説明

タンパク質製剤

タンパク質または他の生物学的分子を含み、また、(i)任意に、0.01〜20mMの濃度の1種類以上の金属イオンを含み;(ii)弱い配位子である賦形剤含み;(iii)中強度の配位子または強力配位子である賦形剤を実質的に含まない水性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、タンパク質および他の生物学的分子および超分子系の安定度、特に、カルシウムイオンなどの金属イオンに結合し得るかかる分子のその3次元構造における安定度、特に、水性系、例えば、水溶液、水性ゲル形態あるいは例えば、凍結状態または乾燥もしくは凍結乾燥などによる水分の一部除去後の遊離水または結合水が存在する固相などの非液相における、かかるタンパク質の安定度に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
多くの生物学的分子および超分子系、例えば、タンパク質、ウイルス様粒子または弱毒化ウイルスは特に、水溶液中では、不安定であり、構造的分解を受けやすく、その結果、保存時に活性が失われる。タンパク質分解に関与するプロセスは、物理的(すなわち、四次、三次または二次構造の喪失、凝集、表面吸着などの非共有結合性相互作用に影響を及ぼすプロセス)と、化学的(すなわち、脱アミド化、酸化、ジスルフィドスクランブリングなどの共有結合性変化を伴うプロセス)に分けることができる。分解プロセスの速度は、典型的には温度に比例する。したがって、生物学的分子および超分子系は、一般的に、低温の方がより安定である。
【0003】
金属結合タンパク質は、その構造内に1種類以上の金属イオンを含むタンパク質の種類の1つである。金属イオンは、より複雑な化学的成分(例えば、ヘム)の一部であり得、タンパク質構造内に結合されている。あるいは、金属イオンは、タンパク質の構造内の1つ以上のアミノ酸側鎖に、種々の非共有結合性相互作用(配位相互作用、水素結合、電荷-電荷相互作用など)によって直接結合されていてもよい。いくつかの場合において、金属は、タンパク質の生物学的活性に必須であり得るが、他の場合では、これは、構造的役割を果たしているに過ぎない。いくつかの場合において、例えば、第VIII因子分子では、金属は、2つのタンパク質サブユニット間の結合を形成するが、他の場合では、例えば、組換え炭疽菌保護抗原では、金属は、1つのサブユニット内に拘束される。タンパク質構造からの金属の減少により、タンパク質の機能および/または構造が影響を受け易くなる。タンパク質分子内の金属の位置に応じて、金属の減少により、重要なドメインの物理的分離、または1つのドメイン内の立体構造の変化がもたらされ得る。したがって、タンパク質の天然構造を維持するためには、タンパク質を製剤中で、金属とタンパク質のアミノ酸構造間の結合相互作用が最適に維持されるように維持することが非常に重要である。
【発明の概要】
【0004】
発明の概要
本発明は、タンパク質および他の生物学的分子および超分子系の製剤のいくつかの望ましい局面の発見、特に、カルシウムイオンなどの金属イオンに結合し得るかかる分子タンパク質のその3次元構造における安定度の発見に基づく。これらの局面の一部または全部の実行により、保存中、該分子の相当な安定化がもたらされる。
【0005】
いくつかの局面において、本発明は、金属結合蛋白の最適な製剤に取り組むものである。しかしながら、本発明は、金属結合蛋白に限定されず、任意の生物学的分子または超分子系で使用され得る。
【発明を実施するための形態】
【0006】
発明の説明
金属結合蛋白には、いくつかのサブクラスがある。主要なサブクラスは、その3次構造内にカルシウムイオン(Ca2+)を含むタンパク質である。これらのタンパク質は、しばしば、重要な生物学的機能を有する。商業的に重要なカルシウム含有タンパク質の例としては、血液凝固カスケードに関与しているいくつかの血液因子(例えば、第VIII因子、第VIIa因子)、種々のグルコシダーゼ、組換え炭疽菌保護抗原(rPA)、いくつかのペルオキシダーゼなどが挙げられる。金属結合蛋白の別のサブクラスは、カタラーゼまたはペルオキシダーゼなどのヘム含有タンパク質である。これらの場合において、金属(鉄)は、より複雑な構造(ヘム)内に結合されており、それにより、タンパク質の3次構造内に結合されている。亜鉛、銅またはマグネシウムなどの種々の他の金属は、タンパク質構造の必須部分であり得る。
【0007】
タンパク質の3次構造内の金属イオンとアミノ酸残基間の相互作用の厳密な詳細は、Protein Data Bank(http://pdbbeta.rcsb.org/pdb/home/home.do)などのパブリックドメインにおいて入手可能な種々の情報源から非常に容易に得られ得る。そのため、例えば、以下:rPAの各分子は2つのカルシウムイオンを含むという情報が組換え炭疽菌保護抗原(Petosa et al.:炭疽菌保護抗原;コード1ACC)に関連するタンパク質データバンクウェブ情報源から得られ得る。カルシウムイオンは、rPA分子の4つのドメインのうちの1つのいくつかのアミノ酸側鎖に結合される。結合相互作用は非共有結合性であり、架橋性水素結合、電荷-電荷相互作用および配位相互作用が挙げられる。カルシウムイオンとrPAドメイン内の以下のアミノ酸側鎖:Asp177、Asp179、Asn180、Asp181、Asp185、Glu188、Ser 222、Glu224、Lys225およびAsp235との相互作用が確認されている。側鎖にカルボキシル基を有するアミノ酸、すなわち、アスパラギン酸(Asp)またはグルタミン酸(Glu)は、その電荷およびいくつかの利用可能な自由電子対のため、タンパク質構造内のカルシウムイオンとの結合相互作用の形成に特に有効なようである。
【0008】
生物学的分子または超分子系(例えば、治療用タンパク質もしくはワクチン)の典型的な製剤は、バッファー(例えば、リン酸またはクエン酸)ならびに典型的には、以下の成分:等張性変更剤(典型的には無機塩またはアミノ酸)、界面活性剤(例えば、ポリソルベート80)および糖類または多価アルコール(例えば、スクロース)の1種類以上を含む。カルシウム含有タンパク質のいくつかの市販の製剤は、典型的には塩化カルシウムの形態のカルシウムカチオンを含む。そのため、例えば、市販の組換え第VIII因子製剤の1つであるKongenateは、2〜3mMの塩化カルシウムを、ヒスチジン(18〜23mM)、グリシルグリシン(21〜25g/L)、スクロース(0.9〜1.3%)およびポリソルベート80(35μg/mL)とともに含む。この実施例は、構造内に同じカチオンを含むタンパク質の製剤中の金属カチオンの存在の重要性が一般的に認識されることを示す。
【0009】
タンパク質製剤中の賦形剤とみなされ得る化合物はほぼいずれも、金属に結合して錯体イオンの形成をもたらす能力をある程度有する。かかる錯体イオンは、中心の金属イオンとその周囲の1つ以上の他の分子からなる。中心金属イオンの周囲の分子は、配位子と称される。金属イオンと配位子間での錯体イオンの形成は、ルイスの酸塩基理論によって最良に説明され得る。すべての配位子は、少なくとも1つの孤立電子対を含み、したがってルイス塩基である。すべての金属カチオンは、外側の電子層に空の電子軌道を含み、したがってルイス酸である。これらの軌道のエネルギーは、他の分子(配位子)から1つ以上の孤立電子対を受容することにより低下され得、これによりエネルギー的に より安定な系がもたらされる。この系は、金属カチオンの利用可能な空の軌道がすべて、配位子(1つまたは複数)の孤立電子対由来の電子で満たされている場合、最も低いエネルギーを有する(したがって、最も安定である)。金属イオンと配位子間の結合は配位結合と称される。いくつかの配位子は、中心金属イオンとの結合を形成し得る孤立電子対を1つだけ有する。かかる配位子は単座といわれる。多くの場合、中心金属イオンは、いくつかの単座配位子に囲まれている。しかしながら、いくつかの配位子は、分子内に、中心金属イオンと2つ以上の配位結合を形成することができ、多座(二座、三座など)と称されるような孤立電子対の分布を有する。そのため、1,2-ジアミノエタンは二座配位子の一例であり、ヘムは四座配位子の一例であり、EDTAは六座配位子の一例である。多座配位子を伴う錯体イオンはキレートと称される。キレートは、単座配位子を伴う錯体よりも安定であり、安定度(すなわち、配位子の全体的な金属結合強度)は、1つの配位子分子がキレート形成において関与し得る孤立電子対の数の増大とともに増大する。この理由のため、6つの単座配位子に囲まれている金属は、1つの六座配位子によってキレート化される場合よりも、有意に小さい強度で結合される。
