説明

ゼオライト、及び該ゼオライトを含む水蒸気吸着材

【課題】安価なテンプレートを用いて比較的短時間の合成時間で所望のSi含有量を有するゼオライトを提供する。
【解決手段】40℃の水蒸気吸着等温線において相対蒸気圧0.05での吸着量が0.1g/g以下であり、かつ相対蒸気圧0.05以上、0.10以下の範囲で相対蒸気圧が0.05変化したときに水の吸着量変化が0.15g/g以上の相対蒸気圧域を有するか、55℃の水蒸気吸着等温線において相対蒸気圧0.03での吸着量が0.1g/g以下であり、かつ相対蒸気圧0.03以上、0.20以下の範囲で相対蒸気圧が0.07変化したときに水の吸着量変化が0.15g/g以上の相対蒸気圧域を有するゼオライトとすることにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨格にSi,Al,Pを含むゼオライト(以下SAPOと言う)及び該ゼオライトを含む水蒸気吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
SAPOの合成法としては、テンプレートを用いて水熱合成する方法が一般的に知られている。しかし、多様な構造を有するSAPOに対して、所望の構造と組成を有するゼオライトを工業的レベルで製造する方法に関して系統立った検討は未だなされていない。
【0003】
例えば、特許文献1には種々の構造を有するSAPOの合成法が開示されており、テンプレートとして一般的に4級アンモニウム塩及びアミン類が使用される事が示されている。そして、CHA構造のSAPOであるSAPO−34を製造するために、テンプレートとしてテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)を用いた実施例と、TEAOHとジ−n−イロプロピルアミンとを併用した実施例とが記載されている。テンプレートとしてTEAOHを用いると所望のケイ素含有量のSAPO−34を比較的容易に製造することができるが、TEAOHは非常に高価であり、また、合成して得られるSAPO−34の粒径が小さいため、濾過等の合成後の分離操作が困難である。したがって、工業的な観点からは、TEAOHを用いないような、より安価で、かつ、粒径が大きく分離操作が容易であるテンプレートの選定が望まれていた。
【0004】
非特許文献1にはテンプレートとしてアミンを用いた方法が開示されている。この例では、水性ゲルの組成が0.5SiO2:Al23:0.9P25:2トリエチルアミン:60H2Oで、190℃7日間の合成を行っている。しかし、テンプレートにトリエチルアミンを用いた場合、安価であるが、目的の骨格構造を持ったSAPOに対して、AFI構造のSAPO−5とよばれるフレームワーク密度の小さいSAPOの混入が起こりやすく純度の高いSAPO―34を安定に製造することは困難であった。また、純度の高いSAPO―34を合成しようとすると長時間の合成時間を要する。
【0005】
また、テンプレートとしてモルホリンを用いると安価であり、高温で反応すれば比較的短時間で合成は可能であるが、非特許文献2に記載されているように、通常水熱合成の反応原料である水性ゲル組成において、SiO2/Al23の比が0.3以下では純粋なCHA構造が得られない。例えば、水性ゲルの組成が0.3SiO2:Al23:P25:2モルホリン:60H2Oで200℃48時間の水熱合成をすると、SAPO―34とデンス成分であるcristobaliteとの混合物となる。
【0006】
また、例えばSAPO−34の場合では、テンプレートとしてTEAOHを含む以外の方法で、Si含有量が骨格構造のアルミニウム、リン、およびケイ素の合計に対するケイ素のモル比で9%以下のものは報告例が無い。
【特許文献1】特開昭59−35018号公報
【非特許文献1】The Journal of Physical Chemistry Vol.97, 1993, 8109-8112
【非特許文献2】J.Chem.Soc.Faraday Trans., 1994, 90,2291-2296
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
