説明

ソボクを用いたメラニン生成抑制剤

【課題】現行の美白剤よりも効果的な美白剤を提供する。
【解決手段】ソボク抽出物又はその処理物を含有するメラニン生成抑制剤、当該メラニン生成抑制剤を含有する美白剤、及びこれらの剤を含有する美白化粧料、並びに次式:
【化1】


で示される化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソボク抽出物又はその処理物を用いたメラニン生成抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
美白化粧料には、色素沈着の原因となるメラニン生成を抑制する成分として美白剤が配合されており、皮膚老化、皮膚病変(例えば皮膚癌)の防止にも有用なスキンケア製品となる。
【0003】
現行の美白剤としては、アルブチン及びコウジ酸が知られている。アルブチンは、コケモモや梨、ウワウルシなどの植物に含まれている天然型フェノール性配糖体であり、メラニン合成に関わるチロシナーゼに直接作用し、メラニンの合成を阻害するため、美白効果があるとして、化粧料等に使用されている。コウジ酸は、麹菌がグルコース等の糖を発酵させることによって生成されるものであり、メラノサイトに作用し、チロシナーゼの活性や合成を阻害し、メラニンの生成を抑制する活性を有する。
【0004】
一方、ソボク(蘇木)は、マメ科スオウ Caesalpinia sappan L.(蘇芳)の芯材(木部)を乾燥させたものであり、ポリフェノールを含み、このほかに、サポニン、精油、タンニンを含む。
【0005】
ソボクから単離されたポリフェノールとして、sappanchalcone(非特許文献1)、3’-deoxy-4-O-methylsappanol(非特許文献2)、brazilein(非特許文献3)、brazilin(非特許文献3)、sappanol(非特許文献4)、4-O-methylsappanol(非特許文献2)が知られている。
【0006】
特許文献1には、ソボクの水抽出物及び各種有機溶媒抽出物がアクネ菌に対して優れた抗菌力を示し、にきび予防化粧料の有効成分として有用であることが記載されている。特許文献2には、ソボク(スオウボク)抽出物及び該抽出物に含まれているbrazilein(ブラジレイン)、brazilin(ブラジリン)等の化合物がケラチン繊維の染色剤として有用であることが記載されている。
【0007】
しかしながら、ソボク抽出物及びソボク成分とメラニン生成との関係について報告されたことはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−172152号公報(請求項2、表1、段落0039)
【特許文献2】特開2010−138176号公報(請求項1、5、7)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】永井正博他, 薬学雑誌, 104(9), 935-938 (1984)
【非特許文献2】M. Namikoshi et al., Chem. Pharm. Bull., 35(9), 3568-3575 (1987)
【非特許文献3】Dong Seon K. et al., Phytochemistory, 46(1), 177-178 (1997)
【非特許文献4】M. Namikoshi et al., Phytochemisty, 26(6), 1831-1833 (1987)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、現行の美白剤よりも効果的な美白剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、種々の植物抽出物のメラニン生成に与える影響を種々検討した結果、ソボク抽出物が現行の美白剤であるアルブチン及びコウジ酸よりも優れたメラニン産生阻害活性を示すことを見出すとともに、ソボク抽出物からメラニン産生阻害活性を有する7種の化合物を単離し、そのうちの1つ化合物が新規化合物であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)ソボク抽出物又はその処理物を含有するメラニン生成抑制剤。
(2)前記抽出物がソボクを低級アルコール類及び酢酸アルキルエステル類から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒で抽出して得られる抽出物である前記(1)に記載のメラニン生成抑制剤。
(3)前記処理物がソボクの低級アルコール類抽出物から得られた酢酸アルキルエステル類に可溶な画分である前記(1)に記載のメラニン生成抑制剤。
(4)ソボク抽出物又はその処理物が、sappanchalcone、3’-deoxy-4-O-methylsappanol、brazilein、brazilin、sappanol、4-O-methylsappanol、及び次式:
【化1】

で示される化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する前記(1)〜(3)のいずれかに記載のメラニン生成抑制剤。
(5)ソボク抽出物又はその処理物が、ブタノールよりも水に溶けやすい成分を含有しない前記(1)〜(4)のいずれかに記載のメラニン生成抑制剤。
(6)ソボク抽出物又はその処理物が、sappanchalconeを含有しない前記(1)〜(5)のいずれかに記載のメラニン生成抑制剤。
(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載のメラニン生成抑制剤を含有する美白剤。
(8)前記(1)〜(7)のいずれかに記載の剤を含有する美白化粧料。
(9)次式:
【化2】

で示される化合物。
(10)前記(9)に記載の化合物を含有するメラニン生成抑制剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、現行の美白剤であるアルブチン及びコウジ酸よりも優れたメラニン産生阻害活性を有するメラニン生成抑制剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1はソボクメタノール抽出物の分画工程の概略を示す図である。
【図2】図2は化合物A(1)の重アセトン中でのH−NMRスペクトルを示す図である。
【図3】図3は化合物A(1)の重アセトン中での13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図4】図4はメラニン産生制御蛋白(チロシナーゼ、TRP1 、DCT)をコードする各遺伝子の mRNA 発現量に対するソボクメタノール抽出物、化合物5と、美白剤アルブチン及びコウジ酸の影響をRT-PCRを用いて検討した結果を示す図である。
