説明

タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する酸性飲食品の製造方法

【課題】 タンパク質及び/又はタンパク加水分解物の酸性環境下での分散安定性を最適化するための新たな技術を提供する。
【解決手段】 (1)タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する原料と、(2)大豆多糖類を含有する原料と、(3)酸味料を含有する原料とを水性溶液に添加して混合する工程を含む酸性飲食品の製造方法において、前記(1)タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する原料を、前記(2)大豆多糖類を含有する原料よりも前に、大豆多糖類を含有しない前記水性溶液に添加する。この場合、前記(3)酸味料を含有する原料を、前記(1)タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する原料よりも前に、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物、及び大豆多糖類を含有しない前記水性溶液に添加することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、栄養補助食品等に好適な、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する酸性飲食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
程よい酸味と清涼感のある飲料、ゼリー様飲料、ゼリー等が消費者に好まれている。この様な飲食品としては乳酸飲料、又は、果汁、酸味料、フレーバーを添加してなる飲料やそれらのゼリー様飲料若しくはゼリーが知られる。これらの飲食品は、酸味成分によって最終製品のpHが酸性となるものが多く、また、食品衛生上の観点からも、微生物的な安全性が高くなり保存性が向上するので、その最終製品のpHを酸性に調整するのが一般である。
【0003】
一方、健康維持のために栄養バランスを向上させることを目的として、所望の栄養素を配合してなる栄養補助食品が知られている。すなわち、例えば、タンパク質やタンパク加水分解物を配合してなる栄養補助食品によれば、必須アミノ酸等の栄養源として、また、特定の生理学的機能等を改善する保健機能を得る目的で、タンパク質やタンパク加水分解物を効率よく摂取することができる。
【0004】
そこで、程よい酸味と清涼感のある飲料、ゼリー様飲料、ゼリー等に所望のタンパク質やタンパク加水分解物を配合してそれを栄養補助食品とすれば、より手軽に楽しみながら摂取したいという消費者の要望に適合する。また、タンパク質やタンパク加水分解物を豊富に含有させた場合でも、酸性に調整した飲食品に配合すれば、低pH領域では増殖できる微生物の種類が限定されるため変敗が起こり難く、流通時の温度管理も容易となる品質管理上も利点がある。更にまた、殺菌処理を行う場合においても、レトルト殺菌のような長時間高温殺菌が不要となるので、風味や内容成分の劣化が少ない。
【0005】
しかしながら、タンパク質やタンパク加水分解物には低pH領域にその等電点を有するものも多く、最終製品のpHがpH3.5〜4.6程度の酸性となるものに配合する場合には、タンパク質やタンパク加水分解物と分散媒との静電的相互作用が損なわれて、タンパク質等の等電点沈殿等が生じ、得られる飲食品中の成分の凝集、沈殿、相分離などが生じやすいという問題がある。それによって、例えば、製造のバッチ間で、風味やタンパク質量等の品質のばらつきの原因となり好ましくない。また、製品の保存・流通過程においても、保存・流通時に容器に沈殿して外観を損ねたり、風味の変質等の原因となる。更にまた、ゲル様飲食品にあってはそのゲル強度が確保できない。
【0006】
したがって、タンパク質やタンパク加水分解物の等電点付近に調整される酸性飲食品においては、その成分の凝集、沈殿、相分離などの不均一化を防ぐ技術の提供が望まれていた。
【0007】
上記のような問題に対して、例えば、下記特許文献1には、発酵乳、乳酸菌飲料、酸性乳飲料、液状ヨーグルト、牛乳、豆乳などの蛋白食品に果肉、果汁、有機酸、無機酸などが添加された酸性下において、蛋白質粒子の凝集、沈殿、相分離などが生じるのを防止することができるとともにゼリー状の酸性蛋白食品にも使用することができる酸性蛋白安定化剤として、紅藻から抽出される、分子量25万以上であるとともに硫酸基3.0〜18.0%である硫酸多糖類を含有することを特徴とする酸性蛋白安定化剤が開示されている。
【0008】
また、下記特許文献2には、タンパク質の安定性、ゲルの保存安定性及び飲み心地に優れ、低pHにおいても調製可能な酸乳ゲル組成物として、ジェランガム及び/又は寒天、及び大豆多糖類を含有することを特徴とする酸乳ゲル組成物が開示されている。
【0009】
更に、下記特許文献3には、乳及び大豆食物繊維を含み、ペクチンを含まない混合物に、酸味料を添加してpH3.0〜4.2の一次混合物を得、この一次混合物に、少なくともペクチンを加えて二次混合物を得、得られた二次混合物を均質化することを特徴とする乳含有酸性飲料の製造方法が開示され、乳蛋白質懸濁粒子の安定性を阻害する因子を含む果汁や野菜汁等を配合した乳含有酸性飲料であっても、乳蛋白質懸濁粒子の凝集・沈澱を十分に抑制することが記載されている。
【特許文献1】特開2002−125587号公報
【特許文献2】特開2002−153219号公報
【特許文献3】特開2001−190254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1に記載された酸性蛋白食品は、紅藻から抽出される硫酸多糖類をタンパク質安定化剤として用いるので、汎用性に乏しいという問題があった。
【0011】
一方、特許文献2又は3に記載された技術は、タンパク質安定化剤として汎用されている大豆食物繊維やペクチンを用いて牛乳、脱脂粉乳等の乳タンパク成分を安定化する技術であるが、タンパク質やタンパク加水分解物の含有量が多い酸性飲食品には必ずしも適さない場合もあった。
【0012】
したがって、本発明の目的は、酸性飲食品中でのタンパク質及び/又はタンパク加水分解物の分散安定性を最適化するための新たな技術を提供し、当該技術を、栄養価が高く消化吸収性に優れたタンパク質又はタンパク加水分解物補給用飲食品の製造方法として利用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明者らは、(1)タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する原料と、(2)大豆多糖類を含有する原料と、(3)酸味料を含有する原料とを配合して成る酸性飲食品を製造する際、それらの原料の添加順序を制御することで、意外にも凝集、沈殿、相分離などによる酸性飲食品中の成分の不均一化を防ぐことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明の製造方法は、(1)タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する原料と、(2)大豆多糖類を含有する原料と、(3)酸味料を含有する原料とを水性溶液に添加して混合する工程を含む酸性飲食品の製造方法であって、前記(1)タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する原料を、前記(2)大豆多糖類を含有する原料よりも前に、大豆多糖類を含有しない前記水性溶液に添加することを特徴とする。
【0015】
本発明の製造方法によれば、(1)タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する原料と、(2)大豆多糖類を含有する原料と、(3)酸味料を含有する原料とを配合して成る酸性飲食品中での該タンパク質及び/又はタンパク加水分解物の分散安定性を保つことができ、凝集、沈殿、相分離などによる酸性飲食品中の成分の不均一化を防ぐことができる。
【0016】
