説明

タイヤ

【課題】特定構造の含水ケイ酸を含有する均一性に優れたゴムマスターバッチより得られたゴム組成物をタイヤ部材に用いた低発熱性、耐摩耗性、加工性に優れたタイヤタイヤを提供する。
【解決手段】ゴム溶液と、含水ケイ酸を含有する充填剤を予め液体に分散させたスラリー溶液とを混合する工程を含むゴムマスターバッチの製造方法により得られたゴム組成物であって、含水ケイ酸のセチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)(m/g)と音響式粒度分布測定によって求められる一次凝集体の直径の最頻値Aac(nm)とが下記式(I)
ac≧−0.76×(CTAB)+274・・・(I)
を満たすゴム組成物をタイヤ部材に用いたことを特徴とするタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低発熱性、耐摩耗性、加工性に優れたタイヤに関し、更に詳しくは、補強用充填剤として特定構造の含水ケイ酸を含有する均一性に優れたゴムマスターバッチより得られたゴム組成物をタイヤ部材に用いた低発熱性、耐摩耗性、加工性に優れたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム用補強充填剤としては、カーボンブラックが使用されている。これは、カーボンブラックがゴム組成物に高い耐摩耗性を付与し得るからである。近年、省資源、省エネルギーの社会的な要請に伴い、自動車の燃料消費節約を目的として、タイヤゴムの低発熱も同時に求められるようになってきた。カーボンブラックの単独使用で低発熱化を図ろうとする場合、カーボヘンブラックの充填量を減らす、あるいは、粒径の大きいものを使用することが考えられるが、いずれの場合も補強、耐摩耗性、湿潤路面でのグリップ性が低下するのを避けられないことが知られている。一方、低発熱性を向上させるために充填剤としてシリカが知られているが(例えば、特許文献1〜4)、シリカはその表面官能基であるシラノール基の水素結合により粒子同士が凝集する傾向にあり、また、シラノール基は親水性を有する−OH基のためにゴム分子とのぬれ性が良くなく、ゴム中へのシリカの分散は悪い。これをよくするためには混練時間を長くする必要がある。また、ゴム中へのシリカの分散が不十分なためゴム組成物のムーニー粘度が高くなり、押出しなどの加工性に劣るなどの欠点を有していた。さらに、シリカ粒子の表面が酸性であることから、ゴム組成物を加硫する際に、加硫促進剤として使用される塩基性物質を吸着し、加硫が十分行われず、弾性率が上がらないという欠点も有していた。
【0003】
これらの欠点を改良するために、シランカップリング剤が開発されたが、依然としてシリカの分散は十分なレベルには達しておらず、特に工業的に良好なシリカ粒子の分散を得ることは困難であった。そこで、疎水化剤で表面を処理したシリカを混練してシランカップリング剤の反応を促進することが行われている(特許文献1)。
【0004】
また、特許文献5には、疎水性沈降ケイ酸を用いることが開示されているが、完全疎水化処理した沈降ケイ酸を用いているので、シランカップリング剤が反応する表面シラノール基が存在しなくなるため、ゴムの補強が十分にとれないという欠点があった。さらに、低発熱性を高めるため、シリカを大粒径化することが行われているが、大粒径化することでシリカの比表面積が低下し、補強性が悪くなる。特許文献6には、特殊形状のシリカを用いることが開示されているが、ゴム組成物の低発熱性、耐摩耗性が十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−248116号公報
【特許文献2】特開平7−70369号公報
【特許文献3】特開平8−245838号公報
【特許文献4】特開平3−252431号公報
【特許文献5】特開平6−157825号公報
【特許文献6】特開2006−37046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑み、これを解消しようとするものであり、特殊な設備を必要とせず、均一性に優れた特定構造の含水ケイ酸を含有するゴムマスターバッチを用いたゴム組成物をタイヤ部材に用いることにより、耐摩耗性と低発熱性、加工性を共に大幅に改善したタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記従来技術の課題等について鋭意検討した結果、ゴム溶液と、特定構造の含水ケイ酸を含有する充填剤を予め液体に分散させたスラリー溶液とを混合する工程を含むゴムマスターバッチの製造方法により得られたゴム組成物をタイヤ部材に用いることにより、上記目的の、加工性にすぐれると共に、低発熱性が得られる一方、耐摩耗性、補強性が大幅に改善されたタイヤが得られることを見い出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(5)に存する。
(1) ゴム溶液と、含水ケイ酸を含有する充填剤を予め液体に分散させたスラリー溶液とを混合する工程を含むゴムマスターバッチの製造方法により得られたゴム組成物であって、含水ケイ酸のセチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)(m/g)と音響式粒度分布測定によって求められる一次凝集体の直径の最頻値Aac(nm)とが下記式(I)