【図5】図5はチロシナーゼ酵素阻害活性試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ソボクの抽出に用いる抽出方法及び溶媒としては、ソボクからメラニン産生阻害活性成分を抽出できる限り特に制限はない。本明細書の実施例において、メラニン産生阻害活性を有することが確認されている7種の成分は、すべて低級アルコール類及び酢酸アルキルエステル類に可溶であることから、抽出溶媒としては、低級アルコール類及び酢酸アルキルエステル類から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒を用いることが好ましい。前記低級アルコール類としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール(n−ブタノール)、イソブタノールが挙げられ、前記酢酸アルキルエステル類としては、例えば酢酸エチル、酢酸メチルが挙げられる。また、抽出溶媒としてアセトンを用いてもよい。
【0016】
通常、ソボク1kg当り抽出溶媒0.5〜20Lを使用する。
抽出温度は、通常、溶媒の融点ないし溶媒の沸点の範囲内であり、好ましくは0℃〜溶媒の沸点、更に好ましくは5〜60℃である。超臨界抽出をしてもよい。また、抽出は、通常常圧下で行うが、加圧下又は減圧下で行ってもよい。抽出時間は、抽出温度等により異なり、通常5時間〜3日間の抽出を1〜7回行う。
【0017】
前記のようにして得られた抽出液を、布、ステンレスフィルター、濾紙等で濾過してソボク、不純物等を取り除くことで、目的の抽出液を得ることができる。また、濾過後の抽出液に、スプレードライ処理、フリーズドライ処理、超臨界処理等の処理を施してもよい。
【0018】
このようにして得られる抽出物は、そのまま本発明における有効成分として用いることができる。また、当該抽出物を更なる抽出、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、透析等の各種精製手段により処理し、更に活性を高めた処理物として用いてもよい。
【0019】
本明細書の実施例において、水可溶画分に強い細胞毒性が認められていることから、抽出溶媒としては、水、及び水と水混和性有機溶媒との混合溶媒は用いないことが好ましい。また、抽出溶媒としてメタノール等の低級アルコール類を用いて得られた抽出物を、酢酸エチル等の酢酸アルキルエステル類を用いて固液抽出、酢酸アルキルエステル類及び水を用いて液液抽出(分液)することにより、細胞毒性を有する水可溶成分を除去することができる。
【0020】
本明細書の実施例において、ヘキサン可溶画分はメラニン産生阻害活性を有しないことが確認されていることから、ヘキサンを用いて固液抽出、又はヘキサン−水を用いて液液抽出(分液)することにより、不活性成分を除去することができる。
【0021】
具体的には、メタノール抽出物をヘキサン、酢酸エチル、ブタノールと、水とで順に分液し、酢酸エチル可溶画分及びブタノール可溶画分のみを用いれば、ヘキサン可溶不活性成分及び細胞毒性を有する水可溶成分を除去することができる。
【0022】
また、本明細書の実施例においてメラニン産生阻害活性を有することが確認されている7種の成分のうち、sappanchalconeのみについて細胞毒性が認められている。Sappanchalconeは、メラニン産生阻害活性を有する画分を、溶出溶媒としてクロロホルム:メタノール→メタノールの濃度勾配でシリカゲルクロマトグラフィーにより分画すると、7種の活性成分のうち、最初に溶出する。したがって、これ以降のsappanchalconeを含まない画分を有効成分とすれば、細胞毒性を更に低減させることができる。
前記画分は、そのまま、又は更に精製して、有効成分として用いることができる。
【0023】
本発明のメラニン生成抑制剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品等に美白剤として配合することができる。特に、色素沈着を改善する美白化粧料に配合することが好適である。本発明のメラニン生成抑制剤は、外用組成物又は内服用組成物に配合できる。
【0024】
本発明のメラニン生成抑制剤の配合量は使用する形態によって異なり、一概にはいえないが、現行の美白剤であるアルブチン及びコウジ酸と同等又は低濃度でよく、通常0.05〜10質量%である。
【0025】
本発明の美白化粧料には、必要に応じて、通常、医薬品、医薬部外品、化粧品等の皮膚外用剤に配合される油脂、保湿剤、顔料、色素、界面活性剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、防腐剤、水溶性高分子、樹脂等を適宜配合することができる。また、本発明の美白化粧料は、軟膏、ローション、乳液、クリーム剤、パック剤、顆粒剤等の任意の剤形とすることができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
以下においては、特に断りのない限り、以下の原料、装置、試薬、条件及び操作により行った。
【0028】
原料
ソボク Caesalpinia sappan L. : 株式会社栃本天海堂提供
【0029】
装置
・旋光度 ([α]D) : Horiba SEPA-300 型旋光度計
・質量分析 (MS) スペクトル : JEOL JMS SX-102 型質量分析装置
・核磁気共鳴 (NMR) スペクトル : JEOL GSX-500 型核磁気共鳴装置、JEOL JNM-ECA600型核磁気共鳴装置、JEOL JNM-ECS400型核磁気共鳴装置
・円二色性 (CD) スペクトル : JASCO J-820 型円二色性分散計
・分光光度計 : 大日本住友製薬 Viento XS
・細胞用インキュベーター : Thermo ELECTRON HEPA CLASS100
・ライフサイエンス分光光度計 : SHIMAZU BioSpec-nano
・サーマルサイクラー : Eppendorf Mastercycler ep gradient S
・ルミノ・イメージアナライザー : 富士フィルム LAS-3000
・ゲル泳動槽 : 株式会社アドバンス Mupid α ミニゲル泳動槽
【0030】
クロマトグラフ
・高速液体クロマトグラフィー (HPLC) : Waters 2487 Dual λ Absorbance Detector ; Waters 600 Pump
・HPLC 用カラム : YMC-Packed Column D-SIL-10 S-10 120A SIL (YMC Co.,Ltd.)
