説明

ゼオライト触媒およびその生産方法

【課題】炭化水素のクラッキングの反応速度を顕著に高めるために利用できるゼオライトおよびその生産方法を明らかにする。または、炭化水素のクラッキング反応における触媒活性が高いゼオライトおよびその生産方法を明らかにする。または、低コストなゼオライトおよびその生産方法を明らかにする。
【解決手段】IRMS−TPD法において3590〜3610cm-1のスペクトルに酸点のピークを有し、前記酸点の酸強度が140kJ mol−1以上である、NH−USY型ゼオライトトおよびその生産方法を提供する。または、そのNH−USY型ゼオライトを焼成して得られるゼオライト触媒トおよびその生産方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト触媒およびその生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライト触媒は石油精製における接触分解に用いられ、炭化水素の変換触媒として工業的に多く用いられている。特に超安定Y (Ultra-stable Y、USY) 型ゼオライトはFCC(Fluid Catalytic Cracking、流動接触分解)などに用いられる重要な触媒である。
【0003】
これまでにさまざまな研究が世界中で行われており、たとえば非特許文献1にはこのUSY型ゼオライトにEDTA処理を行うことで骨格外Al種の位置や微細構造が変化、強酸点が発現し、クラッキングにおける触媒活性が向上することが記載されている。特許文献1にはゼオライト−パラジウム触媒が、鈴木・宮浦カップリング反応またはHecK反応などのカップリング反応において、TON、TOFまたは収率などによって評価される触媒活性の総合的な能力の面で高活性を示したことが記載されている。
【0004】
また、このような分野では酸性質の正確な測定が、触媒の設計や探索のために重要である。酸性質測定は、酸量、酸強度、酸の種類を測定可能である。この測定の方法として、特許文献2および非特許文献2にはIRMS−TPD (Infrared-Mass Spectrometry/ Temperature Programmed Desorption)法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】特開2010-69415
【非特許文献2】特開2008-292366
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】‘Identification and Measurements of Strong Brunsted Acid Site in Ultrastable Y (USY) Zeolite’ M. Niwa, K. Suzuki, K. Isamoto, N. Katada, J. Phys. Chem. B, 110, 264 (2006)
【非特許文献2】‘Detection and Quantitative Measurements of Four Kinds of OH in HY Zeolite’ K. Suzuki, N. Katada, M. Niwa, J. Phys. Chem., C, 111, 894 -900, (2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記文献記載の従来技術は、以下の点で改善の余地を有していた。
第一に、特許文献1および2ではEDTAまたはパラジウムを用いてゼオライト触媒を調製したことが記載されているが、その他の成分を用いて調製した場合の酸性質の変化は十分に解明されていない。USY型ゼオライトの工業的な利用可能性を探索するためにUSY型ゼオライトの酸性質を変化させる成分およびその特性を明らかにすることは重要である。
【0008】
第二に、これらの文献で用いているEDTAおよびパラジウムは高価な材料であるため、これらを用いた反応系はコストが高くなる傾向にあった。第三に、これらの文献では炭化水素のクラッキング反応における触媒活性は十分とはいえなかった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、炭化水素のクラッキングの反応速度を顕著に高めるために利用できるゼオライトおよびその生産方法を提供することを目的とする。また別の目的は、炭化水素のクラッキング反応における触媒活性が高いゼオライトおよびその生産方法である。また他の目的は、特定の酸点において高い酸強度を有するゼオライトおよびその生産方法である。また他の目的は、低コストなゼオライトおよびその生産方法である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、IRMS−TPD法において3590〜3610cm-1のスペクトルに酸点のピークを有し、前記酸点の酸強度が140kJ mol−1以上である、NH−USY型ゼオライトが提供される。また本発明によれば、IRMS−TPD法において3620〜3640cm-1のスペクトルに酸点のピークを有し、前記酸点の酸強度が125kJ mol−1以上である、NH−USY型ゼオライトが提供される。
【0011】
これらいずれかのNH−USY型ゼオライトを焼成して用いれば、炭化水素のクラッキングの反応速度を顕著に高めることができることが後述する実施例で実証されている。そのため、このNH−USY型ゼオライトを用いれば、石油精製の効率化等、種々の目的に応じた効果が得られる。
【0012】
また本発明によれば、H−USY型ゼオライトを硝酸アンモニウム水溶液でイオン交換する工程を含む、NH−USY型ゼオライトの生産方法が提供される。
【0013】
