センサ基板及びバイオセンサ
【課題】異常反射の変化率が金より大きいセンサ基板を提供する。
【解決手段】光に対する異常反射の反射率変化から吸着又は結合する対象分子3を検出するセンサ基板1であって、金等の非酸化性金属を基礎成分とし、銀等の酸化性金属又は酸化銀等の金属酸化物を含む、波長380ないし500nmのいずれかの光に対して非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈する。
【解決手段】光に対する異常反射の反射率変化から吸着又は結合する対象分子3を検出するセンサ基板1であって、金等の非酸化性金属を基礎成分とし、銀等の酸化性金属又は酸化銀等の金属酸化物を含む、波長380ないし500nmのいずれかの光に対して非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセンサ基板及びバイオセンサに関する。詳しくは、異常反射を用いて検出対象物質を高感度に検出するためのセンサ基板及びバイオセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
DNAや蛋白質などのバイオセンシングは、検出対象分子(アナライト)に特異的な相互作用を有するリガンド分子を金などの基板や微粒子上に塗布し、そこへのアナライトの結合の有無を検出する。
【0003】
図11はバイオセンシングの原理を説明するための図である。金などのセンサ基板1上に検出対象分子2(analyte:アナライト)に相補的な(親和性の強い)分子3(ligand:リガンド)の分子層を形成する。この基板1を試料溶液中に浸した際に、アナライト2があれば、その相互作用(親和力)により選択的にリガンド3に吸着又は結合する。アナライト2とリガンド3は互いに相補的であるため鍵と鍵穴のような関係になっており、相補的な物質同士の相互作用は大変強力であるが、相補的でない物質同士の相互作用は非常に弱い。センサ基板1に光を照射し、相補的な分子の吸着や結合による屈折率変化などを反射光強度、散乱光強度、共鳴波長などの光信号の変化により検出する。たとえば、リガンド3としてオリゴヌクレオチドを用いれば、相補的な塩基配列を持つオリゴDNAがハイブリダイゼーションを起し、その検出ができる。また、リガンド3として抗体を用いた実験では、検出対象となる抗リガンド抗体を高感度に検出することが可能である。同様の原理で、脂質−タンパク質、糖−タンパク質の相互作用の検出も可能であり、この手法の汎用性は高い。
【0004】
アナライト2の結合量は1ng/mm2以下であり非常に少ない。結合に伴う反射率変化は小さく、通常の光学的手法でそれを検出することは困難である。そのため、表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance:SPR)や金ナノ微粒子中の局在プラズモン共鳴(localized surface plasmon resonance:LPR)などを用いて増感が行なわれてきた。SPRを用いたバイオセンシングでは、一般に全反射減衰法(attenuated total reflection:ATR)を用いてプリズム底面に堆積された金属薄膜中に生じる伝搬型表面プラズモン(surface plasmons:SPs)を励起する。かかる手法を以下ATR−SPRと呼ぶ。
【0005】
図12は従来の全反射減衰法(ATR)によるバイオセンサを説明するための図である。図12(a)にバイオセンサ10Aの構成例を示す。プリズム5の底面に金等の金属薄膜6(例えば46.5nm厚)が堆積され、金属薄膜6の表面にはリガンド3が固定されている。このバイオセンサ10Aを容器に入れて、容器に検出対象分子(アナライト)2を含む試料を注入する。プリズム5の底面に対する法線から入射角θ(全反射が起こる条件)で入射光7を入射する。p−偏光の光の反射率は、共鳴角θrで最小となり、表面プラズモン共鳴により金属薄膜6の表面に表面プラズモン(surface plasmons:SPs)8が生成され、入射光7のエネルギーは薄膜中の表面プラズモン8に変換され、反射光9の反射率が減少する。反射光9を光検出器で検出する。図12(b)に光の入射角θと反射率Rの関係を示す。共鳴角θrは金属薄膜6近傍の屈折率や物質の有無に敏感であるため、その表面をあらかじめリガンド3で修飾しておけばアナライト2の結合を共鳴角変化Δθrとして読み取ることができる。例えば屈折率が1.5で厚さが1nmの超薄膜が表面に吸着することにより、共鳴角は高角度側へ約0.2度シフトし、反射率に差が生じる。この表面プラズモンセンサ10Aは高感度であり、超薄膜試料に蛍光色素などのラベルを用いなくても単分子層以下のアナライト2の吸着や脱離を観測可能である。
【0006】
この方法を利用したバイオセンサはすでに市販品も多く、現在では生化学や遺伝子工学の分野では欠くことのできないツールとなっている。しかしながら、固定化された光学系が必要であり全反射減衰法を用いなければならず他の測定手法との組み合わせに制限がある、金の膜厚が45〜55nmの間でなければ高感度の測定が難しいなどの改良すべき点も多い。他方、LPRは金ナノ微粒子や粗い金属表面などに励起される表面プラズモンである。ATR−SPRとは異なり、LPRを励起するためには微粒子に光を照射すればよい。特定の入射角で光を入射する必要がないため固定化された光学系を組む必要がなく、市販の分光器を用いて透過や反射、散乱スペクトル測定を行うことによりセンシング可能であるなどの利点がある。
【0007】
数年前に発明者達は、青や紫の光に対する金表面の反射率が50%以下となることを利用して、単純な反射測定でDNAや蛋白質の検出が可能であることを示した。金は金属であるが、光学的には青や紫の光に対しては誘電体的な性質を示す。そのため、青や紫の光に対する反射率は50%程度であり、それゆえ黄色がかった色を呈する。これらの光に対する金表面の反射率は、物質の吸着や結合に伴い比較的大きく低下する。例えば、空気中で金の表面は波長470nmの光に対して1ng/mm2の分子の結合により約1.3%の反射率変化を与える。これを金の異常反射(anomalous reflection:AR)という。金の異常反射(AR)を利用した分子間相互作用測定法は、波長500nm以下の光を入射して金の反射率が低下する現象を利用したもので、金表面上に分子膜が生成すると、分子と金表面の間に多重反射が起こることにより、結合量を高い感度で検知できる。銀やアルミニウムなどの金属の場合には可視光領域では1ng/mm2の分子の結合による反射率変化は0.02%程度である。金でも、赤や黄色の光に対しては同程度の反射率変化を示すが、青や紫の光に対しては、金属的というよりはむしろ誘電体的な反射応答をするためにこのような現象が起こる。(非特許文献1、非特許文献2参照)
【0008】
【非特許文献1】Mitsuaki Watanabe and Kotaro Kajikawa,“An optical fiber biosensor based on anomalous reflection of gold” Sens.Actuators B89 (2003) 126−130.
【非特許文献2】S.Watanabe,K.Usui,K.−Y.Tomizaki,K.Kajikawa,H.Mihara,“Anomalous Reflection of Gold Applicable for a Practical Protein−Detecting Chip Platform” Mol.BioSystems 1 (2005) 363−365.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
局在型表面プラズモン(LPR)において、定量的な測定をするためには、あらかじめ検量線を作る必要がある、分子のサイズにより感度の補正が必要であるなどの問題があった。
【0010】
他方、異常反射(AR)は、垂直入射でも斜め入射でもよく、金薄膜の膜厚制限も無い。そのため、垂直入射での単純な反射率測定により金表面に結合、吸着した微量物質を定量的に計測することが可能であり、測定光学系の構成も簡易にできる。また、入射光の単色性もあまり問題とならないため発光ダイオード(light emitting diode:LED)などのインコヒーレント光源を利用できるので、装置の小型化、低コスト化も容易である。金を用いた場合には感度はSPRと比べて幾分劣るが、単純な光学系を用いるため様々な使い方が可能である。空気中で1ng/mm2の分子の結合によりATR−SPRでは最大12%の反射率変化を得られるが、金表面でのARでの反射率変化は約1.3%である。金表面でのARは感度が低いことが欠点であるが、発明者達は、これを改善する金属合金や金属と金属酸化物、誘電体などとの混合材料を生み出すことを検討した。
【0011】
本発明は、異常反射の変化率が金より大きいセンサ基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明による第1の態様のセンサ基板1は、例えば図3に示すように、光に対する異常反射の反射率変化から吸着又は結合する対象物質2を検出するセンサ基板1であって、金等の非酸化性金属を基礎成分とし、銀等の酸化性金属又は酸化銀等の金属酸化物を含む、波長380ないし500nmのいずれかの光に対して非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈する。
【0013】
ここにおいて、非酸化性金属と酸化性金属又は金属酸化物とは、粒子混合構造で(粒状で混じり合って)も良く、2相混合構造で(2相が相互に入り乱れて混じり合って)も良く(1つの相が他の相内に分散している分散構造を含む)、合金構造で(合金として混じり合って)も良く、積層構造で(交互に積層されて交じり合って)も良い。また、酸化性金属がセンサ基板表面に露出している場合は露出面が酸化されていても良く(大気中では自然酸化される)、粒状で存在する場合は粒表面が酸化されていても良い。また、酸化は意図的になされても良く、自然酸化でも良い。また、金属酸化物は金属全体が酸化されていても良く、一部が酸化されていても良い。また、波長380ないし500nmの任意の波長で所定の範囲の複素誘電率を満たせば良いが、全範囲で満たしても良く、一部の範囲で満たしても良い。このように構成すると、センサ基板は非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を有するために、異常反射の反射率変化が大きくなり、高感度のセンサ基板を提供できる。なお、所定の範囲については第6の態様を参照されたい。
