説明

タイヤ用ゴム組成物およびタイヤ

【課題】金属に対する接着性に優れたタイヤ用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100質量部と、没食子酸および/または没食子酸水和物0.1〜10質量部と、有機酸コバルト塩と、を含有するタイヤ用ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物およびタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤ用ゴム組成物には、金属に対する優れた接着性が要求される。これは、補強材であるスチールコードとこれを被覆するゴム組成物との界面で接着破壊が起こった場合に、タイヤ故障に至るからである。
例えば、特許文献1には、本出願人により、ジエン系ゴム、カーボンブラック及び/又はシリカ、有機酸コバルト塩並びに硫黄を含んでなるゴム組成物に、シスチンを配合して接着性を改善させた発明が開示されている([請求項1][実施例])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−275180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、特許文献1に開示された発明と同様、金属に対する接着性に優れたタイヤ用ゴム組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ジエン系ゴムおよび有機酸コバルト塩に所定量の没食子酸および/または没食子酸水和物を配合したタイヤ用ゴム組成物が、金属に対する接着性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(4)を提供する。
【0006】
(1)ジエン系ゴム100質量部と、没食子酸および/または没食子酸水和物0.1〜10質量部と、有機酸コバルト塩と、を含有するタイヤ用ゴム組成物。
【0007】
(2)上記有機酸コバルト塩の含有量が、コバルト量として上記ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜0.5質量部である、上記(1)に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【0008】
(3)上記ジエン系ゴムが、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、および、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)からなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムである、上記(1)または(2)に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【0009】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物を、スチールコードを被覆するゴム組成物として使用したタイヤ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属に対する接着性に優れたタイヤ用ゴム組成物を提供することができる。
また、本発明のタイヤ用ゴム組成物をスチールコードを被覆するゴム組成物として使用したタイヤは、ゴム組成物のスチールコードに対する接着性に優れ、タイヤ故障が生じにくくなり有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの部分断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のタイヤ用ゴム組成物(以下、「本発明のゴム組成物」ともいう)は、ジエン系ゴム100質量部と、没食子酸および/または没食子酸水和物0.1〜10質量部と、有機酸コバルト塩と、を含有するタイヤ用ゴム組成物である。
以下に、本発明のゴム組成物が含有する各成分について詳細に説明する。
【0013】
<ジエン系ゴム>
本発明のゴム組成物に含有されるジエン系ゴムとしては、主鎖に二重結合を有するものであれば特に限定されず、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンゴム、スチレン−イソプレンゴム、イソプレン−ブタジエンゴム等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、金属に対する接着性がより優れるという理由から、NR、BR、SBR、IRおよびEPDMからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
<没食子酸および/または没食子酸水和物>
本発明のゴム組成物には、没食子酸および/または没食子酸水和物が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜10質量部含有される。これにより、本発明のゴム組成物は、金属に対する接着性が優れる。
これは、没食子酸および/または没食子酸水和物が有する複数個の水酸基や、没食子酸水和物の水が、後述する有機酸コバルト塩の解離性を促進することで、ゴム組成物と金属との接着反応性が向上し、さらに、没食子酸および/または没食子酸水和物が有するカルボキシ基も金属に作用して接着性がより向上するからであると考えられる。
【0015】
上記没食子酸としては、例えば、下記(I)式で示される化合物(3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸)等が挙げられる。また、上記没食子酸水和物としては、例えば、下記(II)式で示される化合物(3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸水和物)等が挙げられる。
【0016】
【化1】

【0017】
上記没食子酸および/または没食子酸水和物の含有量は、ゴム組成物と金属との接着性の観点から、上記ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜5.0質量部であるのが好ましく、0.2〜2.0質量部であるのがより好ましい。
【0018】
<有機酸コバルト塩>
