説明

ターピリジン型モノマー、および、その製造方法

【課題】 本発明の目的は、金属とより強固に配位可能なポリマーを合成するに好ましいターピリジン型モノマー、および、その製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明のターピジン型モノマーは、式(1)で表され、XおよびXは、同一または異なるハロゲン元素であり、Rは、式(3)〜式(6)からなる群から選択されるスペーサであり、スペーサは、式(1)に示されるターピリジル置換基(A)とXとに直接結合し、X以外のハロゲン元素と直接結合せず、RおよびRは、同一または異なる、水素原子、アリ−ル基またはアルキル基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターピリジン型モノマーおよびその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、金属に対して強い配位性能を有するターピリジン型モノマーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新たな特性を有する機能性材料の研究が盛んに行われている。有機高分子と金属とを組み合わせることによって、これらの特性を利用した光、電子、磁気、触媒機能の発現が期待されている。このような有機高分子−金属複合材料は、発光素子、エネルギー変換材料、薬剤輸送、センサ、高機能触媒、太陽電池等に応用可能である。
【0003】
有機高分子は、ソフトマテリアルと呼ばれており、極めて自由度の高いスパゲッティ状分子構造を有する。有機高分子は、また、分子量分布を有するので、単純に金属と複合化させても、統計的な混合物を与えるに過ぎない。そのため上記のような機能を発現させた有機高分子−金属複合材料を得るための有機高分子として、金属と配位可能な配位子ポリマーが必要である。このような配位性ポリマーとして、ビピリジル誘導体を用いた技術がある(例えば、特許文献1を参照。)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の有機高分子−金属複合材料は、金属原子を介してポリマーを形成してなる。そのため、金属原子の価数の変化、酸等の環境の変化によって、金属原子とビピリジル誘導体との間の結合力が低下し、ポリマーが分解し得る。したがって、金属原子とより強固に配位可能な配位子ポリマーが望ましい。
【0005】
また、特許文献1に記載の有機高分子−金属複合材料とは異なり、ポリマーの主鎖が金属原子を包括できれば、ポリマーの強度を向上させることができるだけでなく、金属原子とポリマーとのさらなる相互作用も期待できる。
【0006】
したがって、本発明の目的は、金属とより強固に配位可能なポリマーを合成するに好ましいターピリジン型モノマー、および、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるターピリジン型モノマーは、式(1)で表され、
【化1】


ただし、XおよびXは、同一または異なるハロゲン元素であり、Rは、式(3)〜式(6)からなる群から選択されるスペーサであり、
【化2】


前記スペーサは、前記式(1)に示されるターピリジル置換基(A)と前記Xとに直接結合し、前記X以外のハロゲン元素と直接結合せず、RおよびRは、同一または異なる、水素原子、アリ−ル基またはアルキル基であり、これにより上記課題を達成する。
前記ターピリジル置換基(A)は、式(2)に示されるさらなるハロゲン元素Xを含み、
【化3】


前記Xは、前記Xおよび/またはXと同一または異なるハロゲン元素であってもよい。
本発明によるターピリジン型モノマーを製造する方法は、式(7)で示される2−アセチルピリジン誘導体とヨウ素とをピリジン中で還流させる工程と、式(8)で示されるアリールアルデヒド誘導体と、式(9)で示される2−アセチルピリジン誘導体とをアルカリ溶液中で反応させる工程と、前記還流させる工程で得られた反応物と、前記反応させる工程で得られた反応物とを、酢酸アンモニアおよびメタノールで還流させる工程とを包含し、
【化4】


ただし、XおよびXは、同一または異なるハロゲン元素であり、RおよびRは、同一または異なる、水素原子、アリ−ル基またはアルキル基であり、Rは、式(3)〜式(6)からなる群から選択されるスペーサであり、
【化5】


