説明

タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】低発熱性に優れたゴム組成物及び空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】(a)硫黄含有シランカップリング剤と脂肪酸とで表面処理されたシリカ、(b)硫黄含有シランカップリング剤とアミノシランカップリング剤と脂肪酸とで表面処理されたシリカ、及び、(c)硫黄含有シランカップリング剤と硫黄非含有有機ケイ素化合物とで表面処理されたシリカから選択された少なくとも1種の表面処理シリカと、ジエン系ゴムラテックスとを、水系媒体中にて混合、凝固及び乾燥して得られたウェットマスターバッチを配合したタイヤ用ゴム組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカを含むウェットマスターバッチを配合したタイヤ用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの低燃費性向上のためには、タイヤを構成するゴム組成物のヒステリシスロスを低減して低発熱性にすることが有効である。そこで、タイヤ用ゴム組成物において、充填剤としてのシリカを配合することが行われている。しかしながら、シリカは、粒子表面にシラノール基(Si−OH)を有し、親水性であるため、粒子同士が凝集しやすく、分散性に劣るという問題がある。そのため、シランカップリング剤を配合して、シリカの分散性を向上している。
【0003】
空気入りタイヤの低燃費化は、最近ますますその要求レベルが高くなっており、シリカの分散性を改良するため、シリカをシランカップリング剤で予め表面処理することが行われている。例えば、下記特許文献1には、チオシアネート基またはスルフィド結合を持ったアルコキシシラン化合物によって表面処理したシリカの製造方法、及びそのゴム組成物への配合が提案されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、低発熱性と耐摩耗性に優れたゴム組成物を提供するために、スルフィドシランカップリング剤と有機シラン化合物と疎水化剤とで表面処理したシリカを、ゴム成分に配合することが開示されている。
【0005】
一方、下記特許文献3には、ゴム組成物の補強性を改良するために、化学的に変性されたフィラーが提案されており、シリカを、スルフィドシランカップリング剤と非硫黄含有有機金属化合物とで処理することにより、変性フィラーを得ることが開示されている。また、この文献には、該変性フィラーと有機ゴムと水不混和性有機溶媒とを組み合わせたマスターバッチが開示されている。
【0006】
下記特許文献4には、タイヤなどのゴム製品における機械的強度や耐摩耗性を向上させるために、スルフィドシランカップリング剤で表面処理されたシリカとゴム成分と油成分を組み合わせたウェットマスターバッチが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−017705号公報
【特許文献2】特開2010−059270号公報
【特許文献3】特表2003−507521号公報
【特許文献4】特開2005−075900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、従来、表面処理シリカを用いたマスターバッチは知られていたものの、硫黄含有シランカップリング剤と、脂肪酸や硫黄非含有有機ケイ素化合物とで表面処理されたシリカを、ジエン系ゴムラテックスとともに水系媒体中で凝固、乾燥して得られたウェットマスターバッチを、タイヤ用ゴム組成物に用いることは知られておらず、また、それにより、極めて優れた低発熱性が得られることも知られていなかった。
【0009】
本発明は、低発熱性を顕著に改善することができるタイヤ用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るタイヤ用ゴム組成物は、(a)下記一般式(1)で表される硫黄含有シランカップリング剤と炭素数5〜30の脂肪酸とで表面処理されたシリカ、
(b)下記一般式(1)で表される硫黄含有シランカップリング剤と下記一般式(2)で表されるアミノシランカップリング剤と炭素数5〜30の脂肪酸とで表面処理されたシリカ、及び、
(c)下記一般式(1)で表される硫黄含有シランカップリング剤と下記一般式(3)で表される硫黄非含有有機ケイ素化合物とで表面処理されたシリカ
から選択された少なくとも1種の表面処理シリカと、ジエン系ゴムラテックスとを、水系媒体中にて混合、凝固及び乾燥して得られたウェットマスターバッチを配合したものである。
【0011】
(R(RSi−A …(1)
(式中、Rは炭素数1〜3のアルコキシ基、Rは炭素数1〜40のアルキル基、アルケニル基又はアルキルポリエーテル基、m=1〜3、m+n=3であり、Aは下記一般式(4)〜(6)のいずれかである。)
−R−S−R−Si(R(R …(4)
−R−SH …(5)
−R−S−CO−R …(6)
(式中、R,Rはそれぞれ独立に炭素数1〜8のアルキレン基、Rは炭素数1〜16のアルキレン基、Rは炭素数1〜5のアルキレン基、Rは炭素数1〜18のアルキル基、xは2〜8である。)
【0012】
(R(RSi−R10−(NH−R11−NH …(2)
(式中、Rは炭素数1〜3のアルコキシ基、Rは炭素数1〜10のアルキル基又はアルケニル基、R10は炭素数1〜4のアルキレン基、R11は炭素数1〜4のアルキレン基であり、p=1〜3、p+q=3、r=0〜3である。)
【0013】
(R12Si(R13 …(3)
(式中、R12は、炭素数1〜18のアルキル基もしくはアルケニル基、又は炭素数1〜12の有機官能性アルキル基もしくはアルケニル基であり、R13は、炭素数1〜12のアルコキシ基もしくはアシロキシ基、ハロゲン又はアミノ基であり、s=1〜3、s+t=4である。)
本発明は、また、上記ゴム組成物を用いてなるゴム部分を有する空気入りタイヤを提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上記特定の表面処理シリカを用いて、これをジエン系ゴムラテックスとともにウェットマスターバッチ化してゴム組成物中に配合することにより、シリカのゴムへの分散性を顕著に向上することができ、タイヤ用ゴム組成物としての低発熱性を顕著に改善することができる。そのため、低燃費性に優れた空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0016】
