説明

タイル

【課題】裏面の溝部内でタイル張付け材である張り付けモルタル及び空気の流動性がよく、モルタルの均一且つ密な充填が可能となり、接着強度が大きく、剥がれにくい簡単な構造のタイルを実現する。
【解決手段】タイル1の長手方向に延びる第1〜3の横溝11〜13により、タイル1の裏面9の溝部10の比較的全域についての張り付けモルタル4が充填され、さらに、タイル1の裏面9の中央部において、第1の連通溝21により第1横溝11と第2の横溝12が互いに連通するとともに、第2の連通溝22により第2横溝12と第3の横溝13が互いに連通し、さらに、タイル1の裏面9の左右側縁6、8において第1〜3の横溝11〜13がそれぞれ外部に開口し、第3及び第4の連通溝23、24により、第1横溝11、第2の横溝12、及び第2の横溝12、第3の横溝13が、それぞれタイル1の上下縁5、7において外部に開口する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイルに関し、特に建物等の躯体外面に外装のために貼り付けられる外装用のタイルに関する。
【背景技術】
【0002】
建物の躯体に張り付けるタイルは、通常、その裏面に溝が形成されており、この溝内にモルタルを充填し、建物の躯体外面に充填したモルタルを介して貼り付けられる。
【0003】
このようにモルタルを充填するためにタイルの裏面に形成される溝としては、図4(b)に示すように、タイルの長手方向に平行に複数本形成された溝11〜13が、一般的である。
【0004】
ところで、建物の躯体に張り付けるタイルは、風雨、太陽光の熱等に曝されるというな過酷な気象条件下で利用されるので、そのような気象条件下でも十分な強度でモルタルを介して接着されている必要がある。また、近年、大小の地震が頻発しているが、そのような地震があっても剥がれ落ちるようなことなく、十分な強度でモルタルを介して接着されている必要がある。
【0005】
そのような必要性から、従来、いくつかの提案がすでになされている。例えば、タイル本体の裏面側に長手方向に平行に形成した溝を形成し、その凹部と凸部の面積比を、コンクリートやモルタルの間での付着強度を高くなるように形成された構成が知られている(特許文献1参照)。
【0006】
また、裏面及び/または側面に形成された溝の形成された複数のタイルを、互いに連結材によって接合することで、ビルディングの駆体との接着性を向上させる構成が知られている(特許文献2参照)。
【0007】
また、長手方向に設けた複数の溝に直交する糸嵌入溝を形成し、この糸嵌入溝に糸を嵌入して一群のタイルを連結することで剥離を防止する構成が知られている(特許文献3参照)。
【0008】
また、タイルの裏面に複数の独立した突起を有し、突起の少なくとも全周に、固化材を流動させる交差溝を有するように形成することで、タイル裏面へのモルタルの充填性を向上させてタイルの剥離を防止する構成が知られている(特許文献4参照)。
【0009】
【特許文献1】特開平11−81622号公報
【特許文献2】特開2001−323635号公報
【特許文献3】特開平10−317637号公報
【特許文献4】特開2000−345686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
裏面に長手方向に平行に複数本形成された溝を備えたタイルは、接着用のモルタルが溝の長手方向に充填され、一方向に長い接着部が形成されるが、このような一方向の接着は、上下左右方向(上下方向及び剪断方向)等に生じる地震等の外力に対しては、必ずしも十分な強度を有するものではない。
【0011】
また、裏面に長手方向に平行に複数本形成された溝を備えたタイルでは、モルタルを溝内に充填して外壁に貼り付ける際に、溝内に残存した空気はモルタルが長手方向に充填されているので、溝から外へ逃がしにくい。特に、タイル裏面の中央部では、開口までの距離が長いために空気が残留すると溝から外部へ逃げにくくなる。
【0012】
そのために、接着後のモルタル内に空気が残存し、溝内にモルタルが均等に充填されなかったり、また密に充填されない箇所が生じ、モルタルによる接着面積が少なくなるので、必ずしも十分な接着強度が得られず、タイルの剥がれが生じることがある。
