説明

ターゲット供給装置

【課題】ノズルから噴射されたドロップレットターゲットを加速する場合に、加速後のドロップレットターゲットの速度を一定に維持することができるターゲット供給装置を提供する。
【解決手段】液滴状又は固体粒状のターゲット物質を噴射するターゲットノズル1と、該液滴状又は固体粒状のターゲット物質を帯電させる電荷供給装置3と、該電荷供給装置によって帯電させられたターゲット物質の帯電量を計測する帯電量モニタ4及び帯電量計測部7と、帯電量計測部7の計測結果に基づいて、上記電荷供給装置をフィードバック制御する帯電量制御部8と、帯電したターゲット物質を加速する加速器5とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ励起プラズマ方式の極端紫外(EUV:extreme ultra violet)光源装置においてターゲット物質を供給するターゲット供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体プロセスの微細化に伴い、光リソグラフィの微細化も急速に進展しており、次世代においては、100〜70nmの微細加工、更には50nm以下の微細加工が要求されるようになる。そのため、例えば、50nm以下の微細加工の要求に応えるべく、波長13nm程度のEUV光源と縮小投影反射光学系(catadioptric system)とを組み合わせた露光装置の開発が期待されている。
【0003】
EUV光源としては、ターゲットにレーザビームを照射することによって生成されるプラズマを用いたLPP(laser produced plasma:レーザ励起プラズマ)光源(以下において、「LPP式EUV光源装置」ともいう)と、放電によって生成されるプラズマを用いたDPP(discharge produced plasma)光源と、軌道放射光を用いたSR(synchrotron radiation)光源との3種類がある。これらの内でも、LPP光源は、プラズマ密度をかなり大きくできるので黒体輻射に近い極めて高い輝度が得られ、ターゲット物質を選択することにより必要な波長帯のみの発光が可能であり、ほぼ等方的な角度分布を持つ点光源であるので光源の周囲に電極等の構造物がなく、2πsteradianという極めて大きな捕集立体角の確保が可能であること等の利点から、数十ワット以上のパワーが要求されるEUVリソグラフィ用の光源として有力であると考えられている。
【0004】
ここで、LPP式EUV光源装置におけるEUV光の生成原理について簡単に説明する。ノズルから噴射されたターゲット物質に対してレーザビームを照射することにより、ターゲット物質を励起してプラズマ化させる。このプラズマからは、極端紫外光(EUV)光を含む様々な波長成分が放射される。そこで、その内の所望の波長成分を選択的に反射する反射面を有する集光ミラー(EUV集光ミラー)を用いることにより、EUV光を反射集光して露光装置に出力する。例えば、波長が13.5nm付近のEUV光を集光するためには、集光ミラーの反射面に、モリブデン及びシリコンが交互に積層された膜(Mo/Si多層膜)が形成される。なお、特許文献1の図6には、LPP光源の概念図が示されている。
【0005】
このようなLPP式EUV光源装置においては、EUV光の生成効率やデブリ(ターゲット物質の残滓)の発生量等の観点から、ターゲットとして適切な物質や適切な状態(気体、液体、固体)に関する研究が進められている。また、液体のターゲットを供給する方式についても、連続的なターゲット物質の流れを形成する方式(ターゲットジェット)や、所定の時間間隔(又は、距離間隔)でターゲット物質の液滴を形成する方式(ドロップレットターゲット)が用いられている。これらの方式を比較すると、ターゲットジェット方式においてはノズルから離れた場所に、位置や形状が安定したジェットを形成することが困難であることや、ジェットの直径を大きくすることができないのでEUV光の出力を大きくすることができないことや、レーザパルス間隔によらず常にターゲットを噴射しつづけるためデブリの量が大きくなる等の理由から、ドロップレットターゲット方式の方が有利と考えられている。
【0006】
