエレクトロスピニング複合膜に対する純水の流束を示す図である。
【図23】油/水エマルジョンにより評価した、セルロース/PESエレクトロスピニング複合膜に対する透過流束及び除去率を示す図である。
【図24】セルロース/PSFエレクトロスピニング複合膜に対する、純水の流束、並びに油/水エマルジョンにより評価した透過流束及び除去率を示す図である。最上層の厚さは0.5μmであった。
【図25】クロスフローろ過システムを用いたセルロース/PANエレクトロスピニング複合膜における純水の流束対圧力を示す図である。最上層の厚さは0.5μmである。
【図26】クロスフローろ過システムを用いて油/水エマルジョンにより評価した、セルロース/PANエレクトロスピニング複合膜に対する透過流束及び除去率を示す図である。膜の最上層の厚さは0.5μmである。
【図27】クロスフローろ過システムを用いて油/水エマルジョンにより評価した、セルロース/PANエレクトロスピニング複合膜に対する透過流束及び除去率を示す図である(セルロースのDP=7350)。膜の最上層の厚さは0.5μmである。
【図28】圧力を30乃至110psiのサイクルとした油/水ろ過におけるセルロース/PANエレクトロスピニング膜に対する透過流束及び除去率を示す図である。膜の最上層の厚さは0.5μmである。
【図29】48時間の油/水エマルジョンろ過の間のセルロース膜に対する透過流束及び除去率を示す図である。膜の最上層の厚さは0.5μmである。
【図30】48時間のアルギン酸ナトリウムろ過の間のセルロース/PANエレクトロスピニング膜に対する透過流束及び除去率を示す図である。膜の最上層の厚さは0.5μmである。
【図31】使用前(A)及びリサイクル後(B)のイオン液体の1H NMRを示す図である。
【図32】PANエレクトロスピニング膜上のセルロースコーティングの断面図及び上面図である。
【図33】15psiにおいて市販のNF270、PTLK、及びPAN400膜と比較した、セルロース/PANエレクトロスピニング複合膜(0.5μm及び1.0μmコーティング)に対する種々の圧力における純水の流束を示す図である。
【図34】油/水エマルジョンで評価し、市販のNF270、PTLK、及びPAN400膜と比較した、セルロース/PANエレクトロスピニング複合膜(0.5μm及び1.0μmコーティング)に対する透過流束及び除去率を示す図である。
【図35】連続ナイフコーティングシステムを用いたセルロース膜の作製の概略を示す図である。
【図36】ナイフコーティングシステムを用いて作製されたセルロース/PANエレクトロスピニング複合膜(0.5μmコーティング)に対する種々の圧力における純水の流束を示す図である。
【図37】ナイフコーティングシステムを用いて作製されたセルロース/PANエレクトロスピニング複合膜(0.5μmコーティング)に対する、油/水ろ過における種々の圧力での透過流束及び除去率を示す図である。
【図38】種々の濃度のセルロース溶液を用いて作製されたセルロース膜の熱安定性を示す図である。
【図39】コットンリンター、セルロース膜(10(w/w)%セルロース溶液より作製)、BCl、並びにBCl中の0.1%及び10%セルロース、に対するWAXDを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
本明細書で引用する文献はすべて、その全体があらゆる点において参照することで本明細書に組み入れられる。
【0018】
本明細書で用いる「流体」とは、液体、気体、又はこれらの組み合わせを意味する。
【0019】
本明細書で用いる「ナノファイバー」とは、直径が2nm乃至約2.0ミクロンの範囲である繊維を意味する。
【0020】
本明細書で用いる「不織物」とは、個々の繊維が互いの間に挿入された構造を有するが編み物又は織物のように高い秩序性を有する形ではない、ウェブ又は布地又はその他の媒体を意味する。不織ウェブは一般に、本技術分野で公知の方法によって作製することができる。そのようなプロセスの例としては、これらに限定されず、単なる例としてであるが、メルトブロー、スパンボンド、カーディング、及びエアーレイが挙げられる。
【0021】
一つの実施形態では、本発明は、多孔性支持体層の表面に配置されたセルロース又はセルロース誘導体含有コーティング層を有する膜に関し、ここで、この膜は、イオン液体に溶解したセルロース又はセルロース誘導体を含む溶液を多孔性支持体層(例:水を飽和させた多孔性支持体層)上にコーティングし、イオン液体を除去し、それによってコーティング層を形成することによって作製される。本発明の膜は、従来から製造されている膜と比較して流動速度及び除去率が向上しており、特に、精密ろ過、限外ろ過、逆浸透、及び正浸透のための膜として適している。
【0022】
コーティング層の厚さ及び多孔率は、少なくとも部分的に、コーティング溶液のセルロース又はセルロース誘導体濃度によって制御することができる。セルロース又はセルロース誘導体溶液の濃度が高いほど、より厚いセルロース(又はセルロース誘導体)層がコーティング後に提供される傾向にあり、一方、濃度の低い溶液ほど薄いコーティング層が提供される傾向にある。溶液中に含まれるセルロース(又はセルロース誘導体)の濃度は、セルロース(又はセルロース誘導体)層の所望の厚さ及び/又は多孔率を得るために適するいずれの濃度であってもよい。コーティング溶液の最大濃度は、例えば、マイクロ波加熱等の加熱により、イオン液体中25%(w/w)の高さとしてよい。ある実施形態では、セルロース(又はセルロース誘導体)の濃度は、約0.001%、0.002%、0.005%、0.008%、0.01%、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、2%、2.5%、5%、10%、15%、20%、又は25%(w/w)であり、これらの値の間のすべての範囲及び部分範囲を含む。一つの実施形態では、本発明は、約0.1%(w/w)のセルロース(又はセルロース誘導体)濃度に関する。
【0023】
イオン液体中の比較的濃縮されたセルロース(又はセルロース誘導体)溶液は、セルロース(又はセルロース誘導体)とイオン液体との混合物を約75℃乃至約100℃の範囲の温度まで加熱することによって調製することができる。従って、一つの実施形態では、セルロースをイオン液体中で約90℃に加熱することによって溶解させる(例:約0.1%(w/w)の濃度)。加熱には好都合であるいずれの手段を用いてもよく、例えば、セルロースとイオン液体との混合物を加熱した容器中で加熱してもよく、又はマイクロ波加熱等の別の加熱方法を用いてもよい。従って、本発明の一つの実施形態では、セルロース又はセルロース誘導体溶液は、例えばイオン液体中のセルロースを(例:マイクロ波ヒーターを用いて)約100℃乃至約150℃の範囲の温度へ加熱することによって調製することができる。
【0024】
本発明の膜の作製には、いかなる形態のセルロースも用いることができる。例えば、セルロースは、ワタ等からの種子毛繊維、アマ等からの靱皮繊維、麦わら、バガス繊維、ケナフ繊維等の草繊維(grass fibers)、木部繊維、又は再生セルロース由来のものであってよい。本発明のある実施形態では、セルロースは、例えば、Hubei Chemical Fiber Co. Ltd.,中国、より市販されているCELLULOSE 620である。本発明の他の実施形態では、セルロースは、Buckeye Technologies Inc.,米国、より市販されているCELLULOSE 1320、3920、及び7350である。本発明のさらに他の実施形態では、セルロースは、Tembec Tartas factory,フランス、によって製造されているCELLULOSE B‐92、B‐96、B‐HDP、BIOFLOC 92MV、BIOFLOC 96、及びBIOFLUFF HDPである。
【0025】
コーティングがセルロース誘導体を含む場合、セルロース誘導体としては、例えば、酢酸セルロース、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、フタル酸セルロース、コハク酸セルロース等のセルロースエステル、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロースエーテル、酢酸メチルセルロース等のセルロースの混合エーテル/エステルを挙げることができる。
【0026】
一つの実施形態では、本発明は、約0.1乃至約1ミクロンの厚さを有するセルロース(又はセルロース誘導体)コーティング層に関する。他の実施形態では、セルロース(又はセルロース誘導体)コーティング層の厚さは、約0.1乃至約0.9ミクロンの範囲であり、ある実施形態では、約0.3乃至約0.8ミクロン、及びある実施形態では、約0.5乃至約0.7ミクロンの範囲である。さらに他の実施形態では、セルロース(又はセルロース誘導体)コーティングの厚さは、約0.1ミクロン、約0.2ミクロン、約0.3ミクロン、約0.4ミクロン、約0.5ミクロン、約0.6ミクロン、約0.7ミクロン、約0.8ミクロン、約0.9ミクロン、及び約1.0ミクロンである。さらに他の実施形態では、本発明は、0.3ミクロンの厚さを有するコーティング層に関する(例:約0.01%(w/w)乃至約1%(w/w)の濃度を有するセルロース溶液を用いたコーティングによって作製される)。さらに他の実施形態では、本発明は、0.5ミクロンの厚さを有するコーティング層に関する(例:約1%(w/w)乃至約2.5%(w/w)の濃度を有するセルロース溶液を用いたコーティングによって作製される)。
【0027】
本発明のセルロース膜の作製には、多孔性基材上にセルロース(又はセルロース誘導体)コーティングを提供するのに十分な濃度のセルロース(又はセルロース誘導体)を溶解することができるいずれのイオン液体も用いることができる。一つの実施形態では、イオン液体は、一般式1‐CnH2n+1‐3‐メチルイミダゾロニウムX−を有するN‐アルキルイミダゾロニウムカチオンであり、ここでnは1乃至12の整数である。X−は、適切ないずれのアニオンであってもよく、例えば、ハロゲン、パークロレート、擬ハロゲン、及びカルボキシレートから成る群より選択される。ある実施形態では、イオン液体カチオンに対するアニオンは、ハロゲンイオンが好ましい。イオン液体は、親水性でなければならない。親水性イオン液体は、炭素原子に共有結合した1若しくは2つ以上のフッ素原子を含む疎水性イオン液体(例:トリフルオロメタンスルホネート及びトリフルオロアセテートアニオン)とは異なる。
【0028】
特定の実施形態では、イオン液体は、極めて低い蒸気圧を有し、通常は沸騰する前に分解する。本発明の膜の作製での使用に適するイオン液体は、約200℃又はそれより低い温度で液体であるものであり、ある実施形態では、約150℃又はそれより低い温度で液体であるものである。特定の実施形態では、イオン液体は、Sigma‐Aldrichから市販されている塩化1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウム(BCl)又は酢酸1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウム(EAc)である。EAcには他のイオン液体と比べて2つの優位性があり、それは:(a)EAcは毒性がなく水処理の用途により適していること;及び(b)EAcのセルロース溶液は、BClセルロース溶液等の他のイオン液体のセルロース溶液に比べて粘度が低く、このためにコーティングプロセスがより制御しやすく、より薄い最上層を有するセルロース膜の作製がさらに容易となること、の2つである。