この生産方法で得られるNH−USY型ゼオライトを焼成して用いれば、炭化水素のクラッキングの反応速度を顕著に高められることが後述する実施例で実証されている。即ち、この生産方法を用いれば、炭化水素のクラッキングの反応速度を顕著に高めるために利用できるNH−USY型ゼオライトを生産できる。またこの生産方法は、低コストである。そのため、NH−USY型ゼオライトを低コストに生産するために好適である。
【0014】
また本発明によれば、上記の生産方法で得られるNH−USY型ゼオライトが提供される。このNH−USY型ゼオライトを焼成して用いれば、炭化水素のクラッキングの反応速度を顕著に高められることが後述する実施例で実証されている。そのため、このNH−USY型ゼオライトを用いれば、石油精製の効率化等、種々の目的に応じた効果が得られる。
【0015】
また本発明によれば、上記のいずれかのNH−USY型ゼオライトを焼成する工程を含む、ゼオライト触媒の生産方法が提供される。
【0016】
この生産方法は、炭化水素のクラッキング反応において高い触媒活性を示すゼオライト触媒を生産するために利用できることが、後述する実施例で実証されている。そのため、この生産方法を用いれば、炭化水素のクラッキング反応において高い触媒活性を示すゼオライト触媒を生産できる。
【0017】
また本発明によれば、上記の生産方法で得られるゼオライト触媒が提供される。このゼオライト触媒は、炭化水素のクラッキング反応において高い触媒活性を示すことが後述する実施例で実証されている。そのため、このNH−USY型ゼオライトを用いれば、石油精製の効率化等、種々の目的に応じた効果が得られる。
【0018】
また本発明によれば、上記いずれかのゼオライト触媒を用いて炭化水素をクラッキングする工程を含む、ガソリン基材の生産方法が提供される。ここで、上記いずれかのゼオライト触媒は、炭化水素のクラッキングの反応速度を顕著に高めることができる。そのため、この生産方法を用いれば、効率的にガソリン基材を生産できる。
【0019】
また本発明によれば、上記いずれかのゼオライト触媒を用いて炭化水素をクラッキングする方法が提供される。ここで、上記いずれかのゼオライト触媒は、炭化水素のクラッキングの反応速度を顕著に高めることができる。そのため、この方法を用いれば、効率的に炭化水素をクラッキングできる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、炭化水素のクラッキングの反応速度を顕著に高めるために利用できるゼオライトおよびその生産方法が得られる。または、炭化水素のクラッキング反応における触媒活性が高いゼオライトおよびその生産方法が得られる。または、特定の酸点において高い酸強度を有するゼオライトおよびその生産方法が得られる。または、低コストなゼオライトおよびその生産方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、4種類のH−USY型ゼオライトについて、IRMS−TPD法でIR差スペクトルを調査した結果である。
【図2】図2は、FAU型ゼオライトの概念図である。
【図3】図3は、ヘキサンクラッキング反応機構の例を表した図である。
【図4】図4は、スチーミングの概念図である。
【図5】図5は、IRMS−TPD装置の概略図である。
【図6】図6は、クラッキング反応に用いるゼオライト触媒の生産手順を示した図である。
【図7】図7は、各NH4NO3-USYの窒素吸着等温線を表したグラフである。
【図8】図8は、各NH4NO3-USYの窒素吸着等温線を比較したグラフである。
【図9】図9は、硝酸アンモニウム水溶液処理回数とアルミニウム濃度の関係を表したグラフである。
【図10】図10は、硝酸アンモニウム水溶液処理USYの29Si NMRの結果である。
【図11】図11は、硝酸アンモニウム水溶液処理USYの27Al NMRの結果である。
【図12】図12は、シュウ酸処理USYのXRDパターンを表したグラフある。
【図13】図13は、様々な処理条件で調製したUSYをオクタンクラッキング反応に用いた結果である。
【図14】図14は、USY-0.5Mについて、IRMS−TPD測定で得られた差スペクトルである。
【図15】図15は、USY-2.3Mについて、IRMS−TPD測定で得られた差スペクトルである。
【図16】図16は、USY-7.5について、IRMS−TPD測定で得られた差スペクトルである。
【図17】図17は、USY-NH3adsについて、IRMS−TPD測定で得られた差スペクトルである。
【図18】図18は、シュウ酸処理USY(pH4.5)について、IRMS−TPD測定で得られた差スペクトルである。
【図19】図19は、IRMS−TPD図の比較結果を表したグラフである。
【図20】図20は、IRMS−TPD(OH) 図の比較結果を表したグラフである。
【図21】図21は、USY-未処理と、USY-0.5Mの差スペクトルOH領域拡大図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑を避けるために、適宜説明を省略する。
【0023】
(1)NH−USY型ゼオライト
本発明の一実施形態は、IRMS−TPD法において3590〜3610cm-1のスペクトルに酸点のピークを有し、前記酸点の酸強度が140kJ mol−1以上である、NH−USY型ゼオライトである。このNH−USY型ゼオライトを焼成して用いれば、後述する実施例で実証されているように、炭化水素のクラッキングの反応速度を顕著に高めることができる。またこのNH−USY型ゼオライトは低コストで生産することができる。また上記酸強度は、これまでに研究されてきたゼオライト触媒には見られなかった特性である。
【0024】
