説明

タンパク質アレイ、及びその使用方法

本発明者らは、機能を有する、ヒト、動物、植物又は微生物のタンパク質アレイを製造する方法と、アレイ上のタンパク質と、所定の分子との相互作用について、例えば、当該アレイを用いて、任意の薬剤の生体外での代謝産物の特性を決定することによって検定する方法を本明細書に記載する。当該タンパク質アレイを用いて、例えば、並列して、薬剤代謝酵素(DME)をコードするDNA配列のタンパク質産物を検定して、毒性特性を得ることができる。また、界面活性剤を使用し、超遠心分離ステップを必要としない新規なDME発現及び精製戦略を本明細書に記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子生物学及び薬剤発見に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの臨床試験に入る薬剤の90%以上が、主に治療指数(50%毒性量/50%有効量)が低いことから、監査機関によって薬剤として承認されていないことが推定される。多くの場合、薬剤候補の毒性機構が不明であり、この知見がないと、同様の理由で、薬剤候補の代替品が失敗しないということが確証されない。
【0003】
分子生物学と、1980年代後半のコンビナトリアル・ケミストリーの進展以来、効能に重きを置いた、薬剤発見過程は、新規薬剤のリード化合物の発見においてより有効なものとなっている。不幸にも、安全性と毒性に重きを置いた薬剤開発の進展は、薬剤発見の効率の増大に追随しておらず、このことは、新規薬剤の承認の全体の過程において障害となっている。最も効能がある薬剤リード化合物が、薬剤開発段階へ進められ、薬剤候補となり、すなわち、最初に、監査機関の承認を得るためのヒト臨床試験の開始前に、組織培養細胞生存アッセイ及び動物研究において臨床前毒性研究を行う。臨床前毒性研究が臨床転帰をより予測するものであるならば、このことによって、薬剤臨床試験の成功率が飛躍的に改善されるだろう。さらに、臨床前毒性研究および薬理学研究が薬剤発見に追随することができれば、2つの過程を一体化することができ、それ故に、新規化学物質(new chemical entity,NCE)を、相乗の過程において、薬剤発見チームに迅速にフィードバックして、臨床前試験及び臨床試験における潜在的に優れた治療指数を有する薬剤候補を同定することができる。
【0004】
薬剤は、多くの場合、薬剤代謝酵素(drug metabolizing enzyme,DME)によって生体内で代謝され、薬剤の治療指数は、該薬剤とこれらの酵素との相互作用によって大部分が決定される。DMEは、通常、フェーズ1酵素又はフェーズ2酵素として分類される。
【0005】
フェーズ1のDMEは、チトクロームP450及びフラビン・モノオキシゲナーゼ(flavin monooxygenase,FMO)を含むものであり、生体異物及び薬剤の初期の生体内変換を担い、酸素原子の基質分子への導入を触媒する。現在、57種以上のヒトチトクロームP450遺伝子が配列決定されている。これらの中でも、CYP3A4、CYP2D6、及びCYP2Cサブファミリーが現在の薬剤の大部分の初期代謝を担い(例えば、CYP3A4は、アセトミノフェン、コデイン、シクロスポリンA、ジアゼパム、エリスロマイシン、リドカイン、ロバスタチン、タキソール、及びワーファリンを含む120種以上の種々の薬剤を代謝することが知られている)、個体群内で多型であることが分かっている(例えば、CYP2D6については、70種以上の種々の対立遺伝子が報告されている)。
【0006】
フェーズ2のDMEは、UDP−グリコシルトランスフェラーゼ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼ、及びN−アセチルトランスフェラーゼを含むものであり、アセチル、グルクロニド、グルタチオン及び硫酸塩などの可溶基を、初期薬剤、及びフェーズ1のDMEによって生成された代謝産物の両方に結合させることによって排泄過程と解毒過程の両方を助けるものである。
【0007】
薬剤がDMEと相互作用することができる主要な機構は3種類ある。
【0008】
1.薬剤が1種又は複数のDMEを阻害するか、又はDMEが、それ自身毒性特性を有する代謝産物及び2次代謝産物の生成をもたらす回転基質として作用する。例えば、フェーズ1のDMEによる薬剤の酸化によって、多くの場合、コカインの場合には、強い求電子物質として作用し、DNA又はタンパク質を共有結合により修飾して、毒性効果を生じさせることができる水酸化した又は脱アルキル化した代謝産物がもたらされる。
【0009】
2.薬剤が、核受容体への結合を介して転写を活性化することによって、DMEの特定のセットの発現を誘導し、該受容体の例としては、P450 1A1及びグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(glutathione S transferase,GST)を上方制御するアリール炭化水素受容体(aryl hydrocarbon receptor,AhR)と、P450 2C9を上方制御する、グルココルチコイド受容体及びアンドロスタン受容体と、P450 3Aファミリーを上方制御するプレグナンX受容体がある。
【0010】
薬剤が、P−糖タンパク質又は多剤耐性タンパク質(MDR1〜5)などの薬剤輸送体との相互作用によって細胞内の薬剤濃度を調節する。
【0011】
これらの機構のそれぞれが、薬剤自身の代謝及び考えられる毒性に影響を及ぼすことができるのみならず、他の化合物の代謝に直接又は間接的に影響を及ぼすことによって薬剤と薬剤との不都合な相互作用をもたらすことができる。したがって、薬剤は、阻害されなければ2次化合物を解毒するP450を阻害する可能性があるか(例えば、キニジンは、CYP3A4酵素によって代謝されるが、CYP2D6の強力な阻害剤である)、又は2次化合物を、毒性がある代謝産物に回転させるP450の発現を誘導する可能性があるか、又は別の化合物が細胞内に入るのを阻害し、2次化合物の変化した効果を生じさせる可能性がある。例えば、高血圧に使用するために開発されたカルシウムのT型及びL型チャンネルブロッカーであるミベフラジルは、最近、重大な薬剤と薬剤との相互作用が報告された後、市場から排除された。ミベフラジルの毒性作用の様式は、P450 3A4とP−糖タンパク質の両方を強く阻害するものであった。したがって、不都合な薬剤と薬剤との相互作用の大部分は、基礎となる薬理学が知られた時点で予測可能であるべきなので、これらの可能性のある効果を、できる限り薬剤開発過程の初期の段階で各薬剤候補について評価することはますます重要となっている。
【0012】
臨床前の毒性研究は、通常、組織培養細胞の生存アッセイ及び動物研究によって行われる。しかしながら、不死化した細胞株によって、不死化した細胞と正常細胞との発現レベルの違いのために、特にDMEとの相互作用に関して、薬剤の生体内での毒性の真の兆候が得られない。動物モデルによって、有用な毒性の兆候を得ることができるが、ヒトと齧歯類において異なる毒性効果を示す薬剤のいくつかの報告がある。これらの毒性効果における違いは様々な理由で生じる。例えば、ヒトと齧歯類のP450は、薬剤によって異なる程度まで阻害されるか、又は薬剤が、異なる部位選択性で酸化されて、別個の代謝産物を生じるか、又はタモキシフェンの場合では、フェーズ1又はフェーズ2の酵素の発現レベルが変動し、その結果、異なる代謝産物が生成される。ヒトの核受容体遺伝子を有するトランスジェニックマウスは、薬剤毒性実験に使用されているが、この技術は、ごく初期の段階にあるものであって、理論上は、完全な薬剤、代謝産物及び2次時代謝産物の毒性特性を得るために、ヒトの薬剤と相互作用するタンパク質を総てクローニングし、それらを適切なレベルで発現する必要がある。
【0013】
トキシコジェノミクス及びファーマコジェノミクスは、遺伝子発現技術の毒性学及び薬理学への応用と定義されている。ここで、薬剤の遺伝子発現を誘導する能力(核受容体への結合又は他の機構によって)は、組織培養細胞株又は動物モデルのいずれかにおいて評価される。遺伝子発現は、RNAレベルで(DNAマイクロアレイを使用して)、又はタンパク質レベルで(二次元タンパク質ゲルを使用して)モニターすることができる。遺伝子ファミリーは、上方制御されていることがあり、例えば、薬剤の該当する核受容体への結合を介して、又は炎症を生じる薬剤もしくはその代謝産物、DNA損傷、酸化ストレス、又は細胞シグナルを介してのDMEがある。このアプローチの評論は、該アプローチは、細胞が異質の薬剤の導入にどの程度対抗しようとするのかについての情報を与える終点のアッセイであるが、該アプローチによって、薬剤がその効果を発揮するメカニズムについての情報が全く得られないというものである。例えば、薬剤が、DNA損傷と関連した遺伝子の上方制御を引き起こすという知見によって、どの酵素が最初に薬剤を酸化して、その結果生じる、DNAを共有結合により修飾することが可能で、求電子的な中間体を生成するのかに関する情報が全く得られない。ヒトとマウスのプレグナンX受容体(PXR)の比較も、ヒトにおける薬剤の効果を予測するための動物のトキシコジェノミクス的な研究の妥当性を疑う、特定の薬剤による活性化における顕著な差異を示した。
【0014】
上記の臨床前の毒性を決定する現在の方法の一部と関連した問題は、薬剤が相互作用するヒトのタンパク質に対する薬剤の、より完全で、より厳密な、生体外でのスクリーニングに強く賛成するものである。可能性のある毒性について薬剤を充分に試験するために、全部の補足物、又は有意な割合のヒトDME、核受容体及び薬剤輸送タンパク質との結合、これらによる阻害、及び回転について検定することが要請されている。しかしながら、クローニングされ、機能的な形で発現及び精製されている、薬剤が相互作用するヒトのタンパク質が限られており、各タンパク質が、薬剤の結合、活性の阻害もしくは促進を検出するための独特なアッセイの確立と、代謝産物の生成の分析を必要とするので、現在、このことは、多くの時間を必要とし、根気のいるものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
DNAアレイ又は変性したタンパク質のゲルと対照的に、活性タンパク質のアレイを用いて、この詳細なメカニズムの多くの情報が、高処理で、定量的な方法で得ることができ、該アレイは、従来の方法で得られたデータを補完するものである。しかしながら、これまで、DME、核受容体、又は薬剤輸送体システムの、折り畳まれ、完全な機能を有する状態のタンパク質アレイの例が全くなかった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、機能を有する、ヒト、動物、植物又は微生物のタンパク質アレイを製造する方法と、アレイ上のタンパク質と、所定の分子との相互作用について、例えば、当該アレイを用いて、任意の薬剤の生体外での代謝産物の特性を決定することによって検定する方法を本明細書に記載する。当該タンパク質アレイを用いて、例えば、並列して、薬剤代謝酵素(DME)をコードするDNA配列のタンパク質産物を検定して、毒性特性を得ることができる。また、界面活性剤を使用し、超遠心分離ステップを必要としない新規なDME発現及び精製戦略を本明細書に記載する。既に報告されている総てのP450の精製アプローチは、超遠心分離ステップを必要とし、該ステップは、P450の精製を多重化した様式で行うことが困難であることを示すものである。
【0017】