前記スペーサは、前記式(8)に示されるアルデヒド基と前記Xとに直接結合し、前記X以外のハロゲン元素と直接結合せず、これにより上記課題を達成する。
前記式(9)におけるピリジン環は、さらなるハロゲン元素Xを含み、前記Xは、前記Xおよび/またはXと同一または異なってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によるターピリジン型モノマーは、ハロゲン元素XおよびXを式(1)に示される位置に有する。このようなハロゲン元素は他の置換基への置換も容易である。これによって種々の置換基を有する誘導体の合成が可能となる。このようなモノマーは、容易に縮合され、その結果、従来得られなかった、金属に対して高配位能を有するポリマーが得られ得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ターピリジン型モノマーの製造工程を示す図。
【図2】ビスターピリジン型モノマーの製造工程を示す図。
【図3】本発明による有機高分子−金属複合材料の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
(実施の形態1)
本発明によるターピリジン型モノマーは、式(1)に示される。
【化6】

【0012】
ここで、XおよびXは、同一または異なるハロゲン元素であり、好ましくは、臭素、塩素、ヨウ素であり、もっとも好ましくは臭素である。これは、臭素がもっとも反応性が高いためである。また、Xは、末端ピリジンの任意の位置に位置し得るが、好ましくは、末端ピリジンの窒素原子に隣接して位置し得る。これによって、XとXとが、水平方向に配列した状態となるので、ターピリジン型モノマーを縮合した際に直線状のポリマーを得ることができる。
【0013】
本発明のターピリジン型モノマーは、さらに式(2)で示されるさらなるハロゲン元素Xを含んでもよい。ここでもXは、Xおよび/またはXと同一または異なるハロゲン元素であり、末端ピリジンの任意の位置に位置し得るが、好ましくは、上述と同様の理由により末端ピリジンの窒素原子に隣接して位置し得る。
【化7】

【0014】
Rは、ターピリジル置換基(A)とXとを結合する少なくとも1つのベンゼン環を含むスペーサである。
【0015】
スペーサは、例えば、任意のアルキル基、アリール基であり得る。
【0016】
スペーサは、好ましくは、式(3)〜式(6)からなる群から選択される。これらは、分解点(融点)が高いため、得られるターピリジン型モノマーの温度耐性を向上させることができる。また、いずれも共役系アリール基であるため、電子の受け渡しが容易である。このようなアリール基を用いたターピリジン型モノマーは、電子材料として有利である。また、これらアリール基は、アルキル基に比べて骨格形状が明瞭であるため、ターピリジン型モノマーの方向性を制御することができ、材料設計に有利であり得る。
【化8】

【0017】
およびRは、同一または異なる、水素原子、アリール基またはアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−ブチル基、t−ブチル基、フェニル基、トルイル基があるが、これらに限定されない。また、これらアリール基またはアルキル基は、さらに置換基を有していてもよい。このような置換基は、例えば、メチル基、エチル基、ヘキシル基等のアルキル基、メトキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、および、塩素、臭素等のハロゲン基がある。
【0018】
式(1)に示されるターピリジン型モノマーにおいて、従来、ターピリジル基自身への金属原子の配位を阻害するため、ターピリジル基にXまたはXで示されるハロゲン元素または置換基を設ける発想はなかった。当然のことながら、従来のターピリジル基を用いて、実施の形態3で後述するような金属原子を包括するポリマーを得ることは想到し得なかったのを理解されたい。
【0019】
次に、式(1)に示されるターピリジン型モノマーの製造方法を説明する。
【0020】
図1は、ターピリジン型モノマーの製造工程を示す図である。
工程ごとに説明する。
【0021】
工程S110:式(7)で示される2−アセチルピリジン誘導体とヨウ素とをピリジン中で還流させる。これによってピリミジウム塩が得られる。
【0022】
工程S120:式(8)で示されるアリールアルデヒド誘導体と、式(9)で示される2−アセチルピリジン誘導体とをアルカリ溶液中で反応させる。アルカリ溶液は、2−アセチルピリジン誘導体をエノール化し得る。反応は、室温にて少なくとも24時間以上攪拌すればよい。
【0023】
工程S130:工程S110および工程S120で得られた反応物を酢酸アンモニアおよびメタノール中で還流させる。ここで、酢酸アンモニアは反応剤として機能し、メタノールは溶媒である。
【化9】