工業的に触媒や吸着材に広く使用する点において、高価なTEAOH等の4級アンモニウム塩を用いずとも、安価なテンプレートを用いて比較的短時間の合成時間で所望のSi含有量を有するゼオライトを得る、工業的製造に適した製造法が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ゼオライトの水熱合成の際に用いるテンプレートとして特定の化合物群から2種類以上を併用すると、Siの含有量の少ないSAPOを、安価なテンプレートを用いて、高純度でかつ工業的に利用できる程度の合成時間で製造できることを見出し、本発明を達成した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨の第1は、ゼオライトが、40℃の水蒸気吸着等温線において相対蒸気圧0.05での吸着量が0.1g/g以下であり、かつ相対蒸気圧0.05以上、0.10以下の範囲で相対蒸気圧が0.05変化したときに水の吸着量変化が0.15g/g以上の相対蒸気圧域を有することを特徴とするゼオライトに存する。
【0010】
また、本発明の要旨の第2は、ゼオライトが、55℃の水蒸気吸着等温線において相対蒸気圧0.03での吸着量が0.1g/g以下であり、かつ相対蒸気圧0.03以上、0.20以下の範囲で相対蒸気圧が0.07変化したときに水の吸着量変化が0.15g/g以上の相対蒸気圧域を有することを特徴とするゼオライトに存する。本発明の要旨の第3は、上記本発明のゼオライトを含む水蒸気吸着材に存する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、安価なテンプレートを用い、Si含有量をコントロールできるシリコアルミノフォスフェートを製造する事が可能となる。このようなゼオライトは工業的に所望な触媒や吸着材に広く使用する事ができる。例えば、水吸着材とし、特殊な吸着性能を示すものが安価で製造可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
ゼオライトの製造方法
本発明のゼオライトの製造方法は、水熱合成に用いるテンプレートの種類に特徴を有するものである。その他の製造条件は特に限定されず、公知の水熱合成方法によって製造できる。通常、アルミニウム源、ケイ素源、リン源およびテンプレートを混合した後、水熱合成し、テンプレートを除去してゼオライトを得る。以下、製造方法の一例を説明する。
【0013】
まず、アルミニウム源、ケイ素源、リン源、およびテンプレートを混合する。
アルミニウム源
アルミニウム源は特に限定されず、通常、擬ベーマイト、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムトリエトキシド等のアルミニウムアルコキシド、水酸化アルミニウム、アルミナゾル、アルミン酸ナトリウムなどであって、擬ベーマイトが好ましい。
ケイ素源
ケイ素源は特に限定されず、通常、fumedシリカ、シリカゾル、コロイダルシリカ、水ガラス、ケイ酸エチル、ケイ酸メチルなどであって、fumedシリカが好ましい。
リン源
リン源は通常リン酸であるが、リン酸アルミニウムを用いてもよい。
テンプレート
テンプレートは(1)ヘテロ原子として窒素を含む脂環式複素環化合物、(2)シクロアルキルアミン、および(3)アルキルアミン、の3つの群のうち、2つ以上の群から各群につき1種以上の化合物を選択して用いる。
(1)ヘテロ原子として窒素を含む脂環式複素環化合物
ヘテロ原子として窒素を含む脂環式複素環化合物の複素環は通常5〜7員環であって、好ましくは6員環である。複素環に含まれるヘテロ原子の個数は通常3個以下、好ましくは2個以下である。ヘテロ原子の種類は窒素以外は特に限定されないが、窒素に加えて酸素を含むものが好ましい。ヘテロ原子の位置は特に限定されないが、ヘテロ原子が相互に隣り合わないものが好ましい。また、分子量で通常、250以下、好ましくは200以下、さらに好ましくは150以下である。
【0014】
このようなヘテロ原子として窒素を含む脂環式複素環化合物として、モルホリン、N−メチルモルホリン、ピペリジン、ピペラジン、N,N‘−ジメチルピペラジン、1,4−ジアザビシクロ(2,2,2)オクタン、N−メチルピペリジン、3−メチルピペリジン、キヌクリジン、ピロリジン、N−メチルピロリドン、ヘキサメチレンイミンなどが挙げられ、モルホリン、ヘキサメチレンイミン、ピペリジンが好ましく、モルホリンが特に好ましい。
(2)シクロアルキルアミン
シクロアルキルアミンのシクロアルキル基の個数はアミン1分子に2以下であって、好ましくは1である。また、シクロアルキル基の炭素数は通常5〜7で、好ましくは6である。シクロアルキルのシクロ環の数は特に限定されないが、通常1が好ましい。また、シクロアルキル基がアミン化合物の窒素原子と結合しているのが好ましい。また、分子量で通常、250以下、好ましくは200以下、さらに好ましくは150以下である。
【0015】