【0013】
ところで、陶磁器質を材料としたタイルのプレスによる製造は、通常、プレスによって製造するが、特許文献4のようのような構成では、タイルの裏面に複数の独立した突起を有し、突起の少なくとも全周に、固化材を流動させる交差溝を有するような構成は、プレス型が複雑となり、プレスによって正確に交差溝も形成することも難しいものと考えられる。なお、特許文献4では、型抜して形成するか、別途突起を取り付けるという点が記載されている。
【0014】
また、特許文献4のような構成では交差溝が全裏面にわたって形成され、且つ交差溝の裏面全体の面積に占める割合が多くなるために、タイル本体の厚さを薄くすると強度上問題が生じるものと考えられ、従って、タイル全体の厚さを強度を下げない程度十分大きくする必要がある。
【0015】
本発明は、従来のタイルの上記のような問題を解決することを目的とするものであり、タイルの裏面の溝部の構造が簡単で、プレスによる製造し易いタイルの構成を前提とした上で、タイル張付け材(タイルをタイル下地に張り付けるための接着剤であり、一例としてモルタル。)を介して建物等の躯体外面へ接着した張り付け構造において、裏面の溝部におけるタイル張付け材及び空気の流動性を改善し、溝内に残る空気を少なくして、タイル張付け材の均一且つ密な充填を可能とし、タイル張付け材との接着強度がきわめて大きく、建物等の躯体外面から剥がれにくいタイルを実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上記課題を解決するために、上縁、左側縁、下縁及び右側縁で囲まれ外形が長方形であり、裏面にタイル張付け材が充填される溝部が形成されたタイルであって、前記溝部は、長手方向に直線的に延び、上下方向に間隔おいて互いに平行に形成され、該長手方向の両端において左側縁及び右側縁にそれぞれ開口した複数本の横溝と、長手方向中央で長手方向に直交する中央線の両側に位置する第1の左側線及び第1の右側線において、第1の右側線上に配列され、前記上縁及び下縁で開口することなく前記複数の横溝を縦方向に横断的に結んで連通する第1の連通溝、及び第1の左側線上に配列され、前記上縁及び下縁で開口することなく前記複数の横溝を縦方向に横断的に結んで連通する第2の連通溝と、前記中央線の両側に位置し、前記第1の左側線及び第1の右側線より長手方向に離れた位置で長手方向に直交する第2の左側線及び第2の右側線において、第2左側線上に配列され前記上縁から前記複数の横溝までを縦方向に横断的に結んで連通し、かつ前記上縁のみで開口した第3の連通溝、及び第2の右側線上に配列され前記下縁から前記複数の横溝を縦方向に横断的に結んで連通し、かつ下縁のみで開口した第4の連通溝とから構成されることを特徴とするタイルを提供する。
【0017】
上縁、左側縁、下縁及び右側縁で囲まれ外形が長方形であり、裏面にタイル張付け材が充填される溝部が形成されたタイルであって、前記溝部は、長手方向に直線的に延び、上下方向に間隔おいて互いに平行に形成され、該長手方向の両端において左側縁及び右側縁にそれぞれ開口した奇数の複数本の横溝と、長手方向中央で長手方向に直交する中央線の両側に対称的に位置する第1の左側線及び第1の右側線において、第1の右側線上に配列され、前記上縁及び下縁で開口することなく、前記複数の横溝のうち最上段の横溝から上下方向の中心となる横溝までを縦方向に横断的に結んで連通する第1の連通溝、及び第1の左側線上に配列され、前記上縁及び下縁で開口することなく、前記複数の横溝のうち最下段から上下方向の中心となる横溝までを縦方向に横断的に結んで連通する第2の連通溝と、前記中央線の両側に対称的に位置し、前記第1の左側線及び第1の右側線より長手方向に離れた位置で長手方向に直交する第2の左側線及び第2の右側線において、第2左側線上に配列され、前記上縁から上下方向の中心となる横溝までを縦方向に横断的に結んで連通し、かつ前記上縁のみで開口した第3の連通溝、及び第2の右側線上に配列され、前記下縁から上下方向の中心となる横溝までを縦方向に横断的に結んで連通し、かつ下縁のみで開口した第4の連通溝とから構成されることを特徴とするタイルを提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るタイルによれば、次のような効果が生じる。
