タンジェンシャルフローフィルトレーションを用いた治療用細胞の容量減少および洗浄のための高収率法および装置
本発明は、水性培地中の生存哺乳類細胞を無菌処理して、細胞密度が少なくとも約1000万細胞/mLでありかつ細胞生存率が少なくとも約90%である細胞懸濁液を作製するための方法を提供する。これらの方法は、孔径が0.1ミクロンより大きいタンジェンシャルフローフィルター(TFF)を用いて水性培地の容量を減少させる工程を含み、その工程中、膜間差圧(TMP)は約3psi未満で維持されかつ剪断速度は約4000秒−1未満で維持される。本発明はまた、治療用組成物に用いる哺乳類細胞を大規模製造するための全プロセス、および容易に入手可能な使い捨て用品およびポンプを使用して、そのプロセスを実施するための規模拡張可能な完全使い捨てのシステムも提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監督官庁の要件、例えば、装置、生物製剤および薬物の現行適正製造基準(current good manufacturing practice)(cGMP)規定などに従う体細胞療法用製品を製造するための方法および装置に関する。より特には、本発明は、タンジェンシャルフローフィルトレーション(「TFF」)を用いて生存哺乳類細胞、特に治療製品に用いられる生存哺乳類細胞を無菌で濃縮し洗浄するためのプロセスおよび装置(apparati)に関する。
【背景技術】
【0002】
FDAは、細胞療法を、ex vivoで操作または改変された、自己細胞、同種異系細胞または異種細胞の投与によるヒトにおける疾患または損傷の予防、治療、治癒または緩和と定義する。細胞療法の目的は、再生医療の目的と重複し、損傷組織または器官を修復し、置換しまたは回復させることである。
【0003】
ヒトドナーから得られた細胞のex vivo増殖は、例えば、自己細胞療法および同種細胞療法に利用可能な幹細胞および前駆細胞の数を増やすために用いられている。例えば、多能性間葉間質細胞(MSC)は、免疫調節、造血および組織再生におけるそれらの可能性を調査するために、非常に多くの臨床試験において現在利用されている。MSCは低頻度であることから移植可能な数を達成するためには細胞増加を必要とする。
【0004】
いずれの細胞療法における課題も安全かつ高品質の細胞生産を保証することである。特に、現行適正製造基準(current Good Manufacturing Practice)(cGMP)グレードの条件下での細胞処理は、そのような高度な細胞療法の進歩にとって必須である。同種療法では、GMP適合に関するプロセスおよび製品の試験および認証の経済的な側面が、細胞製造、すなわち、最大バッチサイズおよび最小バッチ運転の強く有望な製造における重要なコスト要因である。
【0005】
そのため、臨床規模拡大のための治療用細胞製造は、細胞収集から培養後処理まで完全に自動化された閉鎖系プロセスで行われることが最適であろう。そのような閉鎖系プロセスは、微生物汚染および機械的ストレスまたは生理的ストレスによる生存率低下の危険性を最小限に抑え、保存に好適でかつ臨床環境での使用に対応できる形での細胞療法用製品のcGMPに適合した製造を促進すると思われる。そのような閉鎖系プロセスについていくつかのシステムが自己細胞療法用製品の比較的小規模での製造のために開発されている(例えば、Hampson et al.による米国特許出願公開番号第2008/0175825号を参照のこと)が、そのようなシステムは様々な理由で、例えば、同種異系製品で期待されるように、大量調製のために規模拡張することは容易ではない。
【0006】
タンパク質、例えば、バイオセラピューティックなどを製造するための哺乳類細胞の使用に関する大規模自動化閉鎖系プロセスは、十分に確立されている。しかしながら、大部分そのようなプロセスは、タンパク質産物を回収し、細胞内産物の放出に至るまで細胞を破壊する場合には意図的に、または高速遠心分離などの苛酷な方法により分泌産物から細胞を分離する場合には付随的に、細胞死に至る条件下で細胞を廃棄するように設計される。対照的に、増殖後の治療用細胞の処理は、典型的に、細胞回収、容量減少、洗浄、処方、保存容器充填および、多くの場合には製品細胞の低温保存を必要とし、全て、細胞生存率、生物学的機能性、最終的には、臨床効力を維持する条件下で行われる。
【0007】
加えて、治療用細胞は、タンパク質生産に用いられる細胞を取り扱うための公知プロセスでは生き残れないかもしれない。これは、後者の細胞が、典型的には、培養による大規模複製中に、例えば、細胞療法に用いられる前駆細胞または幹細胞によって示されるよりも機械的剪断力および生理的ストレスに対する低感受性で選択を受けたかもしれない高度に操作された細胞株であるためである。よって、効力を保持するために、治療用細胞は、典型的には、ヒト組織からの単離時に表示された最初の親表現型を維持するように最小限に培養される;それゆえ、治療用細胞は、一般的に、選択を受けずまたは下流の処理を容易にするように遺伝子操作を受けない。
【0008】
細胞培養プロセスを規模拡張するために技術が開発されると、下流の処理に必要な技術はすぐに圧倒された。具体的に言えば、現行技術を用いた多量(例えば、10〜100リットル)の治療用細胞懸濁液の容量減少および洗浄は、時間がかかり、規模拡張できない。現行技術、例えば、開放遠心分離などは、数十〜数百個の特有の処理容器を使用して5〜20名の高度な訓練を受けた技術者によって4〜8時間を要することがあり、そのため、操作が増え、汚染の危険性が高まる。細胞療法の分野の大部分では小規模血液処理装置を利用し、この小規模血液処理装置は1回の操作当たり約10リットルより多くに規模拡張することができない。このように、処理時間および労力ならびに製造コストが治療用細胞の容量減少および洗浄において解決すべき主要な制約であり、プロセスおよび得られる細胞製品の重大な品質パラメーターを維持しながら、5〜10リットルの範囲から数百リットルまで規模拡張することかできるプロセス装置にはさらなる利益がある。そのような重大な品質パラメーターとしては以下が挙げられる:治療処方物に十分な細胞懸濁密度(例えば、ほとんどの場合には1000万細胞/mLより高く、場合によっては少なくとも3000万〜7000万細胞):機能性および安全性を維持するための最終細胞製品の高生存率(例えば、90%より高い):高価値細胞の損失を最小限に抑えるための細胞の高収率(例えば、開始時細胞の90%より高い);ならびに規制目的での回収試薬(例えば、トリプシンまたは他の酵素)および培地成分(例えば、血清成分、活性増殖因子など)の残留レベルの許容レベルへの低下。
【0009】
よって、生細胞が高収率でかつ細胞の治療的使用に有害な培養成分または処理成分が低残留レベルでの、細胞懸濁液の効率的な容量減少および洗浄のためのプロセスを含む、細胞収集から培養後処理までの、治療用細胞を製造するための改良されたプロセス、特に、自動化された閉鎖系での製造を促進するそのようなプロセスが必要である。
【0010】
1991年10月1日にArathoon et al.に対して発行された「懸濁培養を用い培地から有害成分を除去して、組換えCHO細胞において生物活性プラスミノーゲン活性化因子を生産するためのプロセス(Process for Producing Biologically Active Plasminogen Activator in Recombinant CHO Cells Using Suspension Culture and Removing Detrimental Components from Medium)」に関する米国特許第5,053,334号(「‘334号特許」)には、懸濁培養による生物活性のあるヒト組織プラスミノーゲン活性化因子の生産方法が提供されることが開示されており、この方法では、組換えチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が培養され、クロスフローフィルトレーションによって回収および生物活性に有害な特定成分が無細胞濾液として除去される。‘334号特許には、開示プロセスがウシ胎児血清(2%v/v)を含む培地中、集団密度約100万細胞/mLのCHO細胞懸濁液を用いて例示されている。「実施例」参照。CHO細胞は培地交換が行われた後に無血清生産培地中に約90時間再懸濁された。培地交換は、0.1ミクロン孔および濾過面積4.15ft2の中空糸タンジェンシャルフローフィルターを用いて行われ、1分間当たり約211mLの速度で濾液が除去され、それによって培養容量がおよそ5.2リットルに減少された。この時点で新しい滅菌無血清培地が培養容器に1分間当たり約211mLの速度で供給され、このようにして常に古い培地が希釈除去されながら保持液容量が維持された。独立した10Lステンレス鋼発酵槽に入った新しい無血清培地にアリコートの細胞懸濁液が加えられたときに計算上約190,000倍(または0.0001容量%未満)の血清濃度の低下がもたらされるように、55リットルの新しい無血清培地が前記システムを通じて供給された。10Lの新鮮培地に加えるアリコートのサイズ(それゆえ、関連希釈係数)は開示されておらず;定量的細胞生存率は報告されていなかった。
【0011】
1993年10月26日にvan Reisに対して発行された、「タンジェンシャルフローフィルトレーションプロセスおよび装置(Tangential Flow Filtration Process and Apparatus)」に関する米国特許第5,256,294号(「‘294号特許」)には、対象となる種を、それらを含有する混合物から分離するためのプロセスおよび装置(apparati)が開示されており、それはその混合物をタンジェンシャルフローフィルトレーションに付すことを含み、その際、濾過膜は、好ましくは、約10ミクロンまでのサイズを有する種を保持する孔径を有し、流束は転移点での流束の約5%から100%までに及ぶレベルで維持される。
【0012】
Trinh, L. and Shiloach, J.、“Recovery of insect cells using hollow fiber microfiltration,” Biotechnol Bioeng. 48(4): 401-405 (1995)には、懸濁状態での真核細胞増殖のための培地分離および細胞収集のための方法が開示されている。その方法は、中空糸構成のオープンチャネル配置を用いるタンジェンシャルフローマイクロフィルトレーションに基づいている。要約書を参照のこと。ポリスルホン中空糸の最良の結果(最大処理流束)は、内径0.75mm、0.45ミクロン孔径の繊維および剪断速度14000s−1の細胞懸濁液流量(繊維1本当たり0.032L/分)を用いて報告された。著者らは、流束500L/m2hは、表面積/細胞比を0.05m2/細胞10L(濃度2.5×106細胞/mL)に維持することによって得ることができることを報告している。40リットルの感染昆虫細胞は、細胞生存率に影響を及ぼすことなく20分間以内に10倍濃縮されることとなった。
【0013】
2000年5月20日にCuster et al.に対して発行された、「細胞懸濁液からの薬剤の除去(Removal of Agent From Cell Suspension)」に関する米国特許第6,068,775号(「‘775号特許」)には、半透膜を用いた細胞懸濁液からの薬剤(例えば、DMSO)の除去方法が開示されている。その発明の1つの態様では、それらの細胞は、薬剤の除去後に体液をバイオプロセスで作るために用いられる。細胞懸濁液の容量減少については開示されていない。
【0014】
2003年8月19日にSchickに対して発行された、「タンジェンシャルフローフィルトレーションにおける濾過収率を高めるための方法および装置(Method and Apparatus for Enhancing Filtration Yields in Tangential Flow Filtration)」に関する米国特許第6,607,669号(「‘669号特許」)には、収率を高めるとされている制御特性を強化した形で液体の濾過を進めるためのシステムが開示されている。要約書を参照のこと。そのシステムおよび方法は、実質的に一定の膜間差圧を維持するために使用され得る。所望される場合に、その一定の膜間差圧は、有益な成分の損傷または損失の危険性を最小限に抑えながら、特定の液体を濾過し、濃縮しまたは収集するための収率の増大にとりわけよく適している。加えて、一定の供給速度またはポンプ出力が維持され得る。‘669号特許には、その発明の1つの目的が、収集成分の収率を高める一定の圧力モードでの液体の強制濾過のための改良された装置および方法を提供することであることがさらに開示されている。
【0015】
’669号特許のシステムの使用は、細胞外タンパク質(IgG)を細胞懸濁液から分離するためのTFFプロセスによって例示されている。実施例1を参照のこと。より特には、300万細胞/mLのチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞懸濁液500リットルが濃縮され、濾過ユニットは0.45ミクロン孔および表面積0.6m2の膜を備え、一定の膜間差圧(TMP)5.0psiが用いられた。無細胞培地は透過物として収集され、保持液に細胞懸濁液が含まれた。細胞懸濁液は濾過が進行するにつれて徐々に濃縮されるとされた。細胞懸濁液の容量は3.5時間の処理期間をかけて2.0リットルに至るまで、250倍減少され、3.5時間での平均システム流束(透過物体積流量)はTMP 5psiで237リットル/時間−m2であった。669号特許には、「細胞懸濁液の濃縮は細胞生存率に影響を及ぼすことなく行われ、このことは次の処置における細胞利用の成功によって確認された」ことが報告されている。しかしながら、細胞の収率または生存率の定量化についてのデータは報告されていない。
【0016】
TFFはまた、単球(例えば、米国特許出願公開番号第2005/0173315号を参照のこと)または血液もしくは骨髄由来のCD34+幹細胞(米国特許出願公開番号第2005/0189297号)のサイズに基づく分離にも使用されている。これらのプロセスでは、大きな孔径(例えば、1〜10ミクロンが特許請求されている)のTFF膜が使用され、その際、未処理材料(血液または骨髄)がそのフィルターに通され、対象となる細胞は保持液中で割合が増加される(骨髄から4.2%CD34+細胞は18%に、血液では32%単球は71%に増加される)。これらの細胞に基づくプロセスではTFFを用いて様々なサイズの細胞が分離されるが、細胞に基づく製品の重大な品質パラメーター、例えば、分離された細胞の生存率、最終細胞懸濁液の総生存率、またはこれらの分離された細胞の生物学的機能性などは開示されていない。さらに、最初の細胞の割合に関してこれらのプロセスの収率は論じられておらず、開示されているプロセスは小規模処理にのみ適用できるが、数十〜数百リットルの細胞懸濁液の処理は教示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許出願公開番号第2008/0175825号
【特許文献2】米国特許第5,053,334号
【特許文献3】米国特許第5,256,294号
【特許文献4】米国特許第6,068,775号
【特許文献5】米国特許第6,607,669号
【特許文献6】米国特許出願公開番号第2005/0173315号
【特許文献7】米国特許出願公開番号第2005/0189297号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Trinh, L. and Shiloach, J.,“Recovery of insect cells using hollow fiber microfiltration,” Biotechnol Bioeng. 48(4): 401-405 (1995)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、タンジェンシャルフローフィルトレーション(「TFF」、クロスフローフィルトレーション(「CFF」)としても知られている)を用いて生存哺乳類細胞を無菌で濃縮し洗浄するためのプロセスおよび装置(apparati)を提供する。本発明は、治療製品に用いられる生存哺乳類細胞に、例えば、低温保存用または対象への投与用の処方のためのそのような細胞の懸濁液の容量減少および洗浄などに特に有用である。
【0020】