本発明に係るゴム組成物は、表面処理シリカとジエン系ゴムラテックスとを水系媒体中にて混合、凝固及び乾燥して得られたウェットマスターバッチを配合してなるものである。
【0017】
表面処理シリカとしては、硫黄含有シランカップリング剤と脂肪酸とで処理された表面処理シリカ(a)、硫黄含有シランカップリング剤とアミノシランカップリング剤と脂肪酸とで処理された表面処理シリカ(b)、及び、硫黄含有シランカップリング剤と硫黄非含有有機ケイ素化合物とで処理された表面処理シリカ(c)のいずれか少なくとも1種が用いられる。かかる表面処理シリカは、表面処理していない未処理シリカや、硫黄含有シランカップリング剤単独で処理されたシリカよりもゴムへの分散性に優れる。詳細には、シリカに表面処理された硫黄含有シランカップリング剤は、シリカとゴムポリマーとを結合させることができ、シリカに補強性の効果を付与するとともに、分散性を向上する。また、シリカに表面処理された脂肪酸や硫黄非含有有機ケイ素化合物は、シリカ表面を疎水性にすることで、シリカのゴムへの分散性を向上する。そのため、上記表面処理シリカは、ゴムへの分散性が良好であり、耐摩耗性を損なうことなく低発熱性を向上することができる。
【0018】
該表面処理シリカを得るための処理対象となるシリカとしては、粒子表面にヒドロキシル基(シラノール基)を有する各種の親水性シリカが挙げられ、例えば、湿式沈殿法シリカ、湿式ゲル化法シリカ、乾式シリカなどが挙げられる。特に限定するものではないが、該シリカとしては窒素吸着比表面積(BET)が100〜300m/gであるものが好ましい。なお、シリカのBETはISO 5794に記載のBET法に準拠し測定される。
【0019】
上記硫黄含有シランカップリング剤としては、下記一般式(1)で表される化合物が用いられる。該化合物は、シリカのシラノール基と反応し得るアルコキシ基と、ゴムポリマーと反応し得る硫黄原子を含む官能基Aとを有するものである。
【0020】
(R(RSi−A …(1)
(式中、Rは炭素数1〜3のアルコキシ基、Rは炭素数1〜40のアルキル基、アルケニル基又はアルキルポリエーテル基、m=1〜3、m+n=3であり、Aは下記一般式(4)〜(6)のいずれかである。)
−R−S−R−Si(R(R …(4)
−R−SH …(5)
−R−S−CO−R …(6)
(式中、R,Rはそれぞれ独立に炭素数1〜8のアルキレン基、Rは炭素数1〜16のアルキレン基、Rは炭素数1〜5のアルキレン基、Rは炭素数1〜18のアルキル基、xは2〜8である。)
【0021】
上記式(1)において、Rは、より好ましくはメトキシ基又はエトキシ基である。また、Rは、炭素数1〜4のアルキル基又はアルケニル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である。Rについて、上記アルキルポリエーテル基とは、−O−(R−O)−R(ここで、Rは炭素数1〜4のアルキレン基、Rは炭素数1〜16のアルキル基、k=1〜20であることが好ましい。)で表される。なお、R,Rは、それぞれ1分子中に複数有する場合、それらは同一でも異なってもよい。また、m,nについては、m=3及びn=0であることが好ましい。
【0022】
また、R,Rは、より好ましくは、それぞれ独立に炭素数2〜4のアルキレン基である。Rは、より好ましくは炭素数2〜4のアルキレン基である。Rは、より好ましくは炭素数2〜4のアルキレン基である。Rは、より好ましくは炭素数5〜9のアルキル基である。xは2〜8であり、より好ましくは2〜4である。なお、xは通常分布を有しており、即ち、硫黄連鎖結合の数が異なるものの混合物として一般に市販されており、xはその平均値を表す。なお、上記式(4)中のR、R、m、nは、上記式(1)と同じである。
【0023】
上記官能基Aが上記式(4)で表されるスルフィドシランカップリング剤としては、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエキトシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィドなどが好ましいものとして挙げられる。
【0024】
上記官能基Aが上記式(5)で表されるメルカプトシランカップリング剤としては、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、メルカプトエチルトリエトキシシラン、及びエボニック・デグサ社製「VP Si363」(R:OC、R:O(CO)−C1327、R:−(CH−、m=平均1、n=平均2、k=平均5)などが好ましいものとして挙げられる。
【0025】
上記官能基Aが上記式(6)で表される保護化メルカプトシランカップリング剤としては、例えば、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン、3−プロピオニルチオプロピルトリメトキシシランなどが好ましいものとして挙げられる。
【0026】
以上列挙した各硫黄含有シランカップリング剤は、それぞれ単独であるいは2種以上を組合せて用いることができる。
【0027】
上記脂肪酸としては、炭素数が5〜30のものが用いられる。炭素数が4以下の脂肪酸では、シリカを疎水化する効果が不十分となるおそれがある。脂肪酸の炭素数は、より好ましくは、下限が10以上、更には14以上であり、上限が20以下である。
【0028】
脂肪酸としては、飽和脂肪酸でも、不飽和脂肪酸でもよく、また、直鎖構造でも分岐構造を持つものでもよい。具体的には、ヘキサン酸、デカン酸、ドデカン酸、ミリスチン酸、イソミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、ベヘニル酸等が挙げられ、これらはいずれか1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0029】
上記アミノシランカップリング剤としては、下記一般式(2)で表される化合物が用いられる。該化合物は、シリカのシラノール基と反応し得るアルコキシ基と、疎水化剤である脂肪酸と反応し得るアミノ基とを有するものである。
