説明

タッチパネル

【課題】夏期の自動車の高温高湿の室内や、寒冷地の屋外の低温下のような、過酷な環境でも変形せず、良好な操作性が確保されるタッチパネルを提供する。
【解決手段】表面に抵抗膜111を形成した上部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)103と、表面に抵抗膜131を形成した下部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)134を、それぞれの遅相軸が直交するように配置し、上部電極フィルム103に偏光フィルム102、膨らみ防止フィルム101を積層し、下部電極フィルム134にアクリル樹脂板(支持板)135、防湿フィルム(環状ポリオレフィン系樹脂フィルム)136を積層することにより、高温高湿環境でも変形の少ないタッチパネル100が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外光の強い屋外や、高温高湿あるいは低温の環境でも使用できるタッチパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルは、例えば、下部面状部材(可撓性のないガラス板もしくは樹脂板)と上部面状部材(可撓性の透明樹脂フィルム)との対向面に抵抗膜を形成し、上部面状部材と下部面状部材を、スペーサを介して一定の間隔で対向配置して構成される。
【0003】
上部面状部材の表面を入力ペンなどにより押圧すると、一定の間隙をおいて対向配置されていた上下の抵抗膜が押圧された部分で接触し、それぞれの抵抗膜に接続された電極間の抵抗値が変動する。この抵抗値を検出することにより、押圧位置の位置情報を得ることができる。
【0004】
このような入力端末としての抵抗膜式タッチパネルは、用途の拡大に伴って、今までにない付加価値が要求されてきている。特に、液晶表示パネルと組み合わされ、カーナビゲーション装置、携帯型パーソナルコンピュータ、携帯電話などの、屋外で使用する装置に使用される場合には、外光の、タッチパネルでの反射により、液晶表示パネルの表示内容の視認性が低下するのを防ぐために、上部面状部材の表面に、偏光フィルムを積層することにより、防眩性を持たせている。
【0005】
このような抵抗膜式タッチパネルの改良に関して、例えば、特許文献1、2に改良技術が記載されている(詳細後述)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許3590530号公報
【特許文献2】特許3779515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上部面状部材の表面に積層される偏光フィルムは、通常、PVA(ポリビニルアルコール)樹脂フィルムと、TAC(トリアセチルセルロース)樹脂フィルムを積層したものであるが、これらの樹脂フィルムは、熱膨張係数、吸湿率が大きい。
【0008】
下部面状部材を構成する、可撓性のない支持体として、ガラス板もしくは樹脂板が用いられる。ガラス板は、光学的性質は良好であるが、重くて割れやすく、また他の樹脂材料と熱膨張率が大きく異なる。樹脂板は軽くて割れにくい。樹脂板としては、ポリカーボネート樹脂板やアクリル樹脂板が使われる。ポリカーボネート樹脂は吸湿性が低いが、複屈折性があるため、液晶表示パネルの画像に悪影響がある。アクリル樹脂板は複屈折性が無いため、液晶表示パネルの画像に悪影響を与えないが、温度湿度の変化による膨張収縮が大きい。
【0009】
下部面状部材を構成する支持体として、アクリル樹脂板を用いた場合、温度湿度の変化により、下部面状部材と上部面状部材との間に膨張、収縮の差異が生じ、上部面状部材が膨らんだり、下部面状部材が反ったり凹んだりする。これにより、タッチパネルの誤動作や入力不良が発生することがある。
【0010】
一般に、上部面状部材が下部面状部材より長くなって膨らんだとき、0.4mm以上の膨らみが発生すると、入力に違和感があるとされる。0.4mmの膨らみがあるとは、上部面状部材と下部面状部材の本来の間隔をHとしたとき、実際の間隔がH+0.4mmの場所(通常タッチパネルの中央部)が生じることである。
【0011】
表1に、下部面状部材の対角長をL、上部面状部材の対角長をLとしたときの(L<Lとする)、上部面状部材の膨らみが0.4mmとなるときの、下部面状部材の対角長と上部面状部材の対角長の差の比率、
ΔX=[(L−L)/L]×100(%)
の計算値を示す。
【0012】
【表1】

【0013】
表1から分かるように、対角長が25.4mm(1インチ)のときでも、ΔXは0.01240%と小さいが、対角長が355.6mm(14インチ)のときは、ΔXは0.00006%となり、極めて小さい。つまり対角長が355.6mm(14インチ)くらいの大きさになると、上部面状部材と下部面状部材の膨張、収縮の差異は、ほとんど許されない。
