説明

タービンエンジンのタービンホイールの周囲へのリングセクタの固定装置

【課題】タービンエンジン内でタービンホイールを中心としてリングセクタを固定する装置を提案する。
【解決手段】タービンエンジン内にタービンホイール(18)を中心としてリングセクタ(20)を固定する装置であって、各リングセクタが、その上流端に、環状ロック部材(50)によりカウリングの環状レール(48)で保持可能な周方向の縁(44)を含み、下流端に、タービンの固定部材(38)で軸方向に当接支持可能な部品(70)を含んで、レール(48)が著しく磨耗した場合にロック部材(50)からリングセクタ(20)の上流縁(44)が外れないようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機のターボジェットエンジンまたはターボプロップエンジン等のタービンエンジン内で、タービンホイールの周囲にリングセクタを固定する装置に関する。
【0002】
タービンエンジンのタービンは、タービンカウリングにより支持される環状一列の固定羽根からなるディストリビュータと、タービンカウリングに周方向に突き合わせ固定されるリングセクタからなるほぼ円筒形または円錐台形のエンベロープ内で、ディストリビュータの下流に回転式に取り付けられるホイールとをそれぞれが備えた、複数の段を含む。
【背景技術】
【0003】
リングセクタは、その上流端に、カウリングの環状レールの半径方向内側の環状溝に軸方向のわずかな隙間を伴って係合される周方向の縁を含み、この縁が、C字形断面の環状ロック部材により前記溝で半径方向に保持され、前記ロック部材が、カウリングの環状レールと、リングセクタの周方向の縁とに上流から軸方向に係合される。リングセクタは、レールの溝のそれぞれ上流面と下流面で周方向の縁を係止することにより軸方向に保持される。
【0004】
リングセクタの縁は、カウリングレールおよびロック部材よりも「反りを与えられており」、すなわち、リングセクタの縁の曲率半径が、カウリングレールおよびロック部材の曲率半径より大きい。これにより、レールの溝の底とロック部材との間に、半径方向の一定のプレストレスを伴ってリングセクタの縁を取り付けて、溝内でのリングセクタの縁の軸方向移動を制限することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
動作時には、リングセクタとカウリングとの熱膨張差によって、この半径方向のプレストレスが増加し、リングセクタの縁とカウリングレールとの間の接触点領域に印加される。しかし、このプレストレスは、上記の接触点領域でリングセクタの縁が磨耗し、またカウリングが磨耗すれば、時間と共に徐々になくなっていく。半径方向のプレストレスがゼロになると、リングセクタの縁は、カウリングの溝内で軸方向に移動し、カウリングの溝の上流面と下流面との摩擦により磨耗する可能性がある。
【0006】
この磨耗が一定値を越えると、リングセクタの縁が溝内で下流に移動し、ロック部材との係合がはずれ、これが、タービンの軸側へのリングセクタの揺動となって現れて、リングセクタとタービンホイールとが接触する危険性が生じ、それによってリングセクタおよびホイールが壊れることがある。
【0007】
本発明は、特に、この問題に、簡単かつ経済的で有効な解決方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため、本発明は、タービンエンジン内でタービンホイールを中心としてリングセクタを固定する装置を提案し、各リングセクタが、内面に固定される研磨材料ブロックを支持する円錐台形の壁を含んでおり、前記壁が、その上流端に、カウリングの環状レールの半径方向内側の環状溝に係合される周方向の縁を含み、この縁が、C字形断面の環状ロック部材により前記溝で半径方向に保持され、前記ロック部材が、カウリングの環状レールと、リングセクタの周方向の縁とに上流から軸方向に係合され、各リングセクタが、その下流端に、円錐台形の壁と、リングセクタの研磨材料ブロックとに嵌合固定される部品を含み、前記部品が、タービンの固定部材で軸方向に当接支持されて、壁の上流縁がロック部材から外れないようにし、支持部品と固定部材との間の軸方向の隙間が、ロック部材で壁の上流縁を支持する軸方向の長さ以内であることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、各リングセクタの下流端に設けられた支持部品は、カウリングのレールの溝でリングセクタの上流縁が後退しうる場合はこれを制限し、この縁がロック部材から外れないようにする。
【0010】
カウリングのレールが著しく磨耗した場合でも、上流では、上流縁がカウリングのレールの対応面で支持され、下流では、支持部品が固定部材で支持されるので、リングセクタは軸方向に保持される。
【0011】
