説明

タイヤホイール組立体

【課題】ランフラットタイヤの走行性能及び耐久性の向上。
【解決手段】タイヤ/リムの内空洞に、環状金属シェル及びゴム状弾性体によって形成されたランフラット用支持体を有する、ランフラットタイヤホイール組み立て体において、ゴム弾性体が、ジエン系ゴム100重量部に対し、加硫剤として、式(I)で表される有機スルフィド化合物0.1〜20重量部を含んでなるタイヤホイール組立体。


(式中、nは平均1〜20の数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、損傷又は空気抜け状態において、制限された運転ができる空気入りタイヤ(以下、ランフラットタイヤという)に用いるタイヤホイール組立体に関し、更に詳しくは有機スルフィド化合物を加硫剤として用いて耐リバージョン性を改良したゴム組成物を中子式ランフラットタイヤのゴム状弾性体に用いたタイヤホイール組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤが自動車などの走行中にパンクやバーストなどによって内圧が急激に低下した場合でも、一定距離を走行できる緊急走行可能性を有するランフラットタイヤに対するニーズがあり、かかるニーズに応えて多くの提案がなされている。かかる提案として、例えば特許文献1には、空気入りタイヤの内空洞部のリム上にランフラット用支持体(中子体)を装着し、それによってパンク等をした空気入りタイヤを支持することによりランフラット走行を可能にする技術が提案されている。
【0003】
前記ランフラット用支持体は、外周側を支持面にした環状部材を有し、その両脚部に弾性リングを取り付け、弾性リングを介して支持体がリム上に支持されるような構造をしている。このランフラット用支持体を用いる技術は、従来の一般的な空気入りタイヤのホイール/リムに特別の改造を加えることなく、ホイール/リムをそのまま使用できるため、従来の空気入りタイヤの製造、加工、取付設備をそのまま利用できるという利点を有している。
【0004】
前記したタイヤホイール組立体のランフラット用支持体のゴム状弾性体は耐久性の観点から天然ゴム(NR)配合系を使用するのが望ましいが、天然ゴムを硫黄加硫した場合には、加硫時間の増大に従ってゴム組成物の物性低下を生ずるリバージョンの問題がある(非特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平10−297226号公報
【非特許文献1】日本ゴム協会第77巻第7号235頁(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、硫黄以外の加硫剤(又は架橋剤、以下同じ)を用いて耐リバージョン性に優れたゴム組成物で中子式ランフラットタイヤのゴム状弾性体を構成することによって、加硫時のリバージョンを抑制でき、更に耐老化性に優れたゴム状弾性体を提供することで、ランフラット走行性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に従えば、タイヤ/リムの内空洞に、環状金属シェル及びゴム状弾性体によって形成されたランフラット用支持体を有する、ランフラットタイヤホイール組立体において、ゴム状弾性体が、ジエン系ゴム100重量部に対し、加硫剤として、式(I)で表される有機スルフィド化合物0.1〜20重量部を含んでなるタイヤホイール組立体が提供される。
【化1】

(式中、nは平均1〜20の数である。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、式(I)に示す有機スルフィド化合物を加硫剤としたジエン系ゴム組成物を中子式ランフラットタイヤのホイール組立体のゴム状弾性体に用いることによって、ゴム組成物の加硫時のリバージョンを抑制でき、更に耐老化性に優れたゴム状弾性体を得ることができ、ランフラット走行性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決すべく研究を進めた結果、前記式(I)で示される有機スルフィド化合物を加硫剤としてジエン系ゴムに配合して、中子式ランフラットタイヤのゴム状弾性体に用いることによって、加硫時のリバージョンを抑制でき、更に耐老化性に優れたゴム状弾性体を得ることができることを見出した。
【0010】
即ち、本発明によれば、タイヤ/リムの内空洞に、環状金属シェル及びゴム状弾性体によって形成されたランフラット用支持体を有する、ランフラットタイヤホイール組立体において、ゴム弾性体が、ジエン系ゴム100重量部に対し、前記式(I)で表される有機スルフィド化合物0.1〜20重量部、好ましくは1〜10重量部を加硫剤として配合することにより所望のタイヤホイール組立体を得ることができる。
