説明

タイル貼着構造、タイル貼着方法、及び壁下地のシーリング目地補修方法

【課題】壁の入隅部分や、壁面に突設されるサッシ枠その他の付帯設備と壁下地との隙間にシーリング目地を形成する場合、シーリング目地に近接するタイルを剥がしてシーリング目地を容易に補修できるタイルの貼着構造と貼着方法、及びシーリング目地補修方法を提供する。
【解決手段】入隅のシーリング目地50に近接する壁下地(下地パネル1a、1b)の表面に、導電性を有する薄帯体8を、シーリング目地50に沿って連続するように貼着しておき、その表面に、熱可塑性或いは熱剥離性を有する接着剤60を塗布してタイル7を貼着する。タイル7の表面側から電磁誘導加熱により薄帯体8を加熱すると、薄帯体8の表面に塗布された接着剤60の接着力が低下して、シーリング目地50に干渉するタイル7だけを容易に剥ぎ取ることが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁下地の表面にタイルを貼着して壁面を仕上げる場合のタイル貼着構造及びタイル貼着方法、並びに、表面にタイルが貼着される壁下地のシーリング目地補修方法に関する。より詳細には、壁下地の入隅部分にシーリング目地を形成したり、壁面から突出するように設置されるサッシ枠その他の付帯設備と壁下地との隙間にシーリング目地を形成したりする場合、該シーリング目地に沿ってタイルを貼着するのに好適なタイル貼着構造及びタイル貼着方法、並びに壁下地のシーリング目地補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、特許文献1において、ユニット化された下地パネルを建物躯体に建て込んで外壁下地となし、その表面に接着剤を介して外装用のタイルを貼着する外壁構造を提案している。その外壁構造の概要を図8に示す。
【0003】
外壁下地は、予め工場で所定寸法に成形された外壁用の各種サイディングや各種セメント板、或いはコンクリート板等からなる下地パネル1によって構成される。下地パネル1の裏面には取付枠2が取り付けられ、この取付枠2に適宜の取付金具を掛着させることにより、下地パネル1が建物の躯体軸組3に取り付けられる。建て込まれた下地パネル1の目地部分には、バックアップ材4及びシーリング材5を充填してシーリング目地が形成される。そして、前記シーリング目地を含む下地パネル1の表面全体に、例えば1液性エポキシ変性シリコーン系接着剤などの弾性接着剤6が櫛引き状に塗布されて、その上にタイル7が貼着される。
【0004】
下地パネル1のシーリング目地はタイル7の目地よりも幅が広く、かつ下地パネル1のシーリング目地とタイル7の目地とは質感や光沢も異なるが、こうして、下地パネル1のシーリング目地をタイル7によって隠してしまうと、タイル7の目地割が下地パネル1の目地によって分断されずに連続する。これにより、タイル7の質感が十分に強調された、高級感のある外壁の意匠が得られることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−317181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のような外壁構造において、外壁が入隅を形成する部位にあっては、図9に示すように、平面視略T字形に配置される2枚の下地パネル1(1a、1b)のうち、一方の下地パネル1aの表面と、他方の下地パネル1bの端面との間にシーリング目地50が施工される。この場合、両下地パネル1a、1bの表面に貼着されるタイル7(7a、7b)を入隅角部に近接させると、少なくともシーリング目地50の目地幅方向と直交する下地面(下地パネル1aの表面)に貼設されるタイル7aの端面が、シーリング目地50の正面(見付面)に被さってしまう。
【0007】
また、図10に示すように、外壁下地を構成する下地パネル1cに、サッシ枠その他の付帯設備20を設置するに際して、該設備20の一部が下地パネル1の表面よりも屋外側(図示下側)に突出する場合がある。この場合、下地パネル1cの表面と該設備20との隙間にシーリング目地50が形成される。図示のようなサッシ枠以外にも、例えば庇パネル、シャッターボックス、換気フード、バルコニーやパラペットの笠木等が、外壁下地の屋外側に突出する付帯設備20の例として挙げられる。このような場合も、タイル7cをシーリング目地50に近接させて貼着すると、シーリング目地50の正面にタイル7cの端面が被さることとなる。