特に、本発明は、開始時細胞の少なくとも90%収率および最終細胞製品の少なくとも90%生存率で少なくとも約500万細胞/mLの、医薬処方物に好適な細胞組成を作出するための、数十または数百リットルの回収された哺乳類細胞の容量減少および洗浄が見込まれるTFFの高収率プロセスを提供する。このプロセスからの医薬組成物は、治療的使用に有害な成分(例えば、血清成分、トリプシンまたは他の酵素などの回収試薬)の残留レベルが開始時レベルと比べて少なくとも約1000〜10000倍低下しており、例えば、治療的使用に用いる特定の生物学的製剤では、血清についての要件どおりに1ppmより低い最終レベルへの低下が可能となる(連邦規則集第21編第610.15(b)項)。このプロセスは、例えば、シングルユース用装置において剪断速度を最小にし、流束(容量/表面積×時間、例えば、L/m2hまたは本明細書では「LMH」)を最大にする工程、および処理時間を最小限に抑える工程を用いて実行に至った−これらは全てヒト投与に好適な高品質の細胞懸濁液に寄与している。そのプロセスは、フィルター孔径に依存し、フィルターの種類(中空糸対フラットシート)、フィルター材料およびバッファー処方とは比較的無関係である。他のプロセス変形も使用され、1〜3時間の処理時間内に500万〜6000万細胞/mLの範囲に及ぶ細胞懸濁液を得るように最適化されている。操作変形は記載されており、操作変形では非常に速い処理時間(透過物流束最大化)および非常に高い細胞濃度(例えば、3000万細胞/mLより高い濃度)を得るために利用することができる。
【0021】
よって、本発明の1つの態様は、水性培地中の生存哺乳類細胞を無菌処理して、細胞密度が少なくとも約500万細胞/mLでありかつ細胞生存率が少なくとも約80%である細胞懸濁液を作製するための方法を提供する。この方法は、孔径が0.1ミクロンより大きいタンジェンシャルフローフィルター(TFF)を用いて該培地の容量を減少させる工程を含む。この工程中、望ましい膜透過流束を維持するために、膜間差圧(TMP)はタンパク質溶液のTFF処理についての先行技術条件と比べて比較的低く維持される。例えば、TMPは約5psi未満で、好ましくは約3psi未満で、より好ましくは1psi未満で維持される。本発明のこの処理工程中、細胞生存率を維持するために、剪断速度もまた、タンパク質溶液についての先行技術条件と比べて比較的低く、例えば、約4000秒−1未満で、好ましくは約3000秒−1未満で、より好ましくは約2000秒−1未満で維持される。
【0022】
本発明のこの方法では、望ましい膜透過流束を得るために、TFFの孔径が少なくとも約0.1ミクロンであり、好ましくは0.1ミクロンより大きく、より好ましくは約0.65ミクロンであることが一般的に有利である。この方法でのTFFは、所望の処理容量に好適な任意の構成、例えば、当技術分野で一般的に公知の中空糸構成またはシート構成などのものであってよい。本発明により約10L〜約100Lの細胞を処理するために、TFFは、表面積が約0.5ft2の中空糸フィルターであることが好ましい。本発明によるTFF面積の1平方フィート当たりに処理される細胞の数は、少なくとも7.5億細胞ほど少ない場合も、少なくとも約180億細胞ほど多い場合もあるが、その際、細胞品質および膜透過流束などの所望の操作パラメーターは維持される。
【0023】
驚くべきことに、本発明方法の比較的低い剪断(sheer)パラメーターおよびTMPパラメーターによりフィルターの「目詰まり」にはならず、それよりも、非常に望ましい膜透過流束、例えば、少なくとも約50L/m2h、好ましくは少なくとも約100L/m2h、より好ましくは少なくとも約200L/m2h、より好ましくは少なくとも約300〜約600L/m2hなどをもたらす。そのような流束は、約10L〜約100Lの細胞バッチ容量、あるいは少なくとも約1000Lまでのより大きなバッチでの処理時間を、従来の遠心分離法と比べて大幅に短縮し、それによって生存率を含む高い細胞品質を維持する。
【0024】
さらに、本発明の上記TFFプロセスパラメーターは、驚くべきことに、得られる細胞懸濁液において優れた細胞回収率、例えば、水性培地中の開始時細胞の、少なくとも約80%〜約85%、好ましくは少なくとも約90%〜約95%、より好ましくは少なくとも約97%〜100%を提供する。細胞の種類および用途に応じて、得られる細胞懸濁液は、少なくとも約500万生細胞/mL、1000万生細胞/mL、2500万生細胞/mL、5000万生細胞/mLまたは少なくとも約7500万生細胞/mLを含有し得、場合によっては約1億細胞/mLを超える密度も可能である。
【0025】
いくつかの実施形態では、本発明方法は、TFFを用いて、得られた懸濁液中の細胞を、該細胞懸濁液の容量の少なくとも約2〜4倍、好ましくは少なくとも約4〜6倍、より好ましくは少なくとも約8〜10倍に等しい水性洗浄培地の容量で洗浄するダイアフィルトレーション工程をさらに含む。本発明のダイアフィルトレーション工程は、前記細胞懸濁液中の望ましくない可溶性成分の残留レベルを、細胞を含有する最初の水性培地中の残留レベルと比べて少なくとも約300倍、好ましくは約1000倍、より好ましくは約3000倍低下させ得る。実際には、例えば、この工程は、例えば、治療的使用に用いる特定の生物学的製剤では、要件どおりに、血清タンパク質(例えば、BSAまたはHSA)などの培養培地成分の残留レベル、または回収試薬、例えば、トリプシンなどの残留レベルを、最終細胞懸濁液の約1ppm未満に低下させることができる(連邦規則集第21編第610.15(b)項)。
【0026】
もう1つの態様では、本発明は、治療用組成物に用いる哺乳類細胞を製造するための全プロセスを提供する。この方法は次の工程を含む:任意の公知の大規模細胞培養方法論、例えば、10段もしくは40段の容器(「セルファクトリー」)、または「波動」揺動バッグまたは攪拌槽型バイオリアクターを用いて細胞を増殖させる工程;水性培地中の細胞を回収する工程;および該水性培地中の細胞の容量を減少させ、フラットシートまたは中空糸のTFF構成で本発明のTFF方法を用いて該細胞を洗浄する工程。本発明のプロセスは、当技術分野で公知の低温保存技術(例えば、凍結防止剤としてのジメチルスルホキシド(DMSO)を必要とする)を用いて、得られた細胞懸濁液を凍結防止培地中で処方し、細胞生存率の長期維持に好適な条件下で、該処方細胞を凍結し保存することをさらに含む。凍結防止処方物中の細胞は、そのような目的で知られている任意の従来容器、例えば、プラスチックバッグまたはガラスバイアルなどで凍結し保存し得、短期間の場合には少なくとも約−80℃の温度で保存し得、または長期保存の場合には、液体窒素の気相もしくは液相中で保存し得る。
【0027】
本発明のこの製造プロセスは、次のパラメーター:少なくとも約80%;90%または95%の融解時細胞生存率;約100万細胞/mL、300万細胞/mLまたは600万細胞/mLより高い生細胞濃度;および望ましくないタンパク質成分の残留レベルが最初の水性培地中の残留レベルと比べて少なくとも約1000倍、約1ppm未満のレベルに低下している、を示す凍結処方細胞を生産する。
【0028】
本発明のさらなる態様は、本発明の細胞処理方法における、例えば、中空糸フィルター(HFF)を用いる、完全に閉鎖された完全使い捨ての規模拡張可能なタンジェンシャルフローフィルトレーション(TFF)システムに関する。このTFFシステムは、高い細胞生存率および機能性を維持しながら、大容量バッチを3時間未満で処理する(液体培地から細胞を分離し、清浄化し、回収し、収集する)ことができる。このシステムでは、HFFは、システム組立に3箇所の迅速接続と(バッチサイズに応じた)プラスチックチューブの無菌接合のみ必要であるように取り付けられている無菌クイックコネクターを有する。下記の図1は、チューブ、使い捨てのセンサー(図1のP1、P2およびP3)および処理貯槽(図1のバッグ番号1)ならびに使い捨てのフィルター(全て市販されている)を備えた、完全に閉鎖された完全使い捨ての、本発明の例示的なTFFシステムを示している。本発明のTFFシステムはまた、中空糸フィルターの代わりにフラットシートフィルターも使用し得る。そのようなシステムに好適な蠕動ポンプも市販されている。
【0029】
いくつかの例示的な実施形態のこれらの態様および他の態様は、以下の説明および添付の図面と併せて考えれば、よりよく認識され理解されるであろう。しかしながら、以下の説明は、好ましい実施形態およびそれらの非常に多くの具体的な詳細を示しながら、例示として記載しているが限定するものではないことは理解すべきである。実施形態の範囲内でその精神から逸脱することなく多くの変更および修飾を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、哺乳類細胞を濃縮し洗浄するために本発明の方法において用いられる例示的なタンジェンシャルフローフィルトレーションシステムの概略図を示している。
【図2】図2は、本発明のプロセスにおける細胞生存率および回収率に対する剪断速度の影響を例示している。
【図3A】図3は、本発明のプロセスにおける細胞生存率および回収率に対する膜間差圧(TMP)の影響を例示している。パネルA.生存率。パネルB.回収率。パネルC.複数回の実験についての細胞回収率および生存率に対するTMPの傾向曲線。
【図3B】図3は、本発明のプロセスにおける細胞生存率および回収率に対する膜間差圧(TMP)の影響を例示している。パネルA.生存率。パネルB.回収率。パネルC.複数回の実験についての細胞回収率および生存率に対するTMPの傾向曲線。
【図3C】図3は、本発明のプロセスにおける細胞生存率および回収率に対する膜間差圧(TMP)の影響を例示している。パネルA.生存率。パネルB.回収率。パネルC.複数回の実験についての細胞回収率および生存率に対するTMPの傾向曲線。
【図4】図4は、本発明のプロセスにおける流束および細胞生存率および回収率に対するフィルター孔径の影響を例示している。
【図5】図5は、本発明のプロセスによる細胞濃縮を例示している。
【図6】図6は、本発明のプロセスによる、望ましくない成分の除去を例示している。
【図7】図7は、本発明による処理後の細胞品質(生存率)を例示している。
【図8】図8は、本発明のプロセスにより処理された細胞の機能性(増殖)を例示している。
【図9】図9は、本発明のプロセスの大規模運転(25Lの回収細胞)中の流束およびTMPを例示している。
【図10】図10は、本発明のプロセスの大規模運転(25Lの回収細胞)中の生存率および細胞回収率を例示している。
【図11】図11は、本発明のプロセスによる細胞濃縮におけるフラットシートフィルターの使用を例示しており、細胞濃縮中の時間の関数として生存率および総細胞密度(TCD)を示している。
【図12】図12は、図11のフラットシートフィルターの場合と同様の条件下での本発明のプロセスによる細胞濃縮における中空糸フィルターの使用を例示している。
【図13】図13は、図12の場合と同様の条件下での本発明のプロセスによるCHO細胞濃縮の使用を例示しており、細胞濃縮中の時間の関数として生存率および総細胞密度(TCD)を示している。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、特にヒト細胞療法用製品の調製のための、生存哺乳類細胞の濃縮および洗浄のための改良された方法、ならびに関連装置およびシステムを提供する。
【0032】
本発明は、水性培地中の生存哺乳類細胞を無菌処理して、細胞密度が少なくとも約500万細胞/mLでありかつ細胞生存率が少なくとも約70%である細胞懸濁液を作製するためのシステムおよび方法に関し、その方法は、孔径が0.1ミクロンより大きいタンジェンシャルフローフィルター(TFF)を用いて該培地の容量を減少させる工程を含み、該工程中、膜間差圧(TMP)が約3psi未満で維持されかつ剪断速度が約4000秒−1未満で維持される。
【0033】
本方法を用いた細胞生存率は、少なくとも約70%であり、80%、90%またはそれより高いこともある。
【0034】
前記方法の剪断速度は約3000秒−1未満で維持されかつTMPは約1psi未満で維持される。TFFの孔径は約0.65ミクロンであり、TFFは濾過表面積が少なくとも約0.5ft2の中空糸フィルターである。
【0035】
前記方法のフィルターを通る流束は少なくとも約50L/m2hであり、少なくとも約300L/m2hであることもある。
【0036】
細胞懸濁液中の細胞の回収率が水性培地中の細胞の少なくとも約70%である場合、その回収率は開始時細胞数と最終細胞数の割合として決定される。本方法では、細胞懸濁液は約1000万〜約7500万生細胞/mLの間または約1000万生細胞〜約2億生細胞/mLの間で含有する。加えて、懸濁液中の細胞の生存率は少なくとも約70%であり、典型的には少なくとも80%、または90%以上である。
【0037】
もう1つの実施形態では、前記方法は、TFFを用いて、細胞懸濁液の容量の少なくとも約4倍に等しい水性洗浄培地の容量で懸濁液中の細胞を洗浄するダイアフィルトレーション工程を含む。細胞懸濁液中の望ましくない可溶性成分の残留レベルは、水性培地中の残留レベルと比べて少なくとも約1000倍低下し、細胞懸濁液の約1ppm未満に低下させることができる。
【0038】
本発明のさらにもう1つの実施形態では、前記方法は(the comprising)センサーを用いて生細胞濃度を測定することを含む。その方法は、TFF処理を制御し、そのプロセス中の特定の工程が終わり別のプロセス工程が始まる(例えば、濃縮を終え、ダイアフィルトレーションを始める)時期を特定し、確認サンプリングの必要性をなくすためにフィードバック機構を提供し、それによって細胞処理中の汚染の危険性を防ぐ。よって、その方法は、センサーから「リアルタイム」シグナルを検出すること(この際、TFF中のサンプリングが排除される)、処理段階を決定するために該シグナルを処理すること、生細胞の目標密度に達した時にTFFプロセス工程を終えるためにフィードバックを提供することを含む。前記方法において用いられるセンサーによって測定されたシグナルは、アンプセンサーを通ってヒューマンマシンインターフェースに送られ、そのシグナルは生細胞密度(VCD)データに変換することができる。前記方法は(the further comprising)、最適の最終細胞密度および/または濃縮係数を決定するために前記VCDデータを解析することをさらに含む。このVCDデータはまた、プロセス決定することができるもう1つの重大な品質パラメーターである総細胞生存率(TCV)を計算するために総細胞密度(TCD)センサーと組み合わすこともできる。
【0039】
本発明のさらにもう1つの実施形態では、治療用組成物に用いる細胞を製造する方法が提供され、その方法は、大規模細胞培養を用いて細胞を増殖させる工程;水性培地中の細胞を回収する工程、該水性培地中の細胞の容量を減少させ、本明細書に開示するようにTFFを用いて該細胞を洗浄する工程、得られた細胞懸濁液を凍結防止培地中で処方し、細胞生存率の長期維持に好適な条件下で該処方細胞を凍結し保存する工程を含み、該凍結処方細胞は次のパラメーター:少なくとも約80%の融解時細胞生存率;約500万細胞/mLより高い生細胞密度;および処方細胞中の望ましくない可溶性成分の残留レベルが約1ppm未満のレベルに低下している、を示す。
【0040】
本発明のもう1つの実施形態は、本明細書に開示する方法を実施するための、セルファクトリー、バイオリアクター、タンクを含んでなる装置(apparati)を備えたシステムを含む。
【0041】
適当な期間の培養物から回収された細胞の大バッチ(例えば、3時間未満で約10〜約100L)の処理についての課題に対処するために、本発明者らは、例えば、中空糸フィルター(HFF)を用いる、完全に閉鎖された、完全使い捨ての規模拡張可能なタンジェンシャルフローフィルトレーション(TFF)システムを開発した。このTFFシステムは、高い細胞生存率および機能性を維持しながら、大容量バッチを3時間未満で処理する(液体培地から細胞を分離し、清浄化し、回収し、収集する)ことができる。このシステムでは、HFFは、システム組立に3箇所の迅速接続と(バッチサイズに応じた)プラスチックチューブの無菌接合のみ必要であるように取り付けられている無菌クイックコネクターを有する。
【0042】
下の図1は、完全に閉鎖された完全使い捨ての、本発明の例示的なTFFシステムを示している。チューブ、使い捨てのセンサー(図1のP1、P2およびP3)および処理貯槽(図1のバッグ番号1)は、注文組立し、ガンマ線によって滅菌した。使い捨てのフィルターは、GE社から供給されたものであり(RTPCFP−6−D−4M、RTPCFP−1−E−4MおよびPN:RTPCFP−6−D−5)、無菌で組立を行った。この構成または類似した構成で複数回のTFF運転を完了した。加えて、実現可能性の研究によって、本発明のTFFシステムはまた、中空糸フィルターの代わりにフラットシートフィルターも使用し得ることも示された。
【0043】
本発明の典型的なTFFプロセスは2段階:容量減少およびダイアフィルトレーションで構成される。容量減少工程の間に、図1に示した処理バッグ内で所望の細胞濃度に達するまでバルク容量(細胞培養培地)がフィルターの透過物側から濾去される。容量減少段階に続くダイアフィルトレーション段階では、濃縮された細胞が液体、例えば、バッファーなどで洗浄され、ヒト投与には望まれないまたは許容されない細胞培養培地成分または回収培地成分が除去される。また、ダイアフィルトレーション後にさらなる容量減少を行って、治療製品の処方のために所望の細胞密度に到達させることもできる。
【0044】
