タイヤ経時変化予測方法、装置、プログラム及び媒体
【課題】 自動車等に使用される空気入りタイヤなどのタイヤについて経時変化を考慮したタイヤの変化の予測を容易にする。
【解決手段】 形状や構造等のタイヤ設計案から有限要素法によるタイヤをモデル化したグローバルモデルとして(100)、経時変化の条件を設定し(106)、走行時の摩耗や内部伝熱を考慮して(110〜122)、タイヤ全体を把握し、補強コード付近についてのローカルモデルに変位を境界条件として付与し、J積分値による破壊パラメータや破壊を阻止する抗力を求めて亀裂進展を把握し(133〜137)、タイヤの経時変化を予測して結果を出力する(142)。従って、タイヤの耐久寿命の予測に際して、グローバルモデル計算とローカルモデル計算に分離できるので、計算負荷を軽減しつつタイヤの寿命を予測できる。
【解決手段】 形状や構造等のタイヤ設計案から有限要素法によるタイヤをモデル化したグローバルモデルとして(100)、経時変化の条件を設定し(106)、走行時の摩耗や内部伝熱を考慮して(110〜122)、タイヤ全体を把握し、補強コード付近についてのローカルモデルに変位を境界条件として付与し、J積分値による破壊パラメータや破壊を阻止する抗力を求めて亀裂進展を把握し(133〜137)、タイヤの経時変化を予測して結果を出力する(142)。従って、タイヤの耐久寿命の予測に際して、グローバルモデル計算とローカルモデル計算に分離できるので、計算負荷を軽減しつつタイヤの寿命を予測できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ経時変化予測方法、装置、プログラム及び媒体にかかり、自動車等に使用される空気入りタイヤなどのタイヤにおける経時変化を予測するタイヤ経時変化予測方法、装置、プログラム及び媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤなどのタイヤ開発において、タイヤ性能は実際にタイヤを設計・製造し、自動車に装着して性能試験を行うことにより得られるものであり、性能試験の結果に満足できなければ設計・製造からやり直す、という手順を踏んできた。最近では、有限要素法等の数値解析手法や計算機環境の発達により、タイヤ内圧充填状態や荷重状態等を考慮して計算機で予測できるようになり、この予測から幾つかの性能予測が可能になった。
【0003】
ところが、タイヤを構成する部品には材料としてゴムなどの弾性体が用いられている。ゴムなどの弾性体は、経時的に変化が伴うものである。例えば、タイヤの回転状態や走行環境に応じて、タイヤに作用する熱や力のエネルギが様々であり、そのエネルギによるタイヤの変化が多種多様に亘るものであった。このため、多数の部品から構成されるタイヤの経時的な変化を検証するには、実際にタイヤを設計・製造し、試験環境による試験や走行試験に依存するしかなかった。
【0004】
計算機を用いて、タイヤの性能試験を可能とする技術としては、走行時におけるタイヤ形状を模擬する技術が知られている(特許文献1を参照)。また、経時変化の一例として、ゴムの摩耗予測を可能とする技術が知られている(特許文献2を参照)。さらに、走行時のタイヤの回転数や付与された応力値を検知して記録し、これを読み出すことでタイヤの疲労度を把握する技術が知られている(特許文献3を参照)。
【特許文献1】特開2000−141509号公報
【特許文献2】特開平11−326144号公報
【特許文献3】特開平10−324120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術は、走行時点における形状のみを模擬したり、走行時点に起因するエネルギを評価したりするにすぎず、経時的な変化を考慮したものではなかった。また、コードを含むタイヤ内の全ての箇所についてモデル化した計算をするのでは、膨大な時間を必要としていた。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、自動車等に使用される空気入りタイヤなどのタイヤについて経時変化を考慮したタイヤの変化の予測を容易にすることができるタイヤ経時変化予測方法、装置、プログラム及び媒体を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、自動車等に使用される空気入りタイヤなどのタイヤについて経時変化を考慮してタイヤの変化を予測し、特にタイヤに加わる応力などによりタイヤ内部で生じる亀裂を把握してその解析を可能し、タイヤの経時変化の把握を容易にしたものである。これにより、高性能のタイヤ開発を効率化し、高性能のタイヤの提供を容易にできるものである。
【0008】
具体的には、本発明のタイヤ経時変化予測方法は、(a)複数の部品からなるタイヤを、変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したタイヤモデルと、前記タイヤモデルの少なくとも一部に付与するエネルギーモデルと、少なくとも1本のコードを含む前記タイヤの一部について変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したローカルモデルと、を定めるステップ、(b)前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形計算を実行するステップ、前記タイヤモデルの変形計算を収束するまで計算させるステップ、(c)前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形による変位を境界条件として前記ローカルモデルに付与するステップ、(d)前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊の度合いを表す破壊パラメータの計算を含む応力計算を実行するステップ、(e)前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊に対する抵抗力の度合いを表す抗力計算を実行するステップ、(f)前記ステップ(d)の応力計算結果及び前記ステップ(e)の抗力計算結果の物理量に基づいてタイヤ経時変化を予測するステップ、を含んでいる。
【0009】
本発明では、まず、タイヤの経時変化を予測するため、タイヤ設計案(タイヤ形状・構造・材料・パターンの変更など)を数値解析上のモデルに落とし込む。すなわち、数値解析が可能なタイヤモデル(数値解析モデル)を作成する。このとき、タイヤに関係する流体や路面などは、その状態により、タイヤにエネルギーを付与するものと考えられる。すなわち、タイヤは、ゴムなどの弾性体を含んでおり、装着された移動体の走行状態や保管状態などの使用状態により経時変化が異なる。この場合、タイヤには、時間経過による自己変化が生じたり、付与される圧力変動や熱変動による自己変化が生じたりする。そこで、タイヤに付与されることが予測されるエネルギーについて、例えば熱や圧力などのエネルギー付与についてモデル化を行い、そのエネルギーモデルを作成することで、タイヤに関与するエネルギーを同時に考慮した数値解析を行うことができる。これらタイヤモデルとエネルギーモデルとによる経時変化の予測結果から、タイヤ設計案の経時変化を把握し、その結果を設計案に反映させることができる。
【0010】
従って、経時変化の予測に基づくタイヤ開発を行うためには、効率良く、精度の良いタイヤ経時変化予測のための数値解析モデルが不可欠である。そこで、本発明では、タイヤ経時変化を予測するため、ステップ(a)において、複数の部品からなるタイヤを、変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したタイヤモデルと、前記タイヤモデルの少なくとも一部に付与するエネルギーモデルと、を定める。
【0011】
ところで、タイヤの構造全てを忠実にモデル化して計算をするのでは、その計算時間が膨大になる。このため、本発明では、主にタイヤ設計案の全体的なグローバルモデルであるタイヤモデルと、計算負荷が増大すると想定される少なくとも1本のコードを含むタイヤの一部についてのローカルモデルとを別個に設定し、これらについて独立して計算し、計算負荷軽減を図ったものである。従って、ステップ(a)では、少なくとも1本のコードを含む前記タイヤの一部について変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したローカルモデルを定めている。
【0012】
そして、全体的なグローバルモデルであるタイヤモデルについて、その変形計算を行い、次にローカルモデルについて計算することで、計算負荷を軽減する。そこで、ステップ(b)では、タイヤモデルへエネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、タイヤモデルの変形計算を実行する。このタイヤモデルの変形計算は、収束するまで計算させることが好ましい。この収束するまでとは、一定時間を経過したとき、変形量が所定値以内になったとき等の予め条件を定めることが好ましい。
【0013】
次に、タイヤモデルと、ローカルモデルとを練成させるために、ステップ(c)では、タイヤモデルへエネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、タイヤモデルの変形による変位を境界条件としてローカルモデルに付与する。
【0014】
タイヤの経時変化に作用するものとしては、タイヤに生じる亀裂などの破壊が考えられる。そこで、本発明では、タイヤの任意の部位で破壊の度合いを表す破壊パラメータという概念を導入する。例えば、この破壊パラメータは、応力により求めることが可能であり、歪み、応力、応力拡大係数、応力または歪の関数であるエネルギー開放率、J積分、C積分、T*積分の積分値の何れか1つを表す物理量を採用することができる。
【0015】
また、タイヤの各部位では、その破壊に対する抵抗力を有するとも考えられる。そこで、本発明では、タイヤの任意の部位で破壊に対する抵抗力の度合いを表す抗力という概念を導入する。この抗力は、タイヤに用いられる材料などのサンプルを用いた予めなされる実験によって求めることができる。
【0016】
例えば、抗力は、部品の構成材料毎に定まると共に、少なくとも時間、温度及び応力の関数で定まる物理量を採用することができる。この物理量は、部品の構成材料毎に、予め実験などにより求め、テーブルとして記憶し、それを参照してもよい。
【0017】
これらの破壊パラメータと抗力とを比較することで、タイヤの各部位の破壊の度合いと抵抗力の度合いとを求めることができる。
【0018】
そこで、ステップ(d)前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊の度合いを表す破壊パラメータの計算を含む応力及び歪の計算を実行し、ステップ(e)では、境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊に対する抵抗力の度合いを表す抗力計算を実行する。ローカルモデルの応力計算と抗力計算とが求まるので、ステップ(f)では、ステップ(d)の応力及び歪の計算結果及びステップ(e)の抗力計算結果の物理量に基づいてタイヤ経時変化を予測する。例えば、応力計算結果の物理量が、抗力計算結果の物理量を上回る場合、その部位は、破壊により亀裂などが生じることを予測することができる。
【0019】
前記エネルギーモデルは、タイヤモデルの少なくとも一部と接触する構造モデル(路面や流体)、付与する熱エネルギーを表すモデル、経過時間をその総体として付与するエネルギーとして捉えた経過時間を表すモデル、付与する荷重エネルギーを表すモデル、の少なくとも1つのモデルを含むことができる。なお、経過時間を表すモデルは、経過時間による変形を表すエネルギーモデルとすることもできる。
【0020】
また、前記ステップ(a)では、エネルギーモデルによる少なくとも温度、時間及び応力で定まる物理量によるエネルギーと、抗力との予め求めた対応関係を部品の各々に定め、ステップ(e)では予め求めた対応関係に基づいて、抗力を計算することができる。
【0021】
また、前記ステップ(f)では、応力及び歪の計算結果の物理量と抗力計算結果の物理量とがほぼ等しいときに、タイヤ経時変化として、予め定めた部位における破壊である亀裂発生の可能性を有すると予測することができる。
【0022】
また、前記ステップ(f)では、応力及び歪の計算結果の物理量が抗力計算結果の物理量を越えるとき、タイヤ経時変化として、部位における破壊である亀裂発生または亀裂進展と予測することができる。
【0023】
また、前記ステップ(a)では、タイヤを構成する部品の各々について、亀裂入り試験片による疲労試験によって予め求めた温度及び破壊パラメータによる亀裂進展速度の特性を定め、ステップ(f)では特性に基づいて、亀裂進展速度を予測することができる。
【0024】
また、予測結果の亀裂発生または亀裂進展に対応する亀裂モデルを生成しかつ生成した亀裂モデルに基づいてタイヤモデルを修正するステップ(g)をさらに含むことができる。
【0025】
また、前記ステップ(b)は、前記タイヤモデルの摩耗量を計算するステップ(h)、前記摩耗により生ずる熱エネルギーを計算すると共に前記タイヤモデルが熱平衡状態となるまで前記タイヤモデルの各部位における熱解析計算するステップ(i)、前記ステップ(h)で求めた摩耗量に基づいて前記タイヤモデルを修正するステップ(j)をさらに含み、前記ステップ(d)、(e)では、前記ステップ(i)の計算結果の温度に基づいて計算することができる。
【0026】
また、ローカルモデルの予め定めた部位は、ベルト端、プライ端、ワイヤーチェーファー端、ナイロンチェーファー端、及びタイヤ幅方向のトレッド部ショルダー付近のカーカスプライ周辺の少なくとも1つの部位を含むことができる。
【0027】
なお、前記タイヤ経時変化予測方法は、次の装置によって容易に実現することができる。詳細には、本発明のタイヤ経時変化予測装置は、複数の部品からなるタイヤを、変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したタイヤモデルと、前記タイヤモデルの少なくとも一部に付与するエネルギーモデルと、少なくとも1本のコードを含む前記タイヤの一部について変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したローカルモデルと、を定める設定手段と、前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形計算を実行する変形計算手段と、前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形による変位を境界条件として前記ローカルモデルに付与する付与手段と、前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊の度合いを表す破壊パラメータの計算を含む応力及び歪の計算を実行する応力計算手段と、前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊に対する抵抗力の度合いを表す抗力計算を実行する抗力計算手段と、前記応力及び歪の計算結果及び前記抗力計算結果の物理量に基づいてタイヤ経時変化を予測する予測手段と、を備えている。
【0028】
また、コンピュータによってタイヤの経時変化を予測する場合、複数の部品からなるタイヤを、変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したタイヤモデルと、前記タイヤモデルの少なくとも一部に付与するエネルギーモデルと、少なくとも1本のコードを含む前記タイヤの一部について変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したローカルモデルと、を定めさせ、前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形計算を実行させ、前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形による変位を境界条件として前記ローカルモデルに付与させ、前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊の度合いを表す破壊パラメータの計算を含む応力及び歪の計算を実行させ、前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊に対する抵抗力の度合いを表す抗力計算を実行させ、前記応力及び歪の計算結果及び前記抗力計算結果の物理量に基づいてタイヤ経時変化を予測させる、各ステップを含むタイヤ経時変化予測プログラムをコンピュータに実行させるようにすれば、簡便にタイヤ経時変化を予測することができる。
【0029】
さらに、複数の部品からなるタイヤを、変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したタイヤモデルと、前記タイヤモデルの少なくとも一部に付与するエネルギーモデルと、少なくとも1本のコードを含む前記タイヤの一部について変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したローカルモデルと、を定めさせ、前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形計算を実行させ、前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形による変位を境界条件として前記ローカルモデルに付与させ、前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊の度合いを表す破壊パラメータの計算を含む応力及び歪の計算を実行させ、前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊に対する抵抗力の度合いを表す抗力計算を実行させ、前記応力及び歪の計算結果及び前記抗力計算結果の物理量に基づいてタイヤ経時変化を予測させる、各ステップを含むタイヤ経時変化予測プログラムを記憶媒体に記憶するようにし実行させ、データ収集するようにすれば、過去のタイヤ経時変化の予測結果との比較や今後のデータ蓄積に役立てることができる。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように本発明によれば、タイヤモデルと、ローカルモデルとを別個に計算しているので、計算負荷を解消しつつ、タイヤの破壊パラメータと抗力との比較により、タイヤの経時変化性能を予測することができ、タイヤの使用状態に即した解析を可能にすることができる、という効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0032】