DevelosilTM Packed Column ODS-HG-5 20 x 250 (NW) M5g (NOMURA CHEMICAL)
・カラムクロマトグラフィー用担体 : Silica gel 60N neutoral(63-210 mm, Kanto Chemical) , Cosmosil 75C18-OPN (nacalai tesque)
・薄層クロマトグラフィー (TLC) : Silica gel 60 F254(MERCK) , RP-18 F254S (MERCK)
【0031】
試薬及び細胞
・p-アニスアルデヒド : Wako
・FBS : Wako
・MTT : Nacalai Tesque
・PBS : TAKARA BIO
・PC/ST : GIBCO
・F-12 Ham : SIGMA
・SDS : Wako
・HMV-II細胞 : 大日本住友製薬
・melanin : SIGMA
・trypsin/EDTA : GIBCO
・tyrosinase from mushroom (1500 U/ mg) : CALZYME LABORATORIES
・L-DOPA : Nacalai Tesque
・forskolin : ALEXIS BIOCHEMICALS
・アルブチン : SIGMA
・コウジ酸 : Wako
・RNeasyTM mini kit : QIAGEN
・random primer : TAKARA BIO
・dNTP Mix : TAKARA BIO
・RNAseフリー精製水 (Distilled water DNAse, RNAse Free) : GIBCO
・First-Strand Buffer : Invitrogen
・DTT : Invitrogen
・RNAse OUT : Invitrogen
・SuperScript III RT : Invitrogen
・primer : operon
・UltrapureTM agarose 1000 : Invitrogen
・TBE buffer : Invitrogen
・ethidium bromide : Nacalai Tesque
・EX taq buffer : TAKARA BIO
・10 × EX tax buffer : TAKARA BIO
・10 × blue juice : Invitrogen
【0032】
試薬調製及び細胞培養
・アニスアルデヒド試薬 : p-アニスアルデヒド 10 ml をエタノール 330 ml に溶解し、酢酸 3 ml 及び硫酸 12 ml を加え、調製した。
・基礎培地 : F-12 Ham 445 ml に FBS 50 ml、PC/ST 5ml を加え、調製した。4℃で保存。
・FBS 溶液 : FBS (放射線滅菌済み) を 56℃、30 分間の条件で非動化した後、10 ml ずつ分注して使用した。冷凍 (−20℃) 保存。
・MTT 溶液 : MTT を 5 w/v% になるように PBS に溶解して濾過滅菌して調製した。4℃ で保存。
・PBS 溶液 : PBS tablet (100 mg/tablet) 10 錠をミリQ水 1 L に溶解して、オートクレーブ滅菌 (121℃、15分) して使用した。4℃で保存。
・SDS-DMF溶液 : まず20 w/v% の濃度になるように SDS を 0.01 N HCl 水溶液で溶解し、次に調製した 20 w/v% SDS / 0.01 N HCl 溶液とDMF を 1 : 1 の割合で混和し、10 w/v% の濃度に調製した。
・HMV-II 細胞 : 基礎培地を用い、37℃、5% CO2 存在下にて培養した。
・PMA 溶液 : PMA を 100 μg/ml となるように エタノール に溶解し、-20℃で冷凍保存したものを、用時基礎培地で 1 μg/ml となるように希釈し、使用した。
・Forskolin溶液 : Forskolinを1000 μg/mlになるようにDMSOに溶解し、4℃で保存したものを用時基礎培地で1〜5 μg/mlの各濃度になるように希釈し、使用した。
・1.2 %アガロースゲル : TBE bufferに1.2 % (w/v)のultra pure agarを加え、溶解させた後、ethidium bromideを5 μl/100 ml加え、型に流し込み、室温で静置して固めた。
【0033】
(参考例1)HMV-II細胞を用いたメラニン産生制御試験法の確立
(1)HMV-II細胞にメラニン産生を誘導する刺激物質の種類の検討
Sugimotoらの方法(Sugimoto K, et al., Biol. Pharm. Bull. 27(4), 510-514, 2004)を参考にした。継代回数 3 回以上のHMV-II培養細胞を基礎培地で24 well plateに1.0 × 105 cells/wellの割合に調製し、800 μLずつ播種した。5 % CO2存在下のインキュベーター内、37 ℃の条件下で24時間予備培養した。
【0034】
24時間培養した細胞に、基礎培地100 μLずつ、PMA溶液、α-MSH溶液もしくはforskolin溶液を100 μLずつ添加したのち、72時間培養を継続し、メラニン産生量を下記の方法にて測定した。
【0035】
