タンデム型心臓ペースメーカーシステム
本発明は、(1)電気的ペースメーカーと、(2)生物学的ペースメーカーとを含むペースメーカーシステムを提供し、生物学的ペースメーカーは、細胞を含み、当該細胞は、過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)イオンチャネルを、当該細胞内でペースメーカー電流を発生させるのに有効なレベルで機能的に発現する。また、本発明は、関連の生物学的ペースメーカー、房室性のブリッジ、それらを作る方法、および心臓律動障害に罹患した対象を治療する方法も提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する発明は、米国国立保健研究所からのNIH助成金第HL-28958号、第HL-20558号および第HL-67101号による米国政府の支援を受けて実施された。したがって、米国政府は、本発明の特定の権利を有する。
【0002】
本出願は、全内容が参照によって本明細書に組み入れられている2005年7月21日出願の米国仮特許出願第60/701312号;2006年3月14日出願の同第60/781723号;および2005年9月9日出願の同第60/715934号の利益を主張する。
【0003】
本出願全体にわたり、種々の出版物を参照し、それらの著者名および日付、特許番号または特許公開番号を括弧内に示す。これらの出版物を、明細書の末尾に、全て列挙する。これらの出版物の全開示が、参照によって本出願に組み入れられている。しかし、本明細書への参考文献の引用を、そのような参考文献が本発明の先行技術であると認めるものであると解釈してはならない。
【0004】
本発明は、HCNチャネルならびにその変異体およびキメラの発現に基づく生物学的ペースメーカーを含むタンデム型心臓ペースメーカーシステムの作製および使用、さらに、生物学的ペースメーカーの電気的ペースメーカーと併行しての使用に関する。
【背景技術】
【0005】
哺乳動物の心臓は、筋原性の起源の律動を発生させる。心臓の律動を発生させるのに必要である全てのチャネルおよび輸送体は、筋細胞に存在する。これらの要素が局所的に大量に存在することおよびこれらの特徴は、律動が、特異的な解剖学的部位、すなわち、洞房結節から起こることを示す。洞房結節は、わずか数千個の電気的に活性のペースメーカー細胞からなり、この細胞が律動性の活動電位を自発的に発生させ、次いで、この活動電位が伝播して、心房および心室の協調した筋収縮を誘発する。律動は、自律神経系によって調節されるが、自律神経系によっては開始されない。
【0006】
ペースメーカー細胞の機能障害または損失が、疾患または加齢によって生じる。例えば、急性心筋梗塞により、毎年数百万人が死亡し、生存者においては、一般的に筋細胞数および心臓のポンプ機能の著しい低下を誘発する。成体の心筋細胞は、ごく稀にしか分裂せず、筋細胞の損失に対する通常の応答として、代償性肥大および/またはうっ血性心不全が含まれ、うっ血性心不全は、顕著な年間死亡率を有する。
【0007】
電気的ペースメーカーは、洞房結節、房室性の伝導またはその両方が停止した状況下で、規則的な心拍を提供する救命デバイスである。また、電気的ペースメーカーは、うっ血性心不全の治療にも適応している。電気的ペースメーカー療法の主要な適応症の1つに、正常に機能する洞房結節のインパルスが、心室に伝播できないような高度心ブロックがある。その結果、心室停止および/または細動、そして死に至る。電気的ペースメーカー療法の別の主要な適応症として、洞房結節の機能障害があり、この場合、洞房結節が正常な心拍を開始できず、それによって、心拍出量が損なわれる。
【特許文献1】米国仮特許出願第60/701312号
【特許文献2】米国仮特許出願第60/781723号
【特許文献3】米国仮特許出願第60/715934号
【特許文献4】米国特許第6849611号
【特許文献5】米国特許第6783979号
【特許文献6】仮特許出願第60/ 号(未付与)、標題「Use of late passage mesenchymal(MSCs)for treatment of cardiac disorders」、2006年7月21日出願
【特許文献7】米国特許第6110161号
【特許文献8】PCT国際公開第WO 2005/062857号
【特許文献9】米国仮特許出願第60/704210号
【特許文献10】米国特許出願第10/745943号
【特許文献11】米国出願第11/ 号(未付与)、標題「A Biological Bypass Bridge with Sodium Channels, Calcium Channels and/or Potassium Channels to Compensate for Conduction Block in the Heart」、2006年7月21日出願
【特許文献12】米国特許第5983138号
【特許文献13】米国特許第5318597号
【特許文献14】米国特許第5376106号
【非特許文献1】Ausubelら、section 2.9、supplement 27(1994)
【非特許文献2】SmithおよびWaterman、Adv. Appl. Math. 2: 482頁(1981)
【非特許文献3】NeedlemanおよびWunsch、J. Mol. Biol. 48: 443頁(1970)
【非特許文献4】PearsonおよびLipman、Proc. Natl. Acad. Sci. 85: 2444頁(1988)
【非特許文献5】HigginsおよびSharp、Gene 73: 237〜244頁(1988)
【非特許文献6】HigginsおよびSharp、CABIOS 5: 151〜153頁(1989)
【非特許文献7】Corpetら、Nucleic Acids Research 16: 10881〜90頁(1988)
【非特許文献8】Huangら、「Computer Applications in the Biosciences 8」、155〜65頁(1992)
【非特許文献9】Pearsonら、「Methods in Molecular Biology 24」: 307〜331頁(1994)
【非特許文献10】「Current Protocols in Molecular Biology、Chapter 19」、Ausubelら編、Greene Publishing and Wiley-Interscience、New York(1995)
【非特許文献11】Altschulら、J. Mol. Biol., 215: 403〜410頁(1990)
【非特許文献12】Altschulら、Nucleic Acids Res. 25: 3389〜3402頁(1997)
【非特許文献13】HenikoffおよびHenikoff(1989)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915頁
【非特許文献14】KarlinおよびAltschul、Proc. Nat'l. Acad Sci. USA 90: 5873〜5877頁(1993)
【非特許文献15】WootenおよびFederhen、Comput. Chem.、17: 149〜163頁(1993)
【非特許文献16】ClaverieおよびStates、Comput. Chem.、17: 191〜201頁(1993)
【非特許文献17】HigginsおよびSharp(1989)CABIOS. 5: 151〜153頁
【非特許文献18】「the Guide for the Care and Use of Laboratory Animals」、NIH Publication No. 85-23、改訂1996年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電気的ペースメーカーは、心ブロックおよび/または洞房結節の機能障害の治療において有用であるにもかかわらず、特定の欠点を有する(Rosenら、2004年;Rosen、2005年;Cohenら、2005年)。例えば、電気的ペースメーカーは、定期的なモニターおよび整備が必要であり、それらには、パルス発生装置を周期的に変えることならびに電池およびリードの交換が含まれる。電気的ペースメーカーは、(運動中の心拍数の変化を容易にするようにソフトウエアが開発されているにもかかわらず)運動および情動の要求に容易に応答しない。最近の証拠は、長期のペーシングが、心不全の危険を高める恐れがあることを示唆している(Freudenbergerら、2005年)。小児科の患者の場合、電源パックおよびリードの品ぞろえが、成長および発育の要求に適応するのに必要である。心拍出量を様々な程度で損なう恐れがあり、リードを安定して埋め込むことができる部位に制限がある。感染症を伴う問題が起きる恐れがあり、稀ではあるが、破局的になる場合がある。電気的ペースメーカーは、高価である。さらに、その他のデバイスからの干渉の恐れがある。したがって、電気的ペースメーカーは、素晴らしい医学的緩和の典型である一方、治癒にはならない(Rosenら、2004年)。したがって、正常機能を、例えば、自律的な応答性を示すことによって、より完全に再生し、究極的に治癒をもたらす別法の開発が望まれている(Rosenら、2004年)。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(1)電気的ペースメーカーと、(2)生物学的ペースメーカーとを含むタンデム型ペースメーカーシステムを提供し、生物学的ペースメーカーは、過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN: hyperpolarization-activated, cyclic nucleotide-gated)イオンチャネルを機能的に発現する移植可能な細胞を含み、かつ細胞を対象の心臓に移植した場合、発現したHCNチャネルが、有効なペースメーカー電流を発生させる。細胞は、好ましくは、心筋細胞とのギャップ結合を介した伝達が可能であり、幹細胞、心筋細胞、心臓のコネキシンを発現するように操作された繊維芽細胞または骨格筋細胞、および内皮細胞からなる群から選択される。好ましい実施形態では、幹細胞は、胚性幹細胞または成体幹細胞であり、かつ当該幹細胞は、実質的に分化できない。
【0010】
特定の実施形態では、生物学的ペースメーカーは、少なくとも約200,000個のヒト成体間葉系幹細胞を含み、好ましくは、少なくとも約700,000個のヒト成体間葉系幹細胞を含む。
【0011】
HCNチャネルは、HCN1、HCN2、HCN3またはHCN4であり、好ましくはヒトのHCN1、HCN2、HCN3またはHCN4であり、あるいはHCNチャネルは、mHCN1、mHCN2、mHCN3またはmHCN4と少なくとも約75%の配列同一性を有する。移植可能な細胞は、MiRP1ベータサブユニットをさらに機能的に発現することができる。
【0012】
HCNは、変異型HCNであることができる。好ましくは、変異型HCNは、改善された特徴を提供し、それらの特徴は、野生型HCNチャネルと比較して、より迅速な動態、より正の活性化、増加した発現、向上した安定性、増強されたcAMP応答性および増強された神経液性応答から選択される。
【0013】
また、本発明は、(1)電気的ペースメーカーと、(2)第1末端および第2末端を有するギャップ結合連結細胞の条片を含むバイパスブリッジとを含むタンデム型ペースメーカーシステムも提供し、両末端は、心臓の2つの選択された部位に付着することができ、その結果、心臓の2つの部位の間の経路を横断しての電気信号の伝達が可能となる。好ましくは、バイパスブリッジは、房室性のバイパスブリッジである。好ましい実施形態では、細胞は、本発明の生物学的ペースメーカーの移植可能な細胞に関して記載された細胞である。
【0014】
特定の実施形態では、バイパスブリッジの細胞は、心臓のコネキシン;L型カルシウムチャネルのアルファサブユニットおよびアクセサリーサブユニット;ナトリウムチャネルのアルファサブユニットで、アクセサリーサブユニットを有するまたは有しないもの;ならびにカリウムチャネルのアクセサリーサブユニットを有するまたは有しない、カリウムチャネルのアルファサブユニットと組み合わせたL型カルシウムチャネルおよび/またはナトリウムチャネルからなる群から選択された少なくとも1種のタンパク質を機能的に発現する。
【0015】
さらに、本発明は、(1)電気的ペースメーカーと、(2)HCNチャネルまたは変異型HCNチャネルをコードする核酸を含むベクターとを含むタンデム型ペースメーカーシステムも提供し、このベクターを、対象の心臓の細胞に投与し、かつHCNチャネルまたは変異型HCNチャネルを、心臓の細胞内で発現させて、有効なペースメーカー電流を発生させる。
【0016】
また、本発明は、心律動障害に罹患した対象を治療する方法も提供し、この方法は、本発明のタンデム型ペースメーカーシステムを投与するステップを含む。
【0017】
また、本発明は、心室同期不全に罹患した対象を治療するためのタンデム型ペースメーカーシステムも提供し、このタンデム型ペースメーカーシステムは、(1)対象の心臓の一方の心室内のある部位に投与するための本発明の生物学的ペースメーカーと、(2)対象の心臓の他方の心室内のある部位に投与するための電気的ペースメーカーとを含み、電気的ペースメーカーは、生物学的ペースメーカーからの信号を検出し、生物学的ペースメーカーからの信号を検出した後、基準の時間間隔で電気的ペースメーカー信号を出力するようにプログラム可能であり、それによって、両室性のペースメーカー機能を提供し、かつ電気的ペースメーカーを、生物学的ペースメーカーに先立ってまたは生物学的ペースメーカーと同時に提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、(MiRP1遺伝子またはその変異体を伴うあるいはMiRP1遺伝子またはその変異体を伴わない)野生型、変異型およびキメラのHCN遺伝子の発現に基づく望ましい臨床上の特徴を有する生物学的ペースメーカーの生成、ならびに細胞のバイパス経路の生成に関する。さらに、本発明は、電気的ペースメーカーと併行しての、これらの生物学的ペースメーカーおよび/またはバイパス経路の使用にも関し、単独で使用する生物学的ペースメーカーまたは電気的ペースメーカーを用いた治療法と比較して、心臓の状態のより有効な治療法を生み出すことを目的とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
生物学的ペースメーカー
「生物学的ペースメーカー」とは、HCNイオンチャネル遺伝子等の遺伝子を発現するまたは遺伝子の発現を起こすことができる細胞等の生物学的材料を意味するものとし、この生物学的材料の心臓への導入により、心臓において有効な生物学的ペースメーカーの活動を発生させる。「生物学的ペースメーカーの活動」とは、生物学的材料の細胞または細胞を含む合胞体構造への導入に由来する活動電位の律動的な発生を意味するものとする。「合胞体」または「合胞体構造」とは、成分細胞間にギャップ結合を介した連続性が存在する組織を意味するものとする。「細胞内で電流を誘発するまたは発生させる」とは、細胞に電気的な流れを引き起こさせることを意味するものとする。「イオンチャネル」とは、ポリペプチドまたはポリペプチドの組合せによって生み出された細胞膜中の道を意味するものとし、このポリペプチドは、細胞膜に局在化し、膜を越えるイオンの移動を容易にし、それによって、膜を貫通する電気の流れを発生させる。「イオンチャネル遺伝子」とは、イオンチャネルのサブユニット、あるいはイオンチャネルの2つ以上のサブユニットまたはイオンチャネル全体をコードするポリヌクレオチドを意味するものとする。「ペースメーカー電流」とは、生物学的材料または電気的デバイスが発生させる律動的な電気の流れを意味するものとする。
【0020】
治療上の解決法として、生物学的ペースメーカーを使用して、心臓に移植した部位から起こる自発的な拍動速度を生理学的に許容される範囲で発生させることができる。「拍動速度」とは、(1)心臓/心筋もしくはその一部の収縮速度、または細胞単位の所与の期間にわたる個々の筋細胞の1回または複数の収縮(例えば、1分あたりの収縮または拍動の回数)、あるいは(2)細胞単位の所与の期間にわたる1つまたは複数の電気的パルスの出力速度を意味するものとする。これは、正常に自発的であるが、発火が緩慢過ぎる心臓細胞の部位の速度を増加させる、または正常に静止した状態の領域において自発的な活動を開始させるのいずれかによって達成することができる。自然の生物学的ペースメーカーによるそのような活動電位の開始は、多数のイオンチャネルと輸送体との間のバランスに依存し、それらの多くはホルモンによって調節されていることから、生物学的ペースメーカーを生み出すにはいくつかの可能なアプローチが存在する。
【0021】
このようなアプローチとして、これらに限定されないが、β2アドレナリン作動性受容体を過剰発現させて、内因性の心房の速度を増加させるアプローチ(Edelbergら、1998年;2001年)、ドミナントネガティブKir2.1AAA構築物を、野生型Kir2.1遺伝子と一緒に発現させて、内向き整流性電流IK1を抑制するアプローチ(Miakeら、2002年: 2003年)、HCN2チャネルを過剰発現させて、過分極活性化内向きペースメーカー電流(If)、したがって、活動電位開始速度を増加させるアプローチ(Quら、2003年;Plotnikovら、2004年;Potapovaら、2004年)、および胚性幹細胞または間葉系幹細胞から新しいペースメーカー細胞を生み出すアプローチ(Kehatら、2004年;Xueら、2005年)が挙げられる。これらのアプローチでは、正常な心臓の自然のペースメーカーの機能の基本的な決定要因を操作することを探索している。すなわち、交感神経性のインプットを増加させる、再分極化電流を減少させる、および/または拡張期に脱分極化電流を増加させる、いずれかの介入によって、活動電位開始速度が増加するはずである(Bielら、2002年)。これらの目標を達成するために使用する方法では、ウイルス感染または裸のプラスミドの形質移入を介して遺伝子を導入する(Edelbergら、1998年;2001年)か、自然の遺伝子の総数を組み入れている胚性幹細胞(Kehatら、2004年)またはペースメーカー遺伝子を保有するプラットフォームとして操作された成体間葉系幹細胞(MSC)(Potapovaら、2004年)を使用することになっている。後者のアプローチの背後にある原理を、図1に示す(ヒト成体間葉系幹細胞を操作して、この細胞の膜内にHCNチャネルを発現させ、その結果、当該細胞は、活動電位を開始し、ギャップ結合を介して共役筋細胞に伝播することが可能になった)。また、非心臓細胞におけるペースメーカー活動電位の再生および/または非心臓細胞と心臓細胞との融合体の誘導も、最近試みられている(Choら、2005年)。
【0022】
生物学的ペースメーカーの戦略を選択するにあたっては、催不整脈の可能性を考慮しなければならない。理想的なアプローチとは、望ましくない副作用を有しない自発的な活動を生み出すまたは増強するものであろう。この点では、βアドレナリン作動性受容体の上方制御による自律的な応答性の増強には、特異性の問題がある。というのは、交感神経性の傾向の増加は、単一のイオン電流に特異的でないからである。特異的なイオン電流を標的にする場合、過分極化内向き整流性電流IK1を減少させる、または内向きペースメーカー電流Ifを増強するのいずれかによって、正味の内向き電流が、ペースメーカーの範囲の電位で増加する。しかし、IK1は、終末の再分極にも寄与し、その下方制御の結果、長期の活動電位が生じ(Miakeら、2002年)、これによって、不整脈が伴う可能性がある。対照的に、Ifは、拡張期の電位でのみ流れるので、活動電位の長さに影響しないはずである。したがって、Ifは、魅力的な分子標的であり、生物学的ペースメーカーの開発に好ましい。
【0023】
以前の研究は、ペースメーカー電流(「If」)の原因である過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN: hyperpolarization-activated, cyclic nucleotide-gated)アイソフォームに、2つの理由で焦点を当てている(Bielら、2002年)。すなわち、第1に、HCNイオン電流チャネルは、哺乳動物の心臓でペースメーカー活動を開始させ、第2に、これらのチャネルの活性化は、カテコールアミンによって増加し、アセチルコリンによって緩慢になるので、これらのチャネルは自律的に応答する。自律的な応答性は、明らかに心臓におけるペースメーカー活動の礎石であるはずであるが、これを欠くことは、電気的ペースメーカーの重要な欠点である。
【0024】
過分極活性化カチオン電流は、If、IhまたはIqと呼ばれ、20年以上前に初めて心臓細胞および神経細胞で発見された(総説として、DiFrancesco、1993年;Pape、1996年を参照)。これらの電流は、Na+イオンまたはK+イオンによって運ばれ、心臓および神経のペースメーカーの活動、静止電位の設定、入力コンダクタンスおよび長さ定数、ならびに樹状突起の統合を含む、広範な生理機能に寄与する(RobinsonおよびSiegelbaum、2003年;Bielら、2002年を参照)。HCN遺伝子ファミリーは、電流の基礎になるチャネルをコードし、チャネルの分子成分は、心拍数を調節するための自然の標的となる。イオンチャネルのサブユニットのHCNファミリーが、分子クローニングによって同定されており(総説として、Clapham、1998年;SantoroおよびTibbs、1999年;Bielら、2002年)、非相同的に発現させると、4種の異なるHCNアイソフォーム(HCN1、HCN2、HCN3およびHCN4)のそれぞれが、自然のIfの主要な特性を有するチャネルを生成することから、HCNチャネルがこの電流に関係がある分子であることが確認される。
【0025】
異なるHCNアイソフォームは、特徴的な生物物理学的な特性を示す。例えば、アフリカツメガエル卵母細胞からの無細胞パッチにおいて、HCN2チャネルの定常状態の活性化曲線は、HCN1チャネルの定常状態の活性化曲線と比べ、20mVより過分極している。また、カルボキシ末端環状ヌクレオチド結合ドメイン(CNBD)へのcAMPの結合が、HCN2の活性化曲線をより正の電位へ17mV顕著にシフトさせるが、HCN1の応答は、それよりはるかに程度が低い(4mVのシフト)。
【0026】
したがって、本発明は、(1)電気的ペースメーカーと、(2)生物学的ペースメーカーとを含むタンデム型ペースメーカーシステムを提供し、生物学的ペースメーカーは移植可能な細胞を含み、当該細胞を対象の心臓に移植すると、当該細胞は、過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)イオンチャネルを、当該細胞内でペースメーカー電流を誘発するのに有効なレベルで、機能的に発現する。核酸を「機能的に発現する」とは、当該核酸がコードする機能性ポリペプチドの産生が可能であるように核酸を細胞に導入し、それによって、当該の機能性ポリペプチドを産生することを意味するものとする。また、コードされるポリペプチド自体についても、機能的に発現するという。
【0027】
「HCNチャネル」とは、過分極活性化カチオン電流の原因である過分極活性化環状ヌクレオチド依存性イオンチャネルを意味するものとし、この電流は、cAMPによって直接制御され、心臓および脳におけるペースメーカーの活動に寄与する。HCN1、HCN2、HCN3およびHCN4の4種のHCNアイソフォームが存在する。4種のアイソフォームの全てが、脳で発現する。また、HCN1、HCN2およびHCN4は、心臓でも顕著に発現し、HCN4およびHCN1は、洞房結節で優勢であり、HCN2は、心室特異的伝導系で優勢である。「mHCN」は、マウス(murineまたはmouse)のHCNを示し、「hHCN」は、ヒトのHCNを示す。HCNチャネルは、生物学的ペースメーカー活動を誘発することができるならば、いずれのHCNチャネルであってもよい。心臓または心臓の選択された部位において「生物学的ペースメーカー活動を誘発する」とは、心臓またはその部位に活動電位を律動的に発生させることを意味するものとする。
【0028】
HCNチャネルとして、これらに限定されないが、(ヒトおよびその他の種から)自然に発生するHCNチャネル、キメラのHCNチャネル、変異型HCNチャネルおよびキメラ-変異型HCNチャネルが挙げられ、これらを、以下に記載する。
【0029】
HCNチャネルを有する生物学的ペースメーカー
米国特許第6849611号は、対象に投与するHCNイオンチャネル含有組成物を教示しており、この組成物は、洞房結節の活動が異常な場合の活動電位を開始する部位として機能する、したがって、洞房結節の欠損に取って代わる生物学的ペースメーカーとして作用する。米国特許第6783979号は、HCNイオンチャネルをコードする核酸を含むベクターを教示しており、このベクターを心臓組織に適用して、心臓の生体組織にイオン電流を提供することができる。そのようなベクターを適切に投与すると、HCNチャネルの発現を提供して、次いで、生物学的ペースメーカーとして作用する電流を発生させることができる。上記の特許の全内容が、参照によって本明細書に組み入れられている。また、MiRP1と組み合わせたHCN遺伝子の発現に基づく生物学的ペースメーカーも、米国特許第6783979号に記載されている。HCN2の動態が、HCN4の動態よりも好都合であり、HCN2のcAMP応答性が、HCN1のcAMP応答性よりも優れていることから、生物学的ペースメーカーの活動を発生させる実験は、HCN2に焦点が当てられている。
【0030】
図2は、ペースメーカー電位を開始する場合の、HCNチャネルおよびHCNチャネルが運ぶIf電流の役割を理解するための開始点を提供する。手短にいうと、第4相の脱分極は、細胞膜の過分極時に活性化された内向きナトリウム電流によって開始され、その他の4種の主要な電流によって継続および維持される(Bielら、2002年)。それらの主要な電流は、カルシウムチャネルおよびナトリウム/カルシウム交換体が運ぶ内向き電流とカリウムが運ぶ外向き電流との間のバランスを提供する。ペースメーカー電位の活性化は、βアドレナリン作動性のカテコールアミンによって増加し、アセチルコリンによって減少し、これはそれぞれ、Gタンパク質共役受容体およびアデニル酸シクラーゼ-cAMPセカンドメッセンジャー系を通して行われる。
【0031】
HCN1〜4のアイソフォームをコードする完全長cDNAが、異なる種からクローン化されており、哺乳動物細胞系内で発現させて機能的に特徴付けられている。例えば、マウス脳からのHCN1〜3のクローン化および機能的特徴付けを報告している、Santoroら(1998年)およびLudwigら(1998年);ヒト心臓からのHCN2およびHCN4のクローン化および機能的特徴付けを報告しているLudwigら(1999年);ウサギ心臓からのHCN4のクローン化および機能的特徴付けを報告しているIshiiら(1999年);ラット脳のHCN1〜4のクローン化を報告しているMonteggiaら(2000年);ならびにヒト脳からのHCN3のクローン化および機能的特徴付けを報告しているSteiberら(2005年)を参照。
【0032】
ある種における異なるHCNアイソフォーム間のアミノ酸同一性は、約45〜60%以上であり、違いは、主としてN末端およびC末端の領域において配列同一性が低いことによる。例えば、mHCN1〜3の一次配列は、約60%の全アミノ酸同一性を有し(Ludwigら、1999年)、hHCN3は、その他のhHCNと46〜56%の相同性を有する(Stieberら、2005年)。それに比べ、顕著に高い程度の相同性が、異なる種の同族のアイソフォーム間で観察されている。例えば、Ludwigら(1999年)は、hHCN2のcDNAクローンは、mHCN2クローンと、94%の全配列同一性を有すると報告しており;Stieberら(2005年)は、hHCN3は、mHCN3と94.5%のアミノ酸相同性を有すると報告しており;HCNチャネルに関する総説で、Bielら(2002年)は、個々のHCNチャネルの型の一次配列は、哺乳動物において90%以上の配列同一性を示すことを開示している。
【0033】
表1は、Stieberら(2005年)、補充表S2から改作したものであるが、hHCN3のその他のhHCNとのアミノ酸相同性、およびhHCN3のmHCN3とのアミノ酸相同性を示す。特に目立つのは、膜貫通コアドメインおよび環状ヌクレオチド結合ドメインにおいて、hHCN3配列とmHCN3配列との相同性が100%に近いことである。hHCN3とmHCN3の間で、N末端領域およびC末端領域では、それぞれ81%および91%相同であり、これらは、膜貫通領域およびCNDB領域における相同性の程度よりは低いが、それにしてもhHCN3のN末端とその他のhHCNのアイソフォームのN末端領域との間の22〜35%の相同性、C末端領域の17〜27%の相同性、およびhHCN3とその他のhHCNのアイソフォームとの間の46〜56%の全体的な相同性よりは、相当に高い。
【0034】
これらの相同性のデータは、本発明において、異なる種からの同族のHCNのアイソフォームを効果的に代用することができることを示唆する。例えば、hHCN2をmHCN2の代わりに、またはhHCN2の一部を、mHCN2の対応する部分の代わりに用いることができる。したがって、本発明では、1つの種、例えば、マウスからのHCN2またはその一部の使用を含む生物学的ペースメーカーまたは方法は、その他の種からのHCN2またはHCN2の対応する部分の使用を包含し、それらの種は、好ましくは、哺乳動物の種であり、これらに限定されないが、ヒト、ラット、イヌ、ウサギまたはモルモットが挙げられる。ペースメーカー信号を発生させるためにmHCN2をイヌに使用し、それによって、種間のアイソフォームの互換性を示した、図29および30、ならびに実施例3および5を参照されたい。同様に、マウスHCN1、HCN3もしくはHCN4またはそれらの一部の使用を含む生物学的ペースメーカーまたは方法は、その他の種、好ましくは、その他の哺乳動物の種からの、HCN1、HCN3もしくはHCN4またはそれらの対応する部分のそれぞれの使用を包含する。
【0035】
より一般的には、特定のHCNのアイソフォームの使用を含む生物学的ペースメーカーまたは方法は、少なくとも75%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、および最も好ましくは少なくとも95%の、そのようなアイソフォームとの全体的な相同性を示すHCNチャネルの使用を包含する。HCNのアイソフォームの一部を含む発明の実施形態では、特定のHCNのアイソフォームのN末端部分の使用は、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%の、そのようなアイソフォームのN末端との相同性を示すHCNチャネルのN末端部分の使用を包含する。その上、特定のHCNのアイソフォームのC末端部分の使用は、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、および最も好ましくは少なくとも90%の、そのようなアイソフォームのC末端との相同性を示すHCNチャネルのC末端部分の使用を包含する。
【0036】
【表1】
【0037】
ペプチド配列間の「相同性」パーセントとは、最大の一致となるようにアライメントさせた場合、ペプチドの等価な位置におけるアミノ酸残基が同一であるまたは機能的に類似する、パーセントで表す程度を意味するものとする。機能的に類似するアミノ酸の例として、グルタミンおよびアスパラギン;セリンおよびスレオニン;ならびにバリン、ロイシンおよびイソロイシンが挙げられる。ペプチド配列間の「アミノ酸同一性」パーセントまたは「配列同一性」パーセントとは、最大の一致となるようにアライメントさせた場合、ペプチドの等価な位置におけるアミノ酸残基が同一である、パーセントで表す程度を意味するものとする。ペプチドの場合、相同性パーセントは、通常配列同一性パーセントよりも高い。核酸の場合、「相同性」パーセントとは、「配列同一性」パーセントと同じであり、最大の一致となるようにアライメントさせた場合、核酸の等価な位置におけるヌクレオチドが同一である、パーセントで表す程度を意味するものとする。
【0038】
本発明の目的のためには、相同性を共有する2つの配列、すなわち、所望のポリヌクレオチドと標的配列とは、6×SSC、0.5% SDS、5×デンハート液および100gの非特異的キャリアーDNAのハイブリダイゼーション溶液中で、それらが二本鎖複合体を形成して、ハイブリダイズすることができる。Ausubelら、section 2.9、supplement 27(1994)を参照。そのような配列は、「中等度のストリンジェンシー」でハイブリダイズすることでき、中等度のストリンジェンシーとは、6×SSC、0.5% SDS、5×デンハート液および100μgの非特異的キャリアーDNAのハイブリダイゼーション溶液中、温度60℃と定義される。「高いストリンジェンシー」のハイブリダイゼーションのためには、温度を68℃まで上げる。中等度のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション反応に続き、ヌクレオチドを、0.05% SDSを加えた2×SSCの溶液中、室温で5回洗浄し、次いで、0.1% SDSを加えた0.1×SSCを用いて、60℃で1時間洗浄する。高いストリンジェンシーでは、洗浄温度を、典型的には、約68度の温度まで上げる。ハイブリダイズしたヌクレオチドは、10,000cpm/ngの特異的な放射活性を有する放射標識したプローブ1ngを使用して検出されたヌクレオチドであることができ、この場合、ハイブリダイズしたヌクレオチドは、-70℃、72時間以下のX線フィルムへの暴露後、明確に目に見える。
【0039】
比較のための配列アライメントの方法は、当技術分野で周知である。比較のための配列の最適アライメントは、SmithおよびWaterman、Adv. Appl. Math. 2: 482頁(1981)の局所的な相同性アルゴリズムによって;NeedlemanおよびWunsch、J. Mol. Biol. 48: 443頁(1970)の相同性アライメントアルゴリズムによって;PearsonおよびLipman、Proc. Natl. Acad. Sci. 85: 2444頁(1988)の類似性を検索する方法によって;ならびにこれらのアルゴリズムをコンピュータ処理の実行によって行うことができる。これらに限定されないが、後者の例として、Intelligenetics(Mountain View、カリフォルニア州)製のPC/Geneプログラム中のCLUSTAL;ならびにGenetics Computer Group(GCG)(575 Science Dr.、Madison、ウィスコンシン州、米国)製のWisconsin Genetics Software Package中のGAP、BESTFIT、BLAST、FASTAおよびTFASTAが挙げられる。CLUSTALプログラムは、HigginsおよびSharp、Gene 73: 237〜244頁(1988);HigginsおよびSharp、CABIOS 5: 151〜153頁(1989);Corpetら、Nucleic Acids Research 16: 10881〜90頁(1988);Huangら、「Computer Applications in the Biosciences 8」、155〜65頁(1992);ならびにPearsonら、「Methods in Molecular Biology 24」: 307〜331頁(1994)によって、十分記載されている。
【0040】
データベース類似性検索のために使用することができるBLASTファミリーのプログラムには、ヌクレオチドのクエリー配列をヌクレオチドのデータベース配列と比較するBLASTN;ヌクレオチドのクエリー配列をタンパク質のデータベース配列と比較するBLSTX;タンパク質のクエリー配列をタンパク質のデータベース配列と比較するBLASTP;タンパク質のクエリー配列をヌクレオチドのデータベース配列と比較するTBLASTN;およびヌクレオチドのクエリー配列をヌクレオチドのデータベース配列と比較するTBLASTXが含まれる。「Current Protocols in Molecular Biology、Chapter 19」、Ausubelら編、Greene Publishing and Wiley-Interscience、New York(1995);Altschulら、J. Mol. Biol., 215: 403〜410頁(1990);およびAltschulら、Nucleic Acids Res. 25: 3389〜3402頁(1997)を参照。
【0041】
BLAST解析を行うためのソフトウエアは、例えば、National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)から一般に公開されている。このアルゴリズムでは、まず、クエリー配列中の長さWの短い単語を同定することによって高いスコアを示す配列の対(HSP)を同定することになる。これらの単語は、データベース配列中の同一の長さの単語とアライメントさせた場合、マッチするか、何らかの正の値の閾値スコアTを満足するかのいずれかである。Tは、近傍単語スコア閾値(neighborhood word score threshold)と呼ばれる。これらの初めの近傍単語のヒットは、それらを含有するより長いHSPを見つける検索を開始するための種として働く。次いで、単語ヒットを、累積アライメントスコアを増加させることができる限り、各配列に沿って両方の方向へ伸長させる。ヌクレオチド配列の場合は、パラメーターM(マッチする残基の対に対するリワードスコア;常に>0)およびパラメーターN(ミスマッチする残基に対するペナルティスコア;常に<0)を使用して、累積スコアを計算する。アミノ酸配列の場合は、スコア行列を使用して、累積スコアを計算する。各方向への単語ヒットの伸長は、累積アライメントスコアが、最大達成値から量Xだけ減少した場合;1つまたは複数の負のスコアを示す残基のアライメントの蓄積により、累積スコアが、ゼロ以下になった場合;あるいはどちらかの配列の末端に達した場合に、停止する。BLASTアルゴリズムのパラメーターであるW、TおよびXによって、アライメントの感度および速度が決まる。(ヌクレオチド配列の場合の)BLASTNプログラムは、デフォルトとして、単語長(W)11、期待値(E)10、カットオフ100、M=5、N=-4および両方の鎖の比較を使用する。アミノ酸配列の場合、BLASTPプログラムは、デフォルトとして、単語長(W)3、期待値(E)10およびBLOSUM62スコアリング行列を使用する(HenikoffおよびHenikoff(1989)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915頁を参照)。
【0042】
配列同一性パーセントの計算に加えて、また、BLASTアルゴリズムは、2つの配列間の類似性の統計解析も行う(例えば、KarlinおよびAltschul、Proc. Nat'l. Acad Sci. USA 90: 5873〜5877頁(1993)を参照)。BLASTアルゴリズムが提供する類似性の1つの尺度として、最小和確率(smallest sum probability)(P(N))があり、これは、2つのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の間のマッチが偶然に生じる確率を示す。
【0043】
BLAST検索は、タンパク質を、ランダム配列として設計できると想定している。しかし、多くの実際のタンパク質は、非ランダム配列の領域を含み、それらは、ホモポリマー配列、短い反復または1種もしくは複数のアミノ酸を多く含む領域である場合がある。無関係なタンパク質間でも、そのような低複雑度の領域をアライメントさせることができるが、それらのタンパク質は、その他の領域では全く異なる。低複雑度をフィルターする多数のプログラムを利用して、そのような低複雑度のアライメントを減少させることができる。例えば、SEG(WootenおよびFederhen、Comput. Chem.、17: 149〜163頁(1993))およびXNU(ClaverieおよびStates、Comput. Chem.、17: 191〜201頁(1993))の低複雑度フィルターを単独または組み合わせて使用することができる。
【0044】
配列の複数のアライメントを、デフォルトパラメーター(GAP PENALTY=10、GAP LENGTH PENALTY=10)を用いてアライメントのCLUSTAL法を使用して行うことができる(HigginsおよびSharp(1989)CABIOS. 5: 151〜153頁)。CLUSTAL法を使用する対でのアライメントためのデフォルトパラメーターは、KTUPLE 1、GAP PENALTY=3、WINDOW=5およびDIAGONALS SAVED=5である。
【0045】
キメラのHCNを有する生物学的ペースメーカー
また、本発明は、移植可能な細胞を含む生物学的ペースメーカーおよび当該生物学的ペースメーカーのタンデム型ペースメーカーシステムにおける使用も提供し、当該細胞を対象の心臓に移植すると、当該細胞は、キメラのHCNを、当該細胞内で有効なペースメーカー電流を発生させるのに有効なレベルで、機能的に発現する。
【0046】
「HCNのキメラ」とは、2種以上の型のHCNチャネルの部分を含むHCNイオンチャネルを意味するものとする。例えば、あるキメラは、HCN1の部分と、HCN2またはHCN3またはHCN4の部分とを含むこと等ができる。その上、イオンチャネルのキメラとは、異なる種に由来するHCNチャネルの部分を含むイオンチャネルも意味するものとする。例えば、チャネルの一部分は、ヒトに由来することができ、別の部分は、非ヒトに由来することができる。
【0047】
「HCNXYZ」(ただし、X、YおよびZは、整数1、2、3または4のいずれか1つであり、X、YおよびZの少なくとも1つは、その他の数の少なくとも1つとは異なる数である)という用語は、XYZの順で近接する3つの部分を含むキメラのHCNチャネルポリペプチドを意味するものとし、Xは、N末端部分であり、Yは、膜内部分であり、Zは、C末端部分であり、かつ数X、YおよびZは、当該部分が由来するHCNチャネルを示す。例えば、HCN112は、HCN1からのN末端部分および膜内部分、ならびにHCN2からのC末端部分を有するHCNのキメラである。
【0048】
Wangら(2001年b)は、HCN1とHCN2との間のキメラを使用して、cAMPの調節作用に関する分子基盤、および2種のチャネルの機能的特性の違いに関する分子基盤を調査した。本発明は、HCNのキメラを産生するために、HCNのアイソフォーム全4種の部分をコードするヌクレオチド配列のin vitro組換えによるHCNチャネルの特性の操作を開示する。実施例4に詳述するように、HCN212等、これらのキメラのうちの特定のものは、心臓障害を治療する場合に、ペースメーカー電流を発生させるのに有利な特徴を示す。
【0049】
一般的にいうと、HCNポリペプチドは、3つの主要なドメイン、すなわち、(1)細胞質側のアミノ末端ドメイン;(2)膜にまたがるドメインおよびそれらを連結する領域;ならびに(3)細胞質側のカルボキシ末端ドメインに分かれる。今日までのところ、N末端ドメインが、チャネルの活性化において主要な役割を担っているという証拠はない(Bielら、2002年)。本明細書に記載するように、膜にまたがるドメインおよびそれらを連結する領域が、ゲーティングの動態の決定において重要な役割を担っており、C末端ドメインのCNBDが、交感神経系および副交感神経系にチャネルが応答する能力の大きな原因である。交感神経系および副交感神経系はそれぞれ、細胞性のcAMPのレベルを上昇および低下させる。当業者であれば、HCNポリペプチドのどのアミノ酸が、アミノ末端ドメイン、膜にまたがるドメイン、それらを連結する領域および細胞質側のカルボキシ末端ドメインを含むかを決定することができるであろう。
【0050】
本発明の好ましい実施形態は、迅速な動態およびcAMPに対する良好な応答性を提供するキメラのHCNチャネルを発現する細胞を含むペースメーカーシステムを提供する。HCN1は、最も迅速な動態を有するが、cAMP応答性が乏しい。HCN2は、動態はより緩慢であるが、良好なcAMP応答性を有する。したがって、HCN1とHCN2とのキメラを実験的に研究した結果、本発明は、これらおよびその他のキメラを発現する細胞を含むペースメーカーシステムを提供する。図3に、HCN1/HCN2のキメラの模式図を示す。
【0051】
本発明の生物学的ペースメーカーのいくつかの実施形態では、HCNのキメラは、アミノ末端部分と膜内部分とカルボキシ末端部分とを含み、これらはこの順で近接しており、各部分は、HCNチャネルの一部またはHCNチャネルの変異体の一部であり、かつ1つの部分は、あるHCNチャネルまたはHCNチャネルの変異体に由来し、これは、少なくとも1つのその他の2つの部分が由来するHCNチャネルまたはHCNチャネルの変異体とは異なる。さらなる実施形態では、HCNのキメラの少なくとも1つの部分が、ある動物種に由来し、これは、少なくとも1つのその他の2つの部分が由来する動物種とは異なる。例えば、チャネルの1つの部分は、ヒトに由来することができ、別の部分は、非ヒトから由来することができる。一実施形態では、膜内部分が、mHCN1のD129-L389である。その他の実施形態では、キメラのポリペプチドは、mHCN112、mHCN212、mHCN312、mHCN412、mHCN114、mHCN214、mHCN314、mHCN414、hHCN112、hHCN212、hHCN312、hHCN412、hHCN114、hHCN214、hHCN314またはhHCN414を含む。
【0052】
異なる実施形態では、HCNのキメラは、mHCN112、mHCN212、mHCN312、mHCN412、mHCN114、mHCN214、mHCN314、mHCN414、hHCN112、hHCN212、hHCN312、hHCN412、hHCN114、hHCN214、hHCN314またはhHCN414である。好ましい実施形態では、HCNのキメラは、hHCN112またはhHCN212である。
【0053】
HCN112キメラ(HCN1のN末端ドメイン、HCN1の膜にまたがるドメインおよびHCN2のC末端ドメインを含有する)は、生物学的なペースメーカーに用いる好ましい候補チャネルである。というのは、これは、適切な、HCN1の膜にまたがるドメイン(迅速な動態を示す)、およびHCN2のC末端ドメイン(良好なcAMP応答性を示す)を含有するからである。図3を参照されたい。また、HCN212も、好ましい候補である。図3を参照されたい。その他の好ましいキメラは、HCN312およびHCN412である。また、HCN4も、緩慢な動態を示すが、cAMP応答性は良好であり、したがって、HCN114、HCN214、HCN314およびHCN414は、望ましいキメラである。
【0054】
3つの広範な機能性ドメインに関してHCNチャネルを上記で定義したが、キメラのチャネルにおけるこれらのドメインの間の境界を設定することができる複数の部位が存在する。また、本発明は、異なって規定された境界を有するドメインを使用して生み出されたHCNのキメラの変異体も包含する。これらの境界も、個々のHCNチャネルの望ましい生物化学的および生物物理的な特徴を組み換えるのに役立つ。
【0055】
好ましい実施形態では、キメラのHCNチャネルは、改善された特徴を提供し、それらの特徴として、野生型HCNチャネルと比較して、これらに限定されないが、より迅速な動態、より正の活性化、増加した発現レベル、向上した安定性、増強されたcAMP応答性および増強された神経液性応答が挙げられる。
【0056】
変異型HCNを有する生物学的ペースメーカー
また、本発明は、移植可能な細胞を含む生物学的ペースメーカーおよび当該生物学的ペースメーカーのタンデム型ペースメーカーシステムにおける使用も提供し、当該細胞を対象に移植すると、当該細胞は、変異型HCNを、当該細胞内で有効なペースメーカー電流を誘発するのに有効なレベルで、機能的に発現する。
【0057】
イオンチャネルの電位活性化について知られていることの大部分は、電位開口型K+(Kv)チャネルの研究からである。HCNチャネルは、Kvチャネルの場合の脱分極の代わりに、膜の過分極に応答して開くが、HCNチャネルは、Kvチャネルに非常に類似した膜貫通トポロジーを有する。これらのイオンチャネルの全てが、4つのサブユニットを有し、各サブユニットは、6つの膜貫通セグメントであるS1〜S6を有する。正に荷電したS4ドメインが、主要な電位センサーを形成し、S5およびS6は、これら2つを連結するS5-S6リンカーと一緒になって、イオン透過経路を含有するポアドメイン、およびイオンの流れを制御するゲートを形成する(Larsson、2002年)。活性化ゲートは、S6へリックスのC末端の交差によって形成される(Decherら、2004年)。ゲートの活性化および不活性化、選択的イオン透過性ならびにイオンチャネルの電位感知の機構の物理学的基盤の理解において、多くの進展が、生物物理学的な実験および最近記載された細菌のK+チャネルの構造に基づいてもたらされている。しかし、電位の変化がこれらのチャネルを開閉する分子機構、および電位センサーとゲートとの間の共役機構については、依然として理解されていない部分が多い。特に、どのようにして共役機構の結果、KvチャネルおよびHCNチャネルの活性化が逆の電位に依存するようになるのかについては不明のままである。
【0058】
HCNチャネルのポアの開閉に対する電位センサーの動きの共役には、特異的なアミノ酸の相互作用の必要なしに、S4、S5およびS6の膜貫通ドメインの全体的な再編成が関わるであろう。しかし、最近の研究から、物理的な共役は、S4-S5リンカーのアミノ酸とS6ドメインのアミノ酸との間の特異的な相互作用を含む可能性があることが示唆されている(Chenら、2001年a;Decherら、2004年)。これらの研究は、S4-S5リンカーは、HCNチャネルの過分極活性化による開口を仲介する共役機構の重要な成分であることを示唆している。
【0059】
電位の感知およびHCNチャネルの活性化を、変異によって変化させることができる。例えば、HCN2のS4-S5リンカーのアラニンスキャニング変異誘発によって、3つのアミノ酸が、正常なゲーティングのために、特に重大な意味をもつことが明らかになった(Chenら、2001年a)。Y331またはR339、および程度はより低いがE324の変異が、チャネルの閉鎖を混乱させた。S4ドメインの塩基性の残基の変異(R318Q)が、チャネルの開口を阻止した。逆に、R318QおよびY331Sの二重変異を有するチャネルは、恒常的に開口した。S6のC末端およびS6をCNBDに接続するCリンカーのアラニンスキャニング変異誘発を使用して、Decherら(2004年)は、変異によってチャネルの閉鎖を妨害して、正常なゲーティングのために重要である5つの残基を同定した。さらなる変異解析によって、S4-S5リンカーのR339とCリンカーのD443との間の特異的な静電気的相互作用が、閉鎖状態を安定化させ、したがって、電位感知の共役およびHCNチャネルのゲーティングの活性化に関与することが示唆された。また、S4-S5リンカーの残基とS6ドメインのC末端の残基との間の相互作用も、閉鎖状態のhERGチャネルおよびether-a-go-goチャネルを安定化するために重大な意味をもつことが示されている(Ferrerら、2006年)。これらの変異研究は、S4電位センサー、電位感知のポアの開閉との共役に結びつけられているS4-S5リンカー、ポアを形成するS5、S6およびS5-S6リンカー、Cリンカー、ならびにCNBDにおける変異は、HCNチャネルの活性に影響する点で特に重要である可能性があることを示している。
【0060】
したがって、本発明は、生物学的ペースメーカーを提供し、当該生物学的ペースメーカーは、移植可能な細胞を含み、当該細胞を対象に移植すると、当該細胞は、変異型HCNイオンチャネルを、当該細胞内で有効なペースメーカー電流を誘発するのに有効なレベルで、機能的に発現する。好ましい実施形態では、変異型HCNチャネルは、改善された特徴を提供し、それらの特徴として、野生型HCNチャネルと比較して、これらに限定されないが、より迅速な動態、より正の活性化、増加した発現レベル、向上した安定性、増強されたcAMP応答性および増強された神経液性応答が挙げられる。本発明の特定の実施形態では、変異型HCNチャネルは、S4電位センサー、S4-S5リンカー、S5、S6、S5-S6リンカーおよび/またはCリンカー、ならびにCNBDにおいて少なくとも1つの変異を保有し、これらの変異の結果、上記で議論した特徴のうちの1種または複数が得られる。その他の実施形態では、HCN変異体は、E324A-HCN2、Y331A-HCN2、R339A-HCN2またはY331A,E324A-HCN2である。好ましい実施形態では、変異型HCNチャネルは、E324A-HCN2である。
【0061】
上記の変異に加えて、異なるHCNアイソフォームにおける多くの変異が報告されている。これらとして、電位の感知および活性化におけるE324残基、Y331残基およびR339残基の役割をより詳細に調査するために、Chenら(2001年a)が作ったHCN2におけるR318Q、W323A、E324A、E324D、E324K、E324Q、F327A、T330AおよびY331A、Y331D、Y331F、Y331K、D332A、M338A、R339A、R339C、R339D、R339EならびにR339Qが挙げられる。また、Chenら(2001年b)は、mHCN1におけるR538EおよびR591Eの変異も報告しており;Tsangら(2004年)は、mHCN1におけるG231AおよびM232Aを報告しており;Vemanaら(2004年)は、mHCN2におけるR247C、T249C、K250C、I251C、L252C、S253C、L254C、L258C、R259C、L260C、S261 C、C318S、S338Cを報告しており;MacriおよびAccili(2004年)は、mHCN2におけるS306Q、Y331DおよびG404Sを報告しており;ならびに、Decherら(2004年)は、mHCN2におけるY331A、Y331D、Y331S、R331FD、R339E、R339Q、I439A、S441A、S441T、D443A、D443C、D443E、D443K、D443N、D443R、R447A、R447D、R447E、R447Y、Y449A、Y449D、Y449F、Y449G、Y449W、Y453A、Y453D、Y453F、Y453L、Y453W、P466Q、P466V、Y476A、Y477Aおよび481Aを報告している。上記の出版物の全ての全内容が、参照によって本明細書に組み入れられている。上記に列挙した報告されている変異のうちの特定のものが、単独または組合せで、生物学的ペースメーカーを生み出す場合に、HCNチャネルに有利な特徴を与えることができる。本明細書に開示する本発明は、より迅速な動態、より正の活性化、増加した発現、および/または向上した安定性、増強されたcAMP応答性および/または増強された神経液性応答を提供することによって等、チャネルのペースメーカー活動を改善させる、単独または組合せでのHCNチャネルの全ての変異を包含する。
【0062】
本明細書では、変異とは、変異を受けたアミノ酸残基の1文字略語、ポリペプチド内の当該残基の位置、および当該残基が変異型アミノ酸残基の1文字略語を提供する表示によって識別する。したがって、例えば、E324Aは、324位のグルタミン残基(E)がアラニン(A)に変異した変異ポリペプチドを識別する。Y331A, E324A-HCN2は、一方は331位のチロシン(Y)がアラニン(A)に変異し、他方は324位のグルタミン酸残基がアラニンに変異した、二重変異を有するマウスHCN2を示す。
【0063】
本明細書に開示する実験は、より迅速な動態およびより正の活性化の関係の両方を示すと報告されている(Chenら、2001年a)mHCN2におけるE324A変異を探索した。これらの特徴の両方は、歩調取りを増強するはずである。筋細胞、アフリカツメガエル卵母細胞およびin situイヌ心臓において発現させた場合のHCN2と比較したE324Aのペースメーカー活動の詳細を、実施例で提供する。
【0064】
MiRP1を有するHCNチャネル(変異およびキメラを含む)を有する生物学的ペースメーカー