本実施の形態は空気入りタイヤの性能予測として、タイヤの経時変化を予測する場合に本発明を適用したものである。
【0033】
図1には本発明の空気入りタイヤの性能予測を実施するためのパーソナルコンピュータの概略が示されている。このパーソナルコンピュータは、データ等を入力するためのキーボード10、予め記憶された処理プログラムに従ってタイヤの性能を予測するコンピュータ本体12、及びコンピュータ本体12の演算結果等を表示するCRT14から構成されている。
【0034】
なお、コンピュータ本体12には、記録媒体としてのフレキシブルディスク(FD)が挿抜可能なフレキシブルディスクユニット(FDU)を備えている。なお、後述する処理ルーチン等は、FDUを用いてフレキシブルディスクFDに対して読み書き可能である。従って、後述する処理ルーチンは、予めFDに記録しておき、FDUを介してFDに記録された処理プログラムを実行してもよい。また、コンピュータ本体12にハードディスク装置等の大容量記憶装置(図示省略)を接続し、FDに記録された処理プログラムを大容量記憶装置(図示省略)へ格納(インストール)して実行するようにしてもよい。また、記録媒体としては、記録テープ、CD−ROMやDVD等の光ディスクや、MD,MO等の光磁気ディスクがあり、これらを用いるときには、上記FDUに代えてまたはさらに対応する読み書き装置を用いればよい。
【0035】
図2は、本実施の形態のタイヤ経時変化予測プログラムの処理ルーチンを示すものである。ステップ100では、予測するタイヤの設計案(タイヤ形状、構造、材料、パターンの変更など)についての初期設定を実施する。この初期設定は、タイヤの経時変化を予測するために必要となる、各種モデルやゴムなどの物理特性、そして各種初期データを設定する処理である。
【0036】
具体的には、図3に示す初期設定ルーチンが実行される。初期設定ルーチンでは、まず、タイヤ設計案を数値解析上のモデルに落とし込むため、タイヤモデルを作成する。このタイヤモデルの作成は、用いる数値解析手法により若干異なる。本実施の形態では数値解析手法として有限要素法(FEM)を用いるものとする。従って、作成するタイヤモデルは、有限要素法(FEM)に対応した要素分割、例えば、メッシュ分割によって複数の要素に分割され、タイヤを数値的・解析的手法に基づいて作成されたコンピュータプログラムヘのインプットデータ形式に数値化したものをいう。この要素分割とはタイヤ、流体、及び路面等の対象物を小さな幾つかの(有限の)小部分に分割することをいう。この小部分ごとに計算を行い全ての小部分について計算した後、全部の小部分を足し合わせることにより全体の応答を得ることができる。なお、数値解析手法には差分法や有限体積法を用いても良い。
【0037】
このタイヤモデルの作成は、タイヤ断面のモデルを作成した後に、パターンをモデル化する。すなわち、ステップ200において、タイヤ径方向断面のモデル、すなわちタイヤ断面データを作成する。このタイヤ断面データは、タイヤ外形をレーザー形状測定器等で計測し値を採取する。また、タイヤ内部の構造は設計図面および実際のタイヤ断面データ等から正確なものを採取する。タイヤ断面内のゴム、補教材(ベルト、プライ等、鉄・有機繊維等でできた補強コードをシート状に束ねたもの)をそれぞれ有限要素法のモデル化手法に応じてモデル化する。このようにモデル化したタイヤ径方向断面のモデルを図4に示した。
【0038】
次のステップ202では、2次元データであるタイヤ断面データ(タイヤ径方向断面のモデル)を周方向に一周分展開し、タイヤの3次元(3D)モデルを作成する。この場合、ゴム部は8節点ソリッド要素、補教材は角度を表現できる異方性シェル要素でモデル化することが望ましい。このようにして3次元的にモデル化した3Dモデルを図5に示した。
【0039】
次のステップ204では、パターンをモデル化する。このパターンのモデル化は、パターンの一部または全部を別個にモデル化し、上記タイヤモデルにトレッド部分として貼りつけてパターンを作成することや、タイヤ断面データを周方向に展開する際にリブ・ラグ成分を考慮してパターンを作成することを採用できる。
【0040】
ここで、本実施の形態では計算負荷軽減のために、以下の処理では、上記タイヤ設計案に基づく全体的なタイヤモデルをグローバルモデルとし、計算負荷が増大すると想定される少なくとも1本のコードを含むタイヤの一部のモデルをローカルモデルとして別個に定めて、これらの各々について独立して計算する。
【0041】
そこで、次のステップ205では、ローカルモデルを作成する。ローカルモデルは、少なくとも1本のコードを含むタイヤの一部のモデルであり、詳細を後述する亀裂を考慮するためのモデルである。このローカルモデルは、タイヤの少なくとも一部を抽出した3次元(3D)モデルであり、上述のように、タイヤ断面内のゴム、補教材(ベルト、プライ等、鉄・有機繊維等でできた補強コードをシート状に束ねたもの)をそれぞれ有限要素法のモデル化手法に応じて3次元モデル化するのと同様に、少なくとも補強コードの周辺、特に先端部周辺をモデル化したものである。このようにモデル化したローカルモデルを図6に示した。図6では、補強コードの先端付近を抽出したものであり、その先端部付近から亀裂が発生すると考えられることから、亀裂が発生した場合についてモデル化し、その亀裂先端で蜘蛛の巣状にメッシュ分割した、一例を示している。なお、亀裂は後述する処理において発生から進展までを考慮する場合があるので、ローカルモデルは亀裂そのものをモデル化することが不要である。但し、計算負荷を考慮すると、亀裂そのものをモデル化することを考慮することが好ましい。
【0042】
次のステップ206では、路面や流体などのタイヤに関係するモデルを作成する。このステップ206では、タイヤの一部(または全部)および接地面、タイヤが移動・変形する領域を含む流体領域を分割してモデル化したり、路面モデルの作成と共に路面状態の入力がなされる。このステップ206は、路面をモデル化してそのモデル化した路面を実際の路面状態に設定したりする。路面のモデル化は、路面形状を要素分割してモデル化し、路面の摩擦係数μを選択設定することで路面状態を入力する。例えば、路面状態により乾燥(DRY)、濡れ(WET)、氷上、雪上、非舗装等に対応する路面の摩擦係数μが存在するので、摩擦係数μについて適正な値を選択することで、実際の路面状態を再現させることができる。また、路面モデルは,前記流体モデルの少なくとも一部と接していれば良く,流体モデル内部に配置することも可能である。
【0043】
次のステップ208では、タイヤ各部のゴム構成材料を設定する。上記のように、構造的には、タイヤ内のゴム、及び補教材をそれぞれ有限要素法によるモデル化を行ったが、そのタイヤ内のゴムすなわち、タイヤ各部のゴム構成材料はまちまちである。そこで、このステップ208においてタイヤ各部のゴム構成材料を設定する。これにより、タイヤを構成する各種データを規定することができる。
【0044】
次のステップ210では、経時変化の変動を予測するにあたっての初期状態の温度及び使用荷重を設定する。なお、タイヤが空気入りタイヤであるときは、内圧の充填率を設定することもできる。
【0045】
次に、タイヤの経時変化を予測するための各種データを読み取る。この各種データは、時間、温度や応力などにより変化するタイヤを構成する部品の状態を定めるためのものである。
【0046】
まず、ステップ212では、上記ステップ208で設定したタイヤ各部のゴム部材について、対応するゴムサンプルのtanδと、熱伝導率ηとを、予め実験によって求めた実測データを読み取る。次のステップ214では、タイヤ周りの熱伝達率ρについて予め実験によって求めた実験データを読み取る。これらの実測データ及び実験データによりタイヤを伝達する熱についての解析が容易となる。
【0047】
次のステップ216では、詳細を後述する工程を経て求められた、タイヤに関するクリープ歪みについて関数表現されたクリープ歪特性を読み取る。このクリープ歪特性は、荷重及び温度を変化させてタイヤ各種ゴムサンプルのクリープ試験を行った結果のデータから得られる、クリープ歪みと、応力、温度、時間の対応関係を表すものである。
【0048】
具体的には、図7のクリープ歪特性導出処理ルーチンを実行する。まず、ステップ300では、試験条件を設定する。この試験条件は、クリープ試験を行う環境槽の温度(各タイヤ部位の使用温度を含む)、及び使用荷重を設定する。この使用荷重は、本実施の形態では、空気入りタイヤを用いる場合におけるタイヤ内圧時の使用荷重を設定する。
【0049】
次のステップ302では、上記ステップ208で設定したタイヤ各部のゴム部材、すなわちタイヤ各部のゴム部材に対応するゴムサンプルを用いて、上記ステップ300で設定した試験条件により、環境槽内においてクリープ試験を実行する。そして、試験結果のデータを収集する。
【0050】
次のステップ304では、上記ステップ302で得られたデータ、すなわちクリープ歪、応力、温度、及び時間から、クリープ歪と、応力、温度、及び時間との対応関係を導出する。この対応関係は、関数表現するために、多変量解析法や最小自乗法などの各種近似法や解析法を用いることができる。
【0051】
次に、図3のステップ218では、詳細を後述する工程を経て求められた、タイヤに関するゴム摩滅量を関数で表現した摩滅量特性を読み取る。この摩滅量特性は、滑り量や付与圧力を変化させてタイヤ各種ゴムサンプルの摩滅量を計測する試験を行った結果のデータから得られる、ゴム摩滅量と、圧力及び滑り量との対応関係を表すものである。
【0052】
具体的には、図8の摩滅量特性導出処理ルーチンを実行する。まず、ステップ310では、摩滅量特性導出の対象となるタイヤゴムに対応するトレッドのゴムサンプル(すなわち上記ステップ208で設定したタイヤ各部のうち摩耗に関係するゴム部材であるドレッドのゴム部材に対応するゴムサンプル)を、摩耗量計測装置に設置する。この設置時には、摩耗試験のための路面と等価な計測面に変更可能な付与圧力を設定してトレッドのゴムサンプルを付与する。
【0053】
次のステップ312では、設置したトレッドのゴムサンプルについて、摩耗試験を実行して、その試験結果のデータを収集する。この収集するデータには、トレッドのゴムサンプルに付与される圧力、ゴムの滑り量、およびゴムの摩滅量がある。
【0054】
次のステップ314では、上記ステップ312で得られたデータ、すなわちトレッドのゴムサンプルに付与される圧力、ゴムの滑り量、およびゴムの摩滅量から、トレッドのゴムサンプルに付与される圧力及びゴムの滑り量と、ゴムの摩滅量との対応関係を導出する。この対応関係は、関数表現するために、多変量解析法や最小自乗法などの各種近似法や解析法を用いることができる。
【0055】
次に、図3のステップ220では、詳細を後述する工程を経て求められた、タイヤの経時変化に関する抗力を関数で表現した抗力特性を読み取る。この抗力特性は、ゴムの破壊に対しての抵抗力を表すものであり、時間や温度、及び負荷応力を変化させてタイヤ各種ゴムサンプルの亀裂量を計測する疲労試験を行った結果のデータから得られる、ゴムの抗力と、時間や温度、及び負荷応力との対応関係を表すものである。
【0056】
具体的には、図9の抗力特性導出処理ルーチンを実行する。まず、ステップ320では、抗力特性導出のための放置条件を設定する。この放置条件は、疲労試験を行うにあたって放置する環境槽の温度(放置温度)、及び時間(放置時間)を設定する。次のステップ322では、予め微小な亀裂を施したゴムサンプルを、上記ステップ320で設定した放置条件で放置する。このコムサンプルは、抗力特性導出の対象となるタイヤゴムに対応するゴムサンプル、すなわち上記ステップ208で設定したタイヤ各部のゴム部材に対応するゴムサンプルである。
【0057】
次のステップ324では、上記ステップ322の放置条件で放置されたゴムサンプルを、図示を省略した疲労試験装置に設置し、疲労試験を実行して、その試験結果のデータを収集する。この収集するデータには、ゴムサンプルに付与される引張力、引張力の振幅、及びゴムの亀裂進展量がある。
【0058】
ここで、抗力は、ゴムの破壊に対する抵抗力を表すものであり、応力計算値であるJ積分値などの破壊パラメータ(応力計算値、後述)が境界値となる。すなわち、亀裂を有する部品の剛性を表現する上で亀裂先端の付近について、亀裂進展を阻止している応力計算値が抗力となり、亀裂進展した場合の応力計算値が抗力を越えた応力であると考えられる。従って、抗力は、亀裂を有するゴムにあっては、その亀裂を阻止する力に対応する。これにより、疲労試験により亀裂進展が開始される直前の付与力が抗力に相当すると考えられる。また、亀裂を有するゴムサンプルを引っ張り試験を行うとき、亀裂先端に応力が集中する。このため、破壊を阻止する抗力の大小によって、亀裂進展量が変動する。これらは、ゴムの組成上からなる酸化状態や架橋による剛性に起因すると考えられる。この抗力は、温度や時間そして付与される応力による経時変化に伴って酸化状態や架橋状態が変動し、低下することが予測される。これにより、抗力は、応力、温度、及び時間に対して対応関係を有し、時間、温度、及び応力の関数で表現できると考えられる。
【0059】
そこで、次のステップ326では、上記ステップ324における疲労試験の結果から抗力の低下度を導出する。この抗力の低下度は、疲労試験によるゴムサンプルの亀裂進展度合い(亀裂進展量)と、放置条件による疲労試験時の付与力との対応関係を数値化したものである。その低下度を基に、次のステップ328において、現在の環境下における抗力と、温度及び時間との対応関係を導出する。そして、次のステップ330では予め定めた放置条件範囲の各疲労試験を終了するまで否定判断し、予め定めた任意の放置条件による上記処理(ステップ320〜328)を繰り返し実行する。
【0060】
ステップ330で肯定判断がなされると、ステップ332へ進み、上記ステップ328で得られたデータ、すなわち複数の放置条件(放置温度及び放置時間)に対する抗力の関係から、ゴムサンプルの抗力と、時間、温度、及び応力との対応関係を導出する。この対応関係は、関数表現するために、多変量解析法や最小自乗法などの各種近似法や解析法を用いることができる。図12には、任意の応力における、ゴムサンプルの抗力と、温度及び時間との対応関係を複数表した特性を示した。このゴムサンプルの抗力と、温度及び時間との対応関係は、経過時間が大きくなるに従ってゴムサンプルの抗力が小さくなるように、ほぼ反比例した関係を有している。
【0061】
次に、図3のステップ222では、詳細を後述する工程を経て求められた、タイヤの経時変化に関する亀裂進展速度を関数で表現した亀裂進展速度特性を読み取る。この亀裂進展速度特性は、ゴムの破壊ここでは亀裂進展の速度を表すものであり、温度を変化させてタイヤ各種ゴムサンプルの亀裂進展速度を計測する疲労試験を行った結果のデータから得られる、ゴムサンプルの亀裂進展速度と、温度及び付与力との対応関係を表すものである。
【0062】
具体的には、図10の亀裂進展速度特性導出処理ルーチンを実行する。まず、ステップ340では、亀裂進展速度特性導出のための進展条件を設定する。この進展条件は、疲労試験を行うにあたって試験実施環境の温度、及び入力(付与力)を設定する。次のステップ342では、予め微小な亀裂を施したゴムサンプルを、上記ステップ340で設定した進展条件で環境槽内に設置する。このゴムサンプルは、新規のゴムサンプルを用いる。
【0063】
次のステップ344では、上記ステップ342の進展条件で設置されたゴムサンプルを、図示を省略した疲労試験装置に設置し、疲労試験を実行して、その試験結果のデータを収集する。この収集するデータには、温度、ゴムサンプルに付与される引張力や圧力、引張力解除後や圧力付与後の復元量、及びゴムの亀裂進展量がある。
【0064】
次のステップ346では、亀裂進展速度を計測する。この亀裂進展速度の計測は、亀裂先端部の移動速度を実際に計測してもよく、上記収集したデータの亀裂進展量とその亀裂進展に要した時間とから計算してもよい。次のステップ348では、現剤の試験実施環境の温度及び入力に対する亀裂進展速度の関係を記憶する。そして、次のステップ350では予め定めた進展条件範囲の各疲労試験を終了するまで否定判断し、予め定めた任意の進展条件による上記処理(ステップ340〜348)を繰り返し実行する。
【0065】
ステップ350で肯定判断がなされると、ステップ352へ進み、上記ステップ348で記憶したデータ、すなわち複数の進展条件(温度及び入力)に対する亀裂進展速度の関係から、ゴムサンプルの亀裂進展速度と、温度及び入力との対応関係を導出する。この対応関係は、関数表現するために、多変量解析法や最小自乗法などの各種近似法や解析法を用いることができる。図11には、ゴムサンプルの亀裂進展速度と、温度及び入力との対応関係を複数表した特性を示した。この入力は、付与力を破壊パラメータとして表した。この亀裂進展速度と、温度及び入力との対応関係は、入力が大きくなるに従って亀裂進展速度が大きくなるように、ほぼ比例した関係を有している。
【0066】
破壊パラメータは、亀裂推進力を表すものである。その一例としては、歪、応力、応力拡大係数kや、応力・歪の関数であるエネルギー解放率、J積分、C積分、T*積分などの各積分値、ティアリングエナージー(Tearing Energy)がある。なお、本実施の形態では、J積分の積分値を採用する。
【0067】
このようにして、初期設定を行った後、以下のようにして、タイヤの経時変化を予測する。
【0068】
図2のステップ102では、応力分布(歪)を算出する。この応力分布の計算は、タイヤの経時変化を予測するときの当初の応力分布を求めるものであり、経時変化によって亀裂が生じたりする破壊の可能性を把握するために必要となる処理である。