ac≧−0.76×(CTAB)+274・・・(I)
を満たすゴム組成物をタイヤ部材に用いたことを特徴とするタイヤ。
(2) 含水ケイ酸が、その灼熱減量(750℃で3時間加熱した時の質量減少%)と加熱減量(105℃で2時間加熱した時の質量減少%)とが下記式(II)
(灼熱減量)−(加熱減量)≦3・・・(II)
を満たすことを特徴とする上記(1)に記載のタイヤ。
(3) 含水ケイ酸が、音響式粒度分布測定によって求められる一次凝集体の直径の最頻値が1μm以下であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のタイヤ。
(4) 含水ケイ酸が、CTABが50〜250m/gであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のタイヤ。
(5) ゴム成分100質量部に対して含水ケイ酸を10〜150質量部を配合してなることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載のタイヤ。
なお、本発明で使用する含水ケイ酸は、後述するように、ケイ酸ナトリウム等のケイ酸アルカリ塩水溶液を硫酸等の鉱酸で中和することにより含水ケイ酸を析出、沈殿させる方法、いわゆる沈殿法含水ケイ酸の製造方法に準じた方法により得られる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ゴム溶液と、特定構造の含水ケイ酸を含有する充填剤を予め液体に分散させたスラリー溶液とを混合する工程を含むゴムマスターバッチの製造方法により得られたゴム組成物をタイヤ部材に用いることにより、加工性に優れると共に、低燃費性、耐摩耗性及び耐破壊性に優れたタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】は、各実施例、各比較例で使用した含水ケイ酸のCTABとAacの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のタイヤは、ゴム溶液と、含水ケイ酸を含有する充填剤を予め液体に分散させたスラリー溶液とを混合する工程を含むゴムマスターバッチの製造方法により得られたゴム組成物であって、含水ケイ酸のセチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)(m/g)と音響式粒度分布測定によって求められる一次凝集体の直径の最頻値Aac(nm)とが下記式(I)
ac≧−0.76×(CTAB)+274・・・(I)
を満たすゴム組成物をタイヤ部材に用いたことを特徴とするものである。
上記混合工程は、特に限定されるものでないが、好ましくは、スタティックミキサー又はローターとステーター部とからなる高せん断ミキサーを用いて前記ゴム溶液と前記含水ケイ酸を含有する充填剤を予め液体に分散させたスラリー溶液とを混合することにより、特殊な設備を必要せず効率的に混合することができるものとなる。また、本発明におけるゴムマスターバッチは、上記方法で得られたものであって、均一性が非常に高く、加工性に優れるものである。
【0012】
上記混合工程で、例えば、スタティックミキサーを用いた場合、該スタティックミキサーは、駆動部を有さないため、混合液にせん断力がかかり難く、また、凝固が一部で開始したとしても、生成した凝固物が詰まりにくい構造であるため、良好な生産性を維持しつつ、均一に混合することができるものと考えられる。そのため、得られたゴムマスターバッチは、均一性に優れる。
【0013】
一方、上記混合工程で、例えば、高せん断ミキサーを用いた場合、ゴム溶液と充填剤スラリーとが一旦不均一に凝固しても、該凝固物が高いせん断力によって細かく引きちぎられるため、製造されるゴムマスターバッチは、全体としての均一性が向上するものと考えられる。
【0014】
本発明の製造法に用いるスタティックミキサーは、駆動部の無い静止型混合機であり、モーションレスミキサーとも呼ばれている。該スタティックミキサーにおいては、固定されたエレメントにより流体が順次撹拌混合され、エレメントを通過するごとに分散粒子径が小さくなる。該スタティックミキサーは、一般的な混合機であり、例えば、ノリタケカンパニーリミテッド社、米国TAH社、米国KOFLO社、特殊機化工業社等が提供する市販品を利用することができる。
【0015】
一方、本発明の製造法に用いる高せん断ミキサーは、回転するローターと固定されたステーター部とからなる。該高せん断ミキサーにおいては、高速で回転するローターと、固定されたステーター部が狭いクリアランスで配置されており、ローターの回転により高いせん断力が生み出される。ここで、高せん断とは、せん断速度が2000/s以上を指し、4000/s以上であるのが好ましい。該高せん断ミキサーとしては、市販品を利用することができ、例えば、特殊機化工業社製ホモミキサー、独国PUC社製コロイドミル、独国キャビトロン社及び英国シルバーソン社製ハイシアーミキサー等を好適に用いることができる。
【0016】
上記ゴム溶液としては、ゴム成分の微粒子を水に分散させたゴムラテックス、ゴム成分を有機溶媒に溶解させた溶液が挙げられる。ここで、ゴム成分としては、天然ゴム(NR)の他;スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)等の合成ジエン系ゴムが挙げられ、これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ゴム溶液中のゴム成分の濃度は、5〜60質量%が好ましく、10〜40質量%が更に好ましい。