このようなシクロアルキルアミンとしては、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N−メチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン等があげられ、シクロヘキシルアミンが好ましい。
(3)アルキルアミン
本発明のアルキルアミンのアルキル基は鎖式アルキル基であって、アミン1分子に何個入っていてもよいが、3個が特に好ましい。アルキル基の炭素数は4以下が好ましく、1分子中の全アルキル基の炭素数の合計が10以下がより好ましい。また、分子量で通常、250以下、好ましくは200以下、さらに好ましくは150以下である。
【0016】
このようなアルキルアミンとしては、ジーn−プロピルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−イソプロピルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、ジ−n−ブチルアミン、ネオペンチルアミン、ジーn−ペンチルアミン、イソプロピルアミン、t−ブチルアミン、エチレンジアミン、ジ−イソプロピル−エチルアミン、N−メチル−n−ブチルアミン等があげられ、ジーn−プロピルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−イソプロピルアミン、トリエチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、イソプロピルアミン、t−ブチルアミン、エチレンジアミン、ジ−イソプロピル−エチルアミン、N−メチル−n−ブチルアミンが好ましく、トリエチルアミンが特に好ましい。
(1)〜(3)のテンプレートの好ましい組み合わせ
好ましい組み合わせとしては、モルホリン、トリエチルアミンおよびシクロヘキシルアミンから2種以上、中でもモルホリン、トリエチルアミンを含む場合がより好ましい。これらのテンプレート各群の混合比率は、条件に応じて選択する必要がある。2種のテンプレートを混合させるときは、通常、混合させる2種のテンプレートのモル比が1:20から20:1、好ましくは1:10から10:1、さらに好ましくは1:5から5:1である。3種のテンプレートを混合させるときは、通常、3種目のテンプレートのモル比は、上記のモル比で混合された2種のテンプレートに対して1:20から20:1、好ましくは1:10から10:1、さらに好ましくは1:5から5:1である。
【0017】
その他のテンプレートが入っていても良いが、その他のテンプレートはテンプレート全体に対してモル比で通常20%以下であり、10%以下が好ましい。本発明の方法を用いるとSi含有量が少ないSAPOが合成できる理由は明らかではないが、以下のような事が推察される。例えば、CHA型構造のSAPOを合成する場合、ヘテロ原子として窒素を含む脂環式複素環化合物、例えばモルホリンは上記に示したように、Si含有量の多いものであれば比較的容易に合成が可能であるが、Si含有量の少ないものを合成しようとすると、デンス成分やアモルファス成分が多くできてしまう。また、アルキルアミン、例えばトリエチルアミンは上記に示したように、CHA構造のSAPOも限られた条件では合成可能であるが、通常、種々の構造のSAPOが混在しやすい。しかし逆に言えば、デンス成分やアモルファス成分では無く、結晶構造のものにはなりやすい。また、シクロアルキルアミン、例えばシクロヘキシルアミンはSi含有量が多い場合はCHA構造のSAPOができやすく、少ない場合はある条件ではERI構造のSAPOができ、デンス成分となる事は少ない。すなわち、それぞれのテンプレートはCHA構造を導くための特徴、SAPOの結晶化を促進させる特徴などが、それぞれ限られた条件の中で有している。これらの特徴を組み合わせる事により、相乗効果を発揮させ、単独では実現できなかった効果があらわれたと考えられる。
水熱合成によるゼオライトの合成
上述のケイ素源、アルミニウム源、リン源、テンプレートおよび水を混合して水性ゲルを調合する。混合順序は制限がなく、用いる条件により適宜選択すればよいが、通常は、まず水にリン源、アルミニウム源を混合し、これにケイ素源、テンプレートを混合する。
【0018】
水性ゲルの組成は、ケイ素源、アルミニウム源およびリン源を酸化物のモル比であらわすと、SiO2/Al23の値は通常、0より大きく、0.5以下であり、好ましくは0.4以下、さらに好ましくは0.3以下である。またP25/Al23の比は通常0.6以上、好ましくは0.7以上、さらに好ましくは0.8以上であり、通常1.3以下、好ましくは1.2以下、さらに好ましくは1.1以下である。
【0019】
