説明

ゼオライト濾過膜モジュールの製造方法

【課題】熱可塑性樹脂により束ねられたゼオライト濾過膜モジュールについて、製造過程においてゼオライト層の分離性能の低下を抑制することのできるゼオライト濾過膜モジュールの製造方法を提供する。
【解決手段】このゼオライト濾過膜モジュールの製造方法は、複数本のセラミックス中空糸を熱可塑性樹脂であるPFAで互いに接着することによりこれらセラミックス中空糸を束ねる工程(ステップS2)と、前記工程により束ねられたゼオライト濾過膜中空糸束の外面にゼオライトの種結晶の粉末を付着する工程(ステップS5)と、ゼオライトの結晶を成長させる工程(ステップS6)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本のゼオライト濾過膜中空糸を熱可塑性樹脂により束ねたゼオライト濾過膜モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライト濾過膜モジュールは、精密濾過膜(MF膜)、逆浸透膜(RO膜)、浸透気化膜(PV膜)、蒸気濾過膜(VP膜)として用いられる。
例えば、特許文献1には、アルコール水溶液からアルコールを選択的に濾過する浸透気化膜の例が示されている。特許文献2には、珪酸ナトリウム、水酸化アルミニウムおよび水酸化ナトリウムを溶解した水溶液から水を濾過する逆浸透膜の例が示されている。特許文献3には、水素と窒素の混合ガスから水素ガスを選択濾過する濾過膜の例が示されている。これらの濾過膜の一種としてゼオライトがある。非特許文献1には、濾過膜を構成するゼオライトの構造およびその形成方法が示されている。
【0003】
ところで、これらゼオライト濾過膜モジュールの濾過効率を向上するため、ゼオライト濾過膜モジュールの構造として、ゼオライト濾過膜中空糸を複数本並べる構造が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−99044号公報
【特許文献2】特開平10−57784号公報
【特許文献3】特開2006−263566号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】近藤正和、「有機溶媒脱水用ゼオライト膜の実用化」、[online]、真空、49、225 (2006)、[平成22年9月9日検索]、インターネット〈URL:http://www7b.biglobe.ne.jp/~zeolite-membrane/ouyou.html〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複数本のゼオライト濾過膜中空糸を固定する構造として、次のような構造が採用されている。ステンレス製の支持体に複数本の貫通孔を設け、これら貫通孔にゼオライト濾過膜中空糸を挿入する。ゼオライト濾過膜中空糸と貫通孔との間の隙間はゴム製のパッキンにより封止される。
【0007】
ところで、ゼオライト濾過膜中空糸の本数が増大すると、ゼオライト濾過膜中空糸を貫通孔に嵌めこむ作業回数が増えるため、ゼオライト濾過膜モジュールを製造するために要する時間が長くなる。
【0008】
そこで、熱可塑性樹脂により形成された支持体を用いることにより、このような組立工程を簡略にすることが考えられている。具体的には、熱可塑性樹脂の支持体に貫通孔を複数形成し、これら貫通孔にゼオライト濾過膜中空糸を挿入して仮組みする。そして仮組みしたものを容器に入れて支持体を溶融し、所定時間の経過後、冷却して支持体を固化する。これにより、ゼオライト濾過膜中空糸と支持体とを接着させて、ゼオライト濾過膜中空糸と貫通孔との間の隙間を埋める。
【0009】
ところで、上記方法では、セラミックス中空糸の外面にゼオライト層を形成してゼオライト濾過膜中空糸とした後、ゼオライト濾過膜中空糸を支持体に挿入して仮組し、その後に支持体を溶融する工程を経ているため、支持体を溶融する際の熱がゼオライト層に加わる。しかし、ゼオライトの結晶構造は熱により壊れてしまう性質があるため、熱可塑性樹脂の支持体によりゼオライト濾過膜中空糸を束ねたゼオライト濾過膜モジュールは、上記ゴム製のパッキンにより封止する構造のゼオライト濾過膜モジュールに比べて、分離性能が低くなる傾向にあった。
【0010】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、熱可塑性樹脂により束ねられたゼオライト濾過膜モジュールについて、製造過程においてゼオライト層の分離性能の低下を抑制することのできるゼオライト濾過膜モジュールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、上記目的を達成するための手段およびその作用効果について記載する。
(1)請求項1に記載の発明は、複数本のゼオライト濾過膜中空糸を熱可塑性樹脂により束ねたゼオライト濾過膜モジュールの製造方法において、複数本のセラミックス中空糸を熱可塑性樹脂で互いに接着することによりこれらセラミックス中空糸を束ねる第1工程と、前記第1工程により束ねられたセラミックス中空糸束の外面にゼオライトの種結晶の粉末を付着する第2工程と、前記ゼオライトの結晶を成長させる第3工程とを含むことを要旨とする。
【0012】
ゼオライト濾過膜モジュールの製造方法として、ラミックス中空糸にゼオライトの結晶を成長させてから、これらを熱可塑性樹脂により束ねる方法が考えられる。しかし、このような製造方法の場合、セラミックス中空糸を熱可塑性樹脂により束ねるとき同樹脂に加えられる熱によりゼオライト層が加熱される。ゼオライトは高温に晒されると分離性能が低下する。このため、上記製造方法では、ゼオライトの分離性能を十分に引き出すことができない。
【0013】
