説明

タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】グリップ性能とブロー性能を両立できるタイヤ用ゴム組成物、及びこれを用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】酸と、窒素化合物と、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物とを含むタイヤ用ゴム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、特に競技用タイヤのトレッドゴムに関して、窒素化合物と酸を配合し、ヒステリシスロスを発生させ、グリップ性能を向上させる方法が用いられてきた(例えば、特許文献1)。しかし、窒素化合物と酸を配合することにより、グリップ性能を向上させることはできるものの、ブロー性能が低下してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−163108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記課題を解決し、グリップ性能とブロー性能を両立できるタイヤ用ゴム組成物、及びこれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、酸と、窒素化合物と、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物とを含むタイヤ用ゴム組成物に関する。
【0006】
上記酸が、カルボン酸又はフェノール誘導体であることが好ましい。
【0007】
上記窒素化合物が、イミダゾール類であることが好ましい。
【0008】
上記タイヤ用ゴム組成物が、トレッドに使用されることが好ましい。
【0009】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いた空気入りタイヤに関する。上記空気入りタイヤが、競技用タイヤであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸と、窒素化合物と、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物とを含むタイヤ用ゴム組成物であるので、グリップ性能を向上させたまま、ブロー性能を向上させることができ、グリップ性能とブロー性能を両立させた空気入りタイヤを提供できる。
なお、ブローとは、タイヤ表面ゴムが沸騰し、ブリスターになり、ゴムが飛び散ったような破損をいう。ブロー性能が高いほど、このような破損を抑制できる。アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物を配合したことにより、スコーチタイムの低下も抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、酸と、窒素化合物と、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物とを含む。
【0012】
本発明で使用できるゴム成分としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合ゴム(SIBR)等のジエン系ゴムを使用してもよい。これらジエン系ゴムは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、競技用タイヤとしてのグリップ性能が得られるという理由から、SBRが好ましい。
【0013】
SBRとしては、特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)等を使用できる。
【0014】
SBRのスチレン含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは35質量%以上である。10質量%未満であると、tanδが低く、高いグリップ性能が得られないおそれがある。また、上記スチレン含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。50質量%を超えると、常温でのゴム硬度が高すぎるため、グリップ性能を発揮できないおそれがある。
【0015】
本発明のゴム組成物がSBRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは100質量%である。80質量%未満であると、充分なtanδを得ることができず、満足するグリップ性能が得られないおそれがある。
【0016】
本発明では、酸が使用される。酸としては、特に限定されず、例えば、カルボン酸、フェノール誘導体、スルホン酸等が挙げられる。なかでも、グリップ性能の向上効果が高いという理由から、カルボン酸、フェノール誘導体が好ましい。
【0017】
カルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、オレイン酸などの脂肪族モノカルボン酸、コハク酸、マレイン酸などの脂肪族ジカルボン酸、安息香酸、安息香酸誘導体、ケイ皮酸、ナフトエ酸などの芳香族モノカルボン酸、フタル酸、無水フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などの芳香族ポリカルボン酸が挙げられる。なかでも、芳香族モノカルボン酸が好ましく、安息香酸及び安息香酸誘導体がより好ましい。安息香酸誘導体としては、例えば、安息香酸に炭化水素基(アルキル基、アルコキシ基等)、水酸基等の官能基が導入されたものが挙げられ、具体的には、p−メチル安息香酸、p−メトキシ安息香酸、p−クロロ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、サリチル酸等が挙げられる。
【0018】
フェノール誘導体としては、下記一般式(I)〜(IV)に示す化合物等が挙げられる。
【0019】
【化1】

