説明

ゼオライトを含有する耐摩耗性フルオロポリマー組成物

本発明は、フルオロポリマーとゼオライトとを含む組成物であって、ゼオライトが、フルオロポリマー単独から形成されたフィルムに比べて、該組成物から形成されたフィルムの耐摩耗性を少なくとも25%増大させる有効量で含まれている耐摩耗性保護膜組成物を提供する。本発明はまた、フィルムの耐摩耗性を増大させるのに十分な有効量のゼオライトでフルオロポリマーのフィルムを形成することにより、定着ロールのフルオロポリマーフィルムコーティングの耐摩耗性を増大させる方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物から形成されたフィルムの耐摩耗性を増大する添加剤を含有するフルオロポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロポリマー樹脂は、光、熱、溶剤、化学的侵食および電気的ストレスに対して非常に安定で、これらのポリマーまたはポリマーのフィルムでコートされた基材からできた物品に所望の特性を与える。かかる樹脂、特に、パーフルオロポリマー樹脂は、それらの低表面エネルギーおよび剥離/非粘着特性について知られている。耐摩耗性のような機械的な特性は、添加剤をこれらの樹脂に組み込んで、耐用年数を延ばすことができるが、かかる添加剤によって、ポリマーの剥離特性が減じる。
【0003】
フルオロポリマーのある重要な用途は、静電トナーを受容体(例えば、紙またはフィルム)に溶融して、静電潜像を目視できるようにする静電写真複写である。加熱した金属定着ロールにフルオロポリマー樹脂フィルムコーティングを用いることにより、定着ロールにトナーが粘着するのを防ぎ、高品質印刷画像の生成のために受容体にトナーを固定できる剥離表面を有する耐熱ポリマーフィルムが与えられる。加熱した定着ロールは、高温、通常は約200℃まで加熱して、受容体に静電付着したトナー粒子を溶融し、受容体に接合するにつれて、得られた溶融画像を剥離する。溶融トナー粒子が、定着ロールに接合したままの場合には、後に供給される受容体上に付着すると、画像が望ましくないものとなる。このように、フルオロポリマー樹脂の定着ロールコーティング適用によって、その溶融性により、溶融トナーを信頼性良く剥離するという重要な要件が実現される。受容体に粘着する必要があるのは粘着材料である。フルオロポリマー樹脂コーティングは、この用途において順調に使われてきたが、コーティングは、定着ロールと連続的に接触する受容体と、より厳しくは、定着ロールから受容体を除去するために定着ロール表面を擦るピッカーフィンガーとの両方により、研磨されてしまうという欠点がある。問題は、剥離特性に悪影響を及ぼすことなく、コーティングの耐摩耗性をいかに増大するかということである。
【0004】
添加物としてゼオライトを組み込むことは、米国特許公報(特許文献1)(コンカノン(Concannon)ら)に開示されている。ゼオライトは、往々にして他の金属類または水素とイオン交換可能なアルカリまたはアルカリ土類金属酸化物を含有する可逆水和ケイ酸アルミニウムである。米国特許公報(特許文献1)は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂の酸化分解を抑制するために、少量(乾燥フィルム重量に基づいて2.6重量%未満)のゼオライト、特にウルトラマリンブルーを、PTFEコーティング組成物に組み込んでいる。さらに、薄い下塗り層を適用してから、透明なトップコート組成物で保護被覆するときに、基材の欠陥を着色により隠すために、ウルトラマリンブルーのようなゼオライトを、食器に用いるフルオロポリマー下塗り組成物に組み込むことが知られている。
【0005】
しかしながら、ゼオライト添加剤をフルオロポリマーに組み込む利点を開示した参考文献は、ポリマーの剥離特性を維持しながら、フルオロポリマー樹脂の耐摩耗性を増大させるという問題点には対処しておらず、定着ロールカバーに適用することも開示していない。特に、静電写真複製の分野において、耐摩耗性と剥離を組み合わせた特質を有する組成物が必要とされている。
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,425,448号明細書
【特許文献2】米国特許第4,380,618号明細書
【特許文献3】米国特許第6,518,349号明細書