本発明のゴム組成物に含有される有機酸コバルト塩としては、例えば、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、オルトホウ酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、酢酸コバルト、ネオデカン酸オルトホウ酸コバルト、コバルトアセチルアセトナート等が挙げられる。
上記有機酸コバルト塩の含有量は、コバルト量として上記ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜0.5質量部であるのが好ましく、0.1〜0.3質量部であるのがより好ましい。
【0019】
<カーボンブラック、シリカ>
本発明のゴム組成物は、フィラーとして、カーボンブラックおよび/またはシリカを含有することが好ましい。
本発明のゴム組成物に含有されるカーボンブラックとしては、特に限定されず、例えば、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF、FT、MT等を好ましく用いることができる。本発明のゴム組成物は、上記カーボンブラックを含有することにより、補強性が良好となり、また、切断時伸びに優れる。
本発明のゴム組成物に含有されるシリカとしては、特に限定されず、従来公知のシリカを用いることができる。上記カーボンブラックと共に上記シリカを配合すると発熱性低下の効果が発現するので好ましい。
上記カーボンブラックと上記シリカとの質量比(カーボンブラック/シリカ)は、100/0〜0/100であるのが好ましく、100/0〜60/40であるのがより好ましく、100/0〜80/20であるのがさらに好ましい。
【0020】
なお、本発明のゴム組成物は、上記シリカを含有する場合には、補強性、加工中のヤケ等の観点から、さらに、シランカップリング剤を含有することが好ましい。上記シランカップリング剤としては、例えば、分子中に硫黄原子を含有するものを用いることができ、具体的には、例えば、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルカルバモイル−テトラスルフィド、トリメトキシシリルプロピル−メルカプトベンゾチアゾールテトラスルフィド、トリエトキシシリルプロピル−メタクリレート−モノスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイル−テトラスルフィド、ビス−〔3−(トリエトキシシリル)−プロピル〕テトラスルフィド、ビス−〔3−(トリエトキシシリル)−プロピル〕ジスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0021】
本発明のゴム組成物には、上述した成分の他に、カーボンブラックやシリカ以外のフィラー;加硫または架橋剤;加硫または架橋促進剤;酸化亜鉛;オイル;老化防止剤;可塑剤;ワックス;フェノール系、レゾルシン系、クレゾール系などの熱硬化性樹脂;等のタイヤ用ゴム組成物に一般的に用いられている各種の添加剤を配合することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0022】
本発明のゴム組成物の製造方法は、特に限定されず、例えば、上述した各成分を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等)を用いて、混練する方法等が挙げられる。また、本発明のゴム組成物は、従来公知の加硫または架橋条件で加硫または架橋することができる。
【0023】
本発明のタイヤは、上述した本発明のゴム組成物を、スチールコードを被覆するゴム組成物として使用したタイヤである。
図1に、本発明のタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの部分断面概略図を示すが、本発明のタイヤは図1に示す態様に限定されるものではない。
【0024】
図1において、符号1はビード部を表し、符号2はサイドウォール部を表し、符号3はトレッド部を表す。
また、左右一対のビード部1間においては、カーカス層4が装架されており、このカーカス層4の端部はビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられている。
また、トレッド部3においては、カーカス層4の外側に、複数層のベルト層7がタイヤ1周に亘って配置されている。なお、図1に示すベルト層7は、2層であるが、これに限定されることはなく、例えば、1層、3層、4層等であってもよい。
また、ビード部1においては、リムに接する部分にリムクッション8が配置されている。
ここで、図1に示すカーカス層4、および、ベルト層7は、スチールコードによって構成されているため、本発明のタイヤ10は、これらをコートするゴム(図示せず)が、上述した本発明のゴム組成物によって構成されている。
【0025】
本発明のタイヤは、例えば、本発明のゴム組成物に用いられたジエン系ゴム、加硫または架橋剤、加硫または架橋促進剤の種類およびその配合割合に応じた温度で加硫または架橋し、トレッド部等を形成することにより製造することができる。
【0026】
本発明のタイヤは、上述した本発明のゴム組成物がスチールコードを被覆しているため、ゴム組成物のスチールコードに対する接着性が優れ、両者の界面での接着破壊が抑制され、タイヤ故障が生じにくくなるという効果を有する。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
<実施例1〜16、比較例1〜5>
下記第1〜3表に示す成分を、下記第1〜3表に示す割合(質量部)で配合した。
具体的には、まず、下記第1〜3表に示す成分のうち硫黄および加硫促進剤を除く成分を、2リットルの密閉型ミキサーで5分間混練し、150℃に達したときに放出してマスターバッチを得た。次に、得られたマスターバッチに硫黄および加硫促進剤をオープンロールで混練し、ゴム組成物を得た。次に、得られたゴム組成物を15×15×0.2cmの金型中で170℃で15分間加硫して加硫ゴムシートを調製した。
【0029】
<引張試験>
JIS K6251:2004に準拠して、調製直後(ブランク)の加硫ゴムシートからJIS3号形ダンベルにて打抜き試験サンプルとし、500mm/分の引張速度の条件下で、引張強さ(TB[MPa])および切断時伸び(EB[%])を測定した。
また、80℃に加熱したオーブン内に100時間放置した後(熱老化後)の試験サンプルについても、同様に、引張強さおよび切断時伸びを測定した。