【0030】
(R(RSi−R10−(NH−R11−NH …(2)
(式中、Rは炭素数1〜3のアルコキシ基、Rは炭素数1〜10のアルキル基又はアルケニル基、R10は炭素数1〜4のアルキレン基、R11は炭素数1〜4のアルキレン基であり、p=1〜3、p+q=3、r=0〜3である。)
式(2)において、Rは、より好ましくはメトキシ基又はエトキシ基である。Rは、炭素数1〜4のアルキル基又はアルケニル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である。Rについて、上記アルキルポリエーテル基とは、−O−(R−O)−R(ここで、Rは炭素数1〜4のアルキレン基、Rは炭素数1〜16のアルキル基、k=1〜20であることが好ましい。)で表される。R,Rは、それぞれ1分子中に複数有する場合、それらは同一でも異なってもよい。
【0031】
10としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基が挙げられる。R11としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基が挙げられる。pはより好ましくは2〜3である。また、rはより好ましくは0又は1である。
【0032】
このようなアミノシランカップリング剤の具体例としては、2−アミノエチルトリメトキシシラン、2−アミノエチルトリエトキシシラン、2−アミノエチルエチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルエチルジエトキシシラン等が挙げられ、好ましくは2−アミノエチルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランである。これらは単独あるいは2種以上を組合せて用いることができる。
【0033】
上記硫黄非含有有機ケイ素化合物としては、下記一般式(3)で表される化合物が用いられる。該化合物は、シリカのシラノール基と反応し得るR13で表される官能基と、ゴムポリマーへの分散性を向上させるR12で表される基とを有するものである。
【0034】
(R12Si(R13 …(3)
(式中、R12は、炭素数1〜18のアルキル基もしくはアルケニル基、又は炭素数1〜12の有機官能性アルキル基もしくはアルケニル基であり、R13は、炭素数1〜12のアルコキシ基もしくはアシロキシ基(−OCOR)、ハロゲン又はアミノ基であり、s=1〜3、s+t=4である。)
【0035】
上記式(3)において、R12は1分子中に複数有する場合、それらは同一でも異なってもよい。ここで、有機官能性アルキル基又はアルケニル基とは、アミノ基、カルボキシル基、カルビノールエステル、アミド等の官能基を有するアルキル基又はアルケニル基であり、例えば、アミノエチル基、アミノプロピル基、(2−アミノエチル)アミノプロピル基などが挙げられる。R12は、より好ましくは、炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルケニル基、又は炭素数1〜8の有機官能性アルキル基もしくはアルケニル基である。R12は、炭素数1〜18のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜10のアルキル基である。また、1分子中にR12を複数有する場合、炭素数1〜3のアルキル基と、炭素数5〜10のアルキル基とを組み合わせたものも好ましく用いられる。
【0036】
上記式(3)において、R13は1分子中に複数有する場合、それらは同一でも異なってもよい。R13は、好ましくは、炭素数1〜12のアルコキシ基、又はハロゲンである。アルコキシ基としては、メトキシ基又はエトキシ基であることが好ましい。ハロゲンとしては、塩素又は臭素であることが好ましく、より好ましくは塩素である。
【0037】
硫黄非含有有機ケイ素化合物の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ジアリルジメチルシラン、アリルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノエチルトリメトキシシラン、2−アミノエチルトリエトキシシラン、2−アミノエチルエチルジエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、エチルトリアセトキシシラン、ジエチルジアセトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、アリルメチルジクロロシラン、n−オクチルジメチルクロロシランなどが挙げられる。これらは単独あるいは2種以上を組合せて用いることができる。
【0038】
上記表面処理シリカ(a)は、親水性シリカを、上記の硫黄含有シランカップリング剤と脂肪酸とで表面処理することにより得られる。好ましくは、まず、硫黄含有シランカップリング剤で表面処理した後、次いで、脂肪酸で表面処理することである。このような順番で処理することにより、粒子表面のシラノール基に反応によって結合させる硫黄含有シランカップリング剤の量を確保しやすい。表面処理方法は特に限定されるものではなく、通常の疎水化表面処理方法に準じて行うことができる。例えば、ミキサーやブレンダー中で、親水性シリカを攪拌しながら、硫黄含有シランカップリング剤を添加し、次いで、脂肪酸を添加して攪拌すればよい。なお、これらの表面処理は、水やイソプロピルアルコール、トルエンなどの溶媒中にシリカを分散させた状態で行うこともできる。
【0039】
このようにして得られる表面処理シリカ(a)は、ゴム成分に対する反応部位を持つ硫黄含有シランカップリング剤と、疎水化剤としての脂肪酸とで予め表面処理されている。これは、硫黄含有シランカップリング剤による表面処理だけのシリカではゴムへの分散性が十分でなく、また脂肪酸だけで表面処理したシリカではゴムとの補強性に乏しいからであり、硫黄含有シランカップリング剤と脂肪酸の双方で予め表面処理することにより、ゴムへの分散性と補強性を兼ね備えた表面処理シリカとすることができる。ここで、硫黄含有シランカップリング剤は、シリカ表面のシラノール基に結合しており、硫黄原子を含む官能基がゴム成分との混合時に反応することで、シリカとゴム成分を結合するものと考えられる。また、脂肪酸は、親水性のカルボキシル基でシリカ表面のシラノール基に対して水素結合し、あるいはまた脱水縮合等することにより結合する考えられ、ゴム成分と混合した状態において、炭化水素基が疎水性を発揮することにより、シリカの分散性を向上する。