水熱合成によって得られるゼオライトの組成は水性ゲルの組成と相関があり、所望の組成のゼオライトを得るためには水性ゲルの組成を適宜設定すればよい。テンプレートの総量は、Al23に対するテンプレートのモル比で、通常0.2以上、好ましくは0.5以上、さらに好ましくは1以上であって、通常4以下、好ましくは3以下、さらに好ましくは2.5以下である。また、2種以上のテンプレートの混合比は条件に応じて適宜選ぶ必要があるが、例えば、モルホリンとトリエチルアミンを用いる場合、モルホリン/トリエチルアミンのモル比が0.05から20、好ましくは0.1から10、さらに好ましくは0.2から9である。前記2つ以上の群から各群につき1種以上選択されたテンプレートを混合する順番は特に限定されず、テンプレートを調製した後その他の物質と混合してもよいし、各テンプレートをそれぞれ他の物質と混合してもよい。
【0020】
また水の割合は、Al23に対して、モル比で通常3以上、好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上であって、通常200以下、好ましくは150以下、さらに好ましくは120以下である。水性ゲルのpHは通常5以上好ましくは6以上、さらに好ましくは6.5以上であって、通常10以下、好ましくは9以下、さらに好ましくは8.5以下である。
【0021】
なお、水性ゲル中には、所望により、上記以外の成分を共存させても良い。このような成分としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物や塩、アルコール等の親水性有機溶媒があげられる。共存させる割合は、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物や塩の場合は、Al23に対してモル比で通常0.2以下、好ましくは0.1以下であり、アルコール等の親水性有機溶媒の場合は、水に対してモル比で通常0.5以下、好ましくは0.3以下である。
【0022】
水性ゲルを耐圧容器に入れ、自己発生圧下、または結晶化を阻害しない気体加圧下で、攪拌または静置状態で所定温度を保持する事により水熱合成する。水熱合成の反応温度は、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上であって、通常300℃以下、好ましくは250℃以下、さらに好ましくは220℃以下である。反応時間は通常2時間以上、好ましくは3時間以上、さらに好ましくは5時間以上であって、通常30日以下、好ましくは10日以下、さらに好ましくは4日以下である。反応温度は反応中一定でもよいし、段階的に変化させてもよい。
テンプレートを含有したゼオライト
水熱合成後、生成物を分離するが、生成物の分離方法は特に限定されない。通常、濾過またはデカンテーション等により分離し、水洗、室温から150℃以下の温度で乾燥して生成物であるテンプレートを含有したゼオライトを得ることができる。
本発明の製造方法により得られるゼオライト
そして、テンプレートを含有したゼオライトからテンプレートを除去するが、その方法は特に限定されない。通常、空気または酸素含有の不活性ガス、あるいは不活性ガスの雰囲気下に400℃から700℃の温度で焼成したり、エタノール水溶液、HCl含有エーテル等の抽剤による抽出等の方法により、含有する有機物を除去することができる。
【0023】
即ち、骨格構造のアルミニウム、リン、およびケイ素のモル比が下記の存在割合のゼオライトを合成できる。ゼオライトのアルミニウム、リンおよびケイ素の原子の存在割合は下記式(I)、(II)および(III)
0.001≦x≦0.3 ・・・(I)
(式中、xは骨格構造のケイ素とアルミニウムとリンの合計に対するケイ素のモル比を示す)
0.3≦y≦0.6 ・・・(II)
(式中、yは骨格構造のケイ素とアルミニウムとリンの合計に対するアルミニウムのモル比を示す)
0.3≦z≦0.6 ・・・(III)
(式中、zは骨格構造のケイ素とアルミニウムとリンの合計に対するリンのモル比を示す)
以上説明した本発明の製造方法によれば、骨格構造のアルミニウム、リン、およびケイ素の合計に対するケイ素のモル比を30%以下で制御でき、これまでアミン類のテンプレートでは難しかったケイ素のモル比が9%以下、好ましくは8.7%以下、さらに好ましくは8.5%以下のゼオライトも合成可能である。
【0024】
即ち、ケイ素の存在割合が、下記式(IV)
0.001≦x≦0.09 ・・・(IV)
(式中、xは上記と同義である)で表されるゼオライトであり、中でも下記式(V)
0.005≦x≦0.087 ・・・(V)
