説明

タウレベルを調節するための方法および組成物

細胞中のアセチル化タウポリペプチドのレベルを低下させるための方法および薬剤が提供される。個体においてタウオパチーを治療する方法もまた提供される。また、個体において認知機能障害疾患を診断する方法も提供される。タウオパチーを治療するのに適した薬剤を同定する方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本出願は、参照によりその全文が本明細書に組み込まれる、2009年11月6日に出願された米国仮特許出願第61/258,822号の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
神経変性疾患とは、中年から高齢期に発症するような、重篤な、進行性の認知障害および運動機能障害もたらす、遺伝性および後天性の神経障害の不均一な群を表す。認知症の最も一般的な原因は、アルツハイマー病である。アルツハイマー病の症例の5%未満において、遺伝性因子が関与しており、症例の残りは弧発性である。
【0003】
タウタンパク質は、中枢神経系において発現され、細胞内微小管ネットワークを安定化することによって神経構造において重要な役割を果たす。末端切断、過剰リン酸化によってか、または6種の天然に存在するタウアイソフォーム間のバランスを崩すことのいずれかによって、タウタンパク質の生理学的役割が損なわれることが、神経原線維変化(NFT)、変性神経突起およびニューロピルスレッドの形成につながる。これらの構造は、アルツハイマー病(AD)の超微細構造的特徴に相当する。これらの構造の主要なタンパク質サブユニットは、微小管結合タンパク質タウである。AD患者の剖検において見出されるNFTの量は、知性の低下を含む臨床症状と相関する。したがって、タウタンパク質は、ADの病理において重要な役割を果たす。タウ遺伝子中の特定の突然変異の、染色体17に関連するパーキンソニズムを伴う疾患、前頭側頭型認知症(FTDP−17)との同時分離という最近の発見によって、タウタンパク質における特定の異常が、罹患個体における神経変性および認知症の根本的な原因であり得ることが確認された。
【0004】
当技術分野では、タウオパチーを治療する方法が必要である。
【0005】
文献
米国特許出願公開第2009/0117543号;同第2008/0194803号;同第2006/0025337号。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
細胞中のアセチル化タウポリペプチドのレベルを低下させるための方法および薬剤が提供される。個体においてタウオパチーを治療する方法も提供される。また、個体において認知機能障害疾患を診断する方法も提供される。タウオパチーを治療するのに適した薬剤を同定する方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】in vitroおよびin vivoでのタウのアセチル化を表す図である。図1Bは、配列番号1を表す図である。
【図2】p300アセチルトランスフェラーゼによるタウのアセチル化を表す図である。
【図3】in vitro細胞培養におけるSIRT1、SIRT2およびHDAC6によるタウの脱アセチル化を表す図である。
【図4】in vitroニューロンおよびin vivoにおけるタウアセチル化のSIRT1媒介性低減を表す図である。図4Dは、配列番号52を表す図である。
【図5】タウとのSIRT1相互作用を表す図である。
【図6】タウ代謝回転およびタウユビキチン化に対するアセチル化の効果を表す図である。
【図7】病的状態下でのタウアセチル化の上昇を表す図である。
【図8】p−タウに対するタウアセチル化の低減の効果を表す図である。
【図9】ヒトタウアイソフォームアミノ酸配列のアミノ酸配列アラインメントを表す図である。
【図10】ラット、マウスおよびヒトタウ(アイソフォーム2)アミノ酸配列のアミノ酸配列アラインメントを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
定義
本明細書で使用する場合、用語「治療」、「治療すること」などは、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを指す。効果は、疾患もしくはその症状を完全に、もしくは部分的に防ぐという点で予防的であり得る、かつ/または疾患および/もしくは疾患に起因する悪影響の部分的もしくは完全な治癒という点で治療的であり得る。本明細書で使用する場合、「治療」とは、哺乳類における、例えば、ヒトにおける疾患の任意の治療を対象とし、(a)疾患の素因がある可能性があるが、まだそれに罹っているとは診断されていない対象において疾患が発生するのを防ぐこと、(b)疾患を阻害すること、すなわち、その進行を停止すること、(c)疾患を軽減すること、例えば、疾患の退縮を引き起こして、例えば、疾患の症状を完全または部分的に除去することを含む。
【0009】
用語「有効な量」または「治療上有効な量」とは、治療されている病状の治療のために提供するのに、そうでなければ、所望の効果(例えば、有効な免疫応答の誘導、慢性免疫機能亢進の低減など)を提供するのに十分な投与量を意味する。正確な投与量は、対象依存性変数(例えば、体重、年齢など)、疾患および達成される治療などの種々の因子に従って変わるであろう。
【0010】
本明細書において同義的に使用される、用語「個体」、「宿主」、「対象」および「患者」とは、それだけには限らないが、マウス、ウサギ類、非ヒト霊長類、ヒトなどを含む哺乳類を指す。いくつかの実施形態では、個体は、ヒトである。いくつかの実施形態では、個体は、げっ歯類(例えば、マウス、ラットなど)またはウサギ類である。
【0011】
「医薬上許容される賦形剤」、「医薬上許容される希釈剤」、「医薬上許容される担体」および「医薬上許容されるアジュバント」とは、一般に、安全で、非毒性で、生物学的にも、それでなくとも、望ましくないものではない、医薬組成物の調製において有用である賦形剤、希釈剤、担体およびアジュバントを意味し、獣医学的使用ならびにヒト製薬学的使用に許容される賦形剤、希釈剤、担体およびアジュバントが挙げられる。明細書および特許請求の範囲において使用される「医薬上許容される賦形剤、希釈剤、担体およびアジュバント」は、1種および2種以上のこのような賦形剤、希釈剤、担体およびアジュバントを含む。
【0012】
本明細書で使用する場合、「医薬組成物」は、哺乳類、例えば、ヒトなどの対象へ投与するのに適した組成物を包含するものとすることを意味する。一般に、「医薬組成物」は、無菌であり、対象内で望ましくない反応を誘発できる汚染物質を含まない(例えば、医薬組成物中の化合物(類)は、製薬等級である)。医薬組成物は、経口、頬側、直腸、非経口、腹腔内、皮内、気管内などを含むいくつかの異なる投与経路によって、それを必要とする対象または患者へ投与するために設計できる。いくつかの実施形態では、組成物は、ジメチルスルホキシド(DMSO)以外の浸透促進剤を使用する経皮経路による投与に適している。その他の実施形態では、医薬組成物は、経皮投与以外の経路による投与に適している。医薬組成物は、いくつかの実施形態では、化合物と、医薬上許容される賦形剤とを含むであろう。いくつかの実施形態では、医薬上許容される賦形剤は、DMSO以外である。
【0013】
本明細書で使用する場合、本発明の化合物の「医薬上許容される誘導体」は、その塩、エステル、エノールエーテル、エノールエステル、アセタール、ケタール、オルトエステル、ヘミアセタール、ヘミケタール、酸、塩基、溶媒和物、水和物またはプロドラッグを含む。このような誘導体は、このような誘導体化のための既知の方法を使用して、当業者によって容易に調製できる。製造された化合物は、実質的な毒性作用を伴わずに動物またはヒトに投与でき、医薬上活性であるか、プロドラッグであるかのいずれかである。
【0014】
化合物の「医薬上許容される塩」とは、医薬上許容され、親化合物の所望の薬理学的活性を有する塩を意味する。このような塩として、(1)塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などといった無機酸を用いて形成されるか、もしくは酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、シクロペンタンプロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、3−(4−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2−エタンジスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、4−クロロベンゼンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、4−トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、グルコヘプタン酸、4,4’−メチレンビス−(3−ヒドロキシ−2−エン−1−カルボン酸)、3−フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、第三級ブチル酢酸、ラウリル硫酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヒドロキシナフトエ酸、サリチル酸、ステアリン酸、ムコン酸などといった有機酸を用いて形成される酸付加塩;または(2)親化合物中に存在する酸性プロトンが、金属イオン、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類イオンもしくはアルミニウムイオンによって置換されるか、または、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N−メチルグルカミンなどといった有機塩基を配位させるかのいずれかの場合に形成される塩が挙げられる。
【0015】
本発明をさらに説明する前に、本発明は、記載される特定の実施形態に制限されず、そのようなものとして、当然変わり得ることは理解されるべきである。また、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ制限されるので、本明細書に使用される技術用語は、単に、特定の実施形態を説明する目的のためのものであって、制限されることを意図しないということも理解されるべきである。
【0016】
値の範囲が提供される場合には、その範囲の上限と下限の間の、文脈が明確に他を示さない限り、下限の単位の10分の1までの各介在値、および記載される任意のその他の値またはその記載される範囲中の介在値は、本発明内に包含されることが理解される。これらのより小さい範囲の上限および下限は、独立に、より小さい範囲中に含まれてよく、また本発明内に包含され、記載された範囲中の任意の具体的に除外される限界に制約される。記載された範囲が、限界の一方または両方を含む場合には、それらの含まれる限界のいずれかまたは両方を除外する範囲も本発明中に含まれる。
【0017】
特に断りのない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同一の意味を有する。本発明の実施または試験においては、本明細書に記載されるものと類似または同等の任意の方法および材料も使用できるが、好ましい方法および材料をここで記載する。本明細書に記載されるすべての刊行物は、刊行物が引用されているものと関連して、方法および/または材料を開示および記載するために参照によって本明細書に組み込まれる。
【0018】
本明細書で使用する場合、および添付の特許請求の範囲において使用する場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈が他を明確に示さない限り、複数の指示対象を含むということは注記しなければならない。したがって、例えば、「タウポリペプチド」への言及は、複数のタウポリペプチドを含み、「薬剤」への言及は、1種または複数の薬剤および当業者に公知のその同等物などへの言及を含む。さらに、特許請求の範囲は、任意の任意選択要素を除外するよう書かれ得るということを注記する。そのようなものとして、この記載は、「単独で」、「単に」などといった排他的技術用語を、特許請求の範囲の要素の記述と関連して使用するための、または「負の」制限を使用するための先行詞として役立つものとする。
【0019】
本明細書で議論される刊行物は、本願の出願日に先行するその開示内容について単独で提供される。本明細書において、本発明が、先行発明のために、このような刊行物に先行する資格がないという容認として何も解釈されるべきではない。さらに。提供される刊行物の日付は実際の公開日とは異なる場合があり、これは、独立に確認される必要があり得る。
【0020】
細胞中のアセチル化タウポリペプチドのレベルを低下させる方法および薬剤が提供される。個体においてタウオパチーを治療する方法も提供される。また、個体において認知機能障害疾患を診断する方法も提供される。タウオパチーを治療するのに適した薬剤を同定する方法も提供される。
【0021】
以下の観察を行なった:1)タウがアセチル化される;2)初期のアルツハイマー病(例えば、軽度の認知機能障害)患者においてタウのアセチル化が増加する;3)疾患においてタウのアセチル化が、タウのリン酸化に先行する;4)タウが、ヒストン脱アセチル化酵素(例えば、SIRT1、SIRT2、HDAC6)によって脱アセチル化される;5)タウが、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(例えば、p300)によってアセチル化される。タウのアセチル化を阻害する薬剤およびアセチル化タウを脱アセチル化する薬剤が、タウを産生する細胞中の、例えば、ニューロンまたはグリア細胞中のアセチル化タウのレベルを低下させるのに適している。このような薬剤は、個体においてタウオパチーを治療するのに有用である。
【0022】
アセチル化タウのレベルは、認知機能障害疾患の診断手段を提供でき、タウオパチーの治療に対する応答についてのマーカーとして役立ち得る。従って、アセチル化タウに特異的な抗体は、提供される種々の診断アッセイにおいて有用である。
【0023】
タウオパチーの治療において使用するための候補薬剤の同定は、アセチル化タウの脱アセチル化を増大する薬剤を同定することによって、またはタウのアセチル化を阻害する薬剤を同定することによって実施できる。したがって、本開示内容は、タウオパチーを治療するのに適した薬剤を同定する方法を提供する。
【0024】
神経細胞中のアセチル化タウポリペプチドのレベルを低下させる方法
本開示内容は、細胞(例えば、タウを正常に産生する細胞、例えば、ニューロンまたはグリア細胞)中のアセチル化タウ(Ac−タウ)ポリペプチドのレベルを低下させる方法を提供する。本方法は、概して、細胞(例えば、神経細胞またはグリア細胞)を、細胞中のAc−タウポリペプチドのレベルを低下させる薬剤、例えば、細胞中のAc−タウポリペプチドを脱アセチル化するポリペプチドの活性を高める薬剤;細胞中のタウポリペプチドをアセチル化するポリペプチドの活性を低下させる薬剤などと接触させることを含む。本開示内容は、個体においてタウオパチーを治療する方法を提供する。個体において細胞(例えば、神経細胞またはグリア細胞)中のAc−タウのレベルを低下させる薬剤の有効量を、それを必要とする個体に投与することを含む方法。
【0025】
タウアミノ酸配列は、当技術分野で公知である。例えば、以下の括弧中のGenBank受託番号の下で見られるアミノ酸配列を参照のこと:ヒトタウ転写物変異体1 mRNA(NM_016835.3)およびアイソフォーム1タンパク質(NP_058519.2);ヒトタウ転写物変異体2 mRNA(NM_005910.4)およびアイソフォーム2タンパク質(NP_005901.2);ヒトタウ転写物変異体3 mRNA(NM_016834.3)およびアイソフォーム3タンパク質(NP_058518.1);ヒトタウ転写物変異体4 mRNA(NM_016841.3)およびアイソフォーム4タンパク質(NP_058525.1);ヒトタウ転写物変異体5 mRNA(NM_001123067.2)およびアイソフォーム5タンパク質(NP_001116539.1);およびヒトタウ転写物変異体6 mRNA(NM_001123066.2)およびアイソフォーム6タンパク質(NP_001116538.1)。
【0026】
例示的タウアミノ酸配列が、図9A〜D(それぞれ、配列番号:1〜6)に表されており、ここでは、図9A〜D中の配列は、:ヒトタウアイソフォーム2(GenBank受託番号NP_005901;配列番号1);ヒトタウアイソフォーム3(GenBank受託番号NP_058518;配列番号2);ヒトタウアイソフォーム4(GenBank受託番号NP_058525;配列番号3);ヒトタウアイソフォーム5(GenBank受託番号NP_001116539;配列番号4);ヒトタウアイソフォーム1(GenBank受託番号NP_058519;配列番号5);およびヒトタウアイソフォーム6(GenBank受託番号NP_001116538;配列番号6)である。配列番号:1〜6に示されるアミノ酸配列は、図9A〜Dにおいてアラインされている。
【0027】
図10は、ヒトタウアイソフォーム1(配列番号1)、ラットタウ(配列番号7)およびマウスタウ(配列番号8)のアミノ酸配列アラインメントを表す。
【0028】
タウポリペプチドは、配列番号:1〜6に示されるアミノ酸配列のいずれか1種の約350個の一続きの連続したアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。タウポリペプチドは、配列番号2(ヒトタウアイソフォーム3)に示されるアミノ酸配列のうち、約350個のアミノ酸〜約383個の一続きの連続したアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。タウポリペプチドは、配列番号4(ヒトタウアイソフォーム5)に示されるアミノ酸配列のうち、約350個のアミノ酸〜約412個の一続きの連続したアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。タウポリペプチドは、配列番号1(ヒトタウアイソフォーム2)に示されるアミノ酸配列のうち、約350個のアミノ酸〜約400個のアミノ酸または約400個のアミノ酸〜約441個の一続きの連続したアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。タウポリペプチドは、配列番号5(ヒトタウアイソフォーム1)に示されるアミノ酸配列のうち、約350個のアミノ酸〜約400個のアミノ酸、約400個のアミノ酸〜約500個のアミノ酸、約500個のアミノ酸〜約600個のアミノ酸、約600個のアミノ酸〜約700個のアミノ酸または約700個のアミノ酸〜約758個の一続きの連続したアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。タウポリペプチドは、配列番号6(ヒトタウアイソフォーム6)に示されるアミノ酸配列のうち、約350個のアミノ酸〜約400個のアミノ酸、約400個のアミノ酸〜約500個のアミノ酸、約500個のアミノ酸〜約600個のアミノ酸、約600個のアミノ酸〜約700個のアミノ酸または約700個のアミノ酸〜約776個の一続きの連続したアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。
【0029】
図1Bは、タウアイソフォーム2ポリペプチド(配列番号1)のアミノ酸配列を提供する。配列番号1に示され、図1Bに示されるアミノ酸配列のチューブリン結合領域は、アミノ酸243〜274、アミノ酸275〜305およびアミノ酸337〜368を含む。その他のタウポリペプチド中の対応するチューブリン結合領域は、実験的に、または図12A〜Dに示されるアミノ酸配列アラインメントを調べることによって容易に決定できる。
【0030】
タウアイソフォーム2ポリペプチド(例えば、図1Bに表され、配列番号1に示されるような)の可能なリン酸化部位として、以下のアミノ酸:46、50、69、111、123、153、175、181、195、198、199、202、205、208、210、212、214、217、231、235、237、238、258、262、293、305、320、324、352、356、373、394、396、400、404、409、412、413、416および422が挙げられる。例えば、タウポリペプチドのセリン残基46、199、202、235、262、396、404および422のうち1つもしくは複数ならびに/またはトレオニン残基50、69、111、153、175、181、205、212、217および231のうち1つまたは複数がリン酸化され得る。その他のタウポリペプチド中の対応するリン酸化部位は、実験的に、または図9A〜Dおよび図10に示されるアミノ酸配列アラインメントを調べることによって容易に決定できる。
【0031】
タウポリペプチドは、約350個のアミノ酸〜約780個のアミノ酸、例えば、約350個のアミノ酸〜約385個のアミノ酸、約385個のアミノ酸〜約415個のアミノ酸、約415個のアミノ酸〜約445個のアミノ酸、約445個のアミノ酸〜約760個のアミノ酸または約760個のアミノ酸〜約780個のアミノ酸の長さを有し得る。いくつかの実施形態では、タウポリペプチドは、352個のアミノ酸、383個のアミノ酸、412個のアミノ酸、441個のアミノ酸、758個のアミノ酸または776個のアミノ酸の長さを有する。
【0032】
タウポリペプチド上のいくつかのリシン(Lys)残基が、アセチル化され得る。例えば、タウアイソフォーム2は、それだけには限らないが、Lys−163、Lys−174、Lys−180、Lys−190、Lys−267、Lys−274、Lys−281、Lys−369およびLys−385(例えば、図1Bに表され、配列番号1に示されるアミノ酸配列の)を含む1個または複数のアミノ酸でアセチル化され得る。その他のタウポリペプチド中の対応するアセチル化部位は、実験的に(例えば、実施例に記載されるように)、または図9A〜Dに示されるアミノ酸配列アラインメントを調べることによって容易に決定できる。例えば、図9A〜Dに示されるように、タウアイソフォーム2のLys−163は、タウアイソフォーム3のアミノ酸105、タウアイソフォーム4のアミノ酸105、タウアイソフォーム5のアミノ酸134、タウアイソフォーム6のアミノ酸480およびタウアイソフォーム1のアミノ酸580に対応する。
【0033】
いくつかの実施形態では、アセチル化タウポリペプチドは、タウアイソフォーム2ポリペプチドのLys−163、Lys−174、Lys−180、Lys−190、Lys−267、Lys−274、Lys−281、Lys−369およびLys−385または異なるタウアイソフォーム中の対応するリシン残基のうち2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つまたは9つでアセチル化される。いくつかの実施形態では、アセチル化タウポリペプチドは、タウアイソフォーム2ポリペプチドのアセチル化Lys−163、アセチル化Lys−174およびアセチル化Lys−190または異なるタウアイソフォーム中の対応するリシン残基を含む。いくつかの実施形態では、アセチル化タウポリペプチドは、タウアイソフォーム2ポリペプチドのアセチル化Lys−163、アセチル化Lys−174、アセチル化Lys−180、アセチル化Lys−190、アセチル化Lys−267、アセチル化Lys274、アセチル化Lys−281、アセチル化Lys−369およびアセチル化Lys−385または異なるタウアイソフォーム中の対応するリシン残基を含む。
【0034】
タウを正常に産生する細胞(例えば、神経細胞、グリア細胞)中のアセチル化タウポリペプチドのレベルを低下させる薬剤として、細胞中のアセチル化タウポリペプチドのレベルを、薬剤の不在下での細胞中のアセチル化タウポリペプチドのレベルと比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%または80%超低下させる薬剤が挙げられる。
【0035】
細胞中(例えば、ニューロンまたはグリア細胞などの、タウを正常に産生する細胞中)のアセチル化タウポリペプチドのレベルの低下は、リン酸化タウのレベルの低下および/または総タウのレベルの低下をもたらし得る。したがって、いくつかの実施形態では、細胞中の(例えば、ニューロンまたはグリア細胞などのタウを正常に産生する細胞中の)アセチル化タウポリペプチドのレベルを低下させる薬剤はまた、細胞中のリン酸化タウポリペプチドのレベルも低下させる。タウを正常に産生する細胞(例えば、神経細胞、グリア細胞)中のアセチル化タウポリペプチドのレベルを低下させる薬剤は、いくつかの実施形態では、細胞中のリン酸化タウのレベルを、薬剤の不在下での細胞中のリン酸化タウのレベルと比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%または80%超低下させる。
【0036】
細胞中(例えば、ニューロンまたはグリア細胞などの、タウを正常に産生する細胞中)のアセチル化タウポリペプチドのレベルの低下は、総タウのレベルの低下をもたらし得る。したがって、いくつかの実施形態では、細胞中の(例えば、ニューロンまたはグリア細胞などのタウを正常に産生する細胞中の)アセチル化タウポリペプチドのレベルを低下させる薬剤はまた、細胞中の総タウポリペプチドのレベルも低下させる。タウを正常に産生する細胞(例えば、神経細胞、グリア細胞)中のアセチル化タウポリペプチドのレベルを低下させる薬剤は、いくつかの実施形態では、細胞中の総タウのレベルを、薬剤の不在下での細胞中の総タウのレベルと比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%または80%超低下させる。
【0037】
細胞中の(例えば、ニューロンまたはグリア細胞などのタウを正常に産生する細胞中の)アセチル化タウポリペプチドのレベルの低下は、タウポリペプチドの生物活性の増大をもたらし得る。したがって、いくつかの実施形態では、細胞中の(例えば、ニューロンまたはグリア細胞などのタウを正常に産生する細胞中の)アセチル化タウポリペプチドのレベルを低下させる薬剤はまた、細胞中のタウポリペプチドの生物活性も増大させる。タウを正常に産生する細胞(例えば、神経細胞、グリア細胞)中のアセチル化タウポリペプチドのレベルを低下させる薬剤は、いくつかの実施形態では、細胞中の活性タウポリペプチドのレベルを、薬剤の不在下での細胞中の活性タウポリペプチドのレベルと比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約2倍、少なくとも約2.5倍、少なくとも約3倍、少なくとも約5倍、少なくとも約7倍、少なくとも約10倍または10倍超増大させる。タウ生物活性は、例えば、微小管の安定化を含む。
【0038】
タウ脱アセチル化を増大する薬剤
タウ脱アセチル化を増大する薬剤として、アセチル化タウポリペプチドを脱アセチル化するポリペプチドの活性を増大する薬剤が挙げられる。アセチル化タウポリペプチドを脱アセチル化するポリペプチドとして、例えば、ヒストン脱アセチル化酵素、SIRT1、SIRT2、HDAC6などが挙げられる。アセチル化タウポリペプチドを脱アセチル化するポリペプチドの活性を増大する薬剤として、例えば、SIRT1、SIRT2およびHDAC6のうち1種または複数の活性を増大する薬剤が挙げられる。アセチル化タウポリペプチドを脱アセチル化するポリペプチドの活性を増大する薬剤としてまた、このようなポリペプチドのタンパク質レベルを増大する薬剤、例えば、SIRT1、SIRT2、HDAC6などをコードするヌクレオチド配列を含む核酸が挙げられる。
【0039】
SIRT1
SIRT1((サイレント接合型情報調節2相同体)1としても知られる(S.セレビシエ(cerevisiae)))遺伝子は、タンパク質のサーチュインファミリーのメンバー、酵母Sir2タンパク質の相同体をコードする。サーチュインファミリーのメンバーは、サーチュインコアドメインを特徴とし、4種のクラスにグループ分けされる。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、サーチュインファミリーのクラスIに含まれる。選択的スプライシングによって、複数の転写バリアントが得られる。転写バリアント1(NM_012238.4)は、より長い転写物に相当し、より長いアイソフォーム(NP_036370.2)をコードする。転写バリアント2(NM_001142498.1)は、アイソフォームb(NP_001135970.1)をコードする。
【0040】
SIRT1ポリペプチドとして、タウを産生する細胞(例えば、神経細胞および/またはグリア細胞)において、アセチル化タウポリペプチドを脱アセチル化し、配列番号9に示されるアミノ酸配列(GenBank AAH12499;ヒトSIRT1)のうちの、約400個のアミノ酸〜約450個のアミノ酸または約450個のアミノ酸〜約555個の一続きの連続したアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられる。SIRT1ポリペプチドとして、タウを産生する細胞(例えば、神経細胞および/またはグリア細胞)において、アセチル化タウポリペプチドを脱アセチル化し、配列番号10に示されるアミノ酸配列(GenBank NP_036370;ヒトSIRT1アイソフォームa)のうちの、約500個のアミノ酸〜約600個のアミノ酸、約600個のアミノ酸〜約700個のアミノ酸または約700個のアミノ酸〜約747個の一続きの連続したアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられる。SIRT1ポリペプチドとして、タウを産生する細胞(例えば、神経細胞および/またはグリア細胞)において、アセチル化タウポリペプチドを脱アセチル化し、配列番号11に示されるアミノ酸配列(GenBank NP_001135970;ヒトSIRT1アイソフォームb)の約300個のアミノ酸〜約400個のアミノ酸または約400個のアミノ酸〜約452個の一続きの連続したアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられる。
【0041】
SIRT1アクチベーター
いくつかのSIRT1アクチベーターが、当技術分野で公知である。適したSIRT1アクチベーターは、SIRT1ポリペプチドの酵素活性(例えば、ニューロンまたはグリア細胞中のアセチル化タウポリペプチドを脱アセチル化することにおけるSIRT1ポリペプチドの酵素活性)を、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約2倍、少なくとも約2.5倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約20倍または20倍超増大し得る。いくつかの実施形態では、SIRT1アクチベーターは、SIRT1選択的アクチベーターである。
【0042】
適したSIRT1アクチベーターは、約1nM〜約1mM、例えば、約1nM〜約10nM、約10nM〜約15nM、約15nM〜約25nM、約25nM〜約50nM、約50nM〜約75nM、約75nM〜約100nM、約100nM〜約150nM、約150nM〜約200nM、約200nM〜約250nM、約250nM〜約300nM、約300nM〜約350nM、約350nM〜約400nM、約400nM〜約450nM、約450nM〜約500nM、約500nM〜約750nM、約750nM〜約1μM、約1μM〜約10μM、約10μM〜約25μM、約25μM〜約50μM、約50μM〜約75μM、約75μM〜約100μM、約100μM〜約250μM、約250μM〜約500μMまたは約500μM〜約1mMのEC50(半数効果濃度)でのSIRT1酵素活性を増大し得る。
【0043】
主題方法において使用するのに適しているSIRT1アクチベーターの例として、それだけには限らないが、レスベラトロール((E)−5−(p−ヒドロキシスチリル)レゾルシノール(E)−5−(4−ヒドロキシスチリル)ベンゼン−1,3−ジオール);または3,5,4’−トリヒドロキシ−トランス−スチルベン);ブテイン(3,4,2’,4’−テトラヒドロキシカルコン);ピセタノール(3,5,3’,4’−テトラヒドロキシ−トランス−スチルベン);イソリキリチゲニン(4,2’,4’−トリヒドロキシカルコン);フィセチン(3,7,3’,4’−テトラヒドロキシフラボン);ケルセチン(3,5,7,3’,4’−ペンタヒドロキシフラボン);米国特許第7,345,178号に記載されるSIRT1アクチベーター;米国特許出願公開第2008/02555382号に記載されるSIRT1アクチベーター;および米国特許出願公開第2009/0012080号に記載されるSIRT1アクチベーターが挙げられる。上述のSIRT1アクチベーターのいずれかの医薬上許容される塩も、主題方法において使用するのに適している。
【0044】
例えば、適したSIRT1アクチベーターとして、化合物がSIRT1活性を活性化するという条件で、米国特許第7,345,178号に記載される式I〜XXVIIIのいずれか1種の化合物(置換基は、米国特許第7,345,178号に記載されている)または米国特許第7,345,178号に記載される式I〜XXVIIIのいずれか1種の化合物の医薬上許容される塩がある。例えば、適したSIRT1アクチベーターとして、米国特許第7,345,178号の表4に示される化合物が挙げられる。
【0045】
例えば、適したSIRT1アクチベーターを、以下の表1に示す。
【0046】
【表1】




















































































