説明

セルロース粒子の製造方法

【課題】セルロース同士の凝集を抑制し、平均粒子径が小さく、セルロースI型結晶化度が低いセルロース粒子を製造すること。
【解決手段】下記式で示されるセルロースI型結晶化度が33%以下の低結晶性セルロース原料に、高級アルコール、高級脂肪酸、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステル及びポリエーテルから選ばれる粉砕助剤を添加し、乾式で粉砕機により処理してセルロース粒子を製造する方法であって、(1)〔セルロース粒子の平均粒子径/低結晶性セルロース原料の平均粒子径〕が0.7以下である、セルロース粒子の製造方法、及び(2)セルロース粒子の平均粒子径が50μm以下である、セルロース粒子の製造方法である。
セルロースI結晶化度(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100
〔I22.6は格子面(002面)の回折強度、及びI18.5はアモルファス部の回折強度を示す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パルプ等のセルロース含有原料を粉砕して得られるセルロースは、セルロースエーテルの原料、化粧品、食品、バイオマス材料等の工業原料として用いられる。これらの工業原料としては、セルロース結晶構造が低結晶化されたセルロースが特に有用である。
また、機械的処理によりセルロースの微細な粒子を得る方法には、乾式または湿式で粉砕する方法がある。一般的にセルロースを乾式で粉砕した場合、粉砕が長時間になると再凝集が起こりやすくなる。このような凝集を抑制するために、天然高分子に対して親和性を有する物質を添加して、粉砕処理を行い粒径の揃った微粒子を得る方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、繊維状または粉末状のセルロースに対して、添加剤として脂肪酸類を加え扁平セルロース粒子を得る方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
しかし、特許文献1及び2にはセルロースの結晶化度についての記載はなく、上記の方法は、セルロースの結晶化度及び平均粒子径を低減させるにあたり、効率性及び生産性において満足できるものではない。
また、セルロース含有原料を機械的粉砕処理してセルロースI型結晶化度を低減する非晶化セルロースの製造方法が提案されているが(例えば、特許文献3及び4参照)、特許文献3及び4で得られるセルロースは十分に満足できるほど微細なものではない。
以上のとおり、従来の技術によるセルロースの粉砕処理では、平均粒子径を低減し、且つセルロースI型結晶化度を低減することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2979135号明細書
【特許文献2】特許第3787598号明細書
【特許文献3】特許第4160108号明細書
【特許文献4】特許第4160109号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明では、セルロース同士の凝集を抑制し、平均粒子径が小さく、セルロースI型結晶化度が低いセルロース粒子を製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、特定の低結晶性セルロース原料を、特定の粉砕助剤と共に粉砕機で処理することにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、下記式で示されるセルロースI型結晶化度が33%以下の低結晶性セルロース原料100質量部に対して、高級アルコール、高級脂肪酸、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステル、及びポリエーテルから選ばれる少なくとも1種の粉砕助剤を0.1〜100質量部添加し、乾式で粉砕機により処理してセルロース粒子を製造する方法であって、下記(1)のセルロース粒子の製造方法、及び下記(2)のセルロース粒子の製造方法である。
セルロースI結晶化度(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100
〔式中、I22.6はX線回折における格子面(002面)(回折格2θ=22.6°)の回折強度、及びI18.5はアモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。〕
(1)〔セルロース粒子の平均粒子径/低結晶性セルロース原料の平均粒子径〕が0.7以下である、セルロース粒子の製造方法。
(2)セルロース粒子の平均粒子径が50μm以下である、セルロース粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のセルロース粒子の製造方法によれば、セルロース同士の凝集を抑制し、平均粒子径が小さく、セルロースI型結晶化度が低いセルロース粒子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、上記式で示されるセルロースI型結晶化度が33%以下の低結晶性セルロース原料100質量部に対して、高級アルコール、高級脂肪酸、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステル、及びポリエーテルから選ばれる少なくとも1種の粉砕助剤を0.1〜100質量部添加し、乾式で粉砕機により処理してセルロース粒子を製造する方法であって、その第1態様として、〔セルロース粒子の平均粒子径/低結晶性セルロース原料の平均粒子径〕が0.7以下であることを特徴とするセルロース粒子の製造方法、及びその第2態様として、セルロース粒子の平均粒子径が50μm以下であることを特徴とするセルロース粒子の製造方法である。
【0009】
〔低結晶性セルロース原料〕
本発明に使用される低結晶性セルロース原料は、セルロースI型結晶化度を33%以下に低減させたものである。
一般的な市販パルプは、セルロースI型結晶化度が概ね60%以上のいわゆる結晶性セルロースであるが、本発明において原料として使用するセルロースは、セルロースI型結晶化度が33%以下の低結晶性セルロースである。
【0010】
ここで、本発明における結晶化度とは、天然セルロースの結晶構造に由来するI型の結晶化度を意味し、粉末X線結晶回折スペクトル法による回折強度値からSegal法により算出したもので、下記式により定義される。
セルロースI型結晶化度(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100
〔式中、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、及びI18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。〕
また、「低結晶性」とは、セルロースの結晶構造においてアモルファス部の割合が多い状態を示し、具体的には上記式から算出されるセルロースI型結晶化度が33%以下であることを意味し、該結晶化度が0%の完全非晶化の場合を含む。
これに対して、本明細書において、セルロースI型結晶化度が33%を超えるセルロースを総称して、「結晶性セルロース」ということがある。また、本明細書において、セルロースのセルロースI型結晶化度を単に「結晶化度」ということがある。
【0011】
セルロースI型結晶化度は、セルロースの物理的、化学的性質とも関係し、その値が大きいほど、セルロースの結晶性が高く、非結晶部分が少ないため、硬度、密度等は増すが、伸び、柔軟性、水や溶媒に対する溶解性、化学反応性は低下する。セルロースI型結晶化度が33%以下であれば、伸び、柔軟性、水や溶媒に対する溶解性を向上させることができる。この観点から、セルロースI型結晶化度は、25%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、分析でI型結晶が検出されない0%が特に好ましい。なお、上記式で定義されたセルロースI型結晶化度では計算上マイナスの値になる場合があるが、マイナスの値の場合は、セルロースI型結晶化度は0%とする。
【0012】
本発明に使用される低結晶性セルロース原料の形状としては、粒状であることが好ましい。粒状の低結晶性セルロース原料を粉砕助剤と共に粉砕機処理することにより、セルロース同士の凝集を抑制して、効率的にセルロースを微粉砕することができ、好適である。
低結晶性セルロース原料の平均粒子径は、粉砕処理を効率よく行う観点から、200μm以下の範囲が好ましく、5〜150μmの範囲がより好ましく、10〜125μmの範囲が更に好ましい。
【0013】
〔粉砕助剤〕
本発明において、粉砕助剤として、高級アルコール、高級脂肪酸、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステル、及びポリエーテルから選ばれる少なくとも1種を使用する。
これらの粉砕助剤の中でも、セルロース粒子の平均粒子径を低減する観点から、粉砕助剤の融点は、好ましくは500℃以下であり、より好ましくは400℃以下であり、更に好ましくは350℃以下であり、より更に好ましくは300℃以下である。以上の観点から、粉砕助剤の融点は、−20〜500℃が好ましく、0〜400℃がより好ましく、10〜350℃が更に好ましく、20〜300℃がより更に好ましい。
【0014】
〈高級アルコール/高級脂肪酸/高級脂肪酸塩〉
本発明に使用される高級アルコールとしては、好ましくは炭素数12〜50、より好ましくは炭素数12〜22、さらに好ましくは炭素数14〜22の高級アルコールが好ましい。
上記高級アルコールとしてはラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、セトステアリルアルコール、2−オクチルドデカノールなどが挙げられ、その中でもセルロースの凝集抑制と平均粒子径を低減する観点から、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、べへニルアルコールなどが好ましい。
本発明に使用される高級脂肪酸としては、好ましくは炭素数12〜50、より好ましくは炭素数14〜22の脂肪酸が好ましい。
上記高級脂肪酸としては、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等が挙げられ、その中でもセルロースの凝集抑制と平均粒子径を低減する観点から、ミリスチン酸、ステアリン酸が好ましい。
本発明に使用される高級脂肪酸塩は、好ましくは炭素数12〜24、より好ましくは炭素数14〜20の脂肪酸塩が好ましい。
上記高級脂肪酸塩としては、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等が挙げられ、その中でもセルロースの凝集抑制と平均粒子径を低減する観点から、ミリスチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウムが好ましい。
【0015】
〈高級脂肪酸エステル〉
