説明

セルロース系炭化物の製造方法

【課題】
セルロース骨格を損なわず、安定した品質を保ち、大量生産が可能なセルロース系炭素の製造方法を提供する。
【解決手段】
酵素糖化反応によってセルロース系バイオマスから糖化液を生成させる糖化工程40と、糖化工程で生成した糖化液を発酵させて、エタノールを生成させる発酵工程50と、発酵工程で生成したエタノールを蒸留する過程でセルロース系糖類が炭化される蒸留工程60と、炭化工程で生成したセルロース系炭素を蒸留残液から分離する分離工程70とを備えたセルロース系炭化物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化物の製造方法、特にセルロース系炭化物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロース系炭化物とはセルロース骨格を基本骨格とした炭化物の総称であり、医薬品、食品添加物、インク原料等に用いられ、その利用分野は多岐に渡っている。また、セルロース系炭化物は空隙構造を有することから、この空隙構造を利用した脱臭剤、イオン交換充填剤、触媒等にも応用されており、今後更なる需要が望まれる機能性材料である(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−56006号公報
【0003】
従来のセルロース系炭化物を製造する方法としては、例えば、硫酸処理することでリグニンを除去したヤシの実繊維からセルロースを抽出した後、このセルロースを炭化させて製造する方法、或いは、リグニンを含まない竹の先端部を炭化させて製造する方法等が知られている。また、近年、弁当,おから,アオサ,ホンダワラ,家庭の生ゴミ等のいわゆる生活廃棄物を原料としてセルロース系炭化物を製造する試みも開始されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記製造方法では、セルロース系炭化物を大量生産することは困難であり、また、リグニンを除去するための酸処理時にセルロース骨格が破壊されるため、一定の品質を備えたセルロース系炭化物を供給することができないといった問題があった。さらに、生活廃棄物を原料としたセルロース系炭化物の製造方法においては、炭化の対象となる糖類の種類が多種、多様であり、この製造方法で製造された炭化物は純粋なセルロース系炭化物とは言い難い、といった問題があった。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、セルロース骨格を損なわず、安定した品質を保ち、大量生産が可能なセルロース系炭化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者等は、鋭意研究を進めた結果、セルロース系バイオマスからのエタノールの製造工程の一工程であるエタノールの蒸留工程において、未糖化のセルロース系糖類の炭化が促進されることを見出し、本発明のセルロース系炭化物の製造方法の完成に至った。
【0007】
即ち、本発明にかかるセルロース系炭化物の製造方法は、酵素糖化反応によってセルロース系バイオマスから糖化液を生成させる糖化工程と、糖化工程で生成した糖化液を発酵させて、エタノールを生成させる発酵工程と、発酵工程で生成したエタノールを蒸留する過程において残存するセルロース系糖類が炭化される蒸留工程と、蒸留工程で生成したセルロース系炭化物を蒸留残液から分離する分離工程とを有することを特徴とする。
【0008】
本発明のセルロース系炭素の製造方法では、比較的温和な条件下で、セルロース系バイオマスからセルロース系糖類を得ることができる。さらに、糖化工程においてグルコースやキシロースに変換されなかったセルロース系糖類は、次の工程である蒸留工程において、その空隙構造が破壊されないまま炭化されるため、均一な空隙構造を有するセルロース系炭化物を生成させることができる。蒸留工程において生成されたセルロース系炭化物は、簡便な分離方法により分離・精製することが可能であり、均一な品質を有するセルロース系炭化物を得ることができる。
【0009】
本発明にかかるセルロース系炭化物の製造方法における分離工程は蒸留残液の全有機炭素量(Total Organic Carbon)の規定値に基づいて実行される。ここで、蒸留残液とは蒸留工程において、蒸留により除去されたエタノール以外の未蒸留の残渣物(廃液)を示す。また、蒸留工程で生成したセルロース系炭化物は所定のろ過膜により蒸留残液から分離され、セルロース系炭化物が分離された蒸留残液は、糖化工程において再利用されることを特徴とする。さらに、本発明にかかるセルロース系炭化物の製造方法においては、酵素糖化反応に用いる酵素群はきのこ廃菌床由来の酵素群であることを特徴とする。