【0047】
適したSIRT1アクチベーターの限定されない例として、例えば、
【0048】
【化1】

が挙げられる。
【0049】
その他の適したSIRT1アクチベーターとして、例えば、
【0050】
【化2】

が挙げられる。
【0051】
SRT1720、SRT1460およびSRT2183は、選択的SIRT1アクチベーターである。例えば、Milneら(2007年)Nature 450:712頁参照のこと。
【0052】
キノキサリン化合物であるSIRT1アクチベーターも使用するのに適している。適したキノキサリンSIRT1アクチベーターとして、例えば、3−ベンゼンスルホニル−1−(4−フルオロ−フェニル)−1H−ピロロ[2,3−b]キノキサリン−2イルアミン;2−アミノ−1−(2−エチル−フェニル)−1H−ピロロ[2,3−b]キノキサリン−3−カルボン酸(テトラヒドロ−フラン−2−イルメチル)−アミン;2−アミノ−1−(3−メトキシ−プロピル)−1H−ピロロ[2,3−b]キノキサリン−3−カルボン酸シクロペンチルアミドが挙げられる。例えば、Nayagamら(2006年)J.Biolmolec.Screening11:959頁参照のこと。
【0053】
その他の適したSIRT1アクチベーターとして、例えば、スチルベン化合物、例えば、米国特許出願公開第2008/0255382号に記載されるような、例えば、レスベラトロールのエステル類似体が挙げられる。例えば、適したSIRT1アクチベーターとして、例えば、3,5,4’−トリヒドロキシ−トランス−スチルベンのエステル類似体が挙げられる。
【0054】
【化3】

【0055】
エステル類似体として、次式:
【0056】
【化4】

[式中、各Yおよび各Zは、独立に、−O(エーテル)、−O−C=O、−C=O−O(エステル)、−O−C=O−O(炭酸塩)、−O−C=O−NH、−O=O−NR、−NH−C=O−O、−NR−C=O−O(カルバメート)、−NH−C=P、−NR−C=O、−C=O−NH、−C=O−NR(第一級および第二級アミド)−NH、−NR(第一級および第二級アミン)、−N(複素環式環)、−S(チオールエーテル)、およびハロゲンであり;
各nおよび各mは、独立に、1、2、3、4または5であり;
各Aおよび各Bは、独立に、H、Rであるか、または存在せず;
各Vおよび各Wは、独立に、H、1〜6個の炭素原子の直鎖または分岐アルキル、3〜8個の炭素原子のシクロアルキル、アルコキシ、フェニル、ベンジルまたはハロゲンであり、
Rは、少なくとも1個の炭素原子を有するアルキル、アリールまたはアラルキルである]
の化合物が挙げられる。
【0057】
適したSIRT1アクチベーターとして、例えば、4’−アセトキシ−3,5−ビス(メトキシメトキシ)スチルベン;4’−アセトキシ−3,5−ジヒドロキシスチルベン;3,5−ジアセトキシ−4’−クロロアセトキシスチルベン;3,5−ジアセトキシ−4’−ヒドロキシスチルベン;3,4’−ジアセトキシ−5−ヒドロキシスチルベン;3−アセトキシ−4’5−ジヒドロキシスチルベン;および3,4,5’−トリアセトキシスチルベンが挙げられる。
【0058】
適したSIRT1アクチベーターとして、米国特許出願公開第2009/0012080号に記載される式I〜VIのいずれか1種の化合物が挙げられる。例えば、適したSIRT1アクチベーターとして、次式:
【0059】
【化5】

で示される化合物がある。
【0060】
例えば、適したSIRT1アクチベーターとして、4−メチル−N−(2(3−モルホリノメチル)イミダゾール[2,1−b]チアゾール−6−イル)フェニル)−2−(ピリシン−3−イル)チアゾール−5−カルボキサミドまたはその医薬上許容される塩がある。
【0061】
特定の場合には、Ac−タウレベルを低下させる薬剤は、SIRT1アクチベーターではない。
【0062】
HDAC6
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)(EC番号3.5.1)は、ヒストン上のs−N−アセチルリシンアミノ酸からアセチル基を除去する酵素のクラスである。HDAC6(mRNA GenBank受託番号:NM_006044.2、タンパク質GenBank受託番号:NP_006035.2)は、細胞質、微小管結合酵素である。HDAC6は、チューブリン、Hsp90およびコルタクチンを脱アセチル化し、その他のパートナータンパク質と複合体を形成する。
【0063】
本明細書に記載されるように、HDAC6は、タウを脱アセチル化する。HDAC6の過剰発現は、Ac−タウのレベルを低下させる。HDAC6の活性を高める薬剤、例えば、HDAC6をコードするヌクレオチド配列を含む核酸は、主題方法において使用するのに適している。適したHDACアクチベーターの限定されない例として、例えば、テオフィリン(3,7−ジヒドロ−1,3−ジメチル−1H−プリン−2,6−ジオン);テオフィリン類似体などが挙げられる。
【0064】
SIRT2
本明細書に記載されるように、SIRT2は、タウを脱アセチル化する。SIRT2の活性を高める薬剤、例えば、SIRT2をコードするヌクレオチド配列を含む核酸は、主題方法において使用するのに適している。
【0065】
SIRT2ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、当技術分野で公知である。例えば、GenBank受託番号NM_012237(ヒト);GenBank受託番号NM_022432(マウス);NM_001008368.1(ラット);およびGenBank受託番号XM_001168375.1(チンパンジー)を参照のこと。
【0066】
タウのアセチル化を阻害する薬剤
タウアセチル化を阻害する薬剤として、タウポリペプチドをアセチル化するポリペプチドの活性を阻害する薬剤が挙げられる。タウポリペプチドをアセチル化するポリペプチドとして、アセチルトランスフェラーゼ、例えば、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、例えば、p300が挙げられる。タウポリペプチドをアセチル化するポリペプチドの活性を阻害する薬剤として、p300の活性を阻害する薬剤が挙げられる。特定の場合には、薬剤は、タウのアセチル化においてp300の活性を特異的に阻害する、例えば、薬剤は、セロトニンN−アセチルトランスフェラーゼなどの任意のその他のアセチルトランスフェラーゼまたはpCAF、GCN5(例えば、GenBank受託番号AAC50641)、Rtt109、SasおよびMOZなどのヒストンアセチルトランスフェラーゼを実質的に阻害しない。
【0067】
p300
P300はまた、E1A結合タンパク質p300(EP300)としても知られる。p300(mRNA、GenBank受託番号NM_001429.3;タンパク質、GenBank受託番号NP_001420.2)は、ヒストンアセチルトランスフェラーゼとして機能する。実施例の節において示されるように、p300もまた、タウをアセチル化する。
【0068】
p300ポリペプチドは、タウをアセチル化するポリペプチドを含み、配列番号12に示されるアミノ酸配列の約1800個のアミノ酸〜約2000個のアミノ酸、約2000個のアミノ酸〜約2200個のアミノ酸または約2200個のアミノ酸〜約2414個の一続きの連続したアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0069】
p300阻害剤
本明細書に記載されるように、p300は、タウをアセチル化し、タウ安定性を高め、タウの定常状態レベルの向上をもたらす。p300の活性を阻害し、主題方法において使用するのに適している薬剤として、それだけには限らないが、イソチアゾロンベースのヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)阻害剤;Lys−CoA;リシンと共有結合している、約5個のアミノ酸〜約20個のアミノ酸の長さのペプチドを含むLys−CoA誘導体;クルクミン;アナカルジン酸;ガルシノールとして知られるポリプレニル化ベンゾフェノン;p300特異的siRNA;米国特許第6,369,030号に記載される化合物;米国特許出願公開第2009/0076155号に記載されるp300阻害剤;Maiら(2009年)Bioorg.Med.Chem.Lett.19:1132頁に記載される4−ヒドロキシキノリン化合物などが挙げられる。Lys−CoAの構造は、Zhengら(2005年)J.Am.Chem.Soc.127:17182頁において化合物1として示されている(以下参照のこと)。いくつかの実施形態では、適したp300阻害剤は、選択的p300阻害剤である。いくつかの実施形態では、適したp300阻害剤は、細胞透過性である。使用するのに適している細胞透過性の、選択的p300阻害剤として、Zhengら(2005年)J.Am.Chem.Soc.127:17182頁に記載されるものが挙げられる。
【0070】
例えば、適したp300阻害剤として、化合物1〜8が挙げられ、ここで、親の式は、以下である:
【0071】
【化6】

[式中、
化合物1では、R=OCおよびR=CHであり;
化合物2では、R=OHおよびR=CHであり;
化合物3では、R=OCおよびR=C11であり;
化合物4では、R=OCおよびR=C1021であり;
化合物5では、R=OHおよびR=C1021であり;
化合物6では、R=OCおよびR=C1531であり;かつ
化合物7では、R=OHおよびR=C1531である]。
【0072】
例えば、Maiら(2009年)Bioorg.Med.Chem.Lett.19:1132頁参照のこと。
【0073】
例えば、適したp300阻害剤として、次式の以下に示される化合物2〜6が挙げられる:
【0074】
【化7】

[式中、
化合物1(Lys−CoA)では、X=Hであり;
化合物2では、X=YGRKKRRQRRR−COH(配列番号13)であり;
化合物3では、X=YGRKKRRQRRRGYK−NH(配列番号14)であり;
化合物4では、X=Ahx−R−Ahx−RR−Ahx−RR−Ahx−RR−Ahx−K−NH(配列番号15)であり;
化合物5では、X=GRRRRRRRRRRGK−NH(配列番号16)であり;かつ
化合物6では、X=Ahx−RRRRRRRRRR−NH(配列番号17)であり;
Ahxは、6−アミノヘキサン酸である]。
【0075】
いくつかのp300阻害剤が、当技術分野で公知である。適したp300阻害剤は、p300ポリペプチドの酵素活性(例えば、タウポリペプチドのアセチル化におけるp300ポリペプチドの活性)を、阻害剤の不在下でのp300ポリペプチドの活性と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%または80%超低下させ得る。
【0076】
適したp300阻害剤は、約1nM〜約1mM、例えば、約1nM〜約10nM、約10nM〜約15nM、約15nM〜約25nM、約25nM〜約50nM、約50nM〜約75nM、約75nM〜約100nM、約100nM〜約150nM、約150nM〜約200nM、約200nM〜約250nM、約250nM〜約300nM、約300nM〜約350nM、約350nM〜約400nM、約400nM〜約450nM、約450nM〜約500nM、約500nM〜約750nM、約750nM〜約1μM、約1μM〜約10μM、約10μM〜約25μM、約25μM〜約50μM、約50μM〜約75μM、約75μM〜約100μM、約100μM〜約250μM、約250μM〜約500μMまたは約500μM〜約1mMのIC50(半数阻害濃度)でp300酵素活性を阻害し得る。
【0077】
適したp300阻害剤として、C646、C375およびC146などの化合物が挙げられる。C646、C375およびC146の構造を以下に示す。
【0078】
【化8】