【0017】
上記ゴム溶液としては、水系のゴムラテックスが好ましく、該ゴムラテックスの中でも天然ゴムラテックスが特に好ましい。本発明の方法によれば、凝固し易い天然ゴム等の水系ラテックスを用いても、上述の理由により、得られるゴムマスターバッチの均一性が高い。また、天然ゴムラテックスを用いた場合、得られるゴムマスターバッチは、機械的特性、低発熱性、耐摩耗性に優れる。
【0018】
上記天然ゴムラテックスは、該ラテックス中のアミド結合がプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)により分解されていても良い。天然ゴムラテックス中のアミド結合を分解することにより、アミド結合の水素結合による分子同士の絡み合いが抑制され、ゴムの粘度上昇が抑制され、加工性を向上させることができる。
【0019】
上記プロテアーゼは、天然ゴムラテックス粒子の表面層成分中に存在するアミド結合を加水分解する性質を有し、例えば、酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ等が挙げられる。本発明の製造方法においては、効果の点から、アルカリ性プロテアーゼが特に好ましい。
【0020】
プロテアーゼによってアミド結合の分解を行う場合、分解処理は、混合する酵素に適した条件で行えばよく、例えば、天然ゴムラテックスにノボザイムズ製アルカラーゼ2.5LタイプDXを混合する場合には、通常20〜80℃の範囲で処理するのが好ましい。この際、pHは、通常6.0〜12.0の範囲に調整される。また、プロテアーゼの添加量は、天然ゴムラテックスに対して、通常0.01〜2質量%、好ましくは0.02〜1質量%の範囲である。
【0021】
また、天然ゴムラテックスのアミド結合を分解する工程においては、さらに、ラテックスの安定性を向上させる目的で、界面活性剤を加えるのが好ましい。界面活性剤は、アニオン系、カチオン系、ノニオン系、両性界面活性剤を使用できるが、特にアニオン系、ノニオン系界面活性剤が好ましい。界面活性剤の添加量は、天然ゴムラテックスの性状に応じて適宜調整することができ、天然ゴムラテックスに対して、通常0.01〜2質量%、好ましくは0.02〜1質量%の範囲である。
【0022】
上記スラリー溶液は、充填剤を予め液体に分散させてなる。ここで、充填剤としては、本発明の効果を発揮するためには、後述する構造性の含水ケイ酸を用いることが必要であり、更に、カーボンブラック、及び/又は下記式(I)で表わされる無機充填剤を併用することができる。
【0023】
本発明で用いる構造性の含水ケイ酸は、シリカやカーボンブラックなどで一般に測定されている方法で測定した特性値が、次のよう関係を満たすことで確認できる。
即ち、セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)(m/g)と音響式粒度分布測定によって求められる一次凝集体の数の最頻値の直径Aac(nm)とが下記式(I)
ac≧−0.76×(CTAB)+274・・・(I)
を満たし、好ましくは灼熱減量(750℃で3時間加熱した時の質量減少%)と加熱減量(105℃で2時間加熱した時の質量減少%)とが下記式(II)
(灼熱減量)−(加熱減量)≦3・・・(II)
を満たす含水ケイ酸である。
【0024】
セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)は、含水ケイ酸表面に対するセチルトリメチルアンモニウムブロミドの吸着量から算出した含水ケイ酸の比表面積(m/g)である。
CTABの測定は、ASTM D3765−92記載の方法に準拠して行うことができる。ASTM D3765−92記載の方法は、カーボンブラックのCTABを測定する方法であるので、若干の修正を加える。即ち、カーボンブラックの標準品を使用せず、セチルトリメチルアンムニウムブロミド(以下、CE−TRABと略記する)標準液を調製し、これによって含水ケイ酸OT(ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)溶液の標定を行い、含水ケイ酸表面に対するCE−TRAB1分子当たりの吸着断面積を0.35nmとしてCE−TRABの吸着量から、比表面積を算出する。
【0025】
本発明で用いる含水ケイ酸は、CTABが50〜250m/g、好ましくは100〜200m/gであることが望ましい。CTABが50m/g未満であるとゴム組成物の貯蔵弾性率が著しく低下し、250m/gより大きいと未加硫時のゴム組成物の粘度が上昇するおそれがある。
【0026】
含水ケイ酸の粒子径として、音響式粒度分布測定装置によって測定した径(音響式粒度分布径)が構造性の発達の指標になる。含水ケイ酸の粒子は、微粒径の粒子が一次凝集したものと、僅かに二次凝集しているものも含んでいる。
音響式粒度分布測定装置による測定は、含水ケイ酸の0.01M KCl水溶液を超音波で5分間分散処理し、泡を除去して二次凝集体を破壊した後、測定する。含水ケイ酸の一次凝集体の粒径と粒子数の分布が得られ、このうち、最も頻度が多く現われた粒子の直径をAac(nm)とすると、
ac≧−0.76×(CTAB)+274・・・(I)
