説明

タンタル粉末およびその製造方法

【課題】取り扱い性が高く、優れた性能のタンタル電解コンデンサを確実に製造できるタンタル粉末を提供する。
【解決手段】本発明のタンタル粉末は、空気透過式比表面積測定装置を用いて測定した粒子径Dが0.2〜1.0μm、かつ、ASTM B330−02に準拠して測定した粒子径Dと前記粒子径Dとの比(D/D)が1.0〜3.0である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンタル電解コンデンサに用いられるタンタル粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンタル電解コンデンサは、タンタル粉末の成形体からなる陽極と、陽極を化成処理して設けた誘電体である酸化膜と、酸化膜に対向して設けられた陰極とを備えたものである。
タンタル電解コンデンサの性能、特に容量は、陽極を構成するタンタル粉末の粒子径に影響を受け、また、漏れ電流、等価直列抵抗はタンタル粉末の高次構造に影響を受ける。そのため、通常、タンタル電解コンデンサの性能を向上させるために、タンタル粉末の粒子径が特定の範囲になるように調整する(例えば特許文献1参照)。
タンタル粉末の粒子径の測定方法としては、ASTM B330−20に基づいた方法が広く用いられる。
【特許文献1】特表2002−516385号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1のように、タンタル電解コンデンサの性能を向上させるために、ASTM B330−20に基づいて測定されるタンタル粉末の粒子径を特定範囲にしたにもかかわらず、タンタル電解コンデンサの性能が高くならないことがあった。さらに、粒子径によってはタンタル粉末の取り扱い性が困難になり、タンタル電解コンデンサとした際に期待される性能が発揮されないことがあった。
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、取り扱い性が高く、優れた性能のタンタル電解コンデンサを確実に製造できるタンタル粉末およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らが、タンタル粉末の粒子径を特定範囲にしても必ずしもタンタル電解コンデンサの性能が高くならない原因について調べた結果、タンタル粉末の粒子径測定で従来採用されていたASTM B330−02に基づく粒子径測定方法に問題があることを見出した。すなわち、ASTM B330−02に基づく粒子径測定方法では、粉末を圧縮せずに測定するが、通常、タンタル電解コンデンサを製造する際にはタンタル粉末を圧縮成形するため、圧縮成形前と後では粒子径が変化することを見出した。したがって、ASTM B330−02に基づいて測定した粒子径を特定しても、圧縮成形後には粒子径が変化してしまって、タンタル電解コンデンサとして充分に性能を発揮しない、あるいは、取り扱い性の低いタンタル粉末となる場合があることを見出した。そして、このような知見に基づき、さらに検討して、以下のタンタル粉末およびその製造方法を発明した。
【0005】
[1] 空気透過式比表面積測定装置を用いて測定した粒子径Dが0.2〜1.0μm、かつ、ASTM B330−02に準拠して測定した粒子径Dと前記粒子径Dとの比(D/D)が1.0〜3.0であることを特徴とするタンタル粉末。
[2] [1]に記載のタンタル粉末を製造するタンタル粉末の製造方法であって、
タンタルの凝集粉を解砕して解砕粉を得る解砕工程と、
解砕粉を脱酸素剤存在下で加熱し、凝集させて第1の再凝集粉を得る第1の再凝集工程と、
第1の再凝集粉を解砕して第1の再解砕粉を得る第1の再解砕工程と、
第1の再解砕粉を脱酸素剤存在下で加熱し、凝集させて第2の再凝集粉を得る第2の再凝集工程と、
第2の再凝集粉を解砕して第2の再解砕粉を得る第2の再解砕工程とを有することを特徴とすることを特徴とするタンタル粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明のタンタル粉末は、取り扱い性が高く、優れた性能のタンタル電解コンデンサを確実に製造できるものである。
本発明のタンタル粉末の製造方法によれば、取り扱い性が高く、優れた性能のタンタル電解コンデンサを確実に製造できるタンタル粉末を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(タンタル粉末)