また、本発明においては、前記(3)酸味料を含有する原料を、前記(1)タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する原料よりも前に、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物、及び大豆多糖類を含有しない前記水性溶液に添加することが好ましい。これによれば、より効率的に上記酸性飲食品中での該タンパク質及び/又はタンパク加水分解物の分散安定性を保つことができ、凝集、沈殿、相分離などによる酸性飲食品中の成分の不均一化を防ぐことができる。
【0017】
また本発明の別の態様においては、前記(1)タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する原料と、前記(3)酸味料を含有する原料とを、同時に前記水性溶液に添加することができる。これによれば、例えば、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物と酸味料とを予め粉体混合しておき、前記水性溶液に添加することができる。
【0018】
本発明の製造方法においては、前記タンパク質及び/又はタンパク加水分解物が乳清タンパク質及び/又は乳清タンパク分解物であることが好ましい。これによれば、栄養的価値の高い酸性飲食品を提供することができる。
【0019】
また、本発明の製造方法においては、前記タンパク質及び/又はタンパク加水分解物が数平均分子量550以上であることが好ましい。これによれば、凝集、沈殿、相分離などを生じやすいタンパク質及び/又はタンパク加水分解物を酸性飲食品に配合する場合であっても、その分散安定性を保つことができる。
【0020】
更にまた、前記酸性飲食品に含有するタンパク質及び/又はタンパク加水分解物の含有量が0.1〜20質量%であることが好ましい。これによれば、一食分当りの所望の摂取量を確保できる。
【0021】
また、前記酸性飲食品のpHが3.5〜4.6であることが好ましい。これによれば、変敗の原因となる雑菌に対する安全性が高くなり、保存性が向上するとともに、適度な酸味、風味を有する酸性飲食品を提供することができる。
【0022】
本発明の製造方法は、飲料、ゼリー様飲料、ムース様飲料、ムース、ペースト状飲料、ペースト又はゼリーの製造に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明においては、(1)タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する原料と、(2)大豆多糖類を含有する原料と、(3)酸味料を含有する原料とを水性溶液に添加して混合する工程を含む酸性飲食品の製造方法において、それらの原料の添加順序を制御するので、該タンパク質及び/又はタンパク加水分解物の等電点付近の酸性環境下での分散安定性を最適化することができ、凝集、沈殿、相分離などによる酸性飲食品中の成分の不均一化を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の製造方法において、タンパク質は、食用に供することができれば特に制限されるものではない。具体的には、例えば、乳清タンパク質、大豆タンパク等である。なかでも好ましくは乳清タンパク質であり、例えば、限外ろ過濃縮などによりタンパク質含有率が35〜80%程度まで高められた乳清タンパク質濃縮物(WPC)、その脱塩物である脱塩WPC、その脱脂物である脱脂WPC等が好ましく用いられる。また、乳清中のタンパク質をイオン交換樹脂により吸着分離したWPI等を用いることもできる。
【0025】
本発明の製造方法において、タンパク加水分解物は、食用に供することができれば特に制限されるものではないが、凝集、沈殿、相分離などを生じやすい数平均分子量が550以上、好ましくは650以上、より好ましくは800以上のものであれば、本発明の効果が好適に発揮されるので好ましい。
【0026】
タンパク加水分解物として、酵素分解等の公知の手段によってタンパク質のポリタンパク加水分解物鎖を部分的に加水分解して調製されたタンパク質の加水分解組成物等を用いることもできる。具体的には、例えば、乳清タンパク分解物、大豆ペプチド等である。その場合、遊離アミノ酸の呈味の低減、タンパク質のアレルギー原性を低減する等によって食品素材としての特性を改善するために、限外濾過、クロマトグラフィー等の公知の手段により分子量分画及び/又は部分精製することができる。
【0027】
以下に、本発明において好ましく用いることができる乳清タンパク分解物について説明する。
【0028】
すなわち、上記の乳清タンパク質をプロテアーゼで加水分解することにより得ることができ、(1)分解率が10〜15%である、(2)アミノ酸スコアが100である、(3)乳清タンパク質加水分解物に含まれる全アミノ酸の質量合計に占める遊離アミノ酸の質量合計の割合が1質量%未満である、(4)pH3.8において90℃、10分間加熱処理し、沈殿を生じない、(5)乳清タンパク質加水分解物のタンパク質1g当たりの緩衝能がクエン酸換算で280mg以下である、という理化学的性質を有する乳清タンパク分解物である。
【0029】
上記タンパク質の分解率、アミノ酸スコア、遊離アミノ酸の割合、酸性域(pH3.8)における熱安定性、緩衝能等は以下のようにして測定することができる。
【0030】
(I)タンパク質の分解率
ケルダール法(日本食品工業学会編、「食品分析法」、第102ページ、株式会社光琳、昭和59年)により試料の全窒素量を測定し、ホルモール滴定法(満田他編、「食品工学実験書」、上巻、第547ページ、養賢堂、1970年)により試料のホルモール態窒素量を測定し、これらの測定値から分解率を下記式(a)により算出する。
分解率(%)=(ホルモール態窒素量/全窒素量)×100…(a)
【0031】
(II)アミノ酸スコア
トリプトファン、システイン及びメチオニン以外のアミノ酸については、試料を6規定の塩酸で110℃、24時間加水分解し、トリプトファンについては、水酸化バリウムで110℃、22時間アルカリ分解し、システイン及びメチオニンについては、過ギ酸処理後、6規定の塩酸で110℃、18時間加水分解し、それぞれアミノ酸自動分析機(日立製作所製、835型)により分析し、各アミノ酸の質量を測定する。
【0032】
上記の方法により測定した試料の各アミノ酸の質量、ケルダール法により試料の全窒素量、及び1973年FAO/WHOアミノ酸評点パタン(一般用)(科学技術庁資源調査会・資源調査所編、「改訂日本食品アミノ酸組成表」、第211〜217ペ−ジ、大蔵省印刷局発行、昭和61年)を使用して、各アミノ酸ごとに1973年のアミノ酸評点パタンに対する割合(%)を下記式(b)により算出し、その中の最低値をもってアミノ酸スコアとする。なお、最低値が100を上回る場合のアミノ酸スコアは通例により100とする。
1973年の評点パタンに対する割合(%)=試料中の各アミノ酸含量(mg/gN)/評点パタンの当該アミノ酸量(mg/gN)×100…(b)
【0033】
(III)アミノ酸遊離率
試料中の各アミノ酸組成を上記の方法により測定し、これを合計して試料中の全アミノ酸の質量を算出する。次いで、スルホサリチル酸で試料を除蛋白し、残留する各遊離アミノ酸の質量を上記方法により測定し、これを合計して試料中の全遊離アミノ酸の質量を算出する。これらの値から、試料中の遊離アミノ酸含有率を下記式(c)により算出する。
アミノ酸遊離率(%)=(全遊離アミノ酸の質量/全アミノ酸の質量)×100…(c)
【0034】
(IV)酸性域(pH3.8)の熱安定性
試料を、クエン酸又は水酸化ナトリウムの添加によりpH3.8に調整し、固形分濃度10%で水に溶解し、250mlの透明ガラスビンに充填し、90℃で10分間加熱して水冷する。そして、沈殿又は凝集の発生を肉眼観察し、沈殿又は凝集の発生の有無を酸性域の熱安定性の指標とする。
【0035】
(V)緩衝能
予めクエン酸又は水酸化ナトリウムの添加によりpH7.0に調整した試料を、タンパク質濃度10%で水に溶解し、これにクエン酸を添加し、pH3.8に調整するために必要なクエン酸の量(mg)を測定し、タンパク質1g当たりのクエン酸の量(mg)を緩衝能の指標とする。
【0036】
上記のような理化学的性質を有する乳清タンパク分解物は、例えば、特開2001−95496号公報に記載された方法により得ることができる。
【0037】