【0008】
ところで、建物に地震等の外力が作用すると、建物躯体の揺れが外壁下地のシーリング目地を変形させて、シーリング目地が損傷する。地震のような大きな外力を受けない場合でも、外壁下地のシーリング目地には経年劣化が生じる。かかる事情から、通常は15年ほどの周期で、外壁下地のシーリング目地を補修する必要が生じる。
【0009】
シーリング目地の補修に際しては、まず、カッターナイフ等を用いて、シーリング目地に充填されている古いシーリング材を切除する。このとき、新たに施工するシーリング目地の水密性を保てるよう、カッターナイフの刃先を外壁下地の表面と平行にして、切除面が平滑になるようにシーリング材を切除するのが望ましい。しかし、図9に示したように、シーリング目地50の正面にタイル7aが被さっていると、カッターナイフ51の刃先がシーリング目地50に届かなかったり、届いたとしても刃先を外壁下地の表面と平行にできなかったりする。かといって、予めタイル7aをシーリング目地50から遠ざけて貼着しておくのは、タイル7aの目地幅が広くなりすぎるので美観上、好ましくない。
【0010】
結局のところ、この種のシーリング目地を補修するには、シーリング目地に近接するタイルを一旦、外壁下地から剥がさなければならないが、タイルを剥がすのは容易でなく、シーリング目地の補修には多大な手間がかかってしまうことになる。
【0011】
そこで、本発明は、外壁下地の入隅部分や、外壁から屋外側に突出するサッシ枠その他の付帯設備と外壁下地との隙間にシーリング目地を形成して、該シーリング目地の直近にタイルを貼着する前述のような外壁構造において、シーリング目地を補修する必要が生じたとき、その補修作業を迅速かつ容易に行うことができるタイルの貼着構造と貼着方法、及び該貼着構造を利用した壁下地のシーリング目地補修方法を提供するものである。
【0012】
なお、本発明は、主として外装用のタイルによる外壁仕上げを想定したものであるが、外壁下地の種類は前述のような下地パネルに限定されるものではなく、例えば鉄筋コンクリート躯体のように一定のボリュームで連続する構造体であっても適用可能である。また、表面にタイルが貼着される壁面であれば屋内外を問わずに適用可能であり、床面や傾斜屋根面のような非垂直面にも適用可能である。よって、本発明は、その適用対象を、外壁だけに限定しない「壁下地」と定める。
【0013】
また、本発明における「タイル」とは、比較的小さいサイズに形成されて、適宜の下地面に貼着される、薄板状の化粧材を総称した概念である。したがって、その材質は必ずしも陶磁器質のものには限定されず、例えば、天然石材や人造石材、木質材や合成樹脂その他の有機質材料、金属材料、或いはそれらの複合材料等からなる薄板状の化粧材も、本発明の「タイル」に包含されるものとする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した目的を達成するため、本発明のタイル貼着構造は、壁下地の入隅部分に形成される隙間にシーリング目地が形成され、該シーリング目地に近接させて前記壁下地の表面にタイルが貼着されるタイル貼着構造において、前記シーリング目地に近接する前記壁下地の表面に、導電性を有する薄帯体が、前記シーリング目地に沿って連続するように貼着され、前記薄帯体を含む壁下地の表面に、常温で接着作業性を有し、かつ、加熱によって接着力を低減させる接着剤が塗布され、該接着剤を介して、前記薄帯体を含む壁下地の表面にタイルが貼着されたことを特徴とする。
【0015】
或いはまた、本発明のタイル貼着構造は、少なくとも一部が壁面から突出するようにして壁下地に取り付けられるサッシ枠その他の付帯設備と該壁下地との隙間にシーリング目地が形成され、該シーリング目地に近接させて前記壁下地の表面にタイルが貼着されるタイル貼着構造において、前記シーリング目地に近接する前記壁下地の表面に、導電性を有する薄帯体が、前記シーリング目地に沿って連続するように貼着され、前記薄帯体を含む壁下地の表面に、常温で接着作業性を有し、かつ、加熱によって接着力を低減させる接着剤が塗布され、該接着剤を介して、前記薄帯体を含む壁下地の表面にタイルが貼着されたことを特徴とする。
【0016】