(1)タイルを建物等の躯体外面へタイル張付け材を介して接着する張り付け構造において、タイル裏面の溝におけるタイル張付け材及び空気の流動性が改善され、溝及びタイル張付け材内に残存する空気が少なくなり、タイル張付け材の均一且つ密な充填が可能となり、この結果、タイル張付け材との接着強度がきわめて大きく、剥がれにくいタイル張り付け構造が得られる。
【0019】
(2)タイルの裏面の溝の構成が簡単であり、プレスによる製造もし易い。
(3)タイルの厚さは、必要以上に厚くすることなく、従来通りの厚さで十分な強度が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係るタイルを実施するための最良の形態を実施例に基づき図面を参照して、以下説明する。
【0021】
本発明に係るタイルは、上縁、左側縁、下縁及び右側縁で囲まれた外形が長方形であり、裏面にタイル張付け材が充填される溝部が形成されたタイルである。この溝部は、複数本の横溝と、複数本の横溝を部分的に結ぶ縦方向の連通溝から構成されている。なお、本明細書では、「タイル張付け材」とは、タイルをタイル下地に張り付けるための接着剤であり一例としてはモルタル(「張り付けモルタル」と言う。)などがある。
【0022】
複数本の横溝は、長手方向に直線的に延び、上下方向に間隔おいて互いに平行に形成され、長手方向の両端において左側縁及び右側縁にそれぞれ開口して形成されている。
【0023】
そして、長手方向中央で長手方向に直交する中央線の両側に対称的に位置する第1の左側線及び第1の右側線において、第1の右側線上に配列され、複数の横溝を縦方向に横断的に結ぶ第1の連通溝、及び第1の左側線上に配列され、複数の横溝を縦方向に横断的に結ぶ第2の連通溝とを備えている。
【0024】
さらに、中央線の両側に対称的に位置し、第1の左側線及び第1の右側線より長手方向に離れた位置で長手方向に直交する第2の左側線及び第2の右側線において、第2左側線上に配列され前記上縁から前記複数の横溝までを縦方向に横断的に結び、かつ上縁で開口した第3の連通溝、及び第2の右側線上に配列され前記下縁から前記複数の横溝を縦方向に横断的に結んで連通し、かつ下縁に開口した第4の連通溝とを備えている。
【0025】
タイルは、上縁、左側縁、下縁及び右側縁で囲まれた外形が長方形であり、裏面にタイル張付け材(例.張付けモルタル)が充填される溝部が形成されたタイルであって、張り付けの際に、タイル裏面を張り付けモルタルに押しつけると、この溝に張り付けモルタルが充填されタイル張付け材との接着面積が増えて、タイル張付け材を介してタイルが張り付けられる構造である。本発明の特徴は、このタイル裏面の溝の構成にある。
【0026】
以上のとおり、タイルの裏面には、タイルを建物の躯体(コンクリート躯体)等に張り付ける際に、タイル張付け材を充填する複数の横溝が形成されている。複数の横溝の本数は、タイルの大きさ(縦横寸法)、厚さ、裏面に形成する横溝の幅等の条件を考慮して設計すればよいが、以下、3本の横溝が形成されているタイルの実施例を説明する。
【実施例】
【0027】
本発明に係るタイルの実施例を図1において説明する。図1(a)は、本発明に係るタイル1の裏面を説明する平面図であり、図1(b)、(c)、(d)は、それぞれA−A、B−B、C−C断面図である。この実施例ではタイルを張付ける躯体は、建物の躯体を例として説明するが、建物内のキッチン、浴室等建物内外の壁や床に張付ける場合も、本発明のタイル自体の構成は同様である。
【0028】
タイル1は、建物の躯体(例えば、コンクリートの躯体)2の外面にタイル下地3(建物の躯体表面の凹凸を均平化する層であり、例えば、モルタル下地、補修材等が使用される。)を形成し、このタイル下地3の表面にタイル張付け材として張り付けモルタル4を介して張り付けるものである(図3(a)参照)。
【0029】