【0010】
本発明のセルロース系炭化物の製造方法では、蒸留工程において生成したセルロース系炭化物を分離する判断指標として、蒸留残液の全有機炭素量を用いる。即ち、蒸留残液の全有機炭素量が規定値以上となった時点で分離工程を実行する。したがって、安定した収量でセルロース系炭化物を得ることができる。また、分離工程で用いる所定のろ過膜の孔サイズを調節することにより、用途に応じて粒子径の異なるセルロース系炭化物を得ることができる。さらに、ろ過膜を通過した液体媒体(回収排水)は糖化工程に再利用されるため、製造コストを軽減することができる。また、発酵糖化反応においては、本発明者等が見出したきのこ廃菌床由来の酵素群を用いることで、セルロース系バイオマスからセルロース系糖類を効率良く得ることが可能となるため、セルロース系炭化物を大量生産することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のセルロース系炭素の製造方法によれば、セルロース骨格を損なわず、安定した品質を保ち、大量生産が可能なセルロース系炭化物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明においては、以下の記述に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0013】
本発明のセルロース系炭化物の製造方法では、原料となるセルロース系バイオマスに対して水蒸気蒸留工程10と、粉砕工程20と、混合工程30と、糖化工程40と、醗酵工程50と、蒸留工程60と、分離工程70の7工程が行われる。
【0014】
本発明に用いられるセルロース系バイオマスとしては、リグノセルロース資源等を使用することができる。リグノセルロース資源とは、化石燃料を除いた生物由来の有機資源のうち、リグノセルロースを主成分とする資源である。このリグノセルロース資源の代表的なものとしては、ブナ、ユーカリ、米松、ヒノキ、スギ等の木材や、竹、笹等の竹類等が挙げられるが、本発明はこれだけに限られるものではなく、リグノセルロースを有する材料、例えばイナワラ、ムギワラ、バガス、パルプ等や、これらから生じるコピー紙等の古紙の廃棄物等が挙げられる。以下の説明においては、セルロース系バイオマスとしてリグノセルロース資源を用いた例を一例として説明する。
【0015】
水蒸気蒸留工程10は、所定の大きさとしたリグノセルロース資源を水蒸気蒸留し、リグノセルロース資源中に含まれる精油及び親水性成分を流出成分として流出させる工程である。
【0016】
この水蒸気蒸留工程10に使用されるリグノセルロース資源の大きさとしては、水蒸気蒸留を行うことができればどのような大きさであってもよい。また、水蒸気蒸留工程10を行う前に、粉砕工程20を行ってもよい。これにより、大きさが均一で、小さなリグノセルロース資源に対して水蒸気蒸留を行うことができるため、精油と親水性成分との流出効率を向上させることができる。
【0017】
リグノセルロース資源には、その細胞中に、水に不溶な親油性の精油と水に可溶な親水性成分とが含まれている。精油は、油状から半固体状で得られる揮発性物質である。一方、親水性成分は、リグノセルロース資源中に含まれる有機酸類や糖類などの物質である。
【0018】
この水蒸気蒸留工程10では、精油や沸点の低い親水性成分が蒸気とともに流出し、沸点の高い親水性成分が蒸気中の水滴に溶解して発生する加熱水蒸気とともに系外に流出する。この水蒸気蒸留によって発生する加熱水蒸気により、リグノセルロース資源から精油と親水性成分を流出させることができる。また、精油と親水性成分をリグノセルロース資源から流出させることで、セルロースやキシラン等のセルロース系糖類の露出面の面積が増加し、セルロースやキシランが酵素と接触しやすくなり、セルロースやキシランの糖化が促進される。
【0019】
また、この水蒸気蒸留工程10は、土やその他の汚れといった不純物が付着したリグノセルロース資源であっても、その不純物を洗い流すことができる。糖化工程40のために、酵素糖化反応を阻害するような不純物を取り除くような前処理を行う必要がなくなる。
【0020】
粉砕工程20は、リグノセルロース資源を所定の大きさとなるように機械的に粉砕し、リグノセルロース資源中のセルロースやキシランを微粉化して、酵素糖化反応を容易に受けやすくする工程である。
【0021】
この粉砕工程20では、リグノセルロース資源を2μm〜100μmのサイズに粉砕するのが好ましい。この粉砕工程20でのリグノセルロース資源の粉砕は、振動ボールミル、回転ボールミル、遊星型ボールミル、ロールミル、ディスクミル、ビーズミル、高速回転羽根型ミキサー、ホモミキサー等を用いて行うことができる。