【0029】
その他の適切なイオン液体を表1に挙げる。
【0030】
【表1】
【0031】
セルロース(又はセルロース誘導体)コーティングの厚さ及び多孔率は、少なくとも部分的に、セルロース(又はセルロース誘導体)溶液の粘度を変化させることによって制御することもできる(例:セルロース(又はセルロース誘導体)濃度、溶媒、温度、セルロース(又はセルロース誘導体)分子量/分子量分布等を変化させることにより)。ほとんどの実施形態では、イオン液体中のセルロース(又はセルロース誘導体)溶液の粘度は、約0.1Pa・s乃至1Pa・sの範囲内である。一つの実施形態では、セルロース(又はセルロース誘導体)溶液(例:酢酸1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウム等のイオン性溶媒中)の粘度は、約0.1Pa・s乃至約0.5Pa・sの範囲内である。別の実施形態では、セルロース(又はセルロース誘導体)溶液(例:塩化3‐メチルイミダゾリウム等のイオン性溶媒中)の粘度は、約0.5Pa・s乃至約0.9Pa・sの範囲内である。さらに別の実施形態では、セルロース(又はセルロース誘導体)溶液の粘度は、セルロースの濃度及びセルロース源に応じて異なる。例えば、一つの実施形態では、塩化1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウム中0.1%の木材パルプの粘度は約0.5Pa・s乃至約0.7Pa・sである。
【0032】
本発明のセルロース(又はセルロース誘導体)膜はさらに、例えば、以下で述べるようにナノファイバー支持体層によって、又は別の選択肢としてナノフィラーをセルロース(又はセルロース誘導体)層に組み込むことによって(例:ナノフィラーをセルロース/セルロース誘導体溶液へ添加することにより)形成されるナノチャネル等、流束を高める流体透過性ナノチャネルをセルロース(又はセルロース誘導体)層中に組み込むことができる。ナノフィラーは、少なくとも1種類の親水性又は疎水性ナノ微粒子フィラーを含むことができる。適切な親水性ナノ微粒子フィラーの限定されない例としては、酸化炭素系ナノ粒子、表面グラフト化炭素系ナノ粒子、水分散性ナノクレイ、及びこれらの組み合わせが挙げられる。炭素系ナノ粒子としては、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、バッキーボール(フラーレンC60及び/又はバックミンスターフラーレンとしても知られる)、グラフェンシート、グラファイトナノ粒子等を挙げることができ、これらは、オゾン等の適切な酸化剤を用いた処理による酸化、ハロゲン又はハロゲン化剤を用いた処理によるハロゲン化、水素化、チオール化、エステル化、親水性ラジカルとの反応、親水性カルベン、ニトレン等との反応を含む種々の公知の方法によって表面グラフト化又は表面酸化される。ある実施形態では、親水性若しくは水溶性ポリマー又はオリゴマーを、炭素系ナノ粒子表面へグラフト化させる。水分散性ナノクレイとしては、例えば、モンモリロナイト及びルセンタイト(lucentite)等のスメクタイトクレイが挙げられる。
【0033】
別の実施形態では、ナノ微粒子フィラーは、金、コバルト、カドミウム、銅、鉄、鉛、亜鉛、及びパラジウムを含むがこれらに限定されない金属成分を有していてもよい金属ナノ粒子又は無機ナノチューブ、並びにシリカ、多面体オリゴマーシルセスキオキサン、層状シリケート、及びこれらの誘導体等のシリケートを主体とするナノ粒子を含むことができる。
【0034】
一つの実施形態では、ナノ微粒子フィラーは、カルボン酸基、カルボニル基、ヒドロキシ基、エチレンオキシド、アルコール類、糖類、及びアミノ基を含むがこれらに限定されない少なくとも1つの親水性官能基、又はDNA分子、DNA断片、及びタンパク質断片を含む超分子複合体を用いて官能化してもよい。適切なDNA分子としては、植物、動物、及びヒトから得られたものを挙げることができ、DNA源は、ある実施形態では約1乃至約1000ヌクレオチドの長さであり、実施形態では約10乃至約100ヌクレオチドの長さである。
【0035】
適切な疎水性ナノ微粒子フィラーの限定されない例としては、炭素系ナノ粒子、表面官能化炭素系ナノ粒子、ナノ有機クレイ、多面体オリゴマーシルセスキオキサンかご型分子(例:POSS)等が挙げられる。疎水性炭素系ナノ粒子としては、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、バッキーボール、グラフェンシート、グラファイトナノ粒子等を挙げることができる。これらの炭素系ナノ粒子は未修飾であってよく(表面特性が元々疎水性である場合)、又は疎水性を得るために表面をさらに修飾してもよい。例えば、炭素系ナノ粒子を疎水性ラジカル又はその他の反応性化学種と反応させることができる。ナノ有機クレイは、通常はスメクタイトクレイ(例:疎水性アミン又は四級アミンで修飾されたモンモリロナイト又はルセンタイトクレイ(例:NanocorからのNanomer(登録商標)クレイ))である。
【0036】
他の実施形態では、ナノ微粒子フィラーは、オクタデシルアミン(ODA)、ポリプロピレングラフト無水マレイン酸オリゴマー(Mnが約3900g/mol、Mwが約9100g/mol、及び酸価が約47mgKOHであるものを含む)を例とする約1乃至約20個の炭素原子を有する炭化水素を含む直鎖分子を含む脂肪族化合物、3‐(パーフルオロオクチル)プロピルアミン等を含むフッ素化化合物、及びヘキサメチレンジアミン等のアルキリデンジアミンを例とする芳香族炭化水素を含む芳香族化合物、を含むがこれらに限定されない少なくとも1種類の疎水性官能基で官能化されてもよい。
【0037】
修飾多層カーボンナノチューブ等の疎水性又は親水性ナノファイバーナノ微粒子フィラーは、相互に連結した(例:ナノファイバーが相互に連結しているために)分子チャネルを追加で提供する。このような追加の相互に連結した分子チャネルは、界面重合されたポリマー層の透過性を増加させる。特定の実施形態では、ナノファイバーナノ微粒子フィラーは、親水性である。
【0038】
ナノ微粒子フィラーは、実質的に棒状又は円柱状(例:ナノファイバー)のものから実質的に球状(例:五角形と六角形が組み合わされたサッカーボール型の形状を有するバッキーボール)のものまで様々な形態を有していてよい。従って、ある実施形態では、ナノ微粒子フィラーの直径は、約0.3nm乃至約300nmであってよく、ある実施形態では、約0.5nm乃至約50nmであってよく、他の実施形態では、約1nm乃至約30nmであってよい。ナノ微粒子フィラーの形状が棒状又は円柱状である場合、その長さは約1nm乃至約500μmであってよく、ある実施形態では、約100nm乃至約50μmであってよく、通常は約500nm乃至約5μmであってよい。ナノ微粒子フィラーが、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、及び/又はカーボンナノファイバー等のカーボンナノチューブである場合、そのようなナノチューブの直径は約1nm乃至約300nmであってよく、ある実施形態では約5nm乃至約200nmであってよく、他の実施形態では、約10nm乃至約100nmであってよい。
【0039】
ナノ微粒子フィラーは、セルロース(又はセルロース誘導体)コーティング層中に、コーティングの約0.1重量%乃至約95重量%の量で存在してよく、ある実施形態では、コーティングの約0.2重量%乃至約30重量%の量で存在してよく、他の実施形態では、コーティングの約0.5重量%乃至約20重量%の量で存在してよい。官能化ナノ微粒子フィラーをセルロース(又はセルロース誘導体)層中へ組み込むことにより、セルロース(又はセルロース誘導体)層の機械強度を向上させることができ、さらに、セルロース(又はセルロース誘導体)層の流体透過性を高めることができる(例:親水性ナノ微粒子フィラーは、層を通り抜ける親水性チャネルを提供することによって、界面重合されたポリマー層の水透過性を高めることができる)。例えば、官能化ナノ微粒子フィラーとして修飾カーボンナノチューブを約1重量%乃至約10重量%の量で有するセルロース(又はセルロース誘導体)コーティング層は、特定の実施形態では、ナノ微粒子フィラーを持たないセルロースコーティング層と比較して靭性(靭性は圧力‐ひずみ曲線下面積より算出した)を約50%乃至約300%強くすることができ、流動速度(同一の除去率にて)をナノ微粒子フィラーを持たない界面重合されたポリマー層よりも約50%乃至約1000%上昇させることができる。
【0040】
本明細書で述べるように、セルロース(又はセルロース誘導体)コーティングは、多孔性支持体上に配置される。多孔性支持体は、適切ないずれの多孔性材料を含んでもよく、例えば、織物若しくは不織物材料、又は転相法によって作製された多孔性膜(例えば、ポリスルホン精密ろ過膜等)である。
【0041】
ほとんどの実施形態では、多孔性支持体は、ナノファイバーを含む。一つの実施形態では、多孔性支持体層の厚さは、約50nm乃至約50μmである。他の実施形態では、多孔性支持体の厚さは、約50nm乃至約500nmの範囲であり、ある実施形態では、約500nm乃至約5μmの範囲であり、他の実施形態では、約5μm乃至約50μmの範囲である。
【0042】
多孔性支持体は、対称又は非対称に配列されたナノファイバーを含んでよい。 ナノファイバーの「対称である」配列とは、多孔性支持体のいずれの単位体積中のナノファイバーも、その平均直径が実質的に同一であることを意味する。
【0043】
ナノファイバーの「非対称である」配列とは、多孔性支持体のある部分におけるナノファイバーの平均直径が、繊維性支持体の他の部分におけるナノファイバーの平均直径と測定可能なほどに異なることを意味する。例えば、多孔性支持体は、1つの層(すなわち「最上層」)がシートの最上面に配置され、別の層(すなわち「底層」)がシートの底面に配置され、及び任意に、1若しくは2つ以上の追加の層(すなわち「中間層」)が多孔性支持体の最上層と底層との間に配置されるような、少なくとも2つの層を有するシートの形状であってよく、ここで、これらの層の少なくとも1つに含まれるナノファイバーの平均繊維径は、別の層のナノファイバーの平均繊維径と異なっている。
【0044】
「非対称である」多孔性支持体は、ナノファイバーの平均直径が多孔性支持体の一方の表面から逆側の表面へ向かっておおよそ連続的に増加する構造も含む。例えば、本発明の多孔性支持体の形成は、2若しくは3種類以上の平均繊維径の異なるナノファイバーを同時に不織構造へと形成することによって行うことができる。異なるナノファイバーが形成される相対速度を変えることによって、繊維径が一方の表面から逆側の表面へ向けて連続的に変化する非対称構造を作製することができる。多孔性支持体の厚さ方向を通しての平均繊維径の変化率は、「緩やか」であっても、又は比較的急であってもよい。「層」という用語は、平均繊維径が比較的一定である支持体の領域を意味するが、明確に定義する必要がないことは理解されるであろう。
【0045】
別の実施形態では、コーティング層と接する層内のナノファイバーの平均直径は、約2nm乃至約100nmの範囲であり、コーティング層と接する層の下部に配置されるナノファイバーの平均直径は、約100nm乃至約2000nmの範囲である。
【0046】