【0069】
具体的には、図13に示す応力分布処理ルーチンが実行される。まず、ステップ360では、応力集中領域を算出する。この場合、タイヤの全面または予め定めた特定領域について応力を算出し、その分布を求める。この処理では、応力の数値的かつ段階的な分布を求める等高線を導出する処理を利用することができる。そして、ステップ360では、応力の値、例えばJ積分の積分値などの破壊パラメータが、予め定めた値を超えた領域を応力集中領域と特定する。次のステップ362では、上記ステップ360で特定した応力集中領域が、タイヤのどの部位に該当するかの対応付けを行い、次のステップ364において、その応力集中領域を、他の領域と異なる形態(例えば異なる色の属性付与や斜線などの属性付与)に設定し、表示用のデータを生成する。
【0070】
図14には、ステップ364で生成した表示データのイメージを示した。この例では、プライやチェーファーの折り曲げ付近Ta、プライ端部付近Tb、及びベルト端部付近Tcに応力が集中していることを示している。
【0071】
次のステップ106では、タイヤ経時変化を予測するときの予測条件を設定する。この予測条件は、タイヤ経時変化を特定するための経過時間や使用温度(環境温度)、そして使用荷重、回転速度、付与圧力方向、路面状態などの走行状態を設定するものである。
【0072】
次のステップ110では、タイヤモデルについて発熱計算を実行し、次のステップ112においてタイヤ内部の伝熱計算を実行する。発熱計算は、環境温度、時間経過や圧力などの使用状態により生じる発熱現象を、タイヤの各部位で特定し、その熱エネルギーを用いる。この場合、歪エネルギーロスなどを基に各部材に生じる発熱を計算することができる。また、この発熱計算では、タイヤの使用による路面との接触で生じる摩擦により発生するトレッド部分の発熱エネルギーを用いることができる。この場合にも、歪エネルギーロスなどを基に各部材に生じる発熱を計算することができる。
【0073】
なお、発熱計算では、タイヤ各部位の温度予測を含むものである。温度予測は、上記ステップ106で設定した使用温度により、タイヤの全ての部位についてどの程度の温度になるのかを計算により求めるものである。この計算は、タイヤ各部の応力や歪を算出して、FEMなどによる熱解析によって予測することができる。
【0074】
伝熱計算は、タイヤ内部から付与される熱エネルギーがタイヤ内部で伝達されるときのエネルギー伝達を計算したり、タイヤ内部で発生した熱エネルギーが周囲に伝達されるときのエネルギー伝達を計算したりする。この計算は、タイヤ各部の応力や歪を算出して、FEMなどによる熱解析によって計算することができる。これらの発熱計算と伝熱計算は、収束(ステップ114で肯定判断)するまで、例えば所定時間の経過または温度平衡になるまで繰り返しなされる。
【0075】
熱エネルギーについて発熱計算及び伝熱計算が収束すると(ステップ114で肯定)、ステップ118へ進み、上記設定した経過時間を経過した後のタイヤ内圧時の形状を算出する。このタイヤ内圧時の形状は、タイヤモデルに内圧付与した場合の形状を求めることによって得ることができる。このタイヤ内圧時の形状算出では、内圧時の状態でクリープ歪(上記ステップ216)を含めた応力解析をFEMで行い(時間t=t1での)タイヤモデルの内圧時の形状を求める。これにより、時系列変化によるクリープ歪を考慮することができる。
【0076】
次のステップ120では、タイヤの摩耗量を算出する。なお、タイヤ摩耗を考慮する必要がないときは、この処理を省略することができる。例えば、タイヤの経時変化を予測する場合、単にタイヤを放置した場合などではタイヤ摩耗を考慮することが不必要であると考えられる。
【0077】
タイヤ摩耗量は、経過時間や温度、そして内圧や付与圧力などの使用荷重、加えて走行距離や加減速などの走行状態などの物理量から算出する。なお、本実施の形態では、タイヤの各部について摩滅量特性を予め求めている(図8参照)。そこで、ステップ120では、この摩耗量特性を用いて、使用荷重でタイヤモデルを回転させたときのトレッドが当面から離れるときのトレッド各部に付与される圧力と滑り量を算出し、トレッドの摩耗量を求める。このトレッドの摩耗量を求める計算は、FEMによる陽解法を用いることができる。
【0078】
陽解法は、周知のように運動方程式の複雑な連立方程式の解を求める計算方法であり、収束計算するものではなく、任意の時刻から時間増分Δt毎に平衡を取らずに状態を求めるものである。一般的には、計算負荷を減少させるため、連立方程式の解を求めることに代えて、時刻tにおける運動方程式を基にして時間増分Δt後(時刻t+Δt)の解を近似的に求める。例えば、外挿により時間増分Δt後の解を求める。
【0079】
陽解法は、1刻み毎の解析所用時間を短くできるので、動的現象の解析ここでは摩耗現象に用いる。従って、この動的現象解析では、解析所用時間が短くなり、モデル自体の幾何学形状、密度や材料物性などは物理的に正しい値を使用するので、モデルの信頼性は高く保たれる。
【0080】
なお、トレッドの各部分の摩耗量は、蹴り出し部の滑り量及び接地圧から算出する。このタイヤ摩耗量の算出では、予めタイヤのトレッドに用いるゴムのゴムサンプルについて摩耗試験装置において摩耗試験を予め実施して、実験データ(摩耗度)を採取しておく。そして、この摩耗試験による実験データを用いて、上記タイヤの使用状態(経過時間、温度変動、内圧、付与圧力などの使用荷重、走行距離、加減速などの走行状態)における摩擦エネルギーによる摩耗の度合いを計算により求めることができる。
【0081】
この一例として、摩耗度測定については、本出願人が出願済みの特開平11−326169号公報に記載のゴム摩耗度測定方法を実行するための装置を用いることができる。また、摩擦エネルギーによる摩耗の度合いを計算により求めることは、本出願人が出願済みの特開平11−326134号公報及び特開平11−326134号公報に記載のタイヤ摩耗寿命予測方法による、摩擦エネルギーを要素とした摩耗量の予測、例えばトレッドの溝深さ減少による摩耗深さを計算することを用いることができる。
【0082】
上記のようにして、タイヤ摩耗量の算出が終了すると、次のステップ122において、モデルを修正する。すなわち、上記ステップ120で摩耗量を算出した場合、少なくとも摩耗量によるタイヤ形状の変化が生じる。そこで、ステップ122では、摩耗量により変化するタイヤモデルの形状を修正する修正モデルを作成し、この処理以降のタイヤモデルとする。
【0083】
なお、タイヤ摩耗を考慮しない場合でも、経過時間や温度、そして内圧や付与圧力などの使用荷重による物理量によってタイヤの経時変化が生じる。このタイヤの経時変化から、タイヤモデルの形状を修正する修正モデルを作成し、この処理以降のタイヤモデルとすることができる。
【0084】
次のステップ131では、ステップ122でタイヤモデルが修正された後、修正されたタイヤモデルが収束したか否かを判断する。ステップ131で否定されると、ステップ110へ戻り上記処理を繰り返し、肯定されると、ステップ133へ進む。この収束の判断は、例えば所定時間を予め定めて、その経過時間後を収束したと判断するようにしてもよい。また、ステップ131の判断は、キーボードによる入力によってなされてもよくまた、予め定めた関数に基づく評価値に、許容範囲を予め定めておき、評価値が許容範囲内に存在するときに、肯定判断するようにしてもよい。なお、評価値算出の一例は、タイヤモデルが修正された後の応力分布を求め、その前後(ステップ102とステップ122)で分布がどの程度変動したかを数値的に表現し、その変動値を評価値に定めることができる。
【0085】
次のステップ133では、亀裂可能性領域を予測する。この亀裂可能性領域予測は、上記ステップ102で求めた応力が集中する応力集中領域(図14のTa,Tb,Tcなど)について、その全てまたは最も集中の最大の領域、若しくは予め指定した数の領域を、亀裂可能性領域と予測する。これは、本ルーチンの予測当初に応力が集中する領域が、タイヤの破壊である亀裂の要因になることが予測されるためである。この予測結果によって、亀裂可能性領域のみを予測することで、計算時間を短縮化できたり、計算負荷を抑制できたりする。
【0086】
次のステップ135では、タイヤモデルの変位を記憶する。このタイヤモデルの変位とは、上記設計案から定めたタイヤモデルに対して修正したタイヤモデルの変位であり、特に亀裂を考慮するために、補強コード周辺の変位を記憶することが好ましい。
【0087】
次のステップ137では、詳細を後述する工程を経て求められた、ローカルモデルの解析処理を実行する。このローカルモデルの解析処理は、計算負荷を軽減するために、補強コード端や補強コード周辺の亀裂をモデル化して計算する処理である。
【0088】
具体的には、図15のローカル解析処理ルーチンを実行する。まず、ステップ150では、ローカルモデルを読み取ると共に、そのローカルモデルに境界条件を付与する。この境界条件とは、上記ステップ135で記憶したタイヤモデルの変位である。すなわち、タイヤモデルの変位を、ローカルモデルの変位境界条件として付与する。これにより、タイヤモデルの一部であるローカルモデルが上記処理によるタイヤ変形後の形状が反映された形式で解析処理を遂行することが可能となる。
【0089】
次のステップ152では、ローカルモデルについてタイヤの予め定めた部位について破壊パラメータを算出する。本実施の形態では、ローカルモデルとして用いるタイヤの予め定めた部位として、補強コード端やその周辺の部位を採用する。また、破壊パラメータとしてJ積分による積分値を採用しており、例えば熱平衡に至ったタイヤモデルの予め定めた部位についてJ積分による積分値を求める。この場合、J積分による積分値としては、J積分を計算してその振幅や平均値を算出した結果を採用することができる。
【0090】
なお、この破壊パラメータの算出は、タイヤモデルの一部であるローカルモデル内に亀裂先端を有する場合には、その亀裂先端部分における計算を実施することが好ましい。これは、亀裂先端部分が他の部分より破壊の進行度合いが大きいと考えられるからである。すなわち、亀裂先端は亀裂進展することが予測されるからである。すなわち、亀裂先端部分の破壊パラメータを求めるのみによって計算負荷を減少しつつ経時変化予測の確度を向上できると考えられるためである。
【0091】
次のステップ154では、ローカルモデル(特にタイヤの予め定めた部位)について抗力を算出する。本実施の形態では、上述のように抗力について予め時間及び温度との対応関係が求められている(図12参照)。そこで、このステップ152では、上記ステップ106で設定した予測条件による時間t、温度Tにより抗力を求める。なお、この抗力を求めるときに、応力履歴をさらに用いても良い。
【0092】
なお、ゴムなどの弾性体は時間経過と共に脆くなるが、ゴムの材料配合により変動する。これは、タイヤ内側やタイヤ外側から進入してくる酸素、水分、熱にさらされていることなどの寄与のため、亀裂を進ませようとする推進力に対する抵抗力(抗力)が時間経過と共に低下するためである。そこで、本実施の形態では、抗力について、温度、時間、応力、歪、弾性体の組成(ゴムの配合)の寄与が大きいという観点から、抗力について亀裂が進展していくゴム種について予め実験的に求めた特性を用いている(ステップ220)。これにより、亀裂進展の予測精度を向上することができる。
【0093】
次のステップ156では、上記求めた破壊パラメータと抗力とから亀裂発生か否かを判断する。すなわち、抗力は破壊を阻止する抵抗力であるから破壊パラメータ(J積分値)が抗力を越えると、その部位は破壊すなわち亀裂が発生すると考えられる。従って、前回の抗力と破壊パラメータとの差分値が0以下(抗力≧破壊パラメータ)で、今回抗力と破壊パラメータとの差分値が0を越える(抗力<破壊パラメータ)と、この時点で亀裂が発生したと考えられる。そこで、ステップ156では、前回が「抗力≧破壊パラメータ」で、今回が「抗力<破壊パラメータ」であるか否かを判断する。
【0094】
ステップ156で肯定されると、ステップ158へ進み、亀裂が発生したローカルモデルに修正した修正モデルを作成し、この処理以降のローカルモデルとする。この亀裂は、ある材料が分離してその分離した領域に空間が生じることである。図16には、亀裂を表すモデル(亀裂モデル)を示した。図16では、亀裂が生じ、A点に亀裂先端を有する亀裂モデルを示している。従って、図16の例では、上記ステップ152の破壊パラメータの算出は点Aにおいて計算することで計算負荷軽減に寄与することとなる。
【0095】
なお、求めたローカルモデルはタイヤモデルに練成してもよい。すなわち、ローカルモデルは、タイヤモデルの一部であり、ローカルモデルの計算結果はタイヤモデルそのものである。このため、ローカルモデルの計算結果をタイヤモデルに反映させることで、上記処理をタイヤモデルに施したことと等価になる。
【0096】
一方、ステップ156で否定されると、ステップ160へ進む。ステップ160では、亀裂が進展するか否かを判断する。この判断は、上記ステップ156とほぼ同様であるが、亀裂先端における計算値を用いる点で異なる。すなわち、ステップ160は、前回の亀裂先端部位が「抗力≧破壊パラメータ」で、今回が「抗力<破壊パラメータ」であるか否かを判断する。ステップ160で否定されるとそのままステップ164へ進み、肯定されると、ステップ162へ進み、亀裂が進展したタイヤモデルに修正した修正モデルを作成し、この処理以降のローカルモデルとする。
【0097】
本実施の形態では、上述のように亀裂進展速度について予め破壊パラメータ及び温度との対応関係が求められている(図11参照)。そこで、ステップ162では、温度と破壊パラメータ(ステップ152)により亀裂進展速度を求める。なお、この亀裂進展速度を求めるときに、応力履歴をさらに用いても良い。そして、求めた亀裂進展速度からローカルモデルモデルの亀裂先端の位置を予測し、その予測位置に亀裂先端が移動したローカルモデルに修正した修正モデルを作成し、この処理以降のローカルモデルとする(ステップ162)。図17には、亀裂進展を表すモデル(亀裂モデル)を示した。図16で示す点Aが亀裂して点Aと点A'となり、点Bへ亀裂先端が移動するモデルを示している。これらの点Aと点A'の間隔は、応力計算結果から求めることができ、点Aから点Bの距離は、亀裂進展速度について予め破壊パラメータ及び温度との対応関係(図11)から求めることができる。従って、図17の例では、次回の亀裂先端を点Bとして計算することになる。
【0098】
なお、上記の亀裂先端では、先端の過大な変形の集中を抑えるため、蜘蛛の巣状のメッシュを施した亀裂モデルを採用している(図16,図17)。その3次元モデルが図6である。また、亀裂モデルを採用することで、亀裂面をタイヤモデルに付加することができ、亀裂面が重ならないように付与力(応力など)を付加して予測計算を行うことができる。
【0099】
次のステップ164では、現時点(微小時間経過時)における上記処理の結果を出力する。処理結果の一例としては、上記ステップ158またはステップ162で修正されたローカルモデルまたはローカルモデルが反映されたタイヤモデルを表示するための表示用データがある。この表示用データによって、破壊パラメータなどの応力分布や亀裂発生または亀裂進展の状態を把握するためのイメージを表示することができる。なお、このステップ164では、上記処理で求めた、各種データ(例えば、予測条件、摩耗量、発熱量などの熱エネルギ、破壊パラメータ、抗力)を出力してもよい。
【0100】
なお、このステップ164では、上述のようにして求めたローカルモデルをタイヤモデルに練成してもよい。すなわち、ローカルモデルは、タイヤモデルの一部であり、ローカルモデルの計算結果はタイヤモデルそのものである。このため、ローカルモデルの計算結果をタイヤモデルに反映させることで、上記処理をタイヤモデルに施したことと等価になる。
【0101】
次のステップ166では、上記ステップ106で設定した予測条件について全てを終了したか否かを判断し、否定されるとステップ150へ戻り上記ローカル解析処理を繰り返し実行する。一方、ステップ166で肯定されると、ステップ本ルーチンを終了する。
【0102】
次に、図2のステップ140では、上記ステップ166の判断と同様に、上記ステップ106で設定した予測条件について全てを終了したか否かを判断し、否定されるとステップ106へ戻り上記処理を繰り返し実行する。一方、ステップ140で肯定されると、ステップ142へ進み、上記106で設定した予測条件を満たした状態のタイヤモデルについての最終評価を出力する。このステップ142では、一例として、最終的に修正されたタイヤモデルを表示するための表示用データがある。この表示用データによって、経時変化によって移行するタイヤについて、破壊パラメータなどの応力分布や亀裂発生または亀裂進展の状態を把握するためのイメージを表示することができる。また、ステップ142では、最終的な各種データ(例えば、予測条件、摩耗量、発熱量などの熱エネルギ、破壊パラメータ、抗力)を出力してもよい。
【0103】
なお、上記ステップ142の予測結果の評価から、経時変化予測性能が良好であるか否かを判断する処理を追加してもよい。この判断は、亀裂の大きさや亀裂進展の速度値などの評価対象値をキーボードによる入力によってなされてもよくまた、許容範囲を予め定めておき、予測結果の最終評価が許容範囲内に存在するときに、予測性能が良好であると判断するようにしてもよい。
【0104】
これにより、経時変化予測の評価結果が、予め定めた目標に対して不十分であるときは、設計案を変更したり修正したりする、フィードバックが可能となる。
【0105】
このように、本実施の形態では、J積分などの各積分値を破壊パラメータとして、その値を、応力集中領域や亀裂先端付近の応力・歪場の値から求めている。一方、亀裂入りのゴム試験片による疲労試験から、亀裂速度と破壊パラメータとの関係を予め求めて、タイヤ内に発生する亀裂進展の速度を予測することで、タイヤモデルの経時変化を予測している。これによって、経時変化によるタイヤの寿命を予測することが容易となる。そして、この予測に際しての計算は、タイヤ全体形状を考慮するためのタイヤモデルと亀裂を考慮するためのローカルモデルとで、別個に実行しているので、タイヤモデルに補強コード及びその周辺の亀裂をモデル化して計算するのに比べて、計算負荷が著しく向上する。