発現する電流の大きさを増加させる、および/または活性化の動態を速めることによって、HCNチャネルの生物学的ペースメーカー活動を増強する別のアプローチの場合、HCN2をそのベータサブユニットMiRP1と同時発現させる。Quら(2004年)は、筋細胞の培養物にHCN2アデノウイルス、およびGFPタグ付きMiRP1またはHAタグ付きMiRP1のいずれかの媒体である第2のアデノウイルスを感染させた。その結果、電流の大きさおよび活性化の加速および非活性化の動態が顕著に増加した。また、参照によって全内容が本明細書に組み入れられている米国特許第6783979号も参照されたい。
【0065】
多くのMiRP1の変異が報告されており(例えば、Mitchesonら、2000年;Luら、2003年;Piperら、2005年を参照)、これらの変異のうちの特定のもの、またはそれらの組合せが、生物学的ペースメーカーを生み出すために使用するHCNチャネルが発現する電流の大きさおよび電流の活性化の動態を増加させるのに有利な可能性がある。本明細書に開示する本発明は、MiRP1におけるそのような変異またはそれらの組合せの全てを包含する。
【0066】
生物学的ペースメーカーの細胞
「移植可能な細胞」とは、対象に移植するまたは投与することができる細胞を意味する。「細胞」は、生物学的細胞、例えば、HeLa細胞、幹細胞または筋細胞、および非生物学的細胞、例えば、リン脂質ベシクル(リポソーム)またはウイルス粒子を含むものとする。好ましくは、本発明の生物学的ペースメーカーは、心筋細胞とのギャップ結合を介した伝達が可能である移植可能な生物学的細胞を含む。例示的な細胞として、これらに限定されないが、幹細胞、心筋細胞、コネキシンを発現するように操作された繊維芽細胞または骨格の細胞、あるいは内皮細胞が挙げられる。幹細胞は、実質的に分化できない、胚性幹細胞または成体幹細胞であることができる。好ましい実施形態では、細胞は、成体間葉系幹細胞であり、より好ましい実施形態では、細胞は、成体ヒト間葉系幹細胞である。以下に記載する実験は、hMSCがHCNイオンチャネルを心臓に送達するための魅力的なプラットフォームを提供することを示す。
【0067】
好ましい実施形態では、成体ヒト間葉系幹細胞は、少なくとも9回、またはより好ましい実施形態では、9から12回継代されており、CD29、CD44、CD54およびHLAクラスIの表面マーカーを発現するが、CD14、CD45、CD34およびHLAクラスIIの表面マーカーを発現できない。そのような成体ヒト間葉系幹細胞は、実質的に分化できないようであるが、それらを幹細胞として同定するマーカーを依然として維持する。全体が参照によって本明細書に組み入れられている、2006年7月21日に本明細書と同時出願の同時係属中の仮特許出願第60/ 号(未付与)、標題「Use of late passage mesenchymal(MSCs)for treatment of cardiac disorders」を参照されたい。
【0068】
骨髄由来および/または循環中のhMSCの心筋梗塞後の患者への送達により、機械的性能の何らかの改善が得られ(Strauerら、2002年;Perinら、2003年)、明白な毒性はなかったとの最近の報告がある。これらおよびその他の動物実験(Orlicら、2001年)から、hMSCは、心臓合胞体内に取り込まれ、次いで、新しい心臓細胞に分化して、機械的機能を回復したと推定される。しかし、6匹の非免疫抑制成体イヌのLV心外膜下へのmHCN2形質移入hMSCの注入後の42日間にわたりhMSCの分化はみられなかった(Plotnikovら、2005年b)。さらに、hMSCを、9回以上、好ましく9〜12回継代すると、分化が阻止されることが示されている(未発表データ)。共に係争中の仮特許出願第60/ 号(未付与)、標題「Use of late passage mesenchymal(MSCs)for treatment of cardiac disorders」、2006年7月21日、本明細書と同時出願を参照されたい。
【0069】
本発明の好ましい生物学的ペースメーカーおよび生物学的ペースメーカーを含む好ましいタンデム型のシステムでは、移植する細胞の量は、有効なペースメーカー電流を発生させるのに要求される量である。「有効なペースメーカー電流」とは、上記に記載したHCNチャネル、キメラのHCNチャネルまたは変異型HCNチャネルを発現する細胞が、対象の心臓を拍動させる効果があるペースメーカー電流を発生させることを意味する。ペースメーカー電流の強度、またはペースメーカー電流が発生させた心臓の拍動速度は、正常で健常な心臓のレベルである必要はないが、好ましい実施形態では、生物学的ペースメーカーの機能に加えて、正常で健常な自然に発生するペースメーカーのレベルで提供される。
【0070】
特定の実施形態では、生物学的ペースメーカーは、5,000個から1.5億個のヒト成体間葉系幹細胞を含む。その他の実施形態では、生物学的ペースメーカーは、約700,000個から1.0億個のヒト成体間葉系幹細胞を含む。一実施形態では、生物学的ペースメーカーは、少なくとも約5,000個の細胞を含む。好ましい実施形態では、生物学的ペースメーカーは、少なくとも約200,000個のヒト成体間葉系幹細胞を含む。別の好ましい実施形態では、生物学的ペースメーカーは、少なくとも約500,000個の細胞を含む。より好ましい実施形態では、生物学的ペースメーカーは、少なくとも約700,000個のヒト成体間葉系幹細胞を含む。図29および30を参照されたい。
【0071】
生物学的ペースメーカーを生み出すためのHCNチャネルの植込み型細胞への送達
本発明の特定の生物学的ペースメーカーを生み出すために、上記に記載したHCNチャネルをコードする核酸を、(上記に記載した)移植可能な細胞に送達しなければならない。エレクトロポレーションが、hMSC等の細胞を遺伝子操作するための好ましいin vitroにおける方法であり、その結果、If(HCNチャネル)を過剰発現させて、対象の心臓へのin vivoでの送達となる。エレクトロポレーションは、細胞を高電圧の短いパルスに一過性に暴露し、細胞膜のポアを開口させて、DNAおよびタンパク質等の巨大分子を細胞内へ進入させることができる手法である。また、エレクトロポレーションをin vivoにおいて適用して、核酸およびタンパク質を、ラット、マウスおよびウサギを含む、生きている動物の筋肉細胞へ送達できることも実証されており(米国特許第6110161号を参照)、この方法を使用して、直接、ニワトリの胎生期の心臓に(Harrisonら、1998)、および移植前の哺乳動物の心筋に(Wangら、2001年c)DNAを送達している。
【0072】
心臓への植込みのために、遺伝子を移植可能な細胞に導入するその他の方法として、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)およびレンチウイルスを使用するウイルス形質移入、リポソーム仲介形質移入(リポフェクション)、形質移入化学試薬を使用する形質移入、熱ショック形質移入またはマイクロインジェクションが挙げられる。AVVは、アデノウイルスに随伴する小型のパルボウイルスであり、それ自体では複製することができず、複製するためには、アデノウイルスまたはヘルペスウイルスとの同時感染が必要である。ヘルパーウイルスの非存在下では、AVVは、潜伏期に入り、その間にこのウイルスは宿主細胞のゲノムに安定的に取り込まれる。AAVに挿入した遺伝子は、長期間宿主細胞のゲノム中で持続することができることから、この潜伏期が故に、AAVは、約4.4kbまでの遺伝子の導入に関わる特定の遺伝子治療への適応に魅力がある(PfeiferおよびVerma、2001年)。レンチウイルスは、レトロウイルスファミリーのメンバーであり、興味深い別法の可能性を提供する(AmadoおよびChen、1999年;Trono、2002年)。アデノウイルスとは異なり、エレクトロポレーションおよびレンチウイルスベクターの使用により、宿主免疫応答を惹起することなく、導入遺伝子を持続して発現させることができる。
【0073】
安全性は、特にウイルスベクターに関しては、実証すべき要因である。ウイルスベクターまたは細胞が不整脈および腫瘍を発生させることがないことを、感染および遠部での生着がないことと共に実証する必要がある。安全性および効力が実証されたならば、対費用効果も考慮しなければならない。たとえ発現および送達の問題を克服したとしても、細胞に基づくペースメーカーを長期に持続させるには、非自己性の細胞を利用する場合には、拒絶がないことが要求される。この点から、hMSCは、自己性の源から入手すべきである。しかし、これらの細胞は免疫特権を有することを示唆する証拠(Liechtyら、2000年)から、自己性の源を求める必要性が減少する可能性がある。この特権は、長期わたっては試験されていないが、hMSCのイヌ心臓への注入6週間後では、細胞性の拒絶も、液性の拒絶も、明白ではなかった(Plotnikovら、2005年b)。胚性幹細胞の場合には、拒絶を考慮する必要が残る。既製の細胞を、移植するために準備することができることから、hMSCの免疫特権を有する状況に基づくアロジェネイックな解決法が、より好都合なモデルを提供するであろう。
【0074】
植込み型細胞の対象の心臓への送達
本発明の細胞に基づく生物学的ペースメーカーを、好ましくは、対象の心臓の選択された部位に投与する。局所送達を達成するためのいくつかの方法、例えば、カテーテルおよび針の使用、ならびに/またはマトリックスおよび「接着剤」の上での増殖が実行可能である。いかなるアプローチを選択するにしても、送達された細胞が、標的部位から遠く離れて分散してはならない。そのような分散は、心臓内およびその他の臓器に望まれない電気的な作用を導入する恐れがある。6匹の成体イヌの左心室心外膜下へ最大約106個のHCN2形質移入hMSCを注入した予備研究において、hMSCの集団は、一貫して、注入部位に隣接して認められたが、遠隔地には認められなかった(Plotnikovら、2005年b)ことは注目に価する。
【0075】
即時ペースメーカーのシステムおよび方法の多様な実施形態では、移植可能な細胞を、心臓上または心臓内に、注入、カテーテル法、外科的挿入または外科的付着によって投与する。送達部位は、最適な活性化および血行動態の応答を与えるように、患者の病態に基づいて投与時に決定する。したがって、選ぶ部位は、洞房(SA)結節、バッハマン束、房室接合部、ヒス束、左または右の脚、プルキンエ線維、右または左の心房筋、あるいは右または左の心室筋が考えられ、適切な部位は、当業者には周知である。また、心臓で発現させるHCNイオンチャネルのアイソフォームまたは型を、送達部位に応じて変化させることができる。その上、異なる送達部位では、イオンチャネル遺伝子の発現の異なるレベルが望ましい場合がある。そのような発現の異なるレベルを、所望のレベルでの発現を推進する異なるプロモーターを使用することによって得ることができる。
【0076】
別の実施形態では、移植可能な細胞を、直接心臓上または心臓内に、注入またはカテーテル法によって局所投与する。さらなる実施形態では、細胞を、冠状動脈血管または心臓に近位の血管内に、注入またはカテーテル法によって全身投与する。さらに別の実施形態では、細胞を、心臓の心房または心室のある範囲の上または中に注入する。その他の実施形態では、細胞を、心臓の左心房、心室の壁、心室の脚または近位のLVの伝導系の上または中に注入する。
【0077】
対象の心臓内にHCNチャネルを有する発現ベクターを投与することによって形成する生物学的ペースメーカー
本発明の特定の実施形態では、生物学的ペースメーカーを、直接対象の心臓に形成する。そのような実施形態では、上記に記載した、HCNチャネル(キメラおよび変異体を含む)および/またはMiRP1をコードする核酸を含むベクター(複数のベクター)を、対象の心臓の細胞に投与する。このベクターは、HCNチャネルを機能的に発現して、上記に記載したように、心臓において有効なペースメーカー電流を発生させる。
【0078】
所望の核酸(すなわち、HCNチャネルおよびMiRP1等)を含むベクターは、当該核酸の発現を提供する必要な調節エレメント、例として、プロモーターを含む、いずれかの適切な発現ベクターであることができる。当業者であれば、適切なベクターおよび心臓の細胞に投与する場合の核酸の発現を提供するのに必要なその他の調節エレメントのいずれをも認識し、選択するであろう。例えば、ベクターは、上記に記載したベクターであることができる。当業者は、対象の細胞にベクターを投与する異なる方法を理解および認識するであろう。例えば、ベクターを、心臓上または心臓内に、注入またはカテーテル法によって投与することができる。特定の実施形態では、ベクターを、対象を治療するのに最も適した心臓の範囲/領域の上または中に投与する。当業者は、適切な投与部位を理解するであろう。例えば、治療しようとする対象が、正常に機能する心臓を有するが、洞房結節の欠損を有する場合、上記に記載したベクターを対象の洞房結節に投与することを考えてもよいであろう。投与のための例示的な部位として、これらに限定されないが、心臓のバッハマン束、洞房結節、房室接合部、ヒス束、左または右の脚、プルキンエ線維、右または左の心房筋、心室の壁あるいは近位の左心室(LV)または右心室(RV)の伝導系が挙げられる。
【0079】
バイパスブリッジを有するタンデム型システム
また、本発明は、(1)電気的ペースメーカーと、(2)第1末端および第2末端を有するギャップ結合連結細胞の条片を含むバイパスブリッジとを含むタンデム型ペースメーカーシステムも提供し、両末端は、心臓の2つの選択された部位に付着することができ、その結果、心臓の2つの部位の間のブリッジを横断しての、ペースメーカー信号および/または電気信号/電流の伝達が可能となる。特定の実施形態では、バイパスブリッジは、房室性のブリッジであり、その場合、バイパスブリッジの第1末端が心房に付着することができ、第2末端が心室に付着することができ、その結果、心房からの電気信号が経路を横断して移動して心室を興奮させることが可能となる。
【0080】
バイパスブリッジおよび房室性のブリッジは、PCT国際公開第WO 2005/062857号、米国仮特許出願第60/704210号(2005年7月29日出願)および米国特許出願第10/745943号(2003年12月24日出願)、ならびに米国出願第11/ 号(未付与)、標題「A Biological Bypass Bridge with Sodium Channels, Calcium Channels and/or Potassium Channels to Compensate for Conduction Block in the Heart」、2006年7月21日、本明細書と同時出願、に記載されている。これらは全て、全内容が参照によって本明細書に組み入れられている。
【0081】
ギャップ結合連結細胞の経路は、生物学的ペースメーカーの移植可能な細胞に関して上記に記載されたいずれかの移植可能な細胞(すなわち、幹細胞、心筋細胞、心臓のコネキシンを発現するように操作された繊維芽細胞または骨格筋細胞、あるいは内皮細胞)であることができる。特定の実施形態では、細胞は、心臓のコネキシン;L型カルシウムチャネルのアルファサブユニットおよびアクセサリーサブユニット;ナトリウムチャネルのアルファサブユニットで、アクセサリーサブユニットを有するまたは有しないもの;あるいはカリウムチャネルのアクセサリーサブユニットを有するまたは有しない、カリウムチャネルのアルファサブユニットと組み合わせたL型カルシウムチャネルおよび/またはナトリウムチャネルであるタンパク質を機能的に発現する。さらなる実施形態では、コネキシンは、Cx43、Cx40またはCx45である。
【0082】
特定の実施形態では、細胞は、成体ヒト間葉系幹細胞(MSC)である。MSCは、これらに限定されないが、以下を含む、いくつかの方法で調製することができる。
1: 追加の伝導の分子決定要因を組み入れない培養。この場合、電気信号を伝達するギャップ結合を生成する細胞自体の特徴を、電気的な波を細胞から細胞へと伝播する手段として使用する。
2: コネキシン43、40および/または45の遺伝子を導入するエレクトロポレーションに続く培養によって、ギャップ結合の形成を増強し、それによって電気信号の細胞から細胞への伝播を容易にする。
3: L型カルシウムチャネルのアルファサブユニットおよびアクセサリーサブユニット;ナトリウムチャネルのアルファサブユニットで、アクセサリーサブユニットを有するまたは有しないもの;あるいはカリウムチャネルのアクセサリーサブユニットを有するまたは有しない、カリウムチャネルのアルファサブユニットと組み合わせたL型カルシウムチャネルおよび/またはナトリウムチャネルを含む、異なる型のイオンチャネルをコードする遺伝子を導入するエレクトロポレーションに続く培養。これらのイオンチャネルの発現は、波面の電気緊張性の伝播の可能性のみならず、活動電位による能動的な伝播の可能性も高める。
4: 方法2および3の組合せ。このように産生したこれらのhMSCを、培地中で、非生理活性材料上で増殖させる。hMSCは、本明細書に記載するように、ギャップ結合を介して一緒になって共役する。
【0083】
特定の実施形態では、バイパスブリッジが、房室性のブリッジである場合、増殖が完了すると、ブリッジの一端を心房に、他端を心室に縫合する。心房を活性化する洞房結節によって発生した電気信号は、人工的に構築した経路を横断し伝播して、心室も興奮させる。このようにして、房室性の活性化の正常な筋道が維持される。
【0084】
この様式での房室性のバイパスの調製によって、心房から心室への伝播が容易になり、それに加えて、心房から心室への収縮を十分に遅延させて、心室を最大に充填および空にし、心臓の正常な活性化および収縮性の筋道を模倣する。
【0085】
特定の実施形態では、本発明は、電気的ペースメーカーとバイパスブリッジとを含み、かつ生物学的ペースメーカー、好ましくは、本発明の生物学的ペースメーカーをさらに含むタンデム型のペースメーカーシステムを提供する。好ましい実施形態では、バイパスブリッジは、房室性のブリッジである。
【0086】
上記に記載したように、タンデム型システムは、電気的ペースメーカーを含む。電気的ペースメーカーは、当技術分野で既知である。例示的な電気的ペースメーカーが、米国特許第5983138号、第5318597号および第5376106号;Hayes(2000年);ならびにMosesら(2000年)に記載されており、それら全ての全内容が、参照によって本明細書に組み入れられている。電気的ペースメーカーがすでに対象に適用されている場合もあれば、電気的ペースメーカーを、対象に、同時または生物学的ペースメーカーを留置した後に適用することもできる。電気的ペースメーカーの適切な部位は、熟練した専門家には周知であり、対象の状態および本発明の生物学的ペースメーカーの留置によって決まる。例えば、対象が、機能する洞房結節を有するが、洞房結節と房室結節との間にブロックを有する場合、生物学的ペースメーカーを房室結節に投与するのが好ましいであろう。好ましい挿入部位は、これらに限定されないが、対象の心臓のバッハマン束、洞房結節、房室接合部、ヒス束、左または右の脚、プルキンエ線維、左または右の心房筋、あるいは左または右の心室筋である。
【0087】
本発明の好ましい実施形態では、電気的ペースメーカーは、「必要」に応じて、すなわち、生物学的に発生させた拍動を感知し、生物学的ペースメーカーが発火できない場合および/またはバイパスブリッジが設定時間間隔を上回って電流を伝導する場合に、電気的に放電するペースメーカー信号を出力するようにプログラムされる。この時点で、電子的なペースメーカーは、生物学的ペースメーカーが活動を再開するまでペースメーカーの機能を引き継ぐ。したがって、いつ電気的ペースメーカーが、ペースメーカー信号を出力するかを決定する必要がある。最新式のペースメーカーは、心拍数が閾値レベルを下回る時点を検出する能力を有し、この時点に応答して、電気的ペースメーカー信号が出力することになっている。閾値レベルは、一定の数であってもよいが、好ましくは、身体活動または情動の状況等の患者の活動に応じて変化する。例えば、患者が安静にしているまたは軽度の活動に従事している場合、患者のベースライン心拍数は、60〜80回/分(bpm)(患者毎に異なる)であろう。ベースライン心拍数は、患者の年齢および身体の状態に応じて変化し、活発な患者は典型的にはより低いベースライン心拍数を有する。患者の実際の心拍数(いずれかの生物学的ペースメーカーによって誘発された心拍数を含む)が、特定の閾値ベースライン心拍数、特定の差異または当業者に既知のその他の様式を下回る場合、ペースメーカー信号を出力するように電気的ペースメーカーをプログラムすることができる。患者が安静にしている場合、ベースライン心拍数は、安静時の心拍数である。ベースライン心拍数は、患者の身体活動のレベルまたは情動の状況に応じて変化する可能性が高い。例えば、ベースライン心拍数が80bpmである場合、実際の心拍数が約64bpm(すなわち、80bpmの80%)であると検出されたときに、ペースメーカー信号を出力するように、電気的ペースメーカーを設定することができる。
【0088】
また、運動時に、生物学的な構成成分が停止した場合、より高い心拍数で介入し、次いで、ベースラインの心拍数まで徐々に遅らせることによって、介入するように電気的な構成成分をプログラムすることもできる。例えば、心拍数が、身体活動または情動の状況によって、120bpmまで増加する場合、閾値を96bpm(120bpmの80%)まで増加させることができる。この治療法の生物学的な部分は、生物学的ペースメーカーの特徴である自律的な応答性および心拍数の範囲を利用し、かつ安全策として機能するベースラインの心拍数を利用し、これは、電気的ペースメーカーの特徴である。前回の間隔よりもX%(例えば、20%)長い間隔で休止する場合には常に、ペースメーカー信号を出力するように、電気的ペースメーカーを設定することができる。これは、前回の間隔が、電気的ペースメーカーの信号によるものでなく、何らかの最小値(例えば、50bpm)より大きい心拍数の間隔であった場合に限られる。
【0089】
したがって、本ペースメーカーシステムのある実施形態では、電気的ペースメーカーは、心臓の拍動速度を感知し、心臓の拍動速度が特定したレベルを下回る場合に、ペースメーカー信号を出力する。さらなる実施形態では、特定したレベルは、基準の時間間隔後に心臓が経験する拍動速度の特定した割合である。さらに別の実施形態では、基準の時間間隔は、特定した持続期間の直前の期間である。
【0090】
本明細書に記載するように、移植した生物学的ぺースメーカーを、イヌの研究において電気的ペースメーカーと併行して試験した。電気的応需型ぺースメーカーを、あらかじめ特定した回避速度に設定し、電気的に開始させた心拍と生物学的に開始させた心拍の発生頻度を比較してモニターした。このようにして、電気的な構成成分は、タンデム型ペースメーカーのユニットの生物学的な構成成分の効力を測定する。そのようなタンデム型の生物学的-電気的ペースメーカーには、第1相および第2相臨床試験で要求される患者保護の基準を満たすことだけでなく、単なる電気的ペースメーカーを上回る治療上の利点を提供することも期待される。すなわち、タンデム型のシステムの生物学的な構成成分は、患者の運動および情動の状況の変化が要求する範囲にわたり心拍数を変化させるように機能し、電気的な構成成分は、生物学的な構成成分が部分的に停止したまたは完全に停止したのいずれの場合にも、安全策を提供する。その上、電気的のみのペースメーカーが時の経過と共に通常送達するであろう電気的な拍動の発生頻度を減少させることによって、タンデム型のユニットは、電気的な構成成分の電池寿命を延長させるであろう。このことは、電源パックが必要とする交換の間隔を大いに延長させることができるであろう。したがって、タンデム型のペースメーカーシステムの構成成分は、安全で生理的な心臓の律動制御の機会を最大化する点で、相乗的に動作する。
【0091】
治療方法
タンデム型ペースメーカーの概念は、臨床適用に関して、いくつかの課題を提示する。第1に、このシステムは、意図的に重複性であり、2つの完全に無関係な故障モードを有する。2つの独立した埋込み部位および独立したエネルギー源は、(例えば、心筋梗塞による)捕捉不全の事象では、安全機構を提供するであろう。第2に、電気的ペースメーカーは、ベースラインの安全策のみならず、臨床医の精査に向けて全心拍の継続的な記録も提供し、したがって、患者の進展する生理およびタンデム型ペースメーカーシステムの性能に関する洞察を提供するであろう。第3に、大部分の心臓のペーシングを行うように、生物学的ペースメーカーを設計するので、電気的ペースメーカーの寿命延長を、劇的に改善することができるであろう。また、電気的ペースメーカーの大きさをさらに小さくすることができる一方で、寿命延長を維持することが可能であろう。最後に、タンデム型システムの生物学的な構成成分は、真に自律的な応答性を提供すると思われ、これは、50年以上にわたる電気的ペースメーカーの研究開発が達成できなかった目標である。
【0092】
また、本発明は、本発明のタンデム型システムを対象に提供/投与することによって、種々の心臓障害を治療する方法を提供する。「投与する」とは、当業者に既知の多様な方法および送達システムのいずれかを使用して果たされるまたは行われる様式で送達することを意味するものとする。投与を、例えば、心臓周囲から、心臓内へ、心外膜下へ、経内心膜的に、インプラントを介して、カテーテルを介して、冠内へ、内心膜へ、静脈内へ、筋肉内へ、胸腔検査鏡を介して、皮下へ、非経口的に、局所的に、経口的に、腹腔内へ、リンパ節内へ、病巣内へ、硬膜外へ、またはin vivoエレクトロポレーションによって行うことができる。また、投与を、例えば、1回、複数回および/または1回もしくは複数回の長期にわたり行うこともできる。
【0093】
障害に罹患した対象を「治療する」とは、対象に、障害および/またはその症状の減弱、寛解または後退を経験させることを意味するものとする。一実施形態では、障害および/またはその症状の再発を阻止する。好ましい実施形態では、対象は、障害および/またはその症状から治癒する。
【0094】
「抑制する」とは、障害の発生の可能性を低下させる、または障害の発生を遅らせる、あるいは障害の発生を完全に阻止することを意味するものとする。好ましい実施形態では、障害の発生を抑制するとは、その発生を完全に阻止することを意味する。
【0095】
「対象」とは、いずれかの動物または人工的に改変した動物を意味するものとする。動物として、これらに限定されないが、ヒト、非ヒトの霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ウサギ、フェレット、マウス、ラットおよびモルモット等のげっ歯類、ならびにニワトリおよびシチメンチョウ等の鳥類が挙げられる。人工的に改変した動物として、これらに限定されないが、ヒトの免疫系を有するSCIDマウスが挙げられる。好ましい実施形態では、対象は、ヒトである。
【0096】
また、本発明は、心臓律動障害に罹患した対象を治療する方法も提供し、この方法は、本発明のタンデム型ペースメーカーシステムを対象に投与するステップを含む。生物学的ペースメーカーを対象の心臓に提供して、有効な生物学的ペースメーカー電流を発生させる。また、生物学的ペースメーカーと併行して働く電気的ペースメーカーも対象の心臓に提供して、心臓律動障害を治療する。電気的ペースメーカーを、生物学的ペースメーカーの前に、生物学的ペースメーカーと同時にまたは生物学的ペースメーカーの後に提供することができる。電気的ペースメーカーおよび生物学的ペースメーカーを、心臓律動障害を代償する/治療するのに最も適した心臓の範囲に提供する。例えば、生物学的ペースメーカーを、これらに限定されないが、対象の心臓のバッハマン束、洞房結節、房室接合部、ヒス束、左または右の心房筋、左または右の心室筋、左または右の脚、あるいはプルキンエ線維に投与することができる。生物学的ペースメーカーは、上記に記載した生物学的ペースメーカーであり、好ましくは、心臓のβアドレナリン作動性の応答性を増強し、外向きカリウム電流IK1を減少させ、かつ/または内向き電流Ifを増加させる。
【0097】
電気的ペースメーカーは、上記に記載したように、生物学的ペースメーカーと併行して働く。例えば、電気的ペースメーカーは、対象の心臓の拍動速度を感知し、心臓の拍動速度が選択した心臓の拍動速度を下回る場合に、ペースメーカー信号を出力するようにプログラムされる。その他の実施形態では、選択した拍動速度は、基準の時間間隔後に心臓が経験する拍動速度の選択した割合である。その他の実施形態では、基準の時間間隔は、選択した持続期間の直ちに先行する期間である。したがって、タンデム型のシステムでは、生物学的ペースメーカーが、好ましくは、有効な歩調取りの信号を発生させるので、電気的ペースメーカーは、歩調取りの信号をそれほど頻繁に「発火」または送る必要がないことから、電気的ペースメーカーの電池の寿命は、保存または延長される。図29および30を参照されたい。
【0098】
心臓律動障害は、心臓の拍動速度に影響し、心拍数を正常で健常な心拍数から変化させるいずれかの障害である。例えば、障害は、これらに限定されないが、洞房結節の機能障害、洞性徐脈、辺縁性ペースメーカー活動、洞不全症候群、心不全、頻脈性不整脈、洞房結節リエントリー頻脈、異所性病巣からの心房性頻脈、心房粗動、心房細動または徐脈性不整脈である場合がある。そのような場合、生物学的ペースメーカーを、好ましくは、対象の心臓の左または右の心房筋、洞房結節あるいは房室接合部に投与する。
【0099】
さらに、本発明は、心臓律動障害に罹患した対象を治療する方法も提供し、当該の障害は、伝導ブロック、完全房室ブロック、不完全房室ブロック、脚ブロック、心不全または徐脈性不整脈であり、房室性のブリッジを含むとして本明細書に記載したペースメーカーシステムのうちのいずれかを対象の心臓に投与するステップを含み、その結果、当該の房室性のブリッジが欠損したコンダクタンスを示す領域に橋を架け、電気的ペースメーカーが誘発するペースメーカー活動が房室性のブリッジによって伝播し、対象を効果的に治療する。
【0100】
心臓律動障害を治療するための本方法の特定の実施形態では、生物学的ペースメーカーおよび/または電気的ペースメーカーと対立しないように、心臓に先在するペースメーカー活動の源を切除する。
【0101】
その上、本明細書に開示する発明は、心臓律動障害に罹患した対象を治療する方法を提供し、この方法は、(a)バイパスブリッジ、または特定の実施形態では、心臓の房室性のブリッジを提供するステップと、(b)電気的ペースメーカーを心臓に埋め込むステップとを含み、それによって、対象を治療する。
【0102】
さらに、本発明は、心臓律動障害の発生を、そのような障害起こしやすい対象において抑制する方法を提供し、この方法は、(a)(1)HCNイオンチャネルまたはその変異体もしくはキメラをコードする核酸、(2)MiRP1ベータサブユニットまたはその変異体をコードする核酸、ならびに(3)(i)HCNイオンチャネルまたはその変異体もしくはキメラおよび(ii)MiRP1ベータサブユニットまたはその変異体の両方をコードする核酸のうちの少なくとも1つを、ペースメーカー活動を心臓において誘発するのに有効なレベルで、心臓で機能的に発現させることによって、対象の心臓において生物学的ペースメーカー活動を誘発するステップと;(b)電気的ペースメーカーを心臓に埋め込むステップとを含み、それによって、対象における当該障害の発生を抑制する。特定の実施形態では、本発明の生物学的ペースメーカーを、対象に提供する。
【0103】
また、本発明は、生物学的ペースメーカー活動を誘発することができる電流を細胞内で誘発する方法も提供し、この方法は、本明細書に記載した生物学的ペースメーカーのうちのいずれかを心臓に投与するステップと、それによって、HCNチャネルまたはその変異体もしくはキメラ、および/あるいはMiRP1ベータサブユニットまたはその変異体を、生物学的ペースメーカー活動を誘発することができる電流を細胞内で誘発するのに有効なレベルで、心臓で機能的に発現させるステップとを含み、それによって、そのような電流を細胞内で誘発する。
【0104】
また、本明細書に開示する発明は、対象の心拍数を増加させる方法も提供し、この方法は、本明細書に記載した生物学的ペースメーカーのうちのいずれかを心臓に投与するステップと、それによって、HCNイオンチャネルまたはその変異体もしくはキメラ、および/あるいはMiRP1ベータサブユニットまたはその変異体を、細胞の活性化の時定数を減少させるのに有効なレベルで、対象の心臓で発現させるステップとを含み、それによって、対象の心拍数を増加させる。
【0105】
また、先行方法の上記で同定したステップを、細胞を収縮させる方法、細胞を活性化するのに必要な時間を短縮する方法、および細胞の膜電位を変化させる方法に使用することもできる。
【0106】
その他の方法
また、先行方法のステップを使用して、対象の心臓に埋め込んだ電気的ペースメーカーの電池の寿命を保存したり、対象の心臓に埋め込んだ電気的ペースメーカーの心臓のペーシングの機能を増強したりすることもできる。
【0107】
さらに、本発明は、心臓の信号を、感知能力を有する対象の心臓に埋め込んだ電気的ペースメーカーを用いてモニターする方法も提供し、この方法は、(a)心臓中または心臓上の部位を選択するステップと、(b)心臓の自然なペースメーカー活動を増強するために、生物学的ペースメーカー活動を選択した部位で本明細書に記載する方法のうちのいずれかによって誘発するステップと、(c)心臓の信号を電気的ペースメーカーを用いてモニターするステップと、(d)心臓の信号を保存するステップとを含む。
【0108】
また、本発明は、感知能力およびペーシングを要求する能力を有する対象の心臓に埋め込んだ電気的ペースメーカーの心臓のペーシングの機能を増強する方法も提供し、この方法は、(a)心臓中または心臓上の部位を選択するステップと、(b)心臓の自然なペースメーカー活動を増強するために、生物学的ペースメーカー活動を選択した部位で本明細書に記載する方法のうちのいずれかによって誘発するステップと、(c)心臓の信号を電気的ペースメーカーを用いてモニターするステップと、(d)いつ心臓の信号に基づいて心臓をペーシングする必要があるかを決定するステップと、(e)生物学的ペースメーカー活動と併行する自然なペースメーカー活動が心臓を捕捉できない場合に、選択的に心臓を電気的ペースメーカーを用いて刺激するステップとを含む。
【0109】
両室性のペーシング
また、収縮を最適化する心室のある部位に移植された生物学的ペースメーカーを、電気的ペースメーカーと併行する両室性ペーシングのモードで使用することもできる。実施例6を参照されたい。したがって、本発明は、心室同期不全に罹患した対象を治療するためのペースメーカーシステムを提供し、このシステムは、(1)対象の心臓の一方の心室内のある部位に投与するための本発明の生物学的ペースメーカーと、(2)対象の心臓の他方の心室内のある部位に投与するための電気的ペースメーカーとを含み、電気的ペースメーカーは、生物学的ペースメーカーからの信号を検出し、生物学的ペースメーカーからの信号を検出した後、基準の時間間隔でペースメーカー信号を出力するようにプログラム可能であり、それによって、両室性の機能を提供する。また、一実施形態では、電気的ペースメーカーは、特定した持続期間後に生物学的ペースメーカーからの信号を検出できない場合に、ペースメーカー信号を出力するようにもプログラム可能である。
【0110】
また、本発明は、心室同期不全に罹患した対象を治療するためのペースメーカーシステムも提供し、このシステムは、(1)対象の心臓の第1の心室に投与するための本発明の生物学的ペースメーカーと、(2)対象の心臓の第2の心室に投与するための第1の電気的ペースメーカーと、(3)冠静脈に投与するための第2の電気的ペースメーカーとを含み、第2の電気的ペースメーカーは、生物学的ペースメーカーからの信号を検出し、当該の第2の電気的ペースメーカーが、特定した持続期間後に生物学的ペースメーカーからの信号を検出できない場合に、第1の電気的ペースメーカーと併行してペースメーカー信号を出力するようにプログラム可能であり、これによって、第1および第2の電気的ペースメーカーは、両室性の機能を提供する。
【0111】
また、本発明は、心室同期不全に罹患した対象を治療する方法も提供し、この方法は、(a)対象の心臓の第1の心室のある部位を選択するステップと、(b)ペースメーカー活動を誘発し、第1の心室の収縮を刺激するために、本発明の生物学的ペースメーカーを選択した部位に投与するステップと、(c)心臓の第2の心室を、生物学的ペースメーカーからの信号を検出し、生物学的ペースメーカーからの信号を検出した後、基準の時間間隔でペースメーカー信号を出力するようにプログラムされた第1の電気的ペースメーカーを用いてペーシングするステップとを含み、これによって、両室性の機能を提供する。この方法の異なる実施形態では、生物学的ペースメーカーを、内心膜の経路を介して、心臓の静脈を介して、または胸腔検査鏡によって選択した部位に導入する。好ましい実施形態では、生物学的ペースメーカー活動を、外側自由壁上で、心室の底部ではなく尖部に偏って誘発させる。また、別の実施形態では、生物学的ユニットが遅れて発火した場合には、回避モードで発火するように、電気的ペースメーカーをプログラムする。すなわち、電気的ペースメーカーが特定した持続期間後に生物学的ペースメーカー活動からの信号を検出できない場合に、ペースメーカー信号を出力するように、電気的ペースメーカーをプログラムする。
【0112】
さらに別の実施形態では、タンデム型のシステムに隣接するものとして、第2の電気的ユニットを冠静脈に留置して、バックアップの両室性のユニットとして機能させる。この配置では、生物学的ペースメーカーからの信号を検出し、第2の電気的ペースメーカーが、特定した持続期間後に生物学的ペースメーカーからの信号を検出できない場合に、第1の電気的ペースメーカーと併行してペースメーカー信号を出力するように、第2の電気的ペースメーカーをプログラムし、これによって、第1および第2の電気的ペースメーカーは、両室性の機能を提供する。
【0113】
生物学的ペースメーカーを含む薬学的組成物
また、本発明は、本明細書に開示した生物学的ペースメーカー、核酸、組換えベクター、細胞、幹細胞、HCNのキメラのポリペプチドまたは心筋細胞のうちのいずれか1つと、薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物も提供する。薬学的に許容される担体は、当業者に周知であり、これらに限定されないが、0.01〜0.1Mおよび好ましくは0.05Mリン酸緩衝液、リン酸緩衝食塩水(PBS)または0.9%食塩水が挙げられる。また、そのような担体として、水性または非水性の溶液、懸濁液および乳濁液が挙げられる。水性の担体として、水、アルコール/水性溶液、乳濁液または懸濁液、食塩水、および緩衝媒体も挙げられる。非水性の溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、およびオレイン酸エチル等の注射用有機エステルである。また、保存剤、ならびに例えば、抗菌剤、抗酸化剤およびキレート化剤等のその他の添加剤も、上記の担体の全てと共に含むことができる。
【0114】
ポリヌクレオチド、ポリペプチド、ベクターおよび細胞
また、本発明は、上記に記載した(1)HCNイオンチャネルまたはその変異体もしくはキメラをコードする核酸、(2)MiRP1のベータサブユニットまたはその変異体をコードする核酸、あるいは(3)(i)HCNイオンチャネルまたはその変異体もしくはキメラおよび(ii)MiRP1ベータサブユニットまたはその変異体の両方をコードする核酸、ならびにポリペプチド自体も提供する。また、本発明は、mHCN1(配列番号 )、mHCN2(配列番号 )、mHCN3(配列番号 )またはmHCN4(配列番号 )と少なくとも約75%の配列同一性を有するHCNチャネルをコードする核酸、およびポリペプチド自体も提供し、これらは、生物学的ペースメーカー電流を誘発することができ、好ましくは、野生型HCNチャネルと比較して、より迅速な動態、より正の活性化、増加した発現レベル、向上した安定性、増強されたcAMP応答性および増強された神経液性応答等の改善された特徴を有する。
【0115】
また、本発明は、発現ベクターと、そこに挿入された本出願に開示した核酸(すなわち、HCNチャネル、変異型HCNチャネル、キメラのHCNチャネルおよびMiRP1)のうちのいずれかとを含む組換えベクターも提供する。「ベクター」とは、当技術分野で既知のいずれかの核酸ベクターを意味するものとする。そのようなベクターとして、これらに限定されないが、プラスミドベクター、コスミドベクターおよびウイルスベクターが挙げられる。pCI、pCMS-EGFP、pHygEGFP、pEGFP-C1、ならびにCre-lox Adベクターの構築のためのシャトルプラスミドであるpDC515およびpD516を含む、いくつかの真核生物の発現プラスミドを、本明細書に記載する構築物で使用する。しかし、本発明は、これらのプラスミドベクターおよびこれらの誘導体に限定されず、当業者に既知のその他のベクターも含むことができる。したがって、本発明は、発現ベクターと、そこに挿入された(1)HCNイオンチャネルまたはその変異体もしくはキメラをコードする核酸、(2)MiRP1のベータサブユニットまたはその変異体をコードする核酸、あるいは(3)(i)HCNイオンチャネルまたはその変異体もしくはキメラおよび(ii)MiRP1ベータサブユニットまたはその変異体の両方をコードする核酸とを含む組換えベクターを提供する。種々の実施形態では、発現ベクターは、ウイルスベクター、プラスミドベクターまたはコスミドベクターである。さらなる実施形態では、ウイルスベクターは、アデノウイルスベクター、AAVベクターまたはレトロウイルスベクターである。
【0116】
また、本発明は、本明細書に記載した組換えベクターのうちのいずれかを含む細胞も提供し、当該細胞は、発現ベクター中に挿入された核酸を発現する。この細胞は、生物学的ペースメーカーに有用な細胞に関して上記に記載した細胞である。
【0117】
以下の実施例は、本発明の理解を助けるために提示し、いかなる場合においても、実施例に続く特許請求の範囲に記載する本発明を制限する意図はなく、そのように解釈してはならない。これらの実施例は、組換え核酸ベクターの構築、宿主細胞へのそのような組換えベクターの形質移入、および形質移入細胞における遺伝子の機能的な発現に使用する方法等の当業者に周知の実験方法の詳細な説明を含まない。そのような従来法の詳細な説明は、全内容が参照によって本明細書に組み入れられているSambrookら(1989年)を含む、多数の出版物に提供されている。
【実施例】
【0118】
[実施例1]
培養細胞におけるHCNチャネルの発現および電気生理学的特徴付け
心筋細胞およびアフリカツメガエル(Xenopus laevis)卵母細胞の単離および培養
成体ラットは、噴門切除術前にケタミン-キシラジンで麻酔し、新生仔ラットは、断頭した。新生仔ラットの心室筋細胞の培養物を、過去の記載(ProtasおよびRobinson、1999年)に従って調製した。手短にいうと、1〜2日齢のウィスターラットを安楽死させ、心臓を手早く取り出し、心室を標準的なトリプシン処理の手順を使用して分離した。筋細胞を収集し、繊維芽細胞の増殖を減少させるためにあらかじめ平板培養した後、まず、血清含有培地で培養し(以下に記載するプラスミドを用いる形質移入の場合を除く)、次いで、24時間後、無血清培地(SFM)中、37℃、5% CO2下、インキュベートした。活動電位の研究を、フィブロネクチンでコートした9×22mmのカバーガラス上に直接播種した4日齢の単層培養物上で行った。電位固定実験のために、4〜6日齢の単層培養物を、0.25%トリプシンに短時間(2〜3分)曝すことによって再懸濁し、次いで、フィブロネクチンでコートしたカバーガラス上に再播種して、2〜8時間以内に研究した。
【0119】
Kuznetsovら(1995年)によって記載された手順を使用して、新鮮な成体心室筋細胞を単離、調製した。これは、心房を切り取る前に、コラゲナーゼのランゲンドルフ灌流を必要とした。残った組織を刻み、追加のコラゲナーゼ溶液中で分離させた。単離した筋細胞をSFM中に懸濁させ、次いで、0.5〜1×103細胞/mm2で、9×22mmのカバーガラス上に播種した。2〜3時間後、筋細胞がカバーガラスに付着してから、アデノウイルス感染の手順を開始した(以下を参照)。
【0120】
イヌ筋細胞の調製のために、どちらかの性別の成体イヌを、承認されたプロトコールを使用して、ペントバルビタールナトリウムの注射(80mg/kg体重)によって堵殺した。心筋細胞を、過去の記載(Yuら、2000年)に従って、イヌ心室から単離した。マウス心筋細胞について記載された手順(Zhouら、2000年)を修正して、イヌ心筋細胞の初代培養の方法とした。心筋細胞を、マウスのラミニン(10μg/ml)であらかじめコートしたカバーガラス上に、2.5%ウシ胎仔血清(FBS)および1%ペニシリン/ストレプトマイシン(PS)を含有する基礎培地(MEM)中の0.5〜1×104細胞/cm2で播種した。5% CO2インキュベーター中、37℃で1時間培養した後、培地をFBSを含有しないMEMに交換した。24時間後に幹細胞を添加し、共培養物を、5%FBSを有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中に維持した。全ての実験で、Cell Tracker Green(Molecular Probes製、Eugene、オレゴン州)を使用して、同時培養したhMSCをHeLa細胞と区別した(Valiunasら、2000年)。
【0121】
卵母細胞を、成熟した雌のアフリカツメガエルから、過去に記載された(Yuら、2004年)承認されたプロトコールに従って調製した。
【0122】
心筋細胞および卵母細胞における野生型および変異型HCNチャネルの発現
マウスHCN2(mHCN2、GenBank AJ225122)またはマウスHCN4(mHCN4、GenBankに寄託中)をコードするcDNAを、pCI哺乳動物発現ベクター(Promega製、Madison、ウィスコンシン州)中にサブクローニングした。得られたプラスミド(pCI-mHCN2またはpCI-mHCN4)を、指示に従って、新生仔ラットの心室筋細胞への形質移入のために使用した。成功したDNA導入の視覚マーカーとしての高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)の遺伝子を発現する別のプラスミド(pEGFP-CI;Clontech製、Palo Alto、カリフォルニア州)を、全ての形質移入実験に含めた。形質移入のために、まず、2μgのpCI-mHCN2および1pgのpEGFP-CIを、10μlのリポフェクチン(Gibco Life Technologies製、Rockville、メリーランド州)を含有する200μlのSFM中、室温で45分間インキュベートした。次いで、混合物を、0.8mlのSFM中に懸濁した106個の細胞を含有する35mmのペトリ皿に添加した。CO2インキュベーター中、37℃で一晩インキュベートした後、プラスミドおよびリポフェクチンを含有する培地を捨て、2mlの新鮮なSFMで皿を再び満たした。パッチクランプ実験を、形質移入3〜5日後に蛍光顕微鏡法による検出可能なレベルのGFPを示す再懸濁細胞上で行った。
【0123】
発現効率向上のために、mHCN2のアデノウイルス構築物を調製した。遺伝子送達および遺伝子導入の手順は、過去に出版された方法(Ngら、2000年;Heら、1998年)に従った。CMVプロモーターの下流にmHCN2 DNAを含むDNA断片(EcoRI制限部位およびXbaI制限部位の間)をプラスミドpTR-mHCN2から得(SantoroおよびTibbs、1999年)、シャトルベクターpDC516(AdMaxTM;Microbix Biosystems製、Toronto、カナダ)中にサブクローニングした。得られたpDC516-mHCN2シャトルプラスミドを、35.5kbのE1欠失AdゲノムプラスミドpBHGΔE1,3FLP(AdMaxTM)と共に、E1補完HEK293細胞内に同時形質移入させた。これらの2つのベクターの組換えが成功した結果、アデノウイルスmHCN2(AdmHCN2)の産生に至り、次いで、これを、プラーク精製し、HEK293細胞中で増幅し、CsClバンド形成後に収集したところ、少なくとも1011ffu/mlのタイターに達した。
【0124】
また、マウスmHCN2のアデノウイルス構築物(AdmHCN2)も、過去の記載(Quら、2001年)に従って調製した。mE324A点変異を、mHCN2配列に、QuickChange(登録商標)XL Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene製、La Jolla、カリフォルニア州)を用いて導入し、pDC515シャトルベクター(AdMax(商標)、Microbix Biosystems製)中にパッケージして、pDC515mE324Aを生み出した。次いで、pDC515mE324Aを、pBHGfrtΔE1,3FLPと共に、E1補完HEK293細胞内に同時形質移入させた。次いで、アデノウイルス構築物AdmE324Aを収集し、CsClで精製した。以前の研究(Quら、2003年)と一貫させるために、in vivoでの注入のための試料を調製する際に、全容量700μl中で、3×1010ffuの各アデノウイルスを等量のGFP発現アデノウイルス(AdGFP)と混合した。
【0125】
ラット心室筋細胞のAdHCN2感染を、単離した細胞をカバーグラス上に播種した2〜3時間後に行った。培地を皿(35mm)から除去し、AdHCN2を含有する0.2〜0.3ml/皿の接種材料を添加した。m.o.i.(multiplicity of infection: 感染効率--ウイルス単位の細胞に対する比)は、15〜100であった。接種材料を、20分毎に皿を静かに傾けることによって、細胞全体に分散させ、その結果、細胞はウイルス粒子に均一に曝された。2時間の吸着期間の間、皿をCO2インキュベーター中、37℃で保ち、次いで、接種材料を捨て、皿を洗浄し、適切な培地で再び満たした。皿を、インキュベーター中に24〜48時間さらに保った後、電気生理学的実験を行った。
【0126】
新生仔の心室筋細胞のアデノウイルス感染を、最初の播種4日後に、細胞の単層培養物上で行った。細胞を、ウイルスを含有する混合物(m.o.i.: 20、250μlの倍地中)に2時間曝し、2回すすぎ、SFM中、37℃、5% CO2下、24〜48時間インキュベートした後、上記に記載するように再懸濁し、電気生理学的研究に供した。以前の実験では、AdGFPを利用したが、AdmHCN2にin vitroで曝した>90%の細胞が電流を発現することが見出された(Quら、2001年)ことから、その後の実験では、感染した細胞の選択を助ける目的での、細胞のAdGFPとの同時感染は行わなかった。
【0127】
アフリカツメガエル卵母細胞におけるHCNの発現のために、卵母細胞に、マウス野生型mHCN2プラスミドおよびマウス変異mHCN2(E324A)プラスミドから作られた5ngのcRNAを注入した。注入卵母細胞を、18℃で24〜48時間インキュベートした後、電気生理学的解析に供した。
【0128】
培養心筋細胞および卵母細胞における電気生理学的測定
電位および電流信号を、パッチクランプ増幅器(Axopatch 200)を使用して記録した。電流信号を、16ビットA/D変換器(Digidata 1322A、Axon Instruments製、Union City、カリフォルニア州)を用いてデジタル化し、パーソナルコンピュータに保存した。データの取得および解析を、pCLAMP 8ソフトウエア(Axon Instruments製)を用いて行った。カーブフィッティングおよび統計解析を、SigmaPlotおよびSigmaStat(SPSS製、Chicago、イリノイ州)をそれぞれ使用して行った。
【0129】
全細胞パッチクランプ法を利用して、培養筋細胞からのmHCN2電流を記録した。実験を、35℃で灌流した細胞上で行った。外部溶液は、以下をmM単位で含有し、pH 7.4であった: NaCl、140;NaOH、2.3;MgCl2、1;KCl、10;CaCl2、1;HEPES、5;グルコース、10。MnCl2(2 mM)およびBaCl2(4 mM)を添加して、その他の電流を遮断した。ピペット溶液は、以下をmM単位で含有し、pH 7.2であった: アスパラギン酸、130;KOH、146;NaCl、10;CaCl2、2;EGTA-KOH、5;Mg-ATP、2;HEPES-KOH、10。
【0130】
HCNの活性化曲線を測定するために、標準的な2段階プロトコールを利用した。mHCN2に関しては-25から-135mVまでの過分極化段階、およびmE324Aに関しては-5または-15から-135mVまでの過分極化段階を、-10mVの保持電位から適用し、(-125また-135mVまでの)テール電流段階が続いた。mHCN2チャネルの場合、過分極化電位が低いほど、試験段階の持続期間はより長く、全ての電位で、定常状態の活性化により近づいた。テール電流対試験電位の規準化したプロットを、ボルツマン関数に当てはめ、次いで、フィッティングから活性化の最大半量の電位(V1/2)および勾配因数(s)を定義した。活性化の動態を、同一の記録から決定し、非活性化の動態を、-135mVまでの前パルスによって完全な活性化を達成した後の各試験電位で記録した記録から決定した。次いで、時定数を、活性化または非活性化の電流の記録の早期の時間経過を単一指数関数に当てはめることによって求めた。初期の遅延および後期の緩慢な活性化または非活性化のいずれかの相は、無視した(Quら、2001年;Atomareら、2001年)。電流密度を、試験電位の終わりに測定し、細胞膜の静電容量に対して規準化した、電流の振幅の時間依存性の成分の値として表した。液間電位差に関しては、記録を補正しなかった。液間電位差は、これらの条件下で9.8mVであると過去に決定された(Quら、2001年)。
【0131】
アフリカツメガエル卵母細胞における測定のために、卵母細胞を、2微小電極電位固定法を使用して電位固定した。細胞外記録溶液(OR2)(pH 7.6)は、以下をmM単位で含有した: NaCl、80;KCl、2;MgCl2、1;およびNa-HEPES、5。発現したWt mHCN2の定常状態の活性化を記録するために、電流を、10mVずつ増加させる-30mVと-160mVとの間の2秒間の過分極化パルス、次いで、+15mVまでの1秒の脱分極化パルスによって誘発した。保持電位は、-30mVであった。mHCN2(E324A)の場合、電流を、10mVずつ増加させる+20mVと-130mVとの間の3秒間の過分極化パルス、次いで、+50mVまでの1秒の脱分極化パルスによって誘発した。保持電位は、+20mVであった。野生型(Wt)mHCN2の場合の電流/電位の関係を構築するために、細胞を-30mVで保持し、電流を、活性化を飽和させる-140mVまでの2秒の過分極化電位段階、次いで、10mVずつ増加させる-80mVと+50mVとの間の2秒の脱分極化電位段階によって誘発した。mHCN2(E324A)の場合、細胞を+20mVで保持し、電流を、活性化を飽和させる-110mVまでの1.5秒の過分極化電位段階、次いで、テール電流を記録するための10mVずつ増加させる-80mVと+50mVとの間の1.5秒の脱分極化電位段階によって誘発した。Wt mHCN2の場合、電流の振幅を記録するために、電流を、-30mVの保持電位から-120mVまでの3秒の過分極化電位パルスを適用することによって誘発した。mHCN2(E324A)の場合、電流を、+20mVの保持電位から-120mVまでの3秒の過分極化電位パルスを適用することによって誘発した。
【0132】
データを平均±SEMとして示す。実験データを、適宜、スチューデントt検定またはイェーツ補正を伴うカイ二乗検定を使用して比較した。比較するにあたって、同一の培養からの対応する細胞を使用し、各比較に少なくとも3つの別々の培養物からのデータをプールした。
【0133】
心筋細胞におけるmHCN2およびmE324Aによって誘発されたペースメーカー電流
過去の実験によって、培養中の新生仔ラット筋細胞におけるHCN2の過剰発現が、拍動速度を増加させるペースメーカー電流を誘発すること、ならびにHCN2のペースメーカー遺伝子の変異および/または適切なアクセサリーチャネルサブユニットの追加が、発現した電流の特徴を変化させ、これには拍動速度のさらなる増強が期待されるであろうことが示されている(米国特許第6849611号;Quら、2001年;Quら、2004年)。また、HCN2を発現するAdによる感染は、単層培養物の同調的な拍動の自発的な拍動速度を顕著に増加させた(米国特許第6849611号;Quら、2001年)。また、筋細胞培養物に、HCN2アデノウイルスおよびGFPタグ付きMiRP1またはHAタグ付きMiRP1のいずれかを保有する第2のウイルスを感染させた。MiRP1は、HCN2のベータサブユニットである。その結果、電流の大きさ、ならびに活性化および非活性化の動態の加速度が顕著に増加した(Quら、2004年)。