すなわち、上記乳清タンパク質を、好ましくはタンパク質換算で5〜15質量%となるように水又は温湯に分散・溶解し、pH5.0以下、好ましくはpH4.0以下に調整する。pHの調整は、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、乳酸、リン酸、塩酸等を用いて行うことができる。
【0038】
pH調整後、酸性プロテアーゼを添加して酵素の至適温度範囲(通常30〜60℃)で酵素反応を行い、乳清タンパク質を加水分解する。この時、タンパク質の分解率が10〜15%の範囲となるように、反応条件(反応温度、反応時間、酵素添加量等)を設定することが好ましい。
【0039】
上記酸性プロテアーゼとしては、酸性域に至適pHを有するエンド型の蛋白質分解酵素であれば特に制限なく用いることができ、具体的には、アスペルギルス属、ムコール属、ペニシリウム属、サッカロミセス属等に属する微生物に由来する酸性プロテアーゼ、カテプシン、ペプシン等の動物に由来する酸性プロテアーゼ、ハス種子、キュウリ種子等の植物に由来する酸性プロテアーゼ、又はこれらの任意の割合の混合物が例示できる。
【0040】
そして、上記所定のタンパク質の分解率に達したら、反応液を加熱処理(80〜130℃、30分間〜2秒間)して酵素を失活させた後、好ましくない味や臭いを除去するために反応液を吸着性樹脂処理して液部を回収する。吸着性樹脂処理は、バッチ式やカラム式のいずれの方式でも行うことができ、上記吸着性樹脂としては、例えば、商品名「アンバーライトXAD−7」(オルガノ社製)、商品名「KS−35」(北越炭素社製)、商品名「セパビーズSP−207」(三菱化学社製)、商品名「ダウエックスS−112」(ダウケミカル社製)等を用いることができる。なお、吸着性樹脂処理を行う前に、沈殿又は凝集の発生を防止し、カラムの閉塞等を防止する目的で、予め吸着性樹脂及び反応液のpHを5.0以下の酸性域、又は中性域のいずれかに調整することが好ましい。
【0041】
回収した液部はそのまま乳清タンパク質加水分解物として用いることができ、必要に応じて濃縮、更には乾燥粉末化して用いることもできる。
【0042】
このようにして得られた乳清タンパク分解物は、アミノ酸スコアに優れ、酸性域の熱安定に優れ、かつ緩衝能が小さい等の優れた性質を有する栄養補給食品素材であるので、本発明に好ましく用いることができる。
【0043】
本発明における数平均分子量は、クロマトグラフィー法(GPC法;Gel Permeation Chromatography)で測定される。具体的には、下記の条件の下、ゲルろ過カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーで得られる分子量分布から算出される数平均分子量である。
【0044】
(クロマトグラフィー法の条件)
・カラム:ポリハイドロキシエチル・アスパルタミド・カラム、直径4.6mm、長さ220mm(ポリ・エル・シー(Poly LC)社製)
・カラム温度:30℃
・溶出液:20mM塩化ナトリウム、50mMギ酸
・溶出速度:0.4ml/分
・検出:UV215nm
【0045】
本発明の製造方法において、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物の配合割合は特に制限されないが、得られる酸性飲食品の全量中に好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.5〜10質量%、最も好ましくは1.5〜8質量%含有するように配合することが好ましい。タンパク質及び/又はタンパク加水分解物の含有量が0.1%未満の場合は、例えば、栄養補給を目的とする飲料、ゼリー様飲料、ムース様飲料、ムース、ペースト状飲料、ペースト又はゼリー等として提供される場合、一食分から摂取できるタンパク栄養素の摂取量が所望の摂取量に達しないので好ましくない。また、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物の含有量が20質量%を越えると、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物由来の風味が強くでるので好ましくない。
【0046】
本発明の製造方法において、大豆多糖類は、大豆から得られる水溶性の多糖類であり、主な成分はヘミセルロースであり、ガラクトース、アラビノース、ガラクツロン酸、ラムノース、キシロース、フコース、グルコース等の糖類から構成される。この大豆多糖類は、大豆油や分離大豆タンパク質を製造する際に生成するオカラから抽出、精製、殺菌して得ることができる。また、大豆多糖類としては市販のものを用いてもよく、このような市販の大豆多糖類としては、例えば、商品名「SM−700」、商品名「SM−900」、商品名「SM−1200」(いずれも三栄源エフ・エフ・アイ製)等が挙げられる。
【0047】
本発明においては、大豆多糖類の配合割合は特に制限されないが、得られる酸性飲食品の全量中に好ましくは0.1〜8質量%、より好ましくは0.3〜5質量%、最も好ましくは0.5〜4質量%含有するように配合することが好ましい。大豆多糖類の含有量が0.1%未満の場合は、大豆多糖類による、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物の酸性環境下での分散安定性を保持させる効果が得られないので好ましくない。また、大豆多糖類の含有量が8質量%を越えると、大豆多糖類由来の風味が強くでるので好ましくない。
【0048】
本発明の製造方法において、酸味料は、食用に供することができれば特に制限されるものではなく、有機酸類又は無機酸類のいずれであってもよい。具体的には、例えば、有機酸類としては、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、アスコルビン酸、グルコン酸、フマール酸及びそれらの塩等が挙げられる。無機酸としては、例えば、リン酸及びその塩等が挙げられる。
【0049】
本発明においては、酸味料の配合割合は特に制限されないが、得られる酸性飲食品のpHが3.5〜4.6、より好ましくは3.5〜4.0となるように配合することが好ましい。得られる酸性飲食品のpHが4.6を越えると生育可能な微生物の種類が増え、食品衛生上の危険が増大するため好ましくなく、pHが3.5未満では酸味が強くなりすぎるので好ましくない。
【0050】
本発明の製造方法においては、(1)タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する原料と、(2)大豆多糖類を含有する原料と、(3)酸味料を含有する原料とを水性溶液に添加し混合して酸性飲食品を得る。その際、(1)タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する原料を、(2)大豆多糖類を含有する原料よりも前に、大豆多糖類を含有しない水性溶液に添加するようにする。
【0051】
また、(3)酸味料を含有する原料を、(1)タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する原料よりも前に、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物、及び大豆多糖類を含有しない水性溶液に添加するようにすればより好ましい。
【0052】
上記(1)タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する原料、(2)大豆多糖類を含有する原料、(3)酸味料を含有する原料が添加される水性溶液としては、例えば、水、精製水又は脱塩水等が挙げられる。なお、この水性溶液には、前述し又は後述するタンパク質及び/又はタンパク加水分解物、大豆多糖類及び酸味料以外の成分が予め溶解又は均質化されていてもよい。
【0053】
本発明の製造方法において、(1)タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する原料としては、所定のタンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する粉体状、液状等の組成物であればよく、特にその調製形態に制限はないが、溶解又は均質化された液状の組成物であれば、前記水性溶液に添加後に分散させやすいので好ましい。例えば、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を水、精製水又は脱塩水等の水性溶液に溶解し、原料全量中の含有量が0.1〜50質量%となるように調製したものを用いることができる。