本発明のもう1つの実施形態では、図13に示されるように、本明細書に開示する閉鎖された完全使い捨てのTFFシステムは、中空糸フィルターおよび生細胞密度(VCD)流水式センサーおよび検出(FTセンサー)をさらに導入している。VCD FTセンサーは、別のラインで接続し得ることが好ましい(S1)。使い捨てのVCDセンサーの使用によってTFF中の製品サンプリングがなくなり、その結果、リスクが最小限に抑えられ、製品品質および安全性が向上する。VCD FTセンサーからのシグナルはヒューマンマシンインターフェース、例えば、FOGALE-SEMICONのヒューマンマシンインターフェースを用いて送ることができる。このようにして、VCDデータを用いて、TFF操作中に最適の細胞密度および/または濃縮係数を決定することができる。
【0045】
膜濾過プロセスは、一般的に、膜の孔径に応じて、逆浸透、限外濾過およびマイクロフィルトレーションのカテゴリーに入る。例えば、’294号特許、前掲を参照のこと。通常、限外濾過では分子量がおよそ1〜1000kDaの間の溶質の保持に値する膜を使用し、逆浸透では塩および他の低分子量溶質を保持する能力がある膜を使用し、マイクロフィルトレーション、またはマイクロポーラス濾過では、コロイドおよび微生物を保持するために典型的に使用される0.1〜10μm(ミクロン)孔径範囲の膜を使用する。同上。TFFでは、供給流を膜の面に対して接線方向に高速で再循環させ、逆拡散の物質移動係数を増加させる。フィルター膜に対して平行な方向に流れる液体は、連続的にフィルター表面を清浄するように働き、濾過できない溶質による目詰まりを防ぐ。同上。TFFでは、膜間差圧(TMP)と呼ばれる圧力差勾配を膜の長さ方向に適用して、液体および濾過可能な溶質をフィルター通過させる。流束は、経験的に決定することができる特定の最小値より高いTMPには依存しない。同上。最大流束を達成するために、限外濾過システムは、典型的には、この最小値以上の出口圧力で運転される。そのため、TMPは変動するが流束は膜の長さ方向に一定である。
【0046】
驚くべきことに、本発明のTFFプロセスの比較的低い剪断(sheer)パラメーターおよびTMPパラメーターによりフィルターの「目詰まり」にはならず、それよりも、非常に望ましい膜透過流束、例えば、少なくとも約100L/m2h、好ましくは少なくとも約200L/m2h、より好ましくは少なくとも約300L/m2hなどをもたらす。そのような流束は、約10L〜約100Lの細胞バッチ容量、あるいは約1000Lまでのより大きなバッチでの処理時間を、従来の遠心分離法と比べて大幅に短縮し、それによって生存率を含む高い細胞品質を維持する。さらに、本発明の上記TFFプロセスパラメーターは、驚くべきことに、得られる細胞懸濁液において優れた細胞回収率、例えば、水性培地中の開始時細胞の、少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%または99%を提供する。細胞の種類および用途に応じて、得られる細胞懸濁液は、少なくとも約300万生細胞/mL、600万生細胞/mL、あるいは少なくとも約1000万生細胞/mLを含有し得る。
【0047】
本明細書に記載する方法および応用に対する他の好適な修飾および改変は明らかであり、そのような修飾および改変は本発明またはそのあらゆる実施形態の範囲からも逸脱することなく行うことができることは当業者には明白である。本発明は次の実施例を参照することによってより明確に理解され、それらの実施例は本明細書において例示のためだけに示し、本発明を限定するのもではない。
【実施例】
【0048】
次の実施例におけるこのTFF手法の開発段階で、初代ヒト細胞(典型的には、成体間葉系幹細胞またはヒト皮膚繊維芽細胞)を「セルファクトリー」(CorningまたはNunc(登録商標))で培養し、複数のバッグ(Lonza)に回収した。実験開始前に、回収した細胞のバッグを、プラスチックチューブの無菌接合または他の無菌接続によって処理バッグ(図1のバッグ番号1)に接続し、図1に示す供給ポンプ(Masterflex L/S)を用いて細胞懸濁液を処理バッグに移した。処理バッグには細胞懸濁液がバッグ容量の半分〜2/3まで充填した。再循環ポンプ(Watson−Marlow−323EまたはSpectrum Krosflow)(図1に示すとおりである)をゆっくり始動させ、目的とする速度まで上げた。次いで、透過ポンプ(Masterflex L/S)(図1に示すとおりである)をゆっくり始動させ、目的とする速度に上げた。供給ポンプおよび透過ポンプを同じサイズのチューブ(3/16インチまたは1/4インチID)を用いて同じ速度で運転して、本プロセスの容量減少工程中、処理バッグ内で一定の液体容量を維持した。再循環ポンプには、1/4インチまたは3/8インチIDのチューブを典型的に用い、一定の速度で運転して望ましい入口流量を得た。細胞懸濁液サンプルを定期的に収集して、Nucleocounter(New Brunswick Scientific)または他の細胞計数技術を用いて細胞密度および生存率を測定した。
【0049】
典型的には、バルク容量を(所望の細胞濃度に応じて)約100〜800mLの範囲内に減少させたら、バッファーバッグを処理バッグに接続することによってダイアフィルトレーションを開始させた。ダイアフィルトレーションバッファーの8〜10容量の同等物で細胞を洗浄して、残留する培養成分および回収成分の減少を達成させた。次いで、処理バッグ内の容量を上記のように濾過によってさらに減少させて、処方のために所望の細胞濃度を達成してもよい。所望の細胞濃度を達成したら、全てのポンプを停止させ、フィルターおよびチューブの細胞懸濁液を重力によって処理バッグ中に排出した。細胞計数のために処理バッグの最終サンプルを得、低温保存のために細胞懸濁液を処方し、バイアルに充填した。
【0050】
回収した細胞懸濁液10〜100Lでの細胞療法プロセスの重大な品質パラメーターには:細胞を1000万細胞/mLより高く濃縮する際の少なくとも90%の細胞生存率および高い細胞機能性の維持;少なくとも約85%の全体細胞回収率((入細胞−出細胞)/入細胞として定義される)の取得;ウシ血清アルブミン(BSA)などの培養培地残留物の1ug/mL未満への低下(例えば、連邦規則集第21編第610.15項を参照のこと);および細胞死を制限する細胞処理時間、例えば、約3時間未満の維持、が含まれる。
【0051】
実施例1.剪断速度の影響
高剪断速度は、フィルターの汚れを最小限に抑えるのに役立ち(フィルター材料への細胞の吸着を防ぎ)、そうすることによって流束を最大にし、処理時間を最小限に抑えるため、TFFプロセスでは一般的である。この一連の実験の目的は、最終細胞懸濁液の重大な品質パラメーターを維持しながら剪断速度を最適化することであった。TFFプロセス性能および製品品質に対する剪断速度の影響を調査するために、上記の典型的なTFF手順に従って小規模(3〜5L)実験を行った。剪断速度は、=〜(式中、rは剪断速度(単位=秒−1)であり、qは繊維ルーメンを通るフィルター入口流量(単位=m3/秒)であり、Rは繊維半径(単位 m)である)として計算した。明記したフィルターおよびチューブを含む任意の装置では、フィルター入口流量(すなわち、図1の供給ポンプの流量)によって剪断速度を制御した。2〜3のセルファクトリー(40段 Nunc)からおよそ20億〜30億のヒト皮膚繊維芽細胞を回収し、0.5ft2サイズのフィルター(GE社製PN:RTPCFP−6−D−4M)を用いて処理した。実験開始時の細胞濃度は2.5×105〜5×105細胞/mLの範囲に及び、典型的なTFFプロセスに従って容量を62±9分間濃縮した。中空糸フィルターで処理を行い、場合によっては(過大な剪断速度)ダイアフィルトレーションを行わなかった。表1のデータは、高剪断速度が細胞生存率に悪影響を及ぼしたことを示している。
【表1】
【0052】
数回の実験に関する剪断速度の傾向解析によって最終濃縮細胞製品の生存率に対する剪断力の影響を示し(図2)、この場合、「生存率の低下」は、Nucleocounterアッセイによって測定されるTFF前およびTFF後の細胞生存率の差異として定義される。
【0053】
結論:この一連の研究によって、最終細胞生存率が本プロセスの液体剪断速度に依存し、その剪断速度は約3000秒−1より低く維持されることが好ましいはずであることが示される。
【0054】
実施例2.細胞懸濁液の品質パラメーターに対するTMPの影響
膜間差圧(TMP)はTFFの重大な処理変数である。透過制御のないプロセス(例えば、上記の’669号特許の場合など)の間、TMPは透過流の主な推進力であり、流束を制御する。よって、高TMPは高流束および低処理時間に至らせる。そのため、我々は、明記した装置を用いて処理した細胞の品質パラメーターに対するTMPの影響を判定することに着手した。本実験では、セルファクトリー(40段 Nunc)からおよそ29億のヒト皮膚繊維芽細胞(hDF)を回収し、0.5ft2サイズの中空糸フィルター(GE社製PN:RTPCFP−6−D−4M)を用いて3500〜3900秒−1の比較的高剪断速度で処理した。この高剪断速度は、細胞生存率を最大にしながらフィルターの汚れを最小限に抑えるために選択した。TMPは、TMP=P 2 P2 P3(式中、P1はフィルター入口圧力であり、P2はフィルター出口圧力であり、P3は透過圧力である)として計算した。所定の装置では、図1に示す再循環ポンプおよび透過ポンプのポンプ流量の制御を通じてP1、P2および/またはP3を変えることによってTMPを制御した。実験開始時の細胞濃度は4.2×105細胞/mLであり、上記の典型的なプロセスに本質的に従って細胞を濃縮した。図3aおよび図3bは、TFFプロセス性能および製品品質に対する中度のTMPレベル(5〜10psi)の影響を示している。
【0055】
処理中、TMPはフィルターの目詰まりから5psiを超えるまでに上昇したため、生存率および細胞回収率の両方に影響を及ぼした。容量減少工程中に細胞生存率は90%より低く低下し(ダイアフィルトレーションを行う他の実験によって、処理が続く場合には生存率が80%未満に低下し得ることが立証されている)、これは処理中の剪断速度によるものであった可能性がある。しかしながら、高膜間差圧から処理中にほぼ90%の細胞が消失したことが重要であり、この高膜間差圧によってフィルターの汚れが進み、流束がほぼゼロに減少した。
【0056】
結論:本実験中に細胞生存率は90%より低く低下し(容量減少工程だけの間、プロセス性能の不良からダイアフィルトレーションを行うことができなかった)、細胞製品のかなりの部分(88%)が消失した。さらに、>10M/mLの処方用細胞懸濁液の取得は、フィルターの汚れおよび細胞回収率の不良から達成できなかった(終濃度はたった0.5M細胞/mLであった)。従って、本実験によって、5psiより高いTMPが細胞生存率、最終細胞濃度および細胞回収率に悪影響を及ぼすことが示される。これは、治療用細胞製品の品質特性を維持するために処理時間(流束による)と他の処理パラメーターとのバランスをとることの重要性の基礎となる。
【0057】
さらなる研究によって、許容される(少なくとも90%)回収率が約1psi以下のTMPを用いて得られるのに対し、約1psiより高く5psiまでのTMPは細胞回収率に対して中度の影響を及ぼし、5psiを超えるTMPは細胞回収率に対して重大な悪影響を及ぼすことが示された。図3cは、複数回のTFF実験のTMP(運転中の平均)、細胞回収率および細胞生存率についての傾向チャートである。
【0058】
実施例3.流束に対する孔径の影響
TFFプロセス性能および製品品質に対するフィルター孔径の影響を調査するために、小規模(3〜5L)実験を行った。セルファクトリー(40段 Nunc)からおよそ30億のヒト皮膚繊維芽細胞を回収し、0.65ミクロン孔(GE社製PN:RTPCFP−6−D−4M)または0.1ミクロン孔(RTPCFP−1−E−4M)の0.5ft2サイズの中空糸フィルターを用いて処理した。実験開始時の細胞濃度は、4×105〜5×105細胞/mLの範囲に及び、上記の典型的なプロセスに本質的に従って濃縮した。下記の表2は、試験したフィルター孔径の範囲および対応する製品品質パラメーターおよびプロセス性能パラメーターを示している。
【表2】
【0059】
0.1ミクロン孔フィルターを用いた実験は透過流量(流束)の不良から完了することができなかった。そのため、細胞回収率および処理時間のデータは適用しない(「N/A*」)
図4は、TFFプロセス性能に対するフィルター孔径の影響を調査するために行った実験の流束およびTMPを示している。
【0060】
結論:この一連の研究によって、0.65ミクロンから0.1ミクロンへの孔径の減少はフィルターの汚れにつながり、流束は減少し、TMPは上昇し、これは最終的には最終細胞製品の重大な品質パラメーターに対して悪影響を及ぼし、多くの場合には製品欠陥(生存率<80%)に至ることが示される。
【0061】
実施例4.高流束の影響
TFFプロセス性能および製品品質に対する高流束の影響を調査するために、小規模(3〜5L)実験を行った。セルファクトリー(40段 Nunc)からおよそ30億のヒト皮膚繊維芽細胞を回収し、0.5ft2サイズの中空糸フィルター(GE社製PN:RTPCFP−6−D−4M)を用いて処理した。実験開始時の細胞濃度は、2.5×105〜5×105細胞/mLの範囲に及び、上記の典型的なプロセスに本質的に従って濃縮した。流束は、再循環速度を維持しながら透過流量を増加させることによって制御した。下記の表3は、達成した流束の範囲および対応する製品品質パラメーターを示している。流束は、150〜350LMHの範囲に及び、剪断速度は、2000〜3000秒−1の範囲に及んだ。
【表3】
【0062】
結論:この一連の研究によって、流束(単位 LMH)は、剪断速度およびTMPを最小限に抑え、少なくとも90%の細胞生存率および少なくとも90%の細胞回収率を維持しながら透過流量の制御を用いて150〜350LMHの範囲で達成することができることが示される。大容量の場合にはこの高流束により処理時間の最小化が見込まれ、この最小化は製品品質に対して全体的な良い影響を及ぼす。
【0063】
実施例5.ヒト間葉系幹細胞(hMSC)の大規模バイオプロセス
上記の典型的な手順および図1のTFFシステムを用い、複数のNuncまたはCorningの40段の培養容器を用いてヒト間葉系幹細胞(Lonza社BioscienceのMSC)を増殖させ、2〜4×105細胞/mL〜4×107細胞/mLまでの回収濃度から濃縮し、その際、約95%の細胞生存率を維持し、本プロセスから本質的に全ての細胞を回収した。図5を参照のこと。濃縮および8〜10ダイアフィルトレーション容量のヒト血清アルブミン(HSA)含有生理食塩水を用いたダイアフィルトレーションの後、濃縮した細胞の最終BSA残留レベルは100ng/mL未満に低下していた(図6)。次いで、規模拡張可能なシングルユース用システムを用いてそれらの細胞をさらに処理した。容量減少および洗浄後に、Nucleocounterを用いてhMSCを計数して、濃度および生存率を確認し、TFF処理収率を確認し、さらに処方の指針とした。約8〜12M細胞/mLでProFreeze(商標)(Lonza)中7.5%ジメチルスルホキシド(DMSO)の最終溶液を得るために細胞を処方した。処方されたhMSCを、Flexicon(登録商標)ポンプおよび処方バッグに接続されたシングルユース用チューブセットを用いて20mLバイアルに分注した。バイアルは、大量に(大規模凍結をシミュレーションするために約200のバイアル)速度制御付きフリーザーで凍結し、気相液体窒素に入れて7〜14日間保存した。最終容器中で、融解時、細胞生存率(図7)および生細胞回収率は90%をはるかに超えて維持された。TFFプロセスが処理細胞の全体的健康および生存率に対して何らかの影響を及ぼしたかどうかを評価するために、処理細胞および未処理細胞を96ウェルプレートに1ウェル当たり30,000細胞で播種し、Vialight(登録商標)(Lonza)細胞代謝・生存率アッセイを用いて24時間生存率および細胞機能性をモニタリングした。重要なことには、TFFプロセスは大規模(40段)培養プラットフォームから回収された細胞に対してほとんど〜全く影響を及ぼしていなかった(図8)。
【0064】
この一連の研究によって、増殖させ大規模培養容器に回収した臨床的に関連のある細胞(すなわち、ヒトMSC)を本発明のTFFプロセスを用いてうまく濃縮し洗浄することができ、残留タンパク質が除去されるのと同時に、低温保存後でも生存率および最終細胞製品の収率などの重大な品質パラメーターが維持されることが示される。これらの細胞は、未処理細胞と比べて、培養下で生物学的機能性を維持し、高濃度で低温保存することができ、処理後に優れた回収率を示す。要約すれば、これらのデータは、TFFが大規模細胞療法製造のための容量減少および洗浄についての信頼性のある方法であることを示している。
【0065】
実施例6.大規模(25L)処理運転
大規模(25L)でTFFプロセス性能および製品品質を評価するために、本実験を行った。本実験では、複数の振盪フラスコ(Corning(登録商標))からおよそ180億のCHO細胞を回収し、1.7ft2サイズの中空糸フィルター(GE社製PN:RTPCFP−6−D−5)を用いて処理した。実験開始時の細胞濃度は、2.5×105〜5×105細胞/mLの範囲に及び、上記の典型的なプロセスに従って、表4に示すTMPパラメーターおよび流束パラメーターを用いて濃縮し、表4には、製品品質パラメーターおよびプロセス性能パラメーターも示している。