(式中、xは上記と同義である)で表されるゼオライトであり、中でも下記式(VI)
0.01≦x≦0.085 ・・・(VI)
(式中、xは上記と同義である)で表されるゼオライトを製造でき、これは後述する水蒸気吸着材において特に好適に用いられるものである。
【0025】
すなわち、テンプレートとして本発明に示したようにアミンを組み合わせて用い、出発ゲル中のSi量を記載したように制御させる事により、所望のSi含有量のSAPOが合成可能となる。なお、上記の原子割合は元素分析により決定するが、本発明における元素分析は試料を塩酸水溶液で加熱溶解させ、ICP分析により求める。
【0026】
また、本発明のゼオライトを水蒸気吸着材として用いる場合には、上記製造法で製造されたゼオライトのなかでも以下の構造およびフレームワーク密度を有するものが好ましい。ゼオライトの構造は、XRDにより決定するが、International Zeolite Association(IZA)が定めるコードで示すと、AEI、AFR、AFS、AFT、AFX、AFY、AHT、CHA、DFO、ERI、FAU、GIS、LEV、LTA、VFIであり、AEI、AFX、GIS、CHA、VFI、AFS、LTA、FAU、AFYが好ましく、CHA構造を有するゼオライトが最も好ましい。また、フレームワーク密度は結晶構造を反映したパラメータであるが、IZAがATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES Fifth Revised Edition 2001 において示してある数値で好ましくは10.0T/1000Å3以上であって、通常16.0T/1000Å3以下、好ましくは15.0T/1000Å3以下である。
本発明のゼオライトを含む水蒸気吸着材
本発明によって製造された上記の構造を有するゼオライトは、水蒸気吸着材として優れた性能を示すが、水蒸気吸着剤として用いる場合にはシリカ、アルミナ、チタニア等の金属酸化物や粘土等のバインダー成分や、熱伝導性の高い成分と共に使用することができる。このとき、ゼオライトの含有量が水蒸気吸着剤全体の60重量%以上であって、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。
【0027】
また、本発明の製造方法によれば、優れた吸・脱着特性を示すゼオライトを製造することができる。すなわち、本発明を用いる事により、Si含有量をコントロールする事ができ、それにより、種々の条件での吸脱着特性を有するものが製造可能となる。これは、勿論、条件により異なるが、一般的に、低温から通常吸着が難しくなる高温領域まで吸着可能であり、また高湿度状態から通常吸着が難しくなる低湿度領域まで吸着可能であり、かつ比較的低温の100℃以下で脱着が可能である事を示す。
【0028】
このようなすぐれた吸脱着特性を吸着等温線で評価すると、例えば、40℃の水蒸気吸着等温線では、相対蒸気圧0.05での吸着量が0.1g/g以下であり、かつ相対蒸気圧0.05以上、0.25以下の範囲で相対蒸気圧が0.15変化したときに水の吸着量変化が0.15g/g以上の相対蒸気圧域を有するゼオライトや、55℃の水蒸気吸着等温線において相対蒸気圧0.03での吸着量が0.1g/g以下であり、かつ相対蒸気圧0.03以上、0.20以下の範囲で相対蒸気圧が0.15変化したときに水の吸着量変化が0.15g/g以上の相対蒸気圧域を有するゼオライトである。
【0029】
この特性を有するゼオライトは100℃以下で吸着質を脱着させることができるため、吸・脱着特性の優れた水蒸気吸着材として用いることができる。このような特性を持つと、低温から高温まで、低湿度から高湿度までの広い条件で吸着が可能であり、しかも比較的低温で脱着ができる事を示し、ヒートポンプ、デシカント、除湿などの水蒸気吸着剤に利用できる。
【0030】
以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
実施例1
水30gに85%リン酸12.9gおよび擬ベーマイト(25%水含有、コンデア製)9.52gをゆっくりと加え、攪拌した。これをA液とした。A液とは別にfumedシリカ(アエロジル200)0.84g、モルホリン6.1g、トリエチルアミン7.1g、水40gを混合した液を調製した。これをA液にゆっくりと加えて、3時間攪拌し、以下の組成を有する水性ゲルを得た。
0.2SiO2:Al23:0.8P25:1モルホリン:1トリエチルアミン:60H2