【0010】
金属と配位子間の結合は、動的化学平衡の原則に従い、したがって、平衡定数(場合によっては「安定度定数」と称される)によって、以下のように示すことができる(M = 金属、L = 配位子):

【0011】
1つより多くの配位子分子が中心金属イオンに結合し得る場合では、平衡は、一連の平衡定数:


によって示される。
【0012】
あるいは、多座配位子の結合能力を定量するためには、全体の安定度定数を以下のようにして使用することができる。


式中、[M-Lx]は、種々の形態の金属-配位子錯体の全体の濃度であり、[M]は、遊離金属の濃度であり、[L]は、遊離配位子の濃度である。安定度定数の値は、しばしば、非常に大きいため、典型的には常用(10-base)対数(log K)で示される。
【0013】
金属-配位子錯体の全体の安定度定数は、US National Institute of Standards and Technologyによって発行されている包括的なデータベース(NIST Standard Reference Database 46、R. M. Smith and A. E. Martell:Critically Selected Stability Constants of Metal Complexes Database)から得られ得る。このデータベースには、種々の酸化状態の6,173種の配位子および216種の金属イオンを含む49,000を超える安定度定数が示されている。当業者は、安定度定数から、遊離金属の濃度および錯体中に結合された金属の濃度を計算することができよう。ただし、系内の金属の全体の(すなわち、結合+非結合)濃度および系内の配位子全体の(すなわち、結合+非結合)濃度は既知であるものとする。
【0014】
log Kの値は、約0〜>15の範囲である。特定の金属では、log Kの値は単座配位子の場合で最も小さく、配位子が配位結合に関与し得る孤立電子対の数(二座、三座など)とともに増加する。しかしながら、log Kの値は、金属および外側の電子層内の空の電子軌道の数にも非常に依存性である。そのため、例えば、銅とヒスチジンの錯体のlog Kは10.16であるが、カルシウムとヒスチジンの錯体は、わずか1.21のlog Kの値を有する。同様に、銅とEDTAの錯体のlog Kは18.78であるが、カルシウムとEDTAの錯体のlog Kは10.81である。
【0015】
大きいlog Kを有する配位子は、その濃度が金属の濃度以上のであれば、系内の大部分の金属イオンに結合する。大きいlog Kを有する配位子の濃度が金属の濃度より低い場合、これらは、主に金属-配位子錯体の形態で存在し、遊離配位子の濃度は最小限となる。しかしながら、重要なことに、1〜2などの比較的小さいlog Kを有する配位子であっても、なお、金属イオンの結合において非常に効率的である。そのため、例えば、金属イオンの濃度より2倍高い濃度でlog K = 2を有する配位子は、金属の>99%に結合する。
【0016】
ほとんどの水性系では、金属との結合について競合するいくつかの配位子が存在する。平衡では、一部の金属イオンは遊離(すなわち、非結合)であるが、一部は、種々の配位子に結合されている。すべての種の平衡濃度は、金属の総濃度、各配位子の総濃度および関与しているすべての錯体の安定度定数が既知である場合に測定され得る。当業者は、安定度定数および系内の金属の全体の濃度および系内の全配位子の全体の濃度から系内の遊離金属の濃度および全金属錯体の濃度を計算することができよう。おおざっぱに言うと、2つの配位子のlog Kの差が>1であれば、金属イオンは主に大きいlog Kを有する配位子と錯体形成する。小さいlog Kを有する配位子への結合は、金属の濃度がより強力な配位子の濃度より高い場合にのみ、有意となる。
【0017】
金属-配位子錯体、遊離金属イオンおよび遊離配位子間の平衡は動的プロセスである。そのため、系内のすべての種の濃度は、平衡状態で一定に維持されたまま、金属イオンが配位子間で連続的に交換される。同様に、遊離金属イオンと配位子と結合しているものとの連続的な交換が存在する。類似した安定度定数を有する配位子間の金属イオンの交換は、非常に異なる安定度定数を有する配位子間よりも容易に起こる。同様に、遊離金属との金属交換は、大きい安定度定数を有する配位子と結合しているものと比べて、小さい安定度定数を有する配位子と結合しているものとの間で、より容易に起こる。
【0018】
タンパク質またはウイルスなどの任意の生物学的分子の構造内には、金属イオンと配位結合を形成し得る数多くの部位が存在する。そのため、生物学的分子は、製剤中に存在する金属イオンと種々の錯体を形成する。かかる錯体は、2つの分子間に橋架けを形成することにより、生物学的分子の凝集を容易にし得るため有害であり得る。銅もしくは亜鉛などの、アミノ酸の側鎖または生物学的分子の他の表面成分と非常に強い配位結合を形成し得る金属イオンは、凝集の促進に特に効率的であるが、カルシウムイオンなどのアミノ酸側鎖と弱い錯体を形成する金属は、タンパク質凝集にあまり寄与しない。そのため、例えば、0.2mMのCu2+またはZn2+の存在は、室温でヒト成長ホルモンの急速な凝集をもたらすが、Ca2+の存在は、2mMの濃度であっても効果は無視できることがわかった。
【0019】
また、銅または鉄などのいくつかの金属は水性製剤中で、特にUV光の存在下で酸化的プロセスを触媒し得、したがって、生物学的分子の分解にさらに寄与する。したがって、しばしば、生物学的分子の製剤から金属を除去することが望ましい。
【0020】
しかしながら、種々の生物学的分子、特に、その機能および/または構造が特定の金属イオンに依存性であるものは、製剤中のかかる金属イオンの存在の恩恵を受け得る。かかる場合において、金属助長凝集を最小限に抑制しつつ必須金属イオンが存在するように製剤において金属イオンの最適なバランスもたらすことは重要である。本発明は、かかる製剤に取り組むものである。
【0021】
生物学的分子、特に、治療適用に使用される生物学的分子の従来の製剤に使用されているほぼすべての化合物は、金属に結合して錯体イオンの形成をもたらす能力をある程度有する。かかるプロセスは、生物学的分子と金属間の配位結合を妨げることにより、構造がある程度金属イオンの適切な結合に依存性である生物学的分子の安定度を非常に損ない易い。
【0022】
金属-配位子結合の動的原理は、上記に説明したように、タンパク質または別の生物学的分子の構造内に結合された金属にも適用される。製剤中に存在する生物学的分子、金属イオンおよび賦形剤間の相互作用を支配する動的平衡は、生物学的分子の典型例としてタンパク質を用いて以下に説明する。しかしながら、同じ原理が核酸、ウイルス様粒子または完全ウイルスなどの任意の他の生物学的分子または超分子系にあてはまる。
【0023】
タンパク質の結合部位と製剤中に存在する他の配位子との間には、該配位子がタンパク質構造内の金属の結合部位に接近し得るのであれば、金属に対して連続的な競合が存在する。特に、金属がタンパク質構造内部深くに存在する場合、いくつかの配位子では、その電荷および/または大きさのため、タンパク質構造内の金属イオンの接近可能性が制限され得る。
