説明

ゼーベック効果(熱電材料)解析用電子顕微鏡試料ホルダ

【課題】本発明は、電子顕微鏡内で熱電効果を発生させ、それに伴う発生磁場を可視化することにより、ナノレベルの熱電材料組織と熱電特性を同時に評価できる装置およびそれを用いた熱電材料を観察する方法の提供を目的とする。
【解決手段】磁場解析が可能な透過型電子顕微鏡用の試料ホルダであって、in-situで熱傾斜をかけることができる試料ホルダ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼーベック効果(熱電材料)の性能評価のための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換材料は、熱エネルギーと電気エネルギーを相互に変換することができる材料であり、熱電冷却素子や熱電発電素子として利用される熱電変換素子を構成する材料である。この熱電変換材料はゼーベック効果を利用して熱電変換を行うものである。熱電材料は昨今のエネルギー問題の解決の一端を担う技術として期待されており、さらなる熱電特性の向上を目指した研究が続けられている。
【0003】
概して、熱電材料の性能は熱電変換性能によって評価されている。ここで、その熱電変換性能は、性能指数ZTと呼ばれる下式(1)で表される。
ZT=α2σT/κ (1)
(上式中、αはゼーベック係数を、σは電気伝導率を、κは熱伝導率を、そしてTは測定温度を示す)
【0004】
従って、ZT値を決めるためには、ゼーベック係数(α)、電気伝導率(σ)及び熱伝導度(κ)という三種類の物性値を測定する必要がある。しかしながらこれらの測定には手間と時間がかかる。この問題に対して、熱電変換性能の評価を効率よく短時間で行うために、サーモグラフィーを用いて簡易に熱電変換性能を評価する方法が開示されている。(特許文献1)
【0005】
また、熱電特性のうち電気的特性(ゼーベック係数、電気伝導度)と熱的特性(熱伝導度)は通常別々に評価されるため測定条件の同一性を確保できず、特に非常に類似した特性を有する半導体材料の熱電特性の大小を評価することは困難であった。この問題に対して、熱電材料に電流を流し、熱電材料部で発生または吸収されるペルチェ熱による温度上昇または温度低下をサーモグラフィーによって観察することにより、熱電材料の熱電特性(性能指数)の大小が温度分布として反映されて熱電材料の熱電特性(性能指数)の大小の判定を行う方法および装置が開示されている。(特許文献2)
【0006】
【特許文献1】特開2002−076447号公報
【特許文献2】特開2002−131260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のとおり、従来から熱電特性を評価するための様々な方法および装置が開発されている。それらの方法および装置はいうまでもなく熱電効果のさらなる向上を目的とするため、熱電効果による電流を評価することを主眼としている。この研究の流れからすれば、熱電効果を生じている際の、熱電材料組織の中を流れる電子移動の可視化が望まれるが、現実的に電子移動の可視化は困難である。
【0008】
また、実際の熱電材料組織には、結晶粒サイズ、結晶性等にばらつきが存在する。それらの構造因子と熱電特性の評価にあたっては、現在の熱電評価装置では、熱電特性を評価することは可能であるが、組織(構造因子)は別の装置(電子顕微鏡等)で確認せねばならず、統計的にデータを取得、整理しないと組織と熱電特性との関連は得られなかった。
【0009】
これらの問題に対して、本発明は、電子顕微鏡内で熱電効果を発生させ、それに伴う発生磁場を可視化することにより、ナノレベルの熱電材料組織と熱電特性を同時に評価できる装置およびそれを用いた熱電材料を観察する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明により、下記(1)〜(2)が提供される。
(1)磁場解析が可能な透過型電子顕微鏡用の試料ホルダであって、in-situで熱傾斜をかけることができる試料ホルダ。