ナノファイバー自体は、中実、中空、又はナノファイバーの外表面の組成とナノファイバーの内部の組成とが異なるコアシェル構造であってよい。
【0047】
例えば、一つの実施形態では、多孔性支持体の1若しくは2つ以上のナノファイバーが、その中空形態の中央の空隙部が表面修飾ナノファイバーの全有効体積の約1%乃至約90%を占める中空構造であってもよい。
【0048】
別の選択肢としての実施形態では、1若しくは2つ以上のナノファイバーがコアシェル構造を有していてもよく、ここで、コアシェル構造のコアの体積が、表面修飾ナノファイバーの全有効体積の約1%乃至約90%を占める。別の選択肢として、コアは、ナノファイバーのシェルに含まれるポリマーとは異なるポリマーを含んでいてもよい。2若しくは3種類以上の異なるポリマーから成るコアシェルナノファイバーは、本明細書で述べるように、2種類の異なるポリマー溶液から作製することができる。
【0049】
別の選択肢としての別の実施形態では、コアシェルナノファイバーのコアとシェルに同一のポリマーを使用してもよく、ただし、コア又はシェル層がさらに追加の成分を含む。例えば、このようなコアシェルナノファイバーをPVP等のポリマーから作製することができ、ここで、シェル層がさらにアモルファスTiO2を含む。さらに別の実施形態では、コアシェルナノファイバーは、添加剤を含むポリマー性シェル及び抽出可能なコアを有することができ、このコアを抽出することにより、添加剤含有シェル層を有する中空ナノファイバーを得ることができる。例えば、このようなナノファイバーは、アモルファスTiO2も含むPVPシェル及びオイルコアから作製することができる。オイルコアの抽出後、得られた中空ナノファイバーは、膜分離プロセス、ナノフルイディクス、及び水素貯蔵を含むがこれらに限定されない広範囲の用途に対して有用であり得る。当業者であれば、所望する用途に応じてPVP以外のポリマー及びモルファスTiO2以外の添加剤を用いることが可能であることは理解されるであろう。このようなポリマー及び添加剤の限定されない例としては、本明細書で開示するものが挙げられる。本明細書で述べるように、このような多孔性支持体から作製された膜において所望の分離特性を得るために、使用するポリマー及び添加剤を適切に選択することによってナノファイバーの化学的特性を改変することが可能である。
【0050】
多孔性支持体内の空隙は、その空隙を作り出すナノファイバーの数及び直径に応じて様々な大きさであってよい。特定の空隙を作り出すナノファイバーの直径が増加すると、その空隙の大きさは減少する。しかし、本発明のナノファイバーの対称又は非対称である配列によって作り出される空隙は、相互に連結している。相互に連結した細孔の大きさは、繊維性支持体から作製される膜に対して適切な流束、分離特性、及び機械特性を提供するために、様々であってよい。
【0051】
本発明の多孔性支持体のナノファイバーは、ポリエチレン及びポリプロピレン、並びにこれらのコポリマーを含むポリオレフィン;芳香族ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のポリスルホン;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン等のハロポリマー;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン612、ナイロン12等、芳香族ポリアミド等のポリアミド;ポリカーボネート;ポリスチレン;ポリアクリロニトリル;ポリメチルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチルメタクリレート等のコポリマー等のポリアクリレート;ポリ酢酸ビニル及び部分加水分解ポリ酢酸ビニル等のポリアセテート;ポリビニルアルコール、カチオン性修飾ポリビニルアルコール、アニオン性修飾ポリビニルアルコール等のポリアルコール;キトサン、ヒアルロナン、セルロース、再生セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロースエーテル、酢酸セルロース(モノ、二、及び三酢酸エステルを含む)等のセルロースエステル等の多糖類;コラーゲン、ゼラチン等のタンパク質;イオノマー;ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレングリコール、架橋性ポリエチレングリコール等のポリアルキレンオキシド;ポリウレタン;ポリウレア;ポリ(ウレタン‐ウレア);ポリエチレンイミン等のポリイミン;ポリビニルピロリドン;ポリアクリル酸;ポリメタクリル酸;ポリジメチルシロキサン等のポリシロキサン;ポリ(エステル‐コ‐グリコール)コポリマー;ポリ(エーテル‐コ‐アミド)コポリマー;並びに上記のいずれかの混合物、誘導体、コポリマー、及び架橋物、を含むがこれらに限定されない適切なポリマーから作製することができる。誘導体としては、ナノファイバーを構成するポリマー中に存在する官能基(例:ヒドロキシル基又はアミノ基)のアルキル化、アシル化等によって、又は加水分解性官能基(例:エステル、アミド、無水物等)の加水分解によって形成されるエーテル、エステル、アミド等が挙げられる。特定の実施形態では、多孔性支持体のナノファイバーは、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、修飾セルロース、修飾キトサン等の架橋水溶性ポリマーを含む。
【0052】
ある実施形態では、多孔性支持体のナノファイバーは、ポリアクリロニトリル(PAN)(例:Aldrichより市販)、又はポリビニルアルコール(PVA)(例:Polysciences, Inc.より市販)から作製される。他の実施形態では、多孔性支持体に含まれるナノファイバーは、ポリエーテルスルホン(PES)、及びポリスルホン(PSF)(例:Solvayより市販)から作製される。さらに他の実施形態では、多孔性支持体のナノファイバーは、ポリアミド(PA)、又はナイロン6(N‐6)から作製される。
【0053】
ある実施形態では、本発明の多孔性支持体のナノファイバーは非架橋ポリマーを含み、例えば、多孔性支持体と接触する流体媒体中に存在し得る溶媒のいずれに対してもポリマーが不溶性である場合である。しかし、その他の用途では、使用中に繊維性支持体と接触し得る溶媒に対して部分的又は完全に溶解性であるポリマーから多孔性支持体を作製することが望ましい場合がある。一つの実施形態では、ポリビニルアルコール、多糖類(例:キトサン及びヒアルロナン)、ポリアルキレンオキシド(例:ポリエチレンオキシド)、ゼラチン、及び誘導体等の水溶性ポリマーを含むナノファイバーを、本技術分野で公知の方法を用いて架橋することができる。例えば、ヒドロキシル基又はアミノ基を含むポリマー(例:ポリビニルアルコール、多糖類、タンパク質等)は、アルデヒド(例:ホルムアルデヒド)、ジアルデヒド(例:グルタルアルデヒド、グリオキサール等のC2‐C8ジアルデヒド)、酸官能性を有するモノアルデヒド(例:グリオキシル酸)、ポリカルボン酸(例:オキシジコハク酸、クエン酸)等を用いて架橋することができる。このような化合物は、水溶性ポリマーの少なくとも2つのヒドロキシル(又はアミノ)基と反応することができる。他の架橋方法としては、任意に適切な架橋剤/触媒及び放射線増感剤/触媒で修飾されるか又はこれらと混合されるポリマーの熱及び放射線架橋法(光架橋、電子線架橋、ガンマ線架橋等)が挙げられる。架橋剤又は架橋法の選択に対しての2つの重要な基準は、架橋剤又は架橋法が、(1)ナノファイバーを溶解するものであってはならず、(2)繊維性支持体の寸法に大きな変化を起こすものであってはならない(例:親水性エレクトロスピニングナノファイバー支持体は、その親水性である性質のために炭化水素等の疎水性溶媒に対して非常に大きな収縮を示す場合がある)、ということである。一つの実施形態では、ナノファイバーは、グルタルアルデヒドで架橋したポリビニルアルコールを含む。他の実施形態では、ナノファイバーは、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、酢酸セルロース、又はポリビニルアルコールを含む。
【0054】
別の実施形態では、本発明は、ナノファイバーを各々が含む複数の層をさらに有する多孔性支持体層に関し、ここで、コーティング層と接する層中のナノファイバーの平均直径は、コーティング層と接する層の下部に配置されたナノファイバーの平均直径よりも小さい。
【0055】
他の実施形態では、多孔性支持体は、3若しくは4つ以上の層:最上層、1若しくは2つ以上の中間層、及び底層、を含んでもよく、ここで、中間層は、最上層と底層との間に配置される。本明細書で用いられる最上層とは、コーティング層と接する多孔性支持体の層のことである。本明細書で用いられる底層とは、コーティング層と接する層の下部に配置された多孔性支持体の層のことである。最上層及び底層は、1若しくは2つ以上の中間層によって連続的に連結されており(中間層が存在する場合‐そうでない場合は、最上層と底層は互いに連結される)、すべての層は単一のユニットとして機能する。
【0056】
他の実施形態では、多孔性支持体の最上層は、平均厚さが約40nm乃至約500nmであり、ナノファイバーの平均直径が約75nm乃至約500nmであり、底層は、平均厚さが約5μm乃至約50μmであり、底層のナノファイバーの平均直径が約5μm超である。存在する場合、中間層は、厚さが約500nm乃至約5μm未満の平均厚さの範囲である。中間部分のナノファイバーは、平均直径が約100nmであり、ある実施形態では、約100nm乃至約5μmである。
【0057】
繊維性支持体の最上層、中間層(存在する場合)、及び底層のナノファイバーの直径は、連続的に又は非連続的に変化していてもよい。例えば、非連続的配列においては、各層は同一のナノファイバーの平均直径を有するが、各層内のファイバーの平均直径は異なっている。結果として、平均繊維径は、一つの層から次の層へ向けて比較的急に変化している。連続的配列においては、各種層の平均繊維径はおおよそ連続的に変化し、平均繊維径が繊維性支持体の厚さ方向を通して滑らかに増加するようになっている。通常、セルロースコーティング層と接している多孔性支持体の最上層のナノファイバーは、中間層及び底層のファイバーと比較して平均繊維径が小さい。
【0058】
本発明によると、一つの実施形態では、多孔性支持体は、多孔性支持体の逆側の表面に配置された基材層をさらに含み、それによって、多孔性支持体はセルロースを含むコーティング層と基材層との間に配置される。基材層は通常は多孔性層であり、例えば、織布又は不織布である。一つの実施形態では、基材層は、無機又は有機ポリマー性繊維を含む不織布であり、例えば、ポリ(エチレンテレフタレート)を含むものを例とするポリエステル繊維;ポリプロピレンを含むものを例とするポリオレフィン繊維;セルロース又は酢酸セルロースを含むものを例とするセルロース繊維;ポリアミド繊維;ポリ(ウレタン)繊維;ガラス又は鉱物繊維;無機繊維(例:セラミック繊維、金属繊維)、及びこれらの混合物である。不織基材層の平均厚さは約20μm乃至20mmとすることができる。不織マトリックスの一つの機能は、本明細書で開示する繊維性支持体の対称又は非対称配列に対してさらなる支持を提供することである。
【0059】