【0106】
また、ゴムなどの弾性体は、時間の経過と共に硬化より弾性歪が変化し、時系列の変化によりクリーブ歪が加わる。そこで、本実施の形態では、弾性歪を時間の関数、クリープ歪を時間・応力・温度の関数として経時変化予測計算に付加している。なお、弾性歪を応力・時間の関数として経時変化予測計算に付加してもよい。これにより、亀裂先端の形状が時間の経過により丸みを帯び、応力の集中が緩和される効果を考慮することが容易となった。このクリープ歪を経時変化予測に加えることは、弾性体であるゴムの機械的性質の時系列変化を考慮することに対応する。
【0107】
また、本実施の形態では、予測計算を微小時間毎の時系列的な計算をしている。このため、走行中に進展する亀裂先端の破壊パラメータを計算することが可能になり、亀裂進展中の破壊パラメータの値を得ることができる。また、亀裂モデルを採用することで、亀裂面をタイヤモデルに付加することができ、亀裂面が重ならないように付与力(応力など)を付加して予測計算を行うことができる。このため、演算負荷が軽減する。
【0108】
また、本実施の形態では、歪エネルギーロスなどを基に各部材に生じる発熱計算を実行し、各部材間を伝導する熱を計算し、更にタイヤ外表面とタイヤ内部、及びタイヤ内側表面とタイヤ内側のリムとで作られた空間との熱のやり取りを考慮しているので、タイヤ各部の温度を容易に予測することができる。
【0109】
ところで、ゴムなどの弾性体は時間経過と共に脆くなる。これは、タイヤ内側やタイヤ外側から進入してくる酸素、水分、熱にさらされていることなどの寄与のため、亀裂を進ませようとする推進力に対する抵抗力(抗力)が時間経過と共に低下するためである。そこで、本実施の形態では、抗力について、温度、時間、応力、歪、弾性体の組成(ゴムの配合)の寄与が大きいという観点から、抗力について亀裂が進展していくゴム種について予め実験的に求めた特性を基にした考慮を実施した。これにより、亀裂進展の予測精度を向上することができる。この弾性体であるゴムの種類毎に経時変化予測することは、弾性体であるゴムの化学的性質の時系列変化を考慮することに対応する。
【0110】
本実施の形態では、タイヤの使用状態に応じた経時変化として、摩耗を考慮している。この摩耗量はトレッド表面の接地圧、タイヤの蹴り出し域でのタイヤの滑り量を計算により算出できる。このため、トレッド部の磨耗量を容易に予測でき、摩耗量に対応させてトレッド各部分の厚さを変化させることで、走行中のトレッド部の磨耗による形状変化を計算モデルに容易に反映することができる。
【実施例】
【0111】
以下、図面を参照して、本発明の実施例を詳細に説明する。本実施例はタイヤの性能予測に本発明を適用したものである。
【0112】
本実施例での荷重は標準荷重であり、標準荷重とは、下記規格に記載されている適用サイズにおける単輪の最大荷重(最大負荷能力)のことである。このときの内圧は下記規格に記載されている適用サイズにおける単輪の最大荷重(最大負荷能力)に対応する空気圧のことである。また、リムは下記規格に記載されている適用サイズにおける標準リム(または、"Approved Rim"、"Recommended Rim" )のことである。そして、規格とは、タイヤが生産又は使用される地域に有効な産業規格によって決められている。例えば、アメリカ合衆国では "The Tire and Rim Association Inc. の Year Book" で、欧州では"The European Tire and Rim Technical Organization の Standards Manual"で、日本では日本自動車タイヤ協会の"JATMA Year Book"にて規定されている。
【0113】
このタイヤをもとに性能予測のためのモデル化を行い、以下のパターンでのタイヤモデルの性能予測を行い、予測結果、実測結果を合わせて示した。なお、以下の実施例では、標準内圧に対して100%の内圧で、標準荷重に対して120%の荷重を付加した場合を実施したものである。
【0114】
なお、経時変化予測計算は、次の条件を採用している。
条件1:ゴムの機械的性質の時系列変化を考慮(ステップ110のクリープ歪)
条件2:亀裂進展を考慮(ステップ156〜162)
条件3:タイヤの内部温度を考慮(ステップ110〜114)
条件4:条件1に、さらに条件2を考慮
条件5:条件1に、さらに条件3を考慮
条件6:条件2に、さらに条件3を考慮
条件7:条件1と条件2と条件3の組み合わせ
条件8:条件1乃至条件7で、ベルト端の亀裂に対する予測
条件9:条件1乃至条件7で、プライ端の亀裂に対する予測
条件10:条件1乃至条件7で、ワイヤーチェーファー端の亀裂に対する予測
条件11:条件1乃至条件7で、ナイロンチェーファー端の亀裂に対する予測
条件12:条件1乃至条件7において、タイヤ幅方向のトレッド部ショルダー
付近位置のカーカスプライ沿いに生じる亀裂に対する予測
上記の条件の有無に対応して予測計算の結果を個別に取得した。
【0115】
(実施例1)
本実施例としてモデル化・試作したタイヤは、タイヤサイズは195/65R14であり、補強コード3本分のローカルモデルを採用して、室温38度、速度80km/hで走行した場合に、故障する場合を想定したものである。その結果として、実車に装着して故障までの走行距離の実測値に対する、上記実施の形態による経時変化予測計算による予測結果により得られた予測走行距離の割合を、次の表に示した。
【0116】
【表1】
【0117】
(実施例2)
本実施例としてモデル化・試作したタイヤは、タイヤサイズは1000R20であり、プライ端がワイヤーチェーファー端より高い構造のものを採用すると共に、補強コード3本分のローカルモデルを採用した。そして、室温35度、速度80km/hで10000km走行した場合に、3ベルト端、プライ端、ナイロンチェーファー端の各端部における亀裂の長さの実測値に対する、上記実施の形態による経時変化予測計算による予測結果により得られた予測亀裂長さの割合を、次の表に示した。
【0118】
【表2】
【0119】
(実施例3)
本実施例としてモデル化・試作したタイヤは、タイヤサイズは実施例2と同様であるが、ワイヤーチェーファー端がプライ端より高い構造のものを採用した。また、ワイヤーチェーファー端からの亀裂が律速であることを想定した。そして、実施例2と同容易の走行条件で走行した場合に、ワイヤーチェーファー端における亀裂の長さの実測値に対する、上記実施の形態による経時変化予測計算による予測結果により得られた予測亀裂長さの割合を、次の表に示した。
【0120】
【表3】
【0121】
(実施例4)
本実施例としてモデル化・試作したタイヤは、タイヤサイズは4000R57であり、補強コード3本分のローカルモデルを採用して、環境として、室温40度、速度8km/hで走行した場合に、4ベルト端・タイヤ幅方向のトレッド部ショルダー付近位置のカーカスプライ沿いに亀裂が生じる故障を想定したものである。その結果として、実写に装着して故障までの走行距離の実測値に対する、上記実施の形態による経時変化予測計算による予測結果により得られた予測走行距離の割合を、次の表に示した。
【0122】
【表4】
【0123】
以上の実施例から、実測値と予測値が近似していることが理解できる。
【0124】
このように、予測条件を選択することでタイヤの予測性能に差が生じており、条件採用の数に応じて予測結果に対する実測結果の一致性が向上することが理解される。従って、本発明の実施の形態のタイヤの経時変化予測は、タイヤの設計案の性能予測に有効であり、これを活用することによってタイヤ開発を効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明の実施の形態にかかる、タイヤの経時変化予測方法を実施するためのパーソナルコンピュータの概略図である。
【図2】本実施の形態にかかり、タイヤの経時変化予測プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】初期設定処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】タイヤ径方向断面モデルを示す斜視図である。
【図5】タイヤの3次元モデルを示す斜視図である。
【図6】ローカルモデルとして、亀裂先端の破壊パラメータを算出するための亀裂モデルを示すイメージ図である。
【図7】クリープ歪の関数化処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】ゴムの摩滅量の関数化処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】抗力の関数化処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】亀裂進展の関数化処理の流れを示すフローチャートである。
【図11】ゴム材料の各温度での破壊パラメータに対する亀裂進展速度の関係を示す特性図である。
【図12】ゴム材料の各温度での時間に対する材料の抗力の関係を示す特性図である。
【図13】応力分布算出処理の流れを示すフローチャートである。
【図14】応力分布を説明するためのイメージ図である。
【図15】ローカル解析処理の流れを示すフローチャートである。
【図16】亀裂先端の破壊パラメータを算出するための亀裂モデルを示すイメージ図である。
【図17】亀裂進展を説明するための亀裂モデルを示すイメージ図である。
【符号の説明】
【0126】
10 キーボード
12 コンピュータ本体
14 CRT
30 タイヤモデル
FD フレキシブルディスク(記録媒体)
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ経時変化予測方法、装置、プログラム及び媒体にかかり、自動車等に使用される空気入りタイヤなどのタイヤにおける経時変化を予測するタイヤ経時変化予測方法、装置、プログラム及び媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤなどのタイヤ開発において、タイヤ性能は実際にタイヤを設計・製造し、自動車に装着して性能試験を行うことにより得られるものであり、性能試験の結果に満足できなければ設計・製造からやり直す、という手順を踏んできた。最近では、有限要素法等の数値解析手法や計算機環境の発達により、タイヤ内圧充填状態や荷重状態等を考慮して計算機で予測できるようになり、この予測から幾つかの性能予測が可能になった。
【0003】
ところが、タイヤを構成する部品には材料としてゴムなどの弾性体が用いられている。ゴムなどの弾性体は、経時的に変化が伴うものである。例えば、タイヤの回転状態や走行環境に応じて、タイヤに作用する熱や力のエネルギが様々であり、そのエネルギによるタイヤの変化が多種多様に亘るものであった。このため、多数の部品から構成されるタイヤの経時的な変化を検証するには、実際にタイヤを設計・製造し、試験環境による試験や走行試験に依存するしかなかった。
【0004】
計算機を用いて、タイヤの性能試験を可能とする技術としては、走行時におけるタイヤ形状を模擬する技術が知られている(特許文献1を参照)。また、経時変化の一例として、ゴムの摩耗予測を可能とする技術が知られている(特許文献2を参照)。さらに、走行時のタイヤの回転数や付与された応力値を検知して記録し、これを読み出すことでタイヤの疲労度を把握する技術が知られている(特許文献3を参照)。
【特許文献1】特開2000−141509号公報
【特許文献2】特開平11−326144号公報
【特許文献3】特開平10−324120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術は、走行時点における形状のみを模擬したり、走行時点に起因するエネルギを評価したりするにすぎず、経時的な変化を考慮したものではなかった。また、コードを含むタイヤ内の全ての箇所についてモデル化した計算をするのでは、膨大な時間を必要としていた。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、自動車等に使用される空気入りタイヤなどのタイヤについて経時変化を考慮したタイヤの変化の予測を容易にすることができるタイヤ経時変化予測方法、装置、プログラム及び媒体を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、自動車等に使用される空気入りタイヤなどのタイヤについて経時変化を考慮してタイヤの変化を予測し、特にタイヤに加わる応力などによりタイヤ内部で生じる亀裂を把握してその解析を可能し、タイヤの経時変化の把握を容易にしたものである。これにより、高性能のタイヤ開発を効率化し、高性能のタイヤの提供を容易にできるものである。
【0008】
具体的には、本発明のタイヤ経時変化予測方法は、(a)複数の部品からなるタイヤを、変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したタイヤモデルと、前記タイヤモデルの少なくとも一部に付与するエネルギーモデルと、少なくとも1本のコードを含む前記タイヤの一部について変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したローカルモデルと、を定めるステップ、(b)前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形計算を実行するステップ、前記タイヤモデルの変形計算を収束するまで計算させるステップ、(c)前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形による変位を境界条件として前記ローカルモデルに付与するステップ、(d)前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊の度合いを表す破壊パラメータの計算を含む応力計算を実行するステップ、(e)前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊に対する抵抗力の度合いを表す抗力計算を実行するステップ、(f)前記ステップ(d)の応力計算結果及び前記ステップ(e)の抗力計算結果の物理量に基づいてタイヤ経時変化を予測するステップ、を含んでいる。
【0009】
本発明では、まず、タイヤの経時変化を予測するため、タイヤ設計案(タイヤ形状・構造・材料・パターンの変更など)を数値解析上のモデルに落とし込む。すなわち、数値解析が可能なタイヤモデル(数値解析モデル)を作成する。このとき、タイヤに関係する流体や路面などは、その状態により、タイヤにエネルギーを付与するものと考えられる。すなわち、タイヤは、ゴムなどの弾性体を含んでおり、装着された移動体の走行状態や保管状態などの使用状態により経時変化が異なる。この場合、タイヤには、時間経過による自己変化が生じたり、付与される圧力変動や熱変動による自己変化が生じたりする。そこで、タイヤに付与されることが予測されるエネルギーについて、例えば熱や圧力などのエネルギー付与についてモデル化を行い、そのエネルギーモデルを作成することで、タイヤに関与するエネルギーを同時に考慮した数値解析を行うことができる。これらタイヤモデルとエネルギーモデルとによる経時変化の予測結果から、タイヤ設計案の経時変化を把握し、その結果を設計案に反映させることができる。
【0010】
従って、経時変化の予測に基づくタイヤ開発を行うためには、効率良く、精度の良いタイヤ経時変化予測のための数値解析モデルが不可欠である。そこで、本発明では、タイヤ経時変化を予測するため、ステップ(a)において、複数の部品からなるタイヤを、変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したタイヤモデルと、前記タイヤモデルの少なくとも一部に付与するエネルギーモデルと、を定める。
【0011】
ところで、タイヤの構造全てを忠実にモデル化して計算をするのでは、その計算時間が膨大になる。このため、本発明では、主にタイヤ設計案の全体的なグローバルモデルであるタイヤモデルと、計算負荷が増大すると想定される少なくとも1本のコードを含むタイヤの一部についてのローカルモデルとを別個に設定し、これらについて独立して計算し、計算負荷軽減を図ったものである。従って、ステップ(a)では、少なくとも1本のコードを含む前記タイヤの一部について変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したローカルモデルを定めている。
【0012】
そして、全体的なグローバルモデルであるタイヤモデルについて、その変形計算を行い、次にローカルモデルについて計算することで、計算負荷を軽減する。そこで、ステップ(b)では、タイヤモデルへエネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、タイヤモデルの変形計算を実行する。このタイヤモデルの変形計算は、収束するまで計算させることが好ましい。この収束するまでとは、一定時間を経過したとき、変形量が所定値以内になったとき等の予め条件を定めることが好ましい。
【0013】
次に、タイヤモデルと、ローカルモデルとを練成させるために、ステップ(c)では、タイヤモデルへエネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、タイヤモデルの変形による変位を境界条件としてローカルモデルに付与する。
【0014】
タイヤの経時変化に作用するものとしては、タイヤに生じる亀裂などの破壊が考えられる。そこで、本発明では、タイヤの任意の部位で破壊の度合いを表す破壊パラメータという概念を導入する。例えば、この破壊パラメータは、応力により求めることが可能であり、歪み、応力、応力拡大係数、応力または歪の関数であるエネルギー開放率、J積分、C積分、T*積分の積分値の何れか1つを表す物理量を採用することができる。
【0015】
また、タイヤの各部位では、その破壊に対する抵抗力を有するとも考えられる。そこで、本発明では、タイヤの任意の部位で破壊に対する抵抗力の度合いを表す抗力という概念を導入する。この抗力は、タイヤに用いられる材料などのサンプルを用いた予めなされる実験によって求めることができる。
【0016】