【0024】
タンパク質構造内の金属の結合が機能および/または構造に有益な場合、タンパク質構造からの金属イオンの減少、続く変性の速度を低下させるため、製剤中に存在する配位子による金属結合に対する競合を最小限にすることが重要である。ある程度まで、これは、タンパク質製剤に金属イオン源を添加することによって達成され得る。添加された金属イオンは、次いで、配位子を占有し、これにより、タンパク質内に結合された金属を妨害しにくくなる。しかしながら、タンパク質の周囲の配位子が重要な金属イオンに結合する力を低下させることは、等しく重要である。これは、(a)タンパク質製剤において、非常に小さい安定度定数(すなわち、log K)を有する化合物(例えば、バッファーまたは等張性変更剤)を選択すること、および(b)その濃度を最小限に維持することにより達成され得る。非常に強い錯化剤、すなわち、極めて大きい安定度定数を有する化合物(EDTAなど)をかかるタンパク質の製剤において回避することが必要であることは一般的に認識され得るが、かなり小さい安定度定数を有する配位子の効果は軽視され得る。しかしながら、金属結合の動的原理のため、比較的小さい安定度定数を有する化合物であっても、金属結合に対して競合するという可能性がある程度存在する。小さい安定度定数を有する化合物は、金属結合に対する競合において強い錯化剤ほど効率的でないが、依然として長期間にわたって(例えば、タンパク質の保存中)、競合に寄与する。
【0025】
タンパク質製剤における金属-配位子平衡の動的局面および結果としての比較的小さい安定度定数を有する賦形剤の金属結合に対する競合への寄与の重要性は、これまでは軽視されることがあり、本発明において取り組むことである。
【0026】
重要なことは、金属イオン結合に対する競合に関与し得るのは、遊離形態の配位子だけ、すなわち、特定の時点で金属イオンに結合されていない配位子の分子だけである。遊離形態の配位子の濃度は、系内の配位子の総濃度および金属イオンの総濃度に依存する。そのため、系内に金属イオンが存在しない場合、遊離形態の配位子の濃度は配位子の総濃度に等しい。系内に金属イオンが存在する場合、配位子の一部が金属に結合されているため、遊離形態の配位子の濃度は、常に配位子の総濃度より低い。
【0027】
本発明の状況において、系内の金属イオン(1つまたは複数)の濃度が非常に強い錯化剤(すなわち、非常に大きい安定度定数を有する配位子)の濃度より高い場合、遊離形態のこの配位子の濃度は無視できることを認識することは重要である。対照的に、配位子の安定度定数が比較的小さい場合、かかる系では、遊離形態の配位子の濃度は高くなる。これは、以下の例:
系1は、5mMのカルシウムイオンおよび4mMのEDTA(強い錯化剤、log K = 10.81)を含む;
系2は、5mMのカルシウムイオンおよび4mMのヒスチジン(穏やかな錯化剤、log K = 1.21)を含む;
系3は、5mMのカルシウムイオン、4mMのEDTAおよび4mMのヒスチジンを含む、
において示され得る。
【0028】
遊離形態の配位子の平衡濃度は、以下のとおり:
系1では、遊離EDTAの濃度は6.2×10-11mMである;
系2では、遊離ヒスチジンの濃度は0.197mMである;
系3では、遊離EDTAの濃度は6.2×10-11mMであり、遊離ヒスチジンの濃度は3.02mMである、
である。
【0029】
上記の例は、配位子がタンパク質構造内の金属の結合において競合する能力は、この配位子log Kの値だけでなく、系内の他の成分の存在にも依存することを示す。そのため、EDTAは非常に強い錯化剤であるが、系1または系3内のタンパク質構造内の金属結合に対して競合するその能力は、その遊離形態の濃度が非常に低いため無視できる。系2または系3内のタンパク質構造内の金属結合に対して競合するヒスチジンの能力は、その遊離形態のより意義のある濃度のため、高い場合があり得る。これは、ヒスチジンがかなり弱い錯化剤であるという事実にかかわらないものである。これらの原理は、本発明のいくつかの局面において重要である。
【0030】
従来のタンパク質製剤に使用されているいくつかの化合物は、種々の金属イオンを沈殿させ得る。例えば、多くのタンパク質の3次構造において結合される最も一般的な金属イオンの1つであるカルシウムイオンは、リン酸アニオンまたは炭酸アニオンによって沈殿され得る。かかるプロセスは、(a)タンパク質から必須金属イオンを枯渇させる、および(b)存在が治療目的などのいくつかのタンパク質製剤において許容され得ない不溶性粒子の形成をもたらすため、タンパク質に有害である。
【0031】
したがって、タンパク質構造内に結合された金属の沈殿をもたらし得るタンパク質の製剤において任意の種を回避することは必須である。例えば、3次構造内にカルシウムを結合するタンパク質の製剤化においてリン酸バッファーまたは炭酸バッファーの使用を回避することは必須である。沈殿によって必ずしもタンパク質機能の低下がもたらされるとは限らないが、非常に少ない程度の沈殿であっても、多くの適用用途、例えば、医薬適用用途では許容され得ない。
【0032】
また、金属結合蛋白でないタンパク質、すなわち、その天然のコンホメーションまたは機能を維持するために必ずしも金属の存在を必要としないタンパク質の製剤中において金属沈殿が引き起こされる可能性がある。これは、いくつかの金属イオンが下流または上流でのプロセッシングの結果としてタンパク質構造に結合し得るためである。結果として、プロセッシング後、金属イオンはタンパク質の表面上に結合され得、これにより、(a)より急速なタンパク質の凝集および(b)製剤中に存在する賦形剤(例えば、バッファー)による金属イオンの沈殿がもたらされ得る。本発明は、この問題に取り組むものである。
【0033】
溶存ガスの分子もまた金属結合に対する競合に寄与し得ることを認識することは重要である。溶存ガス-金属錯体の配位化学は、他の配位子ほど充分には研究されていないが、文献において、いくつかのかかる錯体が特徴付けされた種々の報告がある。二酸化炭素-金属錯体(Gibson D.H.:Coordination Chemistry Reviews 185-186(1999)335-355に概説)は、おそらく、溶存ガス配位子を含む最も充分に研究された錯体である。金属への直接結合の他に、また、二酸化炭素も、金属結合し得る種々の炭酸種を生成させることにより、間接的に金属結合に寄与し得る。これは、水溶液中で二酸化炭素が炭酸および種々の炭酸アニオンと平衡状態で存在するという事実のためである。

【0034】
炭酸アニオンは、金属と錯体を形成し得るだけでなく、いくつかの場合において、沈殿を引き起こし得る。
【0035】
酸素は、溶存ガス-金属錯体を形成する配位子として作用する溶存ガスの別の例である。例えば、ヘモグロビンによる酸素の輸送は、酸素がヘムの鉄に配位結合することにより助長される。酸素分子は4つの利用可能な孤立電子対を有し、そのいくつかは金属結合に関与し得る。いくつかの他のガスもまたルイス塩基であり、したがって、金属イオンとの配位結合形成に関与し得る。
【0036】
金属に対する競合に対する溶存ガスの寄与は、一般的にいくつかの理由で軽視され得る。第1に、これらの賦形剤の存在は、製剤に意図的に添加するのではなく、頭隙のガスとの平衡による自然なものである。したがって、溶存ガスは、典型的には、治療用タンパク質の水性製剤中の賦形剤に挙げられない。第2に、水溶液中の溶存ガスの濃度は、その無極性疎水性の性質のため非常に低い。第3に、酸素を除き、溶存ガスは化学的に非常に不活性であり、したがって、水性製剤中で起こる化学変化と関連しない。酸素は、酸化的プロセスと関連し得るが、系内の金属-配位子平衡に対するその寄与は、これまで認識されていない。
【0037】
