説明

タブ端子の製造方法およびその方法により得られるタブ端子

【課題】線材メーカー等から入手できる、鉛フリーのスズメッキが施されたリード線を、そのままタブ端子に使用した場合であっても、溶接部分からのスズウィスカが発生しない、電解コンデンサ用タブ端子を製造する方法を提供する。
【解決手段】芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなるタブ端子を製造する方法であって、芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、アルミ芯線を溶接し、該アルミ芯線の端部を圧扁してタブ端子を準備する工程、および前記タブ端子を、リン系溶剤で洗浄する工程、を含んでなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミ電解コンデンサ等に使用されるタブ端子の製造方法に関し、特に、鉛フリーのスズメッキが施されたタブ端子の製造方法およびその方法によって得られるタブ端子に関する。
【従来技術】
【0002】
電解コンデンサは、タンタル、アルミニウム等の弁作用金属からなる陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回してなるコンデンサ素子を形成し、このコンデンサ素子に、液状電解質または固体電解質を保持させて外装ケース内に収納して構成されている。このような電解コンデンサにおいて、陽極電極箔と陰極電極箔とには、それぞれの電極を外部に接続するためのタブ端子が、ステッチ、超音波溶接等の公知の手段により接続されている。
【0003】
当該タブ端子は、扁平部、丸棒部、およびリード線部の三つの部分から構成されている。すなわち、電極箔に接合される部分は、巻回型のコンデンサ素子内に巻き込まれる関係から扁平部とされ、外装ケースを密封する封口体に貫通挿入される部分は、封口体との間のシール性と機械的強度を確保するために丸棒部とされている。また、回路基板に実装される引出し部分は、実装時の取扱性を確保するために柔軟性を持つリード線部とされている。
【0004】
このような三つの部分から構成されるタブ端子は、2種類の部材を溶接することによって作製されるのが通常である。すなわち、アルミ材等からなる芯線を用いて扁平部と丸棒部とを形成し、当該丸棒部にリード線を溶接することによって作製される。また、電解コンデンサは回路基板にはんだ付けで実装されることから、当該リード線は、はんだ付け特性の向上のため、その表面にスズや鉛を含有するスズでメッキが施されたものが使用されている。
【0005】
一方、近年、環境問題に配慮して、電子部品の電極端子の無鉛化や電子部品の接合に無鉛はんだを使用する技術の開発がなされ始めている。電子部材として用いるリード線においても、従来の鉛含有スズメッキに替わり、鉛を用いない、いわゆる鉛フリーのスズメッキが使用され始めている。このような鉛フリーのスズメッキが施されたリード線を用いたタブ端子では、アルミ丸棒部とリード線部との溶接部分にスズのウィスカが発生するという問題がある。該ウィスカは経時的に成長するため、タブ端子製造後にウィスカを除去しても、その後に徐々にウィスカが成長する。従って、電解コンデンサを回路基板に実装した後に、陽極側のリード線から発生したウィスカと陰極側のリード線から発生したウィスカとが互いに接合したり、あるいは、リード線部に発生したウィスカが回路基板の表面またはコンデンサ容器にまで達して、ひいては電解コンデンサの漏れ電流を増大させたり、ショートを発生させ、ウィスカ事故につながる恐れもある。
【0006】
このような問題に対し、溶接部からのスズウィスカの発生を抑制するため、特開2000−12386号公報には、0.5〜10.0wt%のビスマス等の金属を含有するスズからなる金属層が形成されたリード線を使用することが開示されている。このように、スズにビスマス等の金属を含有させることにより、ウィスカの発生を抑制することができる。
【0007】
しかしながら、ビスマス等の金属を含有するスズが表面に形成されたリード線を得るためには、当該金属を所定量含有するスズ合金のメッキを施す必要があるため、線材メーカー等から入手できる鉛フリーのスズメッキされたリード線をタブ端子の製造に直接用いることができない。このように線材メーカー等から入手できるリード線をそのまま使用してタブ端子を製造することができれば、製造工程も複雑とならず、製造コストを増大させることもないと考えられる。
【0008】
