説明

タイヤ加硫用モールドの製造方法

【課題】複雑な形状のサイプ形成ブレードを設けたタイヤ加硫用モールドを、容易に製造することできるタイヤ加硫用モールドの製造方法を提供する。
【解決手段】サイプ形成ブレードの一方端部6aを石膏鋳型7に埋設し、他方端部6bを石膏鋳型7から突出させたサイプ用ピース5を予め作製しておき、石膏鋳型7を上金型1のピース固定穴4に嵌合させた状態で、上金型1と下金型2の間のキャビティにアルミニウム材料Aを鋳込んで所定形状のタイヤ成形面を形成し、固化したアルミニウム材料Aを石膏鋳型7と共に、上金型1および下金型2から脱型した後に、石膏鋳型7に水を吹き付けて除去することにより、サイプ形成ブレードの一方端部6aをタイヤ成形面に露出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ加硫用モールドの製造方法に関し、さらに詳しくは、複雑な形状のサイプ形成ブレードを設けたタイヤ加硫用モールドを、容易に製造することできるタイヤ加硫用モールドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤのトレッドに形成されるブロック等には、ブロックの剛性を適度にするためや排水性を向上させるために、サイプと呼ばれる細溝が形成されることがある。タイヤにサイプを形成する場合、タイヤ加硫用モールドには、サイプ形成ブレードがタイヤ成形面に突出するように設けられる。
【0003】
近年、タイヤに対する要求性能から複雑な形状のサイプが必要になることがあり、これに伴い、サイプ形成ブレードも複雑な形状、例えば、いわゆる3次元形状、アンダーカット形状等になることもある。このようなサイプ形成ブレードを設けたタイヤ加硫用モールドを製造する方法は種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、サイプ形成ブレードが3次元形状、アンダーカット形状になる場合には、ダイキャスト金型の対応部分を分割構造にしたり、引き抜き中子を用いた構造にする等の細工を施すため複雑な構造になる。これに伴い、タイヤ加硫用モールドの製造も複雑になり容易に製造することが困難になるという問題があった。
【特許文献1】特開平8−229956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、複雑な形状のサイプ形成ブレードを設けたタイヤ加硫用モールドを、容易に製造することできるタイヤ加硫用モールドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため本発明のタイヤ加硫用モールドの製造方法は、ダイキャスト金型のキャビティにアルミニウム材料を鋳込んで所定形状のタイヤ成形面を形成し、そのタイヤ成形面にサイプ形成ブレードを突設するタイヤ加硫用モールドの製造方法において、サイプ形成ブレードの一方端部を石膏を含有した石膏鋳型に埋設し、他方端部を石膏鋳型から突出させたサイプ用ピースを予め作製しておき、前記ダイキャスト金型に設けたピース固定穴に、前記サイプ用ピースの石膏鋳型を嵌合させて、サイプ形成ブレードの他方端部をキャビティに突出させた状態にして、キャビティにアルミニウム材料を鋳込んで所定形状のタイヤ成形面を形成するとともに、サイプ形成ブレードの他方端部をアルミニウム材料に埋入させ、鋳込んだアルミニウム材料が固化した後に、前記石膏鋳型を除去することにより、一方端部を露出させてサイプ形成ブレードをタイヤ成形面に突設することを特徴とするものである。
【0006】
ここで、例えば、前記石膏鋳型を形成する際に、前記サイプ形成ブレードの一方端部に離型剤を塗布してから石膏鋳型に埋設する。また、前記石膏鋳型を、石膏を補強する補強材を含有させて形成することもできる。
【発明の効果】
【0007】
本発明のタイヤ加硫用モールドの製造方法によれば、サイプ形成ブレードの一方端部を石膏を含有した石膏鋳型に埋設し、他方端部を石膏鋳型から突出させたサイプ用ピースを予め作製しておくことにより、サイプ形成ブレードの複雑な形状部分を単純な形状の石膏鋳型に埋めることができる。これにより、ダイキャスト金型に設けた単純形状のピース固定穴に、サイプ用ピースの石膏鋳型を嵌合させて、サイプ形成ブレードの他方端部をキャビティに突出させた状態にして、キャビティにアルミニウム材料を鋳込んで所定形状のタイヤ成形面を形成するとともに、サイプ形成ブレードの他方端部をアルミニウム材料に埋入させ、鋳込んだアルミニウム材料が固化した後に、石膏鋳型を除去する工程を行なうことによりサイプ形成ブレードを、複雑な形状の一方端部を露出させてタイヤ加硫用モールドのタイヤ成形面に突設することが可能になる。