を満足するとき、ゴム組成物の低発熱性と耐摩耗性が共に改善される。Aacが、この条件を満たさない時、低発熱性と耐摩耗性のどちらか又は両方が低下する。さらに、Aacは、1μm以下であることが好ましい。1μmより大きいと含水ケイ酸が破壊核となり、ゴム組成物の力学的特性が損なわれる虞がある。
【0027】
さらに、本発明で用いる含水ケイ酸を加熱した時の質量の減少(%)と灼熱した時の質量減少(%)の差が、
(灼熱減量)−(加熱減量)≦3・・・(II)
であることが好ましい。
加熱減量及び灼熱減量は、JIS K6220−1ゴム用配合剤の試験方法に準じて行い、加熱減量は通常105±2℃で2時間加熱した時の質量の減少%、灼熱減量は通常750±25℃で3時間強熱した時の質量の減少%である。
【0028】
本発明で使用する含水ケイ酸は、沈殿法含水ケイ酸の製造方法に準じて製造される。例えば、予め一定量の温水を張り込んだ反応容器中に、pH、温度を制御しながらケイ酸ナトリウムおよび硫酸を入れ、一定時間添加して含水ケイ酸スラリーを得る。
続いて、該含水ケイ酸スラリーをフィルタープレス等のケーキ洗浄が可能なろ過機により濾別、洗浄して副生電解質を除去した後、得られた含水ケイ酸ケーキをスラリー化し、噴霧乾燥機等の乾燥機を用いて乾燥し製造される。
【0029】
本発明では、シランカップリング剤を用いることが好ましい。シランカップリング剤は含水ケイ酸表面に残存するシラノール基とゴム成分ポリマーと反応して、含水ケイ酸とゴムとの結合橋として作用し補強相を形成する。
本発明で用いられるシランカップリング剤は、好ましくは下記一般式で表される化合物よりなる群から選ばれた少なくとも一種である。
【0030】
3−mSi−(CH−S−(CH−SiA3−m・・・(III)
[式中、AはC2n+1O(nは1〜3の整数)又は塩素原子であり、Bは炭素数1〜3のアルキル基であり、mは1〜3の整数、aは1〜9の整数、bは1以上の整数で分布を有していてもよい。但し、mが1の時、2つのBは同一でも異なってもよく、mが2又は3の時、2つ又は3つのAは同一でも異なってもよい。]
【0031】
3−mSi−(CH−Y・・・(IV)
[式中、AはC2n+1O(nは1〜3の整数)又は塩素原子であり、Bは炭素数1〜3のアルキル基であり、Yはメルカプト基、ビニル基、アミノ基、グリシドキシ基又はエポキシ基であり、mは1〜3の整数、cは0〜9の整数である。但し、mが1の時、2つのBは同一でも異なってもよく、mが2又は3の時、2つ又は3つのAは同一でも異なってもよい。]
【0032】
3−mSi−(CH−S−Z・・・(V)
[式中、AはC2n+1O(nは1〜3の整数)又は塩素原子であり、Bは炭素数1〜3のアルキル基であり、Zはベンゾチアゾリル基、N,N−ジメチルチオカルバモイル基又はメタクリロイル基であり、mは1〜3の整数、aは1〜9の整数、bは1以上の整数で分布を有していてもよい。但し、mが1の時、2つのBは同一でも異なってもよく、mが2又は3の時、2つ又は3つのAは同一でも異なってもよい。]
【0033】
具体的には、一般式(III)で表されるシランカップリング剤としては、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス−(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス−(3−メチルジメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス−(3−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス−(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、
【0034】
一般式(IV)で表されるシランカップリング剤としては、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、
【0035】
一般式(V)で表されるシランカップリング剤としては、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリロイルモノスルフィドが挙げられる。
【0036】
シランカップリング剤の使用量は、含水ケイ酸の量に対して、1〜20質量%が好ましい。使用量が1質量%未満では、十分なカップリング効果が得られないことがあり、20質量%を超えると、ポリマーのゲル化を引き起こすことがある。
【0037】
本発明において、更に、SAF、HAF、ISAF、FEF、GPFなどの種々のカーボンブラックを用いることによって、マスターバッチより得られるゴム組成物の耐摩耗性を向上することができる。
カーボンブラックの使用量は、好ましくはゴム成分100質量部に対して80質量部以下で、カーボンブラックと含水ケイ酸を合わせた総配合量が120質量部以下であることが好ましい。総配合量をゴム成分100質量部に対して120質量部以下とすることで、低発熱性及び耐摩耗性を十分に向上させることができる。
【0038】
また、無機充填剤としては、下記式(VI):
nM・xSiO・zHO ……(VI)
(式中、Mは、アルミニウム,マグネシウム,チタン,カルシウム及びジルコニウムからなる群から選ばれる金属、これらの金属の酸化物又は水酸化物、及びそれらの水和物、またはこれらの金属の炭酸塩から選ばれる少なくとも一種であり、n、x、y及びzは、それぞれ1〜5の整数、0〜10の整数、2〜5の整数、及び0〜10の整数である)で表わされるものを、本発明の効果を損なわない範囲で更に併用することができる。
