説明

センタバルブ型液圧マスタシリンダ

【課題】センタバルブのバルブステムをリテーナ部材に簡単に組み付けることができるセンタバルブ型液圧マスタシリンダを提供する。
【解決手段】バルブステム9aの基端部にフランジ部9dを一体に形成する。リテーナ部材10は、有底円筒状のガイド筒10aと、ガイド筒10aの底面に形成されるバルブステム挿通孔10eと、ガイド筒10aの開口側に形成される大径フランジ部10cと、ガイド筒10aの周壁に形成されるバルブステム組付孔10bとを備える。バルブステム組付孔10bは、バルブステム挿通孔10eに連通するシリンダ軸方向のスリット部10fとガイド孔10gとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センタバルブ型液圧マスタシリンダに係り、詳しくは、センタバルブ型液圧マスタシリンダの液圧室内に配設され、ピストンを後退方向に付勢するリターンスプリングを支持するとともに、センタバルブのバルブステムをシリンダ軸方向に移動可能に保持するリテーナ部材の組み付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
センタバルブ型の液圧マスタシリンダでは、シリンダボディに挿通したピストンに、液圧室に作動液を供給する連通孔を形成し、ピストン前進時に、センタバルブのバルブステムに支持される弁体で前記連通孔を閉塞して液圧室に液圧を発生させるようにし、前記液圧室内には、該ピストンを後退方向に付勢するリターンスプリングを配設している。該リターンスプリングのシリンダ孔底部側内周部には、該リターンスプリングを支持するとともに、センタバルブのバルブステムをシリンダ軸方向に移動可能に保持するリテーナ部材が設けられている。リテーナ部材は、有底円筒状のガイド筒にバルブステム挿通孔が形成されるとともに、バルブステムの一端側には周溝にサークリップが嵌着され、該サークリップが前記バルブステム挿通孔の外周面に当接することによりセンタバルブの後退限が規制されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】実公平3−55475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述のものでは、バルブステムをリテーナ部材に組み付ける際に、バルブステムをリテーナ部材のバルブステム挿通孔に挿通してから、バルブステムの一端側に形成された周溝にサークリップを装着させ、その後、リテーナ部材をシリンダ孔に取り付けなければならず、組み付け作業に手間が掛かっていた。
【0004】
また、フランジ部を一体に備えたバルブステムをリテーナ部材に組み付ける場合では、リテーナ部材の開口部側からバルブステムをリテーナ部材の内部に挿入し、バルブステム挿通孔に挿通させることになるが、リテーナ部材の開口部側に、塵や埃が混入することを防止するためのフィルタを備えたものや、リテーナ部材をシリンダ孔に係合するための係合部を備えたもの等では、前記フィルタや係合部によりバルブステムの組み付け性が悪化し、生産性の低下に繋がる虞があった。
【0005】
そこで本発明は、センタバルブのバルブステムをリテーナ部材に簡単に組み付けることができるセンタバルブ型液圧マスタシリンダを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のセンタバルブ型液圧マスタシリンダは、シリンダボディに形成したシリンダ孔にピストンを内挿することにより前記シリンダ孔内に液圧室を画成し、前記ピストンに前記液圧室に作動液を供給する連通孔を設け、前記液圧室内に前記ピストンを後退方向に付勢するリターンスプリングを配置し、該リターンスプリングのシリンダ孔底部側内周部に、該リターンスプリングのシリンダ孔底部側端部を支持するとともに、センタバルブのバルブステムをシリンダ軸方向に移動可能に保持するリテーナ部材を設け、ピストン前進時に前記センタバルブで前記連通孔を閉塞して前記液圧室に液圧を発生させるセンタバルブ型液圧マスタシリンダにおいて、前記バルブステムの基端部に、該バルブステムより大径で前記リテーナ部材の内径より小径のフランジ部を設け、前記リテーナ部材は、前記リターンスプリングの内径よりも小さな外径を有し、シリンダ孔底部側が開口した有底円筒状のガイド筒と、該ガイド筒の底面中央に形成され、前記バルブステムのフランジ部よりも小さな内径を有するバルブステム挿通孔と、前記ガイド筒の周壁に形成されたバルブステム組付孔とを備え、該バルブステム組付孔は、ガイド筒底面で前記バルブステム挿通孔に連通するシリンダ軸方向のスリット部と、ガイド筒の長さ方向中間部に設けられたガイド孔とを備え、前記スリット部のガイド筒周方向の幅寸法は、バルブステムの直径よりも広く、且つ、前記フランジ部の直径よりも狭く形成され、前記ガイド孔のガイド筒周方向の幅寸法及びガイド筒軸線方向の長さ寸法は、バルブステムをリテーナ部材に組み付ける際に、前記バルブステムの外周一側面をガイド孔の内周一側縁に当接させ、フランジ部の外周一側方をガイド孔内に挿入した状態から、ガイド孔の内周一側縁に当接した部分を回転中心としてフランジ部の外周一側方がガイド筒の内周面に当接する方向にバルブステムを傾斜させたときに、フランジ部の外周他側方がガイド孔の内周他側縁の内側を通過可能な寸法に形成したことを特徴とし、前記シリンダ孔底部の軸線方向にユニオン孔を設け、前記ガイド筒の開口側端部にフィルタを取り付けたものに好適である。また、前記ガイド筒の開口側外周に係合爪を形成し、前記シリンダ孔に、前記係合爪を係合させる係合段部を形成しても良い。
【発明の効果】
【0007】
本発明のセンタバルブ型液圧マスタシリンダによれば、バルブステムをリテーナ部材に組み付ける際には、バルブステムの軸線をガイド筒の軸線に対して直交する方向に配置し、バルブステムの外周一側面をガイド孔の内周一側縁に当接させ、フランジ部の外周一側方をガイド孔内に挿入した状態から、ガイド孔の内周一側縁に当接した部分を回転中心としてフランジ部の外周一側方がガイド筒の内周面に当接する方向にバルブステムを傾斜させ、フランジ部の外周他側方をガイド孔の内周他側縁の内側を通過させて、バルブステムをスリット部の位置に合わせることにより、フランジ部と共にバルブステムをガイド筒内部に収容することができ、また、バルブステムをバルブステム挿通孔に挿通させることができ、組み付け作業を簡単に行うことができる。さらに、バルブステムの基端部にフランジ部を一体に形成することができ、バルブステムの構造を簡素化させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を自動二輪車の後輪ブレーキ用の液圧マスタシリンダに適用した一形態例を図面に基づいて詳しく説明する。図1はセンタバルブ型液圧マスタシリンダの要部拡大断面図、図2は図1のII-II断面図、図3は図1のIII-III断面図、図4はバルブステムをリテーナ部材に組み付ける状態を示す説明図、図5はセンタバルブ型液圧マスタシリンダの断面図である。
【0009】
本形態例の液圧マスタシリンダ1のシリンダボディ2は、縦長の円筒体が用いられ、該シリンダボディ2には、下端を開口して形成されたシリンダ孔2aに、ピストン3が液密に挿通されている。ピストン3はブレーキペダル4aに枢着されたプッシュロッド4の上端に支承され、シリンダ孔2aのピストン3より上方を液圧室5としている。シリンダボディ2の上壁(底部)2bの軸線方向には、作動液の吐出孔となるユニオン孔2cが液圧室5に連通して設けられ、また、シリンダボディ2の一側壁には、リザーバ(図示せず)に連通するコネクタ6の接続孔2dを備えたボス部2eが突設され、該ボス部2eの底部には、シリンダ孔2aに連通する液通孔2fが形成され、シリンダボディ2の他側壁には、車体取付ボス部2g,2gが突設されている。
【0010】
ピストン3は、前記プッシュロッド4の上端に配設される第1ピストン部3aと、該第1ピストン部3aの上端に接続する第2ピストン部3bと、該第2ピストン部3bの上部内周側に配設される小径の第3ピストン部3cとを備えており、このピストン3には、液通孔2fに連通して液圧室5に作動液を供給する連通孔7が形成されている。液圧室5内には、ピストン3を後退方向に付勢するリターンスプリング8が配設されている。このリターンスプリング8の上端側内周部(シリンダ孔底部側内周部)には、該リターンスプリング8の上端8a(シリンダ孔底部側端部)を支持するとともに、センタバルブ9のバルブステム9aをシリンダ軸方向に移動可能に保持するリテーナ部材10が設けられ、ピストン3の上動時にセンタバルブ9の弁体9bで前記連通孔7を閉塞して液圧室5に液圧を発生させるようにしている。
【0011】
センタバルブ9は、小径のバルブステム9aと、該バルブステム9aの先端部に形成される弁体9bの嵌着部9cと、前記バルブステムの基端部に形成されるフランジ部9dとがそれぞれ一体に形成され、嵌着部9cには、弁体9bとなるゴム製の環状シール部材が嵌着されている。
【0012】