【0008】
これにより、タイヤ加硫用モールドに複雑な形状のサイプ形成ブレードを設ける場合であっても、ダイキャスト金型を分割構造にしたり、引き抜き中子を設ける等の複雑な構造にすることなく、サイプ形成ブレードをタイヤ加硫用モールドのタイヤ成形面に容易に突設することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のタイヤ加硫用モールドの製造方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0010】
図1、2に例示するように、本発明により製造されるタイヤ加硫用モールド8は、アルミニウム材等により形成されており、表面が凹凸等を有する所定形状のタイヤ成形面8aになっている。タイヤ成形面8aの凸部は製造するタイヤのトレッド面の凹部を成形する。
【0011】
タイヤ成形面8aには、サイプ形成ブレード6が突設されている。サイプ形成ブレード6は、ステンレス鋼等の薄板により形成され、一方端部6aは複雑な形状、例えば、いわゆる3次元形状やアンダーカット形状に加工されている。サイプ形成ブレード6の他方端部6bは、タイヤ加硫用モールド8に埋設されている。タイヤを製造する際には、このサイプ形成ブレード6の一方端部6aがサイプ形成部となって、タイヤのトレッド面(ブロック)のサイプを形成する。
【0012】
このタイヤ加硫用モールド8は、ダイキャストにより製造されるが、本発明では、図3に例示するようにサイプ形成ブレード6の一方端部6aを、石膏を含有した石膏鋳型7に埋設し、他方端部6bを石膏鋳型7から突出させたサイプ用ピース5を予め作製しておく。後述するように、石膏鋳型7は鋳造後に、固化したアルミニウム材料Aと共に上金型1から脱型させて、最終的にはサイプ形成ブレード6(一方端部6a)から分離させて除去される。そのため、石膏鋳型7は、上金型1から抜き取り易くするように、抜きテーパを有する断面形状に形成され、この実施形態では断面形状が台形になっている。
【0013】
石膏鋳型7は、例えば、半水石膏(硫酸カルシウム半水塩)と熱硬化性樹脂を基材とする。熱硬化性樹脂としては、メラミン樹脂、フェノール樹脂等を例示できる。半水石膏の含有率は、例えば60wt%〜95wt%程度とし、熱硬化性樹脂の含有率は、半水石膏の含有率に応じて5wt%〜20wt%程度とする。或いは、半水石膏と石英を基材にした石膏鋳型7を用いることもできる。
【0014】
組み付けられるダイキャスト金型1、2(以下、上金型1、下金型2という)の下金型2に対向する上金型1の表面は、所定形状に形成されるとともに、ピース固定穴4が設けられている。このピース固定穴4は、サイプ用ピース5の石膏鋳型7が嵌合するように、石膏鋳型7の外形とほぼ同じ形状になっている。石膏鋳型7およびピース固定穴4は、できるだけ加工が容易な単純形状にすることが好ましい。このピース用固定穴4に石膏鋳型7を嵌合させることにより、上金型1にサイプ用ピース5を固定する。
【0015】
次いで、図4に例示するように、サイプ用ピース5を固定した上金型1と、下金型2とを組み付けて型締めする。組み付けた上金型1と下金型2との間の空間がキャビティ3となる。サイプ形成ブレード6の他方端部6bはキャビティ3に突出した状態になる。
【0016】
次いで、図5に例示するように、所定の充填圧力で溶融したアルミニウム材料Aをキャビティ3に鋳込む。これにより、鋳込まれたアルミニウム材料Aは、上金型1の表面に沿った所定形状に形成されるとともに、キャビティ3に突出していたサイプ形成ブレード6の他方端部6bは、アルミニウム材料Aに埋入した状態になる。鋳込んだアルミニウム材料Aが冷却して固化すると、サイプ形成ブレード6の他方端部6bは、固化したアルミニウム材料Aと一体化して固定された状態になる。
【0017】
アルミニウム材料Aの充填圧力は、例えば50MPa以下に設定するが、設定された充填圧力によって石膏鋳型7が破壊されることを防止するために、補強材を含有させて石膏鋳型7を形成することが好ましい。補強材としては、ガラス繊維や樹脂繊維等を例示でき、繊維長は2mm〜5mm程度にする。
【0018】
次いで、上金型1と下金型2とを型開きして、図6、7に例示するように、固化したアルミニウム材料Aを脱型させる。この際に、石膏鋳型7を上金型1のピース用固定穴4から抜き取るようにして、サイプ用ピース5を固化したアルミニウム材料Aと共に脱型させる。固化したアルミニウム材料Aは、表面に所定形状のタイヤ成形面8aを有するタイヤ加硫モールド8となる。このタイヤ成形面8aには、サイプ形成ブレード6の一方端部6aを埋設した石膏鋳型7が突出した状態になる。