薬剤代謝酵素は、臨床及び医薬の特有の関連性を有する所定の細胞、組織又は生物体におけるタンパク質の全部の収集物の特定の一部に相当する。このようなタンパク質群を含むタンパク質アレイは、薬剤ターゲットの同定及び検証のプロセスのみならず、薬剤の選択性及び毒性のスクリーン、及び薬剤代謝酵素とタンパク質との相互作用地図の描写への可能性のある応用を有する非常に多目的な手段に相当する。しかしながら、そのような応用が実行できるためには、アレイ上の薬剤代謝酵素が、その自然な機能の全部ではないが多くの側面を維持する可能性が高いように正確に折り畳まれていることを必要とする。当該アレイは、これまで、様々な理由で記述されていない。まず、発現し、精製した、機能を有するタンパク質の適切な収集物を生成する能力に完全に依存しており、このことは、技術的に難しいことが本技術分野で既知である。次に、各タンパク質を適切な表面上に、該タンパク質が機能を維持するように固定化する能力に依存し、このことが、DMEについてどれくらい達成することができるのか直ぐに明らかにならず、P450などのこれらのタンパク質の多くは膜結合型であり、さらに、細胞内と同様の様式で触媒作用により活性化するためには、補助タンパク質を必要とするが、多くの場合、DMEと補助タンパク質との間に不安定な複合体が形成される(例えば、チトクロームP450とNADPH−チトクロームP450還元酵素との間の一過性の相互作用がある)。
【0018】
タンパク質相互作用のアレイ形式での生体外スクリーニングは先行技術において示されている。最も簡単な形では、溶液からタンパク質を捕捉するために、マイクロアレイがイムノグロブリン分子から生成されている。これらの抗体アレイによって、ELISAアッセイが小型化され、例えば、細胞溶解物、血清サンプル、又は組換えタンパク質の混合物の高処理分析が可能となる。タンパク質アレイのタイプの第2の例は抗原アレイであり、血清サンプル中の自己抗体を同定するために用いられる。このような場合、抗原は、変性表面上に配列され、総ての線形のエピトープが抗体結合に利用できるようにするが、配列された分子の本来の形状が破壊される。タンパク質が正確な折り畳みと機能を保持するように配列されたタンパク質アレイの2つの例が最近記述されている。第1の例では、‘チップ上のプロテオーム'が、比較的小さな酵素のゲノムについて作製され、これによって、研究者らが、本来の構造の個々のタンパク質への結合に基づいて活性を同定することができるようになっている。第2の例では、タンパク質キナーゼの小さなアレイが作成され、機能について探索されている。さらに、特に選択された、N末端又はC末端に正確にタグが付けられた機能を有するタンパク質のアレイが作製され、DNA及び小分子などの相互作用するパートナーを同定するために取り調べられている。これらの各事例では、個々のタンパク質を精製し、アレイ上に個々に沈着させている。これまで、折り畳まれた薬剤代謝酵素についての記述はなく、2種又は3種以上のタンパク質を活性複合体を形成するために必要とするタンパク質アレイの記述もない。
【0019】
現在、生体外での、細胞によらないフェーズ1及び2の薬剤代謝アッセイが、溶液相でのアッセイで行われており、基本的には、試験管の形式でDMEタンパク質の収集物を個々に検定することができる。しかしながら、この作業の連続的な性質、必要とされる大きなサンプル容積、及び種々のアッセイのタイプ(例えば、薬剤結合、回転、及び細胞毒性のアッセイ)の範囲に渡って個々の溶液相のアッセイの基盤の適合性が乏しいことによって、このアプローチが扱いにくく、魅力のないものとなり、正確な、比較による反応速度分析が困難となる。
【0020】
薬剤代謝酵素の機能的な研究のための高処理な手段は未だ欠如しており、薬剤分子のこれらの機能への影響を並行して検定するための手段も欠如している。薬剤代謝酵素の数は、何千とはいかないまでも何百という数に達するので、機能的な分析を行うために、抗体、ゲル又はビーズを必要としない、機能的な分析の、極めて同時に実行される方法が必要とされている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
第1の態様において、本発明は、複数の空間的に決められた位置を有する表面を含むタンパク質アレイであって、複合体を形成することが可能である少なくとも2種のタンパク質部分が各位置に沈着され、前記複合体が一時的に形成されていることを特徴とするタンパク質アレイを提供する。そのような複合体は、さらにタンパク質が結合して、触媒反応を引き起こす前の、リガンドを結合することによる受容体の二量化、又はDNA結合タンパク質の複合体の形成など、一時的に(すなわち、少しの間)、例えば、酵素触媒反応の間、又は結合が起きている間、形成されている。
【0022】
第1の態様のアレイのパターンにおける各位置は、例えば、2種又は3種以上のタンパク質のタイプのサンプルを含み、前記2種又は3種以上のタンパク質は、触媒の機能性に関する複合体を形成するのに必要とされているが、前記複合体は、各触媒サイクルの間に一時的に形成されるに過ぎない(例えば、ヒトチトクロームP450 3A4と、ヒトNADPH−チトクロームP450還元酵素)。
【0023】
機能を有する補酵素複合体(例えば、NADPH−チトクロームP450還元酵素/P450)のアレイ形式での固定化は本発明の範囲に含まれる。したがって、酵素及びその付属タンパク質は、アレイ上で同じ位置を占めていてもよい。
【0024】
第2の態様では、本発明は、複数の空間的に定められた位置を有する表面を含むタンパク質アレイであって、各位置に少なくとも2種のタンパク質部分が沈着しており、各位置での前記タンパク質部分は、所定の基質に連続して作用することを特徴とするタンパク質アレイを提供する。
【0025】
第2の態様のアレイのパターンにおける各位置は、例えば、2種又は3種以上のタンパク質のタイプのサンプルを含むことができ、前記2種又は3種以上のタンパク質は、所定の小分子上で連続して作用する可能性があるが、必ずしも互いに相互作用するものではない(例えば、ヒトチトクロームP450 3A4と、ヒトグルタチオン−S−トランスフェラーゼP1)。
【0026】
生体内での状況をより完全に模倣するフェーズ1及びフェーズ2のDMEの混合物の同時アレイ(co-array)も本態様に含まれ、異なる代謝産物の同一性及び相対的な割合の決定を可能にする。これによって、特に、フェーズ1のDMEが、フェーズ2のDMEのための基質である短命の求電子産物の生成を触媒する薬剤の結合及び代謝産物の特性の完全なキャラクタリゼーションが可能となる。同時アレイ(co-array)形式の例として、縦列に配列されたP450のパネルと、同じプレート上で横列に配列された薬剤結合性酵素のパネルを有する96又は384ウェルプレートがある。このように、特定の薬剤の代謝に関連したフェーズ1及び2の組み合わせを迅速に決定することができる。同時アレイ(co-array)は、典型的には、フェーズ1のDMEが固定化され、フェーズ2のDMEが固定化されるか、又は液相内にあるかのいずれかである形態であり、代謝産物の同定は、典型的にはLC-MSによって行われる。
【0027】
本発明の第1及び第2の態様の実施態様では、タンパク質アレイ上の各位置におけるタンパク質部分の少なくとも1種が、膜に結びつくか、もしくは膜に結合することが可能であるか、又は非極性もしくは両親媒性の分子と相互作用するように修飾されている。
【0028】
例えば、所定のタンパク質のN末端又はC末端に付着した疎水性ペプチド及び/又は天然の疎水性領域、例えば、タンパク質表面上のパッチを用いて、タンパク質を、アレイの表面上に、表面上のヒドロゲル・マトリックス内に封入されているリポソーム又はミクロソームとの相互作用を介して固定化する。所定のタンパク質が、界面活性剤のミセルなどの膜に似た調整物に調整できないほど充分に疎油性(lipophobic)である場合、酵素を、例えば、疎水性のタグを付加するか、又は別のタンパク質由来の膜貫通型ドメインを挿入することによって修飾して(但し、これらの修飾は、タンパク質の触媒活性を変化させるものではない)、膜に似た調整物を形成するために用いられる脂質又は界面活性剤分子と相互作用させることができる。
【0029】
別の好ましい実施態様では、表面の被覆は、ゲルマトリックスであり、例えば、アガロース、ポリウレタン又はポリアクリルアミドなどのヒドロゲルポリマーであり、各タンパク質部分が、封入されたリポソーム又はミクロソームと、各タンパク質のN末端又はC末端に位置する疎水性ペプチド、及び/又は例えば各タンパク質の表面上の疎水性パッチもしくは疎水性領域を介して相互作用するように、リポソーム又はミクロソームを封入する。アレイ上のリポソーム又はミクロソームを使用することによって、一過性の相互作用を生じさせるか、又は一過性の複合体を、触媒反応の間、アレイ上の各位置に位置する2種又は3種以上のタンパク質の間に形成させることが可能となる。このことによって、初めて、共働するタンパク質(例えばP450とNADPH-チトクロームP450還元酵素)のアレイを作成することが可能となる。
【0030】
本発明の第1及び第2の態様の一実施態様において、アレイ上のタンパク質部分は、薬剤代謝酵素に由来する。
【0031】
しかしながら、本発明の第1及び第2の態様のアレイは薬剤代謝酵素を有するものに限定されない。これらの態様のアレイは、一過性の複合体を形成することが可能であるか、又は所定の基質に連続して作用する所定のいかなるタンパク質も含んでも良い。
【0032】
第3の態様では、本発明は、少なくとも2種のタンパク質部分が空間的に定められた位置に沈着されている表面を含むタンパク質アレイであって、前記タンパク質部分は、1種又は複数のDMEに由来することを特徴とするタンパク質アレイを提供する。本態様の実施態様において、DMEは、アレイの各位置に単独で(複合体におけるパートナーなしで)位置していても良く、例えば、過酸化物短絡経路(peroxide shunt pathway)を介した、固定化したP450の化学的な活性化によって、化学的に活性化されても良い。
【0033】
本明細書に記載されているタンパク質アレイは、表面上のあるパターンでのタンパク質部分の空間的に定められた配列である。タンパク質部分が、表面に直接又は間接的に付着していることが好ましい。付着は非特異的である(例えば、表面上への物理吸収、又は非特異的な共有結合の相互作用の形成による)。好ましい実施態様において、タンパク質部分は、各タンパク質部分に付加したマーカー部分又はタグ(例えば、ヘキサヒスチジンタグ、又はビオチンなどの化学的に付着した分子)を介して表面に付着している。一実施態様において、マーカー部分又はタグは、配列されているすべてのタンパク質部分に共通していても良い。別の好ましい実施態様において、表面に近接して固定されている小胞又はリポソーム内に、例えばゲルマトリックスによってタンパク質部分を組み込むことができる。
【0034】
本明細書に記載されている表面は、化学処理によって被覆もしくは誘導体化されているか、又は被覆もしくは誘導体化されていない、平らな又は曲線の領域である。例えば、領域は、スライドグラス、1種又は複数のビーズ、例えば、本技術分野で既知である磁性の、誘導体化及び/又は標識されたビーズ、金、もしくはシリカ、もしくは金属の物、セラミックのゾル・ゲル、ポリプロピレン、もしくはポリスチレン、もしくは金、もしくはシリカのスライド、ポリプロピレンもしくはポリスチレンのマルチウェルプレート、又はニトロセルロース膜、PVDF膜、ナイロン膜、もしくはホスホセルロース膜などの他の多孔性の表面である。
【0035】
ビーズを使用する場合、個々のタンパク質、タンパク質の対、又は種々のタンパク質のプールを個々のビーズに付加して、空間的に定められるか、又は分離されたアレイを提供することができる。次に、ビーズを、別個であるが並行して、区分化して、例えばマイクロタイタープレートのウェル内、又は別個の試験管内で検定することができる。これらの形式は、例えば、所定のタンパク質が存在するタンパク質の群を最初に同定し、次に、当該グループを分離し、さらに調査する“ショットガン・スクリーニング(shotgun screening)”に有用である。この方法は、コンビナトリアル・ケミストリーの分野において既知であるプーリング方法(pooling method)と類似している。