【表4】
【0066】
図9は、大規模(25L)でのTFFプロセス性能および製品品質を評価するために行った実験の流束およびTMPを示している。
【0067】
図10は、大規模(25L)でのTFFプロセス性能および製品品質を評価するために行った実験の細胞生存率および回収率を示している。
【0068】
結論:この研究によって、最終細胞製品の重大な品質パラメーターを維持しながらの、本プロセスの商業規模への規模拡張性が示される。
【0069】
実施例7.中空糸フィルター型および平面フィルター型の比較
細胞処理へのフラットシートフィルター使用の実現可能性を調査するために、小規模実験を行った。これらの実験では、8〜12の10段のセルファクトリーまたは1〜3の40段のセルファクトリーからおよそ10億〜30億の間葉系幹細胞またはヒト皮膚繊維芽細胞を回収し、中空糸フィルター(0.5ft2または1ft2サイズのフィルター(GE社製PN:RTPCFP−6−D−4M))またはSartorius社およびPall社製の0.1〜0.65pmのフラットシートフィルターのいずれかを用いて処理した。実験開始時の細胞濃度は、4.5×105〜5×105細胞/mLの範囲に及んだ。実施例1のプロセスに本質的に従って細胞を濃縮した。
【0070】
図11はフラットシート運転の例を示し、図12は中空糸フィルター運転の例を示している。
【0071】
結論:この一連の研究によって、TFFプラットフォームの種類、すなわち、中空糸またはフラットシートが、本システムの重大な品質パラメーターに実質的に影響を与えず、そして、TFFプラットフォームに関係なく、本発明によって細胞生存率および細胞回収率を達成することができることが示される。
【0072】
実施例8.最終細胞濃度
TFFプロセスを用いての高細胞濃度達成の実現可能性を調査するために、小規模(3〜5L)実験を行った。4〜5のセルファクトリー(40段 Nunc)からおよそ50億のヒト皮膚繊維芽細胞を回収し、0.5ft2サイズの中空糸フィルター(GE社製PN:RTPCFP−6−D−4M)を用いて処理した。第2の実験では、複数の振盪フラスコからおよそ100億のチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を回収し、全く同じ0.5ft2サイズの中空糸フィルターを用いて処理した。実験開始時の細胞密度は、約4×105〜5×105細胞/mLの範囲に及び、上記の典型的なプロセスに本質的に従って細胞を濃縮した。図13は、CHO実験の過程において達成された総細胞密度(TCD)を時間の関数として示し、表5には、両実験についての達成された最終TCDおよび対応する製品品質パラメーターを示している。
【表5】
【0073】
結論:この一連の研究によって、細胞生存率および回収率を維持しながら、少なくとも、5000万/mLより高い密度に細胞を濃縮し得ることが示される。他の類似実験では、本発明の方法によって1億細胞/mLを超えるTCDが達成されている。
【0074】
実施例9.フィルター充填容量
これらの研究では、1〜2のセルファクトリー(40段 Nunc)からhMSC細胞を、複数の振盪フラスコからCHO細胞を回収した。0.5ft2中空糸フィルター(GE社製PN:RTPCFP−6−D−4M)を用いてhMSC細胞を処理し、1.7ft2中空糸フィルター(GE社製PN:RTPCFP−6−D−5)を用いてCHO細胞を処理した。実験開始時の細胞濃度は、2.5×105〜5.6×105細胞/mLの範囲に及び、実施例1のプロセスに従って濃縮した。
【0075】
下記の表6には、フィルターの面積当たりの処理細胞の範囲および対応する製品品質パラメーターを示している。
【表6】
【0076】
結論:この一連の研究によって、許容される細胞生存率および回収率を維持しながら、14億細胞/ft2ほど低くも、86億細胞/ft2ほど高くもフィルターに充填し得ることが示される。加えて、理論的には、フィルター充填量は少なくとも7.5億細胞/ft2ほど少なくてもよく、その際には、許容されるプロセス性能パラメーターが維持される。
【0077】
本発明の実施形態を記載してきたが、それらの実施形態は本発明の原理の応用の一部の例示であることは理解されるであろう。当業者ならば、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく非常に多くの修飾を行うことができる。
【0078】
実施例10.FTセンサーを備えたTFFシステム
図13は、Lonza社で設計された、中空糸フィルターおよび生細胞密度(VCD)流水式センサー/検出器(FTセンサー)を備えた、完全に閉鎖された完全使い捨てのTFFシステムを示している。チューブ、使い捨てのセンサー(図13のP1、P2、P3およびS1)(VCDセンサーを含む)および処理貯槽(図1のバッグ番号1)は、注文組立し、ガンマ線によって滅菌した。使い捨てのVCDセンサーの使用によってTFF中の製品サンプリングがなくなり、その結果、リスクが最小限に抑えられ、製品品質および安全性が向上する。使い捨てのフィルターは、GE社から供給されたものであり(RTPCFP−6−D−4M、RTPCFP−1−E−4MおよびPN:RTPCFP−6−D−5)、無菌で組立を行った。この構成または非常に類似した構成で複数回のTFF運転を完了した。加えて、TFFシステムは、中空糸フィルターの代わりにフラットシートフィルターも使用し得る。フラットシートフィルターを用いて実現可能性の研究を行った。典型的なTFFプロセスは2工程−容量減少およびダイアフィルトレーション、で構成される。容量減少工程の間に、図13に示した処理バッグ内で所望の細胞濃度に達するまでバルク容量(細胞培養培地)がフィルターの透過物側から濾去される。容量減少工程の後にダイアフィルトレーション工程が続く。ダイアフィルトレーションの間に、濃縮された細胞がバッファーで洗浄され、不純物が除去される。
【0079】
典型的なTFF実験では、初代ヒト細胞(ほとんどの場合、間葉系幹細胞またはヒト皮膚繊維芽細胞)をセルファクトリー(CorningまたはNunc(登録商標))で培養し、複数のバッグ(Lonza)に回収する。TFF実験開始前に、回収した細胞のバッグを、無菌接合または他の無菌接続によって処理バッグ(図13のバッグ番号1)に接続し、図13に示す供給ポンプ(Masterflex L/S)を用いて細胞懸濁液をそのバッグに移す。VCD FTセンサーからのシグナルはアンプケーブルを通ってFogale社製のヒューマンマシンインターフェース(HMI)に送られる。そのシグナルはVCD基準に変換され、HMIに表示される。このVCDデータを用いて、TFF操作中に最適の最終細胞密度および/または濃縮係数が決定される。処理バッグには細胞懸濁液がバッグ容量の半分〜2/3まで充填される。再循環ポンプ(Watson−Marlow−323EまたはSpectrum KrosFlow)(図1に示すとおりである)をゆっくり始動させ、目的とする速度まで上げる。次いで、透過ポンプ(Masterflex L/S)(図13に示すとおりである)をゆっくり始動させ、目的とする速度に上げる。供給ポンプおよび透過ポンプを同じサイズのチューブ(3/16インチ、1/4インチまたは3/8インチID)を用いて同じ速度で運転して、本プロセスの容量減少工程中、処理バッグ内で一定の液体容量を維持する。再循環ポンプには、1/4インチまたは3/8インチIDのチューブを典型的に用い、一定の速度で運転して望ましい入口流量を得る。細胞懸濁液サンプルを定期的に収集して、Nucleocounter(NC)(New Brunswick Scientific)または他の細胞計数技術を用いて細胞密度および生存率を測定し得る。典型的には、一度、バルク容量をVCD FTセンサーからのVCDデータに基づいて100〜800mLの範囲内に減少させたら、バッファーバッグを処理バッグに接続することによってダイアフィルトレーション工程を開始させる。ダイアフィルトレーションバッファーの8〜10容量の同等物で細胞を洗浄して、残留する培養試薬および回収試薬の減少を達成させる。処理バッグ内の容量をさらに減少させて、処方のためにVCD FTセンサーからのVCDデータに基づいて所望の細胞濃度を達成してもよい。一度、所望の細胞濃度が達成されたら、全てのポンプを停止させる。フィルターおよびチューブの細胞懸濁液を重力によって処理バッグ中に排出する。細胞計数のために処理バッグの最終サンプルを得、低温保存のために細胞懸濁液を処方し、バイアルに充填する。
【0080】
細胞療法プロセスの重大な品質パラメーターでは、細胞を5M細胞/mLより高く濃縮しながら細胞生存率>90%を維持しなければならず、細胞機能性も維持しなければならない。
【0081】
この一連の構造によって、間葉系幹細胞は2〜4×105から.3x107細胞/mLまで濃縮することができ、VCDセンサーシグナル(誘電率)がNucleocounterによる方法を用いて測定されるVCDの増加と相関することが示される(図13)。重要なことには、このプロセスは完全使い捨てのシングルユース用構成で行い得る。
【0082】
いくつかの具体的な実施形態についての前述の説明は、他者が、現在の知識を適用することによって、包括的概念から逸脱することなくそのような具体的な実施形態を様々な用途に向けて容易に修飾しまたは改変することができる十分な情報を提供しており、それゆえ、そのような改変および修飾は、開示した実施形態の均等物の意味および範囲内に包含されるべきであり、そうであることが意図されている。本明細書において使用した表現または用語は、説明を目的としており、限定するものではないことを理解されたい。図面および説明では、例示的な実施形態を開示しており、特有語を使用したが、それらは、特に断りのない限り、一般的かつ記述的な意味でのみ使用しており、限定するものではなく、それゆえ、特許請求の範囲の範囲はそのように限定されない。さらに、本明細書において論じた方法の特定の工程は別の順序で並べることができ、または工程を組み合わせることもできることは当業者ならば分かるであろう。よって、添付の特許請求の範囲は本明細書に開示した特定の実施形態に限定されないことが意図される。
【0083】
本明細書に引用した出願および特許の各々、ならびに出願および特許の各々において引用された各文書または参照文献(各発行済み特許の審査中のものを包含する;「出願引用文献」)、およびこれらの出願および特許のいずれかに対応するおよび/またはその優先権を主張するPCTおよび外国出願または特許の各々、および出願引用文献の各々において引用されたまたは参照された文書の各々は、参照により本明細書に明示的に組み入れられる。より一般には、文書または参照文献は、本明細書末尾の参照文献リスト;または本明細書自体のいずれか;において引用されており、そして、これらの文書または参照文献の各々(「本明細書引用参照文献」)、ならびに本明細書引用参照文献の各々において引用された各文書または参照文献(製造業者の仕様書、使用説明書などのいずれもを包含する)は、参照により本明細書に明示的に組み入れられる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、監督官庁の要件、例えば、装置、生物製剤および薬物の現行適正製造基準(current good manufacturing practice)(cGMP)規定などに従う体細胞療法用製品を製造するための方法および装置に関する。より特には、本発明は、タンジェンシャルフローフィルトレーション(「TFF」)を用いて生存哺乳類細胞、特に治療製品に用いられる生存哺乳類細胞を無菌で濃縮し洗浄するためのプロセスおよび装置(apparati)に関する。
【背景技術】
【0002】
FDAは、細胞療法を、ex vivoで操作または改変された、自己細胞、同種異系細胞または異種細胞の投与によるヒトにおける疾患または損傷の予防、治療、治癒または緩和と定義する。細胞療法の目的は、再生医療の目的と重複し、損傷組織または器官を修復し、置換しまたは回復させることである。
【0003】
ヒトドナーから得られた細胞のex vivo増殖は、例えば、自己細胞療法および同種細胞療法に利用可能な幹細胞および前駆細胞の数を増やすために用いられている。例えば、多能性間葉間質細胞(MSC)は、免疫調節、造血および組織再生におけるそれらの可能性を調査するために、非常に多くの臨床試験において現在利用されている。MSCは低頻度であることから移植可能な数を達成するためには細胞増加を必要とする。
【0004】
いずれの細胞療法における課題も安全かつ高品質の細胞生産を保証することである。特に、現行適正製造基準(current Good Manufacturing Practice)(cGMP)グレードの条件下での細胞処理は、そのような高度な細胞療法の進歩にとって必須である。同種療法では、GMP適合に関するプロセスおよび製品の試験および認証の経済的な側面が、細胞製造、すなわち、最大バッチサイズおよび最小バッチ運転の強く有望な製造における重要なコスト要因である。
【0005】
そのため、臨床規模拡大のための治療用細胞製造は、細胞収集から培養後処理まで完全に自動化された閉鎖系プロセスで行われることが最適であろう。そのような閉鎖系プロセスは、微生物汚染および機械的ストレスまたは生理的ストレスによる生存率低下の危険性を最小限に抑え、保存に好適でかつ臨床環境での使用に対応できる形での細胞療法用製品のcGMPに適合した製造を促進すると思われる。そのような閉鎖系プロセスについていくつかのシステムが自己細胞療法用製品の比較的小規模での製造のために開発されている(例えば、Hampson et al.による米国特許出願公開番号第2008/0175825号を参照のこと)が、そのようなシステムは様々な理由で、例えば、同種異系製品で期待されるように、大量調製のために規模拡張することは容易ではない。
【0006】
タンパク質、例えば、バイオセラピューティックなどを製造するための哺乳類細胞の使用に関する大規模自動化閉鎖系プロセスは、十分に確立されている。しかしながら、大部分そのようなプロセスは、タンパク質産物を回収し、細胞内産物の放出に至るまで細胞を破壊する場合には意図的に、または高速遠心分離などの苛酷な方法により分泌産物から細胞を分離する場合には付随的に、細胞死に至る条件下で細胞を廃棄するように設計される。対照的に、増殖後の治療用細胞の処理は、典型的に、細胞回収、容量減少、洗浄、処方、保存容器充填および、多くの場合には製品細胞の低温保存を必要とし、全て、細胞生存率、生物学的機能性、最終的には、臨床効力を維持する条件下で行われる。
【0007】
加えて、治療用細胞は、タンパク質生産に用いられる細胞を取り扱うための公知プロセスでは生き残れないかもしれない。これは、後者の細胞が、典型的には、培養による大規模複製中に、例えば、細胞療法に用いられる前駆細胞または幹細胞によって示されるよりも機械的剪断力および生理的ストレスに対する低感受性で選択を受けたかもしれない高度に操作された細胞株であるためである。よって、効力を保持するために、治療用細胞は、典型的には、ヒト組織からの単離時に表示された最初の親表現型を維持するように最小限に培養される;それゆえ、治療用細胞は、一般的に、選択を受けずまたは下流の処理を容易にするように遺伝子操作を受けない。
【0008】
細胞培養プロセスを規模拡張するために技術が開発されると、下流の処理に必要な技術はすぐに圧倒された。具体的に言えば、現行技術を用いた多量(例えば、10〜100リットル)の治療用細胞懸濁液の容量減少および洗浄は、時間がかかり、規模拡張できない。現行技術、例えば、開放遠心分離などは、数十〜数百個の特有の処理容器を使用して5〜20名の高度な訓練を受けた技術者によって4〜8時間を要することがあり、そのため、操作が増え、汚染の危険性が高まる。細胞療法の分野の大部分では小規模血液処理装置を利用し、この小規模血液処理装置は1回の操作当たり約10リットルより多くに規模拡張することができない。このように、処理時間および労力ならびに製造コストが治療用細胞の容量減少および洗浄において解決すべき主要な制約であり、プロセスおよび得られる細胞製品の重大な品質パラメーターを維持しながら、5〜10リットルの範囲から数百リットルまで規模拡張することかできるプロセス装置にはさらなる利益がある。そのような重大な品質パラメーターとしては以下が挙げられる:治療処方物に十分な細胞懸濁密度(例えば、ほとんどの場合には1000万細胞/mLより高く、場合によっては少なくとも3000万〜7000万細胞):機能性および安全性を維持するための最終細胞製品の高生存率(例えば、90%より高い):高価値細胞の損失を最小限に抑えるための細胞の高収率(例えば、開始時細胞の90%より高い);ならびに規制目的での回収試薬(例えば、トリプシンまたは他の酵素)および培地成分(例えば、血清成分、活性増殖因子など)の残留レベルの許容レベルへの低下。
【0009】