【特許文献4】米国特許第3,087,827号明細書
【特許文献5】米国特許第3,087,828号明細書
【特許文献6】米国特許第3,087,829号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、フルオロポリマーフィルムコーティング組成物を定着ロールに形成して、該組成物から形成されたフィルムが、良好な剥離特性を維持しながら、改善された耐摩耗性を示すという必要性を満足するものである。定着ロール上のフルオロポリマーフィルムコーティングの耐摩耗性を増大させる方法は、該フィルムコーティングを形成する前に、該フルオロポリマーに有効量のゼオライトを組み込んだ組成物を形成する工程を含み、該有効量は、該組成物によって形成されたフィルムの耐摩耗性が、該フルオロポリマー単独から形成されたフィルムに比べて、少なくとも25%増大させるのに十分な量であることを特徴とする。
【0008】
本発明はさらに、フルオロポリマーと有効量のゼオライトとを含み、フルオロポリマー単独から形成されたフィルムに比べて、該組成物から形成されたフィルムの耐摩耗性が少なくとも25%増大している保護膜組成物に関する。ゼオライトはアルカリ金属ケイ酸アルミニウムであるのが好ましく、ウルトラマリンブルー顔料であるのがより好ましい。
【0009】
本発明はまた、フルオロポリマーと、有効量の導電性微粒子材料と、有効量のゼオライトとを含み、前記フルオロポリマー単独から形成されたフィルムに比べて、前記組成物から形成されたフィルムの耐摩耗性が少なくとも25%増大している導電性保護膜組成物にも関する。
【0010】
定着ロールコーティング適用の際、組成物は、通常、定着ロールと接触し、溶融する前に、受容体からトナー粒子を引きつける定着ロールの帯電の蓄積を防ぐのに有効な量の少量の導電性微粒子材料を含有する。この添加剤のフルオロポリマー樹脂コーティングの耐摩耗性に与える影響は無視できるため、フルオロポリマー単独の耐摩耗性を決める摩耗試験でフルオロポリマーに含めることができる。
【0011】
良好な耐摩耗性と良好な剥離性の両方の提供をもたらす本発明の改善された方法および組成物を例示するには、コピー機およびレーザープリンタの定着ロール上のフィルムコーティングとしてのこの組成物の使用が最も良い。例えば、コピー機の静電写真複写において、均一帯電画像形成ロールはレーザーに露光されて一連の静電画像を作製する。続いて、トナーを画像形成ロールの各画像に適用して、静電画像に対応する一連のトナー画像を作製する。トナー画像は、紙やフィルムのような受容体に転写される。トナー画像を含む受容体は、画像形成ロールから分離されて、溶融装置へ供給される。溶融装置は、一般的に、受容体が通過するニップを形成する2本のロールから構成される。上部ロールは、通常、フルオロポリマーコート金属ロールであり、以降「定着ロール」と呼ばれる。以降、「支持ロール」と呼ばれる第2のロールは、定着ロールと協働して、ニップを形成する。これは、一般的に、シリコーンゴムのようなコンプライアントなエラストマー材料でできている。定着ロールは、定着ロールのコアに配置された内部熱源により加熱されることが多い。
【0012】
加熱した金属定着ロール上のフルオロポリマー樹脂フィルムコーティングを用いることにより、定着ロールにトナーが粘着するのを防ぎ、高品質印刷画像の生成のために受容体にトナーを固定できる剥離表面を有する耐熱ポリマーフィルムが与えられる。しかしながら、コピーを通過する大量の紙、および定着ロール表面のピッカーフィンガーの圧力は、従来技術のフルオロポリマーコーティングを摩耗させ、コーティングが擦り減ることにより、剥離表面としての有効性が失われる。実施例に示す通り、有効量のゼオライトを含有する本発明のフルオロポリマー樹脂組成物は、意外なことに、該組成物から形成されたフィルムの耐摩耗性を、フルオロポリマー単独から形成されたフィルムに比べて、少なくとも25%、好ましくは少なくとも50%改善する。本発明は、意外にも、有効量のゼオライトをフルオロポリマー樹脂に添加することにより、フルオロポリマー単独から形成されたフィルムに比べて、該組成物から形成されたフィルムの耐摩耗性において、200%という高い改善がなされるということを見出した。さらに、ゼオライト添加剤の組み込みが増えるにも関らず、フルオロポリマーフィルムコーティングの剥離特性は保持される。
【0013】
(フルオロポリマー)