【0024】
ここで、XおよびXは、同一または異なるハロゲン元素であり、好ましくは、臭素、塩素、ヨウ素であり、もっとも好ましくは臭素である。また、Xは、末端ピリジンの任意の位置に位置し得るが、好ましくは、窒素原子に隣接して位置し得る。これによって、工程S130で得られる最終生成物において、XとXとが、水平方向に配列した状態となる。
【0025】
式(9)に示される2−アセチルピリジン誘導体は、さらに、ハロゲン元素Xを含んでもよい。ここでもXは、Xおよび/またはXと同一または異なるハロゲン元素であり、末端ピリジンの任意の位置に位置し得るが、好ましくは、窒素原子に隣接して位置し得る。これによって、工程S130で得られる最終生成物において、XおよびXとXとが、水平方向に配列した状態となる。
【0026】
Rは、アルデヒドとXとを結合する少なくとも1つのベンゼン環を含むスペーサである。スペーサは、式(3)〜式(6)からなる群から選択される。
【化10】

【0027】
およびRは、同一または異なる、水素原子、アリール基またはアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−ブチル基、t−ブチル基、フェニル基、トルイル基があるが、これらに限定されない。また、これらアリール基またはアルキル基は、さらに置換基を有していてもよい。このような置換基は、例えば、メチル基、エチル基、ヘキシル基等のアルキル基、メトキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、および、塩素、臭素等のハロゲン基がある。
【0028】
本発明によるターピリジン型モノマーは、ターピリジル基にハロゲン元素を有しているので、金属原子を介した配位性ポリマーだけでなく、金属原子を主鎖に包括可能なポリマーを合成するに好ましい。
【0029】
(実施の形態2)
本発明によるビスターピリジン型モノマーは、式(10)に示される。
【化11】

【0030】
ビスターピリジン型モノマーは、第1のターピリジル置換基(A)と、第2のターピリジル置換基(B)と、第1のターピリジル置換基(A)と第2のターピリジル置換基(B)とを結合するスペーサRとを含む。
【0031】
第1のターピリジル置換基(A)におけるXは、実施の形態1と同様に、ハロゲン元素であり、好ましくは、臭素、塩素、ヨウ素であり、もっとも好ましくは臭素である。これは、実施の形態1と同様に反応性が高いためである。また、Xは、末端ピリジンの任意の位置に位置し得るが、好ましくは、末端ピリジンの窒素原子に隣接して位置し得る。
【0032】
、R、RおよびRは、すべて同一、すべて異なる、または、一部同一の水素原子、アリール基またはアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−ブチル基、t−ブチル基、フェニル基、トルイル基があるが、これらに限定されない。また、これらアリール基またはアルキル基は、さらに置換基を有していてもよい。このような置換基は、例えば、メチル基、エチル基、ヘキシル基等のアルキル基、メトキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、および、塩素、臭素等のハロゲン基がある。
【0033】
スペーサRは、少なくとも1つのベンゼン環を含み、例えば、アリール基またはアルキル基であり得る。スペーサRは、好ましくは、式(3)〜(6)からなる群から選択される。これは、実施の形態1と同様に、これらは、分解点(融点)が高いため、得られるターピリジン型モノマーの温度耐性を向上させることができる。また、いずれも共役系アリール基であるため、電子の受け渡しが容易である。このようなアリール基を用いたターピリジン型モノマーは、電子材料として有利である。また、これらアリール基は、アルキル基に比べて骨格形状が明瞭であるため、ターピリジン型モノマーの方向性を制御することができ、材料設計に有利であり得る。
【化12】

【0034】
式(10)に示されるビスターピリジン型モノマーの第2のターピリジル置換基(B)は、式(11)に示されるようにさらなるハロゲン元素Xを含む。
【化13】