これに対して、上記発明によれば、熱可塑性樹脂でセラミックス中空糸を束ねた後に、セラミックス中空糸の外面に種結晶であるゼオライトの種結晶の粉末を付着し、ゼオライトの結晶を成長させている。このようにして、ゼオライト濾過膜モジュールの製造過程においてゼオライト層が高温に晒されることを少なくしている。これにより、製造過程におけるゼオライトの分離性能の低下を抑制することができる。
【0014】
(2)請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のゼオライト濾過膜モジュールの製造方法において、前記第1工程は、熱可塑性樹脂を用いて前記セラミックス中空糸を互いに接着する部材としての支持部を形成し、この支持部に前記セラミックス中空糸が嵌られる挿入孔を形成し、前記挿入孔に前記セラミックス中空糸を挿入した後、前記支持部を溶融することを要旨とする。
【0015】
セラミックス中空糸束を形成する方法として、セラミックス中空糸を所定の間隔を隔てて配置し、これに溶融した熱可塑性樹脂をセラミックス中空糸の周りに流し込み、これらセラミックス中空糸を互いに接着する方法が考えられる。しかし、このような方法の場合、熱可塑性樹脂を流し込むときにセラミックス中空糸が障壁となるため、熱可塑性樹脂により充填されるべき部分に熱可塑性樹脂が行き渡らず、未充填部分が形成される。
【0016】
この発明によれば、セラミックス中空糸を支持するための支持部を、挿入孔を設けるものとして形成する。セラミックス中空糸が障壁になることはないため、未充填の形成を抑制することができる。
【0017】
(3)請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のゼオライト濾過膜モジュールの製造方法において、前記第2工程は、前記ゼオライトの種結晶の粉末を分散したディップ液に、前記セラミックス中空糸を浸漬することにより、前記セラミックス中空糸の外面に前記ゼオライトの種結晶を付着することを要旨とする。
【0018】
ゼオライトの種結晶をセラミックス中空糸に付着する方法には、手でゼオライトの種結晶をセラミックス中空糸に擦り付ける方法もある。しかし、この方法では、複数本のセラミックス中空糸を備えるゼオライト濾過膜モジュールにあっては、セラミックス中空糸の全てについてゼオライトの種結晶を擦り付けるために要する作業時間が、長くなる。
【0019】
この点、本発明では、ゼオライトの種結晶をセラミックス中空糸に付着する方法として、複数本のセラミックス中空糸を束にして、このセラミックス中空糸束をディップ液に浸漬するため、複数本のセラミックス中空糸に同時にゼオライトの種結晶を付着することができる。これにより、1本ずつ手でゼオライトの種結晶を擦り付ける方法と比べて、作業時間を短縮することができる。
【0020】
(4)請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のゼオライト濾過膜モジュールの製造方法において、前記第3工程は、水を溶媒としてケイ素イオンおよびアルミニウムイオンを含む2次成長液に前記ゼオライトの種結晶を付着した前記セラミックス中空糸束を浸漬し、次いで、前記セラミックス中空糸束を前記2次成長液に浸漬したものを容器に密閉状態で収容し、密閉状態で加熱することを要旨とする。
【0021】
この発明によれば、2次成長液は有機物を含まないため、有機物を含まないゼオライト層を形成することができる。このため、ゼオライト層の形成後に、有機物を除去する除去処理を行う必要がない。
【0022】
(5)請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載のゼオライト濾過膜モジュールの製造方法において、前記ゼオライトの種結晶は、孔径が0.45μmであるメンブレンフィルターを通過する大きさであることを要旨とする。
【0023】
この発明によれば、孔径が0.45μmであるメンブレンフィルターを通過しないゼオライトの種結晶を除去することができるため、同メンブレンフィルターを通過するゼオライトを含む種結晶に比べて、ゼオライトの種結晶の大きさのばらつきを小さくすることができる。
【0024】
(6)請求項6に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載のゼオライト濾過膜モジュールの製造方法において、前記ゼオライトの種結晶は、前記ゼオライトの種結晶の母材であるゼオライトの結晶をボールミルにより粉砕して形成されるものであり、前記ボールミルによる粉砕条件は、前記ゼオライトの種結晶がアモルファス化しない条件に設定されていることを要旨とする。
【0025】
この発明によれば、ゼオライトの種結晶中に含まれるアモルファス化した種結晶の割合の増大を抑制することができる。これにより、ゼオライトの種結晶を成長させて形成されるゼオライト層の構造を均質なものとすることができる。すなわち、ゼオライトの多結晶でない部分の割合を少なくすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、熱可塑性樹脂により束ねられたゼオライト濾過膜モジュールについて、製造過程においてゼオライト層の分離性能の低下を抑制することのできるゼオライト濾過膜モジュールの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のゼオライト濾過膜モジュールの一実施形態について、その全体構成を示す全体図。
【図2】同実施形態のゼオライト濾過膜中空糸束について、その斜視構造を示す斜視図。
【図3】同実施形態のゼオライト濾過膜モジュールの製造方法の製造手順を示すフローチャート。
【図4】同実施形態のゼオライト濾過膜モジュールの製造方法について、セラミックス中空糸束の形成工程を示す斜視図。
【図5】同実施形態のゼオライト濾過膜モジュールの製造方法について、CHA型ゼオライトを成長させる工程を示す断面図。