本発明のフィルムの組成物のフルオロポリマーは、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、モノクロロトリフルオロエチレン、ジクロロジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロブチルエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、これらのブレンド、該ポリマーのノナフルオロポリマーとのブレンドのポリマーおよびコポリマーの群から独立して選択される。
【0014】
本発明に用いるフルオロポリマーは溶融処理可能であるのが好ましい。溶融処理可能とは、ポリマーが溶融状態で処理できる(すなわち、意図する目的に有用な十分な強度および靭性を示すフィルム、繊維および管等のような成形物品へと溶融物から製造される)ということを意味する。かかる溶融製造可能なフルオロポリマーとしては、テトラフルオロエチレン(TFE)と、TFEホモポリマー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)より実質的に低くコポリマーの融点を下げる、すなわち315℃以下まで融点を下げるのに十分な量でポリマー中に存在する少なくとも1種類のフッ素化共重合可能なモノマー(コモノマー)とのコポリマーが例示される。かかるフルオロポリマーとしては、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン(TFE)またはクロロトリフルオロエチレン(CTFE)のコポリマーが挙げられる。TFEとの好ましいコモノマーは、鎖状または分岐アルキル基が1〜5個の炭素原子を含有する、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)および/またはパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)のような3〜8個の炭素原子を有するパーフルオロオレフィンである。好ましいPAVEモノマーは、アルキル基が1、2、3または4個の炭素原子を含有するようなものであり、コポリマーは、数種類のPAVEモノマーを用いて作製することができる。好ましいTFEコポリマーとしては、FEP(TFE/HFPコポリマー)、PFA(TFE/PAVEコポリマー)、PAVEがPEVEおよび/またはPPVEであるTFE/HFP/PAVE、およびMFA(PAVEのアルキル基が少なくとも2個の炭素原子を有するTFE/PMVE/PAVE)が挙げられる。溶融処理可能なコポリマーは、特定のコポリマーについて標準の温度でASTM D−1238に従って測定したメルトフローレートが一般的に約1〜100g/10分のコポリマーを提供するために、コポリマーへとある量のコモノマーを組み込むことにより作製される。一般的に、米国特許公報(特許文献2)に記載された通り修正したASTM D−1238の方法により372℃で測定した溶融粘度は10Pa・s〜約10Pa・s、好ましくは10〜約10Pa・sである。追加の溶融処理可能なフルオロポリマーは、エチレンまたはプロピレンと、TFEまたはCTFE、特にETFE、ECTFEおよびPCTFEのコポリマーである。さらに有用なポリマーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデンのコポリマー、ポリフッ化ビニル(PVF)およびフッ化ビニルのコポリマーのフィルム形成ポリマーである。
【0015】
フルオロポリマー成分は溶融処理可能であるのが好ましいが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を、溶融処理不可能な修正PTFEを含めた溶融処理可能なフルオロポリマーと共に用いても、かかるフルオロポリマーの代わりに用いてもよい。修正PTFEとは、パーフルオロオレフィン、特に、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)またはパーフルオロ(アルキルビニル)エーテル(PAVE)、アルキル基が1〜5個の炭素原子を有するような焼成(溶融)中のフィルム形成能を改善する少量のコモノマー修正剤を含有するPTFEのことを意味し、パーフルオロ(エチルビニル)エーテル(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニル)エーテル(PPVE)が好ましい。かかる変性剤の量は、PTFEの溶融製造性を与えるのには不十分であり、通常、0.5モル%以下である。PTFEは、同じく単純化のために、通常は少なくとも1×10Pa・sの単一の溶融粘度を有することができるが、異なる溶融粘度を有するPTFEの混合物を用いて、フルオロポリマー成分を形成することができる。かかる高溶融粘度は、PTFEが溶融状態でフローしない、従って溶融処理不可能であることを示している。
