説明

タンパク質抽出試薬およびそれを用いたポリメラーゼのスクリーニング方法

【課題】菌体内のタンパク質を抽出するための新たな試薬および方法、ならびに前記試薬または方法を用いた、ポリメラーゼの効率的なスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】少なくとも非イオン性界面活性剤および陰イオン界面活性剤を含んだ試薬により、グラム陰性細菌から菌体内タンパク質を効率的に抽出する。また、ポリメラーゼ遺伝子のライブラリーを構築する工程、前記ライブラリーを宿主へ形質転換し培養後複数の形質転換体を選択する工程、前記ポリメラーゼを発現させる工程、発現したポリメラーゼを抽出する工程、先の工程で抽出したポリメラーゼを精製する工程、前記精製したポリメラーゼを用いて核酸合成を行ないポリメラーゼ活性を測定する工程、からなる、ポリメラーゼのスクリーニング方法において、前記ポリメラーゼを抽出する工程に前記試薬を用いることで、所望の機能を有したポリメラーゼを効率的にスクリーニングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、菌体内のタンパク質を抽出するための試薬、および前記試薬を用いたポリメラーゼの効率的なスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸の伸長反応を行なう酵素であるポリメラーゼは、基質となる核酸よりDNAポリメラーゼとRNAポリメラーゼとに大別される。さらにDNAポリメラーゼは、DNA複製やDNA修復において中心的な役割を担うDNA依存型DNAポリメラーゼと、逆転写やテロメア合成を行なうRNA依存型DNAポリメラーゼの2つのタイプに分けられる。一方、RNAポリメラーゼも同様にmRNAやrRNAなどを合成するDNA依存型RNAポリメラーゼと、RNAウイルスで重要な機能を果たすRNA依存型RNAポリメラーゼ、特定の鋳型を必要としないRNAポリメラーゼの3つのタイプに分けられる。
【0003】
ポリメラーゼは生命現象を理解する上で重要な研究対象であるだけでなく、さまざま応用例により産業上も重要な酵素である。例えば、PCR法に用いられるTaqポリメラーゼや、遺伝子増幅/検出技術であるTRC法(特許文献1および非特許文献1)に用いられるAMV逆転写酵素、T7RNAポリメラーゼが知られている。
【0004】
前述した産業上利用されているポリメラーゼには、機能を強化した変異型酵素が知られているものも多い。例えば、T7RNAポリメラーゼでは、アミノ酸置換により認識するプロモーター配列を改変した酵素(特許文献2)、高温での比活性および熱安定性を高めた酵素(特許文献3)、アミノ酸の欠失と置換により3’−デオキシリボヌクレオチドの取り込み能を増強した酵素(特許文献4)が知られている。そして、このような機能を強化した変異型酵素や新規のポリメラーゼの取得には、スクリーニングを効率的に行なう必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−014400号公報
【特許文献2】米国特許第5385834号公報
【特許文献3】特表2003−525627号公報
【特許文献4】特開2003−061683号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ishiguro T. et al.,Analytical Biochemistry,314,77−86(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
新規のポリメラーゼは以下に示す工程からなるスクリーニング方法を用いて取得することができる。
(1)ポリメラーゼ遺伝子のライブラリーを構築する工程、
(2)前記ライブラリーを宿主へ形質転換し、培養後、複数の形質転換体を選択する工程、
(3)前記選択した複数の形質転換体を培養し、前記ポリメラーゼを発現させる工程、
(4)(3)で培養した培養液から発現したポリメラーゼを抽出する工程、
(5)前記抽出したポリメラーゼを精製する工程、
(6)前記精製したポリメラーゼを用いて核酸合成を行ない、ポリメラーゼ活性を測定する工程。
【0008】
しかしながら、前記(3)の工程で発現したポリメラーゼのうち、形質転換体内に発現したポリメラーゼを抽出する際、最も一般的な抽出方法である、超音波破砕処理を用いた方法では、一度に多数の試料を処理するのが困難であり、また数百μLといった少量の培養液に対して処理を行なうのも困難であることから、前記スクリーニング方法で用いる抽出方法としては不向きであった。超音波破砕処理以外の抽出方法として、超音波破砕処理が不要な市販の菌体内タンパク質抽出試薬を用いる方法がある。しかしながら、前記市販試薬の一つであるBugBuster(商品名)(ノバジェン製)を用いて菌体内に発現したポリメラーゼの抽出を試みたところ、菌体内に発現したポリメラーゼを含んだ抽出液は得られたものの、前記抽出液に前記(5)のポリメラーゼ精製工程で使用する緩衝液(例えば、500mM 塩化ナトリウムおよび20mM イミダゾールを含んだTris−HCl緩衝液(pH8.0))を添加するとポリメラーゼが沈殿する現象が見られ、その後の精製工程を行なうことが困難であった。
【0009】
そこで本発明の課題は、形質転換体内のタンパク質を抽出するための新たな試薬および方法、ならびに前記試薬または方法を用いた、ポリメラーゼの効率的なスクリーニング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を鑑みてなされた本発明は、以下の発明を包含する:
第一の発明は、非イオン性界面活性剤および陰イオン界面活性剤を少なくとも含んだ、グラム陰性細菌から菌体内タンパク質を抽出する試薬である。
【0011】
第二の発明は、非イオン性界面活性剤がTriton X−100(商品名)であり、陰イオン活性剤がデオキシコール酸ナトリウムである、第一の発明に記載の試薬である。
【0012】
第三の発明は、タンパク質がポリメラーゼである、第一または第二の発明に記載の試薬である。
【0013】
第四の発明は、第一から第三の発明に記載の試薬を用いた、グラム陰性細菌からの菌体内タンパク質抽出方法である。
【0014】
第五の発明は、
(1)ポリメラーゼ遺伝子のライブラリーを構築する工程、
(2)前記ライブラリーを宿主へ形質転換し、培養後、複数の形質転換体を選択する工程、
(3)前記選択した複数の形質転換体を培養し、前記ポリメラーゼを発現させる工程、
(4)(3)で培養した培養液から発現したポリメラーゼを抽出する工程、
(5)前記抽出したポリメラーゼを精製する工程、
(6)前記精製したポリメラーゼを用いて核酸合成を行ない、ポリメラーゼ活性を測定する工程、
からなる、ポリメラーゼのスクリーニング方法であって、
前記(4)の工程で、第三の発明に記載の試薬を使用する、前記スクリーニング方法である。
【0015】