有利には、支持部品が、固定部材で半径方向に支持可能な手段を含む。
【0012】
このようにして、各リングセクタは、軸方向および半径方向で、固定部材に固定される。
【0013】
本発明の別の特徴によれば、支持部品は、蝋付けまたは溶接により、壁の下流端と、研磨材料からなるブロックとに固定される。
【0014】
経済的な観点から、支持部品がリングセクタにあることが有利である。何故なら、それによって、リングセクタの製造金型の補正が回避されるからである。さらに、本発明による装置によって、カウリングのレールの磨耗とは無関係に、このレールにリングセクタを連結できる。
【0015】
支持部品と固定部材との間の軸方向の隙間は、ロック部材でリングセクタの上流縁を支持する軸方向の長さ以内とする。これにより、リングセクタの最大後退位置は、固定部材での支持部品の軸方向支持により確実に決定される。支持部品と固定部材との間のこのような軸方向の隙間は、たとえば約0.3から1.2mmである。
【0016】
本発明の好適な実施形態では、支持部品の断面がF字形であり、下流に延びる円筒部分からなる2個の縁を含み、前記縁の一方が、リングセクタの壁の半径方向内面に固定され、前記縁の他方が、固定部材の円筒縁の半径方向外面で半径方向に支持可能である。
【0017】
有利には、タービンエンジンの固定部材が、リングセクタの下流に配置されるタービンディストリビュータから構成される。
【0018】
本発明は、また、上記のような少なくとも一つの装置を含む、航空機のターボジェットエンジンまたはターボプロップエンジン等のタービンエンジン、およびタービンエンジンのタービンに関する。
【0019】
さらに、本発明は、タービンエンジンのタービン用のリングセクタに関し、該リングセクタが、内面に固定された研磨材料からなるブロックを支持する円錐台形の壁を含み、前記壁が、その上流端に、カウリングへの連結縁を含んでおり、また、下流端に、前記壁と、リングセクタの研磨材料ブロックとに嵌合固定される軸方向および半径方向の支持部品を含むことを特徴とする。
【0020】
好適には、支持部品が、研磨材料からなるブロックと、リングセクタの壁の下流端とに、溶接または蝋付けにより固定される。
【0021】
本発明は、添付図面に関して限定的ではなく例として挙げた以下の説明を読めば、いっそう理解され、本発明の他の特徴、細部、および長所が明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1に部分的に示したタービン10は、複数の段を含んでおり、各段が、タービンのカウリング16により支持される環状一列の固定羽根14からなるディストリビュータ12、13と、このディストリビュータ12、13の下流に取り付けられて、ほぼ円錐台形のエンベロープ内で回転するホイール18とを含み、前記エンベロープが、タービンのカウリング16により周方向に突き合わせ支持されるリングセクタ20から形成される。
【0023】
ディストリビュータ12、13は、それぞれ外側の回転壁22と内側の回転壁(図では見えず)とを含み、これらの壁が、相互の間に、タービン内でガスが流れる環状の流管を画定し、また、この壁の間に、羽根14が半径方向に延びている。ディストリビュータの固定手段は、上流に向けて配向された少なくとも一つの外部円筒縁24を含み、この縁は、カウリング16の下流に向けて配向された環状溝26に係合されるように構成されている。
【0024】
ホイール18は、タービンシャフト(図示せず)により支持される。ホイールは、外部シュラウド(virole)28と、内部シュラウド(図では見えず)とをそれぞれ含み、各ホイールの外部シュラウド28は、リングセクタ20によりわずかな隙間を伴って外側から囲まれる外側環状リブ30を含む。
【0025】
各リングセクタ20は、円錐台形の壁32と、この壁32の半径方向内側の面に蝋付けおよび/または溶接により固定される研磨材料からなるブロック34とを含み、このブロック34が、蜂巣状構造であり、ホイールのリブ30で摩擦されて磨耗し、ホイールとリングセクタ20との間の半径方向の隙間を最小化するように構成されている。
【0026】
リングセクタ20の下流端は、環状スペース36内に上流から係合される。この環状スペース36は、リングセクタの下流に配置されるディストリビュータ13の外壁22の上流に向かって配向された円筒縁38と、ディストリビュータが連結されるカウリングの円筒縁39とによって画定される。
【0027】
リングセクタ20は、カウリングの縁39の半径方向内側の円筒面で壁32を半径方向外側に支持し、また、ディストリビュータの円筒縁38の半径方向外側の円筒面で研磨材料のブロック34を半径方向内側に支持することによって、下流端で半径方向に保持されている。
【0028】
