説明

ソレノイド故障検出装置

【課題】 ソレノイドの中間故障を確実に検出することを課題とする。
【解決手段】 バッテリ電源3から電流検出抵抗4を介してソレノイド1に流れる電流に対応した電圧を、電流検出抵抗4ならびに差動増幅回路5で検出し、検出した電圧のピーク値をピークホールド回路6で保持し、保持したピーク値と予め設定された上限判定値と下限判定値とをマイコン8で比較し、その比較結果に基づいてソレノイド1の抵抗値が増加もしくは減少している中間故障をマイコン8で判断して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の自動変速機等に使用されるソレノイドの故障を検出するソレノイド故障検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術としては、例えば以下に示す文献に記載されたものが知られている(特許文献1参照)。この文献に記載された技術では、ソレノイド負荷の両端の電位差を計測する差動増幅回路の出力電圧と、基準電圧発生回路で発生された基準電圧との比較結果に基づいて、ソレノイド負荷の正常もしくは断線を判定していた。
【特許文献1】特開平10−338125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記文献に記載された従来のソレノイド負荷の故障検出にあっては、ソレノイド負荷が完全に故障(断線又は短絡)した状態しか検出することができなかった。すなわち、ソレノイド負荷の抵抗値の増大や減少といった中間故障を検出することができなかった。このため、ソレノイドが中間故障した場合には、ソレノイドにより制御される制御対象、例えば車両の自動変速機等の動作に不具合が生じ、これらの不具合を未然に防止することができなかった。
【0004】
そこで、本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ソレノイドの中間故障を確実に検出するソレノイド故障検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、ソレノイド駆動信号に基づいて駆動制御されるソレノイドの故障を検出するソレノイド故障検出装置において、前記ソレノイドに電源を供給する駆動電源からソレノイドを流れる電流に対応した信号を検出する検出手段と、予め設定された所定の期間内における、前記検出手段で検出された検出信号のピーク値を保持する保持手段と、前記保持手段で保持された検出信号のピーク値と、前記ソレノイドの故障を判定する所定の判定値とを比較し、その比較結果に基づいて前記ソレノイドの故障を検出する故障検出手段とを有することを特徴とする。
【0006】
上記特徴の請求項1記載の発明によれば、ソレノイドの抵抗値の変化を的確に監視することが可能となり、これによりソレノイドの中間故障を確実に検出することができる。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のソレノイド故障検出装置において、前記故障検出手段は、前記駆動電源の電圧値に基づいて前記判定値を変更することを特徴とする。
【0008】
上記特徴の請求項2記載の発明によれば、駆動電源の電圧値に基づいて判定値を設定することが可能となり、これにより故障検出の精度を高めることができる。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項2記載のソレノイド故障検出装置において、前記判定値は、前記駆動電源の電圧値毎に、上限判定値と下限判定値との一対で設定されることを特徴とする。
【0010】
上記特徴の請求項3記載の発明によれば、判定値に幅を持たせることができる。これにより、ソレノイドの抵抗値のばらつきを許容することが可能となり、ソレノイドの故障検出における誤検出を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の実施例を説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は本発明の実施例1に係るソレノイド故障検出装置を含むソレノイド駆動システムの構成を示す図である。図1に示すシステムは、故障の検出対象となるソレノイド1、このソレノイド1をソレノイド駆動信号に基づいてPWM(Pulse Wide Modulation:パルス幅変調)制御により駆動制御するソレノイド駆動回路2、ソレノイド1の駆動電源となる例えばバッテリ電源3、このバッテリ電源3とソレノイド1との間に直列接続されてソレノイド1を流れる電流を検出する電流検出抵抗4(検出手段)、ならびに差動増幅回路5(検出手段)、ピークホールド回路6(保持手段)、クリア回路7、マイコン8(故障検出手段)を備えて構成されている。
【0013】
差動増幅回路5は、その両入力端子が電流検出抵抗4の両端に接続され、電流検出抵抗4の両端の電位差を測定する。測定された電流検出抵抗4の両端の電位差はピークホールド回路6に与えられる。
【0014】
ピークホールド回路6は、差動増幅回路5の出力電圧を受けて、予め設定された所定の期間内、すなわちPWM制御におけるソレノイド駆動信号の1周期内における差動増幅回路5の出力電圧のピーク値を保持する。保持された差動増幅回路5の出力電圧のピーク値は、マイコン8に与えられる。クリア回路7は、マイコン8から与えられるクリア信号に基づいて、ピークホールド回路6で保持されたピーク値をクリアする。
【0015】
マイコン8は、本システムの動作を制御する制御中枢として機能し、プログラムに基づいて各種動作処理を制御するコンピュータに必要な、CPU81、記憶装置(図示せず)、A/D変換回路82ならびにI/O回路83を含む入出力装置の資源を備えたマイクロコンピュータで構成されている。マイコン8は、バッテリ電源3のバッテリ電圧、ソレノイド1の近傍に設けられてソレノイド1近傍の温度を測定する温度センサ(図示せず)で測定された温度、ならびにピークホールド回路6で保持された電圧を読み込み、読み込んだ信号ならびに予め内部に保有する制御ロジック(プログラム)に基づいて、本システムの構成要素に指令を送り、以下に説明する本実施例1の特徴的な故障判定処理を含む本システムのすべての動作を統括管理して制御する。
【0016】
マイコン8は、A/D変換回路82を介して入力されたピークホールド回路6で保持された差動増幅回路5の出力電圧のピーク値と、A/D変換回路82を介して入力されたバッテリ電源3のバッテリ電圧と、マイコン8内で任意に設定されて選択される判定値とに基づいてソレノイド1の故障を検出する。
【0017】
マイコン8は、I/O回路83を介してソレノイド駆動信号をソレノイド駆動回路2に出力して、ソレノイド1を駆動制御する。マイコン8は、I/O回路83を介してクリア信号をクリア回路7に出力し、このクリア信号に基づいてクリア回路7でピークホールド回路6に保持された差動増幅回路5の出力電圧のピーク値がクリアされる。マイコン8は、
A/D変換回路82を介してソレノイド1近傍の温度を入力し、入力した温度に基づいてソレノイド1の故障を判定する判定値を補正変更する。
【0018】
次に、図2に示す故障検出の動作タイミングチャート、図3に示すピークホールド回路6の出力電圧(差動増幅回路5の出力電圧の最大値を示すピーク値)とソレノイド1の電流(ソレノイド1の抵抗値)との関係、ならびに図4に示すソレノイド1の故障判定における判定値とピーク値との関係を参照して、ソレノイド1の故障検出動作を説明する。
【0019】
先ず、図2に示すように、デューティ制御されたパルス信号のソレノイド駆動信号(a)がマイコン8からソレノイド駆動回路2に与えられると、ソレノイド駆動回路2でソレノイド1が駆動されて、バッテリ電源3から電流検出抵抗4を介してソレノイド駆動信号に応じてソレノイド1に駆動電流が流れる。ソレノイド1を駆動電流が流れると、電流検出抵抗4の両端に電位差が生じ、この電位差が差動増幅回路5で検出され、図2に示すような、ソレノイド駆動信号に同期対応した差動増幅回路5の出力電圧(c)が得られる。
【0020】
この出力電圧(c)は、ソレノイド1に流れる電流に応じて変化する。すなわち、ソレノイド1に流れる電流は、バッテリ電圧ならびにソレノイド1の抵抗値により変化するので、これらの値により出力電圧(c)は変化することになる。したがって、出力電圧(c)は、図2に示すように、バッテリ電圧が高い場合、例えば16V程度の場合には、バッテリ電圧が低い場合、例えば9V程度に比べて、出力電圧(c)は大きくなり、出力電圧(c)のピーク値も大きくなる。また、同じバッテリ電圧の場合には、ソレノイド1の抵抗値が正常値に比べて減少すると出力電圧(c)は正常時に比べて高くなるのに対して、ソレノイド1の抵抗値が正常値に比べて増加すると出力電圧(c)は正常値に比べて低くなる。
【0021】
ここで、差動増幅回路5の出力電圧を直接マイコン8のA/D変換回路82を介してマイコン8に入力すると、電圧値が変動する出力電圧を処理して故障判定に使用する作業が複雑化し、マイコン8の負担が大きくなる。そこで、変動する出力電圧のピーク値だけを抽出することで、上述した不具合は解消されるが、出力電圧がピーク値を示すタイミングでマイコン8のA/D変換回路82に取り込もうとすると、ピーク値の取り込み損ないが発生するおそれがあり、故障判定の精度を低下させる懸念がある。そこで、図2に示すように、差動増幅回路5の出力電圧(c)はソレノイド1の駆動信号に応じて変化するが、ピークホールド回路6で差動増幅回路5の出力電圧のピーク値を一旦保持し、保持したピーク値をマイコン8に入力するようにしている、これにより、上述した不具合を回避することができる。ピークホールド回路6の出力電圧(d)は、ピークホールド回路6で保持されたピーク値がマイコン8に取り込まれ、図2に示すように、予め設定された故障検出タイミングの後の予め設定されたタイミングでクリア信号に基づいてクリアされる。
【0022】
このようにしてマイコン8に取り込まれたピークホールド回路6の出力電圧のピーク値(Vpeak)、すなわち差動増幅回路5の出力電圧のピーク値に対して、ソレノイド1の故障を判定する判定値は、例えば図3に示すように設定されている。
【0023】
図3において、先ずバッテリ電圧が低い場合、例えば9V程度の場合には、ソレノイド1の抵抗値が正常値の範囲(正常領域)のピーク値に対して、正常領域のピーク値よりも低い側に、ソレノイド1の抵抗値が増大したか否かを判定する判定値1−aを設定する一方、正常領域のピーク値よりも高い側に、ソレノイド1の抵抗値が減少したか否かを判定する判定値1−bを設定する。
【0024】
一方、バッテリ電圧が高い場合、例えば16V程度の場合には、ソレノイド1の抵抗値が正常値の範囲(正常領域)のピーク値に対して、正常領域のピーク値よりも低い側に、ソレノイド1の抵抗値が増大したか否かを判定する判定値2−aを設定する一方、正常領域のピーク値よりも高い側に、ソレノイド1の抵抗値が減少したか否かを判定する判定値2−bを設定する。
【0025】
このように設定された判定値と、マイコン8に取り込んだ差動増幅回路5の出力電圧のピーク値(Vpeak)とをマイコン8で比較し、図4に示すように、その比較結果に基づいてソレノイド1の故障を判別する。
【0026】
すなわち、バッテリ電圧が例えば9V程度で、判定値1−a≦Vpeak≦判定値1−bである場合には、ソレノイド1は正常であると推定し、断線や短絡等は発生していないものと判別する。一方、Vpeak<判定値1−aである場合は、断線等でソレノイド1の抵抗値が増大しているものと推定し、ソレノイド1が中間故障しているものと判別する。また、Vpeak>判定値1−bである場合は、短絡等でソレノイド1の抵抗値が減少しているものと推定し、ソレノイド1が中間故障しているものと判別する。
【0027】
バッテリ電圧が例えば16V程度で、判定値2−a≦Vpeak≦判定値2−bである場合には、ソレノイド1は正常であると推定し、断線や短絡等は発生していないものと判別する。一方、Vpeak<判定値2−aである場合は、断線等でソレノイド1の抵抗値が増大しているものと推定し、ソレノイド1が中間故障しているものと判別する。また、Vpeak>判定値2−bである場合は、短絡等でソレノイド1の抵抗値が減少しているものと推定し、ソレノイド1が中間故障しているものと判別する。
【0028】
このように、上記実施例1では、ソレノイド1の抵抗値が変化して中間故障が発生した場合に、抵抗値の変化量はソレノイド1に流れる電流値の変化として現れるので、ソレノイド1の抵抗値の変化量が最も大きくなる電流のピーク値に対応した電圧のピーク値を検出することで、ソレノイド1の中間故障を確実に検出することが可能となり、中間故障の検出精度を高めることができる。
【0029】
ソレノイド1に電源を供給するバッテリ電源3の電圧に基づいて、故障を判定する判定値を選択することで、より精度の高い故障検出が可能となる。
【0030】
上記判定値を設定する際に、判定値に下限値(1−a,2−a)と上限値(1−b,2−b)を設けてソレノイド1の抵抗値が正常であると判別する領域に所定の幅を持たせることで、ソレノイド1に流れる電流値の誤差分を許容することができる。これにより、製造ばらつき等によるソレノイド1の抵抗値のばらつきによる故障の誤検出を回避することが可能となる。
【0031】
上記判定値は、ソレノイド1の製造ばらつきを考慮して、マイコン8で選択的に設定されるようになっている。すなわち、実験や机上検討等により判定値とソレノイド1の抵抗値との関係を設定したテーブル等を予め作成してマイコン8の記憶装置に記憶させ、判定値を設定する際には、ソレノイド1の抵抗値に基づいてこのテーブルを参照して判定値を選択するようにする。このような手法を採用することで、より高い精度で故障検出を実施することが可能となる。
【0032】