ウィスカが発生する部位はアルミ芯線とリード線との溶接部のみであるのに対し、ビスマス/スズ合金メッキはリード線全体に施されているため、ウィスカ発生と関係のない部分のメッキ処理が無駄になりコスト上昇を招く。
【0009】
さらに、スズに他の金属を含有させすぎると、スズのみからなるメッキと比較して、ハンダ濡れ性等のメッキ特性が変化してしまう。
【0010】
また、特開2000−124073号公報(特許文献2)には、スズのウィスカ発生を抑制するために、アルミ線とリード線とを接合する際に、アルミ線の端部に凹部を設け、その凹部にリード線を挿入して接合することが提案されている。
【0011】
しかしながら、接合工程の前に、アルミ線の端部に凹部を形成する工程が加わるため、製造工程が複雑となり、コストの上昇を招く。また、凹部を形成するためにはアルミ線の線径を太くする必要があるが、アルミ線が太いと溶接の際にエネルギーを過剰に消費するため、生産実用上限界がある。
【0012】
さらに、鉛フリーのスズメッキされたリード線を用いたタブ端子は、溶接部分のみにウィスカが発生するだけでなく、端子部分(リード線)を折り曲げるたりすると、その折り曲げ部分からもウィスカが発生することも、最近報告されている。
【特許文献1】特開2000−12386号公報
【特許文献2】特開2000−124073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者らは、今般、鉛フリーのタブ端子において、スズメッキさたリード線の表面にリン(P)を含む層を形成することにより、ウィスカの発生が抑制できるとの知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0014】
したがって、本発明の目的は、線材メーカー等から入手できる、鉛フリーのスズメッキが施されたリード線を、そのままタブ端子に使用した場合であっても、溶接部分からのスズウィスカが発生しない、タブ端子を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によるタブ端子の製造方法は、芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなるタブ端子を製造する方法であって、
芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、アルミ芯線を溶接し、該アルミ芯線の端部を圧扁してタブ端子を準備する工程、および
前記タブ端子を、リン系溶剤で洗浄する工程、
を含んでなることを特徴とするものである。
【0016】
このように、溶接後にタブ端子をリン系溶剤で洗浄することにより、溶接部分の表面にリン化合物膜が形成され、当該溶接部分からスズウィスカの発生を抑制することができる。また、端子部分を折り曲げた際にも、その折り曲げ部分からのウィスカの発生を抑制することができる。
【0017】
また、本発明においては、上記のリン系溶剤として、リン酸ナトリウムまたはポリリン酸ナトリウムを含んでなる洗浄剤を用いることが好ましい。このようなリン系溶剤を使用することにより、より確実に溶接部分にリン化合物の皮膜を形成することができる。リン系溶剤による洗浄は、溶剤(洗浄剤)の曇点以上の温度で行うことが好ましい。このような温度で洗浄を行うことにより、タブ端子の表面にリン化合物の皮膜を効果的に形成することができる。
【0018】
また、上記のリン系溶剤による洗浄は、溶剤の曇点以上の温度で行うことが好ましい。この範囲で洗浄を行うことにより、十分なリン化合物の皮膜形成を行うことができる。
【0019】
また、本発明の好ましい態様としては、タブ端子の溶接部分に、イオン注入を行う。上記イオン注入のイオン源はリンであることが好ましい。このように、リンイオンをタブ端子の溶接部分に注入することにより、より一層、スズウィスカの発生を抑制することができる。
【0020】
上記イオン注入は、リン系溶剤による洗浄工程の後に行うことが好ましい。
【0021】
また、タブ端子の溶接部分に注入するイオン量としては、1.0×10〜1.0×1020cm−2であることが好ましい。
【0022】
このようにして製造されるタブ端子は、アルミ電解コンデンサ等に好適に使用される。
【0023】
本発明の別の態様としてのタブ端子は、芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなるタブ端子であって、
前記溶接部分の少なくとも一部に、SnPO(xは2〜4を表す)からなる皮膜が形成されてなることを特徴とするものである。
