説明

センサー用架橋エラストマー体およびその製法

【課題】感圧時抵抗増加の特性を示し、かつ幅広い測定範囲(測定レンジ)の物理量を安定した測定結果でセンシングすることができ、形状設計の自由度が大きく、成型性に優れた、センサー(抵抗増加型センサー)用架橋エラストマー体を提供する。
【解決手段】導電性フィラー2と絶縁性のエラストマー(マトリクス)1とを必須成分とする導電性組成物からなるセンサー用架橋エラストマー体であって、上記導電性フィラー2の形状が球状で、その平均粒径が0.05〜100μmであり、この導電性フィラー2をエラストマー1に混合していくと、電気抵抗が急激に低下して絶縁体−導電体転移が起こる第一変極点における導電性フィラーの臨界体積分率(φc)が30vol%以上であり、かつ、導電性フィラーの体積分率が臨界体積分率(φc)以上の領域において、圧縮または曲げ歪み印加状態における抵抗が非印加状態時より、歪み量に応じて増加することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮または曲げ歪み印加状態における抵抗が、歪み量に応じて増加する抵抗増加型センサー用材料として用いられるセンサー用架橋エラストマー体およびその製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、部材に作用する応力や加速度,振動,変形(歪み等)等を検出するセンサーとしては、ピエゾセラミックに代表される無機系材料を用いた無機系歪センサーが利用されている。しかしながら、このような無機系歪センサーは、一般に剛性の高い材料で形成されているため、加工形状の自由度に制限がある。また、目的とする面圧,歪み,加速度等の測定範囲に応じて、特定のセンサー材料系を決定して調製する必要があり、同一の材料系で幅広い測定範囲の物理量をセンシングできる歪センサーの出現が待望されていた。
【0003】
上記のような事情に鑑み、無機系材料に代えてエラストマーを用い、これと導電性フィラーとを複合化させた感圧導電性エラストマーが多数提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平3−93109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載のものは、無歪みの時は高抵抗を示すが、圧縮歪みを受けると、導電性フィラー同士の粒子間距離が狭まり、導電性フィラーによる導電パスが生成するために抵抗が減少する、いわゆる抵抗減少型センサーに関するものである。しかし、この抵抗変化は必ずしも一定ではなく、歪みが大きくなると逆に抵抗が増加に転じる場合もあり、歪みと検出値(抵抗値)とのばらつきが大きく、安定した測定結果を得ることが困難であった。歪みと検出値とのばらつきは、センサー固体間だけではなく、同一のセンサーでも変形方向が異なると、大きなばらつきが発生する傾向がある。そのため、測定結果の信頼性が低く、産業界で要求される程の精度を得ることができなかった。
【0005】
また、上記特許文献1の、抵抗減少型センサー用途に供される感圧導電性エラストマーは、エラストマーに対する導電性フィラーの混合割合によって検出感度が顕著に異なるため、目的とする感度等の測定特性を付与することが難しく、設計や製造が非常に困難であった。さらには、上記特許文献1に記載のものは、単に直流電流の抵抗値変化で圧縮変形量を検出しているため、混合された導電性フィラーがある程度の接触状態となった後は、検出値が殆ど変化しなくなって、外力や応力の検出レンジが小さいという難点もある。
【0006】
このように、これまでは感圧導電性エラストマーとしては、抵抗減少型の特性を示すものばかりであり、それとは逆の特性を示す、感圧時抵抗増加型のものは認められなかった。しかも、これまでのものは上記のように目的とする感圧等の測定特性を付与することが難しく測定範囲が狭い等の欠点があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、感圧時抵抗増加の特性を示し、かつ幅広い測定範囲(測定レンジ)の物理量を安定した測定結果でセンシングすることができ、形状設計の自由度が大きく、成型性に優れた、センサー(抵抗増加型センサー)用架橋エラストマー体およびその製法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、導電性フィラーと絶縁性のエラストマーとを必須成分とする導電性組成物からなるセンサー用架橋エラストマー体であって、上記導電性フィラーの形状が球状で、その平均粒径が0.05〜100μmであり、この導電性フィラーをエラストマーに混合していくと、電気抵抗が急激に低下して絶縁体−導電体転移が起こる第一変極点における導電性フィラーの臨界体積分率(φc)が30vol%以上であり、かつ、導電性フィラーの体積分率が臨界体積分率(φc)以上の領域において、圧縮または曲げ歪み印加状態における抵抗が、非印加状態時より、歪み量に応じて増加するセンサー用架橋エラストマー体を第1の要旨とする。
【0009】
また、本発明は、形状が球状で、その平均粒径が0.05〜100μmである導電性フィラーと、絶縁性のエラストマーとを準備し、この導電性フィラーとエラストマーとを必須成分とし、加硫剤を任意成分として、導電性組成物中の導電性フィラーの体積分率を30vol%以上にした状態で混合することにより導電性組成物化し、この導電性組成物を所定の形状に賦形したのち架橋することにより、上記センサー用架橋エラストマー体を製造するセンサー用架橋エラストマー体の製法を第2の要旨とする。
【0010】
すなわち、本発明者らは、感圧時抵抗増加の特性を示し、かつ幅広い測定範囲(測定レンジ)の物理量を安定した測定結果でセンシングすることができ、形状設計の自由度が大きく、成型性に優れた、センサー(抵抗増加型センサー)用架橋エラストマー体を得るため、鋭意研究を重ねた。
【0011】
