説明

タンパク質除去用中空糸膜およびその製造方法

【課題】
本発明の課題は、血液等からサイトカイン等の有害タンパク質を高効率に除去する中空糸膜を提供することである。
【解決手段】
均一膜構造を有し、ポリアルキレンイミンにアミド結合を含む官能基が導入され、アミン基の一部が置換された変性ポリアルキレンイミンを含むタンパク質除去用中空糸膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着材料に関するものであり、特に、ヒト血液中等の高濃度の蛋白質溶液中に存在するタンパク質と結合することによって、サイトカインやβ2−マイクログロブリン等の有害タンパク質を除去する浄化モジュールにおいて、あるいは被覆材料として好適に用いられる中空糸膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人体に有害なタンパク質としてサイトカインやβ2−マイクログロブリン(以下、β2−MG)があり、サイトカインについて説明すると、感染や外傷などの刺激により、免疫担当細胞を始めとする各種の細胞から産生され細胞外に放出されて作用する一群のタンパク質であり、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターロイキン−1〜インターロイキン−15、腫瘍壊死因子α、腫瘍壊死因子β、エリスロポエチン、および単球走化因子など、数多く知られている。サイトカインは、本来は生体が生体防御のために産生する物質と考えられるが、炎症性サイトカインとして分類される腫瘍壊死因子、インターロイキン−6、インターロイキン−8、および単球走化活性化因子( 以下、MCAF/MCP−1という。)などの一群のタンパクは、その過剰な産生が、各種炎症性疾患における組織障害や病態に関与することが明らかになっている。例えば、腫瘍壊死因子の動物への投与は敗血症性のショックを誘起し、このサイトカインの作用を阻害することが病態改善に有用であることが報告されている。これらサイトカインが高濃度で血中に遊離している高サイトカイン血症、例えば、ヒトの敗血症などにおいては、インターロイキン−6の血液中濃度が顕著な上昇を示し、これらの濃度は、病態や予後と相関することが認められている。また、リウマチ性関節炎などの自己免疫疾患やアレルギー性疾患などでも、その過剰産生と病態との関連が指摘されている。また、β2−MGについては、透析性アミロイドーシス等の原因物質と言われており、分子量が人体に有用なタンパク質であるアルブミンのそれに比較的近く、従来の膜を用いた透析による除去では容易とは言えない。
【0003】
また、これまでに炎症性サイトカインの作用を抑えることにより上記のような炎症性の疾患を治療するために、抗体や可溶性受容体に代表されるような特異的に標的サイトカインと結合してその作用を阻害するタンパク質、あるいは、受容体アンタゴニストのようにサイトカインと競合的にその受容体に結合するタンパク質を、生体内に投与することが試みられてきた。しかしながら、生体投与のための多量のタンパク質の調製には多大な費用がかかること、また投与するタンパクが生体にとって異物である場合には、患者にとって不都合な免疫反応を誘起する場合があり、これらにより投与可能な量と回数が制限される場合が多かった。
【0004】
また、これまでに尿素、チオ尿素またはこれらを分子構造内に複数個有するようなポリ尿素やポリチオ尿素を結合した複合繊維(特許文献1)により、炎症性サイトカインを除去する試みがなされている。しかしながら、この発明における尿素やチオ尿素を結合した材料は水に不溶であるため有機溶媒に溶解させて基材に導入する必要があり、有機溶媒などに可溶な基材には導入できないことや、有機溶媒中に基材を浸漬させることで、溶媒の蒸発時に基材に含まれる微細構造の収縮、破壊が引き起こされることの懸念があった。そこで、有機溶媒に可溶な基材に対して、水溶性のポリアルキレンイミンを結合した複合繊維(特許文献2)により炎症性物質を除去する試みもなされている。しかし、この発明におけるポリアルキレンイミンを結合した複合繊維では炎症性サイトカイン除去量は僅かであることや、従来の発明では繊維もしくはビーズ等を用いるために、多孔性を有する中空糸膜に比べて分画特性が小さい問題や、濾過による力が働かないために拡散による力のみでサイトカイン等の有害タンパク質の除去を行うために除去効率が低いという問題があった。また、乾燥複合半透膜において、ポリエチレンイミンに尿素基を導入する発明が開示されているが(特許文献3)、尿素基は架橋反応のための官能基として導入されており、サイトカインを吸着する機能を有するものではなく、膜設計としても効果的にタンパク質を除去できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−202635 号公報
【特許文献2】特開2002−35117 号公報
【特許文献3】特開昭57−94308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、血液等からタンパク質を高効率に除去する中空糸膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために下記の構成を有する。
1.均一膜構造を有し、ポリアルキレンイミンにアミド結合を含む官能基が導入され、アミン基の一部が置換された変性ポリアルキレンイミンを含むタンパク質除去用中空糸膜。
【0008】