本発明に使用される高級脂肪酸エステルとしては、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。
1COOR2 (1)
式中、R1は、炭素数4〜50、好ましくは6〜40、より好ましくは10〜30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はヒドロキシアルキル基を示す。R2は、炭素数1〜50、好ましくは1〜30、より好ましくは2〜20のアルキル基若しくはエーテル基及び水酸基を含むアルキル基、又はグリセライドから一つのアシルオキシ基を除いた残基を示す。
上記高級脂肪酸エステルとしては、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノステアレート、ペンタエリスリトールモノオレート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等が挙げられ、その中でもセルロースの凝集抑制と平均粒子径を低減する観点から、ペンタエリスリトールモノステアレートが好ましい。
【0016】
〈ポリエーテル〉
本発明に使用されるポリエーテルとしては、下記一般式(2)で表される化合物が好ましい。
3−O−〔(R4O)p−H〕 (2)
式中、R3は、水素原子、又は炭素数1〜50のアルキル基若しくはアルケニル基であり、R4は、炭素数2〜4のアルキレン基であり、好ましくはエチレン基またはプロピレン基である。また、pは平均付加モル数を示し、2〜400の数、好ましくは5〜200の数、より好ましくは5〜150の数である。
【0017】
一般式(2)の化合物の具体例としては、セルロースの凝集抑制と平均粒子径を低減する観点から、下記一般式(3)で表される化合物が好適に挙げられる。
5−O−(C24O)s(C36O)t−H (3)
式中、R5は、水素原子、又は炭素数1〜22のアルキル基であり、s及びtはそれぞれエチレンオキシド(EO)及びプロピレンオキシド(PO)の平均付加モル数を示し、それぞれ独立に0〜200の数、好ましくは1〜150、より好ましくは2〜100の数であり(但し、s=0かつt=0であることはない)、EOとPOの両方を含む場合はランダムあるいはブロック付加体であっても良い。
【0018】
5におけるアルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、プロピル基、ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種オクチル基、各種デシル基、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種ヘキサデシル基、各種オクタデシル基等が挙げられる。R5としては、更にセルロースの凝集抑制と平均粒子径を低減する観点から、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基が好ましい。
本発明に使用されるポリエーテルの重量平均分子量は、100〜20000の範囲が好ましく、400〜20000の範囲がより好ましく、800〜15000の範囲が更に好ましい。重量平均分子量は、溶媒としてクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
上記の粉砕助剤は、単独で又は2種以上を任意の割合で用いることもできる。
【0019】
本発明において、粉砕助剤の添加量は、低結晶性セルロース原料100質量部に対して、0.1〜100質量部であり、好ましくは0.1〜50質量部、より好ましくは0.1〜30質量部である。粉砕助剤の添加量が、低結晶性セルロース原料100質量部に対して、0.1質量部以上であれば、低結晶性セルロース原料の平均粒子径の低減が可能となり、100質量部以下であれば、セルロース粒子を効率よく製造することが可能となる。
【0020】
〔セルロース粒子の製造方法〕
本発明において、上記低結晶性セルロース原料100質量部に対して、上記粉砕助剤を0.1〜100質量部添加し、乾式で粉砕機処理して、セルロース粒子を得ることができる。
【0021】
〔低結晶性セルロース原料の調製〕
本発明における原料として使用される、セルロースI型結晶化度が33%以下の低結晶性セルロース原料の製造方法としては、特に制限はないが、嵩密度が好ましくは50〜1000kg/m3の範囲、より好ましくは100〜900kg/m3の範囲、更に好ましくは120〜800kg/m3の範囲にあるセルロース含有原料を粉砕機で処理することにより得ることができる。
【0022】
セルロース含有原料としては、該原料から水を除いた残余の成分中のセルロース含有量が好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは60質量%以上のものを用いることができる。ここで、セルロース含有量とはセルロース量及びヘミセルロース量の合計量を意味する。
市販のパルプの場合、水を除いた残余の成分中のセルロース含有量は、一般には75〜99質量%であり、他の成分はリグニン等を含む。
前記セルロース含有原料には特に制限はなく、各種木材チップ;木材から製造されるウッドパルプ、綿の種子の周囲の繊維から得られるコットンリンターパルプ等のパルプ類;新聞紙、ダンボール、雑誌、上質紙等の紙類;稲わら、とうもろこし茎等の植物茎・葉類;籾殻、パーム殻、ココナッツ殻等の植物殻類等が挙げられる。
セルロース含有原料中の水分含量は、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましく、5質量%以下がより更に好ましく、3質量%以下が特に好ましく、1質量%以下が更に特に好ましい。セルロース含有原料中の水分含量が20質量%以下であれば、容易に粉砕できるとともに、粉砕処理により結晶化度及び平均粒子径を容易に低減させることができる。