【0040】
上記表面処理シリカ(b)は、親水性シリカを、上記の硫黄含有シランカップリング剤とアミノシランカップリング剤と脂肪酸とで表面処理することにより得られる。好ましくは、まず、硫黄含有シランカップリング剤とアミノシランカップリング剤とで予め表面処理し、更にアミノシランカップリング剤のアミノ基に脂肪酸を反応させることである。表面処理方法は特に限定されるものではなく、通常の疎水化表面処理方法に準じて行うことができる。例えば、ミキサーやブレンダー中で、親水性シリカを攪拌しながら、硫黄含有シランカップリング剤とアミノシランカップリング剤を添加し、次いで、脂肪酸を添加して攪拌すればよい。硫黄含有シランカップリング剤とアミノシランカップリング剤は、いずれか一方を先に反応させてもよく、同時に反応させてもよいが、好ましくは硫黄含有シランカップリング剤で先に処理することである。なお、これらの表面処理は、水やイソプロピルアルコール、トルエンなどの溶媒中にシリカを分散させた状態で行うこともできる。このようにして製造することにより、硫黄含有シランカップリング剤とアミノシランカップリング剤が、親水性シリカの粒子表面のシラノール基にそれぞれ結合し、そのうちのアミノシランカップリング剤に対して脂肪酸が結合する。
【0041】
このようにして得られる表面処理シリカ(b)は、シリカ表面のシラノール基に結合された硫黄含有シランカップリング剤と、シリカ表面のシラノール基にアミノシランカップリング剤を介して結合された脂肪酸とを有する。そのため、上記表面処理シリカ(a)と同様に、脂肪酸による優れた分散性と、硫黄含有シランカップリング剤による補強性及び分散性の効果が得られ、上記表面処理シリカ(a)と同等又はそれ以上の優れた効果が得られる。なお、脂肪酸の一部は、シリカ表面のシラノール基に対して直接結合されてもよい。
【0042】
上記表面処理シリカ(c)は、親水性シリカを、上記の硫黄含有シランカップリング剤と硫黄非含有有機ケイ素化合物とで表面処理することにより得られる。好ましくは、まず、硫黄含有シランカップリング剤で表面処理した後、次いで、硫黄非含有有機ケイ素化合物で表面処理することである。表面処理方法は特に限定されるものではなく、通常の疎水化表面処理方法に準じて行うことができる。例えば、ミキサーやブレンダー中で、親水性シリカを攪拌しながら、硫黄含有シランカップリング剤と硫黄非含有有機ケイ素化合物を添加して攪拌すればよい。硫黄含有シランカップリング剤と硫黄非含有有機ケイ素化合物は、いずれか一方を先に反応させてもよく、同時に反応させてもよい。なお、これらの表面処理は、水やトルエンなどの溶媒中にシリカを分散させた状態で行うこともできる。このようにして製造することにより、硫黄含有シランカップリング剤と硫黄非含有有機ケイ素化合物が、親水性シリカの粒子表面のシラノール基にそれぞれ結合する。
【0043】
上記表面処理シリカにおいて、硫黄含有シランカップリング剤の使用量は、特に限定されないが、親水性シリカ100質量部に対して、2〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは4〜15質量部である。硫黄含有シランカップリング剤の使用量が少なすぎると、ゴム組成物に配合したときの補強性・分散性向上効果に劣る。脂肪酸の使用量は、特に限定されないが、親水性シリカ100質量部に対して1〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは2〜10質量部である。脂肪酸の使用量が少なすぎると、ゴム組成物に対する分散性の向上効果に劣る。上記表面処理シリカ(b)において、アミノシランカップリング剤の使用量は、特に限定されないが、親水性シリカ100質量部に対して0.5〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.8〜4質量部である。上記表面処理シリカ(c)において、硫黄非含有有機ケイ素化合物の使用量は、特に限定されないが、親水性シリカ100質量部に対して2〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは3〜12質量部である。硫黄非含有有機ケイ素化合物の使用量が少なすぎると、ゴム組成物に配合したときの分散性向上効果に劣る。
【0044】
上記ジエン系ゴムラテックスとしては、公知の種々のゴムラテックスを用いることができ、例えば、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)などのジエン系ゴムポリマーが、水などの水系溶媒に分散してなるラテックスが挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。このうち、好ましくは、天然ゴムラテックス、エポキシ化天然ゴムラテックス、スチレンブタジエンゴムラテックス、ブタジエンゴムラテックスを用いることである。ジエン系ゴムラテックスにおける固形分濃度(ゴム濃度)は、特に限定されないが、一般には10〜70質量%である。
【0045】
上記表面処理シリカは、該ジエン系ゴムラテックスと水系媒体中にて混合するために、予め水中に分散させたスラリーに調製される。かかるシリカ分散スラリーの調製は、公知の方法で行うことができ、例えば、ローター・ステータータイプのハイシアーミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル等の混合機を用いることができる。シリカ分散スラリー中の表面処理シリカの濃度は、特に限定されないが、0.5〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜10質量%である。なお、該スラリーには、各種分散剤を添加しておいてもよい。
【0046】
