説明

ターボ分子ポンプ駆動制御用電源装置

【課題】結露発生時にはターボ分子ポンプを自動的に停止させることができるターボ分子ポンプ駆動制御用電源装置の提供。
【解決手段】電源回路40は、電源電圧を複数の抵抗器401,402で分圧して帰還電圧を取り出し、その帰還電圧が所定の基準電圧V0と等しくなるように電源電圧を制御する。そして、電源電圧出力と帰還電圧の取り出し位置との間に、すなわち電源出力側の抵抗器401と並列に結露センサ44を設ける。結露センサ44は隙間dで配置された一対の電極441,442を備え、結露の発生によりその絶縁抵抗が低下する。その結果、電源電圧が基準電圧V0付近まで低下して電源回路40はシャットダウン状態となり、ターボ分子ポンプの運転は自動的に停止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ分子ポンプ駆動制御用電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ターボ分子ポンプはポンプ本体と電源装置とからなり、ポンプ本体と電源装置とをケーブルで接続して用いる。しかし、ターボ分子ポンプを多数搭載する真空装置においては、ケーブルの占有スペースが無視できないほど大きくなるため、ポンプ本体と電源装置とを一体化したターボ分子ポンプが求められている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一般に、ターボ分子ポンプはポンプ本体を水冷して使用することが多く、上述のように一体化されたターボ分子ポンプでは、電源装置はポンプ本体とともに水冷されることが多い。また、電源装置がポンプ本体に近接して配置される場合においても、空冷用送風によるクリーン環境の悪化を防止するために、電源装置を水冷する場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−173293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、電源装置を水冷とした場合には、冷却能力が大きいために結露が発生しやすく、回路不具合の発生によりターボ分子ポンプを正常に制御できなくなるおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、電源電圧を複数の抵抗器で分圧して帰還電圧を取り出し、その帰還電圧が所定の基準電圧と等しくなるように電源電圧を制御する電源回路を備えたターボ分子ポンプ駆動制御用電源装置に適用され、冷媒により電源装置を冷却する冷却手段と、電源回路の電源入力または電源電圧出力と前記帰還電圧の取り出し位置との間に接続され、電源装置内における結露の発生により絶縁抵抗が低下する結露センサとを備えたことを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載のターボ分子ポンプ駆動制御用電源装置において、結露センサは、結露による絶縁抵抗低下が発生するような間隔で設けられた一対の電極パターンから成ることを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項2に記載のターボ分子ポンプ駆動制御用電源装置において、結露センサは、一対の櫛歯電極パターンから成ることを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項1または2に記載のターボ分子ポンプ駆動制御用電源装置において、電極パターンを、電源装置に設けられた回路基板上に形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電源回路から出力される電源電圧が結露センサの絶縁抵抗低下とともに低下するので、結露発生時にはターボ分子ポンプを自動的に停止させる。その結果、結露による回路不具合によってターボ分子ポンプを正常に制御できなくなるという状況が発生するのを、回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係るターボ分子ポンプの一実施の形態を示すブロック図である。
【図2】ポンプ本体の概略構成を示す断面図である。
【図3】電源回路40を基本的な構成を示す図である。
【図4】結露センサ44の他の接続方法を示す図である。
【図5】結露センサ44の第1の変形例を示す図である。
【図6】結露センサ44の第2の変形例を示す図である。
【図7】複数の同心円電極パターンを並列接続した結露センサを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。図1は本発明に係るターボ分子ポンプの一実施の形態を示すブロック図である。ターボ分子ポンプは、真空排気を行うポンプ本体1と、ポンプ本体1の駆動制御を行う電源装置2と、両装置間を電気的に接続するケーブル3とで構成されている。本実施の形態のターボ分子ポンプは磁気軸受式ターボ分子ポンプであって、ポンプ本体1のロータ4は磁気軸受5によって磁気浮上される。ロータ4はモータ6によって回転駆動され、ロータ4の回転状態は回転数センサ23により検出される。
【0010】
図2は、ポンプ本体1の概略構成を示す断面図である。ポンプ本体1のケーシング30内に設けられたロータ4には、複数段の回転翼21および回転円筒部22が形成されている。一方、ポンプ本体1のベース10側には、複数段の固定翼11および固定円筒部12が設けられている。そして、軸方向に交互に配置された複数段の回転翼21と複数段の固定翼11とによりタービン翼部が構成される。