【0134】
本明細書に記載する全細胞電位固定実験では、mHCN2を発現する筋細胞およびmE324Aを発現する筋細胞の両方は、過分極化電位に応答して内向き電流を引き起こす。-10mVの保持電位からの-25から-125mVまでの範囲に及ぶ試験電位で求めた代表的な規準化した電流の記録を、図4AおよびBに示す。挿入図の拡大した電流から、mE324Aチャネルの活性化の閾値も、mHCN2チャネルの活性化の閾値も、負の値を示すが、前者の絶対値は、後者の絶対値よりも小さいことが明らかである。
【0135】
mHCN2とmE324Aとの間の活性化の電位依存性の差は、図4Cに示す電流-電位の関係の平均からより明らかである。曲線は、上記に記載したように、テール電流から求めた。個々の活性化曲線はそれぞれ、ボルツマンの式に当てはまり、全細胞から計算した中間点(V1/2)および勾配因数(s)を、平均して統計的に比較した。mHCN2を発現する細胞(n=14)およびmE324Aを発現する細胞(n=16)の平均パラメーターはそれぞれ、V1/2=-66.1±1.5mVおよび-46.9±1.2mV(P<0.05)、ならびにs=10.7±0.5mVおよび9.6±0.4mV(p>0.05)であった。したがって、卵母細胞において過去に得られたデータ(Chenら、2001年)と一致し、本明細書で確認されるように(図6〜9を参照)、mHCN2とmE324Aの両方の構築物を新生仔の筋細胞で発現させた場合、mE324A変異は、結果的に、活性化曲線をmHCN2よりも正にシフトさせた。
【0136】
mE324Aチャネルの活性化動態は、mHCN2の活性化動態より迅速なように見える(図4AおよびBの挿入図)。この差を実証するために、活性化および非活性化の時定数を、上記に記載したように、異なる電位で測定して平均した(図4D)。これらのデータは、mE324Aチャネルに関して観察されたより迅速な活性化動態がゲーティングの動態の電位依存性の正のシフトによったことを示している。活性化および非活性化の両方の電位依存性が、正にシフトし、その結果、非活性化を測定した正の電位において、mE324Aの場合の非活性化がmHCN2の場合の非活性化より緩慢となった。さらに、このシフトは、電流-電位の関係のシフトに共通する。実際に、動態-電位の関係の相対ピークは、過去に決定されたV1/2の値と一致した。
【0137】
活性化の関係および動態における正のシフトの結果として、mE324Aの場合、mHCN2と比較して、より多くの電流が、心臓サイクルのより早期に通過するようになることが期待されるであろう。しかし、生物学的ペースメーカーとして有益であるためには、また、自律的な応答性を保存することも必要である。この点を評価するために、mHCN2およびmE324Aの活性化曲線を、ピペット溶液中のcAMPの非存在下および存在下で比較した(図5)。両方のチャネルは、図5の簡単な説明で詳述するように、飽和する細胞内cAMPの存在に応答した。
【0138】
また、変異チャネルおよび野生型が電流を発現したか否かについても検討した。6つの対応する細胞培養物において、mE324A電流を発現する筋細胞の割合は、mHCN2を発現する割合より顕著に低かった(それぞれ、93個の細胞の36.6%対47個の細胞の74.5%、P<0.05)。さらに、電流を発現した細胞において、(-135mVで測定した)mE324A電流密度は、mHCN2の電流密度より約2.5倍小さかった(それぞれ、21.0±3.5pA/pF、n=12対53.5±8.7pA/pF、n=10、P<0.05)。
【0139】
アフリカツメガエル卵母細胞におけるmHCN2およびmE324Aによって誘発されたペースメーカー電流
図6は、非相同的に発現させた電流の活性化の特性および動態を示す。卵母細胞において、mHCN2は、mE324Aより35mV負に活性化する。mE324Aの場合、このより正の活性化には、mE324Aに関する活性化の動態の電位依存性のシフトおよび活性化の中間点におけるより迅速な動態の両方が伴う。mHCN2およびmE324Aの両方は、8-Br-cAMP(1mM)の適用に応答して、活性化が正にシフトした(図7)。mHCN2の場合、cAMPは、Vhを約8mVシフトさせた(Vhの値は、コントロールで-92.7mV±1.1mV、およびcAMPで-84.9mV±0.7mV(n=6、P<0.01)であり、対応する勾配(s)の値は、13.9mV±1.0mVおよび9.5mV±0.6mV(n=6、p>0.05)であった)。mE324Aの場合、cAMPは、Vhを約7mV正にシフトさせた(Vhの値は、コントロールで-57.3mV±1.6mV、およびcAMPで-48.9 mV±1.8mV(n=9、P<0.01)であり、対応する勾配(s)の値は、15.2mV±1.3mV、および19.7mV±0.1mV(n=9、p>0.05)であった)。
【0140】
mHCN2およびmE324Aの両方は、5mM Cs+で遮断される内向き電流を発生させ、逆転電位は、-40mV付近であった(図8)。最後に、単一の電位パルスを飽和(-120mV)付近で適用して、mHCN2およびmE324Aの発現レベルを比較した。HCN2が誘発した電流は、912.7±63.7nA、n=9であり、E324Aが誘発した電流は、579.8±18.2nA、n=9(P<0.01)であった。したがって、mE324Aを発現する卵母細胞の場合、発現が顕著に減少した(図9参照)。
【0141】
[実施例2]
in situでの心臓におけるHCNチャネルの過剰発現によるペースメーカー活動の誘発
HCN2がin situでの心臓においてペースメーカー電流を誘発する
心臓に固有の伝導系の二次的なペースメーカー組織または心筋の非ペースメーカー細胞のいずれかにおけるIfの過剰発現が、病巣にペースメーカー活動を提供して、洞房結節の優位なペースメーカー機能が存在しない場合、または活動電位が房室結節を介して伝播できない場合に、「要求」モードで心臓を動かすことができるであろうと仮定された。HCN2の動態がHCN4の動態より都合がよく、HCN2のcAMP応答性がHCN1のcAMP応答性より高いことから、関心は、HCN2に集中した。初期の実験は、培養中の新生仔ラット筋細胞で行われた。これらの実験は、過剰発現したペースメーカー電流が拍動速度を増加させることができ、さらに、HCN2ペースメーカー遺伝子の変異および/または適切なアクセサリーチャネルサブユニットの追加が、発現した電流の特徴を改変させることができ、これには拍動速度のさらなる増強が期待されることも示した(米国特許第6849611号;Quら、2001年;Quら、2004年;Chenら、2001年b;Plotnikovら、2005年a)。これらの新生仔心室筋細胞は、小さな内因性のペースメーカー電流を現し、HCN2を保有するアデノウイルスに感染させると、顕著により大きなペースメーカー電流を発現する。HCN2および緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するAdに感染させた単層の培養物の自発的な拍動速度を、対照としてのGFPおよびマーカーを組み入れたウイルスと比較したところ、HCN2/GFP発現培養物の拍動速度は顕著に速かった(Quら、2001年)。
【0142】
細胞培養の研究の望みをもたせる結果および含蓄に基づいて、概念証明が、アデノウイルスベクター中の少量のHCN2遺伝子およびGFP遺伝子をイヌ左心房に注入することによって試験された(Quら、2003年)。動物の回復後、右迷走神経を刺激して、洞房の緩徐化および/またはブロックを誘発した。この状況では、ペースメーカー活動が、左心房で起こり、アデノウイルスの注入部位にペースマップされた。迷走神経の刺激の強度を増加させ、左迷走神経の刺激も加えた結果、生物学的ペースメーカー活動の休止に至り、このことは、副交感性の応答性を意味する。心房筋細胞は、注入部位から脱凝集し、過剰発現したペースメーカー電流を示した。要するに、これらの結果は、そのようは過剰発現したペースメーカー電流は洞の緩徐化の状況下で回避拍動を提供できたことを示す(Quら、2003年)。
【0143】
次の段階では、同一のアデノウイルスHCN2/GFP構築物を、蛍光顕微鏡的制御下で、イヌの近位の左心室の伝導系にカテーテルで注入することになった(Plotnikovら、2004年)。このように注入された動物は、洞調律を迷走神経の刺激によって抑制すると、50〜60bpmの速度を有する心室固有の律動を示した。HCN2群の場合、律動は注入部位にマップされた。脚組織を心臓から取り出し、微小電極を用いて研究したところ、HCN2を注入した脚組織の自動性が、対照標本の自動性を上回る、すなわち、HCN2を注入した脚が発生させる自発的な速度は、食塩水またはGFPを保有するウイルス単独のいずれかを注入した脚が発生させる速度より顕著に大きいことが見出された(Plotnikovら、2004年)。
【0144】
生物学的ペースメーカー機能の予想指標としてのイオン電流の生物物理学的特性
新生仔ラット筋細胞(図4および5)およびアフリカツメガエル卵母細胞(図6〜9)における研究から、mHCN2およびmE324Aの機能に関して一致した結果を得た。これらのin vitroの状況において、mE324A変異がmHCN2と比較してより迅速で、より正のペースメーカー電流の活性化を誘発したことから、変異チャネルは、食塩水を注入したまたはmHCN2を注入した心臓で生じる場合と比較して、より迅速なペースメーカー速度および/またはオーバードライブペーシング後のより短い回避間隔をもたらすであろうことが示唆されると解釈することができよう。しかし、食塩を注入したin situでの心臓およびmHCN2を注入したin situでの心臓の両方が、mE324Aを注入した心臓と同等な回避時間を示した。自動的な速度自体に関しては、mHCN2を注入した心臓の場合とmE324Aを注入した心臓場合とでは同等であり、共に、食塩水を注入した心臓よりも顕著に迅速であった。換言すれば、2つの重要な記述子、すなわち、達成した速度およびオーバードライブ抑制に関しては、in situにおけるmHCN2の効果とmE324Aの効果との間には明確な差は存在しなかった。
【0145】
これについては、1つには、mE324A電流を発現する筋細胞の割合が、mHCN2を発現する筋細胞の割合より顕著に少なかったと説明することができる。さらに、mE324A群の電流密度の方が小さかった。したがって、所与の電位において、mE324Aの場合、mHCN2と比較して、チャネルのうちのより大きな割合が、より迅速に活性化するが、-55mV等の生理学的に適切な電位においては、利用可能なチャネルの全数または正味の電流が、ほぼ同等であると思われる(図4の挿入図を参照)。
【0146】
生物物理学的な結果から、以下に示す範囲のin situにおける結果が予想された: mE324Aの密度は、mHCN2の密度より小さいこと、およびmE324Aの活性化は、mHCN2の活性化より正でありかつ迅速であることを示す生物物理学的データから、ペースメーカー速度に関しては、どちらの構築物にも優位性がないであろうことが示唆されるであろう。mE324AのcAMP応答が、mHCN2のcAMP応答より正であるという知見から、in situにおけるmE324Aのエピネフリンに対する応答の大きさまたは感受性は、mHCN2の応答の大きさまたは感受性より大きいであろうことが示唆されるであろう。事実、in situにおける研究は、いずれの構築物にも速度の優位性はないが、mE324A変異体はエピネフリンに対するより大きな応答を有することを示した。これは、生物物理学的知見と臨床の含蓄との間の一致を示すのみならず、以下の仮説もまた導く: 第1に、十分な電流密度がある限り、生物学的ペースメーカー機能においては、活性化曲線の正の位置および/またはより迅速な動態が、絶対電流密度より重要であり、第2に、アドレナリン作動性応答性は、電位シフトの大きさよりも、cAMPの存在下の活性化曲線の最終的な位置によって決まる。
【0147】
[実施例3]
ヒト間葉系幹細胞を用いる細胞療法
細胞培養
ヒト間葉系幹細胞(hMSC;間葉系幹細胞、ヒト骨髄;Poietics(商標))を、Clonetics/BioWhittaker(Walkersville、メリーランド州、米国)から購入し、間葉系幹細胞(MSC)増殖培地で培養し、継代2〜4回後に使用した。単離および精製したhMSCは、独特の特性、すなわち、正常な核型およびテロメラーゼ活性を失うことなく、多数(12)回培養することができる(van den Bosら、1997年;Pittengerら、1999年)。
【0148】
ラットCx40、ラットCx43またはマウスCx45を形質移入したHeLa細胞を、hMSCと共に同時培養した。形質移入HeLa細胞の産生、特徴付けおよび培養条件は、過去に記載されている(Valiunasら、2000年;2002年)。
【0149】
抗コネキシン抗体、免疫蛍光標識化および免疫ブロット解析
Cx40、Cx43およびCx45の市販され入手可能なマウス抗コネキシンモノクロナール抗体およびマウス抗コネキシンポリクロナール抗体(Chemicon International製、Temecula、カリフォルニア州)を、以前の記載(LaingおよびBeyer、1995年)に従って、免疫染色および免疫ブロットに使用した。フルオレセイン結合ヤギ抗マウスIgGまたはフルオレセイン結合ヤギ抗ウサギIgG(ICN Biomedicals, Inc.製、Costa Mesa、カリフォルニア州)を、二次抗体として使用した。
【0150】
ギャップ結合の電気生理学的測定
付着細胞を有するカバーガラスを、NaCl、150;KC1、10;CaCl2、2;Hepes, 5;グルコース、5(それぞれ、mM)を含有する浴溶液(pH 7.4)を用いて室温(約22℃)で灌流した実験チャンバーに移動させた。パッチピペットを、アスパラギン酸カリウム、120;NaCl、10;MgATP、3;Hepes、5(pH 7.2);EGTA, 10(それぞれ、mM)を含有し、0.22μmのポアでろ過した溶液(pCa 〜8)で充填した。充填後、ピペットの抵抗を測定すると、1〜2MΩであった。実験を、二重電位固定を使用して細胞対上で行った。この方法によって、膜電位(Vm)の制御および関連する接合部の電流(Ij)の測定が可能となった。
【0151】
色素流動研究
ギャップ結合チャネルを介する色素の移動を、細胞対を使用して調査した。Lucifer Yellow(LY;Molecular Probes製)を、2mMの濃度に達するまでピペット溶液に溶解した。16ビット、64000ピクセルの白黒濃淡のデジタルCCDカメラ(LYNXX 2000T、SpectraSource Instruments製、Westlake Village、カリフォルニア州)を使用して、蛍光色素の細胞から細胞への広がりの像を作った(Valiunasら、2002年)。非相同的な対を用いた実験では、LYを、Cell Tracker Greenでタグ付けした細胞に常に注入した。注入細胞のLYに由来する蛍光強度は、Cell Tracker Greenからの初めの蛍光よりも10〜15倍高かった。
【0152】
ヒトMSCがコネキシンを発現する。
コネキシンであるCx43およびCx40は、典型的な点状の染色によって証明されるように、密接な細胞から細胞への接触領域に沿って、および培養により単層として増殖したhMSCの細胞質の領域内に免疫局在した(図10AおよびB)。また、Cx45の染色も検出されたが、Cx43またはCx40の染色とは異なり、細胞内のコネキシンの分布の典型的なものではなかった。むしろ、その特徴は、微細な顆粒状の細胞質および網様の染色であり、膜に結合するプラークは容易には観察されなかった(図10C)。これは、Cx45チャネルの存在の可能性を排除するわけではなく、Cx43およびCx40のホモタイプ、ヘテロタイプおよびヘテロマーのチャネルと比較して、Cx45チャネルの数が少ないことを意味する。図10Dは、イヌ心室筋細胞およびhMSCのCx43ポリクロナール抗体を用いたウエスタンブロット解析を示し、これは、Cx43のhMSC中の存在をさらに証明する。
【0153】
hMSCと種々の細胞系との間のギャップ接合部の共役
hMSC間のギャップ接合部の共役を、図11に示す。hMSCの対の間で記録した接合部の電流は、準対称的(図11A)および非対照的(図11B)な電位依存性を示し、これらは、振幅は等しいが、符号が反対の、20mVずつ増加させる±10mVから±110mVまでの対称的な10秒の接合部を越える電位の段階(Vj)に応答して生じたものである。これらの挙動は、Cx43およびCx40を同時発現する細胞で典型的に観察される(Valiunasら、2001年)。
【0154】
図11Cは、hMSC対から得たデータの概要を示す。規準化した瞬時(gj,inst、○)および定常状態(gj,ss、●)のコンダクタンスの値をVjに対してプロットした(それぞれ、各Vj段階の初めおよび終わりに決定した)。左図は、5つのhMSC対からの準対称的な関係を示す。実線の曲線は、データのボルツマンの式への最良のフィッティングを示し、それは、以下のパラメーターを有する: 負/正のVjのそれぞれについて、非活性化半量電位、Vj,0=-70/65mV;最小gj、gj,min=0.29/0.34;最大gj、gj,max=0.99/1.00;ゲーティング電荷、z=2.2/2.3。6つの非対照的な場合からのプロットの概要を、右図に示す。gj,ssは、負のVjでは、S字型を示して減少し、正のVjに対しては電位感受性の低下を示した。負のVjでのボルツマンフィッティングは、以下の値を示した: Vj,0=-72mV、gj,min=0.25、gj,max=0.99、z=1.5。
【0155】
図11DおよびEは、hMSC対からの典型的なマルチチャネル記録を示す。120mMアスパラギン酸Kをピペット溶液として使用して、チャネルを、28〜80pSの範囲の単位コンダクタンスで観察した。約50pSのコンダクタンスでのチャネルの動作(図11Dを参照)は、Cx43のホモタイプのチャネルについて過去に出版された値(Valiunasら、1997年;2002年)と一致する。このことは、その他のチャネルの型を締め出すわけではなく、hMSCにおいてはCx43が機能的なチャネルを形成することを示唆するに過ぎない。
【0156】
共役の性質をさらに定義するために、hMSCを、Cx43、Cx40およびCx45を安定に形質移入したヒトHeLa細胞と共に同時培養した(Elfgangら、1995年)ところ、hMSCは、全てのこれらの形質移入体と共役できることを見出した。図12Aは、hMSCとHeLaCx43との間の細胞対で記録した接合部の電流の例を示し、これは、一連(±10mVから±110mVまで)の対称的な接合部を越える電位の段階(Vj)に応答した、対照的および非対照的な電位依存性電流を現す。準対照的な記録は、優位な機能的なチャネルは、ホモタイプのCx43であることを示唆し、非対照的な記録は、hMSCにおける別のコネキシン(免疫組織化学が示すように、多分Cx40、図10を参照)の活性を示唆し、これは、ヘテロタイプまたはヘテロマーの形態のいずれか、あるいは両方であろう。これらの記録は、形質移入細胞: Cx40およびCx43のへテロタイプおよび混合(ヘテロマー)の形態について出版された記録(Valiunasら、2000年;2001年)に類似する。また、hMSCとCx40を形質移入したHeLa細胞との同時培養(図12B)も、hMSCにおけるCx43およびCx40の同時発現と一致する対称的および非対称的な電位依存性接合部電流を示し、これは、Cx43 HeLa-hMSC対のデータに類似した。hMSCと共役した、Cx45を形質移入したHeLa細胞は、Cx45(HeLa)側が負である場合には、明白な電位ゲーティングを有する非対称的な接合部電流を常に生じた(図12C)。これは、Cx43およびCx40の両方が、Cx45とヘテロタイプのチャネルを形成すると、非対称的な電流を発生させることから、hMSCにおける優位なチャネルの形態がCx43およびCx40である(Valiunasら、2000年;2001年)ことと一致する。これは、hMSCにおいて機能するチャネルとして、Cx45を排除するわけではなく、Cx45は、hMSCにおいては、細胞から細胞への共役に副次的に寄与することを示す。Cx45の免疫染色において可視化したプラークを認めないこと(図10)は、この解釈をさらに支持するものである
【0157】
hMSCと形質移入HeLa細胞との対からのgj,ss対Vjのプロットの概要を、図12Dに示す。左図は、hMSC-HeLaCx43対からの結果を示す。対称的なデータ(●、4つの標本)の場合、ボルツマンフィッティング(実線)から以下のパラメーターを得た: 負/正のVjについて、Vj,0=-61/65mV、gj,min=0.24/0.33、gj,max=0.99/0.99、z=2.4/3.8。非対称的なデータ(○、3つの標本)の場合、負のVjの値でのボルツマンフィッティング(実線)は、以下のパラメーターの値を示した: Vj,0=-70mV、gj,min=0.31、gj,max=1.00、z=2.2。中央図は、hMSC-HeLaCx40対からのデータを示し、3つの対称的(●)および2つの非対称的(○)なgj,ss-Vjの関係を含む。実線は、対称的なデータのボルツマンフィッティングに対応し(負/正のVjについて、Vj,0=-57/76mV、gj,min=0.22/0.29、gj,max=1.1/1.0、z=1.4/2.3)、破線は、非対称的なデータのフィッティングである(負/正のVjについて、Vj,0=-57/85mV、gj,min=0.22/0.65, gj,max=1.1/1.0、z=1.3/2.2)。hMSC-HeLaCx45細胞対からの6回の完了した実験からのデータを、右図に示す。gj,ss対Vjのプロットは、非対称性が強く、正のVjの値でのデータのボルツマンの式への最良のフィッティングは、以下のパラメーターの値を示した: Vj,0=31mV、gj,min=0.07、gj,max=1.2、z=1.8。
【0158】
図12Eは、Lucifer YellowのhMSCからhMSCへ(上図)、HeLaCx43からhMSCへ(中央図)、およびhMSCからHeLaCx43へ(下図)の移動を示す。細胞対の接合部のコンダクタンスを、以前に記載された方法(Valiunasら、2002年)によって同時に測定したところ、コンダクタンスはそれぞれ、約13、約16および約18nSを示した。Lucifer Yellowの移動は、ホモタイプのCx43またはHeLa細胞中で同時発現したCx43およびCx40に関して過去に報告されたもの(Valiunasら、2002年)に類似した。Cell Tracker Green(Molecular Probes製)を、2つの細胞集団のうちの1つに常に使用して、非相同的な対の同定を可能にした(Valiunasら、2000年)。Lucifer Yellowは、細胞トレーサーを含有する細胞に常に送達された。Cell Tracker Greenが発生させた蛍光強度は、源細胞に送達されたLucifer Yellowの濃度によって発生した蛍光強度よりも10〜15倍弱かった。
【0159】
また、図13に示すように、ヒトMSCを、成体イヌ心室筋細胞と共に同時培養した。図13Aに示すように、Cx43の免疫染色を、桿状の心室筋細胞とhMSCとの間に検出した。hMSCは、心筋細胞と電気的に共役する。巨視的(図13B)およびマルチチャネル(図13C)の両方の記録を得た。図13Bの接合部の電流は、非対称的であり、図13Cの電流は、ホモタイプCx43チャネルまたはヘテロタイプCx43-Cx40チャネルまたはホモタイプCx40チャネルの動作の結果、典型的に生じる大きさの範囲の単一の現象を示す(Valiunasら、2000年;2001年)。また、コンダクタンスがホモタイプまたはヘテロタイプの形態と同一またはそれに類似するヘテロマー形態も可能である。
【0160】
細胞対の研究によって、hMSCと、その他のhMSCと(13.8±2.4nS、n=14)、HeLaCx43と(7.9±2.1nS、n=7)、HeLaCx40と(4.6±2.6nS、n=5)、HeLaCx45と(11±2.6nS、n=5)、および心室筋細胞と(1.5±1.3nS、n=4)の有効な共役が実証された。
【0161】
hMSCの生物学的ペースメーカーのための送達プラットフォームとしての使用
ヒトMSCは、生物学的ペースメーカーを心臓に送達するための好都合なプラットフォームの候補としてとみられている。その根拠の一部として、ヒトMSCは、免疫特権を有する可能性があり、したがって、拒絶応答を引き起こさないことが期待されることが、Liechtyら(2000年)によって示唆されている。これは、重要である。というのは、生物学的ペースメーカーと電気的ペースメーカーとの間のトレードオフの点で、前者のアプローチを使用する際に、何らかの免疫抑制を必要とすることは、細胞療法のアプローチにとっては不利益となり、臨床的には望ましくないからである。
【0162】
ヒトMSCは、市販品として、または骨髄から容易に得られ、CD44およびCD29の表面マーカーの存在によって、ならびに造血性前駆細胞に特異的である、その他のマーカーが存在しないことによって同定される。遺伝子チップ解析を使用して、hMSCは、HCNアイソフォームのメッセージを保有しないことが決定された。重要なことには、また、hMSCは、ギャップ接合部タンパク質、コネキシン43の顕著なレベルのメッセージも有する。後者の観察は、重大な意味をもつ。というのは、プラットフォーム療法の背後の理論は、hMSCに対象の遺伝子、例えば、HCN2を積み、心筋に移植するというものであるからである(Rosenら、2004年)。しかし、細胞に信号を積んでも、細胞が近傍細胞と機能的な連絡を形成しない限り、効果がないであろう。hMSCの送達プラットフォームとしての使用の根底にある原理の概要を、図1に示す。手短にいうと、正常な洞房結節では、膜の過分極が内向き(If)電流を開始し、これは、第4相の脱分極および自律的な律動を発生させる。膜電位の変化の結果、電流が低い抵抗のギャップ結合を介して流れることになり、その結果、活動電位が1つの細胞から次の細胞へと伝播する。hMSCのプラットフォームとしての使用では、hMSCに対象の遺伝子、例えば、HCN2を積むことになる。好ましくは、その際、エレクトロポレーションを用い、それによって、製法からのウイルス成分のいずれをも避ける(Rosenら、2004年;Rosen、2005年;Cohenら、2005年;Potapovaら、2004年)。hMSCを、隣接する筋細胞と有効に共役させる必要があるであろう。これが生じれば、次いで、共役した筋細胞の高度に負の膜電位が、hMSCを過分極させて、HCNチャネルを開口させ、内向き電流が流れるのを可能にするであろう。次いで、この電流は、低い抵抗のギャップ結合を介して伝播し、共役した筋細胞を脱分極させて閾値電位まで導き、その結果、活動電位に至り、次いで、これが、伝導系をさらに伝播するであろう。換言すれば、hMSCおよび筋細胞のそれぞれが機構の必須の部分を保持する必要があるであろう。すなわち、筋細胞は、活動電位を発生させるイオン性の成分を担い、hMSCは、ペースメーカー電流を保持し、かつ--ギャップ結合が存在すれば--これら2つの別々の構造的な実体が、単一のとぎれのない生理的な単位として機能するであろう。
【0163】
そこで、重要な疑問は、ギャップ結合が、hMSCと筋細胞との間に形成されるか否かである。答えは、上記で開示した実験データが示すように、肯定的である。図10は、コネキシン43およびコネキシン40が、hMSC中で明確に実証可能であることを示している。その上、hMSCは、Cx43、Cx40またはCx45を発現する細胞系とも、イヌ心室心筋細胞とも、機能的なギャップ結合チャネルを形成する(全内容が参照によって本明細書に組み入れられている、Valiunasら、2004年も参照)。さらに、hMSCと、別のhMSCまたはHeLaCx43細胞との間のLucifer Yellowの通過(図12Eを参照)も、頑強なギャップ結合を介した共役を示している。Lucifer YellowのhMSCとCx43を形質移入したHeLa細胞との間の移動は、ホモタイプのCx43または同時発現したCx43およびCx40の移動に類似する。Cx40は、Cx43よりもLucifer Yellowに対する透過性が約5倍低いことから、ホモタイプのCx40は、優位なチャネルの型としては排除される(Valiunasら、2002年)。さらに、筋細胞に密接に近接するhMSC内に電流を注入すると、その結果、筋細胞へ電流が流れたこと(図13)は、機能的なギャップ結合の確立をさらに示している。
【0164】
これらのデータは、MSCが多くの組織の電気的な合胞体に容易に統合して、修復を促進するまたは治療的送達システムのための基質として役立つはずであることを示唆する。特に、データは、hMSCの心臓組織の修復のための治療的基質としての使用の可能性を支持している。また、血管平滑筋細胞または内皮細胞等のその他の合胞体も、Cx43およびCx40の偏在性から、hMSCと共役することができるはずである(Wangら、2001年a)。したがって、また、それらの合胞体も、hMSCに基づく治療学の対象となることができる。例えば、hMSCに形質移入して、イオンチャネルを発現させることができ、次いで、これらのイオンチャネルは、周囲の合胞体組織に影響を及ぼすことができる。または、hMSCに形質移入して、ギャップ結合を透過することが可能な小型の治療的分子を産生する遺伝子を発現させて、レシピエントの細胞に影響を及ぼすことができる。さらに、短期の治療の目的で、レシピエントの細胞に送達するために、小型の分子をhMSCに直接積むこともできる。そのようなアプローチの成功は、レシピエントの細胞への治療薬の送達のための最終的な導管としてのギャップ結合チャネルによって決まる。HCN2形質移入hMSCを自然律動を発生するイヌの心臓に送達することにより、第1のアプローチが可能であることを本明細書で実証した。
【0165】
別の疑問として、hMSCの自律的な応答性が挙げられる。Potapovaら(2004年)によって示されたように、HCN2を積んだhMSCへのイソプロテレノールの添加の結果、活性化のシフトが生じ、その結果、増加した電流がより正の電位で流れた。自然なHCN2に期待されるであろうと同様に、この結果は、ペースメーカー速度の増加に至るはずである。また、Potapovaら(2004年)は、hMSCが発現したIfのアセチルコリンに対する応答も調査した。アセチルコリン単独では、電流への効果はなかったが、イソプロテレノールの存在下では、アセチルコリンは、イソプロテレノールのβアドレナリン作動性の効果に拮抗した。これは、拮抗作用が強調された場合の生理的現象に全く一致する。
【0166】
また、HCN2を積んだヒトMSCをイヌの心臓に注入し、そこで、迷走神経の刺激を使用して、洞房のペースメーカー機能および/または房室の伝導を終止した(Potapovaら、2004年)。この結果、自発的なペースメーカー機能が生じ、これは、注入部位にペースマップされた。さらに、その部位から取り出した組織は、筋細胞とhMSC要素との間のギャップ接合部の形成を示した。最後に、この幹細胞は、ビメンチン染色に陽性であり、これは、これらが間葉系であることを示し、かつヒトCD44抗原に対して陽性であり、これは、細胞がヒト由来のhMSCであることを示した(Potapovaら、2004年)。
【0167】
予備的な研究で、Plotnikovら(2005年b)は、hMSCに基づく生物学的ペースメーカーの機能を、植込み後6週にわたり追跡し、発生した速度が安定であることを見出した。同等に重要なことには、免疫グロブリンおよびイヌリンパ球の染色を使用して、hMSCの拒絶が生じたか否かを決定した。2週および6週の時点を使用したが、液性の拒絶の証拠も、細胞性の拒絶の証拠も存在しなかった。これは、hMSCが免疫特権を有する可能性があることを示唆するLiechtyら(2000年)の以前の研究と一致する。より詳細な調査によって、このことが実証されれば、いずれの免疫抑制の必要性もなくなるであろう。
【0168】
したがって、総合的に、hMSCは、いくつかの理由で、ペースメーカーイオンチャネルを心臓に送達するための非常に魅力的なプラットフォームを提供するようである。すなわち、hMSCは、標準的な臨床介入によって、比較的多くの数で得ることができ;hMSCは、培養で容易に発展し;予備的な証拠から、hMSCは、導入遺伝子を長期に発現させることができ;かつhMSCの投与は、自家性であってもよいし、(hMSCが免疫特権を有することから)保存物からであってもよい。hMSCは、理論的には、自発的な活動が可能な心臓様細胞にin vitroで分化することができるであろうが、本明細書に記載した遺伝子操作のアプローチは、特異的な系譜に沿った分化に依存しない。さらに、このex vivo形質移入法は、DNAの組込みの強化を可能にし、細胞の操作は、絶対安全な死の機構を備える。したがって、成体hMSCは、生物学的ペースメーカー活動の対象の心臓における誘発のステップを含む、心臓の律動障害に罹患した対象を治療するための方法、およびそのような方法で使用するためのキットを作る場合に利用する好ましいイオンチャネル送達プラットフォームである。
【0169】
(1)遺伝子治療と(2)本明細書に記載した幹細胞治療との間のデザインの概念的および実際的な違いを強調することは重要である。両者は、共通の終点--生物学的ペースメーカーの送達--を有するが、遺伝子治療は、特異的なHCNアイソフォームを使用して、心臓の筋細胞を操作して、ペースメーカー細胞に変化させるが、hMSC療法は、幹細胞をプラットフォームとして使用して、特異的なHCNアイソフォームおよび/またはMiRP1アイソフォームを、筋細胞が本来の機能を保持する心臓に運ぶ。遺伝子治療は、筋細胞間にすでに存在するホモタイプの細胞から細胞への共役を利用して、ペースメーカー電流が過剰発現している筋細胞から本来の機能を保持する筋細胞へのペースメーカー活動電位の伝播を容易にする。対照的に、幹細胞は、コネキシンの若干異なる集団を有する細胞のヘテロタイプの共役に依存して、幹細胞から機能が未変化で残っている筋細胞へペースメーカー電流のみを送達する。重要なことには、かつ洞房結節細胞とは異なり、HCN 2を形質移入したhMSCは、活動電位を発生させるのに必要なその他の電流を欠くので、興奮性ではない。しかし、形質移入すると、これらの細胞は、脱分極化電流を発生させ、これが、共役した筋細胞に広がり、筋細胞を閾値まで動かす。実際は、筋細胞は、仕掛け線のようにふるまい、筋細胞の過分極で、幹細胞のペースメーカー電流にスイッチが入り、筋細胞の脱分極で、電流のスイッチが切れる。本明細書に提示したデータは、hMSCがペースメーカー遺伝子を含有し、心臓の筋細胞とギャップ結合を介して共役する限り、hMSCは、正常な一次ペースメーカーである洞房結節に類似する様式で心臓ペースメーカーとして機能することを示唆している。
【0170】
正常なペースメーカー機能に要求される生物学的ペースメーカーの質量
生物学的ペースメーカーは、(細胞の質量に関する)最適な大きさおよび長期の正常な機能のための最適な細胞から細胞への共役が必要である。幸運なことに、以前の研究において、使用したHCN構築物は、しかもin situでのイヌ心臓に投与した形質移入hMSCの数で、周囲の筋細胞に共役して機能し、さらに、顕著な、測定が容易なペースメーカー活動を発生させるまでに機能した。次いで、数学的モデルを使用して、機能を最適化するのに必要とする適切なhMSCの数および共役比が同定されている。
【0171】
数学的モデルを使用して、量子ドットナノ粒子(QD)を使用するin vivo幹細胞注入が再構築された。約120,000個のQDを含有するhMSCを、(z=4.9mmで)左心室自由壁に注入し、動物を注入1時間後に堵殺した。10μmの横切片を得、位相差オーバレイを用いて655nmでQDの蛍光を可視化して、組織の境界を示した。QDを、送達されたhMSC内に認め、心筋細胞内の単一のQD+細胞をより高い解像度で可視化した。230個の連続的な10μmの横切片からのQD+領域を同定し、心臓におけるQDクラスターの3D分布を再構築するために使用した。次いで、幹細胞内のIfの特性、活動電位の伝播への細胞の幾何学の効果、幹細胞の数、静止電位が誘発するIfの減少、および活動電位の伝播の要件を考慮に入れて、生物学的ペースメーカーを数学的に設計した。hMSCの半径は、7μmであると想定され、これは、105個の幹細胞のクラスターの半径が0.03cmであり、106個の幹細胞では0.07 cmであることを意味した。
【0172】
モデルから、105個以上の幹細胞が、筋肉の活動電位を発生させると思われ;筋肉に特徴的な入力抵抗は、約0.03cmで飽和し;Ifの電位依存性の減少により、幹細胞のクラスターから出る電流は、約0.03cmで飽和し、したがって、筋肉内のペースメーカー電位は、約0.03cmで飽和することが示された。約0.03cm 以上の半径の細胞の殻が閾値に達すれば、筋肉内の活動電位の自立した伝播が本質的に保証されると結論付けられた。これは、1,000,000個の幹細胞を注入した場合、生物学的ペースメーカーを生み出すためには、わずか10%が残存する必要があることを意味する。これらの結論は、本明細書で開示したin situでの心臓組織におけるペースメーカー活動の誘発に関する実験結果と一致する。
【0173】
[実施例4]
生物学的歩調取りのためのキメラのHCNチャネルの使用
キメラのHCNチャネルの構築
HCNキメラを構築するために、まず、HCN遺伝子を発現ベクターへサブクローニングする。例えば、HCN1〜4をコードする哺乳動物の遺伝子(Santoroら、1998年;Ludwigら、1998年;1999年;Ishiiら、1999年)を、pGH19(Santoroら、2000年)およびpGHE(Chenら、2001年b)等のベクターへサブクローニングする。次いで、欠失変異体およびキメラ変異体を、PCR/サブクローニング戦略によって作り、得られた変異型HCN構築物の配列を、DNAシークエンシングによって検証する。
【0174】
HCNチャネルを、親水性、細胞質側N末端部分(領域1)、主に疎水性アミノ酸を含む、6つの部分からなるS1〜S6コア膜貫通(膜内)部分(領域2)、および親水性、細胞質側C末端部分(領域3)の3つの主要な部分を有するとして特徴付けることができる。当業者であれば、これらの部分の境界を、タンパク質の一次構造ならびに構成するアミノ酸の既知の親水性または疎水性に基づいて容易に決定することができる。例えば、mHCN1では、C末端部分は、D390〜L910である。mHCN2のC末端部分は、D443〜L863である。HCN1、HCN2、HCN3およびHCN4のうちのいずれかから、全N末端ドメイン、コア膜貫通ドメインまたはC末端ドメインをコードするポリヌクレオチド配列を入れ換えることができる。そのようにして構築した異なるキメラを、命名法HCNXYZを使用して識別する。ただし、X、YまたはZは、N末端ドメイン、コア膜貫通ドメインまたはC末端ドメインのそれぞれの身元を指す数(1、2、3または4のいずれか)である。
【0175】
したがって、例えば、mHCN112のキメラ(図3を参照)の場合、N末端部分および膜内部分は、mHCN1からであり、mHCN1のC末端アミノ酸D390〜L910は、mHCN2のカルボキシ末端のアミノ酸D443〜L863で置換されている。逆に、mHCN221の場合、mHCN2のカルボキシ末端のアミノ酸D443〜L863は、mHCN1のカルボキシ末端のアミノ酸D390〜L910で置換されている。mHCN211の場合、mHCN1のアミノ末端のアミノ酸M1〜S128は、mHCN2のアミノ末端のアミノ酸M1〜S181で置換されている。逆に、mHCN122の場合、mHCN2のアミノ酸M1〜S181は、mHCN1のアミノ酸M1〜S128で置換されている。mHCN121の場合、mHCN1のS1〜S6膜貫通ドメインのアミノ酸D129〜L389は、mHCN2の膜貫通ドメインのアミノ酸D182〜L442で置換されている。逆に、mHCN212(図3)の場合、HCN2のアミノ酸D182〜L442(すなわち、膜内部分)は、mHCN1のD129〜L389で置換されている(Wangら、2001年bを参照)。ヒトのキメラのHCNチャネルを調製するために、ヒトHCNチャネルからのドメインを利用して、同一の原理を適用し、必要な変更を加える。例えば、hHCN112は、hHCN1からのアミノ末端ドメインおよび膜内ドメイン、ならびにhHCN2からのカルボキシ末端ドメインを有する。
【0176】
これらのHCNのキメラの発現は、アフリカツメガエル卵母細胞において容易に観察することができる。例えば、cRNAを、T7 RNAポリメラーゼ(Message Machine製;Ambion、Austin、テキサス州)を使用して、NheI-直線化DNA(HCN1およびHCN1のバックグラウンドに基づく変異体の場合)、またはSphI-直線化DNA(HCN2およびHCN2のバックグラウンドに基づく変異体の場合)から転写することができる。50ngのcRNAを、過去の記載(Gouldingら、1992年)に従ってアフリカツメガエル卵母細胞に注入する。
【0177】
キメラのHCNチャネルが生物学的な歩調取りを増強する
実験を行って、新生仔ラット心室筋細胞で発現させた場合、HCN2チャネルとキメラのHCN212チャネルとのゲーティング動態を比較した。図14は、mHCN2、およびマウスHCN2のD182〜L442をマウスHCN1のD129〜L389で置換することによって生み出したキメラのチャネル(mHCN212)を使用して得た結果を示す。活性化および非活性化の動態の解析は、mHCN212は、mHCN2と比較して、全ての電位でより迅速な動態を示すことを明らかにしている。
【0178】
新生仔ラット心室筋細胞におけるHCN2チャネルとキメラのHCN212チャネルとの発現効率の比較を、図15に示す。結果は、キメラのチャネルの発現は、野生型チャネルの発現と少なくとも同程度に良好であることを示している。さらに、活性化の電位依存性の解析からは、筋細胞で発現させた場合には、HCN2チャネルとHCN212チャネルとでは、電位依存性の差は示されていない。
【0179】
マウスHCN212を、新生仔ラット心室筋細胞およびヒト成体間葉系幹細胞で発現させ、次いで、発現した電流を、培地中で研究した。キメラのmHCN212チャネルをこれら2種の異なる細胞型で発現させた場合には、活性化の電位依存性についても、活性化の動態についても、顕著な差は存在しない(図16を参照)。
【0180】
図17は、卵母細胞における野生型mHCN2およびmHCN112の定常状態の活性化曲線、活性化の動態およびcAMPによる調節を示す。データは、強力なcAMP応答を保存する一方で、キメラのHCN112チャネルが、HCN2よりも顕著に迅速な動態を達成することを示している。
【0181】
成体hMSCで発現したmHCN2チャネルおよびキメラのmHCN212チャネルのゲーティングの特徴を比較する(図18)と、mHCN212の場合、HCN2と比較して、活性化の電位依存性が顕著に正にシフトしていること、および活性化の動態がいずれの測定電位においても顕著に迅速であることを示している。
【0182】
これらのデータは、治療適用のためのペースメーカー活動の誘発において、HCN212のキメラは、野生型HCN2チャネルを上回る顕著な利点を有することを示唆している。重要なことには、正のシフトおよびより迅速な動態の結果、特には、心臓細胞の拡張期の電位の範囲(-50から-90mV)に関するが、いずれの特異的な電位に関しても、より短時間でのより多くの電流に至ることが期待されるであろう。
【0183】
したがって、操作して、元々の自然なHCNチャネルと比較して、抑制または増強された活動を有するキメラのHCNチャネルを生み出すことができ、これによって、心臓の状態を治療するために最適化された異なる特徴を有するチャネルの選択が可能となる。例えば、HCNチャネルの電流の活性化曲線を、より正またはより負の電位にシフトさせることができ;過分極ゲーティングを増強または抑制することができ;チャネルの環状ヌクレオチドに対する感受性を増加または減少させることができ;かつ基礎ゲーティングの差を導入することができる。より具体的には、データは、迅速な動態およびcAMPに対する良好な応答性(したがって、自律的な刺激に対する改変された応答性)を有するペースメーカーチャネルを、例えば、HCN1成分を選択することによって得ることができるという証拠を提供している。また、より緩慢な動態を、例えば、キメラにHCN4成分を選択することによって得ることもできる。心臓障害の治療に有利な特徴を示すHCNキメラの創出は、過去には報告されていない。
【0184】
[実施例5]
in situでのタンデム型生物学的ペースメーカーおよび電気的ペースメーカーによる歩調取り
イヌへのタンデム型生物学的ペースメーカーの植込みおよび電気的ペースメーカーの埋込み
動物実験を、the Columbia University Institutional Animal Care and Use Committeeによって承認されたプロトコールを使用し、the Guide for the Care and Use of Laboratory Animals(NIH Publication No. 85-23、改訂1996年)に従って行った。
【0185】
雑種の成体イヌ、体重22〜25kgに、プロポフォール6mg/kg IVおよび吸入イソフルラン(1.5%〜2.5%)を用いて麻酔を施した。操縦可能なカテーテルを使用して、食塩水(n=5)、AdmHCN2(n=6)、またはAdmE324A(n=4)を、過去の記載に従って(Plotnikovら、2004年)、左の脚(LBB)に注入した。追加の2匹のイヌには、AdmE324Aを、内部対照として、LV中隔心筋に注入した。完全AVブロックを高周波アブレーションによって誘発し、注入の各部位をカテーテル電極でペーシングして、追跡期間中、心室固有の律動の起源を心電図上で識別した。
【0186】
電気的ペースメーカー(Discovery II、Flextendリード;Guidant製、Indianapolis、インディアナ州)を埋め込み、VVI 45bpmに設定した。ECG、24時間ホルター心電図によるモニター、ペースメーカーログ点検、および80bpmでのオーバードライブペーシングを、毎日14日間行った。βアドレナリン作動性の応答性を評価するために、第14日に、エピネフリン(1.0、1.5および2.0μg/kg/分、各上限10分間)を、心室固有の速度の50%増加または心室性不整脈(優位な心室固有の律動の形態ではない形態を有する単一の心室性期外収縮、または心室性頻脈性不整脈)のどちらかが最初に起きる終点まで注入した。2μg/kg/分の最大用量の開始後10分以内に上記の応答のいずれをも観察しない場合には、注入を停止した。
【0187】
データを、平均±SEMとして示す。in situでの実験では、5匹の食塩水を注入したイヌと2匹のAdmE324Aを(LBBではなく)心筋に注入したイヌとでは、電気生理的な差がなかったので、一緒にして1つの対照群とし、以降の解析に用いた。一元配置分散分析を使用して、移植した構築物の電気生理学的パラメーターへの効果を評価した。次いで、等しい分散を想定する場合のボンフェローニ法および分散が等しくない場合のゲイムスハウエル(Games-Howell)法を使用して、解析を行った。2元分割表解析を行って、エピネフリンが3つの群に異なる効果を有したか否かを評価した。データは、Windows(登録商標)ソフトウエア用のSPSS(SPSS, Inc.製)を使用して解析した。P<0.05を、有意であるとみなした。
【0188】
in situでのタンデム型生物学的ペースメーカーおよび電気的ペースメーカーの動作
予備実験では、E324A変異体を保有するアデノウイルスの注入によって、HCN2に代わる効果的なものを提供できる可能性を、in vivoで試験した。E324Aに感染したイヌは、HCN2に感染したイヌと比較して、基礎速度の点では、有意な差を現さないが、カテコールアミン応答性はより高いことを見出した(Plotnikovら、2005年a)。
【0189】
次いで、現在の実験では、HCN2遺伝子およびE324A-HCN2遺伝子のそれぞれを保有するアデノウイルスベクターを使用して、埋込み型電気的ペースメーカーと併行してin vivoにおいてペースメーカー活動を発生させ、タンデム型ペースメーカーの性能を、電気的ペースメーカーを単独で使用した性能と比較した。6匹のイヌが、操縦可能なカテーテルを介して、左の脚(LBB)へ、0.6mlの食塩水中のHCN2遺伝子を組み入れたアデノウイルスベクターの注入を受けた。HCN2ウイルスは、新生仔ラット筋細胞において、以下のように特徴付けられていた: 活性化の中間点=-69.3mV(n=5);-65mVでの活性化τ=639±72ms(n=5);-135mVで発現した電流=53.5±8.3pA/pF(n=10)。変異E324A遺伝子を組み入れたアデノウイルスベクターを、4匹のイヌには、LBBへ注入し、2匹の追加のイヌには、内部対照として、左心室中隔心筋に注入した。別の対照として、5匹のイヌには、LBBへ0.6mlの食塩水を注入した。
【0190】
完全房室ブロックを高周波アブレーションによって誘発し、電気的ペースメーカーを右心室内心膜頂端へ埋め込み、VVI 45bpmに設定した。ECGおよび24時間モニターを、毎日14日間行った。また、βアドレナリン作動性の応答性も、上記の記載に従って評価した。
【0191】
電気的ペースメーカーは、対照では、全拍動の83±5%を誘発し(p<0.05)、mHCN2群の26±6%およびmE324A群の36±7%とは対照的であった(後者2つの場合、p>0.05)。電気的にペーシングした拍動について、タンデム型HCN2-電気的ペースメーカーと電気的ペースメーカー単独とを比較した時間的な解析を、図19Aに示す。研究期間にわたり、HCN2群では、有意に少ない数の拍動が電気的に開始されたことは注目に値する。E324Aの結果(表示せず)では、HCN2と有意な差はなかった。
【0192】
回避時間を、3回の30秒間の80bpmでの心室のオーバードライブペーシングを行った後に、ペーシングを突然休止することによって毎日評価した。次いで、最後に電気的にペーシングした拍動と最初の内因性の拍動との間の平均時間を決定した。回避時間は、3群全体で、1〜5秒に及び、変動が広く、したがって、有意な差はみられなかった。したがって、回避間隔に関しては、利点は、いずれの群にも生じなかった。しかし、基礎心拍数に関しては、14日間を通して異なる結果が存在した。図19Bに示すように、食塩水の対照における平均心拍数は、電気的ペースメーカーの心拍数(45bpm)によって決定される平均心拍数であった。これは、mHCN2またはmE324Aを注入したイヌの平均心拍数よりも研究期間を通して有意に緩慢であった。mHCN2群とmE324A 群とでは、差はなかった。
【0193】
タンデム型ペースメーカーの生物学的な構成成分と電気的な構成成分との間の相互関係の例を、図20に示す。生物学的な構成成分が緩慢になると、電気的な構成成分が引き継ぐこと、および生物学的な構成成分が迅速化すると、電気的な構成成分が発火を止めることが明らかである。
【0194】
図21は、終末の実験におけるエピネフリンに対する応答を示す。パネルAは、全3群について、エピネフリン1μg/kg/分の注入前および注入中の代表的なECGを示す。対照速度は、食塩水、mHCN2およびmE324Aのそれぞれの群で、42、44および52bpmであった。エピネフリンを加えると、速度は、44、60および81bpmに増加した。パネルBは、エピネフリンの全部の用量で生じた速度の変化の概要を示す。示されているように、食塩水群では、全てのイヌで、投与したエピネフリン濃度の範囲を通して、50%未満の速度の増加および/または心室の早発性脱分極の発生を示した。mHCN2群の半分が、50%以上の心拍数の増加を生じ、これらのうちの33%が、この増加を達成するために最高用量のエピネフリンを必要とした。残りでは、50%未満の心拍数の増加または心室の早発性脱分極の発生を示した。最後に、mE324A群は、投与したエピネフリンの最低用量で、50%以上の心拍数の増加を現した。したがって、mE324A群は、その他の群のいずれよりも、はるかに高いエピネフリン感受性を示した。
【0195】
電気的ペースメーカーまたは生物学的ペースメーカーのいずれかに代わるものとしてのタンデム療法
上記に提示した実験データは、とりわけ、mHCN2遺伝子およびmE324A遺伝子の発現に基づく生物学的ペースメーカーが、電気的ペースメーカーと併行して、とぎれなく動作して、心拍数が選択された最小拍動速度を下回るのを阻止すること(図19);送達される電気的な拍動の全数が保存されること(図20);および電気的ペースメーカー単独の場合と比較して、より高い、より生理的で、かつカテコールアミン応答性の心拍数が提供されること(図21)を実証している。アデノウイルスベクターを使用して、ペースメーカー遺伝子をイヌ心臓に導入する一方で、本明細書に提示したデータは、また、hMSCが心臓へのイオンチャネル電流の送達のための有効なプラットフォームを提供することができることも示している。hMSCの使用を好む要因として、ギャップ結合を、心筋細胞を含む、多様な細胞型と形成する実証された能力(図10〜13);少なくとも6週間にわたり、安定にみえるペースメーカー活動を心臓組織で発生させる能力(Plotnikovら、2005年b);および6週後に、液性の拒絶も、細胞性の拒絶もないという証拠があり(Plotnikovら、2005年b)、これが、より長期にわたり確認されれば、hMSC仲介療法では、いずれの免疫抑制の必要性もなくなるであろうということが挙げられる。また、HCNチャネルのドメインを組み換えて、心臓の状態を治療する場合に使用するために望ましいゲーティングの特徴を示すキメラのHCNチャネルを産生することができることを示すデータも提供された。
【0196】
本明細書に提供したデータは、生物学的ペースメーカーの設計には、今日の電気的ペースメーカーに課された要求に応じる、特に、生理的な基礎心拍数および要求が高まった時に心拍数を上昇させる手段を提供する可能性があることをいっそう堅固にしている。mHCN2チャネル、mE324AチャネルおよびキメラのHCNチャネルは、異なる特徴を有する生物学的ペースメーカーを提供し、さらに、それらは、生物学的ペースメーカーが、電気的ペースメーカーのごとく、基礎心拍数およびカテコールアミン応答性を調整することができる原理も実証している。
【0197】
電気的ペースメーカーの利点および欠点は、過去に検討されており(Rosenら、2004年;Rosen、2005年;Cohenら、2005年)、電気的ペースメーカーは、多数の心臓不整脈を治療する救命デバイスとしては、明らかに最先端技術であり、心不全への使用も増加している。これらの利点は、電気的ペースメーカーの欠点を上回る(「背景技術」を参照)。電気的ペースメーカーは、医学上の寛解の極めて成功している形態の代表であることから、電気的ペースメーカーにとって代わるのは容易ではないであろうが、電気的ペースメーカーが完全には生理的ではないという事実から、改良の余地もあれば、究極的に電気的ペースメーカーに取って代わるものも望まれる。しかし、電気的ペースメーカーに取って代わる治療法は、より持続性で、損傷を与える可能性がより少なく、より生理的でなければならない。このことを心に留めて、生物学的ペースメーカーの開発が進められている。生物学的ペースメーカーは、(1)交換の必要がない、生涯にわたり安定な生理的律動を生み出し;(2)自律的な応答性と共役する安全な基礎律動の要求を満たして、運動および情動の要求に対する応答性を容易にする点で、電気的ペースメーカーよりも優れており;(3)活性化の最適な経路を通して伝播が生じ、収縮の効率が最適化されるように、患者毎に適合させた部位に移植され;(4)炎症、新生物または拒絶の危険を与えず;(5)催不整脈性の心配がないという可能性を有する必要があることが示唆されている。換言すれば、生物学的ペースメーカーは、寛解ではなく、治癒でなければならない(Rosenら、2004年;Rosen、2005年)。
【0198】
生物学的ペースメーカー単独または電気的ペースメーカー単独に基づく療法ではなくタンデム療法の使用を検討する2つの理由がある: 一方は、臨床試験に関連し、他方は、より広範な臨床での使用に関連する。適切な安全性および効力の前臨床試験が完了したら、完全心ブロックおよび心房細動の患者におけるタンデム型の歩調取りの研究が、第1相および第2相を組み合わせた試験のための合理的な出発点であろう。そのような集団は、ペースメーカー療法を必要とし、AV逐次電気的ペーシングの候補ではない。そのような患者のためには、最新式の療法--要求形態の電気的な心室のペーシング--が必要であろうし、生物学的な植込みもまた施すことができるであろう。さらに、十分に低い速度に設定した電気的な成分は、生物学的な成分が停止した場合には、「安全策」を保証するであろう。しかし、たとえ第1相および第2相試験が、生物学的ペースメーカーの安全性および効力の証拠を提供したとしても、どれぐらい長く生物学的ペースメーカーが続くかを理解する必要がある。生物学的ペースメーカーを投与される患者の第1世代では、これは、多分、生涯にわたる質問であるはずであり、その間、継続して電気的なバックアップが存在しなければならない。