【0023】
〔前処理〕
本発明において、嵩密度が50kg/m3未満のセルロース含有原料を用いる場合は、前処理を行い、嵩密度を50〜1000kg/m3にすることが好ましい。
前処理としては、必要に応じて、粗粉砕処理、押出機処理を行い、セルロース含有原料を適度な嵩密度を有する粉末状にすることができる。
粗粉砕処理は、セルロース含有原料を押出機に投入する前に、チップ状に粗粉砕する処理である。この粗粉砕処理を予め行うことにより、押出機処理をより効率的に行うことができる。押出機に供給するセルロース含有原料の大きさは、好ましくは1〜50mm角、より好ましくは1〜30mm角のチップ状である。
セルロース含有原料をチップ状に粗粉砕する方法としては、シュレッダー、ロータリーカッター等を使用する方法が挙げられる。ロータリーカッターを使用する場合、得られるチップ状セルロース含有原料の大きさは、スクリーンの目開きを変えることにより、制御することができる。スクリーンの目開きは、1〜50mmが好ましく、1〜30mmがより好ましい。スクリーンの目開きが1mm以上であれば、セルロース含有原料が綿状化することがなく、後の押出機処理に用いるセルロース含有原料として適度な嵩高さを有するために取扱い性が向上する。スクリーンの目開きが50mm以下であれば、後の押出機処理に用いるセルロース含有原料として適度な大きさを有するために押出機処理において負荷を低減することができる。
【0024】
〔押出機処理〕
前記セルロース含有原料を押出機で処理することにより、所望の嵩密度を有するセルロース含有原料を得ることができる。更に押出機で処理することにより、セルロース含有原料に圧縮せん断力を作用させ、セルロースの結晶構造を破壊して粉末化させることができる。
従来よく用いられる衝撃式の粉砕機、例えば、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル等は、圧縮せん断力を作用させて機械的に粉砕する装置であるが、これらの粉砕機で処理するとセルロース含有原料が綿状化して嵩高くなり、取扱い性を損ない、質量ベースの処理能力が低下する。これに対して、押出機処理すれば、所望の嵩密度及び平均粒径を有するセルロース含有原料が効率的に得られ、取扱い性が向上する。
【0025】
押出機としては、単軸、二軸のどちらの形式でもよいが、搬送能力を高める等の観点から、二軸押出機が好ましい。
二軸押出機としては、シリンダの内部に2本のスクリューが回転自在に挿入された公知の押出機を使用することができる。2本のスクリューの回転方向は、同一でも逆方向でもよいが、搬送能力を高める観点から、同一方向の回転が好ましい。
また、スクリューの噛み合い条件としては、完全噛み合い、部分噛み合い、非噛み合いの各形式の押出機のいずれでもよいが、処理能力を向上させる観点から、完全噛み合い型、部分噛み合い型が好ましい。
【0026】
押出機としては、強い圧縮せん断力を加える観点から、スクリューのいずれかの部分に、いわゆるニーディングディスク部を備えることが好ましい。
ニーディングディスク部とは、複数のニーディングディスクで構成され、これらを連続して、一定の位相でずらしながら組み合わせたものである。例えば3〜20、好ましくは6〜16のニーディングディスクを90°ずつ互い違いにずらしながら組み合わせたものが挙げられる。ニーディングディスク部は、スクリューの回転にともなって、その狭い隙間にセルロース含有原料を強制的に通過させることで極めて強いせん断力を付与することができる。
押出機のスクリューの構成としては、ニーディングディスク部と複数のスクリューセグメントとを交互に配置することが好ましい。また、二軸押出機の場合は、2本のスクリューを同一の構成とすることが好ましい。
【0027】
処理方法としては、セルロース含有原料、好ましくは前記チップ状セルロース含有原料を押出機に投入し、連続的に処理する方法が好ましい。せん断速度としては、10sec-1以上が好ましく、20〜30000sec-1がより好ましく、50〜3000sec-1が更に好ましい。せん断速度が10sec-1以上であれば、有効に高嵩密度化が進行する。その他の処理条件に特に制限はなく、処理温度は好ましくは5〜200℃である。
また、押出機処理によるパス回数としては、1パスでも十分効果を得ることができるが、セルロース含有原料を高嵩密度化する観点から、1パスで不十分な場合は、2パス以上行うことが好ましい。生産性の観点からは、1〜10パスが好ましい。処理回数を重ねることにより、粗大粒子が粉砕され、粒径のばらつきが少ない粉末状セルロース含有原料を得ることができる。2パス以上行う場合は、生産能力を考慮し、複数の押出機を直列に並べて処理を行ってもよい。
【0028】
前記で得られたセルロース含有原料を粉砕機で処理することにより、セルロースI型結晶化度が33%以下の低結晶性セルロース原料を製造することができるが、この粉砕機処理は、後述するセルロース粒子を得るための粉砕機処理と同様の方法で行うことができる。
上記の処理方法により、セルロース含有原料から、セルロースI型結晶化度が33%以下の低結晶性セルロース原料を短時間で効率よく得ることができる。また、粉砕機処理の際に、粉砕機の内部にセルロース原料が固着せずに、乾式にて処理することができる。
上記処理方法によれば、好ましくは平均粒子径が200μm以下の範囲にある粒状の低結晶性セルロース原料を効率的に、生産性よく製造することができる。
【0029】