【0022】
この粉砕工程20で所定の大きさにまでリグノセルロース資源を粉砕することによって、リグノセルロース資源を構成するセルロース、ヘミセルロース及びリグニンからなるネットワーク構造を破壊する。そして、セルロースやキシランから特にリグニンを引き離して、セルロースやキシランが結晶化したものによって形成されるミクロフィブリルの一部を露出させることができる。これにより、糖化工程40において、セルロース系糖類が酵素群と接触しやすくなり、酵素糖化反応を容易に受けやすくなる。
【0023】
また、このように、水蒸気蒸留工程10と粉砕工程20とを行うことにより、リグノセルロース資源を構成するミクロフィブリルの一部を露出させるとともに、ミクロフィブリル同士の間隔が広がりやすくなり、酵素群がよりセルロースやキシランと接触しやすい状態となり、セルロース系糖類の糖化が促進される。
【0024】
混合工程30は、水蒸気蒸留工程10及び粉砕工程20を行ったリグノセルロース資源を液体媒体と混合する工程である。このとき、糖化工程40での酵素糖化反応のために、酵素の至適pHの範囲内となるように、リグノセルロース資源と液体媒体との混合液のpHが調整される。この混合工程30で液体媒体に混合されるリグノセルロース資源の量は40%以下であることが好ましい。リグノセルロース資源の量が例えば50%以上となると、粉末状のリグノセルロース資源が湿り気をおびるだけで混合液とならない。したがって、この状態で酵素群を投入しても円滑に酵素糖化反応が進行しない。
【0025】
この混合工程30で使用される液体媒体としては、酵素糖化反応を阻害しないものであれば特に限定されるものではない。例えば水やpH緩衝溶液等が挙げられる。例えば、液体媒体としてpH緩衝溶液を使用する場合、酵素糖化反応に使用する酵素の至適pHに合わせたpH緩衝溶液を選択し、リグノセルロース資源と混合する。これにより、糖化工程40で、酵素の至適pHの範囲内から外れ難くなり、円滑に酵素糖化反応を行うことができる。
【0026】
また、例えば、液体媒体として水を使用する場合、リグノセルロース資源と混合した後、その混合液に酸又はアルカリを投入して、酵素の至適pHの範囲内になるようにpHを調整する。本発明では、水蒸気蒸留工程10により、リグノセルロース資源から流出成分を流出させているため、酵素糖化反応中に系中に流出して混合液のpHを変化させるような有機酸等の量が少なくなっている。そのため、少量の酸又はアルカリで混合液中のpHを至適pHの範囲内に調製することができる。また、リグノセルロース資源から有機酸が流出する量が少ないため、酵素糖化反応中に至適pHの範囲から外れ難くなり、円滑に反応が進行する。
【0027】
本発明のセルロース系炭化物の製造方法では、この混合工程30の前に、リグノセルロース資源に対して水蒸気蒸留が行われる。この水蒸気蒸留は、リグノセルロース資源から精油及び親水性成分等の流出成分を流出させる。この流出成分には、リグノセルロース資源に含まれる有機酸等が含まれている。例えば水蒸気蒸留を行わないリグノセルロース資源を使用して、酵素糖化反応を行うと、反応系中に有機酸等が流出するため、酵素の至適pHの範囲から外れてしまう可能性が高くなる。そのために、大量のpH緩衝溶液やアルカリ等を投入する必要がある。一方、本発明では、有機酸等の量が少ないため、酵素糖化反応の前、及び、反応中における混合液のpHの調整が容易となる。
【0028】
糖化工程40は、混合工程30でリグノセルロース資源と液体媒体とを混合した混合液に、酵素群を投入し、酵素糖化反応により糖化液を生成させる工程である。酵素群を投入することで、混合液中のセルロースやキシランが加水分解し、セロオリゴ糖,セロビオース,グルコース,キトビオース,キトオリゴ糖,キシロースが生成する。この糖化工程40は、回分式でも、固定化酵素を含むバイオリアクターを用いた連続式で行ってもよい。
【0029】
糖化工程40においては、きのこ廃菌床由来の酵素群を用いることができる。このきのこ廃菌床を由来とする酵素群を使用して、セルロース系糖類の加水分解を行う場合、通常のセルロースやキシランをグルコースやキシロースに分解する方法において用いられている条件下で行うことができる。このセルラーゼ群の性質は、使用するきのこ廃菌床によって異なるが、至適pH範囲は、4.0〜7.5、至適温度範囲は、20.0〜40.0℃である。そのため、糖化工程40で、前工程の混合工程30で混合液のpHを4.0〜7.0となるように調整する。また、この糖化工程40では、酵素糖化反応を円滑に進めるために、酵素の至適pH及び至適温度の範囲内となるように、反応系中のpH及び温度を調整する。