【0035】
さらなるハロゲン元素Xは、臭素、塩素、ヨウ素であり、もっとも好ましくは臭素であり、Xと同一であってもよいし、異なっていてもよい。Xは、末端ピリジンの任意の位置に位置し得るが、好ましくは、窒素原子に隣接して位置し得る。これにより、ビスターピリジル型モノマーが縮合すると、直鎖状のポリマーが得られる。
【0036】
式(11)に示されるビスターピリジン型モノマーの第1のターピリジル置換基(A)は、式(12)に示されるようにさらなるハロゲン元素Xを含む。
【化14】

【0037】
さらなるハロゲン元素Xは、臭素、塩素、ヨウ素であり、もっとも好ましくは臭素であり、Xおよび/またはXと同一であってもよいし、異なっていてもよい。Xは、末端ピリジンの任意の位置に位置し得るが、好ましくは、窒素原子に隣接して位置し得る。これにより、ビスターピリジル型モノマーが縮合すると、直鎖状のポリマーが得られる。
【0038】
式(12)に示されるビスターピリジン型モノマーの第2のターピリジル置換基(B)は、式(13)に示されるようにさらなるハロゲン元素Xを含む。
【化15】

【0039】
さらなるハロゲン元素Xは、臭素、塩素、ヨウ素であり、もっとも好ましくは臭素であり、X、Xおよび/またはXと同一であってもよいし、異なっていてもよい。Xは、末端ピリジンの任意の位置に位置し得るが、好ましくは、窒素原子に隣接して位置し得る。これにより、ビスターピリジル型モノマーが縮合すると、直鎖状のポリマーが得られる。
【0040】
実施の形態1と同様に、式(10)〜(13)に示されるビスターピリジン型モノマーにおいても、ターピリジル基自身への金属原子の配位を阻害するX〜Xで示されるハロゲン元素または置換基を設ける発想はなかった。当然のことながら、実施の形態3で後述するような金属原子を包括するポリマーを得ることは想到し得なかった。実施の形態2によるビスターピリジン型モノマーは、実施の形態1の式(1)に示されるターピリジン型モノマーと比べて、ターピリジル基が2つあるため、より多くの金属原子を包括できる。その結果、より大きな金属原子とポリマーとの相互作用が期待され、新規デバイスへ応用され得る。
【0041】
次に、式(10)に示されるビスターピリジン型モノマーの製造方法を説明する。
【0042】
図2は、ビスターピリジン型モノマーの製造工程を示す図である。
【0043】
工程ごとに説明する。
【0044】
工程S210:式(7)で示される2−アセチルピリジン誘導体と、式(14)で示される2−アセチルピリジン誘導体とをヨウ素およびピリジン中で還流させる。これによって生成物210および生成物220が得られる。生成物210および220は、いずれも、ピリミジウム塩である。
【0045】
工程S220:式(15)で示されるアリールジアルデヒド誘導体と、式(16)で示される群から少なくとも1つ選択される2−アセチルピリジン誘導体とをアルカリ溶液中で反応させる。アルカリ溶液は、2−アセチルピジン誘導体をエノール化し得る。反応は、室温にて少なくとも24時間攪拌すればよい。2−アセチルピリジン誘導体は、アリールジアルデヒド誘導体に対して2当量となるように選択される。これによって生成物230、生成物240または生成物250のいずれかが得られる。
【0046】
工程S230:工程S210および工程S220で得られた反応物を酢酸アンモニアおよびメタノール中で還流させる。ここで、生成物210および生成物220は、生成物230〜250のいずれかと反応し、ビスターピリジン型モノマー200を得る。
【化16】

【0047】
ここで、Xは、ハロゲン元素であり、好ましくは、臭素、塩素、ヨウ素であり、もっとも好ましくは臭素である。また、Xは、末端ピリジンの任意の位置に位置し得るが、好ましくは、窒素原子に隣接して位置し得る。
【0048】
また、式(14)における2−アセチルピリジン誘導体は、さらなるハロゲン元素Xを含んでもよい。ここで、ハロゲン元素Xは、Xと同一であってもよいし、異なっていてもよいが、好ましくは、臭素である。Xは、末端ピリジンの任意の位置に位置し得るが、好ましくは、窒素原子に隣接して位置し得る。これによって、工程230で得られる最終生成物200において、XとXとが、水平方向に配列した状態となる。
【0049】
同様に、式(16)における2−アセチルピリジン誘導体は、それぞれ、式(17)で示されるさらなるハロゲン元素Xおよび/またはXを含んでもよい。ハロゲン元素X、X、XおよびXは、すべて同一、すべて異なるまたは一部同一のいずれでもよいが、好ましくは、臭素である。また、ハロゲン元素XおよびXは、ピリジンの任意の位置に位置し得るが、好ましくは、窒素原子に隣接して位置し得る。これによって、最終生成物200において、すべてのハロゲン元素が水平方向に配列した状態となる。
【0050】
本発明によるビスターピリジン型モノマーは、2つのターピリジル基のうち少なくとも1つにハロゲン元素を有しているので、金属原子を介した配位性ポリマーだけでなく、金属原子を主鎖に包括可能なポリマーを合成可能である。
【0051】
(実施の形態3)
実施の形態1または実施の形態2で得られたモノマーの応用例を示す。
【0052】
実施の形態1で得られたモノマーから、例えば、式(18)で示されるポリマーが、実施の形態2で得られたモノマーから、例えば、式(19)で示されるポリマーが得られる。式(18)および(19)において、それぞれ、nは、2以上の整数である。
【化17】

【0053】
式(18)および(19)に示されるポリマーは、実施の形態1または実施の形態2で得られたモノマーを、ニッケル触媒または銅触媒の存在下で縮合することによって得られる。ニッケル触媒は、例えば、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケルと2,2’−ビピリジルとの混合物、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケルであり得る。銅触媒は、例えば、銅粉末であり得る。
【0054】
モノマーを溶媒(好ましくは有機溶媒)に溶解させ、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で縮合を行い得る。溶解は、例えば、脱水、脱気してもよい。縮合温度は、特に限定されないが、50℃〜100℃であれば反応が進行するため好ましい。
【0055】
図3は、本発明による有機高分子−金属複合材料の模式図を示す。
【0056】
図3(A)は、式(18)のポリマーに金属原子Mを配位させた複合材料を示し、図3(B)は、式(19)のポリマーに金属原子Mを配位させた複合材料を示す。
【0057】
図3(A)および(B)に示されるように、式(18)または(19)に示されるポリマーは、それぞれのターピリジル部位310に金属原子Mを包括することができる。すなわち、主鎖が金属原子を包括するため、ポリマーが金属原子によって分解することはない。特に、スペーサが実施の形態1および2で示したアリール基であれば、電子の授受も容易に行え、ポリマーの方向性も制御することができる。
【0058】
金属原子それ自体が電気化学的、分光学的、電磁気学的特性を有する。これらは、式(18)または(19)に示されるポリマーの影響を受けるため、適切な置換基を導入すれば、上記金属原子の特性を制御できる。これらポリマーに電気化学的、分光学的、電磁気学的特性を有する部位を導入した場合、金属原子が配位することによって、金属原子と上記部位との間で相互作用が起こり、ポリマーに由来する特性も制御できる。
【0059】
上記ポリマーを有機基盤材料として金属を集積させれば、新規特性を有する有機・金属複合高分子材料が得られ得る。そのような複合高分子材料は、発光素子、発光素子、エネルギー変換材料、薬剤輸送、センサ、高機能触媒、太陽電池等に利用可能である。また、実施の形態1または実施の形態2で説明したモノマーを出発原料としていればよく、その形状、組成は限定されないし、種々のポリマーと共重合させてもよいし、充填剤等の材料を含有させて成形体にしてもよい。
【0060】
次に、実施例を述べるが、本発明は実施例に限定されるものではないことに留意されたい。
【実施例1】
【0061】
200mlのフラスコ中で、2−アセチルピリジン誘導体として2−アセチル−6ブロモピリジンa(5.00g、25mmol)をピリジン(12ml)に溶解させ、ヨウ素(6.35g、25mmol)を加えて、100℃で還流させた。還流によって混合物は固化した。得られた個体をジエチルエーテル、次いで、精製水で洗浄し、減圧乾燥させ、ピリミジウム塩b(8.61g、収率85%)を得た。
【0062】
500mlのフラスコ中で、アリールアルデヒド誘導体として4−ブロモベンズアルデヒドc(5.00g、27mmol)を、アルカリ溶液として水酸化カルシウム(1.52g、27mmol)と水(10ml)とメタノール(75ml)とを含む溶液に溶解させた。4−ブロモベンズアルデヒドcが完全に溶解した後、2−アセチルピリジン誘導体として2−アセチルピリジンd(3.0ml、27mmol)をさらに加え、室温にて2日間攪拌させた。反応終了後、沈殿物を吸引ろ過し、固体をメタノールで洗浄し、減圧乾燥させ、エノンe(4.67g、収率60%)を得た。
【0063】
500mlフラスコ中で、ピリジウム塩b(4.92g、12.1mmol)とエノンe(3.50g、12.1mmol)とを、酢酸アンモニウム(23.4g、304mmol)および脱水メタノール(200ml)に加えて、12時間還流させた。
【0064】
得られた沈殿物を吸引ろ過し、水、メタノールで洗浄した。クロロホルム/ノルマルヘキサンで再沈殿させ、減圧乾燥させ、ジブロモターピリジンf(2.27g、収率40%)を得た。以上の操作を式(20)に示す。
【化18】