【0079】
適したp300阻害剤として、N−アルキル−およびN−アリール−置換イソチアゾロンが挙げられ;このような化合物は、p300の阻害剤(35μmol/Lで35〜90%阻害)として同定されている(Stimsonら(2005年10月1日) Mol Cancer Ther 4:1521頁)。これらのN置換イソチアゾロンベースの化合物を、表2および3に示す。
【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
CBP
いくつかの実施形態では、主題方法は、CREB結合タンパク質(CBP)阻害剤の使用を含む。いくつかの実施形態では、p300阻害剤はまた、CBPポリペプチドも阻害する。
【0083】
CBPポリペプチドは、当技術分野で公知である。例えば、GenBank受託番号NP_004371.2は、ヒトCBPのアミノ酸配列を提供し;GenBank受託番号XP_523285.2は、チンパンジーCBPのアミノ酸配列を提供し;GenBank受託番号XP_001095225.1は、アカゲザルCBPのアミノ酸配列を提供し;GenBank受託番号NP_596872.3は、ラットCBPのアミノ酸配列を提供し;GenBank受託番号NP_001020603.1は、マウスCBPのアミノ酸配列を提供する。GenBank受託番号NP_004371.2に示されるアミノ酸配列は、配列番号53としてここで提供される。
【0084】
タウオパチーを治療する方法
本開示内容は、個体においてタウオパチーを治療する方法を提供する。有効量の、細胞中のアセチル化タウのレベルを低下させる薬剤、例えば、タウポリペプチドをアセチル化するアセチルトランスフェラーゼのアセチルトランスフェラーゼ活性を阻害する薬剤、アセチル化タウポリペプチドを脱アセチル化する脱アセチル化酵素の脱アセチル化酵素活性を高める薬剤などを、それを必要とする個体に投与することを含む方法。
【0085】
タウオパチーは、少なくとも部分的には、例えば、神経原線維変化におけるタウタンパク質の病的凝集を特徴とする神経変性疾患である。タウオパチーの例として、前頭側頭型認知症、アルツハイマー病、進行性の核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ダウン症候群、ボクサー痴呆、封入体筋炎およびピック病としても知られる前頭側頭葉変性症が挙げられる。例示的タウオパチーとして、タウおよびアミロイド病理の共存を示す疾患、例えば、アルツハイマー病、クロイツフェルト・ヤコブ病、ボクサー痴呆、ダウン症候群、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー病、封入体筋炎およびプリオンタンパク質脳アミロイド血管症;明確なアミロイド病理を伴わない疾患、例えば、筋萎縮性側索硬化症/パーキンソニズム−認知症コンプレックス、嗜銀性グレイン型認知症、大脳皮質基底核変性症、カルシウム沈着を伴うびまん性神経原線維変化、染色体17に関連するパーキンソニズムを伴う前頭側頭型認知症、ハラーホルデン・スパッツ病、多系統萎縮症、ニーマン・ピック病C型、ピック病、進行性皮質下神経膠症、進行性核上性麻痺、亜急性硬化性全脳炎およびタングル優位型(tangle−predominant)アルツハイマー病が挙げられる。
【0086】
いくつかの実施形態では、主題方法は、タウポリペプチドのアセチル化を阻害する薬剤を投与することを含む。上記で説明したように、タウアセチル化を低減する薬剤として、タウポリペプチドをアセチル化するポリペプチドの活性を阻害する薬剤が挙げられる。タウポリペプチドをアセチル化するポリペプチドとして、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、例えば、p300が挙げられる。p300の活性を阻害するいくつかの薬剤が上記に、例えば、表2に開示されている。
【0087】
いくつかの実施形態では、主題方法は、Ac−タウポリペプチドの脱アセチル化を増大する薬剤を投与することを含む。上記に論じられるように、タウ脱アセチル化を増大する薬剤として、Ac−タウポリペプチドを脱アセチル化するポリペプチドの活性を高める薬剤が挙げられる。タウを脱アセチル化するポリペプチドとして、例えば、SIRT1、SIRT2、HDAC6などが挙げられる。アセチル化タウポリペプチドを脱アセチル化するポリペプチドの活性を高める薬剤として、例えば、SIRT1の活性を高める薬剤が挙げられる。SIRT1のいくつかのアクチベーターが上記に、例えば、表1に提供されている。アセチル化タウポリペプチドを脱アセチル化するポリペプチドの活性を高める薬剤として、例えば、SIRT2の活性を高める薬剤が挙げられる。アセチル化タウポリペプチドを脱アセチル化するポリペプチドの活性を高める薬剤として、例えば、HDAC6の活性を高める薬剤が挙げられる。
【0088】
いくつかの実施形態では、主題方法は、タウポリペプチドのアセチル化を阻害する薬剤およびAc−タウポリペプチドの脱アセチル化を増大する薬剤を投与することを含む。タウオパチーの治療において、Ac−タウポリペプチド脱アセチル化を増大する薬剤(単数または複数)およびタウポリペプチドアセチル化を低減する薬剤(単数または複数)の個々の投与に加えて、併用療法を使用してもよい。例えば、SIRT1アクチベーター(またはSIRT2アクチベーターまたはHDAC6アクチベーター)と、p300(またはCBP)阻害剤との組合せを、タウオパチーの治療のための併用療法において使用してもよい。併用療法は、いくつかの実施形態では、単剤療法においてタウ脱アセチル化酵素ポリペプチドまたはタウアセチルトランスフェラーゼの阻害剤を投与することよりも、タウオパチーの治療において有効である。タウポリペプチドのアセチル化を阻害する薬剤および/またはAc−タウポリペプチドの脱アセチル化を増大する薬剤は、本明細書において、「活性薬剤(active agents)」または「活性薬剤(active agent)」と呼ばれる。いくつかの実施形態では、タウポリペプチドのアセチル化を阻害する薬剤およびAc−タウポリペプチドの脱アセチル化を増大する薬剤は、併用療法において投与される場合、相乗作用をもたらす。
【0089】
個体においてタウオパチーを治療するための主題方法は、概して、個体において、有効量の、神経細胞においてタウポリペプチドのアセチル化を阻害する薬剤および/またはタウを産生する細胞(例えば、神経細胞および/またはグリア細胞)においてAc−タウポリペプチドの脱アセチル化を増大する薬剤を投与することを含む。いくつかの実施形態では、主題方法は、単剤療法、例えば、有効量の単一の活性薬剤、例えば、タウを産生する細胞(例えば、神経細胞および/またはグリア細胞)においてタウポリペプチドのアセチル化を阻害する薬剤を投与することを含む。いくつかの実施形態では、主題方法は、単剤療法、例えば、有効量の単一の活性薬剤、例えば、タウを産生する細胞(例えば、神経細胞および/またはグリア細胞)においてAc−タウポリペプチドの脱アセチル化を増大する薬剤を投与することを含む。いくつかの実施形態では、主題方法は、併用療法、例えば、細胞(例えば、ニューロン;グリア細胞)においてタウポリペプチドのアセチル化を阻害する薬剤と、細胞(例えば、ニューロン;グリア細胞)においてAc−タウポリペプチドの脱アセチル化を増大する薬剤を、組み合わせた有効な量で投与することを含む。
【0090】
活性薬剤の有効量とは、タウオパチーの少なくとも1つの症状を寛解させるのに、例えば、有害な症状を軽減するのに、および/またはタウオパチーの結果として損なわれた通常の機能を高めるのに有効な量である。例えば、いくつかの実施形態では、活性薬剤の有効量とは、タウオパチーを有する個体の脳において神経原線維病変の数を減少させるのに有効な量である。主題方法が、併用療法を含む場合には、活性薬剤の組み合わせた有効な量とは、組み合わせて、タウオパチーを有する個体の脳において神経原線維病変の数を減少させるのに有効である量である。いくつかの実施形態では、活性薬剤の有効量とは、個体において認知機能を高めるのに有効である量である。主題方法が、併用療法を含む場合には、活性薬剤の組み合わせた有効な量とは、組み合わせて、個体において認知機能を高めるのに有効である量である。
【0091】
製剤、投与量および投与経路
活性薬剤(例えば、タウポリペプチドのアセチル化を阻害する薬剤;Ac−タウポリペプチドの脱アセチル化を増大する薬剤)を、治療的投与のために種々の製剤に組み込んでもよい。さらに詳しくは、活性薬剤を、適当な医薬上許容される担体または希釈剤と組み合わせることによって医薬組成物に製剤してもよく、固体、半固体、液体またはガス状形態の調製物、例えば、散剤、顆粒剤、溶液、注射用薬剤、吸入剤、ゲル、ハイドロゲル、マイクロスフェア等に製剤してもよい。そのようなものとして、活性薬剤の投与は、患部組織への送達などの局所、経口、カテーテル媒介性、くも膜下腔内、口内、非経口、腹腔内、皮内、経皮、気管内投与などを含む、種々の方法で達成され得る。活性薬剤は、投与後に全身性であってもよく、または局所投与、壁内投与の使用もしくは移植部位で活性用量を保持するよう作用するインプラントの使用によって限局性であってもよい。
【0092】
いくつかの実施形態では、活性薬剤(単数または複数)は、血液脳関門(BBB)を通過するよう製剤される。血液脳関門(BBB)による薬物送達のための1つの戦略は、マンニトールもしくはロイコトリエンなどの浸透圧的手段またはブラジキニンなどの血管作用性物質の使用によって生化学的にのいずれかによるBBBの破壊を必要とする。BBB破壊剤は、組成物が血管内に注射によって投与される場合には、活性薬剤と同時投与してもよい。BBBを通過するためのその他の戦略は、グルコースおよびアミノ酸担体などの担体媒介性トランスポーター、インスリンまたはトランスフェリンの受容体媒介性経細胞輸送およびp−糖タンパク質などの能動拡散トランスポーターを含む内因性輸送システムの使用を必要とし得る。本明細書に開示される方法において使用して、血管上皮の壁を通過する輸送を促進するために、能動輸送部分を活性薬剤とコンジュゲートしてもよい。あるいは、BBBの後ろに控える薬物送達は、オンマイヤリザーバー(Ommayaリザーバー)によるような頭蓋への直接的な治療薬のくも膜下腔内送達によるものである。
【0093】
医薬組成物は、所望の製剤に応じて、動物またはヒト投与のために医薬組成物を製剤するためによく使用されるビヒクルとして定義される、希釈剤の医薬上許容される、非毒性の担体を含み得る。希釈剤は、組合せの生物活性に影響を及ぼさないように選択される。このような希釈剤の例として、蒸留水、緩衝水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、リンガー溶液、デキストロース溶液およびハンクス溶液がある。さらに、医薬組成物または製剤は、その他の担体、アジュバントまたは非毒性の、非治療的、非免疫原性安定剤、賦形剤などを含み得る。組成物はまた、pH調整剤および緩衝剤、毒性調整剤、湿潤剤および洗剤などの生理学的条件に近づけるためのさらなる物質も含み得る。
【0094】
種々の種類の投与に適している製剤に関するさらなる指針は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mace Publishing Company, Philadelphia, PA, 第17版(1985年)に見出すことができる。薬物送達の方法についての短い概要については、Langer, Science 249:1527〜1533頁(1990年)を参照のこと。
【0095】
医薬組成物は、予防的および/または治療的処置のために投与できる。活性薬剤の毒性および治療効力は、例えば、LD50(集団の50%にとって致死的な用量)およびED50(集団の50%において治療上有効な用量)を決定することを含む、細胞培養および/または実験動物において標準的な製剤手順に従って決定できる。毒性作用および治療作用間の用量比は、治療係数であり、LD50/ED50の比として表され得る。大きな治療係数を示す化合物が好ましい。
【0096】
細胞培養および/または動物研究から得られたデータを、ヒトのための投与量の処方範囲において使用してもよい。活性薬剤の投与量は、通常、毒性の低いED50を含む循環濃度の範囲内に並ぶ。投与量は、使用される剤形および利用される投与経路に応じて、この範囲内で変わり得る。
【0097】
医薬組成物を製剤するために使用される成分は、好ましくは、高純度のものであり、有害である可能性のある混入物を実質的に含まない(例えば、少なくとも食品(National Food)(NF)等級、一般に、少なくとも分析等級、より日常的には、少なくとも製剤等級)。さらに、in vivo使用に意図される組成物は、通常、無菌である。所与の化合物が、使用前に合成されなければならない限り、得られる生成物は、通常、合成または精製工程の間に存在し得るあらゆる毒性の可能性がある薬剤、特に、あらゆるエンドトキシンを実質的に含まない。非経口(parental)投与用の組成物も無菌であり、実質的に等張性であり、製造管理および品質管理に関する基準(Good Manufacturing Practice)(GMP)条件の下で製造される。
【0098】
有効な量の、特定の患者に与えられる活性薬剤(単数または複数)は、種々の因子に依存し、そのうちのいくつかは、患者毎に異なるだろう。有能な臨床医ならば、タウオパチーを治療するために患者に投与するための活性薬剤の有効量を決定できよう。臨床医は、LD50動物データおよび阻害剤について入手可能なその他の情報を使用することによって、投与経路に応じて、個体の最大安全用量を決定できる。例えば、静脈内に投与される用量は、治療用組成物が投与されている流体がより大きいことを考えて、くも膜下腔内に投与される用量よりも多いものであり得る。同様に、身体から迅速に除去される組成物は、治療濃度を維持するために、高用量で、または反復用量で投与され得る。有能な臨床医は、通常の技術を利用することで、日常的な臨床試験の過程で、特定の治療薬の投与量を最適化することができよう。
【0099】
製剤
主題治療法(例えば、個体において、細胞(例えば、ニューロン;グリア細胞)中のアセチル化タウポリペプチドのレベルを低下させること;タウオパチーを治療すること)の実施では、所望の生理学的効果(例えば、個体において神経細胞および/またはグリア細胞中のアセチル化タウポリペプチドのレベルの低下;認知機能の増大;神経原線維病変の低減;タウオパチーの有害な効果の低減など)をもたらすことができる任意の従来手段を使用して、活性薬剤(単数または複数)を宿主に投与してもよい。したがって、治療的投与のために、薬剤を種々の製剤中に組み込んでもよい。より詳しくは、活性薬剤を、適当な、医薬上許容される担体または希釈剤と組み合わせることによって医薬組成物に製剤してもよく、固体、半固体、液体またはガス状形態の調製物、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、軟膏、溶液、坐剤、注射用物質、吸入剤およびエアゾールに製剤してもよい。
【0100】
薬の剤形では、活性薬剤(単数または複数)をその医薬上許容される塩の形態で投与してもよく、または活性薬剤を、単独で、もしくは適当な関連で、ならびに、その他の医薬上有効な化合物と組み合わせて使用してもよい。以下の方法および賦形剤は、単に例示的なものであって、決して制限ではない。
【0101】
経口製剤のために、活性薬剤を、単独で、または錠剤、散剤、顆粒剤またはカプセル剤を製造するために、適当な添加剤と、例えば、ラクトース、マンニトール、コーンスターチまたはジャガイモデンプンなどの従来の添加剤と;結晶セルロース、セルロース誘導体、アラビアガム、コーンスターチまたはゼラチンなどの結合剤と;コーンスターチ、ジャガイモデンプンまたはカルボキシメチルセルロースナトリウムなどの崩壊剤と;タルクまたはステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤と;必要に応じて、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存料および矯味剤と組み合わせて使用してもよい。
【0102】
活性薬剤は、活性薬剤を、水性または非水性溶媒、例えば、植物油またはその他の同様のオイル、合成脂肪酸グリセリド、高級脂肪酸またはプロピレングリコールのエステルに、必要に応じて、可溶化剤、等張化剤、懸濁剤、乳化剤、安定剤および保存料などの従来の添加剤とともに溶解、懸濁または乳化することによって注射用製剤に製剤してもよい。
【0103】
活性薬剤は、吸入によって投与されるエアゾール製剤において使用してもよい。本発明の化合物は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素などといった加圧された許容される噴射剤中に製剤してもよい。
【0104】
さらに、活性薬剤を、乳化基剤または水溶性基剤などの種々の基剤と混合することによって坐剤に製造してもよい。活性薬剤は、坐剤によって直腸投与してもよい。坐剤は、体温で融解するが、室温で固化する、ココアバター、カーボワックスおよびポリエチレングリコールなどのビヒクルを含み得る。
【0105】
各投与量単位、例えば、小さじ1杯、大さじ1杯、錠剤または坐剤が、1種または複数の活性薬剤を含有する組成物を所定の量含有する、シロップ、エリキシルおよび懸濁液などの経口投与または直腸投与用の単位剤形が提供され得る。同様に、注射または静脈内投与用の単位剤形は、滅菌水、通常の生理食塩水または別の医薬上許容される担体中の溶液として組成物中の活性薬剤(単数または複数)を含み得る。
【0106】
本明細書で使用する場合、用語「単位剤形」とは、ヒトおよび動物対象のための単一の投与量として適した物理的に別個の単位を指し、各単位は、医薬上許容される希釈剤、担体またはビヒクルと関連して所望の効果をもたらすのに十分な量に算出された、所定量の活性薬剤を含有する。活性薬剤の単位剤形の仕様は、使用される個々の活性薬剤および達成されるべき効果および宿主中での各活性薬剤と関連する薬動力学に依存する。
【0107】
その他の投与様式も、主題発明とともに使用されよう。例えば、活性薬剤を、坐剤に製剤してもよく、いくつかの場合には、エアゾールおよび経鼻組成物に製剤してもよい。坐剤の場合、ビヒクル組成物は、従来の結合剤および担体、例えば、ポリアルキレングリコールまたはトリグリセリドを含む。このような坐剤は、約0.5%〜約10%(w/w)、例えば、約1%〜約2%の範囲の有効成分を含有する混合物から形成され得る。
【0108】
経鼻製剤は、通常、鼻腔の粘膜に対して刺激作用を引き起こさず、毛様体機能を大きくは妨げないビヒクルを含む。水、生理食塩水水溶液またはその他の公知の物質などの希釈剤を使用してもよい。経鼻製剤は、また、保存料、例えば、それだけには限らないが、クロロブタノールおよび塩化ベンザルコニウムも含有してもよい。鼻腔粘膜による活性薬剤の吸収を促進するために、界面活性剤が、存在する場合もある。
【0109】
活性薬剤は、注射用物質として投与してもよい。通常、注射用組成物は、液体溶液または懸濁液として調製され;注射の前に、液体ビヒクル中の溶液または懸濁液に適した固体形態をも調製してもよい。調製物はまた、乳化されてもよく、または活性薬剤は、リポソームビヒクル中にカプセル化されてもよい。
【0110】
適した賦形剤ビヒクルとして、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなどおよびそれらの組合せがある。さらに、必要に応じて、ビヒクルは、少量の補助的物質、例えば、湿潤剤または乳化剤またはpH緩衝剤を含有し得る。このような剤形を調製する実際の方法は、当業者には公知であり、明らかとなろう。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvania、第17版、1985年参照のこと。投与される組成物または製剤は、いずれにしても、治療されている対象において所望の状態を達成するのに適切な活性薬剤の量を含有するであろう。
【0111】
ビヒクル、アジュバント、担体または希釈剤などの医薬上許容される賦形剤は、一般に容易に入手可能である。さらに、pH調整剤および緩衝剤、張力調整剤、安定剤、湿潤剤などといった医薬上許容される補助的物質は、一般に容易に入手可能である。
【0112】
経口製剤
いくつかの実施形態では、活性薬剤は、このような薬剤を必要とする個体への経口送達のために製剤される。
【0113】
経口送達には、活性薬剤を含む製剤は、いくつかの実施形態では、腸溶性コーティング材料を含む。適した腸溶性コーティング材料として、ヒドロキシプロピルメチル酢酸コハク酸セルロース(HPMCAS)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ポリビニルフタリックアセテート(polyvinyl phthalic acetate)(PVPA)、Eudragit(商標)およびセラックが挙げられる。
【0114】
適した経口製剤の1つの限定されない例として、活性薬剤は、1種または複数の製薬賦形剤とともに製剤され、米国特許第6,346,269号に記載される腸溶コーティングでコーティングされる。例えば、活性薬剤および安定剤を含む溶液を、医薬上許容される賦形剤を含むコア上にコーティングして、活性薬剤がコーティングされたコアを形成する。活性薬剤がコーティングされたコアにサブコーティング層を施し、次いで、これを腸溶コーティング層でコーティングする。コアは、一般に、医薬上不活性の成分、例えば、ラクトース、デンプン、マンニトール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、色素、アルギン酸の塩、タルク、二酸化チタン、ステアリン酸、ステアレート、微結晶セルロース、グリセリン、ポリエチレングリコール、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、プロパニルトリアセテート、二塩基性リン酸カルシウム、三塩基性リン酸ナトリウム、硫酸カルシウム、シクロデキストリンおよびヒマシ油を含む。活性薬剤に適した溶媒として、水性溶媒が挙げられる。適した安定剤として、アルカリ金属およびアルカリ土類金属、リン酸塩および有機酸塩および有機アミンの塩基が挙げられる。サブコーティング層は、1種または複数の接着剤、可塑剤および粘着防止剤を含む。適した粘着防止剤として、タルク、ステアリン酸、ステアレート、フマル酸ステアリルナトリウム、グリセリルベヘナート、カオリンおよびアエロジルが挙げられる。適した接着剤として、ポリビニルピロリドン(PVP)、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、酢酸ビニル(VA)、ポリビニルアルコール(PVA)、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、キサンタンガム、アルギン酸、アルギン酸の塩、Eudragit(商標)、アクリル酸メチル/メチルメタクリレートと、ポリビニルアセテートフタレート(PVAP)の共重合体が挙げられる。適した可塑剤として、グリセリン、ポリエチレングリコール、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、プロパニルトリアセテートおよびヒマシ油が挙げられる。適した腸溶性コーティング材料として、ヒドロキシプロピルメチル酢酸コハク酸セルロース(HPMCAS)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ポリビニルフタリックアセテート(PVPA)、Eudragit(商標)およびセラックが挙げられる。
【0115】
適した経口製剤はまた、以下のうちいずれかとともに製剤された活性薬剤を含む:微粒剤(例えば、米国特許第6,458,398号参照のこと);生分解性マクロマ(例えば、米国特許第6,703,037号参照のこと);生分解性ハイドロゲル(例えば、GrahamおよびMcNeill(1989年)Biomaterials 5:27〜36頁参照のこと);生分解性粒状ベクター(例えば、米国特許第5,736,371号参照のこと);生体吸収性ラクトンポリマー(例えば、米国特許第5,631,015号参照のこと);持続放出タンパク質ポリマー(例えば、米国特許第6,699,504号;Pelias Technologies、Inc.参照のこと);ポリ(ラクチド−コ−グリコリド/ポリエチレングリコールブロック共重合体(例えば、米国特許第6,630,155号;Atrix Laboratories,Inc.参照のこと);生体適合性ポリマーおよびポリマー内に分散された金属カチオン安定化剤の粒子を含む組成物(例えば、米国特許第6,379,701号;Alkermes Controlled Therapeutics,Inc.参照のこと)およびマイクロスフェア(例えば、米国特許第6,303,148号;Octoplus,B.V.参照のこと)。
【0116】
適した経口製剤はまた、以下のうちいずれかとともに製剤された活性薬剤を含む:Emisphere(登録商標)(Emisphere Technologies,Inc.);TIMERx、デキストロースの存在下で、水中の強力な結合剤ゲルを形成する、キサンタンおよびローカストビーンガムを組み合わせる親水性マトリックス(Penwest);Geminex(商標)(Penwest);Procise(商標)(GlaxoSmithKline);SAVIT(商標)(Mistral Pharma Inc.);RingCap(商標)(Alza Corp.);Smartrix(登録商標)(Smartrix Technologies,Inc.);SQZgel(商標)(MacroMed,Inc.);Geomatrix(商標)(Skye Pharma,Inc.);Oros(登録商標)Tri−layer(Alza Corporation)などといった担体。
【0117】
また、使用するのに適したものとして、米国特許第6,296,842号(Alkermes Controlled Therapeutics,Inc.);米国特許第6,187,330号(Scios,Inc.)などに記載されるものなどの製剤がある。
【0118】
また、本明細書において使用するのに適したものとして、腸管吸収促進剤を含む製剤がある。適した腸管吸収促進剤として、それだけには限らないが、カルシウムキレート剤(例えば、クエン酸塩、エチレンジアミン四酢酸(tetracetic acid));界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、胆汁酸塩、パルミトイルカルニチンおよび脂肪酸のナトリウム塩);毒素(例えば、閉鎖結合毒素)などが挙げられる。
【0119】
放出制御製剤
いくつかの実施形態では、活性薬剤は、放出制御製剤に製剤される。
【0120】
使用するのに適した放出制御製剤は、いくつかの持続放出剤形のいずれか1種を意味するととることができる。以下の用語は、本開示内容の目的上、放出制御と実質的に等価であると考えられ得る:連続的放出、放出制御、遅延放出、デポー、段階的放出、長期放出、プログラム放出、延期性放出、比例放出、遷延放出、貯蔵型、抑制、緩放出、間隔放出、持続放出、タイムコート、時限放出、遅延作用、延長作用、多層時間作用、長時間作用型、長期作用、反復作用、緩作用型、持続作用、持続作用医薬および延長放出。これらの用語のさらなる議論は、Lesczek Krowczynski、Extended−Release Dosage Forms、1987年(CRC Press,Inc.)に見出すことができる。
【0121】
種々の放出制御技術が、極めて広範囲の薬物剤形を対象とする。放出制御技術として、それだけには限らないが、物理的システムおよび化学的システムが挙げられる。
【0122】