図1は、導電性フィラーと絶縁性のエラストマーとを必須成分とする導電性組成物における、導電性フィラーの体積分率と電気抵抗との関係を表すパーコレーションカーブの模式図である。一般に、導電性フィラー2を絶縁性のエラストマー(マトリクス)1に混合していくと、はじめはエラストマー(マトリクス)1の電気抵抗とほとんど変わらないが、ある体積分率で、電気抵抗が急激に低下して絶縁体−導電体転移が起こる(第一変極点)。この第一変極点における導電性フィラー2の体積分率を、臨界体積分率(φc)という。その後、さらに導電性フィラー2を混合しても、ある体積分率で、電気抵抗の変化が少なくなり電気抵抗変化が飽和する(第二変極点)。この第二変極点における導電性フィラー2の体積分率を、飽和体積分率(φs)という。この一連の電気抵抗変化はパーコレーションカーブと呼ばれ、エラストマー(マトリクス)1中に導電性フィラー2による連続的な導電パス3が形成されるためと考えられている(図1参照)。ところで、カーボンブラック等に代表される導電性フィラーは、平均粒径が小さくなるほど比表面積が増大し、粒子間の表面吸着・凝集エネルギーが増大するため、一次粒子が数個〜数十個単位で凝集したストラクチャーを形成し、一次粒子体としてエラストマー中に存在しにくくなる。このように平均粒径が小さく二次粒子体を形成する導電性フィラーは、エラストマー中での導電性フィラーのネットワーク構造を形成するため、臨界体積分率(φc)が20vol%程度でパーコレーション現象が生じ、導電性フィラーによる連続的な導電パスの形成に基づき、導電性が発現する。このような凝集構造をとるために、パーコレーションの臨界体積分率(φc)が低い導電性フィラーでは、歪み印加に対して導電性の変化が緩慢であったり、歪みに対する導電性変化挙動を制御することが困難であると考えられる。一方、前記感圧減少型の感圧導電性エラストマーは、パーコレーションの臨界体積分率(φc)が大きく、凝集構造を取り難い導電性フィラーをエラストマー中に分散含有させることで、歪み非印加状態では導電性フィラーの粒子間距離が離れているために絶縁体であるのに対し、圧縮歪みの印加時において導電性フィラーによる連続的な導電パスが形成し、導電性が発現することを利用したものと考えられている。
【0012】
本発明者らは、このような導電性フィラーによるパーコレーション現象と臨界体積分率(φc)との関係を考慮し、これまでの感圧抵抗減少型のものの概念を打破し、感圧により、逆に抵抗が増加するような特性を奏するエラストマーを得るため研究を重ねる過程で、比較的粒径が大きいフィラーを、これまでの常識を破り、多量に用いると好結果が得られることを見いだした。すなわち、エラストマー中においても、大部分が一次粒子として存在すると期待される比較的大きな粒径の導電性フィラーを選択し、そのフィラーと親和性が高い架橋構造のエラストマー(マトリクス)を選択することにより、導電性フィラーのパーコレーションの臨界体積分率(φc)が30vol%以上になる場合においては、エラストマー中にフィラーが非凝集状態で分散含有される。導電性フィラーの体積分率(充填量)が臨界体積分率(φc)以上であり、導電性フィラーを高充填してなる架橋エラストマー体を用いると、図2に示すように、架橋構造のエラストマー(マトリクス)1中の導電性フィラー2が最密充填に近いパッキング状態となるため、圧縮または曲げ歪みの非印加状態時には、エラストマー分(皮膜)(図示せず)を介した導電性フィラー2間の接触により、3次元的な導電パス(図において矢印で示す)を形成し、高い導電性(低抵抗)を発現する。一方、圧縮または曲げ歪みの印加状態では、図3に示すように、導電性フィラー2間の空間的な反発によって最密充填パッキング状態が変化し、導電性フィラー2間の接触が失われ、3次元的な導電パス(図において矢印矢印で示す)が崩壊する。このように、圧縮または曲げ歪み印加状態における抵抗が、非印加状態時より、歪み量に応じて増加するため、導電性が低下(高抵抗)することを見いだし、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0013】
本発明のセンサー用架橋エラストマー体は、導電性フィラーのパーコレーションの臨界体積分率(φc)が30vol%以上になるように、エラストマー中においても、大部分が一次粒子として存在すると期待される比較的大きな粒径の導電性フィラーと、そのフィラーと親和性が高い架橋構造のエラストマー(マトリクス)を選択することにより、エラストマー中に導電性フィラーが非凝集状態で分散含有され、しかも、導電性フィラーの体積分率(充填量)が臨界体積分率(φc)以上であり、導電性フィラーを高充填して構成されている。そのため、架橋構造のエラストマー(マトリクス)中の導電性フィラーが最密充填に近いパッキング状態となり、圧縮または曲げ歪みの非印加状態時には、エラストマー分(皮膜)を介したフィラー間の接触により、3次元的な導電パスを形成し、高い導電性(低抵抗)を発現する。一方、圧縮または曲げ歪みの印加状態では、フィラー間の空間的な反発によって最密充填パッキング状態が変化し、フィラー間の接触が失われ、3次元的な導電パスが崩壊する。このように、圧縮または曲げ歪み印加状態における抵抗が、非印加状態時より、歪み量に応じて増加するため、導電性が低下(高抵抗)する。本発明のセンサー用架橋エラストマー体によると、導電性フィラーの種類や添加量を調整することで、初期の導電性(抵抗)を所定の範囲に選択可能であるとともに、抵抗変化範囲を1桁から5桁以上まで制御できることから、抵抗変化型センサー性能のダイナミックレンジを選択することもできるという効果が得られる。また、無歪み状態における導電性(抵抗等)だけでなく、歪みに対する直流抵抗やインピーダンス増加の振る舞い、すなわち歪み応答感度を制御することもできる。
【0014】
さらに導電性フィラーを混合しても電気抵抗の変化が少なくなり電気抵抗変化が飽和する第二変極点における導電性フィラーの飽和体積分率(φs)が35vol%以上であると、最密充填パッキング状態が安定に形成されやすくなり、歪みに対して導電性フィラー間の接触状態が変化することに由来する抵抗増加挙動が発現しやすくなる。また、導電性フィラーの体積分率(充填量)が飽和体積分率(φs)以上の領域においては、抵抗が低いため、歪みに対する抵抗の増加範囲(導電体から絶縁体への導電性変化範囲)が広くなるという効果も得られる。
【0015】