【図6】同実施形態のゼオライト濾過膜モジュールについて、加熱温度と分離係数との関係を示すテーブル。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1を参照して、ゼオライト濾過膜モジュールについて説明する。
ゼオライト濾過膜モジュール1は、水とエタノールとが混合した蒸気(以下、「混合蒸気」)を一時的に貯留するモジュール外筒部50(モジュール容器)と、このモジュール外筒部50に接続されて混合蒸気を濾過するゼオライト濾過膜中空糸束10と、ゼオライト濾過膜中空糸束10とモジュール外筒部50とを密封するヘルールクランプ60とを含む。
【0029】
モジュール外筒部50は、混合蒸気を保持する内部空間57を有した円筒状の濾過タンク50Aと、濾過タンク50Aを支持する土台50Bを含む。濾過タンク50Aの底部には、混合蒸気を吸入するための吸入口51が設けられる。吸入口51には継手52が設けられ、この継手52には、混合蒸気を供給する配管53が接続されている。濾過タンク50Aの側面上部には、混合蒸気を排出する排出口54が設けられている。また、濾過タンク50Aの上部は開口している。濾過タンク50Aの開口部55に、ゼオライト濾過膜中空糸束10が蓋として接続される。また、開口部55の外周にはフランジ56が設けられる。このフランジ56と、ゼオライト濾過膜中空糸束10においてこの開口部55に接するフランジ46とが重ねられて、ヘルールクランプ60により両フランジ46,56が互いに押圧される。これにより、内部空間57が密封される。
【0030】
ゼオライト濾過膜モジュール1内の内部空間57は、ゼオライト濾過膜中空糸束10により、透過した物質が存在する濾過空間58と、濾過対象物である混合蒸気が存在する混合空間59とに区分される。濾過空間58は、真空ポンプにより大気圧よりも低圧に維持されている。ゼオライト濾過膜モジュール1に流入する混合蒸気がゼオライト濾過膜中空糸束10を通過するとき、水分子だけが選択的に濾過空間58に透過する。エタノール分子は混合空間59に残る。このため、濾過空間58に接続されるタンクには水が貯まる。
【0031】
図1および図2を参照して、ゼオライト濾過膜中空糸束10について説明する。
ゼオライト濾過膜中空糸束10は、混合蒸気を濾過する複数本のゼオライト濾過膜中空糸20と、これらゼオライト濾過膜中空糸20を支持する支持部30と、支持部30を収容するとともにモジュール外筒部50に接続される外形部40とを含む。
【0032】
外形部40はステンレスにより形成されている。支持部30は、熱可塑性樹脂であるポリフルオロエチレンポリフルオロアリキルエーテル重合体(以下、PFA)により形成されている。ゼオライト濾過膜中空糸20は、セラミックス中空糸20Aの外面にCHA型(chabazite type)の骨格構造を有するゼオライト層25(以下、「CHA型ゼオライト層25」)が形成されたものである。セラミックス中空糸20Aはセラミックスにより形成されている。CHA型ゼオライト層25は、0.41nm程度の細孔を有するものであり、水分子を選択的に透過し、エタノール分子を透過しない。
【0033】
外形部40には、図1に示されるように、支持部30が収容する収容部41が設けられている。収容部41の内周には雌ねじ44が形成されている。外形部40の上部には貫通孔42が設けられている。上部の内側面には、支持部30の当接部33が押し当てられる押当部45が貫通孔42の周りに設けられている。押当部45には、その内周部分に沿って突起43が設けられている。外形部40の下部には、モジュール外筒部50と接続するためのフランジ46が設けられている。
【0034】
支持部30は円柱状に形成されている。支持部30の外周には雄ねじ32が形成されている。支持部30の上面には、外形部40の押当部45と当接する当接部33が設けられている。支持部30において、当接部33よりも内側の部分に、ゼオライト濾過膜中空糸20が挿入される挿入孔31が設けられている。
【0035】
セラミックス中空糸20Aは、直径が2.0mm、肉厚が0.2mmの中空のセラミックス多孔体として形成されている。セラミックス多孔体は、α−アルミナまたはムライトの微粒子をバインダとともに中空糸状に押出成型した後でバインダを焼き飛ばして該微粒子同士を加熱接着することにより形成され、直径が0.01μm〜10μmの細孔、および直径が10μm以上の細長い孔路を含む。孔路は、微粒子の隙間であり、セラミックス中空糸20Aの管壁のあらゆる方向に向って形成されている。
【0036】
支持部30に設けられるゼオライト濾過膜中空糸20の本数は、次のようにして設定される。ゼオライト濾過膜中空糸20の断面積SC(中空部分を含めた部分)の総和SBと、ゼオライト濾過膜中空糸20が実装される実装部分の面積である実装面積SAとの比を、断面積比RSとして、断面積比RSが5%〜40%とされる。例えば、支持部30において半径65.5mmの円形状の実装部分に、直径が2.0mmのゼオライト濾過膜中空糸20が略等間隔に180本実装される。このようにゼオライト濾過膜中空糸20を実装したとき、断面積比RSが16.8%となる。なお、図1、図2、図4、及び図5に示されるゼオライト濾過膜中空糸20またはセラミックス中空糸20Aの本数は適宜省略している。
【0037】
ゼオライト濾過膜中空糸20の一端部21は、支持部30の挿入孔31に挿入される。ゼオライト濾過膜中空糸20の他端部22には、PFAの収縮チューブ23が設けられている。収縮チューブ23の内部には充填材24としてのPFAが入れられている。
【0038】
図3を参照して、ゼオライト濾過膜モジュール1の製造方法について説明する。