【0199】
タンデム型ペースメーカーの概念のより広範な臨床適用に関して、検討すべきいくつかの課題がある。第1に、このシステムは、意図的に重複性であり、2つの完全に無関係な故障モードを有する。2つの独立した埋込み部位および独立したエネルギー源は、(例えば、心筋梗塞による)捕捉不全の事象では、安全機構を提供するであろう。第2に、電気的ペースメーカーは、ベースラインの安全策のみならず、臨床医の精査に向けて全心拍の継続的な記録も提供し、したがって、患者の進展する生理およびタンデム型ペースメーカーシステムの性能に関する洞察を提供するであろう。第3に、大部分の心臓のペーシングを行うように、生物学的ペースメーカーを設計するので、電気的ペースメーカーの寿命延長を、劇的に改善することができるであろう。また、電気的ペースメーカーの大きさをさらに小さくすることができる一方で、寿命延長を維持することが可能であろう。最後に、タンデム型システムの生物学的な構成成分は、真に自律的な応答性を提供すると思われ、これは、40年以上にわたる電気的ペースメーカーの研究開発が達成できなかった目標である。
【0200】
[実施例6]
生物学的-電気的両室性ペースメーカー
約50%に及ぶ高度心不全患者が、非同期性の心室の収縮により左心室の収縮期機能障害を悪化させる恐れのある心室間伝導遅延(心室同期不全)を示す。さらに、これらの患者においては、RQS持続期間の遅延の結果、異常な中隔壁の動きが生じ、心臓の収縮性が低下し、拡張期の充填時間が短縮し、僧帽弁逆流が延長する。これらの異常は、罹患率および死亡率の上昇に関係すると報告されている。両室性のペーシング(心臓再同調療法;CRT)が、心室の収縮の協調および患者の血行動態の状況の改善に成功し、それによって、生活の質を高め、患者の死の危険を低下させていることが示されている(例えば、AbrahamおよびHayes、2003年;Clelandら、2005年を参照)。
【0201】
現在、心不全を治療するための両室性のペーシングでは、2本のリードを心室の収縮を最適化する位置に留置することになる。しかし、この配置から生じる問題は、リードを、収縮を最適化できる部位に必ずしも留置できるとは限らないことである。リードは、冠静脈を介して(冠静脈洞のカテーテル法によって)挿入されるので、分布は、静脈の血行路の部位に限定される。対照的に、生物学的ペースメーカーは、心室のいかなる部位にも、内心膜からの経路を介して、心臓の静脈を介して、または胸腔検査鏡によって移植することができる。生物学的ペースメーカーを、収縮を最適化する心室の適切な部位に位置させたら、生物学的ペースメーカーを、電気的ペースメーカーと併行して、両室性のペーシングのモードで使用することができる。最適な両室性のぺーシングの効果を得るためには、生物学的ペースメーカーを、好ましくは、外側自由壁上で、底部ではなく尖部に偏って移植する。電気的ユニットを、生物学的リードが発火した後に特定の間隔で感知し、発火するようにプログラムして、両室性の機能を提供する。その上、また、電気的ペースメーカーを、生物学的ユニットが遅れて発火する場合には、回避モードで発火するようにもプログラムする。
【0202】
一実施形態では、タンデム型のシステムに隣接するものとして、第2の電気的ユニットを冠静脈に留置して、バックアップの両室性のユニットとして機能させ、生物学的な成分が機能しない場合には、一次電気的ユニットと共に発火するようにプログラムする。別の実施形態では、ナノ粒子を幹細胞に挿入し、幹細胞を、電気的ユニットから発せられた信号に応答して興奮後、発火するコンデンサーとして機能することができるようにする。さらに別の実施形態では、ナノ粒子含有幹細胞を、電気的ペースメーカーと併行して使用して(すなわち、電気的ユニットの従属装置として働く幹細胞-ナノ粒子ユニットを有する電気的ユニット)、両室性のペースメーカーを構成する。上記の構成成分の全てを、包装材料および使用のための指示を提供するラベルと一緒に、生物学的ペースメーカーを電気的ペースメーカーと併行して両室性のペーシングモードで使用するためのキットとして組み合わせて、高度心不全および心室同期不全に罹患した患者を治療することができる。
【0203】
生物学的ペースメーカーの開発において、電気的ペースメーカーの生物学的な治療法と併行しての使用は、生物学的治療学の将来への重要な橋渡し役をつとめることができるであろう。この橋が、将来、純粋に生物学的な治療法につながる可能性がある一方で、それ自体、患者にも臨床医にもより大きな利点を提供する興味深い目標たり得る。両室性のペーシングのためのタンデム型の生物学的ペースメーカーおよび電気的ペースメーカーの使用は、特に魅力的な目標であろう。
(参考文献)
【図面の簡単な説明】
【0204】
【図1】野生型または遺伝子操作したペースメーカー細胞、および遺伝子操作した幹細胞ペースメーカーによる自発的律動の開始を示す図である。上図。自然のペースメーカー細胞または遺伝子導入によりペースメーカー電流を組み入れるように操作した筋細胞においては、活動電位(挿入図)が、膜を貫通するHCNチャネルを通して流れる内向き電流を介して開始される。これらは、膜が最大拡張期電位まで再分極すると開き、活動電位の間に膜が脱分極すると閉じる。電流が筋細胞に隣接するギャップ結合を介して流れると、その結果、筋細胞の興奮および活動電位の伝導系を介する伝播に至る。下図。幹細胞は、膜内にHCNチャネルを組み入れるように操作されている。膜が過分極している場合に限って、これらのチャネルは開くことができ、電流がチャネルを流れることができる(挿入図)。そのような過分極は、隣接する筋細胞が、幹細胞にギャップ結合を介して堅固に共役している場合に限って送達することができる。そのような共役および局所電流を誘発するHCNチャネルの開口の存在下で、隣接する筋細胞が、興奮し、活動電位を開始し、次いで、活動電位は、伝導系を通して伝播する。活動電位の脱分極の結果、次の再分極が大きな負の膜電位を回復するまで、HCNチャネルは閉じた状態になる。したがって、野生型および遺伝子操作したペースメーカー細胞は、各細胞内に、活動電位を開始および伝播するのに必要な全ての機構を組み入れている。対照的に、幹細胞-筋細胞の対形成においては、2種の細胞が、単一の機能単位として一緒に働き、その動作は、2つの異なる細胞型の間に形成されるギャップ結合に決定的に依存する。
【図2】図2Aは、洞房結節(SAN)におけるペースメーカー電位の発生におけるIfの役割を示す図である。対照条件下およびノルエピネフリン(NE)を用いたβアドレナリン作動性刺激後のSANにおけるペースメーカー電位。ペースメーカー電位の発生を制御する4種の主要な電流を示す: If電流(過分極活性化環状ヌクレオチド依存性[HCN]チャネルによって発生する)、T型(ICaT)およびL型(ICaL)のカルシウム電流、ならびに再分極化K電流(IK)。 図2Bは、洞房結節(SAN)におけるペースメーカー電位の発生におけるIfの役割を示す図である。細胞性環状アデノシン一リン酸(cAMP)の上方制御または下方制御によるHCNチャネルの制御を示すSAN細胞の模式図。M2: 2型ムスカリン受容体;ACh: アセチルコリン;AC: アデニル酸シクラーゼ;Gαi: Gタンパク質αサブユニット(ACを阻害する);Gβγ: Gタンパク質βγサブユニット;β1-AR: 1型βアドレナリン作動性受容体;Gαs: Gタンパク質αサブユニット(ACを刺激する);ΔV: cAMPの増加または減少によって誘発されたHCNチャネル活性化の電位依存性のシフト(Bielら、2002年を参照)。
【図3】可能なキメラのHCNチャネルの模式図である。HCN2の要素(明るい線で示す)およびHCN1の要素(暗い線で示す)から構築し、HCN1の迅速な活性化動態をHCN2の強力なcAMP応答と組み合わせるように設計したチャネルの例を示す。このアプローチは、HCNチャネルのC末端細胞質側ドメインが、環状ヌクレオチド結合ドメインを含有し、cAMP応答性に顕著に寄与し、膜貫通ドメインが、活性化動態等のゲーティングの特徴に顕著に寄与するという事実に由来する。上から下へ: HCN2、HCN212(中央、すなわち、HCN2の膜貫通部分がHCN1の対応する部分で交換されている)、HCN112(HCN1のC末端細胞質側部分がHCN2の対応する部分で交換されている)、およびHCN1を示す。
【図4】図4Aは、新生仔の心室筋細胞におけるmHCN2およびmE324Aの機能的発現を示す図である。AdmHCN2に感染させた心室筋細胞の代表的な全細胞電流の記録。電流を、-10mVの保持電位から、-25mVから-125mVに及ぶ異なる過分極化電位段階まで段階的に-10mVずつ増加させることによって誘発した。右の挿入図は、mHCN2およびmE324Aの両方について、-35、-45および-55mVで記録した電流の記録を拡大した目盛で示す。 図4Bは、新生仔の心室筋細胞におけるmHCN2およびmE324Aの機能的発現を示す図である。AdmE324Aに感染させた心室筋細胞の代表的な全細胞電流の記録。電流を、-10mVの保持電位から、-25mVから-125mVに及ぶ異なる過分極化電位段階まで段階的に-10mVずつ増加させることによって誘発した。右の挿入図は、mHCN2およびmE324Aの両方について、-35、-45および-55mVで記録した電流の記録を拡大した目盛で示す。 図4Cは、新生仔の心室筋細胞におけるmHCN2およびmE324Aの機能的発現を示す図である。説明のために、mHCN2(四角)およびmE324A(丸)の電流の平均活性化のデータを、ボルツマンの式(線)に当てはめた。 図4Dは、新生仔の心室筋細胞におけるmHCN2およびmE324Aの機能的発現を示す図である。mHCN2(四角)およびmE324A(丸)の活性化(中が黒い記号)および非活性化(中が白い記号)の電位依存性の時定数。活性化の平均値は、mHCN2およびmE324Aの両方について、14個の細胞から求め、非活性化の時定数の平均値は、mHCN2では8個の細胞およびmE324Aでは7個の細胞から求めた。
【図5】mHCN2およびmE324AのcAMPによる調節を示す図である。ピペット溶液中の10μM cAMPの非存在下(中が白い記号)および存在下(中が黒い記号)で求めたmHCN2(四角)およびmE324A(丸)の平均活性化分率曲線。cAMPの非存在下(実線)および存在下(破線)の実験の場合、平均データは、ボルツマンの式に当てはまった。mHCN2に関する計算値は、cAMPの非存在下およびcAMPの存在下のそれぞれについて、V1/2=-69.6mVおよび-59.9(9.7mVのシフト)、ならびにs=10.8および11.0mVであった。mE324Aに関する計算値は、cAMPの非存在下およびcAMPの存在下のそれぞれについて、V1/2=-46.3mVおよび-40.7mV(5.6mV)、ならびにs=9.1mVおよび8.7mVであった。
【図6】図6Aは、卵母細胞において発現した野生型mHCN2または変異mE324Aの活性化を示す図である。発現したmHCN2の活性化。上図: 発現したmHCN2またはmE324Aの活性化の典型的な記録。挿入図は、使用したパルスのプロトコールを示す。mHCN2の場合、電流を、10mVずつ増加させる-30mVと-160mVとの間の2秒間の過分極化パルス、次いで、+15mVまでの1秒の脱分極化パルスによって誘発した。保持電位は、-30mVであった。mE324Aの場合、電流を、10mVずつ増加させる+20mVと-130mVとの間の3秒間の過分極化パルス、次いで、+50mVまでの1秒の脱分極化パルスによって誘発した。保持電位は、+20mVであった。中央図: 定常状態の活性化曲線を構築するために使用した対応するテール電流。下図: mHCN2またはmE324Aの活性化曲線。データは、ボルツマンの式に当てはまった(1/[1+exp((V1/2-Vtest)/s)])。mHCN2の場合、最大半量活性化(Vh)は、-92.7mV±1.1mV(n=9個の細胞)であり、電流は、約-130mVで飽和した。mE324Aの場合、より正の活性化の閾値(約-30mV)が認められ、Vhは、-57.3mV±1.6mV(n=9個の細胞)であった。 図6Bは、卵母細胞において発現した野生型mHCN2または変異mE324Aの活性化を示す図である。発現したmE324Aの活性化。上図: 発現したmHCN2またはmE324Aの活性化の典型的な記録。挿入図は、使用したパルスのプロトコールを示す。mHCN2の場合、電流を、10mVずつ増加させる-30mVと-160mVとの間の2秒間の過分極化パルス、次いで、+15mVまでの1秒の脱分極化パルスによって誘発した。保持電位は、-30mVであった。mE324Aの場合、電流を、10mVずつ増加させる+20mVと-130mVとの間の3秒間の過分極化パルス、次いで、+50mVまでの1秒の脱分極化パルスによって誘発した。保持電位は、+20mVであった。中央図: 定常状態の活性化曲線を構築するために使用した対応するテール電流。下図: mHCN2またはmE324Aの活性化曲線。データは、ボルツマンの式に当てはまった(1/[1+exp((V1/2-Vtest)/s)])。mHCN2の場合、最大半量活性化(Vh)は、-92.7mV±1.1mV(n=9個の細胞)であり、電流は、約-130mVで飽和した。mE324Aの場合、より正の活性化の閾値(約-30mV)が認められ、Vhは、-57.3mV±1.6mV(n=9個の細胞)であった。 図6Cは、mHCN2およびmE324Aの活性化の時定数。mE324Aにおける、電位依存性の正のシフトおよびより迅速な活性化の動態の両方に注目されたい。 図6Dは、mHCN2およびmE324Aの活性化の時定数。mE324Aにおける、電位依存性の正のシフトおよびより迅速な活性化の動態の両方に注目されたい。
【図7】mHCN2またはmE324Aを注入した卵母細胞のおけるIHCN2のcAMPによる調節を示す図である。ボルツマンに当てはめた規準化したイオンのコンダクタンスは、mHCN2(左図)およびmE324A(右図)の両方で、8-Br-cAMP(cAMP、1mM)の細胞外への適用が、IHCN2の最大半量の活性化の電位(Vh)を7〜8mV正にシフトさせることを示した。
【図8】図8Aは、mHCN2およびmE324Aに関する薬理学的評価およびIHCN2の逆転電位を示す図である。mHCN2に関する、IHCN2の電流/電位の関係。上図: Ifの電流/電位の関係を記録するための電位プロトコール。mHCN2の場合、細胞を-30mVで保持し、電流を、活性化を飽和させる-140mVまでの2秒の過分極化電位段階、次いで、10mVずつ増加させる-80mVと+50mVとの間の2秒の脱分極化電位段階によって誘発した。E324Aの場合、細胞を+20mVで保持し、電流を、活性化を飽和させる-110mVまでの1.5秒の過分極化電位段階、次いで、テール電流を記録するための10mVずつ増加させる-80mVと+50mVとの間の1.5秒の脱分極化電位段階によって誘発した。下図: 対照、Cs+(5mM)、および洗い流しの条件のそれぞれの存在下で、IHCN2の完全に活性化された電流/電位の関係を構築するために使用した代表的な記録。mHCN2またはmE324Aの両方で、IfがCs+によって大幅に抑制されたことに注目されたい。 図8Bは、mHCN2およびmE324Aに関する薬理学的評価およびIHCN2の逆転電位を示す図である。mE324Aに関する、IHCN2の電流/電位の関係。上図: Ifの電流/電位の関係を記録するための電位プロトコール。mHCN2の場合、細胞を-30mVで保持し、電流を、活性化を飽和させる-140mVまでの2秒の過分極化電位段階、次いで、10mVずつ増加させる-80mVと+50mVとの間の2秒の脱分極化電位段階によって誘発した。E324Aの場合、細胞を+20mVで保持し、電流を、活性化を飽和させる-110mVまでの1.5秒の過分極化電位段階、次いで、テール電流を記録するための10mVずつ増加させる-80mVと+50mVとの間の1.5秒の脱分極化電位段階によって誘発した。下図: 対照、Cs+(5mM)、および洗い流しの条件のそれぞれの存在下で、IHCN2の完全に活性化された電流/電位の関係を構築するために使用した代表的な記録。mHCN2またはmE324Aの両方で、IfがCs+によって大幅に抑制されたことに注目されたい。 図8Cは、mHCN2について、対照、Cs+、および洗い流しの条件の存在下での完全に活性化された電流/電位曲線。完全に活性化された電流/電位の関係を、テール電流の大きさを、(図14AおよびBから得た)2つの試験電位の間で生じたゲート変数の変化で割ることによって構築した。IHCN2の計算逆転電位は、mHCN2で-41mV、およびmE324Aで-40mVであった。 図8Dは、mE324Aについて、対照、Cs+、および洗い流しの条件の存在下での完全に活性化された電流/電位曲線。完全に活性化された電流/電位の関係を、テール電流の大きさを、(図14AおよびBから得た)2つの試験電位の間で生じたゲート変数の変化で割ることによって構築した。IHCN2の計算逆転電位は、mHCN2で-41mV、およびmE324Aで-40mVであった。
【図9】mHCN2またはmE324Aを注入した卵母細胞におけるIHCN2の電流の大きさの比較を示す図である。IHCN2を、-120 mVで、mHCN2(n=10個の細胞)およびmE324A(n=10個の細胞)について測定した。発現したmE324A(t検定、P<0.01)の場合、電流の大きさがより小さいことに注目されたい。電位プロトコールを、挿入図に示す。mHCN2の場合、電流を、-30mVの保持電位から-120mVまでの3秒の過分極化電位パルスを適用することによって誘発した。mE324Aの場合、電流を、+20mVの保持電位から-120mVまでの3秒の過分極化電位パルスを適用することによって誘発した。
【図10】図10Aは、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)のギャップ結合におけるコネキシンの同定を示す図である。Cx43の免疫染色。イヌ心室筋細胞およびhMSCにおけるCx43の免疫ブロット解析。心室細胞またはhMSCからの全細胞可溶化液(120μg)をSDSで分解し、膜に移動させ、Cx43抗体を用いてブロットした。分子量マーカーを示す。 図10Bは、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)のギャップ結合におけるコネキシンの同定を示す図である。Cx40の免疫染色。イヌ心室筋細胞およびhMSCにおけるCx43の免疫ブロット解析。心室細胞またはhMSCからの全細胞可溶化液(120μg)をSDSで分解し、膜に移動させ、Cx43抗体を用いてブロットした。分子量マーカーを示す。 図10Cは、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)のギャップ結合におけるコネキシンの同定を示す図である。Cx45の免疫染色。イヌ心室筋細胞およびhMSCにおけるCx43の免疫ブロット解析。心室細胞またはhMSCからの全細胞可溶化液(120μg)をSDSで分解し、膜に移動させ、Cx43抗体を用いてブロットした。分子量マーカーを示す。 図10Dは、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)のギャップ結合におけるコネキシンの同定を示す図である。イヌ心室筋細胞およびhMSCにおけるCx43の免疫ブロット解析。心室細胞またはhMSCからの全細胞可溶化液(120μg)をSDSで分解し、膜に移動させ、Cx43抗体を用いてブロットした。分子量マーカーを示す。
【図11】図11Aは、hMSC対の間のギャップ結合の巨視的特性および単一チャネルの特性を示す図である。対称的な双極性パルスプロトコール(10秒、±10mVから±110mV、Vh=0mV)を使用してhMSCから誘発されたギャップ結合電流(Ij)は、対称的な2種類の電位依存性電流非活性化を示した。 図11Bは、hMSC対の間のギャップ結合の巨視的特性および単一チャネルの特性を示す図である。対称的な双極性パルスプロトコール(10秒、±10mVから±110mV、Vh=0mV)を使用してhMSCから誘発されたギャップ結合電流(Ij)は、非対称的な2種類の電位依存性電流非活性化を示した。 図11Cは、hMSC対の間のギャップ結合の巨視的特性および単一チャネルの特性を示す図である。規準化した瞬時(○)および定常状態(●)のgj対Vjのプロットの概要。左図、5つの対からの準対称的な関係;実線、ボルツマンフィッティング: 負/正のVjについて、Vj,0=-70/65mV、gj,min=0.29/0.34、gj,max=0.99/1.00、z=2.2/2.3。右図、6つの対からの非照的な関係;負のVjでのボルツマンフィッティング: Vj,0=-72mV、gj,min=0.25、gj,max=0.99、z=1.5。 図11Dは、hMSC対の間のギャップ結合の巨視的特性および単一チャネルの特性を示す図である。hMSCの対からの単一チャネルの記録。パルスプロトコール(V1およびV2)、およびVjを±80mVに維持した間の細胞対から記録した、関連するマルチチャネル電流(I2)。別々の電流の段階は、単一チャネルの開口および閉鎖を示す。破線: 電流レベルゼロ。右手側の全ての点の電流ヒストグラムは、約50pSのコンダクタンスを示す。 図11Eは、hMSC対の間のギャップ結合の巨視的特性および単一チャネルの特性を示す図である。hMSCの対からの単一チャネルの記録。パルスプロトコール(V1およびV2)、およびVjを±80mVに維持した間の細胞対から記録した、関連するマルチチャネル電流(I2)。別々の電流の段階は、単一チャネルの開口および閉鎖を示す。破線: 電流レベルゼロ。右手側の全ての点の電流ヒストグラムは、約50pSのコンダクタンスを示す。
【図12】図12Aは、hMSCとCx40、Cx43またはCx45のみを発現するHeLa細胞との間における細胞対の接合部の巨視的な特性を示す図である。全ての場合において、hMSCのHeLa細胞との共役を、同時培養開始6から12時間後に試験した。hMSC-HeLaCx43対において、一連の5秒電位段階(Vj)に応答して誘発されたIj。上、対称的な電流の非活性化;下、非対称的な電流の電位依存性。 図12Bは、hMSCとCx40、Cx43またはCx45のみを発現するHeLa細胞との間における細胞対の接合部の巨視的な特性を示す図である。全ての場合において、hMSCのHeLa細胞との共役を、同時培養開始6から12時間後に試験した。hMSC-HeLaCx40対からの巨視的なIjの記録は、対称的(上図)および非対称的(下図)な電位依存性の非活性化を示す。 図12Cは、hMSCとCx40、Cx43またはCx45のみを発現するHeLa細胞との間における細胞対の接合部の巨視的な特性を示す図である。全ての場合において、hMSCのHeLa細胞との共役を、同時培養開始6から12時間後に試験した。Cx45側が比較的負である場合、hMSC-HeLaCx43対からの非対称的なIjは、電位依存性のゲーティングを示す。hMSCから記録したIj。 図12Dは、hMSCとCx40、Cx43またはCx45のみを発現するHeLa細胞との間における細胞対の接合部の巨視的な特性を示す図である。全ての場合において、hMSCのHeLa細胞との共役を、同時培養開始6から12時間後に試験した。hMSCと形質移入したHeLa細胞との間の対からのgj,ss対Vjのプロット。左図、hMSC-HeLaCx43対、準対称的な関係(●)および非対称的な関係(○);実線および破線は、ボルツマンフィッティングである(詳細は本文を参照)。中央図、hMSC-HeLaCx40対からの対称的な関係(●)および非対称的な関係(○);実線および破線は、ボルツマンフィッティングに対応する(詳細は本文を参照)。右図、hMSC-HeLaCx45細胞対からの非対称的な関係;実線、正のVjでのボルツマンフィッティング(詳細は本文を参照)。 図12Eは、hMSCとCx40、Cx43またはCx45のみを発現するHeLa細胞との間における細胞対の接合部の巨視的な特性を示す図である。全ての場合において、hMSCのHeLa細胞との共役を、同時培養開始6から12時間後に試験した。細胞対における細胞から細胞へのLucifer Yellow(LY)の広がり: hMSCからhMSCへ(上図)、HeLaCx43からhMSCへ(中央図)、およびhMSCからHeLaCx43へ(下図)。全ての場合に、2mM LYを含有するピペットを、全細胞配置の左手側の細胞に付着させた。色素注入12分後に撮影した落射蛍光顕微鏡による顕微鏡写真は、LYの隣接する(右手の)細胞への広がりを示す。同時に測定した接合部のコンダクタンスは、それぞれの対で、約13nS、約16nSおよび約18nSのgjを示した。全ての実験において、Cell Tracker Greenを使用して、hMSCからHeLa細胞、またはHeLa細胞からhMSCを区別した。
【図13】図13Aは、hMSC-イヌ心室細胞対の間のギャップ結合の巨視的特性および単一チャネルの特性を示す図である。筋細胞を12から72時の間に播種し、hMSCと共に6から12時間同時培養してから、共役を測定した。hMSC-イヌ心室細胞対の場合のCx43の局在化。Cx43の大部分が、心室細胞の末端に局在化し、Cx43の少量は、外側の境界に沿って存在した。強力なCx43の染色が、桿状の心室細胞(中央の細胞)の末端とhMSC(右の細胞)の間に検出された。左側では、心室細胞とhMSCとの間には、Cx43の染色は検出されていない。 図13Bは、hMSC-イヌ心室細胞対の間のギャップ結合の巨視的特性および単一チャネルの特性を示す図である。筋細胞を12から72時の間に播種し、hMSCと共に6から12時間同時培養してから、共役を測定した。上、hMSC-イヌ心室筋細胞対の位相差顕微鏡写真。下、単極パルスプロトコール(V1およびV2)および非対称的な電位依存性を示す関連する巨視的な接合部の電流(I2)。 図13Cは、hMSC-イヌ心室細胞対の間のギャップ結合の巨視的特性および単一チャネルの特性を示す図である。筋細胞を12から72時の間に播種し、hMSCと共に6から12時間同時培養してから、共役を測定した。上、対称的な二相性の60mVパルスによって誘発されたマルチチャネル電流。破線、電流レベルゼロ。点線、チャネルの開口および閉鎖を示す別々の電流の段階を示す。電流ヒストグラムは、約40から50pSのコンダクタンスを生じた。下、Vjを60mVに維持した間のマルチチャネルの記録。電流ヒストグラムは、48〜64pSのいくつかのコンダクタンスを示し、84pSから99pSのコンダクタンスを有する現象(矢印)を伴い、これは、Cx43チャネル、ヘテロタイプCx40-Cx43チャネルおよび/またはホモタイプCx40チャネルの動作に類似する。
【図14】図14左図は、新生仔ラット心室筋細胞で発現させた場合のmHCN2チャネルとキメラのmHCN212チャネルとのゲーティング動態の比較を示す図である。mHCN2チャネル(中が黒い四角)およびキメラのmHCN212チャネル(中が黒い丸)を使用した結果を示す。X軸上に示す電位に対する過分極化試験電位について、電流の記録(初期の遅延を取り除いた)の早期の部分を単一指数関数に当てはめることによって決定した活性化の動態。 図14右図は、新生仔ラット心室筋細胞で発現させた場合のmHCN2チャネルとキメラのmHCN212チャネルとのゲーティング動態の比較を示す図である。mHCN2チャネル(中が黒い四角)およびキメラのmHCN212チャネル(中が黒い丸)を使用した結果を示す。チャネルを完全に活性化するための負の電位への前パルスに続く、脱分極化試験電位から示した電位までの電流の記録を当てはめることによって決定した非活性化の動態。各場合について、単一指数関数のフィッティングの時定数を、y軸に上にプロットすると、全ての電位で、mHCN212は、mHCN2に比較してより迅速な動態を示している。
【図15】図15左図は、新生仔ラット心室筋細胞におけるmHCN2チャネルとキメラのmHCN212チャネルとの発現効率の比較を示す図である。チャネルを最大に活性化する負の電位までの段階で発現した電流の平均電流密度。 図15右図は、新生仔ラット心室筋細胞におけるmHCN2チャネルとキメラのmHCN212チャネルとの発現効率の比較を示す図である。活性化の電位依存性のプロット。
【図16】筋細胞と幹細胞とで発現させたmHCN212の特徴の比較を示す図である。新生仔ラット心室筋細胞およびヒト成体間葉系幹細胞におけるマウスHCN212の発現から発生する電流を測定した。左、活性化の電位依存性;右、活性化の動態。
【図17】図17Aは、卵母細胞で発現させた野生型mHCN2およびmHCN212の特性を示す図である。定常状態の活性化曲線を示す。 図17Bは、卵母細胞で発現させた野生型mHCN2およびmHCN212の特性を示す図である。活性化の動態を示す。 図17Cは、卵母細胞で発現させた野生型mHCN2およびmHCN212の特性を示す図である。cAMPによる調節を示す。
【図18】成体ヒト間葉系幹細胞で発現させた場合のmHCN2チャネルとキメラのmHCN212チャネルとのゲーティングの特徴の比較を示す図である。左図。mHCN212(中が黒い丸)の場合、HCN2(中が黒い四角)と比較して、活性化の電位依存性が、顕著に正にシフトしている。右図。mHCN212の場合、HCN2と比較して、活性化の動態が、いずれの測定電位においても顕著に迅速である。
【図19】図19Aは、生物学的-電気的タンデム型ペースメーカーと電気的のみのペースメーカーとの性能の比較を示す図である。食塩水を注入し、かつ電気的ペースメーカーを埋め込んだ心臓、または電気的ペースメーカーと併行してmHCN2を注入した心臓で生じた電気的にペーシングした拍動の割合。両群で、電気的ペースメーカーを、VVI 45bpmに設定した。14日間を通して、電気的に開始した拍動の数は、各時点で比較すると、HCN2注入群よりも食塩水注入群の方が多かった(P<0.05)。 図19Bは、生物学的-電気的タンデム型ペースメーカーと電気的のみのペースメーカーとの性能の比較を示す図である。食塩注入群、mHCN2注入群またはmE324A注入群の第1〜7日および第8〜14日にわたる平均基礎心拍数。後者2群の速度は、食塩群よりも有意に速かった(P<0.05)。
【図20】タンデム型ユニットの生物学的なペースメーカー構成成分と電気的なペースメーカー構成成分との間の相互作用の代表的な記録を示す図である。この動物は、mHCN2を投与されていた。生物学的ペースメーカー活動から電気的ペースメーカー活動への移行、および電気的ペースメーカー活動から生物学的ペースメーカー活動への移行が滑らかである。
【図21】図21Aは、生物学的-電気的タンデム型ペースメーカーおよび電気的のみのペースメーカーへのエピネフリン注入の効果を示す図である。第14日に、1.0、1.5および2.0μg/kg/分のIV注入を、非電気的に誘発したペースメーカー速度の50%の増加または不整脈が発生するまで、あるいは2μg/kg/分の最大用量を10分間投与した。3匹の代表的な動物における、エピネフリン1μg/kg/分のECG上での効果。mE324A投与動物での速度増加が最大であることに注目されたい。 図21Bは、生物学的-電気的タンデム型ペースメーカーおよび電気的のみのペースメーカーへのエピネフリン注入の効果を示す図である。第14日に、1.0、1.5および2.0μg/kg/分のIV注入を、非電気的に誘発したペースメーカー速度の50%の増加または不整脈が発生するまで、あるいは2μg/kg/分の最大用量を10分間投与した。心室固有のペースメーカー機能の結果生じた心拍数の50%増加を、灰色で示す。食塩水群では、全動物が、最高用量で、<50%の増加(75%の動物)または不整脈(25%の動物)のいずれかを示して、プロトコールが終止した。mHCN2群では、50%の動物が、50%未満の速度増加を示した。1匹の動物では、最高用量に達したので、注入を止め、2匹の動物では、心室性不整脈が発生した。その他の50%のうち、1匹は、最低のエピネフリンの用量で、50%の速度増加を達成し、その他の2匹は、1.5または2μg/kg/分を必要とした。対照的に、mE324A群では、100%が、最低のエピネフリンの用量で、50%の速度増加を達成し、不整脈はみられなかった。
【図22】ラット筋細胞に提供したアデノウイルスベクター中のmHCN2とキメラのHCN212との比較を示す図である。mHCN212は、HCN2よりも高い基礎信号の発生頻度、および負である度合いが低い最大拡張期電位を示した。
【図23】新生仔ラット筋細胞におけるmHCN2およびHCN212の自律的な応答性を示す図である。mHCN212は、イソプロテレノール(βアドレナリン作動性受容体アゴニスト)への暴露後の信号の発生頻度の増加によって実証される自律的な応答性を示す。
【図24】図24Aは、ヒト間葉系幹細胞におけるmHCN212の発現を示す図である。hMSCが、mHCN212と同時発現させたGFPを発現していることを示す。GFPが、スライド中にみられる。 図24Bは、ヒト間葉系幹細胞におけるmHCN212の発現を示す図である。電位プロトコール後に、電位を細胞に適用した。 図24Cは、ヒト間葉系幹細胞におけるmHCN212の発現を示す図である。予想されるように、電流応答がセシウムによって遮断されたことを示す。
【図25】図25Aは、ヒト間葉系幹細胞(MSC)において発現したmHCN212の活性化を示す図である。電流量が、適用した電位の量によって変化することを示す。 図25Bは、ヒト間葉系幹細胞(MSC)において発現したmHCN212の活性化を示す図である。適用した電位と発生した電流との関係を示す。
【図26】ヒト間葉系幹細胞において発現したmHCN212のcAMPによる調節を示す図である。所与の電位で、cAMPは、電流応答を増加させる。電位依存性の正のシフトが、cAMPの存在下でみられ、これは、良好な自律的な応答性を示す。
【図27】ヒト間葉系幹細胞におけるmHCN212の発現は、mHCN2よりも高い電流密度を提供することを示す図である。「n」は、試験した細胞の数に等しい。
【図28】生物学的ペースメーカーの特徴を示す図である。mHCN2およびmHCN212は、電流密度を発現する(それぞれ、パネルAおよびB)。パネルCは、適用した電位に応答して、mHCN212は、mHCN2よりも正の電流応答を有することを示す。パネルDおよびEは、動態を示し、HCN212は、HCN2よりも迅速な動態を有することを実証する。
【図29】HCN2を発現するhMSCが、ペースメーカー電流を提供して、植込み後第12〜14日までに、安定な心臓の拍動速度を発生させることをを示す図である。HCN2を積んだhMSCの数が増加するにつれて、速度も増加する。約500,000個超のhMSCで、定常状態に達する。
【図30】電気的ペースメーカーが誘発した拍動の割合が、植込み後第12〜14日では、hMSCによる生物学的ペースメーカーの関数として減少したことをを示す図である。イヌに、HCN2を発現するhMSCを移植した。心拍数が、35bpmを下回ると、電気的ペースメーカーが発火するように設定した。図に示すように、mHCN2を発現するように操作した約7,000,000個のhMSCを含む生物学的ペースメーカーを移植すると、電気的ペースメーカーが誘発した拍動の数は減少した。
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する発明は、米国国立保健研究所からのNIH助成金第HL-28958号、第HL-20558号および第HL-67101号による米国政府の支援を受けて実施された。したがって、米国政府は、本発明の特定の権利を有する。
【0002】
本出願は、全内容が参照によって本明細書に組み入れられている2005年7月21日出願の米国仮特許出願第60/701312号;2006年3月14日出願の同第60/781723号;および2005年9月9日出願の同第60/715934号の利益を主張する。
【0003】
本出願全体にわたり、種々の出版物を参照し、それらの著者名および日付、特許番号または特許公開番号を括弧内に示す。これらの出版物を、明細書の末尾に、全て列挙する。これらの出版物の全開示が、参照によって本出願に組み入れられている。しかし、本明細書への参考文献の引用を、そのような参考文献が本発明の先行技術であると認めるものであると解釈してはならない。
【0004】
本発明は、HCNチャネルならびにその変異体およびキメラの発現に基づく生物学的ペースメーカーを含むタンデム型心臓ペースメーカーシステムの作製および使用、さらに、生物学的ペースメーカーの電気的ペースメーカーと併行しての使用に関する。
【背景技術】
【0005】
哺乳動物の心臓は、筋原性の起源の律動を発生させる。心臓の律動を発生させるのに必要である全てのチャネルおよび輸送体は、筋細胞に存在する。これらの要素が局所的に大量に存在することおよびこれらの特徴は、律動が、特異的な解剖学的部位、すなわち、洞房結節から起こることを示す。洞房結節は、わずか数千個の電気的に活性のペースメーカー細胞からなり、この細胞が律動性の活動電位を自発的に発生させ、次いで、この活動電位が伝播して、心房および心室の協調した筋収縮を誘発する。律動は、自律神経系によって調節されるが、自律神経系によっては開始されない。
【0006】
ペースメーカー細胞の機能障害または損失が、疾患または加齢によって生じる。例えば、急性心筋梗塞により、毎年数百万人が死亡し、生存者においては、一般的に筋細胞数および心臓のポンプ機能の著しい低下を誘発する。成体の心筋細胞は、ごく稀にしか分裂せず、筋細胞の損失に対する通常の応答として、代償性肥大および/またはうっ血性心不全が含まれ、うっ血性心不全は、顕著な年間死亡率を有する。
【0007】
電気的ペースメーカーは、洞房結節、房室性の伝導またはその両方が停止した状況下で、規則的な心拍を提供する救命デバイスである。また、電気的ペースメーカーは、うっ血性心不全の治療にも適応している。電気的ペースメーカー療法の主要な適応症の1つに、正常に機能する洞房結節のインパルスが、心室に伝播できないような高度心ブロックがある。その結果、心室停止および/または細動、そして死に至る。電気的ペースメーカー療法の別の主要な適応症として、洞房結節の機能障害があり、この場合、洞房結節が正常な心拍を開始できず、それによって、心拍出量が損なわれる。
【特許文献1】米国仮特許出願第60/701312号
【特許文献2】米国仮特許出願第60/781723号
【特許文献3】米国仮特許出願第60/715934号
【特許文献4】米国特許第6849611号
【特許文献5】米国特許第6783979号
【特許文献6】仮特許出願第60/ 号(未付与)、標題「Use of late passage mesenchymal(MSCs)for treatment of cardiac disorders」、2006年7月21日出願
【特許文献7】米国特許第6110161号
【特許文献8】PCT国際公開第WO 2005/062857号
【特許文献9】米国仮特許出願第60/704210号
【特許文献10】米国特許出願第10/745943号
【特許文献11】米国出願第11/ 号(未付与)、標題「A Biological Bypass Bridge with Sodium Channels, Calcium Channels and/or Potassium Channels to Compensate for Conduction Block in the Heart」、2006年7月21日出願
【特許文献12】米国特許第5983138号
【特許文献13】米国特許第5318597号
【特許文献14】米国特許第5376106号
【非特許文献1】Ausubelら、section 2.9、supplement 27(1994)
【非特許文献2】SmithおよびWaterman、Adv. Appl. Math. 2: 482頁(1981)
【非特許文献3】NeedlemanおよびWunsch、J. Mol. Biol. 48: 443頁(1970)
【非特許文献4】PearsonおよびLipman、Proc. Natl. Acad. Sci. 85: 2444頁(1988)
【非特許文献5】HigginsおよびSharp、Gene 73: 237〜244頁(1988)
【非特許文献6】HigginsおよびSharp、CABIOS 5: 151〜153頁(1989)
【非特許文献7】Corpetら、Nucleic Acids Research 16: 10881〜90頁(1988)
【非特許文献8】Huangら、「Computer Applications in the Biosciences 8」、155〜65頁(1992)
【非特許文献9】Pearsonら、「Methods in Molecular Biology 24」: 307〜331頁(1994)
【非特許文献10】「Current Protocols in Molecular Biology、Chapter 19」、Ausubelら編、Greene Publishing and Wiley-Interscience、New York(1995)
【非特許文献11】Altschulら、J. Mol. Biol., 215: 403〜410頁(1990)
【非特許文献12】Altschulら、Nucleic Acids Res. 25: 3389〜3402頁(1997)
【非特許文献13】HenikoffおよびHenikoff(1989)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915頁
【非特許文献14】KarlinおよびAltschul、Proc. Nat'l. Acad Sci. USA 90: 5873〜5877頁(1993)
【非特許文献15】WootenおよびFederhen、Comput. Chem.、17: 149〜163頁(1993)
【非特許文献16】ClaverieおよびStates、Comput. Chem.、17: 191〜201頁(1993)
【非特許文献17】HigginsおよびSharp(1989)CABIOS. 5: 151〜153頁
【非特許文献18】「the Guide for the Care and Use of Laboratory Animals」、NIH Publication No. 85-23、改訂1996年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電気的ペースメーカーは、心ブロックおよび/または洞房結節の機能障害の治療において有用であるにもかかわらず、特定の欠点を有する(Rosenら、2004年;Rosen、2005年;Cohenら、2005年)。例えば、電気的ペースメーカーは、定期的なモニターおよび整備が必要であり、それらには、パルス発生装置を周期的に変えることならびに電池およびリードの交換が含まれる。電気的ペースメーカーは、(運動中の心拍数の変化を容易にするようにソフトウエアが開発されているにもかかわらず)運動および情動の要求に容易に応答しない。最近の証拠は、長期のペーシングが、心不全の危険を高める恐れがあることを示唆している(Freudenbergerら、2005年)。小児科の患者の場合、電源パックおよびリードの品ぞろえが、成長および発育の要求に適応するのに必要である。心拍出量を様々な程度で損なう恐れがあり、リードを安定して埋め込むことができる部位に制限がある。感染症を伴う問題が起きる恐れがあり、稀ではあるが、破局的になる場合がある。電気的ペースメーカーは、高価である。さらに、その他のデバイスからの干渉の恐れがある。したがって、電気的ペースメーカーは、素晴らしい医学的緩和の典型である一方、治癒にはならない(Rosenら、2004年)。したがって、正常機能を、例えば、自律的な応答性を示すことによって、より完全に再生し、究極的に治癒をもたらす別法の開発が望まれている(Rosenら、2004年)。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(1)電気的ペースメーカーと、(2)生物学的ペースメーカーとを含むタンデム型ペースメーカーシステムを提供し、生物学的ペースメーカーは、過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN: hyperpolarization-activated, cyclic nucleotide-gated)イオンチャネルを機能的に発現する移植可能な細胞を含み、かつ細胞を対象の心臓に移植した場合、発現したHCNチャネルが、有効なペースメーカー電流を発生させる。細胞は、好ましくは、心筋細胞とのギャップ結合を介した伝達が可能であり、幹細胞、心筋細胞、心臓のコネキシンを発現するように操作された繊維芽細胞または骨格筋細胞、および内皮細胞からなる群から選択される。好ましい実施形態では、幹細胞は、胚性幹細胞または成体幹細胞であり、かつ当該幹細胞は、実質的に分化できない。
【0010】
特定の実施形態では、生物学的ペースメーカーは、少なくとも約200,000個のヒト成体間葉系幹細胞を含み、好ましくは、少なくとも約700,000個のヒト成体間葉系幹細胞を含む。
【0011】
HCNチャネルは、HCN1、HCN2、HCN3またはHCN4であり、好ましくはヒトのHCN1、HCN2、HCN3またはHCN4であり、あるいはHCNチャネルは、mHCN1、mHCN2、mHCN3またはmHCN4と少なくとも約75%の配列同一性を有する。移植可能な細胞は、MiRP1ベータサブユニットをさらに機能的に発現することができる。
【0012】
HCNは、変異型HCNであることができる。好ましくは、変異型HCNは、改善された特徴を提供し、それらの特徴は、野生型HCNチャネルと比較して、より迅速な動態、より正の活性化、増加した発現、向上した安定性、増強されたcAMP応答性および増強された神経液性応答から選択される。
【0013】
また、本発明は、(1)電気的ペースメーカーと、(2)第1末端および第2末端を有するギャップ結合連結細胞の条片を含むバイパスブリッジとを含むタンデム型ペースメーカーシステムも提供し、両末端は、心臓の2つの選択された部位に付着することができ、その結果、心臓の2つの部位の間の経路を横断しての電気信号の伝達が可能となる。好ましくは、バイパスブリッジは、房室性のバイパスブリッジである。好ましい実施形態では、細胞は、本発明の生物学的ペースメーカーの移植可能な細胞に関して記載された細胞である。
【0014】
特定の実施形態では、バイパスブリッジの細胞は、心臓のコネキシン;L型カルシウムチャネルのアルファサブユニットおよびアクセサリーサブユニット;ナトリウムチャネルのアルファサブユニットで、アクセサリーサブユニットを有するまたは有しないもの;ならびにカリウムチャネルのアクセサリーサブユニットを有するまたは有しない、カリウムチャネルのアルファサブユニットと組み合わせたL型カルシウムチャネルおよび/またはナトリウムチャネルからなる群から選択された少なくとも1種のタンパク質を機能的に発現する。
【0015】
さらに、本発明は、(1)電気的ペースメーカーと、(2)HCNチャネルまたは変異型HCNチャネルをコードする核酸を含むベクターとを含むタンデム型ペースメーカーシステムも提供し、このベクターを、対象の心臓の細胞に投与し、かつHCNチャネルまたは変異型HCNチャネルを、心臓の細胞内で発現させて、有効なペースメーカー電流を発生させる。
【0016】
また、本発明は、心律動障害に罹患した対象を治療する方法も提供し、この方法は、本発明のタンデム型ペースメーカーシステムを投与するステップを含む。
【0017】
また、本発明は、心室同期不全に罹患した対象を治療するためのタンデム型ペースメーカーシステムも提供し、このタンデム型ペースメーカーシステムは、(1)対象の心臓の一方の心室内のある部位に投与するための本発明の生物学的ペースメーカーと、(2)対象の心臓の他方の心室内のある部位に投与するための電気的ペースメーカーとを含み、電気的ペースメーカーは、生物学的ペースメーカーからの信号を検出し、生物学的ペースメーカーからの信号を検出した後、基準の時間間隔で電気的ペースメーカー信号を出力するようにプログラム可能であり、それによって、両室性のペースメーカー機能を提供し、かつ電気的ペースメーカーを、生物学的ペースメーカーに先立ってまたは生物学的ペースメーカーと同時に提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、(MiRP1遺伝子またはその変異体を伴うあるいはMiRP1遺伝子またはその変異体を伴わない)野生型、変異型およびキメラのHCN遺伝子の発現に基づく望ましい臨床上の特徴を有する生物学的ペースメーカーの生成、ならびに細胞のバイパス経路の生成に関する。さらに、本発明は、電気的ペースメーカーと併行しての、これらの生物学的ペースメーカーおよび/またはバイパス経路の使用にも関し、単独で使用する生物学的ペースメーカーまたは電気的ペースメーカーを用いた治療法と比較して、心臓の状態のより有効な治療法を生み出すことを目的とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
生物学的ペースメーカー
「生物学的ペースメーカー」とは、HCNイオンチャネル遺伝子等の遺伝子を発現するまたは遺伝子の発現を起こすことができる細胞等の生物学的材料を意味するものとし、この生物学的材料の心臓への導入により、心臓において有効な生物学的ペースメーカーの活動を発生させる。「生物学的ペースメーカーの活動」とは、生物学的材料の細胞または細胞を含む合胞体構造への導入に由来する活動電位の律動的な発生を意味するものとする。「合胞体」または「合胞体構造」とは、成分細胞間にギャップ結合を介した連続性が存在する組織を意味するものとする。「細胞内で電流を誘発するまたは発生させる」とは、細胞に電気的な流れを引き起こさせることを意味するものとする。「イオンチャネル」とは、ポリペプチドまたはポリペプチドの組合せによって生み出された細胞膜中の道を意味するものとし、このポリペプチドは、細胞膜に局在化し、膜を越えるイオンの移動を容易にし、それによって、膜を貫通する電気の流れを発生させる。「イオンチャネル遺伝子」とは、イオンチャネルのサブユニット、あるいはイオンチャネルの2つ以上のサブユニットまたはイオンチャネル全体をコードするポリヌクレオチドを意味するものとする。「ペースメーカー電流」とは、生物学的材料または電気的デバイスが発生させる律動的な電気の流れを意味するものとする。
【0020】
治療上の解決法として、生物学的ペースメーカーを使用して、心臓に移植した部位から起こる自発的な拍動速度を生理学的に許容される範囲で発生させることができる。「拍動速度」とは、(1)心臓/心筋もしくはその一部の収縮速度、または細胞単位の所与の期間にわたる個々の筋細胞の1回または複数の収縮(例えば、1分あたりの収縮または拍動の回数)、あるいは(2)細胞単位の所与の期間にわたる1つまたは複数の電気的パルスの出力速度を意味するものとする。これは、正常に自発的であるが、発火が緩慢過ぎる心臓細胞の部位の速度を増加させる、または正常に静止した状態の領域において自発的な活動を開始させるのいずれかによって達成することができる。自然の生物学的ペースメーカーによるそのような活動電位の開始は、多数のイオンチャネルと輸送体との間のバランスに依存し、それらの多くはホルモンによって調節されていることから、生物学的ペースメーカーを生み出すにはいくつかの可能なアプローチが存在する。
【0021】
このようなアプローチとして、これらに限定されないが、β2アドレナリン作動性受容体を過剰発現させて、内因性の心房の速度を増加させるアプローチ(Edelbergら、1998年;2001年)、ドミナントネガティブKir2.1AAA構築物を、野生型Kir2.1遺伝子と一緒に発現させて、内向き整流性電流IK1を抑制するアプローチ(Miakeら、2002年: 2003年)、HCN2チャネルを過剰発現させて、過分極活性化内向きペースメーカー電流(If)、したがって、活動電位開始速度を増加させるアプローチ(Quら、2003年;Plotnikovら、2004年;Potapovaら、2004年)、および胚性幹細胞または間葉系幹細胞から新しいペースメーカー細胞を生み出すアプローチ(Kehatら、2004年;Xueら、2005年)が挙げられる。これらのアプローチでは、正常な心臓の自然のペースメーカーの機能の基本的な決定要因を操作することを探索している。すなわち、交感神経性のインプットを増加させる、再分極化電流を減少させる、および/または拡張期に脱分極化電流を増加させる、いずれかの介入によって、活動電位開始速度が増加するはずである(Bielら、2002年)。これらの目標を達成するために使用する方法では、ウイルス感染または裸のプラスミドの形質移入を介して遺伝子を導入する(Edelbergら、1998年;2001年)か、自然の遺伝子の総数を組み入れている胚性幹細胞(Kehatら、2004年)またはペースメーカー遺伝子を保有するプラットフォームとして操作された成体間葉系幹細胞(MSC)(Potapovaら、2004年)を使用することになっている。後者のアプローチの背後にある原理を、図1に示す(ヒト成体間葉系幹細胞を操作して、この細胞の膜内にHCNチャネルを発現させ、その結果、当該細胞は、活動電位を開始し、ギャップ結合を介して共役筋細胞に伝播することが可能になった)。また、非心臓細胞におけるペースメーカー活動電位の再生および/または非心臓細胞と心臓細胞との融合体の誘導も、最近試みられている(Choら、2005年)。
【0022】
生物学的ペースメーカーの戦略を選択するにあたっては、催不整脈の可能性を考慮しなければならない。理想的なアプローチとは、望ましくない副作用を有しない自発的な活動を生み出すまたは増強するものであろう。この点では、βアドレナリン作動性受容体の上方制御による自律的な応答性の増強には、特異性の問題がある。というのは、交感神経性の傾向の増加は、単一のイオン電流に特異的でないからである。特異的なイオン電流を標的にする場合、過分極化内向き整流性電流IK1を減少させる、または内向きペースメーカー電流Ifを増強するのいずれかによって、正味の内向き電流が、ペースメーカーの範囲の電位で増加する。しかし、IK1は、終末の再分極にも寄与し、その下方制御の結果、長期の活動電位が生じ(Miakeら、2002年)、これによって、不整脈が伴う可能性がある。対照的に、Ifは、拡張期の電位でのみ流れるので、活動電位の長さに影響しないはずである。したがって、Ifは、魅力的な分子標的であり、生物学的ペースメーカーの開発に好ましい。
【0023】
以前の研究は、ペースメーカー電流(「If」)の原因である過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN: hyperpolarization-activated, cyclic nucleotide-gated)アイソフォームに、2つの理由で焦点を当てている(Bielら、2002年)。すなわち、第1に、HCNイオン電流チャネルは、哺乳動物の心臓でペースメーカー活動を開始させ、第2に、これらのチャネルの活性化は、カテコールアミンによって増加し、アセチルコリンによって緩慢になるので、これらのチャネルは自律的に応答する。自律的な応答性は、明らかに心臓におけるペースメーカー活動の礎石であるはずであるが、これを欠くことは、電気的ペースメーカーの重要な欠点である。
【0024】
過分極活性化カチオン電流は、If、IhまたはIqと呼ばれ、20年以上前に初めて心臓細胞および神経細胞で発見された(総説として、DiFrancesco、1993年;Pape、1996年を参照)。これらの電流は、Na+イオンまたはK+イオンによって運ばれ、心臓および神経のペースメーカーの活動、静止電位の設定、入力コンダクタンスおよび長さ定数、ならびに樹状突起の統合を含む、広範な生理機能に寄与する(RobinsonおよびSiegelbaum、2003年;Bielら、2002年を参照)。HCN遺伝子ファミリーは、電流の基礎になるチャネルをコードし、チャネルの分子成分は、心拍数を調節するための自然の標的となる。イオンチャネルのサブユニットのHCNファミリーが、分子クローニングによって同定されており(総説として、Clapham、1998年;SantoroおよびTibbs、1999年;Bielら、2002年)、非相同的に発現させると、4種の異なるHCNアイソフォーム(HCN1、HCN2、HCN3およびHCN4)のそれぞれが、自然のIfの主要な特性を有するチャネルを生成することから、HCNチャネルがこの電流に関係がある分子であることが確認される。
【0025】
異なるHCNアイソフォームは、特徴的な生物物理学的な特性を示す。例えば、アフリカツメガエル卵母細胞からの無細胞パッチにおいて、HCN2チャネルの定常状態の活性化曲線は、HCN1チャネルの定常状態の活性化曲線と比べ、20mVより過分極している。また、カルボキシ末端環状ヌクレオチド結合ドメイン(CNBD)へのcAMPの結合が、HCN2の活性化曲線をより正の電位へ17mV顕著にシフトさせるが、HCN1の応答は、それよりはるかに程度が低い(4mVのシフト)。