ところで、LPP式EUV光源装置においては、ターゲット物質を噴射するノズル(ターゲットノズル)が、プラズマ化したターゲットの熱や、そこから放出されるターゲット物質のイオン等によって損傷を受けるので、劣化し易いという問題が生じている。それを解決するためには、ターゲットノズルからプラズマ発光点をなるべく遠ざけることが考えられる。しかしながら、ターゲットノズルとプラズマ発光点との間の距離(ワーキングディスタンスとも呼ばれる)が長くなると、ドロップレットがプラズマ発光点に到達するまでにドロップレットが拡散して、その密度が低くなるという別の問題が生じる。その場合には、発生するEUV光の光量が少なくなってしまう(特許文献1の段落番号0019参照)。特に、キセノン(Xe)のように、ドロップレットの速度が遅い場合には、そのような問題が顕著となる。
【0007】
このような問題を解決するために、特許文献1には、ターゲットに駆動用レーザ装置からレーザ光を照射してプラズマを発生させ、数nm〜数十nmの波長を有する極端紫外光を発生させる極端紫外光源装置において、ターゲットに電荷を与える電荷付与手段と、電荷を帯びたターゲットを電磁場を利用して加速させる加速手段とを有するターゲット供給装置を備える極端紫外光源装置が開示されている(第2頁、図1)。即ち、特許文献1においては、ドロップレットターゲットを加速して早くプラズマ発光点に到達させることにより、ワーキングディスタンスを大きくすることを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−297737号公報(第2、5頁、図1、6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、実際には、各ドロップレットターゲットに対して、常に一定量の電荷を帯電させられるとは限らない。ところが、その帯電量がばらついていると、加速手段によって与えられる加速度にもばらつきが生じてしまう。それにより、ドロップレットターゲットがレーザビームの照射位置に到達する時刻に誤差が生じ、結果として、プラズマ発生タイミング(即ち、EUV光生成タイミング)にずれが生じてしまう。従って、EUV光を一定の時間間隔でパルス発光させるためには、加速後のドロップレットターゲットの速度を一定にしておく必要がある。
【0010】
そこで、上記の点に鑑み、本発明は、LPP型EUV光源装置において、ノズルから噴射されたドロップレットターゲットを加速する場合に、加速後のドロップレットターゲットの速度を一定に維持することができるターゲット供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の第1の観点に係るターゲット供給装置は、レーザ光源から出力されたレーザ光をターゲット物質に照射することにより、ターゲット物質をプラズマ化して極端紫外光を放射させる極端紫外光源装置において用いられるターゲット供給装置であって、液滴状又は固体粒状のターゲット物質を噴射するターゲットノズルと、該液滴状又は固体粒状のターゲット物質を帯電させる電荷供給装置と、該電荷供給装置によって帯電させられたターゲット物質の帯電量を計測する帯電量計測装置と、該帯電量計測装置の計測結果に基づいて、上記電荷供給装置をフィードバック制御する制御手段と、上記電荷供給装置によって帯電させられたターゲット物質を加速する加速器とを具備する。
【0012】
また、本発明の第2の観点に係るターゲット供給装置は、レーザ光源から出力されたレーザ光をターゲット物質に照射することにより、ターゲット物質をプラズマ化して極端紫外光を放射させる極端紫外光源装置において用いられるターゲット供給装置であって、液滴状又は固体粒状のターゲット物質を噴射するターゲットノズルと、該液滴状又は固体粒状のターゲット物質を帯電させる電荷供給装置と、該電荷供給装置によって帯電させられたターゲット物質の帯電量を計測する帯電量計測装置と、上記電荷供給装置によって帯電させられたターゲット物質を加速する加速器と、上記帯電量計測装置の計測結果に基づいて加速器を制御する制御手段とを具備する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電荷供給装置によって帯電させられたターゲット物質の帯電量を計測し、その計測値に基づいて電荷供給装置をフィードバック制御し、又は、加速器を制御するので、帯電したドロップレットターゲットに対する加速量を一定にすることができる。その結果、加速後のドロップレットターゲットの速度を一定に維持することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るターゲット供給装置の構成を示す模式図である。