【0014】
上部面状部材と下部面状部材の素材の、温度湿度による膨張に差があると、温度湿度の変化に伴って、偏光フィルムも含めた上部面状部材が、下部面状部材に対して全体的に浮き上がってしまい、見栄えが悪くなるとともに、タッチパネルの動作に必要な押圧力が増大し、操作性が低下する。
【0015】
最近は液晶表示パネルとともにタッチパネルも大型化しているため、上部面状部材と下部面状部材の素材の、温度湿度による膨張に僅かの差があっても、上部面状部材の浮き上がりが問題になる。
【0016】
温度変化による上部面状部材、下部面状部材の膨張収縮の問題を解決するため、特許文献1では、熱膨張率の差の少ない樹脂を選定している。
【0017】
また、特許文献2では、偏光フィルムの表面に、偏光フィルムより熱膨張率の小さい膨らみ防止樹脂フィルムを積層して、偏光フィルムの膨らみを押さえ込む構成が開示されている。また、低温時に収縮のバランスをとる補強部材が開示されている。
【0018】
特許文献2のタッチパネルでは、膨らみ防止樹脂フィルムとして、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを使用した。温度上昇に伴って偏光フィルムが膨張しようとしても、膨らみ防止樹脂フィルムにより膨張が阻止され、タッチパネルの操作性が良好に維持された。
【0019】
特許文献2のタッチパネルでは、下部面状部材の支持板がガラス板であるが、前述のように、軽さと割れにくさから、支持板はアクリル樹脂板の方が好ましい。ところが、下部面状部材の支持板をアクリル樹脂板に変更すると、温度変化による膨張収縮は特許文献2の手段で避けられても、湿度変化による膨張収縮は避けられないことが分かった。
【0020】
具体的には、高温高湿によるアクリル樹脂板の変形が大きいうえに、高温高湿から常温常湿に戻っても、上部面状部材および下部面状部材に使用している粘着剤が、変形した状態で固定されるため、タッチパネルの歪が戻らないことが判明した。この場合、アクリル樹脂板は常温でも高湿により変形するが、粘着剤の変形が常温では遅いため、変化を加速するため高温高湿状態で試験した。
【0021】
タッチパネルを搭載した携帯機器は、携帯が容易であるため、どのような環境で使用されるか予想がつかない。夏期の自動車の高温高湿の室内や、寒冷地の屋外の低温下で使用されることも十分考えられるので、タッチパネルはこのような過酷な環境でも変形せず、良好な操作性が確保されることが必要である。
【0022】
下部面状部材の支持板をアクリル樹脂板とした場合、温度湿度変化に伴うタッチパネルの形状劣化は、上部面状部材に偏光フィルム以外の熱膨張率の大きな樹脂フィルムを積層しても、同様に生じる。
【0023】
本発明は上記の問題点を解決するためになされたもので、下部面状部材の支持板にアクリル樹脂板を用いた場合、高温高湿環境においても形状変化が少なく、操作性が劣化することがないタッチパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)本発明のタッチパネルは、膨らみ防止フィルム、偏光フィルム、下側主面に透明抵抗膜を形成した上部電極フィルムを、この順に含む上部面状部材と、上側主面に透明抵抗膜を形成した下部電極フィルム、樹脂板、防湿フィルムを、この順に含む下部面状部材とを、スペーサを介して積層し、上部電極フィルムと下部電極フィルムを、一定の間隔にて対向させたタッチパネルである。上部電極フィルムおよび下部電極フィルムは、いずれもλ/4位相差フィルムであって、各々の遅相軸が直交する。
(2)本発明のタッチパネルは、樹脂板がアクリル樹脂板であり、防湿フィルムが光学的等方性を有する環状ポリオレフィン系樹脂フィルムである。
(3)本発明のタッチパネルは、上部電極フィルムおよび下部電極フィルムが、光学的異方性を有する環状ポリオレフィン系樹脂フィルムである。
(4)本発明のタッチパネルは、膨らみ防止フィルムが、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムである。
【発明の効果】
【0025】
表面に抵抗膜を形成した上部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)と下部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)を、それぞれの遅相軸が直交するように配置し、上部電極フィルムに偏光フィルム、膨らみ防止フィルムを積層し、下部電極フィルムにアクリル樹脂板(支持板)、防湿フィルム(環状ポリオレフィン系樹脂フィルム)を積層することにより、高温高湿環境でも変形の少ないタッチパネルが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のタッチパネルの一実施例の斜視図
【図2】本発明のタッチパネルの一実施例の分解図
【図3】本発明のタッチパネルの積層構造を示す断面図
【図4】タッチパネルの典型的な変形パターンを示した模式図
【図5】透過型静電容量型タッチパネルの積層構造を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明のタッチパネルの実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0028】
[タッチパネルの全体構成]
図1は本発明のタッチパネル100の一実施例の斜視図である。図1に示すように、本発明のタッチパネル100は、上部面状部材110と下部面状部材130を、スペーサ140を介して積層して構成される。上部面状部材110は、操作者からの指や入力ペンを用いた入力を受け付ける側の、透明かつ可撓性を有する面状部材であり、後述するように複数枚の樹脂フィルムを積層して構成される。また、コネクタ120は内部の電極と接続される。
【0029】
図2は、図1のタッチパネル100の分解図である。図2に示すようにスペーサ140は、コネクタ120を装着する部分と、これと反対側のコーナの切除部141を除いて連続したフレーム状に形成されており、その素材としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムなどが使用される。
【0030】
スペーサ140の両面に接着剤が塗布され、上部面状部材110と下部面状部材130が、その周縁部において貼着される。なお、切除部141では、スペーサがないため、上部面状部材110と下部面状部材130間に隙間ができるが、これは内部の空気抜き穴として利用される。
【0031】
すなわち、温度変化に伴って、上部面状部材110と下部面状部材130の間の空気が膨張・収縮するが、切除部141(空気抜き穴)を通して空気が外部と流通する。それにより、内圧と外圧とを常に等しくできるので、内部空気の熱膨張により内圧が外圧より高くなって、操作性が劣化するような不都合が生じない。
【0032】
タッチパネル100が大きなサイズになればなるほど、内部空間の容量も大きくなり、温度変化に伴って出入りする空気量も多くなる。この場合には、スペーサ140を別のコーナ部で一部切除して、空気抜き穴の数を増やすようにする。
【0033】
スペーサ140の内側の、上部面状部材110と下部面状部材130の隙間には、ドット状スペーサ160が所定の間隔をおいて設けられており、フレーム状のスペーサ140と協働して、上部面状部材110と下部面状部材130の対向面の間隔が、ほぼ均一に100μm程度に保たれる。
【0034】
上部面状部材110の、下部面状部材130に対向する側の主面には、ITO(indium tin oxide:インジウム−すず酸化物)で形成される抵抗膜111が、スパッタリング等により、略全面に形成されている。また、抵抗膜111の対向する2辺には、電極112が設けられている。
【0035】
そして、上部面状部材110の主面には、コネクタ120の一対の接続電極122と接続するための、一対の電極端部114が形成される。電極端部114と、抵抗膜111の2辺に設けられた電極112との間が、配線パターン113で接続されている。
【0036】
下部面状部材130は、樹脂板と薄い樹脂フィルム(詳細後述)で構成され、上部面状部材110に対向する側の主面には、同じくITOからなる抵抗膜131がスパッタリング等により略全面に設けられている。
【0037】
抵抗膜131の対向する2辺で、上側抵抗膜111に形成された電極112の無い側の2辺には、電極132が形成されている。そして、抵抗膜131の主面には、コネクタ120の一対の接続電極123と接続する一対の電極端部134が形成される。さらに、電極端部134と、抵抗膜131の2辺に設けられた電極132とを接続する配線パターン133が形成されている。
【0038】
コネクタ120は、PET(ポリエチレンテレフタレート)やポリイミドなどからなるフィルム素材に、銀や銅を素材とする4本のフレキシブルワイヤ129を挟み込んで形成された接続用ケーブル190の、一方の端部である。コネクタ120は、上部面状部材110の電極端部114と接続される接続電極122を、上表面に露出形成し、下部面状部材130の電極端部134と接続される接続電極123を、下表面に露出形成し、フレキシブルワイヤ129の終端を、接続電極122、123と接続している。
【0039】
4本のフレキシブルワイヤ129と、4つの接続電極122、123を分割せずに、1つのコネクタ120に集約すると、材料費と工数との両面からコストを抑制できる。
【0040】
タッチパネル100を組み立てた状態においては、上側の接続電極122は上側の電極端部114と、下側の接続電極123は下側の電極端部134と、それぞれ接着されている。この接着は、各電極端部の共通の素材である銀に、カーボンを混練した導電性ペーストを接着部分に塗布し、熱圧着することにより行われる。
【0041】
なお、コネクタ120の上下の接続電極122、123の間には、切れ込み121が設けられ、これにより上部面状部材110、下部面状部材130の熱膨張率の差から生じる応力を解消するようにしている。すなわち、温度が上昇したとき上部面状部材110、下部面状部材130の膨張が起こるが、切れ込み121を設けることにより、上部面状部材110と下部面状部材130との熱膨張量の差による、コネクタ120に作用する応力を吸収することが可能となる。それにより、広い温度範囲で使用しても、この部分で接触不良や断線を起こしにくい。
【0042】
[タッチパネルの積層構造]
図3は、本発明のタッチパネル100の積層構造を示す断面図であり、説明の都合上、タッチパネル100が装着される液晶表示パネル200の積層構造も合わせて示す。
【0043】
図3に示すように、上部面状部材110は外側から順に、膨らみ防止フィルム101、偏光フィルム102、上部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)103が、粘着剤(図示せず)により貼り合わせて積層されている。上部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)103には、抵抗膜111が形成されている。膨らみ防止フィルム101には、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムが使用される。膨らみ防止フィルム101の入力側表面には、ハードコート層、反射防止層が積層されることが好ましい。
【0044】
下部面状部材130では、支持板であるアクリル樹脂板135の表面に、下部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)134が、粘着剤(図示せず)により貼り合わされる。アクリル樹脂板135の裏面には、防湿フィルム136が、粘着剤(図示せず)により貼り合わされる。下部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)134の、上部面状部材110との対向面には、抵抗膜131が形成される。
【0045】
上部面状部材110と下部面状部材130は、スペーサ140を挟んで対向配置され、抵抗膜111と抵抗膜131の間隔が、最適な状態(代表的には、100μm)になるように保持される。
【0046】
表2に、本発明のタッチパネル100に使用される、各積層材料の厚さ、および熱膨張率、飽和吸水率、透湿性を示す。
【0047】
【表2】

【0048】
偏光フィルム102は、ヨウ素系二色性染料などの二色性色素を吸着配向させたPVA(ポリビニルアルコール)樹脂の延伸フィルムを、2枚のTAC(トリアセチルセルロース)樹脂フィルムで挟んで貼り合せたものである。TAC樹脂フィルムは、PVA樹脂フィルムの保護フィルムとして機能する。
【0049】
本実施例に使用したPVA樹脂フィルムの厚さは20μm、TAC樹脂フィルムの厚さは55μm(×2枚)である。薄いPVA樹脂フィルムが、厚いTAC樹脂フィルムの熱膨張に依存して延びるため、偏光フィルム102の熱膨張率は、TAC樹脂フィルムの熱膨張率(54×10−6/℃)にほぼ等しい。
【0050】
上部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)103は、環状ポリオレフィン系樹脂の一種であるノルボルネン系樹脂フィルム(株式会社オプテス社製ゼオノア)を一軸延伸したフィルムである。無延伸のノルボルネン系樹脂フィルムは、光学的に等方性なので、一軸延伸をしてλ/4の位相差を付与している。ノルボルネン系樹脂フィルムは、透明性、表面硬度および耐熱性の点で優れており、タッチパネルに適する。
【0051】
防湿フィルム136は、無延伸のノルボルネン系樹脂フィルムであり、光学的に等方性である。
【0052】
表2から分かるように、外部環境の影響を受けやすい上部面状部材110の中で、偏光フィルム102は熱膨張率、吸水率が大きく、上部電極フィルム103は熱膨張率が大きい。そのため、温度湿度が上昇したとき、上部面状部材110は大きく膨張する。
【0053】
上部面状部材110と下部面状部材130は、周縁部がスペーサ140を介して固着されているため、上部面状部材110の膨張は上方に逃げ、上部面状部材110の膨らみを生じる。それによって、タッチパネル100の見栄えや操作性が低下する。
【0054】
そこで、上部面状部材110の最表面に、熱膨張率が偏光フィルム102や上部電極フィルム103よりも小さく、吸水率、透湿性の少ないPETフィルムを、膨らみ防止フィルム101として使用する。これにより、高温高湿の環境下であっても、上部面状部材110は問題となるほどの膨らみを生じない。
【0055】
ところが、この構成のタッチパネル(本発明のタッチパネル100のうち、防湿フィルム136を有しないもの)を長時間、高温高湿に暴露すると、上部面状部材110の膨張が小さいのとは対照的に、下部面状部材130の膨張が大きくなり、タッチパネルの表面が凹むように変形し、操作性が低下することが分かった。
【0056】
これは、下部面状部材130を構成する、下部電極フィルム134の熱膨張率が大きく、さらに、アクリル樹脂板135の熱膨張率および吸水率が大きいためである。特にアクリル樹脂板135は、吸水によっても、0.2%以上の膨張をする。
【0057】
そこで、アクリル樹脂板135の外側表面に、アクリル樹脂板135よりも吸水率、透湿性の低い防湿フィルム136(ノルボルネン系樹脂フィルム)を、粘着剤(図示せず)を介して、全面的に貼り合せた。本発明のタッチパネル100の実施例1では、防湿フィルム136の厚さを100μmとし、実施例2では、防湿フィルム136の厚さを40μmとした。
【0058】
表3に本発明のタッチパネル100の実施例1、2と、防湿フィルム136の無い比較例1、防湿フィルム136と膨らみ防止フィルム101の無い比較例2の、高温高湿放置試験および低温試験の結果を示す。試験に用いたタッチパネルの、防湿フィルム136を除く、各層の素材と厚さは、表2に示したものと同様である。タッチパネルのサイズは、90mm×55mm(対角4インチ)である。
【0059】
【表3】

【0060】
表3において○、△、×は、表4の基準で評価した、上部面状部材110の膨らみと、下部面状部材130の凹みを示す。○、△は規格内、×は規格外である。上部面状部材110の膨らみの評価と、下部面状部材130の凹みの評価が異なるときは、悪い方の評価を採用した。
【0061】
【表4】

【0062】
上部面状部材110の膨らみは、タッチパネルを定盤の上に置き、タッチパネルの4コーナーの平均表面高さと、タッチパネル表面中央部の高さの差を、レーザー光測定装置を用いて測定した。下部面状部材130の凹みは、タッチパネルを定盤の上に置き、タッチパネルの4コーナーの裏面の平均高さを測定した。
【0063】
図4はタッチパネルの典型的な変形パターンを示した模式図である。
【0064】
<1>では、偏光フィルム102は上方に変形して膨らんでいるが、アクリル樹脂板135は変形していない。
【0065】
<2>では、偏光フィルム102は上方に変形して膨らみ、アクリル樹脂板135は下方に変形して膨らんでいる。この状態を、アクリル樹脂板135が凹んでいると称する。
【0066】
<3>では、膨らみ防止フィルム101の効果により、偏光フィルム102は変形せず、アクリル樹脂板135も変形していない。
【0067】
<4>では、膨らみ防止フィルム101の効果により、偏光フィルム102は変形していないが、アクリル樹脂板135は下方に変形して膨らんでいる。
【0068】
<5>では、膨らみ防止フィルム101の効果により、偏光フィルム102は変形せず、防湿フィルム136の効果により、アクリル樹脂板135も変形していない。
【0069】
表3に示した、評価の添え字<1>〜<5>は、図4の変形パターン<1>〜<5>に対応する。
【0070】
比較例1から分かることは、防湿フィルム136が無い場合、高温高湿の環境であっても、膨らみ防止フィルム(PET)101があれば、短時間ならば変形が規格内に収まる。しかし、長時間となると、下部面状部材130の支持体であるアクリル樹脂板135が吸湿膨張して凹状に変形するため、2mm以上の凹みが発生する。
【0071】
これに対し、実施例1、2から分かるように、防湿フィルム136をアクリル樹脂板135の裏面に貼った場合、アクリル樹脂板135の裏面からの吸湿を抑えることができ、変形は規格内に収まる。特に、実施例1の、厚さ100μmの防湿フィルム136を用いた場合、放置時間を、表3にない480時間まで延長しても、変形は規格内に収まった。
【0072】
これは、アクリル樹脂板135の裏面に貼った防湿フィルム136とともに、上部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)103、下部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)134が防湿効果を有するため、アクリル樹脂板135の湿度膨張を抑えたためである。
【0073】
実施例2の、厚さ40μmの防湿フィルム136を用いた場合、60℃、90%、48時間では、規格内ではあるが、凹みが発生して、△評価となった。表3にはないが、これを480時間まで延長したところ、変形が進み、規格外の×評価となった(このとき変形パターンは<4>)。
【0074】
フィルムの透湿量は、フィルムの厚みと暴露時間に依存するため、タッチパネルの使用される環境に応じて、防湿フィルム136の厚さを選定する必要がある。
【0075】
図3に示すように、本発明のタッチパネル100の下方には、透過型の液晶表示パネル200が配置される。液晶表示パネル200は、液晶セル201の上面に偏光フィルム202、下面に偏光フィルム203を配置した公知の構成である。液晶表示パネル200の下方には、公知のバックライト204が配置される。
【0076】
次に、本発明のタッチパネル100における、偏光フィルム102、上部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)103、下部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)134による、液晶表示パネル200の視認性向上の原理を説明する。
【0077】
タッチパネル100の偏光フィルム102は、液晶表示パネル200の偏光フィルム202と、透過軸が一致するように配置される。上部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)103は、遅相軸が偏光フィルム102の透過軸と45°をなすように配置される。
【0078】
膨らみ防止フィルム101の表面から入射した外光は、偏光フィルム102により直線偏光となり、さらに上部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)103により円偏光となる。この円偏光は、抵抗膜111、抵抗膜131、アクリル樹脂板135、液晶表示パネル200の表面などで反射される。このとき、位相がπ/2ずれる。
【0079】
反射した光は、再び上部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)103に入射して直線偏光となるが、その振動面は、入射時の振動面から90°回転している。そのため、偏光フィルム102に吸収され、外部には出ない。
【0080】
このようにして、外光がタッチパネル100内に入射しても、内部での反射光が外部に出ないので、外光の強い屋外で使用しても、液晶表示パネル200の表示内容をはっきり視認することができる。
【0081】
また、下部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)134の遅相軸は、偏光フィルム202の透過軸に対して45°をなすように配置される。下部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)134を通過したバックライト204の円偏光の回転方向が、上部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)103を通過した入射光の回転方向と逆方向になるように、下部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)134は設置される。
【0082】
バックライト204の光は、液晶表示パネル200の偏光フィルム202を通過して直線偏光となり、下部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)134を通過して円偏光となり、さらに上部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)103を通過して、直線偏光に戻る。
【0083】
下部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)134と上部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)103は、互いの遅相軸が直交しているので、上部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)103を通過後の直線偏光の振動面は、偏光フィルム202を通過直後の直線偏光の振動面と等しい。
【0084】
偏光フィルム102と偏光フィルム202は、吸収軸が等しくなるように配置されているため、バックライト204から出射して、上部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)103を通過した後の直線偏光の振動面は、そのまま偏光フィルム102を通過することができる。
【0085】
したがって、バックライト204からの出射光は、偏光フィルム102、上部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)103によって妨げられることなく外部へ出射され、バックライト204は光量不足になることはなく、視認性が確保される。
【0086】
上記の実施形態のタッチパネル100は、ともに樹脂基材を積層した上部面状部材110、下部面状部材130により構成されたタッチパネル100である。そして、タッチパネル100は、遅相軸が互いに直交するように配置された上部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)103と下部電極フィルム(λ/4位相差フィルム)134、偏光フィルム102、およびアクリル樹脂板135製支持板から構成される。このタッチパネル100は、屋外などで使用しても液晶表示パネルの視認性が低下しない。
【0087】
図5は、上部電極薄膜304と下部電極薄膜306が、樹脂誘電体層(λ/4位相差フィルム)305を介して積層された透過型静電容量型タッチパネル300である。透過型静電容量型タッチパネル300においても、屋外で使用しても液晶表示パネルの視認性が低下しないように、偏光フィルム302、λ/4位相差フィルム303、アクリル樹脂板307を支持体として構成する。その場合には、アクリル樹脂板307の裏面液晶表示パネル側に、防湿フィルム308として、光学等方性の環状ポリオレフィン系樹脂を使用する。それにより、アクリル樹脂板307の高温高湿による変形を抑えられる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
タッチパネルを搭載した携帯機器は、携帯が容易であるため、どのような環境で使用されるか予想がつかない。本発明のタッチパネルは、夏期の自動車の高温高湿の室内や、寒冷地の屋外の低温下のような、過酷な環境でも変形せず、良好な操作性が確保される。
【符号の説明】
【0089】
100 タッチパネル
101 膨らみ防止フィルム
102 偏光フィルム
103 上部電極フィルム
110 上部面状部材
111 抵抗膜
112 電極
113 配線パターン
114 電極端部
120 コネクタ
121 切れ込み
122 接続電極
123 接続電極
129 フレキシブルワイヤ
130 下部面状部材
131 抵抗膜
132 電極
133 配線パターン
134 電極端部
134 下部電極フィルム
135 アクリル樹脂板
136 防湿フィルム
140 スペーサ
141 切除部
160 ドット状スペーサ
190 接続用ケーブル
200 液晶表示パネル
201 液晶セル
202 偏光フィルム
203 偏光フィルム
204 バックライト
300 透過型静電容量型タッチパネル
301 膨らみ防止フィルム
302 偏光フィルム
303 位相差板
304 上部電極薄膜
306 下部電極薄膜
307 アクリル樹脂板
308 防湿フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨らみ防止フィルム、偏光フィルム、下側主面に透明抵抗膜を形成した上部電極フィルムを、この順に含む上部面状部材と、
上側主面に透明抵抗膜を形成した下部電極フィルム、樹脂板、防湿フィルムを、この順に含む下部面状部材とを、
スペーサを介して積層し、前記上部電極フィルムと下部電極フィルムを、一定の間隔にて対向させたタッチパネルであって、
前記上部電極フィルムおよび下部電極フィルムは、いずれもλ/4位相差フィルムであって、各々の遅相軸が直交することを特徴とするタッチパネル。
【請求項2】
前記樹脂板がアクリル樹脂板であり、前記防湿フィルムが光学的等方性を有する環状ポリオレフィン系樹脂フィルムであることを特徴とする、請求項1に記載のタッチパネル。
【請求項3】
前記上部電極フィルムおよび下部電極フィルムが、光学的異方性を有する環状ポリオレフィン系樹脂フィルムであることを特徴とする、請求項1または2に記載のタッチパネル。
【請求項4】
前記膨らみ防止フィルムが、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムであることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のタッチパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−39808(P2011−39808A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187008(P2009−187008)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】