上記ジエン系ゴムラテックスと混合させる充填剤スラリーとしては、シリカ分散スラリー単独でもよいが、シリカ分散スラリーとカーボンブラック分散スラリーを併用してもよい。すなわち、ウェットマスターバッチは、上記表面処理シリカとともにカーボンブラックを更に含有してもよい。併用するカーボンブラックとしては、特に限定されず、SAFクラス(N100番台)、ISAFクラス(N200番台)、HAFクラス(N300番台)、FEF(N500番台)、GPF(N600番台)(ともにASTMグレード)などの各種カーボンブラックを用いることができる。シリカとカーボンブラックを併用する場合、カーボンブラックを水中に分散させてなるカーボンブラック分散スラリーを、シリカ分散スラリーとともにジエン系ゴムラテックスに混合してもよく、また、予めシリカ分散スラリーとカーボンブラック分散スラリーを混合して混合スラリーを調製してから、該混合スラリーをジエン系ゴムラテックスと混合してもよい。スラリー中におけるカーボンブラックの濃度は、特に限定されないが、0.5〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜10質量%である。
【0047】
これらのスラリーとジエン系ゴムラテックスとを混合、凝固及び乾燥させてウェットマスターバッチを得る方法としては、公知のウェットマスターバッチ方法を適用することができる。混合方法としては、例えば、スラリーを撹拌しながらラテックスを滴下する方法や、逆に上記ラテックスを撹拌しながらスラリー溶液を滴下する方法などが挙げられる。凝固方法としては、上記のスラリーとラテックスの混合液に、例えばギ酸、硫酸等の酸性化合物や、塩化ナトリウム等の塩等の凝固剤を添加することにより行うことができる。凝固後には、通常、得られた凝固物を回収し、洗浄して、遠心分離等によって脱水した後、熱風乾燥機等により乾燥を行うことができる。
【0048】
上記ウェットマスターバッチ中における表面処理シリカの含有量は、特に限定されないが、ジエン系ゴム100質量部に対して10〜200質量部であることが好ましく、より好ましくは20〜150質量部であり、更に好ましくは20〜100質量部である。また、カーボンブラックを併用する場合、ウェットマスターバッチ中における含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して5〜100質量部であることが好ましく、より好ましくは10〜60質量部である。なお、上記ウェットマスターバッチには、上記ジエン系ゴム、表面処理シリカ及びカーボンブラックの他に、老化防止剤やオイル等の添加剤を加えることもできる。
【0049】
本発明に係るゴム組成物には、このようにして得られたウェットマスターバッチが配合される。このようにシリカを、上記特定の表面処理を施した上で、ウェットマスターバッチ化して配合することにより、シリカのゴムに対する分散性を改良することができ、タイヤ用ゴム組成物としての低発熱性を顕著に改善することができる。かかる低発熱化の顕著な改善効果は、ドライマスターバッチ化した場合には得られないものであり、上記ウェットマスターバッチ化による特有の効果である。
【0050】
本発明に係るゴム組成物において、ゴム成分としては、上記ウェットマスターバッチに含まれるジエン系ゴムのみで構成してもよく、該ウェットマスターバッチとともに更なるゴム成分を配合してもよい。このような更なるゴム成分としては、特に限定されず、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)などのジエン系ゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムなどの各種ゴム成分が挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。このうち、好ましくは、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴムを用いることである。
【0051】
本発明に係るゴム組成物中における上記ウェットマスターバッチの配合量は、特に限定されないが、ゴム組成物中に含まれるゴム成分100質量部のうち、上記ウェットマスターバッチ由来のジエン系ゴムが好ましくは15質量部以上、より好ましくは30質量部以上、更に好ましくは50質量部以上となるようにウェットマスターバッチを配合することが好ましい。
【0052】
ゴム組成物中における表面処理シリカの含有量としては、特に限定されないが、ゴム成分(ウェットマスターバッチとして配合されるものも含む。以下同じ。)100質量部に対して10〜200質量部であることが好ましく、より好ましくは20〜100質量部である。ゴム組成物中におけるカーボンブラックの含有量も特に限定されないが、ゴム成分100質量部に対して0〜100質量部であることが好ましく、より好ましくは5〜60質量部である。なお、ゴム組成物には、ウェットマスターバッチとは別に、表面処理シリカやカーボンブラックを配合してもよく、上記含有量にはこのように別に配合された表面処理シリカやカーボンブラックの量も含まれる。また、ゴム組成物には、表面処理シリカとともに、表面処理していない未処理のシリカを配合してもよい。その場合、表面処理シリカと未処理シリカは、両者の合計量で、ゴム成分100質量部に対して20〜200質量部配合させることが好ましい。なお、未処理シリカを配合する場合、ゴム組成物に硫黄含有シランカップリング剤を別途添加することが好ましい。その場合、後添加の硫黄含有シランカップリング剤の配合量は、未処理シリカ100質量部に対して2〜20質量部であることが好ましい。
【0053】
本発明に係るゴム組成物には、上記成分の他、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、亜鉛華、軟化剤、可塑剤、活性剤、滑剤等の各種添加剤を必要に応じて添加することができる。上記加硫剤としては、硫黄、硫黄含有化合物等が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量は上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0054】
本発明のゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー等の混合機を用いて混練し作成することができる。すなわち、上記ウェットマスターバッチに、必要に応じて更なるゴム成分と、更に上記の各種添加剤を添加し、これらを混合(混練)することにより得られる。