ガスの可溶性は大きく異なり、また、イオン強度、温度などの溶液の他のパラメータに依存性である。一定温度では、所定の型の液体中に溶解する所定のガスの濃度は、該液体と平衡状態のガスの分圧に正比例する。所定の温度の液体中の溶存ガスの濃度は、該液体と平衡状態であるその分圧と、該液体および温度のヘンリー定数から計算され得る。


式中、[G]は、液体中の溶存ガスの濃度であり、pは分圧であり、kはヘンリー定数である。25℃の水中へのガスの可溶性のヘンリー定数の例は、

【0038】
したがって、二酸化炭素は、上記のガスの中で、ずば抜けて可溶性であるが、窒素は最も可溶性が低い。例えば、二酸化炭素よりも60倍(v/v)過剰の窒素を含む気相と平衡状態の水は、ほぼ等モル濃度の溶存窒素および二酸化炭素を含む。そのため、水中の溶存ガスの総濃度は、空気と平衡している場合よりも、窒素雰囲気と平衡している場合の方が小さく、したがって、二酸化炭素高含有雰囲気と平衡している場合よりも小さい。
【0039】
当業者には、液相中に溶解した特定のガスの濃度を低下させるためには、該液体を、該特定のガスの分圧がかなり低い頭隙下で充填しなければならないことが理解されよう。最も効率的な溶存ガスの総濃度の低減方法は、液体をほぼ真空の気相と平衡させることによるものである。
【0040】
酸素などの溶存ガス分子の疎水性性質により、比較的低い平衡濃度がもたらされる。しかしながら、疎水性は、電荷がないこと、およびサイズが非常に小さいことと共に、これらの賦形剤を、タンパク質分子の疎水性コア内で非常に移動性にする。結果として、この種の分子は、大型で電荷を有する賦形剤と比べて、タンパク質構造内の金属イオンに達することがかなり容易になる。その疎水性の性質により、溶存ガスの分子はタンパク質の疎水性コア内で濃縮されることが示されている。そのため、溶存ガスとの金属錯体の安定度定数が比較的小さい場合であっても、タンパク質分子内の配位結合との競合および破壊に対するその寄与は、タンパク質の疎水性コア内に容易に拡散する能力のため、かなり増大する。したがって、タンパク質構造の喪失を最小限にするために、水性金属結合蛋白製剤中の特定の溶存ガスの濃度を最小限にすることは重要である。本発明は、これに取り組むものである。
【0041】
また、タンパク質の疎水性コア内への溶存金属の拡散および高い可溶性によっても、天然3次元構造を維持するために不可欠なアミノ酸の疎水性側鎖間の種々の疎水性結合が破壊され得る。したがって、自身の構造内の金属イオンの適切な結合に依存しないタンパク質であっても、水性製剤からの溶存ガスの除去の恩恵を被り得る。
【0042】
用語「タンパク質」は、本明細書で使用されるように、単一のポリペプチドからなる分子または分子複合体、2つ以上のポリペプチドを含む分子または分子複合体、および1つ以上のポリペプチドを、補欠分子団、補因子などの1つ以上の非ポリペプチド部分と一緒に含む分子または分子複合体を包含する。本発明は、任意の分子量のポリペプチドに適用可能である。
【0043】
用語「ポリペプチド」は、グリコシル化ポリペプチド、リポタンパク質などの共有結合された非アミノ酸部分を含むポリペプチドを包含することを意図する。
【0044】
いくつかの局面において、本発明は、金属結合蛋白、すなわち、特定の3次元構造および目的の生物学的活性を有し、その活性および/または構造がタンパク質内の結合部位内での特定の金属イオンの保持に依存性であるタンパク質分子に関する。金属は、タンパク質のアミノ酸側鎖に直接結合されていてもよく、タンパク質構造内に結合されたより複雑な化学的成分の一部であってもよい。
【0045】
いくつかの局面において、本発明は、一般的にはメタロプロテアーゼであるとみなされないが、その構造への特定の金属イオンの結合が該タンパク質の3次構造および/または長期安定度に影響を及ぼし得るタンパク質に関する。タンパク質構造内、特に、商業的に重要なタンパク質に結合された金属イオンの存在に関する情報、例えば、相互作用に関与する金属-配位子結合の詳細は、タンパク質データバンク(http://pdbbeta.rcsb.org/pdb/home/home.do)などの種々の情報源から得ることができる。
【0046】
本発明はタンパク質に限定されず、広範な生物学的分子および超分子系、例えば、核酸、ウイルス様粒子およびウイルスに適用可能である。用語「超分子系」は、本明細書で使用されるように、個々の数の集合分子サブユニットまたは成分で構成された任意の系を包含する。
【0047】
用語「配位子」は、本明細書で使用されるように、金属イオンに結合して錯体イオンの形成をもたらし得る任意の化合物を包含する。本発明の目的のため、配位子を、「弱い配位子」、「中強度の配位子」および「強力配位子」に分ける。用語「弱い配位子」、「中強度の配位子」および「強力配位子」は、金属結合蛋白の構造に見られる最も一般的な金属イオンの1つであるカルシウムイオンとの錯体の安定度定数に基づいて、以下のとおり:弱い配位子は、カルシウムイオンとの錯体の安定度定数<0.5のlog Kを有する;中強度の配位子は、カルシウムイオンとの錯体の安定度定数0.5〜2のlog Kを有する;強力配位子は、カルシウムイオンとの錯体の安定度定数> 2のlog Kを有する、に規定する。本明細書に記載の安定度定数はすべて、25℃で測定されたものである。
【0048】
用語「置換(displaced)バッファー」は、本明細書で使用されるように、プロトンを交換することができ、意図する保存温度範囲における組成物のpHよりも少なくとも1単位大きいか、小さいpKa値(1つまたは複数)を有する特定のpHの組成物中に存在する任意の添加剤を包含する。置換バッファーを生物製剤に適用する技術は、PCT/BG2007/000082に記載されている。
【0049】
タンパク質製剤中の潜在的賦形剤の選択肢の安定度定数の例を表1に示す。この表には、限られた数の潜在的賦形剤のみを示し、本発明は、なんらこれらの化合物の使用に限定されない。広範な他の潜在的賦形剤の安定度定数は、NIST Standard Reference Database 46から得られ得る。
【0050】

【0051】
本発明は、本明細書において、「タンパク質」を生物学的分子または超分子系の代表例として用いて記載している。しかしながら、安定度に対して潜在的に同じ結果がもたらされる他の生物学的分子の作用も、タンパク質について本明細書に記載のものと同じ原理によって支配される。したがって、本発明はなんらタンパク質に限定されず、その作用および/または他の分子との相互作用が分子構造内の金属イオンの結合に依存するすべての分子、特に生物学的分子に適用可能である。
【0052】
タンパク質製剤において賦形剤(例えば、バッファ、張性改変剤等)とみなされ得るほぼ全ての化合物は、金属イオンに結合して、錯体イオンを形成するある程度の能力を有する。従って、それらは、タンパク質製剤中の金属イオン(1つまたは複数)の結合に関する競合に関与する可能性がある。かかるイオン(1つまたは複数)がタンパク質の機能的活性および/または三次元構造に関与する場合、タンパク質からの一時的または永久いずれかの金属の減少が起こるので、かかる賦形剤の存在はタンパク質の不安定性の一因となる。
【0053】
タンパク質製剤において、金属イオン(1つまたは複数)の結合に関する競合を完全に止めることは現実的に不可能であるが、保存中のタンパク質を安定化するためにかかる競合を最小限にすることが必須である。
【0054】
金属結合タンパク質の製剤における金属イオン(1つまたは複数)結合に関する競合は、該製剤に一定量の金属イオン(1つまたは複数)を添加することで低減することができる。あるタンパク質の製剤に金属イオンが存在する重要性は一般的に認められており、市販されている重要なタンパク質の製剤には金属イオン(1つまたは複数)、典型的にカルシウム含有タンパク質ではカルシウムイオンが含まれていることがある。
【0055】