リングセクタの壁32は、それぞれが、下流端に、軸方向下流に延びる脚部40を含み、この脚部は、下流のディストリビュータ13の対応する空洞42に係合されて、タービンの軸を中心とするリングセクタ20の回転をブロックするように構成されている。
【0029】
リングセクタ20の円錐台形の壁32は、また、それらの上流端に、上流に向かって配向された円筒形の縁44を含み、これらの縁が、カウリング16の環状レール48の半径方向内側の環状溝46にわずかな隙間を伴って係合されている。縁44は、C字形の断面のスリットリングからなるロック部材50によって、前記溝で半径方向に保持される。このロック部材は、カウリングの環状レール48と、リングセクタの上流縁44とに上流から係合される。
【0030】
ロック部材50は、それぞれ半径方向外側と半径方向内側とで下流に延びる2個の円筒分枝52、54を含む。これらの円筒分枝は、半径方向の壁56により上流端で互いに結合され、レール48の半径方向外側の円筒面と、リングセクタ20の周方向の縁44とにそれぞれ押し当てられる。
【0031】
図示された例では、リングセクタ20の上流に配置されるディストリビュータ12の外壁22の半径方向の環状縁58で、半径方向の壁56を軸方向に支持することにより、ロック部材50が軸方向上流に移動しないようにしている。
【0032】
ロック部材50とレール48との曲率半径は、リングセクタ20の縁44よりも小さいので、リングセクタの縁44を、一定の半径方向のプレストレスを伴ってレールの溝46に取り付けることができる。これらのリングセクタは、それぞれ、溝の底と、ロック部材の半径方向内側の分枝54とにより、局部的に半径方向に支持される。
【0033】
動作時に、リングセクタ20の縁44は軸方向に振動し、レールの溝46の上流面と下流面とが摩擦により磨耗する。
【0034】
溝46の下流面が著しく磨耗すると(破線60で示したように)、縁44は、ロック部材の半径方向内側の分枝54上で摺動しながら下流に移動し、ロック部材から外れる可能性がある。これによって、特に、リングセクタの研磨材料ブロック34が、ホイール18の環状溝30と接して破壊されることがある。
【0035】
本発明は、リングセクタの下流端に嵌合固定された支持部品により、この問題を簡単に解決することを可能にする。
【0036】
図2に示した本発明の実施形態では、支持部品70がF字形の断面を有し、それぞれ、半径方向外側と内側とで下流に向かって配向された円筒部分からなる2個の縁72、74を含む。これらの縁は、半径方向の壁76により上流端で互いに結合されている。
【0037】
外側の縁72の半径方向外側の面は、溶接または蝋付けにより、リングセクタの壁32の半径方向内側の面の下流端部分に当接固定され、半径方向の壁76は、蝋付けまたは溶接により、リングセクタ20の研磨材料ブロック34の半径方向の片面に当接固定されている。
【0038】
各リングセクタは、下流端で半径方向に保持される。これは、下流のディストリビュータの円筒縁38で支持部品70の内縁74を半径方向に支持し、また、カウリング16の円筒形の縁39の半径方向内側の面で壁32を半径方向に支持することで行われる。
【0039】
リングセクタは、上流端では、図1に関して既に説明したように軸方向に保持されており、また、下流端では、下流のディストリビュータ13の円筒縁38の上流端で、前記支持部品の半径方向の壁76を下流に向かって軸方向に支持することによって、軸方向に保持される。
【0040】
支持部品70の半径方向の壁76は、軸方向の隙間78によりディストリビュータ13の円筒形の縁38から隔てられている。この隙間は、リングセクタの縁44をロック部材50で支持する軸方向の長さ80以内とし、それによって、レールの溝46の下流面の磨耗が著しい場合、支持部品70の半径方向の壁76をディストリビュータの円筒形の縁38で軸方向に支持し、リングセクタの縁44が前記溝で後退しうる場合はこれを制限し、ロック部材50から外れないようにする。軸方向の隙間は、たとえば約0.3から1.2mmである。
【0041】
カウリングのレール48が磨耗しない限り、あるいは磨耗が少ない限り、図1に関して既に説明したように、すなわち、レールの溝46のそれぞれ上流面および下流面でリングセクタの縁44が軸方向に支持されて、リングセクタ20は、カウリング16で軸方向に保持される。
【0042】
溝の上流に向かって配向される面が著しく磨耗するか、または完全になくなってしまう場合(破線82で示したように)、支持部品70の半径方向の壁76が下流のディストリビュータの円筒形の縁38により軸方向に支持され、リングセクタ20は、下流に向かって軸方向に保持される。
【0043】
支持部品70は、従来技術の既存のリングセクタの下流端に嵌合固定可能である。そのためには、リングセクタの研磨材料ブロック34の下流端部分をなくし、代わりに、蝋付けまたは溶接によって、軸方向および半径方向の支持部品70をそこに固定すれば充分である。