【0055】
該ゴム組成物は、タイヤに用いることができ、常法に従い、例えば140〜180℃で加硫成形することにより、各種空気入りタイヤのゴム部分(トレッドゴムやサイドウォールゴムなど)を構成することができる。特には、空気入りタイヤのトレッドゴムに用いることが好ましく、低燃費性に優れたタイヤを製造することができる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
[使用成分の詳細]
・硫黄含有シランカップリング剤A:エボニック・デグサ社製「Si75」、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド
・硫黄含有シランカップリング剤B:東レ・ダウコーニング(株)製「Z−6062」、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン
・硫黄含有シランカップリング剤C:GEシリコーンズ社製「NXT」、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・アミノシランカップリング剤A:東レ・ダウコーニング(株)製「Z−6020」、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン
・アミノシランカップリング剤B:東レ・ダウコーニング(株)製「Z−6011」、3−アミノプロピルトリエトキシシラン
・硫黄非含有有機ケイ素化合物A:信越化学工業(株)製「KBE3063」、ヘキシルトリエトキシシラン
・シリカA:東ソー・シリカ株式会社製「ニップシールAQ」(BET=210m/g)
・シリカB:PPGインダストリーズ社製「HiSil 315」(BET=125m/g)
・カーボンブラック:三菱化学(株)製「ダイアブラックN339」
・NRラテックス:天然ゴムラテックス、レヂテックス(株)製「LA−NRラテックス」(固形分:60質量%)
・ENRラテックス:上記NRラテックスをギ酸と過酸化水素とでエポキシ化して得たエポキシ化天然ゴムラテックス(固形分:30質量%、エポキシ化率:25モル%)
・SBRラテックス:スチレンブタジエンゴムラテックス、日本ゼオン(株)製「Nipol LX110」(固形分:40.5質量%)
・NR:RSS#3
・SBR:JSR(株)製「1502」
【0058】
[表面処理シリカ1](比較例)
80gの硫黄含有シランカップリング剤Aと、50gの蒸留水と、50gのエタノールをビーカーに入れて攪拌し、硫黄含有シランカップリング剤処理液を作製した。1000gのシリカAをオーブンにて120℃で2時間乾燥し、110℃に予熱した容量20Lのヘンシェルミキサーに、上記の乾燥させたシリカAを入れて攪拌し、硫黄含有シランカップリング剤処理液を噴霧した。更に15分間攪拌を続け、処理されたシリカを取り出した。得られた処理シリカをオーブンにて120℃で2時間熱処理を行い、表面処理シリカ1を得た。
【0059】
[表面処理シリカ2](実施例)
80gの硫黄含有シランカップリング剤Aと、50gの蒸留水と、50gのエタノールをビーカーに入れて攪拌し、硫黄含有シランカップリング剤処理液を作製した。20gのアミノシランカップリング剤Aと、20gの蒸留水と、20gのエタノールをビーカーに入れて攪拌し、アミノシランカップリング剤処理液を作製した。50gのステアリン酸と、150gのエタノールをビーカーに入れて攪拌し、ステアリン酸処理液を作製した。1000gのシリカAをオーブンにて120℃で2時間乾燥し、110℃に予熱した容量20Lのヘンシェルミキサーに、上記の乾燥させたシリカAを入れて攪拌し、硫黄含有シランカップリング剤処理液、アミノシランカップリング剤処理液、ステアリン酸処理液の順に噴霧した。更に15分間攪拌を続け、処理されたシリカを取り出した。得られた処理シリカをオーブンにて120℃で2時間熱処理を行い、表面処理シリカ2を得た。
【0060】
[表面処理シリカ3](実施例)
80gの硫黄含有シランカップリング剤Aと、50gの蒸留水と、50gのエタノールをビーカーに入れて攪拌し、硫黄含有シランカップリング剤処理液を作製した。50gのステアリン酸と、150gのエタノールをビーカーに入れて攪拌し、ステアリン酸処理液を作製した。1000gのシリカAをオーブンにて120℃で2時間乾燥し、110℃に予熱した容量20Lのヘンシェルミキサーに、上記の乾燥させたシリカAを入れて攪拌し、硫黄含有シランカップリング剤処理液、ステアリン酸処理液の順に噴霧した。更に15分間攪拌を続け、処理されたシリカを取り出した。得られた処理シリカをオーブンにて120℃で2時間熱処理を行い、表面処理シリカ3を得た。
【0061】
[表面処理シリカ4](実施例)
上記表面処理シリカ2の作製において、硫黄含有シランカップリング剤Aを硫黄含有シランカップリング剤Bに替え、アミノシランカップリング剤Aをアミノシランカップリング剤Bに替え、その他は同様にして、表面処理シリカ4を得た。
【0062】
[表面処理シリカ5](実施例)
PPGインダストリーズ社製「Agilon400」を用いた。これは、上記一般式(1)で表される硫黄含有シランカップリング剤(但し、式中のAが式(5)で表されるメルカプトシランカップリング剤)と、上記一般式(3)で表される硫黄非含有有機ケイ素化合物とで表面処理したシリカである。
【0063】
[表面処理シリカ6](実施例)
上記表面処理シリカ2の作製において、硫黄含有シランカップリング剤Aを硫黄含有シランカップリング剤Cに替え、アミノシランカップリング剤Aをアミノシランカップリング剤Bに替え、その他は同様にして、表面処理シリカ6を得た。
【0064】
[表面処理シリカ7](実施例)
80gの硫黄含有シランカップリング剤Aと、50gの蒸留水と、50gのエタノールをビーカーに入れて攪拌し、硫黄含有シランカップリング剤処理液を作製した。50gの硫黄非含有有機ケイ素化合物Aと、50gの蒸留水と、50gのエタノールをビーカーに入れて攪拌し、硫黄非含有有機ケイ素化合物処理液を作製した。1000gのシリカAをオーブンにて120℃で2時間乾燥し、110℃に予熱した容量20Lのヘンシェルミキサーに、上記の乾燥させたシリカAを入れて攪拌し、硫黄含有シランカップリング剤処理液、硫黄非含有有機ケイ素化合物処理液の順に噴霧した。更に15分間攪拌を続け、処理されたシリカを取り出した。得られた処理シリカをオーブンにて120℃で2時間熱処理を行い、表面処理シリカ7を得た。
