説明

ゾアンタミン系アルカロイドの製造方法およびこれに用いる中間体

【課題】 ノルゾアンタミン等のゾアンタミン系アルカロイドを高い収率で製造することができるゾアンタミン系アルカロイドの製造方法およびこれに用いて好適な中間体を提供する。
【解決手段】
【化92】


(ただし、RはHまたはCH3 、Dは重水素、TBSはtert−ブチルジメチルシリル基、Bocはtert−ブトキシカルボニル基、Meはメチル基を表す)
で示される化合物を出発原料とし、その二つのtert−ブチルジメチルシリル基の除去および第二級ヒドロキシ基の選択的酸化を行う工程等の6工程を経てノルゾアンタミン等のゾアンタミン系アルカロイドを合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はゾアンタミン系アルカロイドの製造方法およびこれに用いる中間体に関し、特に、骨粗鬆症の治療薬として注目されているノルゾアンタミン等の製造に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
Zoanthus sp.属の集落型スナギンチャクから単離された新しいタイプの7員環状海産アルカロイドであるゾアンタミン系アルカロイド(非特許文献1〜11)は、立体化学的複雑性を有する新規な化学構造と共に、その特異な生物学的および薬理学的性質のために、医化学、薬理学、天然物化学および合成有機化学を含む広範囲の分野の科学者の注意を引いている。例えば、1995年、上村らにより奄美大島近海のスナギンチャクから単離、構造決定されたノルゾアンタミン
【化30】

(ただし、R=H)
(非特許文献1〜3)は卵巣除去マウスにおいて骨重量、骨強度の低下を顕著に抑制することができ、骨粗鬆症治療薬の有力候補として期待されている(非特許文献3、12)。一方、Faulknerら(非特許文献4、5)により単離されたゾアンタミン(上記構造式においてR=CH3 )は、強い鎮痛効果に加えて、フォルボールミリスチン酸塩により誘発される炎症に対して顕著な効能がある阻害活性を示す(非特許文献5、6)。つい最近、ノルゾアンタミン誘導体は、人間の血小板凝集に対する反血小板活性に加えて、P−388ネズミ科白血病細胞系の成長を強く防ぐことが証明された(非特許文献13)。従って、ノルゾアンタミンは、特に新しいタイプの高齢者用骨粗鬆症治療薬の開発と関連して、大変興味が持たれている(非特許文献3、12)。新規な化学構造に加えこれらの特徴的な生物学的特性は、このアルカロイド族を化学合成の極めて魅力的な標的物質にしている。
【0003】
【非特許文献1】S. Fukuzawa, Y. Hayashi, D.Uemura, A. Nagatsu, K. Yamada, Y. Ijuin, Heterocycl. Commun. 1,207(1995)
【非特許文献2】M. Kuramoto, K. Hayashi, Y. Fujitani, K. Yamaguchi, T. Tsuji, K. Yamada, Y. Ijuin, D. Uemura, Tetrahedron Lett. 38,5683(1997)
【非特許文献3】M. Kuramoto, K. Hayashi, K. Yamaguchi, M. Yada, T. Tsuji, D. Uemura, Bull. Chem. Soc. Jpn. 71,771(1998)
【非特許文献4】C. B. Rao, A. S. R. Anjaneyula, N. S. Sarma, Y. Venkatateswarlu, R. M. Rosser, D. J. Faulkner, M. H. M. Chen, J. Clardy, J. Am. Chem. Soc. 106, 7983(1984)
【非特許文献5】C. B. Rao, A. S. R. Anjaneyula, N. S. Sarma, Y. Venkatateswarlu, R. M. Rosser, D. J. Faulkner, J. Org. Chem. 50, 3757(1985)
【非特許文献6】C. B. Rao, D. V. Rao, V. S. N. Raju, Heterocycles, 28, 103(1989)
【非特許文献7】A. Rahman, K. A. Alvi, S. A. Abbas, M. I. Choudhary, J. Clardy, Tetrahedron Lett. 30,6825(1989)
【非特許文献8】A. H. Daranas, J. J. Fernandez, J. A. Gavin, M. Norte, Tetrahedron, 54, 7891(1998)
【非特許文献9】H. Nakamura, Y. Kawase, K. Maruyama, A. Murai, Bull. Chem. Soc. Jpn. 71,781(1998)
【非特許文献10】Y. Venkateswarlu, N. S. Reddy, P. Ramesh, P. S. Reddy, K. Jamil, Heterocycl. Commun. 4, 575(1998)
【非特許文献11】A. H. Daranas, J. J. Fernandez, J. A. Gavin, M. Norte, Tetrahedron, 55, 5539(1999)
【非特許文献12】K. Yamaguchi, M. Yada, T. Tsuji, M. Kuramoto, D. Uemura, Biol. Pharm. Bull. 22,920(1999)
【非特許文献13】R. M. Villar, J. G-Longo, A. H. Daranas, M. L. Souto, J. J. Fernandez, S. Peixinho, M. A. Barral, G. Santafe, J. Rodriguez, C. Jimenez, Bioorg. Med. Chem. 11,2301(2003)
【0004】
しかしながら、多大な合成の努力が払われているにもかかわらず(非特許文献14〜28)、官能基が密に混んだ複雑な立体構造のために、ゾアンタミン系アルカロイドの化学合成はこれまで達成されていない。
【非特許文献14】D. Tanner, P. G. Andersson, L. Tedenborg, P. Somfai, Tetrahedron, 50, 9135(1994)
【非特許文献15】D. Tanner, L. Tedenborg, P. Somfai, Acta. Chem. Scand. 51, 1217(1997)
【非特許文献16】T. E. Nielsen, D. Tanner, J. Org. Chem. 67, 6366(2002)
【非特許文献17】D. R. Williams, G. S. Cortez, Tetrahedron Lett. 39,2675(1998)
【非特許文献18】D. R. Williams, T. A. Brugel, Org. Lett. 2,1023(2000)
【非特許文献19】S. Ghosh, F. Rivas, D. Fisher, M. A. Gonzalez, E. A. Theodorakis, Org. Lett. 6,941(2004)
【非特許文献20】G. Hirai, H. Oguri, M. Hirama, Chem. Lett. 141(1999)
【非特許文献21】S. M. Moharram, G. Hirai, K. Koyama, H. Oguri, M. Hirama, Tetrahedron. Lett. 41,6669(2000)
【非特許文献22】G. Hirai, H. Oguri, S. M. Moharram, K. Koyama, M. Hirama, Tetrahedron. Lett. 42,5783(2001)
【非特許文献23】G. Hirai, Y. Koizumi, S. M. Moharram, H. Oguri, M. Hirama, Org. Lett. 4,1627(2002)
【非特許文献24】N. Hikage, H. Furukawa, K. Takao, S. Kobayashi, Tetrahedron. Lett. 39, 6237(1998)
【非特許文献25】N. Hikage, H. Furukawa, K. Takao, S. Kobayashi, Tetrahedron. Lett. 39, 6241(1998)
【非特許文献26】N. Hikage, H. Furukawa, K. Takao, S. Kobayashi, Chem. Pharm. Bull. 48, 1370(2000)
【非特許文献27】M. Sakai, M. Sasaki, K. Tanino, M. Miyashita, Tetrahedron Lett. 43,1705(2002)
【非特許文献28】第45回天然有機化合物討論会講演要旨集、pp.121-125,2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明が解決しようとする課題は、ノルゾアンタミン等のゾアンタミン系アルカロイドを高い収率で製造することができるゾアンタミン系アルカロイドの製造方法およびこれに用いて好適な中間体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究を行った結果、ノルゾアンタミン等のゾアンタミン系アルカロイドの最適な合成経路を見い出し、この発明を案出するに至った。また、実際の合成戦略としては、下記方策が有効であることを見い出した。
(1)最も合成が難しいC9、C−12およびC−22位の3個の隣接する四級不斉炭素を含む立体化学的に混んだC環部をトリエンの熱反応(ディールス−アルダー(Diels-Alder)反応)によって構築する。
(2)ディールス−アルダー反応の前駆体で重要中間体であるトリエンを立体選択的に合成するため、簡単な出発原料である(R)−5−メチル−2−シクロヘキセノンへの三成分連結反応およびフランの光増感酸化反応を基軸として合成する。
(3)アミノアルコール側鎖は入手容易なシトロネラールから構築する。
(4)3環性化合物のアルキン誘導体を効率的に合成するため、先例のない重水素を用いた合成経路を設計することにより解決する。
(5)A環部への二重結合の導入はアミノアセタール化の前に行うことが必須であり、これによりA環部への二重結合の導入を極めて効率的に行うことができる。
(6)アミノアセタール構造は不安定であるため、穏和な条件下で合成しなければならないが、これを含水酢酸および含水トリフルオロ酢酸を用いて加熱することにより解決する。
上記の解決手法は、ノルゾアンタミンやゾアンタミンを含むゾアンタミン系アルカロイド全般に適用可能なものである。
【0007】
すなわち、上記課題を解決するために、第1の発明は、
【化31】

(ただし、RはHまたはCH3 、Dは重水素、TBSはtert−ブチルジメチルシリル基、Bocはtert−ブトキシカルボニル基、Meは金属を表す)
で示される第1の化合物を
【化32】