該水性ゲルをフッ素樹脂内筒の入った200ccのステンレス製オートクレーブに仕込み、回転させながら200℃で24時間反応させた。反応後冷却して、デカンテーションにより上澄みを除いて沈殿物を回収した。沈殿物を水で3回洗浄した後濾別し、120℃で乾燥した。その後560℃で空気気流下焼成を行い、テンプレートを除去した。
【0032】
こうして得られたゼオライトのXRDを測定したところ、CHA構造(フレームワーク密度=14.6T/1,000Å3)であった。XRD結果を図1に示す。また、塩酸水溶液で加熱溶解させ、ICP分析により元素分析を行ったところ、骨格構造のケイ素とアルミニウムとリンの合計に対する各成分の構成割合(モル比)は、ケイ素が6.6%、アルミニウムが47.4%リンが46.1%であった。
実施例2
水180gに85%リン酸87.1gを加え、これに擬ベーマイト(25%水含有、コンデア製)57.2gをゆっくりと加え、3時間攪拌した。これをA液とした。A液とは別にfumedシリカ(アエロジル200)5.04g、モルホリン36.6g、水240gを混合した液を調製した。これをA液にゆっくりと加えた。さらにトリエチルアミン47.0gを加え、これを3時間攪拌し、以下の組成を有する水性ゲルを得た。
0.2SiO2:Al23:0.9P25:1モルホリン:1.1トリエチルアミン:60H2
こうして得られた混合物をフッ素樹脂内筒の入った1lのステンレス製オートクレーブに仕込み、100rpmで攪拌しながら190℃で60時間反応させた。反応後冷却して、デカンテーションにより上澄みを除いて沈殿物を回収した。沈殿物を水で3回洗浄した後濾別し、120℃で乾燥した。
【0033】
こうして得られたゼオライトのXRDを測定したところ、CHA構造であった。XRDの測定結果を図2に示す。その後、560℃で空気気流下焼成を行いテンプレートを除去したゼオライトを塩酸水溶液で加熱溶解させ、ICP分析により元素分析を行った。その結果、ケイ素とアルミニウムとリンの合計に対する各成分の構成割合(モル比)は、ケイ素が7.9%、アルミニウムが48.7%、リンが43.3%であった。
【0034】
さらに、該ゼオライトの吸着等温線測定装置(ベルソーブ18:日本ベル(株))により測定した40℃における水蒸気吸着等温線を図3に示す。なお、吸着等温線の測定は、空気高温槽温度50℃、吸着温度40℃、初期導入圧力5.0torr、導入圧力設定点数0、飽和蒸気圧55.34mmHg、平衡時間500秒で行った。
実施例3
水30gに85%リン酸16.1gおよび擬ベーマイト(25%水含有、コンデア製)9.52gをゆっくりと加え、攪拌した。これをA液とした。A液とは別にfumedシリカ(アエロジル200)2.52g、モルホリン6.1g、トリエチルアミン7.1g、水40gを混合した液を調製した。これをA液にゆっくりと加えて、3時間攪拌し、以下の組成を有する水性ゲルを得た。
0.6SiO2:Al23:1P25:1モルホリン:1トリエチルアミン:60H2
該水性ゲルをフッ素樹脂内筒の入った200ccのステンレス製オートクレーブに仕込み、回転させながら、190℃で24時間反応させた後200℃に昇温して24時間反応させた。反応後冷却して、デカンテーションにより上澄みを除いて沈殿物を回収した。沈殿物を水で3回洗浄した後濾別し、120℃で乾燥した。このゼオライトのXRDを測定したところ、CHA構造であった。XRDの結果を図4に示す。
【0035】
さらに、560℃で空気気流下焼成を行いテンプレートを除去した後、塩酸水溶液で加熱溶解させ、ICP分析を行った。骨格構造のケイ素とアルミニウムとリンの合計に対する各成分の構成割合(モル比)は、元素分析の結果ケイ素が11.6%、アルミニウムが49.0%、リンが39.4%であった。
実施例4
水15gに85%リン酸6.46gおよび擬ベーマイト(25%水含有、コンデア製)4.76gをゆっくりと加え、攪拌した。これをA液とした。A液とは別にfumedシリカ(アエロジル200)0.63g、モルホリン5.18g、シクロヘキシルアミン1.04g、水20gを混合した液を作り、これをA液にゆっくりと加えて、3時間攪拌し、以下の組成を有する水性ゲルを調製した。
0.3SiO2:Al23:0.8P25:1.7モルホリン:0.3シクロヘキシルアミン:60H2
該水性ゲルをフッ素樹脂内筒の入った200ccのステンレス製オートクレーブに仕込み、回転させながら200℃で72時間反応させた。反応後冷却して、デカンテーションにより上澄みを除いて沈殿物を回収した。沈殿物を水で3回洗浄した後濾別し、120℃で乾燥してゼオライトを得た。このゼオライトのXRDを測定したところ、CHA構造であった。XRDの結果を図5に示す。
【0036】