例えば、抗力は、部品の構成材料毎に定まると共に、少なくとも時間、温度及び応力の関数で定まる物理量を採用することができる。この物理量は、部品の構成材料毎に、予め実験などにより求め、テーブルとして記憶し、それを参照してもよい。
【0017】
これらの破壊パラメータと抗力とを比較することで、タイヤの各部位の破壊の度合いと抵抗力の度合いとを求めることができる。
【0018】
そこで、ステップ(d)前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊の度合いを表す破壊パラメータの計算を含む応力及び歪の計算を実行し、ステップ(e)では、境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊に対する抵抗力の度合いを表す抗力計算を実行する。ローカルモデルの応力計算と抗力計算とが求まるので、ステップ(f)では、ステップ(d)の応力及び歪の計算結果及びステップ(e)の抗力計算結果の物理量に基づいてタイヤ経時変化を予測する。例えば、応力計算結果の物理量が、抗力計算結果の物理量を上回る場合、その部位は、破壊により亀裂などが生じることを予測することができる。
【0019】
前記エネルギーモデルは、タイヤモデルの少なくとも一部と接触する構造モデル(路面や流体)、付与する熱エネルギーを表すモデル、経過時間をその総体として付与するエネルギーとして捉えた経過時間を表すモデル、付与する荷重エネルギーを表すモデル、の少なくとも1つのモデルを含むことができる。なお、経過時間を表すモデルは、経過時間による変形を表すエネルギーモデルとすることもできる。
【0020】
また、前記ステップ(a)では、エネルギーモデルによる少なくとも温度、時間及び応力で定まる物理量によるエネルギーと、抗力との予め求めた対応関係を部品の各々に定め、ステップ(e)では予め求めた対応関係に基づいて、抗力を計算することができる。
【0021】
また、前記ステップ(f)では、応力及び歪の計算結果の物理量と抗力計算結果の物理量とがほぼ等しいときに、タイヤ経時変化として、予め定めた部位における破壊である亀裂発生の可能性を有すると予測することができる。
【0022】
また、前記ステップ(f)では、応力及び歪の計算結果の物理量が抗力計算結果の物理量を越えるとき、タイヤ経時変化として、部位における破壊である亀裂発生または亀裂進展と予測することができる。
【0023】
また、前記ステップ(a)では、タイヤを構成する部品の各々について、亀裂入り試験片による疲労試験によって予め求めた温度及び破壊パラメータによる亀裂進展速度の特性を定め、ステップ(f)では特性に基づいて、亀裂進展速度を予測することができる。
【0024】
また、予測結果の亀裂発生または亀裂進展に対応する亀裂モデルを生成しかつ生成した亀裂モデルに基づいてタイヤモデルを修正するステップ(g)をさらに含むことができる。
【0025】
また、前記ステップ(b)は、前記タイヤモデルの摩耗量を計算するステップ(h)、前記摩耗により生ずる熱エネルギーを計算すると共に前記タイヤモデルが熱平衡状態となるまで前記タイヤモデルの各部位における熱解析計算するステップ(i)、前記ステップ(h)で求めた摩耗量に基づいて前記タイヤモデルを修正するステップ(j)をさらに含み、前記ステップ(d)、(e)では、前記ステップ(i)の計算結果の温度に基づいて計算することができる。
【0026】
また、ローカルモデルの予め定めた部位は、ベルト端、プライ端、ワイヤーチェーファー端、ナイロンチェーファー端、及びタイヤ幅方向のトレッド部ショルダー付近のカーカスプライ周辺の少なくとも1つの部位を含むことができる。
【0027】
なお、前記タイヤ経時変化予測方法は、次の装置によって容易に実現することができる。詳細には、本発明のタイヤ経時変化予測装置は、複数の部品からなるタイヤを、変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したタイヤモデルと、前記タイヤモデルの少なくとも一部に付与するエネルギーモデルと、少なくとも1本のコードを含む前記タイヤの一部について変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したローカルモデルと、を定める設定手段と、前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形計算を実行する変形計算手段と、前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形による変位を境界条件として前記ローカルモデルに付与する付与手段と、前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊の度合いを表す破壊パラメータの計算を含む応力及び歪の計算を実行する応力計算手段と、前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊に対する抵抗力の度合いを表す抗力計算を実行する抗力計算手段と、前記応力及び歪の計算結果及び前記抗力計算結果の物理量に基づいてタイヤ経時変化を予測する予測手段と、を備えている。
【0028】
また、コンピュータによってタイヤの経時変化を予測する場合、複数の部品からなるタイヤを、変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したタイヤモデルと、前記タイヤモデルの少なくとも一部に付与するエネルギーモデルと、少なくとも1本のコードを含む前記タイヤの一部について変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したローカルモデルと、を定めさせ、前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形計算を実行させ、前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形による変位を境界条件として前記ローカルモデルに付与させ、前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊の度合いを表す破壊パラメータの計算を含む応力及び歪の計算を実行させ、前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊に対する抵抗力の度合いを表す抗力計算を実行させ、前記応力及び歪の計算結果及び前記抗力計算結果の物理量に基づいてタイヤ経時変化を予測させる、各ステップを含むタイヤ経時変化予測プログラムをコンピュータに実行させるようにすれば、簡便にタイヤ経時変化を予測することができる。
【0029】
さらに、複数の部品からなるタイヤを、変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したタイヤモデルと、前記タイヤモデルの少なくとも一部に付与するエネルギーモデルと、少なくとも1本のコードを含む前記タイヤの一部について変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したローカルモデルと、を定めさせ、前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形計算を実行させ、前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形による変位を境界条件として前記ローカルモデルに付与させ、前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊の度合いを表す破壊パラメータの計算を含む応力及び歪の計算を実行させ、前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊に対する抵抗力の度合いを表す抗力計算を実行させ、前記応力及び歪の計算結果及び前記抗力計算結果の物理量に基づいてタイヤ経時変化を予測させる、各ステップを含むタイヤ経時変化予測プログラムを記憶媒体に記憶するようにし実行させ、データ収集するようにすれば、過去のタイヤ経時変化の予測結果との比較や今後のデータ蓄積に役立てることができる。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように本発明によれば、タイヤモデルと、ローカルモデルとを別個に計算しているので、計算負荷を解消しつつ、タイヤの破壊パラメータと抗力との比較により、タイヤの経時変化性能を予測することができ、タイヤの使用状態に即した解析を可能にすることができる、という効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0032】
本実施の形態は空気入りタイヤの性能予測として、タイヤの経時変化を予測する場合に本発明を適用したものである。
【0033】
図1には本発明の空気入りタイヤの性能予測を実施するためのパーソナルコンピュータの概略が示されている。このパーソナルコンピュータは、データ等を入力するためのキーボード10、予め記憶された処理プログラムに従ってタイヤの性能を予測するコンピュータ本体12、及びコンピュータ本体12の演算結果等を表示するCRT14から構成されている。
【0034】
なお、コンピュータ本体12には、記録媒体としてのフレキシブルディスク(FD)が挿抜可能なフレキシブルディスクユニット(FDU)を備えている。なお、後述する処理ルーチン等は、FDUを用いてフレキシブルディスクFDに対して読み書き可能である。従って、後述する処理ルーチンは、予めFDに記録しておき、FDUを介してFDに記録された処理プログラムを実行してもよい。また、コンピュータ本体12にハードディスク装置等の大容量記憶装置(図示省略)を接続し、FDに記録された処理プログラムを大容量記憶装置(図示省略)へ格納(インストール)して実行するようにしてもよい。また、記録媒体としては、記録テープ、CD−ROMやDVD等の光ディスクや、MD,MO等の光磁気ディスクがあり、これらを用いるときには、上記FDUに代えてまたはさらに対応する読み書き装置を用いればよい。
【0035】
図2は、本実施の形態のタイヤ経時変化予測プログラムの処理ルーチンを示すものである。ステップ100では、予測するタイヤの設計案(タイヤ形状、構造、材料、パターンの変更など)についての初期設定を実施する。この初期設定は、タイヤの経時変化を予測するために必要となる、各種モデルやゴムなどの物理特性、そして各種初期データを設定する処理である。
【0036】
具体的には、図3に示す初期設定ルーチンが実行される。初期設定ルーチンでは、まず、タイヤ設計案を数値解析上のモデルに落とし込むため、タイヤモデルを作成する。このタイヤモデルの作成は、用いる数値解析手法により若干異なる。本実施の形態では数値解析手法として有限要素法(FEM)を用いるものとする。従って、作成するタイヤモデルは、有限要素法(FEM)に対応した要素分割、例えば、メッシュ分割によって複数の要素に分割され、タイヤを数値的・解析的手法に基づいて作成されたコンピュータプログラムヘのインプットデータ形式に数値化したものをいう。この要素分割とはタイヤ、流体、及び路面等の対象物を小さな幾つかの(有限の)小部分に分割することをいう。この小部分ごとに計算を行い全ての小部分について計算した後、全部の小部分を足し合わせることにより全体の応答を得ることができる。なお、数値解析手法には差分法や有限体積法を用いても良い。
【0037】
このタイヤモデルの作成は、タイヤ断面のモデルを作成した後に、パターンをモデル化する。すなわち、ステップ200において、タイヤ径方向断面のモデル、すなわちタイヤ断面データを作成する。このタイヤ断面データは、タイヤ外形をレーザー形状測定器等で計測し値を採取する。また、タイヤ内部の構造は設計図面および実際のタイヤ断面データ等から正確なものを採取する。タイヤ断面内のゴム、補教材(ベルト、プライ等、鉄・有機繊維等でできた補強コードをシート状に束ねたもの)をそれぞれ有限要素法のモデル化手法に応じてモデル化する。このようにモデル化したタイヤ径方向断面のモデルを図4に示した。
【0038】
次のステップ202では、2次元データであるタイヤ断面データ(タイヤ径方向断面のモデル)を周方向に一周分展開し、タイヤの3次元(3D)モデルを作成する。この場合、ゴム部は8節点ソリッド要素、補教材は角度を表現できる異方性シェル要素でモデル化することが望ましい。このようにして3次元的にモデル化した3Dモデルを図5に示した。
【0039】
次のステップ204では、パターンをモデル化する。このパターンのモデル化は、パターンの一部または全部を別個にモデル化し、上記タイヤモデルにトレッド部分として貼りつけてパターンを作成することや、タイヤ断面データを周方向に展開する際にリブ・ラグ成分を考慮してパターンを作成することを採用できる。
【0040】
ここで、本実施の形態では計算負荷軽減のために、以下の処理では、上記タイヤ設計案に基づく全体的なタイヤモデルをグローバルモデルとし、計算負荷が増大すると想定される少なくとも1本のコードを含むタイヤの一部のモデルをローカルモデルとして別個に定めて、これらの各々について独立して計算する。
【0041】
そこで、次のステップ205では、ローカルモデルを作成する。ローカルモデルは、少なくとも1本のコードを含むタイヤの一部のモデルであり、詳細を後述する亀裂を考慮するためのモデルである。このローカルモデルは、タイヤの少なくとも一部を抽出した3次元(3D)モデルであり、上述のように、タイヤ断面内のゴム、補教材(ベルト、プライ等、鉄・有機繊維等でできた補強コードをシート状に束ねたもの)をそれぞれ有限要素法のモデル化手法に応じて3次元モデル化するのと同様に、少なくとも補強コードの周辺、特に先端部周辺をモデル化したものである。このようにモデル化したローカルモデルを図6に示した。図6では、補強コードの先端付近を抽出したものであり、その先端部付近から亀裂が発生すると考えられることから、亀裂が発生した場合についてモデル化し、その亀裂先端で蜘蛛の巣状にメッシュ分割した、一例を示している。なお、亀裂は後述する処理において発生から進展までを考慮する場合があるので、ローカルモデルは亀裂そのものをモデル化することが不要である。但し、計算負荷を考慮すると、亀裂そのものをモデル化することを考慮することが好ましい。
【0042】
次のステップ206では、路面や流体などのタイヤに関係するモデルを作成する。このステップ206では、タイヤの一部(または全部)および接地面、タイヤが移動・変形する領域を含む流体領域を分割してモデル化したり、路面モデルの作成と共に路面状態の入力がなされる。このステップ206は、路面をモデル化してそのモデル化した路面を実際の路面状態に設定したりする。路面のモデル化は、路面形状を要素分割してモデル化し、路面の摩擦係数μを選択設定することで路面状態を入力する。例えば、路面状態により乾燥(DRY)、濡れ(WET)、氷上、雪上、非舗装等に対応する路面の摩擦係数μが存在するので、摩擦係数μについて適正な値を選択することで、実際の路面状態を再現させることができる。また、路面モデルは,前記流体モデルの少なくとも一部と接していれば良く,流体モデル内部に配置することも可能である。
【0043】
次のステップ208では、タイヤ各部のゴム構成材料を設定する。上記のように、構造的には、タイヤ内のゴム、及び補教材をそれぞれ有限要素法によるモデル化を行ったが、そのタイヤ内のゴムすなわち、タイヤ各部のゴム構成材料はまちまちである。そこで、このステップ208においてタイヤ各部のゴム構成材料を設定する。これにより、タイヤを構成する各種データを規定することができる。
【0044】
次のステップ210では、経時変化の変動を予測するにあたっての初期状態の温度及び使用荷重を設定する。なお、タイヤが空気入りタイヤであるときは、内圧の充填率を設定することもできる。
【0045】
次に、タイヤの経時変化を予測するための各種データを読み取る。この各種データは、時間、温度や応力などにより変化するタイヤを構成する部品の状態を定めるためのものである。
【0046】
まず、ステップ212では、上記ステップ208で設定したタイヤ各部のゴム部材について、対応するゴムサンプルのtanδと、熱伝導率ηとを、予め実験によって求めた実測データを読み取る。次のステップ214では、タイヤ周りの熱伝達率ρについて予め実験によって求めた実験データを読み取る。これらの実測データ及び実験データによりタイヤを伝達する熱についての解析が容易となる。
【0047】
次のステップ216では、詳細を後述する工程を経て求められた、タイヤに関するクリープ歪みについて関数表現されたクリープ歪特性を読み取る。このクリープ歪特性は、荷重及び温度を変化させてタイヤ各種ゴムサンプルのクリープ試験を行った結果のデータから得られる、クリープ歪みと、応力、温度、時間の対応関係を表すものである。
【0048】
具体的には、図7のクリープ歪特性導出処理ルーチンを実行する。まず、ステップ300では、試験条件を設定する。この試験条件は、クリープ試験を行う環境槽の温度(各タイヤ部位の使用温度を含む)、及び使用荷重を設定する。この使用荷重は、本実施の形態では、空気入りタイヤを用いる場合におけるタイヤ内圧時の使用荷重を設定する。
【0049】
次のステップ302では、上記ステップ208で設定したタイヤ各部のゴム部材、すなわちタイヤ各部のゴム部材に対応するゴムサンプルを用いて、上記ステップ300で設定した試験条件により、環境槽内においてクリープ試験を実行する。そして、試験結果のデータを収集する。
【0050】
次のステップ304では、上記ステップ302で得られたデータ、すなわちクリープ歪、応力、温度、及び時間から、クリープ歪と、応力、温度、及び時間との対応関係を導出する。この対応関係は、関数表現するために、多変量解析法や最小自乗法などの各種近似法や解析法を用いることができる。
【0051】
次に、図3のステップ218では、詳細を後述する工程を経て求められた、タイヤに関するゴム摩滅量を関数で表現した摩滅量特性を読み取る。この摩滅量特性は、滑り量や付与圧力を変化させてタイヤ各種ゴムサンプルの摩滅量を計測する試験を行った結果のデータから得られる、ゴム摩滅量と、圧力及び滑り量との対応関係を表すものである。
【0052】