第六の発明は、前記(2)の工程で、形質転換体が前記ポリメラーゼを発現しているかどうかを判別可能なスクリーニングベクターをさらに宿主へ形質転換する、第五の発明に記載のスクリーニング方法である。
【0016】
第七の発明は、前記スクリーニングベクターが、前記ポリメラーゼが認識するプロモーターおよび蛍光タンパク質遺伝子を機能的に連結したポリヌクレオチドを挿入したベクターである、第六の発明に記載のスクリーニング方法である。
【0017】
第八の発明は、前記(3)から(6)の工程を複数の形質転換体に対して同時に実施する、第五から第七の発明に記載のスクリーニング方法である。
【0018】
第九の発明は、第五から第八の発明に記載の方法で得られたポリメラーゼである。
【0019】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0020】
本発明の試薬は、グラム陰性細菌の細胞壁を溶かすことで、グラム陰性細菌内のタンパク質を超音波破砕処理せずに抽出可能な試薬である。本発明の試薬は、グラム陰性細菌に該当するいかなる細菌に対して適用可能であり、一例として遺伝子組換え操作で用いる宿主として最も一般的な大腸菌があげられる。
【0021】
本発明の試薬は、2種類の界面活性剤、具体的には非イオン性界面活性剤および陰イオン性界面活性剤を含んでいることを特徴としている。非イオン性界面活性剤としては膜タンパク質可溶化剤として通常用いられる中から適宜選択することができ、Triton X−100(商品名)、Triton X−114(商品名)、Brij 58(商品名)、Brij 35(商品名)、Tween 20(商品名)、Tween 80(商品名)、1−O−n−オクチル−β−D−グルコピラノシド、n−オクチル−β−D−チオグルコピラノシド、n−ドデシル−β−D−マルトピラノシド、n−ドデシル−α−D−マルトピラノシド、n−ドデシル−N,N-ジメチルアミン−N−オキサイド、イソプロピル−β−D−チオガラクトサイド、スクロースモノドデカン酸、n−オクチル−β−D−グルコピラノシド、n−ドデシル−β−D−マルトピラノシド、n−トリデシル−β−D−マルトピラノシドなどがあげられる。特にTriton X−100(商品名)が本発明の試薬で用いる非イオン性界面活性剤として好ましい。陰イオン性界面活性剤としては膜タンパク質可溶化剤として通常用いられる中から適宜選択することができ、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)、コール酸ナトリウム、ラウリル硫酸リチウム(LDS)、デオキシコール酸ナトリウムなどがあげられる。特にデオキシコール酸ナトリウムが本発明の試薬で用いる陰イオン性界面活性剤として好ましい。本発明の試薬に含まれる界面活性剤の濃度については、抽出対象(グラム陰性細菌)の菌種、培養液中の夾雑物の影響、使用する界面活性剤の臨界ミセル濃度などを考慮し、適宜設定すればよい。一例として、抽出対象が大腸菌の場合、Triton X−100(商品名)が0.2(v/v)%以上、デオキシコール酸ナトリウムが0.02(w/v)%以上となるように調整した試薬であればよい。なお、本発明の試薬に、リゾチームがさらに含まれていると、グラム陰性細菌がより溶菌しやすくなるため好ましく、グラム陰性細菌が大腸菌の場合は0.03(w/v)%程度含んでいればよい。
【0022】
本発明のスクリーニング方法における対象ポリメラーゼは、DNA依存型DNAポリメラーゼ、RNA依存型DNAポリメラーゼ、DNA依存型RNAポリメラーゼ、RNA依存型RNAポリメラーゼ、非依存型RNAポリメラーゼ、いずれのポリメラーゼに対しても適用可能であるが、T7RNAポリメラーゼ、SP6RNAポリメラーゼといった、認識配列が既知の鋳型依存型ポリメラーゼに対して適用するのが好ましい。
【0023】
本発明のスクリーニング方法で使用する、ポリメラーゼ遺伝子のライブラリーは、野生型ポリメラーゼをコードする遺伝子の任意の位置に変異を導入したポリヌクレオチドを適切なベクターに挿入することで得られる。野生株ポリメラーゼをコードする遺伝子の入手は、当業者のなし得る方法であればいかなる方法でもよく、例えばT7RNAポリメラーゼの場合、T7ファージ(DSM No.4623,ATCC 11303−B7,NCIMB10380など)から、前記ゲノム情報より作製した適切なプライマーを用いてPCRを行なうことで取得することができる。また、前記変異を導入したポリヌクレオチドは、部位特異的変異誘発法、縮重オリゴヌクレオチドを用いるPCR、核酸を含む細胞の変異誘発剤、放射線への露出といった公知の技術を適宜使用することにより得られる。前記変異を導入したポリヌクレオチドを挿入するベクターの種類は特に限定はなく、自律複製型ベクターでもよいし、宿主細胞に導入された際に宿主細胞のゲノムに組み込まれるベクターであってもよいが、好ましくは発現ベクターである。発現ベクターにおいて前記変異を導入したポリヌクレオチドは、プロモーターといった転写に必要な要素が機能的に連結される。プロモーターは宿主細胞において転写活性を示すDNA配列であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、大腸菌を宿主とした場合、使用できるプロモーターにはlac、trpもしくはtacプロモーターなどがあげられる。発現ベクターとしては、大腸菌を宿主とした場合、pTrc99A(GenBank Accession No.U13872)、pCDF−1b(タカラバイオ製)といった発現用プラスミドが例示できるが、当業者が入手し得る一般的な大腸菌用ベクターの中から適宜選択して使用してもよい。さらに、ベクターへ挿入する前記変異を導入したポリヌクレオチドには酵素の精製のために有用な配列を付加してもよい。例えばシグナルペプチドを利用して細胞外分泌型酵素としたり、シグナルペプチドとして末端にヒスチジンヘキサマーを含むタグ配列が付加されたポリヌクレオチドを作製することができる。もっとも、シグナルペプチドの種類やシグナルペプチドと本酵素の結合方法は上記方法に限定されることはなく、当業者が利用可能な任意のシグナルペプチドを利用することができる。
【0024】
本発明のスクリーニング方法における、前記ライブラリーを形質転換させる際に用いる宿主としては、グラム陰性細菌の中から適宜使用できるが、取り扱いの簡便な大腸菌を宿主として用いるのが好ましい。なお、形質転換に用いる大腸菌はJM109株、HB101株が例示できるが前記株に限定されない。
【0025】
