説明

ソイルセメント柱の構築装置と構築方法

【課題】凝固材を設計量の100%、地中に残すことができる装置と方法を提供する。
【解決手段】先端に凝固材注入口16を備えた掘削軸1と、掘削軸1先端の掘削翼13と、前記掘削翼13の上方に配置した攪拌翼14、拡大押しのけローラー17・17、及びその上の攪拌翼15から成る。拡大押しのけローラー17は、その中心のケーシング18に、掘削軸1と、その周囲に接する遊星ローラー19を有している。遊星ローラー19によって、拡大押しのけローラー17が掘削軸1に対して偏心して、原土を外周方向へ押しのける。凝固材22を押しのけた分とすることで、地表に溢れるようなことがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソイルセメント柱を構築する装置と、その構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、図6に示すように、オーガー掘削機bに取り付けたリーダーcに沿って上下動するオーガー軸aの回転で螺旋翼、オーガー軸aを地中に侵入させ、侵入させながらセメントミルクなどの凝固材を注入していく、或いは、掘削後に、オーガー軸aを回転させて一定の距離引き上げつつ、凝固材を地盤内に圧入してソイルセメント柱を構築する方法が知られている。
【特許文献1】特開平7−138937号公報。
【特許文献2】特開平11−131469号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記した従来のソイルセメント柱の構築方法にあっては、次のような問題点がある。
<a> ソイルセメント柱は、オーガー軸aの先端から凝固材を加圧して吐出し、土と攪拌して地中に形成される。その際に凝固材は加圧状態にあるから、この凝固材がオーガー軸aに沿って地上まで上昇し、地上に吹き出してしまう現象を避けられなかった。
つまりは、凝固材(セメントミルク)注入体積分、おおよそ改良体積の約25〜18%ほど注入するので、その分、地上にミルク混じりの土が盛り上がって残土となるものである。
<b> こうして地上に吹き出した凝固材の混じった残土は図6に示すように地表面に残土の山dとなって盛り上がる。この残土の山dは改良に使われずに無駄になるだけでなく、ダンプトラック数台分の廃棄物となり、積み込みの手数と投棄のための費用が発生するという不経済なものであった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明にかかるソイルセメント柱の構築装置は、
掘削軸は下端部に凝固材注入口と掘削翼とを備え、
前記掘削軸の下端部の凝固注入口と掘削翼より上に位置する拡大押しのけローラーは、
該掘削軸の外周面に一部が接する遊星ローラーと掘削軸とを、中心部の円筒状空隙であるケーシング内に収納しているものである。
本発明にかかる他のソイルセメント柱の構築装置は、
拡大押しのけローラーは、掘削軸外周の上下に複数個取付けられ、
各拡大押しのけローラーのケーシングに収納した上下の遊星ローラーは、それら中心軸が一直線上に位置していないことを特徴とするものである。
また、本発明にかかるソイルセメントの構築方法は、
掘削軸の回転によって、下端部に位置する掘削翼を回転させて掘削軸を地中に侵入させるとともに、凝固材注入口から凝固材を注入し、
前記掘削翼よりも上方に位置し、掘削軸の外周面に一部が接する遊星ローラーと、前記掘削軸とを、中心部の円筒状空隙であるケーシングに収納した拡大押しのけローラーを、遊星ローラーによって掘削軸に対して偏心して外周方向へ張り出させ、
拡大押しのけローラーの偏心によって、掘削していない原土を外周側へ押しのけて、
押しのけた分、凝固材を注入し、
凝固材混じりの土を地表にオーバーフローさせないようにするものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明のソイルセメント柱の構築装置と構築方法は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<a> 掘削していない堅い土砂を、拡大押しのけローラーによって外周方向に押しのけるもので、ソイルセメント柱を大径にするとともに、凝固材混じりの土を大口径の改良柱にする。
<b> このように凝固材は高い圧力で加圧されていないから、掘削軸を伝わって地上へ吐出してしまうことがなく、設計量通りの全量の凝固材を地中に注入することができる。
<c> このように凝固材は地表へ溢れないから、凝固材を100%活用でき産業廃棄物も発生せず、土の体積に対する凝固材の比率が高くなり、強固なソイルセメント柱を構築することができる。
<d> 凝固材は地表へ溢れず地表に凝固材混じりの残土の山が形成されることがないから、その積み込み、搬出の手間が不要であり、廃棄物を廃棄する費用も発生せず、経済的な施工が可能である。
<e> 凝固材が地表へ上昇してこないから、地表面が泥水で汚れることがなく、整然とした、良好な環境の現場を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、図面を参照にしながら本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例1】