ステップS1では、セラミックス中空糸20Aを形成する。ステップS2(第1工程)では、PFAにより複数のセラミックス中空糸20Aを束ねてセラミックス中空糸束10Aを形成する。ステップS3では、CHA型ゼオライトの種結晶を形成する。ステップS4では、ゼオライトの種結晶を分散したディップ液LBを形成する。ディップ液LBは、セラミックス中空糸20Aの外面にゼオライトの種結晶を付着するための溶液である。ステップS5(第2工程)では、ディップ法により、CHA型ゼオライトの種結晶をセラミックス中空糸20Aに付着する。ステップS6(第3工程)では、CHA型ゼオライトの種結晶を成長させて、セラミックス中空糸20Aの外面にCHA型ゼオライト層25を形成する。ステップS7では、ゼオライト濾過膜中空糸束10とモジュール外筒部50とを組み立ててゼオライト濾過膜モジュール1を形成する。
【0039】
以下、ゼオライト濾過膜モジュール1の製造方法の各工程について説明する。
<セラミックス中空糸の形成方法>
セラミックス中空糸20Aの形成方法について、ここではアルミナを例に説明する。
【0040】
60質量%のα−アルミナ(大明化学工業(株)製、グレードTM−5D)を、35質量%のN,N−ジメチルホルムアミドを加え、これを攪拌機により6〜12時間程度撹拌する。これにより、N,N−ジメチルホルムアミド中にα−アルミナを分散させる。次に、これに5.0質量%のポリスチレンおよび0.2質量%のラウリルベンゼンスルホン酸を加えて攪拌し、セラミックス混成物を作成する。なお、上記各材料の割合は、セラミックス混成物を100質量%とするときの値である。
【0041】
次に、セラミックス混成物を水中に押し出して、中空糸を成形する。このとき中空糸の管内に流速40m/分で水を流す。この流水作用により、内周面からのN,N−ジメチルホルムアミドの溶出が促進され、かつ中空糸の押し出しが円滑になる。
【0042】
そして、中空糸を水中に1〜24時間以上放置する。これにより、N,N−ジメチルホルムアミドを十分に溶出させるとともに、ポリスチレン等の樹脂材料を中空糸の外面に析出させる。
【0043】
この後、中空糸をオーブンに入れ、4時間かけて徐々に昇温し、1480℃に達した後、更に1時間焼成する。これにより、ポリスチレンを蒸散あるいは分解するとともに、粒子状のα−アルミナを焼結する。これにより、外径2.0mm、厚さ0.2mm、気孔率40%のセラミックス中空糸20Aが形成される。
【0044】
<セラミックス中空糸束の形成方法>
図4を参照して、セラミックス中空糸束10Aの形成方法について説明する。
図4(A)に示すように、PFAを溶融して金型に充填することにより直径10cmかつ厚さ5cmの円筒状の成形体(以下、「支持中間体」)を形成する。PFAが常温になったところで、ドリルにより、支持中間体30Aの軸方向に挿入孔31を形成する。挿入孔31の直径は、セラミックス中空糸20Aの直径よりも0.2mm程度大きくする。
【0045】
図4(B)に示すように、挿入孔31にセラミックス中空糸20Aを挿入する。そして、この支持中間体30Aをステンレス容器70に収容し、これを熱風循環炉内に入れ、温度330℃で3時間加熱し、さらに温度337℃により2時間加熱する。その後、これを室温まで自然冷却して、支持中間体30Aを硬化する。このように支持中間体30Aを溶融することにより、挿入孔31とセラミックス中空糸20Aとの間の隙間はなくなり、PFAとセラミックス中空糸20Aとが接着する。なお、自然冷却により支持中間体30Aは全体として硬化収縮してPFAとステンレス容器70との間に隙間が形成されるため、支持部30はステンレス容器70から容易に取り出すことができる。
【0046】
図4(C)に示すように、セラミックス中空糸20Aの他方端から1cmのところまでPFAの収縮チューブ23を被せるとともに、収縮チューブ23の中空部分にPFAの充填材24を挿入し、これをオーブンにより温度330℃下で10分間加熱する。これにより、収縮チューブ23および充填材24が溶融して互いに密着するとともに、収縮チューブ23がセラミックス中空糸20Aに接着して、他方端の開口部分を封止する。これを自然冷却した後、支持部30に雄ねじ32を形成する。
【0047】
図4(D)に示すように、外形部40に支持部30をねじ入れる。そして、図1に示すように、支持部30の当接部33が外形部40の突起43にあたるまで支持部30をねじ入れ、更に突起43を当接部33にねじ込むとともに、当接部33を外形部40の押当部45に押し当てる。これにより当接部33と押当部45との間の隙間をなくす。
【0048】
<CHA型ゼオライトの種結晶の形成方法>
CHA型ゼオライトの種結晶はY型ゼオライト粉末から次の方法により形成される。
蒸留水217.45gに水酸化ナトリウム(和光純薬工業(株)製)15.75gを溶解し、さらにY型ゼオライト粉末(東ソー(株)製、HSZ−330HUA)25.00gを加え、室温で1時間撹拌する。さらに、この溶液をオートクレーブ(内容積150ml)に移し、95℃で100時間加熱する。加熱終了後、水浴中で5分間冷却する。
【0049】
次いで、オートクレーブ中の固形物を濾過し、固形物を回収する。さらに、固形物を蒸留水により洗浄するとともに、蒸留水と固形物との混合物を濾過し、固形物を回収する。このような洗浄を、濾液のpHが10以下になるまで繰り返す。その後、固形物を110℃で一晩、例えば12時間、乾燥する。以上の工程により、21.68gの粉末(以下、「形成粉末」)が得られる。
【0050】
この形成粉末のX線回折パターンは、CHA型ゼオライトの回折パターンと同一であった。この形成粉末の組成をエネルギー分散X線分光法により分析したところ、モル比でSi/Al=2.4であった。すなわち、形成粉末はCHA型ゼオライトであることが同定された。
【0051】
<ディップ液の形成>
ディップ液LBは次の方法により形成される。まず、蒸留水100gとCHA型ゼオライト粉末1.0gとをビーカー(内容積200ml)に入れて、超音波により5分間撹拌し、CHA型ゼオライト粉末の分散液LAを作る。
【0052】
次に、ボールミルの容器の中に、外径5mmのアルミナボールと上記分散液LAとを入れる。容器の中に投入するアルミナボールの個数は、総量で340gに相当する個数とされる。そして、この容器を小型ボールミル回転架台に乗せ、650rpmにて12時間継続して回転させる。これにより、CHA型ゼオライトの種結晶を粉砕して、粒径を小さくする。