【0016】
当業者であれば、異なる種類のフルオロポリマーの混合物を本発明の実施に用いることができることが分かるであろう。
【0017】
本発明の組成物は、カバーを上に形成するために定着ロールに適用された組成物、および定着ロールの表面に形成されたようなカバー、より一般的な用語ではフィルムの組成物を含む。カバーを形成するのに用いる組成物に関して、本発明で用いるこれらのフルオロポリマーは、平均粒径が1μm未満〜約100μmまでの粒子の形態にある。多くのフルオロポリマーは、水性分散重合により作製される。重合されたフルオロポリマー粒子の直径は一般的に0.01〜0.3μmの範囲である。本明細書に開示された粒径は、平均粒径である。フルオロポリマー成分はまた、直径が5〜100μm、好ましくは10〜20μmといった大きな粒径で存在させることもできる。かかる大きな粒径は、所望のサイズの粒子を得るための任意の研作工程を行って、米国特許公報(特許文献3)(フェリックス(Felix)ら)に記載されているような、分散液からの凝結により、またはスプレー乾燥により作製することができる。好ましい一実施形態において、サブミクロン粒子(分散液粒子)および大きな粒子(粉末粒子)の両方が存在している。
【0018】
本発明で用いるフルオロポリマーは溶融処理可能であるが、フルオロポリマーを含有する組成物のフィルムは、通常、まず、フルオロポリマー粒子が有機溶媒または水またはこれらの混合物中に分散された液体媒体として組成物を提供し、この液体組成物をコートされる基材に適用した後、コーティングを乾燥および焼成して基材に剥離コーティングを形成することにより形成される。分散液は、上述した粒径グループ、すなわち、約15重量%〜約30重量%のサブミクロンサイズの粒子を約10重量%〜約20重量%の大きな粒径粒子と共に含有するフルオロポリマー粒子を含有するのが好ましい。
【0019】
液体媒体は、水または有機溶剤またはこれらの混合物のいずれかとしてよい。有機溶剤としては、N−メチルピロリドン、ブチロールアセトン、高融点芳香属溶剤、メタノール、エタノール、イソプロパノールおよびt−ブタノールのようなアルコール類、アセトンおよびメチルエチルケトン(MEK)のようなケトン、ならびにこれらの混合物が例示される。
【0020】
他の実施形態において、本発明の組成物は、定着ロール表面のような表面を粉末コーティングしてフィルムを形成する、粉末の形態とすることができる。液体媒体および粉末コーティングからのコーティングの両実施形態において、フルオロポリマーの溶融処理可能性によって、フルオロポリマー粒子が焼成中に溶融しあって連続フィルム(コーティング)を形成することが可能となる。
【0021】
(ゼオライト)
本発明は、フルオロポリマー単独から形成されたフィルムに比べて、該組成物から形成されたフィルムにおいて耐摩耗性の増大を示すゼオライトを含有するフルオロポリマー組成物に関する。フルオロポリマーとゼオライトを含む組成物のフィルムの耐摩耗性は、少なくとも25%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも100%、最も好ましくは少なくとも200%増大する。
【0022】
組成物をフィルムへ形成すると、ゼオライトの総量は、フィルムの乾燥重量に基づいて少なくとも3重量%、好ましくは3重量%〜25重量%、より好ましくは3重量%〜12重量%である。
【0023】