リテーナ部材10は、リターンスプリング8の内径よりも小さな外径を有し、バルブステム9aのフランジ部9dよりも大きな内径を有するシリンダ孔底部側が開口した有底円筒状のガイド筒10aと、該ガイド筒10aの底面中央に形成され、バルブステム9aのフランジ部9dよりも小さな内径を有するバルブステム挿通孔10bと、ガイド筒10aの開口側に形成され、リターンスプリング8の上端8aを支持する大径フランジ部10cと、ガイド筒10aの開口側外周に形成される係合爪10dと、ガイド筒10aの周壁に形成されたバルブステム組付孔10eとを備えている。
【0013】
バルブステム組付孔10eは、ガイド筒底面でバルブステム挿通孔10bに連通し、大径フランジ部10cの形成位置まで連続するシリンダ軸方向のスリット部10fと、該スリット部10fの中間位置に形成されるガイド孔10gとを備えている。
【0014】
スリット部10fのガイド筒周方向の幅寸法T1は、バルブステム9aの直径よりも広く、且つ、フランジ部9dの直径よりも狭く形成され、前記ガイド孔10gのガイド筒周方向の幅寸法T2及びガイド筒軸線方向の長さ寸法T3は、バルブステム9aをリテーナ部材10に組み付ける際に、図4の(A)に示されるように、バルブステム9aの軸線をガイド筒10aの軸線L1に対して直交する方向に配置し、バルブステム9aの外周一側面9eをガイド孔10gの内周一側縁10hに当接させ、フランジ部9dの外周一側方9fをガイド孔10g内に挿入した状態から、図4の(B)に示されるように、バルブステム9aの外周一側面9eとガイド孔10gの内周一側縁10hとの当接部分を中心としてフランジ部9dの外周一側方9fがガイド筒10aの内周面10iに当接する方向にバルブステム9aを傾斜させ、次いで、図4の(C)に示されるように、フランジ部9dの外周一側方9fがガイド筒10aの内周面10iに当接した部分を中心としてバルブステム9aを更に傾斜させたときに、フランジ部9dの外周他側方9gがガイド孔10gの内周他側縁10kの内側を通過可能な寸法に形成している。
【0015】
前記シリンダ孔2aの上壁2bには、係合爪10dを係合させる係合段部2hが、前記ユニオン孔2cに連続して形成されている。ガイド筒10aの外周側には、リターンスプリング8が配設され、リターンスプリング8の上端8aはリテーナ部材10の大径フランジ部10cに、下端8bは第3ピストン部3cに形成されたリブに支持され、該リターンスプリング8によって前記ピストン3をシリンダ孔2aの開口側に付勢している。
【0016】
リテーナ部材10は、ガイド筒10aの開口端部に、作動液に塵や埃が混入することを防止するフィルタ11が取り付けられ、開口端部が閉塞された状態で、前記バルブステム9aが組み付けられる。さらに、リテーナ部材10は、係合爪10dをシリンダ孔2aの上壁2b側に向けてシリンダ孔2a内に挿入し、係合爪10dを係合段部2hに係合させることによって、シリンダ孔2aの上壁2bに固着させる。
【0017】
本形態例は、このように形成されていることにより、リテーナ部材10のガイド孔10gから、バルブステム9aのフランジ部9dをガイド筒10aの内部に挿入させ、バルブステム9aを傾斜させてガイド筒10a内に挿入させ、バルブステム挿通孔10bに挿通させることができることから、バルブステム9aをリテーナ部材10に簡単に組み付けることができる。さらに、バルブステム9aを組み付けたリテーナ部材10は、係合爪10dをシリンダ孔2aに形成した係合段部2hに係合させるだけでシリンダ孔2aの上壁2bに簡単に固着させることができる。
【0018】
これにより、バルブステム9aとリテーナ部材10とシリンダ孔2aとを簡単に組み付けることができ、組み付けに要する時間や手間を大幅に削減することができる。また、バルブステム9aにフランジ部9dを一体に形成していることから、バルブステム9aの構造を簡素化させることができ、コストの削減化を図ることができる。さらに、本形態例では、ガイド筒10aの開口端部に、作動液に塵や埃が混入することを防止するフィルタ11が取り付けられており、このフィルタ11がバルブステム9aよりも先にリテーナ部材10に組み付けられた状態であっても、バルブステム9aをリテーナ部材10に容易に組み付けることができる。
【0019】