【0054】
また、(2)大豆多糖類を含有する原料としては、大豆多糖類を含有する粉体状、液状等の組成物であればよく、特にその調製形態に制限はないが、溶解又は均質化された液状の組成物であれば、前記水性溶液に添加後に分散させやすいので好ましい。例えば、大豆多糖類を水、精製水又は脱塩水等の水性溶液に溶解し、原料全量中の含有量が0.1〜10質量%となるように調製したものを用いることができる。
【0055】
また本発明の別の態様においては、前記(1)タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する原料と、前記(3)酸味料を含有する原料とを、同時に前記水性溶液に添加することができる。これによれば、例えば、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物と酸味料とを予め粉体混合しておき、前記水性溶液に添加することができる。
【0056】
上記の(1)タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する原料と、(2)大豆多糖類を含有する原料と、(3)酸味料を含有する原料とを水性溶液に添加して混合する工程において、その混合手段に特に制限はなく、食品製造分野で通常用いられている攪拌器等を用いることができる。また、その混合に加えて、更に、ホモジナイザー等を用いた均質化処理を施すこともできる。
【0057】
本発明においては、(1)タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する原料、(2)大豆多糖類を含有する原料、(3)酸味料を含有する原料を水性溶液に添加する際の温度や、その後に混合する際の温度は適宜好ましい条件を選択することができる。具体的には、例えば、乳清タンパク分解物を含有する溶液状のものであれば、20〜25℃の環境温度で添加した後、混合することができる。また、ゲル様飲食品に適用する場合には、寒天などの増粘多糖類を水に分散させ加熱して増粘多糖類含有溶液を調製した後、その溶液に(1)タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する原料、(2)大豆多糖類を含有する原料、(3)酸味料を含有する原料を前述した順序で添加して混合する。なおこの場合、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物、大豆多糖類又は酸味料は、増粘多糖類含有溶液に直接添加してもよく、あらかじめ水等に分散、加熱溶解した後に、増粘多糖類含有溶液に添加してもよい。
【0058】
本発明においては、大豆多糖類以外にも、ペクチン等の通常用いられるタンパク質安定剤を配合原料として添加することができる。
【0059】
また、本発明においては、上記混合後に更に酸味料を添加して最終品のpHを調製することができる。
【0060】
本発明においては、上記以外の成分として、増粘多糖類、糖類、高甘味度甘味料、ビタミン類、アミノ酸類、ミネラル類、果汁、着香料、着色料、調味料、上記の大豆多糖類以外の食物繊維、乳化剤、消泡剤等を適宜添加することができる。
【0061】
増粘多糖類としては、寒天、ジェランガム、カラギーナン、ファーセルラン、アルギン酸ナトリウム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、グアーガム、グルコマンナン等が挙げられ、これらは単独又は2種類以上を併用して用いることができる。
【0062】
糖類としては、ブドウ糖、果糖、砂糖、麦芽糖、乳糖、トレハロース、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マルトデキストリン等が挙げられ、高甘味度甘味料としては、アスパルテーム、ステビア、アセスルファムK、スクラロース、ソウマチン等が挙げられ、これらは単独又は2種類以上を併用して用いることができる。
【0063】
ビタミン類としては、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンF、ビタミンH、ビタミンK、ビタミンP、パントテン酸、コリン、葉酸、イノシトール、ナイアシン、パラアミノ安息香酸(PABA)等が挙げられ、これらは単独又は2種類以上を併用して用いることができる。
【0064】
アミノ酸類としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、アスパラギン、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン等が挙げられ、これらは単独又は2種類以上を併用して用いることができる。
【0065】
ミネラル類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、乳酸カルシウム等が挙げられ、これらは単独又は2種類以上を併用して用いることができる。
【0066】
果汁としては、レモン、グレープフルーツ、オレンジ、パイナップル、リンゴ等が挙げられ、これらは単独又は2種類以上を併用して用いることができる。
【0067】
また、乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びこれらを用いた乳化製剤等が挙げられ、消泡剤としては、シリコン等が挙げられる。
【0068】
こうして得られた(1)タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する原料と、(2)大豆多糖類を含有する原料と、(3)酸味料を含有する原料とを配合して成る酸性飲食品は、必要とされる条件で加熱殺菌等の殺菌処理をし、容器に充填して製品とすることができる。また、殺菌処理は容器に充填した後に行うこともできる。
【実施例】
【0069】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0070】
なお、以下の例中では、乳清タンパク分解物として、上記の特開2001−95496号公報に記載された方法によって調製した乳清タンパク分解物(粉末状)を用いた。具体的には、以下のようにして調製した。
【0071】
すなわち、精製水90kgに乳清タンパク質分離物(タンパク質含有量90%。MDフーズ社製)10kgを溶解し、50%グルコン酸(藤沢薬品工業社製)1.4kgを添加してpHを3.4に調整した。その溶液に、タンパク質1g当たり16000活性単位となるようにペプシン1:10000NFXII(日本バイオコン社製)を添加し、分解率をモニターしつつ45℃で酵素反応を行った。そして、分解率が13.2%に達した時点で、130℃で2秒間の加熱により酵素を失活させ、その後、10℃に冷却した。
【0072】
この加水分解液を、予めクエン酸(三栄源エフ・エフ・アイ社製)によりpHを3.8に平衡化した吸着性樹脂(北越炭素社製。KS−35)に対して、温度;10℃、流速;SV=3h-1の条件で通液し、樹脂に吸着しないで溶出する乳清タンパク加水分解物を含有する溶液を回収し、濃縮し、噴霧乾燥し、粉末状の乳清蛋白質加水分解物約8kgを得た。
【0073】
得られた乳清タンパク分解物は、上記のクロマトグラフィー法(GPC法;Gel Permeation Chromatography)での数平均分子量が920である、分解率が13.2%である、アミノ酸スコアが100である、乳清タンパク質加水分解物に含まれる全アミノ酸の質量合計に占める遊離アミノ酸の質量合計の割合が0.3質量%である、pH3.8において90℃、10分間加熱処理し、沈殿を生じない、乳清タンパク質加水分解物のタンパク質1g当たりの緩衝能がクエン酸換算で225mgである、という性質を有していた。
【0074】
また、大豆多糖類として、商品名「SM−1200」(三栄源エフ・エフ・アイ社製)を用い、乳清タンパク質として、商品名「NZMP8899」(フォンテラジャパン社製)を用いた。
【0075】
(試験例1)
原料の添加順序による影響を調べる目的で、下記表1の配合で、乳清タンパク分解物、大豆多糖類及びクエン酸を含有する組成物を調製した。
【0076】
【表1】