物理的システムとして、それだけには限らないが、律速膜を有するリザーバーシステム、例えば、マイクロカプセル化、マクロカプセル化および膜システム;律速膜を有さないリザーバーシステム、例えば、中空繊維、超微孔性セルローストリアセテートおよび多孔性ポリマー基質および発泡体;非多孔性、ポリマー性またはエラストマーマトリックス(例えば、浸食され得ない、浸食され得る、環境物質移入、および分解性)に物理的に溶解されたシステムならびに非多孔性、ポリマー性またはエラストマーマトリックス(例えば、浸食され得ない、浸食され得る、環境物質移入、および分解性)に物理的に分散された材料を含むモノリシックシステム;外側の制御層と化学的に同様または異なるリザーバー層を含む積層構造;およびその他の物理的方法、例えば、浸透圧的ポンプまたはイオン交換樹脂上への吸着が挙げられる。
【0123】
化学的システムとして、それだけには限らないが、ポリマーマトリックスの化学的浸食(例えば、不均一または均一な浸食)またはポリマーマトリックスの生物学的浸食(例えば、不均一または均一な)が挙げられる。放出制御のためのシステムのカテゴリーについてのさらなる考察は、Agis F. Kydonieus、Controlled Release Technologies:Methods,Theory and Applications、1980年(CRC Press,Inc.)に見出すことができる。
【0124】
経口投与用に開発されているいくつかの放出制御製剤がある。これらは、それだけには限らないが、浸透圧制御胃腸送達システム;水力学的圧力制御胃腸送達システム;微孔性膜透過制御胃腸送達装置を含む膜透過制御胃腸送達システム;胃液耐性腸標的放出制御胃腸送達装置;ゲル拡散制御胃腸送達システム;カチオン性およびアニオン性薬物を含むイオン交換制御胃腸送達システムを含む。放出制御薬物送達システムに関するさらなる情報は、Yie W. Chien、Novel Drug Delivery Systems、1992年(Marcel Dekker,Inc.)に見出すことができる。これらの製剤の一部をここで、より詳細に論じる。
【0125】
腸溶コーティングは、不愉快な副作用のリスクを低減するためか、そうでなければ胃環境への曝露の分解に付され得る薬物の安定性を維持するために、胃における薬物の放出を妨げるよう錠剤に適用される。この目的上使用されるほとんどのポリマーは、水性培地におけるその溶解度が、pH依存性であり、それらが、胃において通常遭遇するものよりも高いpHを有する条件を必要とするという事実によって機能するポリ酸である。
【0126】
1つの例示的種類の経口放出制御構造として、固体または液体剤形の腸溶コーティングがある。腸溶コーティングは、即時吸収のために腸液中で崩壊するよう設計される。腸溶コーティングを有する製剤中に組み込まれている活性薬剤の吸収の遅延は、消化管を通る移動の速度に依存し、そのため、胃排出の速度が重要な因子である。何人かの研究者によって、顆粒剤などのマルチプルユニット型剤形が、シングルユニット型よりも優れている場合があると報告されている。したがって、例示的一実施形態では、活性薬剤は、腸溶コーティングされたマルチプルユニット型剤形に含有され得る。例示的一実施形態では、活性薬剤剤形は、不活性コア材料上に活性薬剤−腸溶コーティング剤固体分散物の顆粒剤をスプレーコーティングすることによって調製される。これらの顆粒剤は、良好なバイオアベイラビリティを有する薬物の長期吸収をもたらし得る。
【0127】
通常の腸溶コーティング剤として、それだけには限らないが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸(methacryclic acid)−メタクリル酸エステルコポリマー、ポリビニルアセテートフタレートおよび酢酸フタル酸セルロースが挙げられる。Akihiko Hasegawa、Application of solid dispersions of Nifedipine with enteric coating agent to prepare a sustained−release dosage form、Chem.Pharm.Bull.33:1615〜1619頁(1985年)。最初から、溶解時間、コーティング厚および直径圧潰強さの最適組合せを有するように設計された腸溶コーティングされた剤形を達成するための試験に基づいて、種々の腸溶コーティング材料を選択してもよい。S.C. Porterら、The Properties of Enteric Tablet Coatings Made From Polyvinyl Acetate−phthalate and Cellulose acetate Phthalate、J.Pharm.Pharmacol.22:42p(1970年)。
【0128】
別の種類の有用な経口放出制御構造として、固体分散物がある。固体分散物は、融解(融合)、溶媒もしくは融解−溶媒法によって調製された固体状態の不活性担体またはマトリックス中の、1種または複数の有効成分の分散物として定義され得る。Akihiko Hasegawa、Super Saturation Mechanism of Drugs from Solid Dispersions with Enteric Coating Agents、Chem.Pharm.Bull.36:4941〜4950頁(1998年)。固体分散物はまた、固体(solid−state)分散物とも呼ばれ得る。用語「共沈させる」はまた、溶媒法によって得られた調製物を指すために使用され得る。
【0129】
複数成分混合物では、表面からの成分の溶解速度がその他の成分によって影響を受け得るので、担体の選択は、分散された活性薬剤の溶解特徴に対して影響を有し得る。例えば、水溶性担体は、マトリックスからの活性薬剤の迅速な放出をもたらし得る、または、難溶性もしくは不溶性の担体は、マトリックスからの活性薬剤の緩放出につながり得る。活性薬剤の溶解度も、担体との何らかの相互作用のために増大され得る。
【0130】
固体分散物において有用な担体の例として、それだけには限らないが、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンおよびヒドロキシプロピルメチル−セルロースなどの水溶性ポリマーが挙げられる。別の担体として、ホスファチジルコリンが挙げられる。ホスファチジルコリンは、両性であるが、水に不溶性の脂質であり、ホスファチジルコリン固体分散物中の非結晶状態の、そうでなければ不溶性の活性薬剤の溶解度を改善し得る。
【0131】
その他の担体として、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が挙げられる。水に難溶性の活性薬剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートおよびカルボキシメチルエチルセルロースなどの腸溶ポリマーおよび非腸溶ポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロースとともに固体分散物システム中に含めてもよい。別の固体分散物剤形は、種々の割合のエチルセルロースおよびステアリン酸との活性薬剤の組み込みを含む。
【0132】
固体分散物を調製するためによく知られている種々の方法がある。これらは、それだけには限らないが、融解法、溶媒法および融解−溶媒法を含む。
【0133】
別の放出制御剤形として、イオン交換樹脂および活性薬剤間の複合体がある。イオン交換樹脂−薬物複合体は、酸性および塩基性薬物の持続放出製剤を製剤化するために使用されてきた。例示的一実施形態では、イオン交換樹脂−薬物複合体粒子にポリマーフィルムコーティングが提供され、これらの粒子からの薬物放出を拡散制御されるようにする。Y.Raghunathanら、Sustained−released drug delivery system I: Coded ion exchange resin systems for phenylpropanolamine and other drugs、J.Pharm.Sciences 70:379〜384頁(1981年)参照のこと。
【0134】
注射用マイクロスフェアは、別の放出制御剤形である。注射用マイクロスフェアは、非水相分離技術および噴霧乾燥技術によって調製され得る。マイクロスフェアは、ポリ乳酸またはコポリ(乳酸/グリコール酸) Shigeyuki Takada、Utilization of an Amorphous Form of a Water−Soluble GPIIb/IIIa Antagonist for Controlled Release From Biodegradable Microspheres、Pharm.Res.14:1146〜1150頁(1997年)およびエチルセルロース、Yoshiyuki Koida、Studies on Dissolution Mechanism of Drugs from Ethyl Cellulose Microcapsules、Chem.Pharm.Bull.35:1538〜1545頁(1987年)を使用して調製され得る。
【0135】
使用してもよいその他の放出制御技術として、それだけには限らないが、Elan Pharmaceutical Technologiesから入手可能な、SODAS(Spheroidal Oral Drug Absorption System)、INDAS(Insoluble Drug Absorption System)、IPDAS(Intestinal Protective Drug Absorption System)、MODAS(Multiporous Oral Drug Absorption System)、EFVAS(Effervescent Drug Absorption System)、PRODAS(Programmable Oral Drug Absorption System)およびDUREDAS(Dual Release Drug Absorption System)が挙げられる。SODASは、放出制御ビーズを使用する多粒子剤形である。INDASは、難溶性薬物の溶解度を高めるように設計された薬物送達技術のファミリーである。IPDASは、高密度放出制御ビーズおよび即時放出顆粒の組合せを使用する多粒子錠剤形成である。MODASは、放出制御シングルユニット剤形である。各錠剤は、薬物放出の速度を制御する半透性多孔性(multiparous)膜によって囲まれた内部コアからなる。EFVASは、発泡性薬物吸収システムである。PRODASは、即時放出および放出制御ミニ錠剤の組み合わせを使用する多粒子製剤のファミリーである。DUREDASは、1剤形内で二重の放出速度を提供する二層錠剤製剤である。これらの剤形は当業者に公知であるが、これらの剤形のうち特定のものを、ここでより詳細に論じる。
【0136】
INDASは、水に難溶性の薬物の溶解度および吸収特徴を改善するために特に開発された。溶解度、特に、消化管中の流体内での溶解は、水に難溶性の薬物の全体的な経口バイオアベイラビリティの決定において重要な因子である。溶解度を増強することによって、薬物の全体的なバイオアベイラビリティを増大し、結果として、投与量を低減できる。
【0137】
IPDASは、潜在的刺激物質および潰瘍発生薬の胃腸耐容性を増大し得る多粒子錠剤技術である。腸管保護は、消化管中の刺激物質リポ酸塩の分散を広めるIPDAS製剤の多粒子性によって促進される。個々のビーズの放出制御特徴によって、高濃度の活性薬剤が局所的に放出されることおよび全身に吸収されることを避けることができる。両アプローチの組合せは、活性薬剤の潜在的害を最小にするのに役立ち、その結果、患者にとって利益になる。
【0138】
IPDASは、多数の高密度放出制御ビーズからなる。各ビーズは、包埋された活性薬剤を有するマイクロマトリックスの最初の製造と、それに続く、このマイクロマトリックスの、in vivoで律速半透膜を形成するポリマー溶液でのコーティングとを含む2ステッププロセスによって製造され得る。ひと度、IPDAS錠剤は摂取されると、胃中で崩壊し、ビーズを遊離し得る。これらのビーズは、続いて、例えば、摂食状態とは無関係に、制御された、漸進的方法で、十二指腸中に入り、消化管に沿って通過し得る。活性薬剤の放出は、マイクロマトリックス中およびそれに続く、律速半透膜中の孔中の拡散プロセスによって起こる。IPDAS錠剤からの放出速度は、最適化された臨床的利益と関連する薬物特異的吸収プロフィールを送達するようにカスタマイズしてもよい。活性の迅速な発現が必要であれば、錠剤中に即時放出顆粒を含めてもよい。個々の滴定に低減した用量が必要である場合には、薬物放出に実質的に支障をきたすことなく、錠剤を、投与に先立って破壊してもよい。
【0139】
MODASは、水溶性薬剤の吸収を制御するために使用され得る薬物送達システムである。物理的に、MODASは、in vivoで形成される半透膜による律速拡散のプロセスによって薬物放出を操作する非崩壊錠製剤である。拡散プロセスは、本質的に、胃腸液への薬物の提示速度を決定し、その結果、身体への取り込みが制御される。MODASは、賦形剤を最小にしか使用しないために、容易に小投与量サイズの形態に適応できる。各MODAS錠剤は、活性薬物と賦形剤とを含有するコアとして始まる。このコアを不溶性ポリマーと可溶性賦形剤の溶液でコーティングする。ひと度、錠剤が摂取されると、消化管液が、外側コーティング中の可溶性賦形剤を溶解し、実質的に、不溶性ポリマーを残し得る。結果として生じるものは、消化管からの液体を水溶性薬物の内部薬物コアとつなげる小さい、狭いチャンネルのネットワークである。この液体は、これらのチャンネルを通過してコアに入り、薬物を溶解し、得られた薬物の溶液は、制御された方法で広がり得る。これは、制御された溶解および吸収の両方を可能にし得る。このシステムの利点は、錠剤の実質的に全表面にわたって錠剤の薬物放出孔が分布していることである。これは、均一な薬物吸収を促進し、積極的な一方向の薬物送達を低減する。MODASは、内部コアおよび外側の半透膜の両方とも個々の薬物の送達必要条件に適合するよう変更され得るという点で極めて柔軟な剤形を表す。特に、内部コアへの賦形剤の添加は、より予測可能な放出および吸収速度を促進する錠剤内の微小環境を生じさせるのに役立ち得る。即時放出外側コーティングの添加によって、組合せ製剤の開発が可能となり得る。
【0140】
さらに、PRODASを使用して活性薬剤を送達してもよい。PRODASは、直径1.5〜4mmのサイズ範囲の放出制御ミニ錠剤の製造に基づく多粒子薬物送達技術である。PRODAS技術は、多粒子および親水性マトリックス錠剤アプローチの混成であり、一剤形では、これらの薬物送達システムの両方の利益を組み込み得る。
【0141】
PRODASは、最も基本的な形態では、即時放出顆粒を直接圧縮して、活性薬剤を含有する個々のミニ錠剤を製造することを含む。これらのミニ錠剤を、続いて、最終剤形に相当するハードゲルおよびカプセル剤に組み込む。この技術のより有益な使用は、放出制御製剤の製造においてである。この場合には、顆粒内に種々のポリマーの組合せを組み込むことが、個々のミニ錠剤各々からの薬物の放出速度を遅延し得る。続いて、これらのミニ錠剤を、さらなる遅延放出特性を提供するように、放出制御ポリマー溶液でコーティングしてもよい。高度に水溶性の薬物またはおそらくは胃刺激物質である薬物の場合には、製剤が、消化管の、より遠位の領域に達するまで放出が遅延され得る場合、さらなるコーティングが必要である場合もある。PRODAS技術の1つの価値は、それによって、各々、異なる放出速度を有するミニ錠剤の組合せが、1つの剤形に組み込まれる、製剤化するための固有の柔軟性にある。特定の期間にわたって、制御された吸収を潜在的に可能にすることと同様に、これもまた、消化管中の特定の吸収部位への薬物の標的化送達を可能にし得る。異なる有効成分を用いて製剤化されたミニ錠剤を使用する組合せ製剤もまたあり得る。
【0142】
DUREDASは、活性薬剤を製剤化するために使用され得る二相錠剤化技術である。DUREDASは、剤形からの薬物の2種の異なる放出速度または二重放出を提供するように開発された。用語二相とは、錠剤化プロセスの間に起こる2つの別個の直接圧縮事象を指す。例示的実施形態では、即時放出顆粒を最初に圧縮し、これに放出制御要素の添加を続け、次いで、これを、この最初の錠剤上に圧縮する。これによって、最終剤形において見られる特徴的な二層が形成できる。
【0143】
放出制御特性は、親水性ポリマーの組合せによって提供され得る。特定の場合には、治療的効果の迅速な発現を促進するために、活性薬剤の迅速な放出が望ましい場合がある。したがって、錠剤の1つの層が、即時放出顆粒として製剤されてもよい。対照的に、錠剤の第2の層は、例えば、親水性のポリマーの使用によって、制御された方法で薬物を放出し得る。この放出制御は、親水性ポリマーマトリックスによる拡散および浸食の組合せに起因し得る。
【0144】
DUREDAS技術のさらなる進展として、放出制御組合せ剤形の製造がある。この例では、2種の異なる活性薬剤を、二層錠剤に組み込んでもよく、各層からの薬物の放出が、組合せの治療的効果を最大にするように制御される。
【0145】
活性薬剤は、上記の放出制御剤形のいずれか1種に組み込んでもよく、またはその他の従来剤形に組み込んでもよい。各用量中に含有される活性薬剤の量は、個々の患者の必要性および適応症に合うよう調整してよい。当業者ならば、またこの開示内容を読むことで、活性薬剤の送達およびそのバイオアベイラビリティを最適化するために、放出制御製剤において活性薬剤のレベルおよび放出速度を調整する方法は容易に認識するであろう。
【0146】
吸入製剤
活性薬剤は、いくつかの実施形態では、吸入経路のための薬剤送達システムによって患者に投与される。活性薬剤は、吸入による投与に適した形態に製剤され得る。投与の吸入経路は、吸入された薬物は血液脳関門を迂回できるという利点を提供する。薬剤送達システムは、気管支の粘膜内層への活性薬剤の送達による呼吸療法に適したものである。活性薬剤は、容器から活性薬剤を排出するための圧縮ガスの力に依存するシステムによって送達され得る。この目的上、エアゾールまたは加圧パッケージが使用され得る。
【0147】
本明細書において、用語「エアゾール」は、治療適用部位へ圧力下で噴射剤ガスによって運ばれる(carries)微細液体または固体粒子を指すように、その従来の意味で使用される。本発明において医薬エアゾールが使用される場合には、エアゾールは、液体担体と噴射剤との混合物に溶解、懸濁または乳化され得る活性薬剤を含有する。エアゾールは、溶液、懸濁液、エマルジョン、散剤または半固体調製物の形態であり得る。本発明において使用されるエアゾールは、患者の気道を通る、細かい、固体粒子としてか、または液体ミストとしての投与用に意図される。当業者に公知の種々の種類の噴射剤を使用してよい。適した噴射剤として、それだけには限らないが、炭化水素またはその他の適したガスが挙げられる。加圧されたエアゾールの場合には、投与量単位は、定量を送達するための値を提供することによって決定され得る。
【0148】
活性薬剤はまた、ガス中に実質的に均一な大きさの極めて細かい液体粒子を生成する機器である噴霧器を用いる送達用に製剤してもよい。例えば、活性薬剤を含有する液体が液滴として分散される。小さい液滴は、噴霧器の排出管を通る気流によって運ばれ得る。結果として生じたミストが患者の気道中に入り込む。
【0149】
滑沢剤、担体または噴射剤を伴って、または伴わずに、活性薬剤を含有する粉末組成物を、治療を必要とする哺乳類に投与してもよい。この実施形態は、吸入によって粉末医薬組成物を投与するための従来装置を用いて実施できる。例えば、活性薬剤と、ラクトースまたはデンプンなどの適した粉末基剤との粉末混合物を、単位剤形で、例えば、散剤が吸入器の助けを借りてそれから投与され得る、カプセル剤またはカートリッジ、例えば、ゼラチンまたはブリスターパックで提示してもよい。
【0150】
本開示内容に関連して使用してもよい、いくつかの異なる種類の吸入法がある。活性薬剤は、基本的に3つの異なる種類の吸入用製剤に製剤化してもよい。第1に、活性薬剤は、低沸点噴射剤を用いて製剤化してもよい。このような製剤は、一般に、従来の定量吸入器(MDI)によって投与される。しかし、従来のMDIを、米国特許第5,404,871号および同第5,542,410号内に論じられるように、患者の吸気体積および流速を測定する技術を利用することによって反復できる投与を行う能力を高めるよう改変してもよい。
【0151】
あるいは、活性薬剤は、水性またはエタノール性溶液に製剤化し、従来の噴霧器によって送達してもよい。いくつかの実施形態では、このような溶液製剤は、米国特許第5,497,763号;同第5,544,646号;同第5,718,222号;および同第5,660,166号内に開示されるものなどの装置およびシステムを使用してエアロゾル化される。
【0152】
活性薬剤は、ドライパウダー製剤に製剤化してもよい。このような製剤は、パウダーのエアゾールミストを作製した後にドライパウダー製剤を簡単に吸入することによって投与すればよい。このように実施する技術は、1998年7月7日に発行された米国特許第5,775,320号および1998年4月21日に発行された米国特許第5,740,794号内に記載されている。
【0153】
投与量
使用される投与量は、達成されるべき臨床目標に応じて変わるが、適した投与量範囲は、最大約1μg〜約1,000μgまたは約10,000μgの活性薬剤を提供するものであり、単回用量で投与され得る。あるいは、活性薬剤の標的投与量は、薬剤の投与後、最初の24〜48時間内に採取された宿主血液のサンプル中、約0.1〜1000μM、約0.5〜500μM、約1〜100μMまたは約5〜50μMの範囲におよそあると考えられ得る。
【0154】
用量レベルは、特定の化合物、症状の重篤度および副作用に対する対象の感受性の関数として変わり得るということは当業者ならば容易に理解するであろう。所与の化合物の好ましい投与量は、種々の手段によって当業者によって容易に決定できる。
【0155】
投与経路
活性薬剤は、in vivoおよびex vivo法、ならびに全身および局所投与経路を含む、任意の利用可能な方法および薬物送達に適した経路を使用して個体に投与される。
【0156】
従来および医薬上許容される投与経路として、鼻腔内、筋肉内、気管内、皮下、皮内、局所適用、静脈内、直腸、経鼻、経口ならびにその他の腸内および非経口投与経路が挙げられる。投与経路は、必要に応じて、組み合わせてもよく、または薬剤および/または所望の効果に応じて調整してもよい。活性薬剤は、単回用量で投与しても、複数回用量で投与してもよい。いくつかの実施形態で、活性薬剤は、経口投与される。その他の特定の実施形態では、活性薬剤は、吸入経路によって投与される。いくつかの実施形態では、活性薬剤は、鼻腔内に投与される。
【0157】
活性薬剤は、全身または局所経路を含む、任意の利用可能な従来法および従来薬物の送達に適した経路を使用して宿主に投与してもよい。一般に、本開示内容によって考慮される投与経路として、腸内、非経口および吸入経路が挙げられるが、必ずしもそれに限定されない。
【0158】
吸入投与以外の非経口投与経路として、局所、経皮、皮下、筋肉内、眼窩内、関節内、脊髄内、胸骨内および静脈内経路、すなわち、消化管を介して以外の任意の投与経路が挙げられるが、必ずしもそれに限定されない。非経口投与は、薬剤の全身または局所送達を達成するために行われ得る。全身送達が望ましい場合は、投与は、通常、医薬品の侵襲性または全身吸収性の局所または粘膜投与を含む。
【0159】
活性薬剤はまた、腸内投与によって対象に送達され得る。腸内投与経路として、経口および直腸(例えば、坐剤を使用する)送達が挙げられるが、必ずしもそれに限定されない。
【0160】
皮膚または粘膜を介した活性薬剤の投与方法として、適した医薬品の局所適用、経皮透過、注射および上皮投与が挙げられるが、必ずしもそれに限定されない。経皮透過には、吸収促進剤またはイオン導入が適した方法である。イオン導入透過は、数日以上の期間、破壊されていない皮膚を介して電気的パルスによってその製剤を継続的に送達する、市販の「パッチ」を使用して達成してもよい。
【0161】
治療とは、少なくとも、宿主を苦しめる病的状態と関連している症状の寛解を意味し、ここで、寛解は、少なくとも、パラメータ、例えば、タウオパチーなどの治療されている病的状態と関連している症状の規模の低減を指すように、広い意味で使用される。そのようなものとして、治療はまた、病的状態または少なくともそれと関連している症状が、完全に阻害される、例えば、起きないようにされる、または停止される、例えば、宿主が、病的状態または少なくとも病的状態を特徴づける症状をもはや患わないように終結される状況を含む。
【0162】
さまざまな対象(ここで、用語「対象」は、本明細書において、用語「個体」、「宿主」および「患者」と同義的に使用される)は、主題方法に従って治療可能である。一般に、このような対象は、「哺乳動物」または「哺乳類」であり、これらの用語は、食肉目(例えば、イヌおよびネコ)、げっ歯目(例えば、マウス、モルモットおよびラット)および霊長目(例えば、ヒト、チンパンジーおよびサル)を含めた哺乳綱内の生物を説明するために広く使用されている。多数の実施形態で、対象は、ヒトとなる。
【0163】
治療に適した対象
主題治療法を用いる治療に適した個体として、タウオパチーと診断されている個体;タウオパチーを有し、本明細書に論じられる薬剤以外の薬剤で治療された、このような治療に応答しなかったか、または最初に応答し、その後、再発した個体が挙げられる。
【0164】
診断方法
本開示内容は、個体において認知機能障害疾患を診断する方法を提供する。方法は、一般に、個体から得られた生体サンプルにおいてアセチル化タウポリペプチドのレベルを検出することを含む。正常な対照レベルより高いアセチル化タウポリペプチドのレベルは、個体が認知機能障害疾患を有することを示す。本開示内容はまた、個体が認知機能障害疾患を発症するリスクを調べる方法を提供する。方法は、一般に、個体から得られた生体サンプル中のアセチル化タウポリペプチドのレベルを検出することを含む。正常な対照レベルよりも高いアセチル化タウポリペプチドのレベルは、個体が、認知機能障害疾患を発症する一般集団よりも高いリスクにあることを示す。
【0165】
正常な対照レベルよりも、少なくとも約10%高い、少なくとも約15%高い、少なくとも約20%高い、少なくとも約25%高い、少なくとも約50%高い、少なくとも約2倍高い、少なくとも約5倍高い、少なくとも約10倍高いまたは10倍超高い、生体サンプル(例えば、神経細胞および/またはグリア細胞を含む生体サンプル;神経細胞および/またはグリア細胞に由来する生体サンプル(例えば、神経細胞溶解物;グリア細胞溶解物)など)中のアセチル化タウポリペプチドのレベルは、生体サンプルが得られた個体が、認知機能障害疾患を有するか、認知機能障害疾患を有する一般集団よりも高いリスクにあることを示す。
【0166】
軽度認知機能障害(MCI、初発認知症または孤立性記憶機能障害としても知られる)は、その年齢および教育に期待されるものを超えるが、その日常活動を大きくは干渉しない認知機能障害を有する個体に与えられる診断である。MCIは、正常な加齢と認知症との間の境界段階または移行段階であると考えられている。MCIは、種々の症状を示し得るが、記憶喪失が主な症状である場合には、「健忘MCI」と呼ばれ、アルツハイマー病のリスク因子として頻繁に見られる。研究によって、健忘MCIの個体は、1年におよそ10%〜15%の割合で、ほぼ確実なアルツハイマー病に進行する傾向があることが示唆されている。さらに、個体が記憶以外のドメイン機能障害を有する場合には、非健忘シングルまたはマルチプルドメインMCIとして分類され、これらの個体は、その他の認知症(例えば、レビー小体を有する認知症)に変わる可能性がより高いと考えられている。
【0167】