同様に、ソレノイド1の近傍で測定された温度によりソレノイド1の抵抗値が変化することを考慮して、上記判定値はマイコン8で選択的に設定されるようになっている。すなわち、実験や机上検討等により判定値とソレノイド1の近傍の温度との関係を設定したテーブル等を予め作成してマイコン8の記憶装置に記憶させ、判定値を設定する際には、ソレノイド1の近傍で測定された温度に基づいてこのテーブルを参照して判定値を選択するようにする。このような手法を採用することで、より高い精度で故障検出を実施することが可能となる。
【0033】
判定値とピーク値との比較動作を、所定回数又は所定時間継続して実施し、上記故障の判定条件が成立した場合にのみ、ソレノイド1が中間故障しているものと判断することで、誤検出を回避することが可能となる。
【0034】
さらに、上記実施例から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に効果と共に記載する。
【0035】
(イ)請求項1,2および3のいずれか1項に記載のソレノイド故障検出装置において、
前記故障検出手段は、比較動作を所定回数行い、もしくは比較動作を所定時間の間行い、何れの比較動作においても予め設定された故障判定条件が成立した場合に、前記ソレノイドが故障しているものと判断する
ことを特徴とするソレノイド故障検出装置。
【0036】
上記(イ)項に記載の構成によれば、ソレノイドの故障検出における誤検出を低減することが可能となる。
【0037】
(ロ)請求項3記載のソレノイド故障検出装置において、
前記保持手段で保持された検出信号のピーク値が前記上限判定値を上回った場合に、前記ソレノイドの抵抗値が減少した中間故障と判断する一方、前記保持手段で保持された検出信号のピーク値が前記下限判定値を下回った場合に、前記ソレノイドの抵抗値が増加した中間故障と判断する
ことを特徴とするソレノイド故障検出装置。
【0038】
上記(ロ)項に記載の構成によれば、ソレノイドの故障検出において、ソレノイドの抵抗値のばらつきによる誤検出を低減することが可能となる。
【0039】
(ハ)請求項1,2および3のいずれか1項に記載のソレノイド故障検出装置において、
前記判定値は、前記ソレノイドの正常時の抵抗値に基づいて設定される
ことを特徴とするソレノイド故障検出装置。
【0040】
上記(ハ)項に記載の構成によれば、ソレノイドの故障検出において、ソレノイドの抵抗値のばらつきによる誤検出を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施例1に係るソレノイド故障検出装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例1に係るソレノイドの故障検出における動作タイミングを示す図である。
【図3】ソレノイドの電流(抵抗値)とピークホールド回路の出力電圧(Vpeak)との関係を示す図である。
【図4】バッテリ電圧毎の、ソレノイドの故障判定条件を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1…ソレノイド
2…ソレノイド駆動回路
3…バッテリ電源
4…電流検出抵抗
5…差動増幅回路
6…ピークホールド回路
7…クリア回路
8…マイコン
81…CPU
82…A/D変換回路
83…I/O回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソレノイド駆動信号に基づいて駆動制御されるソレノイドの故障を検出するソレノイド故障検出装置において、
前記ソレノイドに電源を供給する駆動電源からソレノイドを流れる電流に対応した信号を検出する検出手段と、
予め設定された所定の期間内における、前記検出手段で検出された検出信号のピーク値を保持する保持手段と、
前記保持手段で保持された検出信号のピーク値と、前記ソレノイドの故障を判定する所定の判定値とを比較し、その比較結果に基づいて前記ソレノイドの故障を検出する故障検出手段と
を有することを特徴とするソレノイド故障検出装置。
【請求項2】
前記故障検出手段は、前記駆動電源の電圧値に基づいて前記判定値を変更する
ことを特徴とする請求項1記載のソレノイド故障検出装置。
【請求項3】
前記判定値は、前記駆動電源の電圧値毎に、上限判定値と下限判定値との一対で設定される
ことを特徴とする請求項2記載のソレノイド故障検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−313135(P2006−313135A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−136566(P2005−136566)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】