本明細書において「ゼオライト(zeolite)」とは、結晶中に微細孔を持つアルミノ珪酸塩の総称である。日本名は沸石という。ゼオライトは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含むアルミノケイ酸塩の結晶で、その含有金属の組成比は様々である。また、ゼオライトは規則正しい結晶であり、結晶の各単位胞はその中心にケージやチャンネルなどと呼ばれる細孔を持っている。例えば、アルミノシリケイトのゼオライトの骨格は、ケイ素-酸素結合とケイ素がアルミニウムで置換されたアルミニウム−酸素結合からできている。アルミニウムは原子価が3価であり、原子価が4価であるケイ素と置換するにはマイナス1価の陰イオンとなる必要があり、このマイナス電荷を補償するためナトリウムイオンなどの陽イオンがアルミニウムの対イオンとして存在する。アルミニウムおよび対イオンのもつ電荷のためにアルミニウムを多く含むゼオライト内部は強い静電場を持ち極性の高い環境になる。細孔の形状や、結晶構造の種類などから、ゼオライトは更に細分化されて名称が付けられている。ゼオライトは、天然に産出する鉱物であるが、現在ではさまざまな性質を持つゼオライトが人工的に合成されており、工業的にも重要な物質となっている。
【0025】
ゼオライトはその細孔内に選択的に分子を取り込み、反応させることができるため、触媒として多方面に利用されている。ゼオライトを原料として用いた触媒(以下「ゼオライト触媒」と称することもある)としては、例えばZSM-5という合成ゼオライトを用いることでメタタノール、エタノール等のアルコールからガソリンを合成できることが知られている。
【0026】
本明細書において「FAU型ゼオライト」とはフォージャサイト型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライトを含む概念である(参考文献:窪田好浩、 辰巳 敬、真空 Vol. 49 (2006)、No. 4 pp.205-212)。FAU型ゼオライトでは、一般的にスーパーケージと呼ばれる直径1.3nm程度のほぼ球状の空間が存在し、この空間は直径0.74nm程度の4つの窓を持っていて、この窓を通して、スーパーケージは隣り合った4つのスーパーケージとつながっている。FAU型ゼオライトの概念図を図1に示す。
【0027】
本明細書において「USY型ゼオライト」とは、FAU型ゼオライトの一種である。USY型ゼオライトとしては、市販されているもの(例:東ソー製)や、市販されているNaY型ゼオライト(例:東ソー製、触媒化成製)をアンモニウムイオンでイオン交換した後、スチーミング処理して脱アルミ化して調製したもの等がある。
【0028】
本明細書において「IRMS−TPD法」とは、例えばゼオライトや硫酸化ジルコニアに代表されるような固体酸の酸性質を簡便・正確に測定できる方法である。この方法はアンモニアの昇温脱離(TPD)挙動を質量分析(Mass spectrometry、MS)で観測する従来のアンモニアTPD 測定と同時に、赤外分光分析 (Infrared spectroscopy、IR)を行うものである。酸性質は、酸量、酸強度、酸の種類を測定可能である。測定条件としては、例えばHe流速:120ml/min、圧力:25Torr、サンプル重量:5mg、アンモニア導入:100度 100Torr 30分、積算回数:4回、分解能:4cm−1、および前処理として真空中で500度1hの測定条件を採用できる。
【0029】
この方法の詳細は、特開2008-292366や[Katada et al., J. Phys. Chem., C, 111, 894 -900, (2007).]に記載されている。手順としては例えば以下の通りである。まず、固体酸の薄い円盤を赤外測定セル内で前処理後、ヘリウム流中で373Kから773Kまで10K・min−1で昇温しながら赤外スペクトルを10K毎に測定してこれをN(T)とし、その後373Kでアンモニアを吸着させ、再びヘリウム流中で373Kから773Kまで10K・min−1で昇温しながら赤外スペクトルを10K毎に測定してこれをA(T)とし、A(T)−N(T)を図示する。NH、NH+、OHに対応する吸収バンドの強度をスペクトル上の面積から定量し、温度の関数として表す。同時に質量分析計で脱離したアンモニアを定量する。
【0030】
差スペクトルの、1450cm-1付近のNH4+に起因するバンドと、1320cm-1付近のNH3に起因するバンドの面積をそれぞれの温度の差スペクトルについて定量する。このそれぞれの面積の温度に対する微分変化を図示したものがIR-TPDである。さらに1500から1700cm-1に観測されるOHに関しても同様に4種類のOHの面積を定量し、温度に対する微分変化を計算しOHのIR-TPDを計算する。吸光度係数の差をキャンセルするパラメータを強度にかけNH4+とNH3のIR-TPDを合計したものがMS-TPDと一致するようにする。さきほどの4種類のOHのIR-TPDも同じようにパラメータをかけNH4+のIR-TPDとフィットさせる。このOHのIR-TPDから理論式を用いてOHの量と強度を定量できる。
【0031】
本明細書において「クラッキング」とは、有機化合物を加熱して分解することである。石油精製においては、石油中の大きな分子を分解し、ガソリン留分等の小さな分子に分解する反応である。ガソリン、灯油、軽油など付加価値の高い製品を増産するために重要なプロセスである。ヘキサンクラッキング反応機構の例を図2に示す。また、反応炉と触媒再生炉の間で触媒を流動させ分解を連続的に行う方式は、FCC(Fluid Catalytic Cracking、流動接触分解)と呼ばれる。一般に、高オクタン価ガソリンを製造する際に用いられる。FCC装置を用いれば、圧蒸留装置から出る残渣油をさらに減圧蒸留装置で蒸留して得られた減圧軽油を原料として、高温・触媒下で分解し、プロピレンやガソリン、灯油、軽油などを生産することができる。この装置は、例えば処理する原料を100とすると、最終的に生産される製品の量は114になり、製油所の装置のなかでは最も収益性の高い装置である。