【0019】
ここで、石膏鋳型7を、サイプ形成ブレード6の一方端部6aから分離させるように除去する。例えば、水噴射ノズル9から水Wを吹き付けて石膏鋳型7を除去する。これにより、サイプ形成ブレード6の一方端部6aが露出した状態になって、図1、2に例示したタイヤ加硫用モールド8が製造される。吹き付ける水Wの水圧は任意に設定できるが、例えば、20MPa程度に設定する。
【0020】
石膏鋳型7とサイプ形成ブレード6の一方端部6aとを分離させ易くするために、サイプ用ピース5を作製する際に、一方端部6aに離型剤を塗布してから石膏鋳型7に埋設するとよい。離型剤としては、蝋と有機溶剤とを含有成分にしたものを例示できる。これによれば、石膏鋳型7が乾燥する際に蝋が気化することにより、石膏鋳型7とサイプ形成ブレード6の一方端部6aとの間に微細な隙間が形成されるので、比較的小さな衝撃等によって、石膏鋳型7とサイプ形成ブレード6の一方端部6aとを分離させることが可能になる。また、キャビティ3にアルミニウム材料Aを鋳込む前に、アルミニウム材料Aに接触する石膏鋳型7の部分に黒鉛を塗布しておくと、焼付きを防止することができる。
【0021】
以上説明したように本発明では、サイプ形成ブレード6の一方端部6aを石膏鋳型7に埋設し、他方端部6bを石膏鋳型7から突出させたサイプ用ピース5を用いることにより、サイプ形成ブレード6の複雑な形状部分を単純な形状の石膏鋳型7に埋めることができる。そのため、上金型1には単純形状のピース固定穴4を設けるだけで済む。したがって、3次元形状、アンダーカット形状等の複雑な形状のサイプ形成ブレード6を、タイヤ加硫用モールド8に設ける場合であっても、上金型1を分割構造にしたり、引き抜き中子を設ける等の複雑な構造にする必要がなく、容易にタイヤ加硫用モールド8を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明により製造したタイヤ加硫用モールドを例示する平面図である。
【図2】図1の縦断面図である。
【図3】本発明の最初の工程を例示する縦断面図である。
【図4】図3の次の工程を例示する縦断面図である。
【図5】図4の次の工程を例示する縦断面図である。
【図6】図5の次の工程を例示する縦断面図である。
【図7】図6の平面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 ダイキャスト金型(上金型)
2 ダイキャスト金型(下金型)
3 キャビティ
4 ピース固定穴
5 サイプ用ピース
6 サイプ形成ブレード
6a 一方端部(サイプ形成部)
6b 他方端部
7 石膏鋳型
8 タイヤ加硫用モールド
8a タイヤ成形面
9 水噴射ノズル
A アルミニウム材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイキャスト金型のキャビティにアルミニウム材料を鋳込んで所定形状のタイヤ成形面を形成し、そのタイヤ成形面にサイプ形成ブレードを突設するタイヤ加硫用モールドの製造方法において、サイプ形成ブレードの一方端部を石膏を含有した石膏鋳型に埋設し、他方端部を石膏鋳型から突出させたサイプ用ピースを予め作製しておき、前記ダイキャスト金型に設けたピース固定穴に、前記サイプ用ピースの石膏鋳型を嵌合させて、サイプ形成ブレードの他方端部をキャビティに突出させた状態にして、キャビティにアルミニウム材料を鋳込んで所定形状のタイヤ成形面を形成するとともに、サイプ形成ブレードの他方端部をアルミニウム材料に埋入させ、鋳込んだアルミニウム材料が固化した後に、前記石膏鋳型を除去することにより、一方端部を露出させてサイプ形成ブレードをタイヤ成形面に突設するタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項2】
前記石膏鋳型を形成する際に、前記サイプ形成ブレードの一方端部に離型剤を塗布してから石膏鋳型に埋設するようにした請求項1に記載のタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項3】
前記石膏鋳型を、石膏を補強する補強材を含有させて形成する請求項1または2に記載のタイヤ加硫用モールドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−178994(P2009−178994A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21675(P2008−21675)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】