【0030】
<接着試験>
複数本の黄銅メッキスチールコード(1×5構造、素線径0.25mm)を12.5mm間隔で互いに平行に並べてゴム組成物に埋め込み、170℃で15分間加硫して、試験サンプルを調製した。試験サンプルからASTM−D−2に準拠してコードを引き抜き、その引き抜き時の力(引抜力[N])およびコードへのゴム被覆率(ゴム付[%])を目視で測定した。
また、引抜力およびゴム付は、加硫後(ブランク)の試験サンプルの他、加硫後に100℃に加熱したオーブン内に100時間放置した(熱老化後)の試験サンプル、および、加硫後に70℃の温水に2週間浸漬した(温水劣化後)の試験サンプルについても測定した。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
上記第1〜3表中の各成分は、以下のものを使用した。
・NR:天然ゴム、TSR20
・IR:イソプレンゴム、Nipol IR−2200、日本ゼオン社製
・SBR:スチレン−ブタジエンゴム、Nipol 1502、日本ゼオン社製
・カーボンブラック:HAF、シースト300、東海カーボン社製
・酸化亜鉛:酸化亜鉛3種、正同化学工業社製
・老化防止剤:N−フェニル−N′−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン、サントフレックス6PPD、フレキシス社製
・硫黄:ミュークロンOT―20、四国化成工業社製
・加硫促進剤:N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、ノクセラーDZ、大内新興化学工業社製
・没食子酸:関東化学社製
・没食子酸水和物:関東化学社製
・POB:4−ヒドロキシ安息香酸(関東化学社製)
・有機酸コバルト塩1:ステアリン酸コバルト、cost−F、大日本インキ化学工業社製、コバルト含有率9.5質量%
・有機酸コバルト塩2:ネオデカン酸オルトホウ酸コバルト、マノボンド、ローディア社製、コバルト含有率22質量%
【0035】
上記第1表に示す結果から、没食子酸を含有する実施例1〜4は、没食子酸を含有しない比較例1と比べて、引張特性(TB、EB)および金属に対する接着性(引抜力、ゴム付)に優れることが分かった。
【0036】
上記第2表に示す結果から、没食子酸を含有する実施例5〜8、没食子酸水和物を含有する実施例9〜11、および、没食子酸と没食子酸水和物とを含有する実施例12は、没食子酸または没食子酸水和物を含有しない比較例2と比べて、引張特性および金属に対する接着性に優れることが分かった。
また、没食子酸および/または没食子酸水和物を1.0質量部含有する実施例7,11,12は、POBを1.0質量部含有する比較例3と比べて、とりわけ引張特性に優れる傾向にあることが分かった。
【0037】
上記第3表に示す結果から、NRとIRとを併用する系において、没食子酸を含有する実施例13,14は、没食子酸を含有しない比較例4と比べて、引張特性および金属に対する接着性に優れることが分かった。
また、NRとSBRとを併用する系においても同様に、没食子酸を含有する実施例15,16は、没食子酸を含有しない比較例5と比べて、引張特性および金属に対する接着性に優れることが分かった。
【0038】
次に、実施例どうしについて検討する。
実施例1〜4を見ると、没食子酸の含有量が0.5質量部または1.0質量部である実施例2,3が、引張特性および金属に対する接着性により優れる傾向にあることが分かった。これは、実施例5〜8においても同様であることが分かった。
【0039】
実施例5〜8と実施例9〜11とを比較すると、没食子酸を用いた実施例5〜8と没食子酸水和物を用いた実施例9〜11とは、いずれも同等に引張特性および金属に対する接着性が優れることが分かった。また、没食子酸と没食子酸水和物とを併用した実施例12も同様であることが分かった。
【0040】
実施例1〜4と実施例5〜8とを比較すると、有機酸コバルト塩1を用いた実施例1〜4よりも有機酸コバルト塩2を用いた実施例5〜8の方が、熱老化後における金属に対する接着性により優れる傾向にあることが分かった。
【0041】
実施例13および14と実施例15および16と比較すると、NRとIRとを併用する実施例13および14と、NRとSBRとを併用する実施例15および16とは、いずれも同等に引張特性および金属に対する接着性が優れることが分かった。
【符号の説明】
【0042】
1 ビード部
2 サイドウォール部
3 トレッド部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 リムクッション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部と、
没食子酸および/または没食子酸水和物0.1〜10質量部と、
有機酸コバルト塩と、を含有するタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記有機酸コバルト塩の含有量が、コバルト量として前記ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜0.5質量部である、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ジエン系ゴムが、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、および、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)からなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムである、請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物を、スチールコードを被覆するゴム組成物として使用したタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2011−252107(P2011−252107A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127830(P2010−127830)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】