【0065】
得られたジブロモターピリジンfを重クロロホルムに溶解させ、核磁気共鳴(NMR分光法)を用いて同定した。用いた装置は、FT−NMR装置(JNM−AL(300/BZ)、JEOL、Japan)であった。同定結果を示す。
【0066】
H NMR(CDCl)δ=7.33−7.40(1H,m)、7.51−7.56(1H,m)、7.62−7.98(2H,m)、7.70−7.79(3H,m)、7.84−7.92(1H,m)、8.60−8.66(3H,m)、8.69−8.75(2H,m)
【0067】
これらの結果から、所望のジブロモターピリジンが得られたことが分かった。
【0068】
次いで、ジブロモターピリジンfに液体クロマトグラフ質量分析計LCMS(LCMS−IT−TOF、Shimadzu、Japan)を用いて高分解能質量分析(HRMS)を行った。同定結果を示す。
【0069】
分子式C2114Brの理論値は465.9549(M+H)であった。一方、実測値は、465.9559(m/z)であった。理論値と実測値との差は、誤差範囲内であることから、上述の分子式を有するジブロモターピリジンが得られたことが示された。
[参考例2]
【0070】
500mlのフラスコ中で、アリールジアルデヒド誘導体としてテレフタルカルボキシアルデヒドg(3.62g、27mmol)を、アルカリ溶液として水酸化カルシウム(3.03g、54mmol)と水(20ml)とメタノール(150ml)とを含む溶液に溶解させた。テレフタルカルボキシアルデヒドgが完全に溶解した後、2−アセチルピリジン誘導体として2−アセチルピリジンD(6.0ml、54mmol)をさらに加え、室温にて2日間攪拌させた。反応終了後、沈殿物を吸引ろ過し、固体をメタノールで洗浄し、減圧乾燥させ、対称ジエノンh(8.09g、収率88%)を得た。
【0071】
500mlフラスコ中で、実施例1で得られたピリジウム塩b(7.89g、19.5mmol)と対称ジエノンh(3.32g、9.74mmol)とを、酢酸アンモニウム(37.5g、487mmol)および脱水メタノール(250ml)に加えて、12時間還流させた。
【0072】
得られた沈殿物を吸引ろ過し、水、メタノール、次いで、酢酸で洗浄した。その後、沸騰したトルエンで抽出し、濃縮させた。得られた固体を、酢酸を用いて再結晶させ、減圧乾燥させ、ジブロモビスターピリジンi(1.36g、収率20%)を得た。以上の操作を式(21)に示す。
【化19】