ゼオライトは、往々にして他の金属類または水素とイオン交換可能なアルカリまたはアルカリ土類金属酸化物を含有する可逆水和ケイ酸アルミニウムである。一般式は、Mx/n[(AlO(SiO]mHOである。式中、Mは、n価のカチオンであり、nは1または2である。x対yの比は、業界に知られている通り、1〜大きな数まで変わる。ゼオライトは、多くの天然に産出する鉱物や合成材料を含む。准長石として知られている鉱物の部類は、ゼオライトに密接に関連しており、本明細書では、ゼオライトという用語の意味に含まれる。開放構造と大きなキャビティを備えたホウソーダ石やウルトラマリンを含む准長石は、ゼオライトに密接に関連している。好ましいゼオライトは、ウルトラマリンブルー、アルカリ金属ケイ酸アルミニウムである。通常、本発明に用いるゼオライトの粒径は、通常、5マイクロメートル未満、一般的には0.5〜3マイクロメートルの範囲である。
【0024】
ウルトラマリンブルーを組成物に添加すると、平滑なコーティング、および、魅力的な、容易に識別可能な青色着色フィルムコーティングが得られる。
【0025】
着色により、さらに、適用中の組成物の吸熱が増大し、これは、従来技術の透明なコートよりも、処理時間が早くなるという利点がある。これについては詳細を後述してある。
【0026】
(導電性粒子)
本発明の組成物は、フルオロポリマーとゼオライトに加えて他の添加剤を含有していてもよい。定着ロールに用いるコーティング組成物は、静電蓄積の焼失を補助する導電性微粒子材料を含有するのが好ましい。本発明の好ましい実施形態において、マイカのような導電性微粒子材料を本発明の組成物に含める。マイカには、酸化アンチモンまたは錫のようなマイカフレークのコーティングにより導電性が与えられる。この代わりに、組成物は、導電性添加剤として、グラファイトまたはケッチェンブラックを含有することができる。導電性とは、ピニオンメータで測定した微粒子材料の表面抵抗率が10オーム/平方未満であることを意味する。静電蓄積を防ぐための導電性微粒子材料の有効量は、用いる特定の材料に応じて異なる。例えば、微粒子材料が導電性カーボンのときは、僅か約1〜2重量%しか必要ない。材料が導電性マイカ(導電性材料でコートしたマイカ)のときは、通常、約3〜8重量%が必要である。これらの重量は、組成物の総乾燥重量に基づいており、これは焼成重量と同じである。導電性カーボンの量を減じ、組成物の色に与える影響を減じるために、導電性カーボンと導電性マイカの両方を同じ組成物に用いることができる。
【0027】
マイカは、薄片形状粒子の形態にある。好ましい薄片形粒子の平均粒径は、約10〜200ミクロン、好ましくは20〜100ミクロンであり、フレークの粒子の50%以下の平均粒径が約300ミクロンを超える。酸化物層でコートしたマイカ粒子は、米国特許公報(特許文献4)(クレンケ(Klenke)およびストラットン(Stratton))、米国特許公報(特許文献5)(Linton(リントン))および米国特許公報(特許文献6)(Linton(リントン))に記載されたものである。
【0028】
特に好ましい実施形態において、本発明の組成物は、フルオロポリマー、ゼオライトおよび導電性粒子の液体分散液である。組成物をフィルムへと形成するとき、ゼオライトと、導電性微粒子材料の総重量は、これらの成分プラスフルオロポリマーの総重量に基づいて少なくとも5重量%、好ましくは5重量%〜30重量%の範囲、最も好ましくは8重量%〜15重量%である。組成物は、フルオロポリマーの密度に対して密度が低いため、かかる大量のゼオライトおよび導電性材料を含有することができ、その結果、これらの添加剤の体積%量が遥かに少なくなる。このように、本発明の組成物は約85重量%〜約92重量%のフルオロポリマーを含有するが、この成分の体積%は遥かに高い。
【0029】
(フィルム形成)
本発明は、フルオロポリマー単独から形成されたフィルムに比べて、前記組成物から形成されたフィルムの耐摩耗性を少なくとも25%、好ましくは少なくとも50%増大させるのに十分な有効量のゼオライトからフィルムコーティングを形成する前にフルオロポリマーを組み込むことを含む、定着ロールのフルオロポリマーコーティングの耐摩耗性を増大させる方法に関する。
【0030】
一実施形態において、本発明の組成物のフィルムは、スプレーコーティング、浸漬、ローラコーティングまたはカーテンコーテイングのような従来の手段により、液体分散液として組成物を基材に直接適用し、310℃〜430℃の温度まで加熱溶融して、厚さが0.3ミル(7.6マイクロメートル)〜2ミル(50マイクロメートル)の範囲、好ましくは0.7ミル(18マイクロメートル)〜1.4ミル(36マイクロメートル)のフィルムコーティングを生成することにより形成される。
【0031】