タイル1は、図1(a)に示すように、上縁5、左側縁6、下縁7及び右側縁8で囲まれた外形が長方形であり、陶磁器質の材料をプレスして形成される。なお、本実施例では、「タイル張付け材」としてはモルタル、即ち、「張り付けモルタル4」を使用する例で以下、説明するが、タイル張付け材はモルタルでなくても、接着剤、その他タイル下地3とタイルを接着するものであればよい。
【0030】
タイル1は、図1(a)に示すように、タイル1の長辺を横方向に向けて置いた場合に、裏面9に、張り付けモルタル4を充填可能な溝部10が形成されており、この溝部10は、3本の第1〜3の横溝11、12、13を有する。第1〜3の横溝11、12、13は、それぞれタイル1の長手方向に延び、互いに上下方向に間隔をおいて平行に形成されており、それぞれ左右両端において左右の側縁6、8で開口している。その開口を6’、8’とする。
【0031】
このように、タイル1の長手方向に延び互いに平行な複数の横溝がタイルの裏面に形成されている構成自体は、従来の構成(特許文献1参照)と同じである。しかしながら、本発明のタイル1は、このようなタイル1の長手方向に延びる互いに平行な複数の横溝11、12、13がタイル1の裏面9に形成されている構成を前提として、以下に説明するような構成の溝部10を特徴とするものである。
【0032】
この実施例では、タイル1の長手方向における中心位置14を通り長手方向(タイル1の長辺)に直交する線を中央線Xと言う。そして、中央線Xから長手方向に右左ほぼ対称に離れた第1位置15及び第2の位置16を通り長手方向(タイル1の長辺)に直交する線を第1右側線R1及び第1左側線L1と言う。
【0033】
さらに、中央線Xから長手方向に左右ほぼ対称に、且つ第2の位置16及び第1の位置15より離れた第3の位置17及び第4の位置18を通り、且つタイル1の長辺に直交する線を、第2左側線L2及び第2右側線R2と言う。
【0034】
この実施例のタイル1の裏面9には、第1右側線R1上において、第1の横溝11(最上段の横溝)と第2の横溝12(上下方向の中心となる横溝)を縦方向に横断的に結んで連通する第1の連通溝21が形成されている。また、第1左側線L1上において、第2の横溝12と第3横溝13(最下段の横溝)を縦方向に横断的に結んで連通する第2の連通溝22が形成されている。
【0035】
また、第2左側線L2上において、上縁5から第2の横溝12まで第1の横溝11を交差して縦方向に横断的に延び、上縁5において開口(その開口を25とする。)する第3の連通溝23が形成されている。また、第2右側線R2上において、下縁7から第2の横溝12まで第3の横溝13を交差して縦方向に横断的に延び、下縁7において開口(その開口を27とする。)する第4の連通溝24が形成されている。
【0036】
第1〜3の横溝11〜13の溝幅は互いに同じであり、また第1〜4の連通溝21〜24の溝幅は互いに同じである。そして、第1〜3の横溝11〜13及び第1〜4の連通溝21〜24の深さは、全て同じであることが好ましいが、異ならせてもよい。これらの第1〜3の横溝11〜13及び第1〜4の連通溝21〜24は、タイル1をプレスで製造する際に、プレスによって一括して形成される。
【0037】
以上の実施例では、タイル1の裏面9に3本の横溝11〜13が形成されている構成を説明したが、前述のとおり、複数の横溝の本数、幅、深さ等は、タイル1の大きさ(縦横寸法)、厚さ、使用箇所等の条件を考慮して設計すればよい。
【0038】
ちなみに、変形例1として横溝が5本のタイル31を図2(a)に示し、変形例2として横溝が6本のタイル32を図2(b)に、それぞれ示しておく。これらの変形例の符号は、上記実施例と共通部分は同じものを用いる。
【0039】
変形例1のタイル31では、横溝11〜13、28、29を設けている。また変形例2のタイル32では横溝11〜13、12’を設けている。
【0040】
(作用)
本発明の上記実施例のタイル1の作用について説明する。図3(a)は、タイル1を建物の躯体の外面に張り付ける際の、張り付け前後の構造を示す図である。タイル1の張り付け作業では、図3(a)に示すように、建物の躯体2(例えば、コンクリートの躯体)にタイル下地3を形成し、その上に、張り付けモルタル4を塗布し、その表面にタイル1を裏面9から押し当てて、張り付けモルタル4を介してタイル1を張り付けていく。