で示される第2の化合物に変換する工程と、
上記第2の化合物を
【化33】

で示される第3の化合物に変換する工程と、
上記第3の化合物を
【化34】

で示される第4の化合物に変換する工程と、
上記第4の化合物を
【化35】

で示される第5の化合物に変換する工程と、
上記第5の化合物を
【化36】

で示される第6の化合物に変換する工程と、
上記第6の化合物をゾアンタミン系アルカロイドに変換する工程とを有することを特徴とするゾアンタミン系アルカロイドの製造方法である。
【0008】
第2の発明は、
【化37】

(ただし、RはHまたはCH3 、Dは重水素、TBSはtert−ブチルジメチルシリル基、Bocはtert−ブトキシカルボニル基、Meは金属を表す)
で示される第1の化合物の二つのtert−ブチルジメチルシリル基の除去および第二級ヒドロキシ基の選択的酸化を行って
【化38】

で示される第2の化合物を得る工程と、
上記第2の化合物のアルデヒドへの酸化およびカルボン酸への酸化を行って
【化39】

で示される第3の化合物を得る工程と、
上記第3の化合物のエステル化およびA環部への二重結合の導入反応を行って
【化40】

で示される第4の化合物を得る工程と、
上記第4の化合物をイミニウム塩化して
【化41】

で示される第5の化合物を得る工程と、
上記第5の化合物をアンモニウム塩化して
【化42】

で示される第6の化合物を得る工程と、
上記第6の化合物の脱塩を行ってゾアンタミン系アルカロイドを得る工程とを有することを特徴とするゾアンタミン系アルカロイドの製造方法である。
【0009】
第3の発明は、
【化43】

(ただし、RはHまたはCH3 、TBSはtert−ブチルジメチルシリル基、TESはトリエチルシリル基、Meはメチル基を表す)
で示される第7の化合物を
【化44】

(ただし、Dは重水素を表す)
で示される第8の化合物に変換する工程と、
上記第8の化合物を
【化45】

で示される第9の化合物に変換する工程と、
上記第9の化合物を
【化46】

で示される第10の化合物に変換する工程と、
上記第10の化合物を
【化47】

で示される第11の化合物を変換する工程と、
上記第11の化合物を
【化48】

で示される第12の化合物に変換する工程と、
上記第12の化合物を
【化49】

で示される第13の化合物に変換する工程とを有することを特徴とするゾアンタミン系アルカロイドの製造方法である。
【0010】
第4の発明は、
【化50】

(ただし、RはHまたはCH3 、TBSはtert−ブチルジメチルシリル基、TESはトリエチルシリル基、Meはメチル基を表す)
で示される第7の化合物の還元、重水素を含む化合物を用いたウィッティッヒ反応およびヒドロホウ素化を行って
【化51】

(ただし、Dは重水素を表す)
で示される第8の化合物を得る工程と、
上記第8の化合物を酸化して
【化52】

で示される第9の化合物を得る工程と、
上記第9の化合物のカーボネート化、分子内アシル化反応およびO−メチル化反応を行って
【化53】

で示される第10の化合物を得る工程と、
上記第10の化合物のC−9位にメチル基を導入して
【化54】

で示される第11の化合物を得る工程と、
上記第11の化合物の重水素が結合している炭素に結合している酸素にtert−ブチルジメチルシリル基を付加して
【化55】

で示される第12の化合物を得る工程と、
上記第12の化合物のメチルケトン部を三重結合に変換して
【化56】

で示される第13の化合物を得る工程とを有することを特徴とするゾアンタミン系アルカロイドの製造方法である。
【0011】
第5の発明は、
【化57】

(ただし、RはHまたはCH3 、Dは重水素、TBSはtert−ブチルジメチルシリル基、Bocはtert−ブトキシカルボニル基、Meはメチル基を表す)
で示されることを特徴とする中間体である。
【0012】
第6の発明は、
【化58】

(ただし、RはHまたはCH3 、Dは重水素、TBSはtert−ブチルジメチルシリル基、TESはトリエチルシリル基、Meはメチル基を表す)
で示されることを特徴とする中間体である。
【0013】
第7の発明は、
【化59】

(ただし、RはHまたはCH3 、TBSはtert−ブチルジメチルシリル基、TESはトリエチルシリル基、Meはメチル基を表す)
で示されることを特徴とする中間体である。
【0014】
第5〜第7の発明による中間体は、いずれもゾアンタミン系アルカロイドの製造に用いるのに適している。
ゾアンタミン系アルカロイドは、具体的には、ノルゾアンタミン(R=H)またはゾアンタミン(R=CH3 )である。
【発明の効果】
【0015】
第1および第2の発明によれば、重水素置換を行った第1の化合物を出発原料とし、第2〜第6の化合物を経由する最適な合成経路を経て、ゾアンタミン系アルカロイドを高い収率で製造することができる。
第3および第4の発明によれば、第7の化合物の重水素置換を行って第8の化合物を合成し、この第8の化合物を用いて第13の化合物まで合成するので、第13の化合物の合成時の副生成物の生成を効果的に抑えることができ、ひいてはゾアンタミン系アルカロイドを高い収率で製造することができる。
第5〜第7の発明によれば、ゾアンタミン系アルカロイドを最適な合成経路を経て高い収率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の一実施形態によるノルゾアンタミンの製造方法について説明する。
図1、図2および図3にこの一実施形態によるノルゾアンタミンの製造方法の全工程を示す。図1はABC環部の合成方法、図2は重水素を用いたアルキンセグメントの合成方法、図3はノルゾアンタミンの全合成方法を示す。
【0017】
この製造方法を工程順に詳細に説明する。
まず、ノルゾアンタミンのABC環部を次のようにして合成する。
出発原料として、(R)−5−メチル−2−シクロヘキセノン
【化60】

を用いる(S. Mutti, C. Daubie, F. Decalogne, R. Fournier, P. Rossi, Tetrahedron.Lett. 43, 1705(2002))。
【0018】
クロロトリメチルシラン(TMSCl)の存在下(E. Nakamura, S. Matsuzawa, Y. Horiguchi, I. Kuwajima, Tetrahedron. Lett. 27, 4029(1986))、テトラヒドロフラン(THF)中で(R)−5−メチル−2−シクロヘキセノンにリチウム(E)−ジ−[4−トリイソプロピルシリルオキシ]−2−ブテニルキュプレート
【化61】

の共役付加を行ってシリルエノールエーテル
【化62】

を立体選択的に得る。この共役付加は例えば−40℃で1時間行う。
【0019】
次に、このシリルエノールエーテルを亜鉛エノラートを介して官能基を付けたフルアルデヒドとアルドール反応を行う。具体的には、このシリルエノールエーテルをTHF中でブチルリチウム(BuLi)と例えば−30℃で2時間反応させ、次に臭化亜鉛(ZnBr2 )と例えば−78℃で2時間反応させ、次に4−メチル−5−[tert−ブチルジメチルシリル]フルフラール
【化63】

と例えば−78℃で3時間反応させる。このアルドール反応により、ジアステレオ異性体混合物としてアルドール
【化64】

が得られる。収率は84%(2工程)であった。期待どおり、ビニルキュプレートの共役付加は専らシクロヘキセン環上の第二級メチル基の反対側から起こった。
【0020】
得られた化合物の物理測定データは下記のとおりである。
化合物(β):[α]28D = -6.6°(c 1.50, CHCl3 ); IR (neat)3450, 2866, 1703, 1464, 1250, 883, 775 cm -1; 1H NMR (CDCl3, 270 MHz)δ 0.23(s,3 H), 0.24(s,3 H), 0.88(s, 9 H), 0.91(d,J = 6.8 Hz, 3 H), 1.02-1.10(m, 21 H, involving a singlet at 1.07), 1.50-1.65 (m, 4 H, involving a singlet at 1.57), 1.90 (ddd,J = 4.6, 11.7, 13.7 Hz, 1 H), 2.05(s, 3 H), 2.16-2.38(m, 2 H), 2.46(dd,J = 4.5, 13.7 Hz, 1 H), 2.59 (dt,J = 4.6, 11.2 Hz, 1 H), 2.83 (dd,J = 4.3, 11.2 Hz, 1 H), 4.12-4.30 (m, 3 H, involving a doublet at 4.15, J = 10.2 Hz), 4.66 (dd, J = 4.5, 10.2 Hz, 1 H), 5.36 (bt,J = 5.6 Hz, 1 H), 6.08 (s, 1 H); 13C NMR (67.8 MHz, CDCl3 ) δ -5.56,
-5.53, 11.59, 12.10 (3 C), 13.15, 17.89, 18.12 (6 C), 20.18, 26.54 (3 C), 28.45, 35.73, 43.14 , 48.21, 55.29, 60.25, 67.77, 111.55, 127.99, 131.96, 135.11, 152.15, 158.14, 214.20; HRMS Calcd for C32H58O4Si2 ([M] + ); 562.3874. Found: 562.3877.
【0021】
化合物(α):[α]28D = +80.6 °(c 0.64, CHCl3 ); IR (neat) 3500, 2866, 1705,
1464 , 1250, 1103, 1061, 883 cm -1; 1H NMR (CDCl3 , 270 MHz)δ 0.22 (s, 6 H), 0.86 (s, 9 H), 1.00-1.12 (m, 24 H, involving a singlet at 1.06 and a doublet at 1.00, J = 6.9Hz), 1.60-1.68 (m, 4 H, involving a singlet at 1.62), 1.95-2.15 (m, 5 H, involving a singlet at 2.05), 1.95-2.15 (m, 5 H, involving a singlet at 2.05), 2.35-2.48 (m,1 H), 2.57 (dd, J = 5.6, 12.9 Hz, 1 H), 2.89 (dt,J = 4.0, 10.9 Hz, 1 H), 2.98 (dd, J = 2.5, 10.9 Hz, 1 H), 3.77 (d, J = 10.9 Hz, 1 H), 4.27 (bd,J = 5.8 Hz, 2 H), 4.63 (dd, J = 2.0, 10.9 Hz, 1 H), 5.57 (bt, J = 5.8 Hz, 1 H),
6.10 (s, 1 H); 13C NMR(67.8 MHz, CDCl3 )δ -5.67, -5.63, 11.54, 12.12 (3 C), 13.25, 17.80, 18.10 (6 C), 19.21, 26.40 (3 C), 30.80, 36.15, 45.75, 48.89, 55.42, 60.28, 67.25, 109.16, 128.32, 132.26, 135.56, 151.54, 159.74, 213.94; HRMS Calcd
for C32H58O4Si2 ([M] + );562.3874.Found: 562.3849.
【0022】
次に、1,1’−チオカルボニルジイミダゾール(Im2 C=S)によりアドールの脱水を行い、エノン(E/Z=96:4)を得る。脱水は、具体的には、例えば、トルエン中でIm2 C=Sを用いて70〜90℃で6.5時間行う。収率は92%であった。次に、ウイルキンソン触媒の存在下、得られたエノンのヒドロシリル化反応を行う(I. Ojima, T. Kogure, Organometallics. 1, 1390(1982))。このヒドロシリル化反応は、具体的には、例えば、THF中でウイルキンソン触媒としてクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)の存在下、トリエチルシラン(Et3 SiH)と例えば50℃で2時間反応させる。次に、こうして得られたシリルエノールエーテルをTHFおよびメタノール(MeOH)中で例えば室温で1時間K2 CO3 により処理する。収率は86%であった(2工程)。この結果、三置換シクロヘキサノン
【化65】