【0053】
次に、アスピレーターにより濾過側にある空気を吸引して、分散液LAを濾過する。この濾過においては、孔径が0.45μmであるメンブレンフィルターが用いられる。これにより分散液LAから、アルミボールおよび粒度の大きい種結晶が取り除かれる。
【0054】
次に、メンブレンフィルターで濾過した濾液をシャーレに入れて、オーブンにより水分を蒸発し、CHA型ゼオライトの種結晶の微粉末を得る。そして、微粉末に蒸留水を加えて、微粉末の濃度が0.1質量%のディップ液LBとする。
【0055】
<CHA型ゼオライトの種結晶の付着>
CHA型ゼオライトの種結晶のディップ液LBにセラミックス中空糸20Aを浸漬することにより、セラミックス中空糸20Aの外面にCHA型ゼオライトの種結晶を付着させる。以下、この方法を説明する。
【0056】
ディップ液LBが入った容器の上方にセラミックス中空糸束10Aを配置しておく。ディップ液LBはスターラーで攪拌する。そして、セラミックス中空糸20Aの先端から徐々にディップ液LBに漬ける。セラミックス中空糸20Aが所定の範囲までディップ液LBに漬かったところでセラミックス中空糸束10Aを維持し、スターラー撹拌を止める。そして、スターラーの回転の停止後、1分間経過するまで放置する。
【0057】
その後、10cm/分〜100cm/分程度の速度で、セラミックス中空糸束10Aをディップ液LBから引き上げる。なお、セラミックス中空糸束10Aを引き上げる代わりに、ディップ液LBの容器の底部からディップ液LBを排出してもよい。次いで、セラミックス中空糸束10Aを60℃の環境で1時間維持する。これにより、セラミックス中空糸20Aの外面の水分を蒸発させる。
【0058】
<CHA型ゼオライト層の形成>
CHA型ゼオライト層25は、CHA型ゼオライトの2次成長液LCに、CHA型ゼオライトの種結晶を付着させたセラミックス中空糸20Aを浸漬し、これを密封かつ高温状態を維持することにより、すなわち所謂水熱合成法により、形成される。以下、2次成長液LCの形成方法、および水熱合成の条件について説明する。
【0059】
2次成長液LCは、以下のA液とB液を混合することにより形成される。
A液は次のように形成する。まず、42.73gの純水HOに3.47gの水酸化カリウムKOHを溶解し、この水酸化カリウム溶液に、濃度が50質量%の硝酸アルミニウムAl(NOを6.56g加える。水酸化カリウム溶液と硝酸アルミニウム溶液とを混合すると発熱するため、硝酸アルミニウム溶液を少しずつ水酸化カリウム溶液に入れる。そして、硝酸アルミニウム溶液と水酸化カリウム溶液との混合溶液が入った容器をマグネチックスターラーに乗せ、当該容器に40mmの攪拌子を入れ、500rpmで20分間混合液を撹拌する。
【0060】
B液は次のように形成する。濃度が10質量%の硝酸ストロンチウムSr(NO9.64gに、10.38gのシリカゾル(カタロイドSI−30、日揮触媒化成(株)製)を混合する。そして、硝酸ストロンチウムとシリカゾルとの混合液が入った容器をマグネチックスターラーに乗せ、当該容器に撹拌子40mmを入れ、この混合液を500rpmで20分間撹拌する。
【0061】
次いで、B液とA液とを混合し、4時間撹拌する。このようにして、2次成長液LCが形成される。以下に、A液とB液の原材料を示す。
「A液」
・水酸化カリウム 3.47g
・50質量%の硝酸アルミニウム水溶液 6.56g
・純水 42.73g
「B液」
・10質量%の硝酸ストロンチウム水溶液 9.64g
・シリカゾル
(カタロイドSI−30、日揮触媒化成工業(株)製) 10.38g
図5を参照して、CHA型ゼオライトの結晶を成長させる方法について説明する。
【0062】
2次成長液LCを入れた容器80に、CHA型ゼオライトの種結晶の付着したセラミックス中空糸束10Aを入れて、セラミックス中空糸20Aを2次成長液LCに浸漬する。セラミックス中空糸20Aを2次成長液LCに浸漬したものをステンレス製のオートクレーブ90に収容し、密封する。さらに、オートクレーブ90を恒温チャンバー100に入れ、温度を120℃〜140℃に設定して、この状態で21時間維持する。
【0063】
加熱後、オートクレーブ90を恒温チャンバー100から取り出して冷却する。そして、セラミックス中空糸束10Aを水で洗浄した後、脱イオン水(純水)により洗浄する。さらに、洗浄容器に脱イオン水を入れて、この洗浄容器にセラミックス中空糸束10Aを入れる。そして、2時間にわたって30分ごとに脱イオン水を入れ替えてセラミックス中空糸束10Aを洗浄する。その後、セラミックス中空糸束10Aを取り出して、常温にて24時間放置し、セラミックス中空糸束10Aを乾燥する。以上のようにしてゼオライト濾過膜中空糸束10が形成される。
【0064】
<ゼオライト濾過膜モジュールの組立>
ゼオライト濾過膜モジュール1は次のように組み立てられる。
ゼオライト濾過膜中空糸束10をモジュール外筒部50の蓋にし、ゼオライト濾過膜中空糸束10とモジュール外筒部50とを接続する。このとき、外形部40のフランジ46とモジュール外筒部50のフランジ56とを互いに押し当つけて、支持部30には力が加わらないようにする。そして、ヘルールクランプ60により、ゼオライト濾過膜中空糸束10とモジュール外筒部50とが互いに押し合うように固定する。
【0065】
CHA型ゼオライトの耐熱性について説明する。
一般に、CHA型ゼオライトは、過剰な熱により結晶構造が壊れ、分離性能が低下する。また、過剰な熱により、CHA型ゼオライトの層構造に微細なクラックが形成されることもある。CHA型ゼオライトの層構造にクラックが形成されると、クラックを通じて物質がゼオライト濾過膜中空糸20の濾過空間58に流れ込む。このため、ゼオライト濾過膜中空糸束10の透過流束が増大する。