【0077】
すなわち、上記表1に記載の原料のうち、異性化糖、パイナップル果汁、香料、乳化剤を水に溶解した後、乳清タンパク分解物、大豆多糖類(以下「多糖類」とも表記する。)、クエン酸(以下「酸」とも表記する。)を、下記表2に示すとおりに相互にその順序を入れ替えて添加し混合した。最後に寒天を加えて95℃に加温して溶解し、pH3.8の組成物を調製した。
【0078】
(評価1)
上記のように調製した試験例1の組成物のうち約5mlを容量15mlの透明な遠沈管に分取して55℃の温浴にて一晩静置し、沈殿形成について評価した。評価は、◎:ほとんど沈殿が認められない、○:2時間後までははほとんど沈殿形成が認められないが、翌日には沈殿が認められる、△:1〜2時間内に沈殿形成する、×:1時間以内に沈殿形成する、の4段階とした。その結果を下記表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
表2に示すように、「乳清タンパク分解物」「多糖類」「酸」の添加順序が、組成物中の沈殿形成に影響を与えることが明らかとなった。そして、添加順序パターンb)及びf)で得られた組成物の方が他の添加順序パターンで得られた組成物よりも、その沈殿形成が抑制されていた。
【0081】
この結果により、乳清タンパク分解物を含有する酸性飲食品を調製する際に、大豆多糖類を最後に添加することによって、凝集、沈殿、相分離などによる酸性飲食品中の成分の不均一化を防ぐことができることが明らかとなった。また、添加順序パターンb)の結果からは、乳清タンパク分解物等のタンパク加水分解物を添加する前に酸味料を添加することで、より効果的に酸性飲食品中の成分の不均一化を防ぐことができることも明らかとなった。
【0082】
(試験例2)
試験例1と同様の目的で、下記表3の配合で、乳清タンパク分解物を含有する組成物を調製した。
【0083】
【表3】