が所望の立体化学で得られる(収率79%、3工程)。
【0023】
得られた化合物の物理測定データは下記のとおりである。
[α]30D = +23.0°(c 4.00, CHCl3 ); IR (neat) 2866, 1713, 1464, 1389, 1250, 1111, 1061, 883, 758 cm -1; 1H NMR (CDCl3 , 270 MHz)δ 0.21 (s, 6 H), 0.87 (s, 9 H), 0.95 (d, J = 7.1 Hz, 3 H), 1.02-1.14 (m, 21 H, involving a singlet at 1.07),
1.52-1.62 (m, 4 H, involving a broad singlet at 1.57), 1.93-2.04 (m, 4 H, involving a singlet at 2.01), 2.13-2.19 (m, 1 H), 2.33-2.57 (m, 4 H), 2.68-2.77 (m, 1
H), 2.97(dd, J = 8.2, 15.0 Hz, 1 H), 4.27 (bd, J = 5.8 Hz, 2 H), 5.42(bt, J = 5.8 Hz, 1 H), 5.82 (s, 1 H); 13C NMR (67.8 MHz, CDCl3 )δ -5.58, -5.55, 11.54, 12.12 (3 C),12.67, 17.81, 18.10 (6 C), 19.42, 25.64, 26.47 (3 C), 30.37, 36.22, 48.03, 48.63, 51.93, 60.32, 109.61, 127.93, 132.15, 135.98, 150.72, 157.82, 210.77; HRMS Calcd for C32H58O3Si2 ([M] + ); 546.3924. Found: 546.3934.
【0024】
次に、この三置換シクロヘキサノンをTHF中でリチウムトリエチル水素化ホウ素(LiBEt3 H)で例えば−78℃で30分還元する。この結果、ほぼ定量的に単一のβ−アルコール
【化66】

が得られる。収率は98%であった。
【0025】
得られた化合物の物理測定データは下記のとおりである。
[α]30D = +6.7 ° (c 1.50, CHCl3 ); IR (neat) 3450, 2866, 1603, 1464, 1389, 1250, 1101, 1059, 883, 835 cm -1; 1H NMR (CDCl 3 , 270 MHz)δ 0.23 (s, 3 H),0.23
(s, 3 H), 0.88 (s, 9 H), 1.02-1.11 (m, 21 H, involving a singlet at 1.07), 1.13
(d,J = 7.3 Hz, 3 H), 1.35-1.43 (m, 1 H), 1.51-1.72 (m, 8 H, involving a singlet
at 1.54), 1.80-2.00 (m, 2 H), 2.04 (s, 3 H), 2.37 (bdt, J = 3.6, 9.6 Hz, 1 H),2.59 (dd, J = 2.0, 7.8 Hz, 1 H), 3.76-3.82 (m, 1 H), 4.29 (bd, J = 5.8 Hz, 2 H), 5.45 (bt, J =5.8 Hz, 1 H), 5.83 (s, 1 H); 13C NMR (67.8 MHz, CDCl3 ) δ -5.61, -5.56, 11,57, 12,17 (3 C), 13.70, 17.84, 18.12 (6 C), 21.56, 26.47 (3 C), 27.07, 27.56, 35.98, 37.95, 41.44, 43.07, 60.58, 68.29, 109.59, 126.29, 132.13, 137.65,
151.39, 158.52; HRMS Calcd for C32H60O3Si2 ([M] + ); 548.4081. Found: 548.4113.
【0026】
次に、このβ−アルコールに対して、通常の五段階の反応、つまり(i)アセチル化、(ii)トリイソプロピルシリル(TIPS)基の除去、(iii)二酸化マンガン(MnO2 )による酸化、(iv)アルデヒドへのメチルリチウム(MeLi)の付加、(v)テトラプロピルアンモニウムペルルテネート(TPAP)による第二級アルコールの酸化、を行い、メチルケトン
【化67】

に変換する。具体的には、(i)の反応は、無水酢酸(Ac2 O)、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、ジクロロメタン(CH2 Cl2 )を用いて例えば室温で1.5時間行う。(ii)の反応は、THF中でフッ化テトラ−n−ブチルアンモニウム(TBAF)を用いて例えば室温で5.5時間行う。収率は96%であった(2工程)。(iii)の反応は、CH2 Cl2 中でMnO2 により例えば室温で13時間行う。(iv)の反応は、エーテル(Et2 O)中でMeLiを用いて例えば−100℃で3時間行う。(v)の反応は、CH2 Cl2 中でTPAPおよび4−メチルモルフォリン−N−オキサイド(NMO)、モレキュラーシーブ4Aを用いて例えば室温で1.5時間行った。収率は95%であった(3工程)。全体の収率は91%である。
【0027】
得られた化合物の物理測定データは下記のとおりである。
[α]30D = -26.2 °(c 1.63, CHCl3 ); IR (neat) 2928, 2856, 1740, 1688, 1611, 1244, 775 cm-1; 1H NMR (CDCl3 , 270 MHz)δ 0.22 (s, 3 H), 0.22 (s, 3 H), 0.87 (s,
9 H), 1.06 (d, J = 7.1 Hz, 3 H), 1.82 (m, 4 H), 1.92-2.21 (m, 14 H, involving singlets at 2.02, 2.07, 2.21 and a doublet at 2.09, J = 1.2 Hz), 2.41-2.53(m, 3 H), 4.92 (dt, J = 3.3, 5.1 Hz, 1 H), 5.76 (s, 1 H), 6.26 (s, 1 H); 13C NMR (67.8
MHz, CDCl3 )δ -5.63, -5.60, 11.51, 16.46, 17.80, 21.03, 21.39, 26.45 (3 C), 26.65, 27.53, 32.04, 34.50, 35.53, 40.64, 43.89, 70.94, 109.91, 124.45, 132.03, 151.67, 156.73, 159.91, 170.06, 198.55; HRMS Calcd for C22H33O4Si([M- t u] + ); 389.2148. Found: 389.2176.
【0028】
次に、フラン環の光増感酸化反応をハロゲンランプおよびローズベンガルを用いた勝村の方法に従って行う(S. Katsumura, K. Hori, S. Fujiwara, S. Isoe, Tetrahedron. Lett. 39, 4625(1985))。具体的には、CH2 Cl2 中でローズベンガル、酸素(O2 )雰囲気下で例えば0℃で12時間ハロゲンランプにより光照射を行う。これによって、所望のZ−γ−ケト−α,β−不飽和シリルエステルが定量的に得られる。これを直ちにTHF中でフッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)およびヨードメタン(MeI)を用いて例えば室温で1時間処理することにより安定なメチルエステル
【化68】