【0020】
【化2】

【0021】
【化3】

【0022】
【化4】

【0023】
上記一般式(I)〜(IV)において、R〜Rは、同一又は異なって、炭素数1〜10(好ましくは1〜6)の炭化水素基である。該炭化水素基としては、炭素数1〜10(好ましくは1〜6)のアルキル基、炭素数1〜10(好ましくは1〜6)のアルケニル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基等を挙げることができる。
【0024】
nおよびn’は、同一又は異なって、0または1〜3の整数である。nおよびn’は、1〜2であることが好ましい。
mおよびm’は、同一又は異なって、1または2の整数である。mおよびm’は、1であることが好ましい。
sは、1〜3の整数である。sは、1〜2であることが好ましい。
tは、0または1〜3の整数である。tは、1〜2であることが好ましい。
【0025】
Xは、酸素原子、硫黄原子およびハロゲン原子からなる群より選択される原子または該原子を含有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基である。炭化水素基としては、アルキレン基、シクロアルキレン基またはそれらの不飽和基を挙げることができる。例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、n−ブチレン基、i−ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基等を、また、不飽和基としてビニレン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基、ブチリデン基、イソブチリデン基、エステル結合含有基、芳香族基等を挙げることができる。Xの好ましい具体例は、次の(1)〜(3)である。また、エステル結合含有基は、−CO−O−を含むグループであり、具体例として下記の(4)〜(7)で表されるものを例示することができる。
【0026】
【化5】

【0027】
上記一般式(I)〜(IV)で表されるフェノール誘導体の具体例としては、例えば、2−tert−ブチルフェノール;2−エチル−6−メチルフェノール;2,6−ジ−tert−ブチルフェノール;3−メチル−2,6−ビス(1−メチルエチル)フェノール;4−メチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール;3−メチル−2,6−ビス(1−メチルプロピル)フェノール;2−ブチル−6−エチルフェノール;4−ブチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール;4−tert−ブチル−2,6−ジメチルフェノール;6−tert−ブチル−2,3−ジメチルフェノール;2−tert−ブチル−4−メチルフェノール;2−シクロヘキシル−6−tert−ブチルフェノール;2−シクロヘキシル−6−tert−ブチル−4−メチルフェノール;2−tert−ブチル−4,6−ジメチルフェノール;4,4'−ジヒドロキシビフェニル;4,4'−チオビスフェノール;ヒドロキノン;1,5−ヒドロキシナフタレン;4,4'−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4'−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4'−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール);4,4'−エチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール);4,4'−プロピリデンビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4'−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール);4,4'−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール);2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール);2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4'−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール);2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール);2,2'−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール);2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)等を挙げることができる。なかでも、グリップ性能の向上効果が高いという理由から、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)が好ましい。
【0028】
上記酸は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上である。1質量部未満であると、充分なグリップ性能の向上効果が得られないおそれがある。酸の含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下である。10質量部を超えると、配合量に見合ったグリップ性能の向上効果が得られない傾向があり、また、耐摩耗性が悪化する傾向がある。
【0030】
本発明では、窒素化合物が使用される。窒素化合物は、水素結合を形成できるものが好ましく、このような窒素化合物をゴム組成物中に配合することで、中温条件(30〜50℃)下でのグリップ性能を向上させることができる。
【0031】
窒素化合物は、チッ素を含む環状構造を1つ以上有することが好ましい。チッ素を含む環状構造を1つも含まないと、高温グリップ性能を改善できない傾向がある。
【0032】
このような窒素化合物としては、例えば、ピペリジン誘導体、イミダゾール類、カプロラクタム類などがあげられる。なかでも、汎用品で入手しやすいという理由から、イミダゾール類が好ましい。
【0033】
窒素化合物としてイミダゾール類を使用する場合、下記一般式(V)で表されるイミダゾール類を使用することが好ましい。
【0034】
【化6】