【0011】
以下、本発明のタイヤホイール組立体を図に示す実施形態により具体的に説明する。
図1、図2及び図3は本発明のタイヤホイール組立体(車輪)の代表的な実施態様の要部を示す子午線断面図である。
【0012】
例えば、図1、図2及び図3に示すように、ランフラット用支持体1は空気入りタイヤ2の空洞部3に挿入される環状金属シェル4,5又は6と、ゴム状弾性体7とから形成される。このランフラット用支持体1は、外径が空気入りタイヤ2の空洞部3の内面と一定距離を保つように空洞部3の内径よりも小さな形状をし、かつその内径は空気入りタイヤのビード部の内径と略同一の寸法に形成されている。このランフラット用支持体1は、空気入りタイヤ2の内側に挿入された状態で空気入りタイヤ2と共にホイールのリム8に組み込まれ、タイヤホイール組立体が構成される。このタイヤホイール組立体が自動車などに装着されて走行中に空気入りタイヤがパンクなどすると、そのパンクして潰れたタイヤ2がランフラット用支持体1の外周面に支持された状態になって、ランフラット走行が可能となる。
【0013】
以上の通り、本発明のタイヤホイール組立体のランフラット用支持体は、環状金属シェルとゴム状弾性体とから構成されており、環状金属シェル4,5又は6は、外側にパンクなどをしたタイヤを支えるため連続した支持面を形成し、内側は左右の側壁を脚部とした形状をしている。外側の支持面は、種々の形状をとることができ、例えば図1に示すような平坦なもの、図2に示すようなその周方向に直交する横断面の形状が外側に凸曲面になるような形状のもの(その凸曲面のタイヤ軸方向に並ぶ数は図2に示すように2つに限らず、又は3以上のもの、更には単一のものでもよい)、更に図3に示すように2以上の凸曲面から構成され、その凹部に断面が円状の弾性リング9を配してランフラット走行時の衝撃緩和能力を付与させたり、そして/又は環状金属シェルをゴム状弾性体で分離させて金属シェルの側壁が直接リムと当接し、安定した係合状態を維持できるようにした形状などとすることができる。このように支持面を形成するような場合にも金属とゴム状弾性体との接着を本発明に従って高めればタイヤのランフラット走行持続距離を伸ばすことができる。
【0014】
ゴム状弾性体は、環状金属シェルの両脚部の端部(図1又は図2参照)又は両脚部中(図3参照)にそれぞれ取り付けられ、そのまま左右のリム上に当接することにより環状金属シェルを支持する。このゴム状弾性体はゴムから構成され、パンクなどをしたタイヤから環状金属シェルが受ける衝撃や振動を緩和すると共に、リムに対する滑り止めの作用をし、環状金属シェルをリム上に安定支持する。
【0015】
図4に示すように、ランフラット用支持体1を構成する環状金属シェル5とゴム状弾性体7とは強固な接着力を有するが、好ましくは所定の接着面積を確保するのが良い。リム作業時やランフラット走行時の負荷はリム径R(インチ)により無次元化され、接着面積をS(cm2 )としたときに、その比S/Rが4.5cm2 /インチ以上、好ましくは8〜20cm2 /インチであると良い。ここで接着面積とは環状金属シェルの片側端部における金属とゴム状弾性体との接着面積、即ちその周方向に直交する横断面における環状金属シェル端部のゴム状弾性体と接している金属シェルの表/裏面及び端面を周方向に一周させた全接着面積をいう。
【0016】
さらに、環状金属シェル5とゴム状弾性体7との接着面は軸方向と、径方向とによって構成されることが良く、両者が略同等であると一層好ましい。かかることによってランフラット走行時に発生する軸方向、径方向の力の双方に耐える構造が形成される。
【0017】
図1,2及び3において、ランフラット用支持体1、空気入りタイヤ2、リム8は、ホイールの回転軸(図示せず)を中心として共軸に環状に形成されている。なお、金属シェルの寸法には特に限定はないが、好ましくは厚さ0.5〜3.0mmであり、幅は左右タイヤビードトウの間隔と略等しくする。
【0018】
本発明のタイヤホイール組立体は、パンクなどをしたタイヤを介して自動車などの重量を支えるようにするため、環状体4,5又は6は金属材料から構成する。そのような金属としては、鉄鋼、ステンレス、アルミニウム合金などを例示することができる。
【0019】
ゴム状弾性体は、環状金属シェルを安定支持することができれば、任意のゴムから構成してもよく、例えば、ゴムとしては、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、ブチルゴムなどのジエン系ゴムをあげることができる。
【0020】