これらのタイル貼着構造における薄帯体は、壁下地のシーリング目地補修方法として後述するように、電磁誘導加熱(高周波加熱)を利用してそれ自体を昇温させるための部材である。電磁誘導加熱とは、コイルに交流電流を流すと磁界(磁束密度)の変化が生じ、その磁界内に置いた導電性物質に渦電流が発生して、その抵抗により導電性物質自体が発熱する原理を利用した加熱方式である。この加熱方式は、電磁調理器(IHクッキングヒーター)や高周波溶接等にも利用されているが、この原理を利用してタイルをホットメルト接着剤で貼着する技術も、例えば特開平8−73818号公報、特開2002−264241号等に開示されている。
【0017】
ただし、本発明は、タイルの貼着時ではなく剥取時に電磁誘導加熱を利用して接着剤の接着力を低減させようとするものである。したがって、本発明に利用する接着剤としては、常温下で固体状をなすホットメルト接着剤よりも、常温下で適当な接着作業性(流動性及び初期粘着力)を有し、硬化後には加熱によって軟化する熱可塑性接着剤や、加熱によって接着面が剥離する熱剥離性接着剤等のほうが好ましい。タイルの貼着に際しては、常温下でこの種の接着剤を、壁下地の表面に刷毛、鏝、ローラー等で塗布し、その接着剤が硬化しないうちにタイルを貼着する。
【0018】
一方、薄帯体としては、適度な強度及び導電性を有すること、また、作業性に優れ経済的であることなどの点で、アルミテープ(フィルム)やステンレステープ等を好適に利用することができる。このような薄帯体を、シーリング目地に沿う一定幅の領域に予め貼着しておけば、タイルの貼着後でも、タイルの表面側から適宜の電磁誘導加熱装置を用いて薄帯体を加熱することができ、薄帯体上に塗布された接着剤の接着力を低減させて、タイルを容易に剥ぎ取ることができる。
【0019】
薄帯体の加熱に用いる電磁誘導加熱装置については特に限定されないが、加熱効率の点では、高周波のタイプが好ましい。また、作業性の点では、誘導コイルと電源制御部とを別体にしたものが、コンパクトになり好ましい。誘導コイルの形状等については、装置の仕様や作業性等を考慮して適宜設計されればよい。
【0020】
壁の施工段階から、このような配慮を壁下地のシーリング目地近傍に施しておけば、後にシーリング目地を補修する必要が生じたとき、その補修作業を効率的に実施することが可能になる。
【0021】
また、本発明のタイル貼着方法は、前記したタイル貼着構造の合理的な施工手順を特定するものであって、
A:壁下地の入隅部分に形成される隙間、或いは少なくとも一部が壁面から突出するようにして壁下地に取り付けられるサッシ枠その他の付帯設備と該壁下地との隙間に、シーリング材を充填してシーリング目地を形成する工程と、
B:前記シーリング目地に近接する前記壁下地の表面に、導電性を有する薄帯体を、前記シーリング目地に沿って連続するように貼着する工程と、
C:前記シーリング目地をマスキングテープによって被覆する工程と、
D:前記A〜Cの工程に続いて、前記薄帯体及び前記マスキングテープを含む前記壁下地の表面に、常温で接着作業性を有し、かつ、加熱によって接着力を低減させる接着剤を塗布する工程と、
E:前記Dの工程に続いて、前記壁下地から前記マスキングテープを剥ぎ取る工程と、
F:前記Eの工程に続いて、前記薄帯体を含む前記壁下地の表面に、前記接着剤を介し前記シーリング目地に近接させてタイルを貼着する工程と、
を具備することを特徴とする。
【0022】
壁下地の隙間にシーリングを施したら、そのシーリング目地をマスキングテープで養生した上で壁下地の表面に接着剤を塗布し、マスキングテープを剥がしてタイルを貼着する、という施工手順を採用することにより、シーリング目地上に接着剤層が残るのを避けることができる。これによって、シーリング目地に近接するタイルの剥ぎ取りが容易になり、シーリング目地の補修作業も効率よく実施することができる。
【0023】
なお、このタイル貼着方法におけるA〜Cの工程は、必ずしも[A→B→C]の手順のみに限定されるものではなく、施工上の事情によっては、[B→A→C]又は[A→C→B]のように先後順を入れ替えて実施することも可能である。
【0024】
前記タイル貼着構造及びタイル貼着方法においては、シーリング目地の直近に貼着されるタイルの裏面に、前記と同様の導電性を有する別の薄帯体が貼着されていてもよい。或いはまた、該タイルの裏面に、金属性材料を薄膜状に塗布(コーティング)または蒸着するなどして導電体層が設けられていてもよい。これらの構成によれば、シーリング目地に近接するタイル自体も、その裏面を昇温させて、該裏面に接する接着剤層から一層容易に剥ぎ取ることができる。