さらに、560℃で空気気流下焼成を行い、テンプレートを除去した後、塩酸水溶液で加熱溶解させ、ICP分析により元素分析を行ったところ、骨格構造のケイ素とアルミニウムとリンの合計に対する各成分の構成割合(モル比)は、元素分析の結果ケイ素が7.4%、アルミニウムが49.1%、リンが43.5%であった。元素分析は試料を塩酸水溶液で加熱溶解させ、ICP分析により求めた。
比較例1
水105.8gに85%リン酸57.7gを加え、これに擬ベーマイト(25%水含有、コンデア製)34.0gをゆっくりと加え、3時間攪拌した。これをA液とした。A液とは別にfumedシリカ(アエロジル200)3.01g、モルホリン48.6g、水147.4gを混合した液を作り、これをA液にゆっくりと加え、7時間攪拌し、以下の組成を有する水性ゲルを得た。
0.3SiO2:Al23:0.8P25:2モルホリン:60H2
該水性ゲルをフッ素樹脂内筒の入った0.5lのステンレス製オートクレーブに仕込み、100rpmで攪拌しながら190℃で48時間反応させた。反応後冷却して、デカンテーションにより上澄みを除いて沈殿物を回収した。こうして得られた沈殿物を水で洗浄した後濾別し、120℃で乾燥した。このゼオライトのXRDを測定したところ、CHA構造とデンス成分であるトリジマイト相の混合物であった。XRDの結果を図6に示す。
比較例2
水15gに85%リン酸8.07gを加え、これに擬ベーマイト(25%水含有、コンデア製)4.76gをゆっくりと加え、2時間攪拌した。これをA液とした。A液とは別にfumedシリカ(アエロジル200)0.42g、トリエチルアミン7.14g、水20gを混合した液を作り、これをA液にゆっくりと加えて、3時間攪拌し、以下の組成を有する水性ゲルを得た。
0.2SiO2:Al23:1P25:2トリエチルアミン:60H2
該水性ゲルをフッ素樹脂内筒の入った200ccのステンレス製オートクレーブに仕込み、200℃で24時間反応させた。反応後冷却して、デカンテーションにより上澄みを除いて沈殿物を回収した。沈殿物を水で洗浄した後濾別し、120℃で乾燥した。このゼオライトのXRDを測定したところ、ほとんどがフレームワーク密度の大きいAFI構造(フレームワーク密度=17.3T/1,0003)であった。XRD結果を図7に示す。
比較例3
水15gに85%リン酸8.07gを加え、これに擬ベーマイト(25%水含有、コンデア製)4.76gをゆっくりと加え、2時間攪拌した。これをA液とした。A液とは別にfumedシリカ(アエロジル200)0.84g、シクロヘキシルアミン6.9g、水20gを混合した液を作り、これをA液にゆっくりと加え、3時間攪拌して以下の組成を有するゲル状の混合物を得た。
0.4SiO2:Al23:P25:2シクロヘキシルアミン:60H2
該混合物をフッ素樹脂内筒の入った0.2lのステンレス製オートクレーブに仕込み、回転させながら200℃で24時間反応させた。反応後冷却して、デカンテーションにより上澄みを除いて沈殿物を回収した。こうして得られた沈殿物を水で洗浄した後濾別し、120℃で乾燥した。このゼオライトのXRDを測定したところ、層状物質状のXRDパターンを示し、CHA構造は見られなかった。XRD結果を図8に示す。
実施例5
水15gに85%リン酸7.25gを加え、これに擬ベーマイト(25%水含有、コンデア製)4.76gをゆっくりと加え、3時間攪拌した。これをA液とした。A液とは別にfumedシリカ(アエロジル200)0.63g、水20gを混合した液を調製した。これをA液にゆっくりと加えた。さらにジイソプロピルエチルアミン4.5gを加えさらにモルホリン3.0gを加えた。これを3時間攪拌し、以下の組成を有する水性ゲルを得た。
0.3SiO2:Al23:0.9P25:1モルホリン:1ジイソプロピルエチルアミン:60H2
こうして得られた混合物をフッ素樹脂内筒の入った0.1lのステンレス製オートクレーブに仕込み、静置状態で170℃で7日間反応させた。反応後冷却して、デカンテーションにより上澄みを除いて沈殿物を回収した。沈殿物を水で3回洗浄した後濾別し、120℃で乾燥した。
【0037】
こうして得られたゼオライトのXRDを測定したところ、CHA構造であった。その後、560℃で空気気流下焼成を行いテンプレートを除去したゼオライトのXRD図を図9に示す。これを塩酸水溶液で加熱溶解させ、ICP分析により元素分析を行った。その結果、ケイ素とアルミニウムとリンの合計に対する各成分の構成割合(モル比)は、ケイ素が7.7%、アルミニウムが49.8%、リンが42.4%であった。
【0038】
