説明

センサおよび検出方法

【課題】電界効果トランジスタを含むセンサであって、ゲート電極の着脱による接触帯電を抑制し、試料溶液が溶液状態のままでも検出可能な、高精度かつ高感度なセンサを提供すること。
【解決手段】本発明のセンサは、バックゲート型の電界効果トランジスタを含むセンサであって、反応領域を囲むゲート電極が半導体基板の絶縁膜上に固定されていること、および反応領域の絶縁膜の厚さがその周囲の絶縁膜の厚さよりも薄いことを特徴とする。本発明のセンサは、ゲート電極の着脱による不安定性および検出誤差を低減することができるため、高感度にかつ安定して被検出物質を検出することができる。また、本発明のセンサは、試料溶液が溶液状態のままでも、被検出物質の吸着や反応などに伴う信号の変化をリアルタイムで検出することができるため、これら物理現象を理解することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出物質を検出するセンサ、およびそれを用いて被検出物質を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電界効果トランジスタ(以下「FET」という)は、pHセンサやバイオセンサなどの様々なセンサに応用されている。カーボンナノチューブ(以下「CNT」という)やシリコンナノワイヤ(以下「SiNW」という)、シリコン細線などをチャネルとするFETの開発により、センサの高感度化が可能となり、特にバイオセンサへの応用の研究が盛んに行われている。
【0003】
FETをバイオセンサとして用いる場合、一般的に、抗体などの被検出物質認識分子をチャネルに直接固定化して、信号変換器であるFETの電気特性の変化を検出する(いわゆる直接方式;例えば、非特許文献1〜4参照)。これらの方法では、試料溶液が溶液状態のまま検出が行われることが多い(図1(A)参照)。一方、被検出物質認識分子を基板裏面(チャネルが配置されていない面)に固定化して、信号変換器であるFETの電気特性の変化を検出するセンサも開発されている(いわゆるバックゲート方式;例えば、非特許文献5参照)。この方法では、試料溶液を乾燥させた後、乾燥させた被検出物質認識分子(および被検出物質)上にゲート電極を直接接触させて検出が行われる(図1(B)参照)。直接方式およびバックゲート方式のいずれも高感度化が可能であるが、その検出原理が異なるため、使用目的および使用方法によって一長一短である。
【0004】
直接方式のセンサでは、CNTやSiNWなどから構成される表面積が小さいチャネルに被検出物質を結合させるため、被検出物質が少量であっても検出が可能であるが、同一素子による対照実験(コントロール)および素子の再利用が困難であるという欠点がある。一方、バックゲート方式のセンサでは、これらの欠点は解決できるものの、ゲート電極を基板裏面に接触させる際に接触帯電が生じる場合があり、この接触帯電により検出が不安定になったり、検出誤差が生じたりするという欠点がある。
【0005】
また、直接方式のセンサでは、試料溶液が溶液状態のまま検出を行う場合、ソース電極およびドレイン電極とゲート電極とが同じ溶液中に位置するため、ゲート電極とソース電極(ドレイン電極)との間のリーク電流の発生に注意する必要がある(図1(A)参照)。一方、バックゲート方式のセンサでは、ソース電極およびドレイン電極とゲート電極とを隔離できるため、このようなリーク電流は発生しにくい(図1(B)参照)。
【非特許文献1】Y. Cui, Q. Wei, H. Park, and C.M. Lieber, Science, Vol. 293, p. 1289 (2001).
【非特許文献2】F. Patolsky, G. Zheng, O. Hayden, M. Lakadamyali, X. Zhuangand C.M. Lieber, Proc. Nat. Acad. Sci. USA, Vol. 101, p. 14017 (2004).
【非特許文献3】R.J. Chen, H. C. Choi, S. Bangsaruntip, E. Yenilmez, X. Tang, Q. Wang, Y.L. Chang and H. Dai, J. Am. Chem. Soc., Vol. 126, p. 1563 (2004).
【非特許文献4】H. R. Byon and H. C. Choi, J. Am. Chem. Soc., Vol. 128, p. 2188 (2006).
【非特許文献5】S. Takeda, A. Sbagyo, Y. Sakoda, A. Ishii, M. Sawamura, K. Sueoka, H. Kida, K. Mukasa, K. Matsumoto, Biosens. Bioelectron., Vol. 21, p. 201 (2005).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、バックゲート方式のセンサは、直接方式のセンサに比べて様々な点において優れているが、ゲート電極の着脱に伴う以下の問題点を有している。
【0007】
(1)ゲート電極を基板裏面に接触させる際に接触帯電が生じる場合があり、この接触帯電により検出が不安定になったり、検出誤差が生じたりする。
(2)被検出物質認識分子を基板裏面に固定化している場合、ゲート電極を基板裏面に接触させると、固定化された被検出物質認識分子(および被検出物質)が破壊されてしまう。
【0008】
また、バックゲート方式のセンサでは、試料溶液が溶液状態のまま検出することはほとんど行われていない。試料溶液が溶液状態のまま検出を行うことができれば、被検出物質の吸着や反応などに伴う信号の変化をリアルタイムで検出できるため、これら物理現象を理解するために有用である。
【0009】
本発明は、上記ゲート電極の着脱による問題点を解決しうる、試料溶液が溶液状態のままでも検出可能な、高精度かつ高感度なセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、反応領域の周囲にゲート電極を直接固定することでゲート電極の着脱による問題点を解決しうることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