に変換する(T. Ooi, H. Sugimoto, K. Maruoka, Heterocycles 54,593(2001))。収率は97%であった(2工程)。
【0029】
得られた化合物の物理測定データは下記のとおりである。
[α]28D = -30.0 °(c 1.35, CHCl3 ); IR (neat) 2953, 1736, 1688,1612, 1371, 1246, 1138, 1028, 964 cm -1; 1H NMR (CDCl3 , 270 MHz)δ 1.05 (d, J = 7.1 Hz, 3 H),1.43 (dt, J = 4.5, 13.4 Hz, 1 H), 1.63-1.82 (m, 3 H), 1.92-2.58 (m, 17H, involving singlets at 2.04, 2.21 and doublets at 2.00, J = 1.6 Hz, 2.06, J = 1.2 Hz), 3.77(s, 3 H), 5.04-5.08 (m, 1 H), 6.08 (q, J = 1.6 Hz, 1 H), 6.22 (s, 1 H);13C NMR (67.8 MHz, CDCl3 ) δ 16.96, 20.28, 21.02, 21.37, 26.52, 32.00, 34.62, 35.29, 36.12, 42.10, 43.97, 52.33, 71.47, 124.69, 129.89, 141.09, 159.13, 169.02, 170.10, 197.97, 198.54; HRMS Calcd for C21H30O6 ([M] + ); 378.2042. Found: 378.2060.
【0030】
次に、得られたメチルエステルをTHF中でtert−ブチルジメチルシリルトリフルオロメタンスルホン酸塩(TBSOTf)およびN,N,−ジメチルエチルアミン(Me2 NEt)で例えば0℃で30分処理することによりトリエン
【化69】

を合成した。この工程の収率は100%であった。
【0031】
得られた化合物の物理測定データは下記のとおりである。
[α]28D = -9.7°(c 1.13, CHCl3 ); IR (neat) 2930, 2858, 1738, 1369, 1246, 1136, 837, 781 cm -1; 1H NMR (CDCl3 , 270 MHz)δ 0.17 (s, 6 H), 0.94 (s, 9 H), 1.05
(d, J = 7.3 Hz, 3 H), 1.37-1.46 (m, 1 H), 1.67-1.80 (m, 5 H, involving a doublet at 1.80, J = 1.2 Hz), 1.97-2.07 (m, 8 H, involving a singlet at 2.04 and a doubletat 1.99, J = 1.6 Hz), 2.27-2.44 (m, 4 H), 3.76 (s, 3 H), 4,21 (s, 1 H), 4.35
(s, 1H), 5.02-5.06 (m, 1 H), 5.68 (s, 1 H), 6.08 (q, J = 1.6 Hz, 1 H); 13C NMR
(67.8 MHz, CDCl3 )δ -4.27 (2 C), 15.03, 18.35, 20.30, 20.95, 21.46, 25.91 (3 C), 26.56, 34.69, 35.53, 36.98, 42.40, 43.09, 52.30, 72.13, 95.92, 124.72, 130.28, 140.62, 141.16, 155.14, 169.17, 170.21, 198.56; HRMS Calcd for C27H44O6Si ([M]
+ ); 492.2907.Found:492.2878.
【0032】
次の工程は、重要な分子内ディールス−アルダー反応である。この反応は、上記のトリエンの1,2,4−トリクロロベンゼン溶液を、例えば240℃に加熱した同一の溶媒に滴下することにより行う。反応時間は例えば1.5時間とする。この反応は高い効率で進み、後述のエキソ遷移状態
【化70】

を経て、
エキソおよびエンド付加体(adduct)
【化71】

がそれぞれ72:28の混合物として98%の収率で得られた。
【0033】
次に、得られた付加体をTHF中でフッ化水素(HF)−ピリジン(Py)で例えば室温で3時間処理することにより、結晶性化合物
【化72】

を簡単な結晶化により容易に得ることができた。収率は51%であった(2工程)。この結晶性化合物の立体構造はX線結晶解析により明確に確認され、エキソ付加体のものであることが決定された。従って、トリエンの分子内ディールス−アルダー反応は期待どおりエキソ遷移状態を経て立体選択的に進行してC−12およびC−22位に二つの四級不斉炭素中心を持つABC環部が生じた。この段階で5−メチル−2−シクロヘキセノンからの結晶性化合物の全収率は16工程で29%と著しく高い。
【0034】
得られた化合物の物理測定データは下記のとおりである。
mp 203-204 °C;[α]30D = -73.1°(c 1.70, CHCl3 ); IR (CHCl3 ) 3022, 2951, 1732, 1466, 1435, 1312, 1244, 1170, 1126, 1097, 1051, 1024, 943, 754 cm -1; 1H NMR(CDCl3 , 270 MHz) δ 1.04 (s, 3 H), 1.13 (d, J = 7.4 Hz, 3 H), 1.35-1.46 (m, 4 H, involving a singlet at 1.39), 1.52-1.69 (m, 2 H), 1.88-2.35 (m, 11 H, involving a singlet at 2.11), 2.52 (dd, J = 1.3, 14.7 Hz, 1 H), 2.72 (dd, J =1.3, 14.7 Hz, 1 H), 2.78 (s, 1 H), 3.70 (s, 3 H), 4.91 (q, J = 3.0 Hz, 1 H); 13C NMR (67.8MHz, CDCl3 )δ 16.09, 20.66, 21.44, 26.23, 28.63, 30.65, 34.45, 40.70, 43.33, 44.16, 45.11, 45.78, 50.54, 52.12, 52.52, 66.53, 72.47, 170.09, 174.97, 206.32, 206.76; HRMS Calcd for C21H30O6 ([M] + ); 378.2042. Found: 378.2076.
立体異性体: mp 230-233°C; [α] 30D = -82.7° (c 1.00, CHCl3 ); IR(CHCl3 ) 2878, 1724, 1366, 1240, 1097, 1022, 945 cm-1; 1H NMR (CDCl3 , 270 MHz)δ 1.13 (d, J
= 7.4 Hz, 3 H), 1.20 (dd, J = 4.6, 12.7 Hz, 1 H), 1.28(s, 3 H), 1.38 (s, 3H), 1.61-2.25 (m, 12 H, involving a singlet at 2.11 and a double doublet at 2.23, J = 3.8, 11.7 Hz), 2.50 (d, J = 14.7 Hz, 1 H), 2.59 (bt, J = 12.6 Hz, 1 H), 3.18 (s , 1 H), 3.24 (d, J = 14.7 Hz, 1 H), 3.65 (s, 3 H), 4.94-4.95 (m, 1 H);13C NMR (67.8 MHz, CDCl3 ) δ 20.20, 21.41, 26.39, 26.82, 27.96, 31.53, 34.92, 39.49, 43.17, 44.02, 44.77, 46.19, 47.08, 47.29, 52.26, 62.70, 73.28, 170.05, 177.36, 209.63, 211.11; HRMS Calcd for C21H30O6 ([M] + ); 378.2042. Found: 378.2044.
【0035】
次に、C−9位にあるもう一つの四級不斉炭素中心の構築を行う。この特定の立体位置を立体選択的に構築するために、次に示すような合成経路を設計した。これは、後述のように、ケトアルコールの分子内アシル化反応とその結果得られるケトラクトンのC−メチル化反応とを鍵工程として含む。
【0036】
まず、上記の結晶性化合物をTHFおよびCH2 Cl2 中でトリ−sec −ブチル水素化ホウ素カリウム(K−セレクトライド)で処理することにより高度に立体選択的な方法でヒドロキシラクトン
【化73】

に変換する。この処理は、具体的には、例えば、まず−78℃で行った後、−10℃で11時間行う。
【0037】
次に、このヒドロキシラクトンを、(i)tert−ブチルジメチルシリル(TBS)基による第二級アルコールの保護、(ii)アセテートの除去、(iii)トリエチルシリル(TES)基によるA環中のヒドロキシ基の保護、の三段階の反応を行って化合物
【化74】

に変換する。具体的には、(i)は、CH2 Cl2 中でTBSOTf、2,6−ルチジン(2,6−ジメチルピリジン)を用いて例えば室温で4時間処理することにより行う。収率は82%であった(2工程)。(ii)は、トルエン中でチタン(IV)エトキシド(Ti(OEt)4 )を用いて例えば100℃で24時間行う。(iii)は、CH2 Cl2 中でトリエチルシリルトリフルオロメタンスルホネート(TESOTf)、2,6−ルチジンを用いて例えば0℃で1時間処理することにより行う。収率は90%であった(3工程)。
【0038】
得られた化合物の物理測定データは下記のとおりである。
[α] 26D = -9.6° (c 1.25, CHCl3 ); IR (CHCl3 ) 2953, 1778, 1508, 1254, 1099 cm -1; 1 H NMR (CDCl3 , 270 MHz)δ 0.05 (s, 3 H), 0.16 (s, 3 H), 0.59 (bq, J = 8.1Hz, 6 H), 0.91 (s, 9 H), 0.97 (bt, J = 8.1 Hz, 9 H), 1.13 (d, J = 7.4 Hz, 3 H),
1.23 (s, 3 H), 1.25 (s, 3 H), 1.28-1.69 (m, 10 H), 1.80 (d, J = 11.2 Hz, 1H), 1.95-2.00 (m, 1 H), 2.08 (ddd, J = 1.6, 4.7, 13.9 Hz, 1 H), 2.26 (ddd, J = 1.6, 5.9, 11.0Hz, 1 H), 3.72-3.77 (m, 1 H), 4.32-4.37 (m, 1 H), 4.71 (bt, J = 5.1 Hz,1
H); 13C NMR (67.8 MHz, CDCl3 )δ -4.65, -3.71, 5.12 (3 C), 7.21 (3 C), 18.11, 18.70, 21.40, 21.45, 25.89 (3 C), 27.21, 31.17, 36.78, 37.75, 38.54, 38.58, 42.51, 43.66, 44.48, 49.34, 58.56, 67.88, 71.61, 75.49, 179.94; HRMS Calcd for C26H47O4 Si2 ([M- t u] + ); 479.3013. Found: 479.3049.
【0039】
次に、得られた化合物をトルエン中でジイソブチル水素化アルミニウム(DIBAL)で例えば−78℃で2時間還元を3回繰り返し行った後、得られたラクトールをメチル−d3−トリフェニル臭化ホスホニウム(Ph3 PCD3 Br)とウィッティッヒ(Wittig)反応させ、ビニル誘導体を得る。次に、このビニル誘導体を9−ボラビシクロ[3.3.1]ノナン(9−BBN)によりヒドロホウ素化を行ってジオール
【化75】