【0036】
したがって、本発明に従う表面を含むタンパク質アレイは、異なるタンパク質を持つビーズなどの一組の別個の固相表面として存在し、該アレイは、実験における別個の表面の空間的に定められたパターン又は配列によって形成されている。
【0037】
表面が、非特異的なタンパク質吸収を抑えることが可能な表面被覆を有することが好ましい。表面被覆は、本質的に多孔性又は非多孔性である。さらに、好ましい実施態様において、表面被覆によって、各タンパク質部分上で直接又は間接的に(例えば、表面に結合したタンパク質又はペプチド又は核酸を介して)マーカー部分との特定的な相互作用が得られる。ニュートラビジン(neutravidin)誘導体化、デキストラン−ヒドロゲル表面(XanTec,Muenster,Germany)を、捕捉表面として用いることができるが、種々の他の表面に加えて、本技術分野で既知であるマイクロアレイ又はマイクロウェルの形式の表面を用いることができる。
【0038】
別の実施態様において、タンパク質アレイの個々のメンバーは、それぞれペプチド又はポリペプチドのタグ、例えば、ヘキサヒスチジンタグ又はビオチンカルボキシル担体タンパク質由来タグを含み、それらのタグを介して該メンバーを固定化し、それによって、非特異的な表面との接触によって、配列したタンパク質の機能が混乱する危険を最小限にする。
【0039】
タンパク質部分は、タンパク質又はポリペプチドであり、典型的には、遺伝子又は自然発生する遺伝子の変異体に一般に由来するDNA配列によってコードされている。タンパク質部分は、組み替え体の供給源、又は自然の供給源から得られるか、又は非天然のアミノ酸残基を含むことが可能であり、従って、DNA配列によって直接コードされていない1組の合成ペプチドのライゲーションによって合成することができる。タンパク質部分は、アレイへの付着又はアッセイでの分析を容易にするために、天然の遺伝子によって直接コードされるタンパク質の形をとることができるか、又は追加のアミノ酸(由来するDNA配列によって本来はコードされていない)を含むことができる。
【0040】
同じアミノ酸配列をコードするが、合成DNA配列が同じ染色体の位置に位置づけられないように、野生型遺伝子又は変異遺伝子とは異なる1種又は複数のコドンを含む野生型遺伝子の合成の同等物(又はその自然発生する変異体)によってコードされているタンパク質部分を有するアレイも本発明の範囲内に含まれる。
【0041】
例えば、DMEタンパク質のセットを、セット内の個々のタンパク質の不変又は共通の部分を結合することが可能な結合タンパク質又は抗体又はリポソームもしくはミクロソームを介してアレイに付着させることができるが、本発明に従うタンパク質部分は、精製及び/又はアレイへの付着を促進するマーカー部分を用いてN末端又はC末端のいずれかにタグを付けた(タンパク質をコードするDNA配列と、タグをコードするDNA配列との連結を介して)タンパク質でもよい。
【0042】
本発明の第3の態様において、アレイのパターンでの各位置は、例えば、
・ 単一のDMEのタイプのサンプル(単量体、二量体、三量体、四量体、又はそれ以上の多量体)、又は
・ 相互作用する分子(例えば、核酸分子、抗体、他のタンパク質又は小分子)に結合した単一のDMEのタイプのサンプル
のいずれかを含んでも良い。相互作用する分子は、それ自身、更なる分子と相互作用する。例えば、六量体タンパク質の1つのサブユニットをアレイに付着させ、もう1つのサブユニット、又はサブユニットの複合体を、付着したタンパク質のサブユニットとの相互作用を介してアレイにつなげることができる。言い換えると、もう1つのサブユニット、又はサブユニットの複合体は、次に、更なる分子(例えば、薬剤候補もしくは抗体)、又は
・ 合成分子(例えば、ペプチド、化合物)に結合した単一のDMEのタイプのサンプル
と相互作用することができる。
【0043】
DMEをコードする1種以上のDNA配列の発現から得られたタンパク質を、例えば、所定のDMEを含むセットを決定するためのDMEのセットの最初の大量スクリーニングを目的として、アレイ内の単一の位置に付着させることができる。
【0044】
本発明の一実施態様において、DMEタンパク質に付着したビオチンタグを用いて、アレイ表面上のタンパク質を固定化し、精製する。しかしながら、アレイの機能性は、使用したタグから独立したものである。ビオチンタグに代わるアフィニティー・タグ(例えば、His、FLAG、c-myc、VSV)を用いて、クローニングしたタンパク質の精製及び/又は固定化を可能にすることができる。必要であれば、E. coli以外の発現宿主(例えば、酵素、昆虫細胞、哺乳類細胞)も用いることができる。
【0045】
本発明は、生物のすべての、又は一部の薬剤代謝酵素に相当するタンパク質の収集物を有するアレイを提供する。前記収集物の個々のタンパク質は、折り畳まれた構造で精製される。さらに、個々のタンパク質は、個々のタンパク質の折り畳まれた状態が攪乱される可能性が低いように空間的に分離され、アレイ形式で表面上に固定化されている。例えば、機能を有するP450の空間的に定められたアレイでの固定化によって、多重化した薬剤結合アッセイ、酵素の回転アッセイ、及び細胞毒性アッセイを、すべて小型化した形式で行うことが可能となり、現在の最新技術、液相方法を超える多くの利益が得られる。
【0046】
マイクロタイタープレート又は顕微鏡スライドにおいてDMEタンパク質を外へ配列すること(arraying out)によって、多くの種々のタンパク質(何百、何千の)を少量の化合物のみ用いることによって同時に検定することができ、例えば複数のチトクロームP450タンパク質に対し多数の化合物を同時に、定量的に、機能的に分析することが可能となる。アレイ形式を用いて、同じ実験ですべてのタンパク質を同時に検定し、それによって、材料の取り扱いの差異による誤差の原因を減らす。個々の液相アッセイと比較して、アレイによるアッセイは、また、準備し、実施するのが非常に速いものである。さらに、タンパク質を固体の支持体上に固定化することによって、結合濃度を測定する前に非結合のリガンドを洗い流す必要がある結合アッセイが容易となり、これは、溶液によるアッセイ又は単相の液体アッセイで得ることができない特性である。DMEの固定化は、また、DMEによってリガンドの回転から生じた代謝産物の高処理の質量分析、又はHPLC分析の前にタンパク質の除去ステップを必要としないことも意味する。さらに、生成した代謝産物を用いる細胞によるアッセイの前に浄化ステップを必要とせず、それによって、細胞毒性アッセイをそのような代謝産物で行うことが可能となり、当該代謝産物は不安定であり、それらの精製を実質不可能にする短い半減期を有するものである。
【0047】
アレイ形式によって、例えば、別個の新規化学物質(NCE)が任意のDMEの阻害剤であるか、又は基質であるか同定するために、極めて並行し、定量的な様式での機能的なアッセイの範囲で薬剤代謝酵素の収集物を取り調べることが可能となる。NCEが1種又は複数のDMEの基質であることが分かる場合、アレイ形式によって、生じた代謝産物の迅速で、定量的な、高処理の同定も可能となり、また、前記代謝産物の単離又は精製の前に細胞毒性アッセイも実行できるようにする。また、アレイ形式によって、例えば、薬剤で処理した細胞における個々のDME発現レベルを競合アッセイによって並行して定量することを可能にし、そのようなアッセイは、固定化したDME、例えば、組織のホモジェネート内の同じDME、特定のDMEに特異的な蛍光標識した抗体などの標識した認識物質を伴う。
【0048】
ヒトDMEの全部の補体又は重要な部分が本発明のアレイ上に存在することが好ましい。当該アレイとしては、すべてのヒトP450(119)、FMO(5)、UDP−グリコシルトランスフェラーゼ(UDP-glycosyltransferase,UGT)(18)、GST(20)、スルホトランスフェラーゼ(SULT)(6)、N−アセチルトランスフェラーゼ(N-acetyltransferase,NAT)(2)、薬剤結合核受容体(33)、及び薬剤輸送体遺伝子(6)(括弧内の数字はスイス・プロット・データベースに現在記載されているものである)が挙げられる。このタンパク質のリストには、ヒトゲノム配列決定プロジェクト、基質特異性を切り替えるP450において生じることが知られているスプライスバリアント、又はP450とフェーズ2のDMEの両方の機能及び基質特異性に影響を及ぼすことが知られている遺伝子多型からまだ特徴付けられていないものは含まれない。
【0049】
1種又は複数の生物におけるすべての既知のDMEをコードするDNA分子を用いて、本発明のアレイに付着するタンパク質部分のセットを生成することが有効である。任意には、アレイは、DNA分子の一部に由来するDMEタンパク質の一部を含むことができる。
【0050】
本発明のアレイに付着したDMEタンパク質の数を、1種又は複数の特定の調査について、充分に実験的な、商業的な、又は臨床の興味があるものであるDMEコード配列の数によって決定する。単一のDMEを有するアレイは調査員の役に立つものである。しかしながら、実際には、高処理のアッセイへのそのようなアレイの適合性を利用するためには、1〜10000、1〜1000、1〜500、1〜400、1〜300、1〜200、1〜100、1〜75、1〜50、1〜25、1〜10、又は1〜5種のDMEをコードするDNA分子が、アレイ上において、そのコードされているタンパク質によって表されることが考えられる。現在のロボットのスポッティング能力を用いることによって、アレイ当たり10,000を超えるタンパク質を含むようにスポット密度を増加させることができる。例えば、ヒトチトクロームP450であるCYP1A2、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9*1、CYP2C9*2、CYP2C9*3、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4、及びCYP3A5を含むアレイは、もしあれば、前記P450が所定の小分子の代謝を担うものであるかどうか決定するのに有用である。もう1つの方法として、ヒトチトクロームP450であるCYP2C9、CYP2D6、及びCYP3A4の機能を有する遺伝子多型のアレイは、臨床試験においてサンプルをとる可能性のある種々の人種の群において、所定の小分子が異なる速度で代謝されるか、又は異なる産物を生じるかどうか決定するのに有用である。
【0051】
本発明は、発現によって、アレイ形式の上記タンパク質を、機能性を保ちながら精製し、かつ方向付けて固定化することによって、多重化した、高処理アッセイが、例えば、薬剤リード化合物の代謝産物特性を確立できるようにする方法を提供する。そのようなアッセイとして、小分子の薬剤結合の測定、及び解離定数の計算があり、放射分析法、燐光体イメージャー(phosphor-imager)の方法、熱量測定法、比色分析法、蛍光の方法(時間分解、偏光、共鳴エネルギー移行)、燐光の方法、表面プラズモン共鳴法、化学発光法、光反射の方法、又は質量分析法によって測定される。酵素の小分子の薬剤による阻害(可逆的な若しくは自滅的な)、又は酵素活性の促進を、P450 2C9におけるジベンジルフルオレセインのフルオレセインへの転換、又はP450 3A4におけるベンジルレゾルフィンのレゾルフィンへの転換などの蛍光基質の回転、クメン過酸化物又は過酸化水素を加えてP450の直接的な化学活性を使用する場合には過酸化物欠乏アッセイ、脱メチル反応アッセイにおいてNash試薬を用いるホルムアルデヒド生成の測定、薄層クロマトグラフィー又は液体クロマトグラフィー(TLC又はHPLC)、及びMSによって検出することができる。酵素の薬剤回転及び代謝産物の生成を、過酸化物欠乏アッセイ、薄層クロマトグラフィー及び液体クロマトグラフィー、MS及び核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance,NMR)によって検出することができる。薬剤代謝酵素による回転の間に生成されたおそらく複数の代謝産物のキャラクタリゼーションを、MS(ES、FAB、MALDI)、NMR、元素分析、及び吸収スペクトル(赤外線、可視光、紫外線)によって行うことができる。動物の生体内での結果と生体外での調査を関連付けるために、薬剤結合及び回転に関して、動物(例えばマウス、ラット)のDME、核受容体、及び薬剤輸送体タンパク質と比較を行うこともできる。