【0025】
また、前記タイル貼着構造及びタイル貼着方法においては、薄帯体の幅寸法を、シーリング目地の直近に貼着されるタイルの最大幅と同寸以上にしておくのが好ましい。これにより、シーリング目地の直近部分に、タイルの最大幅と同じだけの加熱領域を設けることができる。すると、タイルの目地割が、破れ目地(上下の段の縦目地が連続しないようにタイルを配列する目地割)又は芋目地(上下の段の縦目地が2段以上、連続するようにタイルを配列する目地割)のいずれであっても、シーリング目地に近接する少なくとも各段1枚のタイルは、必ず前記加熱領域内に納まることになるから、そのタイルを容易に剥がして、シーリング目地に近接する壁下地を無理なく露出させることができる。なお、壁下地に貼着されるタイルが、幅の広いものと幅の狭いものとを組み合わせたような目地割になる場合は、薄帯体の幅寸法を幅の広いタイルに合わせるものとする。
【0026】
また、本発明の壁下地のシーリング目地補修方法は、前記したタイル貼着構造によって表面にタイルが貼着されてなる壁下地のシーリング目地補修方法であって、
S:タイルの表面側から電磁誘導加熱により、シーリング目地に沿って貼着された薄帯体を加熱して、該薄帯体の表面に塗布された接着剤の接着力を低減させる工程と、
T:前記Sの工程に続いて、シーリング目地の直近に貼設されているタイルを前記薄帯体から剥ぎ取り、シーリング目地を露出させる工程と、
U:前記Tの工程に続いて、露出したシーリング目地に施されたシーリングを補修する工程と、
V:前記Uの工程に続いて、補修したシーリング目地をマスキングテープによって被覆する工程と、
W:前記Vの工程に続いて、前記薄帯体及びマスキングテープを含む壁下地の露出箇所に接着剤を再塗布する工程と、
X:前記Wの工程に続いて、シーリング目地から前記マスキングテープを剥ぎ取る工程と、
Y:前記Xの工程に続いて、前記接着剤が塗布された壁下地の露出箇所に、シーリング目地に近接させてタイルを貼着する工程と、
を具備することを特徴とする。
【0027】
このシーリング目地補修方法によれば、壁下地のシーリング目地に近接してタイルが貼着されている壁等において、該シーリング目地を補修する必要が生じたとき、その補修作業に干渉するタイルだけを剥がし取り、シーリングの再充填等、必要な補修を行った上で再度、シーリング目地の近傍にタイルを貼着し直す作業を、効率よく実施することができる。
【0028】
なお、このシーリング目地補修方法におけるWの工程において、タイルを貼り直すために塗布する接着剤は、当初と同様の熱可塑性接着剤や熱剥離性接着剤でも、もちろん構わないが、将来の補修作業時点において、より施工性に優れる接着剤等があるならば、その利用を排除するものではない。
【発明の効果】
【0029】
本発明のタイル貼着構造によれば、壁下地のシーリング目地に沿って貼着された薄帯体を、タイルの表面側から電磁誘導加熱(高周波加熱)を利用して加熱することにより、該薄帯体上に塗布された接着剤の接着力を低減させて、タイルを容易に剥ぎ取ることができる。壁等の施工段階から、このような配慮を壁下地のシーリング目地近傍に施しておくことにより、将来、シーリング目地を補修する必要が生じたとき、その補修作業に干渉する範囲のタイルだけを限定的に剥ぎ取ることができる。
【0030】
また、本発明のタイル貼着方法によれば、前記タイル貼着構造を合理的な手順で施工することができる。特に、シーリング目地をマスキングテープで養生する工程を挟むことにより、シーリング目地上に接着剤層が残るのを避けることができるので、シーリング目地の補修作業を効率よく実施することができる。
【0031】
そして、本発明の壁下地のシーリング目地補修方法によれば、シーリング目地に近接してタイルが貼着されている壁下地において、シーリング目地を補修する必要が生じたとき、その補修作業に干渉するタイルだけを剥がし取り、シーリング材の再充填等、必要な補修を行った上で再度、シーリング目地の近傍にタイルを貼り直す作業を、効率よく実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のタイル貼着方法におけるA〜Cの工程を示す横断面図である。
【図2】本発明のタイル貼着方法におけるD(〜E)の工程を示す横断面図である。
【図3】本発明のタイル貼着方法におけるFの工程を示す横断面である。