よって、生細胞が高収率でかつ細胞の治療的使用に有害な培養成分または処理成分が低残留レベルでの、細胞懸濁液の効率的な容量減少および洗浄のためのプロセスを含む、細胞収集から培養後処理までの、治療用細胞を製造するための改良されたプロセス、特に、自動化された閉鎖系での製造を促進するそのようなプロセスが必要である。
【0010】
1991年10月1日にArathoon et al.に対して発行された「懸濁培養を用い培地から有害成分を除去して、組換えCHO細胞において生物活性プラスミノーゲン活性化因子を生産するためのプロセス(Process for Producing Biologically Active Plasminogen Activator in Recombinant CHO Cells Using Suspension Culture and Removing Detrimental Components from Medium)」に関する米国特許第5,053,334号(「‘334号特許」)には、懸濁培養による生物活性のあるヒト組織プラスミノーゲン活性化因子の生産方法が提供されることが開示されており、この方法では、組換えチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が培養され、クロスフローフィルトレーションによって回収および生物活性に有害な特定成分が無細胞濾液として除去される。‘334号特許には、開示プロセスがウシ胎児血清(2%v/v)を含む培地中、集団密度約100万細胞/mLのCHO細胞懸濁液を用いて例示されている。「実施例」参照。CHO細胞は培地交換が行われた後に無血清生産培地中に約90時間再懸濁された。培地交換は、0.1ミクロン孔および濾過面積4.15ft2の中空糸タンジェンシャルフローフィルターを用いて行われ、1分間当たり約211mLの速度で濾液が除去され、それによって培養容量がおよそ5.2リットルに減少された。この時点で新しい滅菌無血清培地が培養容器に1分間当たり約211mLの速度で供給され、このようにして常に古い培地が希釈除去されながら保持液容量が維持された。独立した10Lステンレス鋼発酵槽に入った新しい無血清培地にアリコートの細胞懸濁液が加えられたときに計算上約190,000倍(または0.0001容量%未満)の血清濃度の低下がもたらされるように、55リットルの新しい無血清培地が前記システムを通じて供給された。10Lの新鮮培地に加えるアリコートのサイズ(それゆえ、関連希釈係数)は開示されておらず;定量的細胞生存率は報告されていなかった。
【0011】
1993年10月26日にvan Reisに対して発行された、「タンジェンシャルフローフィルトレーションプロセスおよび装置(Tangential Flow Filtration Process and Apparatus)」に関する米国特許第5,256,294号(「‘294号特許」)には、対象となる種を、それらを含有する混合物から分離するためのプロセスおよび装置(apparati)が開示されており、それはその混合物をタンジェンシャルフローフィルトレーションに付すことを含み、その際、濾過膜は、好ましくは、約10ミクロンまでのサイズを有する種を保持する孔径を有し、流束は転移点での流束の約5%から100%までに及ぶレベルで維持される。
【0012】
Trinh, L. and Shiloach, J.、“Recovery of insect cells using hollow fiber microfiltration,” Biotechnol Bioeng. 48(4): 401-405 (1995)には、懸濁状態での真核細胞増殖のための培地分離および細胞収集のための方法が開示されている。その方法は、中空糸構成のオープンチャネル配置を用いるタンジェンシャルフローマイクロフィルトレーションに基づいている。要約書を参照のこと。ポリスルホン中空糸の最良の結果(最大処理流束)は、内径0.75mm、0.45ミクロン孔径の繊維および剪断速度14000s−1の細胞懸濁液流量(繊維1本当たり0.032L/分)を用いて報告された。著者らは、流束500L/m2hは、表面積/細胞比を0.05m2/細胞10L(濃度2.5×106細胞/mL)に維持することによって得ることができることを報告している。40リットルの感染昆虫細胞は、細胞生存率に影響を及ぼすことなく20分間以内に10倍濃縮されることとなった。
【0013】
2000年5月20日にCuster et al.に対して発行された、「細胞懸濁液からの薬剤の除去(Removal of Agent From Cell Suspension)」に関する米国特許第6,068,775号(「‘775号特許」)には、半透膜を用いた細胞懸濁液からの薬剤(例えば、DMSO)の除去方法が開示されている。その発明の1つの態様では、それらの細胞は、薬剤の除去後に体液をバイオプロセスで作るために用いられる。細胞懸濁液の容量減少については開示されていない。
【0014】
2003年8月19日にSchickに対して発行された、「タンジェンシャルフローフィルトレーションにおける濾過収率を高めるための方法および装置(Method and Apparatus for Enhancing Filtration Yields in Tangential Flow Filtration)」に関する米国特許第6,607,669号(「‘669号特許」)には、収率を高めるとされている制御特性を強化した形で液体の濾過を進めるためのシステムが開示されている。要約書を参照のこと。そのシステムおよび方法は、実質的に一定の膜間差圧を維持するために使用され得る。所望される場合に、その一定の膜間差圧は、有益な成分の損傷または損失の危険性を最小限に抑えながら、特定の液体を濾過し、濃縮しまたは収集するための収率の増大にとりわけよく適している。加えて、一定の供給速度またはポンプ出力が維持され得る。‘669号特許には、その発明の1つの目的が、収集成分の収率を高める一定の圧力モードでの液体の強制濾過のための改良された装置および方法を提供することであることがさらに開示されている。
【0015】
’669号特許のシステムの使用は、細胞外タンパク質(IgG)を細胞懸濁液から分離するためのTFFプロセスによって例示されている。実施例1を参照のこと。より特には、300万細胞/mLのチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞懸濁液500リットルが濃縮され、濾過ユニットは0.45ミクロン孔および表面積0.6m2の膜を備え、一定の膜間差圧(TMP)5.0psiが用いられた。無細胞培地は透過物として収集され、保持液に細胞懸濁液が含まれた。細胞懸濁液は濾過が進行するにつれて徐々に濃縮されるとされた。細胞懸濁液の容量は3.5時間の処理期間をかけて2.0リットルに至るまで、250倍減少され、3.5時間での平均システム流束(透過物体積流量)はTMP 5psiで237リットル/時間−m2であった。669号特許には、「細胞懸濁液の濃縮は細胞生存率に影響を及ぼすことなく行われ、このことは次の処置における細胞利用の成功によって確認された」ことが報告されている。しかしながら、細胞の収率または生存率の定量化についてのデータは報告されていない。
【0016】
TFFはまた、単球(例えば、米国特許出願公開番号第2005/0173315号を参照のこと)または血液もしくは骨髄由来のCD34+幹細胞(米国特許出願公開番号第2005/0189297号)のサイズに基づく分離にも使用されている。これらのプロセスでは、大きな孔径(例えば、1〜10ミクロンが特許請求されている)のTFF膜が使用され、その際、未処理材料(血液または骨髄)がそのフィルターに通され、対象となる細胞は保持液中で割合が増加される(骨髄から4.2%CD34+細胞は18%に、血液では32%単球は71%に増加される)。これらの細胞に基づくプロセスではTFFを用いて様々なサイズの細胞が分離されるが、細胞に基づく製品の重大な品質パラメーター、例えば、分離された細胞の生存率、最終細胞懸濁液の総生存率、またはこれらの分離された細胞の生物学的機能性などは開示されていない。さらに、最初の細胞の割合に関してこれらのプロセスの収率は論じられておらず、開示されているプロセスは小規模処理にのみ適用できるが、数十〜数百リットルの細胞懸濁液の処理は教示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許出願公開番号第2008/0175825号
【特許文献2】米国特許第5,053,334号
【特許文献3】米国特許第5,256,294号
【特許文献4】米国特許第6,068,775号
【特許文献5】米国特許第6,607,669号
【特許文献6】米国特許出願公開番号第2005/0173315号
【特許文献7】米国特許出願公開番号第2005/0189297号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Trinh, L. and Shiloach, J.,“Recovery of insect cells using hollow fiber microfiltration,” Biotechnol Bioeng. 48(4): 401-405 (1995)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、タンジェンシャルフローフィルトレーション(「TFF」、クロスフローフィルトレーション(「CFF」)としても知られている)を用いて生存哺乳類細胞を無菌で濃縮し洗浄するためのプロセスおよび装置(apparati)を提供する。本発明は、治療製品に用いられる生存哺乳類細胞に、例えば、低温保存用または対象への投与用の処方のためのそのような細胞の懸濁液の容量減少および洗浄などに特に有用である。
【0020】
特に、本発明は、開始時細胞の少なくとも90%収率および最終細胞製品の少なくとも90%生存率で少なくとも約500万細胞/mLの、医薬処方物に好適な細胞組成を作出するための、数十または数百リットルの回収された哺乳類細胞の容量減少および洗浄が見込まれるTFFの高収率プロセスを提供する。このプロセスからの医薬組成物は、治療的使用に有害な成分(例えば、血清成分、トリプシンまたは他の酵素などの回収試薬)の残留レベルが開始時レベルと比べて少なくとも約1000〜10000倍低下しており、例えば、治療的使用に用いる特定の生物学的製剤では、血清についての要件どおりに1ppmより低い最終レベルへの低下が可能となる(連邦規則集第21編第610.15(b)項)。このプロセスは、例えば、シングルユース用装置において剪断速度を最小にし、流束(容量/表面積×時間、例えば、L/m2hまたは本明細書では「LMH」)を最大にする工程、および処理時間を最小限に抑える工程を用いて実行に至った−これらは全てヒト投与に好適な高品質の細胞懸濁液に寄与している。そのプロセスは、フィルター孔径に依存し、フィルターの種類(中空糸対フラットシート)、フィルター材料およびバッファー処方とは比較的無関係である。他のプロセス変形も使用され、1〜3時間の処理時間内に500万〜6000万細胞/mLの範囲に及ぶ細胞懸濁液を得るように最適化されている。操作変形は記載されており、操作変形では非常に速い処理時間(透過物流束最大化)および非常に高い細胞濃度(例えば、3000万細胞/mLより高い濃度)を得るために利用することができる。
【0021】
よって、本発明の1つの態様は、水性培地中の生存哺乳類細胞を無菌処理して、細胞密度が少なくとも約500万細胞/mLでありかつ細胞生存率が少なくとも約80%である細胞懸濁液を作製するための方法を提供する。この方法は、孔径が0.1ミクロンより大きいタンジェンシャルフローフィルター(TFF)を用いて該培地の容量を減少させる工程を含む。この工程中、望ましい膜透過流束を維持するために、膜間差圧(TMP)はタンパク質溶液のTFF処理についての先行技術条件と比べて比較的低く維持される。例えば、TMPは約5psi未満で、好ましくは約3psi未満で、より好ましくは1psi未満で維持される。本発明のこの処理工程中、細胞生存率を維持するために、剪断速度もまた、タンパク質溶液についての先行技術条件と比べて比較的低く、例えば、約4000秒−1未満で、好ましくは約3000秒−1未満で、より好ましくは約2000秒−1未満で維持される。
【0022】
本発明のこの方法では、望ましい膜透過流束を得るために、TFFの孔径が少なくとも約0.1ミクロンであり、好ましくは0.1ミクロンより大きく、より好ましくは約0.65ミクロンであることが一般的に有利である。この方法でのTFFは、所望の処理容量に好適な任意の構成、例えば、当技術分野で一般的に公知の中空糸構成またはシート構成などのものであってよい。本発明により約10L〜約100Lの細胞を処理するために、TFFは、表面積が約0.5ft2の中空糸フィルターであることが好ましい。本発明によるTFF面積の1平方フィート当たりに処理される細胞の数は、少なくとも7.5億細胞ほど少ない場合も、少なくとも約180億細胞ほど多い場合もあるが、その際、細胞品質および膜透過流束などの所望の操作パラメーターは維持される。
【0023】
驚くべきことに、本発明方法の比較的低い剪断(sheer)パラメーターおよびTMPパラメーターによりフィルターの「目詰まり」にはならず、それよりも、非常に望ましい膜透過流束、例えば、少なくとも約50L/m2h、好ましくは少なくとも約100L/m2h、より好ましくは少なくとも約200L/m2h、より好ましくは少なくとも約300〜約600L/m2hなどをもたらす。そのような流束は、約10L〜約100Lの細胞バッチ容量、あるいは少なくとも約1000Lまでのより大きなバッチでの処理時間を、従来の遠心分離法と比べて大幅に短縮し、それによって生存率を含む高い細胞品質を維持する。
【0024】
さらに、本発明の上記TFFプロセスパラメーターは、驚くべきことに、得られる細胞懸濁液において優れた細胞回収率、例えば、水性培地中の開始時細胞の、少なくとも約80%〜約85%、好ましくは少なくとも約90%〜約95%、より好ましくは少なくとも約97%〜100%を提供する。細胞の種類および用途に応じて、得られる細胞懸濁液は、少なくとも約500万生細胞/mL、1000万生細胞/mL、2500万生細胞/mL、5000万生細胞/mLまたは少なくとも約7500万生細胞/mLを含有し得、場合によっては約1億細胞/mLを超える密度も可能である。
【0025】
いくつかの実施形態では、本発明方法は、TFFを用いて、得られた懸濁液中の細胞を、該細胞懸濁液の容量の少なくとも約2〜4倍、好ましくは少なくとも約4〜6倍、より好ましくは少なくとも約8〜10倍に等しい水性洗浄培地の容量で洗浄するダイアフィルトレーション工程をさらに含む。本発明のダイアフィルトレーション工程は、前記細胞懸濁液中の望ましくない可溶性成分の残留レベルを、細胞を含有する最初の水性培地中の残留レベルと比べて少なくとも約300倍、好ましくは約1000倍、より好ましくは約3000倍低下させ得る。実際には、例えば、この工程は、例えば、治療的使用に用いる特定の生物学的製剤では、要件どおりに、血清タンパク質(例えば、BSAまたはHSA)などの培養培地成分の残留レベル、または回収試薬、例えば、トリプシンなどの残留レベルを、最終細胞懸濁液の約1ppm未満に低下させることができる(連邦規則集第21編第610.15(b)項)。
【0026】
もう1つの態様では、本発明は、治療用組成物に用いる哺乳類細胞を製造するための全プロセスを提供する。この方法は次の工程を含む:任意の公知の大規模細胞培養方法論、例えば、10段もしくは40段の容器(「セルファクトリー」)、または「波動」揺動バッグまたは攪拌槽型バイオリアクターを用いて細胞を増殖させる工程;水性培地中の細胞を回収する工程;および該水性培地中の細胞の容量を減少させ、フラットシートまたは中空糸のTFF構成で本発明のTFF方法を用いて該細胞を洗浄する工程。本発明のプロセスは、当技術分野で公知の低温保存技術(例えば、凍結防止剤としてのジメチルスルホキシド(DMSO)を必要とする)を用いて、得られた細胞懸濁液を凍結防止培地中で処方し、細胞生存率の長期維持に好適な条件下で、該処方細胞を凍結し保存することをさらに含む。凍結防止処方物中の細胞は、そのような目的で知られている任意の従来容器、例えば、プラスチックバッグまたはガラスバイアルなどで凍結し保存し得、短期間の場合には少なくとも約−80℃の温度で保存し得、または長期保存の場合には、液体窒素の気相もしくは液相中で保存し得る。
【0027】
本発明のこの製造プロセスは、次のパラメーター:少なくとも約80%;90%または95%の融解時細胞生存率;約100万細胞/mL、300万細胞/mLまたは600万細胞/mLより高い生細胞濃度;および望ましくないタンパク質成分の残留レベルが最初の水性培地中の残留レベルと比べて少なくとも約1000倍、約1ppm未満のレベルに低下している、を示す凍結処方細胞を生産する。
【0028】
