説明

センサの温度ドリフトを適応的に補正する方法及びシステム

本発明は、シャフト又はドライブトレインのトルク、又は機械設備の力を作動中に測定するセンサの温度ドリフトを適応的に補正する方法に関する。本発明は、センサ信号を繰り返し測定し、関連する温度を求めるステップ、測定データ及び保存データに基づいて、温度の関数としてオフセット値を計算するステップ、前記計算されたオフセット値を使用して測定された信号値を補正するステップ、センサが無負荷状態又は無負荷に近い状態になる時点を検出し、センサが無負荷状態又は無負荷に近い状態になる場合、センサ信号値及び関連する温度値をメモリに保存し、センサオフセットのモデルを更新するステップを含む。本発明はまた、このようなセンサ信号オフセットの温度ドリフトを適応的に補正するシステム及びコンピュータプログラムに関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
発明の分野
本発明は、機械設備のセンサ、好適にはモータ/エンジンによって駆動されるシャフト用に設計されたトルクセンサの温度ドリフトを、プロセス、生産ライン、又は車両において適応的に補正する方法及びシステムに関する。
具体的には、本発明は自動車のパワートレインのトルクセンサのオフセット変化を最小化する補正システムに関する。
【0002】
発明の背景
車両の排気ガスによる交通公害の増大、更に低い排気ガス規制値を設定する法案の提出、低燃費性を求める消費者の要求、及び変速機の動作の円滑さの向上により、エンジン及び変速機の効率の向上に対する切迫した需要がある。モータスポーツの分野においても競争が激化しており、レーシングカーのエンジン及びこれらのエンジンのドライブトレインに最高の技術を適用することが極めて重要となっている。
内燃機関用の電子制御システムは、種々のエンジン動作条件を判定する多数のセンサ及びシステムを含む。これらの多くは過酷な条件下で動作し、幅広い動作環境に曝されるので、センサに対する要求は、耐久性、長期安定性、及び広い温度範囲での動作能の点で非常に大きい。自動車用に想定される通常の温度範囲は−40℃〜+150℃である。この温度範囲においては、センサはその寿命全体を通じて安定した出力信号を生成しなければならない。
【0003】
温度安定性の問題の一つの解決法は、温度範囲全体に亘り、且つセンサの寿命全体を通じて十分に安定なセンサを設計することである。このようなセンサの問題は、自動車用としてはセンサのコストが高すぎるか、又はパワートレインに組み込むには大きすぎることである。
別の解決法は、温度較正ステップを生産に追加し、センサの温度特性をセンサ又は電子機器の調整により補正することである。この操作は個々のセンサ各々に対して生産時に行なう必要があるので、部品に余分のコストが付加される。
【0004】
更に複雑なことに、自動車用のトルクセンサは普通、実用上の理由により2つの別個の部品、即ち耐荷重シャフト及び外周ヨークにより構成され、これらの部品はセンサをギアボックスに取り付けるときに初めて組み合わされる。センサのオフセットドリフトの温度較正ステップは、完成品のセンサに対して行なう必要があり、個々の部品に対して行なうことはできない。温度較正による解決法の更に別の問題は、温度特性に対する長期的な影響に対処できないことである。
この用途においてセンサオフセットを較正するための簡易な方法は、ドライブトレインが外れているとき、ギアシフトの間にセンサの値をゼロリセットすることである。この手法の限界は、ゼロリセットが特定の温度レベルでしか有効でないことである。温度が変化すると、新規のゼロリセット/較正を行わなければならない。
【0005】
特許文献1には、センサの温度特性を、センサを組み込んだ後に補正する方法が記載されている。この手法の問題は、別の温度センサの入力を必要とすることである。この手法は更に、始動及び停止のためのキースイッチを使用し、エンジンの始動又は停止のときにしかセンサモデルを更新できない。
【0006】
本発明の概要
本発明の目的は、上記の問題を解決し、計算されたオフセット値を使用してセンサ信号値の温度依存性を効率的に補正することにより、センサ信号の値を改善する方法とシステムを提供することである。
本発明の別の重要な目的は、このような自動車部品を低コストで提供することである。
【0007】
これらの目的、及び他の目的は、本発明に従い、請求項1に記載され、且つ請求項1を特徴とする方法、及び請求項12に記載され、且つ請求項12を特徴とするシステム、更には請求項13に記載され、且つ請求項13を特徴とするコンピュータプログラム製品によって達成される。