【0024】
また、好ましい態様として、スズが存在する部分において、スズ表面にPO(xは2〜4を表す)からなる皮膜が形成されてなるものである。
【0025】
また、好ましい態様として、SnPO皮膜またはスズ表面PO皮膜の厚みが、SiO換算で20nm以上である。
【0026】
さらに、本発明によるタブ端子は、針状のウィスカが実質的に存在せず、タブ端子表面に発生したウィスカの形状は螺旋状または帯状である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態の一例によるタブ端子の製造方法について説明する。
本発明のタブ端子の製造方法は、芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、アルミ芯線を溶接し、該アルミ芯線の端部を圧扁してタブ端子を準備する工程、および前記タブ端子をリン系溶剤で洗浄する工程、を含んでなる。
【0028】
タブ端子の準備工程は、通常の溶接加工および圧扁加工により行うことができる。溶接工程において、銅、鉄等からなる芯線にスズメッキされたリード線とアルミ芯線とを溶接によって接合する。例えば、火花放電等によって高温状態を形成し、アルミ芯線とリード線との両端を溶解して接合する方法等により両者を接合することができる。
【0029】
その後、リード線に接合されたアルミ芯線の一端部を扁平状に圧扁することにより、アルミ圧扁部を形成する。かかる圧扁部は従来技術により形成することができる。例えば、アルミ芯線をプレス加工し所定形状に切断することにより、所定形状の圧扁部を有するアルミ芯線を作製することができる。圧扁部を所定形状に切断する工程は、プレス加工と同時に行うこともできる。
【0030】
本発明に使用されるリード線は、市販の鉛フリーのスズメッキが施されたCP線(引き込み線)や、鉛フリーのスズメッキが施された銅線等を使用することができる。また、リード線の太さや長さも特に限定されるものではなく、使用する電解コンデンサ等の要求特性に応じて種々のCP線や銅線等を使用することができる。例えば、リード線の外径は、概ね0.3〜1.2mmのものを好適に使用できる。なお、CP線は、導電特性の観点から、鉄の周囲に銅が形成されたものが通常用いられる。
【0031】
スズメッキの厚さは、概ね8〜14μm程度である。なお、スズメッキが厚くなるほどウィスカが発生し易い傾向にある。
【0032】
本発明のタブ端子を構成するアルミ芯線も、従来のタブ端子に使用されているものを使用することができる。当該アルミ芯線も市販のものを用いることができる。また、アルミ芯線は電解コンデンサの電極として機能するものである。
【0033】
アルミ芯線は、外形が概ね0.5〜2.5mmのものを使用できるが、リード線よりも外径の大きいものを使用することが好ましい。なお、アルミ芯線の外径とリード線の外径との差が大きいほどウィスカが発生し易い傾向にある。
【0034】
次いで、このようにして得られたタブ端子を、リン系溶剤にて洗浄する。リン系溶剤によって洗浄することによりスズウィスカの発生が抑制されるのは、以下のように考えられる。
【0035】
本発明者らは、タブ端子の溶接部分付近から発生するウィスカが、スズ金属単体からなるものであることを確認し、溶接部分にリン酸化合物の皮膜を形成することにより、この金属スズ結晶であるウィスカを抑制できるとの知見を得た。すなわち、本願発明は、ウィスカ発生原因に着目し、タブ端子の処理方法とウィスカ発生との関係について鋭意検討をした結果、導き出されたものである。
【0036】
本発明者らの知見によれば、当該ウィスカはスズからなる単体金属で構成されており、リード線表面に設けられたスズメッキに由来するものと推定されるが、リード線全体にウィスカが発生することはなく、リード線とアルミ芯線との溶接部分に集中してウィスカは発生する。その理由は以下のように考えられる。すなわち、アルミ芯線とリード線との接合部分では、溶接時の残留応力が残されたままアルミ、銅およびスズ等の金属が固化する。しかしながら、アルミや銅と異なり、スズは融点が低く(232℃)、また、低温(数十℃)において結晶変態をし得る。このような残留応力(ひずみ)が残されている状態においては、常温においてもスズの結晶変態が進み、針状のウィスカとなって溶接部分から現れるものと推定される。この針状ウィスカは、溶接部分の表面を突き破るように内部から成長する。当該ウィスカの成長は、数ヶ月のオーダーで徐々に進行するため、タブ端子製造直後にウィスカ除去を行っても、根本的な解決にはならないことに留意されるべきである。すなわち、本発明者らの知見によれば、ウィスカの成長自体を抑制する必要があるということである。特に、タブ端子を使用する際に応力が加わる場合、例えば、タブ端子を折り曲げて使用するような場合、応力によってウィスカの成長が助長される傾向にあるが、本発明においては、タブ端子に応力が加わる状況下であっても、ウィスカの発生および成長が有効に抑制できる。