本発明のタンタル粉末は、空気透過式比表面積測定装置を用いて測定した粒子径Dが0.2〜1.0μm、好ましくは0.2〜0.85μm、より好ましくは0.2〜0.6μmである。本発明者らが調べたところ、粒子径Dが1.0μm以下のタンタル粉末を用いたタンタル電解コンデンサはCV値が向上し、漏れ電流およびESRも向上することがわかった。また、粒子径Dが0.2μm以上であることにより、タンタル粉末に必要な強度が確保され、取り扱い性が高くなることがわかった。
【0008】
空気透過式比表面積測定装置を用いた粒子径Dは、空気透過式比表面積測定装置を用いて粉末の比表面積S(cm/g)を求め、その比表面積Sを、D=6/(ρ・S) (1)に代入することにより求められる(式(1)におけるρは金属タンタルの密度;16.6g/cm)。
なお、式(1)は、球体の体積V=(1/6)・π・Dと球体の比表面積S=π・D/w(wはタンタル粉末の質量(g))の式およびρ=w/Vの式により導出される。
【0009】
空気透過式比表面積測定装置による比表面積の測定方法は、粉末を球状粒子と仮定した場合に、粉末からなる試料層を透過する空気の透過性と比表面積との関係を表した下記の式(2)(コゼニー−カーマンの式)を利用する測定方法である。
この測定で使用される空気透過式比表面積測定装置は、図1に示すように、粉末の試料からなる試料層11aが充填される管状のセル11と、セル11が装着され、底部12aが有孔部材からなるセル装着部12と、標線Xと標線Yが記された液面計13aを備え、鉛直に配置され、水が充填される水充填管13と、水を排出する排出口14と、水充填管13および排出口14を接続する可撓性の接続管15と、接続管15に設けられた開閉弁16と、排出口14から排出された水を受ける容器17とを備える測定装置10である。なお、この測定装置10の例としては、島津製作所製粉体比表面積測定装置SS−100形などが挙げられる。
【0010】
【数1】

【0011】
式(2)において、Sはタンタル粉末の比表面積、ρは金属タンタルの密度(16.6g/cm)、△Pは試料層11aを透過する空気の圧力(以下、透過圧力という。)、μは空気の粘度(0.00018g/(cm・秒))、Aは試料層11aの断面積(セル11の孔の断面積)、tは、排出口14から水を排出した際に水面が標線Xから標線Yに降下するまでの時間、Lは試料層11aの高さ、Qは試料層11aを透過する空気の体積、εは試料層11aの空隙率であり、1−{W/(ρ・A・L)}の式で求められる値である(Wは試料層11aの質量である。)。なお、本発明における測定では、△Pは排出口14の高さを調節して200mmHOになるように調整する。また、試料層11aを透過する空気の体積Qは、水面が標線Xから標線Yに降下した際に水充填管13から流出する水の体積に等しい。
【0012】
空気透過式比表面積測定装置による比表面積の測定方法では、まず、セル11内にタンタル粉末を充填し、圧縮して試料層11aを形成する。試料層11aを形成する際のタンタル粉末の充填質量Wは16.6gである。また、測定精度が高くなることから、試料層11aの密度が4.0〜4.5g/cmになるように圧縮することが好ましい。
また、開閉弁16を閉じた状態で、液面計13aの標線Xより水面が上に位置するように水充填管13に水を充填する。
次いで、試料層11aの高さLを測定した後、セル11をセル装着部12に装着する。次いで、開閉弁16を開き、排出口14から水を排出させて、試料層11aを介して水充填管13に空気を流入させる。これにより、セル11内の試料層11aに空気を透過させ、液面計13aにおける水面が標線Xから標線Yに降下するまでの時間tを測定する。
そして、式(2)にρ,△P,A,t,μ、L,Q,εの各値を代入して、Sを求める。
空気透過式比表面積測定装置を用いた測定では、粉末内での空気の流れの状態が反映されるため、求められた粒子径Dは、二次粒子の構造および三次粒子の構造が反映されている。
【0013】
また、本発明のタンタル粉末は、ASTM B330−02に準拠して測定した粒子径Dと前記粒子径Dとの比(D/D)が1.0〜3.0であり、1.0〜1.6 であることが好ましく、1.0〜1.3であることがより好ましい。本発明者らが調べたところ、D/Dの比が3.0以下であることにより、性能の優れたタンタル電解コンデンサを確実に製造できるタンタル粉末となることがわかった。D/Dの比が3.0以下のタンタル粉末でタンタル電解コンデンサの性能が高くなるのは、圧縮時に二次粒子または三次粒子の構造が壊れにくいためであると考えられる。