【図2】図1に示すターゲット供給装置が適用される極端紫外光源装置の構成を示す模式図である。
【図3】図1に示す電荷供給装置の第1の構成を示す模式図である。
【図4】図1に示す電荷供給装置の第2の構成を示す模式図である。
【図5】図1に示す電荷供給装置の第3の構成を示す模式図である。
【図6】図1に示す電荷供給装置の第4の構成を示す模式図である。
【図7】図1に示す帯電量モニタ及び帯電量計測部の構成を示す模式図である。
【図8】図7に示す速度計測部における帯電ドロップレットの速度算出方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明の一実施形態に係るターゲット供給装置の構成を示す模式図である。本実施形態に係るターゲット供給装置は、ターゲットノズル1と、ピエゾ素子2と、電荷供給装置3と、帯電量モニタ4と、加速器5と、制御部6とを含んでいる。また、図2は、図1に示すターゲット供給装置が適用される極端紫外(extreme ultra violet:EUV)光源装置の構成を示す模式図である。まず、図2を参照しながら、EUV光源装置の構成及び動作について説明する。
【0016】
図2に示す極端紫外光源装置は、ターゲット物質にレーザビームを照射してプラズマ化し、そこから放射されるEUV光を集光するLPP(Laser Produced Plasma)方式を採用している。この極端紫外光源装置は、図1に示すターゲット供給装置に加えて、真空チャンバ11と、真空チャンバ11内を所定の真空度に維持する排気ポンプ12と、ターゲット物質供給装置13と、レーザ発振器14と、集光レンズ15と、EUV集光ミラー16と、ターゲット回収筒17とを含んでいる。
【0017】
ターゲット物質供給装置13は、キセノン(Xe)や錫(Sn)のように、レーザビームによって照射されることにより励起してプラズマ化するターゲット物質を、ターゲットノズル1に供給する。本実施形態において、ターゲット物質は液体の状態で噴射されるが、常温常圧下におけるターゲット物質の状態は、気体、液体、固体のいずれであっても良い。例えばキセノンのように、常温で気体のターゲット物質を液体ターゲットとして用いる場合には、ターゲット物質供給装置13は、キセノンガスを加圧及び冷却することにより液化してターゲットノズル1に供給する。反対に、例えば錫のように、常温で固体の物質を液体ターゲットとして用いる場合には、ターゲット物質供給装置13は、錫を加熱することにより液化してターゲットノズル1に供給する。
【0018】
ターゲットノズル1は、ターゲット物質供給装置13から供給された液体のターゲット物質を真空チャンバ11内に噴射する。
ピエゾ素子2は、外部から供給される駆動信号に基づいて伸縮することにより、ターゲットノズル1に所定の周波数fの振動を与える。即ち、ターゲットノズル1を介して、ターゲットノズル1から噴射されるターゲット物質の流れ(ターゲット噴流)を擾乱させることにより、繰り返して滴下する液滴状のターゲット(ドロップレットターゲット、又は、単にドロップレットともいう)101が形成される。ここで、ターゲット噴流の速度をv、ターゲット噴流に与えられた振動の波長をλ(λ=v/f)、ターゲット噴流の直径をdとする場合に、所定の条件(例えば、λ/d=4.51)を満たすときに、均一な大きさの理想的な液滴が形成される。このターゲット噴流に生じさせる擾乱の周波数fは、レイリー周波数と呼ばれている。実際には、λ/d=3〜8程度であれば、ほぼ均一な大きさの液滴が形成される。具体的には、EUV光源装置において一般的に用いられるノズルから噴射されるターゲット噴流の速度vは20m/s〜30m/s程度であるので、直径が10μm〜100μm程度の液滴を形成する場合に、ノズルに与えるべき周波数は、数10kHz〜数100kHz程度となる。
【0019】
レーザ発振器14は、高い繰り返し周波数でパルス発振できるレーザ光源であり、ターゲット物質を照射して励起させるためのレーザビーム18を射出する。また、集光レンズ15は、レーザ発振器14から射出されたレーザビームを所定の位置に集光させる集光光学系である。本実施形態においては、集光光学系として1つの集光レンズ15を用いているが、それ以外の集光光学部品又は複数の光学部品の組み合わせにより集光光学系を構成しても良い。