〔粉砕機処理〕
本発明におけるセルロース粒子を得るための粉砕機処理について説明する。
粉砕機としては、媒体式粉砕機を好ましく用いることができる。媒体式粉砕機には容器駆動式粉砕機と媒体撹拌式粉砕機とがある。
容器駆動式粉砕機としては、転動ミル、振動ミル、遊星ミル、遠心流動ミル等が挙げられるが、粉砕効率、生産性の観点から、振動ミルが好ましい。
媒体撹拌式粉砕機としては、タワーミル等の塔型粉砕機;アトライター、アクアマイザー、サンドグラインダー等の撹拌槽型粉砕機;ビスコミル、パールミル等の流通槽型粉砕機;流通管型粉砕機;コボールミル等のアニュラー型粉砕機;連続式のダイナミック型粉砕機等が挙げられるが、粉砕効率、生産性の観点から、撹拌槽型粉砕機が好ましい。媒体攪拌式粉砕機を用いる場合の攪拌翼の先端の周速は、好ましくは0.5〜20m/s、より好ましくは1〜15m/sである。
粉砕機については「化学工学の進歩 第30集 微粒子制御」(社団法人 化学工学会東海支部編、1996年10月10日発行、槇書店)を参照することができる。
処理方法としては、バッチ式、連続式のどちらでもよい。
【0030】
粉砕機に充填する媒体の材質としては、特に制限はなく、例えば、鉄、ステンレス、アルミナ、ジルコニア、チタニア、炭化珪素、チッ化珪素、ガラス等が挙げられる。媒体の形状としては、ボール、ロッド、チューブ等を用いることができる。
粉砕機が振動ミル等の容器駆動式粉砕機であって媒体がボールの場合、ボールの外径は、効率的にセルロースの平均粒子径及び結晶化度を低減させる観点から、好ましくは0.1〜100mm、より好ましくは0.5〜50mmであり、更に好ましくは1〜20mmであり、更により好ましくは1〜15mmであり、特に好ましくは1〜10mmである。
媒体の充填率は、媒体式粉砕機の機種により好適な充填率が異なるが、好ましくは10〜97%、より好ましくは15〜95%の範囲である。充填率がこの範囲内であれば、セルロース含有原料とボール、ロッド等の媒体との接触頻度が向上するとともに、媒体の動きを妨げずに、粉砕効率を向上させることができる。ここで充填率とは、媒体式粉砕機の攪拌部の容積に対する媒体の見かけの体積をいう。
【0031】
上記の媒体式粉砕機の中では、特にロッドを充填した振動ミルがより好ましい。
ロッドとは棒状の媒体であり、ロッドの断面が四角形、六角形等の多角形、円形、楕円形等のものを用いることができる。その材質、媒体の充填率は前記と同じである。
ロッドの外径は、好ましくは0.5〜200mm、より好ましくは1〜100mm、更に好ましくは3〜50mmであり、更により好ましくは3〜30mmであり、特に好ましくは3〜15mmであり、更に特に好ましくは3〜8mmである。ロッドの長さは、粉砕機の容器の長さよりも短いものであれば特に限定されない。ロッドの大きさが上記の範囲であれば、所望の粉砕力が得られ、効率的にセルロースの平均粒子径及び結晶化度の低減を実現することができる。
なお、振動ミルとしては、中央化工機株式会社製の振動ミル、ユーラステクノ株式会社製のバイブロミル、株式会社吉田製作所製の小型振動ロッドミル、ドイツのフリッチュ社製の振動カップミル、日陶科学株式会社製の小型振動ミル等が挙げられる。
【0032】
粉砕処理時間は、粉砕機の種類や、粉砕機に充填する媒体の種類、大きさ及び充填率等により適宜調整しうるが、効率的にセルロースの平均粒子径及び結晶化度を低減させる観点から、好ましくは0.01〜50hr、より好ましくは0.05〜20hr、更に好ましくは0.1〜10hr、より更に好ましくは0.1〜5hr、特に好ましくは0.1〜3.5hrである。粉砕処理温度は、特に制限はないが、熱劣化を防ぐ観点から、好ましくは5〜250℃、より好ましくは10〜200℃、更に好ましくは15〜150℃である。
【0033】
上記処理方法によれば、微粉砕されたセルロース粒子同士の強い凝集を抑制し、低結晶性セルロース原料から平均粒子径を低減させたセルロース粒子を効率的に、生産性よく製造することができる。また、粉砕機処理の際に、粉砕機の内部に低結晶性セルロース原料が固着せずに、乾式にて処理することができる。
【0034】
〔セルロース粒子〕
本発明の第1態様では、上記の方法で得られるセルロース粒子と、その原料である低結晶性セルロース原料との平均粒子径の比〔セルロース粒子の平均粒子径/低結晶性セルロース原料の平均粒子径〕は0.7以下である。上記の平均粒子径比が0.7以下であれば、セルロース粒子の凝集を抑制し、効率的に平均粒子径を低減させることができる。以上の観点から、上記の平均粒子径比は、好ましくは0.6以下であり、より好ましくは0.5以下であり、更に好ましくは0.4以下であり、特に好ましくは0.3以下である。
また、本発明の第1態様において、上記の方法で得られたセルロース粒子の平均粒子径は、セルロース粒子の凝集を抑制する観点から、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは30μm以下であり、更に好ましくは20μm以下である。セルロース粒子の平均粒子径が上記の範囲内であれば、例えば、セルロース粒子を樹脂に配合して、均一に分散させることができ、樹脂に耐久性を付与することが可能となる。
【0035】
また、本発明の第2態様では、上記の方法で得られるセルロース粒子の平均粒子径は50μm以下である。セルロース粒子の平均粒子径が50μm以下であれば、セルロース粒子の凝集を抑制することができる。さらに、例えば、セルロース粒子を樹脂に配合して、均一に分散させることができ、樹脂に耐久性を付与することが可能となる。以上の観点から、セルロース粒子の平均粒子径は、好ましくは40μm以下であり、より好ましくは30μm以下であり、更に好ましくは20μm以下である。