【0014】
また、本発明による第2の態様は、第1の態様のセンサ基板において、非酸化性金属が金であり、酸化性金属が銀であるか又は金属酸化物が酸化銀であって、金と銀の重量比が100対1から50対50である。
このように構成すると、金と銀の合金でセンサ基板を構成でき、高感度のセンサ基板を容易に提供できる。
【0015】
また、本発明による第3の態様のセンサ基板は、光に対する異常反射の反射率変化から吸着又は結合する対象物質2を検出するセンサ基板1であって、金等の非酸化性金属を基礎成分とし、シリコン酸化物、フッ化マグネシウム等の誘電体を含む、波長380ないし500nmのいずれかの光に対して非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈する。
このように構成すると、誘電体の存在により、センサ基板は非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい複素誘電率を有するために、異常反射の反射率変化が大きくなり、高感度のセンサを提供できる。
【0016】
また、本発明による第4の態様は、第3の態様のセンサ基板において、非酸化性金属と前記誘電体の組み合わせは、粒子混合構造、2相混合構造(分散構造を含む)又は積層構造である。
ここにおいて各構造については第1の態様を参照されたい。また、交互積層膜の膜厚は反射光間の干渉が無いように波長に比べて十分小さくすることが好ましい。このように構成すると、誘電体を含むセンサ基板を上記いずれかの構造で比較的容易に作製できる。
【0017】
また、本発明による第5の態様のセンサ基板は、光に対する異常反射の反射率変化から吸着又は結合する対象物質2を検出するセンサ基板1であって、金等の非酸化性金属からなり、又は非酸化性金属を基礎成分とし、多孔性構造とすることにより、波長380ないし500nmのいずれかの光に対して非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈する。
ここにおいて、多孔性構造は空孔を多数有する構造でも良く、粒子混合構造で粒子間に局在化した多数の空隙が存在する構造でも良い。空孔は光の散乱が無いように波長に比して充分小さくすることが好ましい。このように構成すると、多孔性構造により、センサ基板は誘電率1の空孔を多数有するために、異常反射の反射率変化が大きくなり、高感度のセンサを提供できる。
【0018】
また、本発明による第6の態様は、第1ないし第5の態様のセンサ基板において、非酸化性金属が金であり、所定の範囲は実部が−1ないし3、虚部が0.3ないし4.5である。
このように構成すると、図2より略1.5%以上の反射率変化ΔRが得られ好適である。所定の範囲を実部が0ないし2、虚部が0.3ないし3とすると、略2%以上の反射率変化ΔRが得られなお好適である。所定の範囲を実部が0ないし2、虚部が0.3ないし2とすると、略3%以上の反射率変化ΔRが得られさらに好適である。
【0019】
また、本発明による第7の態様のバイオセンサ10は、第1ないし第6の態様のセンサ基板を備え、センサ基板1表面にリガンド3を形成したものである。
このように構成すると、高感度のセンサ基板を用いて、高感度のバイオセンサを提供できる。
【0020】
また、本発明による第8の態様のバイオセンサの製造方法は、例えば図4に示すように、第1ないし第4の態様のセンサ基板1として金等の非酸化性金属を基礎成分とし、銀等の酸化性金属、酸化銀等の金属酸化物又はシリコン酸化物、フッ化マグネシウム等の誘電体を含むものを堆積して形成する工程(S001)と、センサ基板1の表面に自己組織化単分子層4(図5参照)を浸漬法により形成する工程(S002)と、自己組織化単分子層4を浸漬法によりリガンド化する工程(S003)とを備える。
ここにおいて、センサ基板の堆積は、例えば、蒸着、スパッタリング、気相成長、沈積により可能である。このように構成すると、高感度のバイオセンサを容易に製造できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、異常反射の変化率が金より大きいセンサ基板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
[異常反射の反射率変化]
図1はセンサ基板1からの異常反射を説明するための図である。図1(a)にセンサ基板表面の媒質の配置を示す。媒質M1は通常空気、あるいは水であり屈折率n1とする。媒質M2はバイオセンシングする対象物質(DNAや蛋白質など)であり、屈折率n2、膜厚d2の連続誘電体媒質とみなす。媒質M3は屈折率n3の金属媒質であり、n3は複素数である。7は入射光、9は反射光である。図1(a)の配置を用いて光の反射を計算する。図1(b)に屈折率n2=1.5の媒質M2が媒質M3としての金に吸着した際の金表面の反射率変化ΔRの波長依存性を示す。媒質M2が存在しない場合の反射率をR0、存在する場合の反射率をR、反射率変化ΔR=(R−R0)/R0とし、反射率Rを光波長に対してプロットしたものである。金の誘電率は、非特許文献3(P.B.Johnson and R.W.Cristy,“Optical Constants of Noble Metals”,Phys.Rev.6(1972)4730−4379)の値を基に補間計算した。波長500nm以下の領域において媒質M2の吸着により約1.25%の反射率変化が生じることがわかる。一方、波長700nm付近の長波長領域では媒質M2が吸着しても反射率変化は無視できるほど小さい。これは、金に波長500nm以下の光を入射すると金の反射率が低下するという異常反射(AR)の現象に基づくものであり、金の表面上に分子膜が生成すると、分子膜と金表面の間に多重反射が起こることにより、反射率変化が増大される。通常、反射率変化は膜厚に比例するので(非特許文献1参照)、これにより、分子膜の結合量を高い感度で検知できる。
【0023】
図2は反射率変化ΔRを媒質M3の誘電率ε3の実部、虚部に対してプロットした図である。ここで、媒質M2の屈折率n2=1.5、膜厚d2=1.0nmとした。誘電率εと屈折率nの間にはε=n2の関係がある。明度が低い部分ほど反射率変化が大きい。非特許文献3の値から計算した波長470nmにおける金Auと銀Agの誘電率を図中の○印で示した。Agでは反射率変化ΔR=約0.2%と小さいが、Auでは反射率変化ΔR=約1.2%と大きい。さらに、発明者達は、媒質M3の誘電率ε3を矢印の方向に制御できれば、より一層大きな反射率変化ΔRが得られ、高い感度でARを用いたセンサ基板を作成できることに注目した。
【0024】
図2の矢印で示すような、媒質M3としての金等の非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈するセンサ基板を作製し、媒質M2としてのバイオ由来分子が結合すれば大きな反射率の変化が生じるので、バイオ由来分子を高感度で検出できる。所定の範囲を実部が−1ないし3、虚部が0.3ないし4.5であるとすると、図2より略1.5%以上の反射率変化ΔRが得られ好適である。所定の範囲を実部が0ないし2、虚部が0.3ないし3とすると、略2%以上の反射率変化ΔRが得られなお好適である。所定の範囲を実部が0ないし2、虚部が0.3ないし2とすると、略3%以上の反射率変化ΔRが得られさらに好適である。異常反射の反射率変化の測定は簡単な光学系で構成できるので、バイオセンシングチップやその検出システムの低コスト化が可能となる。これまで、この種の検査には表面プラズモン共鳴が広く用いられているが、異常反射の反射率変化の大きいセンサ基板や当該基板を用いたバイオセンサを供給できれば、表面プラズモン共鳴に代替してバイオセンシングに使用できる可能性がある。
【0025】
〔第1の実施の形態〕
図3に第1の実施の形態におけるバイオセンサ10の構成例を示す。センサ基板1は、光に対する異常反射の反射率変化から吸着又は結合する対象物質(アナライト)2を検出するためのものである。センサ基板1表面にアナライト2に相補的なリガンド3を形成する。センサ基板1は金Au等の非酸化性金属を基礎成分とし、銀Ag等の酸化性金属を含むものであれば良いが、本実施の形態では、センサ基板1は、AuとAgの合金で作成し、Agを酸化したものである。酸化方法は空気中の酸素による自然酸化でも良く、紫外線照射でオゾンを発生させて酸化しても良い。Ag自体の誘電率は図2に示すように負の値を有するが、Agの酸化物は一般に誘電体であり、誘電率は正の値を有する。そのため、Auを基礎成分としAgを含む媒質M3としてのセンサ基板1の誘電率εは、Agの酸化により図2の矢印の方向に変化する。すなわち、波長380ないし500nmの光に対して、非酸化性金属であるAuより実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈するように変化する。そのため、大きな反射率変化ΔRを有するセンサ基板1を作製できる。センサ基板1は例えば石英板、ガラス板、プラスチック板等のチップ11上或いはガラスファイバ等の端面に作製される。また、このセンサ基板1を用いてバイオセンサ10を構成すれば、高感度のバイオセンサを供給できる。
【0026】