【0066】
ところで、上記に示したゼオライト濾過膜モジュールの製造方法においては、PFAを溶融する工程を、種結晶を付着する工程よりも先に行うことにより、PFAを溶融するような高い温度雰囲気下にゼオライト濾過膜中空糸束10を晒さないようにしている。これにより、CHA型ゼオライトの結晶構造が壊れること、およびCHA型ゼオライトの層構造にクラックが形成されることが抑制される。
【0067】
図6を参照して、ゼオライト濾過膜中空糸に加えられる温度によるCHA型ゼオライトの分離性能および透過流束の変化について、実験結果に基づいて説明する。
試料は次のように形成する。上記製造方法により、長さ220mmのゼオライト濾過膜中空糸を形成し、これを長さ30mmの長さに切断して、6個の試料を取り出す。そして、6個の試料について、それぞれ異なる温度条件下に晒す。具体的には、6個の試料をそれぞれ60℃、150℃、400℃、500℃、700℃の処理温度にて、12時間維持する。
【0068】
上記高温処理した各試料について次の方法により評価する。
まず、真空系接着剤(米国バリアン社製トールシール等)を用いて、各試料の一端部を真空トラップを経て真空ポンプに至る真空ラインに接続し、同様に他端は真空系接着剤で密封する。
【0069】
次いで、容器に50mol%のエタノール水溶液を入れ、温度40℃に維持する。試料全体をエタノール水溶液中に浸漬し、同試料の内部空間を0.01MPa程度の真空にする。そして、単位時間当たりの濾液量を計量することにより透過流束を算出する。また、次式(1)により、当該各試料について分離能力を示す分離係数αを算出する。
【0070】
分離係数α=(BH/BE)/(AH/AE) … (1)
AH:濾過前のエタノール水溶液の水の濃度(質量%)
AE:濾過前のエタノール水溶液のエタノールの濃度(質量%)
BH:濾過後の溶液(濾液)の水の濃度(質量%)
BE:濾過後の溶液(濾液)のエタノールの濃度(質量%)
図6の表に示すように、CHA型ゼオライトは処理温度が高くなるほど、透過流束が低下するとともに、分離係数αが低下する。これは、処理温度が高くなるほどCHA型ゼオライトの結晶構造が壊れる割合が高くなること、およびCHA型ゼオライト層25にクラックの発生頻度が高くなることに起因する。
【0071】
CHA型ゼオライトの結晶構造が壊れると、微細孔が潰されるため、物質はCHA型ゼオライト層25を透過しにくくなるとともに、水とエタノールとの混合液から水のみを透過させる分離性能を低下させる。
【0072】
一方、CHA型ゼオライト層25のクラックは、物質を透過しやすくするとともに、水とエタノールとの混合液から水のみを透過させる分離性能を低下させる。クラックの発生は、高温になるほど発生頻度が高くなるが、処理温度とクラックの発生頻度とは常に一定の関係を有するのではなく同じ処理温度であってもCHA型ゼオライト層25のクラックの発生頻度にはばらつきがあると考えられている。
【0073】
CHA型ゼオライトの結晶構造が壊れること、およびCHA型ゼオライト層25のクラックの形成は、いずれも分離性能を低下させる。このため、図6に示すように、処理温度が高くなるにしたがって分離係数αが低下する。
【0074】
一方、透過流束については、CHA型ゼオライトの結晶構造が壊れることと、CHA型ゼオライト層25のクラックの形成とを比べると、前者が透過流束を小さくするように作用することに対し、後者が透過流束を大きくするように作用する。すなわち、透過流束について、前者の現象と後者の現象は処理温度の上昇にともなって反対方向に作用する。後者の現象は、処理温度の高さに関係するものの前者に比べてその影響が小さい。このため、図6に示すように、温度処理が高くなるにしたがって、透過流束が低下する傾向にある。なお、透過流速については、高温処理が60℃から上昇するに従って徐々に低下しているが、処理温度が500℃においては透過流束が高くなっている。この理由は500℃の実験に使用された試料に偶発的にクラック数が増大したためと考えられる。
【0075】
以上に示すように、CHA型ゼオライトを高温処理したとき、分離性能が低下する。このような傾向は、他の型のゼオライトについても同様である。他の型のゼオライトは、CHA型ゼオライトと同様の基本構造、すなわち正四面体配位の珪素およびアルミニウムが酸素を共有する基本構造を備えている。このため、高温処理により、骨格構造が壊れ、これにともなって分離性能が低下する。
【0076】
本実施形態によれば以下の作用効果を奏することができる。
(1)本実施形態では、複数本のセラミックス中空糸20Aを熱可塑性樹脂であるPFAで互いに接着することによりセラミックス中空糸20Aを束ねる工程と、この工程により束ねられたセラミックス中空糸束10Aの外面にCHA型ゼオライトの種結晶の粉末を付着する工程と、CHA型ゼオライトの結晶を成長させる工程とを含む。
【0077】
ゼオライト濾過膜モジュール1の製造方法として、セラミックス中空糸20AにCHA型ゼオライト層25を形成した後、これらをPFAにより束ねる方法が考えられる。このような製造方法の場合、セラミックス中空糸20AをPFAにより束ねるときの同PFAに加えられる熱によりCHA型ゼオライト層25が加熱される。CHA型ゼオライトは高温に晒されると分離性能が低下する。このため、上記製造方法では、CHA型ゼオライトの分離性能を十分に引き出せない。
【0078】
これに対して、上記構成によれば、PFAでセラミックス中空糸20Aを束ねた後に、セラミックス中空糸20Aの外面に種結晶であるCHA型ゼオライトの種結晶の粉末を付着し、CHA型ゼオライトの結晶を成長させる。このようにして、ゼオライト濾過膜モジュール1の製造過程において、CHA型ゼオライト層25が高温に晒されることを少なくしている。これにより、製造過程において生じうるCHA型ゼオライトの分離性能の低下を抑制することができる。
【0079】