好ましい実施形態において、本発明の分散液は、まず、下塗り層を基材に接合可能とさせる耐熱性ポリマーバインダーを含有する下塗り組成物で基材を下塗りした後に適用される。かかるバインダー組成物は任意でフルオロポリマーを含有していてもよい。バインダー成分は、溶融のための加熱に際してフィルムを形成し、かつ熱に安定なポリマーから構成されている。この成分は、非粘着性仕上げ、フルオロポリマー含有下塗り層の基材への接合および下塗り層内およびその一部としてのフィルム形成についての下塗り用途に周知である。バインダーは、通常、フッ素を含有しておらず、フルオロポリマーへ接合する。
【0032】
非フッ素化熱安定性ポリマーとしては、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアリーレン−エーテルケトン、およびポリフェニレンオキシド(PPO)として一般的に知られているポリ(1,4(2,6−ジメチルフェニル)オキシド)が例示される。これらのポリマーはまた、フッ素を含まず、熱可塑性である。これらの樹脂は全て、少なくとも140℃の温度で熱安定性である。
【0033】
変形実施形態において、フィルムは、本発明の粉末組成物を基材、好ましくは定着ロール、または下塗りした基材に直接静電適用し、後で310℃〜430℃の範囲の温度で加熱溶融することにより得られる。
【0034】
本発明の組成物を保護膜として下塗り剤に適用すると、下塗り層の厚さは、通常、約4マイクロメートル〜約15マイクロメートルであり、保護膜の厚さは通常、約12マイクロメートル〜約50マイクロメートルである。複数の保護膜を適用してもよい。
【0035】
本発明のフィルムは、定着ロールの場合には金属およびセラミクスのような焼成温度に耐えることのできる材料に形成され、例えば、アルミニウム、陽極酸化アルミニウム、冷間圧延鋼、ステンレス鋼、エナメル、ガラスおよびパイロセラムが例示される。基材は、平滑化、エッチングまたはグリットブラストすることができる。
【0036】
好ましい実施形態において、フルオロポリマー含有ゼオライトの分散液を、金属定着ロールに適用し、IRヒータを用いて焼成する。組成物中のゼオライトの存在により、透明なフルオロポリマーコーティングに比べて、コーティングの吸熱が増大する。吸熱が増大する結果、焼成時間が早くなり、コーティングがより迅速に硬化し、完成した定着ロールがより早いレートで生産される。これは、商業生産にとって重要な利点である。
【0037】
定着ロール適用に用いる導電性保護膜組成物の良好な剥離特性は、600グリットのような細かいグリットを用いて、組成物から形成されたフィルムの表面を研磨する追加の工程を行うことにより改善することができる。フィルムが定着ロールのようなロールの表面を形成するとき、ロールを回転させ、かかる回転中、砥石を表面に沿って通過して、所望の平滑度を与えることができる。この研磨により、ゼオライトおよび上にあるフルオロポリマーの「ピーク」が除去されて、表面が平滑となり、フィルムの剥離特性を損なう可能性のある粗さが減じる。得られる研磨フィルムによって、改善された耐摩耗性および良好な剥離特性の両方が改善される。フィルム表面の所望の平滑度は、通常、目視により決まる、すなわち、フィルムの表面はトポグラフィーのない平滑な表面を有していなければならない。
【0038】
本発明の組成物を用いて形成される表面フィルムを有する好ましい製品としては、定着ロールおよびベルト、パイプ、コンベヤ、タンクをはじめとする化学処理装置、シュート、ロール表面、切刃、鉄底板、調理器具、ベイクウェアが挙げられる。
【0039】
(試験方法)
(摩耗試験−スラスト法)
イリノイ州シュガーグルーブのファレックスコーポレーション(FALEX corporation,SugarGrove,IL)より入手可能なファレックス(Falex)摩擦および摩耗試験機を用いて、ASTM D3072に指定された通りにして、コーティングの摩耗指数を求める。静置したアルミニウムワッシャ試料を下部試料ホルダーに置く。ワッシャ構成は、ASTM D3072に指定されている。コートされた回転ワッシャ試料を、下部静置アルミニウムワッシャ試料と接触させて回転スピンドルに装着する。21.8キログラムの重りを付ける。試料回転速度を500rpmに設定する。各5,000サイクル後、試験を止め、重量損失を記録する。試験を30,000サイクルまで、または基材が出てくるまで(基材が見えるまで)続ける。合計重量損失当たりの合計摩耗サイクルで、ミリグラムにて摩耗指数(摩耗のサイクル/ミリグラム)を求める。