ここで、本発明に係る中空糸膜はタンパク質除去用のものであることから、アミド結合を含む官能基がタンパク質を吸着除去できるものであり、架橋反応のための官能基ではないことが必要である。
2.前記ポリアルキレンイミンにおけるアミン基の0.01mol%以上、43mol%以下が前記アミド結合を含む官能基により置換された1に記載のタンパク質除去用中空糸膜。
3.前記アミド結合を含む官能基が尿素基、チオ尿素基およびアミド基から選ばれる少なくとも1種である1または2に記載のタンパク質除去用中空糸膜。
4.アルブミンふるい係数が0.5%以上、5%未満である1〜3のいずれかに記載のタンパク質除去用中空糸膜。
5.陰性荷電を含む1〜4のいずれかに記載のタンパク質除去用中空糸膜。
6.前記陰性荷電を有する官能基がスルホ基、カルボキシル基、エステル基から選ばれる少なくとも1種である1〜5のいずれかに記載のタンパク質除去用中空糸膜。
7.前記中空糸膜の素材にポリメタクリル酸メチルまたはその誘導体が含まれる1〜6のいずれかに記載のタンパク質除去用中空糸膜。
8.前記タンパク質がサイトカインである1〜7のいずれかに記載のタンパク質除去用中空糸膜。
9.前記サイトカインが炎症性サイトカインである8に記載のタンパク質除去用中空糸膜。
10.前記炎症性サイトカインがインターロイキン−6である9に記載のタンパク質除去用中空糸膜。
11.前記1〜10のいずれかに記載の中空糸膜が内蔵された中空糸膜モジュール。
12.均一構造を有する血液浄化用中空糸膜を、ポリアルキレンイミンにアミド結合を含む官能基が導入され、そのアミン基の一部が置換された変性ポリアルキレンイミン溶液に浸漬させた状態で放射線照射することで得られるタンパク質除去用中空糸膜の製造方法。
13.前記ポリアルキレンイミンにおけるアミン基の0.01mol%以上、43mol%以下が前記アミド結合を含む官能基により置換された12に記載のタンパク質除去用中空糸膜の製造方法。
14.前記アミド結合を含む官能基が尿素基、チオ尿素基およびアミド基から選ばれる少なくとも1種である12または13に記載のタンパク質除去用中空糸膜の製造方法。
15.アルブミンふるい係数が0.5%以上、5%未満であることを特徴とする12〜14のいずれかに記載のタンパク質除去用中空糸膜の製造方法。
16.陰性荷電を含むことを特徴とする12〜15のいずれかに記載のタンパク質除去用中空糸膜の製造方法。
17.前記タンパク質が炎症性サイトカインであることを特徴とする12〜16のいずれかに記載のタンパク質除去用中空糸膜の製造方法。
18.前記炎症性サイトカインがインターロイキン−6であることを特徴とする12〜17のいずれかに記載のタンパク質除去用中空糸膜の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、血液のような多量の共存タンパクを含む溶液中においても過剰のタンパク質を高効率で迅速に除去あるいは不活化することができるタンパク質除去用中空糸膜を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に用いられる人工腎臓の一態様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に用いるタンパク質除去用中空糸膜とは、一般に人工腎臓と呼ばれる血液透析器、血液濾過器や救急救命用途の緩徐式血液濾過器および血液透析濾過器等に用いられる中空糸膜を言う。サイトカインやβ2−MG等の有害タンパク質の除去に中空糸膜を利用することの利点としては、中空糸の内部もしくは外部に体液を連続的に流し、もう片方に透析液(正常の血清に含まれているのと同じ濃度の電解質、例えばイオンでナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどと重曹が含まれている液)を流すことで、体液中に含まれる炎症性サイトカインを、濃度差による拡散や圧力差によるろ過を利用することで従来の方法よりも高効率で除去することが挙げられる。
【0012】
タンパク質除去用中空糸膜の構造としては厚み方向に均一膜構造を有するものが好ましい。素材としてはポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、セルロースアセテート、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリエーテルスルホンポリアリレートポリマアロイ等が用いられるが、この中でも、特にポリメタクリル酸メチルまたはその誘導体が好適に用いられる。その理由としては、厚み方向に均一膜構造を有する膜の代表例であるポリメタクリル酸メチル系膜は、吸着サイトが多く、膜全体に変性ポリアルキレンイミンを付与することで、サイトカインなどの除去すべきタンパク質を透過のみならず吸着によっても除去することが出来、アミノ酸の大量喪失も防ぐことが出来るためである。
【0013】
また、タンパク質除去用中空糸膜は、陰性荷電を有することが望ましい。陰性荷電を有することで、陽性荷電を持つ変性ポリアルキレンイミンのグラフト量を向上させることができる。また、素材の少なくとも一部に陰性荷電を有する官能基を含むことで親水性が増し、微分散(すなわち、細かな孔が数多く形成される)する傾向にあることも報告されている。陰性荷電を有する官能基としては、スルホ基、カルボキシル基、リン酸基、亜リン酸基、エステル基、亜硫酸基、次亜硫酸基、スルフィド基、フェノール基、ヒドロキシシリル基等の置換基を有する素材が挙げられる。中でもスルホ基、カルボキシル基、エステル基から選ばれる少なくとも1種が好ましい。スルホ基を有するものとしてはビニルスルホン酸、アクリルスルホン酸、メタクリルスルホン酸パラスチレンスルホン酸、3−メタクリロキシプロパンスルホン酸、3−アクリロキシプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびこれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、ピリジン塩、キノリン塩、テトラメチルアンモニウム塩などがあげられる。陰性荷電量としては、乾燥した中空糸膜1gあたり5μeq以上、30μeq以下のものが好ましい。陰性荷電量は、例えば、滴定法を用いて測定することが出来る。