【0026】
したがって、本発明は、(1)電気的ペースメーカーと、(2)生物学的ペースメーカーとを含むタンデム型ペースメーカーシステムを提供し、生物学的ペースメーカーは移植可能な細胞を含み、当該細胞を対象の心臓に移植すると、当該細胞は、過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)イオンチャネルを、当該細胞内でペースメーカー電流を誘発するのに有効なレベルで、機能的に発現する。核酸を「機能的に発現する」とは、当該核酸がコードする機能性ポリペプチドの産生が可能であるように核酸を細胞に導入し、それによって、当該の機能性ポリペプチドを産生することを意味するものとする。また、コードされるポリペプチド自体についても、機能的に発現するという。
【0027】
「HCNチャネル」とは、過分極活性化カチオン電流の原因である過分極活性化環状ヌクレオチド依存性イオンチャネルを意味するものとし、この電流は、cAMPによって直接制御され、心臓および脳におけるペースメーカーの活動に寄与する。HCN1、HCN2、HCN3およびHCN4の4種のHCNアイソフォームが存在する。4種のアイソフォームの全てが、脳で発現する。また、HCN1、HCN2およびHCN4は、心臓でも顕著に発現し、HCN4およびHCN1は、洞房結節で優勢であり、HCN2は、心室特異的伝導系で優勢である。「mHCN」は、マウス(murineまたはmouse)のHCNを示し、「hHCN」は、ヒトのHCNを示す。HCNチャネルは、生物学的ペースメーカー活動を誘発することができるならば、いずれのHCNチャネルであってもよい。心臓または心臓の選択された部位において「生物学的ペースメーカー活動を誘発する」とは、心臓またはその部位に活動電位を律動的に発生させることを意味するものとする。
【0028】
HCNチャネルとして、これらに限定されないが、(ヒトおよびその他の種から)自然に発生するHCNチャネル、キメラのHCNチャネル、変異型HCNチャネルおよびキメラ-変異型HCNチャネルが挙げられ、これらを、以下に記載する。
【0029】
HCNチャネルを有する生物学的ペースメーカー
米国特許第6849611号は、対象に投与するHCNイオンチャネル含有組成物を教示しており、この組成物は、洞房結節の活動が異常な場合の活動電位を開始する部位として機能する、したがって、洞房結節の欠損に取って代わる生物学的ペースメーカーとして作用する。米国特許第6783979号は、HCNイオンチャネルをコードする核酸を含むベクターを教示しており、このベクターを心臓組織に適用して、心臓の生体組織にイオン電流を提供することができる。そのようなベクターを適切に投与すると、HCNチャネルの発現を提供して、次いで、生物学的ペースメーカーとして作用する電流を発生させることができる。上記の特許の全内容が、参照によって本明細書に組み入れられている。また、MiRP1と組み合わせたHCN遺伝子の発現に基づく生物学的ペースメーカーも、米国特許第6783979号に記載されている。HCN2の動態が、HCN4の動態よりも好都合であり、HCN2のcAMP応答性が、HCN1のcAMP応答性よりも優れていることから、生物学的ペースメーカーの活動を発生させる実験は、HCN2に焦点が当てられている。
【0030】
図2は、ペースメーカー電位を開始する場合の、HCNチャネルおよびHCNチャネルが運ぶIf電流の役割を理解するための開始点を提供する。手短にいうと、第4相の脱分極は、細胞膜の過分極時に活性化された内向きナトリウム電流によって開始され、その他の4種の主要な電流によって継続および維持される(Bielら、2002年)。それらの主要な電流は、カルシウムチャネルおよびナトリウム/カルシウム交換体が運ぶ内向き電流とカリウムが運ぶ外向き電流との間のバランスを提供する。ペースメーカー電位の活性化は、βアドレナリン作動性のカテコールアミンによって増加し、アセチルコリンによって減少し、これはそれぞれ、Gタンパク質共役受容体およびアデニル酸シクラーゼ-cAMPセカンドメッセンジャー系を通して行われる。
【0031】
HCN1〜4のアイソフォームをコードする完全長cDNAが、異なる種からクローン化されており、哺乳動物細胞系内で発現させて機能的に特徴付けられている。例えば、マウス脳からのHCN1〜3のクローン化および機能的特徴付けを報告している、Santoroら(1998年)およびLudwigら(1998年);ヒト心臓からのHCN2およびHCN4のクローン化および機能的特徴付けを報告しているLudwigら(1999年);ウサギ心臓からのHCN4のクローン化および機能的特徴付けを報告しているIshiiら(1999年);ラット脳のHCN1〜4のクローン化を報告しているMonteggiaら(2000年);ならびにヒト脳からのHCN3のクローン化および機能的特徴付けを報告しているSteiberら(2005年)を参照。
【0032】
ある種における異なるHCNアイソフォーム間のアミノ酸同一性は、約45〜60%以上であり、違いは、主としてN末端およびC末端の領域において配列同一性が低いことによる。例えば、mHCN1〜3の一次配列は、約60%の全アミノ酸同一性を有し(Ludwigら、1999年)、hHCN3は、その他のhHCNと46〜56%の相同性を有する(Stieberら、2005年)。それに比べ、顕著に高い程度の相同性が、異なる種の同族のアイソフォーム間で観察されている。例えば、Ludwigら(1999年)は、hHCN2のcDNAクローンは、mHCN2クローンと、94%の全配列同一性を有すると報告しており;Stieberら(2005年)は、hHCN3は、mHCN3と94.5%のアミノ酸相同性を有すると報告しており;HCNチャネルに関する総説で、Bielら(2002年)は、個々のHCNチャネルの型の一次配列は、哺乳動物において90%以上の配列同一性を示すことを開示している。
【0033】
表1は、Stieberら(2005年)、補充表S2から改作したものであるが、hHCN3のその他のhHCNとのアミノ酸相同性、およびhHCN3のmHCN3とのアミノ酸相同性を示す。特に目立つのは、膜貫通コアドメインおよび環状ヌクレオチド結合ドメインにおいて、hHCN3配列とmHCN3配列との相同性が100%に近いことである。hHCN3とmHCN3の間で、N末端領域およびC末端領域では、それぞれ81%および91%相同であり、これらは、膜貫通領域およびCNDB領域における相同性の程度よりは低いが、それにしてもhHCN3のN末端とその他のhHCNのアイソフォームのN末端領域との間の22〜35%の相同性、C末端領域の17〜27%の相同性、およびhHCN3とその他のhHCNのアイソフォームとの間の46〜56%の全体的な相同性よりは、相当に高い。
【0034】
これらの相同性のデータは、本発明において、異なる種からの同族のHCNのアイソフォームを効果的に代用することができることを示唆する。例えば、hHCN2をmHCN2の代わりに、またはhHCN2の一部を、mHCN2の対応する部分の代わりに用いることができる。したがって、本発明では、1つの種、例えば、マウスからのHCN2またはその一部の使用を含む生物学的ペースメーカーまたは方法は、その他の種からのHCN2またはHCN2の対応する部分の使用を包含し、それらの種は、好ましくは、哺乳動物の種であり、これらに限定されないが、ヒト、ラット、イヌ、ウサギまたはモルモットが挙げられる。ペースメーカー信号を発生させるためにmHCN2をイヌに使用し、それによって、種間のアイソフォームの互換性を示した、図29および30、ならびに実施例3および5を参照されたい。同様に、マウスHCN1、HCN3もしくはHCN4またはそれらの一部の使用を含む生物学的ペースメーカーまたは方法は、その他の種、好ましくは、その他の哺乳動物の種からの、HCN1、HCN3もしくはHCN4またはそれらの対応する部分のそれぞれの使用を包含する。
【0035】
より一般的には、特定のHCNのアイソフォームの使用を含む生物学的ペースメーカーまたは方法は、少なくとも75%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、および最も好ましくは少なくとも95%の、そのようなアイソフォームとの全体的な相同性を示すHCNチャネルの使用を包含する。HCNのアイソフォームの一部を含む発明の実施形態では、特定のHCNのアイソフォームのN末端部分の使用は、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%の、そのようなアイソフォームのN末端との相同性を示すHCNチャネルのN末端部分の使用を包含する。その上、特定のHCNのアイソフォームのC末端部分の使用は、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、および最も好ましくは少なくとも90%の、そのようなアイソフォームのC末端との相同性を示すHCNチャネルのC末端部分の使用を包含する。
【0036】
【表1】
【0037】
ペプチド配列間の「相同性」パーセントとは、最大の一致となるようにアライメントさせた場合、ペプチドの等価な位置におけるアミノ酸残基が同一であるまたは機能的に類似する、パーセントで表す程度を意味するものとする。機能的に類似するアミノ酸の例として、グルタミンおよびアスパラギン;セリンおよびスレオニン;ならびにバリン、ロイシンおよびイソロイシンが挙げられる。ペプチド配列間の「アミノ酸同一性」パーセントまたは「配列同一性」パーセントとは、最大の一致となるようにアライメントさせた場合、ペプチドの等価な位置におけるアミノ酸残基が同一である、パーセントで表す程度を意味するものとする。ペプチドの場合、相同性パーセントは、通常配列同一性パーセントよりも高い。核酸の場合、「相同性」パーセントとは、「配列同一性」パーセントと同じであり、最大の一致となるようにアライメントさせた場合、核酸の等価な位置におけるヌクレオチドが同一である、パーセントで表す程度を意味するものとする。
【0038】
本発明の目的のためには、相同性を共有する2つの配列、すなわち、所望のポリヌクレオチドと標的配列とは、6×SSC、0.5% SDS、5×デンハート液および100gの非特異的キャリアーDNAのハイブリダイゼーション溶液中で、それらが二本鎖複合体を形成して、ハイブリダイズすることができる。Ausubelら、section 2.9、supplement 27(1994)を参照。そのような配列は、「中等度のストリンジェンシー」でハイブリダイズすることでき、中等度のストリンジェンシーとは、6×SSC、0.5% SDS、5×デンハート液および100μgの非特異的キャリアーDNAのハイブリダイゼーション溶液中、温度60℃と定義される。「高いストリンジェンシー」のハイブリダイゼーションのためには、温度を68℃まで上げる。中等度のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション反応に続き、ヌクレオチドを、0.05% SDSを加えた2×SSCの溶液中、室温で5回洗浄し、次いで、0.1% SDSを加えた0.1×SSCを用いて、60℃で1時間洗浄する。高いストリンジェンシーでは、洗浄温度を、典型的には、約68度の温度まで上げる。ハイブリダイズしたヌクレオチドは、10,000cpm/ngの特異的な放射活性を有する放射標識したプローブ1ngを使用して検出されたヌクレオチドであることができ、この場合、ハイブリダイズしたヌクレオチドは、-70℃、72時間以下のX線フィルムへの暴露後、明確に目に見える。
【0039】
比較のための配列アライメントの方法は、当技術分野で周知である。比較のための配列の最適アライメントは、SmithおよびWaterman、Adv. Appl. Math. 2: 482頁(1981)の局所的な相同性アルゴリズムによって;NeedlemanおよびWunsch、J. Mol. Biol. 48: 443頁(1970)の相同性アライメントアルゴリズムによって;PearsonおよびLipman、Proc. Natl. Acad. Sci. 85: 2444頁(1988)の類似性を検索する方法によって;ならびにこれらのアルゴリズムをコンピュータ処理の実行によって行うことができる。これらに限定されないが、後者の例として、Intelligenetics(Mountain View、カリフォルニア州)製のPC/Geneプログラム中のCLUSTAL;ならびにGenetics Computer Group(GCG)(575 Science Dr.、Madison、ウィスコンシン州、米国)製のWisconsin Genetics Software Package中のGAP、BESTFIT、BLAST、FASTAおよびTFASTAが挙げられる。CLUSTALプログラムは、HigginsおよびSharp、Gene 73: 237〜244頁(1988);HigginsおよびSharp、CABIOS 5: 151〜153頁(1989);Corpetら、Nucleic Acids Research 16: 10881〜90頁(1988);Huangら、「Computer Applications in the Biosciences 8」、155〜65頁(1992);ならびにPearsonら、「Methods in Molecular Biology 24」: 307〜331頁(1994)によって、十分記載されている。
【0040】
データベース類似性検索のために使用することができるBLASTファミリーのプログラムには、ヌクレオチドのクエリー配列をヌクレオチドのデータベース配列と比較するBLASTN;ヌクレオチドのクエリー配列をタンパク質のデータベース配列と比較するBLSTX;タンパク質のクエリー配列をタンパク質のデータベース配列と比較するBLASTP;タンパク質のクエリー配列をヌクレオチドのデータベース配列と比較するTBLASTN;およびヌクレオチドのクエリー配列をヌクレオチドのデータベース配列と比較するTBLASTXが含まれる。「Current Protocols in Molecular Biology、Chapter 19」、Ausubelら編、Greene Publishing and Wiley-Interscience、New York(1995);Altschulら、J. Mol. Biol., 215: 403〜410頁(1990);およびAltschulら、Nucleic Acids Res. 25: 3389〜3402頁(1997)を参照。
【0041】
BLAST解析を行うためのソフトウエアは、例えば、National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)から一般に公開されている。このアルゴリズムでは、まず、クエリー配列中の長さWの短い単語を同定することによって高いスコアを示す配列の対(HSP)を同定することになる。これらの単語は、データベース配列中の同一の長さの単語とアライメントさせた場合、マッチするか、何らかの正の値の閾値スコアTを満足するかのいずれかである。Tは、近傍単語スコア閾値(neighborhood word score threshold)と呼ばれる。これらの初めの近傍単語のヒットは、それらを含有するより長いHSPを見つける検索を開始するための種として働く。次いで、単語ヒットを、累積アライメントスコアを増加させることができる限り、各配列に沿って両方の方向へ伸長させる。ヌクレオチド配列の場合は、パラメーターM(マッチする残基の対に対するリワードスコア;常に>0)およびパラメーターN(ミスマッチする残基に対するペナルティスコア;常に<0)を使用して、累積スコアを計算する。アミノ酸配列の場合は、スコア行列を使用して、累積スコアを計算する。各方向への単語ヒットの伸長は、累積アライメントスコアが、最大達成値から量Xだけ減少した場合;1つまたは複数の負のスコアを示す残基のアライメントの蓄積により、累積スコアが、ゼロ以下になった場合;あるいはどちらかの配列の末端に達した場合に、停止する。BLASTアルゴリズムのパラメーターであるW、TおよびXによって、アライメントの感度および速度が決まる。(ヌクレオチド配列の場合の)BLASTNプログラムは、デフォルトとして、単語長(W)11、期待値(E)10、カットオフ100、M=5、N=-4および両方の鎖の比較を使用する。アミノ酸配列の場合、BLASTPプログラムは、デフォルトとして、単語長(W)3、期待値(E)10およびBLOSUM62スコアリング行列を使用する(HenikoffおよびHenikoff(1989)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915頁を参照)。
【0042】
配列同一性パーセントの計算に加えて、また、BLASTアルゴリズムは、2つの配列間の類似性の統計解析も行う(例えば、KarlinおよびAltschul、Proc. Nat'l. Acad Sci. USA 90: 5873〜5877頁(1993)を参照)。BLASTアルゴリズムが提供する類似性の1つの尺度として、最小和確率(smallest sum probability)(P(N))があり、これは、2つのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の間のマッチが偶然に生じる確率を示す。
【0043】
BLAST検索は、タンパク質を、ランダム配列として設計できると想定している。しかし、多くの実際のタンパク質は、非ランダム配列の領域を含み、それらは、ホモポリマー配列、短い反復または1種もしくは複数のアミノ酸を多く含む領域である場合がある。無関係なタンパク質間でも、そのような低複雑度の領域をアライメントさせることができるが、それらのタンパク質は、その他の領域では全く異なる。低複雑度をフィルターする多数のプログラムを利用して、そのような低複雑度のアライメントを減少させることができる。例えば、SEG(WootenおよびFederhen、Comput. Chem.、17: 149〜163頁(1993))およびXNU(ClaverieおよびStates、Comput. Chem.、17: 191〜201頁(1993))の低複雑度フィルターを単独または組み合わせて使用することができる。
【0044】
配列の複数のアライメントを、デフォルトパラメーター(GAP PENALTY=10、GAP LENGTH PENALTY=10)を用いてアライメントのCLUSTAL法を使用して行うことができる(HigginsおよびSharp(1989)CABIOS. 5: 151〜153頁)。CLUSTAL法を使用する対でのアライメントためのデフォルトパラメーターは、KTUPLE 1、GAP PENALTY=3、WINDOW=5およびDIAGONALS SAVED=5である。
【0045】
キメラのHCNを有する生物学的ペースメーカー
また、本発明は、移植可能な細胞を含む生物学的ペースメーカーおよび当該生物学的ペースメーカーのタンデム型ペースメーカーシステムにおける使用も提供し、当該細胞を対象の心臓に移植すると、当該細胞は、キメラのHCNを、当該細胞内で有効なペースメーカー電流を発生させるのに有効なレベルで、機能的に発現する。
【0046】
「HCNのキメラ」とは、2種以上の型のHCNチャネルの部分を含むHCNイオンチャネルを意味するものとする。例えば、あるキメラは、HCN1の部分と、HCN2またはHCN3またはHCN4の部分とを含むこと等ができる。その上、イオンチャネルのキメラとは、異なる種に由来するHCNチャネルの部分を含むイオンチャネルも意味するものとする。例えば、チャネルの一部分は、ヒトに由来することができ、別の部分は、非ヒトに由来することができる。
【0047】
「HCNXYZ」(ただし、X、YおよびZは、整数1、2、3または4のいずれか1つであり、X、YおよびZの少なくとも1つは、その他の数の少なくとも1つとは異なる数である)という用語は、XYZの順で近接する3つの部分を含むキメラのHCNチャネルポリペプチドを意味するものとし、Xは、N末端部分であり、Yは、膜内部分であり、Zは、C末端部分であり、かつ数X、YおよびZは、当該部分が由来するHCNチャネルを示す。例えば、HCN112は、HCN1からのN末端部分および膜内部分、ならびにHCN2からのC末端部分を有するHCNのキメラである。
【0048】
Wangら(2001年b)は、HCN1とHCN2との間のキメラを使用して、cAMPの調節作用に関する分子基盤、および2種のチャネルの機能的特性の違いに関する分子基盤を調査した。本発明は、HCNのキメラを産生するために、HCNのアイソフォーム全4種の部分をコードするヌクレオチド配列のin vitro組換えによるHCNチャネルの特性の操作を開示する。実施例4に詳述するように、HCN212等、これらのキメラのうちの特定のものは、心臓障害を治療する場合に、ペースメーカー電流を発生させるのに有利な特徴を示す。
【0049】
一般的にいうと、HCNポリペプチドは、3つの主要なドメイン、すなわち、(1)細胞質側のアミノ末端ドメイン;(2)膜にまたがるドメインおよびそれらを連結する領域;ならびに(3)細胞質側のカルボキシ末端ドメインに分かれる。今日までのところ、N末端ドメインが、チャネルの活性化において主要な役割を担っているという証拠はない(Bielら、2002年)。本明細書に記載するように、膜にまたがるドメインおよびそれらを連結する領域が、ゲーティングの動態の決定において重要な役割を担っており、C末端ドメインのCNBDが、交感神経系および副交感神経系にチャネルが応答する能力の大きな原因である。交感神経系および副交感神経系はそれぞれ、細胞性のcAMPのレベルを上昇および低下させる。当業者であれば、HCNポリペプチドのどのアミノ酸が、アミノ末端ドメイン、膜にまたがるドメイン、それらを連結する領域および細胞質側のカルボキシ末端ドメインを含むかを決定することができるであろう。
【0050】
本発明の好ましい実施形態は、迅速な動態およびcAMPに対する良好な応答性を提供するキメラのHCNチャネルを発現する細胞を含むペースメーカーシステムを提供する。HCN1は、最も迅速な動態を有するが、cAMP応答性が乏しい。HCN2は、動態はより緩慢であるが、良好なcAMP応答性を有する。したがって、HCN1とHCN2とのキメラを実験的に研究した結果、本発明は、これらおよびその他のキメラを発現する細胞を含むペースメーカーシステムを提供する。図3に、HCN1/HCN2のキメラの模式図を示す。
【0051】
本発明の生物学的ペースメーカーのいくつかの実施形態では、HCNのキメラは、アミノ末端部分と膜内部分とカルボキシ末端部分とを含み、これらはこの順で近接しており、各部分は、HCNチャネルの一部またはHCNチャネルの変異体の一部であり、かつ1つの部分は、あるHCNチャネルまたはHCNチャネルの変異体に由来し、これは、少なくとも1つのその他の2つの部分が由来するHCNチャネルまたはHCNチャネルの変異体とは異なる。さらなる実施形態では、HCNのキメラの少なくとも1つの部分が、ある動物種に由来し、これは、少なくとも1つのその他の2つの部分が由来する動物種とは異なる。例えば、チャネルの1つの部分は、ヒトに由来することができ、別の部分は、非ヒトから由来することができる。一実施形態では、膜内部分が、mHCN1のD129-L389である。その他の実施形態では、キメラのポリペプチドは、mHCN112、mHCN212、mHCN312、mHCN412、mHCN114、mHCN214、mHCN314、mHCN414、hHCN112、hHCN212、hHCN312、hHCN412、hHCN114、hHCN214、hHCN314またはhHCN414を含む。
【0052】
異なる実施形態では、HCNのキメラは、mHCN112、mHCN212、mHCN312、mHCN412、mHCN114、mHCN214、mHCN314、mHCN414、hHCN112、hHCN212、hHCN312、hHCN412、hHCN114、hHCN214、hHCN314またはhHCN414である。好ましい実施形態では、HCNのキメラは、hHCN112またはhHCN212である。
【0053】
HCN112キメラ(HCN1のN末端ドメイン、HCN1の膜にまたがるドメインおよびHCN2のC末端ドメインを含有する)は、生物学的なペースメーカーに用いる好ましい候補チャネルである。というのは、これは、適切な、HCN1の膜にまたがるドメイン(迅速な動態を示す)、およびHCN2のC末端ドメイン(良好なcAMP応答性を示す)を含有するからである。図3を参照されたい。また、HCN212も、好ましい候補である。図3を参照されたい。その他の好ましいキメラは、HCN312およびHCN412である。また、HCN4も、緩慢な動態を示すが、cAMP応答性は良好であり、したがって、HCN114、HCN214、HCN314およびHCN414は、望ましいキメラである。
【0054】
3つの広範な機能性ドメインに関してHCNチャネルを上記で定義したが、キメラのチャネルにおけるこれらのドメインの間の境界を設定することができる複数の部位が存在する。また、本発明は、異なって規定された境界を有するドメインを使用して生み出されたHCNのキメラの変異体も包含する。これらの境界も、個々のHCNチャネルの望ましい生物化学的および生物物理的な特徴を組み換えるのに役立つ。
【0055】
好ましい実施形態では、キメラのHCNチャネルは、改善された特徴を提供し、それらの特徴として、野生型HCNチャネルと比較して、これらに限定されないが、より迅速な動態、より正の活性化、増加した発現レベル、向上した安定性、増強されたcAMP応答性および増強された神経液性応答が挙げられる。
【0056】
変異型HCNを有する生物学的ペースメーカー
また、本発明は、移植可能な細胞を含む生物学的ペースメーカーおよび当該生物学的ペースメーカーのタンデム型ペースメーカーシステムにおける使用も提供し、当該細胞を対象に移植すると、当該細胞は、変異型HCNを、当該細胞内で有効なペースメーカー電流を誘発するのに有効なレベルで、機能的に発現する。
【0057】
イオンチャネルの電位活性化について知られていることの大部分は、電位開口型K+(Kv)チャネルの研究からである。HCNチャネルは、Kvチャネルの場合の脱分極の代わりに、膜の過分極に応答して開くが、HCNチャネルは、Kvチャネルに非常に類似した膜貫通トポロジーを有する。これらのイオンチャネルの全てが、4つのサブユニットを有し、各サブユニットは、6つの膜貫通セグメントであるS1〜S6を有する。正に荷電したS4ドメインが、主要な電位センサーを形成し、S5およびS6は、これら2つを連結するS5-S6リンカーと一緒になって、イオン透過経路を含有するポアドメイン、およびイオンの流れを制御するゲートを形成する(Larsson、2002年)。活性化ゲートは、S6へリックスのC末端の交差によって形成される(Decherら、2004年)。ゲートの活性化および不活性化、選択的イオン透過性ならびにイオンチャネルの電位感知の機構の物理学的基盤の理解において、多くの進展が、生物物理学的な実験および最近記載された細菌のK+チャネルの構造に基づいてもたらされている。しかし、電位の変化がこれらのチャネルを開閉する分子機構、および電位センサーとゲートとの間の共役機構については、依然として理解されていない部分が多い。特に、どのようにして共役機構の結果、KvチャネルおよびHCNチャネルの活性化が逆の電位に依存するようになるのかについては不明のままである。
【0058】
HCNチャネルのポアの開閉に対する電位センサーの動きの共役には、特異的なアミノ酸の相互作用の必要なしに、S4、S5およびS6の膜貫通ドメインの全体的な再編成が関わるであろう。しかし、最近の研究から、物理的な共役は、S4-S5リンカーのアミノ酸とS6ドメインのアミノ酸との間の特異的な相互作用を含む可能性があることが示唆されている(Chenら、2001年a;Decherら、2004年)。これらの研究は、S4-S5リンカーは、HCNチャネルの過分極活性化による開口を仲介する共役機構の重要な成分であることを示唆している。
【0059】
電位の感知およびHCNチャネルの活性化を、変異によって変化させることができる。例えば、HCN2のS4-S5リンカーのアラニンスキャニング変異誘発によって、3つのアミノ酸が、正常なゲーティングのために、特に重大な意味をもつことが明らかになった(Chenら、2001年a)。Y331またはR339、および程度はより低いがE324の変異が、チャネルの閉鎖を混乱させた。S4ドメインの塩基性の残基の変異(R318Q)が、チャネルの開口を阻止した。逆に、R318QおよびY331Sの二重変異を有するチャネルは、恒常的に開口した。S6のC末端およびS6をCNBDに接続するCリンカーのアラニンスキャニング変異誘発を使用して、Decherら(2004年)は、変異によってチャネルの閉鎖を妨害して、正常なゲーティングのために重要である5つの残基を同定した。さらなる変異解析によって、S4-S5リンカーのR339とCリンカーのD443との間の特異的な静電気的相互作用が、閉鎖状態を安定化させ、したがって、電位感知の共役およびHCNチャネルのゲーティングの活性化に関与することが示唆された。また、S4-S5リンカーの残基とS6ドメインのC末端の残基との間の相互作用も、閉鎖状態のhERGチャネルおよびether-a-go-goチャネルを安定化するために重大な意味をもつことが示されている(Ferrerら、2006年)。これらの変異研究は、S4電位センサー、電位感知のポアの開閉との共役に結びつけられているS4-S5リンカー、ポアを形成するS5、S6およびS5-S6リンカー、Cリンカー、ならびにCNBDにおける変異は、HCNチャネルの活性に影響する点で特に重要である可能性があることを示している。
【0060】
したがって、本発明は、生物学的ペースメーカーを提供し、当該生物学的ペースメーカーは、移植可能な細胞を含み、当該細胞を対象に移植すると、当該細胞は、変異型HCNイオンチャネルを、当該細胞内で有効なペースメーカー電流を誘発するのに有効なレベルで、機能的に発現する。好ましい実施形態では、変異型HCNチャネルは、改善された特徴を提供し、それらの特徴として、野生型HCNチャネルと比較して、これらに限定されないが、より迅速な動態、より正の活性化、増加した発現レベル、向上した安定性、増強されたcAMP応答性および増強された神経液性応答が挙げられる。本発明の特定の実施形態では、変異型HCNチャネルは、S4電位センサー、S4-S5リンカー、S5、S6、S5-S6リンカーおよび/またはCリンカー、ならびにCNBDにおいて少なくとも1つの変異を保有し、これらの変異の結果、上記で議論した特徴のうちの1種または複数が得られる。その他の実施形態では、HCN変異体は、E324A-HCN2、Y331A-HCN2、R339A-HCN2またはY331A,E324A-HCN2である。好ましい実施形態では、変異型HCNチャネルは、E324A-HCN2である。
【0061】
上記の変異に加えて、異なるHCNアイソフォームにおける多くの変異が報告されている。これらとして、電位の感知および活性化におけるE324残基、Y331残基およびR339残基の役割をより詳細に調査するために、Chenら(2001年a)が作ったHCN2におけるR318Q、W323A、E324A、E324D、E324K、E324Q、F327A、T330AおよびY331A、Y331D、Y331F、Y331K、D332A、M338A、R339A、R339C、R339D、R339EならびにR339Qが挙げられる。また、Chenら(2001年b)は、mHCN1におけるR538EおよびR591Eの変異も報告しており;Tsangら(2004年)は、mHCN1におけるG231AおよびM232Aを報告しており;Vemanaら(2004年)は、mHCN2におけるR247C、T249C、K250C、I251C、L252C、S253C、L254C、L258C、R259C、L260C、S261 C、C318S、S338Cを報告しており;MacriおよびAccili(2004年)は、mHCN2におけるS306Q、Y331DおよびG404Sを報告しており;ならびに、Decherら(2004年)は、mHCN2におけるY331A、Y331D、Y331S、R331FD、R339E、R339Q、I439A、S441A、S441T、D443A、D443C、D443E、D443K、D443N、D443R、R447A、R447D、R447E、R447Y、Y449A、Y449D、Y449F、Y449G、Y449W、Y453A、Y453D、Y453F、Y453L、Y453W、P466Q、P466V、Y476A、Y477Aおよび481Aを報告している。上記の出版物の全ての全内容が、参照によって本明細書に組み入れられている。上記に列挙した報告されている変異のうちの特定のものが、単独または組合せで、生物学的ペースメーカーを生み出す場合に、HCNチャネルに有利な特徴を与えることができる。本明細書に開示する本発明は、より迅速な動態、より正の活性化、増加した発現、および/または向上した安定性、増強されたcAMP応答性および/または増強された神経液性応答を提供することによって等、チャネルのペースメーカー活動を改善させる、単独または組合せでのHCNチャネルの全ての変異を包含する。
【0062】
本明細書では、変異とは、変異を受けたアミノ酸残基の1文字略語、ポリペプチド内の当該残基の位置、および当該残基が変異型アミノ酸残基の1文字略語を提供する表示によって識別する。したがって、例えば、E324Aは、324位のグルタミン残基(E)がアラニン(A)に変異した変異ポリペプチドを識別する。Y331A, E324A-HCN2は、一方は331位のチロシン(Y)がアラニン(A)に変異し、他方は324位のグルタミン酸残基がアラニンに変異した、二重変異を有するマウスHCN2を示す。
【0063】
本明細書に開示する実験は、より迅速な動態およびより正の活性化の関係の両方を示すと報告されている(Chenら、2001年a)mHCN2におけるE324A変異を探索した。これらの特徴の両方は、歩調取りを増強するはずである。筋細胞、アフリカツメガエル卵母細胞およびin situイヌ心臓において発現させた場合のHCN2と比較したE324Aのペースメーカー活動の詳細を、実施例で提供する。
【0064】
MiRP1を有するHCNチャネル(変異およびキメラを含む)を有する生物学的ペースメーカー
発現する電流の大きさを増加させる、および/または活性化の動態を速めることによって、HCNチャネルの生物学的ペースメーカー活動を増強する別のアプローチの場合、HCN2をそのベータサブユニットMiRP1と同時発現させる。Quら(2004年)は、筋細胞の培養物にHCN2アデノウイルス、およびGFPタグ付きMiRP1またはHAタグ付きMiRP1のいずれかの媒体である第2のアデノウイルスを感染させた。その結果、電流の大きさおよび活性化の加速および非活性化の動態が顕著に増加した。また、参照によって全内容が本明細書に組み入れられている米国特許第6783979号も参照されたい。
【0065】
多くのMiRP1の変異が報告されており(例えば、Mitchesonら、2000年;Luら、2003年;Piperら、2005年を参照)、これらの変異のうちの特定のもの、またはそれらの組合せが、生物学的ペースメーカーを生み出すために使用するHCNチャネルが発現する電流の大きさおよび電流の活性化の動態を増加させるのに有利な可能性がある。本明細書に開示する本発明は、MiRP1におけるそのような変異またはそれらの組合せの全てを包含する。
【0066】
生物学的ペースメーカーの細胞
「移植可能な細胞」とは、対象に移植するまたは投与することができる細胞を意味する。「細胞」は、生物学的細胞、例えば、HeLa細胞、幹細胞または筋細胞、および非生物学的細胞、例えば、リン脂質ベシクル(リポソーム)またはウイルス粒子を含むものとする。好ましくは、本発明の生物学的ペースメーカーは、心筋細胞とのギャップ結合を介した伝達が可能である移植可能な生物学的細胞を含む。例示的な細胞として、これらに限定されないが、幹細胞、心筋細胞、コネキシンを発現するように操作された繊維芽細胞または骨格の細胞、あるいは内皮細胞が挙げられる。幹細胞は、実質的に分化できない、胚性幹細胞または成体幹細胞であることができる。好ましい実施形態では、細胞は、成体間葉系幹細胞であり、より好ましい実施形態では、細胞は、成体ヒト間葉系幹細胞である。以下に記載する実験は、hMSCがHCNイオンチャネルを心臓に送達するための魅力的なプラットフォームを提供することを示す。
【0067】
好ましい実施形態では、成体ヒト間葉系幹細胞は、少なくとも9回、またはより好ましい実施形態では、9から12回継代されており、CD29、CD44、CD54およびHLAクラスIの表面マーカーを発現するが、CD14、CD45、CD34およびHLAクラスIIの表面マーカーを発現できない。そのような成体ヒト間葉系幹細胞は、実質的に分化できないようであるが、それらを幹細胞として同定するマーカーを依然として維持する。全体が参照によって本明細書に組み入れられている、2006年7月21日に本明細書と同時出願の同時係属中の仮特許出願第60/ 号(未付与)、標題「Use of late passage mesenchymal(MSCs)for treatment of cardiac disorders」を参照されたい。
【0068】
骨髄由来および/または循環中のhMSCの心筋梗塞後の患者への送達により、機械的性能の何らかの改善が得られ(Strauerら、2002年;Perinら、2003年)、明白な毒性はなかったとの最近の報告がある。これらおよびその他の動物実験(Orlicら、2001年)から、hMSCは、心臓合胞体内に取り込まれ、次いで、新しい心臓細胞に分化して、機械的機能を回復したと推定される。しかし、6匹の非免疫抑制成体イヌのLV心外膜下へのmHCN2形質移入hMSCの注入後の42日間にわたりhMSCの分化はみられなかった(Plotnikovら、2005年b)。さらに、hMSCを、9回以上、好ましく9〜12回継代すると、分化が阻止されることが示されている(未発表データ)。共に係争中の仮特許出願第60/ 号(未付与)、標題「Use of late passage mesenchymal(MSCs)for treatment of cardiac disorders」、2006年7月21日、本明細書と同時出願を参照されたい。
【0069】
本発明の好ましい生物学的ペースメーカーおよび生物学的ペースメーカーを含む好ましいタンデム型のシステムでは、移植する細胞の量は、有効なペースメーカー電流を発生させるのに要求される量である。「有効なペースメーカー電流」とは、上記に記載したHCNチャネル、キメラのHCNチャネルまたは変異型HCNチャネルを発現する細胞が、対象の心臓を拍動させる効果があるペースメーカー電流を発生させることを意味する。ペースメーカー電流の強度、またはペースメーカー電流が発生させた心臓の拍動速度は、正常で健常な心臓のレベルである必要はないが、好ましい実施形態では、生物学的ペースメーカーの機能に加えて、正常で健常な自然に発生するペースメーカーのレベルで提供される。
【0070】
特定の実施形態では、生物学的ペースメーカーは、5,000個から1.5億個のヒト成体間葉系幹細胞を含む。その他の実施形態では、生物学的ペースメーカーは、約700,000個から1.0億個のヒト成体間葉系幹細胞を含む。一実施形態では、生物学的ペースメーカーは、少なくとも約5,000個の細胞を含む。好ましい実施形態では、生物学的ペースメーカーは、少なくとも約200,000個のヒト成体間葉系幹細胞を含む。別の好ましい実施形態では、生物学的ペースメーカーは、少なくとも約500,000個の細胞を含む。より好ましい実施形態では、生物学的ペースメーカーは、少なくとも約700,000個のヒト成体間葉系幹細胞を含む。図29および30を参照されたい。
【0071】
生物学的ペースメーカーを生み出すためのHCNチャネルの植込み型細胞への送達
本発明の特定の生物学的ペースメーカーを生み出すために、上記に記載したHCNチャネルをコードする核酸を、(上記に記載した)移植可能な細胞に送達しなければならない。エレクトロポレーションが、hMSC等の細胞を遺伝子操作するための好ましいin vitroにおける方法であり、その結果、If(HCNチャネル)を過剰発現させて、対象の心臓へのin vivoでの送達となる。エレクトロポレーションは、細胞を高電圧の短いパルスに一過性に暴露し、細胞膜のポアを開口させて、DNAおよびタンパク質等の巨大分子を細胞内へ進入させることができる手法である。また、エレクトロポレーションをin vivoにおいて適用して、核酸およびタンパク質を、ラット、マウスおよびウサギを含む、生きている動物の筋肉細胞へ送達できることも実証されており(米国特許第6110161号を参照)、この方法を使用して、直接、ニワトリの胎生期の心臓に(Harrisonら、1998)、および移植前の哺乳動物の心筋に(Wangら、2001年c)DNAを送達している。
【0072】
心臓への植込みのために、遺伝子を移植可能な細胞に導入するその他の方法として、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)およびレンチウイルスを使用するウイルス形質移入、リポソーム仲介形質移入(リポフェクション)、形質移入化学試薬を使用する形質移入、熱ショック形質移入またはマイクロインジェクションが挙げられる。AVVは、アデノウイルスに随伴する小型のパルボウイルスであり、それ自体では複製することができず、複製するためには、アデノウイルスまたはヘルペスウイルスとの同時感染が必要である。ヘルパーウイルスの非存在下では、AVVは、潜伏期に入り、その間にこのウイルスは宿主細胞のゲノムに安定的に取り込まれる。AAVに挿入した遺伝子は、長期間宿主細胞のゲノム中で持続することができることから、この潜伏期が故に、AAVは、約4.4kbまでの遺伝子の導入に関わる特定の遺伝子治療への適応に魅力がある(PfeiferおよびVerma、2001年)。レンチウイルスは、レトロウイルスファミリーのメンバーであり、興味深い別法の可能性を提供する(AmadoおよびChen、1999年;Trono、2002年)。アデノウイルスとは異なり、エレクトロポレーションおよびレンチウイルスベクターの使用により、宿主免疫応答を惹起することなく、導入遺伝子を持続して発現させることができる。
【0073】
安全性は、特にウイルスベクターに関しては、実証すべき要因である。ウイルスベクターまたは細胞が不整脈および腫瘍を発生させることがないことを、感染および遠部での生着がないことと共に実証する必要がある。安全性および効力が実証されたならば、対費用効果も考慮しなければならない。たとえ発現および送達の問題を克服したとしても、細胞に基づくペースメーカーを長期に持続させるには、非自己性の細胞を利用する場合には、拒絶がないことが要求される。この点から、hMSCは、自己性の源から入手すべきである。しかし、これらの細胞は免疫特権を有することを示唆する証拠(Liechtyら、2000年)から、自己性の源を求める必要性が減少する可能性がある。この特権は、長期わたっては試験されていないが、hMSCのイヌ心臓への注入6週間後では、細胞性の拒絶も、液性の拒絶も、明白ではなかった(Plotnikovら、2005年b)。胚性幹細胞の場合には、拒絶を考慮する必要が残る。既製の細胞を、移植するために準備することができることから、hMSCの免疫特権を有する状況に基づくアロジェネイックな解決法が、より好都合なモデルを提供するであろう。
【0074】
植込み型細胞の対象の心臓への送達
本発明の細胞に基づく生物学的ペースメーカーを、好ましくは、対象の心臓の選択された部位に投与する。局所送達を達成するためのいくつかの方法、例えば、カテーテルおよび針の使用、ならびに/またはマトリックスおよび「接着剤」の上での増殖が実行可能である。いかなるアプローチを選択するにしても、送達された細胞が、標的部位から遠く離れて分散してはならない。そのような分散は、心臓内およびその他の臓器に望まれない電気的な作用を導入する恐れがある。6匹の成体イヌの左心室心外膜下へ最大約106個のHCN2形質移入hMSCを注入した予備研究において、hMSCの集団は、一貫して、注入部位に隣接して認められたが、遠隔地には認められなかった(Plotnikovら、2005年b)ことは注目に価する。
【0075】
即時ペースメーカーのシステムおよび方法の多様な実施形態では、移植可能な細胞を、心臓上または心臓内に、注入、カテーテル法、外科的挿入または外科的付着によって投与する。送達部位は、最適な活性化および血行動態の応答を与えるように、患者の病態に基づいて投与時に決定する。したがって、選ぶ部位は、洞房(SA)結節、バッハマン束、房室接合部、ヒス束、左または右の脚、プルキンエ線維、右または左の心房筋、あるいは右または左の心室筋が考えられ、適切な部位は、当業者には周知である。また、心臓で発現させるHCNイオンチャネルのアイソフォームまたは型を、送達部位に応じて変化させることができる。その上、異なる送達部位では、イオンチャネル遺伝子の発現の異なるレベルが望ましい場合がある。そのような発現の異なるレベルを、所望のレベルでの発現を推進する異なるプロモーターを使用することによって得ることができる。
【0076】
別の実施形態では、移植可能な細胞を、直接心臓上または心臓内に、注入またはカテーテル法によって局所投与する。さらなる実施形態では、細胞を、冠状動脈血管または心臓に近位の血管内に、注入またはカテーテル法によって全身投与する。さらに別の実施形態では、細胞を、心臓の心房または心室のある範囲の上または中に注入する。その他の実施形態では、細胞を、心臓の左心房、心室の壁、心室の脚または近位のLVの伝導系の上または中に注入する。
【0077】
対象の心臓内にHCNチャネルを有する発現ベクターを投与することによって形成する生物学的ペースメーカー
本発明の特定の実施形態では、生物学的ペースメーカーを、直接対象の心臓に形成する。そのような実施形態では、上記に記載した、HCNチャネル(キメラおよび変異体を含む)および/またはMiRP1をコードする核酸を含むベクター(複数のベクター)を、対象の心臓の細胞に投与する。このベクターは、HCNチャネルを機能的に発現して、上記に記載したように、心臓において有効なペースメーカー電流を発生させる。
【0078】
所望の核酸(すなわち、HCNチャネルおよびMiRP1等)を含むベクターは、当該核酸の発現を提供する必要な調節エレメント、例として、プロモーターを含む、いずれかの適切な発現ベクターであることができる。当業者であれば、適切なベクターおよび心臓の細胞に投与する場合の核酸の発現を提供するのに必要なその他の調節エレメントのいずれをも認識し、選択するであろう。例えば、ベクターは、上記に記載したベクターであることができる。当業者は、対象の細胞にベクターを投与する異なる方法を理解および認識するであろう。例えば、ベクターを、心臓上または心臓内に、注入またはカテーテル法によって投与することができる。特定の実施形態では、ベクターを、対象を治療するのに最も適した心臓の範囲/領域の上または中に投与する。当業者は、適切な投与部位を理解するであろう。例えば、治療しようとする対象が、正常に機能する心臓を有するが、洞房結節の欠損を有する場合、上記に記載したベクターを対象の洞房結節に投与することを考えてもよいであろう。投与のための例示的な部位として、これらに限定されないが、心臓のバッハマン束、洞房結節、房室接合部、ヒス束、左または右の脚、プルキンエ線維、右または左の心房筋、心室の壁あるいは近位の左心室(LV)または右心室(RV)の伝導系が挙げられる。
【0079】
バイパスブリッジを有するタンデム型システム
また、本発明は、(1)電気的ペースメーカーと、(2)第1末端および第2末端を有するギャップ結合連結細胞の条片を含むバイパスブリッジとを含むタンデム型ペースメーカーシステムも提供し、両末端は、心臓の2つの選択された部位に付着することができ、その結果、心臓の2つの部位の間のブリッジを横断しての、ペースメーカー信号および/または電気信号/電流の伝達が可能となる。特定の実施形態では、バイパスブリッジは、房室性のブリッジであり、その場合、バイパスブリッジの第1末端が心房に付着することができ、第2末端が心室に付着することができ、その結果、心房からの電気信号が経路を横断して移動して心室を興奮させることが可能となる。
【0080】
バイパスブリッジおよび房室性のブリッジは、PCT国際公開第WO 2005/062857号、米国仮特許出願第60/704210号(2005年7月29日出願)および米国特許出願第10/745943号(2003年12月24日出願)、ならびに米国出願第11/ 号(未付与)、標題「A Biological Bypass Bridge with Sodium Channels, Calcium Channels and/or Potassium Channels to Compensate for Conduction Block in the Heart」、2006年7月21日、本明細書と同時出願、に記載されている。これらは全て、全内容が参照によって本明細書に組み入れられている。
【0081】
ギャップ結合連結細胞の経路は、生物学的ペースメーカーの移植可能な細胞に関して上記に記載されたいずれかの移植可能な細胞(すなわち、幹細胞、心筋細胞、心臓のコネキシンを発現するように操作された繊維芽細胞または骨格筋細胞、あるいは内皮細胞)であることができる。特定の実施形態では、細胞は、心臓のコネキシン;L型カルシウムチャネルのアルファサブユニットおよびアクセサリーサブユニット;ナトリウムチャネルのアルファサブユニットで、アクセサリーサブユニットを有するまたは有しないもの;あるいはカリウムチャネルのアクセサリーサブユニットを有するまたは有しない、カリウムチャネルのアルファサブユニットと組み合わせたL型カルシウムチャネルおよび/またはナトリウムチャネルであるタンパク質を機能的に発現する。さらなる実施形態では、コネキシンは、Cx43、Cx40またはCx45である。
【0082】
特定の実施形態では、細胞は、成体ヒト間葉系幹細胞(MSC)である。MSCは、これらに限定されないが、以下を含む、いくつかの方法で調製することができる。
1: 追加の伝導の分子決定要因を組み入れない培養。この場合、電気信号を伝達するギャップ結合を生成する細胞自体の特徴を、電気的な波を細胞から細胞へと伝播する手段として使用する。
2: コネキシン43、40および/または45の遺伝子を導入するエレクトロポレーションに続く培養によって、ギャップ結合の形成を増強し、それによって電気信号の細胞から細胞への伝播を容易にする。
3: L型カルシウムチャネルのアルファサブユニットおよびアクセサリーサブユニット;ナトリウムチャネルのアルファサブユニットで、アクセサリーサブユニットを有するまたは有しないもの;あるいはカリウムチャネルのアクセサリーサブユニットを有するまたは有しない、カリウムチャネルのアルファサブユニットと組み合わせたL型カルシウムチャネルおよび/またはナトリウムチャネルを含む、異なる型のイオンチャネルをコードする遺伝子を導入するエレクトロポレーションに続く培養。これらのイオンチャネルの発現は、波面の電気緊張性の伝播の可能性のみならず、活動電位による能動的な伝播の可能性も高める。
4: 方法2および3の組合せ。このように産生したこれらのhMSCを、培地中で、非生理活性材料上で増殖させる。hMSCは、本明細書に記載するように、ギャップ結合を介して一緒になって共役する。
【0083】
特定の実施形態では、バイパスブリッジが、房室性のブリッジである場合、増殖が完了すると、ブリッジの一端を心房に、他端を心室に縫合する。心房を活性化する洞房結節によって発生した電気信号は、人工的に構築した経路を横断し伝播して、心室も興奮させる。このようにして、房室性の活性化の正常な筋道が維持される。
【0084】
この様式での房室性のバイパスの調製によって、心房から心室への伝播が容易になり、それに加えて、心房から心室への収縮を十分に遅延させて、心室を最大に充填および空にし、心臓の正常な活性化および収縮性の筋道を模倣する。
【0085】
特定の実施形態では、本発明は、電気的ペースメーカーとバイパスブリッジとを含み、かつ生物学的ペースメーカー、好ましくは、本発明の生物学的ペースメーカーをさらに含むタンデム型のペースメーカーシステムを提供する。好ましい実施形態では、バイパスブリッジは、房室性のブリッジである。
【0086】
上記に記載したように、タンデム型システムは、電気的ペースメーカーを含む。電気的ペースメーカーは、当技術分野で既知である。例示的な電気的ペースメーカーが、米国特許第5983138号、第5318597号および第5376106号;Hayes(2000年);ならびにMosesら(2000年)に記載されており、それら全ての全内容が、参照によって本明細書に組み入れられている。電気的ペースメーカーがすでに対象に適用されている場合もあれば、電気的ペースメーカーを、対象に、同時または生物学的ペースメーカーを留置した後に適用することもできる。電気的ペースメーカーの適切な部位は、熟練した専門家には周知であり、対象の状態および本発明の生物学的ペースメーカーの留置によって決まる。例えば、対象が、機能する洞房結節を有するが、洞房結節と房室結節との間にブロックを有する場合、生物学的ペースメーカーを房室結節に投与するのが好ましいであろう。好ましい挿入部位は、これらに限定されないが、対象の心臓のバッハマン束、洞房結節、房室接合部、ヒス束、左または右の脚、プルキンエ線維、左または右の心房筋、あるいは左または右の心室筋である。
【0087】
本発明の好ましい実施形態では、電気的ペースメーカーは、「必要」に応じて、すなわち、生物学的に発生させた拍動を感知し、生物学的ペースメーカーが発火できない場合および/またはバイパスブリッジが設定時間間隔を上回って電流を伝導する場合に、電気的に放電するペースメーカー信号を出力するようにプログラムされる。この時点で、電子的なペースメーカーは、生物学的ペースメーカーが活動を再開するまでペースメーカーの機能を引き継ぐ。したがって、いつ電気的ペースメーカーが、ペースメーカー信号を出力するかを決定する必要がある。最新式のペースメーカーは、心拍数が閾値レベルを下回る時点を検出する能力を有し、この時点に応答して、電気的ペースメーカー信号が出力することになっている。閾値レベルは、一定の数であってもよいが、好ましくは、身体活動または情動の状況等の患者の活動に応じて変化する。例えば、患者が安静にしているまたは軽度の活動に従事している場合、患者のベースライン心拍数は、60〜80回/分(bpm)(患者毎に異なる)であろう。ベースライン心拍数は、患者の年齢および身体の状態に応じて変化し、活発な患者は典型的にはより低いベースライン心拍数を有する。患者の実際の心拍数(いずれかの生物学的ペースメーカーによって誘発された心拍数を含む)が、特定の閾値ベースライン心拍数、特定の差異または当業者に既知のその他の様式を下回る場合、ペースメーカー信号を出力するように電気的ペースメーカーをプログラムすることができる。患者が安静にしている場合、ベースライン心拍数は、安静時の心拍数である。ベースライン心拍数は、患者の身体活動のレベルまたは情動の状況に応じて変化する可能性が高い。例えば、ベースライン心拍数が80bpmである場合、実際の心拍数が約64bpm(すなわち、80bpmの80%)であると検出されたときに、ペースメーカー信号を出力するように、電気的ペースメーカーを設定することができる。
【0088】
また、運動時に、生物学的な構成成分が停止した場合、より高い心拍数で介入し、次いで、ベースラインの心拍数まで徐々に遅らせることによって、介入するように電気的な構成成分をプログラムすることもできる。例えば、心拍数が、身体活動または情動の状況によって、120bpmまで増加する場合、閾値を96bpm(120bpmの80%)まで増加させることができる。この治療法の生物学的な部分は、生物学的ペースメーカーの特徴である自律的な応答性および心拍数の範囲を利用し、かつ安全策として機能するベースラインの心拍数を利用し、これは、電気的ペースメーカーの特徴である。前回の間隔よりもX%(例えば、20%)長い間隔で休止する場合には常に、ペースメーカー信号を出力するように、電気的ペースメーカーを設定することができる。これは、前回の間隔が、電気的ペースメーカーの信号によるものでなく、何らかの最小値(例えば、50bpm)より大きい心拍数の間隔であった場合に限られる。
【0089】
したがって、本ペースメーカーシステムのある実施形態では、電気的ペースメーカーは、心臓の拍動速度を感知し、心臓の拍動速度が特定したレベルを下回る場合に、ペースメーカー信号を出力する。さらなる実施形態では、特定したレベルは、基準の時間間隔後に心臓が経験する拍動速度の特定した割合である。さらに別の実施形態では、基準の時間間隔は、特定した持続期間の直前の期間である。