本発明のさらなる態様は、本発明の細胞処理方法における、例えば、中空糸フィルター(HFF)を用いる、完全に閉鎖された完全使い捨ての規模拡張可能なタンジェンシャルフローフィルトレーション(TFF)システムに関する。このTFFシステムは、高い細胞生存率および機能性を維持しながら、大容量バッチを3時間未満で処理する(液体培地から細胞を分離し、清浄化し、回収し、収集する)ことができる。このシステムでは、HFFは、システム組立に3箇所の迅速接続と(バッチサイズに応じた)プラスチックチューブの無菌接合のみ必要であるように取り付けられている無菌クイックコネクターを有する。下記の図1は、チューブ、使い捨てのセンサー(図1のP1、P2およびP3)および処理貯槽(図1のバッグ番号1)ならびに使い捨てのフィルター(全て市販されている)を備えた、完全に閉鎖された完全使い捨ての、本発明の例示的なTFFシステムを示している。本発明のTFFシステムはまた、中空糸フィルターの代わりにフラットシートフィルターも使用し得る。そのようなシステムに好適な蠕動ポンプも市販されている。
【0029】
いくつかの例示的な実施形態のこれらの態様および他の態様は、以下の説明および添付の図面と併せて考えれば、よりよく認識され理解されるであろう。しかしながら、以下の説明は、好ましい実施形態およびそれらの非常に多くの具体的な詳細を示しながら、例示として記載しているが限定するものではないことは理解すべきである。実施形態の範囲内でその精神から逸脱することなく多くの変更および修飾を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、哺乳類細胞を濃縮し洗浄するために本発明の方法において用いられる例示的なタンジェンシャルフローフィルトレーションシステムの概略図を示している。
【図2】図2は、本発明のプロセスにおける細胞生存率および回収率に対する剪断速度の影響を例示している。
【図3A】図3は、本発明のプロセスにおける細胞生存率および回収率に対する膜間差圧(TMP)の影響を例示している。パネルA.生存率。パネルB.回収率。パネルC.複数回の実験についての細胞回収率および生存率に対するTMPの傾向曲線。
【図3B】図3は、本発明のプロセスにおける細胞生存率および回収率に対する膜間差圧(TMP)の影響を例示している。パネルA.生存率。パネルB.回収率。パネルC.複数回の実験についての細胞回収率および生存率に対するTMPの傾向曲線。
【図3C】図3は、本発明のプロセスにおける細胞生存率および回収率に対する膜間差圧(TMP)の影響を例示している。パネルA.生存率。パネルB.回収率。パネルC.複数回の実験についての細胞回収率および生存率に対するTMPの傾向曲線。
【図4】図4は、本発明のプロセスにおける流束および細胞生存率および回収率に対するフィルター孔径の影響を例示している。
【図5】図5は、本発明のプロセスによる細胞濃縮を例示している。
【図6】図6は、本発明のプロセスによる、望ましくない成分の除去を例示している。
【図7】図7は、本発明による処理後の細胞品質(生存率)を例示している。
【図8】図8は、本発明のプロセスにより処理された細胞の機能性(増殖)を例示している。
【図9】図9は、本発明のプロセスの大規模運転(25Lの回収細胞)中の流束およびTMPを例示している。
【図10】図10は、本発明のプロセスの大規模運転(25Lの回収細胞)中の生存率および細胞回収率を例示している。
【図11】図11は、本発明のプロセスによる細胞濃縮におけるフラットシートフィルターの使用を例示しており、細胞濃縮中の時間の関数として生存率および総細胞密度(TCD)を示している。
【図12】図12は、図11のフラットシートフィルターの場合と同様の条件下での本発明のプロセスによる細胞濃縮における中空糸フィルターの使用を例示している。
【図13】図13は、図12の場合と同様の条件下での本発明のプロセスによるCHO細胞濃縮の使用を例示しており、細胞濃縮中の時間の関数として生存率および総細胞密度(TCD)を示している。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、特にヒト細胞療法用製品の調製のための、生存哺乳類細胞の濃縮および洗浄のための改良された方法、ならびに関連装置およびシステムを提供する。
【0032】
本発明は、水性培地中の生存哺乳類細胞を無菌処理して、細胞密度が少なくとも約500万細胞/mLでありかつ細胞生存率が少なくとも約70%である細胞懸濁液を作製するためのシステムおよび方法に関し、その方法は、孔径が0.1ミクロンより大きいタンジェンシャルフローフィルター(TFF)を用いて該培地の容量を減少させる工程を含み、該工程中、膜間差圧(TMP)が約3psi未満で維持されかつ剪断速度が約4000秒−1未満で維持される。
【0033】
本方法を用いた細胞生存率は、少なくとも約70%であり、80%、90%またはそれより高いこともある。
【0034】
前記方法の剪断速度は約3000秒−1未満で維持されかつTMPは約1psi未満で維持される。TFFの孔径は約0.65ミクロンであり、TFFは濾過表面積が少なくとも約0.5ft2の中空糸フィルターである。
【0035】
前記方法のフィルターを通る流束は少なくとも約50L/m2hであり、少なくとも約300L/m2hであることもある。
【0036】
細胞懸濁液中の細胞の回収率が水性培地中の細胞の少なくとも約70%である場合、その回収率は開始時細胞数と最終細胞数の割合として決定される。本方法では、細胞懸濁液は約1000万〜約7500万生細胞/mLの間または約1000万生細胞〜約2億生細胞/mLの間で含有する。加えて、懸濁液中の細胞の生存率は少なくとも約70%であり、典型的には少なくとも80%、または90%以上である。
【0037】
もう1つの実施形態では、前記方法は、TFFを用いて、細胞懸濁液の容量の少なくとも約4倍に等しい水性洗浄培地の容量で懸濁液中の細胞を洗浄するダイアフィルトレーション工程を含む。細胞懸濁液中の望ましくない可溶性成分の残留レベルは、水性培地中の残留レベルと比べて少なくとも約1000倍低下し、細胞懸濁液の約1ppm未満に低下させることができる。
【0038】
本発明のさらにもう1つの実施形態では、前記方法は(the comprising)センサーを用いて生細胞濃度を測定することを含む。その方法は、TFF処理を制御し、そのプロセス中の特定の工程が終わり別のプロセス工程が始まる(例えば、濃縮を終え、ダイアフィルトレーションを始める)時期を特定し、確認サンプリングの必要性をなくすためにフィードバック機構を提供し、それによって細胞処理中の汚染の危険性を防ぐ。よって、その方法は、センサーから「リアルタイム」シグナルを検出すること(この際、TFF中のサンプリングが排除される)、処理段階を決定するために該シグナルを処理すること、生細胞の目標密度に達した時にTFFプロセス工程を終えるためにフィードバックを提供することを含む。前記方法において用いられるセンサーによって測定されたシグナルは、アンプセンサーを通ってヒューマンマシンインターフェースに送られ、そのシグナルは生細胞密度(VCD)データに変換することができる。前記方法は(the further comprising)、最適の最終細胞密度および/または濃縮係数を決定するために前記VCDデータを解析することをさらに含む。このVCDデータはまた、プロセス決定することができるもう1つの重大な品質パラメーターである総細胞生存率(TCV)を計算するために総細胞密度(TCD)センサーと組み合わすこともできる。
【0039】
本発明のさらにもう1つの実施形態では、治療用組成物に用いる細胞を製造する方法が提供され、その方法は、大規模細胞培養を用いて細胞を増殖させる工程;水性培地中の細胞を回収する工程、該水性培地中の細胞の容量を減少させ、本明細書に開示するようにTFFを用いて該細胞を洗浄する工程、得られた細胞懸濁液を凍結防止培地中で処方し、細胞生存率の長期維持に好適な条件下で該処方細胞を凍結し保存する工程を含み、該凍結処方細胞は次のパラメーター:少なくとも約80%の融解時細胞生存率;約500万細胞/mLより高い生細胞密度;および処方細胞中の望ましくない可溶性成分の残留レベルが約1ppm未満のレベルに低下している、を示す。
【0040】
本発明のもう1つの実施形態は、本明細書に開示する方法を実施するための、セルファクトリー、バイオリアクター、タンクを含んでなる装置(apparati)を備えたシステムを含む。
【0041】
適当な期間の培養物から回収された細胞の大バッチ(例えば、3時間未満で約10〜約100L)の処理についての課題に対処するために、本発明者らは、例えば、中空糸フィルター(HFF)を用いる、完全に閉鎖された、完全使い捨ての規模拡張可能なタンジェンシャルフローフィルトレーション(TFF)システムを開発した。このTFFシステムは、高い細胞生存率および機能性を維持しながら、大容量バッチを3時間未満で処理する(液体培地から細胞を分離し、清浄化し、回収し、収集する)ことができる。このシステムでは、HFFは、システム組立に3箇所の迅速接続と(バッチサイズに応じた)プラスチックチューブの無菌接合のみ必要であるように取り付けられている無菌クイックコネクターを有する。
【0042】
下の図1は、完全に閉鎖された完全使い捨ての、本発明の例示的なTFFシステムを示している。チューブ、使い捨てのセンサー(図1のP1、P2およびP3)および処理貯槽(図1のバッグ番号1)は、注文組立し、ガンマ線によって滅菌した。使い捨てのフィルターは、GE社から供給されたものであり(RTPCFP−6−D−4M、RTPCFP−1−E−4MおよびPN:RTPCFP−6−D−5)、無菌で組立を行った。この構成または類似した構成で複数回のTFF運転を完了した。加えて、実現可能性の研究によって、本発明のTFFシステムはまた、中空糸フィルターの代わりにフラットシートフィルターも使用し得ることも示された。
【0043】
本発明の典型的なTFFプロセスは2段階:容量減少およびダイアフィルトレーションで構成される。容量減少工程の間に、図1に示した処理バッグ内で所望の細胞濃度に達するまでバルク容量(細胞培養培地)がフィルターの透過物側から濾去される。容量減少段階に続くダイアフィルトレーション段階では、濃縮された細胞が液体、例えば、バッファーなどで洗浄され、ヒト投与には望まれないまたは許容されない細胞培養培地成分または回収培地成分が除去される。また、ダイアフィルトレーション後にさらなる容量減少を行って、治療製品の処方のために所望の細胞密度に到達させることもできる。
【0044】
本発明のもう1つの実施形態では、図13に示されるように、本明細書に開示する閉鎖された完全使い捨てのTFFシステムは、中空糸フィルターおよび生細胞密度(VCD)流水式センサーおよび検出(FTセンサー)をさらに導入している。VCD FTセンサーは、別のラインで接続し得ることが好ましい(S1)。使い捨てのVCDセンサーの使用によってTFF中の製品サンプリングがなくなり、その結果、リスクが最小限に抑えられ、製品品質および安全性が向上する。VCD FTセンサーからのシグナルはヒューマンマシンインターフェース、例えば、FOGALE-SEMICONのヒューマンマシンインターフェースを用いて送ることができる。このようにして、VCDデータを用いて、TFF操作中に最適の細胞密度および/または濃縮係数を決定することができる。
【0045】
膜濾過プロセスは、一般的に、膜の孔径に応じて、逆浸透、限外濾過およびマイクロフィルトレーションのカテゴリーに入る。例えば、’294号特許、前掲を参照のこと。通常、限外濾過では分子量がおよそ1〜1000kDaの間の溶質の保持に値する膜を使用し、逆浸透では塩および他の低分子量溶質を保持する能力がある膜を使用し、マイクロフィルトレーション、またはマイクロポーラス濾過では、コロイドおよび微生物を保持するために典型的に使用される0.1〜10μm(ミクロン)孔径範囲の膜を使用する。同上。TFFでは、供給流を膜の面に対して接線方向に高速で再循環させ、逆拡散の物質移動係数を増加させる。フィルター膜に対して平行な方向に流れる液体は、連続的にフィルター表面を清浄するように働き、濾過できない溶質による目詰まりを防ぐ。同上。TFFでは、膜間差圧(TMP)と呼ばれる圧力差勾配を膜の長さ方向に適用して、液体および濾過可能な溶質をフィルター通過させる。流束は、経験的に決定することができる特定の最小値より高いTMPには依存しない。同上。最大流束を達成するために、限外濾過システムは、典型的には、この最小値以上の出口圧力で運転される。そのため、TMPは変動するが流束は膜の長さ方向に一定である。
【0046】
驚くべきことに、本発明のTFFプロセスの比較的低い剪断(sheer)パラメーターおよびTMPパラメーターによりフィルターの「目詰まり」にはならず、それよりも、非常に望ましい膜透過流束、例えば、少なくとも約100L/m2h、好ましくは少なくとも約200L/m2h、より好ましくは少なくとも約300L/m2hなどをもたらす。そのような流束は、約10L〜約100Lの細胞バッチ容量、あるいは約1000Lまでのより大きなバッチでの処理時間を、従来の遠心分離法と比べて大幅に短縮し、それによって生存率を含む高い細胞品質を維持する。さらに、本発明の上記TFFプロセスパラメーターは、驚くべきことに、得られる細胞懸濁液において優れた細胞回収率、例えば、水性培地中の開始時細胞の、少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%または99%を提供する。細胞の種類および用途に応じて、得られる細胞懸濁液は、少なくとも約300万生細胞/mL、600万生細胞/mL、あるいは少なくとも約1000万生細胞/mLを含有し得る。
【0047】
本明細書に記載する方法および応用に対する他の好適な修飾および改変は明らかであり、そのような修飾および改変は本発明またはそのあらゆる実施形態の範囲からも逸脱することなく行うことができることは当業者には明白である。本発明は次の実施例を参照することによってより明確に理解され、それらの実施例は本明細書において例示のためだけに示し、本発明を限定するのもではない。
【実施例】
【0048】
次の実施例におけるこのTFF手法の開発段階で、初代ヒト細胞(典型的には、成体間葉系幹細胞またはヒト皮膚繊維芽細胞)を「セルファクトリー」(CorningまたはNunc(登録商標))で培養し、複数のバッグ(Lonza)に回収した。実験開始前に、回収した細胞のバッグを、プラスチックチューブの無菌接合または他の無菌接続によって処理バッグ(図1のバッグ番号1)に接続し、図1に示す供給ポンプ(Masterflex L/S)を用いて細胞懸濁液を処理バッグに移した。処理バッグには細胞懸濁液がバッグ容量の半分〜2/3まで充填した。再循環ポンプ(Watson−Marlow−323EまたはSpectrum Krosflow)(図1に示すとおりである)をゆっくり始動させ、目的とする速度まで上げた。次いで、透過ポンプ(Masterflex L/S)(図1に示すとおりである)をゆっくり始動させ、目的とする速度に上げた。供給ポンプおよび透過ポンプを同じサイズのチューブ(3/16インチまたは1/4インチID)を用いて同じ速度で運転して、本プロセスの容量減少工程中、処理バッグ内で一定の液体容量を維持した。再循環ポンプには、1/4インチまたは3/8インチIDのチューブを典型的に用い、一定の速度で運転して望ましい入口流量を得た。細胞懸濁液サンプルを定期的に収集して、Nucleocounter(New Brunswick Scientific)または他の細胞計数技術を用いて細胞密度および生存率を測定した。
【0049】
典型的には、バルク容量を(所望の細胞濃度に応じて)約100〜800mLの範囲内に減少させたら、バッファーバッグを処理バッグに接続することによってダイアフィルトレーションを開始させた。ダイアフィルトレーションバッファーの8〜10容量の同等物で細胞を洗浄して、残留する培養成分および回収成分の減少を達成させた。次いで、処理バッグ内の容量を上記のように濾過によってさらに減少させて、処方のために所望の細胞濃度を達成してもよい。所望の細胞濃度を達成したら、全てのポンプを停止させ、フィルターおよびチューブの細胞懸濁液を重力によって処理バッグ中に排出した。細胞計数のために処理バッグの最終サンプルを得、低温保存のために細胞懸濁液を処方し、バイアルに充填した。
【0050】
回収した細胞懸濁液10〜100Lでの細胞療法プロセスの重大な品質パラメーターには:細胞を1000万細胞/mLより高く濃縮する際の少なくとも90%の細胞生存率および高い細胞機能性の維持;少なくとも約85%の全体細胞回収率((入細胞−出細胞)/入細胞として定義される)の取得;ウシ血清アルブミン(BSA)などの培養培地残留物の1ug/mL未満への低下(例えば、連邦規則集第21編第610.15項を参照のこと);および細胞死を制限する細胞処理時間、例えば、約3時間未満の維持、が含まれる。
【0051】
実施例1.剪断速度の影響