なお、D/Dの比が1.0未満になることはない。
【0014】
ASTM B330−02に準拠して測定した粒子径Dは、下記の式(3)を利用して求められる粒子径である。
粒子径Dを測定する測定装置は、図2に示すように、空気を供給するポンプ等の送気手段21と、第1の配管22aを介して送気手段21に接続され、空気を乾燥する乾燥手段22と、第2の配管23aを介して乾燥手段22に接続され、試料層23bが充填された管状の測定用セル23と、第3の配管24aを介して測定用セル23に接続され、水が充填されたマノメータ24と、第1の配管22aに接続され、先端が開放された管が水中に配置されている圧力調整器25と、第3の配管24aに接続された圧力調整弁26とを備える測定装置20である。
【0015】
【数2】

【0016】
式(3)において、Lは試料層23bの高さ、Wは試料層23bの質量、ρは金属タンタルの密度(16.6g/cm)、△Pは試料層23bを透過した空気の圧力、Pは試料層23bに供給する空気の圧力、Aは試料層23bの断面積(測定用セル23の孔の断面積)である。
【0017】
粒子径Dの測定では、まず、測定用セル23の代わりに、圧力損失を測定用セルに近似させた流量校正用セルを取り付け、送気手段21により空気を供給し、圧力調整弁26の開放度合いを調節して、圧力調整器25の管先端から泡が2〜3個/秒の間隔で生じるように流量を調整する。
また、測定用セル23内にタンタル粉末を16.6g(W)充填して試料層23bを形成する。試料層23b形成では、第1のろ紙23c上にタンタル粉を充填した後、2〜3回程度タッピングし、第2のろ紙23dを被せ、トルクレンチにて222N(ニュートン)=50lbf(エルビーエフ:重量ポンド)で加圧する。
次いで、試料層23bの高さLを測定した後、流量校正用セルを取り外して測定用セル23を取り付け、測定用セル23の試料層23bに圧力Pが50cmHOの空気を供給する。
そして、試料層23bを透過した空気の圧力が安定してからさらに5分間その状態を保った後、試料層23bを透過した空気の圧力△Pをマノメータ24により測定する。そして、式(3)にρ,△P,A,L、Wの各値を代入して、Dを求める。また、測定装置20に付属された、△Pと粒子径Dとの相関図により粒子径Dを求めることができる。
上記粒子径D2の測定では、タンタル粉末内での空気の流れの状態が反映されるため、求められた粒子径Dは、二次粒子の構造および三次粒子の構造が反映されている。
【0018】
タンタル電解コンデンサを製造する際にはタンタル粉末を圧縮してペレット化するため、タンタル粉末をセル内で圧縮して測定して求めた粒子径Dは、タンタル電解コンデンサ製造の実情に合った粒子径である。したがって、空気透過式比表面積測定装置を用いて測定した粒子径DおよびD/Dを特定したタンタル粉末を用いることにより、優れた性能のタンタル電解コンデンサを確実に製造できる。
およびD/Dが前記特定範囲であることにより、タンタル電解コンデンサの性能が高くなるのは、タンタル粉末を圧縮成形した後でも、化成処理する際に酸化液が浸透しやすく、酸化膜を均一に形成でき、タンタル電解コンデンサの漏れ電流を小さくできるためと考えられる。また、電解質が浸透しやすく、タンタル電解コンデンサのESRが小さくなるためと考えられる。
【0019】
(タンタル粉末の製造方法)
次に、上記タンタル粉末を得るためのタンタル粉末の製造方法の一実施形態について説明する。
本実施形態のタンタル粉末の製造方法では、まず、解砕工程にて、タンタルの凝集粉を解砕して解砕粉を得る。
この解砕工程で解砕するタンタルの凝集粉とは、タンタル二次粒子を凝集させた三次粒子のことである。
以下、タンタルの凝集粉を得る方法の一例を示す。
【0020】
本例では、凝集粉用のタンタル二次粒子を形成するために、図3に示すタンタル粉末の製造装置30(以下、製造装置30と略す。)を用いる。この製造装置30は、タンタル製の反応器31と、反応器31内に設置された撹拌手段32と、フッ化タンタルカリウム(KTaF)を反応器31内に添加するための第1の添加手段33と、還元剤を反応器31内に添加するための第2の添加手段34と、窒素を容器31内に添加するための第3の添加手段35と、排気管36を具備するものである。
【0021】