メラニン産生量の定量:Ham F-12液体培地をマイクロチューブに回収したのち、PBS 200 μL/wellで細胞を洗浄し、そのPBSもマイクロチューブに回収した。Trypsin/EDTAを200 μL/well 添加して細胞を剥がし、PBSを200 μL/well加え、マイクロチューブに回収した。もう一度PBSを200 μL/well加え、マイクロチューブに回収したのち、7000 rpmで10分間遠心を行った。上清を捨て、残ったペレットに1M NaOH水溶液を300 μL添加し、遮光条件、室温で16-18時間放置し、本溶液の475 nmの吸光度を、市販のメラニンの検量線から求めた定数を用いて細胞内メラニン量に換算した。
【0036】
(2)メラニン産生におけるForskolinの至適濃度と培養時間の検討
前記(1)と同様にHMV-II細胞を播種し、24時間の予備培養の後、forskolin溶液を添加した。そして、添加後24, 48, 72, 96, 120時間のそれぞれの時点で培養を終了し、前記(1)と同様に方法でメラニン産生量を測定した。
【0037】
(3)メラニン産生における至適細胞濃度の検討
前記(1)と同様の条件でHMV-II細胞を1.0 × 105, 5.0 × 104, 1.0 × 104cells/wellの各濃度で24 well plateに播種し、24時間の予備培養の後、forskolin溶液を添加した。そして、添加後 72時間で培養を終了し、前記(1)と同様に方法でメラニン産生量を測定した。
【0038】
(4)メラニン産生阻害活性を示すアルブチンとコウジ酸のforskolin誘導メラニン産生に及ぼす影響
前記(1)と同様にHMV-II細胞を播種し、24時間の予備培養の後、forskolin溶液を添加すると同時に、アルブチン溶液あるいはコウジ酸溶液を加えた。陽性対照であるアルブチン、コウジ酸はそれぞれ最終濃度1, 10, 100, 1000 μg/mlになるようにDMSOと培地の混合溶液に溶解した。なお、DMSOの最終濃度は0.02 %に調整した。そして、添加後24, 48, 72, 96, 120時間のそれぞれの時点で培養を終了し、前記(1)と同様に方法でメラニン産生量を測定した。
【0039】
(5)アルブチンとコウジ酸を用いた場合の細胞播種濃度の違いによるforskolin誘導メラニン産生量の変化
前記(3)と同様にHMV-II細胞を播種し、24時間の予備培養の後、forskolin溶液を添加すると同時に、最終濃度100 μg/mlになるようにアルブチン溶液あるいはコウジ酸溶液を加え、刺激後72時間で培養を終了し、メラニン量を測定した。サンプル溶液の調製方法は前記(4)と同様に行った。
【0040】
(6)MTT法
Mosmannnの方法(Mosmann T. J. Immunol. Methods, 65, 55-63, 1983)を参考にした。継代回数 3 回以上のHMV-II細胞を、基礎培地で最終濃度が5.0 × 103 cells/wellになるように調製して96 wells plateに200 μLずつ播種し、24時間予備培養した。
【0041】
アルブチン及びコウジ酸をDMSO/基礎培地混合溶液に溶解して25 μLずつ、PMA溶液、α-MSH溶液もしくはforskolin溶液を25 μLずつ添加した後、72時間培養を継続した。培養終了後、古い培地を捨てて新しい基礎培地を 80 μL ずつ、MTT試薬を 20 μL ずつ加えた。3-5 時間後に 10 w/v% SDS-DMF 溶液を 150 μL ずつ加えて15-18 時間後に570 nm での吸光度を測定した。
【0042】
下式により細胞生存率を求めた。
【0043】
細胞生存率(%)=
(サンプル投与時の平均吸光度/コントロール群での平均吸光度)×100
【0044】
(7)統計処理と有意差検定
本実験において得られたすべての結果は、平均値 (mean)±標準偏差 (S.D.) で表示した。なお、対照群と検体との間における有意差の検定には分散分析 (ANOVA) のDunnett’s multiple testによって処理し、5 % 以下の危険率をもって有意差 (P) ありと判定した。
【0045】
(実施例1)ソボクからのメラニン産生制御成分の探索と活性評価
(1)ソボクメタノール抽出物の分画
ソボクは株式会社栃本天海堂より購入した。ソボク Caesalpinia sappan L. の刻み生薬5.0 kgをメタノールで室温、一晩の条件で5回抽出し、メタノール抽出物 409 g を得た。そのメタノール抽出物の一部(370 g) をヘキサン、酢酸エチル、ブタノールと、水とで順に分液し、ヘキサン可溶画分9.5 g 、酢酸エチル可溶画分346 g及びブタノール可溶画分17.4 g及び水可溶画分22.7 gを得た。そこで、メタノール抽出物、酢酸エチル可溶画分及びブタノール可溶画分17.4 g及び水可溶画分について HMV-II細胞を用いてメラニン産生抑制試験を行ったところ、メタノール抽出物と酢酸エチル可溶画分、ブタノール可溶画分に活性が見られた。
【0046】
続いて、酢酸エチル画分を溶出溶媒 ヘキサン : 酢酸エチル = 5:5、4:6、2:8、酢酸エチル、メタノール、メタノール(1% 酢酸)を用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分画し、画分A-1〜A-6 を得た。同様に、HMV-II細胞を用いてメラニン産生抑制試験を行った。
【0047】
