説明

タイヤコードおよびそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】表面処理なしでもゴムとの接着性に優れ、かつ、タイヤに適用した際における高速耐久性に優れたタイヤコード、および、それを用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】海島型複合紡糸によって製造された海島型複合繊維から海成分を抽出除去して得られる、繊維径0.1μm以上5μm以下のポリエステル系繊維を用いたタイヤコードである。上記ポリエステル系繊維からなるコードに、接着剤が付着含浸されていることが好ましい。また、上記タイヤコードをベルト保護層ないしカーカスプライに用いた空気入りタイヤである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤコードおよびそれを用いた空気入りタイヤ(以下、単に「コード」および「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、コードに用いる繊維材料の改良に係るタイヤコードおよびそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
有機繊維の中でも、ポリエステル繊維は、軽量で高剛性を有する繊維であるため、タイヤコードの素材として、広く用いられている(例えば、特許文献1等)。また、有機繊維コードとゴムとの接着を確保するための接着剤(ディップ液)としては、従来、レゾルシン・ホルムアルデヒド・ラテックス(RFL)系接着剤が汎用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−009831号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ポリエステル繊維は、ナイロンなどと比べると接着性に劣るので、通常の接着剤処理ではゴムとの間の接着性を十分確保できないという難点があった。また、ポリエステル繊維を、接着剤を使用することなくタイヤコードに適用した場合、高速耐久性などの耐久性能を保持することは困難であった。
【0005】
これに対し、ポリエステル繊維にあらかじめエポキシ化合物を含む成分を作用させて、表面処理を行った後に接着剤成分を塗布することで、接着性を向上する方法も採られているが、この場合、化学修飾により、化学構造の開裂を伴うため、元の剛性の保持が難しいという問題があった。したがって、ポリエステル繊維本来の物性を保持しつつ、ゴムとの接着性を改良して、高性能のタイヤコードを得ることが求められていた。
【0006】
そこで本発明の目的は、上記問題を解消して、表面処理なしでもゴムとの接着性に優れ、かつ、タイヤに適用した際における高速耐久性に優れたタイヤコード、および、それを用いた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討した結果、タイヤコードの素材として、海島型複合紡糸によって製造された海島型複合繊維から海成分を抽出除去することで得られた、微細なポリエステル系繊維を用いることで、上記問題を解消できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のタイヤコードは、海島型複合紡糸によって製造された海島型複合繊維から海成分を抽出除去して得られる、繊維径0.1μm以上5μm以下のポリエステル系繊維を用いたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明のタイヤコードにおいては、前記ポリエステル系繊維からなるコードに、接着剤が付着含浸されていることが好ましい。
【0010】
また、本発明の空気入りタイヤは、上記本発明のタイヤコードをベルト保護層に用いたことを特徴とするものである。さらに、本発明の他の空気入りタイヤは、上記本発明のタイヤコードをカーカスプライに用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記構成としたことで、表面処理なしでもゴムとの接着性に優れ、かつ、タイヤに適用した際における高速耐久性に優れたタイヤコード、および、それを用いた空気入りタイヤを実現することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る海島型複合繊維を示す概略断面図である。
【図2】本発明の空気入りタイヤの一例を示す幅方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明のタイヤコードは、海島型複合紡糸によって製造された海島型複合繊維から海成分を抽出除去して得られる、繊維径0.1μm以上5μm以下のポリエステル系繊維を用いている点に特徴を有する。かかる海島型複合紡糸により得られた陸成分からなるポリエステル系繊維においては、海島型複合繊維における除去された海成分にゴムやラテックスが含浸することで、接着比表面積を向上させることができ、アンカー効果によってコードとゴムとの接着力を向上することができる。そのため、このポリエステル系繊維を用いることで、従来のような表面処理なしでも、ゴムとの接着性に優れたタイヤコードを得ることができ、また、この場合、従来のような表面処理によるポリエステル系繊維の剛性低下がないので、このタイヤコードをタイヤに適用することにより、高速耐久性に優れた空気入りタイヤが得られるものである。
【0014】