本明細書で考察するように、ある実施形態では、本発明の膜は、ナノファイバーを含む多孔性支持体、多孔性支持体の表面に配置されたセルロース(又はセルロース誘導体)を含むコーティング(多孔性支持体を、イオン液体に溶解したセルロース(又はセルロース誘導体)の溶液でコーティングすることによって作製)、及び多孔性支持体がセルロース(又はセルロース誘導体)コーティングと基材層との間に配置されるように多孔性支持体の逆側の表面に配置された基材層、を含む。一つの実施形態では、本発明の膜は、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜、又は正浸透膜として有用である。本発明の別の実施形態では、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜、又は正浸透膜は、高い透過流束及び除去率を示し、優れた耐薬品性によって付着汚染の度合いを低減する。
【0060】
一つの実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における水のろ過に対して約100L/m2h乃至約700L/m2hの透過流束を有する。別の実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における水のろ過に対して約200L/m2h乃至約300L/m2hの透過流束を有する。別の実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における水のろ過に対して約100L/m2h乃至約200L/m2hの透過流束を有する。別の実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における水のろ過に対して約400L/m2h乃至約200L/m2hの透過流束を有する。別の実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における油/水分離に対して約40L/m2h乃至約160L/m2hの透過流束を有する。別の実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における油/水分離に対して約120L/m2h乃至約160L/m2hの透過流束を有する。別の実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における油/水分離に対して約80L/m2h乃至約120L/m2hの透過流束を有する。別の実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における油/水分離に対して約40L/m2h乃至約80L/m2hの透過流束を有する。上記の透過流束値を有する膜に対するセルロースコーティングの厚さは、約0.3ミクロン乃至約0.5ミクロンの範囲である。
【0061】
別の実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における油/水分離に対して少なくとも約99.0%の除去率を有する。さらに別の実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における油/水分離に対して少なくとも約99.2%の除去率を有する。さらに別の実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における油/水分離に対して少なくとも約99.5%の除去率を有する。さらに別の実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における油/水分離に対して少なくとも約99.7%の除去率を有する。さらに別の実施形態では、本発明の膜は、約60psiの圧力における油/水分離に対して少なくとも約99.7%の除去率を有する。さらに別の実施形態では、本発明の膜は、約60psiの圧力における油/水分離に対して少なくとも約99.5%の除去率を有する。さらに別の実施形態では、本発明の膜は、約15psiの圧力における油/水分離に対して少なくとも約99.2%の除去率を有する。上記の除去率値を有する膜に対するセルロースコーティングの厚さは、約0.3ミクロン乃至約0.5ミクロンの範囲である。
【0062】
本発明の1若しくは2つ以上の膜を、流体混合物を少なくとも1つの膜のセルロースコーティングの表面と接触させるための手段と、保持物を除去するための手段と、透過物(permeate)を除去するための手段と、を装備した膜モジュールへ組み込むことができる。本発明の流体分離膜は、適切ないずれの形態で用いてもよく、例えば、管状膜、中空糸膜、又は平面シート状膜であり、膜分離の分野で公知の従来の膜モジュールの形態に組み込まれる。例えば、一つの実施形態では、本発明の膜は、スパイラル型膜モジュール又は平面シート膜モジュールの形態とされる平面シート状液分離膜であってよい。そのような形態では、必要に応じて、圧力容器内部にて膜を適切なスペーサー間に挟み込んでよい。1若しくは2つ以上の膜を各モジュールへ組み込むことができ、1若しくは2つ以上のモジュールを本技術分野で公知の適切な配管、ポンプ等で相互に連結し、流体混合物の分離を実施することができる流体分離システムを提供することができる。
【0063】
別の実施形態では、本発明は、(a)多孔性支持体(例:ナノファイバーを含む)を作製する工程と;(b)イオン液体中のセルロース(又はセルロース誘導体)の溶液を調製する工程と;(c)工程(b)のセルロース(又はセルロース誘導体)溶液を多孔性支持体の一方の側にコーティングする工程と;(d)セルロース(又はセルロース誘導体)の過剰の溶液を多孔性支持体から除去する工程と、を含む膜の作製方法に関する。コーティング溶液は、本明細書で述べるいずれかのイオン性溶媒に溶解した、本明細書で述べるいずれの形態のセルロース(又はセルロース誘導体)を含んでいてもよい。
【0064】
特定の実施形態では、イオン液体中に溶解したセルロース(又はモノ‐、二‐、三酢酸セルロース等のセルロース誘導体)の溶液を、不織ナノファイバー支持体を例とする多孔性支持体の一方の表面上へ広げる(例えば、ドクターブレードの使用、スプレー、ディップコーティング等)。多孔性支持体は、多孔性支持体へのセルロースコーティング溶液の浸透を制御するために、任意に水で飽和させていてもよい。セルロース(又はセルロース誘導体)溶液を多孔性支持体上へコーティングした後、エタノール等の適切な溶媒で洗浄することによって膜表面から過剰のセルロース(又はセルロース誘導体)溶液を除去するために、コーティングされた支持体をエタノール浴中へ浸漬させてもよい。得られた膜は、次に、例えば減圧下のオーブン中にて乾燥させてよい。コーティング層の厚さ並びに膜表面の形態は、SEM等の従来の技術を用いて測定することができる。
【0065】
さらに別の実施形態では、ナノファイバーを含む多孔性支持体は、適切ないずれのナノファイバー製造方法によって作製してもよい。多孔性支持体は、エレクトロスピニング、エレクトロブロー(electro‐blowing)、ブローアシストエレクトロスピニング(blowing‐assisted electro‐spinning)、及び/又は溶液ブロー(solution blowing)若しくは溶液キャスティング法を用いて作製することができる。ブローアシストエレクトロスピニング及びエレクトロブローはいずれも、電気力及びガスの吹き込みによるせん断力を利用するものである。ブローアシストエレクトロスピニングプロセスでは、電気力が主たる因子であり、一方、ガス吹き込みの特性は、流体ジェット流のせん断、及び溶媒の蒸発の制御を補助することができる(より低いスループット、より小さい直径)。対照的に、エレクトロブロープロセスでは、ガスの吹き込み力が所望のスピンドロー比(spin‐draw ratio)を得るための主たる因子であり、一方、電気力はファイバーのさらなる延伸を可能とすることができる(より高いスループット、より大きな直径)。エレクトロスピニングプロセスは、電気力のみを利用してガス流による補助はなく、一方、溶液ブロープロセスは、ガス流のみを利用して電気力は用いない。一つの特に有用な実施形態では、PAN又はPVA等の中間層を、不織PETマイクロフィルター(Freudenburg NonwovensからのFO2413)等の基材上へ、当業者に公知の方法を用いてエレクトロスピニングによって形成することができる。
【0066】
エレクトロスピニングで用いる印加される電場電位は、約10乃至約40kVの範囲で様々であってよく、通常は、約15乃至約30kVであり、スピナレットとコレクターとの間の距離は、約5乃至約20cmであり、通常は、約8乃至約12cmであり、及び溶液の流速は約10乃至約40μL/分であり、通常は、約20乃至約30μL/分である。一つの実施形態では、エレクトロスピニングプロセスは、約2kV/cmの印加される電場強度、及び約25μL/分の溶液流速を用いることができる。
【0067】
エレクトロブローによってファイバーを形成する方法は、当業者の理解の範囲内であり、例えば、開示されている方法が挙げられる(例:その全体があらゆる点において参照することで本明細書に組み入れられる、米国特許出願公開第2005/0073075号に記載の方法)。簡潔に述べると、エレクトロブロープロセスでは、静電場をガス流場と組み合わせる。液滴がガス流によって引き出されるメルトブロー(電荷を必要としない)のように、エレクトロブローでは、この組み合わされた力が、帯電した液滴の表面張力に打ち勝つのに十分な強さを持つ。これにより、いずれかの方法単独の場合と比較して、静電場及びガス流速の使用を大きく低減することができる。ガス流の流れ及び静電場はいずれも、流体ジェット流を非常に素早く接地部へ引き出すように設計される。スピンドロー比は、流体の電荷密度、流体粘度、ガス流速、及び静電電位等の多くの変数に応じて異なる。ある実施形態では、これらの変数は処理の途中で変化させることができる。例えば、静電電荷の注入を用いて流体の電荷密度を上昇させることができ、又は中性の流体を帯電した流体に変換することさえ可能である。ガス流の温度によっても、流体の粘度を変化させることができる。引き出し力は、ガス流速及び印加される静電電位の上昇と共に増加する。ガスと帯電流体ジェット流との密接な接触により、ジェット流が単にジェット流を取り巻く空気を通過するだけであるエレクトロスピニングプロセスよりも効果的な熱伝達が行われる。従って、流体が溶液である場合、ガス温度、ガス流速、及びガス流動プロファイル(gaseous streaming profile)が、溶媒の蒸発速度に影響を与え、これを制御することができる。ガス温度は、液体窒素温度から何百度という温度の過熱ガスまで様々であってよく;好ましい範囲は、溶媒の所望の蒸発速度に応じて、従って溶媒の沸点に応じて異なる。流動プロファイルは、ジェット流を安定させることを目的とし、メルトブローに用いられるものと類似とするべきである。
【0068】
エレクトロブローの実施形態では、繊維性支持体を形成するためのスピナレットあたりのポリマー溶液の供給速度は、約5乃至約2500μL/分であってよく、通常は約20乃至約300μL/分であり、実施形態では、約35乃至約150μL/分である。エアーブロー温度は、約0℃乃至約200℃であってよく、通常は約20℃乃至約120℃であり、実施形態では、約25℃乃至約90℃である。スピナレットあたりのエアーブロー速度は、約0立方フィート毎時(SCFH)乃至約300SCFHの範囲で様々であってよく、通常は約5SCFH乃至約250SCFHであり、実施形態では、約20SCFH乃至約150SCFHである。電位は、典型的なスピナレットとコレクター間の距離約10cmにて、約1kV乃至約55kVであってよく、通常は約15kV乃至約50kVであり、実施形態では、約30kV乃至約40kVである。