(2)本実施形態では、セラミックス中空糸束10Aを形成する工程(第1工程)においては、PFAを用いてセラミックス中空糸20Aを互いに接着する部材としての支持部30を形成し、この支持部30にセラミックス中空糸20Aが嵌められる挿入孔31を形成し、挿入孔31にセラミックス中空糸20Aを挿入した後、支持部30を溶融する。
【0080】
セラミックス中空糸束10Aを形成する方法として、セラミックス中空糸20Aを所定の間隔を隔てて配置し、これに溶融したPFAをセラミックス中空糸20Aの周りに流し込み、これらセラミックス中空糸20Aを互いに接着する方法が考えられる。しかし、このような方法の場合、PFAを流し込むときにセラミックス中空糸20Aが障壁となるため、PFAにより充填されるべき部分にPFAが行き渡らず、未充填部分が形成される。
【0081】
上記構成によれば、セラミックス中空糸20Aを支持するための支持部30を、セラミックス中空糸20Aの挿入孔31を設けるものとして形成する。支持部30の形成過程においてセラミックス中空糸20Aが障壁になることはないため、未充填の形成を抑制することができる。
【0082】
また、挿入孔31とセラミックス中空糸20Aとの間には隙間が形成されるが、この隙間は、セラミックス中空糸20Aを挿入した後に支持部30を溶融することにより、当該隙間がなくなる。これにより、セラミックス中空糸20Aと支持部30とを確実に接着することができる。
【0083】
(3)本実施形態では、CHA型ゼオライトの種結晶をセラミックス中空糸20Aに付着する工程(第2工程)においては、CHA型ゼオライトの種結晶の粉末を分散したディップ液LBに、セラミックス中空糸束10Aを浸漬することにより、セラミックス中空糸20Aの外面にCHA型ゼオライトの種結晶を付着する。
【0084】
CHA型ゼオライトの種結晶をセラミックス中空糸20Aに付着する方法には、手でCHA型ゼオライトの種結晶をセラミックス中空糸20Aに擦り付ける方法もある。しかし、この方法では、複数本のセラミックス中空糸20Aを備えるゼオライト濾過膜モジュール1にあってはCHA型ゼオライトの種結晶を擦り付ける作業時間が長くなる。
【0085】
この点、上記構成では、CHA型ゼオライトの種結晶をセラミックス中空糸20Aに付着する方法として、複数本のセラミックス中空糸20Aを束にしこのセラミックス中空糸束10Aをディップ液LBに浸漬するため、複数本のセラミックス中空糸20Aに同時にCHA型ゼオライトの種結晶を付着することができる。これにより、1本ずつ手でCHA型ゼオライトの種結晶を擦り付ける方法と比べて、作業時間を短縮することができる。
【0086】
(4)本実施形態では、CHA型ゼオライトの種結晶を成長させる工程(第3工程)においては、水を溶媒としてケイ素イオンおよびアルミニウムイオンを含む2次成長液LCにCHA型ゼオライトの種結晶を付着したセラミックス中空糸束10Aを浸漬する。次いで、セラミックス中空糸束10Aを2次成長液LCに浸漬したものを容器に密閉状態で収容し、密閉状態で加熱する。
【0087】
この構成によれば、2次成長液LCは有機物を含まないため、有機物を含まないCHA型ゼオライト層25を形成することができる。このため、CHA型ゼオライト層25の形成後に、有機物を除去する除去処理を行う必要がない。
【0088】
(5)本実施形態では、CHA型ゼオライトの種結晶は、孔径が0.45μmであるメンブレンフィルターを通過する大きさである。この構成によれば、孔径が0.45μmであるメンブレンフィルターを通過しないCHA型ゼオライトの種結晶を除去することができるため、同メンブレンフィルターを通過するCHA型ゼオライトを含む種結晶に比べてCHA型ゼオライトの種結晶の大きさのばらつきを小さくすることができる。
【0089】
(6)本実施形態では、CHA型ゼオライトの種結晶は、ゼオライトの種結晶の母材であるCHA型ゼオライトの結晶をボールミルにより粉砕して形成されるものであり、ボールミルによる粉砕条件は、CHA型ゼオライトの種結晶がアモルファス化しない条件に設定されている。
【0090】
この構成によれば、CHA型ゼオライトの種結晶中に含まれるアモルファス化した種結晶の割合の増大を抑制することができる。これにより、CHA型ゼオライトの種結晶を成長させて形成されるCHA型ゼオライト層25の構造を均質なものとすることができる。すなわち、CHA型ゼオライトの多結晶でない部分の割合を少なくすることができる。
【0091】
(その他の実施形態)
なお、本発明の実施態様は上記実施形態にて示した態様に限られるものではなく、これを例えば以下に示すように変更して実施することもできる。また以下の各変形例は、上記各実施形態についてのみ適用されるものではなく、異なる変形例同士を互いに組み合わせて実施することもできる。
【0092】
・上記実施形態では、Y型ゼオライトからCHA型ゼオライトの種結晶を形成したあと、ボールミルによりCHA型ゼオライトの種結晶を粉砕しているが、この粉砕工程を省略してもよい。
【0093】
・上記実施形態では、ボールミルによるCHA型ゼオライトの種結晶の粉砕工程の条件は、上記に示した条件に限定されるものではない。例えば、実施形態では、ボールミルの容器を650rpmにて12時間継続して回転しているが、回転速度を遅くして容器の回転による発熱を小さくしてもよい。すなわち、粉砕工程の条件は、CHA型ゼオライトの種結晶がアモルファス化しない条件であればよい。
【0094】
・上記実施形態では、セラミックス中空糸束10Aを形成する工程およびCHA型ゼオライト層25を形成する工程以外では、ゼオライト濾過膜中空糸束10に熱を加える工程はない。しかし、これらの工程以外で加熱を含む工程を、ゼオライト濾過膜モジュール1の製造工程に含めてもよい。この場合、新たに加わる工程における熱処理が、ゼオライトの種結晶の構造に影響を与えるとき、この工程は、CHA型ゼオライトの種結晶をセラミックス中空糸20Aに付着する工程よりも後に行うことが好ましい。