すなわち、本発明の第一は、以下に示すセンサに関する。
[1]電界効果トランジスタを含むセンサであって、反応領域を有する第一の絶縁膜を第一の面に有し、かつ第二の絶縁膜を第二の面に有する半導体基板と、前記反応領域の周囲の第一の絶縁膜上に固定されたゲート電極と、前記第二の絶縁膜上に配置されたソース電極、ドレイン電極およびチャネルと、を有し、前記反応領域の第一の絶縁膜の厚さは、その周囲の第一の絶縁膜の厚さよりも薄い、センサ。
[2]前記チャネルは、カーボンナノチューブ、ポリシリコン、半導体ナノワイヤまたはシリコン細線を含む、[1]に記載のセンサ。
[3]前記半導体基板の半導体を外部と電気的に接続するコンタクトパッドをさらに有する、[1]または[2]に記載のセンサ。
[4]前記反応領域の第一の絶縁膜の厚さは、1〜200nmの範囲内であり、前記反応領域の周囲の領域の第一の絶縁膜の厚さは、200〜1000nmの範囲内である、[1]〜[3]のいずれかに記載のセンサ。
[5]前記反応領域の第一の絶縁膜の厚さと、前記反応領域の周囲の第一の絶縁膜の厚さとの差異は、200〜800nmの範囲内である、[4]に記載のセンサ。
[6]前記反応領域に固定化された被検出物質認識分子をさらに有する、[1]〜[5]のいずれかに記載のセンサ。
[7]前記被検出物質認識分子は抗体である、[6]に記載のセンサ。
[8]前記半導体基板は、シリコン基板であり、前記第一の絶縁膜および第二の絶縁膜は、酸化シリコンまたは窒化シリコンである、[1]〜[7]のいずれかに記載のセンサ。
【0011】
本発明の第二は、以下に示す検出方法に関する。
[9][1]〜[8]のいずれかに記載のセンサを用いて被検出物質を検出する方法であって、前記被検出物質を含みうる溶液を前記反応領域に提供するステップと、前記提供前と提供後の電気的特性の変化から、前記被検出物質を検出するステップと、を含む検出方法。
[10]前記反応領域に提供した溶液の溶媒を乾燥させるステップをさらに含む、[9]に記載の検出方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ゲート電極の着脱による不安定性および検出誤差を低減することができるため、高感度にかつ安定して被検出物質を検出することができる。また、本発明によれば、試料溶液が溶液状態のままでも、被検出物質の吸着や反応などに伴う信号の変化をリアルタイムで検出することができるため、これら物理現象を理解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
1.本発明のセンサについて
本発明のセンサは、バックゲート型の電界効果トランジスタを含むセンサであって、反応領域を囲むゲート電極が半導体基板の第一の絶縁膜上に固定されていること、および反応領域の第一の絶縁膜の厚さがその周囲の第一の絶縁膜の厚さよりも薄いことを特徴とする。
【0014】
なお、本明細書では、半導体基板の表裏両面のうち、ゲート電極を配置する面を「第一の面」といい、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルを配置する面を「第二の面」という。また、半導体基板の第一の面の絶縁膜を「第一の絶縁膜」といい、第二の面の絶縁膜を「第二の絶縁膜」という。また、本明細書では、数値範囲を「〜」で規定するが、「〜」はその境界値を含む。例えば、「10〜100」とは、10以上100以下を意味する。
【0015】
[基板について]
基板は、両面(第一の面および第二の面)に絶縁膜を有する半導体基板であることが好ましい。半導体の例には、シリコン、ゲルマニウムなどのIV族元素や、ガリウムヒ素(GaAs)、インジウムリン(InP)などのIII−V化合物、テルル化亜鉛(ZnTe)などのII−VI化合物などが含まれる。半導体基板の厚さ(絶縁膜の厚さを含まない)は、特に限定されないが、0.1〜1.0mmの範囲内が特に好ましい。
【0016】
絶縁膜の材質は、例えば酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタン、チタン酸ストロンチウムなどの無機化合物や、アクリル樹脂やポリイミドなどの有機化合物などであればよい。絶縁膜の表面には、水酸基、アミノ基またはカルボキシル基などの官能基が導入されていてもよい。絶縁膜の厚さ(反応領域(後述)以外の領域の絶縁膜の厚さ)は、特に限定されないが、10〜1000nmの範囲内が好ましい。特に、反応領域の周囲の第一の絶縁膜の厚さは、凹部状の反応領域を形成する観点から、200〜1000nmの範囲内が好ましい。絶縁膜が薄すぎると、トンネル電流が流れてしまう可能性がある。一方、絶縁膜が厚すぎると、検出感度が低下してしまう可能性がある。半導体基板の表裏それぞれの面において、絶縁膜は全面に形成されていてもよいが、ゲート電極と半導体との間、チャネルと半導体との間、およびソース電極およびドレイン電極と半導体との間を絶縁することができるのであれば、それぞれの面の特定領域(例えば、各電極の直下)のみに形成されていてもよい。
【0017】
[反応領域について]
本発明のセンサは、半導体基板の第一の面(ソース電極、ドレイン電極およびチャネルが配置されていない面)に反応領域を有する。「反応領域」とは、試料溶液を提供する領域を意味する。
【0018】
反応領域の第一の絶縁膜の厚さは、その周囲の第一の絶縁膜の厚さよりも薄いことが好ましい。すなわち、反応領域は、第一の絶縁膜に形成された凹部であることが好ましい(図2(A)の118参照)。これにより、試料溶液を反応領域により効率的に留めることができるだけでなく、ゲート電極から基板面方向に漏れ出た電気力線をより効率的に反応領域を通過させることができる。また、被検出物質認識分子を固定化した反応領域にゲート板(後述)を重ねても、ゲート板と被検出物質認識分子とが直接接触することを防ぐこともできる。例えば、半導体基板の第一の絶縁膜の一部をエッチングして反応領域を形成することで、ゲート板と被検出物質認識分子との接触状態や、ゲート板と被検出物質認識分子との間隔を制御することができる。また、半導体デバイスに応用されているLOCOS(Local Oxidation of Silicon)構造の基板を用いてもよい。このように制御することで、反応領域に固定化された被検出物質認識分子(および被検出物質)の破壊を防ぐことができるとともに、被検出物質認識分子(および被検出物質)にかかっている電界のばらつきを最低限に抑えることができる。