【0069】
ナノファイバー支持体がブローアシストエレクトロスピニングで形成される場合、ナノファイバーの骨格を形成するためのスピナレットあたりのポリマー溶液の供給速度は、約5乃至約150μL/分であってよく、通常は約10乃至約80μL/分であり、実施形態では、約20乃至約50μL/分である。エアーブロー温度は、約0℃乃至約200℃であってよく、通常は約20℃乃至約120℃であり、実施形態では、約25℃乃至約90℃である。スピナレットあたりのエアーブロー速度は、約0立方フィート毎時(SCFH)乃至約300SCFHの範囲で様々であってよく、通常は約5SCFH乃至約250SCFHであり、実施形態では約20SCFH乃至約150SCFHである。電位は、典型的なスピナレットとコレクター間の距離約10cmにて、約1kV乃至約55kVであってよく、通常は約15kV乃至約50kVであり、典型的な範囲全体の中で、実施形態では、約20kV乃至約40kVである。
【0070】
他の実施形態では、多孔性支持体を溶液ブローによって形成することができ、これは、骨格の作製にポリマー溶融物ではなくポリマー溶液を用いること以外はメルトブローと類似している。このような技術は、当業者の理解の範囲内であり、ポリマー材料と膨張剤(blowing agent)を通常は液体である単一の相として形成し、続いてこれを、液体のスプレーに電場を用いないこと以外はエレクトロブローに用いられるものと類似の従来の設備を用いてスプレーすることを含む。液体ブローに有用なパラメータとしては、例えば、空気中の音速の約100分の1乃至音速に近い速度、すなわち時速約600マイル、のガス流を用いることで得られる非常に高いせん断力を用いることが挙げられる。
【0071】
本発明の一つの実施形態では、イオン液体に溶解したセルロース(又はセルロース誘導体)の溶液を、多孔性支持体(例:本明細書で述べるナノファイバー多孔性支持体)の一方の側にコーティングする。セルロース(又はセルロース誘導体)層の厚さの制御は、セルロース(又はセルロース誘導体)の濃度、溶液の粘度等のセルロース(又はセルロース誘導体)溶液の特性を適切に選択することによって、又は多孔性支持体の表面上に塗布されるセルロース(又はセルロース誘導体)溶液の量を制御することによって行うことができる。
【0072】
さらに、多孔性支持体は、セルロース(又はセルロース誘導体)溶液が溶解しない液体で飽和させ、多孔性支持体へのセルロース(又はセルロース誘導体)溶液の浸透を制御することができる。特定の実施形態では、多孔性支持体を水で飽和させる。水は、セルロース(又はセルロース誘導体)溶液によって多孔性支持体が過剰に飽和することを防ぎ、それによって、比較的薄いセルロース(又はセルロース誘導体)層が提供される。多孔性支持体中の水の量は、セルロース(又はセルロース誘導体)層による多孔性支持体への所望の「浸透」度合いを得るために、様々に変えることができる。セルロース(又はセルロース誘導体)層と多孔性支持体との間の十分な接着性を促進するために、セルロース(又はセルロース誘導体)層による多孔性支持体へのある程度の相互浸透が望ましい。セルロース(又はセルロース誘導体)層は、多孔性支持体へわずかに浸透するだけであってよい(例:多孔性支持体のセルロース(又はセルロース誘導体)層への侵入は、セルロース(又はセルロース誘導体)層の平均厚さの約1%である)。別の選択肢として、セルロース(又はセルロース誘導体)層は、セルロース(又はセルロース誘導体)層の全厚さにわたって完全に浸透していてもよい。例えば、支持体層がナノファイバーを含む場合、支持体層の少なくとも一部のナノファイバーが、セルロース(又はセルロース誘導体)層の全厚さにわたって侵入していてよい。ナノファイバーは高多孔性の相互連結構造を有し、そのために透過する流れに対する抵抗を非常に低くすることができ、従って、薄フィルム複合膜を例とする従来の微孔性支持体を主体とする膜と比較して高い流束を得ることができる。さらに、セルロース(又はセルロース誘導体)層に侵入するナノファイバーは、本発明の膜の透過流束を高める「導管」として機能することができる。
【0073】
以下のセクションにて、本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0074】
図1乃至21を参照する以下の実施例を用いて本発明を説明する。
【0075】
物質と作製
セルロース:
セルロース620(コットンリンターパルプ、重合度=620)は、中国のHubei Chemical Fiber Co. Ltd.より入手した。セルロース1320、3920、及び7350(コットンリンターパルプ)は、米国のBuckeye Technologies Inc.より入手した。セルロースB‐92、B‐96、及びB‐HDP(漂白木材パルプ:Biofloc 92 MV、Biofloc 96、及びBiofluff HDP)は、フランスのTembec Tartas factoryより入手した。
【0076】
イオン性溶媒:
塩化1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウム(BASFクオリティ(BASF quality)、>95%)、及び酢酸1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウム(BASFクオリティ、>90%)は、Sigma‐Aldrichより購入し、さらなる処理をせずに使用した。塩化1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウムは、以下で述べるようにして合成も行った。
【0077】
ポリマー(ナノファイバー作製のため):
ポリアクリロニトリル(PAN、重量平均分子量1.5×105g/mol)はAldrichより購入し、ポリビニルアルコール(PVA、重量平均分子量8.5×104〜1.24×105g/mol、加水分解度96%)はPolysciences Inc.より購入した。ポリエーテルスルホン(PES、Radel‐A100)及びポリスルホン(PSF、Udel3500)はSolvayより入手した。ポリアミド(PA)及びナイロン6(N‐6)は、市販されている。
【0078】
膜支持体:
ポリ(エチレンテレフタレート)不織基材(平均繊維径約10μmのPETマイクロフィルターFO2413)を、Freudenberg Nonwovens(ホプキンズビル,ケンタッキー州)より入手した。
【0079】
シード溶液:
油/水乳化混合物(脱イオン(DI)水中の1350ppm大豆油/150ppm DC193(乳化剤)、12000rpmにて10分間攪拌して調製)を用いてセルロース膜のろ過性能を試験した。分子量の異なる一連のデキストラン(Aldrichより):4k‐6k、9k‐11k、15k‐17k、35k‐45k、64k‐76k、100k‐200k、200k‐300k、をMilli‐Q水へ溶解してナトリウムアジド(500ppm)を含有する5000ppmのシード溶液を調製し、これを用いてセルロース膜のカットオフ分子量(MWCO)の試験を行った。DI水中500ppmのアルギン酸ナトリウム(80‐120kDa)を用いてセルロース膜の付着汚染の試験を行った。
【0080】
試験機器:
有効ろ過面積が0.00134m2であるMillipore攪拌限外ろ過セル(モデル8050)、並びに有効ろ過面積が0.00652m2である注文製造のクロスフローろ過装置を用いて全量ろ過を行った。MWCO測定の結果の判定には、全有機炭素分析器(TOC‐5000、島津製作所)を用いた。サンプルのTGAスキャンを、空気流下、Perkin‐Elmer Inc.のTGA7を用い、10℃/分にて60℃から800℃まで収集した。1H NMRスペクトルは、Varian GEMINI2300NMR分光器上、CDCl3を溶媒として25℃で得た。広角X線回折(WAXD)及び小角X線散乱(SAXS)の実験を、ブルックヘブン国立研究所(BNL)の国立シンクロトロン光源(NSLS)におけるビームラインX27Cにて実施した。用いた波長は0.1371nmであった。サンプル‐検出器間の距離は、WAXDについては118.5mmであり、SAXSについては1813.5mmであった。データ収集には、Fujiイメージリーダーを用いた。
【0081】
実施例1.塩化1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウム(BCl)の作製
塩化1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウム(BCl)の作製:塩化1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウムは、1‐メチルイミダゾールと1‐クロロブタンの混合物(モル比1:1)を90℃で24時間加熱し、続いてエーテルで3回洗浄することによって作製した。このイオン液体の化学構造は1H NMRで確認し、スキーム1に示す(I)。Aldrichより購入した別のイオン液体、酢酸1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウムの構造を、スキーム1に示す(II)。
【0082】
【化1】
【0083】
1H NMR(溶媒D2O、d、ppm)スペクトルは以下のピーク:8.606(N‐CH‐N、s、1Η)、7.374(N‐CH‐CΗ、s、1Η)、7,327(N‐CH‐CΗ、s、1Η)、4.095(N‐CH2、t、2Η)、3.789(N‐CH3、t、2Η)、1.747(N‐CH2‐CH2、m、2Η)、1.229(N‐CH2‐CH2‐(CH2)2、m、2H)、0.819(CH3、t、3Η)、から構成され、イオン液体(塩化1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウム)の構造が確認される。
【0084】
実施例2.セルロース溶液の調製
セルロース溶液は、種々の等級のセルロース0.02gをそれぞれのイオン液体19.98gに添加し、次にこの混合物を油浴中、90℃にて1時間攪拌しながら加熱することで調製した。室温へ冷却後、濃度0.1%の透明溶液が使用可能な状態となった。
【0085】
実施例3.エレクトロスピニング支持体の作製
PAN、架橋PVA、PA、ナイロン6、PES、及びPSFを含むすべてのエレクトロスピニング支持体は、その全体があらゆる点で参照することで本明細書に組み入れられる米国特許出願第11/664650号及び第11/951248号に記載のものと類似の条件を用いて研究室にて作製した(PA及びナイロン6支持体は除く。これらはそれぞれ、Donaldson及びDu Pontより入手した)。
PANエレクトロスピニング支持体:繊維径約500nm、支持体厚さ40〜50μm;
PVAエレクトロスピニング支持体:繊維径約230nm、支持体厚さ40〜50μm;
PAエレクトロスピニング支持体:繊維径約200nm、支持体厚さ5〜20μm;
ナイロン6エレクトロスピニング支持体:繊維径約500〜1000nm、支持体厚さ約20μm;
PESエレクトロスピニング支持体:繊維径約500nm、支持体厚さ40〜50μm;
PSFエレクトロスピニング支持体:繊維径約700nm、支持体厚さ40〜50μm。
【0086】
実施例4.セルロース膜の作製