【0084】
すなわち、クエン酸の代わりにリン酸を用いた以外は、試験例1と同様にして、pH3.8の組成物を調製した。
【0085】
(評価2)
上記のように調製した試験例2の組成物について、上記評価1と同様にして評価した。その結果を下記表4に示す。
【0086】
【表4】

【0087】
表4に示すように、酸味料として無機酸であるリン酸を用いた場合も、有機酸であるクエン酸を用いた場合と同様に、「乳清タンパク分解物」「多糖類」「酸」の添加順序が組成物中の沈殿形成に影響を与えた。また、添加順序パターンb)及びf)で得られた組成物の方が他の添加順序パターンで得られた組成物よりも、その沈殿形成が抑制されていた。
【0088】
この結果により、酸味料の種類によらず、乳清タンパク分解物を含有する酸性飲食品を調製する際に、大豆多糖類を最後に添加することによって、凝集、沈殿、相分離などによる酸性飲食品中の成分の不均一化を防ぐことができることが明らかとなった。また、添加順序パターンb)の結果からは、酸味料の種類によらず、乳清タンパク分解物等のタンパク加水分解物を添加する前に酸味料を添加することで、より効果的に酸性飲食品中の成分の不均一化を防ぐことができることも明らかとなった。
【0089】
(試験例3)
添加時のpHによる影響を調べる目的で、下記表5の配合で、乳清タンパク分解物を含有する組成物を調製した。
【0090】
【表5】

【0091】
すなわち、上記表5に記載の原料のうち、異性化糖、パイナップル果汁、香料、乳化剤を水に溶解した後、乳清タンパク分解物、大豆多糖類、クエン酸を、下記表6に示すとおりに相互にその順序を入れ替えて添加し混合した。その乳清タンパク分解物、大豆多糖類又はクエン酸の添加の際には、逐一、添加される水性溶液のpHを、クエン酸又はクエン酸ナトリウムでpH3.8に微調整した。なお、pHの調製のためのクエン酸又はクエン酸ナトリウムの添加量は、酸味料として添加するクエン酸の含有量(0.3質量%)に比較して、無視できる程度に微量である。最後に寒天を加えて95℃に加温して溶解し、pH3.8の組成物を調製した。
【0092】
(評価3)
上記のように調製した試験例3の組成物のうち約5mlを容量15mlの透明な遠沈管に分取して55℃の温浴にて2時間静置し、沈殿形成について評価した。評価は、○:2時間後まで沈殿形成が認められない、×:2時間以内に沈殿形成する、の2段階とした。その結果を下記表6に示す。
【0093】
【表6】