MCIは、アルツハイマー病のリスク因子であるので、MCIの診断は、初期アルツハイマー病の診断につながる。MCIの診断は、臨床的観察、神経画像検査、血液検査および神経心理学的検査を含む、多くの臨床的判断および包括的な臨床評価を必要とする。正常な対照レベルよりも高いAc−タウポリペプチドのレベルは、個体が認知機能障害疾患を有することを示す。したがって、Ac−タウポリペプチドの測定値を使用して、MCIおよびタウオパチー、例えば、アルツハイマー病を検出し、診断できる。
【0168】
Ac−タウポリペプチドのレベルは、Ac−タウに特異的な試薬、例えば、タウのアセチル化型を認識するが、非アセチル化−タウポリペプチドは認識しない抗体(例えば、抗Ac−タウ:以下に記載されるAb708)を使用することによって決定してもよい。Ac−タウ特異的抗体は、標準免疫プロトコールを使用して作製してもよい。例えば、1個または複数のリシン残基(例えば、タウアイソフォーム2のLys−163、および/または、Lys−174および/またはLys−190)でアセチル化されたタウペプチドを使用して、適当な宿主動物(例えば、ウサギ、ヤギ、ヒツジなど)を免疫してもよい。2回目の追加免疫の約10日後、ELISAを使用して抗体力価を決定できる。通常、高抗体力価を得るのに2回の追加免疫で十分である。
【0169】
いくつかの生体サンプルを使用してAc−タウレベルを検出できる。例えば、脳脊髄液、血漿、血清、血液、尿、脳生検サンプルを使用して、個体のAc−タウレベルを決定できる。タウタンパク質の変化(断片化、脱リン酸化、脱アセチル化など)またはサンプル中の血液の血液凝固を防ぐために、得られたサンプルに、サンプルの採取時または採取後に酵素阻害剤を補給してもよい。使用してもよい酵素阻害剤として、ホスファターゼ阻害剤、例えば、EDTA、EGTA、オカダ酸、ピロリン酸、リン酸、フッ化ナトリウム、β−グリセロリン酸およびシクロスポリンAならびにプロテアーゼ阻害剤、例えば、アプロチニン、アンチパイン、ペプスタチン、ロイペプチン、EDTA、EGTA、PMSF(フェニルメタンスルホニルフロリド)およびTLCK(トシルリシンクロロメチルケトン)が挙げられる。サンプルは、新鮮に入手し、試験してもよく、またはAc−タウレベルを測定する前にサンプルを保存してもよい。サンプルは、例えば、4℃以下、例えば、−20℃以下で保存してもよい。
【0170】
年齢対応非認知症個体、例えば、正常な認知能力を有する固体から得た対応する生体サンプルを、対照として使用する。さらに、Ac−タウレベルを、正規化対照、例えば、MCIを有する患者および正常な個体間で同程度のレベルで存在することがわかっているタンパク質、例えば、GAPDH(グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ)、HPRT1(ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ−1)を基準として正規化してもよい。
【0171】
Ac−タウレベルは、例えば、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、タンパク質ブロット(ウエスタンブロット)アッセイなどといったイムノアッセイにおいて、抗ac−タウ抗体を使用して測定してもよい。例示的実施形態では、サンドイッチELISAを使用してもよい。Ac−タウタンパク質を、サンドイッチELISA法などによって測定する場合には、Ac−タウタンパク質に特異的な抗体と組み合わせて使用される抗体は、アイソフォームの種類およびアセチル化状態に関らずタウタンパク質を認識する抗体(本明細書において以後、「非特異的抗タウタンパク質抗体」とも呼ばれ、使用される)である。非特異的抗タウタンパク質抗体の具体的な例として、Innogeneticsから市販されている抗タウタンパク質モノクローナル抗体HT7(タウタンパク質のアミノ酸番号159〜163と結合する)およびBT2(タウタンパク質のアミノ酸番号193〜198と結合する)が挙げられる。
【0172】
スクリーニング法
本開示内容は、タウオパチーの治療において使用するのに適した候補薬剤を同定する方法を提供する。主題スクリーニング法は、一般に、in vitro法であり、in vitroで細胞において実施しても、in vitro細胞不含アッセイ系において実施してもよい。
【0173】
いくつかの場合には、本方法は、a)i)アセチル化タウを脱アセチル化する酵素と、ii)アセチル化タウポリペプチドとを含むサンプルを、試験薬剤と接触させることと;b)タウポリペプチドのアセチル化度に対する試験薬剤の効果を調べることとを含む。タウポリペプチドの脱アセチル化を増大する試験薬剤は、タウオパチーを治療するための候補薬剤である。方法は、例えば、アセチル化タウを脱アセチル化する酵素を産生する細胞と、アセチル化タウポリペプチドを使用して、細胞ベースのアッセイにおいてin vitroで実施でき、前記方法は、細胞を試験薬剤と接触させることを含む。方法は、細胞不含アッセイ系においてin vitroで実施でき、例えば、ここでは、細胞不含系において、アセチル化タウを脱アセチル化する酵素およびアセチル化タウポリペプチドを、試験薬剤と接触させる。
【0174】
その他の場合には、方法は、a)i)タウポリペプチドをアセチル化する酵素と、ii)非アセチル化タウポリペプチドとを含むサンプルを、試験薬剤と接触させることと、b)タウポリペプチドのアセチル化度に対する薬剤の効果を調べることを含む。タウポリペプチドのアセチル化を阻害する試験薬剤が、タウオパチーを治療するための候補薬剤である。方法は、例えば、タウポリペプチドをアセチル化する酵素を産生する細胞と、非アセチル化タウポリペプチドとを使用して、細胞ベースのアッセイにおいてin vitroで実施でき、前記方法は、細胞を試験薬剤と接触させることを含む。方法は、細胞不含アッセイ系においてin vitroで実施でき、例えば、ここでは、細胞不含系において、タウをアセチル化する酵素および非アセチル化タウポリペプチドを、試験薬剤と接触させる。
【0175】
主題スクリーニング法は、一般に、適当な対照、例えば、試験薬剤を欠く対照サンプルを含む。一般に、種々の濃度に対する差示的反応を得るために、異なる薬剤濃度を有する複数のアッセイ混合物が平行して流される。一般に、これらの濃度のうち1種は、陰性対照、すなわち、ゼロ濃度または検出レベル未満として働く。
【0176】
スクリーニングアッセイにさまざまなその他の試薬を含めてもよい。これらは、最適タンパク質−タンパク質結合を促進するために、および/または非特異的もしくはバックグラウンド相互作用を低減するために使用される、塩、中性タンパク質、例えば、アルブミン、洗剤などといった試薬を含む。プロテアーゼ阻害剤、ヌクレアーゼ阻害剤、抗菌薬などといったアッセイの効率を改善する試薬も使用してよい。アッセイ混合物の成分は、必要な結合またはその他の活性を提供する任意の順序で加える。インキュベーションは、任意の適した温度、一般に、4℃から40℃の間で実施する。インキュベーション期間は、最適活性のために選択するが、迅速なハイスループットスクリーニングを促進するように最適化してもよい。一般に、0.1から1時間の間で十分となる。
【0177】
本明細書で使用する場合、用語「調べること」とは、定量的および定性的に調べることの両方を指し、そのようなものとして、用語「調べること」は、本明細書において、「アッセイすること」、「測定すること」などと同義的に使用される。
【0178】
用語「候補薬剤」、「試験薬剤」、「薬剤」、「物質」および「化合物」は、本明細書において同義的に使用される。候補薬剤は、合成、半合成および天然に存在する無機または有機分子を含む、多数の化学的クラスを包含する。候補薬剤は、合成または天然化合物の大きなライブラリー中に見られるものを含む。例えば、合成化合物ライブラリーは、Maybridge Chemical Co. (Trevillet,Cornwall,UK)、ComGenex(South San Francisco,CA)およびMicroSource (New Milford,CT)から市販されている。稀有な化学ライブラリーは、Aldrich (Milwaukee,Wis.)から入手可能であり、使用も可能である。あるいは、細菌、真菌、植物および動物抽出物の形態の天然化合物のライブラリーは、Pan Labs (Bothell,WA)から入手可能であり、容易に製造できる。
【0179】
候補薬剤は、50ダルトンを超え、約2,500ダルトン未満の分子量を有する、小さい有機または無機化合物であり得る。候補薬剤は、タンパク質との構造的相互作用に必要な官能基、例えば、水素結合を含み得、少なくとも1個のアミン、カルボニル、ヒドロキシルまたはカルボキシル基を含み得、少なくとも2つの官能化学基を含有し得る。候補薬剤は、上記の官能基のうち1種または複数で置換された、環状(cyclical)炭素または複素環式構造および/または芳香族もしくは多環芳香族構造を含み得る。候補薬剤はまた、ペプチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、誘導体、構造類似体またはそれらの組合せを含む生体分子の中にも見られる。
【0180】
試験薬剤は、小さい分子であり得る。試験分子は、最適な個々の小分子であり得る。または、いくつかの場合には、スクリーニングされる小分子試験薬剤は、コンビナトリアルライブラリー、すなわちいくつかの化学的「ビルディングブロック」を組み合わせることによる化学合成または生物学的合成のいずれかによって作製された多様な化学化合物の収集物に源を発する。例えば、ポリペプチドライブラリーなどの直鎖コンビナトリアル化学ライブラリーは、アミノ酸と呼ばれる一連の化学ビルディングブロックを、所与の化合物長(すなわち、ポリペプチド化合物中のアミノ酸の数)について、あらゆる可能性のある方法で組み合わせることによって形成される。このような化学ビルディングブロックのコンビナトリアル混合によって、数百万種の化学化合物を合成できる。実際、理論上は、100種の互換性のある化学ビルディングブロックの体系的なコンビナトリアル混合が、1億種の四量体化合物または100億種の五量体化合物の合成をもたらす。例えば、Gallopら、(1994年)、J.Med.Chem.、37(9)、1233〜1251頁参照のこと。コンビナトリアル化学ライブラリーの調製およびスクリーニングは、当技術分野で周知である。コンビナトリアル化学ライブラリーとして、それだけには限らないが、例えば、Hobbsら、(1993年)、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、90:6909〜6913頁に記載される、ヒダントイン、ベンゾジアゼピンおよびジペプチドなどのダイバーソマー(diversomers);Chenら、(1994年)、J.Amer.Chem.Soc.、116:2661〜2662頁に記載される、小化合物ライブラリーの類似有機合成;Choら、(1993年)、Science、261:1303〜1305頁に記載される、オリゴカルバメート;Campbellら、(1994年)、J.Org.Chem.、59:658〜660頁に記載される、ペプチジルホスホネート;および例えば、チアゾリジノンおよびメタチアザノンを含有する有機小分子ライブラリー(米国特許第5,549,974号)、ピロリジン(米国特許第5,525,735号および同第5,519,134号)、ベンゾジアゼピン(米国特許第5,288,514号)が挙げられる。
【0181】
多数のコンビナトリアルライブラリーが、例えば、ComGenex(Princeton,N.J.);Asinex(Moscow,Russia);Tripos,Inc.(St.Louis,Mo.);ChemStar,Ltd.(Moscow,Russia);3D Pharmaceuticals(Exton,Pa.);およびMartek Biosciences(Columbia,MD)から市販されている。
【0182】
細胞ベースのin vitroアッセイ
上記のように、いくつかの実施形態では、主題スクリーニング法は、細胞ベースのin vitroアッセイである。上記のように、いくつかの実施形態では、主題スクリーニング法は、脱アセチル化酵素を産生する細胞およびアセチル化タウポリペプチドを、試験薬剤と接触させることと;細胞中のAc−タウポリペプチドのレベルに対する試験薬剤の効果を調べることとを含む。上記のように、いくつかの実施形態では、主題スクリーニング法は、タウポリペプチドをアセチル化する酵素を産生する細胞および非アセチル化タウポリペプチドを、試験薬剤と接触させることと;細胞中のAc−タウポリペプチドのレベルに対する試験薬剤の効果を調べることとを含む。
【0183】
細胞中のアセチル化タウのレベルを、試験薬剤の不在下での細胞中のアセチル化タウポリペプチドのレベルと比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%または80%超低減させる試験薬剤が、タウオパチーを治療するための候補薬剤と考えられる。
【0184】
いくつかの異なる種類の細胞、例えば、マウス胚性線維芽細胞(MEF);一次ニューロン培養物、例えば、皮質ニューロン;神経細胞系統(例えば、不死化神経細胞系統)などを使用してもよい。特定の場合には、スクリーニングは、ニューロンが、ヒトドナー、非ヒト霊長類、げっ歯類などから入手されている、一次ニューロン培養物を使用して実施する。代替実施形態では、ニューロンは、胚幹細胞またはPC12などの神経細胞系統または神経芽腫細胞系統などの分化によって得られる。
【0185】
適した細胞系統として、それだけには限らないが、ヒト神経膠腫細胞系統、例えば、SVGp12(ATCC CRL−8621)、CCF−STTG1(ATCC CRL−1718)、SW 1088(ATCC HTB−12)、SW 1783(ATCC HTB−13)、LLN−18(ATCC CRL−2610)、LNZTA3WT4(ATCC CRL−11543)、LNZTA3WT11(ATCC CRL−11544)、U−138 MG(ATCC HTB−16)、U−87 MG(ATCC HTB−14)、H4(ATCC HTB−148)およびLN−229(ATCC CRL−2611);ヒト髄芽細胞腫由来細胞系統、例えば、D342 Med(ATCC HTB−187)、Daoy(ATCC HTB−186)、D283 Med(ATCC HTB−185);ヒト腫瘍由来ニューロン様細胞、例えば、PFSK−1(ATCC CRL−2060)、SK−N−DZ(ATCCCRL−2149)、SK−N−AS(ATCC CRL−2137)、SK−N−FI(ATCC CRL−2142)、IMR−32(ATCC CCL−127)など;マウス神経細胞系統、例えば、BC3H1 (ATCC CRL−1443)、EOC1(ATCC CRL−2467)、C8−D30(ATCC CRL−2534)、C8−S(ATCC CRL−2535)、Neuro−2a(ATCC CCL−131)、NB41A3(ATCC CCL−147)、SW10(ATCC CRL−2766)、NG108−15(ATCC HB−12317);ラット神経細胞系統、例えば、PC−12(ATCC CRL−1721)、CTX TNA2(ATCC CRL−2006)、C6(ATCC CCL−107)、F98(ATCC CRL−2397)、RG2(ATCC CRL−2433)、B35(ATCC CRL−2754)、R3(ATCC CRL−2764)、SCP(ATCC CRL−1700)、OA1(ATCC CRL−6538)が挙げられる。
【0186】
1種または複数の脱アセチル化酵素、アセチルトランスフェラーゼおよびタウ(アセチル化または非アセチル化)が、スクリーニングにおいて使用される細胞に対して内因性であり得る。いくつかの実施形態では、1種または複数の脱アセチル化酵素、アセチルトランスフェラーゼおよびタウ(アセチル化または非アセチル化)が、外因的に、例えば、宿主細胞を、1種または複数のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列(単数または複数)を含む核酸(例えば、発現構築物(単数または複数))を用いて遺伝子組換えすることによって提供され;遺伝性組換えされた宿主細胞を試験薬剤と接触させる。外因的に提供される場合は、脱アセチル化酵素は、Ac−タウを脱アセチル化するとわかっている脱アセチル化酵素であり得、アセチルトランスフェラーゼは、非アセチル化タウをアセチル化して、Ac−タウを生じさせるとわかっているアセチルトランスフェラーゼであり得る。
【0187】
特定の実施形態では、アセチルトランスフェラーゼは、p300ポリペプチド(mRNA GenBank受託番号:NM_001429.3.タンパク質GenBank受託番号:NP_001420.2)である。特定の場合には、p300ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸(例えば、発現構築物)を、宿主細胞に導入し、ここで、ヌクレオチド配列は、タウポリペプチドをアセチル化し、配列番号12に示されるアミノ酸配列の、一続きの連続した約1800個のアミノ酸〜約2000個のアミノ酸、約2000個のアミノ酸〜約2200個のアミノ酸または約2200個のアミノ酸〜約2414個のアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むp300ポリペプチドをコードする。これらの実施形態では、宿主細胞は、p300ポリペプチドをコードする発現構築物を用いて遺伝子組換えされている。
【0188】
特定の場合には、脱アセチル化酵素をコードするヌクレオチド配列を含む核酸(例えば、発現構築物)を宿主細胞に導入し、前記ヌクレオチド配列は、i)アセチル化タウポリペプチドを脱アセチル化し、ii)配列番号9(GenBank AAH12499;ヒトSIRT1)に示されるアミノ酸配列の一続きの連続した約400個のアミノ酸〜約450個のアミノ酸または約450個のアミノ酸〜約555個のアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%もしくは100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むSIRT1ポリペプチドをコードするか;またはヌクレオチド配列は、i)アセチル化タウポリペプチドを脱アセチル化し、ii)配列番号10(GenBank NP_036370;ヒトSIRT1アイソフォームa)に示されるアミノ酸配列の一続きの連続した約500個のアミノ酸〜約600個のアミノ酸、約600個のアミノ酸〜約700個のアミノ酸もしくは約700個のアミノ酸〜約747個のアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%もしくは100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むSIRT1ポリペプチドをコードするか;またはヌクレオチド配列は、i)アセチル化タウポリペプチドを脱アセチル化し、ii)配列番号11(GenBank NP_001135970;ヒトSIRT1アイソフォームb)に示されるアミノ酸配列の一続きの連続した約300個のアミノ酸〜約400個のアミノ酸もしくは約400個のアミノ酸〜約452個のアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%もしくは100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むSIRT1ポリペプチドをコードする。これらの実施形態では、宿主細胞は、SIRT1ポリペプチドをコードする発現構築物を用いて遺伝子組換えされる。
【0189】
特定の場合には、タウポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸(例えば、発現構築物)を、細胞に導入し、前記ヌクレオチド配列は、配列番号1〜6に示されるアミノ酸配列のいずれか1種の一続きの連続した約350個のアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタウポリペプチドをコードするか;またはヌクレオチド配列は、配列番号2(ヒトタウアイソフォーム3)に示されるアミノ酸配列の一続きの連続した約350個のアミノ酸〜383個のアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタウポリペプチドをコードするか;またはヌクレオチド配列は、配列番号4(ヒトタウアイソフォーム5)に示されるアミノ酸配列の一続きの連続した約350個のアミノ酸〜約412個のアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタウポリペプチドをコードするか;またはヌクレオチド配列は、配列番号1(ヒトタウアイソフォーム2)に示されるアミノ酸配列の一続きの連続した約350個のアミノ酸〜約400個のアミノ酸もしくは約400個のアミノ酸〜約441個のアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%もしくは100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタウポリペプチドをコードするか;またはヌクレオチド配列は、配列番号5(ヒトタウアイソフォーム1)に示されるアミノ酸配列の一続きの連続した約350個のアミノ酸〜約400個のアミノ酸、約400個のアミノ酸〜約500個のアミノ酸、約500個のアミノ酸〜約600個のアミノ酸、約600個のアミノ酸〜約700個のアミノ酸もしくは約700個のアミノ酸〜約758個のアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%もしくは100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタウポリペプチドをコードするか;またはヌクレオチド配列は、配列番号6(ヒトタウアイソフォーム6)に示されるアミノ酸配列の一続きの連続した約350個のアミノ酸〜約400個のアミノ酸、約400個のアミノ酸〜約500個のアミノ酸、約500個のアミノ酸〜約600アミノ酸、約600個のアミノ酸〜約700個のアミノ酸もしくは約700個のアミノ酸〜約776個のアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%もしくは100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタウポリペプチドをコードする。
【0190】
例えば、アセチルトランスフェラーゼ(例えば、p300ポリペプチド)および/またはタウポリペプチドおよび/または脱アセチル化酵素(例えば、SIRT1ポリペプチド)をコードするヌクレオチド配列を、適した発現ベクターに導入してもよい。発現ベクターは、適した宿主細胞に導入される。発現ベクターは、一般に、プロモーター配列の付近に位置する好都合な制限部位を有し、ポリヌクレオチド配列の挿入を提供する。転写開始領域、ポリペプチド(例えば、アセチルトランスフェラーゼ(例えば、p300ポリペプチド)、タウポリペプチドまたは脱アセチル化酵素(例えば、SIRT1ポリペプチド))をコードするヌクレオチド配列および転写終結領域を含む転写カセットを調製してもよい。転写カセットを種々のベクター、例えば、プラスミド;レトロウイルス、例えば、レンチウイルス;アデノウイルスなどに導入してもよく、前記ベクターは、細胞中に、通常、少なくとも約1日の期間、より一般的には、少なくともおよそ数日〜数週間の期間、一過性にまたは安定に維持され得る。
【0191】
タウポリペプチドは、融合タンパク質、例えば、タウおよび融合パートナーを含むポリペプチドであり得る。適した融合パートナーとして、in vivoで増強された安定性(例えば、増強された血清半減期)を付与するペプチドおよびポリペプチド;精製の容易性を提供するペプチドおよびポリペプチド、例えば、(His)、例えば、6Hisなど;細胞からの融合タンパク質の分泌を提供するペプチドおよびポリペプチド;エピトープタグを提供するペプチドおよびポリペプチド、例えば、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、血球凝集素(HA;例えば、CYPYDVPDYA;配列番号18)、FLAG(例えば、DYKDDDDK;配列番号19)、c−myc(例えば、CEQKLISEEDL;配列番号20)など;検出可能なシグナルを提供するペプチドおよびポリペプチド、例えば、検出可能な生成物を生成する酵素(例えば、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ)もしくはそれ自体が検出可能であるタンパク質、例えば、緑色蛍光タンパク質など;多量体化を提供するペプチドおよびポリペプチド、例えば、多量体化ドメイン、例えば、免疫グロブリンのFc部分などが挙げられる。
【0192】
発現構築物を作製するための種々の操作は、in vitroで実施してもよく、または適当な宿主細胞、例えば、大腸菌において実施してもよい。各操作後、得られた構築物をクローニングし、ベクターを単離し、DNAをスクリーニングまたは配列決定して、構築物の正確性を確実にすることができる。配列を制限分析、配列決定などによってスクリーニングしてもよい。
【0193】
試験薬剤の効果を調べることは、一般に、細胞中のアセチル化タウポリペプチドのレベルを調べることによって実施する。Ac−タウレベルは、例えば、ELISA、RIA、タンパク質ブロット(ウエスタンブロット)アッセイなどといったイムノアッセイにおいて、Ac−タウに特異的な抗Ac−タウ抗体(「抗Ac−タウ抗体」)を使用して測定できる。抗Ac−タウ抗体は、検出可能な標識を含むことができ、標識を検出することによって抗Ac−タウのアセチル化タウとの結合を調べることができる。あるいは、抗Ac−タウ抗体のアセチル化タウとの結合は、抗Ac−タウ抗体と結合する検出可能に標識された二次抗体を使用して検出してもよい。細胞を放射標識されたアセチルドナー化合物を含む液体培養培地中で培養し、その結果、細胞によって産生された任意のアセチル化タウが、放射標識されたアセチル基を含むことができ、ここで、アセチル化タウのレベルが、放射標識されたアセチル化タウを検出することによって実施される。Ac−タウのレベルは、無傷の細胞中で、または細胞溶解物中で、または細胞から単離されたAc−タウを使用して測定できる。
【0194】
細胞不含in vitroアッセイ
上記のように、いくつかの実施形態では、主題スクリーニング法をin vitro細胞不含アッセイ系において実施する。上記のように、いくつかの実施形態では、主題スクリーニング法は、細胞不含系において、i)アセチル化タウを脱アセチル化する酵素およびii)アセチル化タウポリペプチドを、試験薬剤と接触させることを含む。上記のように、いくつかの実施形態では、主題スクリーニング法は、細胞不含系において、i)タウポリペプチドをアセチル化する酵素およびii)非アセチル化タウポリペプチドを、試験薬剤と接触させることを含む。
【0195】
使用されるポリペプチド(例えば、アセチル化タウを脱アセチル化する酵素およびアセチル化タウポリペプチド;またはタウポリペプチドをアセチル化する酵素および非アセチル化タウポリペプチド)は精製してもよく、例えば、前記ポリペプチドは、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%または少なくとも約99%純粋であり、例えば、その他の高分子および/または混入物を含まない。ポリペプチドは、組換えによって製造し、次いで、精製してもよく;ポリペプチドは、天然由来のポリペプチドから精製してもよく;またはポリペプチドは合成してもよい(例えば、細胞不含化学合成法を使用して)。
【0196】
アセチル化タウのレベルを、試験薬剤の不在下でのアセチル化タウポリペプチドのレベルと比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%または80%超低減させる試験薬剤が、タウオパチーを治療するための候補薬剤と考えられる。