【0032】
上記「3590〜3610cm-1のスペクトル」は特に限定されないが、例えば3590、3595、3598、3560、3565、または3610cm-1である。この値は、ここで例示した2つの値の範囲内であってもよい。この範囲内に酸点のピークがあることは、本実実施形態のNH−USY型ゼオライトの特徴の一つであり、これがクラッキング反応に関与していると考えられる。例えば[Niwa et al., J. Phys. Chem. B, 110, 264 (2006)]に記載されている、EDTA処理によって得られたNH−USY型ゼオライトはこのピークが存在しない。
【0033】
上記「140kJ mol−1以上」は特に限定されないが、例えば140、142、144、146、150、153、155、157、165、または200kJ mol−1である。この値は、ここで例示したいずれか1つの値以上、またはいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
【0034】
他の実施形態は、IRMS−TPD法において3620〜3640cm-1のスペクトルに酸点のピークを有し、前記酸点の酸強度が125kJ mol−1以上である、NH−USY型ゼオライトである、NH−USY型ゼオライトである。このNH−USY型ゼオライトを焼成して用いれば、後述する実施例で実証されているように、炭化水素のクラッキングの反応速度を顕著に高めることができる。またこのNH−USY型ゼオライトは低コストで生産することができる。また上記酸強度は、これまでに研究されてきたゼオライト触媒には見られなかった特性である。
【0035】
上記「3620〜3640cm-1のスペクトル」は特に限定されないが、例えば3620、3625、3630、3635、または3640cm-1である。この値は、ここで例示した2つの値の範囲内であってもよい。上記「125kJ mol−1以上」は特に限定されないが、例えば125、130、135、140、150、または200kJ mol−1である。この値は、ここで例示したいずれか1つの値以上、またはいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
【0036】
この3620〜3640cm-1のスペクトルの酸点のピークは、スーパーケージの酸点のピークであってもよい。後述する実施例で実証されているように、スーパーケージの酸点の酸強度が125kJ mol−1以上であるNH−USY型ゼオライトを焼成して用いれば、炭化水素のクラッキングの反応速度を顕著に高めることができる。
【0037】
上記いずれかの実施形態に係るNH−USY型ゼオライトは、そのAl(アルミニウム)濃度が4.15mol kg−1以下であってもよい。この場合、酸量または酸強度の高いNH−USY型ゼオライトであると考えられる。この「4.15mol kg−1以下」は特に限定されず、例えば4.15、4.10、4.00、3.60、3.50、3.20、または3.00mol kg−1である。この値は、ここで例示したいずれか1つの値以下、またはいずれか2つの値の範囲内であってもよい。また0mol kg−1超である。
【0038】
上記いずれかの実施形態に係るNH−USY型ゼオライトは、27Al NMR測定をしたときに−5〜5ppmにおいて見られるピークの相対強度が、H−USYに比べて98%以下であってもよい。この場合、酸量または酸強度の高いNH−USY型ゼオライトであると考えられる。この「4.15mol kg−1以下」は特に限定されず、例えば4.15、4.10、4.00、3.60、3.50、3.20、または3.00%である。この値は、ここで例示したいずれか1つの値以下、またはいずれか2つの値の範囲内であってもよい。また0%超である。
【0039】
(2)NH−USY型ゼオライトの生産方法
他の実施形態は、H−USY型ゼオライトを硝酸アンモニウム水溶液でイオン交換する工程を含む、NH−USY型ゼオライトの生産方法である。この生産方法を適切に用いれば、上記(1)のいずれかの実施形態に係るNH−USY型ゼオライトと同様の効果を奏するNH−USY型ゼオライトを得ることができる。また、硝酸アンモニウム水溶液は比較的安価な材料であるため、この生産方法は低コストであるといえる。また、この生産方法では硝酸アンモニウム水溶液のpHを特に調整する必要がないため、簡便な方法といえる。
【0040】
上記イオン交換に用いる硝酸アンモニウム水溶液の濃度は特に限定されず、例えば0.1.0.3、0.47、2.0、2.3、4.0、6.0、7.5、9.0、10.0、または15.0Mの濃度の硝酸アンモニウム水溶液を使用してもよい。この値は、ここで例示したいずれか1つの値以上、またはいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この濃度が高いほど、炭化水素のクラッキング反応における触媒活性が高くなる傾向にある。
【0041】
上記イオン交換に用いる硝酸アンモニウム水溶液の水溶液量は特に限定されず、NH−USY型ゼオライト1gに対して、例えば10、20、30、60、100、または150mlである。上記イオン交換を行う時間は特に限定されず、例えば2、3、4、5、または10時間である。また上記イオン交換を行う温度は特に限定されず、例えば60、70、80、または90度である。また上記イオン交換を行う回数は特に限定されず、例えば1、2、3、4、5、または10回である。また上記イオン交換に用いる硝酸アンモニウム水溶液のpHは特に限定されず、例えば3.0、4.0、4.5、または5.0である。これら値は、ここで例示したいずれか1つの値以下、またはいずれか2つの値の範囲内であってもよい。これらの値が少ないほど、NH−USY型ゼオライトの生産工程が簡易になる傾向がある。