【0011】
また、タービン翼部の下流側に配置された回転円筒部22と固定円筒部12とによりモレキュラードラッグポンプ部が構成されている。回転円筒部22は固定円筒部12の内周面に近接して設けられており、固定円筒部12の内周面には螺旋溝が形成されている。モレキュラードラッグポンプ部では、固定円筒部12の螺旋溝と高速回転する回転円筒部22とにより粘性流領域におけるガスが排気される。吸気口31から流入したガス分子Gはタービン翼部によって図示下方へと叩き飛ばされ、下流側に向かって圧縮排気される。その圧縮されたガス分子Gは、さらにモレキュラードラッグポンプ部によって圧縮され、排気ポート14から排出される。
【0012】
ロータ4は、上下一対のラジアル電磁石51,52およびスラスト電磁石53によって非接触式に支持され、モータ6により回転駆動される。ロータ4の浮上位置は、ラジアル変位センサ71,72およびスラスト変位センサ73により検出される。これらの電磁石51〜53および変位センサ71〜73が図1の磁気軸受5を構成する。27,28は非常用のメカニカルベアリングであり、25は電源装置2との接続ケーブルが接続されるレセプタクルである。
【0013】
図1に戻って、電源装置2には、電源回路40,モータ駆動回路41、磁気軸受駆動回路42、制御回路43、結露センサ44、水冷ヒートシンク47等が設けられている。電源回路40は入力されたAC電源をDCに変換し、それを電源出力として装置内の各回路に出力するものである。モータ駆動回路41は、ポンプ本体1のモータ6を駆動制御する。磁気軸受駆動回路42は、変位センサ71〜73の検出値基づいて電磁石51〜53の励磁電流を制御することで、ロータ4が所定浮上位置となるように磁気軸受5を制御する。
【0014】
制御回路43は装置全体の制御を行うとともに、外部機器との間で信号の入出力を行う。外部機器としては、例えば、ターボ分子ポンプが搭載されている真空装置の制御部等がある。電源装置2に設けられたパワー素子(例えば、モータ駆動用のパワー素子)は水冷ヒートシンク47により冷却されている。結露センサ24は、結露しやすい部分、例えば、水冷ヒートシンク47により冷却されている部材に固定されている。
【0015】
図3は電源回路40を基本的な構成を示す図である。電源回路40には、電源電圧制御回路400と、抵抗器401,402が設けられている。電源電圧制御回路400の出力制御回路403から出力された電源電圧は、抵抗器401,402によって分圧される。抵抗器402の電圧V1は、帰還電圧として電源電圧制御回路400の誤差増幅器404に入力される。誤差増幅器404は帰還電圧V1と所定の基準電圧V0とを比較し、その差分を増幅して出力制御回路403に入力する。出力制御回路403は、入力された差分がゼロになるように、すなわち、帰還電圧V1が基準電圧V0と等しくなるように出力電圧を制御する。
【0016】
結露センサ44は、電源電圧側の抵抗器401と並列接続される。本実施の形態の結露センサ44は、図3に示すように、絶縁体443上に所定隙間で配置された一対の電極441,442から成る。電極441,442の隙間間隔dは、結露した場合の電極間抵抗値が抵抗器401の抵抗値よりも十分に小さくなるように設定される。例えば、抵抗器401の抵抗値を100kΩ〜1MΩに設定し、電極441,442の隙間間隔dを1〜2mmとすると、上述したような条件を満足する。
【0017】
結露センサ44は配置されている領域に結露が発生した場合、結露による電極441,442間の絶縁低下が発生する。そして、結露センサ44の抵抗値が並列接続されている抵抗器401の抵抗値より十分に小さくなると、電源電圧の電圧値は低下して帰還電圧V1の値に近づくことになる。
【0018】
このように、結露センサ44により結露が検出されると、電源電圧が大きく低下してシャットダウンした状態と同じになり、各回路はシャットダウン時と同様の停止動作を自動的に行う。例えば、磁気軸受駆動回路42は、回転数が所定値になるまで回生電力またはバッテリ(不図示)からの電力により磁気浮上を維持し、所定回転数となったならばメカニカルベアリング27,28上にロータ4をタッチダウンさせる。
【0019】
結露が生じた場合であっても、その影響が回路の不具合となって発現するまでの時間は、一般的に上述したシャットダウンとなるまでの時間に比べて長時間である。そのため、本実施の形態では、そのような回路不具合による異常動作が発生する前に、ターボ分子ポンプを安全に停止させることができる。
【0020】
なお、上述した実施の形態では、結露センサ44を電源出力側の抵抗器401に並列配置した。すなわち、電源出力と帰還電圧入力との間に接続した。しかし、図4に示すように、電源入力と帰還電圧入力との間に接続するようにしても良い。この場合、結露センサ44の絶縁抵抗低下により電源出力が低下しても入力電圧は変化しないので、抵抗低下が同一であっても図4に示す構成の方が出力電圧の低下がより大きくなる。
【0021】
[変形例1]