本発明のスクリーニング方法の好ましい態様として、前記ライブラリーを宿主へ形質転換させる際に、スクリーニングベクターも同時に宿主へ形質転換させてスクリーニングを行なう方法がある。前記方法は形質転換体が前記ポリメラーゼ遺伝子を発現しているかどうかを容易に判別できるため、その後のスクリーニング操作を効率的に行なうことができる。前記スクリーニングベクターの一態様として、前記ポリメラーゼが認識するプロモーターおよび蛍光タンパク質遺伝子を機能的に連結したポリヌクレオチドを挿入したベクターを例示することができる。前記蛍光タンパク質遺伝子は、公知となっている遺伝子情報(例えば、GenBank Accession No.AF183395(緑色蛍光タンパク質(GFP))、No.AY646073(赤色蛍光タンパク質(RFP)))から作製した適切なプライマーを用いてPCRを行なうことで取得することができる。前記プロモーターおよび蛍光タンパク質遺伝子を機能的に連結したポリヌクレオチドを挿入したベクターをスクリーニングベクターとして使用した場合は、形質転換体よりポリメラーゼが発現すると、前記スクリーニングベクター中のポリメラーゼを認識するプロモーターによって前記蛍光タンパク質が発現するため、前記タンパク質に由来する蛍光をFACAriaセルソーサー(日本BD製)といったフローサイトメーターで検出することで前記ポリメラーゼの発現を確認することができる。
【0026】
前記ライブラリー遺伝子を宿主へ形質転換することにより得られた形質転換体は、挿入されたポリメラーゼ遺伝子の発現を可能にする条件下で適切な栄養培地中で培養することで、ポリメラーゼを発現させることができる。
【0027】
本発明のスクリーニング方法は、形質転換体培養液から発現したポリメラーゼを抽出する際に、本発明の試薬を用いることを特徴としている。本発明の試薬を用いて形質転換体内から抽出したポリメラーゼは、通常のタンパク質で用いられる精製法を用いて精製を行なえばよい。精製法の一例としては、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)トヨパール(商品名)(東ソー製)といったレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルトヨパールおよびフェニルトヨパール(商品名)(東ソー製)といったレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィ一法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動といった電気泳動法等の手法を単独あるいは組み合わせて用いた方法があげられ、前記精製法によりポリメラーゼ精製標品を得ることができる。なお、末端にシグナルペプチドを含んだポリメラーゼを精製する場合は、前記シグナルペプチドを利用して精製する方法が簡便である。例えば、末端にヒスチジンヘキサマー配列を含んだポリメラーゼの場合はニッケルカラムを用いて容易に精製することができる。
【0028】
本発明のスクリーニング方法で用いる活性測定は、スクリーニング対象のポリメラーゼに則した核酸伸長反応であればよい。例えば、DNA依存型RNAポリメラーゼの場合、基質としてリボヌクレオチド(ATP、CTP、GTP、UTP)を使用し、特定の配列を有するDNAを鋳型に、RNA合成を行なえばよい。また、RNA依存型DNAポリメラーゼの場合、基質としてデオキシリボヌクレオチド(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)を使用し、特定の配列を有するRNAを鋳型に、DNA合成を行なえばよい。活性測定の条件は選択したいポリメラーゼの機能に合わせて適宜選択すればよく、例えば高温条件下による耐熱性の評価、低pH条件下によるpH依存性の評価が例示できる。合成量の定量については、伸長した核酸を検出できる方法であればよく、インターカレーターを用いた定量や、紫外分光光度計、リアルタイムPCRなどを例示できる。
【0029】
本発明のスクリーニング方法において、ポリメラーゼ遺伝子のライブラリーを宿主へ形質転換させることで得られた複数の形質転換体を培養し前記ポリメラーゼを発現させる工程、前記工程の培養液から前記ポリメラーゼを抽出する工程、前記ポリメラーゼを精製する工程、前記精製したポリメラーゼを用いて核酸合成を行ないポリメラーゼ活性を測定する工程を、各形質転換体毎に個別に実施するのではなく、複数の形質転換体に対して同時に実施するのが好ましい。複数の形質転換体に対して同時に実施する方法として、個々の試験管に各形質転換体を含んだ培地を入れた後、シェーカーを用いて同時に培養後、各形質転換体の培養液に本発明の試薬を添加することでポリメラーゼを同時に抽出し、個々のタンパク質精製カラムなどを用いて同時にタンパク質を精製後、活性測定しスクリーニングする方法もあるが、培養/精製操作を小スケールで行なえる点、一度に多くの形質転換体を評価できる点でマイクロプレートを用いて前記工程を行なうのが特に好ましい。マイクロプレートには96穴、384穴、1536穴と様々な穴の数のプレートが、コーニング社、日本ジェネティクス社、ナルジェヌンク社などから入手可能であり、スクリーニングを行なう形質転換体の数に応じて適切なものを選択すればよい。
【0030】
本発明のスクリーニング方法で得られたポリメラーゼは、野生型ポリメラーゼと比較して耐熱性、安定性、pH依存性、酵素活性などの特性が優れたポリメラーゼを得ることができる。よって、本発明のスクリーニング方法で得られたポリメラーゼを例えば遺伝子増幅試薬用酵素として用いた場合、迅速・高感度な遺伝子増幅試薬を得ることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の試薬は、グラム陰性細菌内のタンパク質を、超音波破砕処理を行なわずに抽出することができる。また、本発明の試薬で抽出した前記タンパク質を含んだ抽出液に、塩を含んだ緩衝液をそのまま添加しても、タンパク質の沈殿が発生しないため、前記タンパク質を精製する際に塩を含んだ緩衝液をそのまま用いることができる。
【0032】
ポリメラーゼをスクリーニングする際に、選択した形質転換体より発現したポリメラーゼを抽出する工程で本発明の試薬を用いることで、選択した多数の形質転換体からの培養液から迅速、簡便にポリメラーゼを抽出することができる。また、本発明の試薬で抽出した抽出液は、塩の添加によるポリメラーゼの沈殿が発生しないため、ポリメラーゼ精製工程において沈殿の再溶解などの操作が不要であり、効率的にポリメラーゼのスクリーニングを行なうことができる。
【0033】
本発明のスクリーニング方法の好ましい態様である、ポリメラーゼ遺伝子のライブラリーを宿主へ形質転換し、培養後、複数の形質転換体を選択する工程において、形質転換体が前記ポリメラーゼを発現しているかどうかを判別可能なスクリーニングベクターをさらに宿主へ形質転換するスクリーニング方法は、形質転換体が前記ポリメラーゼ遺伝子を発現しているかどうかを容易に判別できるため、その後のスクリーニング操作を効率的に行なうことができる。また、選択した複数の形質転換体よりポリメラーゼを発現させる工程、前記工程での培養液から本発明の試薬を用いてポリメラーゼを抽出する工程、前記抽出したポリメラーゼを精製する工程、前記精製したポリメラーゼを用いて核酸合成を行ない活性を比較する工程、を複数の形質転換体に対して同時に行なうことで、さらに効率的かつ再現性の高いポリメラーゼのスクリーニングを行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】T7RNAポリメラーゼをクローニングしたプラスミドpTrc99A−T7RNApolの制限酵素地図。