【0052】
本発明のアレイによって、大量に、並行してDMEの分析をすることが可能となり、本発明のアレイは、既存の方法に少なくとも匹敵する分析の感度を有し、該アレイによって、以前は不可能であった様式でDMEを定量的に、比較により、機能的に分析することが可能となる。
【0053】
アレイは、生体内原位置での、すなわち、アレイの“オンチップ(on-chip)”上でのタンパク質とタンパク質との相互作用、タンパク質と核酸との相互作用、タンパク質とリガンドとの相互作用、又はタンパク質と小分子との相互作用、及び翻訳後修飾と適合する。本発明に従うアレイは、スポットする密度から独立している。本発明で使用するアレイ形式によって、少量の潜在的に高価なリガンド又は基質を用いて分析を行うことが可能となる。本発明による並行したタンパク質アレイによって得られる情報は、薬剤発見、及び候補薬剤の臨床前分析に非常に有用である。
【0054】
第4の態様では、本発明は、
a)2種又は3種以上の所定の薬剤代謝酵素を組み換え体、天然の供給源、又は合成の供給源のいずれかから得るステップと、
b)前記タンパク質を、表面上の空間的に定められた位置に沈着させて、アレイを得るステップ、
とを有するタンパク質アレイを製造する方法を提供する。
【0055】
前記方法を、アレイ上でDMEを精製するように改変することができる。前記薬剤代謝酵素を、他のタンパク質分子との混合物の状態でアレイと接触させ、アレイ上で沈着を生じさせ、タンパク質部分に組み込まれたタグを介してアレイ上のタンパク質部分を同時に精製する。これは、組み込まれたタグを介してアレイ上でタンパク質部分を同時に精製し、単離することを意味する“表面捕捉”によって行うことができる。
【0056】
別の実施態様において、薬剤代謝酵素を、発現宿主細胞由来の他のタンパク質と共に、空間的に定められた位置で表面上に沈着させて、アレイを得る。
【0057】
発現させて、アレイのタンパク質部分を生産するDNA分子を、本技術分野で既知の技術(例えば、Ausubelら編Current Protocols in Molecular Biology, Volume 1, Chapter 8を参照されたい)を用いて生成することができる。発現宿主がE. coliに限定される必要はなく、酵母、昆虫、又は哺乳類細胞を用いることができることは当業者であれば理解できることである。調査中のタンパク質がグリコシル化などの翻訳後修飾を受けることが知られている場合には、真核生物の宿主を用いることが望ましい。
【0058】
アレイを作成するために、任意に、クローンを、スライド又はプレート形式上に配列するのに好都合な形式で並行してサンプルを処理できるようにし、高処理の形式を提供するマイクロタイタープレート形式で培養することができる。タンパク質発現を誘導し、次にクローンを配列するために処理する。このことは、アフィニティークロマトグラフィーによるタンパク質の精製、又は組み換えタンパク質に選択的な表面上に配列する(‘表面捕捉')準備ができている溶解物の調整を伴う。したがって、DNA分子を、融合タンパク質として発現して、マーカー部分を用いてN末端またはC末端にタグが付されたタンパク質部分を得ることができる。本明細書に記載されているように、そのようなタグを用いて、アレイ上の表面へタンパク質を精製するか、又は付着させることができる。任意には、同時に、タンパク質部分を発現宿主の溶解物から精製し、マーカー部分を用いてアレイに付着させる。次に、生じたタンパク質のアレイを用いて、すべてのタンパク質の機能を、並行して、それ故に高処理である様式でアッセイすることができる。
【0059】
第5の態様では、本発明は、
a)精製した、又は一部精製した膜調整物又は膜に似た調整物(例えば、ミクロソーム調整物又は界面活性剤で形成されたリポソーム)に組み込まれた、組み換え体、天然の供給源、又は合成による供給源のいずれか由来のタンパク質を用意するステップと、
b)前記膜調整物又は膜に似た調整物を、表面上に沈着させたゲルマトリックス(例えば、アガロース、ポリウレタン、又はポリアクリルアミド)内に封入することによって前記タンパク質を配列するステップ、
とを有するタンパク質アレイを製造する方法を提供する。
【0060】
本発明の本態様のタンパク質を、精製した、又は一部精製した膜調整物又は膜に似た調整物に組み込むためには、該タンパク質が、膜に結びつく、又は膜に結合するタンパク質である本来の状態で能力があるか、又は膜脂質などの非極性分子もしくは界面活性剤などの両親媒性分子と相互作用するように改変されているかのいずれかである必要がある。本技術分野で既知の方法によって、例えば、疎水性のタグをタンパク質に付加する(例えば、タンパク質のコード配列を変えて、例えばタンパク質のN末端又はC末端に、疎水性のアミノ酸の列を含むタグを組み込む)ことによってそのような改変を行ってもよい。
【0061】
第6の態様では、本発明は、
a)精製した、又は一部精製した膜調整物又は膜に似た調整物(例えば、ミクロソーム又はリポソーム)の形態の、組み換え体、天然の供給源又は合成による供給源のいずれか由来の薬剤代謝酵素を用意するステップと、
b)前記膜調整物もしくは膜に似た調整物を、膜を捕捉することが可能な適した表面上に(例えば、γ−アミノプロピルシラン)沈着させるか、又は前記膜調整物もしくは膜に似た調整物を、表面上に沈着させたゲルマトリックス(例えば、アガロース、ポリウレタン、又はポリアクリルアミド)内に封入するかのいずれかによって、前記薬剤代謝酵素を配列するステップ、
とを有する薬剤代謝酵素のアレイを製造する方法を提供する。
【0062】
第5及び第6の態様において、1種又は複数の前記膜調整物又は膜に似た調整物は、互いに複合体を形成することが可能な、例えば、前記複合体が一時的に形成されるか、又は所定の基質に連続して作用する2種もしくは3種以上の異なるタンパク質を含む2種又は3種以上の異なるタンパク質を含む。
【0063】
第7の態様では、本発明は、本明細書に記載されているアレイを1種又は複数の試験基質と接触させるステップと、前記試験基質と、アレイ上のセット・メンバーとの相互作用を観察するステップとを有するDMEタンパク質部分のセットのメンバーの相対的な特性を同時に決定する方法を提供する。
【0064】
一実施態様において、本発明は、タンパク質の機能を促進するか、又は回復させるか、又は阻害する化合物(例えば、小さい有機分子)についてDMEタンパク質部分のセットをスクリーニングする方法を提供し、この方法によって、治療上の利益又は不利益を有する化合物を明らかにすることができる。
【0065】
他の実施態様において、試験基質は:
・関係のあるDNA分子に由来するタンパク質部分のセット内での相対的なタンパク質とタンパク質との相互作用を決定するタンパク質、
・相対的なタンパク質とDNAとの相互作用、又はタンパク質とRNAとの相互作用を決定する核酸分子、
・相対的なタンパク質とリガンドとの相互作用を決定するリガンド
であってもよい。
【0066】
本発明のアレイを取り調べることにより得られた結果は、定量的であるか(例えば、結合定数又は触媒定数であるKD及びKMを測定する)、又は半定量的であるか(例えば、タンパク質の量に対して結合した量標準化する)、又は定性的(例えば、機能を有するのか、機能を有さないのか)であってもよい。リガンドをいくつかの(2種又は3種以上の)濃度で添加する再現アッセイにおいてシグナルを定量することによって、スポット内のタンパク質の結合親和性と活性のある濃度を決定することができる。これによって、DMEを互いに比較することが可能となる。このレベルの情報は、以前、アレイから得られなかった。まさに同じ手法を用いて、薬剤の配列したタンパク質への結合を測定することができる。
【0067】
例えば、リガンドとタンパク質との間の相互作用の親和性、及びそのリガンドの結合部位の数をそれぞれ表す、定量的な結果であるKD及びBmaxは、タンパク質アレイのデータから得られる。簡単に言うと、各個々のタンパク質のスポットに結合したリガンドの数量的な量又は相対的な量のいずれかをアッセイ溶液中の種々のリガンド濃度で測定することができる。タンパク質量と結合したリガンドとの間に直線関係があると仮定すると、アッセイに使用したリガンド濃度の範囲に渡って各スポットに結合したリガンドの(相対的な)量を、再配列又は誘導により下記式1に合わせることができる。
【0068】
結合したリガンド=Bmax/((KD/[L])+1) (式1)
[L]=アッセイに使用したリガンドの濃度
【0069】
第8の態様では、本発明は、
a)所定のDMEを宿主細胞(例えば、XL-10 goldなどのE.coli)内で発現するステップと、
b)前記宿主細胞を、細胞を溶解するのに適した条件下に置く(例えば、細胞培養物のペレットを形成した後、溶解緩衝液、MgCl2及びDNaseIを用いた従来の処理方法によって)ステップと、
c)膜に結び付いた細胞画分を溶解細胞から得る(例えば、約4000回転で遠心分離して、ペレットを形成することによって)ステップと、
d)前記膜に結び付いた細胞画分を、界面活性剤(例えば、0.3%(容積/容積)Igepal CA-630の適した緩衝液溶液などの非イオン性界面活性剤)を添加することによって可溶化するステップと、
e)前記膜に結び付いた細胞画分に含まれるDMEタンパク質を可溶化するのに充分な期間、インキュベートした後、さらに遠心分離ステップ(例えば、約10,000gで)を行って、前記DMEタンパク質を含む上清を得るステップと、
f)前記上清のクロマトグラフィーを行って、前記DMEタンパク質を精製する(例えば、DMEタンパク質が、ヘキサヒスチジンタグを組み込むように修飾されている場合には、Talon樹脂(Clontech)及び/又はNi-NTAアガロースマトリックス(Qiagen)などの金属アフィニティークロマトグラフィーのマトリックスを用いて)ステップ、
とを有する、DME酵素を発現し、精製する方法を提供する。
【0070】
本態様の方法は、界面活性剤を使用して、所定のDMEタンパク質を可溶化し、その結果、超遠心分離のステップを必要としない。以前報告されているP450の精製アプローチは、P450の精製を多重化した様式で行うことが困難であることを示す超遠心分離のステップを必要とする。したがって、この方法は、本発明に従うタンパク質アレイにおけるタンパク質の生成に特に適用できる。本方法の実施態様を実施例4で説明する。
【0071】
本発明に従うアレイを種々の分析に用いることができる。そのような使用方法を以下にいくつか例示するが、これらの例示は本発明を何ら制限するものではない。
【0072】