【0019】
反応領域の第一の絶縁膜の厚さは、特に限定されないが、1〜200nmの範囲内が好ましい。反応領域の第一の絶縁膜は、被検出物質認識分子(後述)を固定化するためには必要であるが、検出するためには必ずしも必要ではない。したがって、第一の絶縁膜は、反応領域においては完全な絶縁性を有する必要はなく、厚さ1nm程度のケミカル酸化膜や自然酸化膜であってもよい。ただし、本発明のセンサを再利用する観点からは、反応領域の第一の絶縁膜の厚さはある程度あった方が好ましい。また、シラン化剤を用いて被検出物質認識分子(後述)を固定化する場合、反応領域の第一の絶縁膜の厚さと周囲の第一の絶縁膜の厚さとの差は、シラン化剤の厚さ(約100nm)以上であることが好ましく、200〜800nmの範囲内が特に好ましい。また、反応領域の第一の絶縁膜の厚さは、周囲の第一の絶縁膜の厚さの50%以下であることが好ましい。
【0020】
反応領域の形状や大きさ(面積)は、特に限定されず、提供される試料溶液の量やゲート電極の形状に応じて適宜設定すればよい。例えば、反応領域の形状が正方形の場合、1辺の長さは数mm程度(例えば、5mm)であればよい。
【0021】
反応領域には、被検出物質が固定化されていてもよい。被検出物質認識分子を反応領域に固定化することで、特定のタンパク質や化学物質などを特異的に検出することができるようになるため、本発明のセンサをバイオセンサとして使用することができる。被検出物質認識分子の例には、抗体や酵素、レクチンなどのタンパク質、核酸、オリゴ糖または多糖、あるいはそれらの構造を有する物質が含まれる。本発明のセンサをpHセンサなどとして使用する場合は、被検出物質を固定化する必要はない。
【0022】
[ゲート電極について]
ゲート電極は、反応領域が形成された第一の絶縁膜上に、反応領域を囲むように固定されている電極である。ゲート電極、第一の絶縁膜および半導体基板は、金属−絶縁体−半導体(Metal-Insulator-Semiconductor:MIS)構造を形成する。したがって、ゲート電圧は半導体基板に直接印加されない。
【0023】
ゲート電極の材質は、導電性を有するものであれば特に限定されず、例えば金、白金、チタン、アルミニウムなどの金属や導電性プラスチックなどであればよい。
【0024】
ゲート電極の形状は、特に限定されず、検出方法(溶液中における検出か否か、ゲート板を使用するか否かなど)に応じて適宜選択すればよい。基本原則としては、反応領域内を通過する電気力線の密度を高める観点から、反応領域を囲む形状であることが好ましい。ゲート電極から基板面方向に漏れ出た電気力線が反応領域を通過することができるようになり、FETが反応領域の状況を電気的信号に変換して検出することができるようになるからである。特に、ゲート板を使用しない場合は、ゲート板を使用する場合(後述する実施の形態2参照)に比べて反応領域内を通過する電気力線の密度が低くなるため、ゲート電極の形状を網目状などとして反応領域内を通過する電気力線の密度を高めることが好ましい。また、溶液中における検出の場合は、ノイズの低減の観点から、試料溶液とゲート電極との接触面積が毎回一定となるようにゲート電極の形状を選択することが好ましい。すなわち、溶液中における検出の場合は、試料溶液に含まれる物質の付着によってゲート電極が汚染され、この汚染によりゲート電極表面の電位が変化してノイズの発生に繋がる可能性があるが、試料溶液とゲート電極との接触面積が一定となるようにすることで、このようなノイズを最低限に抑えることができるのである。
【0025】
ゲート電極を構成する導電性部材の幅は、特に限定されないが、10μm〜数mm程度であることが好ましい。ゲート電極を構成する導電性部材の高さは、特に限定されないが、0.1μm〜数百μm程度であることが好ましい。導電性部材の高さを高くすることにより、反応領域に対するゲート電極からの電気力線の数を増やすことができる。
【0026】
ゲート電極は、市販の電極を用いてもよいが、電子ビームリソグラフィやフォトリソグラフィなどにより半導体基板の第一の絶縁膜上に直接形成してもよい。
【0027】
[ソース電極およびドレイン電極について]
ソース電極およびドレイン電極は、半導体基板の第二の絶縁膜上に配置されている。ソース電極およびドレイン電極の材質は、例えば、金、白金、クロム、チタン、アルミニウム、パラジウム、モリブデンなどの金属、またはポリシリコンなどの半導体である。ソース電極およびドレイン電極は、二種以上の金属で多層構造にされていてもよく、例えばチタンの層に金の層を重ねたものでもよい。ソース電極およびドレイン電極は、例えばこれらの金属を基板の絶縁膜上に蒸着させて形成される。
【0028】
ソース電極とドレイン電極との間隔は、特に限定されないが、通常は0.5〜10μm程度である。この間隔は、CNTによる電極間の接続を容易にするためにさらに縮めてもよい。ソース電極およびドレイン電極の形状および大きさは特に限定されず、目的に応じて適宜設定すればよい。
【0029】
[チャネルについて]
ソース電極とドレイン電極とを接続するチャネルは、特に限定されない。すなわち、本発明のセンサに含まれる電界効果トランジスタの種類は特に限定されない。ソース電極とドレイン電極とを接続するチャネルの例には、CNT、ポリシリコン、半導体ナノワイヤ(Siナノワイヤ、SiGeナノワイヤ、InPナノワイヤ、ZnOナノワイヤなど)、シリコン細線などが含まれる。
【0030】
CNTをチャネルとする場合、すなわち本発明のセンサに含まれる電界効果トランジスタがCNT−FETの場合、CNTは、単層CNTまたは多層CNTのいずれでもよいが、単層CNTが好ましい。ソース電極とドレイン電極との間は、一本のCNTによって接続されていてもよいし、複数本のCNTによって接続されていてもよい。例えば、CNTのバンドルによってソース電極とドレイン電極との間が接続されていたり、ソース電極とドレイン電極との間に複数本のCNTが折り重ねられて接続されていたりしてもよい。