【0065】
[シリカ/SBRウェットマスターバッチの作製]
容量20Lのミキサーに、水4000gとシリカあるいは表面処理シリカを投入し、攪拌することにより、シリカ分散スラリーを得た。得られたシリカ分散スラリーに、SBRラテックス(ゴム成分:40.5質量%)を投入し、混合した。得られた混合液にギ酸を添加してpH4〜5に調整し、凝固を完了させた。得られた凝固物を洗浄、乾燥して、シリカウェットマスターバッチを得た。使用したシリカないし表面処理シリカの種類及び量、並びにSBRラテックスの量は、下記表1に記載の通りであり、表1に示すように比較例に係るMB1−1及びMB1−2と、実施例に係るMB1−3〜7の7種類のウェットマスターバッチを作製した。
【表1】

【0066】
[シリカ/NRウェットマスターバッチの作製]
容量20Lのミキサーに、水4000gとシリカあるいは表面処理シリカを投入し、攪拌することにより、シリカ分散スラリーを得た。得られたシリカ分散スラリーに、NRラテックス(ゴム成分:60質量%)を投入し、混合した。得られた混合液にギ酸を添加してpH4〜5に調整し、凝固を完了させた。得られた凝固物を洗浄、乾燥して、シリカウェットマスターバッチを得た。使用したシリカないし表面処理シリカの種類及び量、並びにNRラテックスの量は、下記表2に記載の通りであり、表2に示すように比較例に係るMB2−1及びMB2−3と、実施例に係るMB2−2及び2−4の4種類のウェットマスターバッチを作製した。
【表2】

【0067】
[カーボンブラック/シリカ/ウェットマスターバッチの作製]
容量20Lのミキサーに、水2000gと表面処理シリカを投入し、攪拌することにより、シリカ分散スラリーを得た。別のミキサーに、水2000gとカーボンブラックを投入し、攪拌することにより、カーボンブラック分散スラリーを得た。得られたカーボンブラック分散スラリーをシリカ分散スラリーに加えて混合することにより、混合スラリーを作製した。得られた混合スラリーに、NRラテックス(ゴム成分:60質量%)又はENRラテックス(ゴム成分:30質量%)を投入し、混合した。得られた混合液にギ酸を添加してpH4〜5に調整し、凝固を完了させた。得られた凝固物を洗浄、乾燥して、ウェットマスターバッチを得た。使用したシリカないし表面処理シリカの種類及び量、カーボンブラックの量、並びに、ジエン系ゴムラテックスの種類及び量は、下記表3に記載の通りであり、表3に示すように比較例に係るMB3−1と、実施例に係るMB3−2及び3−3の3種類のウェットマスターバッチを作製した。
【表3】

【0068】
[ドライマスターバッチの作製]
バンバリーミキサーを使用し、下記表4に示す配合(質量部)に従い混合した。詳細には、80℃で混合を開始し、混合時間に伴って温度が上昇し、150℃となった段階でバンバリーミキサーから混合物を排出することにより、比較例に係るMB1−8,MB1−9及びMB3−4の3種類のドライマスターバッチを作製した。
【表4】

【0069】
[第1実施例]
バンバリーミキサーを使用し、下記表5に示す配合(質量部)に従い、まず、第一混合段階で、硫黄と加硫促進剤を除く成分を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で硫黄と加硫促進剤を添加混合してタイヤトレッド用ゴム組成物を調製した。共通配合については以下の通りである。なお、実施例及び比較例の各配合では、表面処理剤を除くシリカ分のトータルの質量が40質量部で一定となるように配合量を設定した。
【0070】
共通配合は、ゴム成分100質量部に対して、プロセスオイル(昭和シェル石油(株)製「エキストラクト4号S」)35質量部、カーボンブラック(三菱化学(株)製「ダイヤブラックN339」)30質量部、亜鉛華(三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1号」)3質量部、老化防止剤(住友化学(株)製「アンチゲン6C」)2質量部、ステアリン酸(花王(株)製「ルナックS−20」)2質量部、ワックス(日本精鑞(株)製「OZOACE0355」)2質量部、硫黄(鶴見化学工業(株)製「5%油入微粉末硫黄」)1.5質量部、加硫促進剤1(住友化学(株)製「ソクシノールCZ」)1.8質量部、加硫促進剤2(大内新興化学工業(株)製「ノクセラーD」)2.0質量部とした。
【0071】
得られた各ゴム組成物について、低発熱性(低発熱性指数)を評価した。各評価方法は以下の通りである。
【0072】
・低発熱性:160℃×30分で加硫した試験片について、JIS K6394に準じて、東洋精機(株)製粘弾性試験機を用いて、温度60℃、周波数10Hz、初期歪み10%、動歪み1%の条件で損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほどtanδが小さく、発熱しにくいこと、即ち低発熱性に優れ、低燃費性に優れることを示す。
【表5】

【0073】
結果は表5に示す通り、実施例1〜3のゴム組成物であると、比較例1に対して低発熱性が顕著に改善されていた。これに対し、表面処理シリカをウェットマスターバッチ化せずに配合した比較例2,3では、低発熱性の改良効果が実施例に比べて明らかに劣っていた。比較例4では、シリカをウェットマスターバッチ化したものの、表面処理されていない未処理シリカを用いたため、低発熱性の改良効果はほとんど得られなかった。また、比較例5では、表面処理シリカをウェットマスターバッチ化したものの、硫黄含有シランカップリング剤のみで表面処理されたシリカであったため、低発熱性の改良効果は実施例に比べて明らかに劣っていた。また、比較例6及び7では、それぞれ未処理シリカ及び表面処理シリカをマスターバッチ化したものの、ドライマスターバッチであったため、低発熱性の改良効果は実施例に比べて明らかに劣っていた。
【0074】
[第2実施例]
バンバリーミキサーを使用し、下記表6に示す配合(質量部)に従い、第1実施例と同様の方法でゴム組成物を調製した。共通配合は第1実施例と同じである。得られたゴム組成物を用いて、第1実施例と同様に、低発熱性を評価した。評価は、実施例4については比較例8の値を100とし、実施例5については比較例9の値を100とした指数で示した。結果は表6に示す通りであり、実施例のゴム組成物であると、低発熱性が顕著に改善されていた。