PANエレクトロスピニング支持体の端部に沿ってテープ(通常は、3×4インチ、0.5mm厚のテープ)でシールした。このテープでシールした支持体を水(室温、2分間、DI水)に浸漬し;そして次に、この浸漬した支持体から過剰の水を流出させた(ゴム製の棒により)。次に、イオン液体(BCl又はEAc)に溶解したセルロース溶液を膜の一方の側に塗布した(0.1重量%の溶液4.0g)。セルロース溶液をコーティング機(Automatic Drawdown Machine, Model DP‐8301, Paul N, Gardner Company, Inc.;速度:2インチ/分、室温)で広げた後、膜をエタノール浴へゆっくり浸漬させ(30分間、室温、移動速度:0.5インチ/分)、続いて膜を減圧下、オーブン中にて乾燥させた(室温、5分間、湿度:60%)。次に膜を蒸留水で洗浄し(室温、1分間)、乾燥(室温、湿度:60%、60分間)させてから使用した。以下のフローチャートは、PANエレクトロスピニング支持体上のセルロース層のコーティングを示す。
【0087】
【表2】
【0088】
セルロースコーティングの厚さ及び表面形態をSEMで評価した。セルロースコーティング層の厚さは約0.3乃至1.0μmであり、表面形態は平滑かつ平坦であった。
【0089】
実施例5.重合度の異なるコットンリンターパルプの溶液から作製したセルロース膜
セルロースの重合度の違いによる透過流束及び除去率等の膜特性への影響を、塩化1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウム(BCl)中の異なるコットンリンターパルプの溶液でコーティングされた4種類のセルロース膜を用いて試験した。セルロース溶液の濃度は0.1%とした。これらの膜の最上層の厚さは、SEM画像で確認したところ、ほぼ同じ(0.5μm)であった。
【0090】
全量ナノろ過セルを用いて純水の流束を評価した(図1)。すべての膜の流束が非常に類似していることが分かった。15psiにて攪拌せずに油/水シード溶液を用い、これらの膜の透過流束及び除去率をさらに試験した(図2)。類似の透過流束及び除去率の値が観察され、このことから、流束及び除去率は、コットンリンターパルプの重合度が異なることによって大きく影響を受けることはないという結論が導かれる。
【0091】
実施例6.種々の漂白木材パルプを用いて作製されたセルロース膜
セルロース源による透過流束及び除去率への影響をさらに調べるため、一連の漂白木材パルプを、同一の条件下にて溶解し、コーティングした(BCl中木材パルプ0.1%、セルロース層厚さ0.5μm)。MWCO(カットオフ分子量)を以下のようにして評価した:膜を全量ろ過セルへ設置し、10psiまで加圧した。次に、純水の透過液50mlを回収して膜が平衡状態であることを確認した。平衡化の後、5000ppmのデキストラン50mLをセルに添加し、次のようにして試験を実施した:透過液の最初の5mLは廃棄し、次の透過液5mLを回収して分析した。この手順を各デキストランサンプルについて繰り返した。TOC分析器を用いて各サンプルを評価した。
【0092】
図3は、これらの膜すべての透過流束が互いに類似していたこと、及びコットンリンターパルプコーティング溶液から作製した膜の結果とも類似していたことを示している。膜特性のこの類似性の理由は、イオン液体中でセルロースが分子レベルで完全に溶解しており、それによって、異なるセルロース源からの異なる分子量のセルロースの種々のコーティング溶液の溶液特性が類似し、類似のろ過特性を持つセルロースコーティングが提供されたということが考えられる。
【0093】
実施例7.最上層の厚さが異なるセルロース膜
コーティングプロセスで用いるセルロース溶液の量を制御することによって最上層の厚さが異なる一連のセルロース膜を作製し、圧力を上昇させる条件下でのその挙動を評価した。純水の流束、油/水シード溶液に対する透過流束及び除去率について、攪拌条件下、種々の圧力にて試験を行った。図4は、圧力の上昇と共にセルロース膜の純水の流束が増加したことを示す。より薄いセルロース層ではより高い流束の値が得られており、流束が最上層の厚さに大きく依存することにも留意されたい。この結果は、15psiでの油含有水のろ過によってさらに確認された(図5)。透過流束はセルロース層厚さの増加と共に減少したが、除去率はおおよそ一定に維持されていた。
【0094】
実施例8.種々の濃度のコーティング溶液でコーティングされたセルロース膜
セルロース膜の作製におけるコーティング溶液濃度の違いによる影響を評価した。全量ろ過セルを用いて種々の圧力における純水の流束及び油/水のろ過の測定を実施した。図6に示すように、純水の流束はコーティング溶液の濃度の影響を受けた。濃度の低いセルロース溶液から作製した膜は、最上層の見かけの厚さがより濃度の高いセルロース溶液を用いて作製した膜と同じであっても、水の流束が高かった。より高い濃度のセルロース溶液から作製した膜は、圧力及び見かけのセルロース層厚さの変化に対する流束の感度は低かった。これらの膜は、油/水乳化溶液で評価した場合も、除去率が高く、圧力の変化に対して比較的影響を受けなかった(図7)。
【0095】
実施例9.セルロース膜のMWCOの評価
PANエレクトロスピニング多孔性支持体上のセルロース膜について、カットオフ分子量(MWCO)の除去率に対する影響を、実施例6で述べた手順を用いて評価した。TOCの結果によって測定したところによると、コーティング層厚さが0.5μmである膜のMWCOが60K超である場合、除去率は40%超である。デキストランの分子量が200K超である場合、除去率は70%に近くなる(図8)。
【0096】
濃度0.2%のセルロースコーティング溶液から作製し、セルロース層厚さが1.0μmであるセルロース膜は、除去率はより薄い膜(0.5μm)のものよりも少し高かったが、流束は、やはり多少低かった(図9)。
【0097】
実施例10.酢酸1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウム(EAc)によって作製したセルロース膜
セルロース620を酢酸1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウム(EAc)中へ溶解し、実施例4にて前述のものと類似のセルロース膜を作製した。図10は、2種類のイオン液体、及びこれらのイオン液体を用いて調製した種々のセルロースコーティング溶液の粘度を示す。EAcの粘度はBClよりも約100倍低い。セルロース濃度0.1%のEAc及びBCl溶液では、粘度の差は同じに維持されている。セルロース濃度0.5%のEAcのセルロース溶液では、粘度は純粋なBClよりも非常に低かった。
【0098】
EAcを用いたより薄い膜をコーティングして流束を増加させることが可能かどうかを評価するために、一連のセルロース膜を作製して純水の流束(図11)、油/水の透過流束及び除去率(図12)について試験した。図11は、最上層の厚さの減少と共に純水の流束が増加したことを示す。より薄いセルロース層を有するセルロース膜の透過流束は、厚いものよりも非常に高く、一方、良好な除去率が維持された(図12)。透過流束及び除去率をMWCOの関数として図13に示す。EAcによって作製されたセルロース膜のMWCOは100K超であった。除去率は、分子量200Kのデキストランに対して70%超であることが分かった。
【0099】
実施例11.PAエレクトロスピニング膜を主体とするセルロース膜
PAエレクトロスピニング支持体上のセルロース層厚さが異なる一連のセルロース膜を、実施例4で述べたものと同じ手順に従って作製した。図14及び15は、圧力を上昇させた場合の純水の流束への影響を示す。PAセルロースコーティング膜では、比較的低い圧力(例:15psi)で非常に高い水の流束が達成され得る。特に、PA‐4及びPA‐2を支持体とするこれらの膜は、PA‐1及びPA‐3と比較して高い流束を示した。
【0100】
これらの膜を、油/水乳化溶液を用いてさらに評価した(図16及び17)。このような条件下にて、良好な除去率は維持したまま、圧力の上昇と共に透過流束は増加した。最上部コーティング層の厚さは、流束、並びに除去率に影響を与えた。一般に、より薄い最上層は、流束の上昇と相関していた。さらに、PA‐4又はPA‐2の多孔性支持体を有する膜では、PA‐1又はPA‐3の支持体を有する以外は同一である膜と比較して、高い流束及び類似の除去率が観察された。さらに、より薄いセルロース最上層(0.5μm)を有するセルロース膜では、圧力に対応しての除去率は僅かしか低下しないことも分かった。しかし、より厚いセルロース最上層(0.8μm)を有する膜に対する除去率は、適用した圧力範囲にわたって変化しなかった。
【0101】
すべての膜のMWCOが60K超である場合、透過流束は、シード溶液中のデキストランの分子量の増加と共に少しずつ減少した。これらの膜の中で、より高い透過流束を維持したまま他の膜よりも高い除去率を有することから、PA‐4がより優れている(図19及び19)。
【0102】
実施例12.ナイロン6エレクトロスピニング膜を主体とするセルロース膜
ナイロン6エレクトロスピニン多孔性支持体を用い、コーティング厚さが異なり、さらにはコーティング溶液の濃度も異なる一連のセルロース膜を作製した。ナイロン6の多孔性支持体をコーティングする際のセルロース濃度の影響を、水の流束、透過、及び除去率のパラメータについて評価した。ナイロンエレクトロスピニング膜は形態が悪く、サイズの大きい細孔が多いことから、用いたセルロース溶液の最適濃度は0.5%であり、膜の評価は非常に低い圧力(3psi)で行った。結果を表3に示す。
【0103】
【表3】
【0104】
実施例13.架橋PVAエレクトロスピニング膜を主体とするセルロース膜
PVAエレクトロスピニング多孔性支持体を用い、コーティング厚さが異なり、さらにはコーティング溶液の濃度も異なる一連のセルロース膜を作製した。セルロースコーティング溶液中のセルロース濃度の膜特性(すなわち、水の流束、透過、及び除去率)に対する影響を評価した(図20及び21)。図14及び15で前述のように、市販の膜PAN‐10よりも非常に高い純水の流束が観察された。しかし、コーティング層が0.5μmであるセルロース膜による油/水のろ過では、除去率は少し低かったが、それでも99.5%よりも高かった。
【0105】
実施例14.PESエレクトロスピニング支持体を主体とするセルロース膜
PESエレクトロスピニング多孔性支持体を用い、コーティング厚さが異なり、さらにはコーティング溶液の濃度も異なる一連のセルロース膜を作製した。PES多孔性支持体上のコーティング中のセルロース濃度の影響を、純水の流束(図22)、透過、及び除去率(図23)のパラメータについて評価した。
【0106】
図22に示すように、純水の流束は、他の支持体を用いた膜でこれまでに観察されたものよりも非常に高かった。油/水エマルジョンを用いてクロスフローセルで評価した場合、99.5%よりも高い除去率が見られた(図23)。
【0107】
実施例15.PSFエレクトロスピニング支持体を主体とするセルロース膜
PSFエレクトロスピニング多孔性支持体を用い、コーティング厚さが異なり、さらにはコーティング溶液の濃度も異なる一連のセルロース膜を作製した。多孔性PSF支持体上にコーティングする際のセルロース濃度の影響を評価した(例:水の流束、透過、及び除去率)。PSFは疎水性の高い物質であるが、それでもナノファイバー複合膜の純水の流束は非常に高いことが分かった。図24に示すように、油/水分離における除去率は99.5%よりも高かった。