上記式(VI)の無機充填剤としては、γ−アルミナ、α−アルミナ等のアルミナ(Al)、ベーマイト、ダイアスポア等のアルミナ一水和物(Al・HO)、ギブサイト、バイヤライト等の水酸化アルミニウム[Al(OH)]、炭酸アルミニウム[Al(CO]、水酸化マグネシウム[Mg(OH)]、酸化マグネシウム(MgO)、炭酸マグネシウム(MgCO)、タルク(3MgO・4SiO・HO)、アタパルジャイト(5MgO・8SiO・9HO)、チタン白(TiO)、チタン黒(TiO2n−1)、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム[Ca(OH)]、酸化アルミニウムマグネシウム(MgO・Al)、クレー(Al・2SiO)、カオリン(Al・2SiO・2HO)、パイロフィライト(Al・4SiO・HO)、ベントナイト(Al・4SiO・2HO)、ケイ酸アルミニウム(AlSiO、Al・3SiO・5HO等)、ケイ酸マグネシウム(MgSiO、MgSiO等)、ケイ酸カルシウム(CaSiO等)、ケイ酸アルミニウムカルシウム(Al・CaO・2SiO等)、ケイ酸マグネシウムカルシウム(CaMgSiO)、炭酸カルシウム(CaCO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、水酸化ジルコニウム[ZrO(OH)・nHO]、炭酸ジルコニウム[Zr(CO]、各種ゼオライトのように電荷を補正する水素、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む結晶性アルミノケイ酸塩等が挙げられる。これら充填剤は、一種単独で用いてもよいし、2種以上のものを混合して用いてもよい。
【0039】
上記構造性の含水ケイ酸を含有する充填剤を予め液体に分散させたスラリー溶液の製造には、公知の方法を用いることができ、特に限定されない。例えば、ホモミキサーに所定量の充填剤と水を入れ、一定時間撹拌することで、スラリー溶液を調製することができる。また、上記スラリー溶液の製造には、ローター・ステータータイプのハイシアーミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル等を用いてもよく、例えば、コロイドミルに所定量の充填剤と水を入れ、高速で一定時間撹拌することで、上記スラリー溶液を調製することができる。ここで、該スラリー溶液中の充填剤の濃度は、0.5〜60質量%が好ましく、1〜30質量%が更に好ましい。
また、上記充填剤(上記構造性の含水ケイ酸単独、または、これとカーボンブラック及び/又は無機充填剤との併用)の使用量は、上記ゴム成分100質量部に対して、10〜150質量部配合されるのが好ましく、10〜70質量部配合されるのが更に好ましい。充填材の配合量が10質量部未満では、本発明の効果を発揮することができず、150質量部を超えると加工性が悪化する場合がある。
【0040】
本発明におけるマスターバッチの製造方法では、上記ゴム溶液と上記構造性の含水ケイ酸を含有する充填剤スラリー溶液とを混合した後、該混合物を凝固させる。ここで、凝固法としては、混合物に凝固剤を加えて固形化する方法が挙げられる。但し、ゴム溶液とスラリー溶液との混合により固形化がなされる場合もあり、この場合には凝固剤の添加は、必ずしも必要ではない。ここで、凝固剤としては、特に限定されるものではないが、ギ酸、硫酸等の酸や、塩化ナトリウム等の塩が挙げられる。ゴム溶液として、水系のゴムラッテックスを用いた場合、得られる凝固物は、含水率が通常5〜40質量%であり、乾燥してゴム組成物等に用いられる。
【0041】
上記ゴムマスターバッチには、所望に応じて、界面活性剤、加硫剤、老化防止剤、着色剤、分散剤等の添加剤を加えることができる。これら添加剤は、ゴム溶液とスラリー溶液との混合前に、ゴム溶液及びスラリー溶液の少なくとも一方に添加するのが好ましい。
【0042】
本発明では、上記ゴムマスターバッチの製造方法において、最終工程として、通常、乾燥が行われる。乾燥には、真空乾燥機、エアドライヤー、ドラムドライヤー、バンドドライヤー等の通常の乾燥機を用いることができるが、充填剤の分散性及び均一性を更に向上させるためには、機械的なせん断力をかけながら乾燥を行うのが好ましい。機械的なせん断力をかけながら乾燥することにより、加工性、補強性、低燃費性に優れたゴムを得ることができる。この乾燥は、一般的な混練機を用いて行うことができるが、工業的生産性の観点から、スクリュー型連続混練機を用いるのが好ましく、同方向回転、あるいは異方向回転の2軸混練押出機を用いるのが更に好ましい。該スクリュー型連続混練機しては、市販品を利用することができ、例えば、神戸製鋼製2軸混練押出機等を用いることができる。
【0043】
本発明で得られるゴム組成物は、上記の方法で得られたゴムマスターバッチを配合してなるものである。上記ゴムマスターバッチが均一性、加工性に優れるため、本発明のゴム組成物は均一性、加工性に優れる。
本発明で得られるゴム組成物には、必要に応じて、ゴム工業で通常使用される配合剤、例えば、他の補強性充填剤、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、軟化剤等を適宜配合することができる。