本明細書に記載されているアレイの第1の使用方法は、‘ヒット・シリーズ(hit series)'化合物又は‘リード・シリーズ(lead series)’化合物又は薬剤候補が、フェーズ1のDMEの基質又は阻害剤であるかどうかを早く評価する、高処理で、定量的な手段を提供することにある。例えば、単独のタンパク質・ターゲットに対する初期の高処理検索から同定された化合物の収集物を、CYP1A2、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9*1、CYP2C9*2、CYP2C9*3、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4、及びCYP3A5を含むヒトチトクロームP450のアレイに対して、その基質又は阻害剤として作用する能力について評価することができる。アレイによるアッセイは、各化合物を、標識されていない形態で少量しか必要としないので、これは実行可能であり、したがって、最初の、検索されていない化合物ライブラリーにでさえ通常利用できる化合物合成のスケールと適合する。アレイによるアッセイは、多くの様々な形式であってもよく、該形式としては、既知の放射標識された阻害剤(例えば、CYP3A4における3H−ケトコナゾール)を用いた競合結合アッセイ、既知の蛍光基質(例えば、CYP2C9又はCYP3A4におけるジベンジルフルオレセイン)についての回転速度への影響の反応速度分析、LC-MS法による生成物形成の直接的な高処理分析が挙げられる。当該アレイを使用することで得られたデータは、特に、可能性のある薬剤と薬剤との相互作用を予測するのに、及びリードの選別/最適化に有用である。
【0073】
本明細書に記載されているDMEのアレイの第2の使用方法は、薬剤代謝における性差を調べるための、高処理で、定量的な手段を提供することにある。ホルモン分泌の特性が異なるために、オスとメスのラットではP450のアイソフォームの発現が異なることが示されている(Shapiroら,1995)。例えば、女性は、コルチコステロイド・メチル−プレドニゾロンを男性よりも速く代謝し、女性は、血清のコルチゾール濃度とリンパ球の数で測定されるステロイド効果により敏感であることが分かっている(Lewら1993)。しかしながら、プレドニゾロン(メチル基を除いたもの)については、男性と女性との間に代謝速度の顕著な差が見られず(Mageeら2001)、構造活性研究(SAR)を行って、薬剤の性差を取り除くことが可能であることが示されている。性差は、薬剤開発および行政当局の承認において将来調べることが必要とされる可能性がある(www.fda.gov/women/executive.html)。ここに記載されている技術の適用は、女性と男性がP450の異なるパネルを発現することができるか、又は異なるレベルで同じP450の多くを発現することができることが知られているので、男性と女性のDMEタンパク質アレイを開発することにある。別の方法としては、単独のアレイは、薬剤代謝において性差がある可能性を強調することができる。
【0074】
本発明に従うDMEのアレイの第3の使用方法は、薬剤代謝及び毒性における人種に関連した違いを調べ、種々の人種のグループに対する調整した薬剤治療を可能にする高処理で、定量的な手段を提供することにある。例えば、異なる人種のグループ間で、P450の2C9、2D6、3A4における種々の対立遺伝子の発生の頻度に大きな差異があることが知られている(表1、2、3参照)。これらの対立遺伝子は、酵素の反応速度、基質特異性、位置選択性、複数の生成物が生成される場合には生成物の特性に影響を及ぼす可能性を有する。本明細書に記載されているタンパク質のアレイによって、特定の薬剤についてのこれらの差異のより詳細な調査が可能となり、該アレイは、可能性のある問題を予測するのに、及び臨床試験に用いる個体群を効率的に計画するのに有用である。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
本発明のアレイの第4の使用方法は、2種又は3種以上の哺乳類の種、例えばげっ歯類(例えばラット)とヒトとの間での薬剤代謝における差異を調べるための、高処理で、定量的な手段を提供することにある。現在、すべての臨床前の、全生物の毒性及び代謝の研究がラットで行われている。しかしながら、任意の所定のDMEのラットとヒトのアイソフォーム間での典型的に強い全体的な配列ホモロジーがある一方で、ラット又はヒトのDMEによる回転の結果として生成された特異的な代謝産物の分布又は同一性に影響を与えることができるアイソフォーム間での機能的な微妙な差異がある。フェーズIのDMEのヒトとラットのアイソフォーム(例えば、ヒトのCYP2C9、CYP2D6、CYP3A4と、ラットのCYP2C9、CYP2D6、CYP3A4)の両方を含むアレイによって、薬剤代謝における任意の種に関連した差異を同定するための、高処理で、定量的な、スクリーニングの手段が得られ、したがって、ヒトを含む臨床試験に先立ち、有用な更なるデータを薬剤代謝及び毒性において得られる。
【0079】
本発明のアレイの第5の使用方法は、短命の薬剤代謝産物を含む、薬剤代謝産物の可能性のある細胞毒性を調べるための、高処理で、定量的な手段を提供することにある。したがって、フェーズ1のDMEによって生成されるいかなる代謝産物も、生体内原位置で、すなわち、代謝産物自体を単離したり、精製したりすることなく、細胞毒性効果について検定できるように、フェーズ1のDMEのアレイに、細胞毒性アッセイにおけるレポーターとして作用する細胞をかぶせることができる。
【0080】
本発明のアレイの第6の使用方法は、小分子の代謝経路を決定し、定量するための高処理の手段を提供することにある。したがって、フェーズ1およびフェーズ2のDME(例えば、それぞれ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、グルクロニルトランスフェラーゼ、及びスルホトランスフェラーゼと同時配列した(co-arrayed)、P450のCYP2C9、CYP2D6及びCYP3A4)のマトリックスを含むアレイを用いて、P450と薬剤結合酵素のどの組み合わせが特定の薬剤の代謝を担うのか、どの組み合わせが毒性代謝産物を生じるのか評価することができる。例えば、鎮痛剤のパラセタモールの主要な代謝産物はグルタチオンS−トランスフェラーゼで解毒される一方で、薬剤タモキシフェンの主要な代謝産物はグルクロン酸抱合によって解毒されるが、硫酸転移によって毒性付加体へ変換される。
【0081】
本発明のアレイの第7の使用方法は、DMEがそれ自体薬剤ターゲットである場合における‘ヒット・シリーズ’の評価及びリード化合物の最適化にある。例えば、オルティプラッツ(Sofoworaら2001)は、発ガン予防剤として現在臨床評価が行われているものであり、P450 1A2の阻害剤である。したがって、DMEのアレイによって、個々のDMEを結合し、阻害する能力における選択性について、化合物(ヒット・シリーズ、リード・シリーズ、及び薬剤候補)を検索するための高処理の方法が提供される。
【0082】
本明細書に記載されているアレイの第8の使用方法は、P450発現レベルの薬剤誘導の評価のための、高処理で、定量的な手段を提供することにある。これは、多くの場合、正確に行うことが難しいものであり、なおかつ、P450発現の薬剤誘導は、多くの不都合な薬剤と薬剤との相互作用を担い、この効果を簡便かつ迅速に定量する能力は非常に有用である。したがって、固定化したP450のCYP1A2、CYP2C9、CYP2D6及びCYP3A4のアレイを競合結合アッセイに使用して、健全な、薬剤処理した細胞における等価なP450の相対的な発現レベルを評価することができる。ここで、アッセイは、例えば、固定化したP450、又は未精製の組織ホモジェネート内のP450のいずれかに結合し、固定化したP450に結合した抗体に結合し、したがって、健全な、薬剤処理した組織ホモジェネート内のP450の発現レベルを定量するために使用することができる色素標識した抗体の使用を伴う。
【0083】
本明細書に記載されているアレイの第9の使用方法は、所定のDMEの活性への変異の効果を分析するための、高処理で、定量的な手段を提供することにある。例えば、チトクロームCYP2C9を、定方向進化アプローチ(directed evolution approaches)を用いて変異することができ、生じたDMEの突然変異体の収集物のアレイを、触媒有効性の増加、又は基質特異性の変化のいずれかについて検索することができる。これは、より効率的な、又は新規の化学合成経路を開発するための化学産業に使用するものである。ファージ又は細胞(Jooら、1999)の選択と比較したこのアプローチの利点は、選択及び増幅プロセスの間に多様性が失われないことである。これは、抗体アレイを用いる抗体のアフィニティー及び選択性の成熟の背後にあるコンセプト(de Wildtら、2000)に類似している。
【0084】
本発明の各態様の好ましい特徴は、各他の態様について定義されているように必要な変更を加えることができる。
【0085】
本発明の更なる特徴および詳細は、実施例及び添付した図面を参照することによって得られる、以下のDMEタンパク質部分のアレイ、当該タンパク質アレイの構築方法、及び本発明に従うその使用方法の記載から明らかとなるが、これらの記載は本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0086】
実施例1:野生型ヒトチトクロームP450酵素であるCYP2C9、CYP2D6及びCYP3A4のクローニング
ヒトチトクロームP450は、N末端に保存された領域を有し、この領域は、脂質の会合を促進する疎水性領域、タンパク質が膜に更に供給されるのを止める酸性又は‘停止転移(stop transfer)’領域、及び部分的に保存されたプロリン・リピートを含む。3種のバージョンのP450を、これらのドメインまで削除して生成し、N末端の削除したものを以下に示す。
【0087】

【0088】
ヒトCYP2D6を、特異的なフォワード及びリバースプライマー(T017F及びT017R)を用いて、脳、心臓、及び肝臓のcDNAライブラリー(Clontech)からPCRで増幅した。PCR産物を、pMD004発現ベクターに、N末端のHis-BCCPタグと共にインフレームで、リバースプライマーに存在するNot1制限部位を用いてクローニングした。5’末端にSfi1クローニングサイトを挿入し、3’末端において停止コドンを除去して、C末端のタグとのインフレームでの融合を可能にしたC末端タグベクターpBJW102.2(図1A及びB)での発現のためにCYP2D6を変換するのにプライマーを使用した。プライマーは、T017CRと、29、18、0個のアミノ酸をそれぞれCYP2D6から削除したT017CF1、T017CF2又はT017CF3のいずれかであった。プライマー配列を以下に示す。
【0089】

【0090】
PCRを、0.5μMの各プライマー、125〜250μMのdNTP、5ngの鋳型DNA、1xの反応バッファー、1〜5ユニットのポリメラーゼ(Pfu、Pwo又は‘Expand long template’ポリメラーゼ混合物)を含む50μlの容量で行い、95℃で5分間、95℃で30秒間、50〜70℃で30秒間、72℃で4分間を35サイクル、72℃で又はExpandの場合には68℃で10分間というPCRサイクルを伸長ステップに用いた。PCR産物を、アガロースゲル電気泳動で分離し、正確なサイズの産物をゲルから切り取り、次いで、ゲル抽出キットを用いて精製した。次に、精製したPCR産物をSfi1又はNot1で消化し、調整したベクターのバックボーン(図1C)にライゲーションした。正しい組み換えクローンを、微生物培養物のPCRスクリーニング、ウェスタンブロット、及びDNA配列分析によって決定した。
【0091】
CYP3A4及びCYP2C9を、CYP2D6のものと同様の方法によってcDNAライブラリーからクローニングした。N末端ベクターにクローニングするCYP3A4及びCYP2C9を増幅するためのプライマー配列は以下の通りである。
【0092】

【0093】
C末端のタグを付したベクターにおいて発現するためにN末端クローンを変換するためのプライマーは以下の通りである。

【0094】
全長又は疎水性ペプチド(C3)のバージョンの2C9を、2C9の停止転移(stop transfer)クローン(C1)を鋳型として用い、以下のプライマー:


を用いる逆PCRによって生成した。
【実施例2】
【0095】
実施例2:NADPH−チトクロームP450還元酵素のクローニング
NADPH−チトクロームP450還元酵素を、胎児肝臓cDNA(Clontech)、PCRプライマー[NADPH還元酵素 F1 5'−GGATCGACATATGGGAGACTCCCACGTGGACAC−3';NADPH還元酵素 R1 5'−CCGATAAGCTTATCAGCTCCACACGTCCAGGGAG−3']から増幅し、クローニングを可能にするために、遺伝子の5'にNde I部位、3'にHind III部位を挿入した。PCR産物を、pJW45発現ベクター(図2A及びB)にクローニングし、2つの停止コドンをリバースプライマー上に入れて、Hisタグが翻訳されないようにした。正しい組み換えクローンを、細菌培養物のPCRスクリーニング、及び配列決定によって決定した。
【実施例3】
【0096】
実施例3:ヒトチトクロームP450であるCYP2C9、CYP2D6、及びCYP3A4の多型変異体のクローニング
正しい野生型CYP450(図3、4、及び5)をクローニングし、配列分析によって確認した時点で、表4に示す2C9、2D6、及び3A4の自然発生の多型を、逆PCRアプローチによって(実施例1に記載されているCYP2D6の最初のクローニングと同様な方法で、直線のPCR産物として増幅し、クローニングしたCYP2D6*10を除いて)作成した。各ケースにおいて、フォワード逆PCRプライマーは、種々の人種の個体群で見られる多型の核酸を野生型の核酸に置換するために、5'の位置に1bpのミスマッチを含む。
【0097】
【表4】

【0098】
以下のPCRプライマーを用いた。

【実施例4】
【0099】
実施例4:P450 3A4の発現及び精製
E.coli XL-10 gold(Stratagene)をP450 3A4の発現培養物のための宿主として使用した。スターター培養物(starter cultures)を、1リットル当たり100mgのアンピシリンを追加したLB培地中で一晩培養した。1リットル当たり100mgのアンピシリン及び1mMチアミン、及び微量元素を加えた0.5リットルのTerrific Broth培地に100倍希釈した一晩培養したスターター培養物(overnight starter cultures)を接種した。フラスコを、細胞密度OD600が0.4となるまで37℃で振盪し、次に、0.5mMのδ−アミノレブリン酸(ALA)を細胞に添加し、30℃で20分間振盪した。細胞に、50μMのビオチンを追加し、次に、細胞を、最適濃度のIPTG(30〜100μM)を用いて誘導し、30℃で一晩振盪した。
【0100】
0.5リットル培養物由来のE.coliの細胞を、50mlの一定分量に分割し、細胞を遠心することによってペレットにし、細胞のペレットを-20℃で貯蔵した。各ペレット由来の細胞を5mlのバッファーA(100mMのEDTA、10mMのβ−メルカプトエタノール、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche 1836170)の10xのストック、0.2mg/mlのリゾチームを含む100mM Trisバッファー pH8.0)に再懸濁することによって溶解した。15分間氷上でインキュベーションした後、40mlの氷冷した脱イオン水を各再懸濁した細胞のペレットに添加し、混合した。20mMの塩化マグネシウム及び5μg/mlのDNaseIを添加した。細胞を、氷上で30分間、穏やかに攪拌しながらインキュベートし、その後、溶解したE.coliの細胞を30分間、4000rpmで遠心することによってペレットにした。細胞のペレットを、10mlのバッファーB(10mMのβ−メルカプトエタノール、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche 1836170)の10xのストックを含む100mM Trisバッファー pH8.0)に再懸濁することによって洗浄し、続いて、4000rpmで遠心した。次に、膜に結びついたタンパク質を、2mlのバッファーC(50mMのリン酸カリウム pH7.4、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche 1836170)の10xのストック、10mMのβ−メルカプトエタノール、0.5MのNaCl、及び0.3%(容積/容積)のIgepal CA-630)を添加することによって可溶化し、30分間穏やかに攪拌しながら氷上でインキュベートしてから、10,000gで、15分間、4℃で遠心し、次に上清(図6)を、Talon樹脂(Clontech)に加えた。
【0101】
0.5mlのカラムのNi-NTAアガロース(Qiagen)を使い捨ての重力カラム(disposable grabity column)に注ぎ、5カラムボリュームのバッファーCで平衡化した。上清をカラムに添加し、その後、カラムを、4カラムボリュームのバッファーC、4カラムボリュームのバッファーD(50mMのリン酸カリウム pH7.4、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche 1836170)の10xのストック、10mMのβ−メルカプトエタノール、0.5MのNaCl、及び20%(容積/容積)のグリセロール)、及び4カラムボリュームの50mMのイミダゾールを加えたバッファーDで連続して洗浄してから、4カラムボリュームの200mMのイミダゾールを加えたバッファーDで溶出した(図7)。0.5mlの画分を集め、タンパク質含有画分をプールし、分割し、-80℃で貯蔵した。
【実施例5】
【0102】
実施例5:P450へのヘムの挿入の決定
10mMのKCNを含む20mMのリン酸カリウム(pH7.4)、及び10mMのKCNを含まない20mMのリン酸カリウム(pH7.4)で、精製したP450を0.2mg/mlの濃度に希釈し、吸光度スキャンを600〜260nmまで測定した。結合したヘムのパーセンテージを100mM-1cm-1という吸光係数ε420に基づいて計算した。
【実施例6】
【0103】
実施例6:チトクロームP450酵素とNADPH−チトクロームP450還元酵素とのリポソームへの再構成及びアッセイ
リポソームを、1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンと、1,2−ジレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンと、1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−ホスホセリンとの1:1:1の混合物をクロロホルムに溶解することによって製造し、蒸発乾固し、続いて、20mMのリン酸カリウム pH7.4に10mg/mlで再懸濁した。4μgのリポソームを、精製したP450 2D6(20pmol)、NADPH P450還元酵素(40pmol)、チトクロームb5(20pmol)の混合物に総容量10μlで添加し、37℃で10分間、プレインキュベートした。
【0104】
チトクロームP450酵素をリポソームへ再構成した後、リポソームを、黒色の96ウェルプレート内で、HEPES/KOH(pH7.4、50mM)、NADP+(2.6mM)、グルコース−6−リン酸(6.6mM)、MgCl2(6.6mM)及びグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(0.4ユニット/ml)を含むアッセイバッファーで100μlに希釈した。アッセイバッファーは、検定されるチトクロームP450のアイソフォームに適切な蛍光発生基質も含有し、P450 2D6にはAMMC、P450 3A4にはジベンジルフルオレセイン(dibenzyl fluorescein,DBF)又はレゾルフィンベンジルエーテル(BzRes)を用いることができ、2C9には、ジベンジルフルオレセイン(DBF)を用いることができる。反応を、‘停止溶液'(Trisで緩衝化した80%アセトニトリル)を添加することによって停止し、生成物を、適切な波長フィルターのセットを用いて、蛍光プレートリーダーで読み取った(図8)。
【0105】
また、P450を、補酵素及び再生溶液の両方の代わりに、例えば、200μMのクメンヒドロペルオキシドを添加することによって化学的に活性化させることができる(図9)。
【0106】
さらに、蛍光で測定した回転速度を、阻害剤の存在下で測定することができる。
【実施例7】
【0107】
実施例7:固定化したP450 CYP3A4への薬剤の結合の検出
精製したCYP3A4(10μg/ml、50mM HEPES/0.01%CHAPS,pH7.4の溶液)をストレプトアビジン・イモビライザー・プレート(streptavidin immobilizer plate,Exiqon)に入れ(ウェル当たり100μl)、氷上で1時間振盪した。ウェルを吸引し、50mM HEPES/0.01%CHAPSで2回洗浄した。固定化したタンパク質への[3H]−ケトコナゾールの結合をシンチレーションカウンティングによって直接決定した。[3H]−ケトコナゾール(5Ci/mmol、American Radiochemicals Inc.,St. Louis)の50mM HEPES pH7.4と、0.01%CHAPSと、10%Superblock(Pierce)の溶液を用いて飽和実験を行った(図10)。6種のリガンド濃度を、最終アッセイ容積100μlでの結合アッセイ(25〜1000nM)に使用した。特異的な結合を、100μMのケトコナゾールで置き換えられたものと定めた。各測定を2連で行った。室温で1時間インキュベートした後、ウェルの内容物を吸引し、150μlの氷冷したアッセイバッファーでウェルを3回洗浄した。100μlのMicroScint 20(Packard)を各ウェルに添加し、Packard TopCount microplate scintillation counterで計数した(図10)。
【実施例8】
【0108】
実施例8:タグを付し、固定化したCYP3A4の化学的な活性化
CYP3A4を、ストレプトアビジン・イモビライザー・プレート(streptavidin immobilizer plate)に実施例7に記載した通りに固定化し、次に、ジベンジルフルオレセインと、種々の濃度(0〜300μM)のクメンヒドロペルオキシドとインキュベートした。終点のアッセイは、タグを付し、固定化したCYP3A4が、化学的な活性化による回転アッセイにおいて機能を有していることを示した(図11)。
【実施例9】
【0109】
実施例9:リポソーム又はミクロソームのゲル封入によるP450の固定化
チトクロームP450酵素を、NADPH−チトクロームP450還元酵素と共にリポソーム又はミクロソームに再構成した後、アガロース、ポリウレタン又はポリアクリルアミドなどのゲルマトリックス内に封入することによってこれらを表面上に固定化することができる。
【0110】
例えば、低融解温度(low melting point,LMT)の(1%重量/容積)のアガロースを200mMのリン酸カリウム pH7.4に溶解した。次に、これをヒート・ブロック上で37℃に冷却した。チトクロームP450 3A4と、チトクロームb5と、NADPH−チトクロームP450還元酵素を含むミクロソームを、LMTアガロースで、50μlのアガロースが、20pmolのP450 3A4と、40pmolのNADPH−チトクロームP450還元酵素と、20pmolのチトクロームb5とを含むように希釈した。次に、50μlのアガロース−ミクロソームを、黒色の96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに添加し、室温で凝固させた。
【0111】
各ウェルに、100μlのアッセイバッファーを添加し、従来の再構成アッセイについて先に記載したように(例えば実施例6)アッセイを行った。得られたデータから、BzRes酸化と、ケトコナゾール阻害の基本的な反応速度の比較を行い(表5)、それによって、CYP3A4の活性がゲル封入後に保持されていることが示された。
【0112】
【表5】

【0113】
固定化したP450の活性を7日間に渡って評価した(図12)。ゲルで封入しなかったこと以外は同一の条件下で貯蔵した一定量の同じタンパク質調整物を、同じ期間に渡ってアッセイし、ゲル封入によってP450の活性がかなり安定することが明らかとなった。
【実施例10】
【0114】
実施例10:3A4多型が活性に及ぼす影響の定量的な決定
精製したチトクロームP450 3A4のアイソフォーム*1、*2、*3、*4、*5、及び*15(約1μg)をBzRes及びクメンヒドロペルオキシド(200μM)の存在下で、ケトコナゾールの欠如下及び存在下、室温で、200mMのリン酸カリウムバッファー pH7.4中で、総容量100μlで、96ウェルの黒色のマイクロタイタープレート内でインキュベートした。最低限、各BzRes又はケトコナゾールの濃度について2連で行った。レゾルフィン生成を、蛍光(520nmの励起フィルターと580nmの発光フィルター)を増加させることによって、時間とともに測定し、初期速度をプログレス曲線から計算した(図13)。
【0115】
BzResのKMapp及びVmaxappの評価のために、バックグラウンドの速度を、まず、初期速度から差し引き、次に、BzResの濃度に対しプロットし、曲線を、記述する従来のミカエリス−メンテンの速度式:
V=Vmax/(1+(KM/S)
(式中、V及びSは、それぞれ、初期速度及び基質濃度である)
に当てはめた。次に、Vmaxの値を、チトクロームP450の濃度について標準化し、野生型酵素に拡大縮小した(表6)。
【0116】
ケトコナゾールにおけるIC50の評価のために、バックグランドの速度を、まず、初期速度から差し引き、次に、非阻害速度の%に変換し、ケトコナゾールの濃度に対しプロットした(図14)。IC50阻害曲線を、等式:
V=100/(1+(I/IC50))
(式中、V及びIは、それぞれ、初期速度及び阻害剤濃度である)を用いて合わせた。得られたデータを表6に示す。
【0117】
【表6】

【0118】
図13及び図14におけるミカエリス−メンテンの曲線とIC50阻害曲線をデータに合わせたものからパラメーターが得られた。括弧内の値は、曲線の合わせたものから得られた標準誤差である。
【実施例11】
【0119】
実施例11:固定化したCYP3A4の多型のアレイによるアッセイ
チトクロームP450の多型をアレイの形式を用いて並行して検定して、特定の小分子との活性におけるわずかな差異を同定することができる。例えば、精製したチトクロームP450 3A4のアイソフォーム*1、*2、*3、*4、*5、及び*15を、実施例9に記載した通りに、NADPH-チトクロームP450還元酵素と共にリポソームに個々に再構成することができる。次に、生じたリポソーム調整物を、実施例9に記載した通りに、LMPアガロースで希釈し、黒色の96ウェルマイクロタイタープレートの個々のウェルに固定化することができる。次に、固定化したタンパク質を、実施例9に記載した通りに、BzRes+/−ケトコナゾールを含む100μlのアッセイバッファーを各ウェルに添加することによって検定することができる。
【0120】
化学的な活性化(実施例10に記載したようなもの)をアレイ形式で用いることができる。例えば、精製したチトクトームP450 3A4のアイソフォーム*1、*2、*3、*4、*5、及び*15を、実施例9に記載した通りに、NADPH-チトクロームP450還元酵素なしでリポソームに個々に再構成し、生じたリポソームをアガロースに封入することによって固定化することができる。次に、各ウェルでのチトクロームP450の活性を、実施例10に記載した通りに、BzRes、及びクメンヒドロペルオキシド(200μM)を含み、ケトコナゾールを含むか、又は含まない100μlの200mMのリン酸カリウムバッファーpH7.4を各ウェルに添加することによって測定することができる。
【実施例12】
【0121】
実施例12:野生型チトクロームP450のパネルのアレイによるアッセイ
バキュロウイルスにより発現したヒトチトクロームCYP1A2、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9*1、CYP2C9*2、CYP2C9*3、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4、及びCYP3A5(Sigma)を、実施例9に記載した通りに、NADPH-チトクロームP450還元酵素と共にミクロソーム(Sigma)へ再構成し、ゲル封入によって固定化することができる。次に、活性アッセイを、実施例9に記載した通りに、固定化したP450のアレイ上で、各P450nにとって適切な蛍光基質を用いて、並行して行うことができる。配列したP450と、例えば、薬剤であるシクロスポリンAとの相互作用を、実施例10に記載した通りに、いずれかのP450による該当する蛍光基質の回転が薬剤の存在によって変化する程度を測定することによって決定することができる。別の方法として、代謝産物の形成を、これらは通常はローディング・サンプル(loading sample)の96ウェル形式と適合するので、LC-MSの方法を用いて測定することができる。
【実施例13】
【0122】
実施例13:ラットとヒトのチトクロームP450活性のアレイによる比較
ヒトのCYP2C9、CYP2D6、CYP3A4と、ラットのCYP2C9、CYP2D6、CYP3A4を、pBJW102.2ベクターにクローニングし、次に、組み換えタンパク質を、実施例4に記載したプロトコールに従って発現し、精製する。次に、精製した組み換えタンパク質を、実施例9に記載した通りに、NADPH-チトクロームP450還元酵素と共にリポソームへ組み込み、ゲル封入によって固定化することができる。活性化アッセイを、例えば、実施例9に記載した通りに、固定化したP450のアレイ上で並行して行うことができる。
【実施例14】
【0123】
実施例14:フェーズ1とフェーズ2との同時アッセイ(co-array)
フェーズ1酵素とフェーズ2酵素との同時アッセイ(co-array)を、例えば、NADPH-チトクロームP450還元酵素と、個別に、CYP1A2、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9*1、CYP2C9*2、CYP2C9*3、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4、及びCYP3A5を含む12種のリポソーム調整物を再構成することによって作成する。次に、これらの12種のリポソーム調整物を、96ウェルのマイクロタイタープレートの12個の別個のウェルに、アガロースゲル封入によって、それぞれ固定化する。次に、各ウェルに、ヒトのフェーズ2酵素であるグルタチオンS−トランスフェラーゼP1を含む溶液を添加する。その後、試験化合物、例えばパラセタモールを各ウェルに加え、結合した代謝産物の形成と同一性を、LC-MS方法によって検出することができる。
【0124】
(参考文献)

【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1A】図1Aは、C末端のBCCPヘキサヒスチジンコンストラクトの発現用のpBJW102.2のプラスミド地図を示す図である。
【図1B】図1Bは、pBJW102.2のDNA配列を示す図である。
【図1C】図1Cは、開始コドンからのpBJW102.2のクローニングサイトを示す図である。ヒトP450のORF、NADPH-チトクロームP450還元酵素のORF、チトクロームb5のORF、及びそれらの切断部分を、DraIII/SmaIで消化したpBJW102.2ベクターにライゲーションした。
【図2A】図2Aは、pJW45のベクター地図を示す図である。
【図2B】図2Bは、pJW45ベクターの配列を示す図である。
【図3A】図3Aは、ヒトP450 3A4の翻訳領域のDNA配列を示す図である。
【図3B】図3Bは、ヒトP450 3A4の全長のアミノ酸配列を示す図である。
【図4A】図4Aは、ヒトP450 2C9の翻訳領域のDNA配列を示す図である。
【図4B】図4Bは、ヒトP450 2C9の全長のアミノ酸配列を示す図である。
【図5A】図5Aは、ヒトP450 2D6の翻訳領域のDNA配列を示す図である。
【図5B】図5Bは、ヒトP450 2D6の全長のアミノ酸配列を示す図である。
【図6】E.coli由来のチトクロームP450 3A4の精製物のウェスタンブロット及びクマシーで染色したゲルを示す図である。チトクロームP450 3A4の精製物由来のサンプルを、SDS-PAGEで流し、クマシーを用いてタンパク質を染色するか、又はニトロセルロース膜上にウェスタンブロットし、ストレプトアビジン−HRP複合体で探索し、DAB染色によって可視化した。レーン1:全細胞、レーン2:可溶化液、レーン3:溶解したE.coliの細胞、レーン4:E.coliの細胞の洗浄液由来の上清、レーン5:E.coliの細胞洗浄液由来のペレット、レーン6:膜可溶化後の上清、レーン7:膜可溶化後のペレット、レーン8:分子量マーカー:175、83、62、48、32、25、16.5、6.5 KDa。
【図7】図7は、チトクロームP450 3A4のNi-NTAカラム生成物のクマシーで染色したゲルを示す図である。カラム生成物の総ての段階由来のサンプルをSDS-PAGEで流した。レーン1:マーカー175、83、62、48、32、25、16.5、6.5 KDa、レーン2:膜可溶化物由来の上清、レーン3:カラムのフロースルー液(Column Flow-through)、レーン4:バッファーCでの洗浄液、レーン5:バッファーDでの洗浄液、レーン6及び7:バッファーD+50mMイミダゾールでの洗浄液、レーン8〜12:バッファーD+200mMイミダゾールでの溶出液。
【図8】図8は、基質AMMCを用いた再構成アッセイにおけるチトクロームP450 2D6についての活性のアッセイを示す図である。組み換え、タグを付したCYP2D6を、NADPH−チトクロームP450還元酵素と共にリポソームに再構成した後でのAMMCを回転する能力の点で市販のCYP2D6と比較した。
【図9】図9は、クメンヒドロペルオキシドがチトクロームP450 3A4を活性化したことによるBzResからのレゾルフィン形成の割合を示す図である。チトクロームP450 3A4を、BzResの濃度を160μMまで増加させて、クメンヒドロペルオキシドの活性化を用いて溶液内で検定した。
【図10】図10は、固定化したCYP3A4及びCYP2C9への[3H]ケトコナゾールの結合の平衡を示す図である。CYP3A4の場合、データのポイントは、4実験の平均値±標準偏差である。非特異的な結合を、100μMのケトコナゾールの存在下で決定した(データ図示せず)。
【図11】図11は、ストレプトアビジンの表面上に固定化し、CHPにより活性化したP450 3A4によるDBFのフルオレセインへの変換を伴う、タグを付し、固定化したP450の化学的な活性化を示す図である。
【図12】図12は、アガロースで封入したミクロソームの安定性を示す図である。チトクロームP450 2D6と、NADPH−チトクロームP450還元酵素、及びチトクロームb5を含むミクロソームをアガロースで希釈し、96ウェルプレートにセットした。AMMCの回転を、4℃で、直ちに、及び2日及び7日後に測定した。