【0042】
上記H−USY型ゼオライトは、例えばNH−Y型ゼオライトを窒素ガスと水蒸気で処理を行うことによって生産することができる。この処理によって脱アルミが起こって強酸点が発生すると考えられる。この処理における温度、時間、水蒸気分圧は、いずれも特に限定されない。温度は、例えば748、773、823、848、または873K(ケルビン)である。時間は、例えば0.5、1.0、5.0、7.0、10.0、12.0、または20.0時間である。水蒸気分圧は、例えば1、5、10、18、20、30、40、または50%である。これらの値は、ここで示した値のいずれか1つの値以上、またはいずれか2つの値の範囲内であってもよい。これらの値が少ないほど、NH−USY型ゼオライトの生産工程が簡易になる傾向がある。
【0043】
上記NH−Y型ゼオライトは、例えばNa−Y型ゼオライトをNH4NO3でイオン交換することによって生産することができる。本明細書において「イオン交換」における温度、時間、回数はいずれも特に限定されない。温度は例えば50〜90℃を含む。時間は、例えば0.5〜20.0時間を含む。回数は、例えば1〜10回を含む。
【0044】
他の実施形態は、上記いずれかの生産方法で得られる、NH−USY型ゼオライトである。このNH−USY型ゼオライトは、上記(1)のいずれかの実施形態に係るNH−USY型ゼオライトと同様の効果を奏する。
【0045】
(3)ゼオライト触媒の生産方法
他の実施形態は、上記(1)または(2)のいずれかの実施形態に係るNH−USY型ゼオライトを焼成する工程を含む、ゼオライト触媒の生産方法である。この生産方法によれば、炭化水素のクラッキングの反応速度を顕著に高めることができるゼオライト触媒を得ることができる。また、この生産方法は低コストである。なお、上記の工程によってH−USY型ゼオライトが生産されており、このH−USY型ゼオライトがクラッキングを触媒していると考えられる。
【0046】
他の実施形態は、このゼオライト触媒の生産方法で得られる、ゼオライト触媒またはH−USY型ゼオライトである。このゼオライト触媒またはH−USY型ゼオライトは、後述する実施例で実証されているように、炭化水素のクラッキングの反応速度を顕著に高めることができる。
【0047】
ここで、上記「焼成」の温度は特に特に限定されず、例えば200、300、400、450、500、550、600、または700度である。この値は、ここで例示したいずれか1つの値以上、またはいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
【0048】
ここで、上記「焼成」の時間は特に特に限定されず、例えば0.5、1.0、2.0、5.0、または10時間である。この値は、ここで例示したいずれか1つの値以上、またはいずれか2つの値の範囲内であってもよい。上記の生産方法を工業的に利用する場合には、この時間は短いほうが生産性に優れているといえる。
【0049】
(4)ゼオライト触媒の用途
他の実施形態は、上記(3)の実施形態に係るゼオライト触媒を用いて炭化水素をクラッキングする工程を含む、ガソリン基材の生産方法である。この生産方法によれば、触媒活性の高いゼオライト触媒を用いているため、ガソリン基材を効率的に生産できる。また、低コストなゼオライト触媒を用いているため、ガソリン基材を低コストに生産できる。なおガソリン基材とは、一般に軽油留分または重質留分をFCC装置で分解したガソリン留分のうち軽質の部分をいう。
【0050】
他の実施形態は、上記(3)の実施形態に係るゼオライト触媒を用いて炭化水素をクラッキングする方法である。この生産方法によれば、触媒活性の高いゼオライト触媒を用いているため、炭化水素を効率的にクラッキングできる。また、低コストなゼオライト触媒を用いているため、低コストである。
【0051】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
<実施例1>
(1)各条件下におけるH−USY型ゼオライトの調製
Na−Y型ゼオライト(東ソー株式会社製、NSZ−320NAA)を80℃でNHNO(0.5mL/L)で3回イオン交換して、NH−Y型ゼオライトを得た。次に、得られたNH−Y型ゼオライトに対して、表1に示す温度および時間で、水蒸気分圧18%で水蒸気処理を行うことによって、4種類((a)、(b)、(c)、(d))のH−USY型ゼオライトを得た。水蒸気処理は、NH−Y型ゼオライトを石英管に収容し、マイクロフィーダー(注射器)で押し出した水を、リボンヒーターで加熱し、窒素と混合して希釈したものを全流速50ml/分で流通させることによって行った。
【0054】
【表1】

【0055】
(2)H−USY型ゼオライトの酸強度の評価
4種類のH−USY型ゼオライトについて、IRMS−TPD法でIR差スペクトルを調査した(図3)。図3から骨格外Al種よる誘起効果によって強められた酸性OH基(強酸点)のピーク(3598cm−1)は、(c)で最も大きくなっていることが分かった。また、水蒸気処理を行っていない(a)のスペクトルでは、強酸点のピークが実質的に観測されないことから、強酸点のピークは、水蒸気処理によって発現することが分かった。さらに、873Kで水蒸気処理を行った(d)のスペクトルでは、(c)よりも強酸点のピークが小さいことが分かった。これは、水蒸気処理の温度が高すぎると、強酸点のピークが小さくなることを示している。