【0040】
(摩耗試験−ローラ摩耗)
コピー機の紙のフュージョンロールに対する摩耗をシミュレートする耐摩耗性試験を用いて、コーティングの摩耗レートを求める。試験ローラの直径を慎重かつ正確に測定する。試験ローラを回転構成で装着する。0.25インチ(0.64cm)接触経路に沿って紙に610gの重りを付けることにより、標準紙キャッシュレジスタテープ、幅2.25インチ(5.7cm)をローラに対してプレスする。ローラは60rpmで回転する。各10回転後、紙テープを0.29インチ(0.74cm)動かして、摩耗されている表面に新しい紙を適用する。温度は、空調された、室温、約75°F(24℃)である。10,000サイクル、または基材が出てきたら、試験を止め、回転を記録する。摩耗領域のローラの直径を測定する。摩耗レートを摩耗1ミクロン当たりのサイクル数として計算する。
【0041】
(剥離試験)
定着ロールのコーティング組成物の剥離を、市販のコピー機、リコー(Ricoh)AF350で試験した。トナー汚れなしでなされたコピーの数によりコーティングを評価した。トナー汚れは、トナーが定着ロールからうまく剥離しない結果であり、ロールにトナーが蓄積して、コピーの品質が悪くなる。
【実施例】
【0042】
以下の実施例において、30分、800°F(427℃)で焼成し、40グリットの酸化アルミニウムで約70〜125マイクロインチRaの粗さまでグリットブラストすることにより、コーティング用基材を清浄にする。イリノイ州グレンデールハイツ(Glendale Heights,IL)のデビルビス(DeVilbiss)より入手可能な型番MSA−510のスプレーガンを用いて、液体コーティングを適用する。
【0043】
実施例1について、下塗り層を鋼の回転ウェハ試料に適用した後、66℃で5分間焼成する。回転ウェハ構成は、ASTM D3072に指定されている。下塗り層の乾燥フィルム厚さ(DFT)は約10マイクロメートルである。保護膜を2回適用した後、66℃で5分間焼成してから、149℃で10分間焼成する。コートしたディスクを最終的に399℃で5分間焼成する。コーティングの合計乾燥フィルム厚さ(DFT)は約100マイクロメートルである。このコートした試料をスラスト摩耗重量損失法により試験する。
【0044】
実施例で用いた下塗り剤は以下の予備焼成組成を有している。
【0045】
【表1】

【0046】
(実施例1−フルオロポリマーおよびUMBの耐摩耗性)
清浄にし、下塗り剤をコートした一連のウェハ基材を上述した通りにして作製する。保護膜を下塗りした基材に適用する。実施例1で形成した保護膜は表2に示す組成を有している。ウルトラマリンブルー(UMB)充填比は、乾燥フィルムの0重量%〜20.0重量%まで変わる。上述したトラスト摩耗重量損失法により試験した試料についての摩耗試験結果を、異なるUMB充填について表3に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
以下の比較例Aおよび2で形成した保護膜層は以下の予備焼成組成を有している。
【0050】
【表4】

【0051】
(比較例A−対照コーティング)
上述した下塗り層を、アルミニウム試験ローラ(10.5in、長さ26.7cm、1.125in、直径2.9cm)に適用した後、150℃で5分間焼成する。下塗り層の乾燥フィルム厚さ(DFT)は8〜12マイクロメートルである。ウルトラマリンブルーとマイクロパルプを含有しない保護膜Aを適用した後、800°F(427℃)で10分間焼成する。コーティングの合計乾燥フィルム厚さ(DFT)は35〜45マイクロメートルである。このコーティングを上述したローラ摩耗試験において試験したところ、1068サイクル/ミクロン摩耗となった。市販のコピー機、リコー(Ricoh)AF350での試験により、上述した剥離試験をコーティングに行った。約35,000コピー後、コーティングの摩耗のためにトナー汚染となった。
【0052】
(実施例2−ウルトラマリンブルー修正)