本発明の第2態様において、〔セルロース粒子の平均粒子径/低結晶性セルロース原料の平均粒子径〕の比は、セルロース粒子の凝集を抑制し、効率的に平均粒子径を低減させる観点から、好ましくは0.7以下であり、より好ましくは0.6以下であり、より好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.4以下であり、特に好ましくは0.3以下である。
【0036】
本発明における上記の平均粒子径比の下限は、低結晶性セルロース原料の平均粒子径により異なるため一概には言えないが、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上である。
本発明で得られるセルロース粒子の平均粒子径の下限は、生産性の観点から、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上である。
本発明で得られるセルロース粒子の平均粒子径は、セルロース粒子の凝集抑制及び生産性の観点から、好ましくは0.01〜50μmであり、より好ましくは0.01〜30μmであり、更に好ましくは0.1〜20μm、より更に好ましくは0.1〜15μmである。
なお、セルロース粒子及び低結晶性セルロース原料の平均粒子径は、実施例に記載の方法により測定することができる。
また、本発明で得られるセルロール粒子のセルロースI型結晶化度は、33%以下が好ましく、25%以下がより好ましく、15%以下が更に好ましく、0%が特に好ましい。
本発明で得られるセルロース粒子は、少なくともその一部は粉砕助剤と複合化した複合粒子を形成し、セルロース粒子同士の凝集を効果的に抑制することができる。
【実施例】
【0037】
実施例及び比較例で使用した低結晶性又は結晶性セルロース、又は得られたセルロース粒子の平均粒子径、結晶化度、及びセルロース含有原料の水分含量の測定は、下記に記載の方法で行った。
(1)セルロースI型結晶化度の算出
セルロースI型結晶化度は、サンプルのX線回折強度を「Rigaku RINT 2500VC X-RAY diffractometer」を用いて以下の条件で測定し、上記式に基づいて算出した。
測定は、X線源;Cu/Kα-radiation、管電圧:40kV、管電流:120mA、測定範囲:解析角2θ=5〜45°の条件で測定を行った。測定用サンプルは面積320mm2×厚さ1mmのペレットを圧縮し作製した。X線のスキャンスピードは10°/minで測定した。
【0038】
(2)水分含有量の測定
セルロースの水分含有量は、赤外線水分計(株式会社ケット化学研究所製、「FD-610」)を使用し、150℃にて測定を行った。
(3)平均粒子径の測定
平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「LA-920」(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。測定条件は、粒径測定前に超音波で1分間処理し、測定の分散媒体としてはエタノールを用い、体積基準のメジアン径を温度25℃にて測定した。
【0039】
製造例1(低結晶性セルロース原料の調製1)
〔シュレッダー処理〕
セルロース含有原料として、シート状木材パルプ〔Borregard社製「Blue Bear Ultra Ether」、800mm×600mm×1.5mm、結晶化度81%、セルロース含有原料から水を除いた残余成分中のセルロース含有量96質量%、水分含量7質量%〕をシュレッダー(株式会社明光商会製、「MSX2000−IVP440F」)にかけ、約10mm×5mm×1.5mmのチップ状パルプにした。
〔押出機処理〕
シュレッダー処理して得たチップ状パルプを、二軸押出機(株式会社スエヒロEPM製、「EA−20」)に2kg/hrで投入し、せん断速度660sec-1、スクリュー回転数300rpm、外部から冷却水を流しながら、1パス処理した。二軸押出機の温度は、処理にともなう発熱により、30〜70℃であり、得られたパルプ(セルロース含有原料)は、平均粒子径121μm、セルロースI型結晶化度75%、嵩密度254kg/m3であった。
なお、前記二軸押出機は、完全噛み合い型同方向回転二軸押出機であり、2列に配置されたスクリューは、スクリュー径40mmのスクリュー部と、互い違い(90°)に12ブロックを組み合わせたニーディングディスク部とを有し、2本のスクリューは、同じ構成を有するものである。
【0040】
〔振動ミル処理〕
得られたパルプ50gを振動ミル(中央化工機株式会社製、「MB−1」、容器全容量3.5L)に投入し、ロッド(断面形状:円形、直径:30mm、長さ:218mm、材質:ステンレス)11本を振動ミルに充填(充填率48%)して、振幅8mm、円回転1200cpmの条件で、1.5時間処理を行った。
得られた低結晶性セルロース原料の平均粒子径は76μmであり、セルロースI型結晶化度は0%であった。また、振動ミル処理終了時の低結晶性セルロース原料の温度は、処理に伴う発熱により、85℃であり、処理終了後、振動ミル内の壁面や底部にパルプの固着物等はみられなかった。
【0041】
製造例2(低結晶性セルロース原料の調製2)
製造例1の〔押出機処理〕で得られたパルプ50gを攪拌ミル(五十嵐機械製造株式会社製、「サンドグラインダー」、容器全容量:0.8L、攪拌翼径:70mm)に投入し、ボール(断面形状:円形、直径:5mm、材質:ジルコニア)720gを攪拌ミルに充填(充填率25%)して、回転数2000rpmの条件で、2時間処理を行った。得られた低結晶性セルロース原料の平均粒子径は53μmであり、セルロースI型結晶化度は0%であった。
【0042】
実施例1
製造例1で得られた低結晶性セルロース原料(平均粒子径76μm、セルロースI型結晶化度0%、水分含量5.3質量%)50gとミリスチルアルコール(花王株式会社製、カルコール4098)5gとを混合し、その混合物の全量を振動ミル(中央化工機株式会社製、「MB−1」、容器全容量3.5L)に投入し、ロッド(断面形状:円形、直径:30mm、長さ:218mm、材質:ステンレス)11本を振動ミルに充填して、振幅8mm、回転数1200cpmの条件で0.5時間粉砕を行った。得られた微細セルロース粒子の平均粒子径は14μmであった。
【0043】
実施例2
粉砕助剤の種類をステアリルアルコール(花王株式会社製、カルコール8098)に変えて、振動ミルの処理時間を1時間に変えたこと以外は、実施例1と同様に粉砕処理を行った。得られた微細セルロース粒子の平均粒子径は9.7μmであった。
【0044】
実施例3
製造例1で得られた低結晶性セルロース原料(平均粒子径76μm、セルロースI型結晶化度0%、水分含量5.3質量%)50gとステアリルアルコール(花王株式会社製、カルコール8098)5gとを混合し、その混合物の全量を攪拌ミル(五十嵐機械製造株式会社製、「サンドグラインダー」、容器全容量:0.8L、攪拌翼径:70mm)に投入し、ボール(断面形状:円形、直径:5mm、材質:ジルコニア)720gを攪拌ミルに充填(充填率25%)して、回転数2000rpmの条件で1時間粉砕処理を行った。得られた微細セルロース粒子の平均粒子径は11μmであった。
【0045】
実施例4
粉砕助剤の添加量を5gから10gに変えたこと以外は、実施例2と同様に粉砕処理を行った。得られた微細セルロース粒子の平均粒子径は9.1μmであった。
【0046】
実施例5
粉砕助剤の添加量を5gから15gに変えたこと以外は、実施例2と同様に粉砕処理を行った。得られた微細セルロース粒子の平均粒子径は9.0μmであった。
【0047】
実施例6
粉砕助剤の種類を2−オクチルドデカノール(花王株式会社製、カルコール200GD)に変えたこと以外は、実施例1と同様に粉砕処理を行った。得られた微細セルロース粒子の平均粒子径は27μmであった。
【0048】
実施例7
粉砕助剤の種類をステアリン酸(花王株式会社製、ルナックS-98)に変えて、振動ミルの処理時間を1時間に変えたこと以外は、実施例1と同様に粉砕処理を行った。得られた微細セルロース粒子の平均粒子径は9.4μmであった。
【0049】
実施例8
粉砕助剤の種類をステアリン酸ナトリウム(花王株式会社製、NS SOAP)に変えたこと以外は、実施例1と同様に粉砕処理を行った。得られた微細セルロース粒子の平均粒子径は13μmであった。
【0050】
実施例9
粉砕助剤の種類をペンタエリスリトールモノステアレート(花王株式会社製、エキセパールPE-MS)に変えたこと以外は、実施例1と同様に粉砕処理を行った。得られた微細セルロース粒子の平均粒子径は11μmであった。
【0051】
実施例10
粉砕助剤の種類をポリエチレングリコール4000(シグマアルドリッチ株式会社製、重量平均分子量:4000)に変えたこと以外は、実施例1と同様に粉砕処理を行った。得られた微細セルロース粒子の平均粒子径は17μmであった。
【0052】
実施例11
低結晶性セルロース原料として、低結晶性セルロース(平均粒子径76μm、セルロースI型結晶化度0%、水分含量0.8質量%)を用いたこと以外は、実施例2と同様に粉砕処理を行った。得られた微細セルロース粒子の平均粒子径は8.9μmであった。
【0053】
実施例12
ロッド(断面形状:円形、直径:10mm、長さ:218mm、材質:ステンレス)99本を振動ミルに充填して、振幅8mm、回転数1200cpmの条件で0.5時間粉砕したこと以外は、実施例11と同様に粉砕処理を行った。得られた微細セルロース粒子の平均粒子径は8.1μmであった。
【0054】
実施例13
ロッド(断面形状:円形、直径:5mm、長さ:218mm、材質:ステンレス)330本を振動ミルに充填して、振幅8mm、回転数1200cpmの条件で3時間粉砕したこと以外は、実施例11と同様に粉砕処理を行った。得られた微細セルロース粒子の平均粒子径は6.5μmであった。
【0055】
実施例14
低結晶性セルロース原料(平均粒子径40μm、セルロースI型結晶化度0%、水分含量0.8質量%)50gとペンタエリスリトールモノステアレート(花王株式会社製、エキセパールPE-MS)5gとを混合し、その混合物の全量を振動ミル(中央化工機株式会社製、「MB-1」、容器全容量:3.5L)に投入し、ボール(断面形状:円形、直径:5.5mm、材質:ステンレス)12.4gを振動ミルに充填(充填率48%)して、回転数1200rpmの条件で3時間粉砕処理を行った。得られた微細セルロース粒子の平均粒子径は5.9μmであった。
【0056】
比較例1
製造例1の〔押出機処理〕で得られたセルロース含有原料(結晶性セルロース、平均粒子径121μm、セルロースI型結晶化度75%、水分含量6.3質量%)及び製造例1の〔振動ミル処理〕で得られたセルロース粒子の物性値を表4に示す。得られたセルロース粒子の平均粒子径は76μmであり、セルロースI型結晶化度は0%であった。
【0057】
比較例2
結晶性セルロース(平均粒子径121μm、セルロースI型結晶化度75%、水分含量6.3質量%)50gとステアリルアルコール(花王株式会社製、カルコール8098)5gとを振動ミルに投入し、実施例1と同様にロッドを振動ミルに充填して0.5時間粉砕を行った。得られたセルロース粒子の平均粒子径は41μmであり、セルロースI型結晶化度は78%であった。