【図4】本発明のタイル貼着構造を示す横断面である。
【図5】本発明の他の実施形態に係るタイル貼着構造を示す横断面図である。
【図6】本発明のさらに他の実施形態に係るタイル貼着構造を示す横断面図である。
【図7】本発明の下地パネルのシーリング目地補修方法を説明する要部横断面図である。
【図8】特許文献1に開示された従来の外壁構造(タイル貼着構造)の概要を示す斜視図である。
【図9】従来の外壁構造における入隅部分のタイル貼着構造を示す横断面図である。
【図10】従来の外壁構造においてサッシ枠その他の設備が外壁面から突出する場合のタイル貼着構造を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0034】
図1〜図3は、壁下地の入隅部分における本発明のタイル貼着方法を、その施工手順に沿って示す図であり、図4は、該タイル貼着方法によって得られるタイル貼着構造の横断面図である。これら各図において、図9に示した前記従来の外壁構造と共通する部材や部位には、共通の符号を付す。
【0035】
図1は、本発明のタイル貼着方法におけるA〜Cの工程を示す。平面視略T字状に配置された2面の下地パネル1(1a、1b)が壁下地の入隅部分を形成しており、図示右下側が屋外側である。例示の下地パネル1(1a、1b)は、前記従来の外壁構造を構成するものと同様のもので、その裏面に設けられた適宜の取付枠や取付金具(図示省略)等を介して、建物の躯体軸組(図示省略)等に建て込まれる。ただし、本発明においては、タイル7の貼着に適するものである限り、壁下地の材質や構造は特に限定しない。
【0036】
Aの工程では、図示上側の下地パネル1aの表面と、図示下側の下地パネル1bの端面との隙間に、シーリング目地50を施工する。シーリング目地50には、必要に応じてバックアップ材(図示省略)による裏打ち処理を行い、シーリング材を充填する。シーリング材の種類も特に限定しないが、例えばウレタン系、シリコーン系、ポリサルファイド系などの高耐久型弾性シーリング材を、下地パネル1の材質等に応じ適宜、選択して使用する。
【0037】
Bの工程では、シーリング目地50の近接位置に、導電性を有する薄帯体8(8a、8b)を貼着する。シーリング目地50に表面を接する図示上側の下地パネル1aにあっては、薄帯体8aの辺縁をシーリング目地50の表面ギリギリに、また、シーリング目地50に端面を接する図示下側の下地パネル1bにあっては、薄帯体8bの辺縁を下地パネル1bの端縁に揃えるくらいの位置に、それぞれ薄帯体8a、8bを貼着するのが好ましい。
【0038】
薄帯体8には、タイル7の貼着に影響を与えない程度の厚さ(概ね0.3mm以下)の金属質シートやテープ等を利用し、これを適宜の接着剤等によって下地パネル1の表面に貼着する。実用的には、裏面に粘着加工を施した、厚さ0.03〜0.15mm程度のアルミテープ又はステンレステープを、特に好適に利用することができる。これらのテープはロール状に巻き取られていて扱いやすく、安価であり、手で簡単に切れるものもある。なお、図中では、薄帯体8の厚みを強調して表現している。
【0039】
薄帯体8の貼着範囲は、タイル7の最大幅と同寸以上にするのが好ましい。薄帯体8に細幅のテープを用いる場合は、該テープを並べて重ね貼りしてもよい。薄帯体8は、シーリング目地50に沿って、下地パネル1の両端部まで途切れないように貼着する。長さが足りない場合は、途中で継ぎ重ねてもよい。薄帯体8の貼着には、両面テープを用いてもよい。薄帯体8の貼着に用いる接着剤は、後述のような熱可塑性或いは熱剥離性の接着剤ではなく、加熱によって接着力が低下しない性状のものが好ましい。下地パネル1が軟質であれば、タッカーや画鋲等を併用して薄帯体8を止め付けることもできる。
【0040】
或いは、例示のようなテープ状の薄帯体8に替えて、例えば、鉄粉その他の金属性材料を含む塗料等を下地パネルの表面に塗布したり、適宜公知の手段によってアルミニウムその他の金属性材料を下地パネルの表面に蒸着したりして、薄帯体8に相当する一定幅の導電性領域を形成してもよい。
【0041】
Cの工程では、シーリング目地50の表面に、適宜のマスキングテープ9を貼着して、シーリング目地50を養生する。例示形態では、マスキングテープ9を、その両側縁部がシーリング目地50を挟む両側の薄帯体8a、8bに、それぞれ少しずつ重なるように貼着している。
【0042】