【0095】
・上記実施形態では、CHA型ゼオライトの種結晶をセラミックス中空糸20Aに付着する工程では、セラミックス中空糸束10Aをディップ液LBに浸漬する方法を採用しているが、この浸漬中に、ディップ液LBを吸引することによりCHA型ゼオライトの種結晶の付着を促進することもできる。具体的には、セラミックス中空糸20Aにおいて、ディップ液LBに浸漬していない側の端部、すなわち支持部30により支えられている端部に吸引機を取り付け、セラミックス中空糸20Aの濾過空間58を減圧する。これにより、ディップ液LBの水分がセラミックス中空糸20Aの内部に透過し、セラミックス中空糸20Aの外面に多くの種結晶を付着させることができる。
【0096】
・上記実施形態では、セラミックス中空糸束10Aをディップ液LBに浸漬した後、このセラミックス中空糸束10Aを60℃で1時間放置して、セラミックス中空糸束10Aを乾燥しているが、この乾燥工程を省略することもできる。この工程を省略しても、ゼオライト濾過膜モジュール1の分離性能は殆ど変わらない。
【0097】
・上記実施形態では、CHA型ゼオライト層25を有するゼオライト濾過膜中空糸20をモジュール化したゼオライト濾過膜モジュール1の製造方法について、本発明を適用しているが、CHA型ゼオライト層25以外のゼオライト層を有するゼオライト濾過膜モジュール1についても、本発明の製造方法を適用することができる。
【0098】
すなわち、いずれのタイプのゼオライト層であっても高温に晒されると構造劣化が生じるため、ゼオライト濾過膜モジュール1の製造において、セラミックス中空糸20Aにゼオライトの種結晶を付着する工程は、セラミックス中空糸20AをPFAにより束ねる工程よりも後に行う。
【符号の説明】
【0099】
1…ゼオライト濾過膜モジュール、10…ゼオライト濾過膜中空糸束、10A…セラミックス中空糸束、20…ゼオライト濾過膜中空糸、20A…セラミックス中空糸、21…一端部、22…他端部、23…収縮チューブ、24…充填材、25…CHA型ゼオライト層、30…支持部、30A…支持中間体、31…挿入孔、32…雄ねじ、33…当接部、40…外形部、41…収容部、42…貫通孔、43…突起、44…雌ねじ、45…押当部、46…フランジ、50…モジュール外筒部、50A…濾過タンク、50B…土台、51…吸入口、52…継手、53…配管、54…排出口、55…開口部、56…フランジ、57…内部空間、58…濾過空間、59…混合空間、60…ヘルールクランプ、70…ステンレス容器、80…容器、90…オートクレーブ、100…恒温チャンバー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のゼオライト濾過膜中空糸を熱可塑性樹脂により束ねたゼオライト濾過膜モジュールの製造方法において、
複数本のセラミックス中空糸を熱可塑性樹脂で互いに接着することによりこれらセラミックス中空糸を束ねる第1工程と、
前記第1工程により束ねられたセラミックス中空糸束の外面にゼオライトの種結晶の粉末を付着する第2工程と、
前記ゼオライトの結晶を成長させる第3工程とを含む
ことを特徴とするゼオライト濾過膜モジュールの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のゼオライト濾過膜モジュールの製造方法において、
前記第1工程は、熱可塑性樹脂を用いて前記セラミックス中空糸を互いに接着する部材としての支持部を形成し、この支持部に前記セラミックス中空糸が嵌められる挿入孔を形成し、前記挿入孔に前記セラミックス中空糸を挿入した後、前記支持部を溶融する
ことを特徴とするゼオライト濾過膜モジュールの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゼオライト濾過膜モジュールの製造方法において、
前記第2工程は、前記ゼオライトの種結晶の粉末を分散したディップ液に、前記セラミックス中空糸を浸漬することにより、前記セラミックス中空糸の外面に前記ゼオライトの種結晶を付着する
ことを特徴とするゼオライト濾過膜モジュールの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のゼオライト濾過膜モジュールの製造方法において、
前記第3工程は、水を溶媒としてケイ素イオンおよびアルミニウムイオンを含む2次成長液に前記ゼオライトの種結晶を付着した前記セラミックス中空糸束を浸漬し、次いで、前記セラミックス中空糸束を前記2次成長液に浸漬したものを容器に密閉状態で収容し、密閉状態で加熱する
ことを特徴とするゼオライト濾過膜モジュールの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のゼオライト濾過膜モジュールの製造方法において、
前記ゼオライトの種結晶は、孔径が0.45μmであるメンブレンフィルターを通過する大きさである
ことを特徴とするゼオライト濾過膜モジュールの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のゼオライト濾過膜モジュールの製造方法において、
前記ゼオライトの種結晶は、前記ゼオライトの種結晶の母材であるゼオライトの結晶をボールミルにより粉砕して形成されるものであり、
前記ボールミルによる粉砕条件は、前記ゼオライトの種結晶がアモルファス化しない条件に設定されている
ことを特徴とするゼオライト濾過膜モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−115768(P2012−115768A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267876(P2010−267876)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】