【0030】
醗酵工程50は、酵母や細菌を糖化工程40で生成した糖化液に投入し、糖化液中のグルコースやキシロースを醗酵させて、エタノールを生成させる工程である。この醗酵には酵母や細菌が使われ、糖化液中のグルコースやキシロースからエタノールを生成させる酵母や細菌であれば特に限定するものではなく、例えばパン酵母等も使用することができる。また、一種類の酵母や細菌を単独で使用してもよいが、複数種類の酵母や細菌を組み合わせて使用してもよい。醗酵の温度も、使用する酵母や細菌に応じて適宜変更される。
【0031】
蒸留工程60は、醗酵工程50により得られた発酵液を蒸留し、エタノールを蒸留する過程でセルロース系糖類が炭化される工程である。この時の蒸留温度は約100℃であり、発酵工程50において得られたエタノールは蒸発し、回収装置により回収されるが、未発酵のセルロース系糖類は熱により炭化が促され、セルロース系炭化物が生成される。
【0032】
分離工程70は、蒸留残液の全有機炭素量が所定の値以上となった時点でセルロース系炭化物を分離する工程である。この時の蒸留残液の全有機炭素量は、3000ppm以上30000ppm以下であることが望ましい。より安定した収量を得るには、全有機炭素量は20000ppm以上30000ppmであるのがより好ましい。分離工程70において使用するろ過膜は特に規定はされないが、例えば、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜等を用いることができる。この中で、セルロース系炭化物を安定した収量で得ることができ、かつ、回収排水を再利用するといった点において、逆浸透膜を用いるのが好ましい。分離工程70において、ろ過膜を通過した回収排水は、混合工程30において添加される液体媒体として再利用することができる。
【0033】
図1は、本発明のセルロース系炭化物の製造方法の製造過程を説明するフローチャートである。本発明のセルロース系炭化物の製造方法においては、まず、原料となるリグノセルロース資源を水蒸気蒸留し(水蒸気蒸留工程10)、リグノセルロース資源中の流出成分を流出させる。そして、リグノセルロース資源を粉砕する(粉砕工程20)。
【0034】
そして、粉砕したリグノセルロース資源を、洗浄等の処理を行わずに水等の液体媒体と混合させ(混合工程30)、酵素の至適pHの範囲内となるように混合液のpHを調整する。本発明では、水蒸気蒸留によって、リグノセルロース資源に付着した不純物が除去されており、液体媒体と混合する前に不純物を取り除くような洗浄を行う必要がない。そのため、より簡便に糖化液を生成させることができる。
【0035】
リグノセルロース資源と液体媒体とを混合させた混合液に、酵素群を投入し、酵素群の至適温度及び至適pHの範囲に保つように制御され、セルロースやキシランを加水分解し、糖化液を生成させる(糖化工程40)。きのこ廃菌床由来の酵素群を使用する場合は、きのこ廃菌床から酵素を抽出する際に得られた抽出液を用いても良いし、一旦酵素であるセルラーゼ群又はキシラナーゼ群を精製し、精製されたセルラーゼ群又キシラナーゼ群をリグノセルロース資源と液体媒体とを混合させた混合液に投入してもよい。
【0036】
そして、酵素群により酵素糖化反応により生成した糖化液に酵母や細菌を投入し、醗酵を行う(醗酵工程50)。これにより、糖化液中のグルコースやキシロースがエタノールに変換されるが、未発酵のセルロース系糖類はそのまま残存することになる。
【0037】
次に、蒸留工程60において、発酵工程50で得られたエタノールは蒸発し回収装置により回収される。未発酵のセルロース系糖類は熱により炭化が促進され、セルロース系炭化物が生成される。蒸留残液の全有機炭素量が20000ppm以上となった時点で、セルロース系炭化物は逆浸透膜等のろ過膜により分離、精製される(分離工程70)。
【0038】
次に、図2を用い、本発明にかかるセルロース系炭化物の製造方法の具体的態様を説明する。まず、ステップS100において、糖化・発酵タンクにリグノセルロース等の木質資源及び/又はコピー紙を投入する。このときの木質資源及び/又はコピー紙は、図1で説明した水蒸気工程10及び粉砕工程20を経ており、所定の大きさに微粉化されている。次に、糖化・発酵タンクに液体媒体としての純水を投入する(図1 混合工程30)。このとき、酵素糖化反応のために、酵素の至適pHの範囲内となるように木質資源及び/又はコピー紙と純水との混合液のpHが調整される。次に、糖化・発酵タンクに酵素群を投入し、酵素糖化反応により糖化液を生成させる(図1 糖化工程40)。投入した酵素群によりセルロースやキシラン等のセルロース系糖類が加水分解され、生成したグルコースやキシロース等が純水に溶け込む。