具体的には、図8の摩滅量特性導出処理ルーチンを実行する。まず、ステップ310では、摩滅量特性導出の対象となるタイヤゴムに対応するトレッドのゴムサンプル(すなわち上記ステップ208で設定したタイヤ各部のうち摩耗に関係するゴム部材であるドレッドのゴム部材に対応するゴムサンプル)を、摩耗量計測装置に設置する。この設置時には、摩耗試験のための路面と等価な計測面に変更可能な付与圧力を設定してトレッドのゴムサンプルを付与する。
【0053】
次のステップ312では、設置したトレッドのゴムサンプルについて、摩耗試験を実行して、その試験結果のデータを収集する。この収集するデータには、トレッドのゴムサンプルに付与される圧力、ゴムの滑り量、およびゴムの摩滅量がある。
【0054】
次のステップ314では、上記ステップ312で得られたデータ、すなわちトレッドのゴムサンプルに付与される圧力、ゴムの滑り量、およびゴムの摩滅量から、トレッドのゴムサンプルに付与される圧力及びゴムの滑り量と、ゴムの摩滅量との対応関係を導出する。この対応関係は、関数表現するために、多変量解析法や最小自乗法などの各種近似法や解析法を用いることができる。
【0055】
次に、図3のステップ220では、詳細を後述する工程を経て求められた、タイヤの経時変化に関する抗力を関数で表現した抗力特性を読み取る。この抗力特性は、ゴムの破壊に対しての抵抗力を表すものであり、時間や温度、及び負荷応力を変化させてタイヤ各種ゴムサンプルの亀裂量を計測する疲労試験を行った結果のデータから得られる、ゴムの抗力と、時間や温度、及び負荷応力との対応関係を表すものである。
【0056】
具体的には、図9の抗力特性導出処理ルーチンを実行する。まず、ステップ320では、抗力特性導出のための放置条件を設定する。この放置条件は、疲労試験を行うにあたって放置する環境槽の温度(放置温度)、及び時間(放置時間)を設定する。次のステップ322では、予め微小な亀裂を施したゴムサンプルを、上記ステップ320で設定した放置条件で放置する。このコムサンプルは、抗力特性導出の対象となるタイヤゴムに対応するゴムサンプル、すなわち上記ステップ208で設定したタイヤ各部のゴム部材に対応するゴムサンプルである。
【0057】
次のステップ324では、上記ステップ322の放置条件で放置されたゴムサンプルを、図示を省略した疲労試験装置に設置し、疲労試験を実行して、その試験結果のデータを収集する。この収集するデータには、ゴムサンプルに付与される引張力、引張力の振幅、及びゴムの亀裂進展量がある。
【0058】
ここで、抗力は、ゴムの破壊に対する抵抗力を表すものであり、応力計算値であるJ積分値などの破壊パラメータ(応力計算値、後述)が境界値となる。すなわち、亀裂を有する部品の剛性を表現する上で亀裂先端の付近について、亀裂進展を阻止している応力計算値が抗力となり、亀裂進展した場合の応力計算値が抗力を越えた応力であると考えられる。従って、抗力は、亀裂を有するゴムにあっては、その亀裂を阻止する力に対応する。これにより、疲労試験により亀裂進展が開始される直前の付与力が抗力に相当すると考えられる。また、亀裂を有するゴムサンプルを引っ張り試験を行うとき、亀裂先端に応力が集中する。このため、破壊を阻止する抗力の大小によって、亀裂進展量が変動する。これらは、ゴムの組成上からなる酸化状態や架橋による剛性に起因すると考えられる。この抗力は、温度や時間そして付与される応力による経時変化に伴って酸化状態や架橋状態が変動し、低下することが予測される。これにより、抗力は、応力、温度、及び時間に対して対応関係を有し、時間、温度、及び応力の関数で表現できると考えられる。
【0059】
そこで、次のステップ326では、上記ステップ324における疲労試験の結果から抗力の低下度を導出する。この抗力の低下度は、疲労試験によるゴムサンプルの亀裂進展度合い(亀裂進展量)と、放置条件による疲労試験時の付与力との対応関係を数値化したものである。その低下度を基に、次のステップ328において、現在の環境下における抗力と、温度及び時間との対応関係を導出する。そして、次のステップ330では予め定めた放置条件範囲の各疲労試験を終了するまで否定判断し、予め定めた任意の放置条件による上記処理(ステップ320〜328)を繰り返し実行する。
【0060】
ステップ330で肯定判断がなされると、ステップ332へ進み、上記ステップ328で得られたデータ、すなわち複数の放置条件(放置温度及び放置時間)に対する抗力の関係から、ゴムサンプルの抗力と、時間、温度、及び応力との対応関係を導出する。この対応関係は、関数表現するために、多変量解析法や最小自乗法などの各種近似法や解析法を用いることができる。図12には、任意の応力における、ゴムサンプルの抗力と、温度及び時間との対応関係を複数表した特性を示した。このゴムサンプルの抗力と、温度及び時間との対応関係は、経過時間が大きくなるに従ってゴムサンプルの抗力が小さくなるように、ほぼ反比例した関係を有している。
【0061】
次に、図3のステップ222では、詳細を後述する工程を経て求められた、タイヤの経時変化に関する亀裂進展速度を関数で表現した亀裂進展速度特性を読み取る。この亀裂進展速度特性は、ゴムの破壊ここでは亀裂進展の速度を表すものであり、温度を変化させてタイヤ各種ゴムサンプルの亀裂進展速度を計測する疲労試験を行った結果のデータから得られる、ゴムサンプルの亀裂進展速度と、温度及び付与力との対応関係を表すものである。
【0062】
具体的には、図10の亀裂進展速度特性導出処理ルーチンを実行する。まず、ステップ340では、亀裂進展速度特性導出のための進展条件を設定する。この進展条件は、疲労試験を行うにあたって試験実施環境の温度、及び入力(付与力)を設定する。次のステップ342では、予め微小な亀裂を施したゴムサンプルを、上記ステップ340で設定した進展条件で環境槽内に設置する。このゴムサンプルは、新規のゴムサンプルを用いる。
【0063】
次のステップ344では、上記ステップ342の進展条件で設置されたゴムサンプルを、図示を省略した疲労試験装置に設置し、疲労試験を実行して、その試験結果のデータを収集する。この収集するデータには、温度、ゴムサンプルに付与される引張力や圧力、引張力解除後や圧力付与後の復元量、及びゴムの亀裂進展量がある。
【0064】
次のステップ346では、亀裂進展速度を計測する。この亀裂進展速度の計測は、亀裂先端部の移動速度を実際に計測してもよく、上記収集したデータの亀裂進展量とその亀裂進展に要した時間とから計算してもよい。次のステップ348では、現剤の試験実施環境の温度及び入力に対する亀裂進展速度の関係を記憶する。そして、次のステップ350では予め定めた進展条件範囲の各疲労試験を終了するまで否定判断し、予め定めた任意の進展条件による上記処理(ステップ340〜348)を繰り返し実行する。
【0065】
ステップ350で肯定判断がなされると、ステップ352へ進み、上記ステップ348で記憶したデータ、すなわち複数の進展条件(温度及び入力)に対する亀裂進展速度の関係から、ゴムサンプルの亀裂進展速度と、温度及び入力との対応関係を導出する。この対応関係は、関数表現するために、多変量解析法や最小自乗法などの各種近似法や解析法を用いることができる。図11には、ゴムサンプルの亀裂進展速度と、温度及び入力との対応関係を複数表した特性を示した。この入力は、付与力を破壊パラメータとして表した。この亀裂進展速度と、温度及び入力との対応関係は、入力が大きくなるに従って亀裂進展速度が大きくなるように、ほぼ比例した関係を有している。
【0066】
破壊パラメータは、亀裂推進力を表すものである。その一例としては、歪、応力、応力拡大係数kや、応力・歪の関数であるエネルギー解放率、J積分、C積分、T*積分などの各積分値、ティアリングエナージー(Tearing Energy)がある。なお、本実施の形態では、J積分の積分値を採用する。
【0067】
このようにして、初期設定を行った後、以下のようにして、タイヤの経時変化を予測する。
【0068】
図2のステップ102では、応力分布(歪)を算出する。この応力分布の計算は、タイヤの経時変化を予測するときの当初の応力分布を求めるものであり、経時変化によって亀裂が生じたりする破壊の可能性を把握するために必要となる処理である。
【0069】
具体的には、図13に示す応力分布処理ルーチンが実行される。まず、ステップ360では、応力集中領域を算出する。この場合、タイヤの全面または予め定めた特定領域について応力を算出し、その分布を求める。この処理では、応力の数値的かつ段階的な分布を求める等高線を導出する処理を利用することができる。そして、ステップ360では、応力の値、例えばJ積分の積分値などの破壊パラメータが、予め定めた値を超えた領域を応力集中領域と特定する。次のステップ362では、上記ステップ360で特定した応力集中領域が、タイヤのどの部位に該当するかの対応付けを行い、次のステップ364において、その応力集中領域を、他の領域と異なる形態(例えば異なる色の属性付与や斜線などの属性付与)に設定し、表示用のデータを生成する。
【0070】
図14には、ステップ364で生成した表示データのイメージを示した。この例では、プライやチェーファーの折り曲げ付近Ta、プライ端部付近Tb、及びベルト端部付近Tcに応力が集中していることを示している。
【0071】
次のステップ106では、タイヤ経時変化を予測するときの予測条件を設定する。この予測条件は、タイヤ経時変化を特定するための経過時間や使用温度(環境温度)、そして使用荷重、回転速度、付与圧力方向、路面状態などの走行状態を設定するものである。
【0072】
次のステップ110では、タイヤモデルについて発熱計算を実行し、次のステップ112においてタイヤ内部の伝熱計算を実行する。発熱計算は、環境温度、時間経過や圧力などの使用状態により生じる発熱現象を、タイヤの各部位で特定し、その熱エネルギーを用いる。この場合、歪エネルギーロスなどを基に各部材に生じる発熱を計算することができる。また、この発熱計算では、タイヤの使用による路面との接触で生じる摩擦により発生するトレッド部分の発熱エネルギーを用いることができる。この場合にも、歪エネルギーロスなどを基に各部材に生じる発熱を計算することができる。
【0073】
なお、発熱計算では、タイヤ各部位の温度予測を含むものである。温度予測は、上記ステップ106で設定した使用温度により、タイヤの全ての部位についてどの程度の温度になるのかを計算により求めるものである。この計算は、タイヤ各部の応力や歪を算出して、FEMなどによる熱解析によって予測することができる。
【0074】
伝熱計算は、タイヤ内部から付与される熱エネルギーがタイヤ内部で伝達されるときのエネルギー伝達を計算したり、タイヤ内部で発生した熱エネルギーが周囲に伝達されるときのエネルギー伝達を計算したりする。この計算は、タイヤ各部の応力や歪を算出して、FEMなどによる熱解析によって計算することができる。これらの発熱計算と伝熱計算は、収束(ステップ114で肯定判断)するまで、例えば所定時間の経過または温度平衡になるまで繰り返しなされる。
【0075】
熱エネルギーについて発熱計算及び伝熱計算が収束すると(ステップ114で肯定)、ステップ118へ進み、上記設定した経過時間を経過した後のタイヤ内圧時の形状を算出する。このタイヤ内圧時の形状は、タイヤモデルに内圧付与した場合の形状を求めることによって得ることができる。このタイヤ内圧時の形状算出では、内圧時の状態でクリープ歪(上記ステップ216)を含めた応力解析をFEMで行い(時間t=t1での)タイヤモデルの内圧時の形状を求める。これにより、時系列変化によるクリープ歪を考慮することができる。
【0076】
次のステップ120では、タイヤの摩耗量を算出する。なお、タイヤ摩耗を考慮する必要がないときは、この処理を省略することができる。例えば、タイヤの経時変化を予測する場合、単にタイヤを放置した場合などではタイヤ摩耗を考慮することが不必要であると考えられる。
【0077】
タイヤ摩耗量は、経過時間や温度、そして内圧や付与圧力などの使用荷重、加えて走行距離や加減速などの走行状態などの物理量から算出する。なお、本実施の形態では、タイヤの各部について摩滅量特性を予め求めている(図8参照)。そこで、ステップ120では、この摩耗量特性を用いて、使用荷重でタイヤモデルを回転させたときのトレッドが当面から離れるときのトレッド各部に付与される圧力と滑り量を算出し、トレッドの摩耗量を求める。このトレッドの摩耗量を求める計算は、FEMによる陽解法を用いることができる。
【0078】
陽解法は、周知のように運動方程式の複雑な連立方程式の解を求める計算方法であり、収束計算するものではなく、任意の時刻から時間増分Δt毎に平衡を取らずに状態を求めるものである。一般的には、計算負荷を減少させるため、連立方程式の解を求めることに代えて、時刻tにおける運動方程式を基にして時間増分Δt後(時刻t+Δt)の解を近似的に求める。例えば、外挿により時間増分Δt後の解を求める。
【0079】
陽解法は、1刻み毎の解析所用時間を短くできるので、動的現象の解析ここでは摩耗現象に用いる。従って、この動的現象解析では、解析所用時間が短くなり、モデル自体の幾何学形状、密度や材料物性などは物理的に正しい値を使用するので、モデルの信頼性は高く保たれる。
【0080】
なお、トレッドの各部分の摩耗量は、蹴り出し部の滑り量及び接地圧から算出する。このタイヤ摩耗量の算出では、予めタイヤのトレッドに用いるゴムのゴムサンプルについて摩耗試験装置において摩耗試験を予め実施して、実験データ(摩耗度)を採取しておく。そして、この摩耗試験による実験データを用いて、上記タイヤの使用状態(経過時間、温度変動、内圧、付与圧力などの使用荷重、走行距離、加減速などの走行状態)における摩擦エネルギーによる摩耗の度合いを計算により求めることができる。
【0081】
この一例として、摩耗度測定については、本出願人が出願済みの特開平11−326169号公報に記載のゴム摩耗度測定方法を実行するための装置を用いることができる。また、摩擦エネルギーによる摩耗の度合いを計算により求めることは、本出願人が出願済みの特開平11−326134号公報及び特開平11−326134号公報に記載のタイヤ摩耗寿命予測方法による、摩擦エネルギーを要素とした摩耗量の予測、例えばトレッドの溝深さ減少による摩耗深さを計算することを用いることができる。
【0082】
上記のようにして、タイヤ摩耗量の算出が終了すると、次のステップ122において、モデルを修正する。すなわち、上記ステップ120で摩耗量を算出した場合、少なくとも摩耗量によるタイヤ形状の変化が生じる。そこで、ステップ122では、摩耗量により変化するタイヤモデルの形状を修正する修正モデルを作成し、この処理以降のタイヤモデルとする。
【0083】
なお、タイヤ摩耗を考慮しない場合でも、経過時間や温度、そして内圧や付与圧力などの使用荷重による物理量によってタイヤの経時変化が生じる。このタイヤの経時変化から、タイヤモデルの形状を修正する修正モデルを作成し、この処理以降のタイヤモデルとすることができる。
【0084】
次のステップ131では、ステップ122でタイヤモデルが修正された後、修正されたタイヤモデルが収束したか否かを判断する。ステップ131で否定されると、ステップ110へ戻り上記処理を繰り返し、肯定されると、ステップ133へ進む。この収束の判断は、例えば所定時間を予め定めて、その経過時間後を収束したと判断するようにしてもよい。また、ステップ131の判断は、キーボードによる入力によってなされてもよくまた、予め定めた関数に基づく評価値に、許容範囲を予め定めておき、評価値が許容範囲内に存在するときに、肯定判断するようにしてもよい。なお、評価値算出の一例は、タイヤモデルが修正された後の応力分布を求め、その前後(ステップ102とステップ122)で分布がどの程度変動したかを数値的に表現し、その変動値を評価値に定めることができる。
【0085】
次のステップ133では、亀裂可能性領域を予測する。この亀裂可能性領域予測は、上記ステップ102で求めた応力が集中する応力集中領域(図14のTa,Tb,Tcなど)について、その全てまたは最も集中の最大の領域、若しくは予め指定した数の領域を、亀裂可能性領域と予測する。これは、本ルーチンの予測当初に応力が集中する領域が、タイヤの破壊である亀裂の要因になることが予測されるためである。この予測結果によって、亀裂可能性領域のみを予測することで、計算時間を短縮化できたり、計算負荷を抑制できたりする。
【0086】
次のステップ135では、タイヤモデルの変位を記憶する。このタイヤモデルの変位とは、上記設計案から定めたタイヤモデルに対して修正したタイヤモデルの変位であり、特に亀裂を考慮するために、補強コード周辺の変位を記憶することが好ましい。
【0087】
次のステップ137では、詳細を後述する工程を経て求められた、ローカルモデルの解析処理を実行する。このローカルモデルの解析処理は、計算負荷を軽減するために、補強コード端や補強コード周辺の亀裂をモデル化して計算する処理である。
【0088】
具体的には、図15のローカル解析処理ルーチンを実行する。まず、ステップ150では、ローカルモデルを読み取ると共に、そのローカルモデルに境界条件を付与する。この境界条件とは、上記ステップ135で記憶したタイヤモデルの変位である。すなわち、タイヤモデルの変位を、ローカルモデルの変位境界条件として付与する。これにより、タイヤモデルの一部であるローカルモデルが上記処理によるタイヤ変形後の形状が反映された形式で解析処理を遂行することが可能となる。
【0089】
次のステップ152では、ローカルモデルについてタイヤの予め定めた部位について破壊パラメータを算出する。本実施の形態では、ローカルモデルとして用いるタイヤの予め定めた部位として、補強コード端やその周辺の部位を採用する。また、破壊パラメータとしてJ積分による積分値を採用しており、例えば熱平衡に至ったタイヤモデルの予め定めた部位についてJ積分による積分値を求める。この場合、J積分による積分値としては、J積分を計算してその振幅や平均値を算出した結果を採用することができる。
【0090】
なお、この破壊パラメータの算出は、タイヤモデルの一部であるローカルモデル内に亀裂先端を有する場合には、その亀裂先端部分における計算を実施することが好ましい。これは、亀裂先端部分が他の部分より破壊の進行度合いが大きいと考えられるからである。すなわち、亀裂先端は亀裂進展することが予測されるからである。すなわち、亀裂先端部分の破壊パラメータを求めるのみによって計算負荷を減少しつつ経時変化予測の確度を向上できると考えられるためである。