また、下記の式(1)で表されるゲル分率が15%以下であると、導電性フィラー同士の凝集体に吸着・結合したエラストマー分が少なく、導電性フィラーがエラストマー中において非凝集状態で分散含有されるため好ましい。
【0016】
【数1】

【0017】
また、上記エラストマーが、シリコーンゴム,エチレン−プロピレン共重合ゴム,天然ゴム,スチレン−ブタジエン共重合ゴム,アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴムおよびアクリルゴムからなる群から選ばれた少なくとも一つであると、導電性フィラーとの相溶性が良好となる。
【0018】
また、上記センサー用架橋エラストマー体が、歪み印加面の片面もしくは両面に拘束板を有するものであると、曲げ歪みによる抵抗の増加を誘起することができる。
【0019】
また、本発明においては、汎用のエラストマーを用いることができることから、成型加工の自由度が極めて高く、さらにエラストマーの材料物性(弾性率等)を自由に設計できるため、目的とするセンシング対象範囲に即したヤング率のセンサー材料を提供することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0021】
本発明のセンサー用架橋エラストマー体は、圧縮または曲げ歪み印加状態における抵抗が、歪み量に応じて増加する抵抗増加型センサーに用いられる。
【0022】
なお、本発明において、「圧縮または曲げ歪み印加状態における抵抗が、歪み量に応じて増加する」とは、圧縮または曲げ歪みを印加した場合、直流抵抗またはインピーダンスが、歪み量に略比例することをいう。
【0023】
本発明のセンサー用架橋エラストマー体は、例えば、エラストマー中においても、大部分が一次粒子として存在すると期待される比較的大きな粒径の導電性フィラーが、そのフィラーと親和性が高い架橋構造のエラストマー(マトリクス)中に、非凝集状態で分散含有され、臨界体積分率(φc)が30vol%以上であるという構成をとる。
【0024】
ここで、本発明は、前記図2に示したように、架橋構造のエラストマー(マトリクス)1中の導電性フィラー2が最密充填に近いパッキング状態となるため、圧縮または曲げ歪みの非印加状態時には、エラストマー分(皮膜)(図示せず)を介した導電性フィラー2間の接触により、3次元的な導電パス(図において矢印で示す)を形成し、高い導電性(低抵抗)を発現する。一方、圧縮または曲げ歪みの印加状態では、図3に示したように、導電性フィラー2間の空間的な反発によって最密充填パッキング状態が変化し、導電性フィラー2間の接触が失われ、3次元的な導電パス(図において矢印で示す)が崩壊する。このように、圧縮または曲げ歪み印加状態における抵抗が、非印加状態時より、歪み量に応じて増加するため、導電性が低下(高抵抗)することが最大の特徴である。
【0025】
また、本発明において、導電性フィラーが非凝集状態であるとは、架橋エラストマー中においても、導電性フィラーの大部分(通常、50重量%以上)が一次粒子として存在し、凝集して二次粒子体を形成しないことをいう。
【0026】
上記特定の導電性フィラーとしては、導電性を有する粒子であれば特に限定はなく、例えば、カーボンブラック等の炭素材料や、微細な金属粒子等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、エラストマー中においても大部分が一次粒子として存在し、凝集して二次粒子体を形成しないフィラーが好ましい。具体的には、有機物であるエラストマーとの親和性が高く、エラストマー中で一次粒子として存在しやすい炭素系材料であること、また、無配向状態でも最密充填に近いパッキング状態を形成しやすい球状であること(球状でなく形状異方性を有するフィラーの場合においては、無配向状態においてパッキング状態を形成しにくいため)、ならびに、歪み印加時における導電性フィラー間の接触状態変化に方向の異方性を生じにくい等の点から、球状のカーボンブラック粒子が好ましい。
【0027】
上記特定の導電性フィラーの平均粒径(一次粒径)は、0.05〜100μmであり、好ましくは0.5〜60μm、特に好ましくは1〜30μmである。このように、上記導電性フィラーの平均粒径が大きいと、架橋エラストマー中においても、その大部分が一次粒子として存在することが期待されるからである。上記導電性フィラーの平均粒径(一次粒径)が、0.05μm未満であると、架橋エラストマー中で導電性フィラーが二次凝集し、パーコレーションの臨界体積分率(φc)が30vol%未満となるからであり、逆に、上記導電性フィラーの平均粒径(一次粒径)が100μmを超えると、歪みによる導電性フィラーの並進運動(平行運動)が粒径に比べて相対的に小さくなり、歪みに対する導電性変化が緩慢となるからである。
【0028】
また、上記導電性フィラーの粒径の頻度分布におけるD90/D10は、30以下が好ましく、特に好ましくは1〜10の範囲である。すなわち、上記D90/D10が30を超えると、粒径分布が広がり、歪みに対する導電性変化が不安定化し、繰り返し再現性が悪化する傾向がみられるからである。なお、本発明においては、粒径分布が狭いこれらの導電性フィラーを複数組み合わせて用いることも可能であり、この場合、組み合わせた導電性フィラー全体の粒径の頻度分布におけるD90/D10は、100以下であればよい。
【0029】
また、上記導電性フィラーは、長辺と短辺との比から定義されるアスペクト比は、1〜2の範囲が好ましく、形状が真球に近い方がより好ましい。すなわち、繊維状,鱗片状等の形態を有するアスペクト比が大きな導電性フィラーでは、無配向の導電性フィラー同士の接触による導電パスが形成しやすく、パーコレーションの臨界体積分率(φc)が30vol%未満となる傾向がみられるからである。また、アスペクト比の大きな導電性フィラーが存在すると、歪みに対する導電パスの低減(抵抗の増加現象)が抑制される傾向がみられるためである。
【0030】
なお、本発明においては、上記平均粒径が0.05〜100μmの球状導電性フィラーとともに、それ以外の導電性フィラー(例えば、針状導電性フィラー等)を併用しても差し支えない。
【0031】