そして、タンタル二次粒子を製造するためには、まず、反応器31内に希釈塩を添加し、反応器31内を加熱して溶融塩31aを調製し、第3の添加手段35により窒素を添加する。次いで、撹拌手段32により反応器31内を撹拌しながら、その溶融塩31a中に、第1の添加手段33を介してフッ化タンタルカリウムを添加して溶融させる。
次いで、撹拌を継続させながら、溶融塩31a中で溶融させたフッ化タンタルカリウムに、第2の添加手段34により還元剤を添加すると共に、これにより、フッ化タンタルカリウムを還元して、一次粒子を形成させると共に一次粒子を凝集させてタンタル二次粒子を得る。この操作を適量ずつ数十回繰り返す。
【0022】
溶融塩を構成する希釈塩としては、例えば、塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、フッ化カリウム(KF)やこれらの共晶塩などが挙げられる。
還元剤としては、たとえば、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属、これらの水素化物、すなわち水素化マグネシウム、水素化カルシウムが挙げられるが、これらの中ではナトリウムが好ましい。還元剤としてナトリウムを使用すると、フッ化タンタルカリウム中のフッ素とナトリウムとが反応して、ナトリウムのフッ化物が生成する。このフッ化物は水溶性であるため、後の工程で容易に除去可能である。
【0023】
反応器31内の温度は、800〜900℃であることが好ましい。反応器31内の温度が800℃以上であれば、反応器31内の成分を確実に溶解させることができ、900℃以下であれば、生成したタンタル一次粒子の自己焼結を防止できるため、生成する粒子の粗大化を防ぐことができる。
【0024】
上記方法により得たタンタル二次粒子を凝集させる方法としては、例えば、タンタル二次粒子を熱凝集させる方法が採られる。
タンタル二次粒子を熱凝集する際の加熱温度は900〜1300℃であることが好ましい。加熱温度が900℃以上であれば充分に熱凝集して微粉の発生を抑制でき、加熱温度が1300℃以下であれば、過度の熱凝集を防ぎ、粗大化を防止できる。
また、熱凝集の際には、タンタル二次粒子にバインダとして水を含ませておき、しばらく静置し、染み出した水分を除去した後に乾燥しておくことが好ましい。
【0025】
解砕工程では、以上のようにして得たタンタルの凝集粉を解砕する。
凝集粉の解砕方法としては、例えば、差動ロールを備えたロールグラニュレータを用いる方法などが挙げられる。ここで、差動ロールとは、2本のロールが間隔を有して配置され、これらが互いに逆回転し、その回転数が異なるものである。
差動ロールにおける2本のロールの周速度の差は、44〜150μmのタンタル粉末がより高い収率で得られることから、一方のロールの周速度が他方のロールの周速度より20%以上速いことが好ましい。
また、解砕方法として、スリットロールを用いる方法を適用することもできる。
【0026】
解砕では、凝集粉が二次粒子まで粉砕されることはなく、得られる解砕粉も三次粒子である。
【0027】
次いで、第1の再凝集工程にて、解砕粉を脱酸素剤存在下で加熱して凝集させて第1の再凝集粉を得る。
第1の再凝集工程にて使用する脱酸素剤としては、例えば、マグネシウム、カルシウムなどが挙げられるが、マグネシウムが好ましく用いられる。
第1の再凝集工程における加熱温度は700〜1000℃であることが好ましく、700〜870℃であることがより好ましい。第1の再凝集工程における加熱温度が700℃以上であれば、充分に再凝集させることができ、1000℃以下であれば、一次粒子の粗大化を防ぐことができる。そのため、第1の再凝集工程における加熱温度が700〜1000℃であれば、粒子径Dが0.2〜1.0μm、かつ、(D/D)が1.0〜3.0であるタンタル粉末を容易に製造できる。
【0028】
次いで、第1の再解砕工程にて、第1の再凝集粉を解砕して第1の再解砕粉を得る。その際の解砕方法は、上述した解砕工程と同様である。
そして、第1の再解砕工程後、第1の再解砕粉を脱酸素剤存在下で加熱して凝集させる第2の再凝集工程を行って第2の再凝集粉を得る。第2の再凝集工程は第1の再凝集工程と同じ方法であるが、加熱温度等の条件を変更してもよい。また、各再凝集工程前に水をバインダとして造粒する造粒工程を実施してもよい。