【0056】
<実施例2>
(1)NH4-Y型ゼオライトの調製
Na-Y型ゼオライト(東ソー HSZ-320NAA、 SiO2/Al2O3=5.5)とAlの10倍量のNH4NO3を三角フラスコに加え、70℃、4 hイオン交換し、これを洗浄・濾過した。このイオン交換の操作を全部で3回行い、乾燥させNH4-Y型ゼオライトを調製した。
【0057】
(2)NH4-Y型ゼオライトの水蒸気処理(スチーミング)
石英反応管に上記で調製したNH4-Y型ゼオライトを約5 g詰め、反応管に熱電対を固定した。反応管入口にリボンヒーターをまき付け加熱した。水蒸気濃度の異なる窒素ガスと水蒸気の混合ガス(全流量50 ml/min)を流し、電気炉の加熱を始め設定温度になったときを水蒸気処理の開始した (昇温速度:5 K/min、水蒸気処理時間:10 h、水蒸気処理温度:823K、水蒸気分圧:18%) 。設定温度になってから1時間経過後、電気炉の電源を切り温度を下げた。反応管の温度が200℃になった時点で水蒸気導入をやめ、100℃以下になるまで窒素ガスは流し続けた。スチーミングの概念図を図4に示す。
【0058】
(3)NH4-USY型ゼオライトの調製(0.47 Mの硝酸アンモニウム水溶液を用いる場合)
スチーミングすることにより調製したUSY型ゼオライトと、そのUSY型ゼオライト 1 gに対して100 mlの硝酸アンモニウム水溶液(0.47 M)を三角フラスコに加え、80℃、4 hイオン交換し、これを洗浄・濾過した。このイオン交換の操作を全部で3回行い、乾燥させNH4-USY型ゼオライトを調製した。
【0059】
(4)NH4-USY型ゼオライトの調製(2.3 Mの硝酸アンモニウム水溶液を用いる場合)
スチーミングすることにより調製したUSY型ゼオライトと、そのUSY型ゼオライト 1 gに対して20 mlの硝酸アンモニウム水溶液(2.3 M)を三角フラスコに加え、80℃、4 hイオン交換し、これを洗浄・濾過した。このイオン交換の操作を全部で3回行い、乾燥させNH4-USY型ゼオライトを調製した。
【0060】
(5)NH4-USY型ゼオライトの調製(7.5 Mの硝酸アンモニウム水溶液を用いる場合)
スチーミングすることにより調製したUSY型ゼオライトと、そのUSY型ゼオライト 1 gに対して20 mlの硝酸アンモニウム水溶液(7.5 M)を三角フラスコに加え、80℃、4 hイオン交換し、これを洗浄・濾過した。このイオン交換の操作を全部で3回行い、乾燥させNH4-USY型ゼオライトを調製した。
【0061】
(6)NH4-USY型ゼオライトの調製(気相中でアンモニアを吸着させる場合)
スチーミングすることにより調製したUSY型ゼオライトを室温で真空まで引いた。真空に引いたまま、電気炉の温度を200℃まで上げてUSY型ゼオライト中の水を脱離させた。そのまま室温に冷却し、内部の圧力が100 TorrになるようにNH3を系内に導入した。30分程度経過後、NH4-USY型ゼオライトを取り出した。
【0062】
(7)H-USY型ゼオライトのシュウ酸処理(pH1.0、0.36M)
脱イオン水 50 mlにシュウ酸二水和物2.25 gを加え撹拌した。この溶液にスチーミングすることにより調製したUSY型ゼオライト 0.5 gを加えた。80℃に加熱し4 h処理を行い、その後洗浄・濾過した。このシュウ酸水溶液を用いての処理を全部で3回行った。
【0063】
(8)H-USY型ゼオライトのシュウ酸処理(pH4.5)
スチーミングすることにより調製したUSY型ゼオライトと、USY型ゼオライト 1gに対して100mlの脱イオン水を三角フラスコに加えた。この水溶液のpHを0.5 Mのシュウ酸水溶液で4.5に調節した。80℃に加熱し4 h処理を行い、その後洗浄・濾過した。このシュウ酸水溶液を用いての処理を全部で3回行った。
【0064】
(9)表記について
各条件で調製したUSY型ゼオライトは以後以下のように表記する。
調製直後(H): USY-未処理
0.5 Mの硝酸アンモニウム水溶液処理: USY-0.5M
2.3 Mの硝酸アンモニウム水溶液処理: USY-2.3M
7.5 Mの硝酸アンモニウム水溶液処理: USY-7.5M
気相中でNH3吸着: USY-NH3ads
pH1.0でのシュウ酸水溶液処理:シュウ酸処理USY(pH1.0)
pH4.5でのシュウ酸水溶液処理:シュウ酸処理USY(pH4.5)
【0065】
<実施例3>
(1)窒素吸着測定
以下の条件で測定を行った。
装置:BELSORP MAX
前処理:真空中、300℃、1 h
サンプル量:約30 mg
【0066】
(2)ICP測定(固体サンプルの測定)
USY型ゼオライト 25 mgをテフロンビーカーにはかり取った。濃硫酸2.5 mlを加え、さらにHFを2.5 ml加えた。ホットプレート上で蒸発乾固した。脱イオン水を30 ml加え、濃硫酸2 ml加えた。さらにホットプレート上で加熱した。測定される[Al]が5 ppm前後になるように希釈し、ICP測定を行った。
【0067】
(3)ICP測定(硝酸アンモニウム水溶液処理後のろ液の分析)
硝酸アンモニウム水溶液処理後の溶液を濾過した。ろ液をアルミニウム濃度が5 ppm前後になるように希釈し、ICP測定を行った。
【0068】
(4)29Si NMR測定
以下の条件で測定を行った。
装置:JNM-ECP300
x-pulse:5 s、積算回数:10000
【0069】
(5)27Al NMR測定
以下の条件で測定を行った。
装置:JNM-ECP300
x-pulse:2 s、積算回数:20000
【0070】
(6)XRD測定
以下の条件で測定を行った。
装置:Rigaku Ultima IV