【0031】
[コンタクトパッドについて]
本発明のセンサは、半導体基板の半導体と外部とを電気的に接続するコンタクトパッド(電極)をさらに有することが好ましい。コンタクトパッドを形成することで、半導体基板の残留電荷を除去することができる。結果として、コンタクトパッドを有するセンサは、半導体基板を初期化して繰り返し使用することができる。また、コンタクトパッドを形成することで、各電極と半導体基板とのリーク電流を測定することもできる。
【0032】
コンタクトパッドの材質は、例えば、金、白金、クロム、チタン、アルミニウム、パラジウム、モリブデンなどの金属、またはポリシリコンなどの半導体である。コンタクトパッドは、二種以上の金属で多層構造にされていてもよく、例えばチタンの層に金の層を重ねたものでもよい。例えば、コンタクトパッドは、第一の絶縁膜または第二の絶縁膜にエッチングなどによりホールを形成した後に、上記金属を基板のホールの部分に蒸着させて形成される。コンタクトパッドの形状および大きさは特に限定されず、目的に応じて適宜設定すればよい。
【0033】
2.本発明の検出方法について
本発明の検出方法は、前述のセンサを用いることを特徴とする。本明細書において「検出」とは、被検出物質の有無を判断することだけではなく、被検出物質の量を測定することも含む。
【0034】
検出される被検出物質は、溶液に含まれていることが好ましく、溶解されていることが特に好ましい。被検出物質は、例えばタンパク質や化学物質などである。
【0035】
本発明の検出方法は、(1)被検出物質を含みうる溶液(試料溶液)を、本発明のセンサの反応領域に提供するステップ、および(2)試料溶液を提供する前と提供した後とのFETの電気的特性の違いから、被検出物質を検出するステップを含む。
【0036】
まず、本発明のセンサの反応領域に被検出物質を含む試料溶液を滴下などにより提供する。提供される溶液の量は特に限定されず、ゲート電極および反応領域の構造などに応じて適宜調整すればよいが、数μlと少量にすることができる。ただし、反応領域が保持しうる量以下にすることが好ましい。
【0037】
FETの電気的特性を測定する前に、ゲート電極に提供した溶液をある程度蒸散させることが好ましいが、必ずしも完全に乾燥させる必要はない。また、本発明のセンサは、試料溶液が溶液状態のままでも被検出物質を検出することができるため、まったく乾燥させなくてもよい。
【0038】
測定されるFETの電気的特性は、例えば、ゲート電極に印加された直流電圧、交流電圧またはパルス電圧(Vg)と、ソース電極−ドレイン電極間を流れる電流(Isd)との関係(Isd−Vg特性)などである。FETの電気的特性を測定するには、例えば、ゲート電極に印加された直流電圧を0V付近(例えば、−20〜+20Vの間、好ましくは−5〜+5Vの間)で徐々に変化させて、そのときのソース電極−ドレイン電極間を流れる電流を測定すればよい。
【0039】
FETを含む本発明のセンサを用いた本発明の検出方法では、Isd−Vg特性のVth(スレッショルド電圧)のシフト量の程度に基づいて、被検出物質の量を測定してもよい。つまり、試料溶液を滴下する前のIsd−Vg特性のVthの値と、ゲート電極に試料溶液を提供し、この溶液を乾燥させた後のIsd−Vg特性のVthとから算出されるシフト量に基づいて、被検出物質の量を測定してもよい。
【0040】
また、予め取得した、被検出物質の濃度と電気特性との関係を示す検量線を用いれば、被検出物質の濃度を定量することもできる。
【0041】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0042】
(実施の形態1)
実施の形態1では、CNTをチャネルとするCNT−FETを含むセンサの例を示す。
【0043】
図2は、本発明の実施の形態1に係るセンサの構成を示す模式図である。図2(A)は実施の形態1に係るセンサの断面図であり、図2(B)は実施の形態1に係るセンサの平面図である。
【0044】
図2において、センサ100は、基板110、ソース電極120、ドレイン電極130、チャネル(CNT)140、ゲート電極150およびコンタクトパッド160を有する。基板110は、半導体基板112、半導体基板112の第一の面を覆う第一の絶縁膜114、および半導体基板112の第二の面を覆う第二の絶縁膜116を有する。第一の絶縁膜114は、反応領域118の箇所のみ周囲に比べてその厚さが薄くなっている。逆に言えば、第一の絶縁膜114に形成された凹部が反応領域118である。ゲート電極150は、反応領域118を囲むように第一の絶縁膜114上に固定されており、電源に接続されている。また、ソース電極120、ドレイン電極130およびチャネル140は、第二の絶縁膜116上に配置されており、電源および電流計に接続されている。コンタクトパッド160は、半導体基板112に接続されている。
【0045】
本実施の形態のセンサ100を用いてpHを測定するには、図3(A)に示すように、反応領域118に試料溶液170を提供すればよい。この状態で、ゲート電極150に電圧を印加し、ソース電極120−ドレイン電極130間の電気特性の変化(例えば、Isd−Vg特性の変化)を測定することで、pHを測定することができる(実施例参照)。
【0046】
また、本実施の形態のセンサ100を用いて被検出物質を検出するには、図3(B)に示すように、被検出物質180に特異的に結合する被検出物質認識分子190を反応領域118に固定化した後、被検出物質180を含みうる試料溶液170を提供すればよい。この状態で、ゲート電極150に電圧を印加し、ソース電極120−ドレイン電極130間の電気特性の変化(例えば、Isd−Vg特性の変化)を測定することで、被検出物質180を検出することができる(実施例参照)。また、図3(C)に示すように、試料溶液を乾燥させた後に、ソース電極120−ドレイン電極130間の電気特性の変化(例えば、Isd−Vg特性の変化)を測定しても、被検出物質180を検出することができる(実施例参照)。このように反応領域118に被検出物質認識分子190を固定化することで、特定のタンパク質や化学物質などを特異的に検出することができる。
【0047】