を得る。上記のウィッティッヒ反応は具体的には、THF中でPh3 PCD3 Br、カリウムヘキサメチルジシラジド(KHMDS)を用いて例えば0℃で2時間行う。また、続く反応は、具体的には、THF中で9−BBNを用いて例えば80℃で1時間行った後、過酸化水素(H2 2 )を用いて室温で12時間行った。こうして高い効率でジオールが得られる。
【0040】
次に、ジオールの第二級アルコールの化学選択的な酸化を、モリブデン酸アンモニウム((NH4 6 Mo7 24・24H2 O)および過酸化水素(H2 2 )を用いたトロスト(Trost)の方法(B. M. Trost, Y. Masuyama, Tetrahedron. Lett. 25, 173(1984))により行い、ケトアルコール
【化76】

を得る。具体的には、この酸化は、THF中でモリブデン酸アンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム(TBAC)、K2 CO3 、H2 2 を用いて例えばまず室温で、続いて50℃で7時間行った。収率は90%であった(3工程)。
【0041】
得られた化合物の物理測定データは下記のとおりである。
[α] 29D = -16.8 °(c 1.00, CHCl3 ); IR (CHCl3 ) 3420, 2953, 1701, 1464,1381, 1256, 1057, 833, 756 cm -1; 1H NMR (CDCl3 , 270 MHz) δ 0.08 (s, 3 H), 0.09 (s,3H), 0.60 (bq, J = 8.2 Hz, 6 H), 0.89 (s, 9 H), 0.94-1.02 (m, 10 H, involving a broad triplet at 0.98, J = 8.2 Hz), 1.11-1.80 (m, 9 H, involving singlets at 1.15, 1.18, and a doublet at 1.12, J = 7.4 Hz), 1.80-2.20 (m, 3 H), 2.34 (dd, J = 2.3, 12.4 Hz, 1 H), 2.40 (d, J = 14.2 Hz, 1 H), 2.50 (dd, J = 2.4, 12.4 Hz, 1 H), 3.75-3.80 (m, 1 H), 4.54-4.58 (m, 1 H); 13C NMR (67.8 MHz, CDCl3 ) δ -4.40, -3.55, 5.05 (3 C), 7.16 (3 C), 18.02, 18.37, 21.14, 26.01 (3 C), 27.25, 28.36, 30.92, 36.39, 36.84, 38.43, 39.89, 42.35, 43.63, 43.68, 54.17, 56.49, 59.01, 68.14, 71.64, 212.27 (one peak missing); HRMS Calcd for C27H49D2O4Si2 ([M- t Bu]); 497.3449. Found: 497.3444.
【0042】
次に、このケトアルコールを合成中間体として、C−9位の四級不斉炭素中心の立体選択的構築を行う。鍵となる変換は以下のようにして実現する。
ケトアルコールをTHFおよびヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)中で75℃でジメチルカーボネート[(MeO)2 C=O]およびリチウムtert−ブトキシド(tBuOLi)で処理する。これにより、カーボネートの生成、および続く分子内アシル化反応が円滑に生じてβ−ケトラクトンのリチウムエノレートが生成する。次に、このリチウムエノレートをヨードメタン(MeI)と反応させ、単一の生成物としてメチルエノールエーテル
【化77】

を得る。具体的には、上記の処理は、THF中で(MeO)2 C=O、tBuOLi、HMPAを用いて例えば75℃で4時間行った後、MeIを用いて例えば室温で2時間行う。収率は92%であった。
【0043】
得られた化合物の物理測定データは下記のとおりである。
[α] 29D = +24.5° (c 0.84, CHCl3 ); IR (CHCl3 ) 2953, 2878, 1746, 1462,1254,
1221, 1128, 1096, 1042, 949, 833 cm -1; 1H NMR (CDCl3 , 270 MHz)δ 0.07 (s, 3 H), 0.08 (s, 3 H), 0.59 (bq, J = 8.2 Hz, 6 H), 0.88 (s, 9 H), 0.94-1.00 (m, 10 H,
involving a triplet at 0.97, J = 8.2 Hz), 1.07 (s, 3 H), 1.15-1.72 (m, 15 H, involving a singlet at 1.22 and a doublet at 1.16, J = 7.4 Hz), 1.91 (d, J = 16.7 Hz, 1 H),2.00-2.11 (m, 1 H), 2.38 (d, J = 16.7 Hz, 1 H), 2.91 (d, J = 14.2 Hz, 1
H), 3.69 (s, 3 H), 3.78 (bq, J = 2.6 Hz, 1 H), 4.45-4.50 (m, 1 H); 13C NMR (67.8 MHz, CDCl3 )δ-4.49, -3.05, 5.08 (3 C), 7.19 (3 C), 16.93, 18.25, 21.21, 26.21 (3 C), 27.44, 31.82, 32.51, 32.55, 36.13, 36.78, 37.12, 38.54, 39.70, 41.46, 41.51, 54.09, 56.03, 68.07, 71.71, 110.86, 158.32, 168.20 (one peak missing); HRMS Calcd for C33H58D2O5Si2 ([M] + ); 594.4103. Found: 594.4105.
【0044】
次に、得られたメチルエノールエーテルをTHFおよび1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン(DMPU)中でtBuOLiで処理した後、MeIを添加することにより、標的化合物
【化78】

が単一の立体異性体として収率83%で得られた。この化合物では、新たなメチル基がC−9位にβ側から高立体選択的に導入された。上記の処理は、具体的には、THF中でtBuOLi、DMPUを用いて0℃〜室温で1時間行った後、MeIを用いて室温で2時間行った。収率は83%であった。
【0045】
得られた化合物の物理測定データは下記のとおりである。
[α] 29D = +0.6°(c 0.85, CHCl3 ); IR (CHCl3 ) 3018, 2953, 1746, 1666, 1462, 1217, 1142, 1094, 1005, 976, 943, 835 cm -1; 1H NMR (CDCl3 , 270 MHz) δ 0.09 (s,3 H), 0.10 (s, 3 H), 0.59 (bq, J = 7.9 Hz, 6 H), 0.89-1.03 (m, 22 H, involving singlets at 0.89, 1.03 and a triplet at 0.96, J = 7.9 Hz), 1.14 (d, J = 7.4 Hz, 3
H), 1.17 (s, 3 H), 1.25-1.72 (m, 12 H, involving a singlet at 1.33), 2.00-2.13 (m, 1 H), 3.07 (bd, J = 15.5 Hz, 1 H), 3.51 (s, 3 H), 3.75-3.80 (m, 1 H), 4.46-4.51 (m, 1 H), 4.79 (s, 1 H); 13C NMR (67.8 MHz, CDCl3 )δ -4.11, -3.83, 5.12 (3 C), 7.17 (3C), 18.02, 19.11, 19.87, 21.55, 25.99 (3 C), 27.56, 28.72, 31.22, 34.16, 37.21, 37.52, 38.68, 38.81, 39.54, 41.46, 49.22, 52.92, 54.81, 68.44, 71.65,
104.00, 152.37, 174 .61 (one peak missing); HRMS Calcd for C34H60D2O5Si2 ([M] + ); 608.4259. Found: 608.4253.
【0046】
次に、上記の化合物にメチルリチウム(MeLi)を付加する。この反応は、具体的には、エーテル(Et2 O)中でMeLiを用いて例えば0℃で1時間行う。次に、得られた第一級アルコールをTBS基で保護し、
【化79】

を得る。この保護は、具体的には、塩化tert−ブチルジメチルシリル(TBSCl)、トリエチルアミン(Et3 N)、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を用いて例えば室温で3時間行う。収率は88%であった(2工程)。
【0047】
得られた化合物の物理測定データは下記のとおりである。
[α] 29D = +18.5 °(c 0.65, CHCl3 ); IR (CHCl3 ) 2953, 2856, 1699, 1668, 1472,
1387, 1254, 1219, 1142, 1057, 1007, 837 cm-1; 1H NMR (CDCl3 , 270 MHz)δ-0.03(s, 3 H), -0.02 (s, 3 H), 0.07 (s, 3 H), 0.09 (s, 3 H), 0.57 (bq, J = 8.1 Hz, 6 H),0.81-0.98 (m, 31 H, involving singlets at 0.84, 0.89 and a triplet at 0.95, J =
8.1 Hz), 1.10-1.72 (m, 17 H, involving singlets at 1.11, 1.13 and 1.31), 1.98-2.10 (m, 2 H), 2.22 (s, 3 H), 2.75 (d, J = 14.2 Hz, 1 H), 3.49 (s, 3 H), 3.73-3.78 (m, 1 H), 4.41-4.46 (m, 1 H), 4.89 (s, 1 H); 13C NMR (67.8 MHz, CDCl3 )δ -5.24, -5.16,-4.31, -3.71, 5.12 (3 C), 7.19 (3 C), 18.05, 18.18, 19.32, 19.93, 20.20, 21.51, 25.96(3 C), 26.03, 26.08 (3 C), 27.70, 30.62, 31.48, 36.29, 37.27, 37.39, 38.80, 40.29, 41.88, 42.15, 51.80, 53.94, 59.90, 68.75, 71.93, 105.28, 154.78, 213.04; HRMS Calcd for C41H78D2O5Si3 ([M] + ); 738.5437. Found: 738.5441.
【0048】
次に、得られた化合物に対して、エノールトリフルオロメタンスルホネートの生成、その後のジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)による脱離反応を行うことにより、アルキンセグメント
【化80】

を得る。これらの反応は、具体的には、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(Tf2 O)、2,6−ジ−tert−ブチルピリジン(2,6−ジ−tBuPy)、ジクロロエタン(CH2 Cl)2 )を用いて例えば室温で3時間行った後、DBUを用いて例えば80℃で3時間行う。収率は81%であった。
【0049】
得られた化合物の物理測定データは下記のとおりである。
[α] 30D = +6.7°(c 0.45, CHCl3 ); IR (CHCl3 ) 3308, 2856, 2361, 1668, 1254, 1217, 1057, 1007, 837 cm-1; 1H NMR (CDCl3 , 270 MHz)δ 0.00 (s, 3 H), 0.01 (s, 3 H), 0.09 (s, 3 H), 0.14 (s, 3 H), 0.58 (bq, J = 8.2 Hz, 6 H), 0.87 (s, 9 H), 0.92(s, 9 H), 0.96 (t, J = 7.7 Hz, 9 H), 1.09 (s, 3 H), 1.13 (d, J = 7.4 Hz, 3 H), 1.23 -1.70 (m, 15 H, involving singlets at 1.26 and 1.32), 1.97 (d, J = 13.8 Hz,
1 H), 1 .97-2.10 (m, 1 H), 2.18 (s, 1 H), 2.58 (bd, J = 13.8 Hz, 1 H), 3.58 (s,
3 H), 3.74-3.79 (m, 1 H), 4.41-4.45 (m, 1 H), 4.68 (s, 1 H); 13C NMR (67.8 MHz,
CDCl3 ) δ -5.17, -5.04, -4.42, -3.85, 5.00 (3C), 7.05 (3C), 17.94, 18.22, 20.09, 21.44, 25.66, 26. 00 (3C), 27.53, 31.32, 37.15, 37.29, 37.77, 38.65, 40.09, 41.59, 41.84, 46.40, 50.01, 55.04, 68.62, 70.69, 71.79, 88.74, 101.41, 153.22 (two peak missing); HRMS Calcd for C41H76D2O4Si3 ([M] + ); 720.5331. Found: 720.5319.
【0050】
以上のようにして、重水素の動力学的同位体効果を利用してアルキンセグメントを効率的に合成することができる。重水素置換されていないメチルケトンは、所望のアルキン(重水素置換されていないアルキンセグメント、66%)とともに、相当量の副生成物、すなわち重水素置換されていない
【化81】

を30%生成する。
【0051】
得られた化合物の物理測定データは下記のとおりである。
[α] 30D = +25.0 °(c 1.00, CHCl3 ); IR (CHCl3) 2953, 1665, 1472, 1379, 1254, 1140, 1055, 1067, 835, 760 cm -1; 1H NMR (CDCl3 , 270 MHz) δ 0.08 (s, 3 H), 0.11(s, 3 H), 0.58 (bq, J = 7.9 Hz, 6 H), 0.90-0.99 (m, 21 H, involving a singlet at 0.91 and a triplet at 0.96, J = 7.9 Hz), 1.07 (s, 3 H), 1.13 (d, J = 7.4 Hz, 3 H), 1.25 (s, 3 H), 1.29-1.72 (m, 12 H), 2.03 (br, 1 H), 3.47 (s, 3 H), 3.75 (s, 3 H), 4.46 (bs, 1 H), 4.76 (s, 1 H), 5.21-5.22 (m, 1 H), 6.23 (d, J = 6.1 Hz, 1 H); 13C NMR(67.8 MHz, CDCl3 ) δ -4.19, -3.65, 5.13 (3 C), 7.21 (3 C), 17.65,
17.88, 18.16, 19.08, 21.50, 25.28, 26.07 (3 C), 27.68, 31.22, 36.91, 37.05, 38.86, 39.64, 40.45, 41.36, 44.98, 45.06, 49.79, 54.14, 69.51, 71.93, 106.12, 111.89,112.09, 155.65; HRMS Calcd for C35H63DO4Si2 ([M] + ); 605.4405. Found: 605.4449.
【0052】
この重水素置換されていない副生成物が重水素置換されていない上記の化合物から1,5−ヒドリドシフトによって生成されるというメカニズム
【化82】

の解析の結果に示すように、上記の副生成物の生成を抑えるためにこの特定のアルキニル化反応に重水素の動力学的同位体効果を使用するというアイデアに至った。実際、上記の副生成物の生成はこの同位体効果により9%以下に抑えられた(D. L. J Clive, M. Cantin, A. Khodabocus, X. Kong, Y. Tao, Tetrahedron,49,7917(1993);D. L. J Clive, Y.
Tao, A. Khodabocus, Y-J. Wu, A. G. Angoh, S. M. Benetee, C. N. Boddy, L. Bordeleau, D. Kellner, G. Kleiner, D. S. Middleton, C. J. Nicholas, S. R. Richardson, P. G. Venon, J. Am. Chem. Soc. 116,11275(1994);E. Vedejs, J. Little, J. Am. Chem. Soc. 124,748(2002))。
【0053】
次に、ヤコブセン(Jacobsen)の動力学的光学分割法(H. Lebel, E. N. Jacobsen, Tetrahedron. Lett. 40, 7303(1999))により(R)−シトロネロールから出発してアミノアルコールフラグメント
【化83】

を合成する。
【0054】
得られた化合物の物理測定データは下記のとおりである。
(93:7混合物): [α] 30D = -24.5° (c 1.50, CHCl3 ); IR (neat) 2978, 2936, 2878, 1699, 1394, 1366, 1258, 1177 cm -1; 1H NMR (CDCl3 , 270 MHz) δ 1.04 (d, J = 6.4 Hz, 3 H), 1.40-1.70 (m, 17 H, involving singlets at 1.47, 1.52 and 1.55), 2.13-2.34 (m, 2 H), 2.47-2.54 (m, 1 H), 2.95-3.10 (m, 1 H), 3.58-3.77 (m, 1 H), 4.04-4.15(m, 1 H), 9.76 (s, 1 H); 13C NMR (67.8 MHz, CDCl3 ) δ 20.51, 24.34, 25.25, 25.46, 26.37, 27.36, 28.51, 39.94, 50.76, 51.18, 71.43, 71.64, 79.40, 80.02, 92.92, 93.34, 151.67, 152.04, 202.04, involving peaks due to tautomer; HRMS Calcd for C15H28NO4([M+H] + ); 286.2018. Found: 286.2034.
【0055】
次に、鍵工程となる上記のアルキンセグメントと上記のようにして合成したアミノアルコールフラグメントとのカップリングを行い、次にA環部に二重結合を導入し、最後にビス−アミノアセタール化を行ってDEFG環骨格を形成する。
すなわち、まず、THF中で上記のアルキンセグメントと上記のアミノアルコールフラグメントとのカップリング反応をブチルリチウム(BuLi)を用いて行った後、付加体を1,1,1−トリアセトキシ−1,1−ジヒドロ−1,2−ベンジオドクソール−3(1H)−オン(DMP)により酸化することで、アルキニルケトン
【化84】

が収率82%で得られる。カップリング反応は、具体的には、THF中でBuLiを用いて例えば−30℃で30分行った後、−78℃で1時間行う。酸化は、具体的には、DMP、ピリジン、CH2 Cl2 を用いて例えば室温で2時間行う。収率は82%であった。
【0056】
得られた化合物の物理測定データは下記のとおりである。
[α] 30D = -2.0 °(c 1.00, CHCl3 ); IR (CHCl3 ) 2955, 2930, 2880, 2858, 2210,
1703, 1672, 1464, 1391, 1366, 1256, 1219, 1177, 1059, 1009, 837 cm -1; 1H NMR (CDCl3 , 270 MHz) δ-0.02 (s, 3 H), -0.02 (s, 3 H), 0.08 (s, 3 H), 0.12 (s, 3 H),
0.57 (bq, J = 7.9 Hz, 6 H), 0.84 (s, 9 H), 0.90 (s, 9 H), 0.95 (t, J = 7.9 Hz,
9 H), 1.03 (d, J = 6.6 Hz, 3 H), 1.08 (bs, 3 H), 1.12 (d, J = 7.4 Hz,3 H), 1.24
(s, 3 H), 1.34 (s, 3 H), 1.38-1.69 (m, 27 H, involving a broad singlet at 1.47), 1.93 (d, J = 14.2 Hz, 1 H), 1.96-2.01 (m, 1 H), 2.24-2.63 (m,4 H), 2.95-3.77 (m, 1 H), 3.54( s, 3 H), 3.60-3.78 (m, 2 H, involving a singlet at 3.78), 4.05-4.18 (m, 1 H), 4.41(bs, 1 H), 4.67 (s, 1 H); 13C NMR (67.8 MHz, CDCl3 )δ -5.21, -5.06, -4.26, -3.93, 5.00, 7.06, 17.93, 18.12, 20.10, 20.49, 21.46, 24.28, 25.15,
26.01, 26.24, 27.12, 27.32, 27.51, 28.46, 31.34, 37.19, 37.29, 38.01, 38.62, 39.80, 40.01, 41.88, 41.90, 47.17, 49.96, 51.11, 52.74, 52.96, 54.76, 68.45, 71.75, 71.99, 79.27, 79.81, 83.72, 92.68, 93.19, 98.53, 103.43, 151.61, 151.97, 152.39, 186.83, involving peaks due to tautomer; HRMS Calcd for C56H101D2O8Si3 ([M] + ); 1003.7115. Found: 1003.7146.
【0057】
次に、得られたアルキニルケトンの三重結合を水素化する。この水素化は、具体的には、H2 、白金(IV)酸化物(PtO2 )、メタノール(MeOH)を用いて例えば室温で8時間行う。次に、酢酸水溶液(AcOH)を用いて例えば50℃で5時間処理することにより、アミノアセタール
【化85】

を得る。
【0058】
次に、得られたアミノアセタールの二つのtert−ブチルジメチルシリル(TBS)基をフッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)で除去する。具体的には、この反応は、THF中でTBAFを用いて例えば70℃で2時間行う。次に、第二級ヒドロキシ基をモリブデン酸アンモニウムで選択的に酸化して
【化86】

を得る。この選択的酸化は、具体的には、THF中でモリブデン酸アンモニウム、K2 CO3 、H2 2 を用いて例えば50℃で3時間行う。
【0059】
次に、得られた化合物の第一級アルコールをテトラプロピルアンモニウムペルルテネート(TPAP)で酸化してアルデヒドとする。このアルデヒド化は、具体的には、CH2 Cl2 中でTPAP、NMO、モレキュラーシーブ4Aを用いて例えば室温で1時間行う。次に、得られたアルデヒドを亜塩素酸ナトリウム(NaClO2 )で酸化してカルボン酸
【化87】

を得る。この酸化は、具体的には、NaClO2 、リン酸二水素ナトリウム(NaH2 PO4 )、2−メチル−2−ブテン(Me2 C=CH(Me))、H2 O、tert−ブタノール(tBuOH)を用いて例えば室温で1時間行う。収率は61%であった。
【0060】
得られた化合物(メチルエステル)の物理測定データは下記のとおりである。
[α] 30D = +5.9°(c 0.50, CHCl3 ); IR (CHCl3 ) 2956, 1703, 1396, 1290, 1244, 1176, 1120, 751 cm-1; 1H NMR (CDCl3 , 270 MHz)δ 0.90 (s, 3 H), 0.92 (s, 3 H), 1.01 (d, J = 7.1 Hz, 3 H), 1.08-1.33 (m, 9 H, involving a singlet at 1.17, and a doublet at 1.28, J = 8.2 Hz), 1.45 (s, 9 H), 1.53-1.61 (m, 2 H), 1.69-1.85 (m, 3
H), 1.89-2.26 (m, 7 H, involving a doublet at 2.18, J = 14.7), 2.44-2.68 (m, 6 H), 2.30 (s, 1 H), 3.14 (d, J = 14.7 Hz, 1 H), 3.34-3.55 (m, 2 H), 3.62 (bd, J =
2.1, 3 H), 4.41 (bs, 1 H); 13C NMR (67.8 MHz, CDCl3 ) δ 16.20, 18.98, 19.06, 19.20, 19.30, 19.56, 21.53, 21.58, 22.55, 23.06, 24.12, 28.42, 28.48, 29.73, 30.05, 30.18, 31.50, 36.46, 36.65, 37.56, 41.13, 41.57, 42.87, 46.39, 47.06, 47.14, 47.17, 49.28, 49.36, 50.28, 50.90, 50.99, 51.06, 51.17, 51.23, 51.27, 54.71, 54.75, 62.40, 62.43, 72.30, 72.41, 79.03, 79.61, 94.17, 94.26, 151.61, 152.36, 171.89, 172.01, 208.22, 208.50, 208.67, 208.73, 211.61, 211.77, involving peaks due to tautomer; HRMS Calcd for C35H53NO8 ([M] + ); 615.3771. Found: 615.3777.
【0061】
A環への二重結合の位置選択的導入は、伊藤−三枝の方法(Y. Ito, T. Hirao, T. Saegusa, J. Org. Chem. 43, 1011(1978))を用いて良好に行うことができる。まず、上記のカルボン酸をCH2 Cl2 中で(トリメチルシリル)ジアゾメタン(TMSCHN2 )でエステル化する。このエステル化は、具体的には、CH2 Cl2 中でTMSCHN2 、MeOHを用いて例えば室温で1時間行う。次に、得られた化合物をTHF中でTMSClおよびリチウムヘキサメチルジシラジド(LHMDS)で処理すると、A環のケトン部のトリメチルシリルエノールエーテルが選択的に生成する。この処理は、具体的には、例えば−65℃で1時間行う。次に、得られた化合物をアセトニトリル(CH3 CN)中でパラジウムアセテート(Pd(OAc)2 )と例えば50℃で2時間反応させることにより、所望のエノン
【化88】

が三工程の収率96%で得られた。
【0062】
得られた化合物の物理測定データは下記のとおりである。
[α] 30D = +9.7°(c 0.45, CHCl3 ); IR (CHCl3 ) 3020, 1703, 1640, 1398, 1217, 1128, 756 cm -1; 1H NMR (CDCl3 , 270 MHz) δ 0.90 (d, J = 1.1 Hz, 3 H), 0.92 (s,3
H), 1.09-1.31 (m, 9 H, involving a singlet at 1.17, and a doublet at 1.30, J = 7.9 Hz), 1.45 (s, 9 H), 1.52-1.83 (m, 3 H), 2.00-2.24 (m, 10 H, involving a singletat 2.00, and a doublet at 2.20, J = 14.8), 2.30-2.58 (m, 3 H), 2.76 (d, J = 12.2 Hz, 1 H), 2.80-2.88 (m, 1 H), 3.01 (s, 1 H), 3.16 (d, J = 14.8 Hz, 1 H), 3.34-3.55 (m, 2 H), 3.63 (bd, J = 2.1 Hz, 3 H), 4.42 (bs, 1 H), 5.92 (s, 1 H); 13C NMR (67.8 MHz, CDCl3 ) δ 16.73, 18.94, 19.35, 19.62, 21.54, 21.58, 22.57, 23.00, 24.12, 24.35, 28.42, 28.49, 30.09, 30.89, 31.55, 36.49, 36.70, 37.56, 41.09, 41.62, 43.14, 45.28, 45.42, 46.34, 46.37, 46.41, 48.43, 48.50, 50.90, 50.99, 51.09, 51.31, 51.82, 51.88, 54.73, 54.77, 62.07, 72.30, 72.42, 79.05, 79.61, 94.16, 94.22, 125.26, 151.63, 152.33, 159.86, 159.98, 171.84, 171.97, 197.69, 197.74, 207.49, 207.78, 211.37, 211.56, involving peaks due to tautomer; HRMS Calcd for C35H51NO8 ([M] + ); 613.3615.Found:613.3593.
【0063】
最終的な重要なビス−アミノアセタール化、すなわち、ノルゾアンタミンの全合成を達成するDEFG環部の構築は、エノンをまず酢酸水溶液(AcOH)で処理してイミニウム塩
【化89】

を得る。この処理は、具体的には、例えば100℃で24時間行う。
【0064】
次に、得られたイミニウム塩をトリフルオロ酢酸水溶液(TFA)を用いて処理して、ノルゾアンタミンのアンモニウム塩
【化90】

を得る。この処理は、具体的には、例えば110℃で24時間行う。
【0065】
最後に、ノルゾアンタミンのアンモニウム塩をMeOH中で塩基性酸化アルミニウム(Al2 3 )で脱塩することにより、ノルゾアンタミン
【化91】