【0090】
本明細書に記載するように、移植した生物学的ぺースメーカーを、イヌの研究において電気的ペースメーカーと併行して試験した。電気的応需型ぺースメーカーを、あらかじめ特定した回避速度に設定し、電気的に開始させた心拍と生物学的に開始させた心拍の発生頻度を比較してモニターした。このようにして、電気的な構成成分は、タンデム型ペースメーカーのユニットの生物学的な構成成分の効力を測定する。そのようなタンデム型の生物学的-電気的ペースメーカーには、第1相および第2相臨床試験で要求される患者保護の基準を満たすことだけでなく、単なる電気的ペースメーカーを上回る治療上の利点を提供することも期待される。すなわち、タンデム型のシステムの生物学的な構成成分は、患者の運動および情動の状況の変化が要求する範囲にわたり心拍数を変化させるように機能し、電気的な構成成分は、生物学的な構成成分が部分的に停止したまたは完全に停止したのいずれの場合にも、安全策を提供する。その上、電気的のみのペースメーカーが時の経過と共に通常送達するであろう電気的な拍動の発生頻度を減少させることによって、タンデム型のユニットは、電気的な構成成分の電池寿命を延長させるであろう。このことは、電源パックが必要とする交換の間隔を大いに延長させることができるであろう。したがって、タンデム型のペースメーカーシステムの構成成分は、安全で生理的な心臓の律動制御の機会を最大化する点で、相乗的に動作する。
【0091】
治療方法
タンデム型ペースメーカーの概念は、臨床適用に関して、いくつかの課題を提示する。第1に、このシステムは、意図的に重複性であり、2つの完全に無関係な故障モードを有する。2つの独立した埋込み部位および独立したエネルギー源は、(例えば、心筋梗塞による)捕捉不全の事象では、安全機構を提供するであろう。第2に、電気的ペースメーカーは、ベースラインの安全策のみならず、臨床医の精査に向けて全心拍の継続的な記録も提供し、したがって、患者の進展する生理およびタンデム型ペースメーカーシステムの性能に関する洞察を提供するであろう。第3に、大部分の心臓のペーシングを行うように、生物学的ペースメーカーを設計するので、電気的ペースメーカーの寿命延長を、劇的に改善することができるであろう。また、電気的ペースメーカーの大きさをさらに小さくすることができる一方で、寿命延長を維持することが可能であろう。最後に、タンデム型システムの生物学的な構成成分は、真に自律的な応答性を提供すると思われ、これは、50年以上にわたる電気的ペースメーカーの研究開発が達成できなかった目標である。
【0092】
また、本発明は、本発明のタンデム型システムを対象に提供/投与することによって、種々の心臓障害を治療する方法を提供する。「投与する」とは、当業者に既知の多様な方法および送達システムのいずれかを使用して果たされるまたは行われる様式で送達することを意味するものとする。投与を、例えば、心臓周囲から、心臓内へ、心外膜下へ、経内心膜的に、インプラントを介して、カテーテルを介して、冠内へ、内心膜へ、静脈内へ、筋肉内へ、胸腔検査鏡を介して、皮下へ、非経口的に、局所的に、経口的に、腹腔内へ、リンパ節内へ、病巣内へ、硬膜外へ、またはin vivoエレクトロポレーションによって行うことができる。また、投与を、例えば、1回、複数回および/または1回もしくは複数回の長期にわたり行うこともできる。
【0093】
障害に罹患した対象を「治療する」とは、対象に、障害および/またはその症状の減弱、寛解または後退を経験させることを意味するものとする。一実施形態では、障害および/またはその症状の再発を阻止する。好ましい実施形態では、対象は、障害および/またはその症状から治癒する。
【0094】
「抑制する」とは、障害の発生の可能性を低下させる、または障害の発生を遅らせる、あるいは障害の発生を完全に阻止することを意味するものとする。好ましい実施形態では、障害の発生を抑制するとは、その発生を完全に阻止することを意味する。
【0095】
「対象」とは、いずれかの動物または人工的に改変した動物を意味するものとする。動物として、これらに限定されないが、ヒト、非ヒトの霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ウサギ、フェレット、マウス、ラットおよびモルモット等のげっ歯類、ならびにニワトリおよびシチメンチョウ等の鳥類が挙げられる。人工的に改変した動物として、これらに限定されないが、ヒトの免疫系を有するSCIDマウスが挙げられる。好ましい実施形態では、対象は、ヒトである。
【0096】
また、本発明は、心臓律動障害に罹患した対象を治療する方法も提供し、この方法は、本発明のタンデム型ペースメーカーシステムを対象に投与するステップを含む。生物学的ペースメーカーを対象の心臓に提供して、有効な生物学的ペースメーカー電流を発生させる。また、生物学的ペースメーカーと併行して働く電気的ペースメーカーも対象の心臓に提供して、心臓律動障害を治療する。電気的ペースメーカーを、生物学的ペースメーカーの前に、生物学的ペースメーカーと同時にまたは生物学的ペースメーカーの後に提供することができる。電気的ペースメーカーおよび生物学的ペースメーカーを、心臓律動障害を代償する/治療するのに最も適した心臓の範囲に提供する。例えば、生物学的ペースメーカーを、これらに限定されないが、対象の心臓のバッハマン束、洞房結節、房室接合部、ヒス束、左または右の心房筋、左または右の心室筋、左または右の脚、あるいはプルキンエ線維に投与することができる。生物学的ペースメーカーは、上記に記載した生物学的ペースメーカーであり、好ましくは、心臓のβアドレナリン作動性の応答性を増強し、外向きカリウム電流IK1を減少させ、かつ/または内向き電流Ifを増加させる。
【0097】
電気的ペースメーカーは、上記に記載したように、生物学的ペースメーカーと併行して働く。例えば、電気的ペースメーカーは、対象の心臓の拍動速度を感知し、心臓の拍動速度が選択した心臓の拍動速度を下回る場合に、ペースメーカー信号を出力するようにプログラムされる。その他の実施形態では、選択した拍動速度は、基準の時間間隔後に心臓が経験する拍動速度の選択した割合である。その他の実施形態では、基準の時間間隔は、選択した持続期間の直ちに先行する期間である。したがって、タンデム型のシステムでは、生物学的ペースメーカーが、好ましくは、有効な歩調取りの信号を発生させるので、電気的ペースメーカーは、歩調取りの信号をそれほど頻繁に「発火」または送る必要がないことから、電気的ペースメーカーの電池の寿命は、保存または延長される。図29および30を参照されたい。
【0098】
心臓律動障害は、心臓の拍動速度に影響し、心拍数を正常で健常な心拍数から変化させるいずれかの障害である。例えば、障害は、これらに限定されないが、洞房結節の機能障害、洞性徐脈、辺縁性ペースメーカー活動、洞不全症候群、心不全、頻脈性不整脈、洞房結節リエントリー頻脈、異所性病巣からの心房性頻脈、心房粗動、心房細動または徐脈性不整脈である場合がある。そのような場合、生物学的ペースメーカーを、好ましくは、対象の心臓の左または右の心房筋、洞房結節あるいは房室接合部に投与する。
【0099】
さらに、本発明は、心臓律動障害に罹患した対象を治療する方法も提供し、当該の障害は、伝導ブロック、完全房室ブロック、不完全房室ブロック、脚ブロック、心不全または徐脈性不整脈であり、房室性のブリッジを含むとして本明細書に記載したペースメーカーシステムのうちのいずれかを対象の心臓に投与するステップを含み、その結果、当該の房室性のブリッジが欠損したコンダクタンスを示す領域に橋を架け、電気的ペースメーカーが誘発するペースメーカー活動が房室性のブリッジによって伝播し、対象を効果的に治療する。
【0100】
心臓律動障害を治療するための本方法の特定の実施形態では、生物学的ペースメーカーおよび/または電気的ペースメーカーと対立しないように、心臓に先在するペースメーカー活動の源を切除する。
【0101】
その上、本明細書に開示する発明は、心臓律動障害に罹患した対象を治療する方法を提供し、この方法は、(a)バイパスブリッジ、または特定の実施形態では、心臓の房室性のブリッジを提供するステップと、(b)電気的ペースメーカーを心臓に埋め込むステップとを含み、それによって、対象を治療する。
【0102】
さらに、本発明は、心臓律動障害の発生を、そのような障害起こしやすい対象において抑制する方法を提供し、この方法は、(a)(1)HCNイオンチャネルまたはその変異体もしくはキメラをコードする核酸、(2)MiRP1ベータサブユニットまたはその変異体をコードする核酸、ならびに(3)(i)HCNイオンチャネルまたはその変異体もしくはキメラおよび(ii)MiRP1ベータサブユニットまたはその変異体の両方をコードする核酸のうちの少なくとも1つを、ペースメーカー活動を心臓において誘発するのに有効なレベルで、心臓で機能的に発現させることによって、対象の心臓において生物学的ペースメーカー活動を誘発するステップと;(b)電気的ペースメーカーを心臓に埋め込むステップとを含み、それによって、対象における当該障害の発生を抑制する。特定の実施形態では、本発明の生物学的ペースメーカーを、対象に提供する。
【0103】
また、本発明は、生物学的ペースメーカー活動を誘発することができる電流を細胞内で誘発する方法も提供し、この方法は、本明細書に記載した生物学的ペースメーカーのうちのいずれかを心臓に投与するステップと、それによって、HCNチャネルまたはその変異体もしくはキメラ、および/あるいはMiRP1ベータサブユニットまたはその変異体を、生物学的ペースメーカー活動を誘発することができる電流を細胞内で誘発するのに有効なレベルで、心臓で機能的に発現させるステップとを含み、それによって、そのような電流を細胞内で誘発する。
【0104】
また、本明細書に開示する発明は、対象の心拍数を増加させる方法も提供し、この方法は、本明細書に記載した生物学的ペースメーカーのうちのいずれかを心臓に投与するステップと、それによって、HCNイオンチャネルまたはその変異体もしくはキメラ、および/あるいはMiRP1ベータサブユニットまたはその変異体を、細胞の活性化の時定数を減少させるのに有効なレベルで、対象の心臓で発現させるステップとを含み、それによって、対象の心拍数を増加させる。
【0105】
また、先行方法の上記で同定したステップを、細胞を収縮させる方法、細胞を活性化するのに必要な時間を短縮する方法、および細胞の膜電位を変化させる方法に使用することもできる。
【0106】
その他の方法
また、先行方法のステップを使用して、対象の心臓に埋め込んだ電気的ペースメーカーの電池の寿命を保存したり、対象の心臓に埋め込んだ電気的ペースメーカーの心臓のペーシングの機能を増強したりすることもできる。
【0107】
さらに、本発明は、心臓の信号を、感知能力を有する対象の心臓に埋め込んだ電気的ペースメーカーを用いてモニターする方法も提供し、この方法は、(a)心臓中または心臓上の部位を選択するステップと、(b)心臓の自然なペースメーカー活動を増強するために、生物学的ペースメーカー活動を選択した部位で本明細書に記載する方法のうちのいずれかによって誘発するステップと、(c)心臓の信号を電気的ペースメーカーを用いてモニターするステップと、(d)心臓の信号を保存するステップとを含む。
【0108】
また、本発明は、感知能力およびペーシングを要求する能力を有する対象の心臓に埋め込んだ電気的ペースメーカーの心臓のペーシングの機能を増強する方法も提供し、この方法は、(a)心臓中または心臓上の部位を選択するステップと、(b)心臓の自然なペースメーカー活動を増強するために、生物学的ペースメーカー活動を選択した部位で本明細書に記載する方法のうちのいずれかによって誘発するステップと、(c)心臓の信号を電気的ペースメーカーを用いてモニターするステップと、(d)いつ心臓の信号に基づいて心臓をペーシングする必要があるかを決定するステップと、(e)生物学的ペースメーカー活動と併行する自然なペースメーカー活動が心臓を捕捉できない場合に、選択的に心臓を電気的ペースメーカーを用いて刺激するステップとを含む。
【0109】
両室性のペーシング
また、収縮を最適化する心室のある部位に移植された生物学的ペースメーカーを、電気的ペースメーカーと併行する両室性ペーシングのモードで使用することもできる。実施例6を参照されたい。したがって、本発明は、心室同期不全に罹患した対象を治療するためのペースメーカーシステムを提供し、このシステムは、(1)対象の心臓の一方の心室内のある部位に投与するための本発明の生物学的ペースメーカーと、(2)対象の心臓の他方の心室内のある部位に投与するための電気的ペースメーカーとを含み、電気的ペースメーカーは、生物学的ペースメーカーからの信号を検出し、生物学的ペースメーカーからの信号を検出した後、基準の時間間隔でペースメーカー信号を出力するようにプログラム可能であり、それによって、両室性の機能を提供する。また、一実施形態では、電気的ペースメーカーは、特定した持続期間後に生物学的ペースメーカーからの信号を検出できない場合に、ペースメーカー信号を出力するようにもプログラム可能である。
【0110】
また、本発明は、心室同期不全に罹患した対象を治療するためのペースメーカーシステムも提供し、このシステムは、(1)対象の心臓の第1の心室に投与するための本発明の生物学的ペースメーカーと、(2)対象の心臓の第2の心室に投与するための第1の電気的ペースメーカーと、(3)冠静脈に投与するための第2の電気的ペースメーカーとを含み、第2の電気的ペースメーカーは、生物学的ペースメーカーからの信号を検出し、当該の第2の電気的ペースメーカーが、特定した持続期間後に生物学的ペースメーカーからの信号を検出できない場合に、第1の電気的ペースメーカーと併行してペースメーカー信号を出力するようにプログラム可能であり、これによって、第1および第2の電気的ペースメーカーは、両室性の機能を提供する。
【0111】
また、本発明は、心室同期不全に罹患した対象を治療する方法も提供し、この方法は、(a)対象の心臓の第1の心室のある部位を選択するステップと、(b)ペースメーカー活動を誘発し、第1の心室の収縮を刺激するために、本発明の生物学的ペースメーカーを選択した部位に投与するステップと、(c)心臓の第2の心室を、生物学的ペースメーカーからの信号を検出し、生物学的ペースメーカーからの信号を検出した後、基準の時間間隔でペースメーカー信号を出力するようにプログラムされた第1の電気的ペースメーカーを用いてペーシングするステップとを含み、これによって、両室性の機能を提供する。この方法の異なる実施形態では、生物学的ペースメーカーを、内心膜の経路を介して、心臓の静脈を介して、または胸腔検査鏡によって選択した部位に導入する。好ましい実施形態では、生物学的ペースメーカー活動を、外側自由壁上で、心室の底部ではなく尖部に偏って誘発させる。また、別の実施形態では、生物学的ユニットが遅れて発火した場合には、回避モードで発火するように、電気的ペースメーカーをプログラムする。すなわち、電気的ペースメーカーが特定した持続期間後に生物学的ペースメーカー活動からの信号を検出できない場合に、ペースメーカー信号を出力するように、電気的ペースメーカーをプログラムする。
【0112】
さらに別の実施形態では、タンデム型のシステムに隣接するものとして、第2の電気的ユニットを冠静脈に留置して、バックアップの両室性のユニットとして機能させる。この配置では、生物学的ペースメーカーからの信号を検出し、第2の電気的ペースメーカーが、特定した持続期間後に生物学的ペースメーカーからの信号を検出できない場合に、第1の電気的ペースメーカーと併行してペースメーカー信号を出力するように、第2の電気的ペースメーカーをプログラムし、これによって、第1および第2の電気的ペースメーカーは、両室性の機能を提供する。
【0113】
生物学的ペースメーカーを含む薬学的組成物
また、本発明は、本明細書に開示した生物学的ペースメーカー、核酸、組換えベクター、細胞、幹細胞、HCNのキメラのポリペプチドまたは心筋細胞のうちのいずれか1つと、薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物も提供する。薬学的に許容される担体は、当業者に周知であり、これらに限定されないが、0.01〜0.1Mおよび好ましくは0.05Mリン酸緩衝液、リン酸緩衝食塩水(PBS)または0.9%食塩水が挙げられる。また、そのような担体として、水性または非水性の溶液、懸濁液および乳濁液が挙げられる。水性の担体として、水、アルコール/水性溶液、乳濁液または懸濁液、食塩水、および緩衝媒体も挙げられる。非水性の溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、およびオレイン酸エチル等の注射用有機エステルである。また、保存剤、ならびに例えば、抗菌剤、抗酸化剤およびキレート化剤等のその他の添加剤も、上記の担体の全てと共に含むことができる。
【0114】
ポリヌクレオチド、ポリペプチド、ベクターおよび細胞
また、本発明は、上記に記載した(1)HCNイオンチャネルまたはその変異体もしくはキメラをコードする核酸、(2)MiRP1のベータサブユニットまたはその変異体をコードする核酸、あるいは(3)(i)HCNイオンチャネルまたはその変異体もしくはキメラおよび(ii)MiRP1ベータサブユニットまたはその変異体の両方をコードする核酸、ならびにポリペプチド自体も提供する。また、本発明は、mHCN1(配列番号 )、mHCN2(配列番号 )、mHCN3(配列番号 )またはmHCN4(配列番号 )と少なくとも約75%の配列同一性を有するHCNチャネルをコードする核酸、およびポリペプチド自体も提供し、これらは、生物学的ペースメーカー電流を誘発することができ、好ましくは、野生型HCNチャネルと比較して、より迅速な動態、より正の活性化、増加した発現レベル、向上した安定性、増強されたcAMP応答性および増強された神経液性応答等の改善された特徴を有する。
【0115】
また、本発明は、発現ベクターと、そこに挿入された本出願に開示した核酸(すなわち、HCNチャネル、変異型HCNチャネル、キメラのHCNチャネルおよびMiRP1)のうちのいずれかとを含む組換えベクターも提供する。「ベクター」とは、当技術分野で既知のいずれかの核酸ベクターを意味するものとする。そのようなベクターとして、これらに限定されないが、プラスミドベクター、コスミドベクターおよびウイルスベクターが挙げられる。pCI、pCMS-EGFP、pHygEGFP、pEGFP-C1、ならびにCre-lox Adベクターの構築のためのシャトルプラスミドであるpDC515およびpD516を含む、いくつかの真核生物の発現プラスミドを、本明細書に記載する構築物で使用する。しかし、本発明は、これらのプラスミドベクターおよびこれらの誘導体に限定されず、当業者に既知のその他のベクターも含むことができる。したがって、本発明は、発現ベクターと、そこに挿入された(1)HCNイオンチャネルまたはその変異体もしくはキメラをコードする核酸、(2)MiRP1のベータサブユニットまたはその変異体をコードする核酸、あるいは(3)(i)HCNイオンチャネルまたはその変異体もしくはキメラおよび(ii)MiRP1ベータサブユニットまたはその変異体の両方をコードする核酸とを含む組換えベクターを提供する。種々の実施形態では、発現ベクターは、ウイルスベクター、プラスミドベクターまたはコスミドベクターである。さらなる実施形態では、ウイルスベクターは、アデノウイルスベクター、AAVベクターまたはレトロウイルスベクターである。
【0116】
また、本発明は、本明細書に記載した組換えベクターのうちのいずれかを含む細胞も提供し、当該細胞は、発現ベクター中に挿入された核酸を発現する。この細胞は、生物学的ペースメーカーに有用な細胞に関して上記に記載した細胞である。
【0117】
以下の実施例は、本発明の理解を助けるために提示し、いかなる場合においても、実施例に続く特許請求の範囲に記載する本発明を制限する意図はなく、そのように解釈してはならない。これらの実施例は、組換え核酸ベクターの構築、宿主細胞へのそのような組換えベクターの形質移入、および形質移入細胞における遺伝子の機能的な発現に使用する方法等の当業者に周知の実験方法の詳細な説明を含まない。そのような従来法の詳細な説明は、全内容が参照によって本明細書に組み入れられているSambrookら(1989年)を含む、多数の出版物に提供されている。
【実施例】
【0118】
[実施例1]
培養細胞におけるHCNチャネルの発現および電気生理学的特徴付け
心筋細胞およびアフリカツメガエル(Xenopus laevis)卵母細胞の単離および培養
成体ラットは、噴門切除術前にケタミン-キシラジンで麻酔し、新生仔ラットは、断頭した。新生仔ラットの心室筋細胞の培養物を、過去の記載(ProtasおよびRobinson、1999年)に従って調製した。手短にいうと、1〜2日齢のウィスターラットを安楽死させ、心臓を手早く取り出し、心室を標準的なトリプシン処理の手順を使用して分離した。筋細胞を収集し、繊維芽細胞の増殖を減少させるためにあらかじめ平板培養した後、まず、血清含有培地で培養し(以下に記載するプラスミドを用いる形質移入の場合を除く)、次いで、24時間後、無血清培地(SFM)中、37℃、5% CO2下、インキュベートした。活動電位の研究を、フィブロネクチンでコートした9×22mmのカバーガラス上に直接播種した4日齢の単層培養物上で行った。電位固定実験のために、4〜6日齢の単層培養物を、0.25%トリプシンに短時間(2〜3分)曝すことによって再懸濁し、次いで、フィブロネクチンでコートしたカバーガラス上に再播種して、2〜8時間以内に研究した。
【0119】
Kuznetsovら(1995年)によって記載された手順を使用して、新鮮な成体心室筋細胞を単離、調製した。これは、心房を切り取る前に、コラゲナーゼのランゲンドルフ灌流を必要とした。残った組織を刻み、追加のコラゲナーゼ溶液中で分離させた。単離した筋細胞をSFM中に懸濁させ、次いで、0.5〜1×103細胞/mm2で、9×22mmのカバーガラス上に播種した。2〜3時間後、筋細胞がカバーガラスに付着してから、アデノウイルス感染の手順を開始した(以下を参照)。
【0120】
イヌ筋細胞の調製のために、どちらかの性別の成体イヌを、承認されたプロトコールを使用して、ペントバルビタールナトリウムの注射(80mg/kg体重)によって堵殺した。心筋細胞を、過去の記載(Yuら、2000年)に従って、イヌ心室から単離した。マウス心筋細胞について記載された手順(Zhouら、2000年)を修正して、イヌ心筋細胞の初代培養の方法とした。心筋細胞を、マウスのラミニン(10μg/ml)であらかじめコートしたカバーガラス上に、2.5%ウシ胎仔血清(FBS)および1%ペニシリン/ストレプトマイシン(PS)を含有する基礎培地(MEM)中の0.5〜1×104細胞/cm2で播種した。5% CO2インキュベーター中、37℃で1時間培養した後、培地をFBSを含有しないMEMに交換した。24時間後に幹細胞を添加し、共培養物を、5%FBSを有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中に維持した。全ての実験で、Cell Tracker Green(Molecular Probes製、Eugene、オレゴン州)を使用して、同時培養したhMSCをHeLa細胞と区別した(Valiunasら、2000年)。
【0121】
卵母細胞を、成熟した雌のアフリカツメガエルから、過去に記載された(Yuら、2004年)承認されたプロトコールに従って調製した。
【0122】
心筋細胞および卵母細胞における野生型および変異型HCNチャネルの発現
マウスHCN2(mHCN2、GenBank AJ225122)またはマウスHCN4(mHCN4、GenBankに寄託中)をコードするcDNAを、pCI哺乳動物発現ベクター(Promega製、Madison、ウィスコンシン州)中にサブクローニングした。得られたプラスミド(pCI-mHCN2またはpCI-mHCN4)を、指示に従って、新生仔ラットの心室筋細胞への形質移入のために使用した。成功したDNA導入の視覚マーカーとしての高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)の遺伝子を発現する別のプラスミド(pEGFP-CI;Clontech製、Palo Alto、カリフォルニア州)を、全ての形質移入実験に含めた。形質移入のために、まず、2μgのpCI-mHCN2および1pgのpEGFP-CIを、10μlのリポフェクチン(Gibco Life Technologies製、Rockville、メリーランド州)を含有する200μlのSFM中、室温で45分間インキュベートした。次いで、混合物を、0.8mlのSFM中に懸濁した106個の細胞を含有する35mmのペトリ皿に添加した。CO2インキュベーター中、37℃で一晩インキュベートした後、プラスミドおよびリポフェクチンを含有する培地を捨て、2mlの新鮮なSFMで皿を再び満たした。パッチクランプ実験を、形質移入3〜5日後に蛍光顕微鏡法による検出可能なレベルのGFPを示す再懸濁細胞上で行った。
【0123】
発現効率向上のために、mHCN2のアデノウイルス構築物を調製した。遺伝子送達および遺伝子導入の手順は、過去に出版された方法(Ngら、2000年;Heら、1998年)に従った。CMVプロモーターの下流にmHCN2 DNAを含むDNA断片(EcoRI制限部位およびXbaI制限部位の間)をプラスミドpTR-mHCN2から得(SantoroおよびTibbs、1999年)、シャトルベクターpDC516(AdMaxTM;Microbix Biosystems製、Toronto、カナダ)中にサブクローニングした。得られたpDC516-mHCN2シャトルプラスミドを、35.5kbのE1欠失AdゲノムプラスミドpBHGΔE1,3FLP(AdMaxTM)と共に、E1補完HEK293細胞内に同時形質移入させた。これらの2つのベクターの組換えが成功した結果、アデノウイルスmHCN2(AdmHCN2)の産生に至り、次いで、これを、プラーク精製し、HEK293細胞中で増幅し、CsClバンド形成後に収集したところ、少なくとも1011ffu/mlのタイターに達した。
【0124】
また、マウスmHCN2のアデノウイルス構築物(AdmHCN2)も、過去の記載(Quら、2001年)に従って調製した。mE324A点変異を、mHCN2配列に、QuickChange(登録商標)XL Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene製、La Jolla、カリフォルニア州)を用いて導入し、pDC515シャトルベクター(AdMax(商標)、Microbix Biosystems製)中にパッケージして、pDC515mE324Aを生み出した。次いで、pDC515mE324Aを、pBHGfrtΔE1,3FLPと共に、E1補完HEK293細胞内に同時形質移入させた。次いで、アデノウイルス構築物AdmE324Aを収集し、CsClで精製した。以前の研究(Quら、2003年)と一貫させるために、in vivoでの注入のための試料を調製する際に、全容量700μl中で、3×1010ffuの各アデノウイルスを等量のGFP発現アデノウイルス(AdGFP)と混合した。
【0125】
ラット心室筋細胞のAdHCN2感染を、単離した細胞をカバーグラス上に播種した2〜3時間後に行った。培地を皿(35mm)から除去し、AdHCN2を含有する0.2〜0.3ml/皿の接種材料を添加した。m.o.i.(multiplicity of infection: 感染効率--ウイルス単位の細胞に対する比)は、15〜100であった。接種材料を、20分毎に皿を静かに傾けることによって、細胞全体に分散させ、その結果、細胞はウイルス粒子に均一に曝された。2時間の吸着期間の間、皿をCO2インキュベーター中、37℃で保ち、次いで、接種材料を捨て、皿を洗浄し、適切な培地で再び満たした。皿を、インキュベーター中に24〜48時間さらに保った後、電気生理学的実験を行った。
【0126】
新生仔の心室筋細胞のアデノウイルス感染を、最初の播種4日後に、細胞の単層培養物上で行った。細胞を、ウイルスを含有する混合物(m.o.i.: 20、250μlの倍地中)に2時間曝し、2回すすぎ、SFM中、37℃、5% CO2下、24〜48時間インキュベートした後、上記に記載するように再懸濁し、電気生理学的研究に供した。以前の実験では、AdGFPを利用したが、AdmHCN2にin vitroで曝した>90%の細胞が電流を発現することが見出された(Quら、2001年)ことから、その後の実験では、感染した細胞の選択を助ける目的での、細胞のAdGFPとの同時感染は行わなかった。
【0127】
アフリカツメガエル卵母細胞におけるHCNの発現のために、卵母細胞に、マウス野生型mHCN2プラスミドおよびマウス変異mHCN2(E324A)プラスミドから作られた5ngのcRNAを注入した。注入卵母細胞を、18℃で24〜48時間インキュベートした後、電気生理学的解析に供した。
【0128】
培養心筋細胞および卵母細胞における電気生理学的測定
電位および電流信号を、パッチクランプ増幅器(Axopatch 200)を使用して記録した。電流信号を、16ビットA/D変換器(Digidata 1322A、Axon Instruments製、Union City、カリフォルニア州)を用いてデジタル化し、パーソナルコンピュータに保存した。データの取得および解析を、pCLAMP 8ソフトウエア(Axon Instruments製)を用いて行った。カーブフィッティングおよび統計解析を、SigmaPlotおよびSigmaStat(SPSS製、Chicago、イリノイ州)をそれぞれ使用して行った。
【0129】
全細胞パッチクランプ法を利用して、培養筋細胞からのmHCN2電流を記録した。実験を、35℃で灌流した細胞上で行った。外部溶液は、以下をmM単位で含有し、pH 7.4であった: NaCl、140;NaOH、2.3;MgCl2、1;KCl、10;CaCl2、1;HEPES、5;グルコース、10。MnCl2(2 mM)およびBaCl2(4 mM)を添加して、その他の電流を遮断した。ピペット溶液は、以下をmM単位で含有し、pH 7.2であった: アスパラギン酸、130;KOH、146;NaCl、10;CaCl2、2;EGTA-KOH、5;Mg-ATP、2;HEPES-KOH、10。
【0130】
HCNの活性化曲線を測定するために、標準的な2段階プロトコールを利用した。mHCN2に関しては-25から-135mVまでの過分極化段階、およびmE324Aに関しては-5または-15から-135mVまでの過分極化段階を、-10mVの保持電位から適用し、(-125また-135mVまでの)テール電流段階が続いた。mHCN2チャネルの場合、過分極化電位が低いほど、試験段階の持続期間はより長く、全ての電位で、定常状態の活性化により近づいた。テール電流対試験電位の規準化したプロットを、ボルツマン関数に当てはめ、次いで、フィッティングから活性化の最大半量の電位(V1/2)および勾配因数(s)を定義した。活性化の動態を、同一の記録から決定し、非活性化の動態を、-135mVまでの前パルスによって完全な活性化を達成した後の各試験電位で記録した記録から決定した。次いで、時定数を、活性化または非活性化の電流の記録の早期の時間経過を単一指数関数に当てはめることによって求めた。初期の遅延および後期の緩慢な活性化または非活性化のいずれかの相は、無視した(Quら、2001年;Atomareら、2001年)。電流密度を、試験電位の終わりに測定し、細胞膜の静電容量に対して規準化した、電流の振幅の時間依存性の成分の値として表した。液間電位差に関しては、記録を補正しなかった。液間電位差は、これらの条件下で9.8mVであると過去に決定された(Quら、2001年)。
【0131】
アフリカツメガエル卵母細胞における測定のために、卵母細胞を、2微小電極電位固定法を使用して電位固定した。細胞外記録溶液(OR2)(pH 7.6)は、以下をmM単位で含有した: NaCl、80;KCl、2;MgCl2、1;およびNa-HEPES、5。発現したWt mHCN2の定常状態の活性化を記録するために、電流を、10mVずつ増加させる-30mVと-160mVとの間の2秒間の過分極化パルス、次いで、+15mVまでの1秒の脱分極化パルスによって誘発した。保持電位は、-30mVであった。mHCN2(E324A)の場合、電流を、10mVずつ増加させる+20mVと-130mVとの間の3秒間の過分極化パルス、次いで、+50mVまでの1秒の脱分極化パルスによって誘発した。保持電位は、+20mVであった。野生型(Wt)mHCN2の場合の電流/電位の関係を構築するために、細胞を-30mVで保持し、電流を、活性化を飽和させる-140mVまでの2秒の過分極化電位段階、次いで、10mVずつ増加させる-80mVと+50mVとの間の2秒の脱分極化電位段階によって誘発した。mHCN2(E324A)の場合、細胞を+20mVで保持し、電流を、活性化を飽和させる-110mVまでの1.5秒の過分極化電位段階、次いで、テール電流を記録するための10mVずつ増加させる-80mVと+50mVとの間の1.5秒の脱分極化電位段階によって誘発した。Wt mHCN2の場合、電流の振幅を記録するために、電流を、-30mVの保持電位から-120mVまでの3秒の過分極化電位パルスを適用することによって誘発した。mHCN2(E324A)の場合、電流を、+20mVの保持電位から-120mVまでの3秒の過分極化電位パルスを適用することによって誘発した。
【0132】
データを平均±SEMとして示す。実験データを、適宜、スチューデントt検定またはイェーツ補正を伴うカイ二乗検定を使用して比較した。比較するにあたって、同一の培養からの対応する細胞を使用し、各比較に少なくとも3つの別々の培養物からのデータをプールした。
【0133】
心筋細胞におけるmHCN2およびmE324Aによって誘発されたペースメーカー電流
過去の実験によって、培養中の新生仔ラット筋細胞におけるHCN2の過剰発現が、拍動速度を増加させるペースメーカー電流を誘発すること、ならびにHCN2のペースメーカー遺伝子の変異および/または適切なアクセサリーチャネルサブユニットの追加が、発現した電流の特徴を変化させ、これには拍動速度のさらなる増強が期待されるであろうことが示されている(米国特許第6849611号;Quら、2001年;Quら、2004年)。また、HCN2を発現するAdによる感染は、単層培養物の同調的な拍動の自発的な拍動速度を顕著に増加させた(米国特許第6849611号;Quら、2001年)。また、筋細胞培養物に、HCN2アデノウイルスおよびGFPタグ付きMiRP1またはHAタグ付きMiRP1のいずれかを保有する第2のウイルスを感染させた。MiRP1は、HCN2のベータサブユニットである。その結果、電流の大きさ、ならびに活性化および非活性化の動態の加速度が顕著に増加した(Quら、2004年)。
【0134】
本明細書に記載する全細胞電位固定実験では、mHCN2を発現する筋細胞およびmE324Aを発現する筋細胞の両方は、過分極化電位に応答して内向き電流を引き起こす。-10mVの保持電位からの-25から-125mVまでの範囲に及ぶ試験電位で求めた代表的な規準化した電流の記録を、図4AおよびBに示す。挿入図の拡大した電流から、mE324Aチャネルの活性化の閾値も、mHCN2チャネルの活性化の閾値も、負の値を示すが、前者の絶対値は、後者の絶対値よりも小さいことが明らかである。
【0135】
mHCN2とmE324Aとの間の活性化の電位依存性の差は、図4Cに示す電流-電位の関係の平均からより明らかである。曲線は、上記に記載したように、テール電流から求めた。個々の活性化曲線はそれぞれ、ボルツマンの式に当てはまり、全細胞から計算した中間点(V1/2)および勾配因数(s)を、平均して統計的に比較した。mHCN2を発現する細胞(n=14)およびmE324Aを発現する細胞(n=16)の平均パラメーターはそれぞれ、V1/2=-66.1±1.5mVおよび-46.9±1.2mV(P<0.05)、ならびにs=10.7±0.5mVおよび9.6±0.4mV(p>0.05)であった。したがって、卵母細胞において過去に得られたデータ(Chenら、2001年)と一致し、本明細書で確認されるように(図6〜9を参照)、mHCN2とmE324Aの両方の構築物を新生仔の筋細胞で発現させた場合、mE324A変異は、結果的に、活性化曲線をmHCN2よりも正にシフトさせた。
【0136】
mE324Aチャネルの活性化動態は、mHCN2の活性化動態より迅速なように見える(図4AおよびBの挿入図)。この差を実証するために、活性化および非活性化の時定数を、上記に記載したように、異なる電位で測定して平均した(図4D)。これらのデータは、mE324Aチャネルに関して観察されたより迅速な活性化動態がゲーティングの動態の電位依存性の正のシフトによったことを示している。活性化および非活性化の両方の電位依存性が、正にシフトし、その結果、非活性化を測定した正の電位において、mE324Aの場合の非活性化がmHCN2の場合の非活性化より緩慢となった。さらに、このシフトは、電流-電位の関係のシフトに共通する。実際に、動態-電位の関係の相対ピークは、過去に決定されたV1/2の値と一致した。
【0137】
活性化の関係および動態における正のシフトの結果として、mE324Aの場合、mHCN2と比較して、より多くの電流が、心臓サイクルのより早期に通過するようになることが期待されるであろう。しかし、生物学的ペースメーカーとして有益であるためには、また、自律的な応答性を保存することも必要である。この点を評価するために、mHCN2およびmE324Aの活性化曲線を、ピペット溶液中のcAMPの非存在下および存在下で比較した(図5)。両方のチャネルは、図5の簡単な説明で詳述するように、飽和する細胞内cAMPの存在に応答した。
【0138】
また、変異チャネルおよび野生型が電流を発現したか否かについても検討した。6つの対応する細胞培養物において、mE324A電流を発現する筋細胞の割合は、mHCN2を発現する割合より顕著に低かった(それぞれ、93個の細胞の36.6%対47個の細胞の74.5%、P<0.05)。さらに、電流を発現した細胞において、(-135mVで測定した)mE324A電流密度は、mHCN2の電流密度より約2.5倍小さかった(それぞれ、21.0±3.5pA/pF、n=12対53.5±8.7pA/pF、n=10、P<0.05)。
【0139】
アフリカツメガエル卵母細胞におけるmHCN2およびmE324Aによって誘発されたペースメーカー電流
図6は、非相同的に発現させた電流の活性化の特性および動態を示す。卵母細胞において、mHCN2は、mE324Aより35mV負に活性化する。mE324Aの場合、このより正の活性化には、mE324Aに関する活性化の動態の電位依存性のシフトおよび活性化の中間点におけるより迅速な動態の両方が伴う。mHCN2およびmE324Aの両方は、8-Br-cAMP(1mM)の適用に応答して、活性化が正にシフトした(図7)。mHCN2の場合、cAMPは、Vhを約8mVシフトさせた(Vhの値は、コントロールで-92.7mV±1.1mV、およびcAMPで-84.9mV±0.7mV(n=6、P<0.01)であり、対応する勾配(s)の値は、13.9mV±1.0mVおよび9.5mV±0.6mV(n=6、p>0.05)であった)。mE324Aの場合、cAMPは、Vhを約7mV正にシフトさせた(Vhの値は、コントロールで-57.3mV±1.6mV、およびcAMPで-48.9 mV±1.8mV(n=9、P<0.01)であり、対応する勾配(s)の値は、15.2mV±1.3mV、および19.7mV±0.1mV(n=9、p>0.05)であった)。
【0140】
mHCN2およびmE324Aの両方は、5mM Cs+で遮断される内向き電流を発生させ、逆転電位は、-40mV付近であった(図8)。最後に、単一の電位パルスを飽和(-120mV)付近で適用して、mHCN2およびmE324Aの発現レベルを比較した。HCN2が誘発した電流は、912.7±63.7nA、n=9であり、E324Aが誘発した電流は、579.8±18.2nA、n=9(P<0.01)であった。したがって、mE324Aを発現する卵母細胞の場合、発現が顕著に減少した(図9参照)。
【0141】
[実施例2]
in situでの心臓におけるHCNチャネルの過剰発現によるペースメーカー活動の誘発
HCN2がin situでの心臓においてペースメーカー電流を誘発する
心臓に固有の伝導系の二次的なペースメーカー組織または心筋の非ペースメーカー細胞のいずれかにおけるIfの過剰発現が、病巣にペースメーカー活動を提供して、洞房結節の優位なペースメーカー機能が存在しない場合、または活動電位が房室結節を介して伝播できない場合に、「要求」モードで心臓を動かすことができるであろうと仮定された。HCN2の動態がHCN4の動態より都合がよく、HCN2のcAMP応答性がHCN1のcAMP応答性より高いことから、関心は、HCN2に集中した。初期の実験は、培養中の新生仔ラット筋細胞で行われた。これらの実験は、過剰発現したペースメーカー電流が拍動速度を増加させることができ、さらに、HCN2ペースメーカー遺伝子の変異および/または適切なアクセサリーチャネルサブユニットの追加が、発現した電流の特徴を改変させることができ、これには拍動速度のさらなる増強が期待されることも示した(米国特許第6849611号;Quら、2001年;Quら、2004年;Chenら、2001年b;Plotnikovら、2005年a)。これらの新生仔心室筋細胞は、小さな内因性のペースメーカー電流を現し、HCN2を保有するアデノウイルスに感染させると、顕著により大きなペースメーカー電流を発現する。HCN2および緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するAdに感染させた単層の培養物の自発的な拍動速度を、対照としてのGFPおよびマーカーを組み入れたウイルスと比較したところ、HCN2/GFP発現培養物の拍動速度は顕著に速かった(Quら、2001年)。
【0142】
細胞培養の研究の望みをもたせる結果および含蓄に基づいて、概念証明が、アデノウイルスベクター中の少量のHCN2遺伝子およびGFP遺伝子をイヌ左心房に注入することによって試験された(Quら、2003年)。動物の回復後、右迷走神経を刺激して、洞房の緩徐化および/またはブロックを誘発した。この状況では、ペースメーカー活動が、左心房で起こり、アデノウイルスの注入部位にペースマップされた。迷走神経の刺激の強度を増加させ、左迷走神経の刺激も加えた結果、生物学的ペースメーカー活動の休止に至り、このことは、副交感性の応答性を意味する。心房筋細胞は、注入部位から脱凝集し、過剰発現したペースメーカー電流を示した。要するに、これらの結果は、そのようは過剰発現したペースメーカー電流は洞の緩徐化の状況下で回避拍動を提供できたことを示す(Quら、2003年)。
【0143】
次の段階では、同一のアデノウイルスHCN2/GFP構築物を、蛍光顕微鏡的制御下で、イヌの近位の左心室の伝導系にカテーテルで注入することになった(Plotnikovら、2004年)。このように注入された動物は、洞調律を迷走神経の刺激によって抑制すると、50〜60bpmの速度を有する心室固有の律動を示した。HCN2群の場合、律動は注入部位にマップされた。脚組織を心臓から取り出し、微小電極を用いて研究したところ、HCN2を注入した脚組織の自動性が、対照標本の自動性を上回る、すなわち、HCN2を注入した脚が発生させる自発的な速度は、食塩水またはGFPを保有するウイルス単独のいずれかを注入した脚が発生させる速度より顕著に大きいことが見出された(Plotnikovら、2004年)。
【0144】
生物学的ペースメーカー機能の予想指標としてのイオン電流の生物物理学的特性
新生仔ラット筋細胞(図4および5)およびアフリカツメガエル卵母細胞(図6〜9)における研究から、mHCN2およびmE324Aの機能に関して一致した結果を得た。これらのin vitroの状況において、mE324A変異がmHCN2と比較してより迅速で、より正のペースメーカー電流の活性化を誘発したことから、変異チャネルは、食塩水を注入したまたはmHCN2を注入した心臓で生じる場合と比較して、より迅速なペースメーカー速度および/またはオーバードライブペーシング後のより短い回避間隔をもたらすであろうことが示唆されると解釈することができよう。しかし、食塩を注入したin situでの心臓およびmHCN2を注入したin situでの心臓の両方が、mE324Aを注入した心臓と同等な回避時間を示した。自動的な速度自体に関しては、mHCN2を注入した心臓の場合とmE324Aを注入した心臓場合とでは同等であり、共に、食塩水を注入した心臓よりも顕著に迅速であった。換言すれば、2つの重要な記述子、すなわち、達成した速度およびオーバードライブ抑制に関しては、in situにおけるmHCN2の効果とmE324Aの効果との間には明確な差は存在しなかった。
【0145】
これについては、1つには、mE324A電流を発現する筋細胞の割合が、mHCN2を発現する筋細胞の割合より顕著に少なかったと説明することができる。さらに、mE324A群の電流密度の方が小さかった。したがって、所与の電位において、mE324Aの場合、mHCN2と比較して、チャネルのうちのより大きな割合が、より迅速に活性化するが、-55mV等の生理学的に適切な電位においては、利用可能なチャネルの全数または正味の電流が、ほぼ同等であると思われる(図4の挿入図を参照)。
【0146】
生物物理学的な結果から、以下に示す範囲のin situにおける結果が予想された: mE324Aの密度は、mHCN2の密度より小さいこと、およびmE324Aの活性化は、mHCN2の活性化より正でありかつ迅速であることを示す生物物理学的データから、ペースメーカー速度に関しては、どちらの構築物にも優位性がないであろうことが示唆されるであろう。mE324AのcAMP応答が、mHCN2のcAMP応答より正であるという知見から、in situにおけるmE324Aのエピネフリンに対する応答の大きさまたは感受性は、mHCN2の応答の大きさまたは感受性より大きいであろうことが示唆されるであろう。事実、in situにおける研究は、いずれの構築物にも速度の優位性はないが、mE324A変異体はエピネフリンに対するより大きな応答を有することを示した。これは、生物物理学的知見と臨床の含蓄との間の一致を示すのみならず、以下の仮説もまた導く: 第1に、十分な電流密度がある限り、生物学的ペースメーカー機能においては、活性化曲線の正の位置および/またはより迅速な動態が、絶対電流密度より重要であり、第2に、アドレナリン作動性応答性は、電位シフトの大きさよりも、cAMPの存在下の活性化曲線の最終的な位置によって決まる。
【0147】
[実施例3]
ヒト間葉系幹細胞を用いる細胞療法
細胞培養
ヒト間葉系幹細胞(hMSC;間葉系幹細胞、ヒト骨髄;Poietics(商標))を、Clonetics/BioWhittaker(Walkersville、メリーランド州、米国)から購入し、間葉系幹細胞(MSC)増殖培地で培養し、継代2〜4回後に使用した。単離および精製したhMSCは、独特の特性、すなわち、正常な核型およびテロメラーゼ活性を失うことなく、多数(12)回培養することができる(van den Bosら、1997年;Pittengerら、1999年)。
【0148】
ラットCx40、ラットCx43またはマウスCx45を形質移入したHeLa細胞を、hMSCと共に同時培養した。形質移入HeLa細胞の産生、特徴付けおよび培養条件は、過去に記載されている(Valiunasら、2000年;2002年)。
【0149】
抗コネキシン抗体、免疫蛍光標識化および免疫ブロット解析
Cx40、Cx43およびCx45の市販され入手可能なマウス抗コネキシンモノクロナール抗体およびマウス抗コネキシンポリクロナール抗体(Chemicon International製、Temecula、カリフォルニア州)を、以前の記載(LaingおよびBeyer、1995年)に従って、免疫染色および免疫ブロットに使用した。フルオレセイン結合ヤギ抗マウスIgGまたはフルオレセイン結合ヤギ抗ウサギIgG(ICN Biomedicals, Inc.製、Costa Mesa、カリフォルニア州)を、二次抗体として使用した。
【0150】
ギャップ結合の電気生理学的測定
付着細胞を有するカバーガラスを、NaCl、150;KC1、10;CaCl2、2;Hepes, 5;グルコース、5(それぞれ、mM)を含有する浴溶液(pH 7.4)を用いて室温(約22℃)で灌流した実験チャンバーに移動させた。パッチピペットを、アスパラギン酸カリウム、120;NaCl、10;MgATP、3;Hepes、5(pH 7.2);EGTA, 10(それぞれ、mM)を含有し、0.22μmのポアでろ過した溶液(pCa 〜8)で充填した。充填後、ピペットの抵抗を測定すると、1〜2MΩであった。実験を、二重電位固定を使用して細胞対上で行った。この方法によって、膜電位(Vm)の制御および関連する接合部の電流(Ij)の測定が可能となった。
【0151】
色素流動研究
ギャップ結合チャネルを介する色素の移動を、細胞対を使用して調査した。Lucifer Yellow(LY;Molecular Probes製)を、2mMの濃度に達するまでピペット溶液に溶解した。16ビット、64000ピクセルの白黒濃淡のデジタルCCDカメラ(LYNXX 2000T、SpectraSource Instruments製、Westlake Village、カリフォルニア州)を使用して、蛍光色素の細胞から細胞への広がりの像を作った(Valiunasら、2002年)。非相同的な対を用いた実験では、LYを、Cell Tracker Greenでタグ付けした細胞に常に注入した。注入細胞のLYに由来する蛍光強度は、Cell Tracker Greenからの初めの蛍光よりも10〜15倍高かった。
【0152】
ヒトMSCがコネキシンを発現する。
コネキシンであるCx43およびCx40は、典型的な点状の染色によって証明されるように、密接な細胞から細胞への接触領域に沿って、および培養により単層として増殖したhMSCの細胞質の領域内に免疫局在した(図10AおよびB)。また、Cx45の染色も検出されたが、Cx43またはCx40の染色とは異なり、細胞内のコネキシンの分布の典型的なものではなかった。むしろ、その特徴は、微細な顆粒状の細胞質および網様の染色であり、膜に結合するプラークは容易には観察されなかった(図10C)。これは、Cx45チャネルの存在の可能性を排除するわけではなく、Cx43およびCx40のホモタイプ、ヘテロタイプおよびヘテロマーのチャネルと比較して、Cx45チャネルの数が少ないことを意味する。図10Dは、イヌ心室筋細胞およびhMSCのCx43ポリクロナール抗体を用いたウエスタンブロット解析を示し、これは、Cx43のhMSC中の存在をさらに証明する。
【0153】
hMSCと種々の細胞系との間のギャップ接合部の共役
hMSC間のギャップ接合部の共役を、図11に示す。hMSCの対の間で記録した接合部の電流は、準対称的(図11A)および非対照的(図11B)な電位依存性を示し、これらは、振幅は等しいが、符号が反対の、20mVずつ増加させる±10mVから±110mVまでの対称的な10秒の接合部を越える電位の段階(Vj)に応答して生じたものである。これらの挙動は、Cx43およびCx40を同時発現する細胞で典型的に観察される(Valiunasら、2001年)。
【0154】
図11Cは、hMSC対から得たデータの概要を示す。規準化した瞬時(gj,inst、○)および定常状態(gj,ss、●)のコンダクタンスの値をVjに対してプロットした(それぞれ、各Vj段階の初めおよび終わりに決定した)。左図は、5つのhMSC対からの準対称的な関係を示す。実線の曲線は、データのボルツマンの式への最良のフィッティングを示し、それは、以下のパラメーターを有する: 負/正のVjのそれぞれについて、非活性化半量電位、Vj,0=-70/65mV;最小gj、gj,min=0.29/0.34;最大gj、gj,max=0.99/1.00;ゲーティング電荷、z=2.2/2.3。6つの非対照的な場合からのプロットの概要を、右図に示す。gj,ssは、負のVjでは、S字型を示して減少し、正のVjに対しては電位感受性の低下を示した。負のVjでのボルツマンフィッティングは、以下の値を示した: Vj,0=-72mV、gj,min=0.25、gj,max=0.99、z=1.5。
【0155】
図11DおよびEは、hMSC対からの典型的なマルチチャネル記録を示す。120mMアスパラギン酸Kをピペット溶液として使用して、チャネルを、28〜80pSの範囲の単位コンダクタンスで観察した。約50pSのコンダクタンスでのチャネルの動作(図11Dを参照)は、Cx43のホモタイプのチャネルについて過去に出版された値(Valiunasら、1997年;2002年)と一致する。このことは、その他のチャネルの型を締め出すわけではなく、hMSCにおいてはCx43が機能的なチャネルを形成することを示唆するに過ぎない。
【0156】
共役の性質をさらに定義するために、hMSCを、Cx43、Cx40およびCx45を安定に形質移入したヒトHeLa細胞と共に同時培養した(Elfgangら、1995年)ところ、hMSCは、全てのこれらの形質移入体と共役できることを見出した。図12Aは、hMSCとHeLaCx43との間の細胞対で記録した接合部の電流の例を示し、これは、一連(±10mVから±110mVまで)の対称的な接合部を越える電位の段階(Vj)に応答した、対照的および非対照的な電位依存性電流を現す。準対照的な記録は、優位な機能的なチャネルは、ホモタイプのCx43であることを示唆し、非対照的な記録は、hMSCにおける別のコネキシン(免疫組織化学が示すように、多分Cx40、図10を参照)の活性を示唆し、これは、ヘテロタイプまたはヘテロマーの形態のいずれか、あるいは両方であろう。これらの記録は、形質移入細胞: Cx40およびCx43のへテロタイプおよび混合(ヘテロマー)の形態について出版された記録(Valiunasら、2000年;2001年)に類似する。また、hMSCとCx40を形質移入したHeLa細胞との同時培養(図12B)も、hMSCにおけるCx43およびCx40の同時発現と一致する対称的および非対称的な電位依存性接合部電流を示し、これは、Cx43 HeLa-hMSC対のデータに類似した。hMSCと共役した、Cx45を形質移入したHeLa細胞は、Cx45(HeLa)側が負である場合には、明白な電位ゲーティングを有する非対称的な接合部電流を常に生じた(図12C)。これは、Cx43およびCx40の両方が、Cx45とヘテロタイプのチャネルを形成すると、非対称的な電流を発生させることから、hMSCにおける優位なチャネルの形態がCx43およびCx40である(Valiunasら、2000年;2001年)ことと一致する。これは、hMSCにおいて機能するチャネルとして、Cx45を排除するわけではなく、Cx45は、hMSCにおいては、細胞から細胞への共役に副次的に寄与することを示す。Cx45の免疫染色において可視化したプラークを認めないこと(図10)は、この解釈をさらに支持するものである
【0157】
hMSCと形質移入HeLa細胞との対からのgj,ss対Vjのプロットの概要を、図12Dに示す。左図は、hMSC-HeLaCx43対からの結果を示す。対称的なデータ(●、4つの標本)の場合、ボルツマンフィッティング(実線)から以下のパラメーターを得た: 負/正のVjについて、Vj,0=-61/65mV、gj,min=0.24/0.33、gj,max=0.99/0.99、z=2.4/3.8。非対称的なデータ(○、3つの標本)の場合、負のVjの値でのボルツマンフィッティング(実線)は、以下のパラメーターの値を示した: Vj,0=-70mV、gj,min=0.31、gj,max=1.00、z=2.2。中央図は、hMSC-HeLaCx40対からのデータを示し、3つの対称的(●)および2つの非対称的(○)なgj,ss-Vjの関係を含む。実線は、対称的なデータのボルツマンフィッティングに対応し(負/正のVjについて、Vj,0=-57/76mV、gj,min=0.22/0.29、gj,max=1.1/1.0、z=1.4/2.3)、破線は、非対称的なデータのフィッティングである(負/正のVjについて、Vj,0=-57/85mV、gj,min=0.22/0.65, gj,max=1.1/1.0、z=1.3/2.2)。hMSC-HeLaCx45細胞対からの6回の完了した実験からのデータを、右図に示す。gj,ss対Vjのプロットは、非対称性が強く、正のVjの値でのデータのボルツマンの式への最良のフィッティングは、以下のパラメーターの値を示した: Vj,0=31mV、gj,min=0.07、gj,max=1.2、z=1.8。
【0158】