上記導電性フィラーとしては、球状のカーボンブラック粒子が好ましい。この球状のカーボンブラック粒子の具体例としては、大阪ガスケミカル社製のメソカーボンマイクロビーズ〔MCMB6−28(平均粒径約6μm),MCMB10−28(平均粒径約10μm),MCMB25−28(平均粒径約25μm)〕や、日本カーボン社製のカーボンマイクロビーズ・ニカビーズICB,ニカビーズPC,ニカビーズMC,ニカビーズMSB〔ICB0320(平均粒径約3μm),ICB0520(平均粒径約5μm),ICB1020(平均粒径約10μm),PC0720(平均粒径約7μm),MC0520(平均粒径約5μm)〕や、日清紡社製のカーボンビーズ(平均粒径約10μm)等があげられる。
【0032】
上記特定の導電性フィラーの体積分率(導電性フィラーの体積/導電性組成物の体積×100)は、導電性組成物全体の30vol%以上が好ましく、特に好ましくは30〜65vol%の範囲であり、もっとも好ましくは35〜55vol%の範囲である。すなわち、上記導電性フィラーの体積分率が30vol%未満であると、導電性フィラーが最密充填に近い状態にならないため、導電性の発現が悪くなる傾向がみられるからである。
【0033】
つぎに、本発明においては、上記導電性フィラーとともにエラストマーが用いられる。本発明において、エラストマーとは、熱可塑性エラストマー等の狭義のエラストマーに限定されるものではなく、ゴムをも含む広い概念である。
【0034】
上記エラストマーとしては、導電性フィラーと親和性が高く、導電性フィラーとの混合におけるパーコレーションの臨界体積分率(φc)が30vol%以上、好ましくは臨界体積分率(φc)が35vol%以上となるものが用いられる。これは、導電性フィラーの臨界体積分率(φc)が30vol%未満であると、エラストマー中での導電性フィラーが非凝集状態で安定に存在せず、導電性フィラーが凝集したネットワーク構造を形成するため、歪み印加時における導電性変化が乏しいからである。
【0035】
上記エラストマーは、先に述べた式(1)で表されるゲル分率が、15%以下であるものが好ましく、特に好ましくはゲル分率が10%以下となるエラストマーが用いられる。このゲル分率は、バーコレーションの臨界体積分率(φc)の指標となる値である。すなわち、バーコレーションの臨界体積分率(φc)が30vol%未満となる場合には、導電性フィラー同士の凝集体に吸着・結合したエラストマー分が多く存在し、上記のゲル分率が大きな値で観察されるのに対し、バーコレーションの臨界体積分率(φc)が30vol%以上となる場合には、導電性フィラーがエラストマー中において非凝集状態で分散含有されているために、導電性フィラー同士の凝集体に吸着・結合したエラストマー分が少なく、上記のゲル分率が15%以下の小さな値となるからである。
【0036】
ここで、上記エラストマーの良溶媒としては、例えば、トルエン,テトラヒドロフラン,クロロホルム等があげられ、エラストマーと溶媒とのSP値(溶解度パラメータ)が近接することが望ましい。
【0037】
上記エラストマーとしては、例えば、天然ゴム(NR),イソプレンゴム(IR),ブタジエンゴム(BR),アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR),スチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR),エチレン−プロピレン共重合ゴム〔エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM),エチレン−プロピレン共重合体(EPM)等〕,ブチルゴム(IIR),ハロゲン化ブチルゴム(Cl−IIR,Br−IIR等),水素化ニトリルゴム(H−NBR),クロロプレンゴム(CR),アクリルゴム(AR),クロロスルフォン化ポリエチレンゴム(CSM),ヒドリンゴム,シリコーンゴム,フッ素ゴム,ウレタンゴム、合成ラテックス等のゴムや、スチレン系,オレフィン系,ウレタン系,ポリエステル系,ポリアミド系,フッ素系等の各種熱可塑性エラストマーおよびこれらの誘導体等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、導電性フィラーとの相溶性が極めて良好である点からEPDMが、また、導電性フィラーとの相溶性が良好である点からNBRやシリコーンゴムが好適に用いられる。
【0038】
なお、本発明における導電性組成物においては、上記導電性フィラーおよびエラストマーの必須成分とともに、加硫剤,加硫促進剤,加硫助剤,老化防止剤,可塑剤,軟化剤等の任意成分を必要に応じて適宜に配合しても差し支えない。
【0039】
本発明のセンサー用架橋エラストマー体は、例えば、つぎのようにして作製することができる。すなわち、エラストマーを必須成分とし、これに酸化亜鉛,ステアリン酸,パラフィン系プロセスオイル等の任意成分を必要に応じて適宜に添加し、これらをロール練り機にて素練りする。つぎに、ここに導電性フィラーを必須成分として添加して、ロール練り機を用いて混合、分散させる。ついで、これに加硫剤や加硫促進剤等の任意成分を必要に応じて適宜に添加して、ロール練り機を用いて混合、分散させることにより、導電性組成物を調製する。そして、上記導電性組成物を未架橋ゴムシートに賦形成形し、これを金型に充填し、所定の温度雰囲気下(例えば、170℃×30分)でプレス加硫することにより、目的とするセンサー用架橋エラストマー体(導電性組成物の架橋体)を作製することができる。
【0040】
本発明のセンサー用架橋エラストマー体は、導電性フィラーをエラストマーに混合していくと、電気抵抗が急激に低下して絶縁体−導電体転移が起こる第一変極点における導電性フィラーの臨界体積分率(φc)が30vol%以上であり、かつ、導電性フィラーの体積分率(充填量)が臨界体積分率(φc)以上の領域において、圧縮または曲げ歪み印加状態における抵抗が、非印加状態時より、歪み量に応じて増加することが最大の特徴である。
【0041】
このように、本発明のセンサー用架橋エラストマー体は、上記臨界体積分率(φc)が30vol%以上であることが必要であり、好ましくは35vol%以上である。すなわち、臨界体積分率(φc)が30vol%未満であると、エラストマー中での導電性フィラーが非凝集状態で安定に存在せず、導電性フィラーが凝集したネットワーク構造を形成するため、歪み印加時における導電性変化が乏しいからである。