【0007】
<1>装置全体の構成
本発明の装置は、回転軸となる掘削軸1と、掘削軸1に回転を与えるモーターと、掘削軸1の下端に取付けたビットを備えた掘削翼13、掘削翼13の上方に取付けられた攪拌翼14、攪拌翼14の上に取付けられた拡大押しのけローラー17・17、拡大押しのけローラー17・17の上方に取付けられた攪拌翼15、掘削軸1の内部に配置した凝固材注入路の開口部である掘削軸1の下端の注入口16より構成する。
掘削軸1は公知の掘削機のリーダーに平行に取り付けてある。
ソイルセメント柱を地中に構築する場合には、モーター11の回転によって掘削軸1を回転し、凝固材22を注入しながら下端に配置された掘削翼13によって地盤を掘削し、下端部の攪拌翼14・15の攪拌によって掘削軸1を地中に侵入させる構造である。
掘削孔21を掘削回転しながら、掘削軸1の先端付近から凝固材22を注入口16から地中に吐出する。
【0008】
<2>拡大押しのけローラー
下端部の攪拌翼14・15の間に、掘削軸1の外周を回転する拡大押しのけローラー17が取り付けてある。
拡大押しのけローラー17は車輪状であって、中心部に円筒状空隙であるケーシング18を有しており、そのケーシング18の中に、掘削軸1と、ふたつの円盤を軸で連結したような二輪状の遊星ローラー19とが収納されている。
遊星ローラー19は、その外周面の一部が掘削軸1の外周面と接しており、掘削軸1の回転に伴って回転する。
遊星ローラー19が、掘削軸1の周りを回転すると、その外周の拡大押しのけローラー17は、遊星ローラー19の直径分偏心して、掘削軸1の周りを回転することになる。
拡大押しのけローラー19によって外周方向へ張り出て回転する直径D2は、その下に位置する掘削翼13の回転直径D1よりも大きい。
実施例では、直径D1は530mmであり、直径D2は600mmである。
拡大押しのけローラー17の押しのけ回転直径D2と、その上の攪拌翼15の回転直径D3は、ほぼ同じである。
遊星ローラー19の上下には、押え板20a・20bが配してあって、遊星ローラー19と一体となって、掘削軸1の周りを回転可能である。
拡大押しのけローラー17のケーシング18は、押さえ板20a・20bとは溶接固定されておらず、遊星ローラー19が掘削軸1の周りを公転していても、遊星ローラー19や押え板20a・20bとは一緒に回転せず、拡大押しのけローラー17は極めて少しづつしか回転しない。
遊星ローラー19が掘削軸1の周囲を1回転する間に、拡大押しのけローラー17は、拡大した掘削孔21の周長と、拡大押しのけローラー17の周長の差だけ回転するだけである。
回転よりもむしろ重要なことは、遊星ローラー19が掘削軸1の回転に接して掘削軸1を中心として公転するもので、掘削軸1とケーシング18との間に挟まって、拡大押しのけローラー17を偏心させて外周方向に張り出し、大きなトルクで、掘削していない原土を外周方向へ押しのけることである。
実施例では、拡大押しのけローラー17は、上下二段に配置され、それぞれのケーシング18・18内に配置された遊星ローラー19・19は、その上下方向の中心軸が一直線上に位置していない。
実施例では、上下の遊星ローラー19・19が、中心軸である掘削軸1を間にして、左右反対側に位置している。
上下ふたつの拡大押しのけローラー17・17のうち、上方の拡大押しのけローラー17の下側の押え板20bと、下方の拡大押しのけローラー17の上側の押え板20aは、掘削軸1の外側に回転可能に挿嵌された中間パイプ23に、溶接によって固定されている。
従って、上方の拡大押しのけローラー17の遊星ローラー19と、下方の拡大押しのけローラー17の遊星ローラー19は、常に掘削軸1に対して、左右反対側に位置して、バランスがとれるようになっている。
上方の拡大押しのけローラー17の上方の押え板20aの更に上と、下方の拡大押しのけローラー17の下側の押え板20bの更に下には、それぞれ押えリング24・24が溶接によって掘削軸1外周に固定され、拡大押しのけローラー17・17の掘削軸1に対する高さの位置決めがなされている。
拡大押しのけローラー17を三つ採用した場合は、各拡大押しのけローラー17が三方にバランスよく偏心するように、遊星ローラー19が掘削軸1に対して120度づつ角度がズレるようにすればよい。
拡大押しのけローラー17を、4つ、5つと増やす場合は、それぞれ90度、72度と角度がズレるようにすればよく、それ以上の場合もこれらに準ずる。
要するに、上下の拡大押しのけローラー17の遊星ローラー19が、上下に一直線上に位置しないで、そのバランスを取るように位置することが重要である。
【0009】
<3>施工方法
次に上記で説明した装置を用いてソイルセメント柱を形成する方法について説明する。
【0010】
<4>掘削軸1の侵入
掘削軸1をモーター11で回転させ、掘削軸1の回転で下端の掘削翼13を回転させて、それに取付けられているビットによって地盤を掘削して、地中に侵入させる。
【0011】
<5>凝固材の注入
掘削翼13による掘削と同時に、掘削軸1の先端から凝固材22を、掘削孔21の中に注入する。
実施例では、凝固材22としてセメントミルクを使用している。
掘削した土砂と、凝固材22を攪拌翼13・14でかき混ぜ、攪拌する。
続いて拡大押しのけローラー17・17、上方の攪拌翼15を掘削地盤に進行する。