【図2】pCDF2プラスミドの制限酵素地図。
【図3】T7RNAポリメラーゼを生産するプラスミドpCDF2−T7RNAPの制限酵素地図。
【図4】N末端にヒスチジンヘキサマーを融合したT7RNAポリメラーゼを生産するプラスミドpCDF2−T7RNAPHisの制限酵素地図。
【図5】T7プロモーターによって発現が誘導されるGFP遺伝子を持つpSTVGFPの制限酵素地図。
【図6】ポリメラーゼ抽出工程における、界面活性剤の影響を確認した図(電気泳動写真)。レーン1は分子量マーカーであり、レーン2はBugBuster(商品名)を、レーン3はTriton X−100(商品名)(試薬1)を、レーン4はデオキシコール酸ナトリウム(試薬2)を、レーン5はTriton X−100およびデオキシコール酸ナトリウム(試薬3)をそれぞれ培養液に添加して抽出したときの結果を示す。
【図7】ポリメラーゼ抽出工程における、Triton X−100濃度およびデオキシコール酸ナトリウム濃度の影響を確認した図(電気泳動写真)。レーン1は1.0(v/v)% Triton X−100(商品名)および0.1(w/v)% デオキシコール酸ナトリウム(試薬3)を、レーン2は0.5(v/v)% Triton X−100(商品名)および0.1(w/v) %デオキシコール酸ナトリウム(試薬4)を、レーン3は0.2(v/v)% Triton X−100(商品名)および0.1(w/v)% デオキシコール酸ナトリウム(試薬5)を、レーン4は0.2(v/v)% Triton X−100(商品名)および0.02(w/v)% デオキシコール酸ナトリウム(試薬6)をそれぞれ培養液に添加して抽出したときの結果を示す。
【図8】スクリーニングした変異型T7RNAポリメラーゼと野生型T7RNAポリメラーゼとで43から50℃におけるRNA生産量を比較した結果。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらは一例であり、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0036】
実施例1 T7RNAポリメラーゼ遺伝子のクローニング
T7RNAポリメラーゼ遺伝子のクローニングは以下の方法に従い実施した。
(1)T7ファージゲノミックDNAライブラリー(シグマ製)を鋳型プラスミドとして、T7RNAポリメラーゼ遺伝子を、以下の試薬組成および反応条件にて、前半部分と後半部分に分けてPCR法を用い増幅した。なお、試薬組成のうち合成DNAプライマーは、前半部分の増幅にはプライマーFF(配列番号1、3’末端側20塩基は配列番号5の1から20番目の塩基に相当)およびプライマーFR(配列番号2、配列番号5の1813から1839番目の塩基の相補鎖に相当)を、後半部分の増幅にはプライマーRF(配列番号3、配列番号5の1825から1853番目の塩基に相当)およびプライマーRR(配列番号4、3’末端側20塩基は配列番号5の2633から2652番目の塩基の相補鎖に相当)を、それぞれ用いた。
【0037】
(試薬組成)(総反応液量:100μL)
各200pM 合成DNAプライマー
100ng 鋳型プラスミド
0.2mM dNTPs
0.025unit/μL TaqDNAポリメラーゼ(TaKaRa Ex
Taq(商品名)、タカラバイオ製)
酵素に付属するバッファー
(反応条件)
サーマルサイクラー(Perkin−Elmer製)を用い、94℃で2分加熱
後、94℃・1分、58℃・30秒、72℃・1分の温度サイクルを25回繰り返
した。
(2)PCR反応後の液を1%アガロース電気泳動で泳動後、エチジウムブロマイド染色を行ない、染色後のゲルから目的産物のバンドを切り出すことで、PCR産物を精製した。
(3)精製したPCR産物のうち、前半部分のPCR産物を制限酵素BspHIおよびHindIII(タカラバイオ製)で消化し、制限酵素NcoI(タカラバイオ製)およびHindIIIで消化したpTrc99Aベクター(GEヘルスケアバイオサイエンス製)にT4リガーゼを用いて4℃で30分反応させた。
(4)(3)の反応液を大腸菌JM109株に形質転換させ、LBG/Crb寒天培地(1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、1% NaCl、0.5% グルコース、1% 寒天、50μg/mL カルベニシリン(pH7.4))上で選択を行ない、37℃で一晩培養後に生育してきたコロニーの保持するプラスミドをpTrc99A−T7Fとした。
(5)常法に従いpTrc99A−T7Fを調製後、後半部分のPCR産物を制限酵素HindIIIで消化し、制限酵素HindIIIで消化したpTrc99A−T7FにT4リガーゼを用いて4℃で30分反応させた。
(6)(5)の反応液を大腸菌JM109株に形質転換させ、LBG/Crb寒天培地(1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、1% NaCl、0.5% グルコース、1% 寒天、50μg/mL カルベニシリン(pH7.4))上で選択を行ない、37℃で一晩培養後に生育してきたコロニーの保持するプラスミドをpTrc99A−T7RNApolとした。図1にpTrc99A−T7RNApolの制限酵素地図を示す。なお、T7RNAポリメラーゼ遺伝子については実施例8に示す方法を用いて塩基配列を決定することにより、意図しない変異が導入されていないことを確認した。得られたT7RNAポリメラーゼの遺伝子配列を配列番号5(GenBank No.FJ881694の1から2652番目の塩基に相当)に、アミノ酸配列を配列番号6(GenBank No.NP_041960と同一の配列)に示す。
【0038】
実施例2 発現ベクターの作製
実施例1で作製したpTrc99A−T7RNApol(図1)を鋳型にT7RNAポリメラーゼ遺伝子を含んだDNA断片をPCR法にて増幅し、pCDF2プラスミド(図2)と連結した。
(1)pTrc99A−T7RNApol(図1)を鋳型プラスミドとして、以下の試薬組成および反応条件にて、PCR反応を行なった。
【0039】
(試薬組成)(総反応液量:100μL)
200pM プライマーpTrcF(配列番号7)
200pM プライマーpTrcR(配列番号8)
100ng 鋳型プラスミド
0.2mM dNTPs
0.025unit/μL TaqDNAポリメラーゼ(TaKaRa Ex
Taq(商品名)、タカラバイオ製)
酵素に付属するバッファー
(反応条件)
サーマルサイクラー(Perkin−Elmer製)を用い、94℃で2分加熱
後、94℃・1分、58℃・30秒、72℃・2分40秒の温度サイクルを25回
繰り返した。
(2)1%アガロース電気泳動で泳動後、エチジウムブロマイド染色を行ない、染色後のゲルから目的産物のバンドを切り出すことで、PCR産物を精製した。