【表6】

【0075】
[第3実施例]
バンバリーミキサーを使用し、下記表7に示す配合(質量部)に従い、第1実施例と同様の方法でゴム組成物を調製した。なお、実施例及び比較例の各配合では、表面処理剤を除くシリカ分のトータルの質量が80質量部で一定となるように配合量を設定した。
【0076】
共通配合は、ゴム成分100質量部に対して、プロセスオイル(昭和シェル石油(株)製「エキストラクト4号S」)20質量部、カーボンブラック(三菱化学(株)製「ダイヤブラックN339」)10質量部、亜鉛華(三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1号」)3質量部、老化防止剤(住友化学(株)製「アンチゲン6C」)2質量部、ステアリン酸(花王(株)製「ルナックS−20」)2質量部、ワックス(日本精鑞(株)製「OZOACE0355」)2質量部、硫黄(鶴見化学工業(株)製「5%油入微粉末硫黄」)1.5質量部、加硫促進剤1(住友化学(株)製「ソクシノールCZ」)1.8質量部、加硫促進剤2(大内新興化学工業(株)製「ノクセラーD」)2.0質量部とした。
【0077】
得られたゴム組成物を用いて、第1実施例と同様に、低発熱性を評価した。評価は、比較例10の値を100とした指数で示した。結果は表7に示す通り、比較例11では、シリカをウェットマスターバッチ化したものの、表面処理されていない未処理シリカを用いたため、低発熱性の改良効果はほとんど得られなかった。これに対し、実施例6であると、コントロールである比較例10に対して低発熱性が顕著に改善されていた。
【表7】

【0078】
[第4実施例]
バンバリーミキサーを使用し、下記表8に示す配合(質量部)に従い、第1実施例と同様の方法でゴム組成物を調製した。共通配合は第3実施例と同じである。得られたゴム組成物を用いて、第1実施例と同様に、低発熱性を評価した。評価は、比較例12の値を100とした指数で示した。結果は表8に示す通り、比較例13では、シリカをウェットマスターバッチ化したものの、表面処理されていない未処理シリカを用いたため、低発熱性の改良効果はほとんど得られなかった。これに対し、実施例7であると、コントロールである比較例12に対して低発熱性が顕著に改善されていた。
【表8】

【0079】
[第5実施例]
バンバリーミキサーを使用し、下記表9に示す配合(質量部)に従い、第1実施例と同様の方法でゴム組成物を調製した。共通配合は第3実施例と同じである。得られたゴム組成物を用いて、第1実施例と同様に、低発熱性を評価した。評価は、比較例14の値を100とした指数で示した。結果は表9に示す通り、比較例15では、シリカをウェットマスターバッチ化したものの、表面処理されていない未処理シリカを用いたため、低発熱性の改良効果はほとんど得られなかった。また、比較例16では、表面処理シリカをマスターバッチ化したものの、ドライマスターバッチであったため、低発熱性の改良効果は小さかった。これに対し、実施例8,9であると、コントロールである比較例14に対して低発熱性が顕著に改善されていた。
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記一般式(1)で表される硫黄含有シランカップリング剤と炭素数5〜30の脂肪酸とで表面処理されたシリカ、
(b)下記一般式(1)で表される硫黄含有シランカップリング剤と下記一般式(2)で表されるアミノシランカップリング剤と炭素数5〜30の脂肪酸とで表面処理されたシリカ、及び、
(c)下記一般式(1)で表される硫黄含有シランカップリング剤と下記一般式(3)で表される硫黄非含有有機ケイ素化合物とで表面処理されたシリカ
から選択された少なくとも1種の表面処理シリカと、ジエン系ゴムラテックスとを、水系媒体中にて混合、凝固及び乾燥して得られたウェットマスターバッチを配合したことを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
(R(RSi−A …(1)
(式中、Rは炭素数1〜3のアルコキシ基、Rは炭素数1〜40のアルキル基、アルケニル基又はアルキルポリエーテル基、m=1〜3、m+n=3であり、Aは下記一般式(4)〜(6)のいずれかである。)
−R−S−R−Si(R(R …(4)
−R−SH …(5)
−R−S−CO−R …(6)
(式中、R,Rはそれぞれ独立に炭素数1〜8のアルキレン基、Rは炭素数1〜16のアルキレン基、Rは炭素数1〜5のアルキレン基、Rは炭素数1〜18のアルキル基、xは2〜8である。)
(R(RSi−R10−(NH−R11−NH …(2)
(式中、Rは炭素数1〜3のアルコキシ基、Rは炭素数1〜10のアルキル基又はアルケニル基、R10は炭素数1〜4のアルキレン基、R11は炭素数1〜4のアルキレン基であり、p=1〜3、p+q=3、r=0〜3である。)
(R12Si(R13 …(3)
(式中、R12は、炭素数1〜18のアルキル基もしくはアルケニル基、又は炭素数1〜12の有機官能性アルキル基もしくはアルケニル基であり、R13は、炭素数1〜12のアルコキシ基もしくはアシロキシ基、ハロゲン又はアミノ基であり、s=1〜3、s+t=4である。)
【請求項2】
前記表面処理シリカが、前記(a)のシリカ、及び、前記(b)のシリカから選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ウェットマスターバッチは、前記表面処理シリカとともにカーボンブラックを更に含有することを特徴とする請求項1又は2記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴム組成物を用いてなるゴム部分を有する空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−92166(P2012−92166A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238472(P2010−238472)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】