【0020】
EUV集光ミラー16は、プラズマ化したターゲット物質(プラズマ)19から放射される様々な波長成分の内から、所定の波長成分(例えば、13.5nm付近のEUV光)を集光する集光光学系である。EUV集光ミラー16は凹状の反射面を有しており、この反射面には、例えば、波長が13.5nm付近のEUV光を選択的に反射するモリブデン(Mo)/シリコン(Si)多層膜が形成されている。このようなEUV集光ミラー16によってEUV光が反射集光され、例えば、露光装置に出力される。なお、EUV光の集光光学系としては、図2に示すような集光ミラーに限定されず、複数の光学部品を用いて構成しても良いが、EUV光の吸収を抑えるために反射光学系とすることが必要である。
【0021】
ターゲット回収筒17は、プラズマ発光点(レーザビームによってターゲット物質が照射される位置)を挟みターゲットノズル1に対向する位置に配置されている。ターゲット回収筒17は、ターゲットノズル1から噴射されたにもかかわらず、レーザビームを照射されることなくプラズマ化しなかったターゲット物質を回収する。それにより、不要なターゲット物質が飛散してEUV集光ミラー16等を汚染するのを防止すると共に、チャンバ内の真空度の低下を防いでいる。
【0022】
再び、図1を参照すると、電荷供給装置3は、ドロップレット101に電荷を供給することにより帯電させる装置である。電荷供給装置3は、例えば、帯電用電極及び電源装置や、電子銃や、プラズマ発生装置を含んでいる。
帯電量モニタ4は、電荷供給装置3によって帯電させられたドロップレット(帯電ドロップレット)102を観察する装置であり、帯電ドロップレット102の帯電量を求めるために用いられる情報を後述する帯電量計測部15に出力する。
なお、電荷供給装置3及び帯電量モニタ4の具体的な構成については、後で詳しく説明する。
【0023】
加速器5は、帯電ドロップレット102に電場や磁場を印加することにより加速させる装置である。加速器5は、例えば、帯電ドロップレット102の径路に電場を形成する電極や、磁場を形成する電磁石コイルを含んでいる。具体的には、電極間に直流高電圧を印加し、その電位差により荷電粒子を加速する静電加速器(例えば、バンデグラフ型加速器)が挙げられる。
【0024】
制御部6は、最終的なドロップレットターゲットの速度が一定になるように、帯電量モニタ4から出力された情報に基づいて、電荷供給装置3と加速器5との内の一方又は両方を制御する。
図1に示すように、制御部6は、帯電量計測部7と、帯電量制御部8と、加速器制御部9とを含んでいる。帯電量計測部7は、帯電量モニタ4から出力された情報に基づいてドロップレットターゲットの帯電量を計測する。
【0025】
帯電量制御部8は、帯電量計測部7による計測結果に基づいて、帯電ドロップレット102の帯電量が一定の範囲内に収まるように、電荷供給装置3の動作をフィードバック(FB)制御する。具体的には、帯電量制御部8は、電荷供給装置3に電圧を供給する帯電用電源装置や、電荷供給装置3にプラズマガスを供給するガス供給装置等を含んでおり、帯電ドロップレット102の帯電量に応じて、電源装置の出力電圧やガス供給量等を制御する。
【0026】
ここで、ドロップレット101が電荷供給装置3付近を通過する時点で液体である場合に、帯電ドロップレット102の帯電量は次の制約を受ける。即ち、ドロップレットに帯電できる電荷の最大量(最大帯電量)QMAXは、次式によって表される。
MAX=(64πεσ)1/2
上式において、εは真空の誘電率であり、rはドロップレットの半径であり、σはターゲット物質の表面張力である。
【0027】
最大帯電量QMAX以上の電荷が液体のドロップレットに帯電すると、ドロップレット中の過剰電荷によるクーロン反発力が、表面張力によってドロップレットの形状を維持している力を超えてしまうのでドロップレットは複数の小滴に分裂してしまう。従って、帯電量制御部8は、帯電ドロップレット102の帯電量が最大帯電量QMAXを超えない範囲で、電荷供給装置3を制御しなくてはならない。なお、ドロップレットが分裂しない最大限の電荷密度は、レイリーリミットと呼ばれている。
【0028】