【0058】
比較例3
粉砕助剤の種類をステアリン酸(花王株式会社製、ルナックS-98)に変えたこと以外は、比較例2と同様に粉砕処理を行った。得られたセルロース粒子の平均粒子径は40μmであり、セルロースI型結晶化度は73%であった。
【0059】
比較例4
製造例1で得られた低結晶性セルロース原料50gを振動ミルに投入し、粉砕助剤を投入しなかったこと、及び振動ミルの処理時間を1.5時間に変えたこと以外は、実施例1と同様に粉砕処理を行った。得られたセルロース粒子の平均粒子径は77μmであり、セルロースI型結晶化度は0%であった。
【0060】
比較例5
製造例2で得られた低結晶性セルロース原料(平均粒子径53μm、セルロースI型結晶化度0%、水分含量6.3質量%)50gを攪拌ミルに投入して、実施例3と同様にボールを攪拌ミルに充填して3.0時間粉砕を行った。得られたセルロース粒子の平均粒子径は66μmであり、セルロースI型結晶化度は0%であった。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
実施例、比較例の詳細な結果を表1〜4に示す。表1〜4から実施例1〜14の方法は、比較例1〜5に比べて平均粒子径およびセルロースI型結晶化度を低減させたセルロース粒子を短時間で効果的に得ることができ、生産性に優れていることが分かる。
実施例11及び13と実施例2とを比較すると、実施例11及び13では水分含量が0.8質量%と低い低結晶性セルロース原料を使用し、実施例13では、ロッドの媒体径が5mmと短いものを使用している。その結果、実施例11及び13は、実施例2よりも更に小粒径のセルロース粒子が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のセルロース粒子の製造方法は、セルロースI型結晶化度が33%以下の低結晶性セルロース原料から、平均粒子径を低減させたセルロース粒子を効率的に、生産性よく得ることができる。得られたセルロース粒子は、セルロースエーテルの原料、化粧品、食品、バイオマス材料等の工業原料として特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で示されるセルロースI型結晶化度が33%以下の低結晶性セルロース原料100質量部に対して、高級アルコール、高級脂肪酸、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステル、及びポリエーテルから選ばれる少なくとも1種の粉砕助剤を0.1〜100質量部添加し、乾式で粉砕機により処理してセルロース粒子を製造する方法であって、〔セルロース粒子の平均粒子径/低結晶性セルロース原料の平均粒子径〕が0.7以下である、セルロース粒子の製造方法。
セルロースI結晶化度(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100
〔式中、I22.6はX線回折における格子面(002面)(回折格2θ=22.6°)の回折強度、及びI18.5はアモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。〕
【請求項2】
前記セルロース粒子の平均粒子径が50μm以下である、請求項1に記載のセルロース粒子の製造方法。
【請求項3】
下記式で示されるセルロースI型結晶化度が33%以下の低結晶性セルロース原料100質量部に対して、高級アルコール、高級脂肪酸、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステル、及びポリエーテルから選ばれる少なくとも1種の粉砕助剤を0.1〜100質量部添加し、乾式で粉砕機により処理してセルロース粒子を製造する方法であって、該セルロース粒子の平均粒子径が50μm以下である、セルロース粒子の製造方法。
セルロースI結晶化度(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100
〔式中、I22.6はX線回折における格子面(002面)(回折格2θ=22.6°)の回折強度、及びI18.5はアモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。〕
【請求項4】
〔セルロース粒子の平均粒子径/低結晶性セルロース原料の平均粒子径〕が0.7以下である、請求項3に記載のセルロース粒子の製造方法。
【請求項5】
前記低結晶性セルロース原料が粒状である、請求項1〜4のいずれかに記載のセルロース粒子の製造方法。
【請求項6】
前記粉砕機が媒体式粉砕機である、請求項1〜5のいずれかに記載のセルロース粒子の製造方法。
【請求項7】
前記媒体式粉砕機の媒体がボール又はロッドである、請求項6に記載のセルロース粒子の製造方法。
【請求項8】
前記低結晶性セルロース原料が、嵩密度50〜1000kg/m3のセルロース含有原料を粉砕機で処理して得られたものである、請求項1〜7のいずれかに記載のセルロース粒子の製造方法。
【請求項9】
前記低結晶性セルロース原料中の水分含量が20質量%以下である、請求項1〜8のいずれかに記載のセルロース粒子の製造方法。

【公開番号】特開2010−155982(P2010−155982A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274741(P2009−274741)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】