【0197】
アセチル化タウを脱アセチル化する適した酵素は、上記のとおりである。例えば、適した酵素は、神経細胞においてアセチル化タウポリペプチドを脱アセチル化し、配列番号9(GenBank AAH12499;ヒトSIRT1)に示されるアミノ酸配列の一続きの連続した約400個のアミノ酸〜約450個のアミノ酸もしくは約450個のアミノ酸〜約555個のアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%もしくは100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドであるか、または神経細胞においてアセチル化タウポリペプチドを脱アセチル化し、配列番号10(GenBank NP_036370;ヒトSIRT1アイソフォームa)に示されるアミノ酸配列のうちの、約500個のアミノ酸〜約600個のアミノ酸、約600個のアミノ酸〜約700個のアミノ酸もしくは約700個のアミノ酸〜約747個の一続きの連続したアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%もしくは100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドであるか、または神経細胞においてアセチル化タウポリペプチドを脱アセチル化し、配列番号11(GenBank NP_001135970;ヒトSIRT1アイソフォームb)に示されるアミノ酸配列のうちの、約300個のアミノ酸〜約400個のアミノ酸もしくは約400個のアミノ酸〜約452個の一続きの連続したアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%もしくは100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドである。
【0198】
タウポリペプチドをアセチル化する適した酵素として、タウをアセチル化し、配列番号12に示されるアミノ酸配列の一続きの連続した約1800個のアミノ酸〜約2000個のアミノ酸、約2000個のアミノ酸〜約2200個のアミノ酸または約2200個のアミノ酸〜約2414個のアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むアセチルトランスフェラーゼがある。
【0199】
適切なタウポリペプチドは、配列番号1〜6に示されるアミノ酸配列のいずれか1種の一続きの連続した約350個のアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか;または配列番号2(ヒトタウアイソフォーム3)に示されるアミノ酸配列の一続きの連続した約350個のアミノ酸〜383個のアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか;または配列番号4(ヒトタウアイソフォーム5)に示されるアミノ酸配列のうちの、一続きの連続した約350個のアミノ酸〜約412個のアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか;または配列番号1(ヒトタウアイソフォーム2)に示されるアミノ酸配列のうちの、一続きの連続した約350個のアミノ酸〜約400個のアミノ酸もしくは約400個のアミノ酸〜約441個のアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%もしくは100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか;または配列番号5(ヒトタウアイソフォーム1)に示されるアミノ酸配列のうちの、一続きの連続した約350個のアミノ酸〜約400個のアミノ酸、約400個のアミノ酸〜約500個のアミノ酸、約500個のアミノ酸〜約600個のアミノ酸、約600個のアミノ酸〜約700個のアミノ酸もしくは約700個のアミノ酸〜約758個のアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%もしくは100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか;または配列番号6(ヒトタウアイソフォーム6)に示されるアミノ酸配列のうちの、一続きの連続した約350個のアミノ酸〜約400個のアミノ酸、約400個のアミノ酸〜約500個のアミノ酸、約500個のアミノ酸〜約600アミノ酸、約600個のアミノ酸〜約700個のアミノ酸もしくは約700個のアミノ酸〜約776個のアミノ酸に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%もしくは100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられる。
【0200】
アセチル化タウポリペプチドは、例えば、タウポリペプチドと、タウポリペプチドをアセチル化する酵素とを産生する神経細胞系統において組換えによって製造してもよい。アセチル化タウポリペプチドはまた、in vitroで非アセチル化タウポリペプチドを化学的にアセチル化することによって製造してもよい。
【0201】
試験薬剤の効果を調べることは、一般に、アセチル化タウポリペプチドのレベルを調べることによって実施する。Ac−タウレベルは、例えば、ELISA、RIA、タンパク質ブロット(ウエスタンブロット)アッセイなどといったイムノアッセイにおいて、Ac−タウに特異的な抗Ac−タウ抗体(「抗Ac−タウ抗体」)を使用して測定できる。抗Ac−タウ抗体は、検出可能な標識を含むことができ、標識を検出することによって抗Ac−タウのアセチル化タウとの結合を調べることができる。あるいは、抗Ac−タウ抗体のアセチル化タウとの結合は、抗Ac−タウ抗体と結合する検出可能に標識された二次抗体を使用して検出してもよい。いくつかの実施形態では、アセチル化タウポリペプチドは、放射標識されたアセチルドナーを含む液体培地中で培養される細胞によって産生され、その結果、細胞によって産生されたアセチル化タウは、1、2または3個以上の放射標識されたアセチル基を含む。これらの場合、調べる工程は、放射活性薬剤で標識されたタウポリペプチドの量を調べることによって実施できる。
【0202】
In vivoスクリーニング
上記のように、in vitroスクリーニングアッセイによって同定された候補薬剤は、in vivoでニューロンおよび/またはグリア細胞中のAc−タウポリペプチドのレベルを低下させるその能力について試験できる。あるいは、試験薬剤を、in vivoでAc−タウポリペプチドレベルを低下させるものについて評価することもできる。
【0203】
認知機能障害の非ヒトモデルを使用して、試験薬剤をスクリーニングし、Ac−タウポリペプチドのレベルを低下させる候補薬剤を同定してもよい。例示的非ヒトモデルとして、アルツハイマー病のトランスジェニック動物モデル、ヒトタウを過剰発現するトランスジェニック動物モデル、認知機能障害および/またはタウ陽性神経原線維変化を示すトランスジェニック動物モデルが挙げられる。いくつかのこのような非ヒト動物モデルは、当技術分野で公知である。トランスジェニック非ヒト動物モデルとは、タウオパチーなどのヒト神経変性疾患に関与している導入遺伝子を含有し、アルツハイマー病などの認知症を示す非ヒト動物(例えば、げっ歯類)を指し、以下の例示的トランスジェニック非ヒト動物:LIDマウス(Yakar Sら、1999年、Proc Natl Acad Sci USA 96;7324〜7329頁)、プレセニリンおよびβアミロイド中の突然変異のトランスジェニック動物保有者(Hock B J、Jr.、Lamb B T、2001年、Trends Genet17:S7−12)、その他の突然変異および変更の動物保有者(US20030229907、進行性の神経疾患を有するトランスジェニック非ヒト哺乳類;US20030145343、ヒトp25を発現するトランスジェニック動物;US20030131364、表現型が調節されたトランスジェニック動物モデルを製造する方法およびそれから製造された動物;US20030101467、アルツハイマー病のトランスジェニック動物モデル;US200030093822、神経変性疾患のトランスジェニック動物モデル;米国特許第6,717.031号、アルツハイマー病のトランスジェニックマウスモデルを選択する方法;米国特許第6,593,512号、ヒトタウ遺伝子を発現するトランスジェニックマウス;米国特許第6,563.015号、突然変異株ヒトAPPを発現し、コンゴーレッド染色プラークを形成するトランスジェニックマウス;米国特許第6.455,757号、ヒトAPPおよびTGF−βを発現するトランスジェニックマウスは、脳血管アミロイド沈着を示す;米国特許第6.452,065号、天然プレセニリン1ヌルバックグラウンドで非天然野生型および家族性アルツハイマー病突然変異株プレセニリン1タンパク質を発現するトランスジェニックマウス;W003053136、アルツハイマー病の三重トランスジェニックモデル:WO03046172が挙げられる。一般に、正常レベルのAc−タウおよび/またはタウよりも高いレベルを有するタウオパチーの任意の動物モデルを、in vivoスクリーニングアッセイにおいて使用して、タウおよび/またはAc−タウのレベルを低下させる化合物を同定してもよい。
【0204】
非ヒト動物モデル中に存在するAc−タウのレベルを調べることに加えて、これらの非ヒト動物モデルはまた、主題in vitroスクリーニング法(単数または複数)によって同定された候補薬剤の有効性を評価するために使用してもよい。候補薬剤の有効性は、例えば、認知などのタウオパチーと関連している症状の改善を評価することによって、MCIの動物モデルにおいて試験してもよい。
【実施例】
【0205】
以下の実施例は、当業者に、本発明の製造および使用方法の完全な開示および説明を提供するために提示されるものであって、本発明者らが発明と考えるものを制限しようとするものではなく、以下の実験がすべてまたは実施された唯一の実験であると意味しようとするものでもない。使用される数字(例えば、量、温度など)に関して、正確度を確実にするように努力したが、いくらかの実験誤差および偏差を考慮すべきである。特に断りのない限り、部分は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏温度であり、圧力は大気圧またはその近傍のものである。標準的な略語が使用される場合もある。例えば、bp、塩基対;kb、キロベース;pl、ピコリットル;sまたはsec、秒;min、分;hまたはhr、時間;aa、アミノ酸;kb、キロベース;bp、塩基対;nt、ヌクレオチド;i.m.、筋肉内(筋肉内に);i.p.、腹腔内(腹膜内に);s.c.、皮下(皮下に);wt、野生型など。
【実施例1】
【0206】
タウのアセチル化は、その分解を阻害し、タウオパチーの一因となる
試験手順
化学物質および試薬
C646は、Chembridge(San Diego,CA)から入手した。C37(C646の不活性類似体)は合成した。EX527(Tocris Bioscience,Ellisville,MO)、レスベラトロール(EMD Chemicals,Gibbstown,NJ)、MG−132(Sigma,St. Louis,MO)、シクロヘキシミド(Sigma)、Aβ42ペプチド(rPeptide,Bogart,GA)および組換えタウ(rPeptide)は購入した。Aβ42オリゴマーは、記載されるように調製した。Chenら(2005年)J.Biol.Chem.280:40364頁。
【0207】
一次抗体
2種のタウのアセチル化ペプチド(Abgent,San Diego,CA)に対して、2種のウサギポリクローナル抗Ac−タウ抗血清を作製した。PHF1抗体は贈与された。その他の抗体は入手し、示した濃度で使用した:タウ5(1:5000;Abcam,Cambridge,MA)、抗p300(1:500;Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA)、抗GAPDH(1:10000;Sigma)、抗チューブリン(1:10000;Sigma)、抗FLAG(1:2000;Sigma)、p−タウのAT8(1:500;Thermo Fisher Scientific,Rockford,IL)、抗Sir2(1:2000;Millipore,Billerica,MA)、抗血球凝集素(抗HA)(1:1000;Cell Signaling Technology,Danvers,MA)。二次抗体:ペルオキシダーゼコンジュゲートヤギ抗ウサギおよび抗マウスIgG(1:2000;GE Healthcare,Piscataway,NJ)。
【0208】
発現プラスミド
HEK293T細胞における発現のために、hTauwt、hTau2KR(K174R、K180R)、hTau3KR(K163R、K174R、K180R)、p300、SIRT1、H363Y(SIRT1)、SIRT2、HDAC5、HDAC6およびHA−ユビキチンをコードするcDNAを、pcDNA3.1ベクター(Invitrogen)にクローニングした。細菌におけるタンパク質発現のために、hTauwt cDNAを、GST−融合タンパク質発現のためにpGEX4T−1ベクターにクローニングした。一次ニューロンにおける発現のために、hTauwt、hTau3KR、hTauP301をコードするcDNAおよびcreリコンビナーゼを、レンチウイルスFUGWベクターにクローニングした。
【0209】
マウス
動物に関するすべての手順は、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の動物実験委員会(Animal Care and Use Committee)の指針に従った。PS19マウスは、Jackson Laboratory(Bar Harbor,ME)から入手した。hT−PAC−N系統は贈与された。SIRT−ヌルおよびSIRT1F/Fマウスは、Fred Alt(Harvard Medical School)によって提供された。
【0210】
細胞培養および一時的トランスフェクション
HEK293T細胞およびMEFを、10%ウシ胎児血清、100U/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを補給したダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)中、37℃で増殖させた。過剰発現のために、リポフェクタミン2000(Invitrogen)を用いてトランスフェクションを実施した。siRNAオリゴヌクレオチドトランスフェクションのために、HEK293T細胞を、12ウェル培養プレートに1×10個細胞/ウェルで播種した。12時間後、10nM ON−TARGETplus SMARTプールsiRNA(Thermo Scientific−Dharmacon,Chicago,IL)を用い、リポフェクタミンRNAiMAXトランスフェクション試薬(Invitrogen)を用いて、製造業者のプロトコールに従って細胞をトランスフェクトした。SIRT1 siRNA(L−094699−01)、SIRT2 siRNA(L−004826−00)、HDAC6 siRNA(L−003499−00)、p300 siRNA(L−003486−00)およびPCAF siRNA(L−005055−00)を、特定の細胞遺伝子を標的とするために使用し;siControl Non−Targeting siRNA#1(Dharmacon)を、陰性対照として使用した。siRNAトランスフェクションの約48時間後、プラスミドpcDNA3.1−hTauwtを、同じ培養プレートにトランスフェクトした。リアルタイムRT−PCRまたはウエスタンブロット分析のために、24時間後に細胞を回収した。
【0211】
一次ニューロン培養およびレンチウイルス感染
出生直後0日または1日のスプラーグ−ドーリーラットの仔(Charles River Laboratories)またはSIRT1F/Fマウスの皮膚から、初代培養を確立した。精製した細胞を、ポリ−オルニチンコーティングしたプレート上、B27(Invitrogen)を補給したNeurobasal培地中、160,000細胞/mlでプレーティングした。すべての処理は、特に断りのない限り、N2(Invitrogen)を補給したNeurobasal 培地中7〜13DIVで実施した。
【0212】
レンチウイルスは、記載されるように作製し、精製し、感染のために使用した。Chenら(2005)前掲。組換えレンチウイルスは、293T細胞へのシャトルベクター(FUGW)、2種のヘルパープラスミド、δ8.9パッケージングベクターおよびVSV−Gエンベロープベクターの同時トランスフェクションによって製造し、超遠心分離法によって精製した。ウイルス力価は、Gladstone−UCSF Laboratory of Clinical Virologyでp24酵素結合免疫吸着測定法によって測定した。
【0213】
細胞および組織のホモジナイゼーションならびにウエスタンブロット解析
細胞またはヒトもしくはマウス脳組織を、5mMニコチンアミド(Sigma)および1μMトリコスタチンA(Sigma)を含む、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma)、1mMフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)(Sigma)、ホスファターゼ阻害剤カクテル(Roche)およびHDAC阻害剤を含有するRIPAバッファーに溶解した。超音波処理後、ヒトまたはマウス脳組織から得た溶解物を4℃、170,000gで15分間および4℃、18,000gで10分間遠心分離した。上清を回収し、ウエスタンブロットによって分析した。イムノブロットのバンドを増強した化学発光(Pierce)によって可視化し、デンシトメトリーおよびQuantity One 4.0ソフトウェア(Bio−Rad、Hercules、CA)によって定量化した。
【0214】
In Vitroアセチル化アッセイ
反応を、記載されるように実施した。Pagansら(2005年)PLoS Biol3:e41。手短には、アセチル化バッファー(50mM HEPES、pH8.0、10%グリセロール、1mMジチオトレイトール(DTT)および10mM酪酸Na)中、1μgのヒト組換えタウ、2nMのアセチルCoA(Sigma)および1μlの精製GST−p300を、一定に振盪しながら、30℃で30分間インキュベートした。2X LDSサンプリングバッファー(Invitrogen)を加えることによって反応を停止し、続いて、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)およびウエスタンブロット分析を行なった。
【0215】
MALDI−TOF分析
in vitroアセチル化反応から得たサンプルを、SDS−ポリアクリルアミドゲルに流し、クーマシーブルーで染色した。およそ65kDaのバンドを切り出し、分析のためにStanford Mass Spectrometry Laboratoryに送った。Promega MS等級トリプシンを用いて一晩、ゲル内消化を行なった。消化に先立って、ゲル切片をおよそ1mm×1mm角に切断し、5mMジチオトレイトール(DTT)を用いて還元し、アクリルアミドを用いてアルキル化した。ペプチドを抽出し、スピードバックを使用して乾燥させ、その後、再構成し、分析した。
【0216】
ナノ逆相高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を、Eksigent 2D nanoLC(Eksigent,Dublin,CA)を用い、水中の0.1%ギ酸からなるバッファーAおよびアセトニトリル中の0.1%ギ酸からなるバッファーBを用いて行った。Duragel C18(Peeke,Redwood City,CA)マトリックスを自己充填した融合シリカカラムを、5% Bから40% Bへの直線勾配を用い、450nl/分の流速で80分間かけて使用した。ナノHPLCを、ナノ−エレクトロスプレーイオン化法のためのAdvion Nanomate(Ithaca,NY)と適合して、質量分析計へとつなげた。質量分析計は、LCQ Deca XP Plus(Thermo Scientific)であり、データ依存獲得モードで設定して、2のダイナミックイクスクルージョン(dynamic exclusion)設定を用い、上位3種の最も強いイオンでMS/MSを実施した。生データからDTAファイルを抽出し、Mascotを用いて系統的に探索した。タンパク質の割り当てには、確立>95%を有する少なくとも2種のペプチドを必要とした。
【0217】
In Vitro脱アセチル化アッセイ
反応を、確立された手順から改変した。Pagansら(2005年)前掲。HEK293T細胞を、ヒトFLAGタグをつけたSIRT1プラスミドまたはニセプラスミドを用いて、リポフェクタミン2000(Invitrogen)を用いてトランスフェクトした。24時間後、細胞を溶解バッファー(50mM Tris−HCl、pH7.5、0.5mM EDTA、0.5% NP−40、150mM NaClおよびプロテアーゼ阻害剤カクテル)に溶解した。4℃、13,000rpmで10分間遠心分離した後、等量の上清タンパク質を、FLAG M2アガロースビーズ(Sigma)とともに4℃で3時間免疫沈降させた。免疫沈降したビーズを溶解バッファーで2回、脱アセチル化バッファー(50mM Tris−HCl、pH9.0、4mM MgClおよび0.2mM DTT)で1回洗浄し、一定に振盪しながら、脱アセチル化バッファー中でin vitro ac−タウとともに30℃で3時間インキュベートした。2X LDSサンプリングバッファー(Invitrogen)を加えることによって反応を停止し、ウエスタンブロットによって分析した。
【0218】
In Vivoユビキチン化アッセイ
公開された研究から手順を改変した。Ohら(2009年)Nat Cell Biol 11:295。HEK293T細胞を、FLAGタグをつけたヒトタウおよびHA−ユビキチンをコードする発現ベクターを用い、Myc−SIRT1(野生型またはH363Y突然変異体)を用い、または用いずにトランスフェクトした。2時間インキュベートした後、細胞を、「ダルベッコ改変イーグル培地」中で、EX527、レスベラトロールまたはジメチルスルホキシド(DMSO)で処理し、20時間インキュベートした。MG−132(20μM)を加え、4時間インキュベートした。細胞をユビキチン化バッファー(20mM Tris−HCl、pH7.5、0.1mM EDTA、0.2% Triton X−100、150mM NaClおよびプロテアーゼ阻害剤カクテル)に溶解した。上清タンパク質を、FLAG M2アガロースビーズ(Sigma)とともに4℃で3時間免疫沈降させた。反応物を、ユビキチン化バッファーを用いて少なくとも3回洗浄し、SDS−PAGEおよび抗HA抗体(Cell Signaling Technology)を用いるウエスタンブロットによって分析した。
【0219】
GST融合タンパク質の精製および相互作用アッセイ
ヒトタウをコードする全長cDNAを、pGEX−4T−1細菌発現ベクター(Sigma)にサブクローニングし、BL21(DE3)株に形質転換した。100μMイソプロピル β−D−1−チオガラクトピラノシドを用いて誘導した後、細菌細胞を回収し、1mM EDTA、0.5% Triton X−100およびプロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma)を有するリン酸緩衝生理食塩水中で超音波処理した。グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)タグをつけたヒトタウまたはGSTタンパク質を、グルタチオン−アガロースビーズ(GenScript)を用いて精製した。
【0220】
GSTプルダウンアッセイでは、精製GSTタウのビーズ結合型を、FLAGタグをつけたヒトSIRT1を用いてトランスフェクトされていない(内因性SIRT1との相互作用のために)またはトランスフェクトされたHEK293T細胞から得られた溶解物とともにインキュベートした。ビーズを、Triton X−100またはNonidet−40を含有する溶解バッファーを用いて少なくとも3回洗浄し、SDS−PAGEおよび抗SIRT1抗体(Millipore)または抗FLAG抗体(Sigma)を用いるウエスタンブロットによって分析した。
【0221】
共免疫沈降アッセイでは、HEK293T細胞をpcDNA3.1−hTau−FLAGを用いてトランスフェクトした。Triton X−100で可溶化した溶解物を、FLAG M2アガロースビーズとともに4℃で3時間インキュベートした。ビーズを、Triton X−100(0.5%)を含有する溶解バッファーを用いて少なくとも3回洗浄し、SDS−PAGEおよび抗SIRT1抗体(Millipore)または抗FLAG抗体(Sigma)を用いるウエスタンブロットによって分析した。
【0222】
C646の特性決定、選択的p300阻害剤
コンピュータによるドッキングスクリーニングによって、C646を、p300の推定阻害剤の1種として同定した。Bowersら(2010年)Chem Biol 17:471。好都合な分光光度的アッセイを実施して、それをp300阻害剤として確認し(Kimら(2000年)Anal Biochem 280:308)、続けて一連の二次的アッセイを行った。連結分光光度的アッセイでは、アセチルトランスフェラーゼ反応生成物CoASHが、アルファケトグルタレートデヒドロゲナーゼの基質となり、これは、NADをNADHに変換し、その結果、340nmのUV吸光度が増大する。Kimら(2000年)、前掲。続いて、放射活性p300 HATアッセイを実施して、C646のIC50を直接測定した。C646によるp300対その他のアセチルトランスフェラーゼの特異的阻害をさらに調べた。これらのアセチルトランスフェラーゼは、セロトニンN−アセチルトランスフェラーゼおよびHATs pCAF、GCN5、Rtt109、SasおよびMOZを含んでいた。
【0223】
データ分析
Graphpad Prismを用いて統計分析を実施した。1種の変数を有する複数(≧3)の平均間の相違を、一元配置分散分析およびTukey−Kramerポストホックテストによって評価した。2種の平均間の相違は、対応または独立両側t検定を用いて評価した。P<0.05を有意と考えた。
【0224】
結果
タウは、in Vitroおよびin Vivoでアセチル化される
タウがアセチル化されることを実証するために、組換えタウを、14C−アセチル−補酵素Aとともに、組換えアセチルトランスフェラーゼp300またはpCAF(p300/CBP結合因子)とともにインキュベートした。pCAFではなくp300とともにインキュベートすることが、タウアセチル化につながったが、予測されたようにアセチル基をヒストンに移す点ではp300およびpCAFは両方とも活性であった(図1A)。マトリックス支援レーザー脱離/イオン化−時間飛行型(MALDI−TOF)分光法によって、in vitroでp300によってアセチル化された複数のリシンが同定された。タウ配列(2N4R、441個のアミノ酸)中、383個の残基のうち合計23個の推定アセチル化リシンを検出した(約86.8%のカバー度;表4)。数個の推定アセチル化リシンが、NおよびC末端領域中にあり;13個が微小管−結合ドメイン中にあった(図1Bおよび表4)。推定アセチル化N末端リシン(例えば、リシン163、174および180)は、すべての質量分析法(MS)分析において、アセチル化されていると思われた。微小管−結合ドメイン中のものは、一部のMS分析においてアセチル化されると思われ、これは、in vitroでこれらの部位での可変性のアセチル化を示唆する(表4)。
【0225】
【表4】