【0012】
<6>拡大押しのけローラーによる押しのけ
拡大押しのけローラー17は、オーガー軸1に対して偏心して回転するため、掘削翼13や下方の攪拌翼14よりも大きな直径D2の外周方向へ、掘削しない堅い原土を押しのけながら、進行していく。
つまりは、掘削しない原土を拡大押しのけローラー17・17によって外周方向へ押しのけ、より大きな径の掘削孔21を形成することになる。
原土砂を外側へ押しやった分、セメントミルクと攪拌された土が、大きな圧力をかける必要なく、掘削孔21の中に充填されることとなる。
本発明では、注入する凝固材(セメントミルク)22量を、拡大押しのけローラー17・17によって拡径しただけの、つまりは直径D2から直径D1を引いた体積分となるよう、予め計算で求めた量をするシステムを採用している。
従って、注入量が、拡大押しのけローラー17・17によって拡径した体積と同じだけであるから、従来のように凝固材22と掘削土が混ざった土砂が掘削軸1を伝わって地表面にあふれ出したり、軟弱な地層を伝って予定外の方向へ侵入したり、図6に示すような凝固材22の混合した残土の山が盛り上がるというようなことが生じない。
特に、掘削軸1周辺の地表へ盛り上がった土砂の廃棄量の多さが問題となっている現在、そのような現象が生じない本発明の経済的効果は大きい。
【0013】
<7>凝固材の攪拌
上方の攪拌翼15によって、凝固材22と掘削土が混ざった土砂を更に攪拌して、掘削孔の中に凝固材22と掘削土が均一に分散し、それらが硬化することでソイルセメント柱が形成される。
【0014】
<8>掘削軸の引き抜き
予定の掘削が終了したら、掘削軸1を掘削孔21から引き抜く。
引き抜きには、通常、掘削とは反対方向に回転しながら引き抜く。
このとき、引き抜きながら凝固材22を注入口16から注入しながら引き抜くこともある。
【実施例2】
【0015】
<9>その他
以上の実施例では、外周縁が円形の遊星ローラー19を使用したが、ローラー19の代わりに、ボール状の鋼玉を使用することも可能である。
また、図5に示すように、遊星ローラーに代え、遊星歯車26を使用し、掘削軸1の外周に形成した歯車27と、ケーシング18の内側に形成した内歯歯車28とをそれぞれ噛み合わせて、掘削軸1の回転を、遊星歯車26を介して拡大押しのけローラー17に伝えるようにしてもよい。
【実施例3】
【0016】
<10>攪拌翼
以上の実施例では、二枚の攪拌翼14・15を取付けたが、攪拌翼の取付け位置は図の実施例にこだわらず、任意の位置に取付けることが出来る。
例えば、上下の拡大押しのけローラー17と17との間にも、攪拌翼を別に設けることも可能である。
この場合、攪拌翼回転する直径は、拡大押しのけローラー17が拡径する径と同じ(実施例では600mm)長さを有するようにする。
攪拌翼は、掘削軸1の回転によって回転する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のソイルセメント柱の構築装置の実施例の側面図
【図2】装置の要部の側面図
【図3】装置の要部の斜視図
【図4】装置の要部の横断面図
【図5】他の実施例の平面図
【図6】従来のソイルセメント柱の構築状態の説明図
【符号の説明】
【0018】
1:オーガー軸
12:螺旋翼
13:掘削翼
14:攪拌翼
15:攪拌翼
16:注入口
17:拡大押しのけローラー
18:遊嵌部
19:遊星ローラー
20:押え板
21:掘削孔
22:凝固材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削軸は下端部に凝固材注入口と掘削翼とを備え、
前記掘削軸の下端部の凝固注入口と掘削翼より上に位置する拡大押しのけローラーは、
該掘削軸の外周面に一部が接する遊星ローラーと掘削軸とを、中心部の円筒状空隙であるケーシング内に収納している
ソイルセメント柱の構築装置。
【請求項2】
拡大押しのけローラーは、掘削軸外周の上下に複数個取付けられ、
各拡大押しのけローラーのケーシングに収納した上下の遊星ローラーは、それら中心軸が一直線上に位置していないことを特徴とする
請求項1記載のソイルセメント柱の構築装置。
【請求項3】
掘削軸の回転によって、下端部に位置する掘削翼を回転させて掘削軸を地中に侵入させるとともに、凝固材注入口から凝固材を注入し、
前記掘削翼よりも上方に位置し、掘削軸の外周面に一部が接する遊星ローラーと、前記掘削軸とを、中心部の円筒状空隙であるケーシングに収納した拡大押しのけローラーを、遊星ローラーによって掘削軸に対して偏心して外周方向へ張り出させ、
拡大押しのけローラーの偏心によって、掘削していない原土を外周側へ押しのけて、
押しのけた分、凝固材を注入する
ソイルセメント柱の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−127241(P2009−127241A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301641(P2007−301641)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000199234)千代田ソイルテック株式会社 (16)
【Fターム(参考)】