【0044】
本発明のタイヤは、上記ゴムマスターバッチの製造方法で得られたゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いたことを特徴とする。ここで、本発明のタイヤにおいては、上記ゴム組成物をトレッドゴムに用いることが特に好ましく、上記ゴム組成物をトレッドに用いたタイヤは、上記変性天然ゴムと上記構造性含水ケイ酸との相乗効果により、加工性に優れると共に、低発熱性であるため転がり抵抗が低く、耐摩耗性に優れるものとなる。本発明のタイヤに充填する気体としては、通常の又は酸素分圧を変えた空気、又は窒素等の不活性ガスも使用できる。
【実施例】
【0045】
次に、含水ケイ酸の製造例、ゴムマスターバッチの製造例1(実施例1〜7、比較例3,4)及びゴムマスターバッチの製造例2(比較例1〜2、比較例5〜11)により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら限定されるものではない。
また、含水ケイ酸の物性、ゴムマスターバッチの各製造例(実施例及び比較例)で得られたゴム組成物の加工性、並びに、タイヤ性能(転がり抵抗、耐摩耗性)を下記の方法により測定、評価した。
【0046】
含水ケイ酸の物性
(1)音響式粒度分布径の測定
各含水ケイ酸の0.01M KCl水溶液を超音波で5分間分散処理し、泡を除去した後、超音波式粒度分布測定装置DT1200(Dispertion Technology社製)を用いて、含水ケイ酸の1次凝集体の直径の最頻値Aac(nm)を測定した。
【0047】
(2)CTABの測定
ASTM D3765−92記載の方法に準拠して実施した。ASTM D3765−92記載の方法は、カーボンブラックのCTABを測定する方法であるので、若干の修正を加えた。すなわち、カーボンブラックの標準品であるIRB#3(83.0m/g)を使用せず、別途セチルトリメチルアンムニウムブロミド(以下、CE−TRABと略記する)標準液を調製し、これによって含水ケイ酸OT(ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)溶液の標定を行い、含水ケイ酸表面に対するCE−TRAB1分子当たりの吸着断面積を0.35nmとしてCE−TRABの吸着量から、比表面積(m/g)を算出した。これは、カーボンブラックと含水ケイ酸とでは表面が異なるので、同一表面積でもCE−TRABの吸着量に違いがあると考えられるからである。
【0048】
(3)加熱減量及び灼熱減量の測定
含水ケイ酸サンプルを秤量し、加熱減量の場合は105±2℃でサンプルを2時間加熱し、灼熱減量の場合は750±25℃でサンプルを3時間加熱した後、質量を測定し、加熱前のサンプル質量との差を加熱前の質量に対して%で表した。
【0049】
(4)タイヤの転がり抵抗
タイヤサイズ185/70R14の空気入りタイヤに170kPaの内圧を充填したあと、395kgの荷重を負荷しながら、大型試験ドラム上を時速80km/hで所定時間走行させ、次に前記ドラムの駆動力を遮断して、タイヤを慣性走行させ、この時のタイヤの減速度から転がり抵抗を求め、比較例を100として指数表示した。指数が大きい程、転がり抵抗が小さく好ましい。
【0050】
(5)タイヤの耐摩耗性
タイヤの転がり抵抗の評価に用いたのと同様のタイヤにて国内一般市街地を10,000km走行させた時の残溝深さより求めた。比較例を100として指数により表示した。指数が大きい程、耐摩耗性が良好である。
【0051】
(6)加工性
JIS K6300−1994に従い、Lローターを使用して、予熱1分、ローター作動時間4分、温度130℃の条件でムーニー粘度(ML1+4、130℃)を測定し、比較例1を100として指数で表示した。この値が大きい程、加工性が悪いことを示す。
【0052】
含水ケイ酸の製造
製造例A
攪拌機を備えた容量180Lのジャケット付ステンレス製反応槽に、水93Lとケイ酸ナトリウム水溶液(SiO 160g/L、SiO/NaOモル比3.3)0.6Lを入れ96℃に加熱した。得られた溶液中のNaO濃度は、0.005mol/Lであった。
この溶液の温度を96℃に維持しながら、上記と同じケイ酸ナトリウム水溶液を540ml/分、硫酸(18mol/L)を24ml/分の流量で同時に滴下した。流量を調整しながら、反応溶液中のNaO濃度を0.00〜0.01mol/Lの範囲に維持して中和反応を行なった。反応途中から白濁をはじめ、47分目に粘度が上昇してゲル状溶液となった。さらに添加を続けて90分で反応を停止した。反応停止後、反応液温度を96℃に30分間維持した。生じた溶液中のシリカ濃度は55g/Lであった。引き続いて、上記濃度の硫酸を溶液のpHが3になるまで添加してケイ酸スラリーを得た。得られたケイ酸スラリーをフィルタープレスで濾過、水洗を行なって湿潤ケーキを得た。次いで、湿潤ケーキを乳化装置を用いてスラリーとして、噴霧式乾燥機で乾燥して湿式法含水ケイ酸Aを得た。
【0053】
製造例B
製造例Aと同じ容器および原料を使用し、水93Lとケイ酸ナトリウム水溶液0.6Lを入れ、90℃に加熱した。得られた溶液中のNaO濃度は0.005mol/Lであった。