【0226】
表4は、p300の存在下でのヒトタウペプチドの推定修飾を表す。リシンを有するペプチドのみが示されている。3種の独立した分析から得られる総カバー度:383/441(86.8%)。推定アセチル化リシンは、太字で下線が引かれている。複数の観察の中の各ペプチドの最高のSEQUEST XCorrスコアが示されている。XCorrスコアのカットオフは、2.5である。リシンはまた、非アセチル化であるとも観察されている。
【0227】
in vivoでタウアセチル化を調べるために、位置163および174および180にアセチル化リシンを含有する合成タウペプチド(2N4Rタウアイソフォームのアミノ酸160〜182;図10中で下線が引かれている)を使用してポリクローナル抗体(抗Ac−タウ、Ab708)を作製した。非アセチル化リシンを有する同じペプチドを使用して対照抗体を作製した(抗タウ、Ab707)。ac−タウに対するAb708の特異性を試験するために、組換えヒトタウ(441;2N4Rアイソフォーム)を、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)単独またはGST−p300とともにインキュベートした。Ab708を用いるイムノブロッティングによって、GST−p300とともにインキュベーションした後に強いタウシグナルを検出したが、GST単独とともにインキュベーションした場合では検出しなかった(図1C)。対照的に、Ab707またはタウ5抗体は、GSTまたはGST−p300のいずれかとともに同様のレベルの総タウ(t−タウ)を検出した(図1C)。したがって、Ab708は、細胞不含状態下でp300によるタウアセチル化を特異的に認識する。タウを用いてトランスフェクトされたHEK293T細胞では、p300の過剰発現は、Ab708を用いて検出されるac−タウのレベルを著しく上昇させたが、t−タウのレベルの増大は中程度であり、このことは、Ab708は、培養細胞においてp300によって誘導されるac−タウを選択的に認識することを示唆する(図1D)。リシン163、174および180の突然変異(Tau3KR)は、ac−タウレベルを、HEK293T細胞におけるt−タウレベルに対して低減させた(図1E)。Tau2KR(K174R/K180R)において2個のリシンが突然変異された場合も、より小さいものであるが、依然、有意な低減が観察された(図1E)。これらの知見は、Ab708は、位置163、174または180でのヒトタウアセチル化およびおそらくはタウ上のその他のアセチル化リシンを認識するが、非アセチル化タウを認識しないことを示唆する。
【0228】
in vivoでac−タウを検出するために、ヒトタウcDNA(1N4R)を発現し、P301S突然変異(P19)を有するトランスジェニックマウス(Yoshiyamaら(2007年)Neuron53:337)から得た、または2種の主なタウアイソフォームとして0N3Rおよび0N4Rを有する全ヒト野生型MAPT(hT−PAC−N)を発現するトランスジェニックマウス(McMillanら(2008年)J Comp Neurol 511:788頁)から得た脳溶解物を用いてウエスタンブロットを実施した。ヒトおよびマウスタウは、Ab708およびAb707を作製するために使用される領域中の3つの位置で異なる(図10)。Ab708は、P19およびhT−PAC−Nマウスから得た溶解物において特異的シグナルを検出したが、非トランスジェニック(NTG)同腹仔から得たものでは検出しなかった(図1F)。これらの知見は、Ab708は、ヒトac−タウの種々のアイソフォームを認識するが、マウスac−タウは認識しないことを示唆する。ヒトt−タウを認識する対照抗体Ab707は、マウスタウも認識しない。NTGマウスにおける内因性タウは、タウ5抗体を用いて検出された(図1F)。
【0229】
ラットタウは、Ab708を作製するために使用される領域においてはマウスタウよりもヒトタウと同様である(図10)。Ab708は、ラット一次皮質ニューロンにおいて内因性ac−タウを検出した(図1G)。ac−タウ/t−タウのレベルは、ニューロンが5〜12日in vitro(DIV)で成熟するのにつれて徐々に上昇し、これは、タウアセチル化が、発達によって調節される(図1G)ことを示唆する。しかし、Ab708によって検出されるラットタウのアイソフォームは、規定されたままである。
【0230】
図1A〜G。タウは、in Vitroおよびin Vivoでアセチル化される。(A)オートラジオグラフィーによって示される、細胞不含条件下でのpCAFではなくp300によるh−タウ(2N4R)のアセチル化。(B)MALDI−TOF分光法によって、in vitroでp300によってh−タウ上にac−リシンを同定した。赤:アセチル基を有するリシン(K)。下線を引いたもの:MS分析によってカバーされた配列。青色のボックス:微小管−結合ドメイン。(C〜E)Ab708は、ac−タウを特異的に認識する。(C)Ab708は、GST−p300による組換えタウアセチル化のみを認識し、GST単独と一緒の非アセチル化タウを認識しなかった。Ab707およびタウ5抗体を用いて、同様のレベルのt−タウが検出された。(D)p300の過剰発現は、HEK293T細胞においてAb708を用いて検出されるac−タウを著しく増強した。タウ5を用いて検出されたt−タウのレベルは、p300を用いても、用いなくても同様であった。ブロットは、>5回の実験を代表するものである。(E)Ab708によって認識される、推定アセチル化リシン部位。野生型タウを発現するHEK293T細胞中のac−タウ/t−タウレベルを1と設定した。n=4。*、P=0.012;**P=0.003;***、P=0.0003(Tukey−Kramerポストホック分析を用いる一元配置分散分析)。(F)Ab708は、PS19またはhT−PAC−Nトランスジェニックマウスの脳においてヒトac−タウを認識するが、非トランスジェニック(NTG)同腹仔では認識しない。ヒトt−タウは、Ab707抗体を用いて検出され;ヒトおよびマウスt−タウは、タウ5抗体を用いて検出された。ヒト、マウスおよびラットタウ間の配列類似性については図10参照のこと。(G)Ab708陽性ac−タウのレベルは、それらが培養において成熟するにつれて(DIV=5〜12)、一次ラットニューロンにおいて上昇した。2〜3回の独立実験からのn=2〜7。***、P<0.001 (DIV5対DIV8またはDIV12);**、P<0.01 (DIV5対DIV9〜11)。値は平均±SEMである(E、G)。
【0231】
p300アセチルトランスフェラーゼによるタウのアセチル化
タウアセチル化における内因性p300またはpCAFの役割を調べるために、ヒトタウcDNA(2N4R)を発現するHEK293T細胞を、p300またはpCAFをターゲッティングするsiRNAを用いてトランスフェクトし(図2A)、ac−タウまたはt−タウに対する効果を評価した。p300を阻害することによって、ac−タウのレベルを大幅に低下させたが、t−タウは低下しなかった(図2B、2C)。対照的に、pCAFを阻害することは、なんら効果がなかった(図2B、2C)。これらの知見は、in vitro研究の結果(図1A)と一致する。次いで、一次ニューロンをC646、400nMのKiを有するp300のピラゾロン含有小分子阻害剤で処理した。Bowersら(2010年)前掲。細胞不含条件下で、10μMのC646は、p300を高度に選択的に阻害する(86%阻害対6種のその他のアセチルトランスフェラーゼの<10%)。Bowersら(2010年)、前掲。C646(20μM)を用いるp300の阻害は、8時間以内に一次ニューロン中のac−タウのレベルを劇的に低下させた。t−タウのレベルは変化しないままであった(図2D)。p300は、転写コアクチベーターである。GoodmanおよびSmolik(2000)Genes Dev 14:1553頁。しかし、リアルタイム逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を用いて定量化されたように、8時間のC646処理は、タウ転写物を抑制しなかった。したがって、p300の短期(8時間)阻害は、t−タウレベルに影響を及ぼすことなくタウを脱アセチル化する。20時間のC646を用いる長期処理は、t−タウに対するac−タウのレベル(ac−タウ/t−タウ)を低下させたが、t−タウのものも低下させた(図2E)。
【0232】
図2A〜E。タウは、p300アセチルトランスフェラーゼによってアセチル化される。(A〜C)pCAFではなくp300を阻害することによって、HEK293T細胞中のac−タウが低減した。(A)siRNAトランスフェクションによるp300またはpCAF発現の阻害。対照のsiRNAがトランスフェクトされた細胞中のp300/GAPDHまたはpCAF/GAPDHのレベルを1と設定した。***、P=0.0006(p300対対照)またはP<0.0001(pCAF対対照)。(B)対照siRNA(CTRL)またはp300もしくはpCAFをターゲッティングするsiRNAでトランスフェクトされた細胞中のp300またはpCAF、ac−タウ、t−タウおよびGAPDHのレベルを示す代表的ウエスタンブロット(3回の実験からの)。(C)pCAFではなくp300の阻害は、ac−タウレベルを低下させた。対照siRNAがトランスフェクトされた細胞中のac−タウ/GAPDHまたはt−タウ/GAPDHのレベルを1と設定した。n=5〜6。**、P=0.008(対応t検定)。(D)一次ラット皮質ニューロンにおいて、C646(20μMで8時間)を用いてp300を強く阻害することによって、t−タウレベルに影響を及ぼすことなく、ac−タウが排除された。左:3回の実験からの代表的ウエスタンブロット。右:ビヒクル処理細胞におけるac−タウ/t−タウレベルを1と設定した。n=3。***、P=0.0001(独立t検定)。(E)一次皮質ニューロンにおける、C646(20μMで20時間)を用いる長期処理は、t−タウを低下させた。ブロットは2回の実験の代表的なものである。値は平均±SEM(A、C〜E)である。
【0233】
培養物中でのSIRT1によるタウの脱アセチル化
タウを脱アセチル化する酵素を調べるために、FLAGタグをつけたSIRT1、SIRT2、HDAC5またはHDAC6をコードする発現ベクターを、ヒトタウを発現するHEK293T細胞にトランスフェクトした。すべてのHDACは高レベルで発現された(図3A)。HDAC6は、SIRT1およびSIRT2よりも低レベルで発現されるが、チューブリンアセチル化を排除し(Hubbertら(2002年)Nature417:455頁)、これは、十分な発現(図3B)を示唆した。SIRT1の過剰発現によって、Ab708陽性ac−タウのレベルが低下した。SIRT2およびHDAC6過剰発現もまた、より少ない程度にではあるが、ac−タウを低下させた(図3B、3C)。SIRT1およびHDAC6を過剰発現する細胞におけるt−タウのレベルもまた低減した。それにもかかわらず、SIRT1過剰発現によってac−タウ/t−タウ比は大幅に低下した(図3D)。HDAC6またはSIRT2過剰発現によって誘導される、ac−タウ/t−タウの中程度の低減は、統計上有意ではなかった(図3D)。
【0234】
ac−タウに対する内因性HDACの効果を調べるために、SIRT1、SIRT2またはHDAC6の発現を、siRNAを用いて阻害した(図3E)。対照siRNAに対して、標的siRNAは、SIRT1、SIRT2およびHDAC6のレベルを大幅に低下させた。中程度の阻害にもかかわらず、HDAC6は、ac−チューブリンレベルを増大させた(図3F)。しかし、SIRT1の阻害だけは、ac−タウレベルを増大し、タウの脱アセチル化における内因性SIRT1の関与を示唆した(図3G)。SIRT1過剰発現がt−タウを低減するという観察結果と一致して、SIRT1阻害は、t−タウの増大の傾向につながった(図3G)。それにもかかわらず、SIRT2でもHDAC6でもなくSIRT1の阻害は、t−タウに対するac−タウ(ac−タウ/t−タウ)のレベルを大幅に上昇させた(図3H)。これらの結果は、SIRT1がタウ脱アセチル化に関与しているという直接的な支持を提供した。本発明者らの知見は、今までのところ、タウ脱アセチル化における、SIRT2またはHDAC6(両方ともチューブリンを脱アセチル化する)の顕著な役割を支持しない(Hubbertら(2002年)前掲;Northら(2003年)Mol.Cell 11:437頁)。しかし、siRNAトランスフェクションを用いて、SIRT2またはHDAC6の部分サイレンシングしか達成されないので、その関与は排除できない。
【0235】
タウ脱アセチル化におけるSIRT1の役割をさらに調べるために、SIRT1を有する(SIRT1+/+)か、またはSIRT1を有さない(SIRT1−/−)低継代マウス胚線維芽細胞(MEF)を、ヒトタウcDNAを用いてトランスフェクトした。SIRT1を欠失することは、ac−タウレベルを大幅に上昇させた。t−タウの増加は、統計的有意性には達せず、これは、MEFでは、SIRT1がタウを脱アセチル化することを示唆する。HEK293T細胞では、リシン163、174および180をアルギニンに突然変異させた場合(Tau3KR)、ac−タウのレベルは大幅に低下した(図3I)。SIRT1過剰発現は、TauWT細胞においてac−タウを低減させたが、Tau3KR細胞では、低減は、かなり減弱された(図3I)。これらの結果は、リシン163、174および180の脱アセチル化にSIRT1を関与させる。しかし、SIRT1は、ac−タウを、Tau3KR細胞において、TauWT細胞においてよりも低レベルに低減し、これは、SIRT1は、位置163、174および180のものの他、さらなるリシン残基を脱アセチル化できるであろうと示唆する(図3I)。
【0236】
図3A〜I。SIRT1は、培養物においてタウを脱アセチル化する。(A〜D)SIRT1過剰発現は、HEK293T細胞においてac−タウレベルを低下させた。(A)抗FLAG抗体を用いてFLAGタグをつけたSIRT1、SIRT2、HDAC5またはHDAC6の発現を示すウエスタンブロット。ブロットは、2〜3回の実験を代表するものである。(B)SIRT1、SIRT2、HDAC5またはHDAC6を過剰発現する細胞における、ac−タウ、t−タウ、チューブリンおよびac−チューブリンのレベルを示すウエスタンブロット。ブロットは、2〜3回の実験を代表するものである。(C)SIRT1、SIRT2またはHDAC6の過剰発現は、ac−タウ/GAPDHのレベルを大幅に低下させた。SIRT1またはHDAC6過剰発現によってt−タウのレベルも低下した。6〜10回の独立した実験からのn=9〜18。***、P<0.001(ニセ対SIRT1またはニセ対HDAC6);**、P<0.01(ニセ対SIRT2)(二元配置分散分析およびBonferroniポストホックテスト)。(D)SIRT1の過剰発現は、ac−タウ/t−タウを大幅に低減した。6〜10回の独立した実験からのn=9〜18、***、P<0.001(ニセ対SIRT1)(一元配置分散分析およびTukey−Kramerポストホックテスト)。(E〜H)SIRT1の阻害は、HEK293T細胞においてac−タウを上昇させた。(E)siRNAトランスフェクションによって媒介されるSIRT1、SIRT2またはHDAC6発現の阻害、2〜3回の実験からのn=4〜6。**、P=0.0015; ***、P=0.0001(SIRT2対対照)またはP=0.001(HDAC6対対照)(対応t検定)。(F)対照siRNAまたはSIRT1、SIRT2またはHDAC6をターゲッティングするsiRNAを用いてトランスフェクトされた細胞における、ac−タウ、t−タウ、チューブリンおよびac−チューブリンのレベルを示すウエスタンブロット。ブロットは、2〜3回の実験を代表するものである。(G〜H)SIRT1の阻害は、ac−タウ/GAPDH(G)またはac−タウ/t−タウ(H)のレベルを大幅に上昇させた。2〜3回の実験からのn=4〜6。*、P<0.05(対応t検定)。対照siRNAでトランスフェクトされた細胞における、脱アセチル化酵素/GAPDH(E)、ac−タウまたはt−タウ/GAPDH(G)およびac−タウ/t−タウ(H)のレベルを1と設定した。(I)SIRT1によるTau3KRの脱アセチル化。左:ac−タウ、t−タウ、FLAGタグをつけたSIRT1およびGAPDHのレベルを示す代表的ウエスタンブロット。右:ニセトランスフェクトされた、野生型タウを発現する細胞におけるac−タウ/t−タウレベルを1と設定した。4〜10回の独立した実験からのn=10〜20。***、P<0.001;ns、有意ではない(一元配置分散分析およびTukey−Kramerポストホック分析)。値は、平均±SEM(C〜E、G〜I)である。
【0237】
SIRT1は、一次ニューロンおよびin Vivoにおいてタウアセチル化を低減する
一次ニューロンでは、ac−タウ/t−タウは、ニューロンが成熟するにつれ増加した(図1G)が、全長SIRT1のレベルは低下した(図4A)。SIRT1がタウを脱アセチル化するという考えと一致して、SIRT1のレベルは、発達の間、一次ニューロン中のac−タウ/t−タウのレベルと負の相関関係にあった(図4B)。SIRT1がニューロンにおいてタウアセチル化を負に調節するかどうかを調べるために、SIRT1コンディショナルノックアウトマウス(SIRT1F/F)(Chuaら(2005年)Cell Metab 2:67)から得たニューロンに、creリコンビナーゼ(Lenti−cre)を発現するレンチウイルスベクターを感染させることによって、ニューロンにおいてSIRT1を欠失させた(図4C)。対照は、空のベクター(Lenti−con)での感染とした。SIRT1F/Fニューロンはまた、ヒトタウを発現するレンチウイルスベクターを用いて感染させた。SIRT1を欠失させることによって、t−タウに対するアセチル化ヒトタウのレベルが大幅に上昇し(図4C)、これは、ニューロンにおいて、SIRT1がタウを脱アセチル化することを示す。
【0238】
in vivoでのマウスタウのアセチル化に対するSIRT1欠失の効果を調べるために、マウスおよびヒト間で100%保存されている、微小管−結合領域(264〜287)をターゲッティングする別のac−タウ特異的抗体(図4D)を開発した。組換えタウをp300とともにインキュベートして、アセチル化を誘導した。Ab708と同様、抗体9ABは、GST−p300による組換えタウアセチル化を認識したが、GST単独とともにインキュベートされたタウは認識せず、9ABは非ac−タウと交差反応しないことを示唆した。HEK293T細胞では、p300の過剰発現は、9ABを用いて検出されるac−タウのレベルを著しく上昇させたが、t−タウのものは中程度だけであった。したがって、9ABもまた、培養細胞においてp300によって誘導されたac−タウを選択的に認識する(図4E)。マウス脳では、9ABは、tau−/−マウスには存在しなかった低レベルのac−タウを検出した。SIRT1を欠失させるために、SIRT1+/−マウスを非近交系バックグラウンドで交雑させ、これにより、近交系バックグラウンドでのSIRT1−ヌルマウスの胎生期致死を部分的に救出した。Chenら(2003年) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100:10794頁。SIRT1を欠失させることは、脳におけるac−タウのレベルを大幅に増強し、SIRT1がin vivoでタウを脱アセチル化するという直接的な証拠を提供した(図4F)。
【0239】
図4A〜F。SIRT1は、ニューロンにおいて、およびin Vivoでタウアセチル化を低減する。(A)培養における成熟の間の(DIV5〜11)一次皮質ニューロンにおけるSIRT1の発現を示すウエスタンブロット。ブロットは、2〜3回の独立した培養を代表するものである。(B)t−タウに対する内因性ac−タウのレベルは、一次ラットニューロン培養物(DIV5〜9)におけるSIRT1のレベルと負に相関した。DIV=5でのSIRT1またはac−タウ/t−タウのレベルを1と設定した。n=20独立測定値。P=0.0007、Pearson相関係数r=0.4791。(C)ニューロンにおいてSIRT1を欠失させることは、t−タウに対するac−タウのレベルを上昇させた。SIRT1F/Fマウスから培養されたニューロンを、対照ウイルスまたはcreリコンビナーゼを発現するウイルス(Lenti−cre)に感染させた。両培養物ともh−タウを発現するレンチウイルスベクターを用いて感染した。n=8。P=0.001、(独立t検定)。(D)アセチル特異的抗体(9AB)は、GST−p300によってアセチル化されたタウを認識したが、非ac−タウは認識しなかった。また、9ABを作製するために使用した抗原の配列も示される。(E)p300を過剰発現することは、HEK293T細胞において9AB陽性ac−タウを増強した。タウ5を用いて検出されるt−タウのレベルは、p300過剰発現を有しても、有さなくても同様であった。ブロットは、3回の独立した実験を代表するものである。(F)SIRT1の欠失は、脳においてt−タウに対するac−タウを上昇させた。左:ac−タウ、t−タウおよびGAPDHのレベルを示す代表的ウエスタンブロット。右:SIRT1+/+、SIRT1+/−およびSIRT1−/−脳におけるac−タウ/t−タウのレベル。n=3〜6匹のマウス/遺伝子型。*、P=0.02(SIRT1+/−対SIRT1−/−)(一元配置分散分析およびTukey−Kramerポストホックテスト)。値は、平均±SEMである(C、F)。
【0240】
SIRT1はタウと直接相互作用する
SIRT1は、核中に主に局在するが、細胞質と往復され得る。SIRT1が、タウを直接脱アセチル化するかどうかを調べるために、in vitro脱アセチル化アッセイを実施した。p300によってアセチル化された組換えタウを、SIRT1過剰発現HEK293T細胞から免疫沈降されたSIRT1とともにインキュベートした。ac−タウ/t−タウレベルは、免疫沈降されたSIRT1(図5A)の存在下で大幅に低かった。SIRT1が、in vivoでタウと直接的に相互作用することを確認するために、GSTプルダウンアッセイを実施した。ビーズが結合しているGST−タウは、HEK293T細胞において発現されたFLAG−SIRT1またはトランスフェクトされていない細胞における内因性SIRT1と相互作用したが、GST単独は相互作用しなかった(図5B)。さらに、共免疫沈降アッセイでは、抗FLAG抗体との免疫沈降後、抗SIRT1抗体を用いて内因性SIRT1を検出し、FLAGタグをつけたタウを発現するHEK293T細胞において汎タウ抗体(タウ5)を用いてタウを検出した(図5C)。
【0241】
図5A〜C。SIRT1は、タウと相互作用する。(A)SIRT1は、in vitroでac−タウを直接的に脱アセチル化した。免疫沈降されたSIRT1の不在下でのac−タウ/t−タウレベルを1と設定した。ac−タウを、Ab708抗体を用いて検出した。2回の実験からのn=5。**、P=0.0063(独立t検定)。(B)GSTプルダウンアッセイ。GST−タウタンパク質(レーン7〜9)またはGST単独(レーン4〜6)を、FLAGタグをつけたSIRT1を用いてトランスフェクトされた細胞の溶解物またはトランスフェクトされていない細胞の溶解物とともにインキュベートした。レーン1、4および7:0.1% Triton X−100;レーン2、5および8:0.5% Triton X−100;レーン3、6および9:0.5% NP−40。示されるデータは、2回の実験を代表するものである。低い方のバンドは、これまでに観察されたSIRT1の切断生成物に相当する可能性が高い。OhsawaおよびMiura(2006年)FEBS Lett 580:5875頁。(C)共免疫沈降アッセイ。HEK293T細胞を、FLAGタグをつけたヒトタウをコードするプラスミドを用いてトランスフェクトした。24時間後、細胞溶解物を回収し、抗FLAG抗体を用いて免疫沈降させ、タウ5または抗SIRT1抗体を用いてイムノブロットした。レーン1〜2:インプット;レーン3:一次抗体なし;レーン4:抗FLAG抗体。値は平均±SEM(A)である。
【0242】
SIRT1欠損は、タウアセチル化を増大し、p−タウの分解を抑制する
SIRT1は、クラスIIIリシン脱アセチル化酵素として、多様な生物において長寿を支持し、促進する。SIRT1は、内分泌の調節およびカロリー制限に対する行動反応に加え、神経変性疾患に強く関与している。GanおよびMucke(2008年)Neuron58:10。AD脳では、SIRT1レベルは大幅に低下し、低減は、タウ蓄積および凝集と相関すると思われる。したがって、欠損したSIRT1活性は、タウオパチーの一因となり得る。一次ニューロンでは、特異的阻害剤EX527(Napperら(2005年)J Med Chem48:8045頁)を用いてSIRT1を阻害することによって、ac−タウ、AT8陽性p−タウならびにt−タウが著しく増大した(図6A)。t−タウに対するac−タウまたはp−タウのレベルは、EX527処理で大幅に増大した(図6A)。したがって、SIRT1欠損によって誘導されたac−タウの増大は、一次ニューロンにおける病原性p−タウの蓄積を伴う。マウス脳では、SIRT1を欠失させることは、ac−タウを高め、また、AT8陽性p−タウを増大した(図6B)。
【0243】
タウアセチル化の上昇が、どのように高レベルのp−タウにつながるのか?リシンのアセチル化は、そのユビキチン化を妨げ、UPSによって通常分解されるタンパク質、例えば、p53、Runx3、β−カテニンおよびその他の調節因子を安定化し得る。タウはユビキチン化され、タウ、特に、p−タウの分解は、プロテアソーム媒介性経路を含むので、アセチル化がタウユビキチン化を妨げ、その分解を抑制すると仮定された。
【0244】
この仮説を調べるために、タンパク質代謝回転の調節におけるアセチル化リシンの関与を評価した。ヒト野生型タウ(hTauwt)およびヒトtau3KR(hTau3KR)の代謝回転速度を比較した。一次皮質ニューロンを、Lenti−hTauwtおよびLenti−hTau3KRに感染させ、CHXで処理した(図6C)。Lenti−hTau3KRの感染の結果、Lenti−hTauwtのものよりもかなり弱いAb708陽性シグナルが得られ、Ab708がリシン163、174および180のアセチル化を認識するというさらなる支持を提供した。これら3個のリシンをアルギニンに突然変異させることによって、おそらくは3つの部位でユビキチン化を持続的に阻止することによってタウの半減期が大幅に増大した(図6D)。これらの結果は、アセチル化リシンはユビキチン化され得るという考えを支持する。
【0245】
アセチル化の増強がユビキチン化を阻止し得るかどうかを直接調べるために、HEK293T細胞を、タウおよび血球凝集素(HA)タグをつけたユビキチンをコードする発現プラスミドを用いてトランスフェクトし、次いで、EX527を用いて処理して、SIRT1を阻害し、MG132を用いて処理して、プロテアソーム媒介性分解を阻止した。ユビキチン化タウを、抗FLAG抗体とともに免疫沈降させ、抗HA抗体を用いて検出した。EX527はタウのポリユビキチン化を用量依存的に防ぎ、タウユビキチン化は、アセチル化の増強によって抑制されるということを示した(図6E)。EX527はまた、予測されたようにac−タウレベルを上昇させた(図6F)。対照的に、SIRT1媒介性脱アセチル化は、タウユビキチン化を増強すると思われる。SIRT1の活性化に間接的に関与している可能性があるレスベラトロールでの処理は、野生型SIRT1を用いてトランスフェクトされた細胞においてタウユビキチン化を大幅に増大したが、H363Y突然変異体でトランスフェクトされたものでは増大しなかった。
【0246】
次いで、タウのアセチル化の増強が、内因性タウの代謝回転を遅くするかどうかを直接調べた。一次ニューロンを、EX527を用いて処理してタウアセチル化を増強し、また、シクロヘキシミド(CHX)で処理して、新規タンパク質の翻訳を阻害した。一次ニューロン中の内因性ラットタウは、約5時間の半減期を有していた。SIRT1を、EX527を用いて阻害することによって、タウ代謝回転が遅くなり、t−タウの半減期を用量依存的に増大した(図6G、6H)。この考えと一致して、ac−タウは、t−タウのものよりも遅く分解されると思われる。一次ニューロンでは、CHXは5時間後t−タウレベルを著しく低下させたのに対し、ac−タウレベルは8時間後にわずかに低減したのみであった。さらに、10μMのEX527を用いるSIRT1の阻害は、ac−タウの代謝回転を阻止し、その蓄積につながった(図6I、6J)。高用量のEX527(50μM)は、ac−タウのより顕著な蓄積をもたらした(図6I)。EX527を用いる処理はまた、AT8陽性p−タウの分解を用量依存的に阻止した(図6K)。
【0247】
図6A〜K。アセチル化は、そのユビキチン化を阻害することによってタウ代謝回転を遅くする。(A)EX527(50μM)を用いてSIRT1を阻害することによって、ラット一次ニューロン中のac−タウおよびp−タウが上昇した(DIV=10)。左:代表的なウエスタンブロット。p−タウはAT8を用いて検出した。右:ビヒクル処理した細胞におけるac−タウ/t−タウまたはp−タウ/t−タウのレベルを1と設定した。n=6独立処理。***、P<0.001;*、P<0.05(対応t検定)。(B)SIRT1の欠失は、脳においてAT8陽性p−タウを増大させた。n=3〜4匹のマウス/遺伝子型。*、P<0.05(SIRT1+/+対SIRT1−/−)(一元配置分散分析およびTukey−Kramerポストホックテスト)。(CおよびD)一次ニューロンにおいて、Tau3KRは、野生型タウよりも安定であった。細胞をLenti−hTauwtまたはLenti−hTau3KRに感染させ、感染(DIV=9)の4日後にCHXを用いて8〜32時間処理した。(C)ac−タウ、t−タウおよびGAPDHを示す2回の実験の代表的なウエスタンブロット。(D)t−タウの代謝回転は、Tau3KRを発現する細胞において遅かった。時間0で回収された細胞におけるt−タウ/GAPDHレベルを1と設定した。2回の実験からn=3〜5。*、P=0.04(8時間)、P=0.015(24時間);***、P<0.0001(32時間)(各時点の非対応t検定)。(EおよびF)SIRT1阻害剤EX527(1〜50μM)は、タウユビキチン化を抑制し、ac−タウを用量依存的に上昇させた。ブロットは、3回の実験を代表するものである。(G〜K)SIRT1阻害剤EX527は、ラット一次ニューロン(DIV=8)においてタウの半減期を用量依存的に増大する。ニューロンを、EX527(10〜50μM)の存在下または不在下で、CHXを用いて0〜8時間処理した。EX527を用いるか、用いない、ニューロンにおけるt−タウ(G)、ac−タウ(I)またはp−タウ(K)の代謝回転を示す3回の実験の代表的なウエスタンブロット(HおよびJ)。t−タウ(H)またはac−タウ(J)の代謝回転は、EX527の処理によって著しく遅くなった。時間0に回収された細胞におけるt−タウ/チューブリンまたはac−タウ/チューブリンのレベルを1と設定した。n=3。**、P<0.01;***、P<0.001(二元配置分散分析、EX527処理対ビヒクル処理)。値は平均±SEM(A〜B、D、G、I)である。
【0248】
病的状態におけるタウアセチル化の上昇
タウの分解が、そのアセチル化によって遅くなったので、アセチル化は、プロテアソーム媒介性経路によって通常は分解されるp−タウの蓄積の一因となる重要な初期事象であると仮定した。一次ニューロンでは、低レベルのアミロイドβ(Aβ)オリゴマー、ADにおける重要な病原体を用いる処理によって、ac−タウのレベルが用量依存的に増大した(図7A)。高レベルのac−タウが、同様のレベルのhTauwtを発現するものよりも、FTD関連突然変異(hTauP301L)を保持するヒトタウを発現する一次ニューロンにおいて観察された(図7B)。これらの知見は、タウアセチル化が、ストレス、例えば、Aβ蓄積またはFTD関連突然変異によって増大することを示唆する。
【0249】
種々の程度のタウ病理を有する患者の前頭皮質におけるタウアセチル化を調べた。BraakおよびBraak(1991年)Neuropathol.Berl.82:239頁。Braakステージ1〜2または3〜4の患者は、Braakステージ0の患者よりも、脳溶解物の可溶性画分中に大幅に高いレベルのac−タウを有していた(図7C)。Ab708は、ヒトタウを過剰発現するトランスジェニックマウスにおいて種々のヒトタウアイソフォームを認識できる(図1D)。しかし、すべてのアイソフォームを検出するタウ5とは異なり、Ab708は、AD脳において一部のアイソフォームを選択的に検出すると思われる(図7C)。PHF−1(図1D)またはAT8を用いて検出された過剰リン酸化タウは、ステージ5〜6の患者においてのみ観察され、初期Braakステージの患者の前頭皮質における大幅なNFTの欠如と一致する(BraakおよびBraak(1991年)前掲)。したがって、これらの知見は、増強されたタウアセチル化は、タウの過リン酸化およびNFT形成に進行するという考えを支持する。しかし、Braakステージ5〜6の患者、特に、ステージ6で、前頭皮質にNFTを有するものでは、ac−タウのレベルは、軽度から中程度のステージの患者よりもわずかに低かった。この末期低減は、ニューロンの相当な喪失またはNFT中へのac−タウの隔離、ひいては、溶解物の不溶性画分中に残存することによって説明することができる。
【0250】
図7A〜D。タウアセチル化は、病的状態下で増大される。(A)タウアセチル化は、一次皮質ニューロン(DIV=11)において低レベルのAβオリゴマーによって増大した。3回の実験からn=5。**、P=0.003(一元配置分散分析およびTukey−Kramerポストホックテスト)(B)タウアセチル化は、一次ニューロンにおいて(DIV=13)家族性MAPT突然変異と関連していた。Lenti−hTauwtに感染したニューロンにおけるac−タウ/t−タウレベルを1と設定した。3回の実験からn=9。*、P=0.013(独立t検定)。(C)種々のBraakステージ(0〜5)の、ヒト脳におけるac−タウ、t−タウおよび過剰リン酸化タウのレベルを示す代表的ウエスタンブロット(Bm−22、上側頭回)。(D)軽度(Braakステージ1〜2)から中程度(Braakステージ3〜4)レベルのタウ病理を有する患者において、Ac−タウレベルは増大した。n=8〜18症例/Braak範囲。*、P<0.05;**、P<0.01、一元配置分散分析Tukey−Kramerホストホック分析。値は平均±SEM(A、B、D)。
【0251】
タウアセチル化を低減することによって、FTD関連突然変異によって誘発されるp−タウが排除される。
タウアセチル化が、p−タウ蓄積の一因であるという仮設を調べるために、タウアセチル化を阻害することによってp−タウが排除され、タウオパチーから保護されるかどうかを調べた。一次ニューロンにおいて、小分子C646を用いてp300を阻害することによって、t−タウレベルに影響を及ぼすことなくac−タウが排除された(図8A)。AT8抗体を用いて検出された、セリン202でリン酸化された病原性タウも、C646を用いる2時間の処理以内に無効になったことは顕著である。その不活性の類似体C37は効果がなかった(図8B)。これらの結果は、脱アセチル化は、p−タウの分解を選択的に増強することを示唆し、p−タウ種は、hTauP301Lを発現する一次ニューロン、タウオパチーの細胞モデルでは、UPS経路によって選択的に分解されるという観察結果と一致し、AT8陽性p−タウもまた、C646処理によって減少した(図8C)。タウを低減することによって、ADおよびFTDP−17のマウスモデルにおいて認知機能が改善され(Robersonら(2007年)Science 316:750頁およびSantacruzら(2005年)Science 309:476頁)、興奮毒性から保護される(Robersonら(2007年)前掲)。これらの結果から、リシンアセチル化を調節することが、神経変性タウオパチーにおいて、タウ、特に、p−タウの病原性形態のレベルを低下させるための新規治療戦略として見なされる。
【0252】
図8A〜D。タウアセチル化を低減することによって、p−タウが排除される。(A)C646(20μM)が、一次皮質ニューロン(DIV=9)において2時間以内にac−タウおよびAT8陽性p−タウを排除した。2回の実験の代表的なウエスタンブロット。(B)C646(20μM)は、p−タウを排除した。非処理細胞におけるp−タウ/GAPDHのレベルを1と設定した。n=4。***、P<0.0001(独立t検定)。(C)C646(20μM)は、hTauP301Lを発現する一次ニューロン(DIV=12)においてAT8陽性p−タウを排除した。左、2回の実験の代表的なウエスタンブロット。右、対照化合物(C37)で処理した細胞におけるp−タウ/GAPDHのレベルを1と設定した。n=7。***、P=0.0001(独立t検定)。(D)タウアセチル化がタウ媒介性神経変性の一因となり得る方法の仮説のモデル。破線および灰色の因子は、まだ調べられていない経路を示す。値は、平均±SEMである(B〜C)。
【0253】
本発明を、その特定の実施形態を参照して記載したが、当業者によって、本発明の趣旨および範囲から逸脱せず、種々の変法を行ってもよく、等価物を置換してもよいということは理解されるべきである。さらに、本発明の目的、趣旨および範囲に対して、特定の状況、材料、組成物、方法、工程または複数の工程を適合させるように、多数の改変を行ってもよい。すべてのこのような改変は添付の特許請求の範囲内にあるものとする。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】