【0108】
実施例16.PANエレクトロスピニング支持体を主体とするセルロース膜のクロスフローろ過機構によるろ過性能
セルロースをコーティングしたナノファイバー膜(実施例4にて前述のようにして作製)において、流動速度に対する圧力の影響のさらなる評価を、注文製造のクロスフローろ過機構を用いて純水の流束を測定することで実施した。図25に示すように、純水の流束は圧力と共に急速に上昇した。油/水乳化混合物を用いて評価した場合、これらの膜の透過流束は、上昇する圧力と共に連続的に上昇し、一方除去率は99.5%超に維持されていた(図26)。
【0109】
種類の異なるセルロースを用いることの影響を評価するために、重合度(DP)7350のセルロースから作製する膜を作製した。透過流束及び除去率の測定は、油/水エマルジョン及びクロスフローセルを用いて実施した。図27に示すように、DPが620のセルロースでコーティングした膜(DPが7350のセルロースコーティングと同じPAN支持体、及び同じセルロースコーティング厚さを用いた)(図26)と類似の傾向を示している。
【0110】
まとめると、セルロースのDP値が異なるセルロースコーティングによる膜の流束及び除去率は、互いに類似することが分かった。従って、油/水エマルジョンで評価した場合、セルロースの分子量は膜の性能にほとんど影響を与えないと考えられる。
【0111】
実施例17.セルロース膜の安定性及び再利用性
セルロース膜(エレクトロスピニングPAN支持体、約0.5μmのセルロースコーティング、DPが620のセルロース)の長期的な安定性及び再利用性を試験するために、油含有水に対するセルロース膜の流束及び除去率を含む分離効率のパラメータを、30psiから110psiまで上昇し、続いて元の圧力へ戻るという変化する圧力条件下にて評価した。図28より、除去率は実質的に同一に維持され、一方透過流束は、圧力サイクルを通してわずかに低下しただけであることが示される。さらに、複数の圧力サイクルを通して透過流束は実質的に変化せずに維持されており、このことは、本発明のセルロース膜が模擬使用条件を通して頑強であることを示唆している。
【0112】
実施例18.油/水エマルジョンのろ過におけるセルロース膜の付着汚染
セルロース膜(エレクトロスピニングPAN支持体、約0.5μmのセルロースコーティング、DPが620のセルロース)の経時的な付着汚染をモニタリングするために、90psiの一定圧力にて油/水エマルジョンを用いて、透過流束及び除去率を評価した。図29は、膜表面への油の付着により、ろ過プロセスの間に流束がゆっくり低下したことを示している。一方、除去率は同じ実験条件を通して僅かに上昇した。
【0113】
実施例19.アルギン酸ナトリウムのろ過におけるセルロース膜の付着汚染
セルロース膜(エレクトロスピニングPAN支持体、約0.5μmのセルロースコーティング、DPが620のセルロース)の経時的な付着汚染を評価するために、アルギン酸ナトリウムの水溶液(500ppm、80乃至120K)を用いて48時間にわたって透過流束及び除去率を評価した。図30は、透過流束は時間と共に低下したが、除去率は変化せずに維持され、99.6%よりも高かったことを示している。
【0114】
実施例20.イオン液体のリサイクル及び再利用
透過流束及び除去率という実験パラメータに対するイオン液体のリサイクルの影響を評価した。イオン液体BClは、エタノール溶液からの蒸留、及びこれに続いく90℃での24時間の減圧乾燥によってリサイクルした。リサイクルしたBClの純度は1H NMRを用いて測定した。図31Bに示すように、リサイクルしたBClの1H NMRは、リサイクルしたBClが使用前の1H NMR(図31A)と実質的に同じであることを示しており、リサイクルしたBClが容易にリサイクル可能であることを示唆している。
【0115】
実施例21.PANエレクトロスピニング膜上のセルロースコーティングの断面
コーティング層の厚さ並びにPAN多孔性支持体上のセルロース膜の表面の形態をSEMを用いて調べた(図32)。膜のコーティング層の厚さは約0.3乃至1.0μmであり、表面は平滑かつ平坦であることが分かった。
【0116】
実施例22.PAN膜上のセルロースコーティングと市販膜との比較
図33は、PANエレクトロスピニング支持体上(厚さ約40乃至50μm)にコーティングされた厚さ0.5μmのセルロース層を有するセルロースナノファイバー膜の純水の流束を、市販のDow NF270、Sepro PAN400、及びMillipore PLTK膜と比較したものである。0.3μmのセルロース層を有するセルロースナノファイバー膜の純水の流束は、NF270膜よりも約30倍高く、PAN400及びPLTK膜よりも2倍高かった。
【0117】
これらの膜の油水エマルジョンによる流束及び除去性能も、15psiにて全量ナノろ過セルを用いて評価した。図34に示すように、0.3μmのセルロース層を有するセルロースナノファイバー膜の透過流束はNF270膜よりもおよそ5倍高く、一方、除去率は同等であった。
【0118】
実施例23.連続ナイフコーティングシステムによるセルロース膜の作製
セルロース膜は、ナイフコーティングシステムの使用を例とする連続プロセスを用いて作製することもできる。このプロセスの概略を図35に示す。
【0119】
5メートルのPAエレクトロスピニング支持体を、EAc中の1.0(w/w)%のセルロース溶液でコーティングした。最上層の厚さは約0.5μmであった。これらのセルロース膜を、純水の流束、並びに油水エマルジョンを用いた全量ろ過セルによる透過流束及び除去率について評価した。結果を図36及び37に示す。
【0120】
ここでも、高い純水の流束が観察され、圧力の上昇と共に透過流束が増加した。除去率は、15psiでは高く、60psiでは少し低下したが、除去率は99.5%超で維持されていた。
【0121】
実施例24.セルロース膜の熱安定性
熱安定性
コットンリンター、BCl、及び種々のセルロース溶液濃度で作製したセルロース膜の熱安定性を、図38に示すようにTGAによって調べた。
【0122】
すべての膜の分解開始温度はコットンリンターよりも低く、それぞれ約275〜285℃対326.9℃であり、第一段階での約5%の分解を示している。熱安定特性の違いは、セルロースの異なる2種類の結晶型の存在によって決定され得る。
【0123】
分解の第二段階では、369.2℃で残留するコットンリンターは僅かに18%であり、これは、コットンリンターの約77%が34℃の間に分解したことを意味する。膜については、第二段階では、30℃の間に約40〜50%が分解しただけであった。
【0124】
コットンリンターは506.0℃で完全に分解したが、膜の完全な分解は580℃超であった。BClの分解は245.0℃で開始し、307.3℃で完了した。BClの分解はいずれのセルロースの分解とも非常に異なることから、膜中に残留イオン液体(BCl)はまったく存在しないと考えられた。
【0125】
実施例25.セルロース膜のWAXD
膜構造の変化をさらに理解するために、セルロース膜(10(w/w)%のセルロース溶液により作製)、並びにコットンリンターのWAXDを実施した。図39は、1D WAXD曲線を示したものである。膜の回折結晶ピークはコットンリンターのそれと非常に異なっており、このことは、コットンリンターと比較してセルロース膜の構造に大きな違いが存在することを示した。コットンリンターの結晶型はセルロースIであり、イオン液体による処理の後に他のセルロース結晶型に変化した可能性がある。さらに、この2種類の物質(コットンリンター及びセルロースコーティング)の結晶度も異なっている。WAXDのデータから算出すると、コットンリンターの結晶度は70.93%であるが、膜上のセルロースコーティングのそれは38.25%である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)セルロース又はセルロース誘導体を含むコーティング層と、
(b)多孔性支持体層と、
を含み、
イオン液体中に溶解したセルロース又はセルロース誘導体を含む溶液を多孔性支持体層上にコーティングすること、及びイオン液体を除去し、それによって該コーティング層を形成すること、を含むプロセスによって作製された、膜。
【請求項2】
前記イオン液体中のセルロース又はセルロース誘導体の濃度が、約0.002%(w/w)乃至10%(w/w)の範囲内である、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
前記コーティング層の厚さが、約0.01乃至約10ミクロンである、請求項1に記載の膜。
【請求項4】
前記コーティング層の厚さが、約0.3ミクロンである、請求項3に記載の膜。
【請求項5】
前記イオン液体中のセルロース又はセルロース誘導体の濃度が、約0.1%(w/w)乃至約2.5%(w/w)の範囲内であり、前記コーティング層の厚さが、約0.3ミクロンである、請求項1に記載の膜。
【請求項6】
前記イオン液体が、一般式1‐CnH2n+1‐3‐メチルイミダゾロニウムを有するN‐アルキルイミダゾロニウムカチオンであり、ここでnは1乃至12の整数である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記N‐アルキルイミダゾロニウムカチオンに対するアニオンが、ハロゲン、パークロレート、擬ハロゲン、擬ハライド、カルボキシレート、PF6−、及びBF4−から成る群より選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記アニオンが、Cl−、Br−、PF6−、又はBF4−である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記イオン液体が、塩化1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記多孔性支持体層が、ナノファイバーを含む、請求項1に記載の膜。
【請求項11】
前記ナノファイバーを含む多孔性支持体層の厚さが、約50nm乃至約50μmである、請求項10に記載の膜。
【請求項12】
前記多孔性支持体が、転相法によって作製された非対称多孔性支持体であり、その厚さが約1乃至約100μmである、請求項1に記載の膜。
【請求項13】
前記多孔性支持体層が、各々がナノファイバーを含む複数の層をさらに有し、及び前記コーティング層に接する層中のナノファイバーの平均直径が、該コーティング層に接する層の下部に配置されるナノファイバーの平均直径よりも小さい、請求項1に記載の膜。
【請求項14】
前記コーティング層に接する層中のナノファイバーの平均直径が、約2nm乃至約100nmの範囲であり、及び前記コーティング層に接する層の下部に配置されるナノファイバーの平均直径が、約100nm乃至約2000nmである、請求項13に記載の膜。
【請求項15】
前記コーティング層の厚さが、約0.3乃至約0.5ミクロンの範囲内であり、及び前記多孔性支持体層の厚さが、約100nm乃至1μmの範囲内である、請求項1に記載の膜。
【請求項16】