【0094】
表6に示すように、「乳清タンパク分解物」「多糖類」「酸」が添加される直前の水性溶液のpHをpH3.8に微調整して、添加時のpHを一定にした場合にも、「乳清タンパク分解物」「多糖類」「酸」の添加順序が、飲料組成物中の沈殿形成に影響を与えた。そして、添加順序パターンb)、e)及びf)で得られた組成物の方が他の添加順序パターンで得られた組成物よりも、その沈殿形成が抑制されていた。
【0095】
この結果により、乳清タンパク分解物を含有する酸性飲食品を調製する際に、大豆多糖類を添加する前に乳清タンパク分解物等のタンパク加水分解物を添加することによって、凝集、沈殿、相分離などによる酸性飲食品中の成分の不均一化を防ぐことができることが明らかとなった。
【0096】
(試験例4)
試験例3と同様の目的で、下記表7の配合で、乳清タンパク分解物を含有し、寒天を含有しない飲料組成物を調製した。
【0097】
【表7】

【0098】
すなわち、乳清タンパク分解物、大豆多糖類、クエン酸を、下記表8に示すとおりに相互にその順序を入れ替えて水に添加し混合した。その乳清タンパク分解物、大豆多糖類又はクエン酸の添加の際には、逐一、添加される水性溶液のpHを、クエン酸又はクエン酸ナトリウムでpH7.0に微調整した。なお、pHの調製のためのクエン酸又はクエン酸ナトリウムの添加量は、酸味料として添加するクエン酸の含有量(0.6質量%)に比較して、無視できる程度に微量である。最後にpH3.8に調整して、pH3.8の飲料組成物を調製した。
【0099】
(評価4)
上記のように調製した試験例4の飲料組成物のうち約5mlを容量15mlの透明な遠沈管に分取して55℃の温浴にて2時間静置し、沈殿形成について評価した。評価は、◎:2時間まで沈殿形成が認められない、○:1〜2時間内に沈殿形成する、×:1時間以内に沈殿形成する、の3段階とした。その結果を下記表8に示す。
【0100】
【表8】

【0101】
表8に示すように、「乳清タンパク分解物」「多糖類」「酸」が添加される直前の水性溶液のpHをpH7.0に微調整して、添加時のpHを一定にした場合にも、「乳清タンパク分解物」「多糖類」「酸」の添加順序が、飲料組成物中の沈殿形成に影響を与えた。そして、添加順序パターンb)、e)及びf)で得られた組成物の方が他の添加順序パターンで得られた組成物よりも、その沈殿形成が抑制されていた。
【0102】
この結果により、乳清タンパク分解物を含有する酸性飲食品を調製する際に、寒天等の増粘多糖類を原料に含まない場合でも、大豆多糖類を添加する前に乳清タンパク分解物等のタンパク加水分解物を添加することによって、凝集、沈殿、相分離などによる酸性飲食品中の成分の不均一化を防ぐことができることが明らかとなった。
【0103】
また、pH3.8の条件でおこなった試験例3の結果と、pH7.0の条件でおこなった試験例4の結果とを合わせて考慮すれば、原料添加直前のpH条件に関係なく、添加順序による不均一化防止効果が得られることが明らかとなった。
【0104】
(試験例5)
酸性飲食品の調製時の温度履歴による影響を調べる目的で、下記表9の配合で、乳清タンパク分解物を含有し、寒天を含有しない飲料組成物を調製した。
【0105】
【表9】

【0106】
すなわち、乳清タンパク分解物、大豆多糖類、クエン酸を、下記表10に示すとおりに相互にその順序を入れ替えて水に添加し混合して、pH3.8の飲料組成物を調製した。
【0107】
(評価5)
上記のように調製した試験例5の飲料組成物のうち約5mlを容量15mlの透明な遠沈管に分取して、60℃に達温、90℃に達温又は90℃10分のいずれかの温度履歴を付与し、その後55℃の温浴にて一晩静置し、沈殿形成について評価した。評価は、○:沈殿がない、あるいは少ない、×:沈殿形成する、の2段階とした。なお、試験例5の飲料組成物の調製後、室温に静置したものについても、その沈殿形成について評価した。結果を下記表10に示す。
【0108】
【表10】

【0109】
表10に示すように、いずれの温度履歴条件においても、乳清タンパク分解物を添加した後に大豆多糖類を添加する調製による方が、飲料組成物中の沈殿形成が抑制されていた。したがって、温度条件に関係なく、その不均一化防止効果が得られることが明らかとなった。
【0110】
(試験例6)
乳清タンパク分解物と大豆多糖類の含有量による影響を調べる目的で、乳清タンパク分解物の飲料組成物中の含有量が0.5、1、3、5、8又は10質量%(6通り)となるように変化させ、また、大豆多糖類の飲料組成物中の含有量が0.1、0.5、1、3、5、8質量%(6通り)となるように変化させた以外は、試験例5の飲料組成物と同様にして、試験例6の飲料組成物を調製した。その際、クエン酸、乳清タンパク分解物及び大豆多糖類については、下記表11に示すとおりに添加順序パターンを変えて添加した。なお、乳清タンパク分解物の含有量と大豆多糖類の含有量についての組み合わせは合計36通りである。
【0111】
【表11】