次いで、第2の再解砕工程にて、第2の再凝集粉を解砕して第2の再解砕粉を得て、この第2の再解砕粉をタンタル粉末とする。第2の再解砕工程は第1の再解砕工程と同じ方法であるが、解砕装置を変更してもよい。
【0029】
以上説明した製造方法における第1の再凝集工程および第2の再凝集工程では、脱酸素剤存在下で加熱するため、解砕粉または第1の再解砕粉の表面に形成された酸化膜を還元して、金属のタンタルを露出させることができる。一般的に金属の表面は活性が高いため、金属が露出した解砕粉同士または第1の再解砕粉同士は容易にかつ強固に凝集できる。しかも、この凝集方法では、凝集の際の温度を低くできるため、一次粒子が粗大化しにくい。
また、第1の再解砕工程および第2の再解砕工程では、二次粒子同士の強固な結合を維持しながらも、三次粒子を均一に細かくできる。
このような再凝集、再解砕を繰り返す上記製造方法によれば、一次粒子の粗大化を防ぎつつ、タンタル二次粒子を強固に凝集させ、しかも三次粒子径が特定範囲にあるタンタル粉末を製造できる。具体的には、粒子径Dが0.2〜1.0μm、D/Dが1.0〜3.0のタンタル粉末を得ることができる。
【0030】
なお、本発明のタンタル粉末の製造方法は上述した実施形態に限定されない。例えば、上述した実施形態では、タンタル二次粒子を形成させるために、溶融塩中で溶融させたフッ化タンタルカリウムに還元剤を添加したが、気体状のタンタル化合物に気体状の還元剤に接触させてタンタル二次粒子を形成させてもよい。
気体状のタンタル化合物に気体状の還元剤を接触させる方法としては、例えば、容器中に気体状のタンタル化合物を配置し、容器に気体状の還元剤を供給した後、容器を密閉し、加熱する方法(以下、この方法を気相法という。)などが挙げられる。
気体状の還元剤としては、例えば、水素、気化したナトリウム、気化したマグネシウムなどが挙げられる。
気相法における還元時の温度としては、タンタル化合物の沸点より10〜200℃高い温度であることが好ましい。還元時の温度が、タンタル化合物の沸点より10℃以上高ければ、反応を制御しやすく、タンタル化合物の沸点より200℃以下高い温度であれば、粒子の粗大化を防止できる。
【0031】
また、本発明のタンタル粉末の製造方法では、第2の再凝集工程と第2の再解砕工程とを1回以上繰り返してもよい。
【実施例】
【0032】
(製造例1)
まず、50Lの反応器に、希釈塩であるフッ化カリウムと塩化カリウムを各15kg仕込んだ。次いで、900℃に加熱した窒素ガスを3L/分の流量で反応器に導入して、反応器内を窒素雰囲気に保った。それと同時に、希釈塩を850℃に加熱して溶融塩とした。次いで、反応器内に、1回あたりフッ化タンタルカリウム37.5gを添加し、1分後、溶解したナトリウムを10.8g添加し、3分間反応させた。この操作を40回繰り返して還元反応を行った。この操作の間、反応器内を窒素雰囲気に維持するとともに、攪拌翼で攪拌した(攪拌翼回転数;150rpm)。これによりタンタル二次粒子を得た。
次いで、タンタル二次粒子に対してリンが150ppmになるようにリン酸を添加した後、これをボールに入れ、粉体面まで水を満たし2時間放置した。そして、染み出してきた水分を除去し、乾燥用平皿に移して140℃蒸気乾燥した。
次いで、乾燥した二次粒子を加熱炉に入れて、1150℃で0.5時間加熱し、凝集させて凝集粉を得た。
次いで、凝集粉を、全長100mmの差動ロールを3段備えたロールグラニュレータで解砕して解砕粉を得た。その解砕粉に対して5質量%のマグネシウムチップを添加して、減圧下、700℃で4時間加熱して、脱酸素させつつ再凝集して第1の再凝集粉を得た。
その第1の再凝集粉を、前記ロールグラニュレータで解砕して第1の再解砕粉を得た後、その第1の再解砕粉にマグネシウムチップを添加し、減圧下、790℃で4時間加熱し、脱酸素させつつ再凝集して第2の再凝集粉を得た。この第2の再凝集粉をスリットロールにより解砕して第2の解砕粉からなるタンタル粉末を得た。
【0033】
(製造例2)
まず、50Lの反応器に、希釈塩であるフッ化カリウムと塩化カリウムを各15kg仕込んだ。次いで、窒素ガスを3L/分の流量で反応器に導入して、反応器内を窒素雰囲気に保った。それと同時に、希釈塩を850℃に加熱して溶融塩とした。次いで、反応器内に、1回あたりフッ化タンタルカリウム37.5gを添加し、1分後、溶解したナトリウムを10.8g添加し、6分間反応させた。この操作を30回繰り返して還元反応を行った。この操作の間、反応器内を窒素雰囲気に維持するとともに、攪拌翼で攪拌した(攪拌翼回転数;150rpm)。これによりタンタル二次粒子を得た。