以上のように、実施の形態1のセンサは、ゲート電極が基板上に固定されているため、ゲート電極の着脱による不安定性および検出誤差を低減することができ、高感度にかつ安定して検出を行うことができる。また、実施の形態1のセンサは、試料溶液が溶液状態のままでも、被検出物質の吸着や反応などに伴う信号の変化をリアルタイムで検出することができるため、これら物理現象を理解することができる。
【0048】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1のセンサにさらにゲート板を加えたセンサの例を示す。
【0049】
図4は、本発明の実施の形態2に係るセンサの構成を示す模式図である。実施の形態1に係るセンサと同じ構成要素については同一の符号を付し、重複箇所の説明を省略する。
【0050】
図4において、センサ200は、基板110、ソース電極120、ドレイン電極130、チャネル(CNT)140、ゲート電極150およびコンタクトパッド160に加え、さらにゲート板210を有する。ゲート板210以外の構成要素は、実施の形態1の構成要素と同じものである。ゲート板210は、反応領域118を覆うようにゲート電極150の上に載置可能(取り外しも可能)な導電性部材であり、ゲート電極150が接続されている電源に接続されている。
【0051】
本実施の形態のセンサ200を用いてpHを測定するには、反応領域118に試料溶液170を提供した後、ゲート板210を反応領域118を覆うようにゲート電極150の上に載置すればよい。この状態で、実施の形態1と同様に、ゲート電極150(およびゲート板210)に電圧を印加し、ソース電極120−ドレイン電極130間の電気特性の変化(例えば、Isd−Vg特性の変化)を測定することで、pHを測定することができる。
【0052】
また、本実施の形態のセンサ200を用いて被検出物質を検出するには、被検出物質180に特異的に結合する被検出物質認識分子190を反応領域118に固定化した後、被検出物質180を含みうる試料溶液170を提供し、さらにゲート板210を反応領域118を覆うようにゲート電極150の上に載置すればよい。この状態で、ゲート電極150に電圧を印加し、ソース電極120−ドレイン電極130間の電気特性の変化(例えば、Isd−Vg特性の変化)を測定することで、被検出物質180を検出することができる。また、図4に示すように、試料溶液を乾燥させた後にゲート板210をゲート電極150の上に載置し、ソース電極120−ドレイン電極130間の電気特性の変化(例えば、Isd−Vg特性の変化)を測定しても、被検出物質180を検出することができる。このように反応領域118に被検出物質認識分子190を固定化することで、特定のタンパク質や化学物質などを特異的に検出することができる。
【0053】
以上のように、実施の形態2のセンサは、実施の形態1のセンサの効果に加えて、ゲート板をさらに有するため、反応領域内を通過する電気力線の密度を高めることができ、より高感度にかつ安定して検出を行うことができる。なお、実施の形態2のセンサでは、固定されているゲート電極にゲート板を載置するため、従来のセンサに比べて接触帯電が生じにくい。また、実施の形態2のセンサでは、反応領域が凹部状に形成されているため、ゲート板を反応領域上に載置しても、被検出物質認識分子(および被検出物質)が破壊されることはない。
【0054】
以下、本発明を実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0055】
本実施例では、図5に示されるCNT−FETを含むセンサを作製した例を示す。図5において、センサ300は、基板110、ソース電極120、ドレイン電極130、チャネル(CNT)140、ゲート電極150、コンタクトパッド160およびパッシベーション膜310を有する。パッシベーション膜310は、製造プロセスにおいてチャネルとなるCNTを物理的および化学的に保護するとともに、最終的なFETデバイスの保護膜としても機能する。
【0056】
[本発明のセンサの製造]
(1)ソース電極、ドレイン電極およびチャネルの形成(第二の面)
従来から知られている化学気相成長法を用いて、基板上にチャネルとなるCNTを配置した。まず、厚さ900nmの酸化シリコン(SiO)膜で両面が覆われたシリコン基板(大きさ20mm×20mm、合計厚さ0.55mm)の片面にレジスト膜(OFPR800、東京応化工業)を形成し、フォトリソグラフィでパターンを現像して、触媒の形成予定部位以外の基板面をレジスト膜で保護した。レジスト膜を形成した基板上にシリコン(Si)を20nmの厚さで蒸着させ、その上にアルミニウム(Al)を5nmの厚さで蒸着させ、その上に鉄(Fe)を2nmの厚さで蒸着させ、その上にモリブデン(Mo)を0.2nmの厚さで蒸着させた。次いで、リフトオフして、3μm×10μmの大きさの触媒を基板上に配置した。触媒間の間隔は、10μmとした。この触媒を配置した基板を、メタンおよび水素の混合ガス雰囲気中で900℃に加熱して(熱CVD法)、基板上に配置した触媒からCNTを成長させた(図6(A)参照)。
【0057】
CNTを成長させた後、酸化ハフニウム(HfO)からなるパッシベーション膜(膜厚20nm)を、CNTを含む基板上にALD法を用いて形成した(図6(B)参照)。次いで、パッシベーション膜の上にレジスト膜を形成し、フォトリソグラフィでパターンを現像して、ソース電極およびドレイン電極の形成予定部位以外の基板面をレジスト膜で保護した(図6(C)参照)。レジスト膜を形成した基板に対してECR法を用いたドライエッチングを行い、パッシベーション膜、触媒および酸化シリコン膜(10nm程度)をエッチングするとともにCNTを切断した(図6(D)参照)。切断部の間隔は、4μmとした。ドライエッチングした基板を希薄フッ酸液(2%HF)で10秒間処理して洗浄およびウェットエッチングを行い、CNTの両端部を露出させた(図6(E)参照)。
【0058】
ウェットエッチングを終えた後、基板上にチタン(Ti)を蒸着させて厚さ30nmのチタン薄膜を形成し、さらにその上に金(Au)を蒸着させて厚さ60nmの金薄膜を形成し、リフトオフしてソース電極およびドレイン電極を形成した(図6(F)参照)。
【0059】
(2)反応場、ゲート電極およびコンタクトパッドの形成(第一の面)