【0112】
(評価6)
上記のように調製した試験例6の飲料組成物のうち約5mlを容量15mlの透明な遠沈管に分取して、55℃の温浴にて一晩静置し、飲料組成物中の沈殿形成について評価した。評価は、乳清タンパク分解物の含有量と大豆多糖類の含有量との組み合わせの36通りのそれぞれについて、上記表11の添加順序パターン1)又は2)について、どちらの添加順序によるほうが、沈殿形成がより少ないかを比較した。
【0113】
その結果、いずれの組み合わせにおいても、添加順序パターン1)で得られた飲料組成物の方が添加順序パターン2)で得られた飲料組成物よりも、その沈殿形成が抑制されていた。したがって、乳清タンパク分解物と大豆多糖類との組み合わせにおいては上記含有量の範囲において、添加順序による不均一化防止効果が得られることが明らかとなった。
【0114】
(試験例7)
タンパク質を配合する場合にも、不均一化防止効果が得られるかどうかを調べる目的で、下記表12の配合で、乳清タンパク質(商品名「NZMP8899」、フォンテラジャパン社製)を含有する飲料組成物(I)及び飲料組成物(II)を調製した。
【0115】
【表12】

【0116】
なお、乳清タンパク質、大豆多糖類、クエン酸の添加順序については、下記表13又は14に示すとおりに相互にその添加順序を入れ替えた。また、飲料組成物のpHを、前記乳清タンパク質の等電点付近(pH4.6)に調整した。
【0117】
(評価7)
上記のように調製した試験例7の飲料組成物のうち約5gを容量15mlの透明な遠沈管に分取して、室温、45℃又は70℃の雰囲気温度にて一晩静置した。また、上記のように調製した試験例7の飲料組成物を90℃に達温して、そのうち約5gを容量15mlの透明な遠沈管に分取して、70℃の雰囲気温度にて一晩静置した。そして、遠心分離によって沈殿を採取し風乾後、その重さを測定した。結果を下記表13及び表14に示す。また、図1には添加順序パターンごとに沈殿量をプロットした図表を示す。
【0118】
【表13】

【0119】
【表14】

【0120】
図1に示されるように、添加順序パターンB),E)及びF)で得られた飲料組成物の方が他の添加順序パターンで得られた飲料組成物よりも、その沈殿形成が抑制される傾向にあることがわかる。この結果により、試験例1〜6に記載した乳清タンパク分解物等のタンパク加水分解物を用いた場合と同様に、タンパク質を含有する酸性飲食品においても、添加順序による不均一化防止効果が得られることが明らかとなった。
【0121】
(製造例1)
下記表15の配合で乳清タンパク分解物を含有するゼリー様飲料を製造した。
【0122】
【表15】

【0123】
すなわち、試験例1の組成物と同様にして、「酸」⇒「乳清タンパク分解物」⇒「多糖類」の添加順序でpH3.8の組成物を調製し、その後、常法に従い容器に充填し、殺菌処理し、10℃程度に冷却して乳清タンパク分解物を含有するゼリー様飲料を得た。
【0124】
このゼリー様飲料は口あたりよく、さっぱりとして、のどごしのなめらかなゼリー様飲料であった。
【0125】
(製造例2)
下記表16の配合で乳清タンパク分解物を含有する飲料を製造した。
【0126】
【表16】

【0127】
上記表16に記載の原料のうち、クエン酸、乳清タンパク分解物、大豆多糖類を、この順に水に溶解した後、残りの原料を添加・溶解することによりpH3.8の飲料組成物を調製した。その後、常法に従い容器に充填し、殺菌処理し、10℃程度に冷却して乳清タンパク分解物を含有する飲料を得た。
【0128】
この飲料は口あたりよく、さっぱりとして、のどごしのなめらかな飲料であった。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】乳清タンパク質を含有するpH4.6の飲料組成物中に生じた沈殿量を添加順序パターンごとにプロットした図表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する原料と、(2)大豆多糖類を含有する原料と、(3)酸味料を含有する原料とを水性溶液に添加して混合する工程を含む酸性飲食品の製造方法であって、前記(1)タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する原料を、前記(2)大豆多糖類を含有する原料よりも前に、大豆多糖類を含有しない前記水性溶液に添加することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記(3)酸味料を含有する原料を、前記(1)タンパク質及び/又はタンパク加水分解物よりも前に、タンパク質及び/又はタンパク加水分解物、及び大豆多糖類を含有しない前記水性溶液に添加する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記(1)タンパク質及び/又はタンパク加水分解物を含有する原料と、前記(3)酸味料を含有する原料とを、同時に前記水性溶液に添加する請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
前記タンパク質及び/又はタンパク加水分解物が乳清タンパク質及び/又は乳清タンパク分解物である請求項1〜3のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項5】
前記タンパク質及び/又はタンパク加水分解物が数平均分子量550以上である請求項1〜4のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項6】
前記酸性飲食品に含有するタンパク質及び/又はタンパク加水分解物の含有量が0.1〜20質量%である請求項1〜5のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項7】
前記酸性飲食品のpHが3.5〜4.6である請求項1〜6のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項8】
前記酸性飲食品が飲料、ゼリー様飲料、ムース様飲料、ムース、ペースト状飲料、ペースト又はゼリーである請求項1〜7のいずれか1つに記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−215474(P2007−215474A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−39312(P2006−39312)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(000006116)森永製菓株式会社 (130)
【Fターム(参考)】