本発明において使用する、前記式(I)の有機スルフィド化合物は、例えば(i)式:HS−R−SH(式中、Rは置換もしくは非置換のC2〜C20、好ましくはC2〜C10のアルキレン基又はオキシアルキレン基を示す)のジチオール化合物(A)又はそのジチオール化合物(A)と式:MOR′(式中、Mはナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属であり、R′はC1〜C10、好ましくはC1〜C5のアルキレン基を示す)との反応塩(B)のいずれかと、(ii)式:X2SO(式中、Xは、それぞれ独立に、塩素、臭素などのハロゲン基を示す)を、例えば室温下で撹拌し、生成する塩を除去することにより製造することができる。好ましい有機スルフィド化合物は式(I)のnが平均1〜20の数の化合物である。
【0021】
前記式(I)のRとしては、具体的には−CH2−CH2−O−CH2−CH2−O−CH2−CH2−、−(CH26−、−(CH24−、−(CH22−O−(CH22−、−(CH22−O−CH2−O−(CH22−であるのが好ましい。
【0022】
本発明においてゴム状弾性体に用いるゴム組成物は、ジエン系ゴム100重量部に対し、前記式(I)で表される有機スルフィド化合物を加硫剤として、0.1〜20重量部、好ましくは0.5〜10重量部配合する。本発明に係る有機スルフィド化合物は加硫剤として単独又は従来の加硫剤(例えば硫黄)と併用することができる。
【0023】
本発明のゴム組成物に加硫剤として配合する前記有機スルフィドの配合量が少ないと耐リバージョン性の改善効果が小さく、また逆に多いと製造工程で問題となるレベルのブリードアウトが起こりやすくなるため好ましくない。
【0024】
環状金属シェルとゴム状弾性体との接着性を改良するために、その間に有機溶剤系接着剤などの接着剤を塗布することができる。例えば有機溶剤系接着剤としてはフェノール樹脂系接着剤、例えばノボラック型フェノール樹脂系接着剤又はレゾール型フェノール樹脂およびエポキシ変性フェノール樹脂を含有するフェノール樹脂系接着剤、さらにこれらに、未加硫NBR等のゴム組成物成分を含有させたフェノール樹脂系接着剤などがあげられる。さらに、エポキシ樹脂およびレゾール型フェノール樹脂を含有する加硫接着用プライマーを金属表面に塗布し、焼付け処理等で表面に付着させ、その後、上記接着剤を塗布し、未加硫のゴム状弾性体と加硫接着させるのが好ましい。また、これらの加硫接着剤、加硫接着用プライマーとして、例えばLORD社などより市販の金属−ゴム用の各種接着剤を用いることができる。
【0025】
有機溶剤系接着剤を環状金属シェルとゴム状弾性体との間に適用する方法には特に限定はなく、一般的な方法で実施することができる。好ましくは有機溶剤系接着剤を、脱脂処理、ブラスト処理などを施した金属表面に塗布し、スプレー塗布、刷毛塗り、浸漬処理、滴下処理等の方法で塗布し、必要に応じて余分な接着剤を除去後、溶剤を適当に乾燥させ、その後、未加硫のゴム状弾性体と張り合わせ、加硫接着させる。
【0026】
本発明のゴム状弾性体に用いるゴム組成物には、前記した成分に加えて、カーボンブラックやシリカなどのその他の補強剤(フィラー)、加硫又は架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用、その他のゴム組成物用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
【0028】
製造例1:環状ポリスルフィドの合成
ナスフラスコ中でナトリウムメトキシド11.85g(2.194×10−1)を無水メタノールに溶解し、0℃の氷浴にて冷却・撹拌しながら、2,2−エチレンジエタンジチオール(以下DMDO)20g(1.097×10−1mol)を滴下し、この溶液を2時間反応させた。次いでチオニルクロライド13.05g(1.097×10−1mol)を滴下し、室温で2時間反応させた。得られた溶液からメタノールを減圧留去し、トルエン50gに再溶解した。次にこのトルエン溶液の濾過を行い、更に水洗を行い、生成した塩化ナトリウムを除去し、その後80℃減圧下でトルエンを留去し、目的とする有機スルフィド加硫剤を得た。この反応式は以下の通りである。
【0029】
【化2】

【0030】
実施例1〜2及び比較例1
サンプルの調製
表Iに示す配合において、加硫促進剤、化合物(I)及び硫黄を除く成分を1.8リットルの密閉型ミキサーで5分間混練し、160±5℃に達したときに放出してマスターバッチを得た。このマスターバッチに加硫促進剤、化合物(I)及び硫黄をオープンロールで混練し、ゴム組成物を得た。
【0031】