【0037】
本発明においては、スズの結晶成長を抑制するために、ウィスカ発生場所である溶接部分の表面に、リン酸系化合物の皮膜を形成し、その皮膜によってウィスカの発生を抑制するものである。溶接部分に形成されたリン系化合物は、溶接部分に存在するスズおよび周囲雰囲気に存在する酸素と反応し、リン酸化合物を形成する。本発明者らがAESスペクトル分析等によって分析したところ、溶接部分の表面にはSnPO(xは2〜4)のリン酸化合物が形成されていることを確認した。このように、溶接部分の表面にリン酸系化合物の皮膜を形成することで、溶接部分の合金中に存在するスズがディスロケーションによって結晶成長し、ウィスカとして成長するのを効果的に抑制できることは予想外のことであった。形成されたSnPOは、xが2.5〜3であることが好ましく、この範囲であればよりウィスカ発生を抑制できる。
【0038】
また、本発明による方法によれば、タブ端子の少なくとも一部分に、リン系化合物としてSnPOが形成されるだけでなく、SnPOが形成されていない部分、すなわちSnが存在している部分においても、そのSn表面状にPOからなるリン系化合物の皮膜が形成される。
【0039】
本発明においては、リン酸系化合物の皮膜を溶接部分に形成するために、タブ端子をリン系溶剤によって洗浄する。この洗浄によって、リン系化合物がタブ端子表面に付着する。空気雰囲気中でタブ端子が置かれることにより、このリン系化合物が酸化してリン酸系化合物を形成する。
【0040】
リン系溶剤としては、リン酸ナトリウムまたはリン酸カリウム、もしくはポリリン酸ナトリウムまたはポリリン酸カリウム等を含んでなる洗浄剤を好適に使用できるが、これらの中でも、リン酸ナトリウムまたはポリリン酸ナトリウムを含むことが好ましい。ポリリン酸ナトリウムとしては、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、ペンタポリリン酸ナトリウム等を挙げることができるが、これらの中でも、特にトリポリリン酸ナトリウムが好ましい。このようなリン系溶剤を使用することにより、より確実に溶接部分にリン化合物の皮膜を形成することができる。リン酸ナトリウムまたはポリリン酸ナトリウムは、溶剤中に、1〜50重量%、好ましくは10〜40重量%、特に25〜30重量%含まれてなることが好ましい。このような洗浄剤としては、具体的には、ニュークリーナー、ライオミックスシリーズ、サンウォッシュシリーズ(いずれもライオン株式会社製)等を挙げることができる。
【0041】
リン酸系化合物の酸化を促進するため、洗浄工程は、溶剤(洗浄剤)の曇点以上の温度で行うことが好ましい。このような温度で洗浄を行うことにより、タブ端子の表面にリン化合物の皮膜を効果的に形成することができる。洗浄温度は70〜100℃、より好ましくは90〜98℃の温度で行う。
【0042】
また、上記のリン系溶剤による洗浄は、5〜30分間が好ましく、より好ましくは8〜16分間、さらに好ましくは9〜12分間行う。この範囲で洗浄を行うことにより、十分なリン化合物の皮膜形成を行うことができる。5分未満の洗浄では、リン化合物の皮膜形成が十分ではなく、一方、30分以上洗浄を行うと、タブ端子の表面、特にアルミ表面が過剰にエッチングされるため好ましくない。
【0043】
スズウィスカは、溶接直後から成長を始めるため、タブ端子を準備した後洗浄工程に付すまでに長時間を要する場合、ある程度ウィスカが成長してしまう。しかしながら本発明による方法にあっては、例えウィスカが既に成長している場合であっても、洗浄工程に付すことで、発生したウィスカの大部分を除去できる。
【0044】
本発明の好ましい態様においては、上記の洗浄工程の後、タブ端子の溶接部分にイオン注入を行う。イオン注入により、より一層ウィスカの成長を抑制することができる。イオン注入源としてはリンイオンが好ましい。このようなイオン注入によってスズウィスカの成長が抑制される理由は定かではないが、以下のように考えられる。すなわち、溶接部分にイオン注入を行うことにより、アルミ/リン、または銅/リン等の固溶体が形成される。その結果、溶接部分の表面自由エネルギーが低下する。そのため、空気雰囲気中の酸素とリンとが結合し易くなり、溶接部分の表面にリン酸塩等のリン酸化合物が形成される。このリン酸化合物によって、スズの結晶成長を抑制することができると考えられる。