なお、A(シーリング)、B(薄帯体貼着)、C(マスキング)の工程の作業手順は必ずしも上述した[A→B→C]の手順に限定されるものではない。先に下地パネル1に薄帯体8を貼着しておき、後からシーリング目地50を施工及びマスキングする[B→A→C]の手順も可能である。或いは、シーリング目地50の施工に続き、該目地と同幅のマスキングテープ9をシーリング目地50の表面に貼着してから、そのマスキングテープ9とは重ならないように薄帯体8を下地パネル1に貼着する[A→C→B]の手順も可能である。
【0043】
図2は、本発明のタイル貼着方法におけるD(〜E)の工程を示す。この工程では、薄帯体8が貼着されてシーリング目地50がマスキングされた下地パネル1(1a、1b)の表面に、タイル7を貼着するための接着剤60を塗布する。
【0044】
接着剤60には、常温下で適度の流動性及び初期粘着力を有し、自然乾燥により硬化して、硬化後には加熱により軟化、溶融、接着面の剥離などによって接着力が低下する性状のものを使用する。具体的には、エチレン−酢酸ビニル系エマルジョン接着剤や、変成シリコーン系接着剤、或いは、ポリビニルアセタール、ポリスチレン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂を基材とする接着成分を水又は溶剤に分散させるなどして流動性を付与した熱可塑性接着剤などが利用可能である。或いは、熱硬化性を有するエポキシ樹脂系接着剤やウレタン樹脂系接着剤等に、熱膨張性微粒子を配合するなどして熱剥離性を付与した接着剤なども利用可能である。それらの接着剤60を、下地パネル1の表面に刷毛や鏝、ローラー等で塗布し、必要に応じて櫛引きする。
【0045】
接着剤60の塗布後には、Eの工程として、前記マスキングテープ9をシーリング目地50から剥ぎ取り、シーリング目地50上に塗布された接着剤60を除去する。ただし、この工程は、図2〜3中には表現していない。
【0046】
なお、図2においては、入隅を挟む2面の下地パネル1a、1bに対して一度に接着剤60を塗布するかのように表現しているが、実際の施工に際しては、入隅を挟む片面ごとに一定領域ずつ接着剤60を塗布し、接着剤60の硬化時間に合わせ何段階かに分けてタイル7の貼着作業を行うこととなる。
【0047】
図3は、本発明のタイル貼着方法におけるFの工程を示す。Fの工程では、塗布した接着剤60が硬化しないうちに、薄帯体8を含む下地パネル1の表面にタイル7を貼着する。この貼着作業は、基本的に常温下で行う。タイル7は、原則としてシーリング目地50の直近まで貼着するものとするが、タイル7の目地割パターンは特に限定しない。
【0048】
なお、本発明においては、入隅角部に、入隅の両面に跨がる平面視略L字形のような役物タイル(図示省略)を貼着して、シーリング目地50を完全に覆ってしまうような納まりも採用可能である。
【0049】
こうして、図4に示すタイル貼着構造が得られる。図4において、W1はシーリング目地50の直近に貼着されるタイル7の最大幅寸法であり、W2は薄帯体8の貼着幅である。W1≦W2とすれば、タイル7の目地割が、破れ目地又は芋目地、或いは他のどのようなパターンであっても、シーリング目地50に干渉する各段1〜2枚のタイル7は必ず、薄帯体8の貼着領域内に納まることとなる。
【0050】
図5は、タイル貼着構造における他の実施形態を示す。例示形態においては、シーリング目地50に近接する各一列のタイル7(7a、7b)の裏面に、アルミテープ等からなる前記と同様の薄帯体80が貼着されている。この薄帯体80は、タイル7の貼着に先立って予めタイル7の裏面に貼着されているのが好ましい。タイル7側に貼着された薄帯体80は、接着剤60の表面側に重ねられる。この構成によれば、接着剤60が表裏両側の薄帯体8、80によってサンドイッチ状に挟まれるので、後述の電磁誘導加熱により、タイル7の裏面に位置する接着剤60を一層、効率良く加熱することができる。
【0051】
なお、図5に示した実施形態において、タイル7の裏面に薄帯体80を貼着する替わりに、鉄粉その他の金属性材料を含む塗料等をタイル7の裏面に塗布又はコーティング処理したり、適宜公知の手段によってアルミニウムその他の金属性材料をタイル7の裏面に蒸着したりして、薄帯体80と同様の作用をなす導電体層をタイル7の裏面に形成してもよい。
【0052】