図4に本実施の形態におけるバイオセンサの製造方法の例を示す。なお、バイオセンサの構成については図3を参照されたい。まず、ガラス板11等のチップ上にセンサ基板1として金Au等の非酸化性金属と銀Ag等の酸化性金属の合金を堆積して形成すれば良いが、ここでは、AuとAgの合金を堆積する(ステップS001)。合金は非酸化性金属が基礎成分であり、酸化性金属を含むものである。合金の堆積は、蒸着、スパッタリング等で可能である。次に、Agを酸化するが、酸化方法は空気中の酸素による自然酸化でも良く、紫外線UV照射でオゾンを発生させて酸化しても良い。次に、センサ基板1の表面に自己組織化単分子層4(図5参照)を形成する(ステップS002)。自己組織化単分子層4はリガンド化させて基板1にリガンド3を固定化するためのものであり、自己組織化単分子層4の形成は浸漬法を用いれば容易である。例えば、自己組織化単分子層4としてアミノエタンチオールAET、アミノヘキサンチオールAHT、アミノオクタンチオールAOT、アミノウンデカンチオールAUTを用いる場合には、Au−Ag合金基板をそれぞれ、アミノエタンチオール、アミノヘキサンチオール、アミノオクタンチオール、アミノウンデカンチオールのエタノール溶液に浸漬すれば良い。次に、自己組織化単分子層4をリガンド化する(ステップS003)。リガンド化も浸漬法を用いれば容易である。例えば、リガンド3として、ビオチンを用いる場合には、ビオチンOsuの超純粋溶液に浸漬すれば良い。
【0027】
図5に自己組織化単分子層4とリガンド3の例として、AOT(アミノオクタンチオール)とビオチンOsu(ビオチンN−ハイドロキシスルフォサクシンイミドエステル)の化学構造式を示す。AOT4は8個のCH2の連鎖の一端にH2N,他端にSHが結合されたものであるが、ビオチンOsuの超純粋溶液に浸漬すれば、分子の一部が置換されてビオチンOsuに変化する。これにより、センサ基板1にリガンドとしてのビオチン(ビオチンOsu)3が固定化される。
【0028】
[比較例]
図6に、比較例として、センサ基板1の媒質M3として純粋な金Auを用いた場合の異常反射の実験例を示す。センサ基板1は、タングステンボートにAuを載せ、抵抗加熱法によりガラス板11上に蒸着した。膜厚は約100nmである。図にAu基板の表面に自己組織化単分子層(Self−assembled Monolayer:SAM)を形成した状態、SAMをビオチン化した状態、さらにビオチンに対応する抗体である抗ビオチン抗体を結合させた状態での反射スペクトルを示す。縦軸に反射率R,横軸に光の波長(nm)を示す。SAMとしてアミノオクタンチオールAOTを用いることとし、SAMはAu基板をAOTの濃度1mMのエタノール溶液に1時間浸漬した後に、エタノールでリンスして余分な分子を洗い流し、乾燥して作製された。このSAMは0.6〜1.4nm厚の媒質M2としてはたらく。図より、SAMは可視光領域(380nm−760nm)において光吸収がないのに拘わらず、380nmから500nmの光に対して反射率が100%から低下しており、また、低下量はSAMの膜厚が厚いほど大きくなる。AOTについて、波長400nmにおける反射率変化ΔRが約1.6%であることよりAOT自己組織化単分子層の厚さを計算すると、SAMの屈折率を1.5と仮定した場合には約1.2nmとなる。
【0029】
次に、AOT自己組織化単分子層をビオチンOsuの濃度120nMの超純水溶液に1時間浸漬した後に、超純粋でリンスしてビオチン化し、ビオチンをAu基板に固定化した。さらに、これを抗ビオチン抗体の濃度120nMのPBS緩衝溶液(燐酸緩衝塩)に1時間浸漬した後に、PBS緩衝溶液でリンスして抗ビオチン抗体をビオチンに結合させた。その後、それぞれAOT、ビオチン、抗ビオチン抗体が形成された段階のAu基板について乾燥した後に反射率変化ΔRを測定した。ビオチンが形成された段階では、反射率の変化は少ないが、抗ビオチン抗体が形成された段階では、波長400nmにおいて5.2%の変化が見られた。AOTのビオチン化されたSAM(0.3nm増加するとみなす)と抗ビオチン抗体層の厚さの和は4.7nmであることから、抗ビオチン抗体層の厚さは3.2nmと見積もられる。
【0030】
[実施例1]
図7はセンサ基板1の媒質M3としてAuとAgを1:1の重量比で蒸着し、その後空気中で自然酸化した場合の異常反射の実験例を示す。センサ基板1は、2つのタングステンボートを並列に接続し、それぞれのボートにAuとAgを重量比1:1の割合で載せ、抵抗加熱法によりガラス板11上に蒸着して作製した。膜厚は約100nmである。センサ基板1上に図6と同じ方法でAOT4、ビオチン3、抗ビオチン抗体2を形成した試料についての反射スペクトルを示す。図7より、380nmから500nmの光に対して反射率が100%から低下し、低下量は媒質M3が純粋な金の場合(比較例)より大きくなっている。AOTについて波長400nmにおける反射率変化ΔRは約2.8%であり、純粋な金の場合に比べて約1.8倍になっている。また、ビオチン3が形成された段階では、反射率の変化は少ないが、抗ビオチン抗体2が形成された段階では、波長400nmにおいて約8.5%の変化が見られた。抗ビオチン抗体2まで結合した場合の全体の変化率ΔRは媒質M3が純粋な金の場合に比べて約1.6倍になっている。
【0031】
[実施例2]
図8にセンサ基板1の媒質M3としてAuとAgを1:1の重量比で蒸着し、その後UVオゾンで酸化した場合の異常反射の実験例を示す。センサ基板1は、2つのタングステンボートを並列に接続し、それぞれのボートにAuとAgを重量比1:1の割合で載せ、抵抗加熱法によりガラス板11上に蒸着した。膜厚は約100nmである。UVオゾン処理には光源に波長183nmの光を多く含む低圧水銀ランプを用い、照射は2時間行なった。センサ基板1上に図6と同じ方法でAOT4、ビオチン3、抗ビオチン抗体2を形成した試料についての反射スペクトルを示す。図8より、AOTについて波長400nmにおける反射率変化ΔRは約3.3%であり、純粋な金の場合に比べて約2.1倍になっている。また、ビオチン3が形成された段階では、反射率の変化は少ないが、抗ビオチン抗体2が形成された段階では、波長400nmにおいて約9.7%の変化が見られた。抗ビオチン抗体2まで結合した場合の全体の変化率ΔRは純粋な金の場合に比べて約1.9倍になっている。
【0032】
[実施例3]
図9にセンサ基板1の媒質M3としてAuとAgを3:1の重量比(Au75%:Ag25%)で蒸着し、その後空気中で自然酸化した場合の異常反射の実験例を示す。センサ基板1は、2つのタングステンボートを並列に接続し、それぞれのボートにAuとAgを重量比3:1の割合で載せ、抵抗加熱法によりガラス板11上に蒸着した。膜厚は約100nmである。センサ基板1上に図6と同じ方法でAOT4、ビオチン3、抗ビオチン抗体2を形成した試料についての反射スペクトルを示す。図9より、380nmから500nmの光に対して反射率が100%から低下し、低下量は比較例とほぼ同じ程度である。AOTについて波長400nmにおける反射率変化ΔRは約2.2%であり、純粋な金の場合に比べて約1.5倍になっている。また、ビオチン3が形成された段階では、反射率の変化は少ないが、抗ビオチン抗体2が形成された段階では、波長400nmにおいて約7.8%の変化が見られた。抗ビオチン抗体2まで結合した場合の全体の変化率ΔRは純粋な金の場合に比べて約1.5倍になっている。
【0033】
[実施例4]
図10にセンサ基板1の媒質M3としてAuとAgを3:1の重量比(Au75%:Ag25%)で蒸着し、その後UVオゾンで酸化した場合の異常反射の実験例を示す。センサ基板1は、2つのタングステンボートを並列に接続し、それぞれのボートにAuとAgを重量比3:1の割合で載せ、抵抗加熱法によりガラス板11上に蒸着した。膜厚は約100nmである。UVオゾン処理条件は図8の場合と同様である。センサ基板1上に図6と同じ方法でAOT4、ビオチン3、抗ビオチン抗体2を形成した試料についての反射スペクトルを示す。図10より、380nmから500nmの光に対して反射率が100%から低下し、低下量の範囲は広がっている。AOTについて波長400nmにおける反射率変化ΔRは約9.5%であり、純粋な金の場合に比べて約6.3倍になっている。また、ビオチン3が形成された段階で、反射率の変化は4%、抗ビオチン抗体2が形成された段階では、波長400nmにおいて約20.0%の変化が見られた。抗ビオチン抗体2まで結合した場合の全体の変化率ΔRは純粋な金の場合に比べて約3.8倍になっている。
【0034】
以上の実施例より、ARによる反射率変化は、(1)Auのみの場合よりもAuとAgの合金の方がARによる反射率変化が大きいこと、(2)AuとAgの合金をUVオゾン処理した方がARによる反射率変化が大きいことがわかる。また、AuとAgの合金ではAgの一部が酸化して誘電体としての性質を示すようになり、その結果、Auのみの場合に比べて、合金全体の誘電率の実部が増加し虚部が減少する。すなわち、図2の図の矢印の方向(所定の範囲の方向)に誘電率変化が生じるため、反射率変化の量が大きくなると考えられる。このことは、UVオゾン処理によりさらに大きな反射率変化が得られたことからも裏付けられる。
【0035】
[第2の実施の形態]
第1の実施の形態では、センサ基板1は金等の非酸化性金属を基礎成分とし、銀等の酸化性金属を含む例について説明したが、本実施の形態では、センサ基板1は金等の非酸化性金属を基礎成分とし、酸化銀等の金属酸化物を含む例について説明する。第1の実施の形態では、銀等の酸化性金属を酸化することにより、波長380ないし500nmの光に対して非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈するセンサ基板1を作製したが、酸化銀などの金属酸化物は、酸化しなくても誘電率は正の値を有するため、金等の非酸化性金属にこれらの金属酸化物を混ぜたセンサ基板1を作製すれば、媒質M3の誘電率は図2の矢印の方向(所定の範囲の方向)に変化する。すなわち、波長380ないし500nmの光に対して非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈するようになる。これにより、第1の実施の形態と同様に、自己組織化単分子層4を形成した試料についての反射率は低下し、センサ基板1上に自己組織化単分子層4、ビオチン3、抗ビオチン抗体2を形成した試料についての反射率変化は非酸化性金属に比して大きくなる。センサ基板1の形成は、例えば、金と酸化銀を共にスパッタリングする、金蒸着と酸化銀のスパッタリングを交互に行なう等により可能である。