図1に、かかる海島型複合繊維の概略断面図を示す。海島型複合紡糸によって製造された海島型複合繊維とは、2種の異なる材料により形成された海成分11と島成分12とからなる繊維である。本発明においては、陸成分としてのポリエステル系繊維が得られるものであればよいので、海成分については、特に制限されるものではない。海成分としては、例えば、テレフタル酸と5−ナトリウムスルホイソフタル酸との共重合ポリエステルポリマーや、ポリエチレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホイソフタル酸との共重合ポリエステルポリマーを用いることができる。また、島成分としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)を構造単位に有するポリエステルポリマーを用いることができ、かかるポリエステルポリマーは、構成する酸成分の85モル%以上がテレフタル酸からなり、少なくとも1種のグリコールが、好ましくはエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール等から選択されるものが好適である。
【0015】
上記ポリエステルポリマーには、本発明の目的を阻害しない範囲、好ましくは15モル%以下、より好ましくは10モル%以下で、従来公知の共重合成分が含まれていてもよい。かかる共重合成分としては、例えば、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、ρ−オキシ安息香酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの芳香族、脂肪族ないし脂環族の二官能性カルボン酸を挙げることができる。また、上記グリコール以外のジオール化合物として、例えば、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSなどの脂肪族、脂環族ないし芳香族のジオール化合物およびポリオキシアルキレングリコールなどを挙げることができる。さらに、所望に応じ、適宜制電剤や安定剤などの添加剤を含有してもよい。
【0016】
上記ポリエステルポリマーは、常法に従い合成することができ、例えば、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、または、テレフタル酸ジメチル等のテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させる、テレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるなどにより、テレフタル酸のグリコールエステルおよび/またはその低重合体を生成させる第1段階の反応と、第1段階の反応生成物を減圧下で加圧して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第2段階の反応とにより製造される。
【0017】
また、かかる海島型複合繊維から得られるポリエステル系繊維の強度は、好ましくは2.0〜6.0cN/dtex、より好ましくは3.5〜5.9cN/dtexである。さらに、かかるポリエステル系繊維の伸度は、好ましくは5〜35%、より好ましくは9〜30%である。海島型複合繊維から得られるポリエステル系繊維の強度や伸度等の物性値は、紡糸条件や延伸時の温度および倍率などを適宜制御することにより、所望に調整することが可能である。
【0018】
本発明において、かかるポリエステル系繊維としては、繊維径が0.1μm以上5μm以下、好適には0.3μm以上1.0μm以下であるものを用いる。繊維径が、0.1μm未満であると、タイヤコードが屈曲歪を受けた際に破断が生じやすくなり、一方、5μmを超えるとゴムの含浸効果が十分に得られず、ゴムとの接着性が確保できなくなる。
【0019】
本発明のタイヤコードは、上記海島型複合繊維から得られるポリエステル系繊維を用いて形成されたものであればよく、そのコード構造やコード径等については、用途に応じて適宜選定することができ、特に制限されるものではない。
【0020】
本発明のタイヤコードにおいては、上述したように、ポリエステル系繊維を用いつつ、従来のような表面処理なしでもゴムとの間で良好な接着性が得られるものであるが、好適には、上記ポリエステル系繊維からなるコードにあらかじめ接着剤を付着含浸させておくことで、ポリエステルフィラメントと接着剤とのアンカー効果により高い接着力を得ることができる。かかる接着剤としては、ラテックスなどを好適に用いることができる。本発明に係る上記ポリエステル系繊維にラテックスなどの接着剤を付着させた際に得られる接着力は、現在主流であるRFL接着剤を使用した場合と同等以上のレベルであるが、この場合、レゾルシン・ホルマリンといった物質を使用しないで済むので、環境性の観点からも有用である。
【0021】
また、本発明の空気入りタイヤは、上記本発明のタイヤコードをベルト補強層ないしカーカスプライに用いたものであり、すなわち、上記タイヤコードを未加硫ゴムに埋設して得られるゴム−コード複合体を、ベルト補強層ないしカーカスプライに適用したタイヤである。
【0022】
図2に、本発明の空気入りタイヤの一例を示す幅方向断面図を示す。図示する空気入りタイヤ10は、トレッド部1と、その両端からタイヤ半径方向内方に延びる一対のサイドウォール部2と、その内方端に位置する一対のビード部3とを備え、少なくとも1枚のカーカスプライ(図示例では1枚)からなるカーカス層5を、ビード部3に埋設された一対のビードコア4間にトロイド状に延在させて有している。また、ビードコア4のタイヤ半径方向外方には、ビードフィラー8が配置されている。
【0023】