図12Eは、Lucifer YellowのhMSCからhMSCへ(上図)、HeLaCx43からhMSCへ(中央図)、およびhMSCからHeLaCx43へ(下図)の移動を示す。細胞対の接合部のコンダクタンスを、以前に記載された方法(Valiunasら、2002年)によって同時に測定したところ、コンダクタンスはそれぞれ、約13、約16および約18nSを示した。Lucifer Yellowの移動は、ホモタイプのCx43またはHeLa細胞中で同時発現したCx43およびCx40に関して過去に報告されたもの(Valiunasら、2002年)に類似した。Cell Tracker Green(Molecular Probes製)を、2つの細胞集団のうちの1つに常に使用して、非相同的な対の同定を可能にした(Valiunasら、2000年)。Lucifer Yellowは、細胞トレーサーを含有する細胞に常に送達された。Cell Tracker Greenが発生させた蛍光強度は、源細胞に送達されたLucifer Yellowの濃度によって発生した蛍光強度よりも10〜15倍弱かった。
【0159】
また、図13に示すように、ヒトMSCを、成体イヌ心室筋細胞と共に同時培養した。図13Aに示すように、Cx43の免疫染色を、桿状の心室筋細胞とhMSCとの間に検出した。hMSCは、心筋細胞と電気的に共役する。巨視的(図13B)およびマルチチャネル(図13C)の両方の記録を得た。図13Bの接合部の電流は、非対称的であり、図13Cの電流は、ホモタイプCx43チャネルまたはヘテロタイプCx43-Cx40チャネルまたはホモタイプCx40チャネルの動作の結果、典型的に生じる大きさの範囲の単一の現象を示す(Valiunasら、2000年;2001年)。また、コンダクタンスがホモタイプまたはヘテロタイプの形態と同一またはそれに類似するヘテロマー形態も可能である。
【0160】
細胞対の研究によって、hMSCと、その他のhMSCと(13.8±2.4nS、n=14)、HeLaCx43と(7.9±2.1nS、n=7)、HeLaCx40と(4.6±2.6nS、n=5)、HeLaCx45と(11±2.6nS、n=5)、および心室筋細胞と(1.5±1.3nS、n=4)の有効な共役が実証された。
【0161】
hMSCの生物学的ペースメーカーのための送達プラットフォームとしての使用
ヒトMSCは、生物学的ペースメーカーを心臓に送達するための好都合なプラットフォームの候補としてとみられている。その根拠の一部として、ヒトMSCは、免疫特権を有する可能性があり、したがって、拒絶応答を引き起こさないことが期待されることが、Liechtyら(2000年)によって示唆されている。これは、重要である。というのは、生物学的ペースメーカーと電気的ペースメーカーとの間のトレードオフの点で、前者のアプローチを使用する際に、何らかの免疫抑制を必要とすることは、細胞療法のアプローチにとっては不利益となり、臨床的には望ましくないからである。
【0162】
ヒトMSCは、市販品として、または骨髄から容易に得られ、CD44およびCD29の表面マーカーの存在によって、ならびに造血性前駆細胞に特異的である、その他のマーカーが存在しないことによって同定される。遺伝子チップ解析を使用して、hMSCは、HCNアイソフォームのメッセージを保有しないことが決定された。重要なことには、また、hMSCは、ギャップ接合部タンパク質、コネキシン43の顕著なレベルのメッセージも有する。後者の観察は、重大な意味をもつ。というのは、プラットフォーム療法の背後の理論は、hMSCに対象の遺伝子、例えば、HCN2を積み、心筋に移植するというものであるからである(Rosenら、2004年)。しかし、細胞に信号を積んでも、細胞が近傍細胞と機能的な連絡を形成しない限り、効果がないであろう。hMSCの送達プラットフォームとしての使用の根底にある原理の概要を、図1に示す。手短にいうと、正常な洞房結節では、膜の過分極が内向き(If)電流を開始し、これは、第4相の脱分極および自律的な律動を発生させる。膜電位の変化の結果、電流が低い抵抗のギャップ結合を介して流れることになり、その結果、活動電位が1つの細胞から次の細胞へと伝播する。hMSCのプラットフォームとしての使用では、hMSCに対象の遺伝子、例えば、HCN2を積むことになる。好ましくは、その際、エレクトロポレーションを用い、それによって、製法からのウイルス成分のいずれをも避ける(Rosenら、2004年;Rosen、2005年;Cohenら、2005年;Potapovaら、2004年)。hMSCを、隣接する筋細胞と有効に共役させる必要があるであろう。これが生じれば、次いで、共役した筋細胞の高度に負の膜電位が、hMSCを過分極させて、HCNチャネルを開口させ、内向き電流が流れるのを可能にするであろう。次いで、この電流は、低い抵抗のギャップ結合を介して伝播し、共役した筋細胞を脱分極させて閾値電位まで導き、その結果、活動電位に至り、次いで、これが、伝導系をさらに伝播するであろう。換言すれば、hMSCおよび筋細胞のそれぞれが機構の必須の部分を保持する必要があるであろう。すなわち、筋細胞は、活動電位を発生させるイオン性の成分を担い、hMSCは、ペースメーカー電流を保持し、かつ--ギャップ結合が存在すれば--これら2つの別々の構造的な実体が、単一のとぎれのない生理的な単位として機能するであろう。
【0163】
そこで、重要な疑問は、ギャップ結合が、hMSCと筋細胞との間に形成されるか否かである。答えは、上記で開示した実験データが示すように、肯定的である。図10は、コネキシン43およびコネキシン40が、hMSC中で明確に実証可能であることを示している。その上、hMSCは、Cx43、Cx40またはCx45を発現する細胞系とも、イヌ心室心筋細胞とも、機能的なギャップ結合チャネルを形成する(全内容が参照によって本明細書に組み入れられている、Valiunasら、2004年も参照)。さらに、hMSCと、別のhMSCまたはHeLaCx43細胞との間のLucifer Yellowの通過(図12Eを参照)も、頑強なギャップ結合を介した共役を示している。Lucifer YellowのhMSCとCx43を形質移入したHeLa細胞との間の移動は、ホモタイプのCx43または同時発現したCx43およびCx40の移動に類似する。Cx40は、Cx43よりもLucifer Yellowに対する透過性が約5倍低いことから、ホモタイプのCx40は、優位なチャネルの型としては排除される(Valiunasら、2002年)。さらに、筋細胞に密接に近接するhMSC内に電流を注入すると、その結果、筋細胞へ電流が流れたこと(図13)は、機能的なギャップ結合の確立をさらに示している。
【0164】
これらのデータは、MSCが多くの組織の電気的な合胞体に容易に統合して、修復を促進するまたは治療的送達システムのための基質として役立つはずであることを示唆する。特に、データは、hMSCの心臓組織の修復のための治療的基質としての使用の可能性を支持している。また、血管平滑筋細胞または内皮細胞等のその他の合胞体も、Cx43およびCx40の偏在性から、hMSCと共役することができるはずである(Wangら、2001年a)。したがって、また、それらの合胞体も、hMSCに基づく治療学の対象となることができる。例えば、hMSCに形質移入して、イオンチャネルを発現させることができ、次いで、これらのイオンチャネルは、周囲の合胞体組織に影響を及ぼすことができる。または、hMSCに形質移入して、ギャップ結合を透過することが可能な小型の治療的分子を産生する遺伝子を発現させて、レシピエントの細胞に影響を及ぼすことができる。さらに、短期の治療の目的で、レシピエントの細胞に送達するために、小型の分子をhMSCに直接積むこともできる。そのようなアプローチの成功は、レシピエントの細胞への治療薬の送達のための最終的な導管としてのギャップ結合チャネルによって決まる。HCN2形質移入hMSCを自然律動を発生するイヌの心臓に送達することにより、第1のアプローチが可能であることを本明細書で実証した。
【0165】
別の疑問として、hMSCの自律的な応答性が挙げられる。Potapovaら(2004年)によって示されたように、HCN2を積んだhMSCへのイソプロテレノールの添加の結果、活性化のシフトが生じ、その結果、増加した電流がより正の電位で流れた。自然なHCN2に期待されるであろうと同様に、この結果は、ペースメーカー速度の増加に至るはずである。また、Potapovaら(2004年)は、hMSCが発現したIfのアセチルコリンに対する応答も調査した。アセチルコリン単独では、電流への効果はなかったが、イソプロテレノールの存在下では、アセチルコリンは、イソプロテレノールのβアドレナリン作動性の効果に拮抗した。これは、拮抗作用が強調された場合の生理的現象に全く一致する。
【0166】
また、HCN2を積んだヒトMSCをイヌの心臓に注入し、そこで、迷走神経の刺激を使用して、洞房のペースメーカー機能および/または房室の伝導を終止した(Potapovaら、2004年)。この結果、自発的なペースメーカー機能が生じ、これは、注入部位にペースマップされた。さらに、その部位から取り出した組織は、筋細胞とhMSC要素との間のギャップ接合部の形成を示した。最後に、この幹細胞は、ビメンチン染色に陽性であり、これは、これらが間葉系であることを示し、かつヒトCD44抗原に対して陽性であり、これは、細胞がヒト由来のhMSCであることを示した(Potapovaら、2004年)。
【0167】
予備的な研究で、Plotnikovら(2005年b)は、hMSCに基づく生物学的ペースメーカーの機能を、植込み後6週にわたり追跡し、発生した速度が安定であることを見出した。同等に重要なことには、免疫グロブリンおよびイヌリンパ球の染色を使用して、hMSCの拒絶が生じたか否かを決定した。2週および6週の時点を使用したが、液性の拒絶の証拠も、細胞性の拒絶の証拠も存在しなかった。これは、hMSCが免疫特権を有する可能性があることを示唆するLiechtyら(2000年)の以前の研究と一致する。より詳細な調査によって、このことが実証されれば、いずれの免疫抑制の必要性もなくなるであろう。
【0168】
したがって、総合的に、hMSCは、いくつかの理由で、ペースメーカーイオンチャネルを心臓に送達するための非常に魅力的なプラットフォームを提供するようである。すなわち、hMSCは、標準的な臨床介入によって、比較的多くの数で得ることができ;hMSCは、培養で容易に発展し;予備的な証拠から、hMSCは、導入遺伝子を長期に発現させることができ;かつhMSCの投与は、自家性であってもよいし、(hMSCが免疫特権を有することから)保存物からであってもよい。hMSCは、理論的には、自発的な活動が可能な心臓様細胞にin vitroで分化することができるであろうが、本明細書に記載した遺伝子操作のアプローチは、特異的な系譜に沿った分化に依存しない。さらに、このex vivo形質移入法は、DNAの組込みの強化を可能にし、細胞の操作は、絶対安全な死の機構を備える。したがって、成体hMSCは、生物学的ペースメーカー活動の対象の心臓における誘発のステップを含む、心臓の律動障害に罹患した対象を治療するための方法、およびそのような方法で使用するためのキットを作る場合に利用する好ましいイオンチャネル送達プラットフォームである。
【0169】
(1)遺伝子治療と(2)本明細書に記載した幹細胞治療との間のデザインの概念的および実際的な違いを強調することは重要である。両者は、共通の終点--生物学的ペースメーカーの送達--を有するが、遺伝子治療は、特異的なHCNアイソフォームを使用して、心臓の筋細胞を操作して、ペースメーカー細胞に変化させるが、hMSC療法は、幹細胞をプラットフォームとして使用して、特異的なHCNアイソフォームおよび/またはMiRP1アイソフォームを、筋細胞が本来の機能を保持する心臓に運ぶ。遺伝子治療は、筋細胞間にすでに存在するホモタイプの細胞から細胞への共役を利用して、ペースメーカー電流が過剰発現している筋細胞から本来の機能を保持する筋細胞へのペースメーカー活動電位の伝播を容易にする。対照的に、幹細胞は、コネキシンの若干異なる集団を有する細胞のヘテロタイプの共役に依存して、幹細胞から機能が未変化で残っている筋細胞へペースメーカー電流のみを送達する。重要なことには、かつ洞房結節細胞とは異なり、HCN 2を形質移入したhMSCは、活動電位を発生させるのに必要なその他の電流を欠くので、興奮性ではない。しかし、形質移入すると、これらの細胞は、脱分極化電流を発生させ、これが、共役した筋細胞に広がり、筋細胞を閾値まで動かす。実際は、筋細胞は、仕掛け線のようにふるまい、筋細胞の過分極で、幹細胞のペースメーカー電流にスイッチが入り、筋細胞の脱分極で、電流のスイッチが切れる。本明細書に提示したデータは、hMSCがペースメーカー遺伝子を含有し、心臓の筋細胞とギャップ結合を介して共役する限り、hMSCは、正常な一次ペースメーカーである洞房結節に類似する様式で心臓ペースメーカーとして機能することを示唆している。
【0170】
正常なペースメーカー機能に要求される生物学的ペースメーカーの質量
生物学的ペースメーカーは、(細胞の質量に関する)最適な大きさおよび長期の正常な機能のための最適な細胞から細胞への共役が必要である。幸運なことに、以前の研究において、使用したHCN構築物は、しかもin situでのイヌ心臓に投与した形質移入hMSCの数で、周囲の筋細胞に共役して機能し、さらに、顕著な、測定が容易なペースメーカー活動を発生させるまでに機能した。次いで、数学的モデルを使用して、機能を最適化するのに必要とする適切なhMSCの数および共役比が同定されている。
【0171】
数学的モデルを使用して、量子ドットナノ粒子(QD)を使用するin vivo幹細胞注入が再構築された。約120,000個のQDを含有するhMSCを、(z=4.9mmで)左心室自由壁に注入し、動物を注入1時間後に堵殺した。10μmの横切片を得、位相差オーバレイを用いて655nmでQDの蛍光を可視化して、組織の境界を示した。QDを、送達されたhMSC内に認め、心筋細胞内の単一のQD+細胞をより高い解像度で可視化した。230個の連続的な10μmの横切片からのQD+領域を同定し、心臓におけるQDクラスターの3D分布を再構築するために使用した。次いで、幹細胞内のIfの特性、活動電位の伝播への細胞の幾何学の効果、幹細胞の数、静止電位が誘発するIfの減少、および活動電位の伝播の要件を考慮に入れて、生物学的ペースメーカーを数学的に設計した。hMSCの半径は、7μmであると想定され、これは、105個の幹細胞のクラスターの半径が0.03cmであり、106個の幹細胞では0.07 cmであることを意味した。
【0172】
モデルから、105個以上の幹細胞が、筋肉の活動電位を発生させると思われ;筋肉に特徴的な入力抵抗は、約0.03cmで飽和し;Ifの電位依存性の減少により、幹細胞のクラスターから出る電流は、約0.03cmで飽和し、したがって、筋肉内のペースメーカー電位は、約0.03cmで飽和することが示された。約0.03cm 以上の半径の細胞の殻が閾値に達すれば、筋肉内の活動電位の自立した伝播が本質的に保証されると結論付けられた。これは、1,000,000個の幹細胞を注入した場合、生物学的ペースメーカーを生み出すためには、わずか10%が残存する必要があることを意味する。これらの結論は、本明細書で開示したin situでの心臓組織におけるペースメーカー活動の誘発に関する実験結果と一致する。
【0173】
[実施例4]
生物学的歩調取りのためのキメラのHCNチャネルの使用
キメラのHCNチャネルの構築
HCNキメラを構築するために、まず、HCN遺伝子を発現ベクターへサブクローニングする。例えば、HCN1〜4をコードする哺乳動物の遺伝子(Santoroら、1998年;Ludwigら、1998年;1999年;Ishiiら、1999年)を、pGH19(Santoroら、2000年)およびpGHE(Chenら、2001年b)等のベクターへサブクローニングする。次いで、欠失変異体およびキメラ変異体を、PCR/サブクローニング戦略によって作り、得られた変異型HCN構築物の配列を、DNAシークエンシングによって検証する。
【0174】
HCNチャネルを、親水性、細胞質側N末端部分(領域1)、主に疎水性アミノ酸を含む、6つの部分からなるS1〜S6コア膜貫通(膜内)部分(領域2)、および親水性、細胞質側C末端部分(領域3)の3つの主要な部分を有するとして特徴付けることができる。当業者であれば、これらの部分の境界を、タンパク質の一次構造ならびに構成するアミノ酸の既知の親水性または疎水性に基づいて容易に決定することができる。例えば、mHCN1では、C末端部分は、D390〜L910である。mHCN2のC末端部分は、D443〜L863である。HCN1、HCN2、HCN3およびHCN4のうちのいずれかから、全N末端ドメイン、コア膜貫通ドメインまたはC末端ドメインをコードするポリヌクレオチド配列を入れ換えることができる。そのようにして構築した異なるキメラを、命名法HCNXYZを使用して識別する。ただし、X、YまたはZは、N末端ドメイン、コア膜貫通ドメインまたはC末端ドメインのそれぞれの身元を指す数(1、2、3または4のいずれか)である。
【0175】
したがって、例えば、mHCN112のキメラ(図3を参照)の場合、N末端部分および膜内部分は、mHCN1からであり、mHCN1のC末端アミノ酸D390〜L910は、mHCN2のカルボキシ末端のアミノ酸D443〜L863で置換されている。逆に、mHCN221の場合、mHCN2のカルボキシ末端のアミノ酸D443〜L863は、mHCN1のカルボキシ末端のアミノ酸D390〜L910で置換されている。mHCN211の場合、mHCN1のアミノ末端のアミノ酸M1〜S128は、mHCN2のアミノ末端のアミノ酸M1〜S181で置換されている。逆に、mHCN122の場合、mHCN2のアミノ酸M1〜S181は、mHCN1のアミノ酸M1〜S128で置換されている。mHCN121の場合、mHCN1のS1〜S6膜貫通ドメインのアミノ酸D129〜L389は、mHCN2の膜貫通ドメインのアミノ酸D182〜L442で置換されている。逆に、mHCN212(図3)の場合、HCN2のアミノ酸D182〜L442(すなわち、膜内部分)は、mHCN1のD129〜L389で置換されている(Wangら、2001年bを参照)。ヒトのキメラのHCNチャネルを調製するために、ヒトHCNチャネルからのドメインを利用して、同一の原理を適用し、必要な変更を加える。例えば、hHCN112は、hHCN1からのアミノ末端ドメインおよび膜内ドメイン、ならびにhHCN2からのカルボキシ末端ドメインを有する。
【0176】
これらのHCNのキメラの発現は、アフリカツメガエル卵母細胞において容易に観察することができる。例えば、cRNAを、T7 RNAポリメラーゼ(Message Machine製;Ambion、Austin、テキサス州)を使用して、NheI-直線化DNA(HCN1およびHCN1のバックグラウンドに基づく変異体の場合)、またはSphI-直線化DNA(HCN2およびHCN2のバックグラウンドに基づく変異体の場合)から転写することができる。50ngのcRNAを、過去の記載(Gouldingら、1992年)に従ってアフリカツメガエル卵母細胞に注入する。
【0177】
キメラのHCNチャネルが生物学的な歩調取りを増強する
実験を行って、新生仔ラット心室筋細胞で発現させた場合、HCN2チャネルとキメラのHCN212チャネルとのゲーティング動態を比較した。図14は、mHCN2、およびマウスHCN2のD182〜L442をマウスHCN1のD129〜L389で置換することによって生み出したキメラのチャネル(mHCN212)を使用して得た結果を示す。活性化および非活性化の動態の解析は、mHCN212は、mHCN2と比較して、全ての電位でより迅速な動態を示すことを明らかにしている。
【0178】
新生仔ラット心室筋細胞におけるHCN2チャネルとキメラのHCN212チャネルとの発現効率の比較を、図15に示す。結果は、キメラのチャネルの発現は、野生型チャネルの発現と少なくとも同程度に良好であることを示している。さらに、活性化の電位依存性の解析からは、筋細胞で発現させた場合には、HCN2チャネルとHCN212チャネルとでは、電位依存性の差は示されていない。
【0179】
マウスHCN212を、新生仔ラット心室筋細胞およびヒト成体間葉系幹細胞で発現させ、次いで、発現した電流を、培地中で研究した。キメラのmHCN212チャネルをこれら2種の異なる細胞型で発現させた場合には、活性化の電位依存性についても、活性化の動態についても、顕著な差は存在しない(図16を参照)。
【0180】
図17は、卵母細胞における野生型mHCN2およびmHCN112の定常状態の活性化曲線、活性化の動態およびcAMPによる調節を示す。データは、強力なcAMP応答を保存する一方で、キメラのHCN112チャネルが、HCN2よりも顕著に迅速な動態を達成することを示している。
【0181】
成体hMSCで発現したmHCN2チャネルおよびキメラのmHCN212チャネルのゲーティングの特徴を比較する(図18)と、mHCN212の場合、HCN2と比較して、活性化の電位依存性が顕著に正にシフトしていること、および活性化の動態がいずれの測定電位においても顕著に迅速であることを示している。
【0182】
これらのデータは、治療適用のためのペースメーカー活動の誘発において、HCN212のキメラは、野生型HCN2チャネルを上回る顕著な利点を有することを示唆している。重要なことには、正のシフトおよびより迅速な動態の結果、特には、心臓細胞の拡張期の電位の範囲(-50から-90mV)に関するが、いずれの特異的な電位に関しても、より短時間でのより多くの電流に至ることが期待されるであろう。
【0183】
したがって、操作して、元々の自然なHCNチャネルと比較して、抑制または増強された活動を有するキメラのHCNチャネルを生み出すことができ、これによって、心臓の状態を治療するために最適化された異なる特徴を有するチャネルの選択が可能となる。例えば、HCNチャネルの電流の活性化曲線を、より正またはより負の電位にシフトさせることができ;過分極ゲーティングを増強または抑制することができ;チャネルの環状ヌクレオチドに対する感受性を増加または減少させることができ;かつ基礎ゲーティングの差を導入することができる。より具体的には、データは、迅速な動態およびcAMPに対する良好な応答性(したがって、自律的な刺激に対する改変された応答性)を有するペースメーカーチャネルを、例えば、HCN1成分を選択することによって得ることができるという証拠を提供している。また、より緩慢な動態を、例えば、キメラにHCN4成分を選択することによって得ることもできる。心臓障害の治療に有利な特徴を示すHCNキメラの創出は、過去には報告されていない。
【0184】
[実施例5]
in situでのタンデム型生物学的ペースメーカーおよび電気的ペースメーカーによる歩調取り
イヌへのタンデム型生物学的ペースメーカーの植込みおよび電気的ペースメーカーの埋込み
動物実験を、the Columbia University Institutional Animal Care and Use Committeeによって承認されたプロトコールを使用し、the Guide for the Care and Use of Laboratory Animals(NIH Publication No. 85-23、改訂1996年)に従って行った。
【0185】
雑種の成体イヌ、体重22〜25kgに、プロポフォール6mg/kg IVおよび吸入イソフルラン(1.5%〜2.5%)を用いて麻酔を施した。操縦可能なカテーテルを使用して、食塩水(n=5)、AdmHCN2(n=6)、またはAdmE324A(n=4)を、過去の記載に従って(Plotnikovら、2004年)、左の脚(LBB)に注入した。追加の2匹のイヌには、AdmE324Aを、内部対照として、LV中隔心筋に注入した。完全AVブロックを高周波アブレーションによって誘発し、注入の各部位をカテーテル電極でペーシングして、追跡期間中、心室固有の律動の起源を心電図上で識別した。
【0186】
電気的ペースメーカー(Discovery II、Flextendリード;Guidant製、Indianapolis、インディアナ州)を埋め込み、VVI 45bpmに設定した。ECG、24時間ホルター心電図によるモニター、ペースメーカーログ点検、および80bpmでのオーバードライブペーシングを、毎日14日間行った。βアドレナリン作動性の応答性を評価するために、第14日に、エピネフリン(1.0、1.5および2.0μg/kg/分、各上限10分間)を、心室固有の速度の50%増加または心室性不整脈(優位な心室固有の律動の形態ではない形態を有する単一の心室性期外収縮、または心室性頻脈性不整脈)のどちらかが最初に起きる終点まで注入した。2μg/kg/分の最大用量の開始後10分以内に上記の応答のいずれをも観察しない場合には、注入を停止した。
【0187】
データを、平均±SEMとして示す。in situでの実験では、5匹の食塩水を注入したイヌと2匹のAdmE324Aを(LBBではなく)心筋に注入したイヌとでは、電気生理的な差がなかったので、一緒にして1つの対照群とし、以降の解析に用いた。一元配置分散分析を使用して、移植した構築物の電気生理学的パラメーターへの効果を評価した。次いで、等しい分散を想定する場合のボンフェローニ法および分散が等しくない場合のゲイムスハウエル(Games-Howell)法を使用して、解析を行った。2元分割表解析を行って、エピネフリンが3つの群に異なる効果を有したか否かを評価した。データは、Windows(登録商標)ソフトウエア用のSPSS(SPSS, Inc.製)を使用して解析した。P<0.05を、有意であるとみなした。
【0188】
in situでのタンデム型生物学的ペースメーカーおよび電気的ペースメーカーの動作
予備実験では、E324A変異体を保有するアデノウイルスの注入によって、HCN2に代わる効果的なものを提供できる可能性を、in vivoで試験した。E324Aに感染したイヌは、HCN2に感染したイヌと比較して、基礎速度の点では、有意な差を現さないが、カテコールアミン応答性はより高いことを見出した(Plotnikovら、2005年a)。
【0189】
次いで、現在の実験では、HCN2遺伝子およびE324A-HCN2遺伝子のそれぞれを保有するアデノウイルスベクターを使用して、埋込み型電気的ペースメーカーと併行してin vivoにおいてペースメーカー活動を発生させ、タンデム型ペースメーカーの性能を、電気的ペースメーカーを単独で使用した性能と比較した。6匹のイヌが、操縦可能なカテーテルを介して、左の脚(LBB)へ、0.6mlの食塩水中のHCN2遺伝子を組み入れたアデノウイルスベクターの注入を受けた。HCN2ウイルスは、新生仔ラット筋細胞において、以下のように特徴付けられていた: 活性化の中間点=-69.3mV(n=5);-65mVでの活性化τ=639±72ms(n=5);-135mVで発現した電流=53.5±8.3pA/pF(n=10)。変異E324A遺伝子を組み入れたアデノウイルスベクターを、4匹のイヌには、LBBへ注入し、2匹の追加のイヌには、内部対照として、左心室中隔心筋に注入した。別の対照として、5匹のイヌには、LBBへ0.6mlの食塩水を注入した。
【0190】
完全房室ブロックを高周波アブレーションによって誘発し、電気的ペースメーカーを右心室内心膜頂端へ埋め込み、VVI 45bpmに設定した。ECGおよび24時間モニターを、毎日14日間行った。また、βアドレナリン作動性の応答性も、上記の記載に従って評価した。
【0191】
電気的ペースメーカーは、対照では、全拍動の83±5%を誘発し(p<0.05)、mHCN2群の26±6%およびmE324A群の36±7%とは対照的であった(後者2つの場合、p>0.05)。電気的にペーシングした拍動について、タンデム型HCN2-電気的ペースメーカーと電気的ペースメーカー単独とを比較した時間的な解析を、図19Aに示す。研究期間にわたり、HCN2群では、有意に少ない数の拍動が電気的に開始されたことは注目に値する。E324Aの結果(表示せず)では、HCN2と有意な差はなかった。
【0192】
回避時間を、3回の30秒間の80bpmでの心室のオーバードライブペーシングを行った後に、ペーシングを突然休止することによって毎日評価した。次いで、最後に電気的にペーシングした拍動と最初の内因性の拍動との間の平均時間を決定した。回避時間は、3群全体で、1〜5秒に及び、変動が広く、したがって、有意な差はみられなかった。したがって、回避間隔に関しては、利点は、いずれの群にも生じなかった。しかし、基礎心拍数に関しては、14日間を通して異なる結果が存在した。図19Bに示すように、食塩水の対照における平均心拍数は、電気的ペースメーカーの心拍数(45bpm)によって決定される平均心拍数であった。これは、mHCN2またはmE324Aを注入したイヌの平均心拍数よりも研究期間を通して有意に緩慢であった。mHCN2群とmE324A 群とでは、差はなかった。
【0193】
タンデム型ペースメーカーの生物学的な構成成分と電気的な構成成分との間の相互関係の例を、図20に示す。生物学的な構成成分が緩慢になると、電気的な構成成分が引き継ぐこと、および生物学的な構成成分が迅速化すると、電気的な構成成分が発火を止めることが明らかである。
【0194】
図21は、終末の実験におけるエピネフリンに対する応答を示す。パネルAは、全3群について、エピネフリン1μg/kg/分の注入前および注入中の代表的なECGを示す。対照速度は、食塩水、mHCN2およびmE324Aのそれぞれの群で、42、44および52bpmであった。エピネフリンを加えると、速度は、44、60および81bpmに増加した。パネルBは、エピネフリンの全部の用量で生じた速度の変化の概要を示す。示されているように、食塩水群では、全てのイヌで、投与したエピネフリン濃度の範囲を通して、50%未満の速度の増加および/または心室の早発性脱分極の発生を示した。mHCN2群の半分が、50%以上の心拍数の増加を生じ、これらのうちの33%が、この増加を達成するために最高用量のエピネフリンを必要とした。残りでは、50%未満の心拍数の増加または心室の早発性脱分極の発生を示した。最後に、mE324A群は、投与したエピネフリンの最低用量で、50%以上の心拍数の増加を現した。したがって、mE324A群は、その他の群のいずれよりも、はるかに高いエピネフリン感受性を示した。
【0195】
電気的ペースメーカーまたは生物学的ペースメーカーのいずれかに代わるものとしてのタンデム療法
上記に提示した実験データは、とりわけ、mHCN2遺伝子およびmE324A遺伝子の発現に基づく生物学的ペースメーカーが、電気的ペースメーカーと併行して、とぎれなく動作して、心拍数が選択された最小拍動速度を下回るのを阻止すること(図19);送達される電気的な拍動の全数が保存されること(図20);および電気的ペースメーカー単独の場合と比較して、より高い、より生理的で、かつカテコールアミン応答性の心拍数が提供されること(図21)を実証している。アデノウイルスベクターを使用して、ペースメーカー遺伝子をイヌ心臓に導入する一方で、本明細書に提示したデータは、また、hMSCが心臓へのイオンチャネル電流の送達のための有効なプラットフォームを提供することができることも示している。hMSCの使用を好む要因として、ギャップ結合を、心筋細胞を含む、多様な細胞型と形成する実証された能力(図10〜13);少なくとも6週間にわたり、安定にみえるペースメーカー活動を心臓組織で発生させる能力(Plotnikovら、2005年b);および6週後に、液性の拒絶も、細胞性の拒絶もないという証拠があり(Plotnikovら、2005年b)、これが、より長期にわたり確認されれば、hMSC仲介療法では、いずれの免疫抑制の必要性もなくなるであろうということが挙げられる。また、HCNチャネルのドメインを組み換えて、心臓の状態を治療する場合に使用するために望ましいゲーティングの特徴を示すキメラのHCNチャネルを産生することができることを示すデータも提供された。
【0196】
本明細書に提供したデータは、生物学的ペースメーカーの設計には、今日の電気的ペースメーカーに課された要求に応じる、特に、生理的な基礎心拍数および要求が高まった時に心拍数を上昇させる手段を提供する可能性があることをいっそう堅固にしている。mHCN2チャネル、mE324AチャネルおよびキメラのHCNチャネルは、異なる特徴を有する生物学的ペースメーカーを提供し、さらに、それらは、生物学的ペースメーカーが、電気的ペースメーカーのごとく、基礎心拍数およびカテコールアミン応答性を調整することができる原理も実証している。
【0197】
電気的ペースメーカーの利点および欠点は、過去に検討されており(Rosenら、2004年;Rosen、2005年;Cohenら、2005年)、電気的ペースメーカーは、多数の心臓不整脈を治療する救命デバイスとしては、明らかに最先端技術であり、心不全への使用も増加している。これらの利点は、電気的ペースメーカーの欠点を上回る(「背景技術」を参照)。電気的ペースメーカーは、医学上の寛解の極めて成功している形態の代表であることから、電気的ペースメーカーにとって代わるのは容易ではないであろうが、電気的ペースメーカーが完全には生理的ではないという事実から、改良の余地もあれば、究極的に電気的ペースメーカーに取って代わるものも望まれる。しかし、電気的ペースメーカーに取って代わる治療法は、より持続性で、損傷を与える可能性がより少なく、より生理的でなければならない。このことを心に留めて、生物学的ペースメーカーの開発が進められている。生物学的ペースメーカーは、(1)交換の必要がない、生涯にわたり安定な生理的律動を生み出し;(2)自律的な応答性と共役する安全な基礎律動の要求を満たして、運動および情動の要求に対する応答性を容易にする点で、電気的ペースメーカーよりも優れており;(3)活性化の最適な経路を通して伝播が生じ、収縮の効率が最適化されるように、患者毎に適合させた部位に移植され;(4)炎症、新生物または拒絶の危険を与えず;(5)催不整脈性の心配がないという可能性を有する必要があることが示唆されている。換言すれば、生物学的ペースメーカーは、寛解ではなく、治癒でなければならない(Rosenら、2004年;Rosen、2005年)。
【0198】
生物学的ペースメーカー単独または電気的ペースメーカー単独に基づく療法ではなくタンデム療法の使用を検討する2つの理由がある: 一方は、臨床試験に関連し、他方は、より広範な臨床での使用に関連する。適切な安全性および効力の前臨床試験が完了したら、完全心ブロックおよび心房細動の患者におけるタンデム型の歩調取りの研究が、第1相および第2相を組み合わせた試験のための合理的な出発点であろう。そのような集団は、ペースメーカー療法を必要とし、AV逐次電気的ペーシングの候補ではない。そのような患者のためには、最新式の療法--要求形態の電気的な心室のペーシング--が必要であろうし、生物学的な植込みもまた施すことができるであろう。さらに、十分に低い速度に設定した電気的な成分は、生物学的な成分が停止した場合には、「安全策」を保証するであろう。しかし、たとえ第1相および第2相試験が、生物学的ペースメーカーの安全性および効力の証拠を提供したとしても、どれぐらい長く生物学的ペースメーカーが続くかを理解する必要がある。生物学的ペースメーカーを投与される患者の第1世代では、これは、多分、生涯にわたる質問であるはずであり、その間、継続して電気的なバックアップが存在しなければならない。
【0199】
タンデム型ペースメーカーの概念のより広範な臨床適用に関して、検討すべきいくつかの課題がある。第1に、このシステムは、意図的に重複性であり、2つの完全に無関係な故障モードを有する。2つの独立した埋込み部位および独立したエネルギー源は、(例えば、心筋梗塞による)捕捉不全の事象では、安全機構を提供するであろう。第2に、電気的ペースメーカーは、ベースラインの安全策のみならず、臨床医の精査に向けて全心拍の継続的な記録も提供し、したがって、患者の進展する生理およびタンデム型ペースメーカーシステムの性能に関する洞察を提供するであろう。第3に、大部分の心臓のペーシングを行うように、生物学的ペースメーカーを設計するので、電気的ペースメーカーの寿命延長を、劇的に改善することができるであろう。また、電気的ペースメーカーの大きさをさらに小さくすることができる一方で、寿命延長を維持することが可能であろう。最後に、タンデム型システムの生物学的な構成成分は、真に自律的な応答性を提供すると思われ、これは、40年以上にわたる電気的ペースメーカーの研究開発が達成できなかった目標である。
【0200】
[実施例6]
生物学的-電気的両室性ペースメーカー
約50%に及ぶ高度心不全患者が、非同期性の心室の収縮により左心室の収縮期機能障害を悪化させる恐れのある心室間伝導遅延(心室同期不全)を示す。さらに、これらの患者においては、RQS持続期間の遅延の結果、異常な中隔壁の動きが生じ、心臓の収縮性が低下し、拡張期の充填時間が短縮し、僧帽弁逆流が延長する。これらの異常は、罹患率および死亡率の上昇に関係すると報告されている。両室性のペーシング(心臓再同調療法;CRT)が、心室の収縮の協調および患者の血行動態の状況の改善に成功し、それによって、生活の質を高め、患者の死の危険を低下させていることが示されている(例えば、AbrahamおよびHayes、2003年;Clelandら、2005年を参照)。
【0201】
現在、心不全を治療するための両室性のペーシングでは、2本のリードを心室の収縮を最適化する位置に留置することになる。しかし、この配置から生じる問題は、リードを、収縮を最適化できる部位に必ずしも留置できるとは限らないことである。リードは、冠静脈を介して(冠静脈洞のカテーテル法によって)挿入されるので、分布は、静脈の血行路の部位に限定される。対照的に、生物学的ペースメーカーは、心室のいかなる部位にも、内心膜からの経路を介して、心臓の静脈を介して、または胸腔検査鏡によって移植することができる。生物学的ペースメーカーを、収縮を最適化する心室の適切な部位に位置させたら、生物学的ペースメーカーを、電気的ペースメーカーと併行して、両室性のペーシングのモードで使用することができる。最適な両室性のぺーシングの効果を得るためには、生物学的ペースメーカーを、好ましくは、外側自由壁上で、底部ではなく尖部に偏って移植する。電気的ユニットを、生物学的リードが発火した後に特定の間隔で感知し、発火するようにプログラムして、両室性の機能を提供する。その上、また、電気的ペースメーカーを、生物学的ユニットが遅れて発火する場合には、回避モードで発火するようにもプログラムする。
【0202】
一実施形態では、タンデム型のシステムに隣接するものとして、第2の電気的ユニットを冠静脈に留置して、バックアップの両室性のユニットとして機能させ、生物学的な成分が機能しない場合には、一次電気的ユニットと共に発火するようにプログラムする。別の実施形態では、ナノ粒子を幹細胞に挿入し、幹細胞を、電気的ユニットから発せられた信号に応答して興奮後、発火するコンデンサーとして機能することができるようにする。さらに別の実施形態では、ナノ粒子含有幹細胞を、電気的ペースメーカーと併行して使用して(すなわち、電気的ユニットの従属装置として働く幹細胞-ナノ粒子ユニットを有する電気的ユニット)、両室性のペースメーカーを構成する。上記の構成成分の全てを、包装材料および使用のための指示を提供するラベルと一緒に、生物学的ペースメーカーを電気的ペースメーカーと併行して両室性のペーシングモードで使用するためのキットとして組み合わせて、高度心不全および心室同期不全に罹患した患者を治療することができる。
【0203】
生物学的ペースメーカーの開発において、電気的ペースメーカーの生物学的な治療法と併行しての使用は、生物学的治療学の将来への重要な橋渡し役をつとめることができるであろう。この橋が、将来、純粋に生物学的な治療法につながる可能性がある一方で、それ自体、患者にも臨床医にもより大きな利点を提供する興味深い目標たり得る。両室性のペーシングのためのタンデム型の生物学的ペースメーカーおよび電気的ペースメーカーの使用は、特に魅力的な目標であろう。
(参考文献)
【図面の簡単な説明】
【0204】
【図1】野生型または遺伝子操作したペースメーカー細胞、および遺伝子操作した幹細胞ペースメーカーによる自発的律動の開始を示す図である。上図。自然のペースメーカー細胞または遺伝子導入によりペースメーカー電流を組み入れるように操作した筋細胞においては、活動電位(挿入図)が、膜を貫通するHCNチャネルを通して流れる内向き電流を介して開始される。これらは、膜が最大拡張期電位まで再分極すると開き、活動電位の間に膜が脱分極すると閉じる。電流が筋細胞に隣接するギャップ結合を介して流れると、その結果、筋細胞の興奮および活動電位の伝導系を介する伝播に至る。下図。幹細胞は、膜内にHCNチャネルを組み入れるように操作されている。膜が過分極している場合に限って、これらのチャネルは開くことができ、電流がチャネルを流れることができる(挿入図)。そのような過分極は、隣接する筋細胞が、幹細胞にギャップ結合を介して堅固に共役している場合に限って送達することができる。そのような共役および局所電流を誘発するHCNチャネルの開口の存在下で、隣接する筋細胞が、興奮し、活動電位を開始し、次いで、活動電位は、伝導系を通して伝播する。活動電位の脱分極の結果、次の再分極が大きな負の膜電位を回復するまで、HCNチャネルは閉じた状態になる。したがって、野生型および遺伝子操作したペースメーカー細胞は、各細胞内に、活動電位を開始および伝播するのに必要な全ての機構を組み入れている。対照的に、幹細胞-筋細胞の対形成においては、2種の細胞が、単一の機能単位として一緒に働き、その動作は、2つの異なる細胞型の間に形成されるギャップ結合に決定的に依存する。
【図2】図2Aは、洞房結節(SAN)におけるペースメーカー電位の発生におけるIfの役割を示す図である。対照条件下およびノルエピネフリン(NE)を用いたβアドレナリン作動性刺激後のSANにおけるペースメーカー電位。ペースメーカー電位の発生を制御する4種の主要な電流を示す: If電流(過分極活性化環状ヌクレオチド依存性[HCN]チャネルによって発生する)、T型(ICaT)およびL型(ICaL)のカルシウム電流、ならびに再分極化K電流(IK)。 図2Bは、洞房結節(SAN)におけるペースメーカー電位の発生におけるIfの役割を示す図である。細胞性環状アデノシン一リン酸(cAMP)の上方制御または下方制御によるHCNチャネルの制御を示すSAN細胞の模式図。M2: 2型ムスカリン受容体;ACh: アセチルコリン;AC: アデニル酸シクラーゼ;Gαi: Gタンパク質αサブユニット(ACを阻害する);Gβγ: Gタンパク質βγサブユニット;β1-AR: 1型βアドレナリン作動性受容体;Gαs: Gタンパク質αサブユニット(ACを刺激する);ΔV: cAMPの増加または減少によって誘発されたHCNチャネル活性化の電位依存性のシフト(Bielら、2002年を参照)。
【図3】可能なキメラのHCNチャネルの模式図である。HCN2の要素(明るい線で示す)およびHCN1の要素(暗い線で示す)から構築し、HCN1の迅速な活性化動態をHCN2の強力なcAMP応答と組み合わせるように設計したチャネルの例を示す。このアプローチは、HCNチャネルのC末端細胞質側ドメインが、環状ヌクレオチド結合ドメインを含有し、cAMP応答性に顕著に寄与し、膜貫通ドメインが、活性化動態等のゲーティングの特徴に顕著に寄与するという事実に由来する。上から下へ: HCN2、HCN212(中央、すなわち、HCN2の膜貫通部分がHCN1の対応する部分で交換されている)、HCN112(HCN1のC末端細胞質側部分がHCN2の対応する部分で交換されている)、およびHCN1を示す。
【図4】図4Aは、新生仔の心室筋細胞におけるmHCN2およびmE324Aの機能的発現を示す図である。AdmHCN2に感染させた心室筋細胞の代表的な全細胞電流の記録。電流を、-10mVの保持電位から、-25mVから-125mVに及ぶ異なる過分極化電位段階まで段階的に-10mVずつ増加させることによって誘発した。右の挿入図は、mHCN2およびmE324Aの両方について、-35、-45および-55mVで記録した電流の記録を拡大した目盛で示す。 図4Bは、新生仔の心室筋細胞におけるmHCN2およびmE324Aの機能的発現を示す図である。AdmE324Aに感染させた心室筋細胞の代表的な全細胞電流の記録。電流を、-10mVの保持電位から、-25mVから-125mVに及ぶ異なる過分極化電位段階まで段階的に-10mVずつ増加させることによって誘発した。右の挿入図は、mHCN2およびmE324Aの両方について、-35、-45および-55mVで記録した電流の記録を拡大した目盛で示す。 図4Cは、新生仔の心室筋細胞におけるmHCN2およびmE324Aの機能的発現を示す図である。説明のために、mHCN2(四角)およびmE324A(丸)の電流の平均活性化のデータを、ボルツマンの式(線)に当てはめた。 図4Dは、新生仔の心室筋細胞におけるmHCN2およびmE324Aの機能的発現を示す図である。mHCN2(四角)およびmE324A(丸)の活性化(中が黒い記号)および非活性化(中が白い記号)の電位依存性の時定数。活性化の平均値は、mHCN2およびmE324Aの両方について、14個の細胞から求め、非活性化の時定数の平均値は、mHCN2では8個の細胞およびmE324Aでは7個の細胞から求めた。
【図5】mHCN2およびmE324AのcAMPによる調節を示す図である。ピペット溶液中の10μM cAMPの非存在下(中が白い記号)および存在下(中が黒い記号)で求めたmHCN2(四角)およびmE324A(丸)の平均活性化分率曲線。cAMPの非存在下(実線)および存在下(破線)の実験の場合、平均データは、ボルツマンの式に当てはまった。mHCN2に関する計算値は、cAMPの非存在下およびcAMPの存在下のそれぞれについて、V1/2=-69.6mVおよび-59.9(9.7mVのシフト)、ならびにs=10.8および11.0mVであった。mE324Aに関する計算値は、cAMPの非存在下およびcAMPの存在下のそれぞれについて、V1/2=-46.3mVおよび-40.7mV(5.6mV)、ならびにs=9.1mVおよび8.7mVであった。
【図6】図6Aは、卵母細胞において発現した野生型mHCN2または変異mE324Aの活性化を示す図である。発現したmHCN2の活性化。上図: 発現したmHCN2またはmE324Aの活性化の典型的な記録。挿入図は、使用したパルスのプロトコールを示す。mHCN2の場合、電流を、10mVずつ増加させる-30mVと-160mVとの間の2秒間の過分極化パルス、次いで、+15mVまでの1秒の脱分極化パルスによって誘発した。保持電位は、-30mVであった。mE324Aの場合、電流を、10mVずつ増加させる+20mVと-130mVとの間の3秒間の過分極化パルス、次いで、+50mVまでの1秒の脱分極化パルスによって誘発した。保持電位は、+20mVであった。中央図: 定常状態の活性化曲線を構築するために使用した対応するテール電流。下図: mHCN2またはmE324Aの活性化曲線。データは、ボルツマンの式に当てはまった(1/[1+exp((V1/2-Vtest)/s)])。mHCN2の場合、最大半量活性化(Vh)は、-92.7mV±1.1mV(n=9個の細胞)であり、電流は、約-130mVで飽和した。mE324Aの場合、より正の活性化の閾値(約-30mV)が認められ、Vhは、-57.3mV±1.6mV(n=9個の細胞)であった。 図6Bは、卵母細胞において発現した野生型mHCN2または変異mE324Aの活性化を示す図である。発現したmE324Aの活性化。上図: 発現したmHCN2またはmE324Aの活性化の典型的な記録。挿入図は、使用したパルスのプロトコールを示す。mHCN2の場合、電流を、10mVずつ増加させる-30mVと-160mVとの間の2秒間の過分極化パルス、次いで、+15mVまでの1秒の脱分極化パルスによって誘発した。保持電位は、-30mVであった。mE324Aの場合、電流を、10mVずつ増加させる+20mVと-130mVとの間の3秒間の過分極化パルス、次いで、+50mVまでの1秒の脱分極化パルスによって誘発した。保持電位は、+20mVであった。中央図: 定常状態の活性化曲線を構築するために使用した対応するテール電流。下図: mHCN2またはmE324Aの活性化曲線。データは、ボルツマンの式に当てはまった(1/[1+exp((V1/2-Vtest)/s)])。mHCN2の場合、最大半量活性化(Vh)は、-92.7mV±1.1mV(n=9個の細胞)であり、電流は、約-130mVで飽和した。mE324Aの場合、より正の活性化の閾値(約-30mV)が認められ、Vhは、-57.3mV±1.6mV(n=9個の細胞)であった。 図6Cは、mHCN2およびmE324Aの活性化の時定数。mE324Aにおける、電位依存性の正のシフトおよびより迅速な活性化の動態の両方に注目されたい。 図6Dは、mHCN2およびmE324Aの活性化の時定数。mE324Aにおける、電位依存性の正のシフトおよびより迅速な活性化の動態の両方に注目されたい。
【図7】mHCN2またはmE324Aを注入した卵母細胞のおけるIHCN2のcAMPによる調節を示す図である。ボルツマンに当てはめた規準化したイオンのコンダクタンスは、mHCN2(左図)およびmE324A(右図)の両方で、8-Br-cAMP(cAMP、1mM)の細胞外への適用が、IHCN2の最大半量の活性化の電位(Vh)を7〜8mV正にシフトさせることを示した。
【図8】図8Aは、mHCN2およびmE324Aに関する薬理学的評価およびIHCN2の逆転電位を示す図である。mHCN2に関する、IHCN2の電流/電位の関係。上図: Ifの電流/電位の関係を記録するための電位プロトコール。mHCN2の場合、細胞を-30mVで保持し、電流を、活性化を飽和させる-140mVまでの2秒の過分極化電位段階、次いで、10mVずつ増加させる-80mVと+50mVとの間の2秒の脱分極化電位段階によって誘発した。E324Aの場合、細胞を+20mVで保持し、電流を、活性化を飽和させる-110mVまでの1.5秒の過分極化電位段階、次いで、テール電流を記録するための10mVずつ増加させる-80mVと+50mVとの間の1.5秒の脱分極化電位段階によって誘発した。下図: 対照、Cs+(5mM)、および洗い流しの条件のそれぞれの存在下で、IHCN2の完全に活性化された電流/電位の関係を構築するために使用した代表的な記録。mHCN2またはmE324Aの両方で、IfがCs+によって大幅に抑制されたことに注目されたい。 図8Bは、mHCN2およびmE324Aに関する薬理学的評価およびIHCN2の逆転電位を示す図である。mE324Aに関する、IHCN2の電流/電位の関係。上図: Ifの電流/電位の関係を記録するための電位プロトコール。mHCN2の場合、細胞を-30mVで保持し、電流を、活性化を飽和させる-140mVまでの2秒の過分極化電位段階、次いで、10mVずつ増加させる-80mVと+50mVとの間の2秒の脱分極化電位段階によって誘発した。E324Aの場合、細胞を+20mVで保持し、電流を、活性化を飽和させる-110mVまでの1.5秒の過分極化電位段階、次いで、テール電流を記録するための10mVずつ増加させる-80mVと+50mVとの間の1.5秒の脱分極化電位段階によって誘発した。下図: 対照、Cs+(5mM)、および洗い流しの条件のそれぞれの存在下で、IHCN2の完全に活性化された電流/電位の関係を構築するために使用した代表的な記録。mHCN2またはmE324Aの両方で、IfがCs+によって大幅に抑制されたことに注目されたい。 図8Cは、mHCN2について、対照、Cs+、および洗い流しの条件の存在下での完全に活性化された電流/電位曲線。完全に活性化された電流/電位の関係を、テール電流の大きさを、(図14AおよびBから得た)2つの試験電位の間で生じたゲート変数の変化で割ることによって構築した。IHCN2の計算逆転電位は、mHCN2で-41mV、およびmE324Aで-40mVであった。 図8Dは、mE324Aについて、対照、Cs+、および洗い流しの条件の存在下での完全に活性化された電流/電位曲線。完全に活性化された電流/電位の関係を、テール電流の大きさを、(図14AおよびBから得た)2つの試験電位の間で生じたゲート変数の変化で割ることによって構築した。IHCN2の計算逆転電位は、mHCN2で-41mV、およびmE324Aで-40mVであった。
【図9】mHCN2またはmE324Aを注入した卵母細胞におけるIHCN2の電流の大きさの比較を示す図である。IHCN2を、-120 mVで、mHCN2(n=10個の細胞)およびmE324A(n=10個の細胞)について測定した。発現したmE324A(t検定、P<0.01)の場合、電流の大きさがより小さいことに注目されたい。電位プロトコールを、挿入図に示す。mHCN2の場合、電流を、-30mVの保持電位から-120mVまでの3秒の過分極化電位パルスを適用することによって誘発した。mE324Aの場合、電流を、+20mVの保持電位から-120mVまでの3秒の過分極化電位パルスを適用することによって誘発した。
【図10】図10Aは、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)のギャップ結合におけるコネキシンの同定を示す図である。Cx43の免疫染色。イヌ心室筋細胞およびhMSCにおけるCx43の免疫ブロット解析。心室細胞またはhMSCからの全細胞可溶化液(120μg)をSDSで分解し、膜に移動させ、Cx43抗体を用いてブロットした。分子量マーカーを示す。 図10Bは、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)のギャップ結合におけるコネキシンの同定を示す図である。Cx40の免疫染色。イヌ心室筋細胞およびhMSCにおけるCx43の免疫ブロット解析。心室細胞またはhMSCからの全細胞可溶化液(120μg)をSDSで分解し、膜に移動させ、Cx43抗体を用いてブロットした。分子量マーカーを示す。 図10Cは、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)のギャップ結合におけるコネキシンの同定を示す図である。Cx45の免疫染色。イヌ心室筋細胞およびhMSCにおけるCx43の免疫ブロット解析。心室細胞またはhMSCからの全細胞可溶化液(120μg)をSDSで分解し、膜に移動させ、Cx43抗体を用いてブロットした。分子量マーカーを示す。 図10Dは、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)のギャップ結合におけるコネキシンの同定を示す図である。イヌ心室筋細胞およびhMSCにおけるCx43の免疫ブロット解析。心室細胞またはhMSCからの全細胞可溶化液(120μg)をSDSで分解し、膜に移動させ、Cx43抗体を用いてブロットした。分子量マーカーを示す。
【図11】図11Aは、hMSC対の間のギャップ結合の巨視的特性および単一チャネルの特性を示す図である。対称的な双極性パルスプロトコール(10秒、±10mVから±110mV、Vh=0mV)を使用してhMSCから誘発されたギャップ結合電流(Ij)は、対称的な2種類の電位依存性電流非活性化を示した。 図11Bは、hMSC対の間のギャップ結合の巨視的特性および単一チャネルの特性を示す図である。対称的な双極性パルスプロトコール(10秒、±10mVから±110mV、Vh=0mV)を使用してhMSCから誘発されたギャップ結合電流(Ij)は、非対称的な2種類の電位依存性電流非活性化を示した。 図11Cは、hMSC対の間のギャップ結合の巨視的特性および単一チャネルの特性を示す図である。規準化した瞬時(○)および定常状態(●)のgj対Vjのプロットの概要。左図、5つの対からの準対称的な関係;実線、ボルツマンフィッティング: 負/正のVjについて、Vj,0=-70/65mV、gj,min=0.29/0.34、gj,max=0.99/1.00、z=2.2/2.3。右図、6つの対からの非照的な関係;負のVjでのボルツマンフィッティング: Vj,0=-72mV、gj,min=0.25、gj,max=0.99、z=1.5。 図11Dは、hMSC対の間のギャップ結合の巨視的特性および単一チャネルの特性を示す図である。hMSCの対からの単一チャネルの記録。パルスプロトコール(V1およびV2)、およびVjを±80mVに維持した間の細胞対から記録した、関連するマルチチャネル電流(I2)。別々の電流の段階は、単一チャネルの開口および閉鎖を示す。破線: 電流レベルゼロ。右手側の全ての点の電流ヒストグラムは、約50pSのコンダクタンスを示す。 図11Eは、hMSC対の間のギャップ結合の巨視的特性および単一チャネルの特性を示す図である。hMSCの対からの単一チャネルの記録。パルスプロトコール(V1およびV2)、およびVjを±80mVに維持した間の細胞対から記録した、関連するマルチチャネル電流(I2)。別々の電流の段階は、単一チャネルの開口および閉鎖を示す。破線: 電流レベルゼロ。右手側の全ての点の電流ヒストグラムは、約50pSのコンダクタンスを示す。