活性の見られた 画分A-3 (82.49 g)のうち一部(54 g)を溶出溶媒クロロホルム : メタノール = 14:1、9:1、7:1、5:1、メタノールを用いて、シリカゲルクロマトグラフィーにより分画し、画分B-1〜B-9を得た。クロロホルム : メタノール = 14:1で 溶出する画分である画分B-4のうち一部(20 mg)をシリカゲルカラムを用いて0.1% 酢酸を含むクロロホルム−メタノール溶液(97:3)を溶離液としてHPLCにより精製し、sappanchalcone (2) (6.04 mg)を得た。
【0048】
同じく活性のみられた画分B-6のうち一部(80 mg)をシリカゲルカラムを用いて溶離液クロロホルム : メタノール = 24:1としてHPLCにより精製し、3’-deoxy-4-O-methylsappanol (3) (2.21mg)を得た。
【0049】
次に残りの画分B-6のうちの一部(850 mg)を溶出溶媒10 % アセトニトリル/水、25 % アセトニトリル/水、40 % アセトニトリル/水、100 % アセトニトリル、100 % メタノールを用いてODSカラムクロマトグラフィーにより分画した。得られた25 % アセトニトリル/水溶出画分のうちの一つを、ODSカラムを用いて溶離液25 % アセトニトリル/水 → 90 % アセトニトリル/水としてHPLCにより精製し、brazilein (4) (1.79 mg)を得た。
【0050】
更に残りの画分B-6(3.7 g)を溶出溶媒10 % アセトニトリル/水、25 % アセトニトリル/水、40 % アセトニトリル/水、100 % アセトニトリル、100 % メタノールを用いてODSカラムクロマトグラフィーにより分画し、brazilin (5) (2.99 g)及び画分 C-2〜C-13を得た。得られた画分C-2をODSカラムを用いて溶離液15 % アセトニトリル/水としてHPLCにより精製し、化合物A (1) (15.0 mg)を得た。更に画分C-3をODSカラムを用いて溶離液15 % アセトニトリル/水としてHPLCにより精製しsappanol (6) (3.97 mg)及び4-O-methylsappanol (7) (16.0 mg)を得た。
図1にソボクメタノール抽出物の分画工程の概略を示す。
【0051】
(2)ソボクから得られた化合物の分光学的データ
(a)化合物A (1)
【化3】

【0052】
FABMS (negative) m/z 285 [M-H]- ; HRFABMS (negative) m/z 285.0789 [M-H]- (calculated for C16H15O5, 285.0763) ; 1H-NMR (Acetone-d6, 600 MHz) δ2.68 (1H, d, J = 15.8 Hz, H-7), 3.21 (1H, d, J = 15.8 Hz, H-7), 3.85 (1H, d, J = 11.0 Hz, H-6), 4.08 (1H, d, J = 10.3 Hz, H-6), 4.29 (1H, s, H-12), 5.05 (1H, s, H-6a(OH)), 6.25 (1H, d, J = 2.0 Hz, H-4), 6.35 (1H, dd, J = 2.0, 8.9 Hz, H-2), 6.47 (1H, d, J = 8.2 Hz, H-8), 6.62 (1H, d, J = 8.5 Hz, H-9), 7.72 (1H, d, J = 8.2 Hz, H-1) ; 13C NMR (Acetone-d6, 150 MHz) δ 41.7 (C-7), 51.1 (C-12), 70.4 (C-6), 79.4 (C-6a), 103.6 (C-4), 110.2 (C-2), 114.8 (C-9), 116.5 (C-8), 117.8 (C-1a), 132.5 (C-11a), 132.8 (C-1), 134.6 (C-7a), 143.3 (C-11), 144.2 (C-11), 155.0 (C-4a), 157.4 (C-3)
【0053】
図2に化合物A(1)の重アセトン中でのH−NMRスペクトルを示す。図3に化合物A(1)の重アセトン中での13C−NMRスペクトルを示す。
【0054】
(b)sappanchalcone (2)
【化4】

【0055】
化合物2は、H−NMRスペクトルデータを文献値(永井正博他, 薬学雑誌, 104(9), 935-938 (1984))と比較して同定した。
【0056】
1H-NMR (CD3OD, 500 MHz) δ 3.90 (3H, s, H-OMe), 6.44 (1H, dd, J = 2.0, 8.3 Hz, H-5’), 6.77 (1H, d, J = 8.3 Hz, H-5), 6.98 (1H, dd, J = 2.0, 7.8 Hz, H-6), 7.09 (1H, d, J = 2.4 Hz, H-2), 7.35 (1H, d, J = 15.6 Hz, H-α), 7.49 (1H, d, J = 15.6 Hz, H-β), 7.57 (1H, d, J = 8.8 Hz, H-6’)
【0057】
(c)3’-deoxy-4-O-methylsappanol (3)
【化5】

【0058】
化合物3は、FABMSスペクトルにおいてm/z303[M+H]が観測され、H−NMRスペクトルデータを文献値(M. Namikoshi et al., Chem. Pharm. Bull., 35(9), 3568-3575 (1987))と比較して同定した。
【0059】
FABMS (positive) m/z 303 [M+H]+ ; 1H-NMR (Acetone-d6, 500 MHz) δ 2.59 (2H, s, H-9), 3.32 (3H, s, H-OMe), 3.61 (1H, dd, J = 1.4, 10.2 Hz, H-2), 3.68 (1H, brs, H-4), 3.87 (1H, d, J = 9.8 Hz, H-2), 6.36 (1H, d, J = 2.4 Hz, H-8), 6.45 (1H, dd, J = 2.0, 8.3 Hz, H-6), 6.71 (2H, d, J = 8.3 Hz, H-3’, 5’), 6.96 (2H, d, J = 10.8 Hz, H-2’,6’), 7.05 (1H, d, J = 8.3 Hz, H-5)
【0060】
(d)brazilein (4)
【化6】

【0061】
化合物4は、H−NMRスペクトルデータを文献値(Dong Seon K. et al., Phytochemistory, 46(1), 177-178 (1997))と比較して同定した。
【0062】
1H-NMR (DMSO-d6, 500 MHz) δ 2.81 (1H, d, J = 17.9 Hz, H-7), 2.86 (1H, d, J = 18.3 Hz, H-7), 4.10 (1H, d, J = 11.5 Hz, H-6), 4.56 (1H, d, J = 11.5 Hz, H-6), 6.31 (1H, s, H-8), 6.33 (1H, s, H-4), 6.54 (1H, d, J = 9.2 Hz, H-2), 7.22 (1H, s, H-11), 7.79 (1H,d, J = 8.3 Hz, H-1)
【0063】
(e)brazilin (5)
【化7】

【0064】
化合物5は、H−NMRスペクトルデータを文献値(Dong Seon K. et al., Phytochemistory, 46(1), 177-178 (1997))と比較して同定した。
【0065】
1H-NMR (DMSO-d6, 500 MHz) δ 2.80 (1H, d, J = 15.6 Hz, H-7), 3.00 (1H, d, J = 15.6 Hz, H-7), 3.70 (1H, d, J = 11.0 Hz, H-6), 3.93 (1H, dd, J = 1.4, 11.0 Hz, H-6), 6.29 (1H, d, J = 2.8 Hz, H-4), 6.48 (1H, dd, J = 2.3, 8.2 Hz, H-2), 6.64 (1H, s, H-8), 6.75 (1H, s, H-11), 7.19 (1H, d, J = 8.2 Hz, H-1)
【0066】
(f)sappanol (6)
【化8】

【0067】
化合物6は、H−NMRスペクトルデータを文献値(M. Namikoshi et al., Phytochemisty, 26(6), 1831-1833 (1987))と比較して同定した。
【0068】
1H-NMR (CD3OD, 400 MHz) δ 2.57 (1H, d, J = 14.0 Hz, H-9), 2.62 (1H, d, J = 14.0 Hz, H-9), 3.66 (1H, dd, J = 1.0, 10.5 Hz, H-2), 3.87 (1H, d, J = 10.5 Hz, H-2), 4.20 (1H, s, H-4), 6.25 (1H, d, J = 2.6 Hz, H-8), 6.41 (1H, dd, J = 2.3, 8.3 Hz, H-6), 6.49 (1H, dd, J = 1.9, 7.8 Hz, H-6’), 6.65 (1H, d, J = 8.2 Hz, H-5’), 6.68 (1H, d, J = 1.9 Hz, H-2’), 7.09 (1H, d, J = 8.3 Hz, H-5)
【0069】
(g)4-O-methylsappanol (7)
【化9】

【0070】
化合物7は、H−NMRスペクトルデータを文献値(M. Namikoshi et al., Chem. Pharm. Bull., 35(9), 3568-3575 (1987))と比較して同定した。
【0071】
1H-NMR (Acetone-d6, 400 MHz) δ 2.56 (1H, s, H-9), 3.31 (3H, s, H-OMe), 3.63 (1H, dd, J = 2.0, 10.5 Hz, H-2), 3.69 (1H, brs, H-4), 3.86 (1H, d, J = 10.5 Hz, H-2), 6.35 (1H, d, J = 2.3 Hz, H-8), 6.42 (1H, dd, J = 1.8, 8.2 Hz, H-6’), 6.44 (1H, dd, J = 2.3, 8.2 Hz, H-6), 6.70 (1H, d, J = 1.8 Hz, H-2’), 7.05 (1H, d, J = 8.3 Hz, H-5)
【0072】
(実施例2)HMV-II細胞を用いたメラニン産生量への影響
参考例1(5)に示した方法に従って行った。すなわち、HMV-II培養細胞を24 well plateに1 wellあたり5.0 × 104 cells/800 μLで播種し、37 ℃の条件下で24時間予備培養した。その後、forskolin溶液を添加すると同時に、最終濃度10 μg/ml(抽出物及び画分物)または0.5 μM(化合物)になるようにサンプル溶液を加え、刺激後72時間で培養を終了し、メラニン量を測定した。なお、サンプル溶液のDMSO最終濃度は0.02 %に調製した。