【0035】
(式中、Rは、同一又は異なって、1価の直鎖状の炭化水素基、フェニル基、−OH、―CN、−NH2または−SHである。yは0〜4の整数であり、y個のRの合計炭素数は10以下である。)
【0036】
なかでも、立体障害が少なく酸との反応が効果的に起こりやすいという理由から、Rとしては、1価の直鎖状の炭化水素基がより好ましく、アルキル基がさらに好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0037】
置換基Rの数yは0〜4の整数が好ましく、置換基Rの数が多いと立体障害となりうるという理由から、1〜2がより好ましく、1が更に好ましい。
【0038】
また、y個のRの合計炭素数は10以下が好ましく、7以下がより好ましく、5以下が更に好ましい。Rの合計炭素数が11以上では、立体障害が大きく、効果的に水素結合を形成することができず、グリップ性能の充分な改善効果が得られない傾向がある。
【0039】
上記一般式(V)で表されるイミダゾール類の具体例としては、例えば、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、1−プロピルイミダゾール、2−プロピルイミダゾール、1−シアノイミダゾール、2−シアノイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1,2−ジエチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−エチルイミダゾール、1−メチル−2−ベンジルイミダゾール、1−エチル−2−ベンジルイミダゾール等が挙げられる。なかでも、グリップ性能の向上効果が高いという理由から、2−メチルイミダゾール、2−シアノイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾールが好ましい。
【0040】
窒素化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、2種以上を組み合わせても効果が小さく、さらにゴム強度が低下するという理由から、1種のみで用いるのが好ましい。
【0041】
窒素化合物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上である。1質量部未満であると、充分なグリップ性能の向上効果が得られないおそれがある。窒素化合物の含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下である。10質量部を超えると、配合量に見合ったグリップ性能の向上効果が得られない傾向があり、また、耐摩耗性が悪化する傾向がある。
【0042】
本発明では、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物が使用される。アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物を配合することにより、グリップ性能の低下を抑制しつつ、ブロー性能を向上できる。また、酸と、窒素化合物とを配合することにより、スコーチタイムの低下が懸念されるが、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物をさらに配合したことにより、スコーチタイムの低下を抑制することができる。そのため、仕上げ練りや押し出し工程等でゴム焼けの問題が生じにくい。アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物としては、下記式で表されるものが挙げられる。
【0043】
【化7】