(3)精製したPCR産物を制限酵素EcoT22I(タカラバイオ製)およびBlnI(タカラバイオ製)で消化し、制限酵素PstI(タカラバイオ製)およびBlnIで消化したpCDF2プラスミド(図2)にT4リガーゼを用いて4℃で30分反応させた。
(4)(3)の反応液を大腸菌JM109株に形質転換させ、LBG/Crb寒天培地(1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、1% NaCl、0.5% グルコース、1% 寒天、50μg/mL カルベニシリン(pH7.4))上で選択を行ない、37℃で一晩培養後に生育してきたコロニーの保持するプラスミドをpCDF2−T7RNAPとした。図3にpCDF2−T7RNAPの制限酵素地図を示す。なお、T7RNAポリメラーゼ遺伝子については実施例8に示す方法を用いて塩基配列を決定することにより、意図しない変異が導入されていないことを確認した。
(5)pCDF2−T7RNAP(図3)を基に以下に示す方法でヒスチジンヘキサマーの導入を行なった。
(5−1)pCDF2−T7RNAP(図3)を鋳型プラスミドとして、以下の試薬組成および反応条件にて、1回目のPCR反応を行なった。なお、合成プライマーはプライマーHisF(配列番号9、3’末端側18塩基は配列番号5の1から18番目の塩基に相当)とプライマーpCDFR(配列番号10、配列番号5の1080から1104番目の塩基の相補鎖に相当)の組み合わせ、またはプライマーHisR(配列番号11)とプライマーpCDFF(配列番号12)の組み合わせを用いた。
【0040】
(試薬組成)(総反応液量:100μL)
各200pM 合成DNAプライマー
100ng 鋳型プラスミド
0.2mM dNTPs
0.025unit/μL DNAポリメラーゼ(PrimeSTAR HS
DNA polymerase(商品名)、タカラバイオ製)
酵素に付属するバッファー
(反応条件)
サーマルサイクラー(Perkin−Elmer製)を用い、98℃で30秒加
熱後、98℃・30秒、55℃・30秒、72℃・3分の温度サイクルを30回繰
り返した後、72℃で7分間反応した。
(5−2)反応液を1%アガロース電気泳動で泳動後、エチジウムブロマイド染色を行ない、染色後のゲルから目的産物のバンドを切り出すことで、PCR産物を精製した。
(5−3)得られた2種類のPCR産物を鋳型に、合成DNAプライマーとしてプライマーpCDFR(配列番号10)とプライマーpCDFF(配列番号12)の組み合わせを用いて2回目のPCR反応を行なった。PCR反応における試薬組成、および反応条件は合成DNAプライマーと鋳型以外は(5−1)と同じ条件で行ない、増幅した産物を(5−2)と同様にアガロースゲルにて電気泳動後、抽出、精製した。
(5−4)pCDF2−T7RNAPプラスミド(図3)と、(5−3)で精製した2回目のPCR産物に0.2mM dNTPs、0.025unit/μL DNAポリメラーゼおよび酵素に付属するバッファーを加え、総反応液量を100μLとした。この反応液をサーマルサイクラーを用いて95℃で30秒加熱後、95℃・30秒、55℃・1分、68℃・8分の温度サイクルを18回繰り返した後、68℃で7分間反応させることで、PCR反応を行なった。
(5−5)PCR反応終了後、制限酵素DpnIを10units加え、37℃で1時間消化し、常法に従い大腸菌JM109株に形質転換した。
(5−6)形質転換した溶液はLBG/Crb寒天培地(1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、1% NaCl、0.5% グルコース、1% 寒天、50μg/mL カルベニシリン(pH7.4))に塗布し、37℃で一晩保温した。生成したコロニーから常法によりプラスミドを抽出し、pCDF2−T7RNAPHisプラスミドとした。図4にpCDF2−T7RNAPHisの制限酵素地図を示す。さらに実施例8に示す方法を用いて塩基配列を決定することにより、意図しない変異が導入されていないこと、およびヒスチジンヘキサマーが導入されていることを確認した。また培養した菌体から酵素を抽出し、ニッケルキレート樹脂によるアフィニティー精製が可能であることを確認した。得られたヒスチジンヘキサマーを融合したT7RNAポリメラーゼの遺伝子配列を配列番号13(配列番号5の5’側にatggggおよびヒスチジンヘキサマーをコードするオリゴヌクレオチド(catを6回繰り返した配列)を付加した配列)に、アミノ酸配列を配列番号14(配列番号6の5’側にメチオニン、グリシンおよびヒスチジンヘキサマーを付加した配列)に示す。
【0041】
実施例3 ポリメラーゼ遺伝子ライブラリーの作製
実施例2で作製したpCDF2−T7RNAPHisプラスミド(図4)のT7RNAポリメラーゼ遺伝子に以下の手順で変異を導入し、遺伝子ライブラリーを構築した。
(1)pCDF2−T7RNAPHis(図4)を鋳型プラスミドとして、以下の試薬組成および反応条件にて、エラープローンPCR反応を行なった。
【0042】
(試薬組成)(総反応液量:100μL)
0.1から0.3mM(必要に応じて) MnCl
200pM プライマーpTrcFs(配列番号15)
200pM プライマーpTrcRs(配列番号16)
100ng 鋳型プラスミド
0.2mM dATP
0.2mM dGTP
1mM dCTP
1mM dTTP
2mM MgCl
0.01unit/μL TaqDNAポリメラーゼ(GoTaq(商品名)、
Promega製)
酵素に付属するMgフリーのバッファー
(反応条件)
サーマルサイクラー(Perkin−Elmer製)を用い、94℃で2分加熱
後、94℃・30秒、55℃・1分、72℃・8分の温度サイクルを25回繰り返
した。
(2)PCR産物を、1%アガロース電気泳動で泳動後、エチジウムブロマイド染色を行ない、染色後のゲルから目的産物のバンドを切り出すことで精製した。
(3)精製されたT7RNAポリメラーゼ遺伝子を制限酵素NcoIおよびPstIで消化後、同酵素で消化したpCDF2プラスミド(図2)にT4リガーゼを用いて4℃で30分反応させ、反応後のDNA溶液をT7RNAポリメラーゼ遺伝子変異体ライブラリーとした。
(4)作製したライブラリーの一部を定法に従い大腸菌JM109株に形質転換しプラスミドを精製し、実施例8に示す方法で塩基配列を決定することでエラープローンPCRの効果を確かめた。
【0043】
実施例4 スクリーニングベクターの作製
実施例3で作製した遺伝子ライブラリーの活性を評価するためのスクリーニングベクターを作製した。
(1)塩基配列情報(GenBank Accession No.AF183395)に基づき、GFP遺伝子を合成した。合成したGFP遺伝子には、T7プロモーターおよびクローニング操作を行なうための制限酵素(SphI)認識配列を持つように設計した。
(2)合成したGFP遺伝子は制限酵素SphI(タカラバイオ製)で37℃で3時間消化し、1.0%アガロース電気泳動で泳動後、エチジウムブロマイド染色を行ない、染色後のゲルから目的産物のバンドを切り出すことで精製した。これを同様に消化、精製したpSTV28ベクター(タカラバイオ製)とT4リガーゼを用いて4℃で30分反応させた。