【0036】
[第3の実施の形態]
第1の実施の形態では、センサ基板1は金等の非酸化性金属を基礎成分とし、銀等の酸化性金属を含む例について説明したが、本実施の形態では、金等の非酸化性金属を基礎成分とし、シリコン酸化物等の誘電体を含む例について説明する。第1の実施の形態では、銀等の酸化性金属を酸化することにより、波長380ないし500nmの光に対して非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈するセンサ基板1を作製したが、SiO、SiO2などの誘電体は屈折率2〜3程度の値を有するため、金等の非酸化性金属にこれらの誘電体を混ぜたセンサ基板1を作製すれば、媒質M3の誘電率は図2の矢印の方向(所定の範囲の方向)に変化する。すなわち、波長380ないし500nmの光に対して非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈するようになる。これにより、第1の実施の形態と同様に、自己組織化単分子層4を形成した試料についての反射率は低下し、センサ基板1上に自己組織化単分子層4、ビオチン3、抗ビオチン抗体2を形成した試料についての反射率変化は非酸化性金属に比して大きくなる。センサ基板1の形成は、例えば、金とSiOを共蒸着する、共にスパッタリングする等により可能である。誘電体として、シリコン酸化物の他にガラス、フッ化マグネシウムMaF2等も使用可能である。
【0037】
[第4の実施の形態]
第3の実施の形態では、金等の非酸化性金属を基礎成分とし、シリコン酸化物等の誘電体を含むセンサ基板1の媒質M3としてAu等の非酸化性金属とSiO、SiO2等の誘電体を共蒸着する例を説明したが、本実施の形態では、媒質M3として金属薄膜と誘電体の交互積層膜を作製する例を説明する。交互積層膜の膜厚は反射光間の干渉が無いように波長に比べて十分小さく(例えば100nm以下)する。このようにすれば、交互積層膜は非酸化性金属と誘電体の混合した有効媒質として働き、媒質M3の誘電率は図2の矢印の方向(所定の範囲の方向)に変化する。すなわち、波長380ないし500nmの光に対して非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈するようになる。これにより、第3の実施の形態と同様に、自己組織化単分子層4を形成した試料についての反射率は低下し、センサ基板1上に自己組織化単分子層4、ビオチン3、抗ビオチン抗体2を形成した試料についての反射率変化は非酸化性金属に比して大きくなる。交互積層膜の形成は、例えば、金とSiOを交互に蒸着する、交互にスパッタリングする等により可能である。
【0038】
[第5の実施の形態]
第3の実施の形態では、センサ基板1は金等の非酸化性金属を基礎成分とし、シリコン酸化物等の誘電体を含む例について説明したが、本実施の形態では、センサ基板1は金等の非酸化性金属からなり、又は非酸化性金属を基礎成分とし、多孔性構造とする例について説明する。すなわち、Au等の非酸化性金属に空孔を作製すると、空孔の誘電率は1であるため、金等の非酸化性金属に多数の空孔を有するセンサ基板1を作製すれば、媒質M3の誘電率は図2の矢印の方向(所定の範囲の方向)に変化する。空孔は光の散乱が無いように波長に比して充分小さく(例えば100nm以下)する。すなわち、波長380ないし500nmの光に対して非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈するようになる。これにより、第3の実施の形態と同様に、自己組織化単分子層4を形成した試料についての反射率は低下し、センサ基板1上に自己組織化単分子層4、ビオチン3、抗ビオチン抗体2を形成した試料についての反射率変化は非酸化性金属に比して大きくなる。多孔性構造とするには、例えばAuとAgの合金を作製し、硝酸等でエッチングすることにより可能である。
【0039】
[第6の実施の形態]
以上の実施の形態では、センサ基板1を主にガラス板等のチップ上に作製して、バイオセンサを構成する例について説明したが、本実施の形態では、センサ基板1をガラスファイバの端面に作製して、バイオセンサを構成する例について説明する。センサ基板1をガラスファイバの端面に形成して、バイオセンサを構成すれば、プローブ部分が微小なセンサを構成でき、プローブ部分を微小セルに挿入でき、微量の試料を測定可能である。また、プローブ部分を測定器から切り離して移動でき、便宜である。
【0040】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で実施の形態に種々変更を加えられることは明白である。
【0041】
例えば、以上の実施の形態では、センサ基板の基礎成分としての非酸化性金属が金の場合を主に説明したが、金に代えて銅も使用可能である。銅の場合の波長範囲は金とほぼ同じである。また、以上の実施の形態では、アナライトとリガンドとの組み合わせについては、リガンドがビオチンでアナライトが抗ビオチン抗体の例について主に説明したが、他の組み合わせも可能である。例えば、DNA−DNA、DNA−RNA(リボ核酸)、DNA−タンパク質、DNA−糖、DNA−有機化合物、タンパク質−タンパク質、脂質−タンパク質、糖−タンパク質、タンパク質−有機化合物等の相互作用の検出も可能である。また、誘電体の代わりに誘電率の設計が可能なメタ物質(人工的に作り出される負の屈折率を示す物質)の利用も可能であり、金属酸化物、誘電体等も種々選択して使用可能である。また、合金の比率、UV照射条件、溶液浸漬条件等も適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、検出対象分子を高感度に検出するためのバイオセンサに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】センサ基板からの異常反射を説明するための図である。
【図2】反射率変化を媒質M3の誘電率の実部、虚部に対してプロットした図である。
【図3】第1の実施の形態におけるバイオセンサの構成例を示す図である。
【図4】第1の実施の形態におけるバイオセンサの製造方法の例を示す図である。
【図5】自己組織化単分子層とリガンドの例の化学構造式を示す図である。
【図6】センサ基板の媒質としてAuを用いた場合の異常反射の実験例を示す図である。
【図7】センサ基板の媒質としてAuとAgを1:1の重量比で蒸着し、その後空気中で自然酸化した場合の異常反射の実験例を示す図である。
【図8】センサ基板の媒質としてAuとAgを1:1の重量比で蒸着し、その後UVオゾンで酸化した場合の異常反射の実験例を示す図である。
【図9】センサ基板の媒質としてAuとAgを3:1の重量比で蒸着し、その後空気中で自然酸化した場合の異常反射の実験例を示す図である。
【図10】センサ基板の媒質としてAuとAgを3:1の重量比で蒸着し、その後UVオゾンで酸化した場合の異常反射の実験例を示す図である。
【図11】バイオセンシングの原理を説明するための図である。
【図12】従来の全反射減衰法によるバイオセンサを説明するための図である。
【符号の説明】
【0044】
1 センサ基板
2 アナライト(対象物質)
3 リガンド
4 自己組織化単分子層
5 プリズム
6 金属薄膜
7 入射光
8 表面プラズモン
9 反射光
10、10A バイオセンサ
11 チップ
M1〜M3 媒質
n1〜n3 屈折率
R 反射率
ΔR 反射率変化
ε 誘電率
θ 入射角
θr 共鳴角
【技術分野】
【0001】
本発明はセンサ基板及びバイオセンサに関する。詳しくは、異常反射を用いて検出対象物質を高感度に検出するためのセンサ基板及びバイオセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
DNAや蛋白質などのバイオセンシングは、検出対象分子(アナライト)に特異的な相互作用を有するリガンド分子を金などの基板や微粒子上に塗布し、そこへのアナライトの結合の有無を検出する。
【0003】
図11はバイオセンシングの原理を説明するための図である。金などのセンサ基板1上に検出対象分子2(analyte:アナライト)に相補的な(親和性の強い)分子3(ligand:リガンド)の分子層を形成する。この基板1を試料溶液中に浸した際に、アナライト2があれば、その相互作用(親和力)により選択的にリガンド3に吸着又は結合する。アナライト2とリガンド3は互いに相補的であるため鍵と鍵穴のような関係になっており、相補的な物質同士の相互作用は大変強力であるが、相補的でない物質同士の相互作用は非常に弱い。センサ基板1に光を照射し、相補的な分子の吸着や結合による屈折率変化などを反射光強度、散乱光強度、共鳴波長などの光信号の変化により検出する。たとえば、リガンド3としてオリゴヌクレオチドを用いれば、相補的な塩基配列を持つオリゴDNAがハイブリダイゼーションを起し、その検出ができる。また、リガンド3として抗体を用いた実験では、検出対象となる抗リガンド抗体を高感度に検出することが可能である。同様の原理で、脂質−タンパク質、糖−タンパク質の相互作用の検出も可能であり、この手法の汎用性は高い。
【0004】
アナライト2の結合量は1ng/mm2以下であり非常に少ない。結合に伴う反射率変化は小さく、通常の光学的手法でそれを検出することは困難である。そのため、表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance:SPR)や金ナノ微粒子中の局在プラズモン共鳴(localized surface plasmon resonance:LPR)などを用いて増感が行なわれてきた。SPRを用いたバイオセンシングでは、一般に全反射減衰法(attenuated total reflection:ATR)を用いてプリズム底面に堆積された金属薄膜中に生じる伝搬型表面プラズモン(surface plasmons:SPs)を励起する。かかる手法を以下ATR−SPRと呼ぶ。
【0005】