次いで、タンタル二次粒子に対してリンが150ppmになるようにリン酸を添加した後、これをボールに入れ、粉体面まで水を満たし2時間放置した。そして、染み出してきた水分を除去し、乾燥用平皿に移して140℃蒸気乾燥した。
次いで、乾燥した二次粒子を加熱炉に入れて、1200℃で0.5時間加熱し、凝集させて凝集粉を得た。
次いで、凝集粉を、全長100mmの差動ロールを3段備えたロールグラニュレータで解砕して解砕粉を得た。その解砕粉に対して5質量%のマグネシウムチップを添加して、減圧下、870℃で4時間加熱して、脱酸素させつつ再凝集して第1の再凝集粉を得た。
その第1の再凝集粉を、前記ロールグラニュレータで解砕して第1の再解砕粉を得た後、マグネシウムチップを添加し、減圧下、800℃で4時間加熱し、脱酸素させつつ再凝集して第2の再凝集粉を得た。この第2の再凝集粉を前記ロールグラニュレータにより解砕して第2の解砕粉からなるタンタル粉末を得た。
【0034】
(製造例3)
まず、50Lの反応器に、希釈塩であるフッ化カリウムと塩化カリウムを各15kg仕込んだ。次いで、窒素ガスを3L/分の流量で反応器に導入して、反応器内を窒素雰囲気に保った。それと同時に、希釈塩を880℃に加熱して溶融塩とした。次いで、反応器内に、1回あたりフッ化タンタルカリウム200gを添加し、1分後、溶解したナトリウムを58g添加し、6分間反応させた。この操作を30回繰り返して還元反応を行った。この操作の間、反応器内を窒素雰囲気に維持するとともに、攪拌翼で攪拌した(攪拌翼回転数;150rpm)。これによりタンタル二次粒子を得た。
次いで、タンタル二次粒子に対してリンが150ppmになるようにリン酸を添加した後、これをボールに入れ、粉体面まで水を満たし2時間放置した。そして、染み出してきた水分を除去し、乾燥用平皿に移して140℃蒸気乾燥した。
次いで、乾燥した二次粒子を加熱炉に入れて、1250℃で0.5時間加熱し、凝集させて凝集粉を得た。
その解砕粉に対して5質量%のマグネシウムチップを添加して、減圧下、800℃で4時間加熱して、脱酸素させつつ再凝集して第1の再凝集粉を得た。
その第1の再凝集粉を、前記ロールグラニュレータで解砕して第1の解砕粉を得た後、マグネシウムチップを添加し、減圧下、900℃で4時間加熱し、脱酸素させつつ再凝集して第2の再凝集粉を得た。この第2の再凝集粉を前記ロールグラニュレータにより解砕して第2の解砕粉からなるタンタル粉末を得た。
【0035】
(製造例4)
まず、50Lの反応器に、希釈塩であるフッ化カリウムと塩化カリウムを各15kg仕込んだ。次いで、窒素ガスを3L/分の流量で反応器に導入して、反応器内を窒素雰囲気に保った。それと同時に、希釈塩を880℃に加熱して溶融塩とした。次いで、反応器内に、1回あたりフッ化タンタルカリウム300gを添加し、1分後、溶解したナトリウムを84g添加し、6分間反応させた。この操作を50回繰り返して還元反応を行った。この操作の間、反応器内を窒素雰囲気に維持するとともに、攪拌翼で攪拌した(攪拌翼回転数;150rpm)。これによりタンタル二次粒子を得た。
次いで、タンタル二次粒子に対してリンが150ppmになるようにリン酸を添加した後、これをボールに入れ、圧密して染み出してきた水分を除去し、乾燥用平皿に移して140℃蒸気乾燥した。
次いで、乾燥した二次粒子を加熱炉に入れて、1250℃で0.5時間加熱し、凝集させて凝集粉を得た。
その解砕粉に対して5質量%のマグネシウムチップを添加して、減圧下、900℃で4時間加熱して、脱酸素させつつ再凝集して第1の再凝集粉を得た。
その第1の再凝集粉を、前記ロールグラニュレータで解砕してタンタル粉末を得た。
【0036】
(製造例5)
まず、50Lの反応器に、希釈塩であるフッ化カリウムと塩化カリウムを各15kg仕込んだ。次いで、窒素ガスを3L/分の流量で反応器に導入して、反応器内を窒素雰囲気に保った。それと同時に、希釈塩を850℃に加熱して溶融塩とした。次いで、反応器内に、1回あたりフッ化タンタルカリウム200gを添加し、1分後、溶解したナトリウムを58g添加し、6分間反応させた。この操作を50回繰り返して還元反応を行った。この操作の間、反応器内を窒素雰囲気に維持するとともに、攪拌翼で攪拌した(攪拌翼回転数;150rpm)。これによりタンタル二次粒子を得た。