しかしながら、タンパク質の周囲の配位子が重要な金属イオンに結合して、タンパク質構造中の金属の適切な結合を阻害する力を低減することも同等に重要である。金属-配位子平衡(equilibria)の動的性質のために、金属結合タンパク質(loprotein)の製剤中に存在する全ての化合物は、タンパク質中の金属イオン結合を阻害するある程度の能力を有する。この能力は、多くのパラメータ、例えば(1)安定度定数、(2)賦形剤の濃度、(3)系内の他の種の濃度、(4)温度等に依存する。高い安定度定数を有する賦形剤は、比較的低濃度であっても金属結合を阻害するが、低い安定度定数を有する賦形剤の能力は、高濃度の場合にだけ顕著になる。
【0056】
タンパク質の周囲の賦形剤(例えば、バッファまたは張性改変剤)の金属結合力は、(a)非常に低い安定度定数(log K)を有する賦形剤を選択すること、および(b)それらの濃度を最小限に維持することにより最小化することができる。
【0057】
製剤には、例えば張性の調整のために、比較的高濃度の特定の種を必要とするものがある。このような場合は、重要な金属との錯体の安定度定数ができるだけ低い賦形剤を用いることが必須である。
【0058】
金属結合タンパク質の製剤において、非常に強力な錯化剤、つまり極端に高い安定度定数を有する化合物(例えばEDTA)を避けることの必要性は、一般的に認識されているが、かなり低い安定度定数を有する配位子の影響は、軽視されることがある。しかし、金属結合の動的性質のために、比較的低い安定度定数を有する化合物であっても金属結合に関する競合する可能性がある。低い安定度定数を有する化合物は、金属結合に関する競合において強力な錯化剤ほど効率的ではないが、それでも長時間にわたり(例えばタンパク質の保存中)、競合の一因となる。
【0059】
従って、本発明の1局面において、水性組成物は、タンパク質または別の生物分子または超分子系を含み、さらに、
(i) 0.01〜20mM、好ましくは0.05〜10mM、最も好ましくは0.2mM〜5mMの濃度の1つ以上の金属イオンを含むこと;
(ii) バッファや張性改変剤などの他の賦形剤を含み、全ての賦形剤が弱い配位子であること;
(iii) 中強度の配位子または強力な配位子である賦形剤を実質的に含まないことを特徴とする。
【0060】
該組成物のpHは、必要な値、例えば保存中のタンパク質の最良の熱安定性を保証する値に調整され得る。
【0061】
タンパク質製剤中に、金属イオン、特にアミノ酸側鎖と非常に強力な配位結合を形成し得る金属イオン、例えば銅または亜鉛が存在することにより、タンパク質凝集がもたらされ得る。また、銅または鉄などの一部の金属は、水性製剤において、特にUV光の存在下で酸化的プロセスを触媒して、タンパク質分解のさらなる原因となることがある。非常に高純度の成分を使用したとしても、水性製剤中に微量のかかる金属イオンが存在し得る。そのため、タンパク質製剤からかかる金属を除去することが望ましくあり得る。これは、タンパク質製剤に強力な錯化剤、例えばEDTAを添加することにより達成することができる。しかしながら、種々のタンパク質、特に機能および/または構造が特定の金属イオンに依存するタンパク質は、製剤中に特定の金属イオンが存在することで恩恵を受けることがある。このような場合、必須金属イオンが存在しつつ金属促進凝集が最小限に低減されるように、製剤中で金属イオンの最適な均衡を生じることが重要である。
【0062】
かかる最適な均衡は、製剤に、(1)所望の金属イオン(1つまたは複数)および(2)EDTAなどの強力な錯化剤を同時に添加することで達成することができる。しかし、強力な錯化剤の濃度が金属イオンの濃度を超えないようにすることが重要である。好ましくは、強力な錯化剤の濃度は、金属イオンの濃度の半分未満である。重要な金属と、重要な金属の濃度よりも低い濃度の強力な錯化剤が同時に存在することは、以下の利点を有する:
1. 組成物が、タンパク質の三次元構造の維持の補助となり得る所望の金属の遊離イオンを含む。このことはタンパク質の安定化に寄与する。
2. 組成物が、タンパク質凝集の一因となり得る他の金属イオンを実質的に含まない。
【0063】
カルシウムは、商業的に重要なタンパク質の三次元構造を維持するために必要な、最も一般的な金属の1つである。カルシウムイオンとアミノ酸側鎖の錯体は、銅または鉄などの他の金属の錯体よりもかなり強力性が弱い。従って、カルシウムイオンは、強力な錯体を形成する金属イオンよりもタンパク質の凝集を生じにくい。強力な錯化剤と共にカルシウムイオンを製剤に添加すると、銅または鉄などの微量金属はほぼ完全に除去されるが、遊離カルシウムイオンは、金属結合タンパク質への最適な金属結合を保証するために利用可能である。
【0064】
製剤に添加される錯化剤は非常に強力なもの、好ましくはEDTAであることが必須である。高い安定度定数の錯化剤により、(1) 製剤から微量金属がほぼ完全に除去されること、および(2) 製剤中に有意な濃度の錯化剤が遊離して残らずに、タンパク質中の金属結合に関する競合の原因とはなり得ないことが保証される。
【0065】
金属イオンと強力な錯化剤がタンパク質製剤中に同時に存在することは、その構造中でカルシウムイオンと結合しているタンパク質には特に有益であるが、本発明は、強力な錯化剤とカルシウムイオンの同時使用に何ら限定されない。タンパク質製剤において、他の金属イオンを強力な錯化剤と組み合わせて、同様の有益な効果を達成することが可能である。
【0066】
タンパク質製剤において、金属イオンとEDTAなどの強力な錯化剤を同時に使用することで、タンパク質の安定性が向上され、直感に反する(counterintuitive)。
【0067】
かかる製剤において、本発明の第1の局面で詳述するように、タンパク質の周囲の他の配位子が重要な金属イオンに結合してタンパク質構造中の金属の適切な結合を阻害する能力を低減することは、なお重要である。従って、本発明の第2の局面において、水性組成物は、タンパク質を含み、さらに、
(i) 0.01〜20mM、好ましくは0.05〜10mM、最も好ましくは0.2mM〜5mMの濃度の1つ以上の金属イオンを含むこと;
(ii) バッファや張性改変剤などの他の賦形剤を含み、全ての賦形剤が弱い配位子であること;
(iii) 系が、添加した金属イオンの合計濃度以下の濃度の強力な錯化剤をさらに含み、強力な錯化剤が実質的に遊離形態で利用可能でないことが保障されることを特徴とする。
【0068】
好ましい強力な錯化剤はEDTAである。組成物のpHは、必要な値、例えば保存中のタンパク質の最良の熱安定性を保証する値に調整され得る。
【0069】
本発明の第1および第2の局面は、タンパク質構造中の金属の最適な結合を保証するために同時に適用されるいくつかの処置のうちの1つとして、タンパク質製剤への金属イオンの添加に基づく。このことは典型的に、保存中のタンパク質の安定性を保証する最良の方法であるが、いくつかの場合において、特にかかる金属イオンがタンパク質分子間で強力な配位結合を形成して、タンパク質凝集の原因となる場合には、製剤に金属イオンを添加しないことが好ましいことがある。これらの場合、本来タンパク質構造の一部である金属イオンの結合に関する競合を最小限に維持することを保証するために、適切な非金属賦形剤を選択することによって、適切な金属結合のみが保証されることが好ましい。このことは、(a)非常に低い安定度定数(logK)を有する賦形剤を選択すること、および(b)その濃度を最小限に維持することによって達成することができる。
【0070】
かかる製剤において、潜在的な金属促進凝集を低減するために、タンパク質の構造には関与しない微量な金属イオンを除去することが、なお必須であり得る。かかる微量金属は、他の賦形剤の不純物として、またはタンパク質の上流もしくは下流いずれかの処理の結果として製剤中に存在することがあり得、微量な金属イオンは排除されるが(すなわち、錯化剤に結合される)、タンパク質の構造中の重要な金属イオンの適切な結合が阻害されるほどの有意な濃度の錯化剤は利用可能ではないように、製剤中にEDTAなどの微量な強力な錯化剤を添加することで該微量金属を除去することができる。有意な割合の錯化剤を遊離形態で残さずに、微量金属イオンの効果的な除去を保証する強力な錯化剤を厳密に規定された濃度範囲を示すことは不可能であり、ある程度の反復実験が必要である。しかし、1mMを超える濃度は非常に好ましくない。