(式中、gは0又は1〜10の整数であり、fは2〜4の整数であり、Rは炭素数5〜12のアルキル基である。)
【0044】
アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物のゴム中への分散性が良い点から、gは1〜9の整数が好ましい。また、ブロー性能の向上が効率よく得られる点から、fは2〜4の整数が好ましく、2がより好ましい。fが4を超えると、熱的に不安定となる傾向があり、fが1であるとアルキルフェノール・塩化硫黄縮合物中の硫黄含有率(硫黄の重量)が少なくなる。ゴム中への分散性が良い点から、Rの下限は好ましくは炭素数5以上、より好ましくは6以上のアルキル基であり、上限は好ましくは炭素数12以下、より好ましくは炭素数9以下のアルキル基である。アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物の具体例としては、gが0〜10、fが2、RがC17のアルキル基で、硫黄含有率が24質量%のタッキロールV200(田岡化学工業(株)製)が挙げられる。上記アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上である。1質量部未満であると、充分なブロー性能の向上効果が得られないおそれがある。アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物の含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下である。10質量部を超えると、グリップ性能が悪化する傾向がある。
【0046】
本発明のゴム組成物は、粘着付与樹脂を配合することが好ましい。粘着付与樹脂とは、一般には分子量が数百から数千の熱可塑性樹脂で、天然ゴムや合成ゴムに配合することによって粘着性を付与する樹脂をいい、種々の天然樹脂及び合成樹脂を使用することができる。具体的には、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂などの天然樹脂、石油系樹脂、フェノール系樹脂、石炭系樹脂、キシレン系樹脂などの合成樹脂が使用できる。上記粘着付与樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、グリップ性能の向上効果が高いという理由から、石油系樹脂が好ましい。
【0047】
石油系樹脂は、例えば、石油化学工業のナフサの熱分解により、エチレン、プロピレンなどの石油化学基礎原料とともに副生するオレフィンやジオレフィン等の不飽和炭化水素を含む分解油留分を混合物のままフリーデルクラフツ型触媒により重合して得られる。該石油系樹脂としては、ナフサの熱分解によって得られるC 留分を(共)重合して得られる脂肪族系石油樹脂、ナフサの熱分解によって得られるC 留分を(共)重合して得られる芳香族系石油樹脂、前記C 留分とC 留分を共重合して得られる共重合系石油樹脂、水素添加系,ジシクロペンタジエン系等の脂環式化合物系石油樹脂、スチレン,置換スチレン,スチレンと他のモノマーとの共重合体等のスチレン系樹脂等の石油系樹脂が挙げられる。ナフサの熱分解によって得られるC 留分には、通常1−ペンテン、2−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、3−メチル−1−ブテン等のオレフィン系炭化水素、2−メチル−1,3−ブタジエン、1,2−ペンタジエン、1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,2−ブタジエンなどのジオレフィン系炭化水素等が含まれる。また、C 留分を(共)重合して得られる芳香族系石油樹脂とは、ビニルトルエン、インデンを主要なモノマーとする炭素数9の芳香族を重合した樹脂であり、ナフサの熱分解によって得られるC 留分の具体例としては、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、γ−メチルスチレン等のスチレン同族体やインデン、クマロン等のインデン同族体等が挙げられる。商品名としては、三井石油化学社製ペトロジン、ミクニ化学社製ペトライト、日本石油化学社製ネオポリマー、東洋曹達社製ペトコール、新日鐵化学(株)製エスクロン等がある。
【0048】
また、本発明では、グリップ性能の向上効果が高いという理由から、前記C留分からなる石油樹脂を変性した変性石油樹脂が、好適に使用される。変性石油樹脂としては、不飽和脂環式化合物で変性したC系石油樹脂、水酸基を有する化合物で変性したC系石油樹脂、不飽和カルボン酸化合物で変性したC系石油樹脂等が挙げられる。
【0049】
粘着付与樹脂の軟化点は、60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。粘着付与樹脂の軟化点が60℃未満では、高温条件下でのグリップ性能が低下する傾向がある。また、粘着付与樹脂の軟化点は、180℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。粘着付与樹脂の軟化点が180℃をこえると、混練時の分散性が低下する傾向がある。
なお、粘着付与樹脂の軟化点は、環球法(JIS K2207)により測定した値である。
【0050】
粘着付与樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上である。1質量部未満であると、充分なグリップ性能の向上効果が得られないおそれがある。粘着付与樹脂の含有量は、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。15質量部を超えると、硬度が高すぎて充分なグリップ性能が得られないおそれがある。
【0051】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、カーボンブラック、シリカ等の補強用充填剤、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、各種老化防止剤、オイル、ワックス、加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合することができる。
【0052】
本発明のゴム組成物は、一般的な方法で製造される。すなわち、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどで前記各成分を混練りし、その後加硫する方法等により製造できる。該ゴム組成物は、タイヤの各部材に使用でき、なかでも、トレッドに好適に使用できる。
【0053】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。
すなわち、前記成分を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でトレッドなどの各タイヤ部材の形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを得る。