本発明は、対象の用途において、シャフト又はドライブトレイン及びセンサの負荷状態が既知である動作ポイントであって、自然に発生する動作ポイントを使用する。これらの動作ポイントのセンサデータはメモリ/データベースに保存され、センサ特性のモデルを更新するために使用される。容易に利用できるこのような動作ポイントは、ドライブトレインが外れており、且つセンサが無負荷であること又は無負荷に近いことが判明している場合のギアシフトの間に発生する。
【0008】
センサデータ及び温度データは、適切にフィルタリングを行なった後で、シャフト又はドライブトレインが無負荷であり、且つ特定の温度でのセンサオフセットに関する情報として使用されるときに収集される。少なくとも2つの温度レベルのデータが収集されると、この情報を使用してセンサオフセットの温度依存性を表わすセンサモデルのパラメータが決定される。センサモデルを使用し、温度信号に基づいてセンサオフセットが継続的に計算される。
温度信号は、センサ励起/供給ユニットから、センサの電気特性の変化を測定することにより取得することが好ましいが、外部温度センサから取得するか、又は監視システムから他の手段により取得することもできる。ドライブトレイン又はセンサが無負荷である時点に関する情報は、幾つかの異なる方法により取得することができる。自動変速機又は自動マニュアル変速機の場合、信号は、ドライブトレインが外れているときに監視システムから取得することができる。マニュアル変速機の場合、信号はクラッチペダル及び/又はシフトレバーのスイッチ位置に基づいて取得することができる。この信号は、トルク信号の特定の特性をモニタリングすることにより取得することもできる。
【0009】
本発明の別の実施形態では、外れているドライブトレインのトリガー信号は、センサ信号の微分の急激な変化、又はトルクリップル情報の振幅の急激な変化のようなセンサ信号の特性を解析することにより得ることができ、そのような微分及び振幅の変化は共に、変速機の遊びにより、トルクセンサがドライブトレインから構造的に外れるときに発生する。
本発明の最も重要な特徴は、ドライブトレインが無負荷のとき/ドライブトレインが外れているとき、少なくとも2つの動作ポイントを使用して、センサオフセットの温度依存性のモデルを決定/更新することである。
【0010】
本発明の別の重要な特徴は、動作温度の指標としてセンサの電気特性を使用することにより、外部温度センサの必要性が排除されることである。
本発明の更に別の重要な特徴は、センサ信号の特性を解析することにより、外れているドライブトレインのトリガー信号を取得することである。
【0011】
本発明の主要な利点は、センサの温度特性を、高価な又は困難な温度較正ステップを製造プロセスに必要とすることなく、大きく向上させることができることである。適応化の手法は、対象の用途における動作が行なわれている間に行われる。更に、センサの温度性能は、センサの寿命全体を通じて確実に維持される。
本発明の他の目的、特徴、及び利点は、添付図面と関連して考察され、且つ従属請求項のいずれかによって規定される以下の詳細な記述により明らかになる。
本発明についての理解を深めるために、添付図面を参照する。
【特許文献1】米国特許第6658345号
【実施例】
【0012】
発明の好適な実施形態の説明
本発明の好適な実施形態は、図1に示すように、車両のドライブトレイン2に位置するトルクセンサ1から構成される。トルクセンサ1は、励起ユニット4、A/D変換器5、計算又は処理ユニット6、及びメモリ7から構成される電子ユニット3に電気的に接続される。
電子ユニット3は、図示しないギアボックス制御ユニットに接続され、ギアボックス制御ユニットはドライブトレイン2の機械クラッチ17を制御/操作する。機械クラッチ17が外れると、ドライブトレイン2の状態が無負荷であることが検出される。これは、後述する他の手段によって行なうこともできる。
【0013】
図2に示すように、センサ1に励起ユニット4から励起信号4aが供給され、センサ1は、A/D変換器5によってサンプリングされる出力信号1aを生成する。A/D変換器5から送信されるデジタル信号5aを計算ユニット6によって処理することにより、線形の温度安定出力が得られ、この出力はトルクセンサ1のねじれ負荷を示す。計算ユニット6は更に、温度計算ユニット8、パラメータ計算ユニット9、復調ユニット10、オフセット補正ユニット11、線形化ユニット12、及び出力補正ユニット13を備える。
図2の復調ユニット10は、励起信号4aと同期させた信号5aをフィルタリングし、間引きする。復調ユニットはまた、更にフィタリング及び処理を行なって復調された信号10aのノイズ及び安定性を向上させる。
【0014】
好適な実施形態では、センサ1の1次回路の特性に基づいて温度信号を求める。温度信号は、例えばメモリ7に保存される数学モデルに基づいてセンサ1の温度ドリフトを補正するために、計算ユニット6によって使用される。
監視システム14、例えばギアボックス制御ユニットによって、ドライブトレイン2が無負荷状態であることが判明すると、センサ信号データ/値、及び温度信号データ/値が収集されてメモリ7に保存される。少なくとも2つの異なる温度レベルで収集されるゼロ負荷状態のデータによってデータベースが形成され、このデータベースを使用してセンサモデルが繰り返し更新される。図1中、ゼロ負荷状態は、監視システム14からのトリガー信号14aとして示されている。
【0015】
計算ユニット6の出力信号は、ギアボックス制御ユニット(図示せず)に転送することができ、ギアボックス制御ユニットがこの信号を使用して、ギアシフトを最適化したり、変速機部品の磨耗を検出したりすることができるが、この出力信号をエンジン管理システムが使用して、エンジン16の診断、制御、及び最適化を行うこともできる。
多数の異なる温度レベルについてモニタリングし、収集したデータに基づいて、センサオフセットの温度ドリフトを表わすパラメータ9a、9b、9cを計算する。特に線形化ユニット12及び出力補正ユニット13においてセンサ信号を更に処理し、センサ1の感度/利得ドリフトの可能な補正、結果として得られた出力信号13aの出力レベルのフィルタリング、及び/又は適応化を行なう。本発明によって使用される本用途における一の特定動作ポイントは、ドライブトレイン2が無負荷であるときのギアシフトの間に発生する。
【0016】
本発明による方法を示すフローチャートは図3に示され、このフローチャートの左側の部分は連続的に進み、センサ信号の温度オフセットを補正する。他方、フローの右側の部分は、ドライブトレインが無負荷であることが判明すると進行する。
フローの第1部分はセンサからの信号値を測定するステップから成る。つまり、センサの2次信号はねじれ負荷を示すデジタル信号に変換されている。このステップは、A/D変換を行なうステップ、及び更にデジタル領域又はアナログ領域とすることができる信号を復調するステップを含むことができる。フローの第2ステップは、温度値を求めるステップを含み、このステップは、好適な実施形態では、センサの1次回路のインピーダンスの変化を測定することにより行なわれる。インピーダンスと温度との関係が判明することにより、温度値を求めることができる。第3ステップでは、温度値を使用して、この特定温度におけるセンサの温度オフセットを計算する。この計算は、温度と、電子ユニットのデータベースに保存されるセンサオフセットとの関係に基づいて行なわれる。第4ステップでは、センサオフセットの計算値を使用してセンサの出力信号を補正することにより、温度が補正された出力信号を得る。フローの連続部分の第5ステップ及び最終ステップでは、ドライブトレインの状態を検出する。
【0017】
ドライブトレインが無負荷であることが分かったら、センサ信号及び温度信号の現在値をメモリ/データベースに保存する。保存値の精度を上げるために、このステップでは、温度信号及びセンサ信号を適宜フィルタリングすることができる。次のステップでは、データベースの新規の値を既に測定された値と一緒に使用して、温度値とセンサオフセット値との関係を求める。この関係は、フローチャートの連続部分でのセンサオフセットの計算に使用される関係である。この関係は、例えばセンサオフセットと温度値との関係を表わす一般式のパラメータを「最小二乗法」のような公知の方法を使用して求めることにより確立することができる。
好適には、センサ信号及び温度信号の両方を、一般的な方法を使用してフィルタリングすることにより、信号のノイズレベル、トルクリップル、トルク振動、又はその他の外乱を小さくする。システムに既知の共振が発生する場合、当該共振を低減又は除去するフィルタを設計することができる。
データペアはメモリに保存され、異なる温度でのセンサオフセットの変化を表わすデータベースを形成する。ギアシフトが新たに行なわれるたびに、又はそれ以外の場合でデータが収集されるたびに、新規のデータペアがデータベースに保存される。新規のデータペアがデータベースに保存される前に、トルク信号を安定させる制御を行なうことができる。所定の安定基準が満たされない場合、データペアは拒否される。
【0018】
図4は、同期されたギアギアボックス15の通常のギアシフトを示し、この場合、センサ信号にオフセットが発生している。第1部分aは、ギアシフトが行われる前のトルクレベルを示す。曲線の第2部分bでは、クラッチ17が外れている間にトルクレベルが低下している。ドライブトレイン2が完全に外れると、ギアシフトを操作する前の短期間cに亘ってトルクの低下が横這いになる。この時点で、ドライブトレイン、即ちトルクセンサが無負荷になり(ゼロトルクレベルになり)、センサ信号及び温度信号を測定してデータベースに保存することができる。この実施例のセンサ信号はオフセットを有するので、曲線の部分cにおけるセンサ値はゼロにならない。曲線の次の部分は、図示しないギアアクチュエータが作動して、新たなギアによる加速又は減速が行なわれるときにトルク曲線に負の窪みdが現われる様子を示している。ギア選択が行なわれた後、クラッチ17が連結し、エンジン16からのトルクが加わる(曲線e)。ギアシフトの連続により、普通、トルクに振動が生じ、この振動は曲線の部分fのように徐々に小さくなる。
ギアシフトがクラッチ17を使用することなく行なわれるシステムでは、ギアシフトは、第1ギアが解除された後で、新たなギアが係合する前に、ギアボックス15がニュートラルポジションになるように設計することができる。これにより、ドライブトレインが無負荷である動作ポイントであって、ゼロ負荷でのセンサ出力の読み取りを行なうことができる動作ポイントが生じる。この方式は、普通、トルクの低下を全く起こさずにギアをシフトさせる自動ギアボックスにも適用することができる。ギアシフトが低い負荷で行なわれる特定の場合では、ニュートラルギアによりギアボックスを意図的に作動させることにより、ドライブトレインが無負荷である動作ポイントであって、ゼロ負荷でのセンサ出力の読み取りを行なうことができる動作ポイントを生成することができる。
センサ出力のオフセットは動作範囲全体の精度に影響を与えるが、この影響は低負荷で最も顕著である。図4では、センサ信号のオフセットは曲線の部分cにゼロからの偏差として明瞭に観察される。
【0019】
図5は、図4のオフセットが補正されていない状態と対照させて、センサ信号のオフセットが補正された状態のギアシフトの実施例を示している。この実施例では、曲線の部分cにおけるセンサ信号はほぼゼロであり、これが実際の値である。
【0020】
図6は、低温及び高温でのセンサ出力の測定値の分布の一例を示している。各温度レベルでのデータペアの広がりは、ヒステリシス、ノイズ、位置移動、温度勾配等の不確定性に起因する。このような不確定性の影響を小さくするために、種々の時点で採取した多数のサンプルを各温度レベルで使用することが好ましい。低温サンプルは、例えばギアボックス部品が加熱される前の、エンジンの始動直後に採取することができる。よって、高温サンプルは、エンジンが暫くの間作動し、エンジンの通常動作温度に達したときに採取することができる。
車両の季節的変動全体を通じて多数の異なる動作ポイントで温度サンプルを採取することにより、動作範囲全体のセンサ性能のモデルを構築することができる。
【0021】
図7は、連続する温度範囲の多数の異なる温度でのゼロ負荷におけるセンサ出力の測定値を示している。この図では、センサオフセットと温度との線形関係が示される。
図8は、連続する温度範囲のゼロ負荷におけるセンサ出力の測定値を、センサの高次線形モデルと共に示している。
【0022】
温度ドリフトに対するセンサオフセット依存性のモデルは、温度に対するセンサオフセットの関係を表わす一般式のパラメータを計算することにより決定される。このモデルの最も簡単な形態は、図6、7、及び8の直線で表わされる線形関係によって、及び次の等式によって表わされる。
=k+k (1)
上の式におけるパラメータは次のような意味を有する。
:センサに計算されたセンサオフセット
、k:モデル化パラメータ
:センサ温度
パラメータk、kは、図6、7、及び8にも示すように、等式(1)の要素を、ドライブトレインが外れているときに収集されるセンサ信号及び温度信号のデータペアに併せて、最適化すること又は最も良く一致させることにより決定される。センサオフセットSと温度Tとの間に更に複雑な関係をモデル化することに注目する場合、相対的に高次の項を式に付け加えることにより幾つかのパラメータkを求めることができる。これにより、図8の破線によって示されるセンサオフセットと温度との非線形関係を表わすことができる。
【0023】
一組のデータにパラメータを最も良く一致させる一般的な方法は、例えば直線回帰法又は最小二乗法である。他の方法を用いることもできる。データベースの最も簡単な形態は、パラメータk、kの計算を非常に簡単にする2つのデータペアのみに限定される。この場合、2つのサンプルの間に十分に大きい温度差を確保するために、追加条件が必要である。このような方法には、パラメータk、kを直接更新せずに、連続近似を用いて更新することも必要である。
ギアシフトが行われるたびに、又は他の場合でドライブトレインが無負荷であることが判明するたびに、パラメータkの計算を繰り返すことにより、等式(1)に従うセンサモデルが継続的に維持され、それによりセンサの経時変化のような長期的な変化が補正される。好ましくは、古いデータはデータベースから移すか、又は重み関数によって減らし、よってセンサモデルが確実にセンサの現在の特性を表わすようにする。
【0024】
好適な実施形態では、温度信号8aは、温度計算ユニット8において、センサ1の1次回路の特性に基づいて計算される。励起ユニット2からの容易に利用できる信号は、励起電流及び励起電圧である。励起電流及び励起電圧の測定値を合成することにより、次の等式に従ってセンサ1のインピーダンスを形成することができる。
=U/I (2)
上の式におけるパラメータは次のような意味を有する。
:センサの1次回路のインピーダンス
:センサの1次回路の励起電圧
:センサの1次回路の励起電流
1次回路のインピーダンスは、センサ1の1次巻き線の抵抗ドリフトから生じる温度、及びシャフトの温度依存性リランクタンス、シャフトの抵抗ドリフト、銅パターン、温度依存性透磁率、及び表面の残留応力の関数であるので、センサ1の温度を表わす式は1次回路のインピーダンスに基づいて導出することができ、この最も簡単な形は、次の等式による線形関係である。
=k(Z−Z) (3)
上の式におけるパラメータは次のような意味を有する。
:計算されたセンサの温度
:温度係数
:センサの1次回路のインピーダンス
:ゼロ/較正温度でのインピーダンス
【0025】
更に高性能の実施形態、又は広い温度範囲では、センサ温度と、1次回路のインピーダンスとの関係に高次多項方程式を含めることができる。一般的に、温度とインピーダンスとの関係は何らかの適切な関数によって表わすことができる。
供給電圧及び供給電流は、センサ1の励起ユニット4において、図1に示すように直接測定することができる。しかしながら、励起ユニット4とセンサ1の間の接続線のケーブル抵抗及びコンタクト抵抗の影響を最小にするため、電圧測定をセンサ1に出来る限り近い位置で、4線式配線でのインピーダンス測定により行なうことが好ましい。4線式の測定では、電圧は一対のリードを通して測定され、この一対のリードは、図9に示すように電流を供給する一対のリードとは別個である。電圧を測定するためのリード対に電流は全く又は殆ど流れない。
【0026】
励起電圧及び励起電流は時間変化信号であるので、振幅及び位相角によって表わすことができる。これにより、抵抗性部分及び反応性部分から成るインピーダンスの複素表示が得られる。等式(2)の複素表示は、信号の振幅を表わす実数とすることができるか、又は振幅及び位相角の両方を表わす複素数とすることができる。信号の曲線形状を表わす他の指標を使用することもできる。
更に、1次回路の特性は、インピーダンスの逆数又は励起電圧と励起電流との他の組み合わせによって表わすこともできる。
【0027】
温度信号に加わる機械的負荷による影響を最小にするために、等式(3)におけるインピーダンスの表示には、印加される負荷の影響が最も小さい位相角での表示を選択することができる。インピーダンスの複素表示では、印加される負荷が、異なる温度より異なる位相角において影響することが観察される。
しかしながら、確かな理由により、温度及び負荷の両方による影響を受けるインピーダンス表示を用いて作業することが好ましい。このような表示の一例は、インピーダンスの振幅である。このような場合、温度信号の性能は、線形化又は補正によって大きく向上させることができ、これにより、図1の信号10a又は信号13aに基づいて負荷の影響が無くなるか、又は最小化される。
【0028】
好適なトルクセンサ1は、米国特許第5646356号又は係属中の米国特許出願第2002/189372号による磁気ひずみセンサである。
変速機のトルクがゼロであることを検出する別の方法では、更に伝達トルク信号を処理し、クラッチが外れている間のトルクの変化を追跡する。図5に示すように、部分bにおけるトルクの減少が部分cで横ばいになるとき、非常に急激な変化がトルク信号の勾配に生じる。この遷移は、トルク信号の微分を観察することにより、又は勾配の変化及び2つのフェーズの間の急激な変化を検出する他の手段を使用することにより、容易に検出することができる。
【0029】
ドライブトレインが外れていることを検出するために使用できる別の特性は、トルク信号のリップル成分の変化である。エンジンの個々の燃焼により、トルク信号は、ドライブトレインがエンジンに機械的に接続されるときに出力される正味のトルクに重なる一定量のトルクリップル又はトルク振動を有する。このトルクリップルは、エンジンとの係合が解除されると劇的に小さくなる。従って、リップル成分のこの変化は、ドライブトレインとエンジンが係合しているか、又はそれらの係合が解除されているかを検出する手段として使用することができる。
ドライブトレインのトルクがゼロであることを検出する更に別の手段は、ギアボックスを作動させなくても使用することができる。エンジン及びドライブトレインをゼロ負荷に近い状態で、負の負荷から正の負荷に、又は正の負荷から負の負荷にシフトするように作動させると、ドライブトレインがバックラッシュを受ける部分、又はドライブトレインの遊びを、トルク信号の中に、トルクの変化が横ばいになるフェーズとして検出することができる。この様子は、ドライブトレインに遊びが生じるか、又はドライブトレインが変速機のバックラッシュを受けるときの、トルク信号の平坦部分として明瞭に観察される。
【0030】
図11では、これらの平坦部分はゼロとは異なる高さに現われ、センサ信号のオフセットを示す。トルクが上の説明のように横ばいになる部分では、ドライブトレインの負荷は無負荷であることが分かる。
上記複数の方法は、それらのいずれかを単独で、複数の方法を組み合わせて、又はギアボックス制御ユニットからのトリガー信号と組み合わせて使用することにより、変速機のゼロ負荷の状態を検出することができる。
【0031】
本発明の別の実施形態では、等式(1)に使用される温度信号は、等式(3)によりセンサの1次回路に基づいて計算される温度信号だけでなく、監視制御システムにより判明する他の温度信号、及び他の外部温度センサからの温度信号により構成することができる。
【0032】
上の記述では本発明の例示的な実施形態を説明したが、請求の範囲に規定される本発明の技術範囲から逸脱せずに、開示された解決法に複数の変更及び変形を加えることができる。
従って、本発明は、製鉄所又は製紙工場等の機械設備又はプロセスラインにおける力センサの温度ドリフトの適応的補正にも適用できる。このような設備の力センサを使用して、例えば鋼板又はペーパーウェブのロール荷重、又はウェブ張力を測定することができる。センサがこれらの用途において無負荷になる場合の自然発生動作ポイントの一例は、シート又はウェブがプロセスラインから出た後、且つ新規シート又はペーパーウェブがプロセスラインに入る前に発生する。
【0033】
本発明は、自動車産業における他の応用分野、他の産業の応用分野、或いは、センサが無負荷状態又は無負荷に近い状態か、自然発生動作ポイントが他のいずれかの手段によって制御又は検出できる既知の負荷レベルにある自然発生動作ポイントで、間欠的に動作する性質を示す他の領域における応用分野の、トルクセンサ又は力センサにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の好適な実施形態の概略的模式ブロック図である。
【図2】本発明による信号処理ブロック図を示す。
【図3】本発明のフローチャートである。
【図4】センサ信号にオフセットが発生している状態のギアシフトを示す。
【図5】センサ信号のオフセットが補正された状態のギアシフトを示す。
【図6】高温及び低温のゼロ負荷状態におけるセンサ出力の測定値を示す。
【図7】連続する温度範囲のゼロ負荷状態におけるセンサ出力の測定値を示す。
【図8】連続する温度範囲のゼロ負荷状態におけるセンサ出力の測定値を、センサ高次線形モデルと共に示す。
【図9】センサの1次回路のインピーダンスの4線式測定を示す。
【図10】エンジンが係合している場合及びエンジンとの係合が解除されている場合の、トルクリップルの変化を示す。
【図11】変速機の遊びを示唆するトルクのゼロ近傍での変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフト又はドライブトレインのトルク、或いは機械設備の力を作動中に測定するセンサの温度ドリフトを適応的に補正する方法であって、
−センサ信号を繰り返し測定して関連する温度を求め、
−温度の関数として、測定データ及び保存データに基づいてオフセット値を計算し、
−前記計算されたオフセット値を使用して測定信号値を補正し、
−センサが無負荷状態又は無負荷に近い状態になる時点を検出し、センサが無負荷状態又は無負荷に近い状態である場合、センサ信号値及び関連する温度値をメモリに保存して、センサオフセットのモデルを更新する
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
更に、
−制御ユニット又は制御システムからの信号に基づいてセンサが無負荷になる時点を検出する
ことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
更に、
−スイッチの位置に基づいてセンサが無負荷になる時点を検出する
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
更に、
−センサ信号の特性をモニタリングすることによってセンサが無負荷になる時点を検出する
ことを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
更に、
−トルクの変化/遷移、及び/又はトルクの勾配をモニタリングすることによってセンサが無負荷になる時点を検出する
ことを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
更に、
−トルク信号のリップル成分の変化をモニタリングすることによってセンサが無負荷になる時点を検出する
ことを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
更に、
−変速機のトルクの変化が横ばいになる時点をモニタリングすることによってセンサが無負荷になる時点を検出する
ことを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
更に、
−センサの1次回路の特性に基づいて温度信号を求める
ことを特徴とする、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
更に、
−センサの1次回路の電流、電圧、及び/又はインピーダンス、或いはこれらの組み合わせに基づいて温度信号を求める
ことを特徴とする、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
更に、
−外部温度センサからの温度信号を使用する
ことを特徴とする、請求項1ないし9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
更に、
−データをフィルタリングして、ノイズ、トルクリップル、及び/又はトルク振動のような信号への外乱を小さくする
ことを特徴とする、請求項1ないし10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
シャフト又はドライブトレインのトルク、又は機械設備の力を作動中に測定するセンサの温度ドリフトを適応的に補正するシステムであって、
−センサトルク及び関連する温度を測定する手段(1)、
−温度の関数として、測定データ及び保存データに基づいてセンサのオフセット値を計算する手段(6、7)、
−前記計算されたオフセット値を使用してセンサ信号値を補正する手段(6、7)、
−センサ(1)及び/又はドライブトレイン(2)が無負荷になる時点を検出し、無負荷である場合、これらのデータをメモリ(7)に保存する手段(6、7)、及び
−センサモデルを更新してセンサ信号のオフセットを最小にする手段(6、7)
を特徴とするシステム。
【請求項13】
請求項1ないし11のいずれか一項に記載の方法のステップを実行するコンピュータプログラムコード手段を備えるコンピュータプログラム。
【請求項14】
請求項13記載のコンピュータプログラムの少なくとも一部分を含むコンピュータで読み取り可能な媒体。
【請求項15】
インターネット又はイントラネットのようなネットワークを通して少なくとも部分的に提供される、請求項13記載のコンピュータプログラム。
【請求項16】
請求項1ないし11に記載のステップを実行する論理回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2008−527326(P2008−527326A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−549325(P2007−549325)
【出願日】平成17年12月30日(2005.12.30)
【国際出願番号】PCT/SE2005/002063
【国際公開番号】WO2006/071195
【国際公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(302037607)エービービー エービー (11)
【Fターム(参考)】