なお、本発明は上述の形態例のように、自動二輪車の後輪ブレーキ用の液圧マスタシリンダに適用されるものに限らず、センタバルブを用いたどのような液圧マスタシリンダにも適用することができ、シリンダボディの軸線が略水平方向に向くように配設されるものや、タンデム型の液圧マスタシリンダにも適用することができる。また、リテーナ部材に形成されるスリット部は、本形態例のようにバルブステム挿通孔から大径フランジ部形成位置まで形成するものに限らず、ガイド孔とバルブステム挿通孔とを連通する長さがあれば良い。さらに、リテーナ部材をシリンダ孔底部に係合片と係合段部とで固着させるものでなくても差し支えなく、また、リテーナ部材の開口端部にフィルタを設けていなくても良い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一形態例を示すセンタバルブ型液圧マスタシリンダの要部拡大断面図である。
【図2】図1のII-II断面図である。
【図3】図1のIII-III断面図である。
【図4】同じくバルブステムをリテーナ部材に組み付ける状態を示す説明図である。
【図5】同じくセンタバルブ型液圧マスタシリンダの断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1…液圧マスタシリンダ、2…シリンダボディ、2a…シリンダ孔、2b…上壁、2c…ユニオン孔、2d…接続孔、2e…ボス部、2f…液通孔、2g…車体取付ボス部、2h…係合段部、3…ピストン、3a…第1ピストン部、3b…第2ピストン部、3c…第3ピストン部、4…プッシュロッド、4a…ブレーキペダル、5…液圧室、6…コネクタ、7…連通孔、8…リターンスプリング、8a…上端、8b…下端、9…センタバルブ、9a…バルブステム、9b…弁体、9c…嵌着部、9d…フランジ部、9e…外周一側面、9f…外周一側方、9g…外周他側方、10…リテーナ部材、10a…ガイド筒、10b…バルブステム挿通孔、10c…大径フランジ部、10d…係合爪、10e…バルブステム組付孔、10f…スリット部、10g…ガイド孔、10h…内周一側縁、10i…内周面、10k…内周他側縁、11…フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダボディに形成したシリンダ孔にピストンを内挿することにより前記シリンダ孔内に液圧室を画成し、前記ピストンに前記液圧室に作動液を供給する連通孔を設け、前記液圧室内に前記ピストンを後退方向に付勢するリターンスプリングを配置し、該リターンスプリングのシリンダ孔底部側内周部に、該リターンスプリングのシリンダ孔底部側端部を支持するとともに、センタバルブのバルブステムをシリンダ軸方向に移動可能に保持するリテーナ部材を設け、ピストン前進時に前記センタバルブで前記連通孔を閉塞して前記液圧室に液圧を発生させるセンタバルブ型液圧マスタシリンダにおいて、前記バルブステムの基端部に、該バルブステムより大径で前記リテーナ部材の内径より小径のフランジ部を設け、前記リテーナ部材は、前記リターンスプリングの内径よりも小さな外径を有し、シリンダ孔底部側が開口した有底円筒状のガイド筒と、該ガイド筒の底面中央に形成され、前記バルブステムのフランジ部よりも小さな内径を有するバルブステム挿通孔と、前記ガイド筒の周壁に形成されたバルブステム組付孔とを備え、該バルブステム組付孔は、ガイド筒底面で前記バルブステム挿通孔に連通するシリンダ軸方向のスリット部と、ガイド筒の長さ方向中間部に設けられたガイド孔とを備え、前記スリット部のガイド筒周方向の幅寸法は、バルブステムの直径よりも広く、且つ、前記フランジ部の直径よりも狭く形成され、前記ガイド孔のガイド筒周方向の幅寸法及びガイド筒軸線方向の長さ寸法は、バルブステムをリテーナ部材に組み付ける際に、前記バルブステムの外周一側面をガイド孔の内周一側縁に当接させ、フランジ部の外周一側方をガイド孔内に挿入した状態から、ガイド孔の内周一側縁に当接した部分を回転中心としてフランジ部の外周一側方がガイド筒の内周面に当接する方向にバルブステムを傾斜させたときに、フランジ部の外周他側方がガイド孔の内周他側縁の内側を通過可能な寸法に形成したことを特徴とするセンタバルブ型液圧マスタシリンダ。
【請求項2】
前記シリンダ孔底部の軸線方向にユニオン孔を設け、前記ガイド筒の開口側端部にフィルタを取り付けたことを特徴とする請求項1記載のセンタバルブ型液圧マスタシリンダ。
【請求項3】
前記ガイド筒の開口側外周に係合爪を形成し、前記シリンダ孔に、前記係合爪を係合させる係合段部を形成したことを特徴とする請求項1または2記載のセンタバルブ型液圧マスタシリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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