【0045】
また、イオン注入した場合、例えウィスカが成長したとしても、針状のスズ結晶が成長することはなく、螺旋状または帯状に成長する。すなわち、本発明によるタブ端子は、実質的に針状のウィスカが形成されない。このように針状のウィスカではなく、螺旋状または帯状のウィスカが形成されることは驚くべきことであった。針状にウィスカが成長すると、隣接するタブ端子やコンデンサ容器に接触してショート等のトラブルを発生するが、螺旋状または帯状に成長することにより隣接したタブ端子ややコンデンサ容器に接触することが無くなり、ショートを有効に防止できる。
【0046】
このようにイオン注入によって、ウィスカが発生した場合でも螺旋状または帯状に成長する理由は定かではないが、イオン注入方向によっては、溶接部分のリン酸化合物皮膜の形成に斑が生じるため、ウィスカの成長が早い部分と成長の遅い部分が混在して不均一となり、螺旋状または帯状にウィスカが成長していくものと考えられる。
【0047】
イオン注入されたリン原子は、雰囲気中の水または酸素と反応してリン酸化合物を形成する。このリン酸化合物の形成によって、ウィスカ自体もより発生し難くなると考えられる。
【0048】
イオン注入においては、通常のイオンビーム成膜等に使用されるプラズマフィラメントイオン源やECRバケット型イオン源等を好適に使用できる。また、イオンビーム成膜装置としては、シングルイオン源型であってもデュアルイオン源型であってもよい。例えば、ULVAC社製のIMX−3500やIH−800UP等のイオン注入装置を使用できる。イオン注入時のエネルギーは、10keV程度である。イオン注入量は、注入時間や印可エネルギー等によって調整できるが、1.0×10〜1.0×1020cm−2程度が好ましい範囲である。この程度のイオン注入量とすることにより、溶接部分の表面に形成されたSnPOのリン系化合物皮膜またはSn表面状に形成されたPO皮膜の厚みを、SiO換算で20nm以上とすることができ、このような厚みのリン系化合物皮膜が形成されることにより、タブ端子の溶接部分でのウィスカ発生を抑制することができる。
【実施例】
【0049】
実施例1
リード線としてスズ100%のメッキを施した(メッキ厚12μm)、鉄/銅からなる引き込み線(CP線)とアルミ芯線とを、それぞれ所定の長さに切断し、切断されたリード線とアルミ芯線とをアーク放電にて溶接した後、アルミ芯線部分をプレス加工により圧扁することによりタブ端子を準備した。このタブ端子をパラフィン系溶剤により脱脂洗浄処理を行い、80℃×12分、熱風乾燥を行った。
【0050】
次に、上記のタブ端子を、30重量%のトリポリリン酸ナトリウムを含む溶剤(商品名:サンウォッシュLH−1、ライオン株式会社製)中に85℃で10分間浸漬して洗浄処理を行った。
【0051】
得られたタブ端子について、60℃×90%RHの条件において2000時間の加速試験を行った。加速試験後、タブ端子の溶接部分に発生したウィスカの数およびその長さを測定した。ウィスカの数量は、タブ端子の溶接部分の電子顕微鏡写真(500倍)を用いて、240μm×190μm(45600μm)中に存在するウィスカの数を数えることによって評価した。また、ウィスカの長さについても、電子顕微鏡写真を用いて測定した。また、比較として、洗浄しなかったタブ端子についても、上記と同様に加速試験を行い、発生したウィスカの数およびその長さを測定した。
【0052】
結果は、表1に示される通りであった。
【0053】
実施例2
上記でられたタブ端子を用い、IMX−3500(ULVAC社製)を用いてイオン注入を行った。イオン注入源としてリンを用いた。10keVの条件下でリンのイオン注入を行い、注入量は1×1016cm−2とした。
【0054】
得られたタブ端子について、上記と同様に加速試験を行い、発生したウィスカの数および長さを測定した。結果は表1に示される通り、針状のウィスカは全く発生せず、螺旋状に丸まったウィスカのみが確認された。
【0055】
実施例3
上記で得られたタブ端子のリード線部分をほぼ直角になるように折り曲げた。その後、30重量%のトリポリリン酸ナトリウムを含む溶剤(商品名:サンウォッシュLH−1、ライオン株式会社製)中に85℃で10分間浸漬して洗浄処理を行った。
【0056】