【0041】
張り付けモルタル4の表面に、タイル1をその裏面9から押し当てていく(図3(a)の左図参照)と、張り付けモルタル4は、第1〜3の横溝11〜13及び第1〜4の連通溝21〜24内に入り込む(図3(a)の右図参照)。この際、溝部10内には、余剰の張り付けモルタル4が生じたり、空気(混入空気)が滞留したりする。
【0042】
これらの余剰の張り付けモルタル4及び空気は、溝部10内を適宜流動し、第1〜3の横溝11〜13の左右側端縁6、8における開口6’、8’から外部へ流出されるとともに、第3、4の連通溝23、24から上縁5及び下縁7の開口25、27を通して流出する。
【0043】
ところで、本発明のタイル1は中央線Xから右方に比較的近い第1の位置15を含むタイル1の中央部では、第1の横溝11と第2の横溝12が第1の連通溝21で互いに連通し、第1の横溝11と第2の横溝12の間で張り付けモルタル4及び空気の流動ができる。
【0044】
同様に、本発明のタイル1は中央線Xから左方に比較的近い第2の位置16を含むタイル1の中央部では、第2の横溝12と第3の横溝13が第2の連通溝22で互いに連通し、第2の横溝12及び第3の横溝13間で張り付けモルタル4及び空気の流動ができる。
【0045】
この結果、タイル1の裏面9における長手方向の中央部の領域では、第1〜3の横溝11〜13における張り付けモルタル4の充填について、ばらつきが生じることが防止される。また、第1〜3の横溝11〜13の中央部では、左右側縁における開口6’、8’に遠いために、空気が残留しやすいが、本発明のタイル1では上記のとおり、空気の流通性が良いので排気性を高まる。
【0046】
従って、タイル1の裏面9の中央部において、タイル1の裏面9の第1〜3の横溝11〜13内部における空気の残留を少なくすることができる。これにより、裏面9の中央部において、張り付けモルタル4は、ばらつくことなく均等且つ密に充填され、タイル1は、張り付けモルタル4によって、建物の躯体2にタイル下地3を介して均等且つ強固に付着可能となる。
【0047】
また、本発明のタイル1は中央線Xから左方に比較的遠い第3の位置17を含む左端部では、第2左側線L2上に第3の連通溝23が形成され、第3の連通溝23は、タイル1の上縁5において開口25で外部に開口しているから、第1の横溝11及び第2の横溝12内の余剰な張り付けモルタル4及び空気は、第3の連通溝23を通過してタイル1の上縁5における開口25から外部に流出する。
【0048】
特に、第3の連通溝23は、第2左側線L2上で第2の横溝12から第1の横溝11を交差して上縁5において開口25で開口しているから、第2の横溝12からの余剰な張り付けモルタル4及び空気は、第1の横溝11の溝壁にクランク状に突き当たることなく、第3の連通溝23を通って一直線にタイル1の上縁5における開口25に向かうので、外部へ流出し易い。
【0049】
同様に、本発明のタイル1は中央線Xから右に比較的遠い第4の位置18を含む右端部では、第2の右側線上に第4の連通溝24が形成され、第4の連通溝24は、タイル1の下縁7において外部に開口27で開口しているから、第2の横溝12及び第3の横溝13内の余剰な張り付けモルタル4及び空気は、第4の連通溝24を通ってタイル1の下縁7の開口27から外部に流出する。
【0050】
特に、第4の連通溝24は、第2の右側線R2上で第2の横溝12から第3の横溝13を交差して下縁7における開口27で開口しているから、第2の横溝12からの余剰な張り付けモルタル4及び空気は、第3の横溝13の溝壁にクランク状に突き当たることなく、第4の連通溝24を通ってタイル1の下縁7における開口27に向かい、外部へ流出し易い。
【0051】
この結果、タイル1の裏面9における左端部及び右端部でも、張り付けモルタル4が第1〜3の横溝11〜13内において充填のばらつきが生じること防止される。また、タイル1の裏面9における左端部及び右端部で、第1〜3の横溝11〜13内の空気の排気性を高まる。これにより、タイル1の裏面9における左端部及び右端部でも、張り付けモルタル4は均等且つ密に充填され、張り付けモルタル4により建物の躯体2にタイル下地3を介して均等且つ強固に付着する。