一方、ドロップレット101が電荷供給装置3付近を通過する時点で固体になっている場合には、ドロップレット101の帯電量は、上記最大帯電量QMAXの制約を受けることはない。ここで、ドロップレット101は、ターゲットノズル1から噴射された時点で液体であっても、多くの場合に、放射や気化潜熱により冷却されて固体化する。従って、電荷供給装置3を、ドロップレット101が固体化する位置よりも下流に配置することにより、固体粒状のターゲット物質に対して帯電させることができる。その場合には、帯電ドロップレット102の帯電量を大きくすることができるので、後段の加速器5における出力(電場を形成するための出力電圧等)を小さくできるという利点がある。
【0029】
加速器制御部9は、帯電量計測部7による計測結果に基づいて、加速後の帯電ドロップレット102の速度が一定の範囲内に収まるように、加速器5の動作をフィードフォワード(FF)制御する。具体的には、加速器制御部9は、加速器5に電圧や電流を供給する電源装置を含んでおり、帯電ドロップレット102の帯電量に応じて、その電源装置の出力電圧又は出力電流を制御する。
【0030】
次に、図1に示すターゲット供給装置の各部の具体的な構成について説明する。
図3は、図1に示す電荷供給装置3の第1の構成を示す模式図である。本構成においては、電荷供給装置として、ドロップレット101を通過させる開口が形成された帯電用電極21が用いられており、帯電量の制御は、帯電量制御部8(図1)に含まれる帯電用電源装置22によって行われる。
【0031】
帯電用電極21は、ターゲットノズル1の下流側に、そこから噴射されたドロップレット101が帯電用電極21の開口内を通過するように配置されている。また、帯電用電源装置22の高出力端子(HV)には帯電用電極21が接続されており、接地端子(GND)にはターゲットノズル1が接続されている。このような構成において、帯電用電源装置22によってターゲットノズル1と帯電用電極21との間に高電圧を印加することにより、ドロップレット101が帯電用電極21を通過する際に帯電する。また、帯電用電源装置22は、帯電量計測部7(図1)による計測結果に応じて出力電圧を調整することにより、帯電量をフィードバック制御する。
【0032】
図3に示す電荷供給装置の構成は、ターゲット物質が導電性を有する(導電性が高い)場合に適している。具体的には、水又はアルコールに錫(Sn)や銅(Cu)等の微小な金属粒子や酸化錫(SnO)等の酸化物の微粒子を分散させたものや、水にフッ化リチウム(LiF)や塩化リチウム(LiCl)を溶解させたイオン溶液や、錫やリチウム等の溶融金属等が挙げられる。なお、先にも説明したように、ドロップレットを帯電させる時点において、ターゲット物質は液体であっても固体であっても良い。
【0033】
図4は、図1に示す電荷供給装置3の第2の構成を示す模式図である。本構成においては、電荷供給装置として電子銃31が用いられており、帯電量の制御は、帯電量制御部8(図1)に含まれる電子銃用電源装置32によって行われる。
電子銃31は、ターゲットノズル1から噴射されたドロップレット101の径路に向けて電子が噴射されるように配置されている。それにより、ドロップレット101は、電子銃31の前を通過する際に電子を浴びて帯電する。また、電子銃用電源装置32は、帯電量計測部7(図1)による計測結果に応じて出力電圧を調整することにより、帯電量をフィードバック制御する。
【0034】
図4に示す電荷供給装置の構成は、ターゲット物質が導電性を有する場合に適しているが、導電性を有していない(導電性が低い)場合にも適用することは可能である。導電性を有するターゲット物質としては、先に述べたように、水又はアルコールに金属又は酸化物の微粒子を分散させたものや、金属イオンを含むイオン溶液や、溶融金属等が挙げられる。また、導電性を有しない(導電性が低い)ターゲット物質としては、キセノン(Xe)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、ネオン(Ne)等の希ガス類や、超純水や、アルコール等が挙げられる。なお、先にも説明したように、ドロップレットを帯電させる時点においては、ターゲット物質は液体であっても固体であっても良い。
【0035】
図5は、図1に示す電荷供給装置3の第3の構成を示す模式図である。本構成においては、電荷供給装置としてプラズマ管41が用いられており、帯電量の制御は、帯電量制御部8(図1)に含まれるプラズマ管用電源装置42によって行われる。プラズマ管用電源装置42は、プラズマ管41に電力及びプラズマガスを供給する。
【0036】
プラズマ管41は、ターゲットノズル1の下流側に、そこから噴射されたドロップレット101が管内を通過するように配置されている。このプラズマ管41内にプラズマガスを充填して電力を供給することにより、管内にプラズマ43が発生する。それにより、ドップレット101は、プラズマ管41内を通過する際にプラズマ43を照射されて帯電する。また、プラズマ管用電源装置42は、帯電量計測部7(図1)による計測結果に応じて出力電力及びプラズマガスの供給量を調整することにより、帯電量をフィードバック制御する。
【0037】
図6は、図1に示す電荷供給装置3の第4の構成を示す模式図である。本構成においては、電荷供給装置としてプラズマトーチ51が用いられており、帯電量の制御は、帯電量制御部8(図1)に含まれるプラズマトーチ用電源装置52によって行われる。プラズマトーチ用電源装置52は、プラズマトーチ51に電力及びプラズマガスを供給する。
【0038】
プラズマトーチ51は、ターゲットノズル1の下流側に、そこから噴射されたドロップレット101がプラズマ形成領域内を通過するように配置されている。このプラズマトーチ51にプラズマガス及び電力を供給することにより、プラズマ53が発生する。それにより、ドロップレット101は、プラズマ形成領域内を通過する際にプラズマを照射されて帯電する。また、プラズマトーチ用電源装置52は、帯電量計測部7(図1)による計測結果に応じて出力電力及びプラズマガスの供給量を調整することにより、帯電量をフィードバック制御する。
【0039】
図5及び図6に示す構成は、ターゲット物質が導電性を有する場合に適しているが、導電性を有していない(導電性が低い)場合にも適用することは可能である。導電性を有するターゲット物質としては、先に述べたように、水又はアルコールに金属又は酸化物の微粒子を分散させたものや、金属イオンを含むイオン溶液や、溶融金属等が挙げられる。また、導電性を有しない(導電性が低い)ターゲット物質としては、先に述べた希ガスや、超純水や、アルコール等が挙げられる。なお、先にも説明したように、ドロップレットを帯電させる時点においては、ターゲット物質は液体であっても固体であっても良い。
【0040】
図7は、図1に示す帯電量モニタ4及び帯電量計測部7の構成を示す模式図である。図7に示すように、本構成における帯電量モニタは、帯電ドロップレット102の速度を観察する速度モニタ61と、速度モニタ61の下流側において、帯電量計測のために帯電ドロップレット102を加速する計測用加速器62と、加速後の帯電ドロップレット102の速度を観察する速度モニタ63とを含んでいる。また、帯電量計測部7は、速度モニタ61の出力信号に基づいて帯電ドロップレット102の速度を求める速度計測部161と、計測用加速器62の動作を制御する計測用電源装置162と、速度モニタ63の出力信号に基づいて加速後の帯電ドロップレット102の速度を求める速度計測部163と、加速前及び加速後の帯電ドロップレット102の速度に基づいて帯電ドロップレット102の帯電量を求める帯電量計算部164とを含んでいる。
【0041】
速度モニタ61は、レーザ611及び613と、受光素子612及び614とを含んでいる。レーザ611及び613は、各々から射出されたレーザビームが帯電ドロップレット102の径路を垂直に横切るように配置されている。また、受光素子612は、レーザ611から射出したレーザビームLB1aを受光するように配置されており、受光素子614は、レーザ613から射出したレーザビームLB1bを受光するように配置されている。さらに、レーザ611及び613は、レーザビームLB1aとレーザビームLB1bとの間隔Dが、ドロップレットの間隔L以下になるように配置されている。
【0042】
計測用加速器62は、各々に帯電ドロップレット102が通過できる開口が形成されている2つの加速用電極621及び622を含んでいる。これらの加速用電極621及び622は、計測用電源装置162から電圧Vを供給されることにより、帯電ドロップレット102が通過する領域に、帯電ドロップレット102の進行方向に平行な電場Eを形成する。ここで、計測用加速器62が帯電ドロップレットに与える加速度は、加速前と加速後において変化が生じていれば、正又は負のいずれの加速度であって良い。
【0043】
速度モニタ63は、レーザ631及び633と、受光素子632及び634とを含んでいる。レーザ631及び633は、各々から射出されたレーザビームが加速後の帯電ドロップレット102の径路を垂直に横切るように配置されている。また、受光素子632は、レーザ631から射出したレーザビームLB2aを受光するように配置されており、受光素子634は、レーザ633から射出したレーザビームLB2bを受光するように配置されている。さらに、レーザ631及び633は、レーザビームLB2aとレーザビームLB2bとの間隔Dが、加速後の帯電ドロップレット102の間隔L以下になるように配置されている。
【0044】
図8は、速度計測部161及び163における帯電ドロップレットの速度算出方法を説明するための図である。
あるドロップレットDLaがレーザビームLB1aを横切ると、受光素子612からの出力信号に波形Sa1が現れる。また、その後でドロップレットがレーザビームLB1bを横切ると、受光素子614からの出力信号に波形Sa1'が現れる。ここで、2つのレーザビームの間隔Dは、ドロップレットの間隔L以下なので、波形Sa1'はドロップレットDLaが横切ったことを表す信号と言える。即ち、波形Sa1と波形Sa1'との時間差Ta1は、ドロップレットDLaが2つのレーザビームLB1a及びLB1bの間の距離Dを進行するのに要した時間である。
従って、速度計測部161は、次式を用いてドロップレットDLaの速度va1を算出する。
a1=D/Ta1
【0045】
同様にして、速度計測部163は、速度モニタ63の出力信号(波形Sa2、Sa2'、Sb2、Sb2'、…)に基づいて、計測用加速器62によって加速された後のドロップレットの速度vを算出する。
a2=D/Ta2
ここで、Ta2は、ドロップレットDLaが2つのレーザビームLB2a及びLB2bの間の距離Dを進行するのに要した時間である。
【0046】
さらに、帯電量計算部164は、速度計測部161及び163による計測結果(速度va2及びva1)と、ドロップレットDLaの質量mと、計測用電源装置162が加速用電極621及び622に供給した電圧値Vとを用いて、ドロップレットDLaの帯電量Qを次式により計算する。
QV=(1/2)m(va2−va1
Q=(1/2)m(va2−va1)/V
このように、速度モニタ61の出力信号(波形Sa1、Sa1'、Sb1、Sb1'、…)及び速度モニタ63の出力信号(波形Sa2、Sa2'、Sb2、Sb2'、…)を用いることにより、順次噴射されるドロップレットDLa、DLb、…の帯電量が求められる。
【0047】
なお、速度モニタ61を通過したドロップレットDLaと、速度モニタ63を通過したドロップレットDLaとの同一性(即ち、波形Sa1及びSa1'と波形Sa2及びSa2'とが、同じドロップレットを表す波形であること)は、パルスの発生順序や時間間隔の範囲等の関係に基づいて、同一のドロップレットに関する波形Sa1及びSa1'並びに波形Sa2及びSa2'の組合せを予め取得しておくことによって判断することができる。例えば、ドロップレットに対して計測用の加速を行う前に、速度モニタ61により計測されるドロップレットの速度と、速度モニタ61と速度モニタ63との間の距離とを求めておき、それらに基づいて、速度モニタ61を通過したドロップレットDLaが速度モニタ63を通過する時刻を予測することができる。
【0048】
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、帯電ドロップレットの帯電量に基づいて電荷供給装置や加速器を制御することにより、加速後のドロップレットの速度を一定に維持することができるようになる。それにより、ドロップレットをプラズマ発光点に正確なタイミングで到達させることができるので、ワーキングディスタンスを大きく取れるようになる。その結果、プラズマの影響によるターゲットノズルの損傷や劣化を抑制することが可能になる。
【0049】
本実施形態においては、電荷供給装置に対するフィードバック制御と、加速器に対するフィードフォワード制御との両方を行っているが、いずれか一方のみの制御を行っても良い。
【0050】