前記ナノファイバーが、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、フルオロポリマー、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)クリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、多糖類、キトサン、タンパク質、ポリアルキレンオキシド、ポリウレタン、ポリウレア、ポリ塩化ビニル、ポリイミン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリシロキサン、ポリ(エステル‐コ‐グリコール)ポリマー、ポリ(エーテル‐コ‐アミド)ポリマー、これらの架橋体、これらの誘導体、及びこれらのコポリマーから成る群より選択されるポリマーを含む、請求項10に記載の膜。
【請求項17】
前記ナノファイバーが、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、又はこれらの誘導体を含む、請求項10に記載の膜。
【請求項18】
前記多孔性支持体が、基材層をさらに有する、請求項1に記載の膜。
【請求項19】
前記基材層が、不織物である、請求項15に記載の膜。
【請求項20】
前記膜が、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜、又は正浸透膜である、請求項16に記載の膜。
【請求項21】
水のろ過に対する透過流束が、約15psiの圧力にて約400L/m2h乃至約700L/m2hであり、前記コーティング層の厚さが、約0.3ミクロンである、請求項1に記載の膜。
【請求項22】
水のろ過に対する除去率が、約15psiの圧力にて約99.5%であり、前記コーティング層の厚さが、約0.3ミクロン乃至約1.0ミクロンの範囲内である、請求項1に記載の膜。
【請求項23】
少なくとも1つの請求項1に記載の膜と、
流体混合物を該少なくとも1つの膜のコーティング層の表面と接触させるための手段と、
該コーティング層と接する多孔性支持体の表面とは逆側の該コーティング層の表面から保持物を除去するための手段と、
を有する、膜モジュール。
【請求項24】
請求項23に記載の膜モジュールを少なくとも1つ有する、流体分離システム。
【請求項25】
(a)ナノファイバーを含む多孔性支持体を作製する工程と、
(b)セルロース又はセルロース誘導体、及びイオン液体を含む溶液を調製する工程と、
(c)工程(b)で調製した溶液を該多孔性支持体の一方の側にコーティングする工程と、
(d)セルロース又はセルロース誘導体を含む過剰の溶液を膜から除去する工程と、
を含む、請求項1に記載の膜の作製方法。
【請求項26】
前記の多孔性支持体の作製が、エレクトロスピニング、エレクトロブロー、ブローアシストエレクトロスピニング、溶液ブロー、及び溶液キャスティングを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記多孔性支持体が、基材層上に形成される、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記基材層が、不織物である、請求項25に記載の方法。
【請求項1】
(a)セルロース又はセルロース誘導体を含むコーティング層と、
(b)多孔性支持体層と、
を含み、
イオン液体中に溶解したセルロース又はセルロース誘導体を含む溶液を多孔性支持体層上にコーティングすること、及びイオン液体を除去し、それによって該コーティング層を形成すること、を含むプロセスによって作製された、膜。
【請求項2】
前記イオン液体中のセルロース又はセルロース誘導体の濃度が、約0.002%(w/w)乃至10%(w/w)の範囲内である、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
前記コーティング層の厚さが、約0.01乃至約10ミクロンである、請求項1に記載の膜。
【請求項4】
前記コーティング層の厚さが、約0.3ミクロンである、請求項3に記載の膜。
【請求項5】
前記イオン液体中のセルロース又はセルロース誘導体の濃度が、約0.1%(w/w)乃至約2.5%(w/w)の範囲内であり、前記コーティング層の厚さが、約0.3ミクロンである、請求項1に記載の膜。
【請求項6】
前記イオン液体が、一般式1‐CnH2n+1‐3‐メチルイミダゾロニウムを有するN‐アルキルイミダゾロニウムカチオンであり、ここでnは1乃至12の整数である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記N‐アルキルイミダゾロニウムカチオンに対するアニオンが、ハロゲン、パークロレート、擬ハロゲン、擬ハライド、カルボキシレート、PF6−、及びBF4−から成る群より選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記アニオンが、Cl−、Br−、PF6−、又はBF4−である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記イオン液体が、塩化1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記多孔性支持体層が、ナノファイバーを含む、請求項1に記載の膜。
【請求項11】
前記ナノファイバーを含む多孔性支持体層の厚さが、約50nm乃至約50μmである、請求項10に記載の膜。
【請求項12】
前記多孔性支持体が、転相法によって作製された非対称多孔性支持体であり、その厚さが約1乃至約100μmである、請求項1に記載の膜。
【請求項13】
前記多孔性支持体層が、各々がナノファイバーを含む複数の層をさらに有し、及び前記コーティング層に接する層中のナノファイバーの平均直径が、該コーティング層に接する層の下部に配置されるナノファイバーの平均直径よりも小さい、請求項1に記載の膜。
【請求項14】
前記コーティング層に接する層中のナノファイバーの平均直径が、約2nm乃至約100nmの範囲であり、及び前記コーティング層に接する層の下部に配置されるナノファイバーの平均直径が、約100nm乃至約2000nmである、請求項13に記載の膜。
【請求項15】
前記コーティング層の厚さが、約0.3乃至約0.5ミクロンの範囲内であり、及び前記多孔性支持体層の厚さが、約100nm乃至1μmの範囲内である、請求項1に記載の膜。
【請求項16】
前記ナノファイバーが、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、フルオロポリマー、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)クリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、多糖類、キトサン、タンパク質、ポリアルキレンオキシド、ポリウレタン、ポリウレア、ポリ塩化ビニル、ポリイミン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリシロキサン、ポリ(エステル‐コ‐グリコール)ポリマー、ポリ(エーテル‐コ‐アミド)ポリマー、これらの架橋体、これらの誘導体、及びこれらのコポリマーから成る群より選択されるポリマーを含む、請求項10に記載の膜。
【請求項17】
前記ナノファイバーが、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、又はこれらの誘導体を含む、請求項10に記載の膜。
【請求項18】
前記多孔性支持体が、基材層をさらに有する、請求項1に記載の膜。
【請求項19】
前記基材層が、不織物である、請求項15に記載の膜。
【請求項20】
前記膜が、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜、又は正浸透膜である、請求項16に記載の膜。
【請求項21】
水のろ過に対する透過流束が、約15psiの圧力にて約400L/m2h乃至約700L/m2hであり、前記コーティング層の厚さが、約0.3ミクロンである、請求項1に記載の膜。
【請求項22】
水のろ過に対する除去率が、約15psiの圧力にて約99.5%であり、前記コーティング層の厚さが、約0.3ミクロン乃至約1.0ミクロンの範囲内である、請求項1に記載の膜。
【請求項23】
少なくとも1つの請求項1に記載の膜と、
流体混合物を該少なくとも1つの膜のコーティング層の表面と接触させるための手段と、
該コーティング層と接する多孔性支持体の表面とは逆側の該コーティング層の表面から保持物を除去するための手段と、
を有する、膜モジュール。
【請求項24】
請求項23に記載の膜モジュールを少なくとも1つ有する、流体分離システム。
【請求項25】
(a)ナノファイバーを含む多孔性支持体を作製する工程と、
(b)セルロース又はセルロース誘導体、及びイオン液体を含む溶液を調製する工程と、
(c)工程(b)で調製した溶液を該多孔性支持体の一方の側にコーティングする工程と、
(d)セルロース又はセルロース誘導体を含む過剰の溶液を膜から除去する工程と、
を含む、請求項1に記載の膜の作製方法。
【請求項26】
前記の多孔性支持体の作製が、エレクトロスピニング、エレクトロブロー、ブローアシストエレクトロスピニング、溶液ブロー、及び溶液キャスティングを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記多孔性支持体が、基材層上に形成される、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記基材層が、不織物である、請求項25に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31(A)】
【図31(B)】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図2】
【図3】
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【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
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【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31(A)】
【図31(B)】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【公表番号】特表2010−527772(P2010−527772A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509577(P2010−509577)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【国際出願番号】PCT/US2008/064768
【国際公開番号】WO2009/025900
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(509319063)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【国際出願番号】PCT/US2008/064768
【国際公開番号】WO2009/025900
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(509319063)
【Fターム(参考)】
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