【0044】
変形実施形態では、支持部品が、ディストリビュータの上流縁38で軸方向支持手段だけを含むことができ、リングセクタは、従来技術の場合と同様に、この上流縁でブロック34を半径方向に支持することによって、下流端で半径方向内側に保持される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】従来技術によるリングセクタの固定装置の軸方向部分断面概略図である。
【図2】本発明によるリングセクタの固定装置の軸方向部分断面概略図である。
【符号の説明】
【0046】
10 低圧タービン
12、13 ディストリビュータ
14 固定羽根
16 カウリング
18 ホイール
20 リングセクタ
22 外部回転壁
24 外部円筒縁
26 環状の溝
28 外部シュラウド
30 外部環状リブ
32 円錐台形の壁
34 ブロック
36 環状スペース
38、40、46、70 円筒縁
42 脚部
44 空洞
48 環状溝
50 環状レール
52、80 ロック部材
54、56、84、86 円筒壁
58、82 半径方向の壁
60 外部環状壁
72 環状フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンエンジン内にタービンホイール(18)を中心としてリングセクタ(20)を固定する装置であって、各リングセクタ(20)が、その内面に固定される研磨材料ブロック(34)を支持する円錐台形の壁(32)を含んでおり、前記壁が、その上流端に、カウリングの環状レール(48)の半径方向内側の環状溝に係合されてC字形断面の環状ロック部材(50)により前記溝で半径方向に保持される周方向の縁(44)を含み、前記ロック部材が、カウリングの環状レールと、リングセクタの周方向の縁とに上流から軸方向に係合され、各リングセクタ(20)が、その下流端に、円錐台形の壁(32)と、リングセクタの研磨材料ブロックとに嵌合固定される部品(70)を含み、前記部品が、タービンの固定部材で軸方向に当接支持されて、壁(32)の上流縁(44)がロック部材(50)から外れないようにし、支持部品(70)と固定部材との間の軸方向の隙間(78)が、ロック部材(50)で壁(32)の上流縁(44)が支持される軸方向の長さ(80)未満であることを特徴とする、装置。
【請求項2】
支持部品(70)が、固定部材で半径方向に支持可能な手段を含むことを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
支持部品(70)が、蝋付けまたは溶接により、壁(32)の下流端と、研磨材料ブロックとに固定されることを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
支持部品(70)と固定部材との軸方向の隙間(78)が、約0.3から1.2mmであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
支持部品(70)の断面がF字形であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
支持部品(70)が、下流に延びる円筒部分からなる2個の縁(72、74)を含み、前記縁の一方(72)が、リングセクタ(20)の壁(32)の半径方向内面に固定され、前記縁の他方(74)が、固定部材の円筒縁(38)の半径方向外面で半径方向に支持可能であることを特徴とする、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
固定部材が、タービンのディストリビュータ(13)の一部をなすことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の少なくとも一つの装置を含むことを特徴とする、航空機のターボジェットエンジンまたはターボプロップエンジン等のタービンエンジン。
【請求項9】
内面に固定された研磨材料ブロック(34)を支持する円錐台形の壁(32)を含み、前記壁が、その上流端に、カウリング(16)への連結縁(44)を含む、タービンエンジンのタービン用のリングセクタ(20)であって、下流端に、前記壁(32)と、リングセクタの研磨材料ブロックとに嵌合固定される軸方向および半径方向の支持部品(70)を含むことを特徴とする、リングセクタ。
【請求項10】
支持部品(70)が、研磨材料ブロックと、リングセクタの壁(32)の下流端とに、溶接または蝋付けにより固定されることを特徴とする、請求項9に記載のリングセクタ(20)。
【請求項11】
請求項1から7のいずれか一項に記載の少なくとも一つの装置を含むことを特徴とする、タービンエンジンのタービン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate