説明

タッチ式入力装置およびそのコントローラ、制御方法、電子機器

【課題】、サイズの大きなセンサを用いたタッチ式入力装置において、座標判定の精度を改善する。
【解決手段】ピーク検出部16は、複数のセンサ電極SEそれぞれの静電容量を示す複数の容量値データC1,1〜CM,Nにもとづき、容量値が最大となるセンサ電極を特定し、特定したセンサ電極を示すピークデータPEAKを生成する。演算処理部18は、ピークデータPEAKが示すセンサ電極と、それから近い順に選択される(k−1)個(kは2以上の自然数)のセンサ電極に関して、i番目(1≦i≦k)のセンサ電極の容量値データをC、i番目のセンサ電極のX座標をX、i番目のセンサ電極のY座標をYと書くとき、ユーザが接触したX座標およびY座標を、式(1a)、(1b)により算出する。
x=Σi=1〜k(C×X)/Σi=1〜k …(1a)
y=Σi=1〜k(C×Y)/Σi=1〜k …(1b)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量の変化を利用したタッチ式の入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のコンピュータや携帯電話端末、PDA(Personal Digital Assistant)をはじめとする電子機器の多くは、指で接触することによって電子機器を操作するための入力装置を備える。
【0003】
こうした入力装置のひとつであるタッチ式入力装置(タッチセンサ、タッチパッドやトラックパッドとも称される)は、ユーザの指が接触することにより、電極とその周囲との間に形成される静電容量が変化することを利用した静電センサを利用している。タッチ式入力装置は、X軸方向に配置された複数のセンサ電極と、Y軸方向に配置された複数のセンサ電極と、各センサ電極の静電容量を検出する検出回路を備える。検出回路は、静電容量の変化の大きい、すなわち、ユーザが接触したセンサ電極を判定することで、ユーザがタッチした位置を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−325858号公報
【特許文献2】特表2003−511799号公報
【特許文献3】米国特許第5825352A1号明細書
【特許文献4】特開2007−013432号公報
【特許文献5】特開平11−232034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1(a)は、パネルの平面図を、図1(b)、(c)は、センサ電極の断面図と容量変化を示す図である。パネル4は、千鳥型のマトリクス状に規則的に配置された複数のセンサ電極SEを備える。ユーザの指があるセンサ電極SEに接触すると、そのセンサ電極(ピーク電極ともいう)SEの容量Cが増大するとともに、それと隣接するセンサ電極SEi+1、SEi−1の容量Ci−1、Ci+1も変化する。
【0006】
本発明者らは、ユーザが接触したX座標を、容量が最大となるピーク電極SEと、ピーク電極SEとX方向に隣接するセンサ電極SEi−1、SEi+1それぞれの容量C、Ci−1、Ci+1にもとづいて判定する方式について検討した。具体的には、ピーク電極SEと隣接するセンサ電極SEi−1、SEi+1の容量Ci−1、Ci+1を参照し、いずれのへの影響が大きいかに応じて座標を決定する。たとえば容量Ci−1がCi+1と実質的に等しい場合、ユーザが接触した座標xは、ピーク電極SEの中心と判定する。容量Ci−1の方が、Ci+1より大きいとき、ユーザが接触した座標xは、ピーク電極SEの中心よりも左側の、たとえばピーク電極の左端の座標に決定される。
【0007】
センサ電極のサイズは、パネル4の種類によってさまざまである。図1(c)のセンサ電極SEは、図1(b)のセンサ電極SEよりも面積が大きい。図1(b)に示すように、センサ電極SEのサイズが小さい場合、隣接するセンサ電極SEi−1、SEi+1への影響が大きいため、それらの容量変化Ci−1、Ci+1もある程度大きくなる。したがって、容量Ci−1、Ci+1にもとづいて、ユーザが接触した座標を正確に算出することができる。
【0008】
ところが、図1(c)に示すように、センサ電極SEのサイズが指に対して大きい場合、隣接するセンサ電極SEi−1、SEi+1への影響が小さくなり、それらの容量変化Ci−1、Ci+1が非常に小さくなる。つまり容量Ci−1、Ci+1を比較することが困難となる。たとえばユーザの指がセンサ電極SEiの中心よりも右寄りの座標に接触していた場合でも、センサ電極SEのサイズが大きいと、右隣のセンサ電極SEi+1の容量変化が、左側のセンサ電極SEi−1の容量変化と同程度となるため、ユーザが接触した座標は、ピーク電極SEの中心の座標と判定されてしまう。
【0009】
図2(a)、(b)は、大きなセンサ電極を有するタッチ式入力装置の動作を示す図である。図2(a)の矢印は、ユーザの指8の軌跡を示す。容量が最大となるピーク電極SEには、ハッチングが付される。
【0010】
図2(b)の矢印は、演算処理により判定されるユーザの指8の軌跡を示す。図1(c)に示すように、センサ電極SEのサイズが大きいと、ピーク電極と隣接するセンサ電極の容量変化が微小となり、それらの大小関係の判定が難しくなる。したがって、ピーク電極の座標がそのままユーザが接触した座標と判定されることになり、図2(a)に示すようにユーザが直線的に指をスライドさせた場合でも、図2(b)に示すように蛇行した軌跡と誤認識されてしまう。すなわち、リニアリティが悪化する。
【0011】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、サイズの大きなセンサを用いたタッチ式入力装置における座標判定の精度の改善にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のある態様は、タッチ式入力装置のコントローラに関する。タッチ式入力装置は、2次元のマトリクス状に配置され、ユーザの接触状態に応じてそれぞれの静電容量が変化する複数のセンサ電極を有する。コントローラは、複数のセンサ電極それぞれの静電容量を示す複数の容量値データにもとづき、容量値が最大となる前記センサ電極を特定し、特定したセンサ電極を示すピークデータを生成するピーク検出部と、ピークデータが示すセンサ電極と、それから近い順に選択される(k−1)個(kは2以上の自然数)のセンサ電極に関して、i番目(1≦i≦k)のセンサ電極の容量値データをC、i番目のセンサ電極のX座標をX、i番目のセンサ電極のY座標をYと書くとき、ユーザが接触したX座標xおよびY座標yを、式(1a)、(1b)により算出する演算処理部と、を備える。
x=Σi=1〜k(C×X)/Σi=1〜k …(1a)
y=Σi=1〜k(C×Y)/Σi=1〜k …(1b)
【0013】
本発明の別の態様も、タッチ式入力装置のコントローラに関する。タッチ式入力装置は、第1の座標軸の方向に配置され、ユーザの接触状態に応じてそれぞれの静電容量が変化する複数のセンサ電極を有する。コントローラは、複数のセンサ電極それぞれの静電容量を示す複数の容量値データにもとづき、容量値が最大となるセンサ電極を特定し、特定したセンサ電極を示すピークデータを生成するピーク検出部と、ピークデータが示すセンサ電極を包含する連続するk個(kは2以上の整数)のセンサ電極に関して、i番目(1≦i≦k)のセンサ電極の容量値データをC、i番目のセンサ電極の座標をXと書くとき、ユーザが接触した座標xを、式(2)により算出する演算処理部と、を備える。
x=Σi=1〜k(C×X)/Σi=1〜k …(2)
【0014】
これらの態様では、ピークデータが示すセンサ電極(ピーク電極)を中心とする複数の電極それぞれの静電容量に着目し、複数のセンサ電極の座標を、静電容量によって重み付けすることにより、静電容量の重心が算出される。そしてその重心をユーザが接触した座標と判定することにより、ピーク電極の周囲のセンサ電極の微少な容量変化を、座標に反映させることができ、座標判定の精度を高めることができる。
【0015】
演算処理部は、ピーク検出部により検出されたピークを有するセンサ電極の個数が多いほど、kの値を減少させてもよい。
ユーザが複数の点でパネルに接触するマルチタッチ状態では、ある指の周囲のセンサ電極の容量が、別の指の影響によって変化するため、各接触箇所の座標判定に誤差が生ずる。そこで、複数のピークが検出される場合、座標判定を行う際に考慮すべき周囲のセンサ電極の個数kを小さくすることにより、他の接触点の影響を低減することができる。
【0016】
演算処理部は、ピーク検出部により検出されたピークを有するセンサ電極の距離に応じて、kの値を変化させてもよい。
ユーザが複数の点に接触する場合において、それらの距離がある程度離れている場合には、相互作用の影響は小さいと考えられる。そこで、距離が大きい場合には、kを大きくし、距離が近い場合にはkを小さくすることにより、座標を正確に判定できる。
【0017】
X座標の最小値がxmin、最大値がxmaxであるとき、xmin<x1<x2<x3<x4<xmaxを満たす4つの座標x1〜x4を定義してもよい。ある態様のタッチ式入力装置は、(i)x1<x<x2のとき、座標xをxmin<x’<x2の範囲の座標x’に座標変換し、(ii)x2<x<x3のとき、座標xをそのままの値とし、(iii)x3<x<x4のとき、座標xをx3<x’<xmaxの範囲の座標x’に座標変換する座標変換部をさらに備えてもよい。
【0018】
さらにY座標の最小値がymin、最大値がymaxであるとき、ymin<y1<y2<y3<y4<xmaxを満たす4つの座標y1〜y4を定義してもよい。このとき、座標変換部は、(iv)y1<y<y2のとき、座標yをymin<y’<y2の範囲の座標y’に座標変換し、(v)y2<y<y3のとき、座標yをそのままの値とし、(vi)y3<y<y4のとき、座標yをy3<y’<ymaxの範囲の座標y’に座標変換してもよい。
【0019】
パネルの最外周付近の電極は、外側に隣接する電極が存在しない。したがって上述の座標判定の手法により判定される座標は、実際の正しい座標よりもパネルの内側にシフトする傾向がある。外周付近の座標x1〜x2、x3〜x4、y1〜y2、y3〜y4を、座標変換することにより、正しい座標に近づけることができる。
【0020】
本発明の別の態様は、タッチ式入力装置に関する。入力装置は、パネルと、上述の何れかの態様のコントローラと、を備える。
【0021】
本発明の別の態様は、電子機器に関する。電子機器は、上述の入力装置を備える。
【0022】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせ、本発明の表現を、方法、装置などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0023】
本発明のある態様によれば、サイズの大きなセンサを用いたタッチ式入力装置において、座標判定の精度を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1(a)、(b)は、センサ電極の断面図と容量変化を示す図である。
【図2】図2(a)、(b)は、大きなセンサ電極を有するタッチ式入力装置の動作を示す図である。
【図3】実施の形態に係るタッチ式の入力装置を備える電子機器の構成を示すブロック図である。
【図4】実施の形態に係る入力装置の構成を示すブロック図である。
【図5】演算処理部の処理を説明するための図である。
【図6】図6(a)、(b)は、入力装置の動作を示す図である。
【図7】座標変換部の動作を示す図である。
【図8】センサ部の別の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0026】
図3は、実施の形態に係るタッチ式の入力装置2を備える電子機器1の構成を示すブロック図である。入力装置(タッチ式入力装置)2は、たとえばLCD(Liquid Crystal Display)9とオーバーラップする位置、つまりLCD9の表層に配置され、タッチパネルとして機能する。あるいは、LCD9とは別の箇所に配置されたトラックパッドのような入力デバイスであってもよい。
【0027】
入力装置2は、センサ部4、容量検出回路10、パネルコントローラ6を備える。ユーザが指8でセンサ部4の表面に触れると、センサ部4の内部に配置されたセンサ電極(不図示)が変形もしくは変位し、電極が周囲との間で形成する静電容量が変化する。センサ部4は、千鳥型のマトリクス状に配置された複数のセンサ電極のアレイを有する。なお容量検出回路10とパネルコントローラ6は一体に構成されてもよい。
【0028】
容量検出回路10は、センサ電極の静電容量の変化を検出し、検出結果に応じたデータをパネルコントローラ6に出力する。パネルコントローラ6は、いわゆるDSP(Digital Signal Processor)であり、容量検出回路10からのデータを解析し、ユーザの入力動作の有無、種類を判定する。たとえばユーザの指8が、センサ部4に接触することにより、LCD9上に表示された項目、オブジェクトを選択が選択され、あるいは文字入力が補助される。
【0029】
センサ部4の平面図は、図2(a)、(b)に示されており、複数のセンサ電極SEがマトリクス状に配置される。なおセンサ電極の配置の仕方は特に限定されない。ユーザがセンサ部4を指で触れると、指の直下のセンサ電極SEの静電容量が変化する。ユーザの複数の指が接触した場合、それぞれの指の直下のセンサ電極SEの静電容量が変化する。また、指の直下のセンサ電極SEの周辺のセンサ電極SEの静電容量もわずかながらに変化する。
【0030】
図4は、実施の形態に係る入力装置2の構成を示すブロック図である。入力装置2は、複数のセンサ電極SEi,j、容量検出回路10、ピーク検出部16、演算処理部18を備える。上述のように複数のセンサ電極SEi,jは、マトリクス状に配置される。添え字のi,jは、i行j列目の要素であることを示す。
【0031】
容量検出回路10は、複数のセンサ電極SE1,1〜SEM,Nと接続され、各センサ電極SEi,jの静電容量を測定し、測定された静電容量を示す容量値データCi,jのアレイを生成する。
【0032】
パネルコントローラ6は、ピーク検出部16、演算処理部18、座標変換部20、を備える。ピーク検出部16は、複数の容量値データC1,1〜CM,Nにもとづき、容量値が最大となるセンサ電極SEPEAKを特定し、特定したセンサ電極SEPEAKを示すピークデータPEAKを生成する。ピークが複数存在する場合、各ピークを示すデータが生成される。
【0033】
演算処理部18は、ピークデータPEAKが示すセンサ電極SEPEAKと、それから近い順に(k−1)個(kは2以上の自然数)のセンサ電極を選択して、それらを演算対象とする。そして演算処理部18は、選択したk個のセンサ電極に関して、i番目(1≦i≦k)のセンサ電極の容量値データをC、i番目のセンサ電極のX座標をX、i番目のセンサ電極のY座標をYと書くとき、ユーザが接触したX座標xおよびY座標yを、式(1a)、(1b)にもとづいて算出する。
x=Σi=1〜k(C×X)/Σi=1〜k …(1a)
y=Σi=1〜k(C×Y)/Σi=1〜k …(1b)
【0034】
式(1a)、(1b)は、ピークデータPEAKが示すセンサ電極(ピーク電極)SEPEAKを中心とする複数k個の電極それぞれの静電容量によって、複数のセンサ電極の座標を重み付けすることを意味する。これは、静電容量の重心を算出することに他ならない。
【0035】
図5は、演算処理部18の処理を説明するための図である。図5では、k=25の場合が示される。ピーク電極SEPEAKに番号1が付され、それから近い順に2〜25の番号を付している。また図5には、各センサ電極SEのX座標およびY座標が示される。たとえば1番目のセンサ電極(ピーク電極SEPEAK)のX座標Xは5、Y座標Yは6であり、10番目のセンサ電極SEのX座標X10は3、Y座標Y10は4である。
【0036】
演算処理部18は、パラメータkが切替可能に構成される。第1モードでは、k=25であり、第2モードでは、k=13、第3モードではk=9、第5モードではk=5に設定される。
座標変換部20については後述する。
【0037】
以上が座標検出に関する入力装置2の構成である。続いてその動作を説明する。
【0038】
図6(a)、(b)は、入力装置2の動作を示す図である。
図6(a)の矢印は、ユーザの指8の軌跡を示す。容量が最大となるピーク電極SEPEAKには、ハッチングが付される。図6(b)には、演算処理部18による式(1a)、(1b)の演算の対象となるセンサ電極SEにはドットが付される。図6(b)は、第3モード(k=9)の処理を示す。センサ電極SEaがピークセンサのとき、矩形Aで囲まれる、ピークセンサSEaを中心とするk=9個のセンサ電極が、式(1a)、(1b)の演算処理の対象となる。
センサ電極SEbがピークセンサのとき、矩形Bで囲まれるピークセンサSEbを中心とするk=9個のセンサ電極が、式(1a)、(1b)の演算処理の対象となる。
【0039】
ピークセンサSEの移動にともない、式(1a)、(1b)の演算式によって、各時刻における座標を決定することにより、演算処理により判定されるユーザの指8の軌跡は、図6(b)に矢印で示すように直線となる。これは、図6(a)に示される指8の実際の軌跡と合致する。
【0040】
実施の形態に係る入力装置2によれば、ピーク電極の周囲のセンサ電極の微少な容量変化を座標に反映させることができ、座標判定の精度を高めることができる。
実施の形態に係る入力装置2の効果を明確とするため、入力装置2の手法と、図1(a)〜(c)に示す手法(比較技術という)を比較する。ここでは、X座標の判定に着目する。
【0041】
比較技術では、X座標は、図5の1番のピークセンサSEPEAKに加えて、左隣の6番のセンサ電極と右隣の8番のセンサ電極の容量にもとづいて判定される。これに対して実施の形態では、k=5の場合、X座標は、ピークセンサSEPEAKに加えて、2番、3番、4番、5番のセンサ電極の容量にもとづいて判定される。つまり、入力装置2では、座標判定に利用されるピークセンサを除くセンサの個数が、比較技術に比べて少なくとも2倍となる。
【0042】
さらに、図5から明らかなように、2番と1番の間の距離(5番と1番の距離)は、6番と1番の距離に比べて短い。したがって、1番がピークセンサであるときに、2番〜4番のセンサに生ずる容量変化は、6番、8番の容量変化よりも大きくなる。
【0043】
以上のことから、入力装置2によれば、比較技術において、X座標を、1番、6番、8番のセンサを用いて、式(1a)に従ってX座標を決定するよりも、高い精度でX座標を判定することが可能となる。Y座標についても同様である。
【0044】
演算処理部18は、モード、すなわちパラメータkを動的に制御してもよい。以下、モード制御について説明する。
【0045】
1. 第1の制御
ユーザが複数の点でパネルに接触するマルチタッチ状態では、ある指の周囲のセンサ電極の容量が、別の指の影響によって変化しうる。そうすると、各接触箇所の座標判定に誤差が生ずる。この場合には、演算処理部18は、ピーク検出部16により検出されたピークを有するセンサ電極の個数が多いほど、kの値を減少させてもよい。すなわち、ピークの個数に応じて、モードを切りかえてもよい。複数のピークが検出される場合に、座標判定を行う際に考慮すべき周囲のセンサ電極の個数kを小さくすることにより、他の指の影響を低減し、正しい座標判定が可能となる。
【0046】
実使用時において、シングルタッチは、文字入力や図形の描画など、正確な座標検出が必要とされる状況で使用されるケースが多い反面、マルチタッチは、ジェスチャ入力などに利用され、それほど正確な座標検出が必要とされない状況が多い。したがって、マルチタッチ時にパラメータkを小さくしても、それほどの不利益はない。
【0047】
2. 第2の制御
マルチタッチ状態において、指と指の間隔が大きい場合、指同士の相互作用は小さいと考えられる。そこで演算処理部18は、ピーク検出部16により検出されたピークを有する複数のセンサ電極の距離に応じて、kの値を変化させてもよい。ユーザが複数の点に接触する場合においても、2点間の距離が大きい場合には、kを大きくすることにより、座標を正確に判定できる。
【0048】
3. 第3の制御
指がパネルに接触する場合、周囲への影響が大きく、ペンで接触する場合、周囲への影響は小さい。そこで演算処理部18は、センサ電極に接触するの対象物(オブジェクト)を判定し、すなわちパネルに接触するのが、ユーザの指であるのか、ペンであるのかなどに応じて、モードを動的に制御してもよい。オブジェクトを判定するアルゴリズムは、公知のものを利用すればよい。
【0049】
続いて、座標変換部20について説明する。
図7は、座標変換部20の動作を示す図である。
パネル4の最外周付近のセンサ電極は、外側に隣接する電極が存在しない。したがって演算処理部18が式(1a)、(1b)にもとづいて判定する座標は、実際の正しい座標よりもパネルの内側にシフトする傾向がある。したがって、演算処理部18により判定される座標x、yは、たとえば矩形Cの内側の領域に制限される。
【0050】
パネル4のX座標の最小値がxmin、最大値がxmaxであるとき、xmin<x1<x2<x3<x4<xmaxを満たす4つの座標x1〜x4が定義される。x1は、矩形Cの左の辺のX座標に対応し、x3は矩形Cの右の辺のX座標に対応してもよいし、それと近い座標であってもよい。同様に、パネル4のY座標の最小値がymin、最大値がymaxであるとき、ymin<y1<y2<y3<y4<xmaxを満たす4つの座標y1〜y4が定義される。y1は、矩形Cの下の辺のY座標に対応し、y3は矩形Cの上の辺のY座標に対応してもよいし、それと近い座標であってもよい。
【0051】
座標変換部20は、(i)x1<x<x2のとき、座標xをxmin<x’<x2の範囲の座標x’に座標変換し、(ii)x2<x<x3のとき、座標xをそのままの値とし、(iii)x3<x<x4のとき、座標xをx3<x’<xmaxの範囲の座標x’に座標変換する。
【0052】
同様に座標変換部は、(iv)y1<y<y2のとき、座標yをymin<y’<y2の範囲の座標y’に座標変換し、(v)y2<y<y3のとき、座標yをそのままの値とし、(vi)y3<y<y4のとき、座標yを、y3<y’<ymaxの範囲の座標y’に座標変換してもよい。
【0053】
この座標変換部20は、(x2、x3、y2、y3)に囲まれる矩形Dの内側は、演算処理部18により生成された座標x、yがそのまま出力される。すなわち、x=x’、y=y’となる。
【0054】
一方、矩形Dより外側で矩形Cより内側の領域の座標は、矩形Dより外側でセンサ部4の外周より内側の領域に座標変換される。座標変換の方法は特に限定されず、線形変換を行ってもよいし、複雑なアルゴリズムを用いてもよい。
外周付近の座標x1〜x2、x3〜x4、y1〜y2、y3〜y4を、座標変換することにより、正しい座標に近づけることができ、領域Cの外側の領域の座標検出が可能となる。なお、x1〜x4、y1〜y4は、モード(パラメータk)ごとに異なる組を定義することが好ましい。
【0055】
実施の形態にもとづき、特定の語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が可能である。
【0056】
実施の形態では、センサ電極SEがマトリクス状に配置される場合を説明したが本発明はそれには限定されない。
図8は、センサ部4の別の構成例を示す図である。図8のセンサ部4は、第1の座標軸の方向(X方向)に配置された複数のセンサ電極(カラム電極)SECOLと、第2の座標軸の方向(Y方向)に配置された複数のセンサ電極(ロウ電極)SEROWを備える。
【0057】
容量検出回路10は、複数のカラム電極SECOLそれぞれの容量を示す容量値データCx〜Cxと、複数のロウ電極SEROWそれぞれの容量を示す容量値データCy〜Cyを生成する。
【0058】
パネルコントローラ6は、容量値データCx〜CxにもとづいてX座標を判定し、容量値データCy〜CyにもとづいてY座標を判定する。
【0059】
X座標、Y座標の判定処理は同様であるため、以下、X座標について説明する。
ピーク検出部16は、容量値データCx〜Cxにもとづいて、X方向のピーク電極SEPEAKxを検出する。演算処理部18は、ピークデータが示すピーク電極SEPEAKxを包含する連続するk個(kは2以上の整数)のセンサ電極に関して、i番目(1≦i≦k)のセンサ電極の容量値データをCx、i番目のセンサ電極の座標をXと書くとき、ユーザが接触した座標xを、式(2)により算出する。ピーク電極SEPEAKxは、連続するk個のセンサ電極の中央であることが好ましい。
x=Σi=1〜k(Cx×X)/Σi=1〜kCx …(2)
【0060】
Y座標についても同様であり、式(3)にもとづいて算出する。
y=Σi=1〜k(Cy×Y)/Σi=1〜kCy …(3)
【0061】
この変形例によれば、図8のパネルに対しても、X座標、Y座標を正確に検出することができる。また、図8のパネルを用いる場合でも、座標変換部20を併用することで、パネル4の外周部の座標を正確に検出できる。
【0062】
パネルの構成は特に限定されず、図2や図8以外の構成であってもよい。本発明は、少なくとも第1の方向に配置される複数のセンサ電極を備えるパネルの座標検出に適用可能である。
【符号の説明】
【0063】
1…電子機器、2…入力装置、4…センサ部、5…シールド電極、6…パネルコントローラ、7…参照電極、8…指、9…LCD、10…容量検出回路、12…C/V変換回路、14…A/D変換回路、16…ピーク検出部、18…演算処理部、20…座標変換部、SE…センサ電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次元のマトリクス状に配置され、ユーザの接触状態に応じてそれぞれの静電容量が変化する複数のセンサ電極を有するタッチ式入力装置のコントローラであって、
前記複数のセンサ電極それぞれの静電容量を示す複数の容量値データにもとづき、容量値が最大となる前記センサ電極を特定し、特定したセンサ電極を示すピークデータを生成するピーク検出部と、
前記ピークデータが示すセンサ電極と、それから近い順に選択される(k−1)個(kは2以上の自然数)のセンサ電極に関して、i番目(1≦i≦k)のセンサ電極の容量値データをC、i番目のセンサ電極のX座標をX、i番目のセンサ電極のY座標をYと書くとき、ユーザが接触したX座標およびY座標を、式(1a)、(1b)
x=Σi=1〜k(C×X)/Σi=1〜k …(1a)
y=Σi=1〜k(C×Y)/Σi=1〜k …(1b)
により算出する演算処理部と、
を備えることを特徴とするコントローラ。
【請求項2】
第1の座標軸の方向に配置され、ユーザの接触状態に応じてそれぞれの静電容量が変化する複数のセンサ電極を有するタッチ式入力装置のコントローラであって、
前記複数のセンサ電極それぞれの静電容量を示す複数の容量値データにもとづき、容量値が最大となる前記センサ電極を特定し、特定したセンサ電極を示すピークデータを生成するピーク検出部と、
前記ピークデータが示すセンサ電極を包含する連続するk個(kは2以上の整数)のセンサ電極に関して、i番目(1≦i≦k)のセンサ電極の容量値データをC、i番目のセンサ電極の座標をXと書くとき、ユーザが接触した座標xを、式(2)
x=Σi=1〜k(C×X)/Σi=1〜k …(2)
により算出する演算処理部と、
を備えることを特徴とするコントローラ。
【請求項3】
前記演算処理部は、前記ピーク検出部により検出されたピークを有するセンサ電極の個数が多いほど、kの値を減少させることを特徴とする請求項1または2に記載のコントローラ。
【請求項4】
前記演算処理部は、前記ピーク検出部により検出されたピークを有する複数のセンサ電極の距離に応じて、kの値を変化させることを特徴とする請求項3に記載のコントローラ。
【請求項5】
前記演算処理部は、前記センサ電極に接触する対象物に応じて、kの値を変化させることを特徴とする請求項3に記載のコントローラ。
【請求項6】
X座標の最小値がxmin、最大値がxmaxであるとき、xmin<x1<x2<x3<x4<xmaxを満たす4つの座標x1〜x4を定義し、