得られたタブ端子について、60℃×90%RHの条件において2000時間の加速試験を行った。加速試験後、タブ端子の溶接部分に発生したウィスカの数およびその長さを測定した。ウィスカの数量は、タブ端子の溶接部分の電子顕微鏡写真(500倍)を用いて、240μm×190μm(45600μm)中に存在するウィスカの数を数えることによって評価した。また、ウィスカの長さについても、電子顕微鏡写真を用いて測定した。また、比較として、洗浄しなかったタブ端子についても、上記と同様に加速試験を行い、発生したウィスカの数およびその長さを測定した。
【0057】
結果は、表1に示される通りであった。
【0058】
実施例4
実施例3と同様のリード線部分をほぼ直角になるように折り曲げたタブ端子について、リード線部分にIMX−3500(ULVAC社製)を用いてイオン注入を行った。イオン注入源としてリンを用いた。10keVの条件下でリンのイオン注入を行い、注入量は1×1016cm−2とした。
【0059】
得られたタブ端子について、上記と同様に加速試験を行い、発生したウィスカの数および長さを測定した。結果は表1に示される通り、針状のウィスカ発生は1本のみであり、それ以外は螺旋状に丸まったウィスカが確認された。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなるタブ端子を製造する方法であって、
芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、アルミ芯線を溶接し、該アルミ芯線の端部を圧扁してタブ端子を準備する工程、および
前記タブ端子を、リン系溶剤で洗浄する工程、
を含んでなることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記リン系溶剤が、リン酸ナトリウムまたはポリリン酸ナトリウムを含んでなる洗浄剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記洗浄工程を、前記洗浄剤の曇点以上の温度で行う、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記洗浄工程を、70〜100℃の温度で行う、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記洗浄工程を、5〜30分間行う、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記タブ端子の溶接部分に、イオン注入を行う工程をさらに含んでなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記イオン注入のイオン源がリンである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記イオン注入工程を、前記洗浄工程の後に行う、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
イオン注入量が、1.0×10〜1.0×1020cm−2である、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記タブ端子が、アルミ電解コンデンサに使用されるものである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなるタブ端子であって、
前記溶接部分の少なくとも一部に、SnPO(xは2〜4を表す)からなる皮膜が形成されてなることを特徴とする、タブ端子。
【請求項12】
スズが存在する部分において、スズ表面にPO(xは2〜4を表す)からなる皮膜が形成されてなる、請求項11に記載のタブ端子。
【請求項13】
前記SnPO皮膜またはスズ表面のPO皮膜の厚みが、SiO換算で20nm以上である、請求項11に記載のタブ端子。
【請求項14】
針状のウィスカが実質的に存在しない、請求項11〜13のいずれか一項に記載のタブ端子。
【請求項15】
タブ端子表面に発生したウィスカの形状が、螺旋状または帯状である、請求項14に記載のタブ端子。

【公開番号】特開2007−220804(P2007−220804A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−38212(P2006−38212)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(392017004)湖北工業株式会社 (16)
【Fターム(参考)】