(3)(2)の反応液を大腸菌JM109株に形質転換させ、LBG/Cm寒天培地(1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、1% NaCl、0.5% グルコース、1% 寒天、30μg/mL クロラムフェニコール)上で選択を行ない、37℃で一晩培養後に生育してきたコロニーを取得した。
(4)取得したコロニーは、LBG/Cm液体培地(1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、1% NaCl、0.5% グルコース、30μg/mL クロラムフェニコール)を用いて、37℃で一晩培養後、プラスミドを回収し、このプラスミドをT7プロモーターによって発現が誘導されるGFP遺伝子を持つpSTVGFPとした。図5にpSTVGFPの制限酵素地図を示す。
(5)取得したpSTVGFP(図5)を、実施例3で作製したT7RNAポリメラーゼ遺伝子変異体ライブラリーと共に大腸菌JM109株に形質転換を行ない、前記形質転換液を37℃のSOC培地で1.5時間培養後、FACAriaセルソーター(日本BD製)で蛍光が観察される株を1クローンずつ分取し、37℃の2×YTG/Crb培地(1.6% バクトトリプトン、1% バクト酵母エキス、0.5% NaCl、0.5% グルコース、50μg/mL カルベニシリン(pH7.4))で増殖してきた株を、変異体候補株とした。
【0044】
実施例5 抽出条件の検討(その1)
形質転換体より発現したT7RNAポリメラーゼを効率的に抽出するための、抽出条件の検討を行なった。
(1)1mL容量の96ディープウェルプレート(ナルジェヌンク製)に200μLのLBG/Crb培地(1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、1% NaCl、0.5% グルコース、50μg/mL カルベニシリン(pH7.4))を加え、JM109/pCDF2−T7RNAPHis(野生型)形質転換体を植菌し、37℃にて一晩600回転/分で培養した。
(2)2mL容量の96ディープウェルプレート(ナルジェヌンク製)に1.0mLの2×YTG/Crb培地(1.6% バクトトリプトン、1% バクト酵母エキス、0.5% NaCl、0.5% グルコース、50μg/mL カルベニシリン(pH7.4))を添加し、(1)の一晩培養液10μL植菌後、37℃にて750回転/分で振とう培養を開始した。
(3)(2)での培養約4時間後、50mMのIPTG(イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド)溶液10μLを添加し、温度を30℃に下げて更に3時間振とう培養した。培養終了後、4℃にて3000回転/分で15分間遠心分離して菌体を回収し、得られた菌体を−30℃にて一晩凍結保存した。
(4)凍結保存した菌体に表1の組成からなる20mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)100μLを各ウェルに添加し、30℃にて700回転/分で30分間撹拌することで抽出を行なった。なお、比較対照として市販の抽出試薬(BugBuster(商品名)、ノバジェン製)を用いた抽出も同時に行なった。
【0045】
【表1】

(5)抽出液を4℃にて3000回転/分で15分間遠心分離して上清を回収し、その一部をSDS−PAGEで分析した(図6)。
【0046】
図6から1.0(v/v)% Triton X−100および0.1(w/v)% デオキシコール酸ナトリウムを加えた試薬(表1の試薬3)が、BugBuster(商品名)と同等の抽出効率であることがわかる。
【0047】
実施例6 抽出条件の検討(その2)
実施例5より非イオン界面活性剤であるTriton X−100、および陰イオン界面活性剤であるデオキシコール酸ナトリウムを含んだ試薬を添加することで、形質転換体内に発現したT7RNAポリメラーゼを効率的に抽出できることが判明した。そこで、次に、試薬中に含まれる各界面活性剤の濃度が抽出効率に影響を及ぼすか確認した。
【0048】
実施例5のうち、(4)で添加する試薬を表2に示す組成からなる20mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)100μLに変更したほかは、実施例5と同様な方法で行なった。
【0049】
【表2】

結果を図7に示す。図7の結果より、少なくとも、試薬中のTriton X−100が0.2(v/v)%以上であり、デオキシコール酸ナトリウムが0.02(w/v)%以上であれば、BugBuster(商品名)と同等の抽出効率が得られることが分かる。以降の実施例では、表2の試薬6に示す組成からなる20mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)をT7RNAポリメラーゼ抽出試薬として用いた。
【0050】
実施例7 高温型T7RNAポリメラーゼのスクリーニング
変異株のスクリーニングは効率的に変異体が評価できるよう96ウェルプレートを用いて行なった。
(1)1mL容量の96ディープウェルプレート(ナルジェヌンク製)に200μLのLBG/Crb培地(1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、1% NaCl、0.5% グルコース、50μg/mL カルベニシリン(pH7.4))を加え、実施例4で得たGFP陽性のコロニーを植菌し、37℃にて一晩600回転/分で培養した。
(2)2mL容量の96ディープウェルプレート(ナルジェヌンク製)に1.0mLの2×YTG/Crb培地(1.6% バクトトリプトン、1% バクト酵母エキス、0.5% NaCl、0.5% グルコース、50μg/mL カルベニシリン(pH7.4))を加え、(1)の一晩培養液10μL植菌後、37℃にて750回転/分で振とう培養を開始した。
(3)(2)での培養約4時間後、50mMのIPTG(イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド)溶液10μLを添加し、温度を30℃に下げて更に3時間振とう培養した。培養終了後、4℃にて3000回転/分で15分間遠心分離して菌体を回収し、得られた菌体は−30℃にて一晩凍結保存した。
(4)凍結保存した菌体に溶菌液100μL(組成:20mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、0.2(v/v)% Triton X−100(商品名)、0.02(w/v)% デオキシコール酸ナトリウム、0.03(w/v)% リゾチーム(太陽化学製)、0.25unitのBenzonase(ノバジェン製))を加え、30℃にて500回転/分で1時間振とうし、4℃にて3000回転/分で30分間遠心分離し、上清を回収した。
(5)(4)で得られた上清の全量をニッケルキレート樹脂(ヒスバインド(商品名)、ノバジェン製)を充填した96ウェルフィルタープレートにアプライし、緩衝液A(20mMのイミダゾールおよび500mMの塩化ナトリウムを含む20mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0))200μLで4回洗浄後、50μLの緩衝液B(150mMのイミダゾールおよび500mMの塩化ナトリウムを含む20mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0))で溶出させた。
(6)溶出画分を、脱塩カラム(PD−10(商品名)、GEヘルスケアバイオサイエンス製)により、5mM ジチオスレイトールおよび0.1mM EDTAを含む20mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に置換し、等量のグリセロールを加えた。精製したT7RNAポリメラーゼは牛血清アルブミンをコントロールタンパク質としたプロテインアッセイキット(バイオラッド製)によりタンパク質濃度を求めた。また7.5%濃度のSDS−PAGEにより酵素の純度を分析した。
(7)活性測定は、インヴィトロ転写反応にて生成したRNA量を測定する方法で行なった。なお、鋳型DNAはT7RNAポリメラーゼが特異的に認識するT7プロモーター配列を有するDNAを用いるが、ここではT7プロモーター配列を含むプラスミドを鋳型にPCRで増幅した約1.5kbpDNA断片を用いた。また、T7プロモーター配列の下流のDNAの長さは1.0kbpであり、転写されるRNAは約1.0kbになる。
(7−1)T7RNAポリメラーゼを除いた反応液(40mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、20mM MgCl、5mM ジチオスレイトール、20ng 鋳型DNA、0.4U RNase阻害剤、各0.4mM NTPs(ATP,CTP,GTP,UTP))を0.2mLのPCRチューブにいれ、精製したT7RNAポリメラーゼ0.5μLを0℃に冷却した状態で加え、合計10μLとした。
(7−2)予め46℃に保温しておいたヒートブロック(マスターサイクラーepグラジエント(商品名)、エッペンドルフ製)に先ほど調製したPCRチューブをセットし、60分間転写反応を行なった。反応停止は80℃で2分間加熱することで行なった。
(7−3)生成したRNA量は1%アガロースゲルにて電気泳動した後、エチジウムブロマイドにて染色する方法、および市販のRNA定量キットのQuant−IT RNAアッセイキット(商品名)(インビトロジェン製)を用いて蛍光染色し、添付の標準RNAで作製した検量線より濃度換算する方法にて分析した。
【0051】
スクリーニング結果の一部(スクリーニングしたウェルプレートのうちの一枚)を表3から5に示す。表3はインヴィトロ転写活性測定の結果(単位はmg/mL)であり、表4はタンパク質濃度測定の結果(単位はmg/mL)であり、表5はインヴィトロ転写生成量をタンパク質量で除した比活性の結果である(0.1mg/mL以上のタンパク質濃度の検体のみ算出している)。なお、H行9列およびH行10列は野生型T7RNAポリメラーゼの結果を、H行11列およびH行12列はブランクの結果を、それぞれ示す。本スクリーニングより、約4000の変異株から野生型の比活性よりも約2倍高い菌株60種類を選択した。
【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
【表5】

実施例8 シークエンス方法
T7RNAポリメラーゼ遺伝子を含むプラスミドの形質転換株を、37℃のLBG/Crb液体培地(1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、1% NaCl、0.5% グルコース、50μg/mL カルベニシリン(pH7.4))で一晩培養後、定法によりプラスミドを抽出した。抽出したプラスミドに含まれるT7RNAポリメラーゼ遺伝子の塩基配列決定は以下の方法で行なった。
(1)Big Dye Terminator v3.1 cycle Sequencing Kit(商品名)(Applied Biosystems製)を用いて、添付のバッファー2.0μL、プレミックス4.0μL、合成DNAプライマー3.2pmol、鋳型プラスミド500ngを滅菌水にて20μLに調製し、サーマルサイクラー(Perkin−Elmer製)を用い、96℃で1分加熱後、96℃・10秒、50℃・5秒、60℃・4分の温度サイクルを25回繰り返した。
(2)(1)で調製した塩基配列決定用サンプルをCentri―Sepスピンカラム(商品名)(Applied Biosystems製)を用いて、以下に示す方法で精製した。
(2−1)Centri―Sepスピンカラムに滅菌水を800μL加え、ボルテックスにより乾燥したゲルを十分に水和させた。
(2−2)カラムに気泡がないことを確認後、室温にて2時間以上放置した。
(2−3)上のキャップ、下のストッパーを順に外しカラム内の滅菌水をゲル表面まで自然落下させた後、730×gで2分間遠心分離を行なった。
(2−4)(2−1)から(2−3)により作製したスピンカラムの中央に塩基配列決定用サンプルをアプライし、730×gで2分間遠心分離によりサンプルをチューブに回収した。
(2−5)回収したサンプルについて減圧乾燥を行なった後、ホルムアミドに溶解した。
(3)(2)で調製した塩基配列決定用サンプルを95℃で2分間処理し、氷上で急冷後、ABI PRISM 310−DNA Analyzer(商品名)(Applied Biosystems製)で解析することで、塩基配列を決定した。塩基配列決定に使用した合成DNAプライマーは、プライマーpTrcFs(配列番号15)、プライマーpTrcRs(配列番号16)、プライマーT7F0(配列番号17)、プライマーT7F1(配列番号18、配列番号5の258から287番目の塩基に相当)、プライマーT7F2(配列番号19、配列番号5の711から740番目の塩基に相当)、プライマーT7F3(配列番号20、配列番号5の1163から1192番目の塩基に相当)、プライマーT7F4(配列番号21、配列番号5の1615から1644番目の塩基に相当)、プライマーT7F5(配列番号22、配列番号5の2066から2095番目の塩基に相当)、プライマーT7F6(配列番号23、配列番号5の2520から2549番目の塩基に相当)、プライマーT7R0(配列番号24)、プライマーT7R1(配列番号25、配列番号5の2390から2419番目の塩基の相補鎖に相当)、プライマーT7R2(配列番号26、配列番号5の1932から1961番目の塩基の相補鎖に相当)、プライマーT7R3(配列番号27、配列番号5の1476から1504番目の塩基の相補鎖に相当)、プライマーT7R4(配列番号28、配列番号5の1025から1054番目の塩基の相補鎖に相当)、プライマーT7R5(配列番号29、配列番号5の561から590番目の塩基の相補鎖に相当)、プライマーT7R6(配列番号30、配列番号5の111から140番目の塩基の相補鎖に相当)を必要に応じて選択し使用した。