図5は、結露センサ44の第1の変形例を示す図である。変形例1に示す結露センサ44Bの場合、電極444,445は櫛歯電極を構成している。櫛歯電極間の隙間寸法は上述した結露センサ44の場合と同様に設定される。ここでは、絶縁材であるプリント基板45上に櫛歯電極パターンを形成することで、結露センサ44Bが形成される。このように、電極444,445を櫛歯形状とすることにより、結露による絶縁低下をより感度良く検出することができる。結露センサ44Bが形成されたプリント基板45は、冷却されて結露が発生しやすい金属部分、例えば、水冷ヒートシンク47に固定される。櫛歯電極パターンの場合、プリント基板45の片面に一対の電極444,445を形成しているので、通常のプリント基板の代わりに、金属基板上に絶縁層を介して電極444,445を形成することも可能である。
【0022】
[変形例2]
図6は結露センサ44の第2の変形例を示す図である。変形例2の結露センサ44Cの場合には、図6(a)に示すように、パワー素子が搭載されているプリント基板46上に直接形成されている。図6(b)〜(d)は結露センサ44Cの部分を示す図であり、(b)はプリント基板の表側を示し、(c)は断面図、(d)はプリント基板の裏面側を示す。
【0023】
結露センサ44Cを構成する一対の電極446,447は、同心円電極パターンを形成している。この場合、プリント基板46として両面スルーホール基板が用いられる。基板46の表側には中心側の電極446,外側の電極447および電極447の引き出しパターン447aが形成される。中心側の電極446の一部は基板裏面側に貫通し、裏面側に形成された引き出しパターン446aに連結している。
【0024】
この場合も、電極446,447間の隙間寸法を、上述した結露センサ44の場合と同程度に設定する。結露センサ44Cは、プリント基板46の結露が生じやすい部分に形成される。例えば、図6(a)に示すように、プリント基板46を金属製のスタッド48を介して水冷ヒートシンク47に固定する場合、温度が低くなりやすいスタッド取り付け部の近傍に結露センサ44Cを形成すれば良い。なお、図7に示すように、並列接続された複数の同心円電極パターン446,447を形成しても良い。
【0025】
以上説明したように、本実施の形態によれば、結露センサによって結露が検出されると、電源回路20がシャットダウンするように動作するので、結露による回路異常が発生する前にターボ分子ポンプを安全に停止させることができる。また、結露により絶縁抵抗が大きく低下するタイプに結露センサであれば、上述した結露センサ24として用いることができるが、本実施の形態ではプリント基板上に形成されて電極パターンにより結露センサ24を構成するようにしたので、結露センサのコスト低減を図ることができる。
【0026】
なお、図5に示した結露センサ24Bでは、独立したプリント基板上に電極パターンを形成したが、変形例2の場合と同様にパワー素子が搭載される基板上に形成するようにしても良い。上述した実施の形態では磁気軸受式のターボ分子ポンプを例に説明したが、本発明は非磁気軸受式ターボ分子ポンプの電源装置にも適用することができる。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態や変形例を、どのように組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0027】
1:ポンプ本体、2:電源装置、4:ロータ、40:電源回路、41:モータ駆動回路、42:磁気軸受駆動回路、43:制御回路、44,44B,44C:結露センサ、45,46:プリント基板、47:水冷ヒートシンク、400:電源電圧制御回路、401,402:抵抗器、403:出力制御回路、404:誤差増幅器、441,442,444〜447:電極、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源電圧を複数の抵抗器で分圧して帰還電圧を取り出し、その帰還電圧が所定の基準電圧と等しくなるように前記電源電圧を制御する電源回路を備えたターボ分子ポンプ駆動制御用電源装置において、
冷媒により前記電源装置を冷却する冷却手段と、
前記電源回路の電源入力または前記電源電圧出力と前記帰還電圧の取り出し位置との間に接続され、前記電源装置内における結露の発生により絶縁抵抗が低下する結露センサとを備えたことを特徴とするターボ分子ポンプ駆動制御用電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載のターボ分子ポンプ駆動制御用電源装置において、
前記結露センサは、結露による絶縁抵抗低下が発生するような間隔で設けられた一対の電極パターンから成ることを特徴とするターボ分子ポンプ駆動制御用電源装置。
【請求項3】
請求項2に記載のターボ分子ポンプ駆動制御用電源装置において、
前記結露センサは、一対の櫛歯電極パターンから成ることを特徴とするターボ分子ポンプ駆動制御用電源装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載のターボ分子ポンプ駆動制御用電源装置において、
前記電極パターンを、電源装置に設けられた回路基板上に形成したことを特徴とするターボ分子ポンプ駆動制御用電源装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−159669(P2010−159669A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1755(P2009−1755)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】