さらに、該ゼオライトの吸着等温線測定装置(ベルソーブ18:日本ベル(株))により測定した55℃における水蒸気吸着等温線を図10に示す。なお、吸着等温線の測定は、空気高温槽温度60℃、吸着温度55℃、初期導入圧力5.0torr、導入圧力設定点数0、飽和蒸気圧118.11mmHg、平衡時間500秒で行った。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1で得られるゼオライトの結晶構造を示すX線回折図である。
【図2】実施例2で得られるゼオライトの結晶構造を示すX線回折図である。
【図3】実施例2で得られるゼオライトの水蒸気吸着等温線である。
【図4】実施例3で得られるゼオライトの結晶構造を示すX線回折図である。
【図5】実施例4で得られるゼオライトの結晶構造を示すX線回折図である。
【図6】比較例1で得られるゼオライトの結晶構造を示すX線回折図である。
【図7】比較例2で得られるゼオライトの結晶構造を示すX線回折図である。
【図8】比較例3で得られるゼオライトの結晶構造を示すX線回折図である。
【図9】実施例5で得られるゼオライトの結晶構造を示すX線回折図である。
【図10】実施例5で得られるゼオライトの水蒸気吸着等温線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライトが、40℃の水蒸気吸着等温線において相対蒸気圧0.05での吸着量が0.1g/g以下であり、かつ相対蒸気圧0.05以上、0.10以下の範囲で相対蒸気圧が0.05変化したときに水の吸着量変化が0.15g/g以上の相対蒸気圧域を有することを特徴とするゼオライト。
【請求項2】
ゼオライトが、55℃の水蒸気吸着等温線において相対蒸気圧0.03での吸着量が0.1g/g以下であり、かつ相対蒸気圧0.03以上、0.20以下の範囲で相対蒸気圧が0.07変化したときに水の吸着量変化が0.15g/g以上の相対蒸気圧域を有することを特徴とするゼオライト。
【請求項3】
ゼオライトが、ケイ素、アルミニウムおよびリンの原子の存在割合が下記式(I)、(II)および(III)で表されるゼオライトである請求項1又は2に記載のゼオライト。
0.001≦x≦0.3 ・・・(I)
(式中、xは骨格構造のアルミニウム、リン、およびケイ素の合計に対するケイ素のモル比を示す)
0.3≦y≦0.6 ・・・(II)
(式中、yは骨格構造のアルミニウム、リン、およびケイ素の合計に対するアルミニウムのモル比を示す)
0.3≦z≦0.6 ・・・(III)
(式中、zは骨格構造のアルミニウム、リン、およびケイ素の合計に対するリンのモル比を示す)
【請求項4】
ゼオライトが、ケイ素の割合が下記式(IV)で表されるゼオライトである請求項3に記載のゼオライト。
0.001≦x≦0.09 ・・・(IV)
(式中、xは骨格構造のアルミニウム、リン、およびケイ素の合計に対するケイ素のモル比を示す)
【請求項5】
ゼオライトがInternational ZeoliteAssociation(IZA)が定めるゼオライト構造においてフレームワーク密度が10.0以上16.0T/1000Å以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載のゼオライト。
【請求項6】
ゼオライトがInternational ZeoliteAssociation(IZA)が定めるゼオライト構造においてCHAである請求項1〜5のいずれか1項に記載のゼオライト。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のゼオライトを含む水蒸気吸着材。
【請求項8】
ゼオライトの含有量が水蒸気吸着材全体の60重量%以上である請求項7に記載の水蒸気吸着材。
【請求項9】
ヒートポンプ用である請求項7又は8に記載の水蒸気吸着材。
【請求項10】
デシカント用である請求項7又は8に記載の水蒸気吸着材。
【請求項11】
除湿用である請求項7又は8に記載の水蒸気吸着材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−94717(P2008−94717A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325086(P2007−325086)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【分割の表示】特願2002−78799(P2002−78799)の分割
【原出願日】平成14年3月20日(2002.3.20)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】