この溶液の温度を90℃に維持しながら、上記と同じケイ酸ナトリウム水溶液を540ml/分、硫酸(18mol/L)を24ml/分の流量で同時に滴下した。流量を調整しながら、反応溶液中のNaO濃度を0.00〜0.01mol/Lの範囲に維持して中和反応を行なった。反応途中から白濁をはじめ、47分目に粘度が上昇してゲル状溶液となった。さらに添加を続けて90分で反応を停止した。反応停止後、反応液温度を90℃に30分間維持した。生じた溶液中のシリカ濃度は55g/Lであった。引き続いて、上記濃度の硫酸を溶液のpHが3になるまで添加してケイ酸スラリーを得た。以下製造例Aと同様な方法で湿式法含水ケイ酸Bを得た。
【0054】
製造例C
製造例Aと同じ容器および原料を使用し、水93Lとケイ酸ナトリウム水溶液0.6Lを入れ、84℃に加熱した。得られた溶液中のNaO濃度は0.005mol/Lであった。
この溶液の温度を84℃に維持しながら、上記と同じケイ酸ナトリウム水溶液を540ml/分、硫酸(18mol/L)を24ml/分の流量で同時に滴下した。流量を調整しながら、反応溶液中のNaO濃度を0.00〜0.01mol/Lの範囲に維持して中和反応を行なった。反応途中から白濁をはじめ、48分目に粘度が上昇してゲル状溶液となった。さらに添加を続けて90分で反応を停止した。反応停止後、反応液温度を84℃に30分間維持した。生じた溶液中のシリカ濃度は55g/Lであった。引き続いて、上記濃度の硫酸を溶液のpHが3になるまで添加してケイ酸スラリーを得た。以下製造例Aと同様な方法で湿式法含水ケイ酸Cを得た。
【0055】
製造例D
製造例Aと同じ容器および原料を使用し、水93Lとケイ酸ナトリウム水溶液0.6Lを入れ、90℃に加熱した。得られた溶液中のNaO濃度は0.005mol/Lであった。
この溶液の温度を90℃に維持しながら、上記と同じケイ酸ナトリウム水溶液を540ml/分、硫酸(18mol/L)を24ml/分の流量で同時に滴下した。流量を調整しながら、反応溶液中のNaO濃度を0.00〜0.01mol/Lの範囲に維持して中和反応を行なった。反応途中から白濁をはじめ、47分目に粘度が上昇してゲル状溶液となった。さらに添加を続けて90分で反応を停止した。反応停止後、反応液温度を90℃に60分間維持した。生じた溶液中のシリカ濃度は55g/Lであった。引き続いて、上記濃度の硫酸を溶液のpHが3になるまで添加してケイ酸スラリーを得た。以下製造例Aと同様な方法で湿式法含水ケイ酸Dを得た。
【0056】
製造例E
製造例Aと同じ容器および原料を使用し、水93Lとケイ酸ナトリウム水溶液0.6Lを入れ、78℃に加熱した。得られた溶液中のNaO濃度は0.005mol/Lであった。
この溶液の温度を78℃に維持しながら、上記と同じケイ酸ナトリウム水溶液を540ml/分、硫酸(18mol/L)を24ml/分の流量で同時に滴下した。流量を調整しながら、反応溶液中のNaO濃度を0.00〜0.01mol/Lの範囲に維持して中和反応を行なった。反応途中から白濁をはじめ、49分目に粘度が上昇してゲル状溶液となった。さらに添加を続けて90分で反応を停止した。反応停止後、反応液温度を78℃に60分間維持した。生じた溶液中のシリカ濃度は55g/Lであった。引き続いて、上記濃度の硫酸を溶液のpHが3になるまで添加してケイ酸スラリーを得た。以下製造例Aと同様な方法で湿式法含水ケイ酸Eを得た。
【0057】
製造例F
製造例Aと同じ容器および原料を使用し、水93Lとケイ酸ナトリウム水溶液0.6Lを入れ、65℃に加熱した。得られた溶液中のNaO濃度は0.005mol/Lであった。
この溶液の温度を65℃に維持しながら、上記と同じケイ酸ナトリウム水溶液を540ml/分、硫酸(18mol/L)を24ml/分の流量で同時に滴下した。流量を調整しながら、反応溶液中のNaO濃度を0.00〜0.01mol/Lの範囲に維持して中和反応を行なった。反応途中から反応溶液は白濁をはじめ、50分目に粘度が上昇してゲル状溶液となった。さらに添加を続けて90分で反応を停止した。反応停止後、反応液温度を65℃に60分間維持した。生じた溶液中のシリカ濃度は55g/Lであった。引き続いて、上記濃度の硫酸を溶液のpHが3になるまで添加してケイ酸スラリーを得た。以下製造例Aと同様な方法で湿式法含水ケイ酸Fを得た。
【0058】
製造例G
製造例Aと同じ容器および原料を使用し、水86Lとケイ酸ナトリウム水溶液0.5Lを入れ、96℃に加熱した。得られた溶液中のNaO濃度は0.005mol/Lであった。
この溶液の温度を96℃に維持しながら、上記と同じケイ酸ナトリウム水溶液を615ml/分、硫酸(18mol/L)を27ml/分の流量で同時に滴下した。流量を調整しながら、反応溶液中のNaO濃度を0.00〜0.01mol/Lの範囲に維持して中和反応を行なった。反応途中から反応溶液は白濁をはじめ、40分目に粘度が上昇してゲル状溶液となった。さらに添加を続けて90分で反応を停止した。反応停止後、反応液温度を96℃に30分間維持した。生じた溶液中のシリカ濃度は62g/Lであった。引き続いて、上記濃度の硫酸を溶液のpHが3になるまで添加してケイ酸スラリーを得た。以下製造例Aと同様な方法で湿式法含水ケイ酸Gを得た。
【0059】
ゴムマスターバッチの製造例1(実施例1〜7、比較例3,4)
(実施例1〜7)
対照のウェットマスターバッチ(WMB)を以下のとおり調製した。
(i)スラリー液の調製
水中に含水ケイ酸を4.0質量%、カーボンブラック(N339)を1.0質量%の割合で入れ、シルバーソン社製ハイシアーミキサーにて微分散させてスラリー液を作製した。