【0014】
本発明に係る中空糸膜においては、アルブミンのふるい係数を調節することが重要である。通常、例えば人工腎臓として用いる場合、アルブミンは生体の活動に必須なタンパク質であるため、例えば、人工腎臓として継続使用する場合等においては、アルブミンの漏出を最小限におさえる必要がある。したがって、本発明に係る中空糸膜のアルブミンふるい係数の上限は5%未満であり、3%未満であることが好ましい。しかしながら、本発明において、炎症性サイトカイン、例えば、インターロイキン−6(IL−6)を高効率で除去するためにはアルブミンのふるい係数が0.5%以上となるように膜設計をすることが重要である。アルブミンふるい係数は好ましくは0.8%以上である。ここでのアルブミンふるい係数とは、日本透析医学会の定める方法(血液浄化器の性能評価法、透析会誌29(8)1231−1245、1996)に従い、ACD−A液を用いて抗凝固したタンパク濃度6〜7g/dLの血漿を血液側溶液として用い、血液側流量を200mL/min、濾過流量を10mL/min/mで循環した時の60分後の試験液から血液入口側液、血液出口側液および濾液を採取して、液中アルブミン濃度を測定して得た値である。濃度は、アルブミンとブロムクレゾールグリーン(以下BCGと略す)やブロムクレゾールパープルなどの色素との結合による色調の変化を利用して測定する。なお、循環中に得られた濾液は血液側に戻す。ふるい係数の算出式はJIST3250(2005)に従った。
【0015】
また、水の透過率(透水性)の調節も中空糸膜のタンパク質除去能に重要である。サイトカイン等のタンパク質の除去量を多くするためには、膜の透水性を高くすることが効果的であるが、一方で透水性が高すぎると膜内部の表面積が減少し、サイトカインの吸着による除去量が低下してしまう。そのため、タンパク質除去用中空糸膜の透水性(UFR)としては、1mL/hr/m/mmHg以上、100mL/hr/m/mmHg以下、さらには30mL/hr/m/mmHg以上、80mL/hr/m/mmHg以下が好ましい。上限としては70mL/hr/m/mmHg以下がより好ましい。上記下限および上限のいずれかの範囲またはいずれを組み合わせた範囲でもよい。透水性能の測定方法としては中空糸両端部を封止したガラス管ミニモジュール(本数36本:有効長10cm)の中空糸内側に水圧100mmHgをかけ、外側へ流出してくる単位時間当たりの濾過量を測定することができる。透水性能(UFR)は下記の式で算出する。
UFR(mL/hr/m/mmHg)=Qw/(P×T×A)
ここで、Qw:濾過量(mL)、T:流出時間(hr)、 P:圧力(mmHg)、A:中空糸膜内表面積(m)である。
【0016】
また、炎症性サイトカイン、例えばIL−6を効率的に除去するためには中空糸膜の細孔半径を制御することが重要である。平均細孔半径は好ましくは1nm〜5μm、より好ましくは5nm〜60nmである。平均細孔半径の算出は石切山らのDSCを用いた手法(Ishikiriyama Kら、Thermochimica Acta267、169−180(1995))に従った。
【0017】
本発明は、ポリアルキレンイミンにアミド結合を含む官能基を導入して、ポリアルキレンイミンにおけるアミン基の一部が置換されたものである。ここで、本発明に係る中空糸膜はタンパク質除去用のものであることから、アミド結合を含む官能基がサイトカイン、β2−MG等のいずれか、または複数のタンパク質を吸着し、体液等から除去できることが必要である。アミド結合を含む官能基として、その中でも生体に対して親和性が良いとされる尿素基、チオ尿素基、アミド基などが挙げられる。尿素基、チオ尿素基、アミド基が一つの化合物において複数種存在してもよい。
【0018】
前記ポリアルキレンイミンに尿素基もしくはチオ尿素基を導入するための化合物としては、イソシアネート化合物あるいはイソチオシアネート化合物を用いることが出来る。ポリアルキレンアミンとイソシアネート化合物あるいはイソチオシアネート化合物の混合比は任意に選択できる。イソシアネート化合物あるいはイソチオシアネート化合物としては例えば、エチルイソシアネート、ステアリルイソシアネート、n−ブチルイソシアネート、iso−ブチルイソシアネート、n−プロピルイソシアネート、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、n−ブチルイソチオシアネート、ベンジルイソチオシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、シクロヘキシルイソチオシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート化合物あるいはイソチオシアネート化合物のいずれも用いることが出来るが、より好ましくはフェニルイソシアネート、クロロフェニルイソシアネート、フルオロフェニルイソシアネート、ブロモフェニルイソシアネート、ニトロフェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、メトキシフェニルイソシアネート、1−ナフチルイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、フェニルイソチオシアネート、クロロフェニルイソチオシアネート、フルオロフェニルイソチオシアネート、ニトロフェニルイソチオシアネート、トリルイソチオシアネート、メトキシフェニルイソチオシアネート、1−ナフチルイソチオシアネート等の芳香族イソシアネート化合物あるいはイソチオシアネート化合物が用いられる。