【0071】
製剤には、バッファとして、または張性改変剤として比較的高濃度の特定の種を必要とするものがある。このような場合、重要な金属との錯体の安定度定数ができるだけ低い賦形剤を使用することが必須である。
【0072】
従って、本発明の第3の局面において、水性組成物は、タンパク質を含み、さらに、
(i) バッファや張性改変剤などの他の賦形剤を含み、全ての賦形剤が弱い配位子であること;
(ii) 中強度の配位子または強力な配位子である賦形剤を実質的に含まないこと;
(iii) 任意に、非常に低い濃度、例えば1mM以下、好ましくは0.5mM以下、最も好ましくは0.1mM以下の強力な錯化剤をさらに含み、この濃度は、製剤から遊離形態の金属イオンは除去されるとともに、組成物が遊離形態の強力な配位子を実質的に含まないように維持されることが保証されるように、実験により決定されることを特徴とする。
【0073】
組成物のpHは、必要な値、例えば保存中のタンパク質の最良の熱安定性を保証する値に調整され得る。
【0074】
金属イオンと錯体を形成する溶存ガスの能力、ならびに小ささおよび疎水性のためにタンパク質構造中に容易に拡散される溶存ガスの能力を考えると、溶存ガスの分子も金属結合に関する競合の原因となることがある。従って、保存安定性を向上するために、タンパク質の水性製剤中の溶存ガスの濃度を低減することが望ましい。二酸化炭素の存在は、タンパク質中の金属結合に関する競合の最も大きな原因となるので、二酸化炭素の濃度を低減することが特に重要である。しかしながら、他の溶存ガスも、金属イオンと結合する能力をある程度有し、従って、溶解した全ての気体を完全に除去することが、タンパク質構造中の金属結合に関する競合を排除する最良の手段である。
【0075】
窒素および酸素は空気の主成分であり、窒素は約79%を占め、酸素は約21%を占める。二酸化炭素は、空気中にかなり低い濃度(約0.4%(v/v))で存在する。しかしながら、これら三種類の気体の異なる溶解度を考えると、空気と平衡な水性タンパク質製剤に溶解した形態のこれらの濃度は、ほとんど同じである。
【0076】
窒素ヘッドスペースと水性タンパク質組成物を平衡化することで、全溶存ガスがかなり低減される。また、これにより、金属結合タンパク質構造中の金属結合に関して最も競合しやすい二酸化炭素および酸素の効率のよい除去がもたらされる。アルゴンなどの不活性希ガスのヘッドスペース下での保存により、溶解する全気体のさらなる低減および窒素の除去がもたらされる。しかしながら、全溶存ガスのほぼ完全な除去を達成するためには、水性製剤を真空に近いヘッドスペース下で保存する必要がある。
【0077】
タンパク質の水性組成物から溶存ガスを一部または完全に除去することは、本発明の重要な部分である。しかし、タンパク質の最適な安定性を達成するために、この原理を、本発明の第1〜第3の局面に開示される原理と組み合わせることは非常に重要である。従って、本発明の第4の局面において、水性組成物は、タンパク質を含み、さらに
(i) 0.01〜20mM、好ましくは0.05〜10mM、最も好ましくは0.2mM〜5mMの濃度で1つ以上の金属イオンを含むこと;
(ii) バッファや張性改変剤などの他の賦形剤を含み、全ての賦形剤が弱い配位子であること;
(iii) 中強度の配位子または強力な配位子である賦形剤を実質的に含まないこと;
(iv) 溶存ガスの部分的または実質的な除去、特に二酸化炭素の除去を保証するヘッドスペースを有する、例えば窒素ヘッドスペースを有するかまたはアルゴンなどの不活性希ガスのヘッドスペースを有するかまたは真空もしくは真空に近いヘッドスペースを有する密封された容器中で保存されることを特徴とする。
【0078】
本発明の第5の局面において、水性組成物は、タンパク質を含み、さらに、
(i) 0.01〜20mM、好ましくは0.05〜10mM、最も好ましくは0.2mM〜5mMの濃度で1つ以上の金属イオンを含むこと;
(ii) バッファや張性改変剤などの他の賦形剤を含み、全ての賦形剤が弱い配位子であること;
(iii) 系が、添加された金属イオンの全濃度以下の濃度の強力な錯化剤をさらに含み、強力な錯化剤が実質的に遊離形態で利用可能ではないことが保証されること;
(iv) 溶存ガスの部分的または実質的な除去、特に二酸化炭素の除去を保証するヘッドスペースを有する、例えば窒素ヘッドスペースを有するかまたはアルゴンなどの希ガスのヘッドスペースを有するかまたは真空もしくは真空に近いヘッドスペースを有する、密封された容器中で保存されることを特徴とする。
【0079】
本発明の第6の局面において、水性組成物は、タンパク質を含み、さらに、
(i) バッファや張性改変剤などの賦形剤を含み、全ての賦形剤が弱い配位子であること;
(ii) 中強度の配位子または強力な配位子である賦形剤を実質的に含まないこと;
(iii) 非常に低い濃度、例えば1mM以下、好ましくは0.5mM以下、最も好ましくは0.1mM以下の濃度で強力な錯化剤をさらに含み、この濃度が、製剤から金属イオンは除去されるが、遊離形態の強力な配位子は実質的に含まない(free form)ように組成物を維持することを保証するように実験により決定されること;
(iv) 溶存ガスの部分的または実質的な除去、特に二酸化炭素の除去を保証するヘッドスペースを有する、例えば窒素ヘッドスペースを有するかまたはアルゴンなどの希ガスのヘッドスペースを有するかまたは真空もしくは真空に近いヘッドスペースを有する、密封された容器中で保存されることを特徴とする。
【0080】
本発明の好ましい組成物は、タンパク質または他の生物分子または超分子系、およびサリチル酸イオンもしくは安息香酸イオンもしくはTRISまたはその任意の組合せに基づくバッファを含む。該組成物は、任意に以下:(1) カルシウムイオンなどの金属イオンの供給源、(2) 添加された金属イオンの全濃度以下の濃度の、EDTAなどの強力な錯化剤、(3) イオン強度を調整するための、例えば塩化ナトリウムの形態の塩化物の供給源、(4) スクロースもしくはマンノースなどの糖、またはプロピレングリコールもしくはマンニトールなどの多価アルコール(polalcohol)、(5) ポリソルベート80またはポロキサマー188などの界面活性剤のいずれかを含み得る。
【実施例】
【0081】
以下の実施例により本発明を説明する:
【0082】
実施例1:炭疽菌組換え保護抗原(rPA)
Health Protection Agency (Porton Down, UK)から組換え炭疽菌保護抗原を入手した。以下の逆相クロマトグラフィー法を使用して、該タンパク質の安定性をアッセイした:移動相は(A) 水中0.1% TFAおよび(B) 95% プロパン-2-オール+5%水中0.1% TFAからなるものとした。25分かけて30% Bから55% Bまでの勾配溶出を使用した。液体クロマトグラフ(Agilent 1100シリーズ)に、214nm検出器、ガードカラム(Phenomenex KJO-4282)および4.6×250mmカラム(Phenomenex Jupiter C4 300Aカラム、250×4.6mm)を装着し、45℃で維持した。流速は、0.5ml分-1で維持した。典型的な負荷試料は、0.5mg mL-1 rPAを含む15μLの水性試料であった。回復率(recovery)は、保存試験前に測定したものに対する25℃で一定時間のインキュベーション後に測定した完全rPAに対応するピークの面積の割合で表した。pH8.5で37℃および25℃のインキュベーション後に完全rPA構造の回復率を測定した。このpHは、25〜37℃の温度での水性rPAの保存に最適であると予備実験で示されたものであった。
【0083】
炭疽菌rPAは、その三次構造内に結合されたカルシウムカチオンを含むことが知られている。金属イオンとの錯体の種々の安定度定数(logK)を有する賦形剤/バッファの水性rPAの安定性に対する効果を試験した。賦形剤およびそのカルシウムイオンとの安定度定数(logK)は以下の通りであった:TRIS(logK=0.25)、リジン(logK=1.4)、クエン酸塩(logK=3.5)、ホウ酸塩(logK=1.76)、リン酸塩(logK=1.9、さらにカルシウムイオンの緩やかな沈殿)。全てのrPA試料はpH約8.5で試験した。このpHは、水性rPAの保存に最適であると予備実験で示されたものであった。
【0084】
rPAの構造安定性を保証するために、カルシウムイオンの存在は必須であることが見出された。しかし、構造安定性は、該組成物中に存在する他の賦形剤/バッファの安定度定数(カルシウム結合について)にも依存した。そこで、最良の安定性は、他の賦形剤の非存在下(つまり塩化カルシウムのみを含むが、水酸化ナトリウムによりpHが約8.5に調整された製剤中)、または非常に低い安定度定数を有する賦形剤(TRIS)の存在下のいずれかで観察された。おそらくカルシウムのみの製剤と比較して良好なpH安定性のために、製剤は、TRISの存在下でより安定であるように思われた。TRIS/カルシウム組合せの有益な効果は、クエン酸の存在下、つまり高い安定度定数を有する賦形剤の存在下で完全に取り除かれた。TRISはまた、カルシウムの非存在下で安定性の向上を保証する唯一の賦形剤/バッファであった。これは、rPA分子中のカルシウム結合の阻害が最小限であったためであろう。リジン、つまりTRISよりも高い安定度定数を有する化合物の存在も、rPAの安定性の向上をもたらしたが、TRISの存在下または任意の賦形剤の非存在下ほど良好ではなかった。高い安定度定数を有する他の賦形剤/バッファ(クエン酸、ホウ酸)の存在は、rPAの安定性に有害であった。
【0085】

【0086】
実施例2:カタラーゼ(ウシ肝臓)
Sigmaからカタラーゼを入手して、水性組成物中100μg mL-1で製剤化した。新鮮および特定の温度でインキュベーション後のカタラーゼ溶液を、カタラーゼ活性についてアッセイした。これは以下の手順に従って行った:2mLの過酸化水素(水中30mM)を125mLのポリプロピレン製ポット中で18mLのPBSに添加した。100μLのカタラーゼ試料を添加して混合した。得られた混合物を室温で正確に30分間インキュベートした。その間に、分光光度測定のためのプラスチックキュベット内で以下の試薬:
・2.73mLのクエン酸/リン酸バッファ(0.1M、pH5.0)
・100μLのTMB(3mg/mL、DMSOに溶解)
・100μLのラクトペルオキシダーゼ
を混合した。
【0087】
30分のインキュベーション時間後、70μLのカタラーゼ含有混合物をキュベットに添加して混合し、約30秒後に、吸光度を読んだ。結果は、新鮮な試料(つまり高温でのインキュベーション前)中で測定した吸光度を参照して回復率の割合で表した。25℃、pH6.8で23日間および51日間のインキュベーション後、カタラーゼ活性の回復率を測定した。このpHは、水性カタラーゼの保存に最適であると予備実験で示されたものであった。
【0088】
カタラーゼは、その三次構造中にヘムおよびカルシウムカチオンを含むことが知られている。金属イオンとの錯体の種々の安定度定数(logK)を有する賦形剤の水性カタラーゼの安定性に対する効果を試験した。賦形剤およびそのカルシウムイオンとの安定度定数(logK)は、以下の通りであった:25mM TRIS(logK=0.25)、25mMプリン(logK=1.2)、25mMリジン(logK=1.4)、25mMクエン酸塩(logK=3.5)および25mMリン酸塩(logK=1.9、さらにカルシウムイオンの緩やかな沈殿)。試験した全てのカタラーゼ試料は、バックグラウンド溶液として5mM TRISおよび200mM塩化ナトリウムを含んだ。全ての試料は、空気または窒素または真空いずれかのヘッドスペースを有する密封されたガラスバイアル中に維持した。
【0089】
これらの配位子を含む試料中のカタラーゼ活性の回復率は、金属イオンとの結合についてこれらの配位子の安定度定数に依存した。そのため、回復率は、TRIS(25mM)の存在下のほうが、リジン(25mM)またはプリン(25mM)の存在下よりもかなり高かった。クエン酸塩およびリン酸塩、つまりカルシウムイオンと強力に結合するリガンドで、回復率は極端に低かった;表3参照。例えば、25℃、23日間のインキュベーション後のカタラーゼ活性回復率は、クエン酸塩またはリン酸塩の存在下で<15%であったが、プリンまたはリジンの存在下では>25%であり、TRISのみの存在下では>85%であった。25℃で51日間のインキュベーション後、TRISのみを含む試料(これは元の活性の50%より多くが残った)以外、全ての試料中で<4%の残存活性が見られた。重要なことに、回復率は、試料を窒素ヘッドスペース、特に真空ヘッドスペース下で維持した場合にさらに増加した(表3)。この効果はTRISのみ、つまり金属イオンの最小錯体化能力を有する賦形剤の場合に特に顕著であった。
【0090】

【0091】
実施例3:ホースラディッシュペルオキシダーゼ
Sigmaからホースラディッシュペルオキシダーゼを入手して、水性組成物中に100μg mL-1で製剤化した。新鮮なものおよび高温でインキュベーション後のホースラディッシュペルオキシダーゼ溶液の両方を、ホースラディッシュペルオキシダーゼ活性についてアッセイした。これは以下の手順に従って行った:10μLのホースラディッシュペルオキシダーゼ試料を以下の試薬:
・2.5mLのクエン酸/リン酸バッファ(0.05M、pH5.0)
・100μLの過酸化水素(2mM)
・100μLのTMB(3mg/mL、DMSOに溶解)
の混合物を含むキュベットに添加した。
【0092】
これらを一緒に迅速に混合した。時間=01を、ホースラディッシュペルオキシダーゼ試料の添加時点から計測起点とした。正確に3分後、630nmで吸光度を読んだ。結果は、高温でのインキュベーション前に試料中で測定した吸光度を参照して、回復率の割合で表した。ホースラディッシュペルオキシダーゼ活性の回復率は、25℃および40℃、pH7で6週間のインキュベーション後に測定した。このpHは、40℃での水性ホースラディッシュペルオキシドの保存に最適であると予備実験で示されたものであった。
【0093】
ホースラディッシュペルオキシダーゼは、その三次構造内に結合されたヘムおよびカルシウムカチオンを含むことが知られている。金属イオンとの錯体の種々の安定度定数(logK)を有する賦形剤の水性ホースラディッシュペルオキシドの安定性に対する効果を試験した。以下の組成物中で安定性を試験した:
・リン酸ナトリウム(5mM)
・リン酸ナトリウム(5mM)+塩化カルシウム(3mM)
・リン酸ナトリウム(25mM)
・リン酸ナトリウム(25mM)+塩化カルシウム(3mM)
・TRIS(50mM)
・TRIS(50mM)+塩化カルシウム(3mM)
・TRIS(5mM)
・TRIS(5mM)+塩化カルシウム(3mM)
・マレイン酸ナトリウム(5mM)
・マレイン酸ナトリウム(5mM)+塩化カルシウム(3mM)
・安息香酸カリウム(5mM)+TRIS(5mM)
・安息香酸カリウム(5mM)+TRIS(5mM)+塩化カルシウム(3mM)
【0094】
全ての試料は、バックグラウンド溶液として100mM塩化ナトリウムおよび0.005%(w/w)Tween80を含んだ。使用した賦形剤のカルシウムイオンとの錯体の安定度定数(logK)は以下の通りである:0.2(安息香酸アニオン)、0.25(TRIS)、1.9(リン酸塩)、2.06(マレイン酸塩)。カルシウムイオンとの錯体の形成の他に、リン酸塩は中性pHでその緩やかな沈殿を生じる。
【0095】