ソース電極、ドレイン電極およびチャネルを形成した面(第二の面)をレジスト膜で保護した。次いで、基板の反対側の面(第一の面)にもレジスト膜を形成し、フォトリソグラフィでパターンを現像して、コンタクトパッドの形成予定部位以外の基板面をレジスト膜で保護した。レジスト膜で保護した基板を、バッファードフッ酸液で処理して、ウェットエッチングによりホールを形成した(図7(A)参照)。ウェットエッチングを終えた後、基板上にチタン(Ti)を蒸着させて厚さ30nmのチタン薄膜を形成し、さらにその上に金(Au)を蒸着させて厚さ60nmの金薄膜を形成し、リフトオフしてコンタクトパッドを形成した(図7(B)参照)。リフトオフのときには、第二の面のレジスト膜も除去した。
【0060】
ソース電極、ドレイン電極およびチャネルを形成した面(第二の面)をレジスト膜で保護した。次いで、コンタクトパッドを形成した面(第一の面)にレジスト膜を形成し、フォトリソグラフィでパターンを現像して、反応領域以外の基板面をレジスト膜で保護した。レジスト膜で保護した基板を、バッファードフッ酸液で処理し、ウェットエッチングにより反応領域の酸化シリコン膜の厚さを200nmとした(酸化シリコン膜に深さ700nmの凹部を形成した)。その後、基板両面(第一の面および第二の面)のレジスト膜を除去した(図7(C)参照)。
【0061】
ソース電極、ドレイン電極およびチャネルを形成した面(第二の面)をレジスト膜で保護した後、コンタクトパッドを形成した面(第一の面)にレジスト膜を形成し、フォトリソグラフィでパターンを現像して、ゲート電極の形成予定部位以外の基板面をレジスト膜で保護した。基板上にチタン(Ti)を蒸着させて厚さ30nmのチタン薄膜を形成し、さらにその上に金(Au)を蒸着させて厚さ60nmの金薄膜を形成し、リフトオフしてゲート電極を形成した(図7(D)参照)。ゲート電極の形状は図7(E)の平面図に示す形状とし、図中「a」の長さ(外枠の長さ)を8mm、「b」の長さ(内枠の長さ)を5mmとした。
【0062】
[CNT−FETの特性]
図8(A)は、作製したセンサ(CNT−FET)のIsd−Vg特性を示すグラフである。黒色の線は、コンタクトパッド(シリコン基板)にゲート電圧に印加したときの特性を示し、灰色の線は、ゲート電極にゲート電圧を印加したときの特性を示す。それぞれについて測定を10回繰り返してヒステリシス特性を測定した。その結果、ゲート電極に電圧を印加したとき(灰色の線)のVth(スレッショルド電圧)は、シリコン基板に電圧を印加したとき(黒色の線)のVthに比べて正側にシフトしていた(図8(A)参照)。これは、絶縁膜である酸化シリコン膜による電圧の落下によるものであり、MIS構造が形成されていることを示す(ゲート電極とシリコン基板との間にリーク電流が流れているとすると、ゲート電極およびシリコン基板には同等の電圧が印加されるため、Vthのシフトが生じない)。また、測定を繰り返してもIsd−Vg特性は安定であったことから、このMIS構造によってシリコン基板に安定な電位を付与しうることがわかる。
【0063】
図8(B)は、CNT−FETのゲート電極(またはゲート板)とコンタクトパッド(シリコン基板)との間のリーク特性を示すグラフである。ここでは、ゲート電極(またはゲート板)とコンタクトパッドとの間に電圧(20V)を印加したときに流れる電流を測定した。このグラフからも、ゲート電極(またはゲート板)とシリコン基板との間にリーク電流が流れていないことがわかる。なお、ゲート電極−コンタクトパッド間のリーク特性を示す曲線と、ゲート板−コンタクトパッド間のリーク特性を示す曲線とは完全に重なっている。
【0064】
図9(A)は、ゲート板を10回着脱したときのCNT−FETのIsd−Vg特性を示すグラフである。このグラフから、ゲート電極を固定している素子であっても、ゲート板の着脱により不安定性が生じることがあることがわかる。これは、ゲート電極が基板表面の一部にしか形成されていないため、酸化シリコン膜表面に帯電が残るためだと考えられる。このようにゲート板を用いる場合は、ゲート板を着脱する際に第一の絶縁膜に固定されたゲート電極を予め電源(グラウンド状態)に接続しておくことで、帯電を防ぐことができ、不安定性の問題を解消することができる。
【0065】
図9(B)は、ゲート電極を電源に接続した状態で、ゲート板を10回着脱したときのCNT−FETのIsd−Vg特性を示すグラフである。このグラフから、ゲート電極を予め電源に接続しておくことで、不安定性が解消していることがわかる。これらのことから、ゲート電極が固定されたCNT−FETでは、ゲート板を載置する場合であっても接触帯電を低減させうることがわかる。ゲート板を使用しない場合には、このような接触帯電の問題はもちろん生じない。
【0066】
[pHセンサへの適用]
(1)試料溶液の調製
試料溶液として、それぞれ異なるpH(pH=3,7)の2種類のクエン酸リン酸緩衝液(10mMリン酸ナトリウムと20mMクエン酸ナトリウムを混合したもの)を用意した。この緩衝液には100mMのNaClが含まれており、pHを塩酸および水酸化ナトリウムを用いて調整した。
【0067】
(2)静的測定
マイクロピペットを用いて20μlの試料溶液(pH=3または7)を作製したセンサの反応領域に提供した。ゲート電極に−1Vの電圧を印加し、ソース電極とドレイン電極との間には1Vの電圧を印加して、時間スケールの電流の変化を測定した。ドリフトが小さくなった後、反応領域内の試料溶液(例えば、pH7の試料溶液)を他方の試料溶液(例えば、pH3の試料溶液)に入れ替えた。試料溶液の入れ替えは、一方の試料溶液(例えば、pH7の試料溶液)が提供されている反応領域に他方の試料溶液(例えば、pH3の試料溶液)を20μlさらに提供し、よく混合させてから20μlの試料溶液を吸い取るという動作を3回繰り返すことにより行った。
【0068】
図10(A)は、作製したセンサを用いてpHを測定(静的測定)した結果を示すグラフである。グラフの横軸は時間(秒)で、縦軸はソース電極とドレイン電流との間に流れた電流の量(μA)である。ゲート電極には−1Vの電圧を印加し、ソース電極とドレイン電極との間には1Vの電圧を印加した。
【0069】