図示するタイヤ10においては、カーカス層5のクラウン部タイヤ半径方向外側に、少なくとも1枚のベルト(図示例では2枚の傾斜ベルト)からなるベルト層6と、少なくとも1枚(図示例では1枚)のベルト保護層7と、が順次配置されている。このうちベルト層6は、コードがタイヤ赤道面に対し傾斜して配列されてなり、通常は図示するように、コード方向が互いに交錯する2枚の傾斜ベルトからなる。また、ベルト保護層7は、コードがタイヤ赤道面と実質的に平行に配列されてなり、図示する例では、ベルト層6のほぼ全幅を覆うように設けられている。ベルト保護層7は、必要に応じて、ベルト端セパレーションに起因するタイヤ故障を防止するために設けられるものであり、少なくともベルト層6の両端部に配設されているものであればよい。また、その枚数についても、特に制限はない。
【0024】
本発明のタイヤにおいては、上記本発明のタイヤコードをベルト保護層7ないしカーカスプライに用いたことで、良好な高速耐久性を実現したものであり、それ以外の点については、特に制限されるものではなく、所望に応じ適宜構成することが可能である。なお、本発明の空気入りタイヤにおいて、タイヤ内に充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を変えた空気、又は窒素等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を、実施例を用いてより具体的に説明する。
下記表中に示す条件にて、海島型複合紡糸によって製造された海島型複合繊維から海成分を抽出除去して得られるポリエステル系繊維を、ベルト保護層に打込み数50本/50mmにて適用して、タイヤサイズ215/45R17の空気入りタイヤを製造した。使用した海島型複合繊維の、島成分はポリエチレンテレフタレートポリマーであり、海成分はポリエチレングリコールと5−ナトリウムスルホイソフタル酸との共重合ポリエステルポリマーであった。また、各供試タイヤにおいて、カーカス層は1枚のポリエステルコードのゴム引き層からなるものとし、ベルト層は、タイヤ赤道面に対し±66度の角度で互いに交錯させた2枚のスチールコードのゴム引き層からなるものとした。得られた各供試タイヤにつき、以下に従い接着力および高速耐久性を評価した結果を、下記の表中に併せて示す。
【0026】
(1)接着力
各供試タイヤの接着力を、JIS L1017のTテスト(A法)に従い評価した。結果は、従来例1の供試タイヤを100として指数表示した。数値が大きい程、接着力に優れることを示す。
【0027】
(2)高速耐久性
各供試タイヤをリム組みし、内圧200kPaに調整してから速度150km/hで30分間走行した後、速度を6km/hずつ段階的に加速し、各速度の維持時間を30分間とする走行テストを行った。故障が発生した際の速度を測定し、従来例1の故障発生速度を100として指数表示した。数値が大きい程、耐久限界速度が高く、高速耐久性に優れることを示す。
【0028】
【表1】

【0029】
上記表中に示したように、海島型複合繊維から得られる特定範囲の繊維径のポリエステル系繊維をベルト保護層に用いた各実施例の供試タイヤにおいては、かかる条件を満足しない従来例の供試タイヤに比し、接着力および高速耐久性が共に向上されていることが確かめられた。
【0030】
下記表中に示す条件にて、カーカス層として、海島型複合紡糸によって製造された海島型複合繊維から海成分を抽出除去して得られるポリエステル系繊維を、打込み数50本/50mmにて適用したカーカスプライを用いた以外は実施例1等と同様にして、空気入りタイヤを製造した。ベルト保護層は設けなかった。得られた各供試タイヤにつき、実施例1等と同様にして接着力および高速耐久性を評価した結果を、下記の表中に併せて示す。なお、各評価結果は、従来例2を100として指数表示した。
【0031】
【表2】

【0032】
上記表中に示したように、海島型複合繊維から得られる特定範囲の繊維径のポリエステル系繊維をカーカスプライに用いた各実施例の供試タイヤにおいては、かかる条件を満足しない従来例の供試タイヤに比し、接着力および高速耐久性が共に向上されていることが確かめられた。
【符号の説明】
【0033】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 ビードコア
5 カーカス層
6 ベルト層
7 ベルト保護層
8 ビードフィラー
10 空気入りタイヤ
11 海成分
12 島成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海島型複合紡糸によって製造された海島型複合繊維から海成分を抽出除去して得られる、繊維径0.1μm以上5μm以下のポリエステル系繊維を用いたことを特徴とするタイヤコード。
【請求項2】
前記ポリエステル系繊維からなるコードに、接着剤が付着含浸されている請求項1記載のタイヤコード。
【請求項3】
請求項1または2記載のタイヤコードをベルト保護層に用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項4】
請求項1または2記載のタイヤコードをカーカスプライに用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−57284(P2012−57284A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204191(P2010−204191)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】