【図1E】

【図1F】

【図1G】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】

【図2E】

【図3A】

【図3B】

【図3C】

【図3D】

【図3E】

【図3F】

【図3G】

【図3H】

【図3I】

【図4A】

【図4B】

【図4C】

【図4D】

【図4E】

【図4F】

【図5A】

【図5B】

【図5C】

【図6A】

【図6B】

【図6C】

【図6D】

【図6E】

【図6F】

【図6G】

【図6H】

【図6I】

【図6J】

【図6K】

【図7A】

【図7B】

【図7C】

【図7D】

【図8A】

【図8B】

【図8C】

【図8D】

【図9A】

【図9B】

【図9C】

【図9D】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞中のアセチル化タウポリペプチドのレベルを低下させる方法であって、細胞を、細胞中のタウポリペプチドを脱アセチル化するポリペプチドの活性を高める薬剤および/または細胞中のタウポリペプチドをアセチル化するポリペプチドの活性を低下させる薬剤と接触させるステップを含む方法。
【請求項2】
細胞を、細胞中のタウポリペプチドを脱アセチル化するポリペプチドの活性を高める薬剤および細胞中のタウポリペプチドをアセチル化するポリペプチドの活性を低下させる薬剤と接触させるステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞がニューロンである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
細胞がグリア細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
薬剤が、サーチュインアクチベーターではない、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
薬剤が、p300阻害剤またはCBP阻害剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
薬剤が、SIRT1、SIRT2またはHDAC6のアクチベーターである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記接触させるステップが、細胞中のリン酸化タウポリペプチドのレベルを低下させる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記接触させるステップが、細胞中の活性タウポリペプチドのレベルを増大させる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
個体においてタウオパチーを治療する方法であって、個体に、個体におけるニューロンまたはグリア細胞中のアセチル化タウのレベルを低下させる、有効量の薬剤を投与するステップを含む方法。
【請求項11】
投与するステップが、個体に、神経細胞またはグリア細胞中のタウポリペプチドを脱アセチル化するポリペプチドの活性を高める薬剤および神経細胞またはグリア細胞中のタウポリペプチドをアセチル化するポリペプチドの活性を低下させる薬剤を、タウオパチーを治療するのに有効な組み合わせた量で投与するステップを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
タウオパチーが、前頭側頭型認知症、アルツハイマー病、進行性核上麻痺、大脳皮質基底核変性症、ダウン症候群、ボクサー痴呆、封入体筋炎または前頭側頭葉変性症である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
アセチル化タウのレベルを低下させる薬剤が、p300/CBP阻害剤である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
アセチル化タウのレベルを低下させる薬剤が、SIRT1アクチベーターである、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記投与するステップが、個体におけるニューロンまたはグリア細胞中のリン酸化タウのレベルを低下させる、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記投与するステップが、個体におけるニューロンまたはグリア細胞中の活性タウのレベルを高める、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
個体において認知機能障害疾患を診断する方法であって、個体から得られた生体サンプル中のアセチル化タウポリペプチドのレベルを検出するステップを含み、正常な対照レベルよりも高いアセチル化タウポリペプチドのレベルが、個体が認知機能障害疾患を有することを示す方法。
【請求項18】
生体サンプルが、脳脊髄液、血液、血漿または血清である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
タウオパチーを治療するための候補薬剤を同定する方法であって、
a)アセチルトランスフェラーゼおよびタウポリペプチドを含むサンプルを、試験薬剤と接触させるステップと、
b)タウポリペプチドのアセチル化に対する試験薬剤の効果を調べるステップと
を含み、タウポリペプチドのアセチル化を低減する試験薬剤が、タウオパチーを治療するための候補薬剤である方法。
【請求項20】
タウオパチーを治療するための候補薬剤を同定する方法であって、
a)脱アセチル化酵素およびタウポリペプチドを含むサンプルを、試験薬剤と接触させるステップと、
b)タウポリペプチドのアセチル化に対する試験薬剤の効果を調べるステップと
を含み、タウポリペプチドの脱アセチル化を増大する試験薬剤が、タウオパチーを治療するための候補薬剤である方法。

【図10】
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【公表番号】特表2013−510086(P2013−510086A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−536813(P2012−536813)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/048989
【国際公開番号】WO2011/056300
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(505458304)
【Fターム(参考)】