【図13】図13は、チトクロームP450 3A4のアイソフォームによるBzResの回転を示す図である。チトクロームP450 3A4のアイソフォームである、WT、*1、*2、*3、*4、*5、及び*15(約1μg)を、BzRes(0〜160μM)と、クメンヒドロペルオキシド(200μM)の存在下、室温で、200mMのリン酸カリウムバッファー pH7.4内でインキュベートした。レゾルフィンの形成を時間とともに測定し、割合をプログレス曲線から計算した。従来のミカエリス−メンテン速度式を表す曲線をデータに合わせた。
【図14】図14は、チトクロームP450 3A4のアイソフォームのケトコナゾールによる阻害を示す図である。チトクロームP450 3A4のアイソフォームである、WT、*1、*2、*3、*4、*5、及び*15(約1μg)を、BzRes(50μM)と、クメンヒドロペルオキシド(200μM)と、ケトコナゾール(0、0.008、0.04、0.2、1、5μM)の存在下、室温で、200mMのリン酸カリウムバッファー pH7.4内でインキュベートした。レゾルフィンの形成を時間とともに測定し、割合をプログレス曲線から計算した。IC50阻害曲線をデータに合わせた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の空間的に決められた位置を有する表面を含むタンパク質アレイであって、複合体を形成することが可能である少なくとも2種のタンパク質部分が各位置に沈着され、前記複合体が一時的に形成されていることを特徴とするタンパク質アレイ。
【請求項2】
前記複合体が、触媒反応の間に一時的に形成されていることを特徴とする請求項1記載のタンパク質アレイ。
【請求項3】
複数の空間的に定められた位置を有する表面を含むタンパク質アレイであって、各位置に少なくとも2種のタンパク質部分が沈着しており、各位置での前記タンパク質部分は、所定の基質に連続して作用することを特徴とするタンパク質アレイ。
【請求項4】
各位置における前記タンパク質部分の少なくとも1種が、膜に結びつくか、もしくは膜に結合することが可能であるか、又は非極性もしくは両親媒性の分子と相互作用するように修飾されていることを特徴とする請求項1〜3項のいずれか1項に記載のタンパク質アレイ。
【請求項5】
各位置における前記部分の少なくとも1種は薬剤代謝酵素であることを特徴とする請求項1〜4項のいずれか1項に記載のタンパク質アレイ。
【請求項6】
少なくとも2種のタンパク質部分が空間的に定められた位置に沈着されている表面を含むタンパク質アレイであって、前記タンパク質部分は、1種又は複数の薬剤代謝酵素に由来することを特徴とするタンパク質アレイ。
【請求項7】
各位置における前記タンパク質部分の少なくとも1種はP450タンパク質であることを特徴とする請求項5又は6記載のタンパク質アレイ。
【請求項8】
前記タンパク質部分は、各タンパク質部分に付加したマーカー部分を介して前記表面に付着していることを特徴とする請求項3又は6記載のタンパク質アレイ。
【請求項9】
前記タンパク質が、前記表面に近接して固定されている膜、小胞又はリポソーム内に組み込まれていることを特徴とする請求項1〜7項のいずれか1項に記載のタンパク質アレイ。
【請求項10】
前記薬剤代謝酵素は、チトクロームP450、フラビン・モノオキシゲナーゼ、UDP−グリコシルトランスフェラーゼ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼ、及びN−アセチルトランスフェラーゼから成る群より選択されることを特徴とする請求項5又は6記載のタンパク質アレイ。
【請求項11】
1種又は複数のフェーズI薬剤代謝酵素と、1種又は複数のフェーズ2の薬剤代謝酵素がアレイ上に存在することを特徴とする請求項3〜10項のいずれか1項に記載のタンパク質アレイ。
【請求項12】
前記薬剤代謝酵素はヒトチトクロームP450であり、CYP1A2、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9*1、CYP2C9*2、CYP2C9*3、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4、及びCYP3A5から成る群より選択されることを特徴とする請求項5〜10項のいずれか1項に記載のタンパク質アレイ。
【請求項13】
前記薬剤代謝酵素の1種又は複数が、異なる人種のグループ、異なる性、異なる哺乳類種、又は野生型酵素の異なる変異体のバージョンに由来することを特徴とする請求項5〜12項のいずれか1項に記載のタンパク質アレイ。
【請求項14】
タンパク質アレイを製造する方法であって、
a)2種又は3種以上の所定の薬剤代謝酵素を組み換え体、天然の供給源、又は合成の供給源のいずれかから得るステップと、
b)前記タンパク質を、表面上の空間的に定められた位置に沈着させて、アレイを得るステップ、
とを有するタンパク質アレイを製造する方法。
【請求項15】
前記薬剤代謝酵素を、他のタンパク質分子との混合物の状態でアレイと接触させ、アレイ上で沈着を生じさせ、タンパク質部分に組み込まれたタグを介してアレイ上のタンパク質部分を同時に精製することを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記薬剤代謝酵素を、発現宿主細胞由来の他のタンパク質と共に、空間的に定められた位置で表面上に沈着させて、アレイを得ることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項17】
タンパク質アレイを製造する方法であって、
a)精製した、又は一部精製した膜調整物又は膜に似た調整物に組み込まれた、組み換え体、天然の供給源、又は合成による供給源のいずれか由来の1種又は複数のタンパク質を用意するステップと、
b)前記膜調整物又は膜に似た調整物を、表面上に沈着させたゲルマトリックス内に封入することによって前記タンパク質を配列するステップ、
とを有するタンパク質アレイを製造する方法。
【請求項18】
薬剤代謝酵素のアレイを製造する方法であって、
a)精製した、又は一部精製した膜調整物又は膜に似た調整物の形態の、組み換え体、天然の供給源又は合成による供給源のいずれか由来の薬剤代謝酵素を用意するステップと、
b)前記膜又は膜に似た調整物を、膜を捕捉することが可能な適した表面上に沈着させるか、表面上に沈着させたゲルマトリックス内に封入することによって、前記薬剤代謝酵素を配列するステップ、
とを有する薬剤代謝酵素のアレイを製造する方法。
【請求項19】
前記膜調整物又は膜に似た調整物は、2種又は3種以上の異なるタンパク質を含むことを特徴とする請求項17又は18記載の方法。
【請求項20】
前記2種又は3種以上の異なるタンパク質は、互いに複合体を形成することが可能であることを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記複合体は一時的に形成されることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記2種又は3種以上の異なるタンパク質は、所定の基質に連続して作用することを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項23】
請求項14〜22項のいずれか1項に記載の方法によって製造したアレイ。
【請求項24】
1種又は複数のタンパク質と相互作用する分子についてタンパク質部分のセットをスクリーニングする方法であって、
a)1種又は複数の試験分子を、前記タンパク質部分のセットを有する請求項1〜13、23項のいずれか1項に記載のアレイと接触させるステップと、
b)1種又は複数の試験分子と、アレイ上の1種又は複数のタンパク質との相互作用を検出するステップ、
とを有する、1種又は複数のタンパク質と相互作用する分子についてタンパク質部分のセットをスクリーニングする方法。
【請求項25】
タンパク質部分のセットのメンバーの相対的な特性を同時に決定する方法であって、
a)前記タンパク質部分のセットを有する請求項1〜13、23項のいずれか1項に記載のアレイを1種又は複数の試験基質と接触させるステップと、
b)前記試験基質と、アレイ上のセット・メンバーとの相互作用を観察するステップ、
とを有する、タンパク質部分のセットのメンバーの相対的な特性を同時に決定する方法。
【請求項26】
1種又は複数の前記タンパク質部分が薬剤代謝酵素であり、前記酵素を、付属酵素と接触させることによって、又は化学処理によって活性化させることを特徴とする請求項25記載の方法。
【請求項27】
請求項1〜13、23項のいずれか1項に記載のアレイを、薬剤代謝における性差の調査に使用する方法。
【請求項28】
請求項1〜13、23項のいずれか1項に記載のアレイを、薬剤代謝及び毒性における人種に関連した差異の調査に使用する方法。
【請求項29】
請求項1〜13、23項のいずれか1項に記載のアレイを、2種又は3種以上の哺乳類の種の間での薬剤代謝における差異の調査に使用する方法。
【請求項30】
前記哺乳類の種はヒト及びラットであることを特徴とする請求項29記載の使用方法。
【請求項31】
請求項1〜13、23項のいずれか1項に記載のアレイを、薬剤代謝産物の細胞毒性の調査に使用する方法。
【請求項32】
請求項1〜13、23項のいずれか1項に記載のアレイを、小分子の代謝経路の決定及び定量に使用する方法。
【請求項33】
請求項1〜13、23項のいずれか1項に記載のアレイを、個々の薬剤代謝酵素を結合する、及び阻害する能力における選択性についての化合物のスクリーニングに使用する方法。
【請求項34】
請求項1〜13、23項のいずれか1項に記載のアレイを、所定の1種又は複数の化合物によるP450の発現の誘導の分析に使用する方法。
【請求項35】
請求項1〜13、23項のいずれか1項に記載のアレイを、所定の薬剤代謝酵素の活性への変異の影響の分析に使用する方法。
【請求項36】
薬剤代謝酵素(drug metabolizing enzyme,DME)を発現し、精製する方法であって、
a)所定のDMEを宿主細胞内で発現するステップと、
b)前記宿主細胞を、細胞を溶解するのに適した条件下に置くステップと、
c)膜に結び付いた細胞画分を溶解細胞から得るステップと、
d)前記膜に結び付いた細胞画分を、界面活性剤を添加することによって可溶化するステップと、
e)前記膜に結び付いた細胞画分に含まれるDMEタンパク質を可溶化するのに充分な期間インキュベートした後、さらに遠心分離ステップを行って、前記DMEタンパク質を含む上清を得るステップと、
f)前記上清のクロマトグラフィーを行って、前記DMEタンパク質を精製するステップ、
とを有する、DMEを発現し、精製する方法。

【図1A】
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【図2A】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2006−517397(P2006−517397A)
【公表日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−571931(P2004−571931)
【出願日】平成15年9月16日(2003.9.16)
【国際出願番号】PCT/IB2003/005258
【国際公開番号】WO2004/025244
【国際公開日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【出願人】(504216376)センス プロテオミック リミテッド (9)
【Fターム(参考)】