【0073】
得られたジブロモビスターピリジンiを、実施例1と同様に、核磁気共鳴(NMR分光法)を用いて同定した。同定結果を示す。
【0074】
H NMR(CDCl)δ=7.35−7.41(2H,m)、7.52−7.57(2H,m)、7.71−7.78(2H,m)、7.86−7.94(2H,m)、8.05(4H,s)、8.62−8.68(4H,m)、8.74−8.78(4H,m)、8.79−8.83(2H,m)
【0075】
これらの結果から、所望のジブロモビスターピリジンが得られたことが分かった。
【0076】
次いで、ジブロモビスターピリジンiに高分解能質量分析(HRMS)を行った。同定結果を示す。
【0077】
分子式C3623Brの理論値は、679.0345(M+H)であった。一方、実測値は、679.0333(m/z)であった。理論値と実測値との差は、誤差範囲内であることから、上述の分子式を有するジブロモビスターピリジンが得られたことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によるターピリジン型モノマーは、金属原子に対して高い配位性能を有している。このようなモノマーを用いれば、種々の材料設計を可能にする。具体的には、本発明によるターピリジン型モノマーから、金属原子と強く配位した有機高分子−金属複合材料を容易に製造することができる。このような複合材料は、発光素子、エネルギー変換材料、薬剤輸送、センサ、高機能触媒、太陽電池等に利用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0079】
【特許文献1】特開2005−200384号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるターピリジン型モノマーであって、
【化1】


ただし、XおよびXは、同一または異なるハロゲン元素であり、Rは、式(3)〜式(6)からなる群から選択されるスペーサであり、
【化2】


前記スペーサは、前記式(1)に示されるターピリジル置換基(A)と前記Xとに直接結合し、前記X以外のハロゲン元素と直接結合せず、
およびRは、同一または異なる、水素原子、アリ−ル基またはアルキル基である、ターピリジン型モノマー。
【請求項2】
前記ターピリジル置換基(A)は、式(2)に示されるさらなるハロゲン元素Xを含み、
【化3】


前記Xは、前記Xおよび/またはXと同一または異なるハロゲン元素である、請求項1に記載のターピリジン型モノマー。
【請求項3】
ターピリジン型モノマーを製造する方法であって、
式(7)で示される2−アセチルピリジン誘導体とヨウ素とをピリジン中で還流させる工程と、
式(8)で示されるアリールアルデヒド誘導体と、式(9)で示される2−アセチルピリジン誘導体とをアルカリ溶液中で反応させる工程と、
前記還流させる工程で得られた反応物と、前記反応させる工程で得られた反応物とを、酢酸アンモニアおよびメタノールで還流させる工程とを
包含し、
【化4】


ただし、XおよびXは、同一または異なるハロゲン元素であり、RおよびRは、同一または異なる、水素原子、アリ−ル基またはアルキル基であり、Rは、式(3)〜式(6)からなる群から選択されるスペーサであり、
【化5】


前記スペーサは、前記式(8)に示されるアルデヒド基と前記Xとに直接結合し、前記X以外のハロゲン元素と直接結合しない、方法。
【請求項4】
前記式(9)におけるピリジン環は、さらなるハロゲン元素Xを含み、前記Xは、前記Xおよび/またはXと同一または異なる、請求項3に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−153714(P2012−153714A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−99729(P2012−99729)
【出願日】平成24年4月25日(2012.4.25)
【分割の表示】特願2005−308290(P2005−308290)の分割
【原出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年5月10日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 54巻1号」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】