実験を開始してから0〜1000秒の間は、ゲート電極にのみ電圧を印加した状態でpH7の試料溶液とpH3の試料溶液とを交互に提供した。次いで、1000〜1930秒の間は、ゲート電極だけでなくコンタクトパッド(シリコン基板)にも電圧を印加した状態でpH7の試料溶液とpH3の試料溶液とを交互に提供した。次いで、1930〜2550秒の間は、再びゲート電極にのみ電圧を印加した状態でpH7の試料溶液とpH3の試料溶液とを交互に提供した。
【0070】
このグラフから、ゲート電極にのみ電圧を印加したとき(0〜1000秒,1930〜2550秒)はpHを測定できるのに対し、コンタクトパッド(シリコン基板)にも電圧を印加したとき(1000〜1930秒)はpHを測定できないことがわかる。このことから、MIS構造のゲート電極は、通常使用されるゲート電極である参照電極の代用電極として使用可能であることがわかる。
【0071】
(3)ゲート電圧掃引測定
マイクロピペットを用いて20μlの試料溶液(pH=3または7)を作製したセンサの反応領域に提供した。5分経過した後、ソース電極とドレイン電極との間には±1Vの電圧を印加し、−5〜+5Vのゲート電圧を掃引して、電流の変化を測定した。5分間の待機時間は、試料溶液を入れ替えた後にpHが安定するまでの時間である。試料溶液の入れ替えは、前述のように行った。
【0072】
図10(B)は、作製したセンサを用いてpHを測定(ゲート電圧掃引測定)した結果を示すグラフである。このグラフから、ゲート電圧を掃引してもpHを測定できることがわかる。
【0073】
本発明のセンサは、ゲート電極と半導体基板との間にリーク電流が流れにくい構造のため、ゲート電極に印加する電圧は特に限定されず、FET素子の特性に合わせて適宜設定することができる。試料溶液が溶液状態のままの測定でよく用いられる参照電極は、通常−0.6〜+0.3Vの範囲の電圧しか印加できないため、FET素子がこの範囲のゲート電圧で動作しなければ、センサとして用いることができない。一方、本発明のセンサは、図10(B)に示されるように、−5〜+5Vの電圧をゲート電極に印加してもpHを測定することができる。
【0074】
[バイオセンサへの適用]
前述のpHセンサにおいては、試料溶液がもたらす微小な電位変化によりFETのコンダクタンス変化(電流変化またはVthシフト)が引き起こされたと考えられる。本発明のセンサをバイオセンサに適用しても、類似の動作原理により、すなわち被検出物質の微小な電荷量の変化によりFETのコンダクタンス変化が引き起こされることにより、被検出物質を検出できると考えられる。この動作原理を実証するため、被検出物質の標準試料として正負の電荷をもつ物質を準備して、実験を行った。
【0075】
(1)試料溶液の調製
被検出物質として、等電点(pI)が異なる2種類のポリペプチド、ポリペプチドKおよびポリペプチドEを用意した。それぞれの構造(アミノ酸配列)は以下のとおりである。
(1)ポリペプチドK;pI=10.2
Lys-Ser-Ser-Lys-Ser-Ser-Lys-Ser-Ser-Lys-Ser-Ser-Lys-Ser-Ser-Cys-OH
(2)ポリペプチドE;pI=3.5
Glu-Ser-Ser-Glu-Ser-Ser-Glu-Ser-Ser-Glu-Ser-Ser-Glu-Ser-Ser-Cys-OH
【0076】
いずれのポリペプチドも、16個のアミノ酸がペプチド結合した構造である。(1)ポリペプチドKでは、Lys(リシン)が正負の電荷を有し、(2)ポリペプチドEでは、Glu(グルタミン)が正負の電荷を有する。
【0077】
1mgのポリペプチドKを1mlの超純水に溶解させてポリペプチドKの試料溶液(濃度:1mg/ml)を調製した。同様に、1mgのポリペプチドEを1mlの超純水に溶解させてポリペプチドKの試料溶液(濃度:1mg/ml)を調製した。また、それぞれの試料溶液を超純水で希釈して、4種類(1×10−3,1×10−5,1×10−7,1×10−9mg/ml)の異なる濃度の試料溶液を調製した。
【0078】
(2)静的測定
まず、マイクロピペットを用いて20μlの超純水を作製したセンサの反応領域に提供した。ゲート電極に0Vの電圧を印加し、ソース電極とドレイン電極との間には1Vの電圧を印加して、時間スケールの電流の変化を測定した。ドリフトが小さくなった後、反応領域内の超純水を試料溶液(例えば、ポリペプチドKの試料溶液)に入れ替えた。以後同様に、試料溶液を入れ替えて、時間スケールの電流の変化を測定した。試料溶液の入れ替えは、一方の試料溶液(例えば、ポリペプチドKの試料溶液)が提供されている反応領域に他方の試料溶液(例えば、ポリペプチドEの試料溶液)を20μlさらに提供し、よく混合させてから20μlの試料溶液を吸い取るという動作を3回繰り返すことにより行った。
【0079】
図11(A)は、作製したセンサを用いてポリペプチドを検出(静的測定)した結果を示すグラフである。グラフの横軸は時間(秒)で、縦軸はソース電極とドレイン電流との間に流れた電流の量(μA)である。ゲート電極には0Vの電圧を印加し、ソース電極とドレイン電極との間には1Vの電圧を印加した。
【0080】
実験を開始した直後にポリペプチドEを含む試料溶液(ポリペプチドEの濃度:1mg/ml)を反応領域に提供し、実験を開始してから2250秒後にこの試料溶液を乾燥させた。次いで、実験を開始してから4000秒後にペプチドKを含む試料溶液(ポリペプチドKの濃度:1mg/ml)を反応領域に提供し、実験を開始してから5600秒後にこの試料溶液を乾燥させた。
【0081】
このグラフから、試料溶液に含まれるポリペプチドの種類に応じて電流が変化していることがわかる。ここでは結果を示していないが、ポリペプチドKを含む溶液とポリペプチドEを含む溶液を乾燥させること無く交互に提供しても、ポリペプチドの種類に応じて電流が変化するのが観察された。また、試料溶液を乾燥させても同様の変化が観察されることもわかる。これらのことから、本発明のセンサは、ゲート板を使用しなくても、乾燥状態で検出可能なバイオセンサとして使用可能であることがわかる。
【0082】
図11(B)も、図11(A)と同様に、作製したセンサを用いてポリペプチドを検出(静的測定)した結果を示すグラフである。この実験では、ポリペプチドKを含む溶液の濃度を4段階(1×10−3,1×10−5,1×10−7,1×10−9mg/ml)に振ったところ、ポリペプチドKの濃度に応じて電流が変化していることが観察された。このことから、本発明のセンサは、被検出物質の濃度も測定できることが示唆される。
【0083】
(3)ゲート電圧掃引測定
マイクロピペットを用いて20μlの試料溶液(ポリペプチドKまたはポリペプチドE)を作製したセンサの反応領域に提供した。5分経過した後、ソース電極とドレイン電極との間には±1Vの電圧を印加し、−5〜+5Vのゲート電圧を掃引して、電流の変化を測定した。5分間の待機時間は、試料溶液を入れ替えた後に測定結果が安定するまでの時間である。試料溶液の入れ替えは、前述のように行った。
【0084】
図11(C)は、作製したセンサを用いてポリペプチドを検出(ゲート電圧掃引測定)した結果を示すグラフである。ゲート電極には−5〜+5Vの電圧を印加し、ソース電極とドレイン電極との間には−1Vの電圧を印加した。このグラフから、ポリペプチドKおよびポリペプチドEが有する電荷に対応してVthが左右にシフトすることがわかる。このことから、酸化シリコン膜表面に吸着したポリペプチドKおよびポリペプチドEの電荷符号(正負)の変化がCNT−FETのコンダクタンス変化(Vthシフト)を引き起こすことがわかる。この結果は、静的測定の電流変化に対応する結果である。このように、本発明のセンサは、ゲート電圧を掃引してもポリペプチドを検出できることがわかる。このように、静的測定とゲート電圧掃引測定の両方の測定法が一つの素子で実現できることは、本発明のセンサを応用する上で大きな利点を有する。また、ここでは結果を示さないが、PBSに溶解したポリペプチドの濃度に対するVthシフトの依存性も観察されていることから、本発明のセンサはバイオセンサに適用可能であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明に係るセンサは、pHセンサやバイオセンサなどとして使用することができる。特に、本発明に係るセンサは、感染症の検出や、食物の安全性の確認、環境汚染物質の検出などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】従来のセンサの構成を示す模式図
【図2】実施の形態1に係るセンサの構成を示す模式図
【図3】実施の形態1に係るセンサを用いた測定方法を説明するための模式図
【図4】実施の形態2に係るセンサの構成を示す模式図
【図5】実施例に係るセンサの構成を示す模式図
【図6】実施例に係るセンサの製造方法を説明するための模式図
【図7】実施例に係るセンサの製造方法を説明するための模式図
【図8】実施例に係るセンサに含まれるCNT−FETの特性を示すグラフ
【図9】実施例に係るセンサに含まれるCNT−FETの特性を示すグラフ
【図10】実施例に係るセンサを用いてpHを測定した結果を示すグラフ
【図11】実施例に係るセンサを用いてペプチドを測定した結果を示すグラフ
【符号の説明】
【0087】
10a,10b 従来のセンサ
11 基板
12 ソース電極
13 ドレイン電極
14 チャネル(CNT)
15 ゲート電極
16 被検出物質認識分子
17 被検出物質
18 試料溶液
100,200,300 本発明のセンサ
110 基板
112 半導体基板
114 第一の絶縁膜
116 第二の絶縁膜
118 反応領域
120 ソース電極
130 ドレイン電極
140 チャネル(CNT)
150 ゲート電極
160 コンタクトパッド
170 試料溶液
180 被検出物質
190 被検出物質認識分子
210 ゲート板
310 パッシベーション膜
320 触媒
330 レジスト膜
340 ホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電界効果トランジスタを含むセンサであって、
反応領域を有する第一の絶縁膜を第一の面に有し、かつ第二の絶縁膜を第二の面に有する半導体基板と、
前記反応領域の周囲の第一の絶縁膜上に固定されたゲート電極と、
前記第二の絶縁膜上に配置されたソース電極、ドレイン電極およびチャネルと、
を有し、
前記反応領域の第一の絶縁膜の厚さは、その周囲の第一の絶縁膜の厚さよりも薄い、
センサ。
【請求項2】
前記チャネルは、カーボンナノチューブ、ポリシリコン、半導体ナノワイヤまたはシリコン細線を含む、請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記半導体基板の半導体を外部と電気的に接続するコンタクトパッドをさらに有する、請求項1に記載のセンサ。
【請求項4】
前記反応領域の第一の絶縁膜の厚さは、1〜200nmの範囲内であり、
前記反応領域の周囲の第一の絶縁膜の厚さは、200〜1000nmの範囲内である、請求項1に記載のセンサ。
【請求項5】
前記反応領域の第一の絶縁膜の厚さと、前記反応領域の周囲の第一の絶縁膜の厚さとの差は、200〜800nmの範囲内である、請求項4に記載のセンサ。
【請求項6】
前記反応領域に固定化された被検出物質認識分子をさらに有する、請求項1に記載のセンサ。
【請求項7】
前記被検出物質認識分子は抗体である、請求項6に記載のセンサ。
【請求項8】
前記半導体基板は、シリコン基板であり、
前記第一の絶縁膜および第二の絶縁膜は、酸化シリコンまたは窒化シリコンである、請求項1に記載のセンサ。
【請求項9】
請求項1記載のセンサを用いて被検出物質を検出する方法であって、
前記被検出物質を含みうる溶液を前記反応領域に提供するステップと、
前記提供前と提供後の電気的特性の変化から、前記被検出物質を検出するステップと、
を含む検出方法。
【請求項10】
前記反応領域に提供した溶液の溶媒を乾燥させるステップをさらに含む、請求項9に記載の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−250633(P2009−250633A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95251(P2008−95251)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】