(2)(1)に記載の試料ホルダに熱電材料を配置し、前記磁場解析が可能な透過型電子顕微鏡で該熱電材料を観察する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、電子顕微鏡内で熱電効果を発生させ、それに伴う発生磁場を可視化することにより、ナノレベルの熱電材料組織と熱電特性を同時に評価できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は透過型電子顕微鏡を使用する。電子顕微鏡とは、通常の光学顕微鏡のように観察対象へ光(可視光線)を当てて拡大する方式ではなく、電子(電子線)を当てて拡大する方式を取る顕微鏡のことである。電子顕微鏡には試料を透過した電子を電子レンズを用いて結像する透過型のほかに、試料表面で反射した電子を結像する反射型、集束電子線を試料表面上に走査して各走査点からの2次電子を用いて像を作る走査電子顕微鏡、加熱あるいはイオン照射によって試料から放出される電子を結像する表面放出型(電界イオン顕微鏡)などがある。本発明で使用する電子顕微鏡は、次に説明する磁場解析を可能にするため、透過型電子顕微鏡を採用する。電子顕微鏡の特徴の一つはその高い分解能にあり、これにより試料組織について、結晶粒サイズ、結晶質であるか非晶質であるか等の情報を子細に得ることが可能である。
【0013】
超伝導体における磁場解析の手法として、Bitter法、中性子線回折法、磁気光学的手法、走査トンネル顕微鏡法、電線干渉法もしくは電子線ホログラフィー法、Shadow顕微鏡法をはじめとする様々な観察法が知られている。以下で各観察方法について説明する。
【0014】
Bitter法は、超伝導体表面に磁性微粒子を吸着せしめるとき、それらが磁束量子等周辺に引き寄せられる性質を利用し、それらを磁束量子等のレプリカとして電子顕微鏡等で観察する手法である。この方法では、磁束格子など磁束の配列を微視的に観察することができるが、レプリカを必要とするために、磁束量子等を動的に観察することは難しい。また、磁束に対して定量性はなく、空間分解能も用いる磁性微粒子のサイズで制限される。
【0015】
中性子回折法は、磁束量子の持つ磁気モーメントが中性子線を散乱する事を利用し、磁束格子からの回折を観察する手法である。超伝導体内部での磁束量子等の振舞も観察できる。しかし、回折法であることから、この観察法の適用は磁束格子などの磁束量子等の配列に周期性が存在する場合に限られる。また、観察される磁束分布等は、中性子線照射範囲に含まれる多数の磁束量子等にわたって平均された値であり、個々の磁束量子について、各々を観察することはできない。
【0016】
磁気光学的手法は、磁束量子等から超電導体表面に漏れだす磁場のファラデー効果によって、ここに入射する偏向光が旋光する様子を、超電導体表面に蒸着した薄い磁気光学膜を用いて観察する方法である。ストロボ観察法を併用することで、ナノ秒オーダーの高速現象を観察することも可能であるが、単一磁束量子一本一本を観察できるほど、磁場に対する感度は高くはない。また、空間分解能は用いる磁気光学膜の膜厚に制限される。
【0017】
走査トンネル顕微鏡法は、単一磁束量子を含む超伝導渦糸の存在によって、それらの近傍で変化する超伝導体の電子状態を観察する手法である。オングストロームオーダーの高い分解能で、個々の渦糸の詳細を観察することが可能であるが、一観察領域当たりの走査に数秒から数分の時間を要するため、この手法を用いて渦糸の運動を動的に追うことは困難である。また、この手法で直接観察されるのは、磁束ではなく、電子状態である。
【0018】
Shadow電子顕微鏡法は、不正焦点電子顕微鏡法の一つで、超伝導体表面水平に電子線を入射し、その影を投影し観察する。超過焦点もしくは不足焦点条件においては、超伝導体表面に漏れ出る磁束量子等によって電子線が偏向される結果、投影像の超伝導体エッジがモジュレーションを起こす。Shadow電子顕微鏡法は、このモジュレーションを用いて、磁束量子等の観察を行なう。磁束の運動に対する応答性が高く、動的観察にも適当であるが、磁束に対する定量性がなく、観察されるモジュレーションと磁束との対応も明瞭ではない。また、超伝導表面水平方向に投影して観察しているため、奥行き方向に対する磁束の分布を知ることが困難である。超伝導体内部の様子を観察することもできない。
【0019】