或いは、タイル7の成形材料に予め金属粉末などの導電性材料を練り込んで焼成することにより、タイル7自体を導電性物質となし、このタイル7をシーリング目地50に近接させて貼着する、という構成を採用することも可能である。
【0053】
図6は、タイル貼着構造における更に他の実施形態を示す。例示した形態は、図10に示した外壁構造と同じく、サッシ枠その他の付帯設備20が、その一部を壁面よりも屋外側(図示下側)に突出させて設置される形態である。この場合、外壁下地を構成する下地パネル1cの表面と該付帯設備20との隙間にシーリング目地50が形成される。
【0054】
そして、このシーリング目地50に沿って、導電性を有する薄帯体8(8c)が貼着される。薄帯体8aは、その辺縁をシーリング目地50ギリギリに近接させるようにして、下地パネル1cの表面に、一定の幅で貼着される。つまり、この形態は、図4に示した前述の実施形態における入隅の片側(詳細には、下地パネルの表面がシーリング目地50に接する側)のタイル貼着構造と実質的に同一であって、薄帯体8自体の構成についても、前述の実施形態において説明した薄帯体8(8a)の構成と同様である。
【0055】
続いて、図7を参照しつつ、図4に示した前述のタイル貼着構造からタイル7を剥ぎ取って、シーリング目地50を補修する方法について説明する。タイル7の剥取に際しては、シーリング目地50に近接するタイル7(7a、7b)の表面に電磁誘導加熱装置10を当てがい、所定時間、高周波を照射する。この方法に使用する電磁誘導加熱装置10は、特にその構成を限定するものではないが、誘導コイルを有する高周波発生部と電源制御部とが別体に形成されて、高周波発生部を手で持つことができる程度にコンパクト化されたようなものが好ましい。高周波の照射によって薄帯体8(8a、8b)が所定温度にまで加熱されると、薄帯体8の表面に塗布された接着剤60が軟化するなどして、接着力が低下する。
【0056】
接着剤が剥離可能になったら、シーリング目地50に干渉する各段1〜2枚分のタイル7を剥ぎ取る。タイル7の目地割が破れ目地の場合は、各段交互に1枚幅分と2枚幅分のタイル7を剥ぎ取れば足りる。シーリング目地50が露出したら、劣化した古いシーリング材を取り除いて、新しいシーリング材を充填する。シーリング材の除去〜再充填に関する詳細な工程は、本発明において特に限定しない。シーリング目地50の補修が終われば、下地パネル1の表面にタイル7を再度、貼り直す。その貼着手順は、前述したタイル貼着方法におけるC(マスキング)〜F(タイル貼着)の工程と同様である。
【0057】
図6に示したタイル貼着構造からタイル7cを剥ぎ取ってシーリング目地50を補修する場合も、上記と同様の手順で実施可能である。本発明によれば、このようにして、下地パネル1のシーリング目地50に干渉する範囲のタイル7だけを剥がし取り、シーリング材の再充填等、必要な補修を行った上で再度、シーリング目地50の直近にタイル7を貼り直す作業を、効率よく実施することができる。
【符号の説明】
【0058】
1(1a、1b、1c) 下地パネル
10 電磁誘導加熱装置
50 シーリング目地
60 接着剤
7(7a、7b、7c) タイル
8(8a、8b、8c) 薄帯体
80 薄帯体
9 マスキングテープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁下地の入隅部分に形成される隙間にシーリング目地が形成され、該シーリング目地に近接させて前記壁下地の表面にタイルが貼着されるタイル貼着構造において、
前記シーリング目地に近接する前記壁下地の表面に、導電性を有する薄帯体が、前記シーリング目地に沿って連続するように貼着され、
前記薄帯体を含む壁下地の表面に、常温で接着作業性を有し、かつ、加熱によって接着力を低減させる接着剤が塗布され、
該接着剤を介して、前記薄帯体を含む壁下地の表面にタイルが貼着されたことを特徴とするタイル貼着構造。
【請求項2】
少なくとも一部が壁面から突出するようにして壁下地に取り付けられるサッシ枠その他の付帯設備と該壁下地との隙間にシーリング目地が形成され、該シーリング目地に近接させて前記壁下地の表面にタイルが貼着されるタイル貼着構造において、
前記シーリング目地に近接する前記壁下地の表面に、導電性を有する薄帯体が、前記シーリング目地に沿って連続するように貼着され、
前記薄帯体を含む壁下地の表面に、常温で接着作業性を有し、かつ、加熱によって接着力を低減させる接着剤が塗布され、