(4)決定した塩基配列はGENETYX ver.8.0(商品名)(ゼネティクス製)を使用して解析を行なった。
【0055】
実施例9 スクリーニング株の活性評価
実施例7でスクリーニングしたT7RNAポリメラーゼの性能を詳細に評価した。T7RNAポリメラーゼの調製は以下に示す手順で行なった。
(1)LBG/Crb液体培地(1% ポリペプトン、0.5% 酵母エキス、1% NaCl、0.5% グルコース、50μg/mL カルベニシリン(pH7.4))3mLに実施例7で得た形質転換体のグリセロールストックを植菌し、18mL試験管にて37℃で一晩振とう培養した。
(2)2×YTG/Crb培地(1.6% バクトトリプトン、1% バクト酵母エキス、0.5% NaCl、0.5% グルコース、50μg/mL カルベニシリン(pH7.4))100mLに(1)の前培養液1.0mLを植菌し、500mL容量のひだ付き三角フラスコにて、37℃、150回転/分(タイテック製、ロータリー式)で培養した。(3)(2)の培養約3から4時間後(O.D.600nmの値としておよそ1.0程度)に500mMのIPTG(イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド)100μLを添加し、温度を30℃に下げて更に3時間振とう培養した。
(4)培養終了後、4℃にて4000回転/分で15分間遠心分離し、菌体を回収した。直ちに菌体破砕を行わない場合は−30℃に保存した。
(5)回収した菌体は20mLの20mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)により1回洗浄し、同じ組成の緩衝液20mLに再懸濁し、菌体破砕した。菌体破砕は超音波発生装置(インソネーター201M(商品名)、久保田商事製)を用いて、5℃にて約150Wの出力で約5分間処理した。
(6)得られた菌体破砕液を4℃にて12000回転/分で10分間遠心分離し、回収した上清を酵素抽出液として、塩化ナトリウムおよびイミダゾールをそれぞれ500mM,20mMになるように添加し、ニッケルキレート樹脂によるアフィニティ精製に供した。
(7)T7RNAポリメラーゼに付加させたヒスチジンヘキサマータグを利用したアフィニティ精製により、以下の方法で酵素精製を行なった。
(7−1)2mLのニッケルキレート樹脂(ヒスバインド(商品名)、ノバジェン製)のスラリーを付属の空カラムに充填し、3mLの滅菌水で洗浄した。
(7−2)洗浄したニッケルキレート樹脂に5mLの50mMの硫酸ニッケル水溶液でキレート樹脂にニッケルを結合させ、更に3mLの緩衝液A(20mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、500mM 塩化ナトリウム、20mM イミダゾール)で洗浄した。そこに上記の酵素抽出液を加え、6mLの緩衝液Aで洗浄後、1mLの緩衝液B(20mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、500mM 塩化ナトリウム、150mM イミダゾール)で溶出し、活性画分を回収した。
(7−3)回収した画分を脱塩カラム(PD−10(商品名)、GEヘルスケアバイオサイエンス製)により、5mM ジチオスレイトールおよび0.1mM EDTAを含む20mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に置換し、等量のグリセロールを加えた。精製したT7RNAポリメラーゼは牛血清アルブミンをコントロールタンパク質としたプロテインアッセイキット(バイオラッド製)により濃度を求めた。また7.5%濃度のSDS−PAGEにより酵素の純度を分析し、ほぼ単一であることを確認した。
(8)T7RNAポリメラーゼの活性を実施例7に示した手順に従い、T7RNAポリメラーゼの酵素量を20μg/mL、反応温度を43から50℃の範囲で10分間反応させて測定した。
(9)生成したRNA量をQuant−IT RNAアッセイキット(商品名)(インビトロジェン製)を用いて求めた。
【0056】
測定したRNA濃度を図8に示した。スクリーニングにより得られた株は43℃から50℃の範囲で野生型よりも比活性が高いことがわかり、本発明のスクリーニング方法により、目的とするポリメラーゼを効率的に得られることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非イオン性界面活性剤および陰イオン界面活性剤を少なくとも含んだ、グラム陰性細菌から菌体内タンパク質を抽出する試薬。
【請求項2】
非イオン性界面活性剤がTriton X−100(商品名)であり、陰イオン活性剤がデオキシコール酸ナトリウムである、請求項1に記載の試薬。
【請求項3】
タンパク質がポリメラーゼである、請求項1または2に記載の試薬。
【請求項4】
請求項1から3に記載の試薬を用いた、グラム陰性細菌からの菌体内タンパク質抽出方法。
【請求項5】
(1)ポリメラーゼ遺伝子のライブラリーを構築する工程、
(2)前記ライブラリーを宿主へ形質転換し、培養後、複数の形質転換体を選択する工程、
(3)前記選択した複数の形質転換体を培養し、前記ポリメラーゼを発現させる工程、
(4)(3)で培養した培養液から発現したポリメラーゼを抽出する工程、
(5)前記抽出したポリメラーゼを精製する工程、
(6)前記精製したポリメラーゼを用いて核酸合成を行ない、ポリメラーゼ活性を測定する工程、
からなる、ポリメラーゼのスクリーニング方法であって、
前記(4)の工程で、請求項3に記載の試薬を使用する、前記スクリーニング方法。
【請求項6】
前記(2)の工程で、形質転換体が前記ポリメラーゼを発現しているかどうかを判別可能なスクリーニングベクターをさらに宿主へ形質転換する、請求項5に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
前記スクリーニングベクターが、前記ポリメラーゼが認識するプロモーターおよび蛍光タンパク質遺伝子を機能的に連結したポリヌクレオチドを挿入したベクターである、請求項6に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
前記(3)から(6)の工程を複数の形質転換体に対して同時に実施する、請求項5から7に記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
請求項5から8に記載の方法で得られたポリメラーゼ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−51943(P2011−51943A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203380(P2009−203380)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】