測定条件:40 kV/40 mA、2q= 4〜50°、ステップ0.01、スキャン速度4°/min
【0071】
(7)IRMS−TPD測定
以下の条件で測定を行った。
He流速:120 ml/min、圧力:25 Torr、サンプル重量:約5 mg、前処理:真空中500℃ 1 h、
アンモニア導入:100℃ 100 Torr 30 min、積算回数:4回、分解能:4 cm-1
この方法に用いた装置を図5に示す。試料ディスクをin-situ IRセルにセットし真空下 773Kで1h前処理後、アンモニア吸着前後にHe流中373K−773Kまで10K毎にIR 測定を行った。アンモニア吸着後の測定では直結したMSで脱離したアンモニアを定量した。
【0072】
(8)オクタンクラッキング反応
以下の条件で測定を行った。クラッキング反応に用いるゼオライト触媒の生産手順を図6に示す。
触媒量:5.0 mg (DRY)
前処理:500℃、1 h
反応温度:500℃
窒素流速:40 ml/min
オクタン分圧:14 Torr (25℃の水の入ったデュワー瓶を用いた。)
【0073】
<結果と考察>
(1)窒素吸着測定結果
図7(a)〜(e)に各NH4NO3-USYの窒素吸着等温線を示し、図8に比較したものを示した。また表2に表面積とミクロ細孔容積をまとめた。USY-NH3adsはわずかに表面積が低いが、硝酸アンモニウム水溶液で処理したものはすべてのサンプルがほぼ同じ表面積であった。硝酸アンモニウムによる変化はあまりなく、メソ細孔の形成も確認できなかった。
【0074】
【表2】

(1)硝酸アンモニウム水溶液処理USYのICP測定結果
硝酸アンモニウム水溶液処理USYのアルミニウム濃度をICP測定で決定し、Si/Al2を算出した。未処理のUSYのAl濃度を測定した。硝酸アンモニウム水溶液処理USYのAl濃度は、処理後水溶液に溶出しているAl濃度を測定し、計算することでSi/Al2を算出した。その結果を表3と図9にまとめた。
【0075】
【表3】

【0076】
スチーミング処理のみを行ったサンプルのSi/Al2はスチーミング処理前(NH4-Y)のSi/Al2とほぼ同じであった硝酸アンモニウム水溶液で処理を行うことで、Al濃度は徐々に減少した。より高濃度の硝酸アンモニウム水溶液で処理することで、より多くのアルミニウムが溶出することが分かった。
【0077】
(3)硝酸アンモニウム水溶液処理USYの29Si NMR、27Al NMR測定結果
図10に29Si NMR測定結果を示した。各サンプルに、-106 ppm付近にQ4(Si(0Al))、-102 ppm付近にQ3(Si(1Al))、-96 ppm付近にQ2(Si(2Al))、-90 ppm付近にQ1(Si(3Al))に帰属されるシグナルが観測された。スチーミング処理することで、-96 ppm付近のシグナルが大きく減少し、-106 ppm付近のシグナルが大きく増加した。また、硝酸アンモニウム水溶液で処理を行ってもスペクトルに大きな変化は見られなかった。
【0078】
図11に27Al NMR測定結果を示した。各サンプルに、60 ppm付近に四配位Al種、0 ppm付近に六配位Al種に帰属されるシグナルが観測された。スチーミング処理前のNH4-Yではほぼ四配位Al種のみ観測された。スチーミング処理することで四配位Al種のシグナルが減少し、六配位Al種のシグナルが増大した(USY-未処理)。さらに、硝酸アンモニウム水溶液で処理を行うことで六配位Al種が減少し、高濃度の硝酸アンモニウムで処理をおこなったほうがより六配位Al種が減少した。これは、ICPの結果からAl種の一部が溶出していることが分かっているので、硝酸アンモニウム水溶液処理を行うことで六配位Al種が溶出し0 ppmのシグナルが減少したと考えられる。
【0079】
(4)XRD測定結果
図12にXRD測定結果を示した。スチーミングすることですべての回折ピーク強度の低下がみられた。しかし、NH4型とする方法の違いによる回折強度の違いはほとんど見られなかった。また、シュウ酸処理(pH4.5)USYのXRDパターンは、硝酸アンモニウムで処理したUSYとほぼ同じであり、FAU結晶構造を維持していると考えられる。シュウ酸処理(pH1.0)USYには鋭い回折ピークは見られず、結晶構造が維持されていないと考えられる。
【0080】
(5)オクタンクラッキング反応結果
図13に様々な処理条件で調製したNH4-USYをin-situ条件でH型としオクタンクラッキング反応に用いた結果を示した。また比較として、シュウ酸処理USYの反応結果を示した。USY-未焼成、USY-NH3adsのサンプルはオクタン転化率が1%以下であり低活性であった。硝酸アンモニウム水溶液(0.5 M)で処理したものは劇的に活性が向上した。さらに高濃度2.3 Mの硝酸アンモニウム水溶液で処理したものは活性が向上した。7.5 Mの硝酸アンモニウムで処理したUSYはより高活性であり、これはEDTA-USY(40%H2O、550℃、1 h、2NA-EDTA)より高活性であった。
【0081】
シュウ酸処理USY(pH4.5)のクラッキング初期活性は約10%でありUSY-0.5Mよりも、失活速度が速かった。シュウ酸処理USY(pH1.0)の転化率はほぼ0%であり低活性であった。
【0082】
(6)IRMS−TPD測定結果
各NH4NO3-USYと、シュウ酸処理USY(pH4.5)についてIRMS−TPD測定を行った。その結果を図14〜18に示す。図14〜18において、(a)は差スペクトル全体、(b)は差スペクトルOH領域拡大図、(c)は差スペクトル吸着種領域拡大図である。
またIRMS−TPD図の比較を図19に示す。図19はNH、NH、およびNH+NHのIR-TPDをフィッティングした図である。さらにIRMS−TPD(OH)図の比較を図20に示す。図20はNHのIR-TPDと各OHとをフィッティングした図である。これによりブレンステッド酸、ルイス酸について各OHそれぞれの量・強酸度ともに定量することができる。
【0083】
なお、USY-NH3adsはアンモニア吸着前後でOH領域のIRスペクトルが変化しなかったため、OHの波形分離は行わなかった。シュウ酸処理USY(pH4.5)についても、アンモニア吸着前後で酸性OH領域のスペクトルにあまり変化がなかったため解析は行っていない。
【0084】
OHを3630 cm-1付近のSuper cageに存在するO1HまたはO1’H、3598 cm-1の硝酸アンモニウム水溶液処理USY特有の強い酸点、3550 cm-1付近のSodalite cageに存在するO2H、3520 cm-1付近のHexagonal prismに存在するO3Hに分離した。これらについて、吸光係数の逆数に対応する係数の比はOHsuper:OHstrong:OHsodalite:OHhexagonal=1.0:2.7:0.38:0.38とした。また、スチーミング前のUSYの差スペクトルOH領域拡大図を図21(a)に、USY-0.5Mの差スペクトルOH領域拡大図を図21(b)示す。この図から3598 cm-1に硝酸アンモニウム水溶液処理USY特有の強い酸点があることがわかる。なお、スチーミング後のUSY-未処理の場合はきれいなスペクトルが得られず、酸点を観測できなかった。
【0085】
表4に各NH4NO3-USYのブレンステッド酸とルイス酸の酸量、表5に各USYの各OH量を示した。また表5にはEDTA-USYの各OH量も示している。全酸量は硝酸アンモニウム処理することで増加し、高濃度になるにつれ酸量が1.15 mol kg-1まで増加した。硝酸アンモニウム処理のUSYを比較すると、1326 cm-1の酸量はほぼ同じであるが、Bronsted酸量が硝酸アンモニウム濃度が高いほど増加した。酸性溶液中でAlの再挿入や、不純物(USYではない部分)の除去が起こっているのではないかと考えられる
【0086】
【表4】

【0087】
【表5】

【0088】
各NH4NO3-USYにおける各OHの強酸度の比較を表6に示す。また比較としてEDTA-USYにおける各OHの強酸度を示す。硫酸アンモニア処理を行うことで酸強度が増加していることがわかった。また各NH4NO3-USYとEDTA-USYとを比較すると、酸量はEDTA-USYの方が多く、酸強度は各NH4NO3-USYの方が強かった。このことから、NH4NO3-USYの触媒活性が高いのは酸強度が強いためと考えられる。
【0089】
【表6】

【0090】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IRMS−TPD法において3590〜3610cm−1のスペクトルに酸点のピークを有し、前記酸点の酸強度が140kJ mol−1以上である、NH−USY型ゼオライト。
【請求項2】
IRMS−TPD法において3620〜3640cm−1のスペクトルに酸点のピークを有し、前記酸点の酸強度が125kJ mol−1以上である、請求項1に記載のNH−USY型ゼオライト。
【請求項3】
前記IRMS−TPD法の測定条件が、He流速:120ml/min、圧力:25Torr、サンプル重量:5mg、アンモニア導入:100度 100Torr 30分、積算回数:4回、分解能:4cm−1、および前処理として真空中で500度1hの測定条件を含む、請求項1または2に記載のNH−USY型ゼオライト。
【請求項4】
Al濃度が4.15mol kg−1以下である、請求項1乃至3いずれかに記載のNH−USY型ゼオライト。
【請求項5】
IRMS−TPD法において3620〜3640cm−1のスペクトルに酸点のピークを有し、前記酸点の酸強度が125kJ mol−1以上である、NH−USY型ゼオライト。
【請求項6】
前記酸点が、スーパーケージの酸点である、請求項5に記載のNH−USY型ゼオライト。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれかに記載のNH−USY型ゼオライトを焼成する工程を含む、ゼオライト触媒の生産方法。
【請求項8】
請求項7に記載の生産方法で得られる、ゼオライト触媒。
【請求項9】
請求8に記載のゼオライト触媒を用いて炭化水素をクラッキングする工程を含む、ガソリン基材の生産方法。
【請求項10】
請求項8に記載のゼオライト触媒を用いて炭化水素をクラッキングする方法。
【請求項11】
H−USY型ゼオライトを硝酸アンモニウム水溶液でイオン交換する工程を含む、NH−USY型ゼオライトの生産方法。
【請求項12】
前記H−USY型ゼオライトが、NH−Y型ゼオライトを窒素ガスと水蒸気を用いて475〜600度でスチーミングすることで得られる、請求項11記載のNH−USY型ゼオライトの生産方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載の生産方法で得られる、NH−USY型ゼオライト。
【請求項14】
請求項13に記載のNH−USY型ゼオライトを焼成する工程を含む、ゼオライト触媒の生産方法。
【請求項15】
請求項14に記載の生産方法で得られる、ゼオライト触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−46376(P2012−46376A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190045(P2010−190045)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】