上述した下塗り層を、アルミニウム試験ローラ(10.5in、長さ26.7cm、1.125in、直径2.9cm)に適用した後、150℃で5分間焼成する。下塗り層の乾燥フィルム厚さ(DFT)は8〜12マイクロメートルである。ウルトラマリンブルーを含有する保護膜2を適用した後、800°F(427℃)で10分間焼成する。コーティングの合計乾燥フィルム厚さ(DFT)は35〜45マイクロメートルである。このコーティングを上述したローラ摩耗試験において試験したところ、3814サイクル/ミクロン摩耗となった。市販のコピー機、リコー(Ricoh)AF350での試験により、上述した剥離試験をコーティングに行った。約50,000コピー後、コーティングの摩耗のためにトナー汚染となった。
【0053】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
定着ロール上のフルオロポリマーフィルムコーティングの耐摩耗性を増大させる方法であって、該フィルムコーティングを形成する前に、該フルオロポリマーに有効量のゼオライトを組み込んだ組成物を形成する工程を含み、該有効量は、該組成物によって形成されたフィルムの耐摩耗性が、該フルオロポリマー単独から形成されたフィルムに比べて、少なくとも25%増大させるのに十分な量であることを特徴とする方法。
【請求項2】
フルオロポリマーと有効量のゼオライトとを含む組成物から形成されたフィルムの耐摩耗性が、前記フルオロポリマー単独から形成されたフィルムに比べて、少なくとも50%増大していることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
フルオロポリマーと有効量のゼオライトとを含み、前記フルオロポリマー単独から形成されたフィルムに比べて、前記組成物から形成されたフィルムの耐摩耗性が少なくとも25%増大していることを特徴とする保護膜(overcoat)組成物。
【請求項4】
フルオロポリマーと、有効量の導電性微粒子材料と、有効量のゼオライトとを含み、前記フルオロポリマー単独から形成されたフィルムに比べて前記組成物から形成されたフィルムの耐摩耗性が少なくとも25%増大していることを特徴とする導電性保護膜組成物。
【請求項5】
存在する前記ゼオライトの量が、コピートナーの接着に抵抗性のある定着ロールに対して、フィルムコーティングを形成することによって得られた、フィルム組成物の乾燥組成物の少なくとも3重量%であることを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
存在する前記ゼオライトの量が、約3重量%〜約25重量%であることを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
有効量の導電性微粒子材料をさらに含有することを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
前記ゼオライトがアルカリ金属ケイ酸アルミニウムであることを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項9】
前記ケイ酸塩がウルトラマリンブルー顔料であることを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項10】
定着ロールのフィルムコーティングの形態にあることを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項11】
液体媒体中に分散されたことを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項12】
粉末の形態にあることを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項13】
請求項3に記載の組成物からなることを特徴とするフィルム。
【請求項14】
定着ロール上のフィルムコーティングとして用いることを特徴とする請求項12に記載のフィルム。
【請求項15】
定着ロール上のフィルムコーティングを形成するための、請求項3に記載の組成物の使用。

【公表番号】特表2008−501065(P2008−501065A)
【公表日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515467(P2007−515467)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2005/018988
【国際公開番号】WO2005/119375
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】