【0054】
本発明の空気入りタイヤは、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、競技用タイヤ等として好適に用いられ、特に競技用タイヤとして好適に用いられる。本発明により得られる空気入りタイヤは、グリップ性能とブロー性能を両立できる。
【実施例】
【0055】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0056】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
SBR:旭化成(株)製のタフデン4350(スチレン含有量:39質量%、ゴム固形分100質量部に対してオイル分50質量部含有)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイヤブラックA(N110)
老化防止剤6C:フレキシス社製サントフレックス13
老化防止剤224:フレキシス社製ノクラック224
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸
酸化亜鉛:三井金属工業(株)製の酸化亜鉛2種
アロマオイル:ジャパンエナジー社製のプロセスX−260
粘着付与樹脂1:新日本石油化学社製ネオポリマー140(軟化点:145℃、酸価:0mgKOH/g、芳香族系石油樹脂)
粘着付与樹脂2:新日鐵化学(株)製のエスクロンV120(軟化点:120℃、酸価:0.30mgKOH/g、変性クマロン樹脂(変性石油樹脂))
窒素化合物1:四国化成(株)製の2MZ(2−メチルイミダゾール)
窒素化合物2:四国化成(株)製の2CNZ(2−シアノイミダゾール)
酸1:大内新興化学工業(株)製のノクラックNS−30(4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール))
酸2:大内新興化学工業(株)製のノクラックNS−6(2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール))
硫黄:鶴見化学(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS
架橋剤:田岡化学工業(株)製のタッキロールV200(アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物)
【0057】
実施例1〜9及び比較例1〜3
表1に示す配合内容に従い、BP型バンバリーミキサーを用いて、配合材料のうち、硫黄、加硫促進剤、架橋剤以外の材料を150℃の条件下で3分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄、加硫促進剤、架橋剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物を170℃で12分間プレス加硫し、加硫ゴムシートを得た。
また、得られた未加硫ゴム組成物をトレッド形状に成形し、他のタイヤ部材と貼り合わせてタイヤに成形し、170℃で12分間加硫することで試験用カートタイヤ(タイヤサイズ:11×7.10−5)を製造した。
【0058】
得られた加硫ゴムシート、試験用カートタイヤを使用して、下記の評価を行った。それぞれの試験結果を表1に示す。
【0059】
(グリップ性能)
試験用カートに試験用カートタイヤを装着させ、1周2kmのテストコースを8周走行し、比較例1のタイヤのグリップ性能を3点とし、5点満点でテストドライバーが官能評価した。数値が大きいほどグリップ性能が良好である。
【0060】
(ブロー性能)
加硫ゴムシートをオーブンに入れ、オーブンの温度を徐々に上昇させ(昇温速度:1℃/分)、加硫ゴムシートを観察し、ブローが発生した際の温度を測定した。結果は、比較例1を100として、指数表示した。指数が大きいほど、高い温度までブローが発生しなかったことを示し、ブロー性能が良好である。
【0061】
(スコーチタイム)
JIS K6300の未加硫ゴム物理試験方法のムーニースコーチ試験に準拠して試験を行い、130.0±0.5℃でのt10(分)を測定し、比較例1のt10を100とした指数で示した。指数が大きいほど、早期加硫を抑制でき、好ましいことを示す。逆に、指数が小さいほど、スコーチタイムが短くなり、仕上げ練りや押し出し工程等でゴム焼けの問題が起こる傾向がある。
【0062】
【表1】

【0063】
酸と、窒素化合物と、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物とを含む実施例では、グリップ性能を向上させたまま、ブロー性能を向上させることができた。さらに、粘着付与樹脂を配合した実施例6〜8では、グリップ性能をより向上させることができた。一方、酸、窒素化合物、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物のいずれも含まない比較例1では、グリップ性能、ブロー性能を両立できなかった。酸、窒素化合物を含み、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物を含まない比較例2は、ブロー性能が大きく劣っていた。酸、窒素化合物を含まず、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物を含む比較例3は、グリップ性能が大きく劣っていた。また、実施例は、比較例と比べてスコーチタイム指数が大きく、早期加硫を抑制できていることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸と、窒素化合物と、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物とを含むタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記酸が、カルボン酸又はフェノール誘導体である請求項1記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記窒素化合物が、イミダゾール類である請求項1又は2記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
トレッドに使用される請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のゴム組成物を用いた空気入りタイヤ。
【請求項6】
競技用タイヤである請求項5記載の空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2011−74155(P2011−74155A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225332(P2009−225332)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】