が収率81%(3工程)で得られる。この脱塩は、具体的には、例えば室温で1時間行う。
【0066】
得られたノルゾアンタミンの物理測定データを天然のノルゾアンタミンの物理測定データと共に示すと下記のとおりである。また、図4および図5にそれぞれ、合成されたノルゾアンタミンおよび天然のノルゾアンタミンのNMRスペクトル図を示す。
mp 273-276°C; artificial [α] 24D = -6.0 °(c 0.23, CHCl3 ), natural[α] 24D = -6.2 ° (c 0.23, CHCl3 ); CD artificial 313.4 nm (+1.57), 240.1 nm (-3.06), 227.2 nm (-2.07), 202.0 nm (-24.53) (0.0001 M, MeOH), natural 313.4 nm (1.32),240.1 nm (-2.91), 226.9 nm (-1.85), 201.9 nm (-21.78) (0.0001 M, MeOH); UV artificial 233nm (MeOH), natural 234 nm (MeOH); IR (CHCl3 ) 3020, 2959, 1717, 1672, 1364,1248 cm-1; 1H NMR (CDCl3 , 270 MHz)δ 0.91 (d, J = 6.7 Hz, 3 H), 1.01 (s, 6 H), 1.09(dd, J = 11.5, 12.7 Hz, 1 H), 1.16 (s, 3 H), 1.47 (dt, J = 3.1, 12.5Hz, 1
H), 1.54-1.58 (m, 2 H), 1.70 (bdt, J = 3.7, 12.8 Hz, 1 H), 1.77 (bdt, J =3.4, 12.8 Hz, 1 H), 1.89 (bdt, J = 4.9, 13.4 Hz, 1 H), 1.92 (d, J = 14.0 Hz, 1 H), 2.02 (s, 3 H), 2.09 (dd, J = 4.9, 12.7 Hz, 1 H), 2.16 (d, J = 14.0 Hz, 1 H), 2.19-2.31 (m, 4 H), 2.37 (d, J = 20.8 Hz, 1 H), 2.51 (dd, J = 11.6, 14.6 Hz, 1 H), 2.65(dd, J = 6.1, 14.6Hz, 1 H), 2.72 (bdt, J = 6.1, 11.6 Hz, 1 H), 2.84 (s, 1 H), 3.23 (dd, J = 6.1, 6.7Hz, 1 H), 3.28 (d, J = 6.7, 1 H), 3.67 (d, J = 20.8 Hz, 1 H), 4.55-4.56 (m, 1 H), 5.92 (bs, 1 H); 13C NMR (67.8 MHz, CDCl3 ) δ 18.40, 18.47, 21.09, 21.82, 22.95, 23.66, 24.30, 29.93, 31.98, 35.88, 36.47, 38.87, 39.80,
39.89, 41.88, 42.42, 44.38, 46.44, 47.15, 53.15, 59.12, 74.22, 89.98, 101.52, 125.62, 159.82, 172.43, 198.46, 208.98; HRMS Calcd for C29H39NO5 ([M] + ); 481.2828. Found: 481.2841.
【0067】
合成されたノルゾアンタミンの全収率は(R)−5−メチル−2−シクロヘキセノンから出発して41工程で3.5%、各工程の平均収率は92%であった。合成されたノルゾアンタミンは、分光学的スペクトル( 1Hおよび13C NMRスペクトル、赤外スペクトル、質量スペクトル)、円二色性(CD)および比旋光度を含む全ての点で天然のノルゾアンタミンと同一である。比旋光度については、合成されたノルゾアンタミンでは[α]24D −6.0(c 0.23,CHCl3 )、天然のノルゾアンタミンでは[α]24D −6.2(c 0.23,CHCl3 )である。
【0068】
合成されたノルゾアンタミンの絶対構造は本全合成によって厳密に確認された。ここで説明した化学的手法は、極めて困難な合成に対する一つの解答を提供するだけでなく、ノルゾアンタミン、他の天然のゾアンタミン系アルカロイド、ノルゾアンタミン誘導体等の合成への完全な道をも開くものである。
【0069】
以上、この発明の一実施形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、上述の実施形態において各反応に用いた化合物は例示であって、必要に応じて同様な作用を有する他の化合物を用いてもよい。また、反応時間や反応温度等も実施形態で用いたものに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】この発明の一実施形態によるノルゾアンタミンの製造方法を示す略線図である。
【図2】この発明の一実施形態によるノルゾアンタミンの製造方法を示す略線図である。
【図3】この発明の一実施形態によるノルゾアンタミンの製造方法を示す略線図である。
【図4】この発明の一実施形態によるノルゾアンタミンの製造方法により製造されたノルゾアンタミンのNMRスペクトル図である。
【図5】天然のノルゾアンタミンのNMRスペクトル図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
【化1】

(ただし、RはHまたはCH3 、Dは重水素、TBSはtert−ブチルジメチルシリル基、Bocはtert−ブトキシカルボニル基、Meはメチル基を表す)
で示される第1の化合物を
【化2】

で示される第2の化合物に変換する工程と、
上記第2の化合物を
【化3】

で示される第3の化合物に変換する工程と、
上記第3の化合物を
【化4】

で示される第4の化合物に変換する工程と、
上記第4の化合物を
【化5】

で示される第5の化合物に変換する工程と、
上記第5の化合物を
【化6】

で示される第6の化合物に変換する工程と、
上記第6の化合物をゾアンタミン系アルカロイドに変換する工程とを有することを特徴とするゾアンタミン系アルカロイドの製造方法。
【請求項2】
【化7】

(ただし、RはHまたはCH3 、Dは重水素、TBSはtert−ブチルジメチルシリル基、Bocはtert−ブトキシカルボニル基、Meはメチル基を表す)
で示される第1の化合物の二つのtert−ブチルジメチルシリル基の除去および第二級ヒドロキシ基の選択的酸化を行って
【化8】

で示される第2の化合物を得る工程と、
上記第2の化合物のアルデヒドへの酸化およびカルボン酸への酸化を行って
【化9】

で示される第3の化合物を得る工程と、
上記第3の化合物のエステル化およびA環部への二重結合の導入反応を行って
【化10】

で示される第4の化合物を得る工程と、
上記第4の化合物をイミニウム塩化して
【化11】

で示される第5の化合物を得る工程と、
上記第5の化合物をアンモニウム塩化して
【化12】

で示される第6の化合物を得る工程と、
上記第6の化合物の脱塩を行ってゾアンタミン系アルカロイドを得る工程とを有することを特徴とするゾアンタミン系アルカロイドの製造方法。
【請求項3】
上記ゾアンタミン系アルカロイドがノルゾアンタミンであることを特徴とする請求項1または2記載のゾアンタミン系アルカロイドの製造方法。
【請求項4】
上記ゾアンタミン系アルカロイドがゾアンタミンであることを特徴とする請求項1または2記載のゾアンタミン系アルカロイドの製造方法。
【請求項5】
【化13】

(ただし、RはHまたはCH3 、TBSはtert−ブチルジメチルシリル基、TESはトリエチルシリル基、Meはメチル基を表す)
で示される第7の化合物を
【化14】

(ただし、Dは重水素を表す)
で示される第8の化合物に変換する工程と、
上記第8の化合物を
【化15】

で示される第9の化合物に変換する工程と、
上記第9の化合物を
【化16】

で示される第10の化合物に変換する工程と、
上記第10の化合物を
【化17】

で示される第11の化合物に変換する工程と、
上記第11の化合物を
【化18】

で示される第12の化合物に変換する工程と、
上記第12の化合物を
【化19】

で示される第13の化合物に変換する工程とを有することを特徴とするゾアンタミン系アルカロイドの製造方法。
【請求項6】
【化20】

(ただし、RはHまたはCH3 、TBSはtert−ブチルジメチルシリル基、TESはトリエチルシリル基、Meはメチル基を表す)
で示される第7の化合物の還元、重水素を含む化合物を用いたウィッティッヒ反応およびヒドロホウ素化を行って
【化21】

(ただし、Dは重水素を表す)
で示される第8の化合物を得る工程と、
上記第8の化合物を酸化して
【化22】

で示される第9の化合物を得る工程と、
上記第9の化合物のカーボネート化、分子内アシル化反応およびO−メチル化反応を行って
【化23】

で示される第10の化合物を得る工程と、
上記第10の化合物のC−9位にメチル基を導入して
【化24】

で示される第11の化合物を得る工程と、
上記第11の化合物の重水素が結合している炭素に結合している酸素にtert−ブチルジメチルシリル基を付加して
【化25】

で示される第12の化合物を得る工程と、
上記第12の化合物のメチルケトン部を三重結合に変換して
【化26】

で示される第13の化合物を得る工程とを有することを特徴とするゾアンタミン系アルカロイドの製造方法。
【請求項7】
上記ゾアンタミン系アルカロイドがノルゾアンタミンであることを特徴とする請求項5または6記載のゾアンタミン系アルカロイドの製造方法。
【請求項8】
上記ゾアンタミン系アルカロイドがゾアンタミンであることを特徴とする請求項5または6記載のゾアンタミン系アルカロイドの製造方法。
【請求項9】
【化27】

(ただし、RはHまたはCH3 、TBSはtert−ブチルジメチルシリル基、Bocはtert−ブトキシカルボニル基、Meはメチル基を表す)
で示されることを特徴とする中間体。
【請求項10】
【化28】

(ただし、RはHまたはCH3 、Dは重水素、TBSはtert−ブチルジメチルシリル基、TESはトリエチルシリル基、Meはメチル基を表す)
で示されることを特徴とする中間体。
【請求項11】
【化29】

(ただし、RはHまたはCH3 、Dは重水素、TBSはtert−ブチルジメチルシリル基、TESはトリエチルシリル基、Meはメチル基を表す)
で示されることを特徴とする中間体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−52185(P2006−52185A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236445(P2004−236445)
【出願日】平成16年8月16日(2004.8.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年2月20日 北海道大学主催の「平成15年度 修士2年生研究発表会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年6月17日 インターネットアドレス(http://www.sciencemag.org)にて発表
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】