該接着剤を介して、前記薄帯体を含む壁下地の表面にタイルが貼着されたことを特徴とするタイル貼着構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のタイル貼着構造において、
シーリング目地の直近に貼着されるタイルの裏面に、導電性を有する薄帯体が貼着されたことを特徴とするタイル貼着構造。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のタイル貼着構造において、
シーリング目地の直近に貼着されるタイルの裏面に、金属性材料を含む導電体層が設けられたことを特徴とするタイル貼着構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のタイル貼着構造において、
薄帯体の幅寸法が、シーリング目地の直近に貼着されるタイルの最大幅と同寸以上であることを特徴とするタイル貼着構造。
【請求項6】
A:壁下地の入隅部分に形成される隙間、或いは少なくとも一部が壁面から突出するようにして壁下地に取り付けられるサッシ枠その他の付帯設備と該壁下地との隙間に、シーリング材を充填してシーリング目地を形成する工程と、
B:前記シーリング目地に近接する前記壁下地の表面に、導電性を有する薄帯体を、前記シーリング目地に沿って連続するように貼着する工程と、
C:前記シーリング目地をマスキングテープによって被覆する工程と、
D:前記A〜Cの工程に続いて、前記薄帯体及び前記マスキングテープを含む前記壁下地の表面に、常温で接着作業性を有し、かつ、加熱によって接着力を低減させる接着剤を塗布する工程と、
E:前記Dの工程に続いて、前記壁下地から前記マスキングテープを剥ぎ取る工程と、
F:前記Eの工程に続いて、前記薄帯体を含む前記壁下地の表面に、前記接着剤を介し前記シーリング目地に近接させてタイルを貼着する工程と、
を具備することを特徴とするタイル貼着方法。
【請求項7】
請求項6に記載のタイル貼着方法において、
壁下地の表面にタイルを貼着するに際し、シーリング目地の直近に貼着されるタイルの裏面に、予め導電性を有する薄帯体を貼着しておくことを特徴とするタイル貼着方法。
【請求項8】
請求項6に記載のタイル貼着方法において、
壁下地の表面にタイルを貼着するに際し、シーリング目地の直近に貼着されるタイルの裏面に、予め金属性材料を含む導電体層を設けておくことを特徴とするタイル貼着方法。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載のタイル貼着方法において、
薄帯体の幅寸法が、シーリング目地の直近に貼着されるタイルの最大幅と同寸以上であることを特徴とするタイル貼着方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載されたタイル貼着構造によって表面にタイルが貼着されてなる壁下地のシーリング目地補修方法であって、
S:タイルの表面側から電磁誘導加熱により、シーリング目地に沿って貼着された薄帯体を加熱して、該薄帯体の表面に塗布された接着剤の接着力を低減させる工程と、
T:前記Sの工程に続いて、シーリング目地の直近に貼設されているタイルを前記薄帯体から剥ぎ取り、シーリング目地を露出させる工程と、
U:前記Tの工程に続いて、露出したシーリング目地に施されたシーリングを補修する工程と、
V:前記Uの工程に続いて、補修したシーリング目地をマスキングテープによって被覆する工程と、
W:前記Vの工程に続いて、前記薄帯体及びマスキングテープを含む壁下地の露出箇所に接着剤を再塗布する工程と、
X:前記Wの工程に続いて、シーリング目地から前記マスキングテープを剥ぎ取る工程と、
Y:前記Xの工程に続いて、前記接着剤が塗布された壁下地の露出箇所に、シーリング目地に近接させてタイルを貼着する工程と、
を具備することを特徴とする壁下地のシーリング目地補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−1975(P2012−1975A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138123(P2010−138123)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000198787)積水ハウス株式会社 (748)
【Fターム(参考)】