高剪断速度は、フィルターの汚れを最小限に抑えるのに役立ち(フィルター材料への細胞の吸着を防ぎ)、そうすることによって流束を最大にし、処理時間を最小限に抑えるため、TFFプロセスでは一般的である。この一連の実験の目的は、最終細胞懸濁液の重大な品質パラメーターを維持しながら剪断速度を最適化することであった。TFFプロセス性能および製品品質に対する剪断速度の影響を調査するために、上記の典型的なTFF手順に従って小規模(3〜5L)実験を行った。剪断速度は、=〜(式中、rは剪断速度(単位=秒−1)であり、qは繊維ルーメンを通るフィルター入口流量(単位=m3/秒)であり、Rは繊維半径(単位 m)である)として計算した。明記したフィルターおよびチューブを含む任意の装置では、フィルター入口流量(すなわち、図1の供給ポンプの流量)によって剪断速度を制御した。2〜3のセルファクトリー(40段 Nunc)からおよそ20億〜30億のヒト皮膚繊維芽細胞を回収し、0.5ft2サイズのフィルター(GE社製PN:RTPCFP−6−D−4M)を用いて処理した。実験開始時の細胞濃度は2.5×105〜5×105細胞/mLの範囲に及び、典型的なTFFプロセスに従って容量を62±9分間濃縮した。中空糸フィルターで処理を行い、場合によっては(過大な剪断速度)ダイアフィルトレーションを行わなかった。表1のデータは、高剪断速度が細胞生存率に悪影響を及ぼしたことを示している。
【表1】
【0052】
数回の実験に関する剪断速度の傾向解析によって最終濃縮細胞製品の生存率に対する剪断力の影響を示し(図2)、この場合、「生存率の低下」は、Nucleocounterアッセイによって測定されるTFF前およびTFF後の細胞生存率の差異として定義される。
【0053】
結論:この一連の研究によって、最終細胞生存率が本プロセスの液体剪断速度に依存し、その剪断速度は約3000秒−1より低く維持されることが好ましいはずであることが示される。
【0054】
実施例2.細胞懸濁液の品質パラメーターに対するTMPの影響
膜間差圧(TMP)はTFFの重大な処理変数である。透過制御のないプロセス(例えば、上記の’669号特許の場合など)の間、TMPは透過流の主な推進力であり、流束を制御する。よって、高TMPは高流束および低処理時間に至らせる。そのため、我々は、明記した装置を用いて処理した細胞の品質パラメーターに対するTMPの影響を判定することに着手した。本実験では、セルファクトリー(40段 Nunc)からおよそ29億のヒト皮膚繊維芽細胞(hDF)を回収し、0.5ft2サイズの中空糸フィルター(GE社製PN:RTPCFP−6−D−4M)を用いて3500〜3900秒−1の比較的高剪断速度で処理した。この高剪断速度は、細胞生存率を最大にしながらフィルターの汚れを最小限に抑えるために選択した。TMPは、TMP=P 2 P2 P3(式中、P1はフィルター入口圧力であり、P2はフィルター出口圧力であり、P3は透過圧力である)として計算した。所定の装置では、図1に示す再循環ポンプおよび透過ポンプのポンプ流量の制御を通じてP1、P2および/またはP3を変えることによってTMPを制御した。実験開始時の細胞濃度は4.2×105細胞/mLであり、上記の典型的なプロセスに本質的に従って細胞を濃縮した。図3aおよび図3bは、TFFプロセス性能および製品品質に対する中度のTMPレベル(5〜10psi)の影響を示している。
【0055】
処理中、TMPはフィルターの目詰まりから5psiを超えるまでに上昇したため、生存率および細胞回収率の両方に影響を及ぼした。容量減少工程中に細胞生存率は90%より低く低下し(ダイアフィルトレーションを行う他の実験によって、処理が続く場合には生存率が80%未満に低下し得ることが立証されている)、これは処理中の剪断速度によるものであった可能性がある。しかしながら、高膜間差圧から処理中にほぼ90%の細胞が消失したことが重要であり、この高膜間差圧によってフィルターの汚れが進み、流束がほぼゼロに減少した。
【0056】
結論:本実験中に細胞生存率は90%より低く低下し(容量減少工程だけの間、プロセス性能の不良からダイアフィルトレーションを行うことができなかった)、細胞製品のかなりの部分(88%)が消失した。さらに、>10M/mLの処方用細胞懸濁液の取得は、フィルターの汚れおよび細胞回収率の不良から達成できなかった(終濃度はたった0.5M細胞/mLであった)。従って、本実験によって、5psiより高いTMPが細胞生存率、最終細胞濃度および細胞回収率に悪影響を及ぼすことが示される。これは、治療用細胞製品の品質特性を維持するために処理時間(流束による)と他の処理パラメーターとのバランスをとることの重要性の基礎となる。
【0057】
さらなる研究によって、許容される(少なくとも90%)回収率が約1psi以下のTMPを用いて得られるのに対し、約1psiより高く5psiまでのTMPは細胞回収率に対して中度の影響を及ぼし、5psiを超えるTMPは細胞回収率に対して重大な悪影響を及ぼすことが示された。図3cは、複数回のTFF実験のTMP(運転中の平均)、細胞回収率および細胞生存率についての傾向チャートである。
【0058】
実施例3.流束に対する孔径の影響
TFFプロセス性能および製品品質に対するフィルター孔径の影響を調査するために、小規模(3〜5L)実験を行った。セルファクトリー(40段 Nunc)からおよそ30億のヒト皮膚繊維芽細胞を回収し、0.65ミクロン孔(GE社製PN:RTPCFP−6−D−4M)または0.1ミクロン孔(RTPCFP−1−E−4M)の0.5ft2サイズの中空糸フィルターを用いて処理した。実験開始時の細胞濃度は、4×105〜5×105細胞/mLの範囲に及び、上記の典型的なプロセスに本質的に従って濃縮した。下記の表2は、試験したフィルター孔径の範囲および対応する製品品質パラメーターおよびプロセス性能パラメーターを示している。
【表2】
【0059】
0.1ミクロン孔フィルターを用いた実験は透過流量(流束)の不良から完了することができなかった。そのため、細胞回収率および処理時間のデータは適用しない(「N/A*」)
図4は、TFFプロセス性能に対するフィルター孔径の影響を調査するために行った実験の流束およびTMPを示している。
【0060】
結論:この一連の研究によって、0.65ミクロンから0.1ミクロンへの孔径の減少はフィルターの汚れにつながり、流束は減少し、TMPは上昇し、これは最終的には最終細胞製品の重大な品質パラメーターに対して悪影響を及ぼし、多くの場合には製品欠陥(生存率<80%)に至ることが示される。
【0061】
実施例4.高流束の影響
TFFプロセス性能および製品品質に対する高流束の影響を調査するために、小規模(3〜5L)実験を行った。セルファクトリー(40段 Nunc)からおよそ30億のヒト皮膚繊維芽細胞を回収し、0.5ft2サイズの中空糸フィルター(GE社製PN:RTPCFP−6−D−4M)を用いて処理した。実験開始時の細胞濃度は、2.5×105〜5×105細胞/mLの範囲に及び、上記の典型的なプロセスに本質的に従って濃縮した。流束は、再循環速度を維持しながら透過流量を増加させることによって制御した。下記の表3は、達成した流束の範囲および対応する製品品質パラメーターを示している。流束は、150〜350LMHの範囲に及び、剪断速度は、2000〜3000秒−1の範囲に及んだ。
【表3】
【0062】
結論:この一連の研究によって、流束(単位 LMH)は、剪断速度およびTMPを最小限に抑え、少なくとも90%の細胞生存率および少なくとも90%の細胞回収率を維持しながら透過流量の制御を用いて150〜350LMHの範囲で達成することができることが示される。大容量の場合にはこの高流束により処理時間の最小化が見込まれ、この最小化は製品品質に対して全体的な良い影響を及ぼす。
【0063】
実施例5.ヒト間葉系幹細胞(hMSC)の大規模バイオプロセス
上記の典型的な手順および図1のTFFシステムを用い、複数のNuncまたはCorningの40段の培養容器を用いてヒト間葉系幹細胞(Lonza社BioscienceのMSC)を増殖させ、2〜4×105細胞/mL〜4×107細胞/mLまでの回収濃度から濃縮し、その際、約95%の細胞生存率を維持し、本プロセスから本質的に全ての細胞を回収した。図5を参照のこと。濃縮および8〜10ダイアフィルトレーション容量のヒト血清アルブミン(HSA)含有生理食塩水を用いたダイアフィルトレーションの後、濃縮した細胞の最終BSA残留レベルは100ng/mL未満に低下していた(図6)。次いで、規模拡張可能なシングルユース用システムを用いてそれらの細胞をさらに処理した。容量減少および洗浄後に、Nucleocounterを用いてhMSCを計数して、濃度および生存率を確認し、TFF処理収率を確認し、さらに処方の指針とした。約8〜12M細胞/mLでProFreeze(商標)(Lonza)中7.5%ジメチルスルホキシド(DMSO)の最終溶液を得るために細胞を処方した。処方されたhMSCを、Flexicon(登録商標)ポンプおよび処方バッグに接続されたシングルユース用チューブセットを用いて20mLバイアルに分注した。バイアルは、大量に(大規模凍結をシミュレーションするために約200のバイアル)速度制御付きフリーザーで凍結し、気相液体窒素に入れて7〜14日間保存した。最終容器中で、融解時、細胞生存率(図7)および生細胞回収率は90%をはるかに超えて維持された。TFFプロセスが処理細胞の全体的健康および生存率に対して何らかの影響を及ぼしたかどうかを評価するために、処理細胞および未処理細胞を96ウェルプレートに1ウェル当たり30,000細胞で播種し、Vialight(登録商標)(Lonza)細胞代謝・生存率アッセイを用いて24時間生存率および細胞機能性をモニタリングした。重要なことには、TFFプロセスは大規模(40段)培養プラットフォームから回収された細胞に対してほとんど〜全く影響を及ぼしていなかった(図8)。
【0064】
この一連の研究によって、増殖させ大規模培養容器に回収した臨床的に関連のある細胞(すなわち、ヒトMSC)を本発明のTFFプロセスを用いてうまく濃縮し洗浄することができ、残留タンパク質が除去されるのと同時に、低温保存後でも生存率および最終細胞製品の収率などの重大な品質パラメーターが維持されることが示される。これらの細胞は、未処理細胞と比べて、培養下で生物学的機能性を維持し、高濃度で低温保存することができ、処理後に優れた回収率を示す。要約すれば、これらのデータは、TFFが大規模細胞療法製造のための容量減少および洗浄についての信頼性のある方法であることを示している。
【0065】
実施例6.大規模(25L)処理運転
大規模(25L)でTFFプロセス性能および製品品質を評価するために、本実験を行った。本実験では、複数の振盪フラスコ(Corning(登録商標))からおよそ180億のCHO細胞を回収し、1.7ft2サイズの中空糸フィルター(GE社製PN:RTPCFP−6−D−5)を用いて処理した。実験開始時の細胞濃度は、2.5×105〜5×105細胞/mLの範囲に及び、上記の典型的なプロセスに従って、表4に示すTMPパラメーターおよび流束パラメーターを用いて濃縮し、表4には、製品品質パラメーターおよびプロセス性能パラメーターも示している。
【表4】
【0066】
図9は、大規模(25L)でのTFFプロセス性能および製品品質を評価するために行った実験の流束およびTMPを示している。
【0067】
図10は、大規模(25L)でのTFFプロセス性能および製品品質を評価するために行った実験の細胞生存率および回収率を示している。
【0068】
結論:この研究によって、最終細胞製品の重大な品質パラメーターを維持しながらの、本プロセスの商業規模への規模拡張性が示される。
【0069】
実施例7.中空糸フィルター型および平面フィルター型の比較
細胞処理へのフラットシートフィルター使用の実現可能性を調査するために、小規模実験を行った。これらの実験では、8〜12の10段のセルファクトリーまたは1〜3の40段のセルファクトリーからおよそ10億〜30億の間葉系幹細胞またはヒト皮膚繊維芽細胞を回収し、中空糸フィルター(0.5ft2または1ft2サイズのフィルター(GE社製PN:RTPCFP−6−D−4M))またはSartorius社およびPall社製の0.1〜0.65pmのフラットシートフィルターのいずれかを用いて処理した。実験開始時の細胞濃度は、4.5×105〜5×105細胞/mLの範囲に及んだ。実施例1のプロセスに本質的に従って細胞を濃縮した。
【0070】
図11はフラットシート運転の例を示し、図12は中空糸フィルター運転の例を示している。
【0071】
結論:この一連の研究によって、TFFプラットフォームの種類、すなわち、中空糸またはフラットシートが、本システムの重大な品質パラメーターに実質的に影響を与えず、そして、TFFプラットフォームに関係なく、本発明によって細胞生存率および細胞回収率を達成することができることが示される。
【0072】
実施例8.最終細胞濃度
TFFプロセスを用いての高細胞濃度達成の実現可能性を調査するために、小規模(3〜5L)実験を行った。4〜5のセルファクトリー(40段 Nunc)からおよそ50億のヒト皮膚繊維芽細胞を回収し、0.5ft2サイズの中空糸フィルター(GE社製PN:RTPCFP−6−D−4M)を用いて処理した。第2の実験では、複数の振盪フラスコからおよそ100億のチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を回収し、全く同じ0.5ft2サイズの中空糸フィルターを用いて処理した。実験開始時の細胞密度は、約4×105〜5×105細胞/mLの範囲に及び、上記の典型的なプロセスに本質的に従って細胞を濃縮した。図13は、CHO実験の過程において達成された総細胞密度(TCD)を時間の関数として示し、表5には、両実験についての達成された最終TCDおよび対応する製品品質パラメーターを示している。
【表5】
【0073】
結論:この一連の研究によって、細胞生存率および回収率を維持しながら、少なくとも、5000万/mLより高い密度に細胞を濃縮し得ることが示される。他の類似実験では、本発明の方法によって1億細胞/mLを超えるTCDが達成されている。
【0074】
実施例9.フィルター充填容量
これらの研究では、1〜2のセルファクトリー(40段 Nunc)からhMSC細胞を、複数の振盪フラスコからCHO細胞を回収した。0.5ft2中空糸フィルター(GE社製PN:RTPCFP−6−D−4M)を用いてhMSC細胞を処理し、1.7ft2中空糸フィルター(GE社製PN:RTPCFP−6−D−5)を用いてCHO細胞を処理した。実験開始時の細胞濃度は、2.5×105〜5.6×105細胞/mLの範囲に及び、実施例1のプロセスに従って濃縮した。
【0075】
下記の表6には、フィルターの面積当たりの処理細胞の範囲および対応する製品品質パラメーターを示している。
【表6】
【0076】
結論:この一連の研究によって、許容される細胞生存率および回収率を維持しながら、14億細胞/ft2ほど低くも、86億細胞/ft2ほど高くもフィルターに充填し得ることが示される。加えて、理論的には、フィルター充填量は少なくとも7.5億細胞/ft2ほど少なくてもよく、その際には、許容されるプロセス性能パラメーターが維持される。
【0077】
本発明の実施形態を記載してきたが、それらの実施形態は本発明の原理の応用の一部の例示であることは理解されるであろう。当業者ならば、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく非常に多くの修飾を行うことができる。
【0078】
実施例10.FTセンサーを備えたTFFシステム
図13は、Lonza社で設計された、中空糸フィルターおよび生細胞密度(VCD)流水式センサー/検出器(FTセンサー)を備えた、完全に閉鎖された完全使い捨てのTFFシステムを示している。チューブ、使い捨てのセンサー(図13のP1、P2、P3およびS1)(VCDセンサーを含む)および処理貯槽(図1のバッグ番号1)は、注文組立し、ガンマ線によって滅菌した。使い捨てのVCDセンサーの使用によってTFF中の製品サンプリングがなくなり、その結果、リスクが最小限に抑えられ、製品品質および安全性が向上する。使い捨てのフィルターは、GE社から供給されたものであり(RTPCFP−6−D−4M、RTPCFP−1−E−4MおよびPN:RTPCFP−6−D−5)、無菌で組立を行った。この構成または非常に類似した構成で複数回のTFF運転を完了した。加えて、TFFシステムは、中空糸フィルターの代わりにフラットシートフィルターも使用し得る。フラットシートフィルターを用いて実現可能性の研究を行った。典型的なTFFプロセスは2工程−容量減少およびダイアフィルトレーション、で構成される。容量減少工程の間に、図13に示した処理バッグ内で所望の細胞濃度に達するまでバルク容量(細胞培養培地)がフィルターの透過物側から濾去される。容量減少工程の後にダイアフィルトレーション工程が続く。ダイアフィルトレーションの間に、濃縮された細胞がバッファーで洗浄され、不純物が除去される。
【0079】