結果を表1及び2に示す。
【0073】
(実施例3)MTT法
参考例1(6)に示した方法に従って行った。すなわち、HMV-II培養細胞を24 well plateに1 wellあたり5.0 × 103 cells/200 μLで播種し、37 ℃の条件下で24時間予備培養した。その後、forskolin溶液を添加すると同時に、サンプル溶液を加え、刺激後72時間で培養を終了した。その後の操作は参考例1(6)に示した方法と同様に行った。なお、サンプル溶液の調製は参考例1(4)に従った。
結果を表1及び2に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
表1からわかるように、ソボクメタノール抽出物は10μg/mLで80%以上の強いメラニン産生阻害活性を有し、ソボクメタノール抽出物の分画物のうち酢酸エチル可溶画分がメタノール抽出物と同等のメラニン産生阻害活性を示した。これらの効果は既存の美白剤であるアルブチン及びコウジ酸より約10倍強い。
【0077】
ソボクメタノール抽出物の酢酸エチル可溶性画分からメラニン産生阻害活性物質として7種のポリフェノールが単離された。アルブチン及びコウジ酸は50〜100mMで阻害活性が確認されたが、化合物1〜7は5mMで阻害活性を示し、アルブチン及びコウジ酸より約10倍活性が強い(表2)。
化合物4、5及び7は細胞障害性を伴わない有意なメラニン産生阻害活性を示した。
【0078】
(実施例4)アルブチン、コウジ酸、ソボクメタノール抽出物及びbrazilin (5)のメラニン産生抑制作用機序の検討
(1)ForskolinのHMV-II細胞におけるチロシナーゼ、TRP1、DCTのmRNA発現量に及ぼす影響の検討
(a)RNA抽出
RNA抽出にはRNeasy mini kitを用いた。特級エタノールで5倍希釈したPRE wash Bufferを調製し、次に2-メルカプトエタノール40 μlをRLT 4 mlに加えた。細胞を培養しているディッシュの培地を捨て、PBSで2回洗浄した。
【0079】
ディッシュにRLT (2-メルカプトエタノール含有)を350 μl加えて、振とう後、セルスクレーパーで細胞を擦って破壊した。QIA shredder に350 μl全量をとり、室温下で13000 rpmで2分間遠心した。ろ液に70 %エタノールを350 μl加え、Collection tubeに700 μl全量を移して室温下、10000 rpmで15秒間遠心した。その後、ろ液を捨て、RW1 buffer を700 μl加えて室温下、10000 rpmで15秒遠心した。RPE buffer を500 μl加えて、室温下10000 rpmで15秒遠心した。再度ろ液を捨て、RPE buffer を500 μl加えて、室温下10000 rpmで2分間遠心した。30 μlのRNAseフリーの精製水を加えて1分間静置した後、室温下で、10000 rpmで1分間遠心し、そのろ液をRNAサンプルとして得た。
抽出したRNAサンプルは、PCR実験時まで−80 ℃にて保存した。
【0080】
(b)RNA含有量の測定
抽出したRNAサンプルから2 μlを分取し、ライフサイエンス分光光度計によりRNA量を測定した。
【0081】
(c)cDNAの調製
各RNAサンプルの実質RNA量1.0 μg分に相当するRNA水溶液に、250 ngのrandom primer溶液を1.0 μl、RNA溶液を実質1.0 μg分取し、10 mMのdNTP混合溶液を1 μlとり、RNAseフリー精製水を加えて13 μlにした。
【0082】
その後、65 ℃で5分間加熱し、3分間氷浴させた。遠心分離機によって遠心した後、First-Strand Bufferを4 μl、0.1 M DTTを1 μl、RNAse OUT (40 units/μl)を1 μl、SuperScript III RT (200 units/μl) を1 μl加えた。その後、25 ℃で5分間、50 ℃で60分間、70 ℃で15分間インキュベートし、cDNAを得た。
得られたcDNA溶液は、PCR使用時まで−20 ℃の冷凍庫に保管した。
【0083】
(d)PCR
各RNAサンプルの実質RNA量1.0 μg分に相当するRNA水溶液に、dNTP Mix (2.4 μl) 、100 pmol/mlのleft primer (0.3 μl) 及びright primer (0.3 μl)、10 × EX taq buffer (3.0 μl)、ExTaq buffer (0.3 μl) を加え、RNAseフリー精製水を加え全量を30 μlとした。
【0084】
その後、サーマルサイクラーで以下の条件でインキュベートした。
β-actin : (98.0 ℃ 10 秒、58.1 ℃ 30秒、72.0 ℃ 60秒) × 35 cycles
tyrosinase : (98.0 ℃ 10 秒、58.1 ℃ 30秒、72.0 ℃ 60秒) × 30 cycles
TRP1 : (98.0 ℃ 10 秒、58.1 ℃ 30秒、72.0 ℃ 60秒) × 35 cycles
DCT : (98.0 ℃ 10 秒、58.1 ℃ 30秒、72.0 ℃ 60秒) × 25 cycles
Primerは以下のものを使用した。
β-actin left : 5’-AGAGCTACGAGCTGCCTGAC-3’
β-actin right : 5’-AGCACTGTGTTGGCGTACAG-3’
Tyrosinase left : 5’-AGGCAGAGGTTCCTGTCAGA-3’