(i)x1<x<x2のとき、座標xをxmin<x’<x2の範囲の座標x’に座標変換し、(ii)x2<x<x3のとき、座標xをそのままの値とし、(iii)x3<x<x4のとき、座標xをx3<x’<xmaxの範囲の座標x’に座標変換する座標変換部をさらに備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のコントローラ。
【請求項7】
X座標の最小値がxmin、最大値がxmaxであるとき、xmin<x1<x2<x3<x4<xmaxを満たす4つの座標x1〜x4を定義し、
Y座標の最小値がymin、最大値がymaxであるとき、ymin<y1<y2<y3<y4<xmaxを満たす4つの座標y1〜y4を定義し、
(i)x1<x<x2のとき、座標xをxmin<x’<x2の範囲の座標x’に座標変換し、(ii)x2<x<x3のとき、座標xをそのままの値とし、(iii)x3<x<x4のとき、座標xをx3<x’<xmaxの範囲の座標x’に座標変換するとともに、(iv)y1<y<y2のとき、座標yをymin<y’<y2の範囲の座標y’に座標変換し、(v)y2<y<y3のとき、座標yをそのままの値とし、(vi)y3<y<y4のとき、座標yをy3<y’<ymaxの範囲の座標y’に座標変換する座標変換部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のコントローラ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載のコントローラを備えることを特徴とするタッチ式入力装置。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載のコントローラを備えることを特徴とする電子機器。
【請求項10】
2次元のマトリクス状に配置され、ユーザの接触状態に応じてそれぞれの静電容量が変化する複数のセンサ電極を有するタッチ式入力装置の制御方法であって、
前記複数のセンサ電極それぞれの静電容量を測定し、測定された静電容量を示す複数の容量値データを生成するステップと、
前記複数の容量値データにもとづき容量値が最大となる前記センサ電極を特定するステップと、
前記容量値が最大であるセンサ電極と、それから近い順に選択される(k−1)個(kは2以上の自然数)のセンサ電極に関して、i番目(1≦i≦k)のセンサ電極の容量値データをC、i番目のセンサ電極のX座標をX、i番目のセンサ電極のY座標をYと書くとき、ユーザが接触したX座標およびY座標を、式(1a)、(1b)
x=Σi=1〜k(C×X)/Σi=1〜k …(1a)
y=Σi=1〜k(C×Y)/Σi=1〜k …(1b)
により算出するステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項11】
第1の座標軸の方向に配置され、ユーザの接触状態に応じてそれぞれの静電容量が変化する複数のセンサ電極を有するタッチ式入力装置の制御方法であって、
前記複数のセンサ電極それぞれの静電容量を測定し、測定された静電容量を示す複数の容量値データを生成するステップと、
前記複数の容量値データにもとづき容量値が最大となる前記センサ電極を特定するステップと、
前記容量値が最大であるセンサ電極を包含する連続するk個(kは2以上の整数)のセンサ電極に関して、i番目(1≦i≦k)のセンサ電極の容量値データをC、i番目のセンサ電極の座標をXと書くとき、ユーザが接触した座標xを、式(2)
x=Σi=1〜k(C×X)/Σi=1〜k …(2)
により算出するステップと、
を備えることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−80344(P2013−80344A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219515(P2011−219515)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】