一方で、塩基性窒素原子を有するポリアルキレンイミンの吸着性能や親水性は、主鎖のアルキレンイミン中に含まれる炭素数の塩基性窒素原子数に対する比とアルキレンイミンの重合度、およびN−置換基の割合、すなわち尿素基、チオ尿素基およびアミド基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基のN−置換率に依存して変化する。ここでのN−置換率とは、ポリアルキレンイミンが有する窒素の内、上記官能基における窒素に置き換わったものの割合である。
【0019】
ポリアルキレンイミンのN−置換率は、小さすぎると吸着能が下がり、大きすぎると水への溶解性に乏しくなる。そのため、0.05%以上、60%以下、さらに好ましくは1%以上、25%以下となる。上記下限および上限のいずれかの範囲またはいずれを組み合わせた範囲でもよい。
また、N−置換率は、アルキレンイミン中のアミン基の立体障害を小さくすることで、向上させることができる。例えば、主鎖とアミン基の間に脂肪族炭化水素をスペーサーアームとして配することで、尿素基、チオ尿素基、アミド基等の導入効率が上がる。さらにタンパク質の吸着に際しても、この手法を用いて立体障害性を低下させることで、より効果的に除去を行うことができる。
【0020】
炭素数と塩基性窒素原子数の比は、塩基性窒素原子の比率が大きすぎると加工がしにくく、逆に、小さすぎると吸着能が下がるため、好ましくは1〜8:1、さらに好ましくは1〜5:1の範囲であるのがよい。
【0021】
またポリアルキレンイミンの重量平均分子量(Mw)は、大きい方が炎症性タンパク質吸着性能が増すが、大きすぎると、グラフト鎖を延ばした形での固定化が難しくなってしまう。一方で重量平均分子量が小さすぎるとN−置換基を導入した際に水への溶解性に乏しくなる。したがって600〜900000、さらに好ましくは1000〜750000であるのがよい。上限としては100000以下がより好ましい。上記下限および上限のいずれかの範囲またはいずれを組み合わせた範囲でもよい。
【0022】
以上のことから、表面への尿素基、チオ尿素基およびアミド基から選ばれる少なくとも1種のアルキレンイミンへの導入率は、物質量比にして0.01mol%以上、43mol%以下の範囲が可能である。さらに好ましくは、物質量比にして、アミド基単独の場合では0.01mol%以上が好ましく、0.25mol%以上がより好ましく、36mol%以下が好ましく、15mol%以下がより好ましく、チオ尿素基単独の場合では0.02mol%以上が好ましく、0.37mol%以上がより好ましく、43mol%以下が好ましく、18mol%以下がより好ましく、尿素基単独の場合では0.02mol%以上が好ましく、0.31mol%以上がより好ましく、さらに好ましくは、3mol%以上、好ましい上限としては40mol%以下、また親水性の確保のためには18mol%以下が好ましく、17mol%以下がさらに好ましい。上記下限および上限のいずれかの範囲またはいずれを組み合わせた範囲でもよい。
【0023】
上記のポリアルキレンイミンと尿素基、チオ尿素基あるいはアミド結合を有する化合物の合成反応は、標準的には反応温度は0〜150℃、反応時間は0.1〜24時間で行われる。また、反応溶媒は必ずしも必要でないが、一般的には溶媒の存在下で行われる。使用しうる溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ヘキサン、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシド等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類等が挙げられる。反応終了後の反応液は、必要に応じ、濾過、濃縮などの通常の処理後、カラムクロマトグラフィー、再結晶等の操作により精製することができる。また、水不溶性材料の場合、ガラスフィルター等を用いて洗浄する事も好ましい方法である。
【0024】
変性ポリアルキレンイミンの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography: GPC)を用いて測定することができる。GPC分析において使用しうる溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ヘキサン、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシド等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類等を用い、分子量はポリスチレン換算の値とすることが好ましい。
【0025】
例えば、N,N−ジメチルホルムアミド溶媒中において、ポリアルキレンイミンとしてポリエチレンイミン(重量平均分子量:10000)、アミノ化合物としてクロロフェニルイソシアネートを用いる場合の反応過程におけるクロロフェニルイソシアネート添加量は、ポリエチレンイミン1molに対して好ましくは1mmolから100000mmolの範囲であり、より好ましくは10mmolから2000mmolであるが、これ以外の溶媒を用いた場合の添加量はこれに限られない。なお、上記上限、下限のいずれを組み合わせた範囲であってもよい。
【0026】
ポリメタクリル酸メチルまたはその誘導体を含む中空糸膜への変性ポリアルキレンイミンの導入の方法としては、放射線グラフト法を用いる方法があげられる。特に、グラフト反応を利用する場合、グラフト反応と滅菌を同時に行えるので、好ましい方法である。すなわち、分離膜をモジュールに組み込んだ後にモジュール内を変性ポリアルキレンイミンの水溶液で満たして、滅菌線量を照射して放射線照射を行えばよい。モジュール化の後に放射線照射するのであれば、モジュール全体の滅菌も同時に行うことができるので好ましい。例えば、用いる放射線として、α線、β線、γ線、X線、紫外線、電子線などが挙げられるが、特にγ線や電子線が好適に用いられる。また、血液浄化用モジュールをγ線で滅菌するには15kGy以上の線量照射が好ましい。
【0027】
本発明における中空糸膜を用いたタンパク質除去用モジュールの製造方法としては、その用途により種々の方法があるが、大まかな工程としては、血液浄化用の分離膜の製造工程とその分離膜をモジュールに組み込むという工程に分けることができる。
【0028】
本発明の改質基材が分離膜である場合には、主鎖もしくは側鎖にエステル基を含有し、かつ変性ポリアルキレンイミンを有するポリマーを合成し、分離膜に成型してもよい。また、分離膜成型後に、放射線照射による分離膜への変性ポリアルキレンイミンのグラフト反応を利用してもよい。
【0029】
次に、中空糸膜を用いたタンパク質除去用モジュールの製造方法についての一例を示す。タンパク質除去用モジュールに内蔵される中空糸膜の製造方法としては、つぎのような方法がある。すなわち、iso−ポリメタクリル酸メチル5重量部とsyn−ポリメタクリル酸メチル20重量部を、ジメチルスルホキシド75重量部に加え、加熱溶解し製膜原液を得る。この製膜原液をオリフィス型二重円筒型口金から吐出し、空気中を300mm通過させた後、水100%の凝固浴中に導き中空糸分離膜を得ることができる。この際、内部注入気体として乾燥窒素を用いる。
【0030】
中空糸膜をモジュールに内蔵する方法としては、特に限定されないが、一例を示すと次の通りである。まず、中空糸膜を必要な長さに切断し、必要本数を束ねた後、筒状ケースに入れる。その後両端に仮のキャップをし、中空糸膜両端部にポッティング剤を入れる。このとき遠心機でモジュールを回転させながらポッティング剤を入れる方法は、ポッティング剤が均一に充填されるために好ましい方法である。ポッティング剤が固化した後、中空糸膜の両端が開口するように両端部を切断し、中空糸膜モジュールを得る。
【0031】
また、モジュールケースへのタンパク質除去用中空糸膜の充填率は中空糸膜外径を用いて下式より求められる。
【0032】
充填率=(((中空糸膜外径)×中空糸膜本数)/(モジュールケース胴体部内径))×100〔%〕
このように、中空糸膜外径が小さくなると充填率も低くなり、中空糸膜外径が大きくなると充填率も高くなる。しかし、中空糸膜外径が大きすぎる場合、モジュールへの血液導入量が低下するためタンパク質の除去効率が低下する。そのため、中空糸膜外径としては220μm以上、300μm以下が好ましい。ここで、中空糸膜の外径とは、中空糸膜束から無作為に抜き取った16本の各中空糸膜について、レーザー変位計やマイクロウォッチャーを使用して直径を測定し、その平均値を採ったものである。また、充填率は50%以上62%以下が好ましく、55%以上60%以下がより好ましく、上記上限、下限のいずれを組み合わせた範囲であってもよい。この範囲内のモジュール設計を行うことにより、ショートパスが起こりにくいために拡散性能が向上し、モジュールケースにも容易に挿入できるモジュールとなる。また、さらに拡散性能を向上させるためにタンパク質除去用中空糸膜の周りにスペーサーとして繊維を巻き付けてもよい。
【0033】
上記のようにして得られた中空糸膜を用いた血液浄化用モジュールの基本構造の一例を図1に示す。円筒状のモジュールケース7に中空糸膜5の束が挿入されており、中空糸の両端部をポッティング部10で封止している。ケース7には透析液の導入口8および導出口9が設けられており、中空糸膜5の外部には透析液、生理食塩水、濾過水等が流れるようになっている。ケース7の端部にはそれぞれ動脈側ヘッダー1および静脈側ヘッダー2が設けられている。血液6は動脈側ヘッダー1に設けた血液導入口3より導入され、漏斗状の動脈側ヘッダー1によって、中空糸膜5の内部に導かれる。中空糸膜5によってろ過された血液6は、静脈側ヘッダー2に集合させられ、血液導出口4より排出される。血液導入口3および血液導出口4には、血液回路11が接続される。
【0034】
本発明におけるタンパク質除去用中空糸膜は、単独での使用のみならず、適当な基材にさらに固定化したり、他材料と混合して一つのモジュールとして用いることもできる。本発明において製造された材料を用いたカラムを体外循環用カラムとして用いる場合には、体外に導出した血液を直接カラムに通しても良いし、血漿分離膜などと組み合わせて使用しても良い。
【0035】
本発明において製造された材料は、炎症性サイトカインを吸着できる材料を選択した場合、高効率にこれらを除去あるいは不活化することが可能であるが、かかる炎症性サイトカインとしては、特に限定されるものではなく、一般に分類される腫瘍壊死因子(TNF)、IL−6、IL−8、単球走化活性化因子(MCAF/MCP−1)などの一群のタンパクなどを好適に除去あるいは不活化する。中でも、高サイトカイン血症治療用に本発明における材料を好適に用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
・ 基材の作成
(1)重量平均分子量が40万のsyn−PMMAを31.7重量部、重量平均分子量が140万のsyn−PMMAを31.7重量部、重量平均分子量が50万のiso−PMMAを16.7重量部、パラスチレンスルホン酸ソーダを1.5mol%含む分子量30万のPMMA共重合体20重量部をジメチルスルホキシド376重量部と混合し、110℃で8時間撹拌し紡糸原液を調製した。得られた紡糸原液の110℃での粘度は1240poiseであった。得られた紡糸原液を99℃に保温された環状スリット部分の外径/内径=2.1/1.95mmφの2重管中空糸膜用口金から、2.5g/minの速度で、空気中に吐出した。同時に2重管の内管部分には窒素ガスを注入し、空中部分を50cm走行させた後、凝固浴に導いた。凝固浴に用いた水温(凝固浴温度)を38〜48℃の間で表1に示すように変更し、それぞれ異なる中空糸膜を得た。それぞれの中空糸膜を水洗後、保湿剤としてグリセリンを63重量%水溶液として付与し、熱処理浴温度を表1のように78℃から85℃まで変更し、余分のグリセリンを除去した後、スペーサー糸を巻き付けて60m/minで巻き取った。得られた中空糸分離膜の内径は0.2mmであり、膜厚は0.03mmであった。
【0038】
(2)得られた中空糸12000本を、図1に示すような透析液入口および透析液出口を有する円筒状のプラスチックケースに挿入し、両端部をウレタン樹脂で封止して、膜面積1.6mのタンパク質除去用中空糸膜モジュールを作成した。膜面積は中空糸内径から算出される中空糸内表面積(ウレタン樹脂で封止された部分を除く)に、モジュールに挿入された糸本数と端面長を乗じて算出される値である。
2.改質中空糸膜の作成方法
(1)後述する実施例1で作成した中空糸膜の改質に用いるポリマーを脱気した純水に溶解させて水溶液を調整した。ここで、脱気した水とは、室温にて、−500〜−760mmHgに減圧した状態で30分から1時間攪拌した水を意味する。水中の溶存酸素は、γ線照射時にラジカル開始剤となる。したがって、脱気されていない水を用いると、その後の実験のばらつきの一因になるため、注意が必要である。
【0039】
(2)上記水溶液を、1.(2)で作成した中空糸膜モジュールの血液導入口3から入れ、血液導出口4から透析液の導出口9へ誘導し、透析液の導入口8から排出させ、該水溶液で中空糸膜モジュールを充填した。このときの水溶液の流速は450mL/min、通液時間は2分間とした。上記中空糸膜モジュールについて25kGyのγ線を照射し、中空糸膜の改質と中空糸膜モジュールの滅菌を同時に行った。
実施例1
ポリエチレンイミン(重量平均分子量:10000)2.3g、4−クロロフェニルイソシアネート3.8g、N,N−ジメチルホルムアミド60mlから成る混合溶液を30℃で1時間反応させた。反応後、純水80mlを加えて白色沈殿を生成した。白色沈殿を取り除いた上清をエバポレーターにかけ、減圧乾燥させて変性ポリアルキレンイミンを得た。
【0040】
1.(1)、(2)で得られた中空糸膜モジュールに対して、0.1重量%の変性ポリアルキレンイミンを含有する水溶液(以下、0.1重量%エタノール水溶液)を用いて2.(1)(2)の手順に従って中空糸膜の改質と滅菌を同時に行った。また、変性ポリアルキレンイミン中の4−クロロフェニルイソシアネートの導入率は、核磁気共鳴(NMR)を用いて測定を行った。核磁気共鳴では、日本電子株式会社製 270MHz Super−conducting magnet装置で1H−NMR測定を行った。得られたスペクトルにおいて、ポリアルキレンイミン主鎖中に含まれる水素ピーク(テトラメチルシラン基準で2〜3ppm)の積分値をB、尿素基中のアミンに含まれる水素ピーク(テトラメチルシラン基準で8.5〜9.5ppm)の積分値をAとした際に、ポリアルキレンイミンへの尿素基の導入率を以下に示す算式で求めた。
導入率(mol%)=A/(A+B)×100
作成した改質中空糸膜モジュールを用いて、ヒト由来のサイトカインであるIL−6(以下、h−IL−6)(KTS社製)の除去試験を行った。h−IL−6を10ng/mlの濃度になるように牛胎児血清(シグマ社製)中に溶解させ被除去溶液とした。この被除去溶液10mlをミニモジュールを循環させ、除去反応を行い、除去前後の反応液におけるh−IL−6濃度をELISA法(酵素結合免疫吸着法)により測定した。ELISA法にはヒトIL−6 ELISAキット(KTS社製)を使用した。具体的な手法としては、まず抗ヒトIL−6ポリクローナル抗体をコーティングした96穴抗体プレートを400μlのリン酸緩衝液で洗浄した。ELISAで一般的な方法で液捨てを行い、トリス緩衝液50μlを各ウェルに添加後、試料および検量線用濃度に調製した標準h−IL−6を100μlずつ加え、室温(20℃〜30℃)で60分間振とう反応を行った後、液を捨て3回洗浄操作を行った。各ウェルにHRP標識抗ヒトIL−6マウスモノクローナル抗体100μlを加えた後、室温(20℃〜30℃)で30分間振とう反応を行った後、液を捨て3回洗浄操作を行った。各ウェルに発色液であるTMB(3,3‘,5,5’−テトラメチルベンジジン)溶液100μlを入れた後、室温(20℃〜30℃)で60分間振とう反応を行った後、各ウェルに停止液である0.5mol/l 硫酸100μlを加えた。反応を終了して直ぐに、マイクロプレートリーダー(TOSOH製 MPR−A4iII)を用いて、波長450nmの吸光度を測定した(対照波長として600nmを用いた)。
実施例2
ポリエチレンイミン(重量平均分子量:10000)2.3g、4−クロロフェニルイソシアネート5.2g、N,N−ジメチルホルムアミド60mlから成る混合溶液を30℃で1時間反応させた。反応後、純水80mlを加えて白色沈殿を生成した。白色沈殿を取り除いた上清をエバポレーターにかけ、減圧乾燥させて変性ポリアルキレンイミンを得た。
その後の工程および評価は実施例1に従った。
実施例3
ポリエチレンイミン(重量平均分子量:1800)2.3g、4−クロロフェニルイソシアネート3.8g、N,N−ジメチルホルムアミド60mlから成る混合溶液を30℃で1時間反応させた。反応後、純水80mlを加えて白色沈殿を生成した。白色沈殿を取り除いた上清をエバポレーターにかけ、減圧乾燥させて変性ポリアルキレンイミンを得た。
その後の工程および評価は実施例1に従った。
実施例4
ポリエチレンイミン(重量平均分子量:750000)2.3g、4−クロロフェニルイソシアネート3.8g、N,N−ジメチルホルムアミド60mlから成る混合溶液を30℃で1時間反応させた。反応後、純水80mlを加えて白色沈殿を生成した。白色沈殿を取り除いた上清をエバポレーターにかけ、減圧乾燥させて変性ポリアルキレンイミンを得た。その後の工程および評価は実施例1に従った。
実施例5
ポリアリルアミン(重量平均分子量:5000)2.3g、4−クロロフェニルイソシアネート3.8g、N,N−ジメチルホルムアミド60mlから成る混合溶液を30℃で1時間反応させた。反応後、純水80mlを加えて白色沈殿を生成した。白色沈殿を取り除いた上清をエバポレーターにかけ、減圧乾燥させて変性ポリアルキレンイミンを得た。
その後の工程および評価は実施例1に従った。
実施例6
ポリエチレンイミン(重量平均分子量:10000)2.3g、4−クロロフェニルイソシアネート5.2g、N,N−ジメチルホルムアミド60mlから成る混合溶液を30℃で1時間反応させた。反応後、純水80mlを加えて白色沈殿を生成した。白色沈殿を取り除いた上清をエバポレーターにかけ、減圧乾燥させて変性ポリアルキレンイミンを得た。
その後の工程は実施例1に従った。得られた改質中空糸膜モジュールについて、以下に示す方法でβ2−MGのクリアランス測定を行った。結果を表2に示す。
a.作成した改質中空糸膜モジュールを用いて、ヒト由来のタンパク質であるβ2−MGの除去試験を行った。β2−MGを1mg/lの濃度になるように牛胎児血清(シグマ社製)中に溶解させ被除去溶液とした。この被除去溶液10mlをミニモジュールを循環させ、除去反応を行い、除去前後の反応液におけるのサンプル中のβ2−MG濃度をラテックス凝集免疫測定法を用いて測定した(参考文献として医療と検査機器・試薬26(2)127−134、2003がある)。
比較例1
1.(1)(2)で得られた中空糸膜モジュールに対して、2.(1)(2)に示す手順における改質に用いる変性ポリアルキレンイミンの水溶液の代わりに純水を充填し、その他は2.(1)(2)に示す手順に従って滅菌を行った。その後、実施例1と全く同様の除去試験を行い、除去前後におけるh−IL−6濃度をELISA法により実施例1と同様にして測定した。
比較例2
1.(1)(2)で得られた中空糸膜モジュールに対して、2.(1)(2)に示す手順における改質に用いる変性ポリアルキレンイミンの水溶液の代わりに0.1重量%ポリエチレンイミン(重量平均分子量:10000)水溶液を充填し、その他は2.(1)(2)に示す手順に従って滅菌を行った。その後、実施例1と全く同様の除去試験を行い、除去前後におけるh−IL−6濃度をELISA法により実施例1と同様にして測定した。
比較例3
テトラエチレンペンタミン2.3g、4−クロロフェニルイソシアネート3.8g、N,N−ジメチルホルムアミド60mlから成る混合溶液を30℃で1時間反応させた。反応後、純水80mlを加えて白色沈殿を生成した。白色沈殿を取り除いた上清をエバポレーターにかけ、減圧乾燥させて低分子量変性ポリアルキレンイミンを得た。
該低分子量変性ポリアルキレンイミンを2.(1)に示す手順に従って水に溶解し、0.1重量%水溶液を得ようとしたが、水への溶解性に乏しく均一な水溶液を得ることはできなかった。
比較例4
1.(1)(2)で得られた中空糸膜モジュールに対して、2.(1)(2)に示す手順における改質に用いる変性ポリアルキレンイミンの水溶液の代わりに純水を充填し、その他は2.(1)(2)に示す手順に従って滅菌を行った。その後、得られた改質中空糸膜モジュールについて、実施例6のa.に示す方法でβ2−MGのクリアランス測定を行った。結果を表2に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
このように、本実施例1で用いた材料においては、IL−6除去率が比較例1に比べて5.7%、比較例2に比べて26.2%改善された。また、本実施例2に示したように、変性ポリアルキレンイミンの導入率を上げることで、IL−6除去率がさらに増す傾向であった。このように、変性ポリアルキレンイミンを用いることで効率よくIL−6を除去できることが示された。
ポリアルキレンイミンとして用いたポリエチレンイミンの重量平均分子量としては、実施例1、3、4に示すように、1800〜750000まで使用できることが示された。しかし、実施例3からわかるように、分子量が小さい場合には、グラフト鎖の長さが十分ではないため、IL−6除去率が低下する傾向であった。また、実施例4の重量平均分子量が750000では、IL−6除去率が実施例1に比べて低下したことから、分子量が大きい分、グラフト鎖を伸ばした形での固定化が難しかったと考えられる。
比較例3から解るように分子量189であるテトラエチレンペンタミンを用いた場合には、変性ポリアルキレンイミンを含む均一な水溶液を得ることが出来なかった。これは、変性ポリアルキレンイミン中に占める疎水性基の割合が増したことによるものと考えられる。
ポリアルキレンイミンとして、ポリアリルアミンを用いた場合についても、実施例5で示したように、IL−6除去率が比較例1に比べて4.7%改善された。これは、アリルアミンのような立体障害の小さい第1級アミンを含むアルキレンイミンを用いたことで、より効率的に尿素基の導入が行えたためと考えられる。
【0043】
【表2】

【0044】
このように、本実施例6で用いた材料においては、β2−MG除去率が比較例3に比べて24.0%改善された。また、本実施例2に示したように、変性ポリアルキレンイミンの導入率を上げることで、β2−MG除去率がさらに増す傾向であった。このように、変性ポリアルキレンイミンを用いることで効率よくβ2−MGを除去できることが示された。
【符号の説明】
【0045】
1.動脈側ヘッダー
2.静脈側ヘッダー
3.血液導入口
4.血液導出口
5.中空糸膜
6.血液
7.モジュールケース
8.透析液導入口
9.透析液導出口
10.ポッティング部
11.血液回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
均一膜構造を有し、ポリアルキレンイミンにアミド結合を含む官能基が導入され、アミン基の一部が置換された変性ポリアルキレンイミンを含むタンパク質除去用中空糸膜。
【請求項2】
前記ポリアルキレンイミンにおけるアミン基の0.01mol%以上、43mol%以下が前記アミド結合を含む官能基により置換された請求項1に記載のタンパク質除去用中空糸膜。
【請求項3】
前記アミド結合を含む官能基が尿素基、チオ尿素基およびアミド基から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載のタンパク質除去用中空糸膜。
【請求項4】
アルブミンふるい係数が0.5%以上、5%未満である請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質除去用中空糸膜。
【請求項5】
陰性荷電を含む請求項1〜4のいずれかに記載のタンパク質除去用中空糸膜。
【請求項6】
前記陰性荷電を有する官能基がスルホ基、カルボキシル基、エステル基から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれかに記載のタンパク質除去用中空糸膜。
【請求項7】
前記中空糸膜の素材にポリメタクリル酸メチルまたはその誘導体が含まれる請求項1〜6のいずれかに記載のタンパク質除去用中空糸膜。
【請求項8】
前記タンパク質がサイトカインである請求項1〜7のいずれかに記載のタンパク質除去用中空糸膜。
【請求項9】
前記サイトカインが炎症性サイトカインである請求項8に記載のタンパク質除去用中空糸膜。
【請求項10】
前記炎症性サイトカインがインターロイキン−6である請求項9に記載のタンパク質除去用中空糸膜。
【請求項11】
前記1〜10のいずれかに記載の中空糸膜が内蔵された中空糸膜モジュール。
【請求項12】
均一構造を有する血液浄化用中空糸膜を、ポリアルキレンイミンにアミド結合を含む官能基が導入され、そのアミン基の一部が置換された変性ポリアルキレンイミン溶液に浸漬させた状態で放射線照射することで得られるタンパク質除去用中空糸膜の製造方法。
【請求項13】
前記ポリアルキレンイミンにおけるアミン基の0.01mol%以上、43mol%以下が前記アミド結合を含む官能基により置換された請求項12に記載のタンパク質除去用中空糸膜の製造方法。
【請求項14】
前記アミド結合を含む官能基が尿素基、チオ尿素基およびアミド基から選ばれる少なくとも1種である請求項12または13に記載のタンパク質除去用中空糸膜の製造方法。
【請求項15】
アルブミンふるい係数が0.5%以上、5%未満であることを特徴とする請求項12〜14のいずれかに記載のタンパク質除去用中空糸膜の製造方法。
【請求項16】
陰性荷電を含むことを特徴とする請求項12〜15のいずれかに記載のタンパク質除去用中空糸膜の製造方法。
【請求項17】
前記タンパク質が炎症性サイトカインであることを特徴とする請求項12〜16のいずれかに記載のタンパク質除去用中空糸膜の製造方法。
【請求項18】
前記炎症性サイトカインがインターロイキン−6であることを特徴とする請求項12〜17のいずれかに記載のタンパク質除去用中空糸膜の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−213635(P2012−213635A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−83564(P2012−83564)
【出願日】平成24年4月2日(2012.4.2)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】