【0042】
また、本発明のセンサー用架橋エラストマー体は、最密充填パッキング状態が安定に形成されやすくなり、歪みに対して導電性フィラー間の接触状態が変化することに由来する抵抗増加挙動が発現しやすくなること、また、抵抗が低いため歪みに対する抵抗の増加範囲(導電体から絶縁体への導電性変化範囲)が広くなるという効果が得られる等の点から、先に述べた飽和体積分率(φs)が35vol%以上であることが好ましく、特に好ましくは40vol%以上である。
【0043】
ここで、上記臨界体積分率(φc)もしくは飽和体積分率(φs)は、通常、導電性フィラーとエラストマーとの組み合わせを選択する等の方法により、上記範囲に調整することができる。
【0044】
また、本発明のセンサー用架橋エラストマー体は、曲げ歪みによる抵抗の増加を誘起するため、センサー用架橋エラストマー体の歪み印加面4の片面(図4参照)もしくは両面(図5参照)を拘束板5によって固着することが好ましい。
【0045】
上記拘束板5としては、特に限定はなく、例えば、ポリエチレン(PE),ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリイミド(PI)等の樹脂フィルムや、制振鋼板等の金属板等があげられる。
【0046】
本発明のセンサー用架橋エラストマー体は、圧縮または曲げ歪みの非印加時(無歪み時)には、体積抵抗が約100MΩ・cm以下の導電体(半導電体を含む)であるが、圧縮または曲げ歪みの印加とともに抵抗が増加して絶縁体となる。この場合、導電性フィラーの種類や添加量を調整することで、初期の導電性(抵抗)を所定の範囲に選択可能であるとともに、抵抗変化範囲を1桁から5桁以上まで制御できることから、抵抗変化型センサー性能のダイナミックレンジを選択することができる。
【実施例】
【0047】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
〔実施例1〕
〔球状カーボンを含有した架橋EPDM(高導電体)の作製〕
油展エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)(住友化学社製、エスプレン6101)85重量部(以下「部」と略す)(85g)と、油展EPDM(住友化学社製、エスプレン601)34部(34g)と、EPDM(住友化学社製、エスプレン505)30部(30g)と、酸化亜鉛(白水化学工業社製、酸化亜鉛2種)5部(5g)と、ステアリン酸(花王社製、ルナックS30)1部(1g)と、パラフィン系プロセスオイル(日本サン石油社製、サンパー110)20部(20g)とをロール練り機にて素練りし、ここに球状カーボン(日本カーボン社製、ニカビーズICB0520、平均粒径:5μm、粒径の頻度分布:D90/D10=3.2)270部(270g)を添加して、ロール練り機を用いて混合、分散させた。つぎに、加硫促進剤であるジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興化学社製、ノクセラーPZ−P)1.5部(1.5g)と、加硫促進剤であるテトラメチルチウラムジスルフィド(三新化学社製、サンセラーTT−G)1.5部(1.5g)と、加硫促進剤である2−メルカプトベンゾチアゾール(大内新興化学社製、ノクセラーM−P)0.5部(0.5g)と、硫黄(鶴見化学工業社製、サルファックスT−10)0.56部(0.56g)とを添加して、ロール練り機を用いて混合、分散させて、導電性組成物を調製した。この導電性組成物中の球状カーボン(導電性フィラー)の体積分率は約48vol%であり、パーコレーションの臨界体積分率(φc)は43vol%、飽和体積分率(φs)は48vol%であった。また、この未架橋の導電性組成物を良溶媒(トルエン)にて溶解し、溶剤不溶分を測定することによって得られるゲル分率は約3%であった。
【0049】
つぎに、上記導電性組成物を、未架橋ゴムシート(大きさ:150mm×1500mm、厚み:2mm)に成形した。この未架橋ゴムシートを、図6に示すように、縦10mm×横10mm×高さ5mmの直方体の金型に充填し、高さ方向両側端面に対して一対の銅板(電極)6を配置して、170℃×30分の温度雰囲気下でプレス加硫して、電極6が固着した架橋EPDM(架橋体)7を作製し、センサー本体を得た。交流電流や電圧の大きさに基づいて、電気回路におけるインピーダンスの値を測定するインピーダンス計測装置8を用いて、センサー材料の評価を行った。このインピーダンス計測装置8としては、誘電体テスト電極治具(ヒューレットパッカードカンパニー社製、HP−16451B)と、インピーダンスアナライザー(ヒューレットパッカードカンパニー社製、HP−4194A)とを採用した。そして、図7に示すように、上記センサー本体の厚み方向に圧縮歪みを印加しながら、上記インピーダンス計測装置8を用いて、インピーダンスの周波数特性(Z−f)を測定した。その結果を、図8に示した。
【0050】
図8の結果から、0.1kHzにおけるインピーダンスは、無歪みのとき約1kΩであるが、歪み印加とともに増大し、500μm圧縮歪み(10%歪み)を印加すると約10MΩ(104 kΩ)となり、さらに大きな歪みを印加すると約100MΩ(105 kΩ)以上となった。すなわち、この架橋体は、圧縮歪みの印加によって、抵抗Rが約1kΩの導電体から絶縁体まで5桁以上変化することが示された。
【0051】
〔実施例2〕
〔球状カーボンを含有した架橋EPDM(中導電体)の作製〕
上記球状カーボン(日本カーボン社製、ニカビーズICB0520)の配合量を260部(260g)に変更する以外は、実施例1と同様にして、導電性組成物を調製した。この導電性組成物中の球状カーボン(導電性フィラー)の体積分率は、約47vol%であり、パーコレーションの臨界体積分率(φc)は43vol%、飽和体積分率(φs)は48vol%であった。
【0052】
つぎに、上記導電性組成物を、未架橋ゴムシート(大きさ:150mm×1500mm、厚み:2mm)に成形した。この未架橋ゴムシートを、実施例1の図6と同様にして、、縦10mm×横10mm×高さ5mmの直方体の金型に充填し、高さ方向両側端面に対して一対の銅板(電極)6を配置して、170℃×30分の温度雰囲気下でプレス加硫して、電極6が固着した架橋EPDM(架橋体)7を作製し、センサー本体を得た。このセンサー本体を用い、実施例1の図7と同様にして、厚み方向に圧縮歪みを印加しながら、インピーダンスの周波数特性(Z−f)を測定した。その結果を、図9に示した。
【0053】
図9の結果から、0.1kHzにおけるインピーダンスは、無歪みのとき約200kΩであるが、歪み印加とともに増大し、200μm圧縮歪み(4%歪み)を印加すると約3MΩ(3000kΩ)となり、さらに大きな歪みを印加すると、100MΩ(105 kΩ)以上となった。すなわち、この架橋体は、圧縮歪みの印加によって、抵抗Rが約200kΩの半導電体から絶縁体まで変化することが示された。
【0054】
〔実施例3〕
〔球状カーボンを含有した架橋EPDM(低導電体)の作製〕
上記球状カーボン(日本カーボン社製、ニカビーズICB0520)の配合量を240部(240g)に変更する以外は、実施例1と同様にして、導電性組成物を調製した。この導電性組成物中の球状カーボン(導電性フィラー)の体積分率は、約45vol%であり、パーコレーションの臨界体積分率(φc)は43vol%、飽和体積分率(φs)は48vol%であった。
【0055】
つぎに、上記導電性組成物を、未架橋ゴムシート(大きさ:150mm×1500mm、厚み:2mm)に成形した。この未架橋ゴムシートを、実施例1の図6と同様にして、、縦10mm×横10mm×高さ5mmの直方体の金型に充填し、高さ方向両側端面に対して一対の銅板(電極)6を配置して、170℃×30分の温度雰囲気下でプレス加硫して、電極6が固着した架橋EPDM(架橋体)7を作製し、センサー本体を得た。このセンサー本体を用い、実施例1の図7と同様にして、厚み方向に圧縮歪みを印加しながら、インピーダンスの周波数特性(Z−f)を測定した。その結果を、図10に示した。
【0056】
図10の結果から、0.1kHzにおけるインピーダンスは、無歪みのとき約3MΩ(3000kΩ)であるが、歪み印加とともに増大し、50μm圧縮歪み(1%歪み)を印加すると約10MΩとなり、さらに大きな歪みを印加すると、100MΩ(105 kΩ)以上となった。すなわち、この架橋体は、圧縮歪みの印加によって、抵抗Rが約3MΩの半導電体から絶縁体まで変化することが示された。
【0057】
ここで、実施例1,2,3品における静的圧縮歪みと,各周波数(f=0.1kHz,10kHz,500kHz)におけるインピーダンス変化との関係を、図11〜図13に示した。図11〜図13の結果から、実施例1〜3のように、球状カーボン(導電性フィラー)の配合量を調整することによって、各架橋体の初期状態の導電性を制御できる(実施例1品:高導電体、実施例2品:中導電体、実施例3品:低導電体)と同時に、静的圧縮歪みに対する導電性の変化率も制御可能であることがわかった。また、これらの架橋体は、ゴム材料であるため形状設計の自由度が大きく、歪みによる導電性変化率を自由に制御できるため、これらの架橋体は歪み検知センサー材料等に応用が可能であるといえる。
【0058】
〔実施例4〕
〔球状カーボンを含有した架橋シリコーンゴム(高導電体)の作製〕
シリコーンゴム(信越化学工業社製、KE931−U)100部(200g)をロール練り機にて素練りし、ここに球状カーボン(日本カーボン社製、ニカビーズICB0520)78部(156g)を添加して、ロール練り機を用いて混合、分散させた。つぎに、ここに、架橋剤である2,5−ジメチル−2,5−ビス(ターシャリーブチルパーオキシ)ヘキサンの25%含有物(信越化学工業社製、C−8)2部(4.0g)を添加して、ロール練り機を用いて混合、分散させた。この導電性組成物中の球状カーボン(導電性フィラー)の体積分率は、約37vol%であり、パーコレーションの臨界体積分率(φc)は34vol%、飽和体積分率(φs)は50vol%であった。
【0059】
つぎに、上記導電性組成物を、未架橋ゴムシート(大きさ:150mm×1500mm、厚み:2mm)に成形した。この未架橋ゴムシートを、実施例1の図6と同様にして、縦10mm×横10mm×高さ3mmの直方体の金型に充填し、高さ方向両側端面に対して一対の銅板(電極)6を配置して、170℃×30分の温度雰囲気下でプレス加硫して、電極6が固着した架橋シリコーンゴム(架橋体)7を作製し、センサー本体を得た。このセンサー本体を用い、実施例1の図7と同様にして、厚み方向に圧縮歪みを印加しながら、インピーダンスの周波数特性(Z−f)を測定した。その結果を、図14に示した。
【0060】
図14の結果から、0.1kHzにおけるインピーダンスは、無歪みのとき約1kΩであるが、歪み印加とともに増大し、500μm圧縮歪み(17%歪み)を印加すると約100kΩとなり、750μm圧縮歪み(25%歪み)を印加すると約2MΩ(2000kΩ)となり、さらに大きな歪みを印加すると100MΩ(105 kΩ)以上となった(図示せず)。すなわち、この架橋体は、圧縮歪みの印加によって、抵抗Rが約1kΩの導電体から絶縁体まで変化することが示された。
【0061】
また、実施例4における静的圧縮歪みと、各周波数(f=10kHz,500kHz)におけるインピーダンス変化との関係を、図15に示した。図15の結果から、実施例4品は、圧縮歪みに応じたインピーダンス変化を示すことがわかった。
【0062】
〔実施例5〕
〔低ストラクチャー汎用カーボンブラックを含有した架橋EPDMの作製〕
上記球状カーボン(日本カーボン社製、ニカビーズICB0520)に代えて、低ストラクチャー汎用カーボンブラック(旭カーボン社製、アサヒサーマル、平均粒径:0.08μm)175部(175g)を用いる以外は、実施例1と同様にして、導電性組成物を調製した。この導電性組成物中の低ストラクチャー汎用カーボンブラック(導電性フィラー)の体積分率は、約32vol%であり、パーコレーションの臨界体積分率(φc)は32vol%、飽和体積分率(φs)は50vol%であった。また、この未架橋の導電性組成物を良溶媒(トルエン)にて溶解し、溶剤不溶分を測定することによって得られるゲル分率は約11%であった。
【0063】
つぎに、上記導電性組成物を、未架橋ゴムシート(大きさ:150mm×1500mm、厚み:2mm)に成形した。この未架橋ゴムシートを、実施例1の図6と同様にして、縦10mm×横10mm×高さ3mmの直方体の金型に充填し、高さ方向両側端面に対して一対の銅板(電極)6を配置して、170℃×30分の温度雰囲気下でプレス加硫して、電極6が固着した架橋EPDM(架橋体)7を作製し、センサー本体を得た。このセンサー本体を用い、実施例1の図7と同様にして、厚み方向に圧縮歪みを印加しながら、インピーダンスの周波数特性(Z−f)を測定した。その結果を、図16に示した。
【0064】
図16の結果から、0.1kHzにおけるインピーダンスは、無歪みのとき約3MΩ(3000kΩ)であり、歪み印加すると約200μmの圧縮歪み(7%歪み)迄は歪みの増大とともにインピーダンスが減少した。それ以上の歪みを印加すると、緩やかにインピーダンスが増大し、750μmの圧縮歪み(25%歪み)を印加すると約10MΩ(104 kΩ)となり、さらに大きな歪みを印加すると徐々に100MΩ(105 kΩ)以上となった(図示せず)。すなわち、この架橋体は、圧縮歪みの印加によって、抵抗Rが約3MΩの半導電体から絶縁体まで変化することが示されたが、圧縮歪み印加に対し単調に抵抗が増加せず、約7%の圧縮歪み以上の領域(圧縮歪み200μm以上の領域)においてのみ抵抗増加型ゴムセンサーとして利用できる。また、実施例5においては、200μm程度の予備圧縮をかけて(予め200μmのオフセットをかけて)印加した状態を初期値として使用することにより、抵抗増加域のみを用いた抵抗増加型ゴムセンサーすることも可能である。なお、実施例1〜4の球状カーボン(導電性フィラー)を用いた方が、実施例5の低ストラクチャー汎用カーボンブラック(導電性フィラー)を用いる場合に比べて、歪みに対する導電性変化が単純であるため、センサー用材料としてより好ましい。
【0065】
また、実施例5における静的圧縮歪みと、各周波数(f=10kHz,500kHz)におけるインピーダンス変化との関係を、図17に示した。図17の結果から、実施例5品は、圧縮歪みに応じたインピーダンス変化を示すことがわかった。
【0066】
〔比較例1〕
〔球状カーボンを含有した架橋EPDM(絶縁体)の作製〕
上記球状カーボン(日本カーボン社製、ニカビーズICB0520)の配合量を100部(100g)に変更する以外は、実施例1と同様にして、導電性組成物を調製した。この導電性組成物中の球状カーボン(球状導電性フィラー)の体積分率は、約26vol%であり、パーコレーションの臨界体積分率(φc)は43vol%、飽和体積分率(φs)は48vol%であった。
【0067】
つぎに、上記導電性組成物を、未架橋ゴムシート(大きさ:150mm×1500mm、厚み:2mm)に成形した。この未架橋ゴムシートを、実施例1の図6と同様にして、縦10mm×横10mm×高さ5mmの直方体の金型に充填し、高さ方向両側端面に対して一対の銅板(電極)6を配置して、170℃×30分の温度雰囲気下でプレス加硫して、電極6が固着した架橋EPDM(架橋体)7を作製し、センサー本体を得た。このセンサー本体を用い、実施例1の図7と同様にして、厚み方向に圧縮歪みを印加しながら、インピーダンスの周波数特性(Z−f)を測定した。その結果を、図18に示した。
【0068】
図18の結果から、この材料は絶縁体であり、歪み印加に対してインピーダンス変化を伴わず、歪みのセンシングに適用が困難であった。これは、実施例1〜3品と同様に、臨界体積分率(φc)が30vol%以上となるエラストマーと、導電性フィラーとの組み合わせであるが、比較例1品は、導電性フィラーの体積分率(充填量)が臨界体積分率(φc)より小さいため、導電性フィラーが最密充填に近いパッキング状態をとらない。そのため、導電パスが形成されず、歪みを印加しても絶縁体のままで導電性に変化が認められなかった〔抵抗Rが極めて大きく、R=∞(無限大)のままであった〕。
【0069】
〔比較例2〕
天然ゴム(リブドスモークドシート♯3 W18370)100部(100g)と、酸化亜鉛(白水化学工業社製、酸化亜鉛2種)5部(5g)と、ステアリン酸(花王社製、ルナックS30)1部(1g)とをロール練り機にて素練りし、ここにHAFカーボンブラック(昭和キャボット社製、ショウブラックN330、平均粒径:0.03μm)100部(100g)を添加して、ロール練り機を用いて混合、分散させた。つぎに、加硫促進剤であるシクロヘキシルベンゾチアゾイルスルフェンアミド(大内新興化学社製、ノクセラーCZ)1部(1g)と、硫黄(鶴見化学工業社製、サルファックスT−10)1.5部(1.5g)とを添加して、ロール練り機を用いて混合、分散させて、導電性組成物を調製した。この導電性組成物中のHAFカーボンブラック(導電性フィラー)の体積分率は、約33vol%であり、パーコレーションの臨界体積分率(φc)は27vol%、飽和体積分率(φs)は33vol%であった。
【0070】
つぎに、上記導電性組成物を、未架橋ゴムシート(大きさ:150mm×1500mm、厚み:2mm)に成形した。この未架橋ゴムシートを、実施例1の図6と同様にして、縦10mm×横10mm×高さ3mmの直方体の金型に充填し、高さ方向両側端面に対して一対の銅板(電極)6を配置して、150℃×20分の温度雰囲気下でプレス加硫して、電極6が固着した架橋天然ゴム(架橋体)7を作製し、センサー本体を得た。このセンサー本体を用いて、実施例1の図7と同様にして、厚み方向に圧縮歪みを印加しながら、インピーダンスの周波数特性(Z−f)を測定した。その結果を、図19に示した。
【0071】
図19の結果から、この材料は高導電体であり、歪み印加に対してわずかに抵抗が低下する(圧縮歪みによって導電性が向上する)が、その変化幅は小さく、また、本発明の目的とする抵抗増加型センサー材料とはなり得ないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のセンサー用架橋エラストマー体は、例えば、面圧検知による自動車用着座状態検知センサー,ベッド用面圧分布センサー,描画用タブレットセンサー、曲げ状態検知による自動車用衝突状態検知センサー,ロボットの関節の曲げ状態検知センサー,生体の運動状態検知センサー(モーションキャプチャ,呼吸状態や筋肉の弛緩状態等の生体運動検知等),窓ガラスの破壊状態検知センサー等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】導電性フィラーと絶縁性のエラストマーとを必須成分とする導電性組成物における、導電性フィラーの体積分率と電気抵抗との関係を表すパーコレーションカーブの模式図である。
【図2】本発明のセンサー用架橋エラストマー体(歪み非印加時)の導電性発現メカニズムを示す模式図である。
【図3】本発明のセンサー用架橋エラストマー体(圧縮歪み印加時)の導電性発現メカニズムを示す模式図である。
【図4】片面に拘束板を固着した、本発明のセンサー用架橋エラストマー体の一例を示す模式図である。
【図5】両面に拘束板を固着した、本発明のセンサー用架橋エラストマー体の一例を示す模式図である。
【図6】電極を固着したセンサー用架橋エラストマー体(歪み非印加時)のインピーダンスの計測を示す模式図である。
【図7】電極を固着したセンサー用架橋エラストマー体(圧縮歪み印加時)のインピーダンスの計測を示す模式図である。
【図8】実施例1品における静的圧縮歪みに対するインピーダンスの周波数特性(Z−f)を示すグラフ図である。
【図9】実施例2品における静的圧縮歪みに対するインピーダンスの周波数特性(Z−f)を示すグラフ図である。
【図10】実施例3品における静的圧縮歪みに対するインピーダンスの周波数特性(Z−f)を示すグラフ図である。
【図11】実施例1,2,3品における静的圧縮歪みと,周波数(f=0.1kHz)におけるインピーダンス変化との関係を示すグラフ図である。
【図12】実施例1,2,3品における静的圧縮歪みと,周波数(f=10kHz)におけるインピーダンス変化との関係を示すグラフ図である。
【図13】実施例1,2,3品における静的圧縮歪みと,周波数(f=500kHz)におけるインピーダンス変化との関係を示すグラフ図である。
【図14】実施例4品における静的圧縮歪みに対するインピーダンスの周波数特性(Z−f)を示すグラフ図である。
【図15】実施例4品における静的圧縮歪みと,各周波数におけるインピーダンス変化との関係を示すグラフ図である。
【図16】実施例5品における静的圧縮歪みに対するインピーダンスの周波数特性(Z−f)を示すグラフ図である。
【図17】実施例5品における静的圧縮歪みと,各周波数におけるインピーダンス変化との関係を示すグラフ図である。
【図18】比較例1品における静的圧縮歪みに対するインピーダンスの周波数特性(Z−f)を示すグラフ図である。
【図19】比較例2品における静的圧縮歪みに対するインピーダンスの周波数特性(Z−f)を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0074】
1 エラストマー(マトリクス)
2 導電性フィラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性フィラーと絶縁性のエラストマーとを必須成分とする導電性組成物からなるセンサー用架橋エラストマー体であって、上記導電性フィラーの形状が球状で、その平均粒径が0.05〜100μmであり、この導電性フィラーをエラストマーに混合していくと、電気抵抗が急激に低下して絶縁体−導電体転移が起こる第一変極点における導電性フィラーの臨界体積分率(φc)が30vol%以上であり、かつ、導電性フィラーの体積分率が臨界体積分率(φc)以上の領域において、圧縮または曲げ歪み印加状態における抵抗が、非印加状態時より、歪み量に応じて増加することを特徴とするセンサー用架橋エラストマー体。
【請求項2】
さらに導電性フィラーを混合しても電気抵抗の変化が少なくなり電気抵抗変化が飽和する第二変極点における導電性フィラーの飽和体積分率(φs)が35vol%以上であり、かつ、導電性フィラーの体積分率が飽和体積分率(φs)以上の領域において、圧縮または曲げ歪み印加状態における抵抗が、非印加状態時より、歪み量に応じて増加する請求項1記載のセンサー用架橋エラストマー体。
【請求項3】
下記の式(1)で表されるゲル分率が、15%以下である請求項1または2記載のセンサー用架橋エラストマー体。
【数1】

【請求項4】
上記導電性フィラーが球状のカーボンブラック粒子である請求項1〜3のいずれか一項に記載のセンサー用架橋エラストマー体。
【請求項5】
上記エラストマーが、シリコーンゴム,エチレン−プロピレン共重合ゴム,天然ゴム,スチレン−ブタジエン共重合ゴム,アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴムおよびアクリルゴムからなる群から選ばれた少なくとも一つである請求項1〜4のいずれか一項に記載のセンサー用架橋エラストマー体。
【請求項6】
上記センサー用架橋エラストマー体が、歪み印加面の片面もしくは両面に拘束板を有する請求項1〜5のいずれか一項に記載のセンサー用架橋エラストマー体。
【請求項7】
形状が球状で、その平均粒径が0.05〜100μmである導電性フィラーと、絶縁性のエラストマーとを準備し、この導電性フィラーとエラストマーとを必須成分とし、加硫剤を任意成分として、導電性組成物中の導電性フィラーの体積分率を30vol%以上にした状態で混合することにより導電性組成物化し、この導電性組成物を所定の形状に賦形したのち架橋することにより、請求項1〜6のいずれか一項に記載のセンサー用架橋エラストマー体を製造することを特徴とするセンサー用架橋エラストマー体の製法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate


【公開番号】特開2008−69313(P2008−69313A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250938(P2006−250938)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】