これらの配位子を含む試料中のホースラディッシュペルオキシダーゼ活性の回復率は、金属イオンとの結合についてこれらの配位子の安定度定数に依存した。そのため、回復率は、TRIS(5mM)およびTRIS(5mM)/安息香酸カリウム(5mM)混合物の存在下の方が、リン酸塩(5mMもしくは25mM)またはマレイン酸塩(5mM)の存在下、つまりカルシウムイオンと強力に結合するた配位子の存在下よりもかなり高かった;表4参照。製剤中にカルシウムイオンが共に存在することは、弱い配位子(TRISまたは安息香酸カリウム)のみを含む製剤では有意な効果を有さなかったが、より強力な配位子の存在下では回復率のわずかな向上をもたらした。このことは、金属イオンのさらなる供給源の存在下での金属イオンに関する競合における強力な配位子の効果の低下によって説明できる。
【0096】

【0097】
実施例4:第VIII凝固因子
CA-50凝固測定器(coagulometer)(Sysmex)を使用してAPTT試験で凝固時間を測定して第VIII因子の活性をアッセイした。第VIII因子の凝固活性の回復率は、25℃または37℃のインキュベーション後に測定した。第VIII因子の全ての組成物は、6〜6.5のpH安定性に最適なpH範囲で試験した。全ての組成物は、500mM塩化ナトリウム、5mM塩化カルシウムおよび0.005%(w/w)Tween 80を含んだ。
【0098】
第VIII因子は、その三次構造中にカルシウムイオンおよび他の二価の金属のカチオンを含むことが知られている。カルシウムとの錯体の種々の安定度定数(logK)を有する賦形剤の水性第VIII因子の安定性に対する効果を試験した。賦形剤およびそのカルシウムイオンとの錯体の安定度定数(logK)は以下の通りであった:TRIS(logK=0.25)、安息香酸カリウム(logK=0.20)、マレイン酸塩(logK=2.06)およびトリエタノールアミン(logK=1.4)。試料は、空気または窒素または真空いずれかのヘッドスペースを有する密封されたガラスバイアル中に維持した。これらの配位子を含む試料中の第VIII因子活性の回復率は、金属イオンとの結合についてのそれらの安定度定数に依存した。そのため、25℃および37℃両方の凝固活性は、TRIS(10mM)および安息香酸カリウム(10mM)からなるバッファ系の存在下で最も高かった。他のバッファ系の存在下の活性回復率は、安定度定数を反映し、以下の順で低かった:トリエタノールアミン(10mM)、ヒスチジン(10mM)およびマレイン酸塩(10mM);表5参照。重要なことに、試料を窒素ヘッドスペース下、特に真空ヘッドスペース下で維持した場合は、回復率はさらに増加した(表5)。
【0099】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的分子を含み、また、
(i)0.01〜20mMの濃度の1種類以上の金属イオンを含み;
(ii)弱い配位子である賦形剤を含み;
(iii)中強度の配位子または強力配位子である賦形剤を実質的に含まない、
水性組成物。
【請求項2】
1種類以上の金属イオンの総濃度より高くない濃度の強力配位子を含み、それにより、強力配位子が遊離形態で実質的に利用可能でない、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
生物学的分子を含み、また、
(i)弱い配位子である賦形剤を含み;
(ii)中強度の配位子または強力配位子である賦形剤を実質的に含まない、
水性組成物。
【請求項4】
遊離形態の強力配位子が実質的に含まれないように維持したまま、製剤からの金属イオンの除去を確実にする低濃度の強力配位子を含む、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
強力配位子の濃度が<1mMである、請求項2または請求項4記載の組成物。
【請求項6】
強力配位子の濃度が<0.1mMである、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
強力配位子がEDTAである、請求項2、4、5および6いずれか記載の組成物。
【請求項8】
生物学的分子がタンパク質である、前記請求項いずれか記載の組成物。
【請求項9】
生物学的分子が核酸である、請求項1〜7記載の組成物。
【請求項10】
生物学的分子が完全ウイルスである、前記請求項いずれか記載の組成物。
【請求項11】
タンパク質が金属結合蛋白である、請求項8記載の組成物。
【請求項12】
タンパク質およびTRISまたは安息香酸イオンまたはサリチル酸イオンまたはその任意の組合せを主材料とするバッファー系を含む水性組成物。
【請求項13】
0.01〜20mMの濃度の1種類以上の金属イオンをさらに含む、前記請求項いずれか記載の組成物。
【請求項14】
1種類以上の金属イオンの濃度が0.05〜10mMである、請求項1、2および13いずれか記載の組成物。
【請求項15】
1種類以上の金属イオンの濃度が0.2〜5mMである、請求項14記載の組成物。
【請求項16】
多価アルコールまたは糖をさらに含む、前記請求項いずれか記載の組成物。
【請求項17】
少なくとも0.5%(w/w)の多価アルコールを含む、請求項16記載の組成物。
【請求項18】
さらに保存料を含む、前記請求項いずれか記載の組成物。
【請求項19】
さらにプロテアーゼインヒビターを含む、前記請求項いずれか記載の組成物。
【請求項20】
さらに界面活性剤を含む、前記請求項いずれか記載の組成物。
【請求項21】
炭疽菌組換え保護抗原および以下の添加剤:
(i)TRISまたはリジンまたはその任意の組合せのいずれかを含むバッファー系、
(ii)1〜20mMの濃度のカルシウムイオン源
のいずれかを含む、約8のpHを有する水性組成物。
【請求項22】
カタラーゼおよび以下の添加剤:
(i)TRISまたは安息香酸イオンまたはサリチル酸イオンまたはその任意の組合せのいずれかを含むバッファー系、
(ii)1〜20mMの濃度のカルシウムイオン源、
(iii)50〜500mMの濃度の塩化ナトリウム
のいずれかを含む、約6.8のpHを有する水性組成物。
【請求項23】
ホースラディッシュペルオキシダーゼおよび以下の添加剤:
(i)TRISまたは安息香酸イオンまたはサリチル酸イオンまたはその任意の組合せのいずれかを含むバッファー系、
(ii)1〜20mMの濃度のカルシウムイオン源、
(iii)50〜1Mの濃度の塩化ナトリウム
のいずれかを含む、約7のpHを有する水性組成物。
【請求項24】
血液凝固因子VIIIおよび以下の添加剤:
(i)TRISまたは安息香酸イオンまたはサリチル酸イオンまたはその任意の組合せのいずれかを含むバッファー系、
(ii)1〜20mMの濃度のカルシウムイオン源、
(iii)50mM〜1Mの濃度の塩化ナトリウム、
(iv)ポリソルベート80
のいずれかを含む、約6.5のpHを有する水性組成物。
【請求項25】
治療的または診断的使用のための前記請求項いずれか記載の組成物。
【請求項26】
前記請求項いずれか記載の組成物を含む密封容器。
【請求項27】
該組成物からの溶存ガスの一部または実質的な除去を確実にする頭隙を含む、請求項26記載の容器。
【請求項28】
頭隙に窒素またはアルゴンなどの希ガスが含まれる、請求項27記載の容器。


【公表番号】特表2011−521906(P2011−521906A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506734(P2011−506734)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055317
【国際公開番号】WO2009/133200
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(510288895)アレコー リミテッド (5)
【Fターム(参考)】