【0052】
さらに、第3及び第4の連通溝23、24内を流動した余剰な張り付けモルタル4が、開口25、27から外部に流れ出し、上縁5及び下縁7に沿って流れる。この結果、第1〜3の横溝11〜13の左右側縁6、8における開口6’、8’から流れ出た張り付けモルタル4とともにタイル1の外周囲を囲うようにタイル1に付着するので、この点からも強力な接着が可能となる。この場合、タイル1の裏面9の外周囲に面取り部33が形成されていると、面取り部33内に余剰な張り付けモルタル4が入り込み、より強力に接着される。
【0053】
以上のとおり、本発明は、タイル1の長手方向に延びる第1〜3の横溝11〜13内にに張り付けモルタル4が充填され、さらに、タイル1の裏面9の中央部において、第3の連通溝23により第1の横溝11と第2の横溝12が互いに連通するとともに、第4の連通溝24により第2の横溝12と第3の横溝13が互いに連通し、さらに、タイル1の裏面9の左右側縁6、8において第1〜3の横溝11〜13がそれぞれ外部に開口6’、8’で開口し、タイル1の裏面9の上下縁5、7において第3及び第4の連通溝23、24が外部に開口25、27で開口する構成とした。
【0054】
この結果、第1〜3横溝11〜13間で張り付けモルタル4の出入りが可能となるとともに、空気が第3及び第4の連通溝23、24から外部に効果的に排出され、この結果、均一な充填が可能となる。
【0055】
また、第3及び第4の連通溝23、24から開口25、27を通して外部に流れ出た余剰な張り付けモルタル4は、上縁5及び下縁7に沿って流れ、この結果、第1〜3の横溝11〜13の左右端の開口6’、8’から外部に流れ出た張り付けモルタル4とともにタイル1の周囲を囲うようにタイル1に付着するので、この点からも強力な接着が可能となる。
【0056】
そして、この発明は従来のタイル(特許文献4参照)のように、タイルの裏面の溝部を格子状に形成する必要がなく、従来の横溝のみのタイル(特許文献1参照)に、部分的に縦方向の連通溝を加えた構成であるから、プレスによる生産作業が、がきわめて簡単、且つ正確な溝部10が形成可能となる。
【0057】
(試験例)
本発明者は、上記実施例タイル1について、引張試験を実施し、従来例に較べて本発明のタイル1の溝の張り付けモルタル4との接着強度を確認した。この引張試験では、本発明の上記実施例の構成のタイル1(以下、「本発明タイル1」という)と、従来例タイル35とを比較した。いずれのタイルも陶磁器質の材料をプレスで形成したものである。
【0058】
試験対象のタイルの寸法(単位はmm)を図4に示す。本発明タイル1は、図4(a)に示すように、外形寸法は、横95mm、縦45mm、厚さ7mmであり、裏面9に形成された第1〜3の横溝11〜13の幅寸法7mm、第1〜4の連通溝21〜24の幅寸法は5mmである。一方、従来例タイル35は、図4(b)に示すように、裏面9には連通溝は形成されてない構成であり、それ以外は、本発明タイル1と同じ構成、外形寸法、横溝の幅寸法である。
【0059】
試験は、本発明タイル1にそれぞれ図3(b)に示すように、建物のコンクリート躯体2にモルタル下地3を形成し、その上に張り付けモルタル4を塗布してこれに、本発明タイル1を当接して張り付けた。そして、このタイル1に引張試用のアタッチメント38を介して引張試験機(オックスジャッキ(株)製、「建研式接着力試験器LPT1000-1-A」)によって、タイル1の張り付け日から期間をおいて3回、引張試験を行った。従来例タイル35についても同様な試験を行った。
【0060】
図6は、この引張試験の結果を示す表及びグラフである。図6(a)に示す表は、タイルの張り付け日から期間をおいて行った3回の引張試験の本発明タイル1及び従来例タイル35のそれぞれについて得られた、破断荷重及び強度の試験結果である。
【0061】
図6(a)の表中、「破断荷重」は、引張試験の引張荷重により、タイル1と張り付けモルタル4の間が破断した荷重であり、その単位はKN(キロニュートン。参考までに1KN=101.9Kgf)である。また、「強度」は、破断強度÷タイル面積(45×95mm=4274mm)であり、その単位は、KN/mmである。