【図12】図12Aは、hMSCとCx40、Cx43またはCx45のみを発現するHeLa細胞との間における細胞対の接合部の巨視的な特性を示す図である。全ての場合において、hMSCのHeLa細胞との共役を、同時培養開始6から12時間後に試験した。hMSC-HeLaCx43対において、一連の5秒電位段階(Vj)に応答して誘発されたIj。上、対称的な電流の非活性化;下、非対称的な電流の電位依存性。 図12Bは、hMSCとCx40、Cx43またはCx45のみを発現するHeLa細胞との間における細胞対の接合部の巨視的な特性を示す図である。全ての場合において、hMSCのHeLa細胞との共役を、同時培養開始6から12時間後に試験した。hMSC-HeLaCx40対からの巨視的なIjの記録は、対称的(上図)および非対称的(下図)な電位依存性の非活性化を示す。 図12Cは、hMSCとCx40、Cx43またはCx45のみを発現するHeLa細胞との間における細胞対の接合部の巨視的な特性を示す図である。全ての場合において、hMSCのHeLa細胞との共役を、同時培養開始6から12時間後に試験した。Cx45側が比較的負である場合、hMSC-HeLaCx43対からの非対称的なIjは、電位依存性のゲーティングを示す。hMSCから記録したIj。 図12Dは、hMSCとCx40、Cx43またはCx45のみを発現するHeLa細胞との間における細胞対の接合部の巨視的な特性を示す図である。全ての場合において、hMSCのHeLa細胞との共役を、同時培養開始6から12時間後に試験した。hMSCと形質移入したHeLa細胞との間の対からのgj,ss対Vjのプロット。左図、hMSC-HeLaCx43対、準対称的な関係(●)および非対称的な関係(○);実線および破線は、ボルツマンフィッティングである(詳細は本文を参照)。中央図、hMSC-HeLaCx40対からの対称的な関係(●)および非対称的な関係(○);実線および破線は、ボルツマンフィッティングに対応する(詳細は本文を参照)。右図、hMSC-HeLaCx45細胞対からの非対称的な関係;実線、正のVjでのボルツマンフィッティング(詳細は本文を参照)。 図12Eは、hMSCとCx40、Cx43またはCx45のみを発現するHeLa細胞との間における細胞対の接合部の巨視的な特性を示す図である。全ての場合において、hMSCのHeLa細胞との共役を、同時培養開始6から12時間後に試験した。細胞対における細胞から細胞へのLucifer Yellow(LY)の広がり: hMSCからhMSCへ(上図)、HeLaCx43からhMSCへ(中央図)、およびhMSCからHeLaCx43へ(下図)。全ての場合に、2mM LYを含有するピペットを、全細胞配置の左手側の細胞に付着させた。色素注入12分後に撮影した落射蛍光顕微鏡による顕微鏡写真は、LYの隣接する(右手の)細胞への広がりを示す。同時に測定した接合部のコンダクタンスは、それぞれの対で、約13nS、約16nSおよび約18nSのgjを示した。全ての実験において、Cell Tracker Greenを使用して、hMSCからHeLa細胞、またはHeLa細胞からhMSCを区別した。
【図13】図13Aは、hMSC-イヌ心室細胞対の間のギャップ結合の巨視的特性および単一チャネルの特性を示す図である。筋細胞を12から72時の間に播種し、hMSCと共に6から12時間同時培養してから、共役を測定した。hMSC-イヌ心室細胞対の場合のCx43の局在化。Cx43の大部分が、心室細胞の末端に局在化し、Cx43の少量は、外側の境界に沿って存在した。強力なCx43の染色が、桿状の心室細胞(中央の細胞)の末端とhMSC(右の細胞)の間に検出された。左側では、心室細胞とhMSCとの間には、Cx43の染色は検出されていない。 図13Bは、hMSC-イヌ心室細胞対の間のギャップ結合の巨視的特性および単一チャネルの特性を示す図である。筋細胞を12から72時の間に播種し、hMSCと共に6から12時間同時培養してから、共役を測定した。上、hMSC-イヌ心室筋細胞対の位相差顕微鏡写真。下、単極パルスプロトコール(V1およびV2)および非対称的な電位依存性を示す関連する巨視的な接合部の電流(I2)。 図13Cは、hMSC-イヌ心室細胞対の間のギャップ結合の巨視的特性および単一チャネルの特性を示す図である。筋細胞を12から72時の間に播種し、hMSCと共に6から12時間同時培養してから、共役を測定した。上、対称的な二相性の60mVパルスによって誘発されたマルチチャネル電流。破線、電流レベルゼロ。点線、チャネルの開口および閉鎖を示す別々の電流の段階を示す。電流ヒストグラムは、約40から50pSのコンダクタンスを生じた。下、Vjを60mVに維持した間のマルチチャネルの記録。電流ヒストグラムは、48〜64pSのいくつかのコンダクタンスを示し、84pSから99pSのコンダクタンスを有する現象(矢印)を伴い、これは、Cx43チャネル、ヘテロタイプCx40-Cx43チャネルおよび/またはホモタイプCx40チャネルの動作に類似する。
【図14】図14左図は、新生仔ラット心室筋細胞で発現させた場合のmHCN2チャネルとキメラのmHCN212チャネルとのゲーティング動態の比較を示す図である。mHCN2チャネル(中が黒い四角)およびキメラのmHCN212チャネル(中が黒い丸)を使用した結果を示す。X軸上に示す電位に対する過分極化試験電位について、電流の記録(初期の遅延を取り除いた)の早期の部分を単一指数関数に当てはめることによって決定した活性化の動態。 図14右図は、新生仔ラット心室筋細胞で発現させた場合のmHCN2チャネルとキメラのmHCN212チャネルとのゲーティング動態の比較を示す図である。mHCN2チャネル(中が黒い四角)およびキメラのmHCN212チャネル(中が黒い丸)を使用した結果を示す。チャネルを完全に活性化するための負の電位への前パルスに続く、脱分極化試験電位から示した電位までの電流の記録を当てはめることによって決定した非活性化の動態。各場合について、単一指数関数のフィッティングの時定数を、y軸に上にプロットすると、全ての電位で、mHCN212は、mHCN2に比較してより迅速な動態を示している。
【図15】図15左図は、新生仔ラット心室筋細胞におけるmHCN2チャネルとキメラのmHCN212チャネルとの発現効率の比較を示す図である。チャネルを最大に活性化する負の電位までの段階で発現した電流の平均電流密度。 図15右図は、新生仔ラット心室筋細胞におけるmHCN2チャネルとキメラのmHCN212チャネルとの発現効率の比較を示す図である。活性化の電位依存性のプロット。
【図16】筋細胞と幹細胞とで発現させたmHCN212の特徴の比較を示す図である。新生仔ラット心室筋細胞およびヒト成体間葉系幹細胞におけるマウスHCN212の発現から発生する電流を測定した。左、活性化の電位依存性;右、活性化の動態。
【図17】図17Aは、卵母細胞で発現させた野生型mHCN2およびmHCN212の特性を示す図である。定常状態の活性化曲線を示す。 図17Bは、卵母細胞で発現させた野生型mHCN2およびmHCN212の特性を示す図である。活性化の動態を示す。 図17Cは、卵母細胞で発現させた野生型mHCN2およびmHCN212の特性を示す図である。cAMPによる調節を示す。
【図18】成体ヒト間葉系幹細胞で発現させた場合のmHCN2チャネルとキメラのmHCN212チャネルとのゲーティングの特徴の比較を示す図である。左図。mHCN212(中が黒い丸)の場合、HCN2(中が黒い四角)と比較して、活性化の電位依存性が、顕著に正にシフトしている。右図。mHCN212の場合、HCN2と比較して、活性化の動態が、いずれの測定電位においても顕著に迅速である。
【図19】図19Aは、生物学的-電気的タンデム型ペースメーカーと電気的のみのペースメーカーとの性能の比較を示す図である。食塩水を注入し、かつ電気的ペースメーカーを埋め込んだ心臓、または電気的ペースメーカーと併行してmHCN2を注入した心臓で生じた電気的にペーシングした拍動の割合。両群で、電気的ペースメーカーを、VVI 45bpmに設定した。14日間を通して、電気的に開始した拍動の数は、各時点で比較すると、HCN2注入群よりも食塩水注入群の方が多かった(P<0.05)。 図19Bは、生物学的-電気的タンデム型ペースメーカーと電気的のみのペースメーカーとの性能の比較を示す図である。食塩注入群、mHCN2注入群またはmE324A注入群の第1〜7日および第8〜14日にわたる平均基礎心拍数。後者2群の速度は、食塩群よりも有意に速かった(P<0.05)。
【図20】タンデム型ユニットの生物学的なペースメーカー構成成分と電気的なペースメーカー構成成分との間の相互作用の代表的な記録を示す図である。この動物は、mHCN2を投与されていた。生物学的ペースメーカー活動から電気的ペースメーカー活動への移行、および電気的ペースメーカー活動から生物学的ペースメーカー活動への移行が滑らかである。
【図21】図21Aは、生物学的-電気的タンデム型ペースメーカーおよび電気的のみのペースメーカーへのエピネフリン注入の効果を示す図である。第14日に、1.0、1.5および2.0μg/kg/分のIV注入を、非電気的に誘発したペースメーカー速度の50%の増加または不整脈が発生するまで、あるいは2μg/kg/分の最大用量を10分間投与した。3匹の代表的な動物における、エピネフリン1μg/kg/分のECG上での効果。mE324A投与動物での速度増加が最大であることに注目されたい。 図21Bは、生物学的-電気的タンデム型ペースメーカーおよび電気的のみのペースメーカーへのエピネフリン注入の効果を示す図である。第14日に、1.0、1.5および2.0μg/kg/分のIV注入を、非電気的に誘発したペースメーカー速度の50%の増加または不整脈が発生するまで、あるいは2μg/kg/分の最大用量を10分間投与した。心室固有のペースメーカー機能の結果生じた心拍数の50%増加を、灰色で示す。食塩水群では、全動物が、最高用量で、<50%の増加(75%の動物)または不整脈(25%の動物)のいずれかを示して、プロトコールが終止した。mHCN2群では、50%の動物が、50%未満の速度増加を示した。1匹の動物では、最高用量に達したので、注入を止め、2匹の動物では、心室性不整脈が発生した。その他の50%のうち、1匹は、最低のエピネフリンの用量で、50%の速度増加を達成し、その他の2匹は、1.5または2μg/kg/分を必要とした。対照的に、mE324A群では、100%が、最低のエピネフリンの用量で、50%の速度増加を達成し、不整脈はみられなかった。
【図22】ラット筋細胞に提供したアデノウイルスベクター中のmHCN2とキメラのHCN212との比較を示す図である。mHCN212は、HCN2よりも高い基礎信号の発生頻度、および負である度合いが低い最大拡張期電位を示した。
【図23】新生仔ラット筋細胞におけるmHCN2およびHCN212の自律的な応答性を示す図である。mHCN212は、イソプロテレノール(βアドレナリン作動性受容体アゴニスト)への暴露後の信号の発生頻度の増加によって実証される自律的な応答性を示す。
【図24】図24Aは、ヒト間葉系幹細胞におけるmHCN212の発現を示す図である。hMSCが、mHCN212と同時発現させたGFPを発現していることを示す。GFPが、スライド中にみられる。 図24Bは、ヒト間葉系幹細胞におけるmHCN212の発現を示す図である。電位プロトコール後に、電位を細胞に適用した。 図24Cは、ヒト間葉系幹細胞におけるmHCN212の発現を示す図である。予想されるように、電流応答がセシウムによって遮断されたことを示す。
【図25】図25Aは、ヒト間葉系幹細胞(MSC)において発現したmHCN212の活性化を示す図である。電流量が、適用した電位の量によって変化することを示す。 図25Bは、ヒト間葉系幹細胞(MSC)において発現したmHCN212の活性化を示す図である。適用した電位と発生した電流との関係を示す。
【図26】ヒト間葉系幹細胞において発現したmHCN212のcAMPによる調節を示す図である。所与の電位で、cAMPは、電流応答を増加させる。電位依存性の正のシフトが、cAMPの存在下でみられ、これは、良好な自律的な応答性を示す。
【図27】ヒト間葉系幹細胞におけるmHCN212の発現は、mHCN2よりも高い電流密度を提供することを示す図である。「n」は、試験した細胞の数に等しい。
【図28】生物学的ペースメーカーの特徴を示す図である。mHCN2およびmHCN212は、電流密度を発現する(それぞれ、パネルAおよびB)。パネルCは、適用した電位に応答して、mHCN212は、mHCN2よりも正の電流応答を有することを示す。パネルDおよびEは、動態を示し、HCN212は、HCN2よりも迅速な動態を有することを実証する。
【図29】HCN2を発現するhMSCが、ペースメーカー電流を提供して、植込み後第12〜14日までに、安定な心臓の拍動速度を発生させることをを示す図である。HCN2を積んだhMSCの数が増加するにつれて、速度も増加する。約500,000個超のhMSCで、定常状態に達する。
【図30】電気的ペースメーカーが誘発した拍動の割合が、植込み後第12〜14日では、hMSCによる生物学的ペースメーカーの関数として減少したことをを示す図である。イヌに、HCN2を発現するhMSCを移植した。心拍数が、35bpmを下回ると、電気的ペースメーカーが発火するように設定した。図に示すように、mHCN2を発現するように操作した約7,000,000個のhMSCを含む生物学的ペースメーカーを移植すると、電気的ペースメーカーが誘発した拍動の数は減少した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)電気的ペースメーカーと、(2)生物学的ペースメーカーとを含むタンデム型ペースメーカーシステムであって、前記生物学的ペースメーカーは、過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)イオンチャネルを機能的に発現する移植可能な細胞を含み、かつ前記細胞を対象の心臓に移植した場合、発現したHCNチャネルは、有効なペースメーカー電流を発生させるタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項2】
前記細胞が、心筋細胞とのギャップ結合を介した伝達が可能である、請求項1に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項3】
前記細胞が、幹細胞、心筋細胞、心臓のコネキシンを発現するように操作された繊維芽細胞または骨格筋細胞、および内皮細胞からなる群から選択された、請求項2に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項4】
前記幹細胞が、胚性幹細胞または成体幹細胞である、請求項2に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項5】
前記幹細胞が、ヒト成体間葉系幹細胞である、請求項4に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項6】
前記生物学的ペースメーカーが、少なくとも約200,000個のヒト成体間葉系幹細胞を含む、請求項5に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項7】
前記生物学的ペースメーカーが、少なくとも約700,000個のヒト成体間葉系幹細胞を含む、請求項5に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項8】
前記HCNチャネルが、HCN1、HCN2、HCN3またはHCN4である、請求項1に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項9】
前記HCNチャネルが、ヒトのHCN1、HCN2、HCN3またはHCN4である、請求項5に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項10】
前記HCNチャネルが、mHCN1(配列番号 )、mHCN2(配列番号 )、mHCN3(配列番号 )またはmHCN4(配列番号 )と少なくとも約75%の配列同一性を有する、請求項1に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項11】
前記HCNチャネルが、配列番号 を有するhHCN2である、請求項9に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項12】
前記HCNチャネルが、配列番号 と少なくとも約75%相同である、請求項1に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項13】
前記細胞が、MiRP1ベータサブユニットをさらに機能的に発現する、請求項1に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項14】
(1)電気的ペースメーカーと、(2)生物学的ペースメーカーとを含むタンデム型ペースメーカーシステムであって、前記生物学的ペースメーカーは、変異型HCNイオンチャネルを機能的に発現する移植可能な細胞を含み、対象の心臓に移植した場合、前記の発現した変異型HCNチャネルは、有効なペースメーカー電流を発生させるタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項15】
前記細胞が、変異型HCN1、変異型HCN2、変異型HCN3または変異型HCN4を機能的に発現する、請求項14に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項16】
前記細胞が、変異型ヒトHCN1、変異型ヒトHCN2、変異型ヒトHCN3または変異型ヒトHCN4を機能的に発現する、請求項15に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項17】
前記細胞が、変異型ヒトHCN2を機能的に発現する、請求項16に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項18】
前記変異型HCNチャネルが、野生型HCNチャネルと比較して、より迅速な動態、より正の活性化、発現の増加したレベル、向上した安定性、増強されたcAMP応答性および増強された神経液性応答からなる群から選択された、改善された特徴を提供する、請求項14に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項19】
前記変異型HCNチャネルが、S4電位センサー領域、S4-S5リンカー領域、S5、S6およびS5-S6リンカー領域、Cリンカー領域、ならびにCNBD領域からなる群から選択されたチャネルの領域に変異を含有する、請求項14に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項20】
前記変異型HCNチャネルが、HCN2に由来し、かつ、E324A-HCN2、Y331A-HCN2、R339A-HCN2またはY331A,E324A-HCN2を含む、請求項14に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項21】
前記変異型HCNチャネルが、E324A-HCN2を含む、請求項20に記載のペースメーカーシステム。
【請求項22】
前記細胞が、幹細胞、心筋細胞、心臓のコネキシンを発現するように操作された繊維芽細胞または骨格筋細胞、および内皮細胞からなる群から選択された、請求項14に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項23】
前記幹細胞が、胚性幹細胞または成体幹細胞であり、かつ、前記幹細胞が、実質的に分化できない、請求項22に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項24】
前記幹細胞が、ヒト成体間葉系幹細胞である、請求項23に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項25】
前記生物学的ペースメーカーが、少なくとも約200,000個のヒト成体間葉系幹細胞を含む、請求項24に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項26】
前記生物学的ペースメーカーが、少なくとも約700,000個のヒト成体間葉系幹細胞を含む、請求項25に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項27】
(1)電気的ペースメーカーと、(2)第1末端および第2末端を有するギャップ結合連結細胞の条片を含むバイパスブリッジとを含むタンデム型ペースメーカーシステムであって、両末端は、心臓の2つの選択された部位に付着することができ、その結果、心臓の2つの部位の間の経路を横断しての電気信号の伝達が可能となるタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項28】
前記バイパスブリッジの第1末端が心房に付着することができ、第2末端が心室に付着することができ、その結果、心房からの電気信号が経路を横断して移動して心室を興奮させることが可能となる、請求項27に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項29】
前記細胞が、幹細胞、心筋細胞、心臓のコネキシンを発現するように操作された繊維芽細胞または骨格筋細胞、あるいは内皮細胞である、請求項27に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項30】
前記幹細胞が、胚性幹細胞または成体幹細胞である、請求項29に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項31】
前記幹細胞が、ヒト成体間葉系幹細胞である、請求項30に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項32】
前記のバイパスブリッジの細胞が、心臓のコネキシン;L型カルシウムチャネルのアルファサブユニットおよびアクセサリーサブユニット;ナトリウムチャネルのアルファサブユニットで、アクセサリーサブユニットを有するまたは有しないもの;ならびにカリウムチャネルのアクセサリーサブユニットを有するまたは有しない、カリウムチャネルのアルファサブユニットと組み合わせたL型カルシウムチャネルおよび/またはナトリウムチャネルからなる群から選択された少なくとも1種のタンパク質を機能的に発現する、請求項27に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項33】
前記の心臓のコネキシンが、Cx43、Cx40およびCx45からなる群から選択された、請求項27に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項34】
(a)HCNイオンチャネル、または
(b)変異型HCNチャネル
を機能的に発現する移植可能な細胞を含む生物学的ペースメーカーをさらに含み、
前記細胞を対象の心臓に移植した場合、前記の発現したHCNチャネル、キメラのHCNチャネルまたは変異型HCNチャネルが、有効なペースメーカー電流を発生させる、請求項27に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項35】
前記の移植可能な細胞が、ヒト成体間葉系幹細胞である、請求項34に記載のタンデム型システム。
【請求項36】
前記HCNチャネルが、HCN2である、請求項35に記載のタンデム型システム。
【請求項37】
前記生物学的ペースメーカーが、少なくとも約200,000個のヒト成体間葉系幹細胞を含む、請求項35に記載のタンデム型システム。
【請求項38】
前記生物学的ペースメーカーが、少なくとも約700,000個のヒト成体間葉系幹細胞を含む、請求項37に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項39】
(1)電気的ペースメーカーと、(2)HCNチャネルまたは変異型HCNチャネルをコードする核酸を含むベクターとを含むタンデム型ペースメーカーシステムであって、前記ベクターを、対象の心臓の細胞に投与し、かつ前記のHCNチャネルまたは変異型HCNチャネルを、心臓の細胞内で発現させて、有効なペースメーカー電流を発生させるタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項40】
前記HCNチャネルが、HCN2である、請求項39に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項41】
心臓律動障害に罹患した対象を治療する方法であって、請求項1または14のいずれか一項に記載のタンデム型ペースメーカーシステムを対象に投与するステップを含み、前記システムの生物学的ペースメーカーを対象の心臓に提供して、有効な生物学的ペースメーカー電流を発生させ、前記電気的ペースメーカーも対象の心臓にさらに提供して、前記生物学的ペースメーカーと併行して働かせて、心臓律動障害を治療する方法。
【請求項42】
前記電気的ペースメーカーを、前記生物学的ペースメーカーの前に提供する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記電気的ペースメーカーを、前記生物学的ペースメーカーと同時に提供する、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
前記電気的ペースメーカーを、前記生物学的ペースメーカーの後に提供する、請求項41に記載の方法。
【請求項45】
前記生物学的ペースメーカーを、対象の心臓のバッハマン束、洞房結節、房室接合部、ヒス束、左または右の脚、プルキンエ線維、右または左の心房筋、あるいは右または左の心室筋に提供する、請求項41に記載の方法。
【請求項46】
前記生物学的ペースメーカーが、心臓のβアドレナリン作動性の応答性を増強し、外向きカリウム電流IK1を減少させ、かつ/または内向き電流Ifを増加させる、請求項41に記載の方法。
【請求項47】
前記心臓律動障害が、洞房結節の機能障害、洞性徐脈、辺縁性ペースメーカー活動、洞不全症候群、頻脈性不整脈、洞房結節リエントリー頻脈、異所性病巣からの心房性頻脈、心房粗動、心房細動、徐脈性不整脈または心不全であり、かつ前記生物学的ペースメーカーを、対象の心臓の左または右の心房筋、洞房結節あるいは房室接合部に投与する、請求項41に記載の方法。
【請求項48】
前記電気的ペースメーカーが、対象の心臓の拍動速度を感知し、心臓の拍動速度が選択した心臓の拍動速度を下回る場合に、ペースメーカー信号を出力するようにプログラムされる、請求項41に記載の方法。
【請求項49】
前記の選択した拍動速度が、基準の時間間隔後に心臓が経験する拍動速度の選択した割合である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記の基準の時間間隔が、選択した持続期間の直ちに先行する期間である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記電気的ペースメーカーの電池の寿命が、保存される、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
心臓律動障害を治療する方法であって、前記バイパス経路が欠損したコンダクタンスを示す領域に橋を架けるように請求項27に記載のペースメーカーシステムを対象の心臓に投与するステップを含み、前記障害が、伝導ブロック、完全房室ブロック、不完全房室ブロック、脚ブロック、心不全または徐脈性不整脈であり、前記電気的ペースメーカーが誘発する電気的なペースメーカー電流の前記バイパス経路による伝達が、対象を治療するのに有効であり、かつ前記電気的ペースメーカーを、前記バイパス経路を提供する前、それと同時、またはその後のいずれかに提供する方法。
【請求項53】
対象の心臓律動障害を治療する方法であって、伝導ブロックを代償するために請求項1または14に記載のペースメーカーシステムを対象の心臓のある領域に投与するステップを含み、前記障害が、伝導ブロック、完全房室ブロック、不完全房室ブロック、脚ブロック、心不全または徐脈性不整脈である方法。
【請求項54】
前記電気的ペースメーカーが、対象の心臓の拍動速度を感知し、心臓の拍動速度が選択した心臓の拍動速度を下回る場合に、ペースメーカー信号を出力するようにさらにプログラムされる、請求項52に記載の方法。
【請求項55】
洞房結節の機能障害、洞性徐脈、辺縁性ペースメーカー活動、洞不全症候群、心不全、頻脈性不整脈、洞房結節リエントリー頻脈、異所性病巣からの心房性頻脈、心房粗動、心房細動または徐脈性不整脈と伝導ブロック障害とに罹患した対象を治療する方法であって、請求項34に記載のタンデム型ペースメーカーシステムを投与するステップを含み、前記電気的ペースメーカーを前記生物学的ペースメーカーを提供する前、それと同時、またはその後のいずれかに提供し、かつ前記生物学的ペースメーカーを対象に投与して対象の心臓で有効な生物学的ペースメーカー電流を発生させ、かつ前記バイパス経路が欠損したコンダクタンスを示す領域に橋を架け、電気的なペースメーカー電流および/または生物学的なペースメーカー電流の前記バイパス経路による伝達が、対象を治療するのに有効である方法。
【請求項56】
前記電気的ペースメーカーが、対象の心臓の拍動速度を感知し、心臓の拍動速度が選択した心臓の拍動速度を下回る場合に、ペースメーカー信号を出力するようにさらにプログラムされる、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
対象の心臓の信号をモニターする方法であって、請求項1または14に記載のタンデム型ペースメーカーシステムを対象の心臓のある部位に提供するステップと、前記電気的ペースメーカーを用いて対象の心臓の拍動速度をモニターするステップとを含み、前記電気的ペースメーカーを前記生物学的ペースメーカーを提供する前、それと同時、またはその後のいずれかに提供する方法。
【請求項58】
前記電気的ペースメーカーが、対象の心臓の拍動速度を感知し、心臓の拍動速度が選択した心臓の拍動速度を下回る場合に、ペースメーカー信号を出力するようにさらにプログラムされる、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
電気的ペースメーカーの心臓のペーシングの機能を増強する方法であって、請求項1または14に記載のタンデム型電気的ペースメーカーシステムを提供するステップと、選択的に心臓を前記電気的ペースメーカーを用いて刺激するステップとを含み、前記電気的ペースメーカーが、対象の心臓の拍動速度を感知し、心臓の拍動速度が選択した心臓の拍動速度を下回る場合に、ペースメーカー信号を出力するようにプログラムされる方法。
【請求項60】
心室同期不全に罹患した対象を治療する方法であって、(a)対象の心臓の第1の心室のある部位を選択するステップと、(b)ペースメーカー活動を開始し、第1の心室の収縮を刺激するために、請求項1または14に記載の生物学的ペースメーカーを選択した部位に投与するステップと、(c)心臓の第2の心室を、前記生物学的ペースメーカーからの信号を検出し、生物学的ペースメーカー信号を検出した後、基準の時間間隔でペースメーカー信号を出力するようにプログラムされた第1の電気的ペースメーカーを用いてペーシングするステップとを含み、これによって、両室性のペースメーカー機能を提供して、対象を治療する方法。
【請求項61】
前記電気的ペースメーカーが、特定した持続期間後に前記生物学的ペースメーカーからの信号を検出できない場合に、ペースメーカー信号を出力するようさらにプログラム可能である、請求項60に記載のペースメーカーシステム。
【請求項62】
冠静脈に投与するための第2の電気的ペースメーカーをさらに含み、前記第2の電気的ペースメーカーが、前記生物学的ペースメーカーからの信号を検出し、前記第2の電気的ペースメーカーが、特定した持続期間後に前記生物学的ペースメーカーからの信号を検出できない場合に、前記第1の電気的ペースメーカーと併行してペースメーカー信号を出力するようにプログラムされ、これによって、前記の第1および第2の電気的ペースメーカーは、両室性の機能を提供する、請求項60に記載のペースメーカーシステム。
【請求項63】
心室同期不全に罹患した対象を治療するためのタンデム型ペースメーカーシステムであって、(1)対象の心臓の第1の心室に投与するための請求項1または14のに記載の生物学的ペースメーカーと、(2)対象の心臓の第2の心室に投与するための電気的ペースメーカーとを含み、前記電気的ペースメーカーが、前記生物学的ペースメーカーからの信号を検出し、生物学的ペースメーカー信号を検出した後、基準の時間間隔で電気的なペースメーカー信号を出力するようにプログラム可能であり、それによって、両室性のペースメーカー機能を提供し、かつ前記電気的ペースメーカーを前記生物学的ペースメーカーの前またはそれと同時のいずれかに提供するタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項64】
前記電気的ペースメーカーが、特定した持続期間後に前記生物学的ペースメーカーからの信号を検出できない場合に、ペースメーカー信号を出力するようさらにプログラム可能である、請求項63に記載のペースメーカーシステム。
【請求項65】
冠静脈に投与するための第2の電気的ペースメーカーをさらに含み、前記第2の電気的ペースメーカーが、前記生物学的ペースメーカーからの信号を検出し、前記第2の電気的ペースメーカーが、特定した持続期間後に前記生物学的ペースメーカーからの信号を検出できない場合に、前記第1の電気的ペースメーカーと併行してペースメーカー信号を出力するようにプログラム可能であり、これによって、前記の第1および第2の電気的ペースメーカーは、両室性の機能を提供する、請求項63に記載のぺースメーカーシステム。
【請求項1】
(1)電気的ペースメーカーと、(2)生物学的ペースメーカーとを含むタンデム型ペースメーカーシステムであって、前記生物学的ペースメーカーは、過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)イオンチャネルを機能的に発現する移植可能な細胞を含み、かつ前記細胞を対象の心臓に移植した場合、発現したHCNチャネルは、有効なペースメーカー電流を発生させるタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項2】
前記細胞が、心筋細胞とのギャップ結合を介した伝達が可能である、請求項1に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項3】
前記細胞が、幹細胞、心筋細胞、心臓のコネキシンを発現するように操作された繊維芽細胞または骨格筋細胞、および内皮細胞からなる群から選択された、請求項2に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項4】
前記幹細胞が、胚性幹細胞または成体幹細胞である、請求項2に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項5】
前記幹細胞が、ヒト成体間葉系幹細胞である、請求項4に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項6】
前記生物学的ペースメーカーが、少なくとも約200,000個のヒト成体間葉系幹細胞を含む、請求項5に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項7】
前記生物学的ペースメーカーが、少なくとも約700,000個のヒト成体間葉系幹細胞を含む、請求項5に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項8】
前記HCNチャネルが、HCN1、HCN2、HCN3またはHCN4である、請求項1に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項9】
前記HCNチャネルが、ヒトのHCN1、HCN2、HCN3またはHCN4である、請求項5に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項10】
前記HCNチャネルが、mHCN1(配列番号 )、mHCN2(配列番号 )、mHCN3(配列番号 )またはmHCN4(配列番号 )と少なくとも約75%の配列同一性を有する、請求項1に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項11】
前記HCNチャネルが、配列番号 を有するhHCN2である、請求項9に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項12】
前記HCNチャネルが、配列番号 と少なくとも約75%相同である、請求項1に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項13】
前記細胞が、MiRP1ベータサブユニットをさらに機能的に発現する、請求項1に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項14】
(1)電気的ペースメーカーと、(2)生物学的ペースメーカーとを含むタンデム型ペースメーカーシステムであって、前記生物学的ペースメーカーは、変異型HCNイオンチャネルを機能的に発現する移植可能な細胞を含み、対象の心臓に移植した場合、前記の発現した変異型HCNチャネルは、有効なペースメーカー電流を発生させるタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項15】
前記細胞が、変異型HCN1、変異型HCN2、変異型HCN3または変異型HCN4を機能的に発現する、請求項14に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項16】
前記細胞が、変異型ヒトHCN1、変異型ヒトHCN2、変異型ヒトHCN3または変異型ヒトHCN4を機能的に発現する、請求項15に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項17】
前記細胞が、変異型ヒトHCN2を機能的に発現する、請求項16に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項18】
前記変異型HCNチャネルが、野生型HCNチャネルと比較して、より迅速な動態、より正の活性化、発現の増加したレベル、向上した安定性、増強されたcAMP応答性および増強された神経液性応答からなる群から選択された、改善された特徴を提供する、請求項14に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項19】
前記変異型HCNチャネルが、S4電位センサー領域、S4-S5リンカー領域、S5、S6およびS5-S6リンカー領域、Cリンカー領域、ならびにCNBD領域からなる群から選択されたチャネルの領域に変異を含有する、請求項14に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項20】
前記変異型HCNチャネルが、HCN2に由来し、かつ、E324A-HCN2、Y331A-HCN2、R339A-HCN2またはY331A,E324A-HCN2を含む、請求項14に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項21】
前記変異型HCNチャネルが、E324A-HCN2を含む、請求項20に記載のペースメーカーシステム。
【請求項22】
前記細胞が、幹細胞、心筋細胞、心臓のコネキシンを発現するように操作された繊維芽細胞または骨格筋細胞、および内皮細胞からなる群から選択された、請求項14に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項23】
前記幹細胞が、胚性幹細胞または成体幹細胞であり、かつ、前記幹細胞が、実質的に分化できない、請求項22に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項24】
前記幹細胞が、ヒト成体間葉系幹細胞である、請求項23に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項25】
前記生物学的ペースメーカーが、少なくとも約200,000個のヒト成体間葉系幹細胞を含む、請求項24に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項26】
前記生物学的ペースメーカーが、少なくとも約700,000個のヒト成体間葉系幹細胞を含む、請求項25に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項27】
(1)電気的ペースメーカーと、(2)第1末端および第2末端を有するギャップ結合連結細胞の条片を含むバイパスブリッジとを含むタンデム型ペースメーカーシステムであって、両末端は、心臓の2つの選択された部位に付着することができ、その結果、心臓の2つの部位の間の経路を横断しての電気信号の伝達が可能となるタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項28】
前記バイパスブリッジの第1末端が心房に付着することができ、第2末端が心室に付着することができ、その結果、心房からの電気信号が経路を横断して移動して心室を興奮させることが可能となる、請求項27に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項29】
前記細胞が、幹細胞、心筋細胞、心臓のコネキシンを発現するように操作された繊維芽細胞または骨格筋細胞、あるいは内皮細胞である、請求項27に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項30】
前記幹細胞が、胚性幹細胞または成体幹細胞である、請求項29に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項31】
前記幹細胞が、ヒト成体間葉系幹細胞である、請求項30に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項32】
前記のバイパスブリッジの細胞が、心臓のコネキシン;L型カルシウムチャネルのアルファサブユニットおよびアクセサリーサブユニット;ナトリウムチャネルのアルファサブユニットで、アクセサリーサブユニットを有するまたは有しないもの;ならびにカリウムチャネルのアクセサリーサブユニットを有するまたは有しない、カリウムチャネルのアルファサブユニットと組み合わせたL型カルシウムチャネルおよび/またはナトリウムチャネルからなる群から選択された少なくとも1種のタンパク質を機能的に発現する、請求項27に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項33】
前記の心臓のコネキシンが、Cx43、Cx40およびCx45からなる群から選択された、請求項27に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項34】
(a)HCNイオンチャネル、または
(b)変異型HCNチャネル
を機能的に発現する移植可能な細胞を含む生物学的ペースメーカーをさらに含み、
前記細胞を対象の心臓に移植した場合、前記の発現したHCNチャネル、キメラのHCNチャネルまたは変異型HCNチャネルが、有効なペースメーカー電流を発生させる、請求項27に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項35】
前記の移植可能な細胞が、ヒト成体間葉系幹細胞である、請求項34に記載のタンデム型システム。
【請求項36】
前記HCNチャネルが、HCN2である、請求項35に記載のタンデム型システム。
【請求項37】
前記生物学的ペースメーカーが、少なくとも約200,000個のヒト成体間葉系幹細胞を含む、請求項35に記載のタンデム型システム。
【請求項38】
前記生物学的ペースメーカーが、少なくとも約700,000個のヒト成体間葉系幹細胞を含む、請求項37に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項39】
(1)電気的ペースメーカーと、(2)HCNチャネルまたは変異型HCNチャネルをコードする核酸を含むベクターとを含むタンデム型ペースメーカーシステムであって、前記ベクターを、対象の心臓の細胞に投与し、かつ前記のHCNチャネルまたは変異型HCNチャネルを、心臓の細胞内で発現させて、有効なペースメーカー電流を発生させるタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項40】
前記HCNチャネルが、HCN2である、請求項39に記載のタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項41】
心臓律動障害に罹患した対象を治療する方法であって、請求項1または14のいずれか一項に記載のタンデム型ペースメーカーシステムを対象に投与するステップを含み、前記システムの生物学的ペースメーカーを対象の心臓に提供して、有効な生物学的ペースメーカー電流を発生させ、前記電気的ペースメーカーも対象の心臓にさらに提供して、前記生物学的ペースメーカーと併行して働かせて、心臓律動障害を治療する方法。
【請求項42】
前記電気的ペースメーカーを、前記生物学的ペースメーカーの前に提供する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記電気的ペースメーカーを、前記生物学的ペースメーカーと同時に提供する、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
前記電気的ペースメーカーを、前記生物学的ペースメーカーの後に提供する、請求項41に記載の方法。
【請求項45】
前記生物学的ペースメーカーを、対象の心臓のバッハマン束、洞房結節、房室接合部、ヒス束、左または右の脚、プルキンエ線維、右または左の心房筋、あるいは右または左の心室筋に提供する、請求項41に記載の方法。
【請求項46】
前記生物学的ペースメーカーが、心臓のβアドレナリン作動性の応答性を増強し、外向きカリウム電流IK1を減少させ、かつ/または内向き電流Ifを増加させる、請求項41に記載の方法。
【請求項47】
前記心臓律動障害が、洞房結節の機能障害、洞性徐脈、辺縁性ペースメーカー活動、洞不全症候群、頻脈性不整脈、洞房結節リエントリー頻脈、異所性病巣からの心房性頻脈、心房粗動、心房細動、徐脈性不整脈または心不全であり、かつ前記生物学的ペースメーカーを、対象の心臓の左または右の心房筋、洞房結節あるいは房室接合部に投与する、請求項41に記載の方法。
【請求項48】
前記電気的ペースメーカーが、対象の心臓の拍動速度を感知し、心臓の拍動速度が選択した心臓の拍動速度を下回る場合に、ペースメーカー信号を出力するようにプログラムされる、請求項41に記載の方法。
【請求項49】
前記の選択した拍動速度が、基準の時間間隔後に心臓が経験する拍動速度の選択した割合である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記の基準の時間間隔が、選択した持続期間の直ちに先行する期間である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記電気的ペースメーカーの電池の寿命が、保存される、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
心臓律動障害を治療する方法であって、前記バイパス経路が欠損したコンダクタンスを示す領域に橋を架けるように請求項27に記載のペースメーカーシステムを対象の心臓に投与するステップを含み、前記障害が、伝導ブロック、完全房室ブロック、不完全房室ブロック、脚ブロック、心不全または徐脈性不整脈であり、前記電気的ペースメーカーが誘発する電気的なペースメーカー電流の前記バイパス経路による伝達が、対象を治療するのに有効であり、かつ前記電気的ペースメーカーを、前記バイパス経路を提供する前、それと同時、またはその後のいずれかに提供する方法。
【請求項53】
対象の心臓律動障害を治療する方法であって、伝導ブロックを代償するために請求項1または14に記載のペースメーカーシステムを対象の心臓のある領域に投与するステップを含み、前記障害が、伝導ブロック、完全房室ブロック、不完全房室ブロック、脚ブロック、心不全または徐脈性不整脈である方法。
【請求項54】
前記電気的ペースメーカーが、対象の心臓の拍動速度を感知し、心臓の拍動速度が選択した心臓の拍動速度を下回る場合に、ペースメーカー信号を出力するようにさらにプログラムされる、請求項52に記載の方法。
【請求項55】
洞房結節の機能障害、洞性徐脈、辺縁性ペースメーカー活動、洞不全症候群、心不全、頻脈性不整脈、洞房結節リエントリー頻脈、異所性病巣からの心房性頻脈、心房粗動、心房細動または徐脈性不整脈と伝導ブロック障害とに罹患した対象を治療する方法であって、請求項34に記載のタンデム型ペースメーカーシステムを投与するステップを含み、前記電気的ペースメーカーを前記生物学的ペースメーカーを提供する前、それと同時、またはその後のいずれかに提供し、かつ前記生物学的ペースメーカーを対象に投与して対象の心臓で有効な生物学的ペースメーカー電流を発生させ、かつ前記バイパス経路が欠損したコンダクタンスを示す領域に橋を架け、電気的なペースメーカー電流および/または生物学的なペースメーカー電流の前記バイパス経路による伝達が、対象を治療するのに有効である方法。
【請求項56】
前記電気的ペースメーカーが、対象の心臓の拍動速度を感知し、心臓の拍動速度が選択した心臓の拍動速度を下回る場合に、ペースメーカー信号を出力するようにさらにプログラムされる、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
対象の心臓の信号をモニターする方法であって、請求項1または14に記載のタンデム型ペースメーカーシステムを対象の心臓のある部位に提供するステップと、前記電気的ペースメーカーを用いて対象の心臓の拍動速度をモニターするステップとを含み、前記電気的ペースメーカーを前記生物学的ペースメーカーを提供する前、それと同時、またはその後のいずれかに提供する方法。
【請求項58】
前記電気的ペースメーカーが、対象の心臓の拍動速度を感知し、心臓の拍動速度が選択した心臓の拍動速度を下回る場合に、ペースメーカー信号を出力するようにさらにプログラムされる、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
電気的ペースメーカーの心臓のペーシングの機能を増強する方法であって、請求項1または14に記載のタンデム型電気的ペースメーカーシステムを提供するステップと、選択的に心臓を前記電気的ペースメーカーを用いて刺激するステップとを含み、前記電気的ペースメーカーが、対象の心臓の拍動速度を感知し、心臓の拍動速度が選択した心臓の拍動速度を下回る場合に、ペースメーカー信号を出力するようにプログラムされる方法。
【請求項60】
心室同期不全に罹患した対象を治療する方法であって、(a)対象の心臓の第1の心室のある部位を選択するステップと、(b)ペースメーカー活動を開始し、第1の心室の収縮を刺激するために、請求項1または14に記載の生物学的ペースメーカーを選択した部位に投与するステップと、(c)心臓の第2の心室を、前記生物学的ペースメーカーからの信号を検出し、生物学的ペースメーカー信号を検出した後、基準の時間間隔でペースメーカー信号を出力するようにプログラムされた第1の電気的ペースメーカーを用いてペーシングするステップとを含み、これによって、両室性のペースメーカー機能を提供して、対象を治療する方法。
【請求項61】
前記電気的ペースメーカーが、特定した持続期間後に前記生物学的ペースメーカーからの信号を検出できない場合に、ペースメーカー信号を出力するようさらにプログラム可能である、請求項60に記載のペースメーカーシステム。
【請求項62】
冠静脈に投与するための第2の電気的ペースメーカーをさらに含み、前記第2の電気的ペースメーカーが、前記生物学的ペースメーカーからの信号を検出し、前記第2の電気的ペースメーカーが、特定した持続期間後に前記生物学的ペースメーカーからの信号を検出できない場合に、前記第1の電気的ペースメーカーと併行してペースメーカー信号を出力するようにプログラムされ、これによって、前記の第1および第2の電気的ペースメーカーは、両室性の機能を提供する、請求項60に記載のペースメーカーシステム。
【請求項63】
心室同期不全に罹患した対象を治療するためのタンデム型ペースメーカーシステムであって、(1)対象の心臓の第1の心室に投与するための請求項1または14のに記載の生物学的ペースメーカーと、(2)対象の心臓の第2の心室に投与するための電気的ペースメーカーとを含み、前記電気的ペースメーカーが、前記生物学的ペースメーカーからの信号を検出し、生物学的ペースメーカー信号を検出した後、基準の時間間隔で電気的なペースメーカー信号を出力するようにプログラム可能であり、それによって、両室性のペースメーカー機能を提供し、かつ前記電気的ペースメーカーを前記生物学的ペースメーカーの前またはそれと同時のいずれかに提供するタンデム型ペースメーカーシステム。
【請求項64】
前記電気的ペースメーカーが、特定した持続期間後に前記生物学的ペースメーカーからの信号を検出できない場合に、ペースメーカー信号を出力するようさらにプログラム可能である、請求項63に記載のペースメーカーシステム。
【請求項65】
冠静脈に投与するための第2の電気的ペースメーカーをさらに含み、前記第2の電気的ペースメーカーが、前記生物学的ペースメーカーからの信号を検出し、前記第2の電気的ペースメーカーが、特定した持続期間後に前記生物学的ペースメーカーからの信号を検出できない場合に、前記第1の電気的ペースメーカーと併行してペースメーカー信号を出力するようにプログラム可能であり、これによって、前記の第1および第2の電気的ペースメーカーは、両室性の機能を提供する、請求項63に記載のぺースメーカーシステム。
【図3】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図17】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図1】
【図2】
【図4】
【図7】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図5】
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【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図1】
【図2】
【図4】
【図7】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【公表番号】特表2009−502259(P2009−502259A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−523035(P2008−523035)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/028625
【国際公開番号】WO2007/014134
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(306018457)ザ・トラスティーズ・オブ・コロンビア・ユニバーシティ・イン・ザ・シティ・オブ・ニューヨーク (25)
【出願人】(503035992)ザ・リサーチ・ファウンデーション・オブ・ステイト・ユニヴァーシティ・オブ・ニューヨーク (7)
【出願人】(508020041)カルディアック・ペースメーカーズ・インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/028625
【国際公開番号】WO2007/014134
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(306018457)ザ・トラスティーズ・オブ・コロンビア・ユニバーシティ・イン・ザ・シティ・オブ・ニューヨーク (25)
【出願人】(503035992)ザ・リサーチ・ファウンデーション・オブ・ステイト・ユニヴァーシティ・オブ・ニューヨーク (7)
【出願人】(508020041)カルディアック・ペースメーカーズ・インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】
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