図12は従来の全反射減衰法(ATR)によるバイオセンサを説明するための図である。図12(a)にバイオセンサ10Aの構成例を示す。プリズム5の底面に金等の金属薄膜6(例えば46.5nm厚)が堆積され、金属薄膜6の表面にはリガンド3が固定されている。このバイオセンサ10Aを容器に入れて、容器に検出対象分子(アナライト)2を含む試料を注入する。プリズム5の底面に対する法線から入射角θ(全反射が起こる条件)で入射光7を入射する。p−偏光の光の反射率は、共鳴角θrで最小となり、表面プラズモン共鳴により金属薄膜6の表面に表面プラズモン(surface plasmons:SPs)8が生成され、入射光7のエネルギーは薄膜中の表面プラズモン8に変換され、反射光9の反射率が減少する。反射光9を光検出器で検出する。図12(b)に光の入射角θと反射率Rの関係を示す。共鳴角θrは金属薄膜6近傍の屈折率や物質の有無に敏感であるため、その表面をあらかじめリガンド3で修飾しておけばアナライト2の結合を共鳴角変化Δθrとして読み取ることができる。例えば屈折率が1.5で厚さが1nmの超薄膜が表面に吸着することにより、共鳴角は高角度側へ約0.2度シフトし、反射率に差が生じる。この表面プラズモンセンサ10Aは高感度であり、超薄膜試料に蛍光色素などのラベルを用いなくても単分子層以下のアナライト2の吸着や脱離を観測可能である。
【0006】
この方法を利用したバイオセンサはすでに市販品も多く、現在では生化学や遺伝子工学の分野では欠くことのできないツールとなっている。しかしながら、固定化された光学系が必要であり全反射減衰法を用いなければならず他の測定手法との組み合わせに制限がある、金の膜厚が45〜55nmの間でなければ高感度の測定が難しいなどの改良すべき点も多い。他方、LPRは金ナノ微粒子や粗い金属表面などに励起される表面プラズモンである。ATR−SPRとは異なり、LPRを励起するためには微粒子に光を照射すればよい。特定の入射角で光を入射する必要がないため固定化された光学系を組む必要がなく、市販の分光器を用いて透過や反射、散乱スペクトル測定を行うことによりセンシング可能であるなどの利点がある。
【0007】
数年前に発明者達は、青や紫の光に対する金表面の反射率が50%以下となることを利用して、単純な反射測定でDNAや蛋白質の検出が可能であることを示した。金は金属であるが、光学的には青や紫の光に対しては誘電体的な性質を示す。そのため、青や紫の光に対する反射率は50%程度であり、それゆえ黄色がかった色を呈する。これらの光に対する金表面の反射率は、物質の吸着や結合に伴い比較的大きく低下する。例えば、空気中で金の表面は波長470nmの光に対して1ng/mm2の分子の結合により約1.3%の反射率変化を与える。これを金の異常反射(anomalous reflection:AR)という。金の異常反射(AR)を利用した分子間相互作用測定法は、波長500nm以下の光を入射して金の反射率が低下する現象を利用したもので、金表面上に分子膜が生成すると、分子と金表面の間に多重反射が起こることにより、結合量を高い感度で検知できる。銀やアルミニウムなどの金属の場合には可視光領域では1ng/mm2の分子の結合による反射率変化は0.02%程度である。金でも、赤や黄色の光に対しては同程度の反射率変化を示すが、青や紫の光に対しては、金属的というよりはむしろ誘電体的な反射応答をするためにこのような現象が起こる。(非特許文献1、非特許文献2参照)
【0008】
【非特許文献1】Mitsuaki Watanabe and Kotaro Kajikawa,“An optical fiber biosensor based on anomalous reflection of gold” Sens.Actuators B89 (2003) 126−130.
【非特許文献2】S.Watanabe,K.Usui,K.−Y.Tomizaki,K.Kajikawa,H.Mihara,“Anomalous Reflection of Gold Applicable for a Practical Protein−Detecting Chip Platform” Mol.BioSystems 1 (2005) 363−365.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
局在型表面プラズモン(LPR)において、定量的な測定をするためには、あらかじめ検量線を作る必要がある、分子のサイズにより感度の補正が必要であるなどの問題があった。
【0010】
他方、異常反射(AR)は、垂直入射でも斜め入射でもよく、金薄膜の膜厚制限も無い。そのため、垂直入射での単純な反射率測定により金表面に結合、吸着した微量物質を定量的に計測することが可能であり、測定光学系の構成も簡易にできる。また、入射光の単色性もあまり問題とならないため発光ダイオード(light emitting diode:LED)などのインコヒーレント光源を利用できるので、装置の小型化、低コスト化も容易である。金を用いた場合には感度はSPRと比べて幾分劣るが、単純な光学系を用いるため様々な使い方が可能である。空気中で1ng/mm2の分子の結合によりATR−SPRでは最大12%の反射率変化を得られるが、金表面でのARでの反射率変化は約1.3%である。金表面でのARは感度が低いことが欠点であるが、発明者達は、これを改善する金属合金や金属と金属酸化物、誘電体などとの混合材料を生み出すことを検討した。
【0011】
本発明は、異常反射の変化率が金より大きいセンサ基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明による第1の態様のセンサ基板1は、例えば図3に示すように、光に対する異常反射の反射率変化から吸着又は結合する対象物質2を検出するセンサ基板1であって、金等の非酸化性金属を基礎成分とし、銀等の酸化性金属又は酸化銀等の金属酸化物を含む、波長380ないし500nmのいずれかの光に対して非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈する。
【0013】
ここにおいて、非酸化性金属と酸化性金属又は金属酸化物とは、粒子混合構造で(粒状で混じり合って)も良く、2相混合構造で(2相が相互に入り乱れて混じり合って)も良く(1つの相が他の相内に分散している分散構造を含む)、合金構造で(合金として混じり合って)も良く、積層構造で(交互に積層されて交じり合って)も良い。また、酸化性金属がセンサ基板表面に露出している場合は露出面が酸化されていても良く(大気中では自然酸化される)、粒状で存在する場合は粒表面が酸化されていても良い。また、酸化は意図的になされても良く、自然酸化でも良い。また、金属酸化物は金属全体が酸化されていても良く、一部が酸化されていても良い。また、波長380ないし500nmの任意の波長で所定の範囲の複素誘電率を満たせば良いが、全範囲で満たしても良く、一部の範囲で満たしても良い。このように構成すると、センサ基板は非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を有するために、異常反射の反射率変化が大きくなり、高感度のセンサ基板を提供できる。なお、所定の範囲については第6の態様を参照されたい。
【0014】
また、本発明による第2の態様は、第1の態様のセンサ基板において、非酸化性金属が金であり、酸化性金属が銀であるか又は金属酸化物が酸化銀であって、金と銀の重量比が100対1から50対50である。
このように構成すると、金と銀の合金でセンサ基板を構成でき、高感度のセンサ基板を容易に提供できる。
【0015】
また、本発明による第3の態様のセンサ基板は、光に対する異常反射の反射率変化から吸着又は結合する対象物質2を検出するセンサ基板1であって、金等の非酸化性金属を基礎成分とし、シリコン酸化物、フッ化マグネシウム等の誘電体を含む、波長380ないし500nmのいずれかの光に対して非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈する。
このように構成すると、誘電体の存在により、センサ基板は非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい複素誘電率を有するために、異常反射の反射率変化が大きくなり、高感度のセンサを提供できる。
【0016】
また、本発明による第4の態様は、第3の態様のセンサ基板において、非酸化性金属と前記誘電体の組み合わせは、粒子混合構造、2相混合構造(分散構造を含む)又は積層構造である。
ここにおいて各構造については第1の態様を参照されたい。また、交互積層膜の膜厚は反射光間の干渉が無いように波長に比べて十分小さくすることが好ましい。このように構成すると、誘電体を含むセンサ基板を上記いずれかの構造で比較的容易に作製できる。
【0017】
また、本発明による第5の態様のセンサ基板は、光に対する異常反射の反射率変化から吸着又は結合する対象物質2を検出するセンサ基板1であって、金等の非酸化性金属からなり、又は非酸化性金属を基礎成分とし、多孔性構造とすることにより、波長380ないし500nmのいずれかの光に対して非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈する。
ここにおいて、多孔性構造は空孔を多数有する構造でも良く、粒子混合構造で粒子間に局在化した多数の空隙が存在する構造でも良い。空孔は光の散乱が無いように波長に比して充分小さくすることが好ましい。このように構成すると、多孔性構造により、センサ基板は誘電率1の空孔を多数有するために、異常反射の反射率変化が大きくなり、高感度のセンサを提供できる。
【0018】
また、本発明による第6の態様は、第1ないし第5の態様のセンサ基板において、非酸化性金属が金であり、所定の範囲は実部が−1ないし3、虚部が0.3ないし4.5である。
このように構成すると、図2より略1.5%以上の反射率変化ΔRが得られ好適である。所定の範囲を実部が0ないし2、虚部が0.3ないし3とすると、略2%以上の反射率変化ΔRが得られなお好適である。所定の範囲を実部が0ないし2、虚部が0.3ないし2とすると、略3%以上の反射率変化ΔRが得られさらに好適である。
【0019】
また、本発明による第7の態様のバイオセンサ10は、第1ないし第6の態様のセンサ基板を備え、センサ基板1表面にリガンド3を形成したものである。
このように構成すると、高感度のセンサ基板を用いて、高感度のバイオセンサを提供できる。
【0020】
また、本発明による第8の態様のバイオセンサの製造方法は、例えば図4に示すように、第1ないし第4の態様のセンサ基板1として金等の非酸化性金属を基礎成分とし、銀等の酸化性金属、酸化銀等の金属酸化物又はシリコン酸化物、フッ化マグネシウム等の誘電体を含むものを堆積して形成する工程(S001)と、センサ基板1の表面に自己組織化単分子層4(図5参照)を浸漬法により形成する工程(S002)と、自己組織化単分子層4を浸漬法によりリガンド化する工程(S003)とを備える。
ここにおいて、センサ基板の堆積は、例えば、蒸着、スパッタリング、気相成長、沈積により可能である。このように構成すると、高感度のバイオセンサを容易に製造できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、異常反射の変化率が金より大きいセンサ基板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
[異常反射の反射率変化]
図1はセンサ基板1からの異常反射を説明するための図である。図1(a)にセンサ基板表面の媒質の配置を示す。媒質M1は通常空気、あるいは水であり屈折率n1とする。媒質M2はバイオセンシングする対象物質(DNAや蛋白質など)であり、屈折率n2、膜厚d2の連続誘電体媒質とみなす。媒質M3は屈折率n3の金属媒質であり、n3は複素数である。7は入射光、9は反射光である。図1(a)の配置を用いて光の反射を計算する。図1(b)に屈折率n2=1.5の媒質M2が媒質M3としての金に吸着した際の金表面の反射率変化ΔRの波長依存性を示す。媒質M2が存在しない場合の反射率をR0、存在する場合の反射率をR、反射率変化ΔR=(R−R0)/R0とし、反射率Rを光波長に対してプロットしたものである。金の誘電率は、非特許文献3(P.B.Johnson and R.W.Cristy,“Optical Constants of Noble Metals”,Phys.Rev.6(1972)4730−4379)の値を基に補間計算した。波長500nm以下の領域において媒質M2の吸着により約1.25%の反射率変化が生じることがわかる。一方、波長700nm付近の長波長領域では媒質M2が吸着しても反射率変化は無視できるほど小さい。これは、金に波長500nm以下の光を入射すると金の反射率が低下するという異常反射(AR)の現象に基づくものであり、金の表面上に分子膜が生成すると、分子膜と金表面の間に多重反射が起こることにより、反射率変化が増大される。通常、反射率変化は膜厚に比例するので(非特許文献1参照)、これにより、分子膜の結合量を高い感度で検知できる。
【0023】
図2は反射率変化ΔRを媒質M3の誘電率ε3の実部、虚部に対してプロットした図である。ここで、媒質M2の屈折率n2=1.5、膜厚d2=1.0nmとした。誘電率εと屈折率nの間にはε=n2の関係がある。明度が低い部分ほど反射率変化が大きい。非特許文献3の値から計算した波長470nmにおける金Auと銀Agの誘電率を図中の○印で示した。Agでは反射率変化ΔR=約0.2%と小さいが、Auでは反射率変化ΔR=約1.2%と大きい。さらに、発明者達は、媒質M3の誘電率ε3を矢印の方向に制御できれば、より一層大きな反射率変化ΔRが得られ、高い感度でARを用いたセンサ基板を作成できることに注目した。
【0024】
図2の矢印で示すような、媒質M3としての金等の非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈するセンサ基板を作製し、媒質M2としてのバイオ由来分子が結合すれば大きな反射率の変化が生じるので、バイオ由来分子を高感度で検出できる。所定の範囲を実部が−1ないし3、虚部が0.3ないし4.5であるとすると、図2より略1.5%以上の反射率変化ΔRが得られ好適である。所定の範囲を実部が0ないし2、虚部が0.3ないし3とすると、略2%以上の反射率変化ΔRが得られなお好適である。所定の範囲を実部が0ないし2、虚部が0.3ないし2とすると、略3%以上の反射率変化ΔRが得られさらに好適である。異常反射の反射率変化の測定は簡単な光学系で構成できるので、バイオセンシングチップやその検出システムの低コスト化が可能となる。これまで、この種の検査には表面プラズモン共鳴が広く用いられているが、異常反射の反射率変化の大きいセンサ基板や当該基板を用いたバイオセンサを供給できれば、表面プラズモン共鳴に代替してバイオセンシングに使用できる可能性がある。
【0025】
〔第1の実施の形態〕
図3に第1の実施の形態におけるバイオセンサ10の構成例を示す。センサ基板1は、光に対する異常反射の反射率変化から吸着又は結合する対象物質(アナライト)2を検出するためのものである。センサ基板1表面にアナライト2に相補的なリガンド3を形成する。センサ基板1は金Au等の非酸化性金属を基礎成分とし、銀Ag等の酸化性金属を含むものであれば良いが、本実施の形態では、センサ基板1は、AuとAgの合金で作成し、Agを酸化したものである。酸化方法は空気中の酸素による自然酸化でも良く、紫外線照射でオゾンを発生させて酸化しても良い。Ag自体の誘電率は図2に示すように負の値を有するが、Agの酸化物は一般に誘電体であり、誘電率は正の値を有する。そのため、Auを基礎成分としAgを含む媒質M3としてのセンサ基板1の誘電率εは、Agの酸化により図2の矢印の方向に変化する。すなわち、波長380ないし500nmの光に対して、非酸化性金属であるAuより実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈するように変化する。そのため、大きな反射率変化ΔRを有するセンサ基板1を作製できる。センサ基板1は例えば石英板、ガラス板、プラスチック板等のチップ11上或いはガラスファイバ等の端面に作製される。また、このセンサ基板1を用いてバイオセンサ10を構成すれば、高感度のバイオセンサを供給できる。
【0026】
図4に本実施の形態におけるバイオセンサの製造方法の例を示す。なお、バイオセンサの構成については図3を参照されたい。まず、ガラス板11等のチップ上にセンサ基板1として金Au等の非酸化性金属と銀Ag等の酸化性金属の合金を堆積して形成すれば良いが、ここでは、AuとAgの合金を堆積する(ステップS001)。合金は非酸化性金属が基礎成分であり、酸化性金属を含むものである。合金の堆積は、蒸着、スパッタリング等で可能である。次に、Agを酸化するが、酸化方法は空気中の酸素による自然酸化でも良く、紫外線UV照射でオゾンを発生させて酸化しても良い。次に、センサ基板1の表面に自己組織化単分子層4(図5参照)を形成する(ステップS002)。自己組織化単分子層4はリガンド化させて基板1にリガンド3を固定化するためのものであり、自己組織化単分子層4の形成は浸漬法を用いれば容易である。例えば、自己組織化単分子層4としてアミノエタンチオールAET、アミノヘキサンチオールAHT、アミノオクタンチオールAOT、アミノウンデカンチオールAUTを用いる場合には、Au−Ag合金基板をそれぞれ、アミノエタンチオール、アミノヘキサンチオール、アミノオクタンチオール、アミノウンデカンチオールのエタノール溶液に浸漬すれば良い。次に、自己組織化単分子層4をリガンド化する(ステップS003)。リガンド化も浸漬法を用いれば容易である。例えば、リガンド3として、ビオチンを用いる場合には、ビオチンOsuの超純粋溶液に浸漬すれば良い。
【0027】
図5に自己組織化単分子層4とリガンド3の例として、AOT(アミノオクタンチオール)とビオチンOsu(ビオチンN−ハイドロキシスルフォサクシンイミドエステル)の化学構造式を示す。AOT4は8個のCH2の連鎖の一端にH2N,他端にSHが結合されたものであるが、ビオチンOsuの超純粋溶液に浸漬すれば、分子の一部が置換されてビオチンOsuに変化する。これにより、センサ基板1にリガンドとしてのビオチン(ビオチンOsu)3が固定化される。
【0028】
[比較例]
図6に、比較例として、センサ基板1の媒質M3として純粋な金Auを用いた場合の異常反射の実験例を示す。センサ基板1は、タングステンボートにAuを載せ、抵抗加熱法によりガラス板11上に蒸着した。膜厚は約100nmである。図にAu基板の表面に自己組織化単分子層(Self−assembled Monolayer:SAM)を形成した状態、SAMをビオチン化した状態、さらにビオチンに対応する抗体である抗ビオチン抗体を結合させた状態での反射スペクトルを示す。縦軸に反射率R,横軸に光の波長(nm)を示す。SAMとしてアミノオクタンチオールAOTを用いることとし、SAMはAu基板をAOTの濃度1mMのエタノール溶液に1時間浸漬した後に、エタノールでリンスして余分な分子を洗い流し、乾燥して作製された。このSAMは0.6〜1.4nm厚の媒質M2としてはたらく。図より、SAMは可視光領域(380nm−760nm)において光吸収がないのに拘わらず、380nmから500nmの光に対して反射率が100%から低下しており、また、低下量はSAMの膜厚が厚いほど大きくなる。AOTについて、波長400nmにおける反射率変化ΔRが約1.6%であることよりAOT自己組織化単分子層の厚さを計算すると、SAMの屈折率を1.5と仮定した場合には約1.2nmとなる。
【0029】
次に、AOT自己組織化単分子層をビオチンOsuの濃度120nMの超純水溶液に1時間浸漬した後に、超純粋でリンスしてビオチン化し、ビオチンをAu基板に固定化した。さらに、これを抗ビオチン抗体の濃度120nMのPBS緩衝溶液(燐酸緩衝塩)に1時間浸漬した後に、PBS緩衝溶液でリンスして抗ビオチン抗体をビオチンに結合させた。その後、それぞれAOT、ビオチン、抗ビオチン抗体が形成された段階のAu基板について乾燥した後に反射率変化ΔRを測定した。ビオチンが形成された段階では、反射率の変化は少ないが、抗ビオチン抗体が形成された段階では、波長400nmにおいて5.2%の変化が見られた。AOTのビオチン化されたSAM(0.3nm増加するとみなす)と抗ビオチン抗体層の厚さの和は4.7nmであることから、抗ビオチン抗体層の厚さは3.2nmと見積もられる。