Tyrosinase right : 5’-ATTGTGTCTCGTGCTTTGAG-3’
TRP1 left : 5’-CATGATGGCGAGAGATGACG-3’
TRP1 right : 5’-TCTGTGAAGGTGTGCAGGAG-3’
DCT left : 5’-AGTGATTCGGCACGAACATCC-3’
DCT right : 5’-CTGGAGGGAAGAAAGGAACC-3’
【0085】
(e)電気泳動
1.2 %アガロースゲルに、各RCR産物10 μlに対し10 × blue juiceを1 μl加えたものをアプライし、100 Vで15分間泳動を行った。その後、ルミノ・イメージアナライザーによりNAに結合したethidium bromideの蛍光をUVトランスイルミネーター(波長312 nm)により検出した。
【0086】
メラニン産生制御蛋白(チロシナーゼ、TRP1 、DCT)をコードする各遺伝子の mRNA 発現量に対するソボクメタノール抽出物、化合物5と、美白剤アルブチン及びコウジ酸の影響をRT-PCRを用いて検討した結果を図4に示す。
【0087】
ソボクメタノール抽出物、アルブチン及びコウジ酸はチロシナーゼ発現を約40%抑制した。化合物5はチロシナーゼ発現を約50%、DCT発現を約90%抑制し、DCT発現を選択的に抑制した。
【0088】
(2)チロシナーゼ酵素阻害活性試験
Matsudaらの方法(Matsuda, H. et al., Bioorg. Med. Chem. 17(16), 6048-6053, 2009)に従った。
【0089】
最終濃度 0.03 % に調製した基質L-DOPA溶液 (PBS に溶解) 0.5 ml にサンプル溶液 0.5 mlと、最終濃度 225 U/ml に調製した酵素チロシナーゼ液 (PBS に溶解) を 0.5 ml 加え、10 分間インキュベートした。反応後、475 nm における吸光度を測定した。なお、サンプルは、0.9 % DMSO/PBS 溶液 に溶解し、サンプルは最終濃度 1〜10000 μg/ml あるいは0.5〜5 μMの各濃度で検討した。
結果を図5に示す。
【0090】
ソボクメタノール抽出物及び化合物5はチロシナーゼ酵素活性を阻害しなかった。
したがって、ソボク抽出物による美白作用のメカニズムは、既存の美白剤(アルブチン、コウジ酸)とは異なる機序による。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソボク抽出物又はその処理物を含有するメラニン生成抑制剤。
【請求項2】
前記抽出物がソボクを低級アルコール類及び酢酸アルキルエステル類から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒で抽出して得られる抽出物である請求項1記載のメラニン生成抑制剤。
【請求項3】
前記処理物がソボクの低級アルコール類抽出物から得られた酢酸アルキルエステル類に可溶な画分である請求項1記載のメラニン生成抑制剤。
【請求項4】
ソボク抽出物又はその処理物が、sappanchalcone、3’-deoxy-4-O-methylsappanol、brazilein、brazilin、sappanol、4-O-methylsappanol、及び次式:
【化1】

で示される化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のメラニン生成抑制剤。
【請求項5】
ソボク抽出物又はその処理物が、ブタノールよりも水に溶けやすい成分を含有しない請求項1〜4のいずれか1項に記載のメラニン生成抑制剤。
【請求項6】
ソボク抽出物又はその処理物が、sappanchalconeを含有しない請求項1〜5のいずれか1項に記載のメラニン生成抑制剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のメラニン生成抑制剤を含有する美白剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の剤を含有する美白化粧料。
【請求項9】
次式:
【化2】

で示される化合物。
【請求項10】
請求項9に記載の化合物を含有するメラニン生成抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−36109(P2012−36109A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175460(P2010−175460)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物 :金沢大学大学院自然科学研究科(博士前期課程)生命薬学専攻・医療薬学専攻 平成21年度 修士論文要旨集 発行日 :平成22年2月22日 発行者 :金沢大学大学院 自然科学研究科生命系領域 公開タイトル:「ソボクCaesalpinia sappan L.に由来するメラニン産生制御成分に関する研究」 研究集会名 :平成21年度金沢大学大学院自然科学研究科(博士前期課程)修士論文発表会にて口頭発表 開催者名 :国立大学法人金沢大学 発表期日 :平成22年2月23日 開催場所 :国立大学法人金沢大学 自然科学本館1階101講義室 公開者 :三谷 薫
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】