また、本実施形態においては、液体のターゲット物質をノズルから噴射する場合について説明したが、本発明は、液滴状のターゲット物質や、液滴を噴射した後に固体化した粒状のターゲット物質だけでなく、固体粒状のターゲット物質をノズルから噴射する場合に適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、露光装置等に用いられるLPP型EUV光源装置において用いられるターゲット供給装置に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
1…ターゲットノズル、2…ピエゾ素子、3…電荷供給装置、4…帯電量モニタ、5…加速器、6…制御部、7…帯電量計測部、8…帯電量制御部、9…加速器制御部、11…真空チャンバ、12…排気ポンプ、13…ターゲット物質供給装置、14…レーザ発振器、15…集光レンズ、16…EUV集光ミラー、17…ターゲット回収筒、18…レーザビーム、19、43、53…プラズマ、21…帯電用電極、22…帯電用電源装置、31…電子銃、32…電子銃用電源装置、41…プラズマ管、42…プラズマ管用電源装置、51…プラズマトーチ、52…プラズマトーチ用電源装置、61、63…速度モニタ、62…計測用加速器、161、163…速度計測部、162…計測用電源装置、163…帯電量計算部、611、613、631、633…レーザ、612、614、632、634…受光素子、621、622…加速用電極、101…ドロップレット、102…帯電ドロップレット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源から出力されたレーザ光をターゲット物質に照射することにより、前記ターゲット物質をプラズマ化して極端紫外光を放射させる極端紫外光源装置において用いられるターゲット供給装置であって、
液滴状又は固体粒状のターゲット物質を噴射するターゲットノズルと、
前記液滴状又は固体粒状のターゲット物質を帯電させる電荷供給装置と、
前記電荷供給装置によって帯電させられたターゲット物質の帯電量を計測する帯電量計測装置と、
前記帯電量計測装置の計測結果に基づいて、前記電荷供給装置をフィードバック制御する制御手段と、
前記電荷供給装置によって帯電させられたターゲット物質を加速する加速器と、
を具備する前記ターゲット供給装置。
【請求項2】
前記帯電量計測装置の計測結果に基づいて前記加速器を制御する第2の制御手段をさらに具備する請求項1記載のターゲット供給装置。
【請求項3】
レーザ光源から出力されたレーザ光をターゲット物質に照射することにより、前記ターゲット物質をプラズマ化して極端紫外光を放射させる極端紫外光源装置において用いられるターゲット供給装置であって、
液滴状又は固体粒状のターゲット物質を噴射するターゲットノズルと、
前記液滴状又は固体粒状のターゲット物質を帯電させる電荷供給装置と、
前記電荷供給装置によって帯電させられたターゲット物質の帯電量を計測する帯電量計測装置と、
前記電荷供給装置によって帯電させられたターゲット物質を加速する加速器と、
前記帯電量計測装置の計測結果に基づいて前記加速器を制御する制御手段と、
を具備する前記ターゲット供給装置。
【請求項4】
前記制御手段が、前記電荷供給装置によって帯電させられるターゲット物質の帯電量が一定となるように前記電荷供給装置をフィードバック制御する、請求項1又は2記載のターゲット供給装置。
【請求項5】
前記第2の制御手段又は前記制御手段が、前記加速器によって加速された後のターゲット物質の速度が一定となるように前記加速器をフィードフォワード制御する、請求項2又は3記載のターゲット供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−253818(P2011−253818A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155077(P2011−155077)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【分割の表示】特願2006−88245(P2006−88245)の分割
【原出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「極端紫外線(EUV)露光システムの基盤開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【出願人】(300073919)ギガフォトン株式会社 (227)
【Fターム(参考)】