【0030】
[実施例1]
図7はセンサ基板1の媒質M3としてAuとAgを1:1の重量比で蒸着し、その後空気中で自然酸化した場合の異常反射の実験例を示す。センサ基板1は、2つのタングステンボートを並列に接続し、それぞれのボートにAuとAgを重量比1:1の割合で載せ、抵抗加熱法によりガラス板11上に蒸着して作製した。膜厚は約100nmである。センサ基板1上に図6と同じ方法でAOT4、ビオチン3、抗ビオチン抗体2を形成した試料についての反射スペクトルを示す。図7より、380nmから500nmの光に対して反射率が100%から低下し、低下量は媒質M3が純粋な金の場合(比較例)より大きくなっている。AOTについて波長400nmにおける反射率変化ΔRは約2.8%であり、純粋な金の場合に比べて約1.8倍になっている。また、ビオチン3が形成された段階では、反射率の変化は少ないが、抗ビオチン抗体2が形成された段階では、波長400nmにおいて約8.5%の変化が見られた。抗ビオチン抗体2まで結合した場合の全体の変化率ΔRは媒質M3が純粋な金の場合に比べて約1.6倍になっている。
【0031】
[実施例2]
図8にセンサ基板1の媒質M3としてAuとAgを1:1の重量比で蒸着し、その後UVオゾンで酸化した場合の異常反射の実験例を示す。センサ基板1は、2つのタングステンボートを並列に接続し、それぞれのボートにAuとAgを重量比1:1の割合で載せ、抵抗加熱法によりガラス板11上に蒸着した。膜厚は約100nmである。UVオゾン処理には光源に波長183nmの光を多く含む低圧水銀ランプを用い、照射は2時間行なった。センサ基板1上に図6と同じ方法でAOT4、ビオチン3、抗ビオチン抗体2を形成した試料についての反射スペクトルを示す。図8より、AOTについて波長400nmにおける反射率変化ΔRは約3.3%であり、純粋な金の場合に比べて約2.1倍になっている。また、ビオチン3が形成された段階では、反射率の変化は少ないが、抗ビオチン抗体2が形成された段階では、波長400nmにおいて約9.7%の変化が見られた。抗ビオチン抗体2まで結合した場合の全体の変化率ΔRは純粋な金の場合に比べて約1.9倍になっている。
【0032】
[実施例3]
図9にセンサ基板1の媒質M3としてAuとAgを3:1の重量比(Au75%:Ag25%)で蒸着し、その後空気中で自然酸化した場合の異常反射の実験例を示す。センサ基板1は、2つのタングステンボートを並列に接続し、それぞれのボートにAuとAgを重量比3:1の割合で載せ、抵抗加熱法によりガラス板11上に蒸着した。膜厚は約100nmである。センサ基板1上に図6と同じ方法でAOT4、ビオチン3、抗ビオチン抗体2を形成した試料についての反射スペクトルを示す。図9より、380nmから500nmの光に対して反射率が100%から低下し、低下量は比較例とほぼ同じ程度である。AOTについて波長400nmにおける反射率変化ΔRは約2.2%であり、純粋な金の場合に比べて約1.5倍になっている。また、ビオチン3が形成された段階では、反射率の変化は少ないが、抗ビオチン抗体2が形成された段階では、波長400nmにおいて約7.8%の変化が見られた。抗ビオチン抗体2まで結合した場合の全体の変化率ΔRは純粋な金の場合に比べて約1.5倍になっている。
【0033】
[実施例4]
図10にセンサ基板1の媒質M3としてAuとAgを3:1の重量比(Au75%:Ag25%)で蒸着し、その後UVオゾンで酸化した場合の異常反射の実験例を示す。センサ基板1は、2つのタングステンボートを並列に接続し、それぞれのボートにAuとAgを重量比3:1の割合で載せ、抵抗加熱法によりガラス板11上に蒸着した。膜厚は約100nmである。UVオゾン処理条件は図8の場合と同様である。センサ基板1上に図6と同じ方法でAOT4、ビオチン3、抗ビオチン抗体2を形成した試料についての反射スペクトルを示す。図10より、380nmから500nmの光に対して反射率が100%から低下し、低下量の範囲は広がっている。AOTについて波長400nmにおける反射率変化ΔRは約9.5%であり、純粋な金の場合に比べて約6.3倍になっている。また、ビオチン3が形成された段階で、反射率の変化は4%、抗ビオチン抗体2が形成された段階では、波長400nmにおいて約20.0%の変化が見られた。抗ビオチン抗体2まで結合した場合の全体の変化率ΔRは純粋な金の場合に比べて約3.8倍になっている。
【0034】
以上の実施例より、ARによる反射率変化は、(1)Auのみの場合よりもAuとAgの合金の方がARによる反射率変化が大きいこと、(2)AuとAgの合金をUVオゾン処理した方がARによる反射率変化が大きいことがわかる。また、AuとAgの合金ではAgの一部が酸化して誘電体としての性質を示すようになり、その結果、Auのみの場合に比べて、合金全体の誘電率の実部が増加し虚部が減少する。すなわち、図2の図の矢印の方向(所定の範囲の方向)に誘電率変化が生じるため、反射率変化の量が大きくなると考えられる。このことは、UVオゾン処理によりさらに大きな反射率変化が得られたことからも裏付けられる。
【0035】
[第2の実施の形態]
第1の実施の形態では、センサ基板1は金等の非酸化性金属を基礎成分とし、銀等の酸化性金属を含む例について説明したが、本実施の形態では、センサ基板1は金等の非酸化性金属を基礎成分とし、酸化銀等の金属酸化物を含む例について説明する。第1の実施の形態では、銀等の酸化性金属を酸化することにより、波長380ないし500nmの光に対して非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈するセンサ基板1を作製したが、酸化銀などの金属酸化物は、酸化しなくても誘電率は正の値を有するため、金等の非酸化性金属にこれらの金属酸化物を混ぜたセンサ基板1を作製すれば、媒質M3の誘電率は図2の矢印の方向(所定の範囲の方向)に変化する。すなわち、波長380ないし500nmの光に対して非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈するようになる。これにより、第1の実施の形態と同様に、自己組織化単分子層4を形成した試料についての反射率は低下し、センサ基板1上に自己組織化単分子層4、ビオチン3、抗ビオチン抗体2を形成した試料についての反射率変化は非酸化性金属に比して大きくなる。センサ基板1の形成は、例えば、金と酸化銀を共にスパッタリングする、金蒸着と酸化銀のスパッタリングを交互に行なう等により可能である。
【0036】
[第3の実施の形態]
第1の実施の形態では、センサ基板1は金等の非酸化性金属を基礎成分とし、銀等の酸化性金属を含む例について説明したが、本実施の形態では、金等の非酸化性金属を基礎成分とし、シリコン酸化物等の誘電体を含む例について説明する。第1の実施の形態では、銀等の酸化性金属を酸化することにより、波長380ないし500nmの光に対して非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈するセンサ基板1を作製したが、SiO、SiO2などの誘電体は屈折率2〜3程度の値を有するため、金等の非酸化性金属にこれらの誘電体を混ぜたセンサ基板1を作製すれば、媒質M3の誘電率は図2の矢印の方向(所定の範囲の方向)に変化する。すなわち、波長380ないし500nmの光に対して非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈するようになる。これにより、第1の実施の形態と同様に、自己組織化単分子層4を形成した試料についての反射率は低下し、センサ基板1上に自己組織化単分子層4、ビオチン3、抗ビオチン抗体2を形成した試料についての反射率変化は非酸化性金属に比して大きくなる。センサ基板1の形成は、例えば、金とSiOを共蒸着する、共にスパッタリングする等により可能である。誘電体として、シリコン酸化物の他にガラス、フッ化マグネシウムMaF2等も使用可能である。
【0037】
[第4の実施の形態]
第3の実施の形態では、金等の非酸化性金属を基礎成分とし、シリコン酸化物等の誘電体を含むセンサ基板1の媒質M3としてAu等の非酸化性金属とSiO、SiO2等の誘電体を共蒸着する例を説明したが、本実施の形態では、媒質M3として金属薄膜と誘電体の交互積層膜を作製する例を説明する。交互積層膜の膜厚は反射光間の干渉が無いように波長に比べて十分小さく(例えば100nm以下)する。このようにすれば、交互積層膜は非酸化性金属と誘電体の混合した有効媒質として働き、媒質M3の誘電率は図2の矢印の方向(所定の範囲の方向)に変化する。すなわち、波長380ないし500nmの光に対して非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈するようになる。これにより、第3の実施の形態と同様に、自己組織化単分子層4を形成した試料についての反射率は低下し、センサ基板1上に自己組織化単分子層4、ビオチン3、抗ビオチン抗体2を形成した試料についての反射率変化は非酸化性金属に比して大きくなる。交互積層膜の形成は、例えば、金とSiOを交互に蒸着する、交互にスパッタリングする等により可能である。
【0038】
[第5の実施の形態]
第3の実施の形態では、センサ基板1は金等の非酸化性金属を基礎成分とし、シリコン酸化物等の誘電体を含む例について説明したが、本実施の形態では、センサ基板1は金等の非酸化性金属からなり、又は非酸化性金属を基礎成分とし、多孔性構造とする例について説明する。すなわち、Au等の非酸化性金属に空孔を作製すると、空孔の誘電率は1であるため、金等の非酸化性金属に多数の空孔を有するセンサ基板1を作製すれば、媒質M3の誘電率は図2の矢印の方向(所定の範囲の方向)に変化する。空孔は光の散乱が無いように波長に比して充分小さく(例えば100nm以下)する。すなわち、波長380ないし500nmの光に対して非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈するようになる。これにより、第3の実施の形態と同様に、自己組織化単分子層4を形成した試料についての反射率は低下し、センサ基板1上に自己組織化単分子層4、ビオチン3、抗ビオチン抗体2を形成した試料についての反射率変化は非酸化性金属に比して大きくなる。多孔性構造とするには、例えばAuとAgの合金を作製し、硝酸等でエッチングすることにより可能である。
【0039】
[第6の実施の形態]
以上の実施の形態では、センサ基板1を主にガラス板等のチップ上に作製して、バイオセンサを構成する例について説明したが、本実施の形態では、センサ基板1をガラスファイバの端面に作製して、バイオセンサを構成する例について説明する。センサ基板1をガラスファイバの端面に形成して、バイオセンサを構成すれば、プローブ部分が微小なセンサを構成でき、プローブ部分を微小セルに挿入でき、微量の試料を測定可能である。また、プローブ部分を測定器から切り離して移動でき、便宜である。
【0040】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で実施の形態に種々変更を加えられることは明白である。
【0041】
例えば、以上の実施の形態では、センサ基板の基礎成分としての非酸化性金属が金の場合を主に説明したが、金に代えて銅も使用可能である。銅の場合の波長範囲は金とほぼ同じである。また、以上の実施の形態では、アナライトとリガンドとの組み合わせについては、リガンドがビオチンでアナライトが抗ビオチン抗体の例について主に説明したが、他の組み合わせも可能である。例えば、DNA−DNA、DNA−RNA(リボ核酸)、DNA−タンパク質、DNA−糖、DNA−有機化合物、タンパク質−タンパク質、脂質−タンパク質、糖−タンパク質、タンパク質−有機化合物等の相互作用の検出も可能である。また、誘電体の代わりに誘電率の設計が可能なメタ物質(人工的に作り出される負の屈折率を示す物質)の利用も可能であり、金属酸化物、誘電体等も種々選択して使用可能である。また、合金の比率、UV照射条件、溶液浸漬条件等も適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、検出対象分子を高感度に検出するためのバイオセンサに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】センサ基板からの異常反射を説明するための図である。
【図2】反射率変化を媒質M3の誘電率の実部、虚部に対してプロットした図である。
【図3】第1の実施の形態におけるバイオセンサの構成例を示す図である。
【図4】第1の実施の形態におけるバイオセンサの製造方法の例を示す図である。
【図5】自己組織化単分子層とリガンドの例の化学構造式を示す図である。
【図6】センサ基板の媒質としてAuを用いた場合の異常反射の実験例を示す図である。
【図7】センサ基板の媒質としてAuとAgを1:1の重量比で蒸着し、その後空気中で自然酸化した場合の異常反射の実験例を示す図である。
【図8】センサ基板の媒質としてAuとAgを1:1の重量比で蒸着し、その後UVオゾンで酸化した場合の異常反射の実験例を示す図である。
【図9】センサ基板の媒質としてAuとAgを3:1の重量比で蒸着し、その後空気中で自然酸化した場合の異常反射の実験例を示す図である。
【図10】センサ基板の媒質としてAuとAgを3:1の重量比で蒸着し、その後UVオゾンで酸化した場合の異常反射の実験例を示す図である。
【図11】バイオセンシングの原理を説明するための図である。
【図12】従来の全反射減衰法によるバイオセンサを説明するための図である。
【符号の説明】
【0044】
1 センサ基板
2 アナライト(対象物質)
3 リガンド
4 自己組織化単分子層
5 プリズム
6 金属薄膜
7 入射光
8 表面プラズモン
9 反射光
10、10A バイオセンサ
11 チップ
M1〜M3 媒質
n1〜n3 屈折率
R 反射率
ΔR 反射率変化
ε 誘電率
θ 入射角
θr 共鳴角
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光に対する異常反射の反射率変化から吸着又は結合する対象物質を検出するセンサ基板であって、金等の非酸化性金属を基礎成分とし、銀等の酸化性金属又は酸化銀等の金属酸化物を含む、波長380ないし500nmのいずれかの光に対して前記非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈するセンサ基板。
【請求項2】
前記非酸化性金属が金であり、前記酸化性金属が銀であるか又は前記金属酸化物が酸化銀であって、金と銀の重量比が100対1から50対50である請求項1に記載のセンサ基板。
【請求項3】
光に対する異常反射の反射率変化から吸着又は結合する対象物質を検出するセンサ基板であって、金等の非酸化性金属を基礎成分とし、シリコン酸化物、フッ化マグネシウム等の誘電体を含む、波長380ないし500nmのいずれかの光に対して前記非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈するセンサ基板。
【請求項4】
前記非酸化性金属と前記誘電体の組み合わせは、粒子混合構造、2相混合構造(分散構造を含む)又は積層構造である請求項3に記載のセンサ基板。
【請求項5】
光に対する異常反射の反射率変化から吸着又は結合する対象物質を検出するセンサ基板であって、金等の非酸化性金属からなり、又は前記非酸化性金属を基礎成分とし、多孔性構造とすることにより、波長380ないし500nmのいずれかの光に対して前記非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈するセンサ基板。
【請求項6】
前記非酸化性金属が金であり、前記所定の範囲は実部が−1ないし3、虚部が0.3ないし4.5である請求項1ないし請求項5に記載のセンサ基板。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6に記載のセンサ基板を備え、前記センサ基板表面にリガンドを形成したバイオセンサ。
【請求項8】
請求項1ないし請求項4に記載のセンサ基板として金等の非酸化性金属を基礎成分とし、銀等の酸化性金属、酸化銀等の金属酸化物又はシリコン酸化物、フッ化マグネシウム等の誘電体を含むものを堆積して形成する工程と、前記センサ基板の表面に自己組織化単分子層を浸漬法により形成する工程と、前記自己組織化単分子層を浸漬法によりリガンド化する工程とを備えるバイオセンサの製造方法。
【請求項1】
光に対する異常反射の反射率変化から吸着又は結合する対象物質を検出するセンサ基板であって、金等の非酸化性金属を基礎成分とし、銀等の酸化性金属又は酸化銀等の金属酸化物を含む、波長380ないし500nmのいずれかの光に対して前記非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈するセンサ基板。
【請求項2】
前記非酸化性金属が金であり、前記酸化性金属が銀であるか又は前記金属酸化物が酸化銀であって、金と銀の重量比が100対1から50対50である請求項1に記載のセンサ基板。
【請求項3】
光に対する異常反射の反射率変化から吸着又は結合する対象物質を検出するセンサ基板であって、金等の非酸化性金属を基礎成分とし、シリコン酸化物、フッ化マグネシウム等の誘電体を含む、波長380ないし500nmのいずれかの光に対して前記非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈するセンサ基板。
【請求項4】
前記非酸化性金属と前記誘電体の組み合わせは、粒子混合構造、2相混合構造(分散構造を含む)又は積層構造である請求項3に記載のセンサ基板。
【請求項5】
光に対する異常反射の反射率変化から吸着又は結合する対象物質を検出するセンサ基板であって、金等の非酸化性金属からなり、又は前記非酸化性金属を基礎成分とし、多孔性構造とすることにより、波長380ないし500nmのいずれかの光に対して前記非酸化性金属より実部が大きく虚部が小さい所定の範囲の複素誘電率を呈するセンサ基板。
【請求項6】
前記非酸化性金属が金であり、前記所定の範囲は実部が−1ないし3、虚部が0.3ないし4.5である請求項1ないし請求項5に記載のセンサ基板。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6に記載のセンサ基板を備え、前記センサ基板表面にリガンドを形成したバイオセンサ。
【請求項8】
請求項1ないし請求項4に記載のセンサ基板として金等の非酸化性金属を基礎成分とし、銀等の酸化性金属、酸化銀等の金属酸化物又はシリコン酸化物、フッ化マグネシウム等の誘電体を含むものを堆積して形成する工程と、前記センサ基板の表面に自己組織化単分子層を浸漬法により形成する工程と、前記自己組織化単分子層を浸漬法によりリガンド化する工程とを備えるバイオセンサの製造方法。
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1】
【図2】
【図3】
【図11】
【図12】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1】
【図2】
【図3】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−58263(P2009−58263A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223950(P2007−223950)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
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