電子線干渉法ならびに、電子線ホログラフィー法は、磁束量子等がAharonov-Bohm効果にしたがって、これに入射もしくは近傍を通過する電子線に生じる位相変化を利用し、磁束量子を観察する手法である。前者はこれを電子線干渉縞の変位として、後者はホログラフィー法によって検出する。単一磁束量子2×1/107 gauss・cm2を個々に検出できる十分な感度を持ち、10nm程度の空間分解能を持つ観察装置が開発されている。電子線ホログラフィー法においては、単一磁束量子における詳細な磁場分布をも、定量的に測定することができる。また、磁束量子等の運動に対する応答も即時的であり、動的観察に適当な手法である。
【0020】
上記の観察方法は、超伝導材料に限られず、熱電材料をはじめとする他の材料にも適用してもよい。本発明では、電子顕微鏡による材料組織の観察と同時に磁場解析を行うこと、磁場に対する感度が高いこと、等の観点から、上記の手法のうち電子線干渉法および電子線ホログラフィー法を使用するのが好ましい。
【0021】
図1を用いて、本発明による観察法の概要を説明する。透過型電子顕微鏡による電子線(1)を熱電サンプル(2)に発する。透過型電子顕微鏡の機能により、試料透過像(5)を得る。同時に熱電サンプル(2)は一端の温度をT1、他端の温度をT2に維持しており、すなわち熱電サンプル(2)は熱傾斜を受けている状態にある。ここでT1>T2とする。この熱傾斜により、熱電サンプル(2)には電流i0(4)が生じる。電流i0の発生に伴い磁場(3)も生じる。電子線(1)はこの磁場(3)による位相変化を生じる。この電子線の位相変化を利用して、前述のホログラフィー法によって可視化された磁束線(6)が観察可能である。
【0022】
本発明では、in-situで熱傾斜をかけることができる電子顕微鏡用試料ホルダを使用する。図2にその概要を示す。
【0023】
透過型電子顕微鏡用試料(11)は、試料保持部とホルダ先端部で挟まれている。試料保持部は熱電対(12)とヒーター(13)を備えており、同様にホルダ先端部は熱電対(14)とヒーター(14)を備えている。これにより試料保持部を温度T1とし、ホルダ先端部を温度T2に制御する。ここでT1>T2であり、これにより透過型電子顕微鏡用試料(11)にin-situで所望の熱傾斜をかけることが可能である。
【0024】
該ホルダは、ヒーター(13、15)どうしが干渉をしないように、ヒーター(13、15)を取り囲むように、冷却水(17、18)の流れるヒーター熱源緩衝部(16)を有する。これにより透過型電子顕微鏡用試料(11)の温度がさらに精緻に制御される。
【0025】
また、該ホルダは、試料スライド用調整ネジ(19)および試料保持部スライド用レール(20)を備える。これにより熱負荷による試料(11)の伸縮に対応可能である。
【0026】
上記の試料ホルダに熱電材料を配置し、前記磁場解析が可能な透過型電子顕微鏡で該熱電材料を観察することができる。これにより試料透過像と、熱傾斜により発生する電流より生じた磁場の磁束線とを可視化され、熱電材料設計コンセプト(結晶粒サイズ、結晶質であるか非晶質であるか等と熱電効果)の是非が判断可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による熱電材料の評価する方法の概略を示す。
【図2】本発明による熱電材料測定用試料ホルダの概略を示す。
【符号の説明】
【0028】
1 電子線
2 熱電サンプル
3 電流により発生する磁場
4 熱傾斜に伴う電流発生i0
5 試料透過像
6 可視化された磁束線
7 透過型電子顕微鏡内(ホログラフィー機能)
11 透過型電子顕微鏡用試料
12 熱電対(1)
13 ヒーター(T1)
14 熱電対(2)
15 ヒーター(T2)
16 ヒーター熱源緩衝部(温度一定)
17 冷却水(入)
18 冷却水(出)
19 試料スライド用調整ネジ
20 試料保持部スライド用レール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場解析が可能な透過型電子顕微鏡用の試料ホルダであって、in-situで熱傾斜をかけることができる試料ホルダ。
【請求項2】
請求項1に記載の試料ホルダに熱電材料を配置し、前記磁場解析が可能な透過型電子顕微鏡で該熱電材料を観察する方法。

【図1】
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【図2】
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