次に得られたゴム組成物を15×15×0.2cmの金型中で160℃で20分間加硫して加硫ゴムシートを調製し、以下に示す試験法で加硫ゴムの物性を測定した。結果は表Iに示す。
【0032】
ゴム物性評価試験法
加硫戻り指数
(30分トルク値−最小トルク値)/(最大トルク値−最小トルク値)×100
この値が100に近い値であるほど、加硫戻りが少ない。
【0033】
引張試験(300%モジュラス、破断強度、破断伸張)
熱劣化(80℃×192時間)前後においてJIS K6251に準拠して室温にて測定した。
【0034】
ランフラット耐久性試験
タイヤサイズを205/55R16 89V、リムサイズ16×6 1/2JJとして本発明のタイヤホイール組立体(実施例1及び2)と比較例1によった従来のタイヤホイール組立体をそれぞれ作製した。次に、2500cc乗用車にこれらの各試験用タイヤを装着し、前右側のタイヤ内空気圧を0kPaとし、他の3ヶ所のタイヤ内空気圧は200kPaとして、90km/hrで故障するまで走行させた。結果は比較例1の値を100として指数表示した。この値が大きいほど耐久性が良いことを示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表I脚注
*1:RSS#3
*2:昭和キャボット(株)製カーボンブラック SHOBLACK N326M(N2SA:82m2/g,DBP吸油量:72ml/100g)
*3:正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種
*4:FLEXSYS製SANTOFLEX 6PPD
*5:日本精鑞(株)製老化防止剤 OZOACE−0015
*6:旭電化工業(株)製工業用ステアリン酸N
*7:三新化学工業(株)製硫黄
*8:前記製造例1参照
*9:大内新興化学工業(株)製加硫促進剤 ノクセラーCZ−G
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、前記有機スルフィド化合物を加硫剤として配合したジエン系ゴム組成物を用いて中子式ランフラットタイヤのゴム状弾性体を構成することで、加硫時のリバージョンを抑制でき、更に耐老化性に優れたゴム状弾性体を得ることができ、ランフラット走行性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明のタイヤホイール組立体の一実施態様の要部を示す子午線断面図である。
【図2】本発明のタイヤホイール組立体の他の実施態様の要部を示す子午線断面図である。
【図3】本発明のタイヤホイール組立体の更に他の実施態様の要部を示す子午線断面図である。
【図4】本発明のタイヤホイール組立体の環状金属シェルとゴム状弾性体との接着面の一例を示す図面である。
【符号の説明】
【0039】
1 ランフラット用支持体
2 空気入りタイヤ
3 空洞部
4 環状金属シェル
5 環状金属シェル
6 環状金属シェル
7 ゴム状弾性体
8 リム
9 弾性リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ/リムの内空洞に、環状金属シェル及びゴム状弾性体によって形成されたランフラット用支持体を有する、ランフラットタイヤホイール組立体において、ゴム状弾性体が、ジエン系ゴム100重量部に対し、加硫剤として、式(I)で表される有機スルフィド化合物0.1〜20重量部を含んでなるタイヤホイール組立体。
【化1】

(式中、nは平均1〜20の数である。)
【請求項2】
ランフラット用支持体のゴム状弾性体が環状金属シェルとリムとの間に配置され、環状金属シェルを支持する構造となっている請求項1に記載のタイヤホイール組立体。
【請求項3】
前記環状金属シェルの素材が鉄鋼又はステンレスである請求項1又は2に記載のタイヤホイール組立体。
【請求項4】
タイヤの呼び径をR(インチ)、ゴム状弾性体/金属の接着面積をS(cm2)としたときに、その比S/Rが4.5cm2/インチ以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載のタイヤホイール組立体。
【請求項5】
接地面が略軸方向面と略径方向面とによって構成されている請求項1〜4のいずれか1項に記載のタイヤホイール組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−6931(P2008−6931A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−178413(P2006−178413)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】