次いで、タンタル二次粒子に対してリンが150ppmになるようにリン酸を添加した後、これをボールに入れ、圧密して染み出してきた水分を除去し、乾燥用平皿に移して140℃蒸気乾燥した。
次いで、乾燥した二次粒子を加熱炉に入れて、1250℃で0.5時間加熱し、凝集させて凝集粉を得た。
その解砕粉に対して5質量%のマグネシウムチップを添加して、減圧下、850℃で4時間加熱して、脱酸素させつつ再凝集して第1の再凝集粉を得た。
その第1の再凝集粉を、前記ロールグラニュレータで解砕してタンタル粉末を得た。
【0037】
(製造例6)
まず、50Lの反応器に、希釈塩であるフッ化カリウムと塩化カリウムを各15kg仕込んだ。次いで、窒素ガスを3L/分の流量で反応器に導入して、反応器内を窒素雰囲気に保った。それと同時に、希釈塩を850℃に加熱して溶融塩とした。次いで、反応器内に、1回あたりフッ化タンタルカリウム300gを添加し、1分後、溶解したナトリウムを84g添加し、6分間反応させた。この操作を50回繰り返して還元反応を行った。この操作の間、反応器内を窒素雰囲気に維持するとともに、攪拌翼で攪拌した(攪拌翼回転数;150rpm)。これによりタンタル二次粒子を得た。
次いで、タンタル二次粒子に対してリンが150ppmになるようにリン酸を添加した後、これをボールに入れ、圧密して染み出してきた水分を除去し、乾燥用平皿に移して140℃蒸気乾燥した。
次いで、乾燥した二次粒子を加熱炉に入れて、1250℃で0.5時間加熱し、凝集させて凝集粉を得た。
その解砕粉に対して5質量%のマグネシウムチップを添加して、減圧下、870℃で4時間加熱して、脱酸素させつつ再凝集して第1の再凝集粉を得た。
その第1の再凝集粉を、前記ロールグラニュレータで解砕してタンタル粉末を得た。
【0038】
製造例1〜6のタンタル粉末について、粒子径Dと粒子径Dとを測定した。その結果を表1に示す。
【0039】
(粒子径Dの測定方法)
図1に示す測定装置10(島津製作所製粉体比表面積測定装置)を使用してタンタル粉末の比表面積Sを求め、比表面積Sを式(1)に代入することにより粒子径Dを求めた。
比表面積の測定方法では、まず、セル11内に16.6g(W)のタンタル粉末を充填し、試料層11aの密度が4.0〜4.5g/cmになるように圧縮して試料層11aを形成した。
また、開閉弁16を閉じた状態で、液面計13aの標線Xより水面が上に位置するように水充填管13に水を充填した。
次いで、試料層11aの高さLを測定した後、セル11をセル装着部12に装着した。次いで、開閉弁16を開き、排出口14から水を排出させ、試料層11aを介して水充填管13に空気を流入させる。これにより、セル11内の試料層11aに空気を透過させ、液面計13aにおける水面が標線Xから標線Yに降下するまでの時間tを測定した。水面が標線Xから標線Yに降下した際に排出した水の量は20cmであり、試料層11aを透過した空気の体積Qが20cmである。
式(2)に、タンタルの密度ρ;16.6g/cm、透過圧力△P;100mmHO、試料層11aの断面積A、水面が標線Xから標線Yに降下するまでの時間t、空気の粘度μ;0.00018g/(cm・秒)、試料層11aの高さL、空気の透過量Q;20cm、空隙率ε;(1−{W/(ρ・A・L)})の各値を代入して、Sを求めた。
【0040】
(粒子径Dの測定方法)
図2に示す測定装置20を使用して粒子径Dを求めた。
粒子径Dの測定では、まず、測定用セル23の代わりに流量校正用セルを取り付け、送気手段21により空気を供給し、圧力調整弁26の開放度合いを調節して、圧力調整器25の管先端から泡が2〜3個/秒生じるように流量を調整した。
また、測定用セル23内にタンタル粉末を16.6g(W)充填して試料層23bを形成する。試料層23b形成では、第1のろ紙上にタンタル粉を充填した後、2〜3回程度タッピングし、第2のろ紙を被せ、トルクレンチにて222N(ニュートン)=50lbf(エルビーエフ:重量ポンド)で加圧した。
次いで、試料層23bの高さLを測定した後、流量校正用セルを取り外して測定用セル23を取り付け、測定用セル23の試料層23bに圧力Pが50cmHOの空気を供給した。
そして、試料層23bを透過した空気の圧力が安定してからさらに5分間その状態を保った後、試料層23bを透過した空気の圧力△Pをマノメータ24により測定した。そして、測定装置に付属された△Pと粒子径との相関図により粒子径Dを求めた。
【0041】
また、製造例1〜6のタンタル粉末について以下のようにしてCV値を測定した。その結果を表1に示す。