【0091】
次のステップ154では、ローカルモデル(特にタイヤの予め定めた部位)について抗力を算出する。本実施の形態では、上述のように抗力について予め時間及び温度との対応関係が求められている(図12参照)。そこで、このステップ152では、上記ステップ106で設定した予測条件による時間t、温度Tにより抗力を求める。なお、この抗力を求めるときに、応力履歴をさらに用いても良い。
【0092】
なお、ゴムなどの弾性体は時間経過と共に脆くなるが、ゴムの材料配合により変動する。これは、タイヤ内側やタイヤ外側から進入してくる酸素、水分、熱にさらされていることなどの寄与のため、亀裂を進ませようとする推進力に対する抵抗力(抗力)が時間経過と共に低下するためである。そこで、本実施の形態では、抗力について、温度、時間、応力、歪、弾性体の組成(ゴムの配合)の寄与が大きいという観点から、抗力について亀裂が進展していくゴム種について予め実験的に求めた特性を用いている(ステップ220)。これにより、亀裂進展の予測精度を向上することができる。
【0093】
次のステップ156では、上記求めた破壊パラメータと抗力とから亀裂発生か否かを判断する。すなわち、抗力は破壊を阻止する抵抗力であるから破壊パラメータ(J積分値)が抗力を越えると、その部位は破壊すなわち亀裂が発生すると考えられる。従って、前回の抗力と破壊パラメータとの差分値が0以下(抗力≧破壊パラメータ)で、今回抗力と破壊パラメータとの差分値が0を越える(抗力<破壊パラメータ)と、この時点で亀裂が発生したと考えられる。そこで、ステップ156では、前回が「抗力≧破壊パラメータ」で、今回が「抗力<破壊パラメータ」であるか否かを判断する。
【0094】
ステップ156で肯定されると、ステップ158へ進み、亀裂が発生したローカルモデルに修正した修正モデルを作成し、この処理以降のローカルモデルとする。この亀裂は、ある材料が分離してその分離した領域に空間が生じることである。図16には、亀裂を表すモデル(亀裂モデル)を示した。図16では、亀裂が生じ、A点に亀裂先端を有する亀裂モデルを示している。従って、図16の例では、上記ステップ152の破壊パラメータの算出は点Aにおいて計算することで計算負荷軽減に寄与することとなる。
【0095】
なお、求めたローカルモデルはタイヤモデルに練成してもよい。すなわち、ローカルモデルは、タイヤモデルの一部であり、ローカルモデルの計算結果はタイヤモデルそのものである。このため、ローカルモデルの計算結果をタイヤモデルに反映させることで、上記処理をタイヤモデルに施したことと等価になる。
【0096】
一方、ステップ156で否定されると、ステップ160へ進む。ステップ160では、亀裂が進展するか否かを判断する。この判断は、上記ステップ156とほぼ同様であるが、亀裂先端における計算値を用いる点で異なる。すなわち、ステップ160は、前回の亀裂先端部位が「抗力≧破壊パラメータ」で、今回が「抗力<破壊パラメータ」であるか否かを判断する。ステップ160で否定されるとそのままステップ164へ進み、肯定されると、ステップ162へ進み、亀裂が進展したタイヤモデルに修正した修正モデルを作成し、この処理以降のローカルモデルとする。
【0097】
本実施の形態では、上述のように亀裂進展速度について予め破壊パラメータ及び温度との対応関係が求められている(図11参照)。そこで、ステップ162では、温度と破壊パラメータ(ステップ152)により亀裂進展速度を求める。なお、この亀裂進展速度を求めるときに、応力履歴をさらに用いても良い。そして、求めた亀裂進展速度からローカルモデルモデルの亀裂先端の位置を予測し、その予測位置に亀裂先端が移動したローカルモデルに修正した修正モデルを作成し、この処理以降のローカルモデルとする(ステップ162)。図17には、亀裂進展を表すモデル(亀裂モデル)を示した。図16で示す点Aが亀裂して点Aと点A'となり、点Bへ亀裂先端が移動するモデルを示している。これらの点Aと点A'の間隔は、応力計算結果から求めることができ、点Aから点Bの距離は、亀裂進展速度について予め破壊パラメータ及び温度との対応関係(図11)から求めることができる。従って、図17の例では、次回の亀裂先端を点Bとして計算することになる。
【0098】
なお、上記の亀裂先端では、先端の過大な変形の集中を抑えるため、蜘蛛の巣状のメッシュを施した亀裂モデルを採用している(図16,図17)。その3次元モデルが図6である。また、亀裂モデルを採用することで、亀裂面をタイヤモデルに付加することができ、亀裂面が重ならないように付与力(応力など)を付加して予測計算を行うことができる。
【0099】
次のステップ164では、現時点(微小時間経過時)における上記処理の結果を出力する。処理結果の一例としては、上記ステップ158またはステップ162で修正されたローカルモデルまたはローカルモデルが反映されたタイヤモデルを表示するための表示用データがある。この表示用データによって、破壊パラメータなどの応力分布や亀裂発生または亀裂進展の状態を把握するためのイメージを表示することができる。なお、このステップ164では、上記処理で求めた、各種データ(例えば、予測条件、摩耗量、発熱量などの熱エネルギ、破壊パラメータ、抗力)を出力してもよい。
【0100】
なお、このステップ164では、上述のようにして求めたローカルモデルをタイヤモデルに練成してもよい。すなわち、ローカルモデルは、タイヤモデルの一部であり、ローカルモデルの計算結果はタイヤモデルそのものである。このため、ローカルモデルの計算結果をタイヤモデルに反映させることで、上記処理をタイヤモデルに施したことと等価になる。
【0101】
次のステップ166では、上記ステップ106で設定した予測条件について全てを終了したか否かを判断し、否定されるとステップ150へ戻り上記ローカル解析処理を繰り返し実行する。一方、ステップ166で肯定されると、ステップ本ルーチンを終了する。
【0102】
次に、図2のステップ140では、上記ステップ166の判断と同様に、上記ステップ106で設定した予測条件について全てを終了したか否かを判断し、否定されるとステップ106へ戻り上記処理を繰り返し実行する。一方、ステップ140で肯定されると、ステップ142へ進み、上記106で設定した予測条件を満たした状態のタイヤモデルについての最終評価を出力する。このステップ142では、一例として、最終的に修正されたタイヤモデルを表示するための表示用データがある。この表示用データによって、経時変化によって移行するタイヤについて、破壊パラメータなどの応力分布や亀裂発生または亀裂進展の状態を把握するためのイメージを表示することができる。また、ステップ142では、最終的な各種データ(例えば、予測条件、摩耗量、発熱量などの熱エネルギ、破壊パラメータ、抗力)を出力してもよい。
【0103】
なお、上記ステップ142の予測結果の評価から、経時変化予測性能が良好であるか否かを判断する処理を追加してもよい。この判断は、亀裂の大きさや亀裂進展の速度値などの評価対象値をキーボードによる入力によってなされてもよくまた、許容範囲を予め定めておき、予測結果の最終評価が許容範囲内に存在するときに、予測性能が良好であると判断するようにしてもよい。
【0104】
これにより、経時変化予測の評価結果が、予め定めた目標に対して不十分であるときは、設計案を変更したり修正したりする、フィードバックが可能となる。
【0105】
このように、本実施の形態では、J積分などの各積分値を破壊パラメータとして、その値を、応力集中領域や亀裂先端付近の応力・歪場の値から求めている。一方、亀裂入りのゴム試験片による疲労試験から、亀裂速度と破壊パラメータとの関係を予め求めて、タイヤ内に発生する亀裂進展の速度を予測することで、タイヤモデルの経時変化を予測している。これによって、経時変化によるタイヤの寿命を予測することが容易となる。そして、この予測に際しての計算は、タイヤ全体形状を考慮するためのタイヤモデルと亀裂を考慮するためのローカルモデルとで、別個に実行しているので、タイヤモデルに補強コード及びその周辺の亀裂をモデル化して計算するのに比べて、計算負荷が著しく向上する。
【0106】
また、ゴムなどの弾性体は、時間の経過と共に硬化より弾性歪が変化し、時系列の変化によりクリーブ歪が加わる。そこで、本実施の形態では、弾性歪を時間の関数、クリープ歪を時間・応力・温度の関数として経時変化予測計算に付加している。なお、弾性歪を応力・時間の関数として経時変化予測計算に付加してもよい。これにより、亀裂先端の形状が時間の経過により丸みを帯び、応力の集中が緩和される効果を考慮することが容易となった。このクリープ歪を経時変化予測に加えることは、弾性体であるゴムの機械的性質の時系列変化を考慮することに対応する。
【0107】
また、本実施の形態では、予測計算を微小時間毎の時系列的な計算をしている。このため、走行中に進展する亀裂先端の破壊パラメータを計算することが可能になり、亀裂進展中の破壊パラメータの値を得ることができる。また、亀裂モデルを採用することで、亀裂面をタイヤモデルに付加することができ、亀裂面が重ならないように付与力(応力など)を付加して予測計算を行うことができる。このため、演算負荷が軽減する。
【0108】
また、本実施の形態では、歪エネルギーロスなどを基に各部材に生じる発熱計算を実行し、各部材間を伝導する熱を計算し、更にタイヤ外表面とタイヤ内部、及びタイヤ内側表面とタイヤ内側のリムとで作られた空間との熱のやり取りを考慮しているので、タイヤ各部の温度を容易に予測することができる。
【0109】
ところで、ゴムなどの弾性体は時間経過と共に脆くなる。これは、タイヤ内側やタイヤ外側から進入してくる酸素、水分、熱にさらされていることなどの寄与のため、亀裂を進ませようとする推進力に対する抵抗力(抗力)が時間経過と共に低下するためである。そこで、本実施の形態では、抗力について、温度、時間、応力、歪、弾性体の組成(ゴムの配合)の寄与が大きいという観点から、抗力について亀裂が進展していくゴム種について予め実験的に求めた特性を基にした考慮を実施した。これにより、亀裂進展の予測精度を向上することができる。この弾性体であるゴムの種類毎に経時変化予測することは、弾性体であるゴムの化学的性質の時系列変化を考慮することに対応する。
【0110】
本実施の形態では、タイヤの使用状態に応じた経時変化として、摩耗を考慮している。この摩耗量はトレッド表面の接地圧、タイヤの蹴り出し域でのタイヤの滑り量を計算により算出できる。このため、トレッド部の磨耗量を容易に予測でき、摩耗量に対応させてトレッド各部分の厚さを変化させることで、走行中のトレッド部の磨耗による形状変化を計算モデルに容易に反映することができる。
【実施例】
【0111】
以下、図面を参照して、本発明の実施例を詳細に説明する。本実施例はタイヤの性能予測に本発明を適用したものである。
【0112】
本実施例での荷重は標準荷重であり、標準荷重とは、下記規格に記載されている適用サイズにおける単輪の最大荷重(最大負荷能力)のことである。このときの内圧は下記規格に記載されている適用サイズにおける単輪の最大荷重(最大負荷能力)に対応する空気圧のことである。また、リムは下記規格に記載されている適用サイズにおける標準リム(または、"Approved Rim"、"Recommended Rim" )のことである。そして、規格とは、タイヤが生産又は使用される地域に有効な産業規格によって決められている。例えば、アメリカ合衆国では "The Tire and Rim Association Inc. の Year Book" で、欧州では"The European Tire and Rim Technical Organization の Standards Manual"で、日本では日本自動車タイヤ協会の"JATMA Year Book"にて規定されている。
【0113】
このタイヤをもとに性能予測のためのモデル化を行い、以下のパターンでのタイヤモデルの性能予測を行い、予測結果、実測結果を合わせて示した。なお、以下の実施例では、標準内圧に対して100%の内圧で、標準荷重に対して120%の荷重を付加した場合を実施したものである。
【0114】
なお、経時変化予測計算は、次の条件を採用している。
条件1:ゴムの機械的性質の時系列変化を考慮(ステップ110のクリープ歪)
条件2:亀裂進展を考慮(ステップ156〜162)
条件3:タイヤの内部温度を考慮(ステップ110〜114)
条件4:条件1に、さらに条件2を考慮
条件5:条件1に、さらに条件3を考慮
条件6:条件2に、さらに条件3を考慮
条件7:条件1と条件2と条件3の組み合わせ
条件8:条件1乃至条件7で、ベルト端の亀裂に対する予測
条件9:条件1乃至条件7で、プライ端の亀裂に対する予測
条件10:条件1乃至条件7で、ワイヤーチェーファー端の亀裂に対する予測
条件11:条件1乃至条件7で、ナイロンチェーファー端の亀裂に対する予測
条件12:条件1乃至条件7において、タイヤ幅方向のトレッド部ショルダー
付近位置のカーカスプライ沿いに生じる亀裂に対する予測
上記の条件の有無に対応して予測計算の結果を個別に取得した。
【0115】
(実施例1)
本実施例としてモデル化・試作したタイヤは、タイヤサイズは195/65R14であり、補強コード3本分のローカルモデルを採用して、室温38度、速度80km/hで走行した場合に、故障する場合を想定したものである。その結果として、実車に装着して故障までの走行距離の実測値に対する、上記実施の形態による経時変化予測計算による予測結果により得られた予測走行距離の割合を、次の表に示した。
【0116】
【表1】
【0117】
(実施例2)
本実施例としてモデル化・試作したタイヤは、タイヤサイズは1000R20であり、プライ端がワイヤーチェーファー端より高い構造のものを採用すると共に、補強コード3本分のローカルモデルを採用した。そして、室温35度、速度80km/hで10000km走行した場合に、3ベルト端、プライ端、ナイロンチェーファー端の各端部における亀裂の長さの実測値に対する、上記実施の形態による経時変化予測計算による予測結果により得られた予測亀裂長さの割合を、次の表に示した。
【0118】
【表2】
【0119】
(実施例3)
本実施例としてモデル化・試作したタイヤは、タイヤサイズは実施例2と同様であるが、ワイヤーチェーファー端がプライ端より高い構造のものを採用した。また、ワイヤーチェーファー端からの亀裂が律速であることを想定した。そして、実施例2と同容易の走行条件で走行した場合に、ワイヤーチェーファー端における亀裂の長さの実測値に対する、上記実施の形態による経時変化予測計算による予測結果により得られた予測亀裂長さの割合を、次の表に示した。
【0120】
【表3】
【0121】
(実施例4)
本実施例としてモデル化・試作したタイヤは、タイヤサイズは4000R57であり、補強コード3本分のローカルモデルを採用して、環境として、室温40度、速度8km/hで走行した場合に、4ベルト端・タイヤ幅方向のトレッド部ショルダー付近位置のカーカスプライ沿いに亀裂が生じる故障を想定したものである。その結果として、実写に装着して故障までの走行距離の実測値に対する、上記実施の形態による経時変化予測計算による予測結果により得られた予測走行距離の割合を、次の表に示した。
【0122】
【表4】
【0123】
以上の実施例から、実測値と予測値が近似していることが理解できる。
【0124】
このように、予測条件を選択することでタイヤの予測性能に差が生じており、条件採用の数に応じて予測結果に対する実測結果の一致性が向上することが理解される。従って、本発明の実施の形態のタイヤの経時変化予測は、タイヤの設計案の性能予測に有効であり、これを活用することによってタイヤ開発を効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明の実施の形態にかかる、タイヤの経時変化予測方法を実施するためのパーソナルコンピュータの概略図である。
【図2】本実施の形態にかかり、タイヤの経時変化予測プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】初期設定処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】タイヤ径方向断面モデルを示す斜視図である。
【図5】タイヤの3次元モデルを示す斜視図である。
【図6】ローカルモデルとして、亀裂先端の破壊パラメータを算出するための亀裂モデルを示すイメージ図である。
【図7】クリープ歪の関数化処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】ゴムの摩滅量の関数化処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】抗力の関数化処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】亀裂進展の関数化処理の流れを示すフローチャートである。
【図11】ゴム材料の各温度での破壊パラメータに対する亀裂進展速度の関係を示す特性図である。
【図12】ゴム材料の各温度での時間に対する材料の抗力の関係を示す特性図である。
【図13】応力分布算出処理の流れを示すフローチャートである。
【図14】応力分布を説明するためのイメージ図である。
【図15】ローカル解析処理の流れを示すフローチャートである。
【図16】亀裂先端の破壊パラメータを算出するための亀裂モデルを示すイメージ図である。
【図17】亀裂進展を説明するための亀裂モデルを示すイメージ図である。
【符号の説明】
【0126】
10 キーボード
12 コンピュータ本体
14 CRT
30 タイヤモデル
FD フレキシブルディスク(記録媒体)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の各ステップを含むタイヤ経時変化予測方法。
(a)複数の部品からなるタイヤを、変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したタイヤモデルと、前記タイヤモデルの少なくとも一部に付与するエネルギーモデルと、少なくとも1本のコードを含む前記タイヤの一部について変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したローカルモデルと、を定めるステップ。