【0062】
図6(b)のグラフは、図6(a)の表に示した3回の引張試験日の試験結果について、強度をプロットした図である。
【0063】
図6(a)、(b)の引張試験の試験結果からすると、引張試験日の直後では、本発明タイル1も従来例タイル35も強度に差はないが、期間が経過すると、本実施例タイル1は強度が増し、一方、従来例タイル35は強度が落ちるという結果が得られた。
【0064】
その理由は、本発明タイル1では、第1〜3の横溝11〜13及び第1〜4の連通溝21〜24から余剰な張り付けモルタル4及び空気が逃がされ、均等且つ密に張り付けモルタル4が充填され、一方、従来例タイル1では、第1〜3の横溝11〜13内では空気が残留しがちであり、また張り付けが均一に充填しにくいということに起因するものと考えられる。
【0065】
実際、上記試験結果が示すとおり、タイル張付けモルタル(タイル張付け材)の流動性の向上が確認でき、それにより、タイル溝内の空気溜まりができにくくなり、建物の躯体との接着面積が向上し接着力が上がるという結果が得られた。また、本発明のタイルは溝部が増えたことにより軽量化が図られ、従来例のタイル35の1個の重量が54.39グラムであったのに比較し、本発明タイル1は54.28グラムであり、多量タイルを運送する際に、運搬費を節約でき、また取扱いの点できわめて好都合である。
【0066】
(施工例)
外壁への張り付けに際しては、張り付けモルタル4を建物の躯体2にタイル下地3を介して塗りつけてから、この張り付けモルタル4の表面にタイル1を押し当てる。実際は、図5(a)に示すように、上記実施例のタイル1を縦横3列づつに合計9つを一群とし、その表面において台紙36に貼り付け、これら一群のタイルをその裏面から張り付けモルタル4の表面に押し当てて張り付ける。
【0067】
ところで、図5(b)に示すタイル1は、本発明の開発過程の途中で得られた別態様のタイル37であり、このタイル37は、上記本発明の実施例と同様に、タイル1の裏面9に第1〜3の横溝11〜13が形成されている。そして、中央線Xについて左側の部分において第1の横溝11と第2の横溝12との間に第1の連通溝21が形成されており、右側の部分において第2の横溝12と第3の横溝13との間に第2の連通溝22が形成されている。
【0068】
そして、本発明のタイル1は、図5(c)に示すように、従来例のタイル35と、別態様のタイル37とを適宜組み合わせて縦横に配列して、それらの表面を台紙36に貼り付けて一群として用いてもよい。
【0069】
以上、本発明に係るタイルを実施するための最良の形態を実施例に基づいて説明したが、本発明はこのような実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的事項の範囲内でいろいろな実施例があることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明に係るタイルは、上記のような構成であるから、建物の外壁の躯体の外装用のタイル1だけでなく、キッチン、浴室等建物内外の壁や床の外装や、その他陶磁器質タイル全般を意匠として張り付ける各種の構造物に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施例のタイルの裏面の平面図であり、(b)、(c)、(d)は、それぞれA−A、B−B、C−C断面図である。
【図2】(a)、(b)は、それぞれ本発明の実施例の変形例1、2のタイルの裏面の平面図である。
【図3】(a)は本発明の実施例のタイルの貼り付け構造を説明する断面図であり、(b)は試験例を説明するための断面図である。
【図4】(a)、(b)は、それぞれ引張試験の本発明タイル及び従来例タイルについての平面図(左図)及び側面図(右図)である。
【図5】(a)は台紙に貼り付けた本発明の実施例のタイルの一群を示し、(b)は別態様のタイルを示し、(c)は台紙に貼り付けた本発明の実施例のタイル、従来例のタイル及び別態様を組み合わせて成る一群を示す。
【図6】(a)、(b)は試験例の試験結果の表及びそのグラフである。
【符号の説明】
【0072】
1 タイル
2 建物の躯体(例えば、コンクリート躯体)
3 タイル下地
4 張り付けモルタル
5 上縁
6 左側縁
6’ 第1〜3の横溝の左側縁における開口
7 下縁
8 右側縁
8’ 第1〜3の横溝の右側縁における開口
9 タイルの裏面
10 溝部
11 第1の横溝
12 第2の横溝
12’ 横溝
13 第3の横溝
14 中心位置
15 第1の位置
16 第2の位置
17 第3の位置
18 第4の位置
21 第1の連通溝
22 第2の連通溝
23 第3の連通溝
24 第4の連通溝
25 開口
27 開口
28、29横溝
31 変形例1のタイル
32 変形例2のタイル
33 タイルの裏面の外周囲が面取り部
35 従来例タイル
36 台紙
37 別態様のタイル
38 引張試用のアタッチメント
X 中央線
L1 第1左側線
R1 第1右側線
L2 第2左側線
R2 第2右側線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上縁、左側縁、下縁及び右側縁で囲まれ外形が長方形であり、裏面にタイル張付け材が充填される溝部が形成されたタイルであって、前記溝部は、
長手方向に直線的に延び、上下方向に間隔おいて互いに平行に形成され、該長手方向の両端において左側縁及び右側縁にそれぞれ開口した複数本の横溝と、
長手方向中央で長手方向に直交する中央線の両側に位置する第1の左側線及び第1の右側線において、第1の右側線上に配列され、前記上縁及び下縁で開口することなく前記複数の横溝を縦方向に横断的に結んで連通する第1の連通溝、及び第1の左側線上に配列され、前記上縁及び下縁で開口することなく前記複数の横溝を縦方向に横断的に結んで連通する第2の連通溝と、
前記中央線の両側に位置し、前記第1の左側線及び第1の右側線より長手方向に離れた位置で長手方向に直交する第2の左側線及び第2の右側線において、第2左側線上に配列され前記上縁から前記複数の横溝までを縦方向に横断的に結んで連通し、かつ前記上縁のみで開口した第3の連通溝、及び第2の右側線上に配列され前記下縁から前記複数の横溝を縦方向に横断的に結んで連通し、かつ下縁のみで開口した第4の連通溝とから構成されることを特徴とするタイル。
【請求項2】
上縁、左側縁、下縁及び右側縁で囲まれ外形が長方形であり、裏面にタイル張付け材が充填される溝部が形成されたタイルであって、前記溝部は、
長手方向に直線的に延び、上下方向に間隔おいて互いに平行に形成され、該長手方向の両端において左側縁及び右側縁にそれぞれ開口した奇数の複数本の横溝と、
長手方向中央で長手方向に直交する中央線の両側に対称的に位置する第1の左側線及び第1の右側線において、第1の右側線上に配列され、前記上縁及び下縁で開口することなく、前記複数の横溝のうち最上段の横溝から上下方向の中心となる横溝までを縦方向に横断的に結んで連通する第1の連通溝、及び第1の左側線上に配列され、前記上縁及び下縁で開口することなく、前記複数の横溝のうち最下段から上下方向の中心となる横溝までを縦方向に横断的に結んで連通する第2の連通溝と、
前記中央線の両側に対称的に位置し、前記第1の左側線及び第1の右側線より長手方向に離れた位置で長手方向に直交する第2の左側線及び第2の右側線において、第2左側線上に配列され、前記上縁から上下方向の中心となる横溝までを縦方向に横断的に結んで連通し、かつ前記上縁のみで開口した第3の連通溝、及び第2の右側線上に配列され、前記下縁から上下方向の中心となる横溝までを縦方向に横断的に結んで連通し、かつ下縁のみで開口した第4の連通溝とから構成されることを特徴とするタイル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−13887(P2010−13887A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176689(P2008−176689)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(508205268)有限会社ミトモ (5)
【Fターム(参考)】