(CV値の測定方法)
タンタル粉末を、密度が4.5g/cmになるようにタンタルワイヤーと共に成形してペレットを作製し、そのペレットを、濃度0.1体積%のリン酸水溶液中、60℃、電圧10V、電流90mA/gで化成処理した。そして、その化成処理したペレットを測定試料として用い、濃度30.5体積%の硫酸水溶液中、温度25℃、周波数120Hz、電圧1.5VでCV値を測定した。
また、製造例1〜6のタンタル粉末を用いて、5mm程度のペレットから構成される一般にAケースと呼称されるチップ型タンタル電解コンデンサを得た。そして、得られたタンタル電解コンデンサについて以下の基準で評価した。
◎:コンデンサチップ体積当たりの静電容量が大きく、漏れ電流およびESRが極めて小さく、タンタル電解コンデンサとして特に優れた性能を発揮した。タンタル粉末としての取り扱い性も良く、小型ペレットに適した圧縮率であり、充分なワイヤー引き抜け強度を有していた。
○:漏れ電流およびESRが充分小さく、タンタル電解コンデンサとして優れた性能を発揮した。しかも、タンタル粉末の取り扱い性が高く、容易に製造できた。
×:小型ペレットに使用してワイヤー引き抜け強度を確保すると、漏れ電流およびESRが高くなった。また、タンタル粉末の圧縮率が低く、小型のチップ型タンタル電解コンデンサの製造が困難であった。
【0042】
【表1】

【0043】
粒子径Dが0.2〜1.0μm、かつ、D/Dが1.0〜3.0である製造例1〜3のタンタル粉末は、取り扱い性に優れ、タンタル電解コンデンサに適用した際に優れた性能を発揮した。
粒子径Dが1.0μmを超えていた製造例4のタンタル粉末、D/Dが3.0を超えていた製造例5のタンタル粉末、粒子径Dが1.0μmを超え、かつ、D/Dが3.0を超えていた製造例6のタンタル粉末は、取り扱い性が低く、しかもタンタル電解コンデンサに適用した際の性能も低かった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】空気透過式比表面積測定装置の一例を示す模式図である。
【図2】粒子径Dを測定するための粒子径測定装置の一例を示す模式図である。
【図3】タンタル二次粒子の製造装置の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0045】
10 測定装置(空気透過式比表面積測定装置)
11 セル
11a 試料層
12 セル装着部
13 水充填管
13a 液面計
14 排出口
15 接続管
16 開閉弁
17 容器
20 測定装置
21 送気手段
22 乾燥手段
22a 第1の配管
23 測定用セル
23a 第2の配管
23b 試料層
24 マノメータ
24a 第3の配管
25 圧力調整器
26 圧力調整弁
30 製造装置
31 容器
31a 溶融塩
32 撹拌手段
33 第1の添加手段
34 第2の添加手段
35 第3の添加手段
36 排気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気透過式比表面積測定装置を用いて測定した粒子径Dが0.2〜1.0μm、かつ、ASTM B330−02に準拠して測定した粒子径Dと前記粒子径Dとの比(D/D)が1.0〜3.0であることを特徴とするタンタル粉末。
【請求項2】
請求項1に記載のタンタル粉末を製造するタンタル粉末の製造方法であって、
タンタルの凝集粉を解砕して解砕粉を得る解砕工程と、
解砕粉を脱酸素剤存在下で加熱し、凝集させて第1の再凝集粉を得る第1の再凝集工程と、
第1の再凝集粉を解砕して第1の再解砕粉を得る第1の再解砕工程と、
第1の再解砕粉を脱酸素剤存在下で加熱し、凝集させて第2の再凝集粉を得る第2の再凝集工程と、
第2の再凝集粉を解砕して第2の再解砕粉を得る第2の再解砕工程とを有することを特徴とすることを特徴とするタンタル粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−291487(P2007−291487A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2006−239506(P2006−239506)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000186887)キャボットスーパーメタル株式会社 (18)
【Fターム(参考)】