(b)前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形計算を実行するステップ。
(c)前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形による変位を境界条件として前記ローカルモデルに付与するステップ。
(d)前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊の度合いを表す破壊パラメータの計算を含む応力及び歪の計算を実行するステップ。
(e)前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊に対する抵抗力の度合いを表す抗力計算を実行するステップ。
(f)前記ステップ(d)の応力及び歪の計算結果及び前記ステップ(e)の抗力計算結果の物理量に基づいてタイヤ経時変化を予測するステップ。
【請求項2】
前記エネルギーモデルは、前記タイヤモデルの少なくとも一部と接触する構造モデル、付与する熱エネルギーを表すモデル、経過時間を表すモデル、付与する荷重エネルギーを表すモデル、の少なくとも1つのモデルを含むことを特徴とする請求項1に記載のタイヤ経時変化予測方法。
【請求項3】
前記破壊パラメータは、歪み、応力、応力拡大係数、応力または歪の関数であるエネルギー開放率、J積分、C積分、T*積分の積分値の何れか1つを表す物理量であることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ経時変化予測方法。
【請求項4】
前記抗力は、前記部品の構成材料毎に定まると共に、少なくとも時間、温度及び応力の関数で定まる物理量であることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ経時変化予測方法。
【請求項5】
前記ステップ(a)では、前記エネルギーモデルによる少なくとも時間、温度及び応力で定まる物理量によるエネルギーと、前記抗力との予め求めた対応関係を前記部品の各々に定め、前記ステップ(e)では前記予め求めた対応関係に基づいて、前記抗力を計算することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ経時変化予測方法。
【請求項6】
前記ステップ(f)では、前記応力計算結果の物理量が前記抗力計算結果の物理量を越えるとき、前記タイヤ経時変化として、前記部位における破壊である亀裂発生または亀裂進展と予測することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ経時変化予測方法。
【請求項7】
前記ステップ(a)では、前記部品の各々について、亀裂入り試験片による疲労試験によって予め求めた温度及び破壊パラメータによる亀裂進展速度の特性を定め、前記ステップ(f)では前記特性に基づいて、亀裂進展速度を予測することを特徴とする請求項6に記載のタイヤ経時変化予測方法。
【請求項8】
前記予測結果の亀裂発生または亀裂進展に対応する亀裂モデルを生成しかつ生成した亀裂モデルに基づいて前記ローカルモデルを修正するステップ(g)をさらに含むことを特徴とする請求項6または請求項7に記載のタイヤ経時変化予測方法。
【請求項9】
前記ステップ(b)は、前記タイヤモデルの摩耗量を計算するステップ(h)、前記摩耗により生ずる熱エネルギーを計算すると共に前記タイヤモデルが熱平衡状態となるまで前記タイヤモデルの各部位における熱解析計算するステップ(i)、前記ステップ(h)で求めた摩耗量に基づいて前記タイヤモデルを修正するステップ(j)をさらに含み、前記ステップ(d)、(e)では、前記ステップ(i)の計算結果の温度に基づいて計算することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ経時変化予測方法。
【請求項10】
前記タイヤモデルの予め定めた部位は、ベルト端、プライ端、ワイヤーチェーファー端、ナイロンチェーファー端、及びタイヤ幅方向のトレッド部ショルダー付近のカーカスプライ周辺の少なくとも1つの部位を含むことを特徴とする請求項1に記載のタイヤ経時変化予測方法。
【請求項11】
複数の部品からなるタイヤを、変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したタイヤモデルと、前記タイヤモデルの少なくとも一部に付与するエネルギーモデルと、少なくとも1本のコードを含む前記タイヤの一部について変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したローカルモデルと、を定める設定手段と、
前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形計算を実行する変形計算手段と、
前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形による変位を境界条件として前記ローカルモデルに付与する付与手段と、
前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊の度合いを表す破壊パラメータの計算を含む応力及び歪の計算を実行する応力計算手段と、
前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊に対する抵抗力の度合いを表す抗力計算を実行する抗力計算手段と、
前記応力及び歪の計算結果及び前記抗力計算結果の物理量に基づいてタイヤ経時変化を予測する予測手段と、
を備えたタイヤ経時変化予測装置。
【請求項12】
コンピュータによって実行される、タイヤ経時変化を予測するためのタイヤ経時変化予測プログラムであって、
複数の部品からなるタイヤを、変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したタイヤモデルと、前記タイヤモデルの少なくとも一部に付与するエネルギーモデルと、少なくとも1本のコードを含む前記タイヤの一部について変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したローカルモデルと、を定めさせ、
前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形計算を実行させ、
前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形による変位を境界条件として前記ローカルモデルに付与させ、
前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊の度合いを表す破壊パラメータの計算を含む応力及び歪の計算を実行させ、
前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊に対する抵抗力の度合いを表す抗力計算を実行させ、
前記応力及び歪の計算結果及び前記抗力計算結果の物理量に基づいてタイヤ経時変化を予測させる、
ことを特徴とするタイヤ経時変化予測プログラム。
【請求項13】
コンピュータによってタイヤ経時変化を予測するためのタイヤ経時変化予測プログラムを記録した記録媒体であって、
複数の部品からなるタイヤを、変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したタイヤモデルと、前記タイヤモデルの少なくとも一部に付与するエネルギーモデルと、少なくとも1本のコードを含む前記タイヤの一部について変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したローカルモデルと、を定めさせ、
前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形計算を実行させ、
前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形による変位を境界条件として前記ローカルモデルに付与させ、
前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊の度合いを表す破壊パラメータの計算を含む応力及び歪の計算を実行させ、
前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊に対する抵抗力の度合いを表す抗力計算を実行させ、
前記応力及び歪の計算結果及び前記抗力計算結果の物理量に基づいてタイヤ経時変化を予測させる、
ことを特徴とするタイヤ経時変化予測プログラムを記録した記録媒体。
【請求項1】
次の各ステップを含むタイヤ経時変化予測方法。
(a)複数の部品からなるタイヤを、変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したタイヤモデルと、前記タイヤモデルの少なくとも一部に付与するエネルギーモデルと、少なくとも1本のコードを含む前記タイヤの一部について変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したローカルモデルと、を定めるステップ。
(b)前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形計算を実行するステップ。
(c)前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形による変位を境界条件として前記ローカルモデルに付与するステップ。
(d)前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊の度合いを表す破壊パラメータの計算を含む応力及び歪の計算を実行するステップ。
(e)前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊に対する抵抗力の度合いを表す抗力計算を実行するステップ。
(f)前記ステップ(d)の応力及び歪の計算結果及び前記ステップ(e)の抗力計算結果の物理量に基づいてタイヤ経時変化を予測するステップ。
【請求項2】
前記エネルギーモデルは、前記タイヤモデルの少なくとも一部と接触する構造モデル、付与する熱エネルギーを表すモデル、経過時間を表すモデル、付与する荷重エネルギーを表すモデル、の少なくとも1つのモデルを含むことを特徴とする請求項1に記載のタイヤ経時変化予測方法。
【請求項3】
前記破壊パラメータは、歪み、応力、応力拡大係数、応力または歪の関数であるエネルギー開放率、J積分、C積分、T*積分の積分値の何れか1つを表す物理量であることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ経時変化予測方法。
【請求項4】
前記抗力は、前記部品の構成材料毎に定まると共に、少なくとも時間、温度及び応力の関数で定まる物理量であることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ経時変化予測方法。
【請求項5】
前記ステップ(a)では、前記エネルギーモデルによる少なくとも時間、温度及び応力で定まる物理量によるエネルギーと、前記抗力との予め求めた対応関係を前記部品の各々に定め、前記ステップ(e)では前記予め求めた対応関係に基づいて、前記抗力を計算することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ経時変化予測方法。
【請求項6】
前記ステップ(f)では、前記応力計算結果の物理量が前記抗力計算結果の物理量を越えるとき、前記タイヤ経時変化として、前記部位における破壊である亀裂発生または亀裂進展と予測することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ経時変化予測方法。
【請求項7】
前記ステップ(a)では、前記部品の各々について、亀裂入り試験片による疲労試験によって予め求めた温度及び破壊パラメータによる亀裂進展速度の特性を定め、前記ステップ(f)では前記特性に基づいて、亀裂進展速度を予測することを特徴とする請求項6に記載のタイヤ経時変化予測方法。
【請求項8】
前記予測結果の亀裂発生または亀裂進展に対応する亀裂モデルを生成しかつ生成した亀裂モデルに基づいて前記ローカルモデルを修正するステップ(g)をさらに含むことを特徴とする請求項6または請求項7に記載のタイヤ経時変化予測方法。
【請求項9】
前記ステップ(b)は、前記タイヤモデルの摩耗量を計算するステップ(h)、前記摩耗により生ずる熱エネルギーを計算すると共に前記タイヤモデルが熱平衡状態となるまで前記タイヤモデルの各部位における熱解析計算するステップ(i)、前記ステップ(h)で求めた摩耗量に基づいて前記タイヤモデルを修正するステップ(j)をさらに含み、前記ステップ(d)、(e)では、前記ステップ(i)の計算結果の温度に基づいて計算することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ経時変化予測方法。
【請求項10】
前記タイヤモデルの予め定めた部位は、ベルト端、プライ端、ワイヤーチェーファー端、ナイロンチェーファー端、及びタイヤ幅方向のトレッド部ショルダー付近のカーカスプライ周辺の少なくとも1つの部位を含むことを特徴とする請求項1に記載のタイヤ経時変化予測方法。
【請求項11】
複数の部品からなるタイヤを、変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したタイヤモデルと、前記タイヤモデルの少なくとも一部に付与するエネルギーモデルと、少なくとも1本のコードを含む前記タイヤの一部について変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したローカルモデルと、を定める設定手段と、
前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形計算を実行する変形計算手段と、
前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形による変位を境界条件として前記ローカルモデルに付与する付与手段と、
前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊の度合いを表す破壊パラメータの計算を含む応力及び歪の計算を実行する応力計算手段と、
前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊に対する抵抗力の度合いを表す抗力計算を実行する抗力計算手段と、
前記応力及び歪の計算結果及び前記抗力計算結果の物理量に基づいてタイヤ経時変化を予測する予測手段と、
を備えたタイヤ経時変化予測装置。
【請求項12】
コンピュータによって実行される、タイヤ経時変化を予測するためのタイヤ経時変化予測プログラムであって、
複数の部品からなるタイヤを、変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したタイヤモデルと、前記タイヤモデルの少なくとも一部に付与するエネルギーモデルと、少なくとも1本のコードを含む前記タイヤの一部について変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したローカルモデルと、を定めさせ、
前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形計算を実行させ、
前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形による変位を境界条件として前記ローカルモデルに付与させ、
前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊の度合いを表す破壊パラメータの計算を含む応力及び歪の計算を実行させ、
前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊に対する抵抗力の度合いを表す抗力計算を実行させ、
前記応力及び歪の計算結果及び前記抗力計算結果の物理量に基づいてタイヤ経時変化を予測させる、
ことを特徴とするタイヤ経時変化予測プログラム。
【請求項13】
コンピュータによってタイヤ経時変化を予測するためのタイヤ経時変化予測プログラムを記録した記録媒体であって、
複数の部品からなるタイヤを、変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したタイヤモデルと、前記タイヤモデルの少なくとも一部に付与するエネルギーモデルと、少なくとも1本のコードを含む前記タイヤの一部について変形を与えることが可能なように多数要素に分割して形成したローカルモデルと、を定めさせ、
前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形計算を実行させ、
前記タイヤモデルへ前記エネルギーモデルによるエネルギーを付与したときの、前記タイヤモデルの変形による変位を境界条件として前記ローカルモデルに付与させ、
前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊の度合いを表す破壊パラメータの計算を含む応力及び歪の計算を実行させ、
前記境界条件が付与されたローカルモデルについて、予め定めた部位における破壊に対する抵抗力の度合いを表す抗力計算を実行させ、
前記応力及び歪の計算結果及び前記抗力計算結果の物理量に基づいてタイヤ経時変化を予測させる、
ことを特徴とするタイヤ経時変化予測プログラムを記録した記録媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2006−10378(P2006−10378A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184755(P2004−184755)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】
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