典型的なTFF実験では、初代ヒト細胞(ほとんどの場合、間葉系幹細胞またはヒト皮膚繊維芽細胞)をセルファクトリー(CorningまたはNunc(登録商標))で培養し、複数のバッグ(Lonza)に回収する。TFF実験開始前に、回収した細胞のバッグを、無菌接合または他の無菌接続によって処理バッグ(図13のバッグ番号1)に接続し、図13に示す供給ポンプ(Masterflex L/S)を用いて細胞懸濁液をそのバッグに移す。VCD FTセンサーからのシグナルはアンプケーブルを通ってFogale社製のヒューマンマシンインターフェース(HMI)に送られる。そのシグナルはVCD基準に変換され、HMIに表示される。このVCDデータを用いて、TFF操作中に最適の最終細胞密度および/または濃縮係数が決定される。処理バッグには細胞懸濁液がバッグ容量の半分〜2/3まで充填される。再循環ポンプ(Watson−Marlow−323EまたはSpectrum KrosFlow)(図1に示すとおりである)をゆっくり始動させ、目的とする速度まで上げる。次いで、透過ポンプ(Masterflex L/S)(図13に示すとおりである)をゆっくり始動させ、目的とする速度に上げる。供給ポンプおよび透過ポンプを同じサイズのチューブ(3/16インチ、1/4インチまたは3/8インチID)を用いて同じ速度で運転して、本プロセスの容量減少工程中、処理バッグ内で一定の液体容量を維持する。再循環ポンプには、1/4インチまたは3/8インチIDのチューブを典型的に用い、一定の速度で運転して望ましい入口流量を得る。細胞懸濁液サンプルを定期的に収集して、Nucleocounter(NC)(New Brunswick Scientific)または他の細胞計数技術を用いて細胞密度および生存率を測定し得る。典型的には、一度、バルク容量をVCD FTセンサーからのVCDデータに基づいて100〜800mLの範囲内に減少させたら、バッファーバッグを処理バッグに接続することによってダイアフィルトレーション工程を開始させる。ダイアフィルトレーションバッファーの8〜10容量の同等物で細胞を洗浄して、残留する培養試薬および回収試薬の減少を達成させる。処理バッグ内の容量をさらに減少させて、処方のためにVCD FTセンサーからのVCDデータに基づいて所望の細胞濃度を達成してもよい。一度、所望の細胞濃度が達成されたら、全てのポンプを停止させる。フィルターおよびチューブの細胞懸濁液を重力によって処理バッグ中に排出する。細胞計数のために処理バッグの最終サンプルを得、低温保存のために細胞懸濁液を処方し、バイアルに充填する。
【0080】
細胞療法プロセスの重大な品質パラメーターでは、細胞を5M細胞/mLより高く濃縮しながら細胞生存率>90%を維持しなければならず、細胞機能性も維持しなければならない。
【0081】
この一連の構造によって、間葉系幹細胞は2〜4×105から.3x107細胞/mLまで濃縮することができ、VCDセンサーシグナル(誘電率)がNucleocounterによる方法を用いて測定されるVCDの増加と相関することが示される(図13)。重要なことには、このプロセスは完全使い捨てのシングルユース用構成で行い得る。
【0082】
いくつかの具体的な実施形態についての前述の説明は、他者が、現在の知識を適用することによって、包括的概念から逸脱することなくそのような具体的な実施形態を様々な用途に向けて容易に修飾しまたは改変することができる十分な情報を提供しており、それゆえ、そのような改変および修飾は、開示した実施形態の均等物の意味および範囲内に包含されるべきであり、そうであることが意図されている。本明細書において使用した表現または用語は、説明を目的としており、限定するものではないことを理解されたい。図面および説明では、例示的な実施形態を開示しており、特有語を使用したが、それらは、特に断りのない限り、一般的かつ記述的な意味でのみ使用しており、限定するものではなく、それゆえ、特許請求の範囲の範囲はそのように限定されない。さらに、本明細書において論じた方法の特定の工程は別の順序で並べることができ、または工程を組み合わせることもできることは当業者ならば分かるであろう。よって、添付の特許請求の範囲は本明細書に開示した特定の実施形態に限定されないことが意図される。
【0083】
本明細書に引用した出願および特許の各々、ならびに出願および特許の各々において引用された各文書または参照文献(各発行済み特許の審査中のものを包含する;「出願引用文献」)、およびこれらの出願および特許のいずれかに対応するおよび/またはその優先権を主張するPCTおよび外国出願または特許の各々、および出願引用文献の各々において引用されたまたは参照された文書の各々は、参照により本明細書に明示的に組み入れられる。より一般には、文書または参照文献は、本明細書末尾の参照文献リスト;または本明細書自体のいずれか;において引用されており、そして、これらの文書または参照文献の各々(「本明細書引用参照文献」)、ならびに本明細書引用参照文献の各々において引用された各文書または参照文献(製造業者の仕様書、使用説明書などのいずれもを包含する)は、参照により本明細書に明示的に組み入れられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性培地中の生存哺乳類細胞を無菌処理して、細胞密度が少なくとも約500万細胞/mLでありかつ細胞生存率が少なくとも約70%である細胞懸濁液を作製するための方法であって、孔径が0.1ミクロンより大きいタンジェンシャルフローフィルター(TFF)を用いて該培地の容量を減少させる工程を含み、該工程中、膜間差圧(TMP)が約3psi未満で維持されかつ剪断速度が約4000秒−1未満で維持される、上記方法。
【請求項2】
細胞生存率が少なくとも約80%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞生存率が少なくとも約90%である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
剪断速度が約3000秒−1未満で維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
TMPが約1psi未満で維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
TFFの孔径が約0.65ミクロンである、請求項1に記載の方法。。
【請求項7】
TFFが、少なくとも約0.5ft2の濾過表面積を有する中空糸フィルターである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記フィルターを通る流束が少なくとも約50L/m2hである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記フィルターを通る流束が少なくとも約300L/m2hである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞懸濁液中の細胞の回収率が前記水性培地中の細胞の少なくとも約80%であり、この際、該回収率が開始時細胞数と最終細胞数の割合として決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞懸濁液が約1000万〜約7500万生細胞/mLの間で含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞懸濁液が約1000万〜約2億の間で生細胞を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記懸濁液中の細胞の生存率が約90%〜約100%の間である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
TFFを用いて、前記細胞懸濁液の容量の少なくとも約4倍に等しい水性洗浄培地の容量で前記懸濁液の細胞を洗浄するダイアフィルトレーション工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞懸濁液中の望ましくない可溶性成分の残留レベルが前記水性培地中の残留レベルと比べて少なくとも約1000倍低下する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記残留レベルが前記細胞懸濁液の約1ppm未満に低下する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
センサーを用いて生細胞濃度を測定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
センサーを用いて総細胞生存率を測定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記センサーからシグナルを検出することをさらに含み、TFF中のサンプリングが排除される、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
処理段階を決定するために前記シグナルを処理することをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記処理が、評価処理するためにフィードバックを提供することをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記シグナルがアンプセンサーを通ってヒューマンマシンインターフェースに送られる、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記シグナルを可変細胞密度(VCD)データに変換することをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
最適の最終細胞密度および/または濃縮係数を決定するために前記VCDデータを解析することをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項25】
治療用組成物に用いる細胞を製造する方法であって、
大規模細胞培養を用いて細胞を増殖させる工程;
水性培地中の細胞を回収する工程、
該水性培地中の細胞の容量を減少させ、請求項11に記載の方法においてTFFを用いて該細胞を洗浄する工程、
得られた細胞懸濁液を凍結防止培地中で処方し、細胞生存率の長期維持に好適な条件下で該処方細胞を凍結し保存する工程を含み、
該凍結処方細胞が次のパラメーター:少なくとも約80%の融解時細胞生存率;約500万細胞/mLより高い生細胞密度;および処方細胞中の望ましくない可溶性成分の残留レベルが約1ppm未満のレベルに低下している、を示す、方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法によって作製された、製品。
【請求項1】
水性培地中の生存哺乳類細胞を無菌処理して、細胞密度が少なくとも約500万細胞/mLでありかつ細胞生存率が少なくとも約70%である細胞懸濁液を作製するための方法であって、孔径が0.1ミクロンより大きいタンジェンシャルフローフィルター(TFF)を用いて該培地の容量を減少させる工程を含み、該工程中、膜間差圧(TMP)が約3psi未満で維持されかつ剪断速度が約4000秒−1未満で維持される、上記方法。
【請求項2】
細胞生存率が少なくとも約80%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞生存率が少なくとも約90%である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
剪断速度が約3000秒−1未満で維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
TMPが約1psi未満で維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
TFFの孔径が約0.65ミクロンである、請求項1に記載の方法。。
【請求項7】
TFFが、少なくとも約0.5ft2の濾過表面積を有する中空糸フィルターである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記フィルターを通る流束が少なくとも約50L/m2hである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記フィルターを通る流束が少なくとも約300L/m2hである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞懸濁液中の細胞の回収率が前記水性培地中の細胞の少なくとも約80%であり、この際、該回収率が開始時細胞数と最終細胞数の割合として決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞懸濁液が約1000万〜約7500万生細胞/mLの間で含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞懸濁液が約1000万〜約2億の間で生細胞を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記懸濁液中の細胞の生存率が約90%〜約100%の間である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
TFFを用いて、前記細胞懸濁液の容量の少なくとも約4倍に等しい水性洗浄培地の容量で前記懸濁液の細胞を洗浄するダイアフィルトレーション工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞懸濁液中の望ましくない可溶性成分の残留レベルが前記水性培地中の残留レベルと比べて少なくとも約1000倍低下する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記残留レベルが前記細胞懸濁液の約1ppm未満に低下する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
センサーを用いて生細胞濃度を測定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
センサーを用いて総細胞生存率を測定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記センサーからシグナルを検出することをさらに含み、TFF中のサンプリングが排除される、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
処理段階を決定するために前記シグナルを処理することをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記処理が、評価処理するためにフィードバックを提供することをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記シグナルがアンプセンサーを通ってヒューマンマシンインターフェースに送られる、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記シグナルを可変細胞密度(VCD)データに変換することをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
最適の最終細胞密度および/または濃縮係数を決定するために前記VCDデータを解析することをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項25】
治療用組成物に用いる細胞を製造する方法であって、
大規模細胞培養を用いて細胞を増殖させる工程;
水性培地中の細胞を回収する工程、
該水性培地中の細胞の容量を減少させ、請求項11に記載の方法においてTFFを用いて該細胞を洗浄する工程、
得られた細胞懸濁液を凍結防止培地中で処方し、細胞生存率の長期維持に好適な条件下で該処方細胞を凍結し保存する工程を含み、
該凍結処方細胞が次のパラメーター:少なくとも約80%の融解時細胞生存率;約500万細胞/mLより高い生細胞密度;および処方細胞中の望ましくない可溶性成分の残留レベルが約1ppm未満のレベルに低下している、を示す、方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法によって作製された、製品。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2013−517771(P2013−517771A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550151(P2012−550151)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【国際出願番号】PCT/US2011/022054
【国際公開番号】WO2011/091248
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(512190365)ロンザ ウォーカーズヴィル,インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【国際出願番号】PCT/US2011/022054
【国際公開番号】WO2011/091248
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(512190365)ロンザ ウォーカーズヴィル,インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】
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