含水ケイ酸はそれぞれ上記製造例A〜Gで製造した含水ケイ酸A〜Gを使用した。
【0060】
(ii)ウェットマスターバッチの調製
上記(i)で作製したスラリー液3kgと、10質量%に希釈した天然ゴム濃縮ラテックス3kgとを攪拌しながら混合した後、これをギ酸にてpH4.7に調整して凝固させた。この凝固物を充分に洗浄してウェット凝固物900gを得た。その後、計量カップに60g(固形分30g)ずつ量り取ったウェット凝固物を1分間隔で、神戸製鋼社製二軸連続混練機「KTX−30」に投入し、ウェットマスターバッチを作製した。
ここで、作製したウェットマスターバッチを用いて、配合1に示す種類と量のゴム成分及び配合剤からなるゴム組成物を常法により調製した。
【0061】
(比較例3、4)
用いた含水ケイ酸が比較例3においては東ソー・シリカ社製Nipsil AQ、比較例4ではデグサ社製ULTRASIL VN2である以外は、上記実施例1〜7と同様にしてゴム組成物を調製した。
【0062】
ゴムマスターバッチの製造例2(比較例1〜2、比較例5〜11)
比較例1においては、東ソー・シリカ社製Nipsil AQ、比較例2においては、デグサ社製ULTRASIL VN2、比較例5〜11においては、それぞれ上記製造例で製造した含水ケイ酸A〜Gを用いて、配合2に示す種類と量のゴム成分及び配合剤からなるゴム組成物を常法により調製した。
各実施例、比較例において、示したゴム組成物の加工性を上記の方法で評価した。また、各ゴム組成物をトレッドに適用したサイズ:185/70R14のタイヤを常法に従って試作し、上記の方法でタイヤの転がり抵抗、耐摩耗性を評価した。これらの結果を、用いた配合1、2(配合表)、原材料表、使用した含水ケイ酸の物性と共に、下記表1〜表5に示す。
【0063】
【表1】

上記表1中の*1〜*6は、下記のとおりである。
*1:シーストKH(N339)〔東海カーボン社製〕
*2:含水ケイ酸の製造例A〜Gに記載
*3:シランカップリング剤Si75〔Degussa社製〕
*4:N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン
*5:ジフェニルグアニジン
*6:N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド
【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
【表4】

【0067】
【表5】

【0068】
図1に実施例、比較例で使用した含水ケイ酸のCTABと音響式粒度分布径Aacの関係をグラフで示す。実施例で用いた含水ケイ酸は、AacがY(Aac)=−0.76×(CTAB)+274の直線より上にあって、前記の式(I)を満たしているのに対して、比較例1、2で使用した含水ケイ酸は、Aacが小さいことが分かる。また、表2から各実施例の含水ケイ酸は、灼熱減量と加熱減量の差が前記式(II)をも満たしている。
上記表4及び表5の結果から明らかなように、本発明の条件を充足する含水ケイ酸を用いたゴムウェットマスターバッチで得られたゴム組成物をタイヤ部材となるタイヤトレッド部に使用することで、加工性、低発熱性と耐摩耗性が高度に両立したタイヤが得られることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム溶液と、含水ケイ酸を含有する充填剤を予め液体に分散させたスラリー溶液とを混合する工程を含むゴムマスターバッチの製造方法により得られたゴム組成物であって、含水ケイ酸のセチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)(m/g)と音響式粒度分布測定によって求められる一次凝集体の直径の最頻値Aac(nm)とが下記式(I)
ac≧−0.76×(CTAB)+274 ・・・(I)
を満たすゴム組成物をタイヤ部材に用いたことを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
含水ケイ酸が、その灼熱減量(750℃で3時間加熱した時の質量減少%)と加熱減量(105℃で2時間加熱した時の質量減少%)とが下記式(II)
(灼熱減量)−(加熱減量)≦3 ・・・(II)
を満たすことを特徴とする請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
含水ケイ酸が、音響式粒度分布測定によって求められる一次凝集体の直径の最頻値が1μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項4】
含水ケイ酸が、CTABが50〜250m/gであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項5】
ゴム成分100質量部に対して含水ケイ酸を10〜150質量部を配合してなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2011−26380(P2011−26380A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170933(P2009−170933)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】