【0039】
次に、ステップS200において、糖化・発酵タンクに酵母や細菌を投入し、グルコースやキシロースからエタノールを生成させる(図1 発酵工程50)。発酵後のエタノール濃度は約5%程度となる。また、エタノールに変換されなかったセルロース系糖類はそのまま残存する。
【0040】
次に、蒸留装置によりエタノールを蒸留する(図1 蒸留工程60)。このときの蒸留温度は約100℃であり、エタノールは蒸発し、回収装置により回収される。回収後のエタノール濃度は最終的に約60%程度となる。このエタノールを蒸留する過程でセルロース系糖類が炭化されセルロース系炭化物が生成される(ステップS300)。
【0041】
全有機炭素量が所定の値以上(20000ppm以上)となると、逆浸透膜に蒸留残液(廃液)を通液させ、セルロース系炭化物を分離し回収する(ステップS400)。逆浸透膜を通過した後の回収排水(純水)は、ステップS100において投入される液体媒体として再利用する。
【0042】
上述した本発明にかかるセルロース系炭化物の製造方法により、例えば、100トンのコピー紙から、エタノール20キロリットル,セルロース系炭化物10トンを製造することができる。また、100トンのリグノセルロース資源等の木質系資源から、エタノール10キロリットル,セルロース系炭化物14トンを製造することができる。
【0043】
以上のように、本発明のセルロース系炭化物の製造方法によれば、セルロース骨格を損なわず、安定した品質を供えたセルロース系炭化物を大量に提供することが可能となる。得られたセルロース系炭化物は、インク原料等として使用することができるのは勿論であるが、化学処理を施してカーボンブラックとして使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明のセルロース系炭化物の製造方法の一例の工程図である。
【図2】本発明のセルロース系炭化物の製造方法の具体的態様を説明する図である。
【符号の説明】
【0045】
10 水蒸気蒸留工程
20 粉砕工程
30 混合工程
40 糖化工程
50 醗酵工程
60 蒸留工程
70 分離工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素糖化反応によってセルロース系バイオマスから糖化液を生成させる糖化工程と、
前記糖化工程で生成した前記糖化液を発酵させて、エタノールを生成させる発酵工程と、
前記発酵工程で生成したエタノールを蒸留する過程において残存するセルロース系糖類が炭化される蒸留工程と、
前記蒸留工程で生成したセルロース系炭化物を蒸留残液から分離する分離工程と
を有することを特徴とするセルロース系炭化物の製造方法。
【請求項2】
前記分離工程は前記蒸留残液の全有機炭素量の規定値に基づいて実行されることを特徴とする請求項1記載のセルロース系炭化物の製造方法。
【請求項3】
前記全有機炭素量の前記規定値は3000ppm以上30000ppm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のセルロース系炭化物の製造方法。
【請求項4】
前記蒸留工程で生成した前記セルロース系炭化物は所定のろ過膜により前記蒸留残液から分離されることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のセルロース系炭素の製造方法。
【請求項5】
前記所定のろ過膜は逆浸透膜であることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のセルロース系炭化物の製造方法。
【請求項6】
前記セルロース系炭化物が分離された前記蒸留残液は、前記糖化工程において再利用されることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載のセルロール系炭素の製造方法。
【請求項7】
前記酵素糖化反応に用いる酵素群は、きのこ廃菌床由来の酵素であることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載のセルロース系炭素の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−184894(P2009−184894A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28892(P2008−28892)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(598112453)株式会社ジュオン (11)
【Fターム(参考)】